(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「ポリウレタンポリウレア」とは、ウレタン結合(−NHC(O)O−)およびウレア結合(−NHC(O)NH−)を有する高分子化合物を意味する。
「ポリブタジエンポリオール」とは、ポリブタジエン構造および複数の水酸基を有する化合物を意味する。
「体積平均粒子径」は、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いて測定された体積基準のメジアン径である。
【0012】
<蓄熱粒子>
本発明の蓄熱粒子は、シェル内に蓄熱用物質等を封入したカプセル型の粒子である。
図1は、本発明の蓄熱粒子の一例を示す断面図である。蓄熱粒子10は、蓄熱用物質を含むコア部12と、コア部12を被覆するポリウレタンポリウレアを含むシェル部14とを有する。本発明の蓄熱粒子は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じてシェル部の外側に最外層を有してもよい。
【0013】
蓄熱粒子の体積平均粒子径は、100〜500μmであり、110〜450μmが好ましく、120〜400μmがより好ましい。蓄熱粒子の体積平均粒子径が前記範囲の下限値以上であれば、蓄熱粒子の蓄熱量が充分に大きくなる。また、加熱と冷却とを繰り返してもコア部の蓄熱用物質が滲出しにくい。また、シェル部の機械的強度が高くなり、圧縮等によってシェル部が破損しにくい。蓄熱粒子の体積平均粒子径が前記範囲の上限値以下であれば、蓄熱粒子および他の材料(建材、媒体等)を含む蓄熱材とした際に、蓄熱粒子が目立たなくなり、蓄熱材の外観が良好となる。
蓄熱粒子の体積平均粒子径は、例えば、後述する蓄熱粒子の製造方法において分散媒中の分散剤の含有量を多くすることによって小さくでき、分散剤の含有量を少なくすることによって大きくできる。
【0014】
蓄熱粒子の形状としては、真球状、一部が歪んだ球状、だるま形状、円柱状、錘形状、直方体状等が挙げられる。
蓄熱粒子における蓄熱用物質の含有量は、シェル部の機械的強度およびコア部の蓄熱量の点から、蓄熱粒子の100質量%のうち、30〜99.9質量%が好ましく、50〜99質量%がより好ましく、70〜99質量%がさらに好ましい。
シェル部の厚さは、シェル部の機械的強度および熱伝導性の点から、2〜20μmが好ましく、4〜15μmがより好ましい。
【0015】
(コア部)
コア部は、蓄熱用物質を含む。コア部は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて他の成分を含んでもよい。
【0016】
蓄熱用物質としては、(i)蓄熱材の使用温度範囲において液体から固体またはその逆の状態変化(相転移)を起こす物質、(ii)蓄熱材の使用温度範囲において比熱(物質を単位温度だけ上昇させるのに必要な熱量)が大きい物質、(iii)蓄熱材の使用温度範囲において熱の出入りを伴う化学変化を起こす物質、等が挙げられる。
【0017】
(i)の蓄熱用物質を用いた蓄熱粒子を含む蓄熱材は、相転移に伴う潜熱(転移熱)を利用した潜熱蓄熱材となり、転移熱を熱エネルギとして蓄えたり、熱エネルギを転移熱として取り出したりすることができる。
(ii)の蓄熱用物質を用いた蓄熱粒子を含む蓄熱材は、物質の比熱を利用した顕熱蓄熱材となり、物質の温度変化に必要な熱量を蓄えたり、取り出したりすることができる。
(iii)の蓄熱用物質を用いた蓄熱粒子を含む蓄熱材は、物質の化学変化に伴う熱の出入りを利用した化学蓄熱材となる。
【0018】
蓄熱用物質としては、顕熱蓄熱材に比べて蓄熱密度が高く、熱の供給や吸収の温度が一定であり、化学蓄熱材に比べて熱の供給や吸収を制御しやすく、安定で安全である潜熱蓄熱材を得ることができる点から、(i)の蓄熱用物質が好ましい。
蓄熱用物質としては、後述する製造方法によって蓄熱粒子を製造しやすい点から、有機化合物が好ましく、製造時の温度において液状の有機物質がより好ましい。
蓄熱用物質としては、蓄熱量が大きい潜熱蓄熱材を得ることができ、かつ蓄熱粒子を製造しやすい点から、飽和炭化水素、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル、脂肪族エーテル、脂肪族ケトンおよび脂肪族アルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0019】
飽和炭化水素としては、相転移の温度が蓄熱材の使用温度として有用である点から、炭素数が7〜60の飽和炭化水素が好ましい。
飽和炭化水素としては、潜熱量が大きい点から、直鎖状の飽和炭化水素が好ましい。
