特許第6529549号(P6529549)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6529549
(24)【登録日】2019年5月24日
(45)【発行日】2019年6月12日
(54)【発明の名称】半割軸受およびすべり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 9/02 20060101AFI20190531BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20190531BHJP
   F16C 33/10 20060101ALI20190531BHJP
   F01M 1/06 20060101ALI20190531BHJP
【FI】
   F16C9/02
   F16C17/02 Z
   F16C33/10 Z
   F01M1/06 K
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-148218(P2017-148218)
(22)【出願日】2017年7月31日
(65)【公開番号】特開2019-27524(P2019-27524A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2018年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】天野 征治
(72)【発明者】
【氏名】山本 暁文
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 真一
【審査官】 岡澤 洋
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/165779(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0155451(US,A1)
【文献】 特開2015−209898(JP,A)
【文献】 特開2012−241743(JP,A)
【文献】 特開2018−151048(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 9/02−9/03
F16C 17/00−17/26
F16C 33/10−33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のクランク軸を支承するすべり軸受を構成する半割軸受であって、半円筒形状を有し、内周面が摺動面を形成している前記半割軸受において、
前記半割軸受の前記摺動面に複数の凹部が形成されており、前記凹部は、前記摺動面から前記半割軸受の外径側に後退した平滑な凹部表面を有し、前記凹部表面は、前記半割軸受の周方向に平行な断面視にて、前記半割軸受の外径側に凸の曲線を形成しており、
前記凹部には、前記凹部の周縁に隣接して溝形成領域が形成されており、該溝形成領域には、前記凹部表面から前記半割軸受の外径側に後退した複数の周方向溝が形成されており、前記複数の周方向溝は、前記凹部の周縁から前記半割軸受の周方向に延びていることを特徴とする半割軸受。
【請求項2】
前記凹部の深さが2〜50μmであることを特徴とする請求項1に記載された半割軸受。
【請求項3】
前記周方向溝の深さは、前記凹部の中央側から周縁側へ向かって大きくなっていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載された半割軸受。
【請求項4】
前記周方向溝の最大深さが0.5〜3μmであることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された半割軸受。
【請求項5】
前記周方向溝の最大幅が20〜150μmであることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載された半割軸受。
【請求項6】
前記溝形成領域が前記凹部に占める面積割合は0.15〜0.55であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載された半割軸受。
【請求項7】
前記凹部の開口形状は、円形、又は楕円形、又は四角形の形状を有することを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載された半割軸受。
【請求項8】
