(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献1に記載の非フッ素系撥水剤では、従来のフッ素系撥水剤で処理する場合と同様の撥水性を有する繊維製品を得ることは難しい。また、処理した繊維製品が硬くなる傾向にあり、風合についても十分であるとはいえない。
【0011】
特許文献1に記載の非フッ素系撥水剤の場合、貯蔵安定性を確保するために非フッ素系ポリマーが十分に乳化分散される量の界面活性剤を配合すると、得られる繊維製品の撥水性が低下する傾向にあり、貯蔵安定性と撥水性との両立を図ることが難しい。
【0012】
また、特許文献1に記載の非フッ素系撥水剤を含む同一の処理液を用いて、複数の未処理布を連続して撥水加工を行う場合、回数を重ねるごとに加工した繊維製品の撥水性が低下する傾向がある。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、貯蔵安定性及び連続加工適正に優れるとともに、熱処理をしない場合であっても十分な撥水性を繊維製品等に与えることができ、風合及び撥水性に優れた撥水性繊維製品を得ることができる非フッ素系ポリマー、並びに、それを用いた撥水剤組成物、撥水性繊維製品及び撥水性繊維製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、下記一般式(A−1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)に由来する構成単位と、(メタ)アクリロイル基を有するシリコーンオイル(E)に由来する構成単位とを含有する非フッ素系ポリマーを提供する。
【0015】
【化1】
[式(A−1)中、R
1は水素又はメチル基を表し、R
2は置換基を有していてもよい炭素数12以上の1価の炭化水素基を表す。]
【0016】
上記非フッ素系ポリマーは、(B1)HLBが7〜18である下記一般式(I−1)で表される化合物、(B2)HLBが7〜18である下記一般式(II−1)で表される化合物、及び(B3)HLBが7〜18である、ヒドロキシル基及び重合性不飽和基を有する油脂に炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを付加した化合物のうちから選ばれる少なくとも1種の反応性乳化剤(B)に由来する構成単位を更に含有していてもよい。
【0017】
【化2】
[式(I−1)中、R
3は水素又はメチル基を表し、Xは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を表し、Y
1は炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を含む2価の基を表す。]
【0018】
【化3】
[式(II−1)中、R
4は重合性不飽和基を有する炭素数13〜17の1価の不飽和炭化水素基を表し、Y
2は炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を含む2価の基を表す。]
【0019】
上記非フッ素系ポリマーは、下記(C1)、(C2)及び(C3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の第2の(メタ)アクリル酸エステル単量体(C)に由来する構成単位を更に含有していてもよい。
【0020】
(C1)下記一般式(C−1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体
【化4】
[式(C−1)中、R
5は水素又はメチル基を表し、R
6はヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基及び(メタ)アクリロイルオキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する炭素数1〜11の1価の鎖状炭化水素基を表す。ただし、分子内における(メタ)アクリロイルオキシ基の数は2以下である。]
【0021】
(C2)下記一般式(C−2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体
【化5】
[式(C−2)中、R
7は水素又はメチル基を表し、R
8は置換基を有していてもよい炭素数1〜11の1価の環状炭化水素基を表す。]
(C3)下記一般式(C−3)で表されるメタクリル酸エステル単量体
【0022】
【化6】
[式(C−3)中、R
9は無置換の炭素数1〜4の1価の鎖状炭化水素基を表す。]
【0023】
本発明はまた、上記一般式(A−1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)と、(メタ)アクリロイル基を有するシリコーンオイル(E)とを含む乳化物又は分散物を乳化重合又は分散重合させてなる非フッ素系ポリマーを提供する。
【0024】
【化7】
[式(A−1)中、R
1は水素又はメチル基を表し、R
2は置換基を有していてもよい炭素数12以上の1価の炭化水素基を表す。]
【0025】
上記乳化物又は上記分散物は、(B1)HLBが7〜18である下記一般式(I−1)で表される化合物、(B2)HLBが7〜18である下記一般式(II−1)で表される化合物、及び(B3)HLBが7〜18である、ヒドロキシル基及び重合性不飽和基を有する油脂に炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを付加した化合物のうちから選ばれる少なくとも1種の反応性乳化剤(B)を更に含んでいてもよい。
【0026】
【化8】
[式(I−1)中、R
3は水素又はメチル基を表し、Xは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を表し、Y
1は炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を含む2価の基を表す。]
【0027】
【化9】
[式(II−1)中、R
4は重合性不飽和基を有する炭素数13〜17の1価の不飽和炭化水素基を表し、Y
2は炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を含む2価の基を表す。]
【0028】
また、上記乳化物又は上記分散物は、下記(C1)、(C2)及び(C3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の第2の(メタ)アクリル酸エステル単量体(C)を更に含んでいてもよい。
【0029】
【化10】
[式(C−1)中、R
5は水素又はメチル基を表し、R
6はヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基及び(メタ)アクリロイルオキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する炭素数1〜11の1価の鎖状炭化水素基を表す。ただし、分子内における(メタ)アクリロイルオキシ基の数は2以下である。]
(C2)下記一般式(C−2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体
【0030】
【化11】
[式(C−2)中、R
7は水素又はメチル基を表し、R
8は置換基を有していてもよい炭素数1〜11の1価の環状炭化水素基を表す。]
(C3)下記一般式(C−3)で表されるメタクリル酸エステル単量体
【0031】
【化12】
[式(C−3)中、R
9は無置換の炭素数1〜4の1価の鎖状炭化水素基を表す。]
【0032】
本発明はまた、上記本発明に係る非フッ素系ポリマーを含む撥水剤組成物を提供する。
【0033】
本発明はまた、上記本発明に係る非フッ素系ポリマーが付着した繊維製品からなる撥水性繊維製品を提供する。
【0034】
本発明の撥水性繊維製品は、屋外で長期間使用した場合であっても、風合及び撥水性を十分維持することができる。
【0035】
本発明はまた、繊維製品を、上記本発明に係る撥水剤組成物が含まれる処理液で処理する工程を備える撥水性繊維製品の製造方法を提供する。
【0036】