飽和炭化水素は、比較的低分子量の飽和炭化水素(a)と、比較的高分子量の石油ワックス(b)とに分類される。
【0020】
飽和炭化水素(a)の炭素数は、相転移の温度が蓄熱材の使用温度として有用である点から、7〜24が好ましく、11〜20がより好ましい。飽和炭化水素(a)の炭素数は、蓄熱材の使用温度に応じて、前記範囲から適宜に選択すればよい。
飽和炭化水素(a)は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、潜熱量が大きい点から、直鎖状の飽和炭化水素が好ましい。
飽和炭化水素(a)としては、蓄熱材の使用温度範囲を広げる点から、−20〜50℃の温度範囲に融点を有するものが好ましい。
融点は、JIS K 7121に準拠して示差走査熱量計(DSC)によって測定した際の結晶融解ピークにおける補外融解開始温度(Tim)である。
飽和炭化水素(a)としては、n−ウンデカン(−21℃)、n−ドデカン(−12℃)、n−トリデカン(−5℃)、n−テトラデカン(6℃)、n−ペンタデカン(9℃)、n−ヘキサデカン(18℃)、n−ヘプタデカン(21℃)、n−オクタデカン(28℃)、n−ノナデカン(32℃)、n−イコサン(37℃)、n−ヘンイコサン(41℃)、n−ドコサン(46℃)が好ましい。括弧内の温度は、融点である。
【0021】
石油ワックス(b)としては、潜熱量および入手性の点から、炭素数が20以上のものが好ましい。
石油ワックス(b)としては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等が挙げられる。
パラフィンワックスは、石油または天然ガスを原料として減圧蒸留の留出物から分離精製して製造される、常温において固体の飽和炭化水素である。
パラフィンワックスとしては、潜熱量および入手性の点から、炭素数が20〜40のものが好ましい。
パラフィンワックスの市販品としては、日本精蝋社製のHNP−9、HNP−51、FNP−0090、FT115等が挙げられる。
マイクロクリスタリンワックスは、石油を原料として減圧蒸留残渣油または重質留出油から分離精製して製造される、常温において固体の飽和炭化水素である。
マイクロクリスタリンワックスとしては、潜熱量および入手性の点から、炭素数が30〜60のものが好ましい。
【0022】
脂肪酸としては、相転移の温度が蓄熱材の使用温度として有用である点から、炭素数が8〜30の脂肪酸が好ましい。
脂肪酸は、直鎖飽和脂肪酸、直鎖不飽和脂肪酸、分岐飽和脂肪酸および分岐不飽和脂肪酸のいずれであってもよく、潜熱量が大きい点から、直鎖飽和脂肪酸が好ましい。
直鎖飽和脂肪酸としては、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、エイコサン酸、ドコサン酸、テトラコサン酸、ヘキサコサン酸、オクタコサン酸、トリアコンタン酸等が挙げられる。
脂肪酸金属塩としては、12−ヒドロキシステアリン酸リチウム、2−エチルヘキサン酸アルミニウム等が挙げられる。
【0023】
脂肪酸エステルとしては、乳酸ブチル、乳酸エチル、オレイン酸メチル、コハク酸ジエチル、デカン酸エチル、デカン酸メチル、テトラデカン酸メチル、ヘキサデカン酸メチル、オクタデカン酸メチル、エイコサン酸メチル、ベヘン酸メチル、ドデカン酸ブチル、パルミチン酸n−ヘキサデシル、ステアリン酸ステアリル等が挙げられる。
脂肪族エーテルとしては、相転移の温度が蓄熱材の使用温度として有用である点から、炭素数が14〜60の脂肪酸エーテルが好ましい。
脂肪族エーテルとしては、ヘプチルエーテル、オクチルエーテル、テトラデシルエーテル、ヘキサデシルエーテル等が挙げられ、潜熱量が大きく、合成が容易である点から、酸素原子数が1つであり、対称構造を有するエーテルが好ましい。
脂肪族ケトンとしては、2−オクタノン、3−オクタノン、2−ノナノン、3−ノナノン、シクロヘプタノン等が挙げられる。
脂肪族アルコールとしては、相転移の温度が蓄熱材の使用温度として有用である点から、炭素数が8〜60の脂肪族アルコールが好ましい。
脂肪族アルコールとしては、潜熱量が大きい点から、1級アルコールが好ましい。
脂肪族アルコールとしては、2−ドデカノール、1−テトラデカノール、7−テトラデカノール、1−オクタデカノール、1−エイコサノール、1,10−デカンジオール等が挙げられる。
【0024】
蓄熱用物質としては、飽和炭化水素からなるもの;または、脂肪酸エステル、脂肪族ケトン、脂肪族アルコールおよび脂肪族エーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種と、脂肪酸もしくは脂肪酸金属塩との組み合わせが好ましい。