前凹部表面は、半割軸受の軸線方向の断面視にて、半割軸受の外径側に凸形状の曲線を形成することを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載された半割軸受。
【請求項9】
前記複数の凹部が、前記半割軸受の摺動面の全体に均一に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載された半割軸受。
【請求項10】
前記凹部は、前記半割軸受の周方向中央部に近いほど深さが大きくなることを特徴とする請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載された半割軸受。
【請求項11】
前記凹部は、前記半割軸受の周方向中央部に近いほど、開口面積が大きくなることを特徴とする請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載された半割軸受。
【請求項12】
前記半割軸受の周方向中央部に近いほど、前記溝形成領域が前記凹部に占める面積割合は小さくなることを特徴とする請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載された半割軸受。
【請求項13】
請求項1から請求項12までのいずれか1項に記載された半割軸受を備えた、内燃機関のクランク軸を支承する円筒形状のすべり軸受。
【請求項14】
前記半割軸受の一対を組み合わせて構成されていることを特徴とする請求項13に記載されたすべり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のクランク軸を支承するすべり軸受を構成する半割軸受に関するものである。本発明は、この半割軸受を備えた、内燃機関のクランク軸を支承する円筒形状のすべり軸受にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のクランク軸は、そのジャーナル部において、一対の半割軸受から成る主軸受を介して内燃機関のシリンダブロック下部に支承される。主軸受に対しては、オイルポンプによって吐出された潤滑油が、シリンダブロック壁内に形成されたオイルギャラリーから主軸受の壁に形成された貫通口を通じて、主軸受の内周面に沿って形成された潤滑油溝内に送り込まれる。また、ジャーナル部の直径方向には第1潤滑油路が貫通形成され、この第1潤滑油路の両端開口が主軸受の潤滑油溝と連通するようになっている。さらに、ジャーナル部の第1潤滑油路から、クランクアーム部を通る第2潤滑油路が分岐して形成され、この第2潤滑油路が、クランクピンの直径方向に貫通形成された第3潤滑油路に連通している。このようにして、シリンダブロック壁内のオイルギャラリーから貫通口を通じて主軸受の内周面に形成された潤滑油溝内に送り込まれた潤滑油は、第1潤滑油路、第2潤滑油路および第3潤滑油路を経て、第3潤滑油路の末端に開口した吐出口から、クランクピンと一対の半割軸受から成るコンロッド軸受の摺動面間に供給される(例えば、特許文献1参照)。クランク軸の表面と主軸受およびコンロッド軸受の摺動面との間に油が供給される。
【0003】
クランク軸との摺動時の摩擦損失を低減するために、半割軸受の摺動面に複数の微小な凹部を形成することが提案されている(例えば特許文献2、特許文献3および特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−277831号公報
【特許文献2】実開昭58−149622号公報
【特許文献3】特開2008−95721号公報
【特許文献4】特表2000−504089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献2から特許文献4までに記載されたような従来の摺動面に複数の微小な凹部を形成した半割軸受は、内燃機関の運転時の半割軸受の摺動面とクランク軸の表面とが近接する動作時に、凹部付近の油の流れに乱流が生じる。この乱流の発生により摩擦損失が発生し、さらに凹部に隣接する摺動面と軸表面との間の油の圧力が大きく低下するために、軸の負荷を支承できなくなり摺動面と軸表面とが接触し、摩擦損失が大きくなるという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、内燃機関の運転時にこのような乱流の発生による摩擦損失を低減できる内燃機関のクランク軸のすべり軸受を構成する半割軸受、およびそのすべり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る半割軸受は、内燃機関のクランク軸を支承するすべり軸受を構成するものである。この半割軸受は、半円筒形状を有し、内周面が摺動面を形成している。この半割軸受の摺動面には、複数の凹部が形成されている。凹部は、摺動面から半割軸受の外径側に後退した平滑な凹部表面を有し、凹部表面は、半割軸受の周方向に平行な断面視にて、半割軸受の外径側に凸の曲線を形成している。前記凹部には、凹部の周縁に隣接して溝形成領域が形成されており、溝形成領域には、凹部表面から半割軸受の外径側に後退した複数の周方向溝が形成されており、複数の周方向溝は、凹部の周縁から半割軸受の周方向に延びている。
