(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工具を回転させる動力を有さない工作機械において、回転軸方向に沿って線状砥材が設けられるブラシ状砥石の回転軸方向の先端面と被加工物とを接触させつつ、ブラシ状砥石と被加工物を相対運動させることによってブラシ状砥石を回転させることを特徴とする、被加工物を加工する加工方法。
ブラシ状砥石の回転軸方向の先端面において、被加工物に接触することにより駆動力が伝達される部分と、被加工物のエッジ部分に接触することによりバリ取り作用が発生する部分とが異なることを特徴とする、請求項1に記載の加工方法。
被加工物の回転軸と直交する被加工物の端面からブラシ状砥石の回転軸方向の先端面を被加工物に接触させることにより、被加工物の回転方向と同方向にブラシ状砥石を回転させることを特徴とする請求項4に記載の加工方法。
被加工物の回転軸と直交する被加工物の端面からブラシ状砥石の回転軸方向の先端面を被加工物に接触させることにより、被加工物の回転方向と逆方向にブラシ状砥石を回転させることに特徴を有する請求項4に記載の加工方法。
ブラシ状砥石の回転軸方向の先端面における回転中心を通り、かつ、ブラシ状砥石が被加工物から受ける力の向きと平行な直線を対称軸として定義した場合に、ブラシ状砥石における被加工物との接触面が、対称軸に対して非線対称となるように、ブラシ状砥石の回転軸方向の先端面を被加工物に接触させることに特徴を有する請求項4に記載の加工方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的な、NC制御による旋盤加工においては、被加工物を定位置で回転させた状態で、切削用のバイトを有する工具の位置を移動させながら、被加工物に接触させて、被加工物を所定の形状に切削している。旋盤加工後、バリ取りの工程においては、切削用の工具の代わりにバリ取り用の研磨用ブラシを有する工具をNC制御し、被加工物を回転させながら、研磨用ブラシを被加工物に接触させることで、バリ取りを行うことが考えられる。しかし、工具を回転させる動力を有さない旋盤等の工作機械においては、ブラシを回転している被加工物に接触させた場合、ブラシの同一箇所が被加工物に当たり続けることになるため、バリ取り、研磨の効果を十分に得られないという問題があった。また、ブラシの一部分だけが極端に摩耗してしまい、ブラシの寿命が短くなるという問題があった。
【0006】
本発明は、上記のような課題を鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の課題は、工具を直接回転させる動力を有さず、工具と被加工物とを相対運動させながら接触させることで、被加工物を加工することが可能な工作機械において、被加工物のバリ取りや研磨を効率的に行うことができ、かつ、用いるブラシの寿命を長くすることができる加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、工具を回転させる動力を有さない工作機械において、ブラシ状砥石と被加工物とを接触させつつ、ブラシ状砥石と被加工物を相対運動させることによってブラシ状砥石を回転させることを特徴とする、被加工物を加工する加工方法に関する。
【0008】
本発明は、さらに、ブラシ状砥石の先端面において、被加工物に接触することにより駆動力が伝達される部分と、被加工物のエッジ部分に接触することによりバリ取り作用が発生する部分とが異なることが好ましい。
【0009】
本発明は、さらに、相対運動が、被加工物の運動であることが好ましい。
【0010】
本発明は、さらに、被加工物の運動が、回転運動であることが好ましい。
【0011】
本発明は、さらに、被加工物の回転軸と直交する被加工物の端面からブラシ状砥石を被加工物に接触させることにより、被加工物の回転方向と同方向にブラシ状砥石を回転させることが好ましい。
