特許第6529243号(P6529243)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6529243
(24)【登録日】2019年5月24日
(45)【発行日】2019年6月12日
(54)【発明の名称】ガスタービン構成部材及びガスタービン
(51)【国際特許分類】
   F01D 9/02 20060101AFI20190531BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20190531BHJP
   F01D 5/18 20060101ALI20190531BHJP
   C23C 28/02 20060101ALN20190531BHJP
【FI】
   F01D9/02 102
   F02C7/00 C
   F01D5/18
   !C23C28/02
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-232548(P2014-232548)
(22)【出願日】2014年11月17日
(65)【公開番号】特開2016-94916(P2016-94916A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2017年7月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】三浦 健光
(72)【発明者】
【氏名】堀内 康広
(72)【発明者】
【氏名】森崎 哲郎
【審査官】 金田 直之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−084791(JP,A)
【文献】 特開2005−090512(JP,A)
【文献】 特開2006−043771(JP,A)
【文献】 特開2012−189053(JP,A)
【文献】 特開2009−013837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 5/12− 5/18,
5/22− 5/24,
5/28− 5/32,
9/00−11/10
F02C 7/00, 7/18
C23C 28/02
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材を覆う機能性コーティングと、前記基材と前記機能性コーティングとの間に設けられ、冷却空気を流通させる冷却流路を構成する連通した気孔を有する多孔質体を備え、前記機能性コーティングの気孔率は前記多孔質体の気孔率よりも小さいガスタービン構成部材であって、
前記冷却流路へ冷却空気を供給する冷却空気導入口を、前記多孔質体のガスタービン軸方向上流側の端部に設ける、または、前記基材のガスタービン軸方向上流側に形成され、前記ガスタービン構成部材の外部の冷却空気との界面から前記多孔質体との界面に貫通する冷却空気導入孔として設け、
前記冷却流路から冷却空気を排出する冷却空気排出口を、前記多孔質体のガスタービン軸方向下流側の端部に設ける、または、前記機能性コーティングのガスタービン軸方向下流側に形成され、前記機能性コーティングの前記多孔質体との界面からガスタービン主流ガスとの界面まで貫通する冷却空気排出孔として設けたことを特徴とするガスタービン構成部材。
【請求項2】
請求項1に記載のガスタービン構成部材において、
前記多孔質体は、前記基材を略覆うように設けられていることを特徴とするガスタービン構成部材。
【請求項3】
請求項に記載のガスタービン構成部材において、
前記基材は、ガスタービン軸方向に延在する冷却溝が形成されており、前記多孔質体は、前記冷却溝内を満たすように設けられていることを特徴とするガスタービン構成部材。
【請求項4】
請求項3に記載のガスタービン構成部材において、
前記基材は、前記冷却溝が複数列形成されており、さらに、前記複数列の前記冷却溝をつなぐように別の冷却溝が形成され、前記多孔質体は、前記別の冷却溝内も満たすように設けられていることを特徴とするガスタービン構成部材。
【請求項5】
請求項1に記載のガスタービン構成部材において、
前記多孔質体は、ガスタービン軸方向に延在するように、かつ、前記基材表面から突出するように設けられていることを特徴とするガスタービン構成部材。