【0008】
本発明の一具体例では、摺動面から凹部表面の最深部までの間の長さである凹部の深さD1は、2〜50μmであることが好ましい。
【0009】
本発明の一具体例では、周方向溝の深さは、凹部の中央側から周縁側へ向かって大きくなっていることが好ましい。
【0010】
本発明の一具体例では、凹部表面からの周方向溝の最深部までの間の長さである周方向溝の最大深さD2は、0.5〜3μmであることが好ましい。
【0011】
本発明の一具体例では、周方向溝の最大幅Wは、20〜150μmであることが好ましい。
【0012】
本発明の一具体例では、溝形成領域が凹部に占める面積割合S1は、0.15〜0.575であることが好ましい。
【0013】
本発明の一具体例では、凹部の摺動面での開口形状は、円形、又は楕円形、又は四角形であることが好ましい。
【0014】
本発明の一具体例では、凹部表面は、半割軸受の軸線方向の断面視にて、半割軸受の外径側に凸形状の曲線を形成することが好ましい。
【0015】
本発明の一具体例では、複数の凹部は、半割軸受の摺動面の全体に均一に形成されていることが好ましい。
【0016】
本発明の一具体例では、凹部は、半割軸受の周方向中央部に近いほど深さD1(摺動面から凹部表面の最深部までの間の長さ)が大きいこと、換言すれば、周方向端部に近いほど凹部の深さD1が小さくなることが好ましい。
【0017】
本発明の一具体例では、凹部は、半割軸受の周方向中央部に近いほど、開口面積A1が大きくなること、換言すれば、周方向端部に近いほど凹部の開口面積A1が小さくなることが好ましい。
【0018】
本発明の一具体例では、半割軸受の周方向中央部に近いほど、凹部に占める溝形成領域の面積割合S1が小さいこと、換言すれば、周方向端部に近いほど凹部の表面における溝形成領域の面積割合S1が大きいことが好ましい。
【0019】
本発明は、上記に説明した半割軸受を備えた、内燃機関のクランク軸を支承する円筒形状のすべり軸受にも関するものである。このすべり軸受は、上記に説明した半割軸受の一対を組み合わせて構成することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】クランク軸の軸受装置を示す概略図。
図2】本発明の第1の具体例による半割軸受を軸受の軸線方向から見た図。
図3図2に示す半割軸受を摺動面側から見た平面図。
図4図3の凹部を摺動面側から見た図。
図5図4のA−A断面(周方向)の断面図。
図6】半割軸受と軸との動きを示す図。
図7図4の凹部の油の流れを示す図。
図8】比較例の凹部を摺動面側から見た図。
図9】本発明の第2の具体例による半割軸受を軸受の軸線方向から見た図。
図10図9に示す半割軸受を摺動面側から見た平面図。
図11】本発明の第3の具体例による半割軸受を摺動面側から見た図。
図12図11の半割軸受の周方向中央部側に配された凹部を摺動面側から見た図。
図13図11の半割軸受の周方向端部側に配された凹部を摺動面側から見た図。
図14図11の半割軸受の凹部に設けられた周方向溝の断面図。
図15図11の半割軸受の凹部の油の流れを示す図。
図16】本発明の第4の具体例による半割軸受の凹部を摺動面側から見た図。
図17図16の凹部のB−B断面図(軸線方向)。
図18】本発明の第5の具体例による半割軸受の凹部を摺動面側から見た図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本願発明の具体例について図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1に内燃機関の軸受装置1を概略的に示す。この軸受装置1は、シリンダブロック8の下部に支承されるジャーナル部6と、ジャーナル部6と一体に形成されてジャーナル部6を中心として回転するクランクピン5と、クランクピン5に内燃機関から往復運動を伝達するコンロッド2とを備えている。そして、軸受装置1は、クランク軸を支承するすべり軸受として、ジャーナル部6を回転自在に支承する主軸受4と、クランクピン5を回転自在に支承するコンロッド軸受3とをさらに備えている。