【0012】
本発明は、さらに、被加工物の回転軸と直交する被加工物の端面からブラシ状砥石を被加工物に接触させることにより、被加工物の回転方向と逆方向にブラシ状砥石を回転させることが好ましい。
【0013】
本発明は、さらに、ブラシ状砥石の先端面における回転中心を通り、かつ、ブラシ状砥石が被加工物から受ける力の向きと平行な直線を対称軸とした場合に、ブラシ状砥石における被加工物との接触領域が、非線対称となるように、ブラシ状砥石を被加工物に接触させることが好ましい。
【0014】
本発明は、さらに、被加工物の運動が、直線運動であることが好ましい。
【0015】
本発明は、さらに、相対運動が、ブラシ状砥石の公転運動であることが好ましい。
【0016】
本発明は、さらに、相対運動が、ブラシ状砥石の直線運動であることが好ましい。
【0017】
本発明は、線状砥材及び該線状砥材を保持するホルダを有するブラシ状砥石と、前記ホルダの後端側を支持することによって、ブラシ状砥石を回転可能な状態で把持する回転把持部と、回転把持部と連結され、回転把持部を工作機械に固定するための固定治具とを備えることに特徴を有する研磨機用ブラシに関する。
【0018】
本発明は、工具を回転可能な状態で把持する回転把持部と、回転把持部を工作機械に固定するための固定治具とを備える工具ホルダであって、固定治具が、軸位置調整部と、工作機械に固定される被固定部とを有し、回転把持部が軸位置調整部と連結され、軸位置調整部が被固定部と連結部を介して連結され、軸位置調整部が該連結部を軸として回転可動であり、軸位置調整部によって、被加工物と接触する工具の回転軸の位置を調整可能な工具ホルダに関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の加工方法によれば、被加工物とブラシ状砥石との相対運動によって発生する力を駆動力としてブラシ状砥石を回転させながら被加工物の加工を行なうことにより、ブラシ状砥石と被加工物との接触点が一定とならず、バリ取り、研磨の効果を十分に得ることができる。また、ブラシの一部分だけが極端に摩耗することを防ぐことができ、ブラシの寿命を長くすることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明するが、本発明の趣旨に反しない限り、以下の実施の形態に限定されない。なお、以下の実施の形態では、共通する要素に関しては同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0022】
(研磨機用ブラシ)
図1は、本発明の実施の形態にかかる、研磨機用ブラシの一例を示す斜視図である。
図2(a)は、本発明の実施の形態にかかる、研磨機用ブラシの一例を示す側面図であり、回転把持部の内部構造を表す図である。
図2(b)は、本発明の実施の形態にかかる研磨機用ブラシを、ホルダの開口側から見た図である。
図3は、
図2(b)を、X−Xの線分で切断した状態を示す断面図である。本実施の形態において、研磨機用ブラシ12は、ブラシ状砥石1と、回転把持部7と、固定冶具8とから構成されている。ブラシ状砥石1は、線状砥材2とホルダ3と被把持部6を備えている。固定冶具8は、軸位置調整部9と、被固定部10を備えている。
【0023】
ブラシ状砥石1は、複数の線状砥材2の基端側が円筒状のホルダ3によって保持された構造を有する。線状砥材2としては、被加工物を研磨することが可能な材料、すなわち、被加工物よりも硬度が高く、かつ、脆い材料であれば特に限定されず、被加工物や加工の目的等に応じて適宜選択できる。具体的には、例えば、アルミナ長繊維、ガラス長繊維、炭化ケイ素長繊維、またはボロン長繊維などの長繊維を集合させた集合糸に、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等のバインダー樹脂を含浸させ、硬化させたものなどが挙げられる。集合糸を形成する長繊維としては、例えば、鉄系金属及び非鉄系金属を研磨する場合は、アルミナ長繊維、または炭化ケイ素長繊維が、これらの金属に対する研磨性に優れるため好ましい。なお、集合糸は、2種以上の長繊維を用いて形成されていても良い。
