(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
導電層のおもて面側に形成した第1のフォトレジスト層をパターニングして、当該第1のフォトレジスト層を、前記導電層と前記第1のフォトレジスト層との積層方向に沿って貫通する第1の貫通孔を形成する工程と、
前記導電層を一方の電極とする電鋳によって、前記導電層のおもて面側であって前記第1の貫通孔内に第1の電鋳部材を堆積させる工程と、
前記第1の電鋳部材および前記第1のフォトレジスト層のおもて面側を平坦化することにより第1の電鋳部品を形成する工程と、
前記第1の電鋳部品を形成した前記導電層から前記第1のフォトレジスト層を除去する工程と、
前記第1のフォトレジスト層を除去することにより露出された前記第1の電鋳部品の表面に離脱用の膜を形成する工程と、
前記導電層のおもて面側に、前記第1の電鋳部品をおもて面側から覆う第2のフォトレジスト層を形成し、当該第2のフォトレジスト層をパターニングして、前記第1の電鋳部品の一部が内側に突出する状態で当該第2のフォトレジスト層を前記積層方向に沿って貫通する第2の貫通孔を形成する工程と、
前記導電層を一方の電極とする電鋳によって、前記導電層のおもて面側であって前記第2の貫通孔内に第2の電鋳部材を堆積させる工程と、
前記第2の電鋳部材および前記第2のフォトレジスト層のおもて面側を平坦化することにより第2の電鋳部品を形成する工程と、
前記第1の電鋳部品、前記第2の電鋳部品および前記第2のフォトレジスト層から、前記導電層を除去する工程と、
前記導電層を除去した前記第1の電鋳部品および前記第2の電鋳部品から、前記第2のフォトレジスト層を除去する工程と、
を含んだことを特徴とする電鋳部品の製造方法。
前記第1の電鋳部品および前記第2の電鋳部品は、少なくとも一部が互いに密接または当接した状態で相対的に移動する部品であることを特徴とする請求項6に記載の電鋳部品の製造方法。
前記第1の電鋳部品を形成する工程は、前記第1の電鋳部材および前記第1のフォトレジスト層をおもて面側から研削することにより平坦化することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の電鋳部品の製造方法。
前記第2の電鋳部品を形成する工程は、前記第2の電鋳部材および前記第2のフォトレジスト層をおもて面側から研削することにより平坦化することを特徴とする請求項1〜8のいずれか一つに記載の電鋳部品の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる電鋳部品の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0026】
<実施の形態1>
実施の形態1においては、この発明にかかる実施の形態1の電鋳部品の製造方法として、LIGA(Lithographie,Galvanoformung,Abformung)法を応用した電鋳部品の製造方法について説明する。LIGA法は、X線リソグラフィと電鋳とモールディングを組み合わせて目的の部品(構造物)を製造する方法であって、アスペクト比(加工幅に対する深さ(高さ)の比)の大きな部品を製造することができる。
【0027】
LIGA法を用いて電鋳部品を製造する際は、厚さ100μm以上のレジスト(感光性有機材料)を、マスク(X線マスク)を介してX線によって露光することで、当該マスクのパターンをレジストに転写する。これにより、100μm以上の深さ(高さ)であって、横方向(基板の面に沿った方向)に任意の形状の部品を製造することができる。X線は、たとえば、直進性の良好なシンクロトロン放射(SR)光装置から発生するX線を用いることが好ましい。
【0028】
実施の形態1の電鋳部品の製造方法は、たとえば、当該電鋳部品を組み立てることによって構成される製品において互いに嵌合したり係合したりする電鋳部品(第1の電鋳部品および第2の電鋳部品)の製造に用いることができる。このような電鋳部品は、具体的には、たとえば、軸と軸受け、あるいは、輪列を構成する歯車などによって実現することができる。互いに嵌合する電鋳部品(第1の電鋳部品および第2の電鋳部品)は、相対的に回転あるいは摺動するように嵌合するものであってもよい。
【0029】
より具体的には、実施の形態1の電鋳部品の製造方法によれば、互いに嵌合する電鋳部品のうち、軸が嵌め込まれる軸受けを第1の電鋳部品とし、軸受けに嵌め込まれる軸を嵌め込む第2の電鋳部品とすることができる。また、より具体的には、実施の形態1の電鋳部品の製造方法によれば、互いに係合する第1の電鋳部品および第2の電鋳部品のそれぞれを、輪列を構成する各歯車によって実現することができる。
【0030】
(電鋳部品の製造手順)
まず、この発明にかかる実施の形態1の電鋳部品の製造方法について説明する。
図1〜
図4および
図6〜
図13は、この発明にかかる実施の形態1の電鋳部品の製造方法による、電鋳部品の製造手順を示す説明図である。
図5は、電鋳槽内の配置状態を示す説明図である。
図1〜
図4および
図6〜
図13においては、実施の形態1の電鋳部品の製造方法による電鋳部品の各製造工程における、電鋳部品の断面を模式的に示している。
図5においては、実施の形態1の電鋳部品の製造方法による一工程における、電鋳槽内の配置状態を模式的に示している。
【0031】
実施の形態1の電鋳部品の製造方法による電鋳部品の製造に際しては、まず、
図1に示すように、基板1を用意する。基板1は、たとえば、良好な絶縁性を有する絶縁材料(絶縁材)を用いて形成することができる。具体的には、基板1は、たとえば、ガラスやプラスチックなどの絶縁材料を用いて形成することができる。
【0032】
あるいは、基板1は、たとえば、半導電性を有する半導体材料(半導電材)を用いて形成されたものであってもよい。この場合、具体的には、基板1は、たとえば、シリコン(Si)などの半導体材料を用いて形成することができる。実施の形態1においては、シリコンを用いて形成されたシリコン基板を基板1として用いる。以下、シリコン基板に符号1を付して説明する。
【0033】
つぎに、
図2に示すように、シリコン基板1のおもて面側に導電層2を形成する。導電層2は、良好な導電性を有する材料を用いて形成することができる。具体的には、導電層2は、たとえば、銅(Cu)や金(Au)などの金属材料を、スパッタなどの方法によってシリコン基板1のおもて面に均一な厚さで塗布することによって形成することができる。より具体的には、導電層2(シードメタル)は、シリコン基板1のおもて面側に、銅(Cu)や金(Au)などの金属材料を1μm〜2μm程度の厚さに設けることによって形成する。導電層2は、シードメタルとも称される。
【0034】
つぎに、
図3に示すように、導電層2のおもて面側に第1のフォトレジスト層3を形成し、当該第1のフォトレジスト層3をパターニングすることによって、当該第1のフォトレジスト層3に開口(第1の貫通孔)3aを形成する。開口3aは、たとえば、第1のフォトレジスト層3を厚さ方向に貫通するように形成する。開口3aは、電鋳部品として、たとえば、軸と軸受けを製造する場合に、軸受けとなる部品に設けられ、軸を受けるために当該軸の挿入(嵌合)が可能な大きさ(内径および深さ)に形成する。開口3aが形成された第1のフォトレジスト層3および導電層2により、第1の電鋳型7が実現される。
【0035】
第1の電鋳型7の形成に際しては、具体的には、まず、導電層2のおもて面側に、製造しようとする第1の電鋳部品の厚さより厚い厚さで、ポジ型のフォトレジストを塗布して、第1のフォトレジスト層3を形成する。第1のフォトレジスト層3は、たとえば、数100μm〜500μm程度の均一な厚さに塗布する。
【0036】
つぎに、第1のフォトレジスト層3のおもて面側に、開口3aに対応する部分以外の部分を遮光するフォトマスクをセットする。そして、フォトマスクをセットした状態で、紫外線やX線などを照射して露光する。その後、第1のフォトレジスト層3(シリコン基板1)をアルカリ溶液などを用いて現像して、露光により感光した部分を除去する。このようなパターニングによって、開口3aを形成することができ、第1の電鋳型7を作成することができる。
【0037】
第1の電鋳型7は、ポジ型のフォトレジストを用いて作成するものに限らない。第1の電鋳型7は、ネガ型のフォトレジストを用いて作成してもよい。ネガ型のフォトレジストを用いて第1の電鋳型7を作成する場合、開口3aに対応する部分だけを遮光するフォトマスクを使用する。
【0038】
つぎに、
図4に示すように、第1の電鋳型7を実現する導電層2を一方の電極とする電鋳をおこない、第1のフォトレジスト層3における開口3a内の導電層2のおもて面側に、第1の電鋳部材4を堆積させる。第1の電鋳部材4を堆積させる電鋳に際しては、
図5に示す電鋳槽15内に電解液16を充填し、この電解液16の浴中に、
図3に示した第1の電鋳型7を浸漬させる。第1の電鋳型7は、電解液16の浴中において、第1のフォトレジスト層3側を対向電極17と対向させた状態で浸漬させる。
【0039】
対向電極17は、第1の電鋳部材4と同じ金属材料を用いて形成されている。具体的には、対向電極17は、たとえば、ニッケル(Ni)を用いることができる。電解液16は、電鋳する金属に応じた電解液を用いる。具体的には、第1の電鋳部材4としてニッケルを電鋳する場合は、ニッケル電解液を用いる。より具体的には、第1の電鋳部材4としてニッケルを電鋳する場合の電解液16は、たとえば、スルファミン酸ニッケル水和塩を含む水溶液を用いる。第1の電鋳部材4を堆積させる電鋳に用いる電鋳材料としては、ニッケルに限らず、銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)、鉄(Fe)、これらの金属を含む合金など、電鋳に用いることが可能な全ての材料を使用できる。