本発明の撥水性繊維製品の製造方法によれば、貯蔵安定性及び連続加工適正に優れるとともに、熱処理をしない場合であっても十分な撥水性を繊維製品等に与えることができる本発明に係る非フッ素系ポリマーを含む撥水剤組成物を用いることにより、風合及び撥水性に優れた撥水性繊維製品を安定して製造することができる。また、本発明の撥水性繊維製品の製造方法は、高温での熱処理を必要としないことから、省エネルギー化を図ることができるとともに、非フッ素系撥水剤を用いていることから、環境への負荷を低減することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、貯蔵安定性及び連続加工適正に優れるとともに、熱処理をしない場合であっても十分な撥水性を繊維製品等に与えることができ、風合及び撥水性に優れた撥水性繊維製品を得ることができる非フッ素系ポリマー及びそれを含む撥水剤組成物を提供することができる。
【0038】
本発明の撥水剤組成物によれば、複数の繊維製品に対し、同一の処理液を用いて、連続して撥水加工を行った場合でも、一定の撥水性を有する繊維製品を安定的に得ることができる。
【0039】
また、本発明の撥水剤組成物は、フルオロアルキル基又はフッ素を有する化合物を含まない撥水剤組成物でありながらも優れた撥水性を示し、フッ素系撥水剤に代わるものとしての利用が可能であり、フッ素供給源や環境等への影響の懸念を解消することができる。なお、繊維製品等に撥水剤組成物を付着させた後は通常熱処理することが好ましいが、本発明の撥水剤組成物はフルオロアルキル基を有する単量体を用いていないため、130℃以下の温和な条件で熱処理した場合であっても高い撥水性を発揮させることができ、また、130℃を超える高温で熱処理した場合には、熱処理時間をフッ素系撥水剤の場合よりも短くすることできる。したがって、被処理物の熱による変質が抑えられるため、風合が柔軟となり、しかも熱処理にかかる熱量を削減できる等コスト面でも優れている。
【0040】
さらには、本発明によれば、非フッ素系ポリマーの乳化又は分散重合に用いられる乳化分散剤として、一般的な界面活性剤の代わりに特定の反応性乳化剤を用いることによって、撥水剤組成物に含まれる界面活性剤の量を減らすことができる。その結果、得られる繊維製品等の撥水性の低下を抑えることができ、従来の非フッ素系撥水剤よりも高い撥水性を実現することができる。また、本発明に係る撥水剤組成物は、非フッ素系ポリマー自体の乳化分散性を向上させることができるため、加工浴に添加した場合でも安定な乳化状態を維持しやすく、多様な繊維加工に対応することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本実施形態の撥水剤組成物は、下記一般式(A−1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)(以下、「(A)成分」ともいう。)に由来する構成単位と、(メタ)アクリロイル基を有するシリコーンオイル(E)(以下、「(E)成分」ともいう。)に由来する構成単位とを含有する非フッ素系ポリマー(以降、本実施形態の非フッ素系ポリマーという)を含む。
【0042】
【化13】
[式(A−1)中、R
1は水素又はメチル基を表し、R
2は置換基を有していてもよい炭素数12以上の1価の炭化水素基を表す。]
【0043】
ここで、「(メタ)アクリル酸エステル」とは「アクリル酸エステル」又はそれに対応する「メタクリル酸エステル」を意味し、「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリルアミド」等においても同義である。
【0044】
本実施形態にて使用される上記一般式(A−1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)は、置換基を有していてもよい炭素数が12以上の1価の炭化水素基を有する。この炭化水素基は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、飽和炭化水素基であっても不飽和炭化水素基であってもよく、更には脂環式又は芳香族の環状を有していてもよい。これらの中でも、直鎖状であるものが好ましく、直鎖状のアルキル基であるものがより好ましい。この場合、撥水性がより優れるものとなる。炭素数12以上の1価の炭化水素基が置換基を有する場合、その置換基としては、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基、ブロックドイソシアネート基及び(メタ)アクリロイルオキシ基等のうちの1種以上が挙げられる。本実施形態では、上記一般式(A−1)において、R
2は無置換の炭化水素基であることが好ましい。
【0045】
上記炭化水素基の炭素数は、12〜24であることが好ましい。炭素数が12未満であると、非フッ素系ポリマーを繊維製品等に付着させた場合、十分な撥水性を発揮できない。一方、炭素数が24を超えると、炭素数が上記範囲にある場合と比較して、非フッ素系ポリマーを繊維製品等に付着させた場合、繊維製品の風合が粗硬になる傾向にある。
【0046】
上記炭化水素基の炭素数は、12〜21であることがより好ましい。炭素数がこの範囲である場合は、撥水性と風合が特に優れるようになる。炭化水素基として特に好ましいのは、炭素数が12〜18の直鎖状のアルキル基である。
【0047】
上記(A)成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸エイコシル、(メタ)アクリル酸ヘンエイコシル、(メタ)アクリル酸ベヘニル、(メタ)アクリル酸セリル、(メタ)アクリル酸メリシルが挙げられる。
【0048】
上記(A)成分は、架橋剤と反応可能なヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基及びイソシアネート基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有することができる。この場合、得られる繊維製品の耐久撥水性を更に向上させることができる。イソシアネート基は、ブロック化剤で保護されたブロックドイソシアネート基を形成していてもよい。また、上記(A)成分がアミノ基を有する場合、得られる繊維製品の風合を更に向上させることができる。
【0049】
上記(A)成分は、1分子内に重合性不飽和基を1つ有する単官能の(メタ)アクリル酸エステル単量体であることが好ましい。
【0050】
上記(A)成分は、1種を単独で用いてよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
本実施形態にて使用される(メタ)アクリロイル基を有するシリコーンオイル(E)とは、一分子内に少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を有するシリコーンオイルのことであり、シリコーンオイルに(メタ)アクリロイル基を導入することにより得ることができる。上記シリコーンオイルは、主鎖がシロキサン結合からなるポリシロキサンであればよく、例えば、側鎖及び末端がすべてメチル基であるジメチルシリコーンオイル、ジメチルシリコーンの側鎖の一部がフェニル基に置換されたメチルフェニルシリコーンオイル、及び、ジメチルシリコーンの側鎖のメチル基が一部水素であるメチルハイドロジェンシリコーンオイル等が挙げられる。中でも、ジメチルシリコーンオイルが好ましい。
【0052】
(E)成分における(メタ)アクリロイル基の導入位置は、特に限定されず、主鎖の両末端又は片末端に有していてもよく、側鎖に有していてもよい。さらには主鎖の末端及び側鎖の両方に有していてもよい。中でも、得られる繊維製品の撥水性への影響が少なく、重合時にゲル化を起こしにくい観点から、下記一般式(E−1)で表されるような主鎖の片末端に(メタ)アクリロイル基を有するシリコーンオイルが好ましい。
【0053】
【化14】
[式(E−1)中、R
21及びR
22はそれぞれ独立に水素、メチル基又はフェニル基を表し、R
23は、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子を含んでいてもよい1価の炭化水素基を表し、R
24は、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子を含んでいてもよい2価の炭化水素基を表し、R