【0024】
円筒状のホルダ3は、軸方向の一端が開口している。
図3に示すように、ホルダ3における開口側の逆側の端部には、その内部に、線状砥材2の基端側を挿通するため挿通穴4が設けられている。線状砥材2は、その基端側が挿通穴4に挿入され、接着剤で固定されることによって、ホルダ3に保持されている。
【0025】
ホルダ3の内部には、開口側の逆側の端部から回転軸に沿って延びるように、支軸5が設けられている。
図2(b)に示すように、本実施の形態のブラシ状砥石1をホルダ3の開口側から見た場合、支軸5を中心として、複数の線状砥材2がホルダ3の内壁に沿って円周状に一定の間隔で設けられている。本実施の形態のブラシ状砥石1は、複数の線状砥材2の間に一定の空間が設けられていることにより、効率良く切り粉を排出することができ、また、放熱効果にも優れている。そのため、バリ取りや、研磨加工などを、高効率、かつ、高精度で行うことができる。
【0026】
また、線状砥材2を被加工物20に接触させた場合、ホルダ3の内壁及び支軸5によって、ホルダ3の内壁側方向及び支軸5側方向への線状砥材2の逃げが制限されるため、線状砥材2におけるホルダ3の内壁側と支軸5側とで、曲げ剛性に差が生じにくくなる。その結果、線状砥材2におけるホルダ3の内壁側と支軸5側とで、磨耗度合いに差が生じにくくなり、バリ取り、研磨作業の精度が向上する傾向にある。
【0027】
ホルダ3における開口側の逆側の端部を軸方向から見た場合の略中心部には、嵌合溝が設けられており、該嵌合溝に被把持部6の一端が嵌合している。被把持部6におけるホルダ3との嵌合部の逆側の端部には、雌ネジ溝が設けられている。被把持部6が回転把持部7に設けられた軸部挿通孔に挿通され、被把持部6の雌ネジ溝がボルトと螺合することによって、回転把持部7は、ブラシ状砥石1を回転可能に把持している。なお、本実施の形態では、被把持部6とホルダ3は、着脱可能なように形成されているが、例えば、被把持部6とホルダ3とが一体に設けられていてもよい。
【0028】
回転把持部7としては、ブラシ状砥石1を回転可能に把持できるものであれば、特に限定はされない。回転把持部7の磨耗や発熱を抑制するために、ベアリングを有していることが好ましい。例えば、ボールベアリング、ローラーベアリング、テーパーローラーベアリング、またはニードルベアリングなどを用いることができる。転がり抵抗が少なく、高速回転に適しているという観点からは、ボールベアリングが好ましい。なお、本実施の形態では、回転把持部7として、ボールベアリングを用いている。ベアリングは軸に対して複数個有していることが好ましい
【0029】
上記のように、ブラシ状砥石1が回転把持部7に回転可能に把持されていることにより、ブラシ状砥石1と被加工物20とを相対運動させながら接触させた場合、ブラシ状砥石1における被加工物20との接触面に発生する力を駆動力として、ブラシ状砥石1を回転させることが可能である。例えば、ブラシ状砥石1を回転等の運動をする被加工物20と接触させた場合、被加工物の運動力エネルギーを駆動力として、ブラシ状砥石1を回転させることが可能である。従って、本実施の形態の研磨機用ブラシ12を旋盤などの工具として用いた場合、被加工物の運動エネルギーによって、ブラシ状砥石1が回転しながら被加工物に接触した結果、ブラシ状砥石1における被加工物との接触点が一定とならず、バリ取り、研磨の効果を十分に得ることができる。また、ブラシ状砥石1が回転する被加工物と接触する際には、その接触点において滑りが発生し、ブラシ状砥石が回転している場合、ブラシ状砥石と被加工物の回転比が1:1とはならないため、優れたブラシ効果を得ることができる。