蓄熱用物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。特定の温度における潜熱量を大きくする点からは、1種を単独で用いるまたは2種を併用することが好ましく、蓄熱材の使用温度範囲を広げる点からは、2種以上を併用することが好ましく、3種以上を併用することがより好ましい。
【0025】
コア部に含まれてもよい他の成分としては、樹脂、ゴム、フィラー、機能付与剤、不可避不純物等が挙げられる。
フィラーとしては、金属、金属化合物、炭素材料、ガラス、鉱物等が挙げられる。
機能付与剤としては、酸化防止剤、帯電防止剤、耐候剤、紫外線吸収剤、ブロッキング防止剤、結晶核剤、難燃化剤、加硫剤、加硫助剤、防菌・防カビ剤、分散剤、着色防止剤、発泡剤、防錆剤、重金属不活性化剤、融点調整剤(凝固点降下剤)等が挙げられる。
他の成分の含有量は、蓄熱用物質の100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましく、0質量部が特に好ましい。
【0026】
(シェル部)
シェル部は、ポリウレタンポリウレアを含む。シェル部は、本発明の効果を損なわない範囲において、必要に応じて他の成分を含んでもよい。
【0027】
ポリウレタンポリウレアとしては、ポリイソシアネートに由来する構成単位と、ポリオールに由来する構成単位を有するものが挙げられる。ポリウレタンポリウレアとしては、シェル部の機械的強度がさらに高くなる点から、多価アミンに由来する構成単位をさらに有するものが好ましい。
【0028】
ポリイソシアネートとしては、イソシアネート基を2つ有する2官能イソシアネート、イソシアネート基を3つ以上有する多官能イソシアネートが挙げられる。
【0029】
2官能イソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン−2,4(または2,6)−ジイソシアネート、1,3−(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、フェニルジイソシアネート、ハロゲン化フェニルジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、オクタデシレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートの重合体、ジフェニルメタンジイソシアネートの重合体、ヘキサメチレンジイソシアネートの重合体、3−フェニル−2−エチレンジイソシアネート、クメン−2,4−ジイソシアネート、4−メトキシ−1,3−フェニレンジイソシアネート、4−エトキシ−1,3−フェニレンジイソシアネート、2,4’−ジイソシアネートジフェニルエーテル、5,6−ジメチル−1,3−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネートジフェニルエーテル、ベンジジンジイゾシアネート、9,10−アンスラセンジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネートベンジル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアネートジフェニルメタン、2,6−ジメチル−4,4’−ジイソシアネートジフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジイソシアネートジフェニル、1,4−アンスラセンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,10−デカメチレンジイソシアネート、1,3−シクロヘキシレンジイソシアネート、4,4’−メチレン−ビス(シクロヘキシルイソシアネート)等が挙げられる。
【0030】
多官能イソシアネートとしては、トリフェニルメタン−4,4’,4”−トリイソシアネート、1,3,5−トリイソシアナトベンゼン、2,4,6−トリイソシアナトトルエン、2,4,4’−トリイソシアネートジフェニルエーテル、4,4’−ジメチルジフェニルメタン−2,2’,5,5’−テトライソシアネート、2官能イソシアネートの3量体(ビウレット体、イソシアヌレート体、アダクト体)等が挙げられる。
【0031】
ポリイソシアネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ポリイソシアネートとしては、蓄熱用物質が滲出しにくく、機械的強度が高い蓄熱粒子が得られやすい点から、脂肪族ポリイソシアネートまたはその変性体が好ましい。
