特許第6529423号(P6529423)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 倉敷紡績株式会社の特許一覧

特許6529423複層ガラス用スペーサーおよび複層ガラス
<>
  • 特許6529423-複層ガラス用スペーサーおよび複層ガラス 図000002
  • 特許6529423-複層ガラス用スペーサーおよび複層ガラス 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6529423
(24)【登録日】2019年5月24日
(45)【発行日】2019年6月12日
(54)【発明の名称】複層ガラス用スペーサーおよび複層ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/06 20060101AFI20190531BHJP
   E06B 3/663 20060101ALI20190531BHJP
【FI】
   C03C27/06 101Z
   E06B3/663 M
【請求項の数】4
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-219569(P2015-219569)
(22)【出願日】2015年11月9日
(65)【公開番号】特開2017-88442(P2017-88442A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年7月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167988
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】坂根 剛
(72)【発明者】
【氏名】輪湖 潤一
【審査官】 井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−029788(JP,A)
【文献】 特表2015−509900(JP,A)
【文献】 特開平06−229172(JP,A)
【文献】 特表2013−523572(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/043848(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C27/00−29/00
E06B3/54−3/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維強化されたアクリロニトリルブタジエンスチレン共重合樹脂からなり、
断面がほぼ一様な略矩形の管状の押出成形体であって、
通気孔が形成された内面部と、前記内面部の両側に連なり、互いに平行な一対の側面部
と、前記一対の側面部の前記内面部と反対側に連なる外面部とを有する、
複層ガラス用スペーサー。
【請求項2】
線膨張率が5×10−6〜25×10−6/Kである、
請求項1に記載の複層ガラス用スペーサー。
【請求項3】
前記炭素繊維強化されたアクリロニトリルブタジエンスチレン共重合樹脂は、該樹脂成
分100重量部に対して炭素繊維5〜35重量部を含有する、
請求項1または2に記載の複層ガラス用スペーサー。
【請求項4】
空間層を介して相対する2枚のガラス板と、
前記2枚のガラス板の間であって周縁部内側に配置された請求項1〜3のいずれか一項
に記載の複層ガラス用スペーサーと、
前記スペーサーの内部に封入された乾燥剤と、
前記ガラス板と前記スペーサーの側面部の間に設けられた一次シールと、
前記2枚のガラス板の周縁部と前記スペーサーの外面部に囲まれた凹みに設けられた二
次シールと、
を有する複層ガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複層ガラスに用いる樹脂製スペーサーおよび複層ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーの観点から、断熱複層ガラスが一般的に用いられるようになった。複層ガラスは、2枚のガラス板の周縁部にスペーサーを挟んでガラス間隔を一定に保ち、周囲をシール材で密封して一体化したものである。2枚のガラス板の間に形成された空間層によって断熱効果がもたらされる。
【0003】
上記スペーサーとしては多くの場合、断面が略矩形で管状のアルミニウム製スペーサーが用いられる。しかし、ガラス板の空間層側に低放射膜を設けたり、空気よりも熱伝導率の小さな不活性ガスを空間層に封入するなどにより、複層ガラス中央部の断熱性能が向上するに従って、周縁部のスペーサーを介した熱伝達が無視できなくなっている。