【0040】
第1の電鋳部材4を堆積させる電鋳に際しては、つぎに、電解液16の浴中に浸漬させた状態の第1の電鋳型7の導電層2と対向電極17との間に、電源18によって直流電圧を印加する。直流電圧は、対向電極17が正電極(陽極)となり、導電層2が負電極(陰極)となるようにして印加する。直流電圧を印加することにより、電解液16中において対向電極17から電気分解された金属イオンが、
図5に矢印Fで示す方向に泳動して、第1の電鋳型7の第1のフォトレジスト層3の開口3a内の導電層2のおもて面側に電着する。
【0041】
対向電極17から電気分解された金属イオンの電着は、直流電圧を印加している間、継続する。これにより、対向電極17から電気分解された金属イオンが、第1の電鋳部材4として堆積していく。電鋳は、第1の電鋳部材4が、第1のフォトレジスト層3の表面から幾分突出して盛り上がる程度の厚さに形成されるまでおこなう。
【0042】
つぎに、
図6に示すように、第1の電鋳部材4および第1のフォトレジスト層3のおもて面側を平坦化することにより第1の電鋳部品4A,4Bを形成する。具体的には、たとえば、第1の電鋳部材4のおもて面側の一部を、第1のフォトレジスト層3とともに研削して平坦化して、第1の電鋳部品4A,4Bを形成する。第1の電鋳部材4のおもて面側の一部および第1のフォトレジスト層3のおもて面側を平坦化する際の研削には、研削盤(砥石)を用いる「研削」、および、砥石を用いる研削よりも表面性状(表面粗さ)をなめらかにする「研磨」を含む。第1の電鋳部材4および第1のフォトレジスト層3の平坦化は、第1の電鋳部材4および第1のフォトレジスト層3が、所定の厚さになるまでおこなう。
【0043】
つぎに、
図7に示すように、導電層2から、第1のフォトレジスト層3を除去する。第1のフォトレジスト層3は、たとえば、第1の電鋳部材4および第1のフォトレジスト層3を平坦化したシリコン基板1を、剥離液に浸漬させることにより除去することができる。剥離液は、第1のフォトレジスト層3を溶解し、導電層2、第1の電鋳部材4、シリコン基板1を溶解しない薬液であって、公知の各種の薬液を用いることができる。
【0044】
つぎに、第1の電鋳部品4A,4Bの表面であって、外部に露出した表面に、第1の電鋳部品からの第2の電鋳部品の離脱を容易にするための離脱用の膜を形成する。この離脱用の膜は、樹脂を用いて形成した膜(樹脂膜)や、炭素または水素を含む有機化合物などを用いて形成した膜、窒素を用いて形成した膜(窒化膜)などによって実現することができる。これらの離脱用の膜の形成は公知の技術を用いておこなうことができる。
【0045】
あるいは、離脱用の膜は、酸化膜によって実現することができる。離脱用の膜を実現する酸化膜は、たとえば、
図7に示すように第1のフォトレジスト層3を除去したシリコン基板1を、所定の酸化雰囲気とした酸化炉に投入して、所定の時間酸化させることによって形成することができる。あるいは、離脱用の膜を実現する酸化膜は、たとえば、
図7に示すように第1のフォトレジスト層3を除去したシリコン基板1を、一定時間大気中に暴露して表面を酸化させることによって形成した表面酸化膜によって実現してもよい。第2の電鋳部品の離脱を容易にする離脱用の膜は、極めて薄いため、図示を省略する。
【0046】
つぎに、
図8に示すように、導電層2のおもて面側に、第2のフォトレジスト層5を形成し、当該第2のフォトレジスト層5をパターニングすることによって、当該第2のフォトレジスト層5に開口(第2の貫通孔)5aを形成する。開口5aは、第2のフォトレジスト層5を厚さ方向に貫通するように形成する。また、開口5aは、シリコン基板1を、当該シリコン基板1の板厚方向に沿って見た場合に、第1の電鋳部品4A,4Bと一部重複するように形成する。
【0047】
これにより、開口5a内には、第1の電鋳部品4A,4Bのうち、第2のフォトレジスト層5と重複しない(重ならない)部分が一部突出している。開口5aが形成された第2のフォトレジスト層5、開口5a内に突出する第1の電鋳部品4A,4B、および導電層2により、第2の電鋳型8が実現される。
【0048】
第2の電鋳型8の形成に際しては、具体的には、まず、導電層2のおもて面側に、製造しようとする第2の電鋳部品の厚さより厚い厚さで、ポジ型のフォトレジストを塗布して、第2のフォトレジスト層5を形成する。第2のフォトレジスト層5は、第1の電鋳部品4A,4Bをおもて面側から覆うように形成する。
【0049】
つぎに、第2のフォトレジスト層5のおもて面側に、開口5aに対応する部分以外の部分を遮光するフォトマスクをセットする。そして、フォトマスクをセットした状態で、紫外線やX線などを照射して露光する。その後、第2のフォトレジスト層5(シリコン基板1)をアルカリ溶液などを用いて現像して、露光により感光した部分を除去する。このようなパターニングによって、開口5aを形成することができ、第2の電鋳型8を作成することができる。
【0050】
第2の電鋳型8は、上述した第1の電鋳型7と同様にして形成することができ、ポジ型のフォトレジストを用いて形成するものに限らない。第2の電鋳型8は、ネガ型のフォトレジストを用いて作成してもよい。ネガ型のフォトレジストを用いて第2の電鋳型8を形成する場合、開口5aに対応する部分だけを遮光するフォトマスクを使用する。
【0051】
上述した離脱用の膜は、第1の電鋳部品4A,4Bが第2の電鋳部品と接触する表面に形成されていればよい。たとえば、
図7に示すように第1のフォトレジスト層3を除去することで露出している第1の電鋳部品4A,4Bの外表面全体に離脱用の膜を設けることに代えて、
図8に示すように、第2のフォトレジスト層5に開口5aを形成した状態において、開口5a内に露出する第1の電鋳部品4A,4Bの表面に、離脱用の膜を形成してもよい。
【0052】
つぎに、
図9に示すように、第2の電鋳型8を実現する導電層2を一方の電極とする電鋳をおこない、第2のフォトレジスト層5における開口5a内の導電層2のおもて面側および第1の電鋳部品4A,4Bのおもて面側に、第2の電鋳部材6を堆積させる。第2の電鋳部材6を堆積させる電鋳に際しては、上述した
図5に示した電鋳槽15内に電解液16を充填し、この電解液16の浴中に、
図9に示した第2の電鋳型8を浸漬させる。
【0053】
第2の電鋳型8は、電解液16の浴中において、第2のフォトレジスト層5側を対向電極17と対向させた状態で浸漬させる。電解液16は、第1の電鋳部材4を堆積させる電鋳と同様に、電鋳する金属すなわち第2の電鋳部材6を形成する材料に応じた電解液を用いる。第2の電鋳部材6は、第1の電鋳部材4と同じ金属によって実現してもよく、第1の電鋳部材4と異なる金属によって実現してもよい。
【0054】
第2の電鋳部材6を堆積させる電鋳に際しては、つぎに、電解液16の浴中に浸漬させた状態の第2の電鋳型8の導電層2と対向電極17との間に、第1の電鋳部材4を堆積させる電鋳と同様にして、電源18によって直流電圧を印加する。この場合、対向電極17が正電極(陽極)となり、導電層2が負電極(陰極)となる。直流電圧を印加することにより、電解液16中において対向電極17から電気分解された金属イオンが、
図5に矢印Fで示す方向に泳動して、第2の電鋳型8の第2のフォトレジスト層5の開口5a内の導電層2のおもて面側に電着する。第2の電鋳部材6を堆積させる電鋳は、第2の電鋳部材6が、第2のフォトレジスト層5の表面から幾分突出して盛り上がる程度の厚さに形成されるまでおこなう。
【0055】
第2の電鋳部材6は、第1の電鋳部品4A,4Bとの間に、上述した第2の電鋳部品の離脱を容易にするための離脱用の膜が介在した状態で堆積させる。すなわち、第1の電鋳部品4A,4Bと第2の電鋳部材6とにおいて、互いに対向する面の間には、上述した第2の電鋳部品の離脱を容易にするための離脱用の膜が介在している。
【0056】
つぎに、
図10に示すように、第2の電鋳部材6および第2のフォトレジスト層5のおもて面側を平坦化することにより第2の電鋳部品6A,6Bを形成する。具体的には、たとえば、第2の電鋳部材6のおもて面側の一部を、第2のフォトレジスト層5とともに研削して平坦化して、第2の電鋳部品6A,6Bを形成する。平坦化は、第2の電鋳部材6および第2のフォトレジスト層5が、所定の厚さになるまでおこなう。第2の電鋳部材6のおもて面側の一部および第2のフォトレジスト層5のおもて面側を平坦化する際の研削には、研削盤(砥石)を用いる「研削」、および、砥石を用いる研削よりも表面性状(表面粗さ)をなめらかにする「研磨」を含む。第2の電鋳部材6および第2のフォトレジスト層5の平坦化は、第2の電鋳部材6および第2のフォトレジスト層5が、所定の厚さになるまでおこなう。
【0057】
つぎに、
図11に示すように、シリコン基板1および導電層2を除去する。シリコン基板1および導電層2は、たとえば、シリコン基板1の裏面側から、シリコン基板1および導電層2を研削することによって除去することができる。シリコン基板1および導電層2を除去する際の研削には、研削盤(砥石)を用いる「研削」、および、砥石を用いる研削よりも表面性状(表面粗さ)をなめらかにする「研磨」を含む。これにより、シリコン基板1および導電層2が除去されて、第1の電鋳部品4A,4Bおよび第2の電鋳部品6A,6Bと、第2のフォトレジスト層5と、によって構成される構造物が残る。
【0058】
シリコン基板1および導電層2の除去に際しては、
図10に示したように平坦化した第2のフォトレジスト層5および第2の電鋳部品6A,6Bのおもて面側に、必要に応じて、補強支持板または保護シールなどを貼り付けることによって、第2のフォトレジスト層5および第2の電鋳部品6A,6Bを支持(補強)してもよい。これにより、研削および研磨によるシリコン基板1および導電層2の除去に際して、第1の電鋳部品4A,4Bなどの構造物の一部が脱落することを防止し、シリコン基板1および導電層2の除去を容易におこなうことができる。