【0030】
回転把持部7には、軸部挿通孔を中心とした点対称位置に2つのネジ孔が設けられており、ネジによって、軸位置調整部9と連結されている。軸位置調整部9は、被固定部10と連結されており、連結部を軸として回転可動できる。軸位置調整部9を可動させることによって、線状砥材2と被加工物との接触箇所を容易に調整することができる。線状砥材2と被加工物との接触箇所を、線状砥材及び被加工物の種類、加工の目的などに応じて適宜調整することで、優れた研磨効果を得ることができる。
【0031】
被固定部10は、工作機械の工具保持部21によって固定されている。本実施の形態では、被固定部10は、略直方体状に形成されているが、工作機械の工具ホルダによって固定可能な形状であれば、特に限定はされない。
【0032】
図4は、上述した本発明の実施の形態にかかる研磨機用ブラシとは異なる、本発明の他の実施の形態にかかる研磨機用ブラシの斜視図である。
図5は、
図4に示す研磨機用ブラシを背面側から見た場合の斜視図である。本実施の形態にかかる研磨機用ブラシは、軸位置調整部を有さず、回転把持部7は、固定冶具8に連結されている。固定冶具8は被固定部を備えており、被固定部は、工作機械の工具保持部によって固定されている。線状砥材2と被加工物との接触箇所の調整は、固定冶具8を工作機械の工具保持部に固定する位置を調整することや、工作機械の工具保持部を可動させることによって行なわれる。ブラシ状砥石1が回転把持部7に回転可能に把持されていることにより、ブラシ状砥石1と被加工物20とを相対運動させながら接触させた場合、ブラシ状砥石1における被加工物20との接触面に発生する力を駆動力として、ブラシ状砥石1を回転させることが可能である。例えば、ブラシ状砥石1を回転等の運動をする被加工物と接触させた場合に、被加工物の運動力エネルギーを駆動力として、ブラシ状砥石1を回転させることが可能となる。
【0033】
(工具ホルダ)
本発明の実施の形態にかかる工具ホルダ11は、
図1に示す研磨機用ブラシ12を構成する一部分であり、回転把持部7と、軸位置調整部9及び被固定部10からなる固定冶具8とを備えている。各部位の構成や機能等は、上記の研磨機用ブラシの項で説明した通りである。
【0034】
なお、本実施の形態において、工具ホルダ11は、研磨機用ブラシを把持しているが、切削加工を行う際には、研磨機用ブラシに代えて、バイトなどの工具が把持される。
【0035】
(加工方法)
(第一の実施の形態)
本発明の加工方法にかかる第一の実施の形態は、工具を回転させる動力を有さない旋盤等の工作機械において、研磨機用ブラシ12を研磨具として用いて、被加工物を回転運動させながら被加工物を加工する方法である。被加工物20の回転軸に沿った方から、ブラシ状砥石1を被加工物の端面に接触させることで、被加工物20の回転力によってブラシ状砥石1を回転させ、被加工物20を加工する。ブラシ状砥石1が回転しながら被加工物20に接触することにより、ブラシ状砥石1における被加工物20との接触点が一定とはならないため、バリ取り、研磨の効果を十分に得ることができ、かつ、ブラシ状砥石1の一部分だけが極端に磨耗するといったことを防ぎ、ブラシ状砥石1の寿命を長くすることが可能である。
【0036】
被加工物20の回転を受けてブラシ状砥石が回転することによりバリ取り、研磨効果を発揮するため、ブラシ状砥石が回転するように切込み量と被加工物の回転数を調整することが望ましい。被加工物20の回転数としては、特に限定はされないが、50rpm以上が好ましく、1000rpm以上がより好ましい。