【0004】
この問題に対して、より断熱性の高い、いわゆるウォームエッジ型のスペーサーが各種開発・実用化されている。特許文献1には、アルミニウムよりも熱伝導率の小さな、ガラス繊維強化されたポリマーからなる複層ガラス用スペーサーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2015−509900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
樹脂製のスペーサーを用いる場合、その熱膨張率が大きいことが問題となる。複層ガラスの使用環境において、スペーサーとガラスとの熱膨張差によってシール材に負荷がかかり、シールの信頼性が損なわれるからである。特許文献1に記載されたスペーサーでは、ガラス繊維含有率を調整することで熱膨張係数を調整する。しかしながら、ガラス繊維の配合によって熱膨張率を十分に下げようとすると、ガラス繊維の含有量を多くする必要があり、スペーサーの成形性の悪化などの問題がある。
【0007】
本発明は上記を考慮してなされたものであり、強化繊維の含有量が少なくても熱膨張率が小さい、樹脂製の複層ガラス用スペーサーを提供することを目的とする。併せて、かかるスペーサーを用いた複層ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に対して、本発明の複層ガラス用スペーサーは、炭素繊維強化されたアクリロニトリルブタジエンスチレン共重合樹脂からなる。具体的には、本発明の複層ガラス用スペーサーは、炭素繊維強化されたアクリロニトリルブタジエンスチレン共重合樹脂からなり、断面がほぼ一様な略矩形の管状であって、通気孔が形成された内面部と、前記内面部の両側に連なり、互いに平行な一対の側面部と、前記一対の側面部の前記内面部と反対側に連なる外面部とを有する。
【0009】
好ましくは、前記複層ガラス用スペーサーは、線膨張率が5×10−6〜25×10−6/Kである。
【0010】
また、好ましくは、前記炭素繊維強化されたアクリロニトリルブタジエンスチレン共重合樹脂は、該樹脂成分100重量部に対して炭素繊維5〜35重量部を含有する。
【0011】
本発明の複層ガラスは、空間層を介して相対する2枚のガラス板と、前記2枚のガラス板の間であって周縁部内側に配置された上記いずれかの複層ガラス用スペーサーと、前記スペーサーの内部に封入された乾燥剤と、前記ガラス板と前記スペーサーの側面部の間に設けられた一次シールと、前記2枚のガラス板の周縁部と前記スペーサーの外面部に囲まれた凹みに設けられた二次シールとを有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、強化繊維の含有量が少なくても熱膨張率を小さくできるので、成形性の良い樹脂製の複層ガラス用スペーサーが得られる。また、本発明によれば、周縁部の熱伝達の少ない複層ガラスが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態の複層ガラス用スペーサーの断面を示す図である。
図2】本発明の一実施形態の複層ガラスの周縁部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態を図1および図2に基づいて説明する。
【0015】
図1において、本実施形態の複層ガラス用スペーサー10は、断面が略矩形の管状である。スペーサー10は、内面部11と、側面部12、13と、外面部14を有する。内面部11は、複層ガラスの空間層に露呈することが予定され、スペーサーの長さ方向に連続して通気孔15が形成されている。スペーサーの断面は、この通気孔の有無を除いて一様である。側面部12、13は、ガラス板にシール材を介して接着されることが予定され、互いに平行に形成されている。外面部14の外表面には、ガスバリアフィルム16が貼付されている。
【0016】
スペーサー10は、炭素繊維で強化されたアクリロニトリルブタジエンスチレン共重合樹脂(ABS樹脂)からなる。ABS樹脂を炭素繊維で強化することにより、ガラス繊維で強化する場合と比べて、より少ない強化繊維含有量で同等の線膨張率を実現でき、または同等の強化繊維含有量でより小さな線膨張率を実現できる。
【0017】