【0059】
つぎに、
図12に示すように、第2のフォトレジスト層5を除去する。第2のフォトレジスト層5の除去は、たとえば、
図11に示した構造物を剥離液に浸漬して、第2のフォトレジスト層5を溶解することによっておこなう。これにより、第1の電鋳部品4A,4Bと第2の電鋳部品6A,6Bが密着した状態で残る。
【0060】
その後、
図13に示すように、第1の電鋳部品4A,4Bと、第2の電鋳部品6A,6Bとを個別に取り出す。上述したように、第1の電鋳部品4A,4Bと第2の電鋳部品6A,6Bの接触面間には、第2の電鋳部品の離脱を容易にするための離脱用の膜が介在しているので、第2のフォトレジスト層5を除去する際に若干の力を加えるだけで、第1の電鋳部品4A,4Bと第2の電鋳部品6A,6Bとを、損傷することなく離脱させることができ、第1の電鋳部品4A,4Bと第2の電鋳部品6A,6Bとを個別に取り出すことができる。
【0061】
このようにして、第1の電鋳部品4A,4Bと重なった部分が段部になった段付きの第2の電鋳部品6A,6Bと、平板状の第1の2電鋳部品4A,4Bを、一連の製造工程で一度に効率よく且つ精度よく製造することができる。また、第1の電鋳部品4A,4Bと第2の電鋳部品6A,6Bとが、
図12に示すように互いに密接または当接した状態で相対的に移動する面を有する場合には、相対的に移動する面を精度よく形成することができる。第1の電鋳部品4A,4Bと第2の電鋳部品6A,6Bの材料は、それぞれの用途に応じた最適な金属を選択することができる。
【0062】
実施の形態1における電鋳部品の製造に際しては、基板としてシリコン基板1を使用する例について説明した。シリコン基板1に対しては、D−RIE(深掘りRIE)技術によるエッチング加工をおこなうことができる。このため、実施の形態1における電鋳部品の製造に際して、基板としてシリコン基板1を使用することにより、電鋳型(第1の電鋳型7、第2の電鋳型8)の形状を容易に加工することができる。
【0063】
これにより、電鋳型(第1の電鋳型7、第2の電鋳型8)の形状の自由度を高め、複雑な形状の電鋳型(第1の電鋳型7、第2の電鋳型8)を形成することができる。たとえば、
図2に示したように導電層2を形成する前の
図1に示した状態のシリコン基板1に対して、第1の電鋳部品4A,4Bの下部(第1の電鋳部品4A,4Bにおける導電層2側)の形状に応じたエッチング加工をおこなうことにより、第1の電鋳部品4A,4Bの下部を複雑な形状に形成することができる。
【0064】
上述した
図6〜
図13に示した第1の電鋳部品4A,4Bは、それぞれ独立した部品であってもよく、一体の部品であってもよい。上述した
図10〜
図13に示した第2の電鋳部品6A,6Bは、それぞれ独立した部品であってもよく、一体の部品であってもよい。また、第1の電鋳部品4A,4Bがそれぞれ独立した部品であって、第2の電鋳部品6A,6Bが一体の部品であってもよい。あるいは、第1の電鋳部品4A,4Bが一体の部品であって、第2の電鋳部品6A,6Bがそれぞれ独立した部品であってもよい。
【0065】
(第1の電鋳部品および第2の電鋳部品の一例)
つぎに、上述した実施の形態1の電鋳部品の製造方法によって製造する、第1の電鋳部品および第2の電鋳部品の一例について説明する。
図14および
図15は、この発明にかかる実施の形態1の電鋳部品の製造方法による、電鋳部品の製造手順の一部を示す説明図である。
【0066】
図14および
図15においては、第1の電鋳部品4A,4Bが一体の部品であって、かつ、第2の電鋳部品6A,6Bが一体の部品である場合における、電鋳部品の製造手順の一部を示している。
図14においては、上述した
図12に示す工程に相当する工程を示している。
図15においては、上述した
図13に示す工程に相当する工程を示している。
【0067】
第1の電鋳部品4A,4Bが一体の部品であって、かつ、第2の電鋳部品6A,6Bが一体の部品である場合、第2のフォトレジスト層5を除去した状態においては、
図14および
図15に示すように、第1の電鋳部品4A,4Bは単一の第1の電鋳部品40を構成する。また、この状態においては、
図14および
図15に示すように、第2の電鋳部品6A,6Bは単一の第2の電鋳部品60を構成する。
【0068】
第2の電鋳部品60は、たとえば、略円筒形状をなす部材によって実現することができる。第2の電鋳部品60は、
図14および
図15に示すように、円筒部60aを備えている。円筒部60aにおいて、おもて面側の端部には、フランジ部60bが設けられている。
【0069】
第2の電鋳部品60において、円筒部60aの内周には、円筒部60aを軸心方向に貫通する中心孔60cが形成されている。中心孔60cの内径は、円筒部60aおよびフランジ部60bにおいて同じ寸法とされている。すなわち、フランジ部60bの内径は円筒部60aの内径と等しく、フランジ部60bの外径は円筒部60aの外径よりも大きい。このような第2の電鋳部品60は、具体的には、たとえば、円筒部60aとフランジ部60bとの境界に段を備えた、軸受けなどの段付き部品によって実現することができる。
【0070】
第1の電鋳部品40は、たとえば、
図15に示すように、中心部に円形の開口部40aを備えた、環状で平板状をなす部材によって実現することができる。第1の電鋳部品40は、より具体的には、たとえば、リングや歯車などによって実現することができる。第1の電鋳部品40において、開口部40aの内径は、円筒部60aの外径と同一に(あるいは若干大きく)形成されている。
【0071】
これにより、第2の電鋳部品60の円筒部60aを開口部40aに嵌合させることによって、第1の電鋳部品40の内周面と第2の電鋳部品60の外周面とを互いに密接(または当接)させた状態で、第1の電鋳部品40と第2の電鋳部品60とを相対的に移動させることができる。
【0072】
第1の電鋳部品40および第2の電鋳部品60は、軸部で互いに嵌合する大歯車と小歯車(カナ)であってもよい。第1の電鋳部品40と第2の電鋳部品60が相対回転可能に嵌合する部品であってもよい。第1の電鋳部品40と第2の電鋳部品60とは、互いに密接または当接して相対的に移動する面を有する部品であればよく、環状や円筒状あるいは円柱状の部品に限るものではない。
【0073】
以上説明したように、実施の形態1の電鋳部品の製造方法によれば、第1の電鋳部品40および第2の電鋳部品60のように、互いに嵌合することにより密接する部分を有する2種類の電鋳部品を、一連の製造工程において高精度に製造することができる。すなわち、第2の電鋳部品60は、第1の電鋳部品40における開口部40aを型として形成されるため、形成された第1の電鋳部品40と第2の電鋳部品60とをズレやガタを生じさせることなく精度よく嵌合させることができる。
【0074】
また、実施の形態1の電鋳部品の製造方法によれば、互いに嵌合する部品のうちの少なくとも一方が、第2の電鋳部品60における円筒部60aとフランジ部60bとの境界部分のような段差部を備えた部品(段付き部品)である場合にも、これらの2種類の電鋳部品を、一連の製造工程において高精度に製造することができる。そして、これにより、少なくとも一方が段付き部品であって、互いに嵌合する複数種類の部品を製造する場合にも、嵌合させた状態における部品間のズレやガタを生じさせることなく精度よく嵌合させることができる。
【0075】
これにより、互いに嵌合する部品どうしが密接あるいは当接した状態で相対的に移動(摺動)する場合にも、部品間のズレやガタを生じさせることなく精度よく相対的に移動(摺動)させることができる。そして、これによって、これらの部品どうしを相対的に移動させることによる部品どうしの衝突による衝撃や部品間の摩擦による疲労などに起因する部品の損傷を防止することができ、各部品の耐久性の向上を図ることができる。
【0076】
<実施の形態2>
つぎに、この発明にかかる実施の形態2の電鋳部品の製造方法について説明する。実施の形態2においては、上述した実施の形態1と同一部分は同一符号で示し、説明を省略する。
図16〜
図22は、この発明にかかる実施の形態2の電鋳部品の製造方法による、電鋳部品の製造手順の一部を示す説明図である。実施の形態2の電鋳部品の製造方法による電鋳部品の製造手順は、上述した
図1〜
図4および
図6に示した各工程と同じ工程をおこない、以降、
図16〜
図22に示す各工程をおこなう。
【0077】
(電鋳部品の製造手順)
実施の形態2の電鋳部品の製造方法による電鋳部品の製造に際しては、まず、上述した
図1〜
図4および
図6に示した各工程と同様にして、第1の電鋳部材4および第1のフォトレジスト層3のおもて面側を平坦化することにより第1の電鋳部品4A,4Bを形成する。つぎに、
図16に示すように、第1の電鋳部品4A,4Bの角部の面取り(R付け)をおこなう。この面取りは、第1の電鋳部品4A,4Bにおける少なくとも開口5a内に位置する部分の角部に対しておこなう。
【0078】
具体的に、面取りは、たとえば、第1の電鋳部品4A,4Bに対して電解研磨をおこなうことによって実現することができる。電解研磨に際しては、まず、上述した
図6に示したように、第1の電鋳部材4および第1のフォトレジスト層3を平坦化したシリコン基板1(上述した
図6を参照)を、
図5に示した電鋳槽15内に充填した電解液16中に浸漬させる。このとき、シリコン基板1は、電解液16の浴中において、第1の電鋳部品4A,4B側(シリコン基板1のおもて面側)を対向電極17と対向させた状態で浸漬させる。
【0079】
そして、電解液16の浴中に浸漬させた状態のシリコン基板1の導電層2と対向電極17との間に、電源18によって直流電圧を印加する。直流電圧は、対向電極17が負電極(陰極)となり、導電層2および第1の電鋳部品4A,4Bが正電極(陽極)となるようにして印加する。すなわち、直流電圧は、上述した電鋳をおこなう場合とは逆極性の電圧を印加しておこなうことができる。