【0023】
なお、クランク軸は複数のジャーナル部6と複数のクランクピン5とを有するが、ここでは説明の便宜上、1つのジャーナル部6および1つのクランクピン5を図示して説明する。図1において、紙面奥行き方向の位置関係は、ジャーナル部6が紙面の奥側で、クランクピン5が手前側となっている。
【0024】
ジャーナル部6は、一対の半割軸受41、42によって構成される主軸受4を介して、内燃機関のシリンダブロック下部81に軸支されている。図1で上側にある半割軸受41には、内周面全長に亘って油溝41aが形成されている。また、ジャーナル部6は、直径方向に貫通する潤滑油路6aを有し、ジャーナル部6が矢印X方向に回転すると、潤滑油路6aの両端の入口開口6cが交互に主軸受4の油溝41aに連通する。
【0025】
クランクピン5は、一対の半割軸受31、32によって構成されるコンロッド軸受3を介して、コンロッド2の大端部ハウジング21(ロッド側大端部ハウジング22およびキャップ側大端部ハウジング23)に軸支されている。
【0026】
上述したように、主軸受4に対して、オイルポンプによって吐出された潤滑油が、シリンダブロック壁内に形成されたオイルギャラリーから主軸受4の壁に形成された貫通口を通じて主軸受4の内周面に沿って形成された油溝41a内に送り込まれる。
【0027】
さらに、ジャーナル部6の直径方向に第1の潤滑油路6aが貫通形成され、第1の潤滑油路6aの入口開口6cが潤滑油溝41aと連通できるようになっており、ジャーナル部6の第1の潤滑油路6aから分岐してクランクアーム部(図示せず)を通る第2の潤滑油路5aが形成され、第2の潤滑油路5aが、クランクピン5の直径方向に貫通形成された第3の潤滑油路5bに連通している。
【0028】
このようにして、潤滑油は、第1の潤滑油路6a、第2の潤滑油路5aおよび第3の潤滑油路5bを経て、第3の潤滑油路5bの端部の吐出口5cから、クランクピン5とコンロッド軸受3の間に形成される隙間に供給される。
【0029】
一般に主軸受4およびコンロッド軸受3は、その摺動面と軸表面との間の油に圧力が発生することで、クランク軸からの動荷重負荷を支承する。内燃機関の運転時、主軸受4およびコンロッド軸受3の摺動面に加わる負荷の大きさおよびその方向は、常に変動し、その負荷と釣り合う油膜圧力を発生するように、ジャーナル部6およびクランクピン5の中心軸線が主軸受4およびコンロッド軸受3の軸受中心軸に対して偏心しながら移動する。このため、主軸受4およびコンロッド軸受3の軸受隙間(軸表面と摺動面との間の隙間)は、摺動面の何れの位置においても、常に変化する。例えば、4サイクル内燃機関では、燃焼行程において、コンロッド軸受や主軸受に加わる負荷が最大となり、この時、例えばコンロッド軸受では、クランクピン5が、図1の紙面上側の半割軸受の周方向中央部付近の摺動面に向かう方向(矢印M)に移動し、この半割軸受の周方向中央部付近の摺動面とクランクピンの表面が最も近接し、この部分の摺動面に向かう方向の負荷が加わる。
なお、主軸受では、図1に示す紙面下側の軸受キャップ82側に組まれる半割軸受の周方向中央部付近の摺動面に向かう方向の負荷が加わり、下側の半割軸受の周方向中央部付近の摺動面とジャーナル部6の表面が最も近接する。
【0030】
従来技術の複数の微小な凹部を摺動面に形成した半割軸受では、微小凹部を有する半割軸受の摺動面と軸表面とが離間した状態から、相対的に近接するように動作し、摺動面と軸表面が最近接したとき、凹部内の油は圧縮され高圧となり、凹部内から摺動面と軸表面との隙間に流出する。微小な凹部の表面が平滑である場合、凹部内で高圧となり摺動面と軸表面との間の隙間に流出する油流のうち、一部のみが軸の回転方向と同方向を向くが、大部分の油流は軸の回転方向と異なる方向を向く油流となる。この軸の回転方向と異なる方向を向く油流が形成されると、摺動面と軸表面との間の隙間には、回転する軸表面に付随する油流が形成されているため、流れ方向が異なる油流同士が、凹部の開口に隣接する摺動面と軸表面との間で衝突を起こし、それにより乱流が発生する。乱流の発生により摩擦損失は生じる。乱流により凹部開口に隣接する摺動面と軸表面との間の油の圧力が大きく低下すると、軸の負荷を支承できなくなり摺動面と軸表面とが接触し、摩擦損失が大きくなる。
【0031】