スペーサー10の線膨張率は、好ましくは25×10−6/K以下、より好ましくは15×10−6/K以下である。前述のとおり、スペーサーとガラスの熱膨張率差が大きいと、複層ガラスを使用中に、両者の熱膨張差によってシール材に負荷がかかるからである。ガラスの線膨張率が約9×10−6/K、一般的なスペーサーに用いられるアルミニウムの線膨張率が約23×10−6/Kであることから、スペーサーの線膨張率を上記範囲とすることによって、ガラスとの熱膨張差を小さく抑えることができる。一方、スペーサーの線膨張率は、好ましくは5×10−6/K以上、より好ましくは8×10−6/K以上である。線膨張率をこれより小さくしようとすると、炭素繊維の含有量が多くなりすぎるからである。
【0018】
スペーサーの炭素繊維含有量は、ABS樹脂成分100重量部に対して、好ましくは5重量部以上、より好ましくは7重量部以上である。ABS樹脂の線膨張率は100×10−6/K程度であり、このような炭素繊維含有量によって、上記好ましい範囲のスペーサーの線膨張率が得られる。一方、スペーサーの炭素繊維含有量は、ABS樹脂成分100重量部に対して、好ましくは35重量部以下、より好ましくは30重量部以下、特に好ましくは25重量部以下である。炭素繊維含有量が多すぎると、均一な厚みを持った成形体を作成することが困難となるからである。特にスペーサーを押出成形により作成する場合は、溶融粘度が高くなり押出成形性が悪化し、均一な成形体を得ることが極めて困難になる。なお、押出成形においてカーボン繊維を含有させることは押出成形が難しくなるため含有量を増やすことは難しいが、ABS樹脂はブタジエン成分、いわゆるゴム成分を有するため成形が容易であり、カーボン繊維を組み合わせるには好適である。また、炭素繊維など強化繊維の含有量が多すぎると、経年劣化によって、樹脂相と繊維の界面が水蒸気の通り道となり、複層ガラスの寿命が短くなる虞があるからである。
【0019】
ガスバリアフィルム16は、樹脂フィルム基材に、アルミニウム、スチールなど金属の薄膜をコーティングしたものを用いることができる。これにより、複層ガラス空間層への水蒸気の侵入や、空間層からの不活性ガスの漏出をさらに減少させることができる。複層ガラスの使用期間は長期にわたるため、スペーサーの壁を通過するガス成分の移動も無視できない。したがって、複層ガラスの寿命を長くするために、スペーサーがガスバリアフィルムを有することが好ましい。
【0020】
本実施形態の複層ガラス用スペーサー10は、原料となるABS樹脂と炭素繊維を溶融混練して押出成形し、通気孔を形成し、ガスバリアフィルムをスペーサー外面部の外表面に貼付することにより製造できる。
【0021】
図2において、本実施形態の複層ガラス20は、2枚のガラス板21、22と、上述したスペーサー10と、一次シール23、24と、二次シール25と、乾燥剤26を有する。スペーサーはガラス板の端部より少し内側に配置されている。2枚のガラス板の間に空間層27が形成されている。
【0022】
一次シール23、24は、スペーサーの両側面部(図1の12、13)と2枚のガラス板21、22の間にそれぞれ形成されている。一次シールの主な機能は、スペーサー−ガラス板間を通って水蒸気が空間層に侵入するのを防ぐことである。一次シール材としては、ポリイソブチレンなどの水蒸気を通さない材料を用いることができる。
【0023】
二次シール25は、2枚のガラス板とスペーサーの外面部(図1の14)に囲まれた凹みに形成されている。二次シールの主な機能は、2枚のガラス板を一体化して保持することである。二次シール材としては、ポリサルファイド系、各種シリコーン系などのシール材を用いることができる。
【0024】
乾燥剤26は、スペーサー10の内部に封入されている。これにより、スペーサー内部と通気孔(図1の15)により連通する空間層27を乾燥状態に維持する。乾燥剤としては、粉末状・顆粒状等のシリカゲル、各種ゼオライトなどを用いることができる。
【0025】
本実施形態の複層ガラス20は、次のとおり製造することができる。まず、スペーサーを所要の長さに切断し、乾燥剤を入れて、長方形の枠体に組む。このとき、角部分は、隣り合うスペーサーの端部にコーナー接続キーを挿入して接合できる。次いで、スペーサーの枠体の両側面部に一次シール材を塗布し、一方のガラス板の周縁端部やや内側に貼り付けた後、その上に他方のガラス板を貼り付けて圧着する。次いで、2枚のガラス板の周縁部とスペーサーの外面部に三方を囲まれた凹みに二次シール材を充填して硬化させる。
【符号の説明】
【0026】
10 複層ガラス用スペーサー
11 内面部
12、13 側面部
14 外面部
15 通気孔
16 ガスバリアフィルム
20 複層ガラス
21、22 ガラス板
23、24 一次シール
25 二次シール
26 乾燥剤
27 空間層
図1
図2