【請求項6】
請求項4に記載のガスタービン構成部材において、
前記多孔質体は、複数列設けられており、さらに、前記ガスタービン軸方向と交差する方向にも複数列設けられていることを特徴とするガスタービン構成部材。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載のガスタービン構成部材を備えたガスタービンであって、
ガスタービン主流ガスとは異なる経路から抽気される冷却空気を前記多孔質体で形成された冷却流路に供給することを特徴とするガスタービン。
【請求項8】
基材と、前記基材を覆う機能性コーティングと、前記基材と前記機能性コーティングとの間に設けられ、冷却空気を流通させる冷却流路を構成する連通した気孔を有する多孔質体を備えるガスタービン構成部材を備えたガスタービンであって、
ガスタービン主流ガスとは異なる経路から抽気される冷却空気を前記多孔質体で形成された冷却流路に供給するようにし、
前記ガスタービン構成部材と、前記ガスタービン構成部材の上流側に位置するガスタービン構成部品との接合面から流出する前記ガスタービンの圧縮機由来の冷却空気を前記多孔質体で形成された冷却流路に供給し、前記多孔質体で形成された冷却流路からガスタービン主流ガスのガスパスに排出するようにしたことを特徴とするガスタービン。
【請求項9】
請求項7または8に記載のガスタービンにおいて、
前記多孔質体で形成された冷却流路への冷却空気導入口の上流側に多孔質体目詰まり原因物質除去構造を備えたことを特徴とするガスタービン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービン構成部材及びガスタービンに係り、特に、遮熱性、被削性又は耐酸化性など機能性を有するコーティングを備えたガスタービン構成部材及びそれを用いたガスタービンに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンの燃焼ガス温度は熱効率向上のために高温化する傾向にある。ガスタービンの燃焼ガス温度の高温化に対応するため、高温ガスに曝されるタービン動・静翼などのガスタービン構成部材(構成部品)には冷却性能の向上が求められている。また、近年では、タービン動・静翼面だけでなく、エンドウォールと呼ばれる静翼の根元壁面部やタービン動翼先端とケーシングシュラウドの摺動部においても部材の温度分布が高くなっており、これらの構成部材にも冷却技術の適用が必要である。
【0003】
従来、ガスタービン構成部材の冷却技術としては、圧縮機から抽気された冷却空気を構成部品内部に流路を導通させることで構成部材の温度を低減させる内部冷却や、構成部品内部と表面を連通する穴または溝を設け、構成部品の内部流路から外部に冷却空気を噴出し構成部材表面を冷却空気膜で保護する外部冷却がある。
【0004】
また、冷却技術以外に、ガスタービン構成部材の耐熱性を向上させるために、コーティング技術として遮熱性コーティング(Thermal Barrier Coating:TBC)技術が利用されている。
【0005】
また、冷却技術とコーティング技術を融合させたものとして、例えば、特開2005−90512号公報(特許文献1)には、断熱被膜を有するタービン壁において基材と被膜との間に流路のネットワークを形成し、空気冷媒を流路のネットワークに運んで断熱被膜を冷却するようにした冷却技術が開示されている。
【0006】
また、コーティング技術としては、遮熱性コーティング以外に、被削性又は耐酸化性など機能性を有するコーティングがある(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−90512号公報
【特許文献2】特開2013−64365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的に、高温部材表面にはフィルム冷却孔等の外部冷却や遮熱性コーティングが適用されている。しかしながら、フィルム冷却孔では局所的にしか冷却できない。また、遮熱性コーティングでは遮熱性コーティングの基材との接着強度が温度に依存し、耐用温度以上の使用では遮熱性コーティングが剥離又は脱落する可能性がある。
【0009】