本発明は、このような従来技術の問題に対処するものである。本発明に係る半割軸受では、凹部は、摺動面から半割軸受の外径側に後退した平滑な凹部表面を有し、凹部の周縁に隣接して凹部表面から半割軸受の外径側に後退した複数の周方向溝を有する溝形成領域を有する。凹部表面は、半割軸受の周方向に平行な断面視にて、半割軸受の外径側に凸の曲線を形成する。複数の周方向溝は、半割軸受の周方向と平行に延びる。
ここで、凹部表面とは、周方向溝を除いた凹部の表面をいう。平面領域は、凹部と中心が同じで、凹部開口と相似する形状を有するもののうち、周方向溝と交わらない最大の領域として定義される。凹部の開口とは、凹部が摺動面(またはその仮想延長面)と交差する面を指し、換言すれば凹部を摺動面垂直方向から見た、凹部の形状をいう。溝形成領域は、凹部の表面のうち、平面領域以外の領域をいい、平滑な凹部表面と周方向溝とが両存している。
【0032】
以下、本発明の半割軸受をコンロッド軸受3に適用した例を示して説明する。しかし、本発明は、コンロッド軸受3に限定されないで、主軸受4を構成する半割軸受として構成することもできる。
コンロッド軸受3または主軸受4を構成する一対の半割軸受のうち、両方が発明の半割軸受とすることもできるが、一方が発明の半割軸受であり他方は従来の摺動面が凹部を有さない半割軸受であってもよい。
【0033】
図2は、本発明に係る半割軸受(コンロッド軸受3)の第1の具体例を示す。コンロッド軸受3は、一対の半割軸受31、32の周方向の端面76を突き合わせて、全体として円筒形状に組み合わせることによって形成される。円筒形状の内周面を形成する面が摺動面7である。
【0034】
なお、半割軸受31、32の厚さは、周方向で一定であることが好ましい。しかし、周方向中央部で厚さが最大で、周方向の両端面76側へ向かって連続して減少するようにしてもよい。
【0035】
図3に、半割軸受の摺動面に配された凹部、図4に摺動面側から見た凹部の一例を示す。もちろん本発明はこの形態の限定されるものではない。尚、以後、理解を容易にするために各図面において凹部71は誇張して描かれている。
半割軸受31、32の摺動面7には、複数の凹部71が摺動面7に形成されている。この例では、凹部71は、開口形状や深さ等の寸法が同じものが摺動面のほぼ全面に均一に設けられている。なお、摺動面7での複数の凹部71の均一な配置とは、幾何学的に厳密な均一な配置を意味するものではなく、略均一な配置であればよい。図3は、半円筒形の半割軸受31、32を摺動面側からから見た平面図であるから、周方向の端部76付近の凹部の形状は歪んで描かれている。
【0036】
図4は、開口形状が円形の凹部71を示す。凹部71は、その中央側表面の平滑である平面領域72と、凹部71の周縁に隣接する側に複数の周方向溝731を有する溝形成領域73からなる。溝形成領域73においては、平面領域72と連なる平滑な表面に周方向溝731が、凹部71の周縁から半割軸受の周方向に延在している。図4において、破線内の領域が平面領域72であり、破線と凹部の周縁までの間の領域が溝形成領域部73である。
【0037】
凹部表面(周方向溝を除いた凹部の表面)は、半割軸受31、32の周方向に平行な断面視(図4のA−A断面)にて、半割軸受31、32の外径側に膨出する、すなわち外径側に凸の曲線となっている(図5)。
一具体例によれば、凹部71は、半割軸受31、32の周方向に平行な方向以外のいずれの方向の断面視(例えば、摺動面7に垂直方向の断面)でも、半割軸受31、32の外径側に膨出する曲線になるようにすることができる。
【0038】
凹部71の摺動面7からの深さ(凹部に隣接する摺動面からの凹部最深部の深さ)D1は、2〜50μmとすることが好ましく、2〜30μmとすることがより好ましい。凹部71の摺動面7における開口が円形状である場合の開口径は、0.05〜5mmとすることができる。凹部の開口形状が円形状以外の場合には、その開口の面積が、円形状開口の面積に相当する面積となる円形開口部寸法(円相当径)とする。
【0039】
複数の周方向溝731は、凹部71の周縁から半割軸受31、32の周方向と平行な方向に延びるが、半割軸受31、32の周方向に対し僅かに傾斜(最大1°)することは許容される。
一具体例によれば、周方向溝731は、溝形成領域の表面からの深さD2が、周方向端部を除き周方向溝731の延びる方向(長手方向)に亘って一定になされ、幅W(溝形成領域表面における周方向溝の半割軸受の軸線方向の長さ)も周方向溝731の長手方向に亘って一定になされる。周方向溝731の断面形状は矩形状である。