【0037】
図6は、被加工物20の回転軸と直交する被加工物の端面20aからブラシ状砥石1を該端面に接触させた際に、ブラシ状砥石1が被加工物20から受ける力を表す模式図である。被加工物20とブラシ状砥石1の径はともに20mmであり、被加工物20とブラシ状砥石1のそれぞれの回転中心を結んだ線分の長さは10mmである。また、ラップ率は100%である。本明細書において、ラップ率とは、被加工物の回転中心とブラシ状砥石の回転中心とを含む直線上における、被加工物とブラシ状砥石との重複部分の長さを、被加工物の半径で除した値のことをいう。
【0038】
図6において、被加工物20は右回りに回転しており、P1地点において、ブラシ状砥石1は、被加工物20から、被加工物20の端面の接線方向に力F1を受ける。力F1をブラシ状砥石1の外周の接線方向及び法線方向に分解すると、接線方向の力を力Ft1、法線方向の力を力Fn1と表わすことができる。同様に、P2地点において、ブラシ状砥石1は、被加工物20から力F2を受ける。力F2をブラシ状砥石1の接線方向及び法線方向に分解すると、接線方向の力を力Ft2、法線方向の力を力Fn2と表わすことができる。被加工物20の回転中心であるP0地点においては、ブラシ状砥石1が被加工物から受ける力は0となる。
【0039】
例えば、P2地点においては、ブラシ状砥石1に対して、力Ft2とは反対方向に、ブラシ状砥石1が被加工物20に乗り上げる際に発生する抵抗力Frが働く。回転する被加工物20にブラシ状砥石1を接触させた際に、P2地点において、ブラシ状砥石1が被加工物20から受ける接線方向への力Ft2が抵抗力Frを上回る場合、つまり、Ft2>Frの場合、P2地点においては、ブラシ状砥石1を回転させるように力が働くことになる。一方、P2地点において、ブラシ状砥石1が被加工物20から受ける接線方向への力Ft2が抵抗力Frを下回る場合、つまり、Ft2<Frの場合、P2地点においては、ブラシ状砥石1を回転させる力が働かないことになる。
【0040】
ここでは、P2地点において、ブラシ状砥石1が被加工物20から受ける力Fと、乗り上げの際に発生する抵抗力Frの関係について述べたが、被加工物20とブラシ状砥石1の接触面の全てにおいて、ブラシ状砥石1が被加工物20から受ける力Fと、乗り上げの際に発生する抵抗力Frが発生する。ブラシ状砥石1が回転するか、或いは、回転しないかについては、被加工物20とブラシ状砥石1の接触面において、ブラシ状砥石1が被加工物20から受ける接線方向への力Ftの総和ΣFtと、被加工物20とブラシ状砥石1の接触面において発生する抵抗力Frの総和ΣFrのいずれが大きくなるかにより決まる。接線方向への力Ftの総和ΣFtが、抵抗力Frの総和ΣFrよりも大きくなる場合、ブラシ状砥石1は回転し、接線方向への力Ftの総和ΣFtが、抵抗力Frの総和ΣFrよりも小さくなる場合、ブラシ状砥石1は回転しない。
【0041】
ブラシ状砥石1が被加工物20に乗り上げる際に発生する抵抗力Frは、主にブラシ状砥石1の被加工物20への切込み量によって調整することができる。切込み量が増加すれば、抵抗力Frも増加する。なお、本明細書において、切込み量とは、ブラシに応力がかかることなくブラシ状砥石の先端面が被加工物に接している状態から、ブラシ状砥石をさらに被加工物に押し付けた際における、ブラシ状砥石の先端面の移動量のことをいう。
図7は、ブラシ状砥石の先端面を被加工物に接触させた後、ブラシ状砥石をさらに被加工物に押し付けた状態を表す模式図である。
図7において、長さDが切込み量に相当する。
【0042】
本実施の形態では、被加工物20のエッジ部分のバリ取りを行なう場合に、ブラシ状砥石1におけるバリ取り作用が発生する部分と、被加工物20から駆動力が伝達される部分とが異なる。