25は水素又はメチル基を表し、sは0以上の整数である。]
【0054】
上記(E−1)で表されるシリコーンオイルにおいて、繊維製品に対して撥水加工する際のロール汚れなどのトラブル抑制の観点から、R
21及びR
22はメチル基であることが好ましく、R
23は、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子を含んでいない1価の炭化水素基であることが好ましく、更に、R
24は、酸素原子、窒素原子及び硫黄原子を含んでいない2価の炭化水素基であることが好ましい。また、得られる繊維製品の耐久撥水性の観点から、R
25はメチル基であることが好ましい。更に、連続加工適正の観点から、sは0〜200であることが好ましく、1〜100であることがより好ましく、2〜30であることがさらに好ましい。
【0055】
また、上記(E−1)で表されるシリコーンオイルの官能基当量としては、特に限定されないが、得られる繊維製品の撥水性、風合、及び連続加工適正の点で、200〜16,000g/molであることが好ましく、250〜8,000g/molであることがより好ましく、300〜2,500g/molであることがさらに好ましい。ここで「官能基当量」とは、官能基である(メタ)アクリロイル基1mol当たりに結合している主骨格の質量を意味し、例えば、核磁気共鳴測定装置(NMR)により得られる1H−NMR(プロトンNMR)のスペクトル強度から算出することができる。
【0056】
また、上記(E−1)で表されるシリコーンオイルにおけるsは、上記官能基当量から計算で求めることができ、上記官能基当量の好ましい範囲を満たす整数であることが好ましい。
【0057】
上記(E−1)で表されるシリコーンオイルとしては、市販品を用いることができ、例えば、信越シリコーン株式会社製の「X−22−2426」、「X−22−174BX」、「X−22−2475」、「KF−2012」及び「X−22−174ASX」、チッソ株式会社製の「サイラプレーンFM−0711」、「FM−0721」、「FM−0725」、「TM−0701」及び「TM−0701T」、並びに、東亞合成株式会社製の「AK−5」及び「AK−30」等が挙げられる。
【0058】
本実施形態の非フッ素系ポリマーにおける(A)成分に由来する構成単位と(E)成分に由来する構成単位との含有割合は、得られる繊維製品の撥水性、風合、及び連続加工適正の点で、配合する(A)成分の質量と(E)成分の質量との比(A)/(E)が、50/50〜99.5/0.5であることが好ましく、80/20〜99/1であることがより好ましく、90/10〜98/2であることがさらに好ましい。(A)/(E)が50/50未満となる場合は、得られる繊維製品の撥水性が不十分となる傾向がある。(A)/(E)が99.5/0.5を超える場合は、得られる繊維製品の風合いが粗硬となり、連続加工適正が劣る傾向にある。
【0059】
また、配合する(A)成分の質量と(E)成分の質量との合計質量は、非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分全量を基準として80〜100質量%が好ましく、85〜99質量%がより好ましく、90〜98質量%が更に好ましい。
【0060】
本実施形態の非フッ素系ポリマーの重量平均分子量は10万以上であることが好ましい。重量平均分子量が10万未満であると、得られる繊維製品の撥水性が不十分となる傾向がある。さらに、非フッ素系ポリマーの重量平均分子量は、50万以上であることがより好ましい。この場合、得られる繊維製品は、より十分に撥水性を発揮させることができる。非フッ素系ポリマーの重量平均分子量の上限は500万程度が好ましい。
【0061】
本実施形態において、非フッ素系ポリマーの105℃における溶融粘度は1000Pa・s以下であることが好ましい。105℃における溶融粘度が1000Pa・sを超えると、得られる繊維製品の風合が粗硬になる傾向にある。また、非フッ素系ポリマーの溶融粘度が高すぎると、非フッ素系ポリマーを乳化又は分散して撥水剤組成物とした場合、非フッ素系ポリマーが析出したり沈降したりすることがあり、撥水剤組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。なお、105℃における溶融粘度は、500Pa・s以下であることがより好ましい。この場合、得られる繊維製品等は、十分に撥水性を発揮しつつ、風合もより優れたものとなる。
【0062】
「105℃における溶融粘度」とは、高架式フローテスター(例えば、島津製作所製CFT−500)を用い、ダイ(長さ10mm、直径1mm)を取り付けたシリンダー内に非フッ素系ポリマーを1g入れ、105℃で6分間保持し、プランジャーにより100kg・f/cm
2の荷重を加えて測定したときの粘度をいう。
【0063】
本実施形態の非フッ素系ポリマーの重量平均分子量が等しい場合、非フッ素系(メタ)アクリル酸エステル単量体の配合割合が高い程、付着させた繊維製品の撥水性がより高くなる傾向にある。また、共重合可能な非フッ素系単量体を共重合させることにより、付着させた繊維製品の耐久撥水性や風合等の性能を向上させることができる。
【0064】
本実施形態の非フッ素系ポリマーは、得られる繊維製品の撥水性、及び本実施形態の非フッ素系ポリマーの乳化重合又は分散重合時及び重合後の組成物中での乳化安定性を向上できる点で、(A)成分及び(E)成分に加えて、(B1)HLBが7〜18である下記一般式(I−1)で表される化合物、(B2)HLBが7〜18である下記一般式(II−1)で表される化合物、及び(B3)HLBが7〜18である、ヒドロキシル基及び重合性不飽和基を有する油脂に炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを付加した化合物のうちから選ばれる少なくとも1種の反応性乳化剤(B)(以下、「(B)成分」ともいう。)を単量体成分として含有していることが好ましい。
【0065】
【化15】
[式(I−1)中、R
3は水素又はメチル基を表し、Xは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を表し、Y
1は炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を含む2価の基を表す。]
【0066】
【化16】
[式(II−1)中、R
4は重合性不飽和基を有する炭素数13〜17の1価の不飽和炭化水素基を表し、Y
2は炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を含む2価の基を表す。]
【0067】
「反応性乳化剤」とは、ラジカル反応性を有する乳化分散剤、すなわち、分子内に1つ以上の重合性不飽和基を有する界面活性剤のことであり、(メタ)アクリル酸エステルのような単量体と共重合させることができるものである。
【0068】
また、「HLB」とは、エチレンオキシ基を親水基、それ以外を全て親油基と見なし、グリフィン法により算出したHLB値のことである。
【0069】
本実施形態にて使用される上記(B1)〜(B3)の化合物のHLBは、7〜18であり、本実施形態の非フッ素系ポリマーの乳化重合又は分散重合時及び重合後の組成物中での乳化安定性(以降、単に乳化安定性という)の点で、9〜15が好ましい。さらには、撥水剤組成物の貯蔵安定性の点で上記範囲内の異なるHLBを有する2種以上の反応性乳化剤(B)を併用することがより好ましい。
【0070】
本実施形態にて使用される上記一般式(I−1)で表される反応性乳化剤(B1)において、R
3は水素又はメチル基であり、(A)成分との共重合性の点でメチル基であることがより好ましい。Xは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキレン基であり、本実施形態の非フッ素系ポリマーの乳化安定性の点で、炭素数2〜3の直鎖アルキレン基がより好ましい。Y
1は炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を含む2価の基である。Y