脂肪族ポリイソシアネートとしては、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、1,5−ペンタメチレンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネートが好ましい。
脂肪族ポリイソシアネートの変性体としては、脂肪族ポリイソシアネートの3量体(ビウレット体、イソシアヌレート体、アダクト体)、脂肪族ポリイソシアネートとポリオールとの反応生成物であるプレポリマー等が挙げられる。
【0032】
ポリオールとしては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリブタジエンポリオール、水添ポリブタジエンポリオール、アクリルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、炭素数が1〜20の脂肪族多価アルコール等が挙げられる。
ポリオールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
ポリオールとしては、蓄熱用物質が滲出しにくく、機械的強度が高い蓄熱粒子が得られやすい点から、ポリブタジエンポリオールまたは水添ポリブタジエンポリオールが好ましい。
ポリブタジエンポリオールまたは水添ポリブタジエンポリオールの水酸基価は、25〜80KOHmg/gが好ましく、30〜75KOHmg/gがより好ましい。水酸基価が前記範囲の下限値以上であれば、ブリード性の良好な蓄熱粒子が得られやすい。水酸基価が前記範囲の上限値以下であれば、機械的強度が高い蓄熱粒子が得られやすい。
【0034】
ポリブタジエンポリオールとしては、分子末端に水酸基を2つ以上有する常温(25℃)で液状のものが挙げられる。液状ポリブタジエンポリオールの市販品としては、日本曹達社製のNISSO−PB(登録商標) G−1000、G−2000、G−3000、出光興産社製のPoly bd(登録商標)等が挙げられる。
【0035】
水添ポリブタジエンポリオールとしては、ポリブタジエンポリオールまたはポリブタジエンポリカルボン酸を還元水素化して得られる常温(25℃)で液状のものが挙げられる。液状水添ポリブタジエンポリオールの市販品としては、日本曹達社製のNISSO−PB(登録商標) GI−1000、GI−2000、GI−3000、CRAY VALLEY社製のKRASOL HLBP−H 1000、HLBP−H 2000、HLBP−H 3000等が挙げられる。
【0036】
ポリオールとしては、蓄熱用物質が滲出しにくく、機械的強度が高い蓄熱粒子が得られやすい点から、炭素数が1〜20の脂肪族多価アルコールが好ましい。
炭素数が1〜20の脂肪族多価アルコールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0037】
多価アミンとしては、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ピペラジン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、ジヘキサメチレントリアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン等の脂肪族多価アミン、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、パラキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン、4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン等の芳香族多価アミン等が挙げられる。
【0038】
ポリウレタンポリウレアにおけるポリイソシアネートに由来する構成単位、ポリオールに由来する構成単位および多価アミンに由来する構成単位のそれぞれの好ましい割合は、後述する蓄熱粒子の製造方法におけるポリイソシアネート、ポリオールおよび多価アミンのそれぞれの好ましい仕込割合と同様である。
【0039】
シェル部に含まれてもよい他の成分としては、ポリウレタンポリウレア以外の樹脂、ゴム、フィラー、機能付与剤、不可避不純物等が挙げられる。
他の成分の含有量は、ポリウレタンポリウレアの100質量部に対して、10質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましく、0質量部が特に好ましい。
【0040】
(最外層)
蓄熱粒子が有してもよい最外層は、蓄熱粒子に耐熱性、耐溶剤性、耐水性等の機能を付与する層である。