【0040】
周方向溝731の深さD2は、0.5〜3μmとすることが好ましい。周方向溝731の深さD2は、凹部7の深さD1よりも小さくなされる。周方向溝731の幅Wは、20〜150μmとすることが好ましい。また、周方向溝731の幅Wは、1つの凹部71に対して、少なくとも3以上の周方向溝731が形成される寸法にすることが好ましい。なお、周方向溝731の深さD2や幅Wは、周方向溝731の長手方向に沿って変化させてもよい。この場合、周方向溝731の最大溝深さ、最大幅が上記寸法となることが好ましい。
【0041】
各凹部71は、凹部における溝形領域73の面積割合S1が0.15〜0.55とすることが好ましい。凹部の面積A1とは、凹部を摺動面側からみたとき(すなわち、摺動面に垂直な方向からみたとき)の凹部領域の面積であり、溝形成領域の面積A2とは、凹部を摺動面側からみたとき(すなわち、摺動面に垂直な方向からみたとき)の溝形成領域の面積A2である。平面領域の面積も同様に定義される。
面積割合S1は、凹部の面積A1(平面領域72の面積と溝形成領域73の面積の和)に対する溝形成領域73の面積A2の比(A2/A1))である(図4参照)。
【0042】
本実施例のコンロッド軸受3は、一対の半割軸受31、32の周方向の端面76を突き合わせて、全体として円筒形状に組み合わせることによって形成される。半割軸受31、32は、Cu軸受合金またはAl軸受合金である摺動層を有することができる。あるいは、Fe合金製の裏金層上にCu軸受合金またはAl軸受合金の摺動層を有することができる。また、円筒形状の内周面である摺動面7(凹部71の内面を含む摺動層の表面)に軸受合金よりも軟質なBi、Sn、Pbのいずれか1種からなる、あるいはこれら金属を主体とする合金からなる表面部や合成樹脂を主体とする樹脂組成物からなる表面部を有してもよい。但し、凹部71の表面は、このような表面部を有さない方が好ましい。凹部71の表面や周方向溝731の表面が軟質であると、油中に多くの異物が含まれる場合、異物が埋収、堆積しやすくなるからである。凹部71の表面や周方向溝731に内面に異物が埋収、堆積すると、凹部を流れる油に乱流が発生しやすくなる。
【0043】
上記のとおり本発明の半割軸受は、平面領域72および溝形成領域73からなる凹部71を摺動面に有するが、この半割軸受において摩擦損失が減少する理由を以下に説明する。
複数の凹部71を有する半割軸受31の摺動面7と軸5の表面が、離間した状態から相対的に近接するように動作し、摺動面5と軸5の表面が最近接した状態を図6に示す。そのとき、凹部71内の油は、特に開口の凹部表面の中央部付近で最も圧縮され高圧となるが、開口の平面領域72では表面が平滑であるため、全方位に流れる油流F1が形成される(図7)。油流F1は、軸の回転方向Zとは異なる方向にも形成される。しかし、凹部71には、開口の周縁に隣接する溝形成領域73には、半割軸受31の周方向と平行な方向に延びる複数の周方向溝731が形成されているため、平面領域72から流れた油流F1は、周方向溝731に誘導され、半割軸受31の周方向(軸の回転方向Z)と同方向に向かって流れ(図7の油流F2)、半割軸受31の摺動面7と軸表面との間の隙間に半割軸受31の周方向と同方向に向かって流出する。
【0044】
他方、摺動面7と軸5の表面との間の隙間には、回転する軸表面に付随する油流F3が形成されている(図7)。この油流F3の流れ方向と凹部71から流出する油流F2の流れ方向は、同方向を向くために乱流が発生し難く、摩擦損失が生じ難い。
【0045】
図8は、本発明とは異なる凹部271を摺動面7側から見たものである。この凹部271は、摺動面7での開口形状が楕円であり、凹部271の中央部付近の表面を含め表面全面に半割軸受の周方向と平行な周方向溝271を形成しており、平面領域部を有さない。その他は、上記で説明したものと同じである。
【0046】
図8に、摺動面7と軸表面が最近接したときの凹部271内から摺動面7と軸表面とに間の隙間に流出する油流F1’、F1’Rを示す。矢印Zは、上記の通り、軸の回転方向(軸表面の移動方向)を示す。
摺動面7と軸表面が最近接したとき、凹部271内の油は圧縮され高圧となるが、特に凹部271の中央部付近の凹部の深さが最深となる表面付近の油が高圧となる。図8ではこの領域にも周方向溝273を有するので、特に高圧となった油が、周方向溝273に誘導され、凹部271から摺動面7と軸表面との間の隙間への軸回転方向Zと同方向の油流F1’だけでなく、軸回転方向Zとは逆方向の油流F1’Rが形成される。