特許文献1に記載の冷却技術は、断熱被膜自体の冷却が改善され、耐用温度以上になることが抑制されるが、圧縮機より抽気される冷却空気とガスパスを流れる燃焼ガスとの圧力差が高く、この圧力差により断熱被膜が剥離又は脱落する可能性が考えられる。
【0010】
また、コーティング技術としては、被削性又は耐酸化性など機能性を有するコーティングがある。被削性コーティングは、アブレイダブルコーティングと呼ばれているもので、タービン動翼先端とケーシングシュラウドの摺動部においてシール性能の向上を目的として用いられているものである。これらのコーティングについても、遮熱性コーティングと同様に、耐用温度以上の使用ではコーティングが剥離又は脱落する可能性がある。
【0011】
本発明の目的は、遮熱性、被削性又は耐酸化性など機能性を有するコーティングを備えたガスタービン構成部材において、コーティングの剥離又は脱落を抑制しつつ、冷却性能を向上させることができるガスタービン構成部材及びガスタービンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ガスタービン構成部材の基材と、基材を覆う遮熱性、被削性又は耐酸化性など機能性を有するコーティングとの間に、多孔質体によって形成された冷却空気が流通する冷却空気流路を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、遮熱性、被削性又は耐酸化性など機能性を有するコーティングを備えたガスタービン構成部材において、コーティングの剥離又は脱落を抑制しつつ、冷却性能を向上させることができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例1のガスタービン構成部材の構造を示す断面模式図。
図2】本発明の実施例1のガスタービン構成部材の構造を示す上面図。
図3】本発明の実施例1のガスタービン構成部材の構造を示す俯瞰図。
図4】本発明の実施例1のガスタービン構成部材をケーシングシュラウドに適用したガスタービンの半径方向の断面模式図。
図5】本発明の実施例1のガスタービン構成部材をタービンエンドウォールに適用したガスタービンの半径方向の断面模式図。
図6】本発明の実施例2のガスタービン構成部材の構造を示す断面模式図。
図7】本発明の実施例3のガスタービン構成部材の構造を示す上面図。
図8】本発明の実施例3のガスタービン構成部材の構造を示す俯瞰図。
図9A】本発明の実施例3のガスタービン構成部材を適用したシュラウドの俯瞰図であり、外径側から見た俯瞰図。
図9B】本発明の実施例3のガスタービン構成部材を適用したシュラウドの俯瞰図であり、内径側のコーティング面から見た俯瞰図。
図10】本発明の実施例4のガスタービン構成部材(流路幅の拡大化を伴う多孔質体冷却流路を備えたガスタービン構成部材)の構造を示す上面図。
図11】本発明の実施例4のガスタービン構成部材(流路幅の拡大化を伴う多孔質体冷却流路を備えたガスタービン構成部材)の構造を示す俯瞰図。
図12】本発明の実施例4のガスタービン構成部材(流路幅の縮小化を伴う多孔質体冷却流路を備えたガスタービン構成部材)の構造を示す上面図。
図13】本発明の実施例4のガスタービン構成部材(流路幅の縮小化を伴う多孔質体冷却流路を備えたガスタービン構成部材)の構造を示す俯瞰図。
図14】本発明の実施例4のガスタービン構成部材(格子状に展開する多孔質体冷却流路を備えたガスタービン構成部材)の構造を示す上面図。
図15】本発明の実施例4のガスタービン構成部材(格子状に展開する多孔質体冷却流路を備えたガスタービン構成部材)の構造を示す俯瞰図。
図16】本発明の実施例5のガスタービン構成部材の構造を示す俯瞰図。
図17】本発明の各実施例のガスタービン構成部材をケーシングシュラウドに適用し、フィルターを介して冷却空気を多孔質体冷却流路に供給するようにしたガスタービンの半径方向の断面模式図。
図18】本発明の各実施例のガスタービン構成部材をケーシングシュラウドに適用し、シールプレートを介して冷却空気を多孔質体冷却流路に供給するようにしたガスタービンの半径方向の断面模式図。
図19】本発明が適用されるガスタービンシステムの構成を説明する図。
図20】本発明が適用されるガスタービンの構成を説明する断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面を用いて本発明の実施例を説明する。