1におけるアルキレンオキシ基の種類、組み合わせ及び付加数については、上記HLBの範囲内になるように適宜選択することができる。また、アルキレンオキシ基が2種以上の場合、それらはブロック付加構造又はランダム付加構造を有することができる。
【0071】
上記一般式(I−1)で表される化合物としては、下記一般式(I−2)で表される化合物が好ましい。
【0072】
【化17】
[式(I−2)中、R
3は水素又はメチル基を表し、Xは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキレン基を表し、A
1Oは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を表し、mは上記HLBの範囲内になるように適宜選択することができ、具体的には、1〜80の整数が好ましく、mが2以上のときm個のA
1Oは同一であっても異なっていてもよい。]
【0073】
上記一般式(I−2)で表される化合物において、R
3は水素又はメチル基であり、(A)成分との共重合性の点でメチル基であることがより好ましい。Xは炭素数1〜6の直鎖もしくは分岐のアルキレン基であり、本実施形態の非フッ素系ポリマーの乳化安定性の点で、炭素数2〜3の直鎖アルキレン基がより好ましい。A
1Oは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基である。A
1Oの種類及び組み合わせ、並びにmの数については、上記HLBの範囲内になるように適宜選択することができる。本実施形態の非フッ素系ポリマーの乳化安定性の点で、mは1〜80の整数が好ましく、1〜60の整数であることがより好ましい。mが2以上のときm個のA
1Oは同一であっても異なっていてもよい。また、A
1Oが2種以上の場合、それらはブロック付加構造又はランダム付加構造を有することができる。
【0074】
上記一般式(I−2)で表される反応性乳化剤(B1)は、従来公知の方法で得ることができ、特に限定されるものではない。また、市販品より容易に入手することができ、例えば、花王株式会社製の「ラテムルPD−420」、「ラテムルPD−430」、「ラテムルPD−450」等を挙げることができる。
【0075】
本実施形態にて使用される上記一般式(II−1)で表される反応性乳化剤(B2)において、R
4は重合性不飽和基を有する炭素数13〜17の1価の不飽和炭化水素基であり、トリデセニル基、トリデカジエニル基、テトラデセニル基、テトラジエニル基、ペンタデセニル基、ペンタデカジエニル基、ペンタデカトリエニル基、ヘプタデセニル基、ヘプタデカジエニル基、ヘプタデカトリエニル基等が挙げられる。本実施形態の非フッ素系ポリマーの乳化安定性の点で、R
4は炭素数14〜16の1価の不飽和炭化水素基がより好ましい。
【0076】
Y
2は炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を含む2価の基である。Y
2におけるアルキレンオキシ基の種類、組み合わせ及び付加数については、上記HLBの範囲内になるように適宜選択することができる。また、アルキレンオキシ基が2種以上の場合、それらはブロック付加構造又はランダム付加構造を有することができる。本実施形態の非フッ素系ポリマーの乳化安定性の点で、アルキレンオキシ基はエチレンオキシ基がより好ましい。
【0077】
上記一般式(II−1)で表される化合物としては、下記一般式(II−2)で表される化合物が好ましい。
【0078】
【化18】
[式(II−2)中、R
4は重合性不飽和基を有する炭素数13〜17の1価の不飽和炭化水素基を表し、A
2Oは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基を表し、nは上記HLBの範囲内になるように適宜選択することができ、具体的には、1〜50の整数が好ましく、nが2以上のときn個のA
2Oは同一であっても異なっていてもよい。]
【0079】
上記一般式(II−2)で表される化合物におけるR
4は、上述した一般式(II−1)におけるR
4と同様のものが挙げられる。
【0080】
A
2Oは炭素数2〜4のアルキレンオキシ基である。本実施形態の非フッ素系ポリマーの乳化安定性の点で、A
2Oの種類及び組み合わせ、並びにnの数については、上記HLBの範囲内になるように適宜選択することができる。本実施形態の非フッ素系ポリマーの乳化安定性の点で、A
2Oはエチレンオキシ基がより好ましく、nは1〜50の整数が好ましく、5〜20の整数がより好ましく、8〜14の整数がさらに好ましい。nが2以上のときn個のA
2Oは同一であっても異なっていてもよい。また、A
2Oが2種以上の場合、それらはブロック付加構造又はランダム付加構造を有することができる。
【0081】
本実施形態にて使用される上記一般式(II−2)で表される反応性乳化剤(B2)は、従来公知の方法で対応する不飽和炭化水素基を有するフェノールにアルキレンオキサイドを付加することにより合成することができ、特に限定されるものではない。例えば、苛性ソーダ、苛性カリウム等のアルカリ触媒を用い、加圧下、120〜170℃にて、所定量のアルキレンオキサイドを付加することにより合成することができる。
【0082】
上記対応する不飽和炭化水素基を有するフェノールには、工業的に製造された純品または混合物のほか、植物等から抽出・精製された純品又は混合物として存在するものも含まれる。例えば、カシューナッツの殻等から抽出され、カルダノールと総称される、3−[8(Z),11(Z),14−ペンタデカトリエニル]フェノール、3−[8(Z),11(Z)−ペンタデカジエニル]フェノール、3−[8(Z)−ペンタデセニル]フェノール、3−[11(Z)−ペンタデセニル]フェノール等が挙げられる。
【0083】
本実施形態にて使用される反応性乳化剤(B3)は、HLBが7〜18である、ヒドロキシル基及び重合性不飽和基を有する油脂に炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを付加した化合物である。ヒドロキシル基及び重合性不飽和基を有する油脂としては、ヒドロキシ不飽和脂肪酸(パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、α−リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸等)を含んでいてもよい脂肪酸のモノ又はジグリセライド、少なくとも1種のヒドロキシ不飽和脂肪酸(リシノール酸、リシノエライジン酸、2−ヒドロキシテトラコセン酸等)を含む脂肪酸のトリグリセライドを挙げることができる。本実施形態の非フッ素系ポリマーの乳化安定性の点で、少なくとも1種のヒドロキシ不飽和脂肪酸を含む脂肪酸のトリグリセライドのアルキレンオキサイド付加物が好ましく、ヒマシ油(リシノール酸を含む脂肪酸のトリグリセライド)の炭素数2〜4のアルキレンオキサイド付加物がより好ましく、ヒマシ油のエチレンオキサイド付加物がさらに好ましい。さらに、アルキレンオキサイドの付加モル数は、上記HLBの範囲内になるように適宜選択することができ、本実施形態の非フッ素系ポリマーの乳化安定性の点で、20〜50モルがより好ましく、25〜45モルがさらに好ましい。また、アルキレンオキサイドが2種以上の場合、それらはブロック付加構造又はランダム付加構造を有することができる。
【0084】
本実施形態にて使用される反応性乳化剤(B3)は、従来公知の方法でヒドロキシル基及び重合性不飽和基を有する油脂にアルキレンオキサイドを付加することにより合成することができ、特に限定されるものではない。例えば、リシノール酸を含む脂肪酸のトリグリセライド、すなわちヒマシ油に苛性ソーダ、苛性カリウム等のアルカリ触媒を用い、加圧下、120〜170℃にて、所定量のアルキレンオキサイドを付加することにより合成することができる。
【0085】
本実施形態の非フッ素系ポリマーにおける上記(B)成分の単量体の構成割合は、得られる繊維製品の撥水性、及び本実施形態の非フッ素系ポリマーの乳化重合又は分散重合時及び重合後の組成物中での乳化安定性を向上できる観点で、非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量に対して、0.5〜20質量%であることが好ましく、1〜15質量%であることがより好ましく、3〜10質量%であることがさらに好ましい。