最外層を構成する材料としては、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂の硬化物、無機化合物等が挙げられる。
【0041】
(作用機序)
以上説明した本発明の蓄熱粒子にあっては、シェル部がポリウレタンポリウレアを含み、かつ蓄熱粒子の体積平均粒子径が100μm以上であるため、加熱と冷却とを繰り返してもコア部の蓄熱用物質が滲出しにくい。また、シェル部の機械的強度が高くなり、圧縮等によってシェル部が破損しにくい。
また、以上説明した本発明の蓄熱粒子にあっては、コア部が蓄熱用物質を含み、かつ蓄熱粒子の体積平均粒子径が100μm以上であるため、蓄熱粒子の蓄熱量が充分に大きくなる。
また、以上説明した本発明の蓄熱粒子にあっては、蓄熱粒子の体積平均粒子径が500μm以下であるため、蓄熱粒子および他の材料(建材、媒体等)を含む蓄熱材とした際に、蓄熱粒子が目立たなくなり、蓄熱材の外観が良好となる。
【0042】
<蓄熱粒子の製造方法>
本発明の蓄熱粒子の製造方法は、水を含む分散媒中に、蓄熱用物質、ポリイソシアネートおよびポリオールを含む原料組成物を分散させ、原料組成物と分散媒との界面において界面重合を起こさせる方法である。
【0043】
本発明の蓄熱粒子の製造方法としては、具体的には、下記の方法が挙げられる。
方法(α):水を含む分散媒中に、蓄熱用物質、ポリイソシアネート、ポリオールおよび必要に応じて他の成分を含む原料組成物を分散させ、原料組成物と分散媒との界面においてポリイソシアネートと、ポリオールおよび水とを反応させて、蓄熱用物質を含むコア部のまわりにポリウレタンポリウレアを含むシェル部を形成させる方法。
方法(β):水を含む分散媒中に、蓄熱用物質、ポリイソシアネート、ポリオールおよび必要に応じて他の成分を含む原料組成物を分散させ、ついで、分散液に多価アミンを添加することによって、原料組成物と分散媒との界面においてポリイソシアネートと、ポリオール、多価アミンおよび水とを反応させて、蓄熱用物質を含むコア部のまわりにポリウレタンポリウレアを含むシェル部を形成させる方法。
【0044】
方法(α)においては、ポリイソシアネートのイソシアネート基とポリオールの水酸基とが反応してウレタン結合が形成される。また、2つのイソシアネート基と1分子の水とが反応してウレア結合が形成される。
方法(β)においては、ポリイソシアネートのイソシアネート基とポリオールの水酸基とが反応してウレタン結合が形成される。また、ポリイソシアネートのイソシアネート基と多価アミンのアミノ基とが反応してウレア結合が形成される。また、2つのイソシアネート基と1分子の水とが反応してウレア結合が形成される。
蓄熱粒子の製造方法としては、シェル部の機械的強度がさらに高くなる点から、方法(β)が好ましい。
【0045】
ポリイソシアネートの仕込割合は、ポリイソシアネート、ポリオールおよび多価アミンの合計100質量%のうち、5〜98.5質量%が好ましく、45〜96.5質量%がより好ましい。ポリイソシアネートの仕込割合が前記範囲内であれば、シェル部の機械的強度が高くなる。
ポリオールの仕込割合は、ポリイソシアネート、ポリオールおよび多価アミンの合計100質量%のうち、1〜80質量%が好ましく、2〜50質量%がより好ましい。ポリオールの仕込割合が前記範囲内であれば、ブリード性の良好な蓄熱粒子が得られやすい。
多価アミンを仕込む場合、多価アミンの仕込割合は、ポリイソシアネート、ポリオールおよび多価アミンの合計100質量%のうち、0.5〜15質量%が好ましく、1.5〜14質量%がより好ましい。多価アミンの仕込割合が前記範囲内であれば、ブリード性の良好な蓄熱粒子が得られやすい。
【0046】
分散媒は、分散剤を含むことが好ましい。
分散剤としては、セルロース系水溶性樹脂(メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、第3リン酸塩類、コロイダルシリカ等が挙げられる。分散剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
分散剤の含有量は、水の100質量部に対して0.001〜5質量部が好ましい。分散剤の含有量が前記範囲内であれば、分散液における原料組成物の分散状態を充分に安定化できる。
【0047】
分散媒は、分散液における原料組成物の分散状態を安定化させるために、界面活性剤を含んでいてもよい。
界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両面界面活性剤が挙げられる。界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
原料組成物は、ウレタン化触媒を含んでいてもよい。