先ず、図19及び図20を用いて本発明が適用されるガスタービンの構成例を説明する。
図19に示すように、ガスタービンは、主として多段のタービン100と、このタービンに連結され、燃焼用の圧縮空気を得る圧縮機200、圧縮空気を高温高圧ガスに変換する燃焼器300、及び、発電機400を備えている。圧縮機200から抽気した圧縮空気は、第2段静翼を冷却するための静翼低圧冷却空気経路500、第1段静翼を冷却するための静翼高圧冷却空気経路600、また第1、2段動翼を冷却するための動翼冷却空気経路700を経て、各々のタービン冷却部に冷却空気として供給される。このとき、抽気空気圧力は、各翼でのガスパス圧力に応じた値から選定しており、静翼高圧冷却空気経路600、動翼冷却空気経路700には、圧縮機200の最終段からの抽気空気、静翼低圧冷却空気経路500には、圧縮機200の中圧段からの抽気空気を導入する。冷却部を冷却して熱交換した各冷却空気は、図示しない各翼のフィルム冷却孔や、後縁噴出し孔等から噴出し、タービン100のガスパス中に排出されるとともに、主流ガスと混合して、最終的には排気として大気に放出される。
【0016】
図20は、タービン100の2段目までの第1段静翼410、第2段静翼430、第1段動翼420、及び、第2段動翼440を表すタービン部分断面である。各冷却空気経路500、600及び700は、それぞれの冷却部である翼に連通する。冷却空気の経路について、第2段静翼430まわりを一例として説明する。冷却空気は、静翼低圧冷却空気経路500を径由して、ケーシング450に設けた導入孔(図示書略)を介してケーシング450の内部にある第2段静翼供給キャビティ460に供給される。第2段静翼供給キャビティ460に供給された冷却空気は、セグメントとして周方向に環状に配置された第2段静翼体431のそれぞれの内部に供給される。この第2段静翼体431は、主として、外径側エンドウォール432、第2段静翼430、及び、内径側エンドウォール433から成る。冷却空気は、第2段静翼体431の図示しない冷却パスを通過するとき、各エンドウォール432、433、第2段静翼430を冷却し、熱交換によって温度上昇して、ガスパス470に排出される。一方、第2段静翼供給キャビティ460に供給された空気の一部は、第2段静翼体431と第2段静翼体431に装着されるダイアフラム434との間で形成されるダイアフラムキャビティ480に供給される。ダイアフラムキャビティ480に供給された冷却空気は、第1段ホィール491、スペーサー490及びダイアフラム434で形成される第1段動翼後側ホィールスペース435に供給される。第1段動翼後側ホィールスペース435に供給された冷却空気は、一部が、第1段動翼420と第2段静翼430間からガスパスへシール空気として流れ、一部が、ダイアフラム434とスペーサー490の間で協働するシールフィン437によって流量を絞られた後、第2段ホィール492、スペーサー490及びダイアフラム434で形成される第2段動翼前側ホィールスペース436に供給され、第2段静翼430と第2段動翼440間からガスパス470中へシール空気として流れることになる。
【0017】
本発明において、ガスタービン構成部材(構成部品)の基材の表面と基材の表面に設けられた遮熱性、被削性又は耐酸化性など機能性を有するコーティングとの間に多孔質体によって形成された冷却空気流路(詳細後述)への冷却空気の供給は、例えば、外径側エンドウォール432の表面に機能性コーティングを施している場合、第2段静翼供給キャビティ460から、外径側エンドウォール432と第1段動翼420の外周側のケーシングシュラウドとのインターフェース部を介して冷却空気を供給する。また、内径側エンドウォール433の表面に機能性コーティングを施している場合、ダイアフラムキャビティ480または第1段動翼後側ホィールスペース435から、内径側エンドウォール433と第1段動翼420の根元部とのインターフェース部を介して冷却空気を供給する。また、動翼について、例えば、第2段動翼440の外周側のケーシングシュラウドの表面に機能性コーティングを施している場合、第2段静翼供給キャビティ460から、外径側エンドウォール432と第2段動翼440の外周側のケーシングシュラウドとのインターフェース部を介して冷却空気を供給する。
【実施例1】
【0018】