図8は、ブラシ状砥石1における、バリ取り作用が発生する部分と、被加工物20から駆動力が伝達される部分を表す模式図である。
図8では、被加工物20の径とブラシ状砥石1の径は同一である。図中の矢印は回転方向を表し、被加工物20は右回りに回転をし、ブラシ状砥石1は左回りに回転している。
図8において、バリ取り作用が発生する部分は、ブラシ状砥石1が被加工物20に乗り上げるA地点であり、被加工物20からブラシ状砥石1へと駆動力が伝達される部分は、a地点、b地点、及びc地点など、ブラシ状砥石1が被加工物の端面20aと接触している地点である。
【0043】
図9は、ブラシ状砥石1を被加工物20の回転方向と同方向に回転させようとする力の大きさと、被加工物20の回転方向とは逆方向に回転させようとする力の大きさの分布を示す模式図である。
図9では、被加工物20の径とブラシ状砥石の径は同一であり、被加工物20は右回りに回転をしている。破線状の曲線31は、ブラシ状砥石1に働く力の方向と大きさの分布を示すイメージ曲線である。
【0044】
曲線31は、ブラシ状砥石1のP1とP2を結ぶ円周上の各地点において、ブラシ状砥石1をA方向に回転させようとする力が働く場合は、該円周よりも左側に破線を描き、ブラシ状砥石1をB方向に回転させようとする力が働く場合は、該円周よりも右側に破線を描いたものである。また、曲線31は、A方向に回転させようとする力又はB方向に回転させようとする力が大きくなればなるほど、ブラシ状砥石1の円周から水平方向のより離れた位置に、曲線を描いたものである。
【0045】
図9において、ブラシ状砥石1の円周と、ブラシ状砥石1の円周外部にある曲線31とで挟まれた領域の面積をRaとし、ブラシ状砥石1の円周と、ブラシ状砥石1の円周内部にある曲線31とで挟まれた領域の面積をRbとした場合、Ra>Rbならば、ブラシ状砥石1はA方向に回転し、Ra<Rbならば、ブラシ状砥石1はB方向に回転する。Ra=Rbならば、ブラシ状砥石1は回転しない。ブラシ状砥石1が、被加工物20の回転方向と同方向に回転する場合、ブラシ状砥石1と被加工物20との接触点において滑りが生じるため、被加工物20の回転とブラシ状砥石1の回転は同期せず、その結果、ブラシがけの効果を十分に得ることができ、バリ取り及び研磨作業の効率、精度を向上させることができる。また、ブラシ状砥石1が、被加工物20の回転方向と逆方向に回転する場合、被加工物20とブラシ状砥石1間の摩擦力を大きくすることができ、バリ取り、研磨の効率を向上させることができる。
【0046】
被加工物20の回転軸と直交する被加工物の端面20aからブラシ状砥石1を被加工物20に接触させる場合、ブラシ状砥石1が、被加工物20の回転方向と同方向に回転するか、被加工物20の回転方向と逆方向に回転するかは、被加工物20の径とブラシ状砥石1の径の大小関係や、ラップ率、切込み量によって異なる。例えば、被加工物20の径がブラシ状砥石1の径と同一の場合、ラップ率が100%未満だと、ブラシ状砥石1は被加工物20の回転方向と逆方向に回転しようとし、ラップ率が100%だと、ブラシ状砥石1は回転せず、また、ラップ率が100%を超えると、ブラシ状砥石1は被加工物20の回転方向と同方向に回転しようとする。
【0047】
図10は、被加工物20とブラシ状砥石1を同径とし、被加工物20を右回りに回転させ、ラップ率を50%として、被加工物20の回転軸と直交する被加工物の端面20aからブラシ状砥石1を被加工物20に接触させた状態を表す模式図である。また、
図11は、被加工物20とブラシ状砥石1を同径とし、被加工物20を右回りに回転させ、ラップ率を58.58%として、被加工物20の回転軸と直交する被加工物の端面20aからブラシ状砥石1を被加工物20に接触させた状態を表す模式図である。これらの場合、ブラシ状砥石1には、被加工物20の回転により、左回り方向(被加工物20の回転方向と逆方向)へ回転させようとする力が働く。この力が、ブラシ状砥石1が被加工物20に乗り上げる際に発生する抵抗力Frの総和よりも大きくなれば、ブラシ状砥石1は、左回り方向へと回転する。ブラシ状砥石1の回転数は、被加工物の回転数や、切込み量によって制御できる。