【0080】
直流電圧は、導電層2および第1の電鋳部品4A,4Bを陽極にし、対向電極17を陰極にした状態で印加する。このように直流電圧を印加することにより、電解液16中においては、上述した電鋳をおこなう場合とは逆方向に電流が流れ、第1の電鋳部品4A,4Bが電気分解される。第1の電鋳部品4A,4Bの電気分解によって生じた金属イオンは、
図5に矢印Fで示す方向とは逆方向に泳動する。
【0081】
第1の電鋳部品4A,4Bの電気分解に際しては、角部が優先的に溶解する。これにより、第1の電鋳部品4A,4Bの角部の面取りがおこなわれ、第1の電鋳部品4A,4Bに、面取り部4aが形成される。電解研磨(直流電圧の印加)は、第1の電鋳部品4A,4Bや第2の電鋳部品6A,6Bの形状や、第1の電鋳部品4A,4Bの大きさなどに応じた所定時間おこなう。
【0082】
電解研磨をおこなう所定時間が長いほど、短い場合よりも角部が多く電気分解(溶解)され、大きく面取りされ、緩やかなR形状をなす。実施の形態2の電鋳部品の製造方法による電鋳部品の製造においては、電解研磨をおこなう所定時間は、電解研磨をおこなった後の第1の電鋳部品4A,4Bが、角部のみが面取りされ、電解研磨をおこなう前の第1の電鋳部品4A,4Bの形状とほぼ同等の形状となるように、短時間おこなう。
【0083】
面取り部4aは、電解研磨によって形成するものに限らない。面取り部4aは、電解研磨に代えて、ウエットエッチングによって形成してもよい。この場合のウエットエッチングは、第1の電鋳部材4および第1のフォトレジスト層3を平坦化したシリコン基板1を、第1の電鋳部品4A,4B(第1の電鋳部材4)を溶解させるエッチング液に所定時間浸漬させることによっておこなう。
【0084】
ウエットエッチングをおこなう場合も、電解研磨と同様に、第1の電鋳部品4A,4Bの角部が優先的に溶解する。これにより、第1の電鋳部品4A,4Bの角部の面取りがおこなわれ、第1の電鋳部品4A,4Bに、面取り部4aが形成される。ウエットエッチングは、第1の電鋳部品4A,4Bや第2の電鋳部品6A,6Bの形状や、第1の電鋳部品4A,4Bの大きさなどに応じた所定時間おこなう。
【0085】
ウエットエッチングをおこなう所定時間が長いほど、短い場合よりも角部が多くエッチング(溶解)され、大きく面取りされ、緩やかなR形状をなす。実施の形態2の電鋳部品の製造方法による電鋳部品の製造において、ウエットエッチングにより面取りをおこなう場合は、ウエットエッチングをおこなう所定時間は、ウエットエッチングをおこなった後の第1の電鋳部品4A,4Bが、角部のみが面取りされ、ウエットエッチングをおこなう前の第1の電鋳部品4A,4Bの形状とほぼ同等の形状となるように、短時間おこなう。
【0086】
つぎに、第1の電鋳部品4A,4Bの角部の面取りをおこなった後、第1の電鋳部品4A,4Bの表面であって、外部に露出した表面に離脱用の膜を形成する。そして、
図17に示すように、導電層2のおもて面側に、第2のフォトレジスト層5を形成し、当該第2のフォトレジスト層5をパターニングすることによって、当該第2のフォトレジスト層5に開口(第2の貫通孔)5aを形成する。開口5aは、上述した実施の形態1と同様に、第2のフォトレジスト層5を厚さ方向に貫通するように形成する。また、開口5aは、上述した実施の形態1と同様に、シリコン基板1を、当該シリコン基板1の板厚方向に沿って見た場合に、第1の電鋳部品4A,4Bと一部重複するように形成する。
【0087】
これにより、開口5a内には、第1の電鋳部品4A,4Bのうち、第2のフォトレジスト層5と重複しない(重ならない)部分が一部突出する。開口5a内には、第1の電鋳部品4A,4Bにおける、面取り部4aが突出している。この状態で、
図18に示すように、第2の電鋳部材6が、第2のフォトレジスト層5の表面から幾分突出して盛り上がる程度の厚さに形成されるまで、上述した実施の形態1と同様に、導電層2を一方の電極とする電鋳をおこなう。
【0088】
第2の電鋳部材6は、第1の電鋳部品4A,4Bにおける面取り部4aに対向する部分において、面取り部4aを覆うように湾曲したR形状をなす。第1の電鋳部品4A,4Bの角部に面取り部4aが形成されているため、その上に重なって電鋳されて形成される第2の電鋳部材6の内側の角部は、面取り部4aが転写されて対応する凹曲面(あるいは斜面状)になる。
【0089】
上述した離脱用の膜は、たとえば、
図16に示すように第1のフォトレジスト層3を除去することで露出している第1の電鋳部品4A,4Bの外表面全体に離脱用の膜を設けることに代えて、
図17に示すように、第2のフォトレジスト層5に開口5aを形成した状態において、開口5a内に露出する第1の電鋳部品4A,4Bの表面に、離脱用の膜を形成してもよい。
【0090】
以降、上述した実施の形態1における
図10〜
図13に示した工程と同様の工程をおこなう。すなわち、
図19に示すように、第2の電鋳部材6および第2のフォトレジスト層5の平坦化をおこない、つぎに、
図20に示すように、シリコン基板1および導電層2の除去をおこなう。つぎに、
図21に示すように、第2のフォトレジスト層5を除去した後、
図22に示すように、第1の電鋳部品4A,4Bと、第2の電鋳部品6A,6Bとを個別に取り出す。
【0091】
上述したように、第1の電鋳部品4A,4Bの角部には面取り部4aが形成されている。このため、
図22に示すように、第2の電鋳部品6A,6Bにおいて当該面取り部4aに対向する角部6bも、第1の電鋳部品4A,4Bの面取り部4aと対応する凹曲面(あるいは斜面状)になる。
【0092】
これにより、第1の電鋳部品4A,4Bにおける面取り部4a、および、第2の電鋳部品6A,6Bの角部6bにおける応力を分散させることができる。そして、これにより、第1の電鋳部品4A,4Bおよび第2の電鋳部品6A,6Bの強度を高め、耐久性を向上させることができる。
【0093】
以上説明したように、実施の形態2の電鋳部品の製造方法によれば、第1の電鋳部品4A,4Bのうち、少なくとも開口5a内に位置する第2の電鋳部品6A,6Bと重なる部分の角部の面取りをおこなう。これにより、第1の電鋳部品4A,4B(第1の電鋳部品40)および第2の電鋳部品6A,6B(第2の電鋳部品60)が互いに接触する部分におけるエッジをなくすことができる。
【0094】
これによって、互いに嵌合する部品のうちの少なくとも一方が、第2の電鋳部品60における円筒部60aとフランジ部60bとの境界部分のような段差部を備えた段付き部品である場合にも、接触することによる応力が局所的に集中することをなくし、当該応力を分散させることができる。そして、これにより、上述した実施の形態1の電鋳部品の製造方法による作用効果に加えて、第1の電鋳部品4A,4Bおよび第2の電鋳部品6A,6Bの強度を高め、耐久性を向上させることができる。
【0095】
また、実施の形態2の電鋳部品の製造方法によれば、電鋳部品の角部に面取り(R付け)をおこなうことができる。これにより、電鋳部品の審美性を高め、美観の向上を図ることができる。特に、実施の形態2の電鋳部品の製造方法により製造した電鋳部品を、ムーブメントを視認できるようにした時計の部品として用いることにより、当該時計の審美性を高め、美観の向上を図ることができる。
【0096】
実施の形態2の電鋳部品の製造方法による電鋳部品の製造に際しても、
図14および
図15に示した第1の電鋳部品40および第2の電鋳部品60のように、環状で平板状の部品と、それと重なる部分が段部となった段付きの円筒または円柱状の部品とを、一連の製造工程において製造することができる。この場合、第1の電鋳部品40と第2の電鋳部品60とが嵌合等によって密接して相対回転(移動)する面を有する場合も、その密接する部分の角部4aが面取りされてエッジがないので、接触することによる応力が局所的に集中することをなくし、各電鋳部品の強度を高め、耐久性を向上させることができる。
【0097】
<実施の形態3>
つぎに、この発明にかかる実施の形態3の電鋳部品の製造方法について説明する。実施の形態3においては、上述した実施の形態1や実施の形態2と同一部分は同一符号で示し、説明を省略する。
図23〜
図33は、この発明にかかる実施の形態3の電鋳部品の製造方法による、電鋳部品の製造手順を示す説明図である。
【0098】
(電鋳部品の製造手順)
実施の形態3の電鋳部品の製造方法による電鋳部品の製造に際しては、まず、
図23に示すように、基板10を用意する。基板10は、たとえば、良好な導電性を有する導電材料(導電材)を用いて形成することができる。具体的には、基板10は、たとえば、銅、黄銅、ステンレス鋼等の金属(合金を含む)などの導電材料を用いて形成することができる。
【0099】
実施の形態3の電鋳部品の製造方法においては、導電材料を用いて形成された基板10を用いることにより、上述した実施の形態1や実施の形態2における基板(シリコン基板)1の表面に導電層2を形成する工程(
図2を参照)が不要になる。実施の形態3においては、導電材料を用いて形成された金属基板を基板10として用いる。以下、金属基板に符号10を付して説明する。
【0100】
つぎに、上述した実施の形態1における
図3、
図4および
図6〜
図13に示した工程と同様の工程をおこなう。すなわち、まず、金属基板10のおもて面側に第1のフォトレジスト層3を形成し、当該第1のフォトレジスト層3をパターニングすることによって、
図24に示すように、第1のフォトレジスト層3に開口(第1の貫通孔)3aを形成する。金属基板10のおもて面側に形成され、開口3aが形成された第1のフォトレジスト層3および金属基板10により、第1の電鋳型7’が実現される。
【0101】
つぎに、