次に、図1図3に示す実施例1を用いて、本発明の基本的な概念を説明する。
図1において、基材1左端面方向をガスタービンの吸気側(軸方向上流側)とし、基材1右端面方向をガスタービンの排気側(軸方向下流側)とする。以降の図も同様である。また、図3に示す俯瞰図ではガスタービン構成部材が平板状に図示されているが、図2に示す周方向に複数のガスタービン構成部材を配置する場合には、ガスタービン構成部材は周方向に湾曲して形成される。以降の図も同様である。
【0019】
図1図3に示すように、ケーシングシュラウドやエンドウォールなどのガスタービン構成部材は、基材1と、基材1のガスタービン主流ガスのガスパス側を覆う遮熱性又は被削性又は耐酸化性などの機能性を有するコーティング2と、基材1とコーティング2との間に設けられ流体的に連通している多孔質体3で構成された冷却流路を有する。言い換えれば、本実施例では、基材1のガスパス側の表面に多孔質体3の冷却流路を形成し、さらに、多孔質体3上にコーティング2を形成している。
【0020】
基材1としては、ニッケル基,コバルト基、または、鉄基の耐熱合金が用いられ、例えば、ニッケル基耐熱合金IN738(16%Cr−8.5%Co−3.4%Ti−3.4%Al−2.6%W−1.7%Mo−1.7%Ta−0.9%Nb−0.1%C−0.05%Zr−0.01%B−残部Ni、重量%)が用いられる。
【0021】
コーティング2としては、遮熱性コーティング(Thermal Barrier Coating)の場合、例えば、ジルコニア系のセラミックス製の遮熱層と、遮熱層と基材の間の熱膨張差を緩和して密着性を向上するためのMCrAlY(Mは、Fe,Ni,Coから選ばれる少なくとも1種)合金の結合層を基材上に成膜した2層構造からなる。アブレイダブルコーティングとしては、ニッケル基、コバルト基、鉄基の耐熱合金などが用いられ、例えば、MCrAlY合金を用いられる。MCrAlY合金は、600℃以上の高温で、動翼に用いられる耐熱合金よりも硬さが低下するためアブレイダブル性に優れ、さらに、耐酸化性にも優れるため、好適である。
【0022】
流路を構成する多孔質体3としては、耐熱性の材料であれば良く、セラミック系の材料やニッケル基、コバルト基、鉄基の耐熱合金などが用いられる。流路を構成する多孔質体3は、冷却空気が流通するように、基材1の左端面から右端面まで連通した気孔を有する。このような構造の多孔質体を形成するためには、例えば、ガスアトマイズ法で製造した概略球形の合金粉末を原料として用い、合金粉末を基材表面に衝突させて積層する方法を用いる。具体的には、例えば、プラズマ溶射法、高速ガス溶射(HVOF)法、コールドスプレー法等の方法を用いることができる。そして、多孔質体の連通気孔は、多孔質体内の体積分率が例えば30〜70%の範囲となるように形成されている。気孔率が小さすぎると、流通する冷却空気量が少なくなり、基材とコーティングの冷却効果が十分に得られない。気孔率が増加すると冷却効果は高まるが、コーティング2と多孔質体3との間の接合面積(接触面積)が小さくなり(コーティング2と多孔質体3の密着性が低下)、また、冷却空気の圧力損失が小さくなって、冷却流路内の圧力とガスタービン主流ガス側の圧力差に起因してコーティング2が剥離又は脱落するという懸念が生ずる(詳細は後述)。また、多孔質体は、流路の厚み(高さ方向の長さ)が例えば1mm程度となるように形成されている。
【0023】
コーティング2を構成する材料と、多孔質体3を構成する材料は、上述したように耐熱性の材料で構成され、同じ材料で構成される場合もあり得る。ここで、コーティング2は遮熱性や被削性を満たすように形成されるが、連通した気孔を有するか否かで多孔質体3と異なる。言い換えれば気孔率が異なる。多孔質体3は連通気孔を有するように形成されている(気孔率が大きい)のに対して、コーティング2は原則として連通気孔が形成されていない(気孔率が小さい)。コーティング2は、タービン構成部材の端部の冷却空気入口と冷却空気出口を除いて多孔質体で形成された流路を密閉するように形成されている。
【0024】