【0086】
本実施形態の非フッ素系ポリマーは、得られる繊維製品の耐久撥水性を向上できる点で、(A)成分及び(E)成分に加えて、下記(C1)、(C2)及び(C3)からなる群より選ばれる少なくとも1種の第2の(メタ)アクリル酸エステル単量体(C)(以下、「C成分」ともいう。)を単量体成分として含有していることが好ましい。
【0087】
(C1)下記一般式(C−1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体
【化19】
[式(C−1)中、R
5は水素又はメチル基を表し、R
6はヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基及び(メタ)アクリロイルオキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する炭素数1〜11の1価の鎖状炭化水素基を表す。ただし、分子内における(メタ)アクリロイルオキシ基の数は2以下である。]
【0088】
(C2)下記一般式(C−2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体
【化20】
[式(C−2)中、R
7は水素又はメチル基を表し、R
8は置換基を有していてもよい炭素数1〜11の1価の環状炭化水素基を表す。]
【0089】
(C3)下記一般式(C−3)で表されるメタクリル酸エステル単量体
【化21】
[式(C−3)中、R
9は無置換の炭素数1〜4の1価の鎖状炭化水素基を表す。]
【0090】
上記(C1)の単量体は、エステル部分にヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基及び(メタ)アクリロイルオキシ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する炭素数1〜11の1価の鎖状炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体である。架橋剤と反応可能な点から、上記炭素数1〜11の1価の鎖状炭化水素基は、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基及びイソシアネート基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有することが好ましい。これらの架橋剤と反応可能な基を有する(C1)の単量体を含有する非フッ素系ポリマーを、架橋剤とともに繊維製品に処理した場合に、得られる繊維製品の風合を維持したまま、耐久撥水性を向上することができる。イソシアネート基は、ブロック化剤で保護されたブロックドイソシアネート基であってもよい。
【0091】
上記鎖状炭化水素基は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、飽和炭化水素基であっても不飽和炭化水素基であってもよい。また、鎖状炭化水素基は、上記官能基の他に置換基を更に有していてもよい。中でも得られる繊維製品の耐久撥水性を向上できる点で、直鎖状であること、及び/又は、飽和炭化水素基であることが好ましい。
【0092】
具体的な(C1)の単量体としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、1,1−ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等が挙げられる。これら単量体は、1種を単独で用いてよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも得られる繊維製品の耐久撥水性を向上できる点で、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、1,1−ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネートが好ましい。さらに得られる繊維製品の風合を向上させる点で、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルが好ましい。
【0093】
本実施形態の非フッ素系ポリマーにおける上記(C1)の単量体の構成割合は、得られる繊維製品の撥水性及び風合の観点で、非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量に対して、1〜30質量%であることが好ましく、3〜25質量%であることがより好ましく、5〜20質量%であることがさらに好ましい。
【0094】
上記(C2)の単量体は、エステル部分に炭素数1〜11の1価の環状炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体であり、環状炭化水素基としては、イソボルニル基、シクロヘキシル基、ジシクロペンタニル基等が挙げられる。これら環状炭化水素基はアルキル基等の置換基を有していてもよい。ただし、置換基が炭化水素基の場合、置換基及び環状炭化水素基の炭素数の合計が11以下となる炭化水素基が選ばれる。また、これら環状炭化水素基は、エステル結合に直接結合していることが、耐久撥水性向上の観点から好ましい。環状炭化水素基は、脂環式であっても芳香族であってもよく、脂環式の場合、飽和炭化水素基であっても不飽和炭化水素基であってもよい。具体的な単量体としては、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル等が挙げられる。これら単量体は、1種を単独で用いてよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも得られる繊維製品の耐久撥水性を向上できる点で、(メタ)アクリル酸イソボルニル、メタクリル酸シクロヘキシルが好ましく、メタクリル酸イソボルニルがより好ましい。
【0095】
本実施形態の非フッ素系ポリマーにおける上記(C2)の単量体の構成割合は、得られる繊維製品の撥水性及び風合の観点で、非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量に対して、1〜30質量%であることが好ましく、3〜25質量%であることがより好ましく、5〜20質量%であることがさらに好ましい。
【0096】
上記(C3)の単量体は、エステル部分のエステル結合に、無置換の炭素数1〜4の1価の鎖状炭化水素基が直接結合したメタクリル酸エステル単量体である。炭素数1〜4の鎖状炭化水素基としては、炭素数1〜2の直鎖炭化水素基、及び、炭素数3〜4の分岐炭化水素基が好ましい。炭素数1〜4の鎖状炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。具体的な化合物としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチルが挙げられる。これら単量体は、1種を単独で用いてよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも得られる繊維製品の耐久撥水性を向上できる点で、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸t−ブチルが好ましく、メタクリル酸メチルがより好ましい。
【0097】
本実施形態の非フッ素系ポリマーにおける上記(C3)の単量体の構成割合は、得られる繊維製品の撥水性及び風合の観点で、非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量に対して、1〜30質量%であることが好ましく、3〜25質量%であることがより好ましく、5〜20質量%であることがさらに好ましい。
【0098】
本実施形態の非フッ素系ポリマーにおける上記の(C)成分の単量体の合計構成割合は、得られる繊維製品の撥水性及び風合の観点で、非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量に対して、1〜30質量%であることが好ましく、3〜25質量%であることがより好ましく、5〜20質量%であることがさらに好ましい。
【0099】