図25に示すように、第1の電鋳型7’を実現する金属基板10を一方の電極として、上述した実施の形態1と同様に電鋳をおこない、金属基板10のおもて面側であって、第1のフォトレジスト層3における開口3a内に、第1の電鋳部材4を堆積させる。つぎに、上述した実施の形態1と同様にして、
図26に示すように、第1の電鋳部材4および第1のフォトレジスト層3のおもて面側を平坦化することにより第1の電鋳部品4A,4Bを形成する。
【0102】
つぎに、
図27に示すように、金属基板10から、第1のフォトレジスト層3を除去する。第1のフォトレジスト層3は、たとえば、上述した実施の形態1と同様にして、第1の電鋳部材4および第1のフォトレジスト層3を平坦化した金属基板10を、剥離液に浸漬させることにより除去することができる。そして、第1の電鋳部品4A,4Bの表面であって、外部に露出した表面に、離脱用の膜を形成する。
【0103】
つぎに、金属基板10のおもて面側に、第2のフォトレジスト層5を形成し、当該第2のフォトレジスト層5をパターニングすることによって、
図28に示すように、第2のフォトレジスト層5に開口(第2の貫通孔)5aを形成する。金属基板10のおもて面側に形成され、開口5aが形成された第2のフォトレジスト層5および金属基板10により、第2の電鋳型8’が実現される。
【0104】
つぎに、
図29に示すように、第2の電鋳型8’を実現する金属基板10を一方の電極として、上述した実施の形態1と同様に電鋳をおこない、第2のフォトレジスト層5における開口5a内の導電層2のおもて面側および第1の電鋳部品4A,4Bのおもて面側に、第2の電鋳部材6を堆積させる。そして、
図30に示すように、第2の電鋳部材6のおもて面側の一部を、第2のフォトレジスト層5とともに研削して平坦化して、第2の電鋳部品6A,6Bを形成する。
【0105】
つぎに、
図31に示すように、金属基板10の除去をおこなった後、
図32に示すように、第2のフォトレジスト層5を除去する。金属基板10は、たとえば、金属基板10において、第1の電鋳部品4A,4Bや第2の電鋳部品6A,6Bが形成されている面(おもて面)とは反対側の面(裏面)側から、金属基板10を研削することによって除去することができる。
【0106】
その後、
図33に示すように、第1の電鋳部品4A,4Bと、第2の電鋳部品6A,6Bとを個別に取り出す。第1の電鋳部品4A,4Bと、第2の電鋳部品6A,6Bとの間には、離脱用の膜が形成されているため、第1の電鋳部品4A,4Bおよび第2の電鋳部品6A,6Bを損傷することなく離脱させて取り出すことができる。
【0107】
以上説明したように、実施の形態3の電鋳部品の製造方法によれば、上述した実施の形態1と同様に、第1の電鋳部品40および第2の電鋳部品60のように、互いに嵌合することにより密接する部分を有する2種類の電鋳部品を、一連の製造工程において高精度に製造することができる。すなわち、第2の電鋳部品60は、第1の電鋳部品40における開口部40aを型として形成されるため、形成された第1の電鋳部品40と第2の電鋳部品60とをズレやガタを生じさせることなく精度よく嵌合させることができる。
【0108】
また、実施の形態3の電鋳部品の製造方法によれば、上述した実施の形態1と同様に、互いに嵌合する部品のうちの少なくとも一方が、第2の電鋳部品60における円筒部60aとフランジ部60bとの境界部分のような段差部を備えた段付き部品である場合にも、これらの2種類の電鋳部品を、一連の製造工程において高精度に製造することができる。そして、これにより、少なくとも一方が段付き部品である、互いに嵌合する複数種類の部品を製造する場合にも、嵌合させた状態における部品間のズレやガタを生じさせることなく精度よく嵌合させることができる。
【0109】
これにより、互いに嵌合する部品どうしが密接あるいは当接した状態で相対的に移動(摺動)する場合にも、部品間のズレやガタを生じさせることなく精度よく相対的に移動(摺動)させることができる。そして、これによって、これらの部品どうしを相対的に移動させることによる部品どうしの衝突による衝撃や部品間の摩擦による疲労などに起因する部品の損傷を防止することができ、各部品の耐久性の向上を図ることができる。
【0110】
さらに、実施の形態3の電鋳部品の製造方法によれば、上述した実施の形態1や実施の形態2と比較して、基板(シリコン基板)1のおもて面側に導電層2を形成する工程が不要になるので、電鋳部品の製造工程を少なくし、電鋳部品の製造にかかる時間を短縮することができる。
【0111】
また、さらに、金属基板10はシリコン基板1などの絶縁材または半導電材からなる基板1よりも耐久性が高いため、電鋳部品の製造に際しての取り扱い性を向上させ、製造効率を向上させることができる。すなわち、金属基板10を用いることにより、製造途中で破損することなく、第1の電鋳部品4A,4B(第1の電鋳部品40)および第2の電鋳部品6A,6B(第2の電鋳部品60)を確実に支持することができるので、電鋳部品の製造効率の向上を図るとともに、製造にかかる作業者の負担軽減を図ることができる。
【0112】
実施の形態3の電鋳部品の製造方法による電鋳部品の製造に際しては、上述した実施の形態2と同様に、
図27に示した工程において、第1の電鋳部品4A,4Bの露出した表面に、第2の電鋳部品6A,6Bの離脱を容易にする離脱用の膜を形成する前に、第1の電鋳部品4A,4Bのうち、少なくとも開口5a内に位置する第2の電鋳部品6A,6Bと重なる部分の角部の面取りをおこなってもよい。この場合の面取りは、上述と同様に、電解研磨やウエットエッチングを短時間おこなうことによって実施できる。
【0113】
このように、第1の電鋳部品4A,4Bの角部の面取りをおこなうことにより、第1の電鋳部品4A,4B(第1の電鋳部品40)および第2の電鋳部品6A,6B(第2の電鋳部品60)が互いに接触する部分のエッジをなくすことができる。これにより、第1の電鋳部品4A,4B(第1の電鋳部品40)および第2の電鋳部品6A,6B(第2の電鋳部品60)が互いに接触することによる応力を分散させ、第1の電鋳部品4A,4Bおよび第2の電鋳部品6A,6Bの強度を高め、耐久性を向上させることができる。
【0114】
<具体的部品の製造例>
つぎに、上述した実施の形態1〜3の電鋳部品の製造方法によって製造する第1の電鋳部品4A,4Bおよび第2の電鋳部品6A,6Bの、具体的部品の製造例について説明する。
【0115】
(てん輪と錘の製造例)
まず、機械式時計に組み込まれるてん輪および錘の製造例について説明する。機械式時計においては、てん輪とひげぜんまいを組み合わせて調速機(てんぷとも呼ぶ)が構成され、ひげぜんまいの力によっててん輪が一定周期で往復回動する。てんぷは、てん輪の往復回動によってアンクルを揺動させ、ガンギ車を1歯ずつ送って(つまり、一定速度で回転して)、時を刻んでいる。アンクルとガンギ車は、脱進機とも呼ばれている。
【0116】
機械式時計においては、てん輪の往復運動により機械式時計が報知する時間の進みや遅れ、いわゆる歩度が変わる。このため、てん輪は、所定の往復運動をするために、重量や慣性モーメントが規定されている。一般に、機械式時計が設計通りの歩度になるために、ひげぜんまいに装着されている緩急針と呼ばれる調整機構を用いるか、てん輪の周囲などに錘を設けることで、調整をおこなうことが多い。
【0117】
図34および
図35は、機械式時計におけるてん輪および当該てん輪に装着される錘の一例を示す説明図である。
図34においては、錘および当該錘を装着したてん輪の平面図を示している。
図35は、てん輪および錘の装着部を拡大した分解斜視図を示している。
【0118】
図34に示すように、てん輪20には、等角度間隔で4個の小円板状の錘25が装着される。てん輪20の上面側の各錘装着部には、
図35に拡大して示すように、錘25の外径より若干長く、錘25の厚さと同等の深さの切り欠き部20aが形成されている。各切り欠き部20aの低段面の中央には、支柱(支持軸)20bが一体に形成されている。各錘25には、中心孔25bと外周面に切り欠き部25aが設けられている。各錘25は、中心孔25bを支柱20bに嵌合させて、てん輪20の各切り欠き部20aに装着される。
【0119】
このようなてん輪20および4個の錘25は、上述した実施の形態1や実施の形態3と同様の製造方法を用いることにより、一連の製造工程において一度に製造することができる。実施の形態1と同様の製造方法を用いて、てん輪20および4個の錘25を製造する場合、まず、てん輪20および4個の錘25が、
図34に示す方向から見た場合に全て収まる大きさのシリコン基板1を用意する。実施の形態3と同様の製造方法を用いて、てん輪20および4個の錘25を製造する場合、まず、てん輪20および4個の錘25が、
図34に示す方向から見た場合に全て収まる大きさの金属基板10を用意する。
【0120】
図36〜
図38は、この発明にかかる電鋳部品の製造方法による、機械式時計におけるてん輪および当該てん輪に装着される錘の製造例を示す説明図である。
図36〜
図38においては、実施の形態1と同様の製造方法による、てん輪20および錘25の製造手順の一部を示している。
図36は、実施の形態1の製造手順における
図10の工程に相当する。
図37は、実施の形態1の製造手順における
図11の工程に相当する。
図38は、実施の形態1の製造手順における
図13の工程に相当する。
図36〜
図38においては、てん輪20および錘25を、
図34におけるX−X線に沿って切断した断面に相当する部分を示している。また、
図36〜
図38においては、上述した実施の形態1〜3と同一部分は同一符号で示し、説明を省略する。
【0121】
てん輪20および錘25の製造に際しては、中心孔25bを有する小円板状の錘25を第1の電鋳部品とし、てん輪20を第2の電鋳部品とする。まず、上述した
図1〜
図4、
図6および