上述したように構成されたガスタービン構成部材における冷却媒体は、ガスタービン主流ガス4とは異なる経路から抽気される冷却空気5(例えば上述したように圧縮機200から抽気した圧縮空気)である。図1図3における例では、多孔質体3の端部(図面左側)から冷却空気5が供給され、供給された冷却空気は多孔質体3内を符号6で示すように進行し、多孔質体3の端部(図面右側)から排出する。すなわち、ガスタービン構成部品の接合面(例えば、上述したように、第2段静翼供給キャビティ460から、外径側エンドウォール432と第1段動翼420の外周側のケーシングシュラウドとのインターフェース部)より流出する冷却空気5を基材1の軸方向上流側にある多孔質体3の端部に供給し、冷却空気5をガスタービン主流ガス4の進行方向と同様に軸方向下流側へ多孔質体3の流路を通過させ、軸方向下流側にある多孔質体3の端部へ排出する。このように、本実施例では、多孔質体3の上流側端部が冷却空気導入口となり、下流側端部が冷却空気排出口となる。
【0025】
次に、図4及び図5を用いて、実施例1のガスタービン構成部材のガスタービンへの適用例を説明する。
図4は、ガスタービン動翼11とケーシングシュラウド12の摺動部において、本発明を適用した図である。ガスタービン動翼11の回転体部とケーシングシュラウド12の静止体部は、ガスタービンの運転条件に伴い摺動し破損する危険性がある為間隙が設けられている。この間隙が大きくなると通過する主流ガス量が大きくなりシール性能が低下するため、アブレイダブルコーティング(被削性コーティング)13を摺動部表面に塗布する事でシール性能を向上させ、主流ガスの漏洩によるガスタービン効率の低下を抑制している。この適用例では、ケーシングシュラウドがガスタービン構成部材である。そして、ケーシングシュラウド12(基材)とアブレイダブルコーティング13との間に多孔質体冷却流路14を備える。多孔質体冷却流路14には一方の端(上流側端部)から冷却空気15が供給され、多孔質体冷却流路14の他方の端(下流側端部)から多孔質体冷却流路の外部に排出される。冷却空気15としては、例えば、ガスタービン動翼11が図20における第2段動翼440の場合、第2段静翼供給キャビティ460から、外径側エンドウォール432と第2段動翼440の外周側のケーシングシュラウドとのインターフェース部を介して流出した冷却空気が供給される。
【0026】
図5は、ガスタービン静翼21において、本発明を適用した図である。この適用例では、ガスタービン静翼エンドウォール部22がガスタービン構成部材である。コーティングとしては遮熱性コーティング(TBC)又は耐酸化性コーティング23がガスタービン静翼エンドウォール部の基材上に設けられる。ガスタービン静翼エンドウォール部22(基材)と遮熱性コーティング(TBC)又は耐酸化性コーティング23との間に形成された多孔質体冷却流路24を備える。多孔質体冷却流路24には一方の端(上流側端部)から冷却空気25が供給され、多孔質体冷却流路24の他方の端(下流側端部)から多孔質体冷却流路の外部に排出される。冷却空気としては、ガスタービン静翼エンドウォール部と、燃焼器、前段動翼又は前段シュラウドとのインターフェース部より流出する冷却空気が供給される。例えば、ガスタービン静翼21が図20における第2段静翼430の場合、外径側のガスタービン静翼エンドウォール部の多孔質体冷却流路24には、第2段静翼供給キャビティ460から、外径側エンドウォール432と第1段動翼420の外周側のケーシングシュラウドとのインターフェース部を介して流出した冷却空気が供給され、内径側のガスタービン静翼エンドウォール部の多孔質体冷却流路24には、ダイアフラムキャビティ480または第1段動翼後側ホィールスペース435から、内径側エンドウォール433と第1段動翼420の根元部とのインターフェース部を介して流出した冷却空気が供給される。
【0027】
上述した本発明の実施例のガスタービン構成部材によれば以下の様な効果を得ることができる。
まず、多孔質体3で形成される冷却流路は多孔質体3を有さない冷却流路と比較して基材1及びコーティング2との接着面積を大きくすることができる。また、コーティング2と、多孔質体3で形成される冷却流路との界面は、多孔質体3を有さない冷却流路と比較して流路形状の違いによらず均一な接着界面を備えることができ、本実施例では、局所的な接着性能不足によるコーティングの剥離又は脱落を抑制し、コーティングの接着強度を向上させることができる。
【0028】