本実施形態の撥水剤組成物に含まれる非フッ素系ポリマーは、(A)成分、(E)成分、(B)成分及び(C)成分の他に、これらと共重合可能な単量体(D)を、本発明の効果を損なわない範囲において含有することができる。
【0100】
上記(D)の単量体としては、例えば、(A)成分及び(C)成分以外の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸、フマル酸エステル、マレイン酸エステル、フマル酸、マレイン酸、(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチレン、スチレン等のフッ素を含まないビニル系単量体等が挙げられる。なお、(A)成分及び(C)成分以外の炭化水素基を有する(メタ)アクリル酸エステルは、炭化水素基に、ビニル基、ヒドロキシル基、アミノ基、エポキシ基及びイソシアネート基、ブロックドイソシアネート基等の置換基を有していてもよく、第4級アンモニウム基等の架橋剤と反応可能な基以外の置換基を有していてもよく、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、又はウレタン結合等を有していてもよい。(A)成分及び(C)成分以外の(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、下記一般式(D−1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体等が挙げられる。
【0101】
【化22】
[式(D−1)中、R
10は水素又はメチル基を表し、pは2以上の整数を表し、Sは(p+1)価の有機基を表し、Tは重合性不飽和基を有する1価の有機基を表す。]
【0102】
上記(D−1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体は、1分子内に3以上の重合性不飽和基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体である。本実施形態では、上記一般式(D−1)におけるTが(メタ)アクリロイルオキシ基である、1分子内に3以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する多官能の(メタ)アクリル酸エステル単量体が好ましい。式(D−1)において、p個のTは同一であっても異なっていてもよい。具体的な化合物としては、例えば、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート等が挙げられる。これら単量体は、1種を単独で用いてよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも得られる繊維製品の耐久撥水性を向上できる点で、テトラメチロールメタンテトラアクリレートがより好ましい。
【0103】
上記(D)の単量体の構成割合は、得られる繊維製品の撥水性及び風合の観点で、非フッ素系ポリマーを構成する単量体成分の全量に対して、10質量%以下であることが好ましい。
【0104】
本実施形態の撥水剤組成物に含まれる非フッ素系ポリマーは、架橋剤と反応可能なヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基及びイソシアネート基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有することが、得られる繊維製品の耐久撥水性を向上させることから好ましい。イソシアネート基は、ブロック化剤で保護されたブロックドイソシアネート基を形成していてもよい。また、非フッ素系ポリマーは、アミノ基を有することが、得られる繊維製品の風合も向上させることから好ましい。
【0105】
本実施形態の撥水剤組成物には必要に応じて添加剤等を加えることも可能である。添加剤としては、他の撥水剤、架橋剤、抗菌防臭剤、難燃剤、帯電防止剤、柔軟剤、防皺剤等が挙げられる。
【0106】
次に、本実施形態の非フッ素系ポリマーを含む撥水剤組成物の製造方法について説明する。
【0107】
非フッ素系ポリマーを含む撥水剤組成物は、ラジカル重合法により製造することができる。また、このラジカル重合法の中でも、得られる撥水剤の性能及び環境の面から乳化重合法又は分散重合法で重合することが好ましい。
【0108】
例えば、媒体中で、上記(E)成分の存在下、上記一般式(A−1)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体(A)を乳化重合又は分散重合させることにより非フッ素系ポリマーを得ることができる。より具体的には、例えば、媒体中に(A)成分、(E)成分、及び必要に応じて上記(B)成分、上記(C)成分及び上記(D)成分、並びに乳化補助剤又は分散補助剤を加え、この混合液を乳化又は分散させて、乳化物又は分散物を得る。得られた乳化物又は分散物に、重合開始剤を加えることにより、重合反応が開始され、単量体及び反応性乳化剤を重合させることができる。なお、上述した混合液を乳化又は分散させる手段としては、ホモミキサー、高圧乳化機又は超音波等が挙げられる。
【0109】
上記乳化補助剤又は分散補助剤等(以下、「乳化補助剤等」ともいう。)としては、上記反応性乳化剤(B)以外のノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、及び両性界面活性剤から選ばれる1種以上を使用することができる。乳化補助剤等の含有量は、全単量体100質量部に対して、0.5〜30質量部であることが好ましく、1〜20質量部であることがより好ましく、1〜10質量部であることがさらに好ましい。上記乳化補助剤等の含有量が0.5質量部未満であると、乳化補助剤等の含有量が上記範囲にある場合と比較して、混合液の分散安定性が低下する傾向にあり、乳化補助剤等の含有量が30質量部を超えると、乳化補助剤等の含有量が上記範囲にある場合と比較して、得られる非フッ素系ポリマーの撥水性が低下する傾向にある。
【0110】
乳化重合又は分散重合の媒体としては、水が好ましく、必要に応じて水と有機溶剤とを混合してもよい。このときの有機溶剤としては、水と混和可能な有機溶剤であれば特に制限はないが、例えば、メタノールやエタノールなどのアルコール類、酢酸エチルなどのエステル類、アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテルなどのエーテル類等、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコール類が挙げられる。なお、水と有機溶剤の比率は特に限定されるものではない。
【0111】
上記重合開始剤としては、アゾ系、過酸化物系、又はレドックス系等の公知の重合開始剤を適宜使用できる。重合開始剤の含有量は、全単量体100質量部に対して、重合開始剤0.01〜2質量部であることが好ましい。重合開始剤の含有量が上記範囲であると、重量平均分子量が10万以上である非フッ素系ポリマーを効率よく製造することができる。
【0112】
また、重合反応において、分子量調整を目的として、ドデシルメルカプタン、t−ブチルアルコール等の連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤の含有量は、全単量体100質量部に対して0.3質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以下であることがより好ましい。連鎖移動剤の含有量が0.1質量部を超えると、分子量の低下を招き、重量平均分子量が10万以上である非フッ素系ポリマーを効率よく製造することが困難となる傾向にある。
【0113】
なお、分子量調整のためには重合禁止剤を使用してもよい。重合禁止剤の添加により所望の重量平均分子量を有する非フッ素系ポリマーを容易に得ることができる。
【0114】
重合反応の温度は、20℃〜150℃が好ましい。温度が20℃未満であると、温度が上記範囲にある場合と比較して、重合が不十分になる傾向にあり、温度が150℃を超えると、反応熱の制御が困難になる場合がある。
【0115】