【0047】
摺動面7と軸5表面との間の隙間には、回転する軸表面に付随する油流F3が形成されているが、流れ方向が異なる油流F1’Rと油流F3とが、凹部271の開口に隣接する摺動面7と軸表面との間で衝突することにより乱流が発生する。この乱流の発生で摩擦損失が生じる。また、乱流の発生により凹部271の開口に隣接する摺動面7と軸表面との間の油の圧力が大きく低下すると、軸の負荷を支承できなくなり摺動面と軸表面とが接触し、さらに摩擦損失が大きくなる。
【0048】
以下、本発明の他の形態の非限定的具体例を説明する。
第2の具体例
図9および図10は、複数の凹部71が、半割軸受31、32の周方向中央CLを基準とし、所定の円周角度θ1(−15°〜15°)の範囲のみに均一に形成される。なお、半割軸受31、32には、摺動面7の周方向の両端部76にクラッシュリリーフ70が形成されてもよい。他の構成は既に説明した半割軸受31、32の構成と同じである。
【0049】
なお、クラッシュリリーフ70は、半割軸受31、32の円周方向端部領域において壁部の厚さを本来の摺動面7から半径方向に減じることによって形成される面のことであり、これは、例えば一対の半割軸受31、32をコンロッド2に組み付けた時に生じ得る半割軸受の周方向端面76の位置ずれや変形を吸収するために形成される。したがってクラッシュリリーフ70の表面の曲率中心位置は、その他の領域における摺動面7の曲率中心位置と異なる(SAE J506(項目3.26および項目6.4)、DIN1497、セクション3.2、JIS D3102参照)。一般に、乗用車用の小型の内燃機関用軸受の場合、半割軸受の円周方向端面におけるクラッシュリリーフ70の深さ(本来の摺動面からの周方向端面76におけるクラッシュリリーフ70までの距離)は0.01〜0.05mm程度である。
【0050】
なお、凹部71の形成範囲は、半割軸受31、32の周方向中央部付近の摺動面7のみに限定されないで、周方向の任意の範囲の摺動面7に形成することもできる。また、凹部71は、クラッシュリリーフ70に形成してもよい。
【0051】
第3の具体例
図11図14は、複数の凹部71が、摺動面にほぼ均一に配されているが、楕円形状の開口を有し、その長軸が半割軸受31、32の周方向と平行な方向を向いている。なお、凹部の楕円形状の開口は、その長軸が半割軸受31、32の周方向と平行な方向以外の方向、例えば、半割軸受31、32の軸線方向を向くようにしてもよい。
【0052】
この凹部71の凹部表面は、半割軸受31、32の周方向に平行な断面視にて、半割軸受31、32の外径側に膨出(外径側に凸)するだけでなく、半割軸受31、32の周方向に平行な方向以外のいずれの方向の断面視でも、半割軸受31、32の外径側に膨出(外径側に凸)する曲面となっている。
凹部71の複数の周方向溝731は、断面形状が円弧形状を有し(図14参照)、凹部71の半割軸受軸線方向の端部の周方向溝を除き、溝幅Wは、凹部の周縁側で最大で、凹部の中央部側へ向かって小さくなっている。同様に、溝深さD2も凹部の周縁側で最大で、凹部の中央部側へ向かって小さくなっている。
【0053】
凹部71は、半割軸受31、32の周方向中央部CLに近くに位置するものほど、凹部71の深さD1(最大深さ)が大きく、周方向端面76に近いほど凹部深さD1が小さくなっている。また、半割軸受31、32の周方向中央部CLに近くに位置するものほど、凹部71の面積A1が大きく、周方向端面76に近いほど凹部の面積A1が小さくなっている。
【0054】
さらに、凹部71は、半割軸受31、32の摺動面7の周方向での配置位置が、半割軸受31、32の周方向中央部CLに近いほど、凹部における溝形成領域の面積割合S1が小さく、周方向端面76に近いほど面積割合S1が大きくなっている。
図12および図13には、半割軸受31、32の、それぞれ周方向中央部に近くの凹部71C(図12)、および周方向端面76に近くの凹部71Eを摺動面7側から見た図を示す。
【0055】
4サイクル内燃機関では、半割軸受の周方向中央部側の摺動面に配される凹部ほど、凹部内の油は高圧となり、周方向端面側ほど、凹部内の油圧の増加が少ない。本具体例の凹部71は、半割軸受31、32の摺動面7の周方向中央CLに近くに配置されるものほど、凹部に占める溝形成領域73の面積割合S1が小さく、平面領域72の面積割合が大きくなる。図15は、半割軸受31、32の摺動面7の周方向中央部CL近くに配された凹部71Cを摺動面7側から見た図を示し、摺動面7と軸5表面が最近接したときの凹部71内から摺動面7と軸表面とに間の隙間に流出する油流F2を示す図であり、矢印Zは、軸の回転方向を示す。