また、多孔質体3で形成される冷却流路は、多孔質体3を有さない冷却流路(例えば、特許文献1に記載の冷却流路)と比較して、冷却空気5が冷却流路を通過する際の伝熱面積を大きくすることができ、基材1及びコーティング2の冷却性能を向上させることができる。これにより、高温のガスタービン主流ガスに晒されるガスタービン構成部材において、コーティング2が高温になることに起因するコーティングの接着強度の低下を防ぎ、コーティングの剥離又は脱落を抑制することができる。
【0029】
また、多孔質体3で形成される冷却流路の表面積が大きいため、冷却空気5が多孔質体3を通過することで、冷却空気5の圧力損失を促進させ、冷却空気5の供給圧力とガスタービン主流ガス4との圧力差を小さくし、冷却空気5の供給圧力過多によるコーティング2の剥離又は脱落を抑制することができる。
【0030】
また、コーティング2として、コーティング2と多孔質体3との界面からコーティング2とガスタービン主流ガス4との界面へ冷却空気5が流体的に連通しない密閉されたコーティング(気孔率が小さいコーティング)を適用することで、冷却空気5のガスタービン半径方向への排出を抑制し、冷却空気5に起因するガスタービン翼周りの流れ場を乱す二次流れを抑制することができる。
【0031】
また、コーティングとして、遮熱性コーティングを設ける場合、多孔質体3が遮熱層と基材の間の熱膨張差を緩和して密着性を向上する結合層として機能することが期待できるため、結合層を省略することも可能となる。
【実施例2】
【0032】
実施例1では、多孔質体で形成される冷却通路への冷却空気の供給と排出を端部から行うようにしているが、図6に示すように、基材1の外径側表面(ガスパス側とは反対側の面、または、基材1と冷却空気5との界面)から内径側表面(ガスパス側の面、または、基材1と多孔質体3との界面)に貫通する冷却空気導入孔7を上流側に形成して冷却空気を局所的に多孔質体で形成された冷却流路に供給するようにしても良い。また、図6に示すように、下流側のコーティング2の一部を削除して冷却空気排出孔8を形成し、多孔質体で形成された冷却流路から冷却空気をガスタービン主流ガス側に排出するようにしても良い。但し、この場合、冷却空気5のガスタービン半径方向への排出をできるだけ抑制して、冷却空気5に起因するガスタービン翼周りの流れ場を乱す二次流れを抑制するように冷却空気排出孔8を可能な範囲で傾斜させて形成するのが望ましい。
【実施例3】
【0033】
実施例1では、基材1とコーティング2との間に形成される多孔質体3の冷却流路をガスタービン構成部材の略全面に設けているが、冷却流路を部分的に設けるようにしても良い。例えば、冷却流路の流路形状をガスタービン構成部材の軸方向(ガスタービン軸方向)に伸びる溝状としても良い。即ち、図7及び図8に示すように、基材1に冷却流路溝を設け、この冷却流路溝を流体的に連通する多孔質体3で満たすことによって多孔質体3の冷却流路を構成する。冷却流路溝は必要に応じて(例えば冷却効果の状況に応じて)列数を増やすようにする。このように構成することによって、基材1とコーティング2が直接接続される部分が実施例1と比して増加するので、コーティング2の接着強度や構造的な強度の向上が期待できる。
図9A及び図9Bは、図7及び図8に示すガスタービン構成部材をガスタービンケーシングシュラウドに適用した例を示す。ケーシングシュラウド12(基材)とアブレイダブルコーティング(被削性コーティング)13との間に軸方向に伸びる複数列の多孔質体冷却流路14が設けられている。冷却空気15は複数列の多孔質体冷却流路14の上流側端部から供給され、下流側端部から排出される。冷却空気15は、ケーシングシュラウド12と前段静翼とのインターフェース部より流出した冷却空気15が供給される。
なお、溝で冷却流路を形成する場合においても、図6に示す実施例2のように、基材1の外径側表面から内径側表面に貫通する冷却空気導入孔7を冷却流路溝の上流側に形成し、また、冷却流路溝の下流側のコーティング2の一部を削除して冷却空気排出孔8を形成しても良い。
【実施例4】
【0034】
冷却流路溝の形状は、図7及び図8示す実施例3のように、冷却流路溝の両側面が平行(冷却流路の流路幅が一定)となるように形成する場合以外に、図10及び図11、又は、図12及び図13に示すように、多孔質体3で形成される冷却流路の流路幅がガスタービン軸方向上流側からガスタービン軸方向下流側へ向けて拡大、又は、縮小するように形成してもよい。