重合反応において、得られる非フッ素系ポリマーの重量平均分子量は、上述した重合開始剤、連鎖移動剤、重合禁止剤の含有量の増減により調整することができ、105℃における溶融粘度は、多官能単量体の含有量、及び、重合開始剤の含有量の増減により調整することができる。なお、105℃における溶融粘度を低下させたい場合は、重合可能な官能基を2つ以上有する単量体の含有量を減らしたり、重合開始剤の含有量を増加させたりすればよい。
【0116】
乳化重合又は分散重合により得られるポリマー乳化液又は分散液における非フッ素系ポリマーの含有量は、組成物の貯蔵安定性及びハンドリング性の観点から、乳化液又は分散液の全量に対して10〜50質量%とすることが好ましく、20〜40質量%とすることがより好ましい。
【0117】
本実施形態の撥水性繊維製品は、上述した本実施形態の非フッ素系ポリマーが付着した繊維製品からなるものである。
【0118】
本実施形態の撥水性繊維製品の製造方法について説明する。
【0119】
本実施形態の撥水性繊維製品は、繊維製品を上述した撥水剤組成物が含まれる処理液で処理することにより、繊維製品に非フッ素系ポリマーを付着させることで得られる。かかる繊維製品の素材としては特に制限はなく、綿、麻、絹、羊毛などの天然繊維、レーヨン、アセテートなどの半合成繊維、ナイロン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリプロピレンなどの合成繊維及びこれらの複合繊維、混紡繊維などが挙げられる。繊維製品の形態は繊維、糸、布、不織布、紙などのいずれの形態であってもよい。
【0120】
繊維製品を上記処理液で処理する方法としては、例えば、浸漬、噴霧、塗布等の加工方法が挙げられる。また、撥水剤組成物が水を含有する場合は、繊維製品に付着させた後に水を除去するために乾燥させることが好ましい。
【0121】
撥水剤組成物の繊維製品への付着量は、要求される撥水性の度合いに応じて適宜調整可能であるが、繊維製品100gに対して、撥水剤組成物に含まれる非フッ素系ポリマーの付着量が0.01〜10gとなるように調整することが好ましく、0.05〜5gとなるように調整することがより好ましい。非フッ素系ポリマーの付着量が0.01g未満であると、非フッ素系ポリマーの付着量が上記範囲にある場合と比較して、繊維製品が十分な撥水性を発揮できない傾向にあり、10gを超えると、非フッ素系ポリマーの付着量が上記範囲にある場合と比較して、繊維製品の風合が粗硬になる傾向にある。
【0122】
また、本実施形態の非フッ素系ポリマーを繊維製品に付着させた後は、適宜熱処理することが好ましい。温度条件は特に制限はないが、本実施形態の撥水剤組成物を用いると、100〜130℃の温和な条件により繊維製品に十分良好な撥水性を発現させることができる。温度条件は130℃以上(好ましくは200℃まで)の高温処理であってもよいが、かかる場合は、フッ素系撥水剤を用いた従来の場合よりも処理時間を短縮することが可能である。したがって、本実施形態の撥水性繊維製品によれば、熱による繊維製品の変質が抑えられ、撥水処理時の繊維製品の風合が柔軟となり、しかも温和な熱処理条件、すなわち低温キュア条件下で繊維製品に十分な撥水性を付与できる。
【0123】
特に、耐久撥水性を向上させたい場合には、撥水剤組成物が含まれる処理液で繊維製品を処理する上述の工程と、メチロールメラミン、イソシアネート基又はブロックドイソシアネート基を1個以上有する化合物に代表される架橋剤を、繊維製品に付着させてこれを加熱する工程とを含む方法によって、繊維製品を撥水加工することが好ましい。更に、耐久撥水性をより向上させたい場合には、撥水剤組成物が、上述の架橋剤と反応可能な官能基を有する単量体を共重合した非フッ素系ポリマーを含むことが好ましい。
【0124】
イソシアネート基を1個以上有する化合物としては、ブチルイソシアネート、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ナフタレンイソシアネートなどのモノイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートなどのジイソシアネート及びこれらのイソシアヌレート環である三量体、トリメチロールプロパンアダクト体が挙げられる。また、ブロックドイソシアネート基を1個以上有する化合物としては、上記イソシアネート基を有する化合物をブロック化剤でイソシアネート基を保護した化合物が挙げられる。このとき用いられるブロック化剤としては、2級又は3級アルコール類、活性メチレン化合物、フェノール類、オキシム類、ラクタム類などの有機系ブロック化剤や、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウムなどの重亜硫酸塩が挙げられる。上述の架橋剤は、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせてもよい。
【0125】
架橋剤は、例えば、架橋剤を有機溶剤に溶解するか、水に乳化分散させた処理液に被処理物(繊維製品)を浸漬し、被処理物に付着した処理液を乾燥する方法により、被処理物に付着させることができる。そして、被処理物に付着した架橋剤を加熱することにより、架橋剤と被処理物及び非フッ素系ポリマーとの反応を進行させることができる。架橋剤の反応を十分に進行させてより効果的に洗濯耐久性を向上させるために、このときの加熱は110〜180℃で1〜5分間行うのがよい。架橋剤の付着及び加熱の工程は、上述の撥水剤組成物が含まれる処理液で処理する工程と同時に行ってもよい。同時に行う場合、例えば、撥水剤組成物及び架橋剤を含有する処理液を被処理物に付着させ、水を除去した後、更に、被処理物に付着している架橋剤を加熱する。撥水加工工程の簡素化や、熱量の削減、経済性を考慮した場合、撥水剤組成物の処理工程と同時に行うことが好ましい。
【0126】
また、架橋剤を過度に使用すると風合を損ねるおそれがある。上記架橋剤は、被処理物(繊維製品)に対して0.1〜50質量%の量で用いることが好ましく、0.1〜10質量%の量で用いることが特に好ましい。
【0127】
こうして得られる本実施形態の撥水性繊維製品は、屋外で長期間使用した場合であっても、十分に撥水性を発揮することができ、また、上記撥水性繊維製品はフッ素系の化合物を使用していないことから、環境にやさしいものとすることができる。
【0128】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0129】
例えば、本発明の撥水剤組成物に含まれる非フッ素系ポリマーを製造する場合において、上記実施形態では、重合反応をラジカル重合により行っているが、紫外線、電子線、γ線のような電離性放射線などを照射する光重合により重合反応を行ってもよい。
【0130】
また、本発明においては、撥水剤組成物を繊維製品に処理して撥水性繊維製品としているが、撥水剤組成物で処理される製品としては、繊維製品用途に限らず、金属、ガラス、樹脂等の物品であってもよい。
【0131】
また、かかる場合、撥水剤組成物を上記物品に付着させる方法や撥水剤の付着量は、被処理物の種類などに応じて、任意に定めることができる。
【実施例】
【0132】
以下に、本発明を実施例によりさらに説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0133】
<ポリマー分散液の調整>
表1〜6に示される組成(表中、数値は(g)を示す。)を有する混合液を、以下に示す手順により重合して、ポリマー分散液を得た。
【0134】
(実施例1)
500mLフラスコに、アクリル酸ステアリル60g、X−22−2475(信越シリコーン株式会社製、片末端にメタアクリロイル基を有するジメチルシリコーン、官能基当量=420g/mol)5g、ノイゲンXL−100(第一工業製薬株式会社製、ポリオキシアルキレン分岐デシルエーテル、HLB=14.7)2g、ノイゲンXL−60(第一工業製薬株式会社製、ポリオキシアルキレン分岐デシルエーテル、HLB=12.5)2g、ステアリルジメチルアミン塩酸塩3g、トリプロピレングリコール25g及び水202.7gを入れ、45℃にて混合攪拌し混合液とした。この混合液に超音波を照射して全単量体を乳化分散させた。次いで、アゾビス(イソブチルアミジン)二塩酸塩0.3gを混合液に添加し、窒素雰囲気下で60℃にて6時間ラジカル重合させて、ポリマー濃度23質量%の非フッ素系ポリマー分散液を得た。