図7に示した工程と同様にして、シリコン基板1のおもて面側に導電層2を形成し、当該導電層2のおもて面側に錘25を形成する。そして、錘25の露出した表面に、てん輪20の離脱を容易にする離脱用の膜を形成する。
【0122】
つぎに、
図8に示した工程と同様にして、導電層2のおもて面側および錘25のおもて面側の一部に、第2のフォトレジスト層5を形成し、第2のフォトレジスト層5に対してパターニングをおこなうことにより、一部が錘25と重複するてん輪20の平面形状に相当する開口5aを形成する。そして、
図9に示した工程と同様にして、第2のフォトレジスト層5における開口5a内の導電層2のおもて面側および錘25のおもて面側に、第2の電鋳部材6を堆積させる。
【0123】
つぎに、
図36に示すように、第2の電鋳部材6および第2のフォトレジスト層5のおもて面側を研削によって平坦化することにより、てん輪20を形成する。
図36におけるてん輪20と錘25との位置関係は、
図35におけるてん輪20と錘25との位置関係とは逆になっている。
図36においては、てん輪20の支柱20bが錘25の中心孔25bに入り込み、切り欠き部20aが錘25に重なった状態を示している。
【0124】
つぎに、
図37に示すように、シリコン基板1の裏面側から、シリコン基板1および導電層2を研削することによって、錘25およびてん輪20からシリコン基板1および導電層2を除去する。その後、フォトレジスト層5を除去すると、てん輪20の離脱を容易にする離脱用の膜によって、
図38に示すように、てん輪20および錘25を損傷することなく容易に離脱させ、個別に取り出すことができる。
【0125】
このように、この発明にかかる電鋳部品の製造方法によれば、平板状の部品である錘25と、切り欠き部20aを有する段付き部品であるてん輪20とを、一連の工程で一度に精度よく製造することができる。シリコン基板1と導電層2に代えて、上述した実施の形態3において説明した金属基板10を使用した場合にも、上記と同様に、てん輪20および錘25を、一連の工程で一度に精度よく製造することができる。
【0126】
(歯車および軸受けの製造例)
つぎに、機械式時計に組み込まれる歯車および軸受けの製造例について説明する。機械式時計には多数の歯車が使用されている。歯車は、軸受けによって、当該軸受けに対して相対的に回転可能に支持されている。
図39は、歯車と軸受けの嵌合状態を示す平面図である。
【0127】
図39に示すように、歯車30は、環形状をなす環状部30bと、環状部30bの外周部分に当該環状部30bから放射状に突出する複数の歯30aと、を備えている。複数の歯30aは、環状部30bの外周において、一定のピッチで放射状に突出している。歯車30において、環状部30bの内側には、軸受け35が嵌め込まれる円形開口(
図40〜
図42における符号30cを参照)が設けられている。軸受け35は、歯車30に対して、相対的に回転可能な状態で嵌め込まれる。軸受け35には、中心から等距離に等角度間隔で4個の止め穴35aが形成されている。軸受け35は、各止め穴35aに差し込まれるネジまたはピンによって、支持板などに固定される。
【0128】
このような歯車30および軸受け35は、上述した実施の形態2と同様の製造方法を用いることにより、一連の製造工程において一度に製造することができる。実施の形態2と同様の製造方法を用いて、歯車30および軸受け35を製造する場合、まず、歯車30および軸受け35が、
図39において矢印で示す方向から見た場合に全て収まる大きさのシリコン基板1を用意する。歯車30および軸受け35は、上述した実施の形態1や実施の形態3と同様の製造方法を用いた場合にも、一連の製造工程において一度に製造することができる。
【0129】
図40〜
図42は、この発明にかかる電鋳部品の製造方法による、機械式時計における歯車30および軸受け35の製造例を示す説明図である。
図40〜
図42においては、実施の形態2と同様の製造方法による、歯車30および軸受け35の製造手順の一部を示している。
図40は、実施の形態2の製造手順における
図19の工程に相当する。
図41は、実施の形態2の製造手順における
図20の工程に相当する。
図42は、実施の形態2の製造手順における
図22の工程に相当する。
図40〜
図42においては、歯車30および軸受け35を、
図39におけるY−Y線に沿って切断した断面に相当する部分を示している。また、
図40〜
図42においては、上述した実施の形態1〜3と同一部分は同一符号で示し、説明を省略する。
【0130】
歯車30および軸受け35の製造に際しては、歯車30を第1の電鋳部品とし、軸受け35を第2の電鋳部品とする。まず、
図1〜
図4、
図6および
図7に示した工程と同様にして、シリコン基板1のおもて面側に導電層2を形成し、当該導電層2のおもて面側に歯車30を形成する。
【0131】
つぎに、
図16に示した工程と同様にして、歯車30の少なくとも軸受け35と接触する部分の角部の面取り(R付け)をおこなって、面取り部30dを形成する。面取り部30dは、歯車30の円形開口30cの上端縁(おもて面側の縁)、および、歯30aの先端の上端縁(おもて面側の縁)に形成されている。そして、歯車30の露出した表面に、軸受け35の離脱を容易にする離脱用の膜を形成する。
【0132】
つぎに、
図17に示した工程と同様にして、導電層2のおもて面側および歯車30のおもて面側の一部に、第2のフォトレジスト層5を形成し、第2のフォトレジスト層5に対してパターニングをおこなうことにより、一部が歯車30と重複する軸受け35の平面形状に相当する開口5aを形成する。そして、
図18に示した工程と同様にして、第2のフォトレジスト層5における開口5a内の導電層2のおもて面側および歯車30のおもて面側に、第2の電鋳部材6を堆積させる。
【0133】
つぎに、
図40に示すように、第2の電鋳部材6および第2のフォトレジスト層5のおもて面側を平坦化することにより軸受け35を形成する。軸受け35は、小径部35bが歯車30の円形開口30cに嵌り込んで、大径部35cが歯車30上に重なっている。このとき、軸受け35の小径部35bと大径部35cによる段部の内側の角部は、歯車30の面取り部30dと接しているため、面取り部30dの面取り形状(R形状)が転写されて、同様な凹曲面または斜面状に形成されたコーナ部35dとされる。
【0134】
つぎに、
図41に示すように、シリコン基板1の裏面側から、シリコン基板1および導電層2を研削することによって、歯車30および軸受け35からシリコン基板1および導電層2を除去する。その後、フォトレジスト層5を除去すると、軸受け35の離脱を容易にする離脱用の膜によって、
図42に示すように、歯車30および軸受け35を損傷することなく容易に離脱させ、個別に取り出すことができる。
【0135】
このように、この発明にかかる電鋳部品の製造方法によれば、平板状の部品である歯車30と、小径部35bと大径部35cからなる段付き部品である軸受け35とを、一連の工程で一度に精度よく製造することができる。さらに、また、この発明にかかる電鋳部品の製造方法によれば、歯車30に面取り部30dを設けることにより、歯車30および軸受け35が互いに接触して相対回転する面を精度よく形成することができる。
【0136】
また、この発明にかかる電鋳部品の製造方法によれば、歯車30に面取り部30dを設けることにより、歯車30と軸受け35とが接触することによる応力が局所的に集中することをなくし、当該応力を分散させることができるので、歯車30および軸受け35の強度を高め、耐久性を向上させることができる。
【0137】
歯車30および軸受け35の製造においては、上述したようにシリコン基板1および導電層2に代えて、実施の形態3において説明した金属基板10を使用してもよい。これによっても、上述した歯車30および軸受け35と同様に、歯車30と軸受け35とを一連の工程で一度に精度よく製造することができ、かつ、耐久性を向上させることができる。
【0138】
(ガンギ車および平板状の小部品の製造例)
つぎに、機械式時計に組み込まれるガンギ車および平板状の小部品の製造例について説明する。機械式時計は、ガンギ車を備えている。
図43は、ガンギ車を示す平面図である。
図43に示すように、ガンギ車50は、環形状をなしている。ガンギ車50の外周には、複数の歯部51が、一定のピッチで設けられている。各歯部51は、ガンギ車50がなす環形状の放射方向(半径方向)に対して、一定の角度で傾斜して設けられている。
【0139】
ガンギ車50は、機械式時計において、てん輪の往復回動によって揺動するアンクルによって1歯ずつ送られて一定速度で間欠回転する。アンクルには、ガンギ車50を回転させるためにガンギ車50の歯部51と係合するアンクル爪石を備えている。ガンギ車50は、ゼンマイによって回転される香箱車からの輪列の最後に設けられている。
【0140】
図44は、
図43において破線で示す長円Aで囲んだ部分を一部拡大して示す平面図である。
図45は、
図44における矢印B方向から見た部分を一部拡大して示す平面図である。
図44および
図45に示すように、歯部51の先端部は、先端側の厚みを薄くすることによって段状に形成されている。歯部51の先端部のうち、もっとも先端には、厚みの薄い薄肉部51aが設けられている。
【0141】
薄肉部51aの一方の側面は、先端が側方(外方)へ若干突出したリービングコーナ51cをなし、他方の側面の先端(角部)はロッキングコーナ51dをなしている。ガンギ車50の歯部51のリービングコーナ51cに、アンクルの一方の端部に保持された入ヅメのリービングコーナが当たり、歯部51のロッキングコーナ51dに、アンクルの他方の端部に保持された出ヅメのロッキングコーナが当たる。
【0142】