【0048】
図12は、被加工物20とブラシ状砥石1を同径とし、被加工物20を右回りに回転させ、ラップ率を150%として、被加工物20の回転軸と直交する被加工物の端面20aからブラシ状砥石1を被加工物20に接触させた状態を表す模式図である。この場合、ブラシ状砥石1には、被加工物20の回転により、右回り方向(被加工物の回転方向と同方向)へ回転させようとする力が働く。この力が、ブラシ状砥石1が被加工物20に乗り上げる際に発生する抵抗力Frの総和よりも大きくなれば、ブラシ状砥石1は、右回り方向へと回転する。ブラシ状砥石1の回転数は、被加工物20の回転数や、切込み量によって制御できる。
【0049】
(第二の実施の形態)
第一の実施の形態では、ブラシ状砥石1を、被加工物20の回転軸に沿った方向から、被加工物の端面20aに接触させて加工する方法について述べたが、第二の実施の形態では、ブラシ状砥石1を、被加工物の側面20bに接触させて加工する方法について、説明する。第二の実施の形態に係る加工方法では、ブラシ状砥石1を回転運動する被加工物の側面20bと接触させることで、ブラシ状砥石1を回転させ、被加工物の側面20bに存在するバリや凹凸を除去する。
【0050】
図13は、ブラシ状砥石1を被加工物の側面20bから接触させた状態を、側面側から見た場合の模式図である。第二の実施の形態において、加工の対象となる被加工物20の形状は、特に限定されないが、例えば、
図13のように、円柱状の被加工物20を用いることができる。被加工物20は、回転軸Wを中心にして回転する。
図13では、ブラシ状砥石1の先端面と被加工物の側面20bとが平行にならないように(つまり、ブラシ状砥石1の先端面と被加工物の側面20bの接平面とが平行にならないように)、ブラシ状砥石1の先端面が被加工物の側面20bに対して傾きを有するように、先端面の一部のみが被加工物の側面20bと接触している。
図13において、被加工物20は手前側の方向、或いは、奥行き側の方向に回転しており、ブラシ状砥石1の先端面の左端部に、手前側の方向、或いは、奥行き側の方向に運動エネルギーが与えられることによって、ブラシ状砥石1が回転する。この場合、被加工物20の側面20bの、ブラシ状砥石1と接触している位置を変えることで、側面20bを広範囲に研磨することも可能である。
【0051】
一方、
図14は、ブラシ状砥石1を被加工物の側面20bから接触させた状態を、被加工物の端面側から見た場合の模式図である。
図14では、被加工物20は円柱状であり、回転軸Wを中心にして回転する。
図14では、ブラシ状砥石1の先端面と被加工物の側面20bとが平行となるように(つまり、ブラシ状砥石1の先端面と被加工物の側面20bの接平面とが平行になるように)、ブラシ状砥石1の先端面と被加工物の側面20b及び端面20aのエッジ部分とが接触し、かつ、ブラシ状砥石1の先端面の最も手前側の端部が被加工物20と接触しないように、先端面の一部のみが被加工物の側面20bと接触している。
図14において、被加工物20は右回りに回転しており、被加工物の側面20bと接触しているブラシ状砥石1の先端面に、右側の方向に運動エネルギーが与えられることによって、ブラシ状砥石1が回転する。
図14のように被加工物の側面20bのエッジ部分に存在するバリを除去する場合、バリ取り作用が発生する部分はブラシ状砥石1が被加工物の側面20bに乗り上げる地点であり、被加工物20からブラシ状砥石1へと駆動力が伝達される部分は、ブラシ状砥石1が被加工物の側面20bと接触している地点である。