ウレタン化触媒としては、ジブチル錫ラウレート等の金属系触媒、トリエチルアミン等のアミン系触媒等が挙げられる。
重合温度は、30〜90℃が好ましい。
重合の際には、撹拌を用いて分散液を撹拌することが好ましい。
【0049】
分散液中の蓄熱粒子は、ろ過等の固液分離法によって回収される。
回収された蓄熱粒子は、洗浄された後、乾燥されることが好ましい。
蓄熱粒子の表面に、公知の方法によって最外層をさらに形成してもよい。
【0050】
(作用機序)
以上説明した本発明の蓄熱粒子の製造方法にあっては、水を含む分散媒中に、蓄熱用物質、ポリイソシアネートおよびポリオールを含む原料組成物を分散させる方法であるため、蓄熱用物質を含むコア部と、ポリウレタンポリウレアを含むシェル部とを有し、体積平均粒子径が100〜500μmである蓄熱粒子を製造できる。
【0051】
<蓄熱材>
本発明の蓄熱材は、本発明の蓄熱粒子を含む。
本発明の蓄熱粒子をそのまま蓄熱材として用いてもよく、本発明の蓄熱粒子と他の材料と混合した混合物を蓄熱材として用いてもよく、本発明の蓄熱粒子またはその混合物を包装材に封入したものを蓄熱材として用いてもよい。
【0052】
他の材料としては、建材(漆喰、珪藻土、石膏、コンクリート、アスファルト等)、媒体(熱媒体等)、ゲル、樹脂、ゴム、活性炭等が挙げられる。
蓄熱粒子と建材との混合物からなる蓄熱材は、例えば、壁面等への塗布材料、建築物等の構造材料等として用いることができる。
図2は、本発明の蓄熱材の一例である塗り壁を示す断面図である。塗り壁20は、蓄熱粒子10と漆喰22とを含む塗布材料を石膏ボード24の表面に塗布し、乾燥して形成されたものである。
蓄熱粒子と媒体との混合物からなる蓄熱材は、空調設備等においてパイプに通液して循環させることができる。
蓄熱粒子と他の材料との混合物における蓄熱粒子の含有量は、混合物100質量%のうち、0.1〜50質量%が好ましく、1〜30質量%がより好ましい。
【0053】
蓄熱粒子またはその混合物を包装材に封入した蓄熱材は、輸送容器、建築材料等の調温手段として用いることができる。包装材料としては、例えば、国際公開第2011/78340号に記載のものが挙げられる。
【0054】
(蓄熱材の用途)
蓄熱材の用途の一例としては、下記の用途が挙げられる。
ヒートポンプ;ビルディング、家屋、地下街等の空調用途;車両の空調、キャニスター用途;ICチップ等の電子部品の昇温防止用途;衣類の恒温用途;生鮮食品または臓器輸送容器の保冷用途;建築物(家屋、ビル等)、建造物(道路、橋梁等)における構造材料の恒温用途;カーブミラー等の鏡面の防曇用途;路面の凍結防止用途;冷蔵庫等の家電用品の冷却・恒温用途;生活用品としての保冷材、カイロ用途等。
【0055】
(作用機序)
以上説明した本発明の蓄熱材にあっては、シェル部が破損しにくく、コア部の蓄熱用物質が滲出しにくい本発明の蓄熱粒子を用いたものであるため、長期間にわたり大きい蓄熱量を維持できる。
また、以上説明した本発明の蓄熱材にあっては、体積平均粒子径が500μm以下の蓄熱粒子を用いたものであるため、蓄熱粒子および他の材料を含む蓄熱材とした際に、蓄熱粒子が目立たなくなり、蓄熱材の外観が良好となる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は実施例により限定されるものではない。
【0057】
<原料>
(蓄熱用物質)
ヘキサデカン酸メチル:当栄ケミカル社製。
テトラデカン酸メチル:当栄ケミカル社製。
ステアリン酸:花王社製。
【0058】
(ポリイソシアネート)
1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)のイソシアヌレート体:BASF社製、Basonat HI−100。
イソホロンジイソシアネート(IPDI):エボニックジャパン社製、IPDI。
【0059】
(ポリオール)
ポリブタジエンポリオール1:日本曹達社製、NISSO−PB(登録商標) G−1000、水酸基価:73KOHmg/g。
水添ポリブタジエンポリオール:日本曹達社製、NISSO−PB(登録商標) GI−3000、水酸基価:30KOHmg/g。
ポリブタジエンポリオール2:出光興産社製、Poly bd(登録商標) R−15HT、水酸基価:102.7KOHmg/g。
エチレングリコール:三菱化学社製。
ポリエーテルポリオール:ADEKA社製、アデカポリエーテル BPX−55、ビスフェノールAにプロピレンオキシドを付加したポリエーテルポリオール。
【0060】
(多価アミン)
エチレンジアミン:住友精化社製。
(分散剤)