歯部51の先端部において、薄肉部51aを設けることによって形成される段部の、厚さが切り替わることによりL字状になったコーナ部51eは、凹曲面(R形状)に形成されている。このように、コーナ部51eを凹曲面(R形状)とすることによって、段部のコーナを凹曲面(R形状)とせずに直角(90°)とした場合よりも、コーナ部51eにおける応力を分散させ、強度を高めることができる。また、ガンギ車50の歯部51の先端部にRを付けて薄肉部51aを形成することにより、油溜りの機能を持たせて、アンクル爪石との当接による磨耗を防ぐことができる。
【0143】
図46〜
図50は、この発明にかかる電鋳部品の製造方法による、機械式時計におけるガンギ車50および平板状の小部品の製造例を示す説明図である。
図46〜
図50においては、ガンギ車50と、ガンギ車50の製造にかかる一連の製造工程において製造される平板状の小部品45の製造手順の一部を示している。
【0144】
図46(a)、
図47、
図48(a)、
図49および
図50(a)においては、実施の形態2と同様の製造方法による、ガンギ車50および平板状の小部品の製造手順の一部を示している。
図46(a)は、実施の形態2の製造手順における
図17の工程に相当する。
図47は、実施の形態2の製造手順における
図18の工程に相当する。
図48(a)は、実施の形態2の製造手順における
図19の工程に相当する。
図49は、実施の形態2の製造手順における
図20の工程に相当する。
図50(a)は、実施の形態2の製造手順における
図22の工程に相当する。
【0145】
図46(a)、
図47、
図48(a)、
図49および
図50(a)においては、ガンギ車50および平板状の小部品を、
図44におけるZ−Z線に沿って切断した断面に相当する部分を示している。
図46(b)、
図48(b)および
図50(b)においては、それぞれ、
図46(a)、
図48(a)および
図50(a)に示す工程において、導電層2側からおもて面側を見た状態を示している。
図46(b)および
図48(b)においては、それぞれ、平板状の小部品45を点線によって示している。また、
図46〜
図50においては、上述した実施の形態1〜3と同一部分は同一符号で示し、説明を省略する。
【0146】
この発明にかかる電鋳部品の製造方法により、ガンギ車50および平板状の小部品45を製造する際は、平板状の小部品45を第1の電鋳部品とし、ガンギ車50を第2の電鋳部品とする。具体的に、この発明にかかる電鋳部品の製造方法によるガンギ車50および平板状の小部品45の製造に際しては、まず、上述した
図1〜
図4および
図6に示した各工程と同様にして、第1の電鋳部材4および第1のフォトレジスト層3のおもて面側を平坦化することにより平板状の小部品45を形成する。
【0147】
ガンギ車50および平板状の小部品45の製造に際して、平板状の小部品45は、入れ子として機能する。つぎに、平板状の小部品45の角部の面取り(R付け)をおこなう。この面取りは、平板状の小部品45における少なくとも開口5a内に位置する部分の角部に対しておこなう。そして、平板状の小部品45の表面であって、外部に露出した表面に、ガンギ車50の離脱を容易にする離脱用の膜を形成する。
【0148】
つぎに、
図46に示すように、導電層2のおもて面側に、第2のフォトレジスト層5を形成し、当該第2のフォトレジスト層5をパターニングすることによって、当該第2のフォトレジスト層5に開口(第2の貫通孔)5aを形成する。そして、
図47に示すように、第2の電鋳部55が、第2のフォトレジスト層5の表面から幾分突出して盛り上がる程度の厚さに堆積されるまで、上述した実施の形態2と同様に、導電層2を一方の電極とする電鋳をおこなう。
【0149】
つぎに、
図48に示すように、第2の電鋳部材55および第2のフォトレジスト層5のおもて面側を研削によって平坦化することにより、ガンギ車50を形成する。
図48に示す状態において、ガンギ車50における歯部51の薄肉部51aは、小部品45に密着して重なっている。歯部51において段差部を形成するコーナ部51eは、平板状の小部品45の面取り部45aと接しており、コーナ部51eには面取り部45aの面取り形状(R形状)が転写されて、同様な凹曲面に形成される。
【0150】
つぎに、
図49に示すように、シリコン基板1の裏面側から、シリコン基板1および導電層2を研削することによって、ガンギ車50および平板状の小部品45からシリコン基板1および導電層2を除去する。その後、フォトレジスト層5を除去すると、ガンギ車50の離脱を容易にする離脱用の膜によって、
図50に示すように、ガンギ車50および平板状の小部品45を損傷することなく容易に離脱させ、個別に取り出すことができる。
【0151】
このように、この発明にかかる電鋳部品の製造方法によれば、段付き部品であるガンギ車50と、平板状の部品である小部品45とを、一連の工程で一度に精度よく製造することができる。シリコン基板1と導電層2に代えて、上述した実施の形態3において説明した金属基板10を使用した場合にも、上記と同様に、ガンギ車50および平板状の小部品45を、一連の工程で一度に精度よく製造することができる。
【0152】
また、この発明にかかる電鋳部品の製造方法によれば、平板状の小部品45に設けた面取り部45aの面取り形状(R形状)をコーナ部51eに転写することによって段付き部品であるガンギ車50を製造している。これにより、ガンギ車50にアンクル爪石が接触することによる応力が局所的に集中することをなくし、当該応力を分散させることができるので、薄肉部51aの強度を高めて耐久性を向上させることができる。そして、これにより、ガンギ車50の耐久性を向上させることができる。
【0153】
さらに、この発明にかかる電鋳部品の製造方法によれば、平板状の小部品45に堆積させた第2の電鋳部材6を第2のフォトレジスト層5とともに研削することによって、歯部51の先端部に薄肉部51aを形成することができる。これにより、歯部51の先端部に対して研削をおこなうなどの加工を施すことなく薄肉部51aを形成することができるので、製造途中でガンギ車50が破損することを防止できる。そして、これにより、ガンギ車50の製造効率の向上を図ることができる。
【0154】
ガンギ車50の製造にかかる一連の製造工程において製造した平板状の小部品45は、任意の平面形状に変更することができる。平板状の小部品45の形状を調整することにより、当該平板状の小部品45を、たとえば、時計の文字板に貼着または嵌め込む目盛片や、上述したてん輪20に装着する錘25などの種々の部品とすることができる。
【0155】
(ロータ軸の製造例)
つぎに、クオーツ式時計などに組み込まれるロータ軸の製造例について説明する。
図51および
図52は、ロータの一部を示す説明図である。
図52は、
図51に示したロータの一部を、A−A線を通る平面に沿って切断した断面を示している。
図53および
図54は、ロータが備えるロータ軸を示す説明図である。
図54は、
図53に示したロータ軸を、B−B線を通る平面に沿って切断した断面を示している。
【0156】
図51〜
図54に示すように、ロータが備えるロータ軸52bは、一端側が、ロータ軸受52aによって軸受けされており、軸心周りに回転可能に設けられている。ロータ軸受52aは、コイルを保持する地板53に固定されている。ロータ軸52bは、ロータ軸受52aに対して相対的に回転可能に設けられている。
【0157】
ロータ軸52bの他端側には、ロータカナ54が設けられている。また、ロータ軸52bは、地板53とロータカナ54との間に設けられたロータ磁石58を備えている。ロータ磁石58は、ロータ磁石保持部材57によって保持されている。ロータ磁石保持部材57は、ロータ磁石58を保持した状態で、ロータ軸52bに、嵌め込まれる。
【0158】
ロータ軸受52aにおいて、ロータ軸52b側の端部には、面取り部56が形成されている。面取り部56は、ロータ軸52bの軸心側の方が、外周側よりもロータ軸52b側へ突出する面取り(R付け)がおこなわれており、面取り形状(R形状)をなす。ロータ軸52bにおいて、ロータ軸受52a側の端部には、面取り部56の面取り形状(R形状)に対応した凹部(符号を省略する)が設けられている。ロータ軸受52aとロータ軸52bとは、面取り部56と凹部とを当接させることによって接触している。
【0159】
このようなロータ軸受52aおよびロータ軸52bは、たとえば、上述した実施の形態2と同様の製造方法を用いることにより、一連の製造工程において一度に製造することができる。実施の形態2と同様の製造方法を用いたロータ軸受52aおよびロータ軸52bの製造に際しては、ロータ軸受52aを第1の電鋳部品とし、ロータ軸52bを第2の電鋳部品とする。
【0160】
具体的に、実施の形態2と同様の製造方法を用いたロータ軸受52aおよびロータ軸52bの製造に際しては、まず、上述した
図1〜
図4、
図6および
図7に示した工程と同様にして、シリコン基板1のおもて面側に導電層2を形成し、当該導電層2のおもて面側にロータ軸受52aを形成する。つぎに、
図16に示した工程と同様にして、ロータ軸受52aの少なくともロータ軸52bと接触する部分(先端部)の面取り(R付け)をおこなって、面取り部を形成する。そして、ロータ軸受52aの露出した表面に、ロータ軸52bの離脱を容易にする離脱用の膜を形成する。
【0161】
つぎに、
図17に示した工程と同様にして、導電層2のおもて面側およびロータ軸受52aのおもて面側の一部に、第2のフォトレジスト層5を形成し、第2のフォトレジスト層5に対してパターニングをおこなうことにより、ロータ軸受52aと重複するロータ軸52bの平面形状に相当する開口5aを形成する。そして、
図18に示した工程と同様にして、第2のフォトレジスト層5における開口5a内の導電層2のおもて面側および歯車30のおもて面側に、第2の電鋳部材6を堆積させる。
【0162】