【0135】
(実施例2〜23及び比較例1〜4)
表1〜6に記載の材料を用いた以外は、実施例1と同様に重合を行い、表7〜10に示すポリマー濃度の非フッ素系ポリマー分散液をそれぞれ得た。
【0136】
なお、実施例1〜23及び比較例1〜4で得られたポリマー分散液中の各ポリマーは、ガスクロマトグラフ(GC−15APTF、(株)島津製作所製)により、いずれも全単量体の98%以上が重合していることが確認された。
【0137】
表1〜6に示される材料の詳細は以下のとおりである。
KF−2012(信越シリコーン株式会社製、片末端にメタアクリロイル基を有するジメチルシリコーン、官能基当量=4,600g/mol)
X−22−2426(信越シリコーン株式会社製、片末端にメタアクリロイル基を有するジメチルシリコーン、官能基当量=12,000g/mol)
ラテムルPD−420(花王株式会社製、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、HLB=12.6)
ラテムルPD−430(花王株式会社製、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、HLB=14.4)
カルダノールのエチレンオキサイド12.5モル付加物(HLB=12.9、表中、「カルダノール12.5EO」と示す。)
カルダノールのエチレンオキサイド8.3モル付加物(HLB=11.0、表中、「カルダノール8.3EO」と示す。)
ヒマシ油のエチレンオキサイド42モル付加物(HLB=13.3、表中、「ヒマシ油42EO」と示す。)
ヒマシ油のエチレンオキサイド30モル付加物(HLB=11.7、表中、「ヒマシ油30EO」と示す。)
【0138】
表中の「C8フルオロ基含有アクリレート」は、下記一般式(III):
【化23】
で表され、nの平均値が8となる混合物(なお、当該混合物にはnが6,8,10,12,14の化合物が混合されている)である。
【0139】
上記で得られたポリマー分散液及び以下に示す方法で得られたポリマーについて評価を行った。
【0140】
(非フッ素系ポリマーの物性評価)
実施例1〜23及び比較例1〜4で得られたポリマー分散液50gにアセトン500mLを加えることによりポリマーと乳化剤を分離させポリマーを濾取し、このポリマーを25℃にて24時間減圧乾燥させた。得られたポリマーを以下のように評価した。結果を表7〜10に示す。
【0141】
(1)溶融粘度の測定方法
上記で得られた実施例及び比較例のポリマーについて、高架式フローテスターCFT−500((株)島津製作所製)を用い、ダイ(長さ10mm、直径1mm)を取り付けたシリンダー内にポリマーを1g入れ、105℃6分間保持し、プランジャーにより100kg・f/cm
2の荷重を加えて105℃における溶融粘度を測定した。
【0142】
(2)重量平均分子量の測定方法
上記で得られた実施例及び比較例のポリマーについて、GPC装置(東ソー(株)製GPC「HLC−8020」)により、カラム温度40℃、流量1.0ml/分の条件下で、溶離液にテトラヒドロフランを用いて測定し、標準ポリスチレン換算で重量平均分子量を測定した。なお、カラムは、東ソー(株)製の商品名TSK−GEL G5000HHR、G4000HHR、G3000HHRの3本を接続して装着した。
【0143】
(撥水剤組成物の貯蔵安定性評価)
実施例及び比較例で得られたポリマー分散液を45℃で2週間保存した時の安定性を、以下の基準で評価した。結果を表7〜10に示す。
A:外観変化のないもの
B:液面付近に油状物、容器壁面にポリマー析出物が僅かに認められるもの
C:ポリマーの沈降物、分離、ゲル化が認められるもの
【0144】
(繊維製品の撥水性評価及び連続加工適正評価)
JIS L 1092(1998)のスプレー法に準じてシャワー水温を27℃として試験をした。本試験においては、染色を行ったポリエステル100%布又はナイロン100%布を、実施例及び比較例のポリマー分散液をポリマーの含有量が3質量%となるように水で希釈した処理液に浸漬処理(ピックアップ率60質量%)した後、130℃で2分間乾燥し、更に表7〜10に示すような条件で熱処理して、得られた布の撥水性を評価した。さらに上記浸漬処理に用いた処理液を用いて、連続して19枚の試験布を浸漬処理した後、19枚目(連続処理20回目)の試験布を130℃で2分間乾燥し、更に表7〜10に示すような条件で熱処理をして、得られた布の撥水性も評価した。結果は目視にて下記の等級で評価した。なお、特性がわずかに良好な場合は等級に「+」をつけ、特性がわずかに劣る場合は等級に「−」をつけた。結果を表7〜10に示す。
撥水性:状態
5:表面に付着湿潤のないもの
4:表面にわずかに付着湿潤を示すもの
3:表面に部分的湿潤を示すもの
2:表面に湿潤を示すもの
1:表面全体に湿潤を示すもの
0:表裏両面が完全に湿潤を示すもの
【0145】
(繊維製品の風合評価)
風合は、染色を行ったポリエステル100%布を、実施例及び比較例のポリマー分散液をポリマーの含有量が3質量%となるように水で希釈した処理液に浸漬処理(ピックアップ率60質量%)した後、130℃で2分間乾燥し、更に170℃で30秒間熱処理したものを用いて評価した。結果はハンドリングにて下記に示す5段階で評価した。結果を表7〜10に示す。
1:硬い 〜 5:柔らかい
【0146】
(繊維製品の耐久撥水性評価)
JIS L 1092(1998)のスプレー法に準じてシャワー水温を27℃として試験をした。本試験においては、染色を行ったポリエステル100%布を、ポリマーの含有量が3質量%、UNIKA RESIN 380−K(架橋剤、ユニオン化学工業株式会社製、トリメチロールメラミン樹脂)の含有量が0.3質量%及びUNIKA CATALYST 3−P(界面活性剤、ユニオン化学工業株式会社製、アミノアルコール塩酸塩)の含有量が0.2質量%となるように、実施例及び比較例のポリマー分散液及び上記各薬剤を水で希釈した処理液に浸漬処理(ピックアップ率60質量%)した後、130℃で2分間乾燥し、更に170℃で60秒間熱処理して得られた布(L−0)、及びJIS L 0217(1995)の103法による洗濯を10回(L−10)行った後の布の撥水性を上記撥水性評価方法と同様に評価した。また、ナイロン100%布の場合も、熱処理温度を170℃から160℃に変えたこと以外は、ポリエステル100%布の場合と同様に評価した。結果を表7〜10に示す。
【0147】
【表1】
【0148】
【表2】
【0149】
【表3】
【0150】
【表4】
【0151】
【表5】
【0152】
【表6】
【0153】
【表7】
【0154】
【表8】
【0155】
【表9】
【0156】
【表10】
【0157】
実施例1〜23の撥水剤組成物で処理した繊維製品は、熱処理をしない場合であっても、従来のフッ素系撥水剤(比較例1)を用いた場合と同等以上の撥水性、耐久撥水性を発揮し、風合も良好なものであることが確認された。また、実施例4及び実施例9〜11を比較すると、非フッ素系ポリマーの組成が近いものであっても、ポリマーの重量平均分子量が異なる場合は、重量平均分子量が大きい方が、撥水性に優れていることが確認された。
【0158】
更に、実施例1〜23の撥水剤組成物は、連続加工適正、すなわち複数の繊維製品に対し、同一の処理剤を用いて、連続して撥水加工を行った場合であっても、比較例2及び3の(E)成分を含まない非フッ素系撥水剤組成物を用いた場合より優れた撥水性を有していることが確認された。
【0159】
比較例2の撥水剤組成物は、(A)成分のみからなる非フッ素系ポリマーであり、実施例1の撥水剤組成物と比較すると、(E)成分を含んでいないために、連続加工適正が劣る傾向であった。比較例3の撥水剤組成物は、(A)成分と(B)成分からなる非フッ素系ポリマーであり、(B)成分を含んでいるために、得られる繊維製品は良好な撥水性を示すものの、(E)成分を含んでいないために、連続加工適正が劣る傾向であった。比較例4の撥水剤組成物は、(A)成分を含んでおらず、得られる繊維製品の撥水性そのものが低下することが確認された。また、(E)成分の割合が高すぎるために、風合は向上するものの、貯蔵安定性が大きく低下する傾向であった。