ヒドロキシプロピルメチルセルロース:信越化学工業社製、メトローズ(登録商標)90SH−65。
【0061】
<蓄熱粒子>
(実施例1)
撹拌機付き2Lのセパラブルフラスコに水の800gを仕込み、水に、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの10gを溶解して分散媒を調製した。
ヘキサデカン酸メチルの166.3g、テトラデカン酸メチルの41.6g、ステアリン酸の2.1g、HDIのイソシアヌレート体の81.0g、ポリブタジエンポリオール1の5.0gを混合して原料組成物を調製した。
【0062】
分散媒を300rpmで撹拌しながら、分散媒に原料組成物を加え、分散液を調製した。分散液を撹拌しながら40℃に昇温し、分散液にエチレンジアミンの14.0gを添加し、1時間撹拌した。分散液を60℃に昇温し、2時間撹拌した。分散液を90℃に昇温し、1時間撹拌した。分散液を室温まで冷却し、固液分離によって分散液中の粒子を回収した。粒子を水で充分に洗浄した後、60℃で20時間乾燥して蓄熱粒子を得た。
【0063】
(実施例2〜6、比較例1〜2)
原料の種類および割合を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2〜6、比較例1〜2の蓄熱粒子を得た。
【0064】
<評価方法>
(体積平均粒子径)
蓄熱粒子について、レーザ回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製、SALD−2100)を用いて測定された体積基準のメジアン径を体積平均粒子径とした。結果を表1に示す。
【0065】
(潜熱量)
蓄熱粒子をサンプルパンに10mg秤量して設置し、蓋をして測定用サンプルを作製した。作製した測定用サンプルを、示差走査熱量測定計(DSC、NETZSCH社製、DSC 204 F1 Phoenix)を用いて、100℃において5分間保持した後、100℃から−50℃まで10℃/分の速度で冷却し、−50℃において5分間保持した後、−50℃から100℃まで10℃/分の速度で昇温した。得られたDSCチャートから、蓄熱物質の融解熱量をJIS K 7121に準拠して求め、蓄熱粒子の潜熱量を算出した。なお、本発明において潜熱量は大きい方が好ましく、130J/g以上であれば良好と判断できる、結果を表1に示す。
【0066】
(ブリード性)
蓄熱粒子の約10gをサンプルとした。恒温槽の内部の温度が下記の1)〜4)からなるサイクルを100回繰り返すようにプログラムした恒温槽にサンプルを入れた。
1)恒温槽の内部を60℃で30分間保持した。
2)恒温槽の内部を冷却速度2℃/分にて60℃から−20℃まで冷却した。
3)恒温槽の内部を−20℃で30分間保持した。
4)恒温槽の内部を昇温速度2℃/分にて−20℃から60℃まで昇温した。
100サイクル後のサンプルを取り出して充分に冷却した後、蓄熱用物質の滲出の有無を目視で確認し、下記基準にて評価した。結果を表1に示す。
A(良好):蓄熱用物質の滲出が認められなかった。
B(可):蓄熱用物質の滲出がわずかに確認された。
C(不良):蓄熱用物質の滲出が明らかに確認された。
【0067】
(粒子強度)
蓄熱粒子から1粒を抜き取り、サンプルとした。サンプルについて、熱機械分析装置(リガク社製、Thermo plus EVO TMA8310)を用い、下記の手順にて粒子強度を評価した。結果を表1に示す。
1)サンプルを35℃で1時間保持した。
2)サンプルに100mN/分で定速荷重をかけた。
3)測定結果から変位の傾きが極大になった点の接線交点での荷重を粒子強度とした。
【0068】
(塗り壁の外観)
漆喰の4kgに蓄熱粒子の1kgを添加して、電動ミキサで30秒間撹拌して粉体混合物を得た。粉体混合物に水の2〜3Lを加え、電動ミキサで120秒間撹拌して塗布材料を得た。左官鏝を用いて石膏ボードの表面に上に塗布材料を塗布し、養成して塗り壁を形成した。塗り壁の外観を目視で観察し、下記基準にて評価した。結果を表1に示す。
○(良好):蓄熱粒子による表面凹凸が認められなかった。
×(不良):蓄熱粒子による表面凹凸が認められた。
【0069】
【表1】
【0070】
ポリウレタンポリウレアを含むシェル部を有し、体積平均粒子径が100〜500μmである実施例1〜6の蓄熱粒子は、蓄熱用物質が滲出しにくく、機械的強度が高かった。また、実施例1〜6の蓄熱粒子を含ませた塗り壁は、外観が良好であった。
体積平均粒子径が100μm未満である比較例1の蓄熱粒子は、蓄熱用物質が滲出しやすく、機械的強度が低かった。また、潜熱量が小さかった。
体積平均粒子径が500μmを超える比較例2の蓄熱粒子を含ませた塗り壁は、外観がよくなかった。