さらにまた、冷却流路の流路高さは一定である必要はなく、流路幅の拡大又は縮小と同様に、ガスタービン軸方向上流側からガスタービン軸方向下流側へ向けて、ガスタービン半径方向に拡大又は縮小するようにしても良い。これらによって、基材1とコーティング2の冷却効果を部分的に強化することも可能となる。
また、複数列の冷却流路を採用する場合には、それぞれの冷却流路間を接続するようにガスタービン周方向に冷却流路が途中で折れ曲がったものや、図14及び図15のようにガスタービン周方向に冷却流路を格子状に連通するようにしても良い。
また、本実施例においても実施例2を適用できる。
【実施例5】
【0035】
実施例3および4では、基材1に溝を形成し、その溝に多孔質体3を満たすように設けることにより、基材1とコーティング2との間に多孔質体冷却流路を設けている。しかしながら、図16に示すように、基材1に溝を形成することなく平板上の基材表面に流体的に連通する多孔質体3を基材表面から突出するように設け、その上にコーティングを形成することによって、多孔質体3の冷却流路を基材1とコーティング2との間に設けるようにしても良い。本実施例においても、図7図15の実施例と同様に、冷却流路の列数を必要に応じて増やすようしても良い。また、冷却流路形状などについて、図7図15に示す様々なバリエーションが本実施例にも適用できる。また、本実施例においても実施例2を適用できる。
【実施例6】
【0036】
実施例1〜5において、多孔質体3で形成される冷却流路は、多孔質体3を有さない一般的な冷却流路と比較して流路内間隙(冷却空気が通過する間隙)が小さい。このため、冷却空気中に水分、錆又は塵等の不要物を含んでいると、冷却空気5が多孔質体冷却流路を通過する際に目詰まりを引起こす可能性がある。水分、錆又は塵等の不要物を多孔質体目詰まり原因物質と呼称する。
そこで、本実施例では、図17又は図18に示すように、冷却空気を多孔質体冷却流路14に供給する際に、基材12、又は、基材12と他構成部品(例えば、基材がケーシングシュラウドの基材の場合、前段静翼)とのインターフェース部(接合部)に、フィルター17(図17)又はシールプレート18(図18)などの多孔質体目詰まり原因物質除去構造を備えた構造としている。フィルター17は例えば、繊維状の耐熱金属で構成され、冷却空気から多孔質体目詰まり原因物質を除去する。シールプレート18は耐熱性の金属で構成され、基材12と他構成部品とのインターフェース部に設置することにより、インターフェース部に微小間隙を形成する。この微小間隙を冷却空気が通過するようにして多孔質体目詰まり原因物質をこの微小間隙で除去する。冷却空気15から多孔質体目詰まり原因物質を除去した冷却空気16を多孔質体冷却流路14へ供給することにより、多孔質体冷却流路14の目詰まりを抑制する。
【0037】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加,削除,置換をすることが可能である。
【0038】
例えば、本発明のガスタービン構成部材(構成部品)は、多孔質体冷却流路に冷却空気を流通させることにより、コーティングとともにガスタービン構成部材の基材も効果的に冷却できる。したがって、ガスタービン構成部材に他の内部冷却構造を設けることなく、ガスタービン構成部材を構成することが可能となる。例えば、ガスタービン構成部材がシュラウドやガスタービン静翼の場合、エンドウォール部などに従来設けられていた内部冷却構造を省略して構成することが可能となる。
【符号の説明】
【0039】
1 基材
2 コーティング
3 多孔質体冷却流路
4 ガスタービン主流ガス
5 冷却空気
6 多孔質体内冷却空気進行方向
7 冷却空気導入孔
8 冷却空気排出孔
11 タービン動翼
12 ケーシングシュラウド
13 コーティング(被削性)
14 多孔質体冷却流路
15 冷却空気
16 水分又は錆又は塵等の不要物を除去した冷却空気
17 フィルター
18 シールプレート
21 タービン静翼
22 タービンエンドウォール
23 コーティング(遮熱性又は耐酸化性)
24 多孔質体冷却流路
25 冷却空気
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20