【0056】
もしも溝形成領域73の面積割合S1が大きく、平面領域72の面積割合が小さい場合には、凹部開口の中央部付近で高圧となった油が、周方向溝731に誘導され、凹部71から摺動面7と軸表面との間の隙間への軸回転方向Zと同方向の油流F2だけでなく、軸回転方向Zとは逆方向の油流が形成されることがある。この軸回転方向Zとは逆方向の油流が形成されると、軸表面に付随し軸回転方向Zと平行な方向に流れる油流F3と衝突して乱流が発生する。
【0057】
反対に、本具体例の凹部71Cのように、溝形成領域73の面積割合S1が小さく平面領域72の面積割合が大きいと、平面領域72において、軸回転方向Zとは異なる方向への油流F1が形成されやすくなり、油流F1のうちで軸回転方向Zと逆方向の油流成分が少なくなる。平面領域72の面積が大きいと、凹部71Cの中央部付近の平面領域72にて高圧となった油が、溝形成領域73に達するまでに、圧力が低下しやすくなる。このため、凹部71Cの軸回転方向Zの後方側に形成された周方向溝731が、摺動面7と軸表面との間の隙間を軸表面に付随し軸の回転方向Zと平行方向に流れる油流F3の一部から、凹部71C内に導く油流F31が形成されるようになる。
【0058】
他方、凹部71Eは、軸表面と凹部71Eの表面が最近接したときであっても、凹部71E内の油の圧力は高くなり難く、凹部71E内の油は、軸回転方向Zとは逆方向の油流が形成され難いため、凹部71Eの溝形成領域73の面積割合を大きくして、周方向溝731による凹部71E内の油を軸回転方向Zと同方向を向く油流F2を形成する効果を高めたほうがよい。
【0059】
第4の具体例
図16は、摺動面7での開口形状が四角形である凹部71を示す。矢印Zは、軸回転方向を示し、凹部の開口形状の四角形の2辺は、軸回転方向と平行に配される。なお、図16は、周方向溝731を省略して図示している。
図17は、図16に示す凹部71のB―B部の断面(半割軸受31、32の軸線方向の断面)示す。この断面形状は、逆台形形状であり、凹部71の表面の軸線方向の両端部を除く表面は、摺動面7と平行になされている。図16も、周方向溝731を省略して図示している。なお、凹部71の半割軸受31、32の周方向に平行な断面視での表面は、半割軸受31、32の外径側に膨出する曲面となっている。
【0060】
第5の具体例
図18に摺動面7での開口形状が四角形である凹部71を示す。図16とは異なり、凹部の開口形状の四角形の対角線が、軸回転方向と平行となるように配される。図18に示す凹部71は、凹部71の半割軸受31、32の周方向に平行な断面視での表面、及び、半割軸受31、32の軸線方向に平行な断面視での表面は、半割軸受31、32の外径側に膨出する曲面となっている。なお、図18も周方向溝731を省略して図示している。
【0061】
上記に凹部71の開口形状として、円形、楕円形および四角形を示したが、これらの開口形状は、幾何学的に厳密な円形、楕円形および四角形を意味するものではなく、略円形、略楕円形、および略四角形であればよい。さらに、凹部71の開口形状は、これらの形状に限定されないで、他の形状であってもよい。
上記説明は、発明の半割軸受を内燃機関のクランク軸のクランクピンを支承するコンロッド軸受に適用した例を示したが、発明の半割軸受は、クランク軸のジャーナル部を支承する主軸受を構成する一対の半割軸受の一方または両方に適用することができる。また、半割軸受は、油穴や油溝を有するようにしてもよく、半割軸受は、凹部71を除く摺動面の全体が半割軸受の周方向に延びる複数の溝部を有して構成してもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 軸受装置
2 コンロッド
3 コンロッド軸受
4 主軸受
5 クランクピン
5a、5b 潤滑油路
5c 吐出口
6 ジャーナル部
6a 潤滑油路
6c 入口開口
31、32 半割軸受
41、42 半割軸受
41a 油溝
7 摺動面
70 クラッシュリリーフ
71、71C、71E 凹部
72 平面領域
73 溝形成領域
731 周方向溝
76 周方向端面
CL 半割軸受の周方向中央
D1 凹部の深さ
D2 周方向溝の深さ
W 周方向溝の幅
Z クランクピンの回転方向
X ジャーナル部の回転方向
M 軸の移動方向
θ1 凹部形成の角度範囲
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18