たとえば、ロータ軸52bとロータカナ54とを別体で形成することにより、ロータ軸52bの成形にかかる開口5a(第2の電鋳型8)をフォトレジストによって形成することができる。あるいは、第2のフォトレジスト層5を複数回形成し、各第2のフォトレジスト層5のパターニング形状を調整することによって、ロータカナ54などの段差部を備えたロータ軸52bをフォトレジストによって形成することができる。
【0163】
ロータ軸受52aにおいて、少なくともロータ軸52bと接触する部分(先端部)は、面取り(R付け)がおこなわれることによる面取り部とされているため、ロータ軸52bにおけるロータ軸受52a側の端部には、当該面取り部が転写され、凹曲面(あるいは、すりばち状)になる。
【0164】
つぎに、第2の電鋳部材6および第2のフォトレジスト層5のおもて面側を、所定量研削することにより第2の電鋳部材6を成形し、ロータ軸52bを形成する。その後、第2のフォトレジスト層5を除去して、ロータ軸受52aおよびロータ軸52bを形成する。
【0165】
このように、この発明にかかる電鋳部品の製造方法によれば、地板に固定されるロータ軸受52aと、当該ロータ軸受52aに対して相対的に回転可能なロータ軸52bとを、一連の工程で一度に精度よく製造することができる。そして、この発明にかかる電鋳部品の製造方法によれば、ロータ軸受52aの先端部に面取り部を設けることにより、ロータ軸受52aとロータ軸52bとの接触部分において局所的に応力が集中することを防止し、ロータ軸受52aとロータ軸52bとの間における摩擦を低減することができる。これによって、モータの消費電力の低減を図ることができる。
【0166】
ロータ軸およびロータ軸受の製造に際しては、上述したように、ロータ軸およびロータ軸受の全体を、この発明にかかる電鋳部品の製造方法によって製造してもよく、ロータ軸受52aにおけるロータ軸52bとの接合部(接触部:
図54における符号540を参照)のみを、この発明にかかる電鋳部品の製造方法によって製造してもよい。
【0167】
具体的には、たとえば、「ロータ軸受52aにおけるロータ軸52bと接触する部分およびその周辺部分」および「ロータ軸52bにおけるロータ軸受52aと接触する部分およびその周辺部分」のみを、LIGA法を用いて製造するようにしてもよい。具体的には、ロータ軸受52aおよびロータ軸52bのうち、
図54における点線枠540で囲まれた部分のみをLIGA法を用いて製造するようにしてもよい。このように、製造対象とする部品のうち、互いに接触する部分に限定して、LIGA法を用いて製造する場合、長軸形状をなす別の部分(軸)を別途製造しておき、LIGA法を用いて製造した部分に、別途製造した部分(軸)を接合してロータ軸受52aやロータ軸52bを形成する。
【0168】
あるいは、ロータ軸受52aおよびロータ軸52bのように長軸形状をなす部品をLIGA法を用いて製造する場合、たとえば、ロータ軸受52aおよびロータ軸52bのいずれか一方における他方と接触する部分およびその周辺部分のみを、LIGA法を用いて製造するようにしてもよい。
【0169】
ロータ軸受52aおよびロータ軸52bのように長軸形状をなす部品の全体をLIGA法を用いて製造する場合、電鋳における電極となる導電層2の面積に対して、第1の電鋳部材4や第2の電鋳部材6が堆積する厚さ方向の寸法が大きく、第1の電鋳部材4や第2の電鋳部材6を目的の厚さ分堆積させるためには長い時間がかかる。これに対し、上記のように、製造対象とする部品のうち、互いに接触する部分に限定して、LIGA法を用いて製造することにより、少なくとも一部が互いに密接または当接する部品における密接または当接する部分を、一連の製造工程で、一度に精度よく製造することができる。これにより、製品として組み込んだ際に、部品間のズレやガタを生じさせることなく精度よく密接または当接させることができる。
【0170】
(歯車および軸受けの製造例)
つぎに、機械式時計やクオーツ式時計などに組み込まれる歯車および軸受けの製造例について説明する。一般的に、歯車(図示を省略する)は、略円盤形状であって外周部に放射状に突出する歯を備えた歯車部と、当該歯車部の回転中心に設けられる歯車軸と、を備えて構成される。軸受け(図示を省略する)は、歯車における歯車軸の両端を回転可能に保持する。歯車は、軸受けによって定められる位置において、当該軸受けに対して相対的に回転する。
【0171】
この発明にかかる電鋳部品の製造方法により、歯車および軸受けを製造する際は、歯車(歯車軸)を第1の電鋳部品とし、軸受けを第2の電鋳部品とする。具体的に、この発明にかかる電鋳部品の製造方法による歯車および軸受けの製造に際しては、まず、上述した
図1〜
図4および
図6に示した各工程と同様にして、第1の電鋳部品である歯車(歯車軸)を形成する。そして、歯車軸の端部に、面取り(R付け)をおこなって面取り部を形成する。
【0172】
つぎに、歯車軸の端部であって、面取り部の面取り形状(R形状)の表面に、軸受けの離脱を容易にする離脱用の膜を形成する。そして、
図17〜
図20に示した工程と同様にして、歯車軸の端部の面取り形状(R形状)を覆うようにして、軸受けをなす第2の電鋳部材6を堆積させた後、当該第2の電鋳部材6の研削をおこなうことにより第2の電鋳部品としての軸受けを形成する。その後、
図21および
図22に示した工程と同様にして、歯車および軸受けを離脱させ、それぞれを個別に取り出す。
【0173】
このように、この発明にかかる電鋳部品の製造方法によれば、歯車および軸受けを、一連の工程で一度に精度よく製造することができる。これにより、ズレやガタを生じさせることなく、歯車軸を軸受けによって保持することができる。そして、この発明にかかる電鋳部品の製造方法によれば、歯車における歯車軸の端部に面取り部を形成することにより、歯車軸と軸受けとの接触部分において局所的に応力が集中することを防止し、歯車軸と軸受けとの間における摩擦を低減することができる。これによって、モータの消費電力の低減を図ることができる。
【0174】
(針および袴の製造例)
つぎに、アナログ時計に組み込まれる針および袴の製造例について説明する。
図55は、アナログ時計に組み込まれる針および袴を示す説明図である。
図55に示すように、アナログ時計は、たとえば、時針、分針、秒針などのように、文字盤の数字やメモリを指し示すことにより時刻をあらわす針(指示針)6aを備えている。この針6aには、当該針6aを安定して歯車の軸などに固定することを目的として、筒形状の袴6bが設けられているものがある。袴6bは、針6aの長さ方向および当該針が回転する回転面に対して直交する方向を軸心方向とする筒形状をなす。針6aおよび袴6bは、一体に形成されている。
【0175】
この発明にかかる電鋳部品の製造方法により、針6aおよび袴6bを製造する際は、針6aおよび袴6bによって第2の電鋳部品が実現される。具体的に、この発明にかかる電鋳部品の製造方法による針6aおよび袴6bの製造に際しては、まず、上述した
図1〜
図4および
図6〜
図8に示した各工程と同様にして、第1の電鋳部品4A,4Bを形成し、第2の電鋳型8を形成する。
【0176】
つぎに、第1の電鋳部品4A,4Bの外表面に離脱用の膜を設け、以降、上述した実施の形態1や実施の形態2において説明した各工程と同様の工程をおこなう。具体的には、
図9に示すように、第2の電鋳部材6が、第2のフォトレジスト層5の表面から幾分突出して盛り上がる程度の厚さに形成されるまで、導電層2を一方の電極とする電鋳をおこなう。つぎに、
図10に示すように、第2の電鋳部材6および第2のフォトレジスト層5の平坦化をおこなった後、
図11に示すように、シリコン基板1および導電層2の除去をおこなう。そして、
図12に示すように、第2のフォトレジスト層5を除去した後、
図13に示すように、第1の電鋳部品4A,4Bと、第2の電鋳部品である針6aおよび袴6bと、を個別に取り出す。
【0177】
このように、この発明にかかる電鋳部品の製造方法によれば、針6aおよび袴6bを、一連の工程で一度に精度よく製造することができる。
【0178】
針6aおよび袴6bの製造に際しては、針6aと袴6bとの境界部分に、面取り(R付け)をおこなって面取り部を形成してもよい。この場合、第1の電鋳部品4A,4Bを形成した後、第1の電鋳部品4A,4Bの角部の面取り(R付け)をおこなって、第1の電鋳部品4A,4Bに面取り部4aを形成する。この面取り部4aは、針6aと袴6bとの境界となる部分の角部に対しておこなう。
【0179】
つぎに、第2の電鋳部材6を堆積させる。第2の電鋳部材6は、第1の電鋳部品4A,4Bにおける面取り部4aに対向する部分において、面取り部4aを覆うように湾曲したR形状をなす。第1の電鋳部品4A,4Bに形成された面取り部4aの上に重なって電鋳されて形成される第2の電鋳部材6の内側の角部は、針6aと袴6bとの境界部分に相当する。針6aと袴6bとの境界部分は、面取り部4aが転写されて対応する凹曲面になる。
【0180】
これにより、一連の工程において針6aと袴6bとの境界部分に面取り形状(R形状)を設けた、一体化された針6aおよび袴6bを形成することができる。このように、針6aと袴6bとの境界部分に面取り形状(R形状)を設けた、一体化された針6aおよび袴6bとすることにより、当該境界部分において局所的に応力が集中することを防止し、針6aと袴6bとの間にズレやガタが生じることを防止できる。これによって、アナログ時計の耐久性の向上を図ることができる。
【0181】
上述した各実施の形態や製造例においては、この発明にかかる実施の形態の電鋳部品の製造方法により、機械式時計やクオーツ式の電子時計など、時計の部品を製造する例について説明したが、この発明にかかる実施の形態の電鋳部品の製造方法は、時計の部品の製造に限るものではない。この発明にかかる実施の形態の電鋳部品の製造方法は、時計の部品の他、カメラや計測器、その他種々の精密機器の部品の製造に適用することができる。