【0052】
被加工物20が円柱状である場合に、ブラシ状砥石1の先端面と被加工物の側面20bとが平行になるようにして(つまり、ブラシ状砥石1の先端面と被加工物の側面20bの接平面とが平行になるようにして)、ブラシ状砥石1を被加工物の側面20bに接触させた場合、ブラシ状砥石1の先端面の全面が側面20bと接触していると、ブラシ状砥石1は回転しない。ブラシ状砥石1が回転するためには、
図13や
図14のように、ブラシ状砥石1の先端面と被加工物の側面20bとが平行にならないように接触しているか、或いは、ブラシ状砥石1の先端面と被加工物の側面20bが平行になるように接触していたとしても、ブラシ状砥石1の先端面の一部のみが被加工物の側面20bに接触していることが条件となる。つまり、被加工物20の運動によって、ブラシ状砥石1を回転させるためには、ブラシ状砥石1の先端面における回転中心を通り、かつ、ブラシ状砥石が被加工物から受ける力の向きと平行な直線を対称軸として定義した場合に、ブラシ状砥石1における被加工物20との接触面が、対称軸に対して非線対称となることが条件となる。
【0053】
(第三の実施の形態)
第一の実施の形態及び第二の実施の形態では、被加工物20が回転運動する場合の加工方法について述べたが、第三の実施の形態では、被加工物20が固定され、ブラシ状砥石1が公転運動する場合の加工方法について、説明する。
【0054】
図15は、本発明の加工方法にかかる第三の実施の形態を表す模式図である。
図15において、被加工物20は固定されている。ブラシ回転機構13とシャフト14の一方の端部とは、シャフト14の長手方向を回転軸として回転可能なように連結している。シャフト14の他方の端部は、連結部15を介して、研磨機用ブラシの被固定部10と連結している。研磨機用ブラシのその他の構成は、上述の通りである。本発明の加工方法にかかる第三の実施の形態では、ブラシ回転機構13がシャフト14を回転させ、シャフト14から被固定部10へとその回転力を伝達させることによって、連結部15を公転軸としてブラシ状砥石1を公転運動させる。ブラシ状砥石1を公転運動させながら、ブラシ状砥石1と被加工物20のエッジ部分とを接触させることで、ブラシ状砥石1をブラシ状砥石1の回転軸に沿って回転させ、被加工物20を加工することができる。ブラシ状砥石1が回転しながら被加工物20に接触することにより、ブラシ状砥石1における被加工物20との接触点が一定とはならないため、バリ取り、研磨の効果を十分に得ることができ、かつ、ブラシ状砥石1の一部分だけが極端に磨耗するといったことを防ぎ、ブラシ状砥石1の寿命を長くすることが可能である。
【0055】
ブラシ回転機構13としては、シャフト14を回転させることができるものであれば特に限定されず、例えば、ブラシ付きモータ、ブラシレスモータ、ステッピングモータなど公知のモータを使用することができる。
【0056】
(第四の実施の形態)
本発明にかかる第四の実施の形態は、被加工物22を直線運動させながら、研磨機用ブラシ12を研磨具として用いて、被加工物22を加工する方法である。
【0057】
図16は、第四の実施の形態にかかる、加工方法の一例を示す模式図である。
図16は、直線運動する被加工物22にブラシ状砥石1を接触させた場合の図であり、
図16(a)は、ブラシ状砥石1を接触させた方向から見た図であり、
図16(b)は、該方向に垂直な方向から見た図である。第四の実施の形態において、加工の対象となる被加工物22の形状は、特に限定されないが、例えば、
図16のように、直方体状の被加工物22を用いることができる。被加工物22は、左側方向へと直線運動する。
図16(a)及び(b)では、ブラシ状砥石1の先端面と被加工物22の上面とが平行になるように(つまり、ブラシ状砥石1の先端面と被加工物22の上面の接平面とが平行になるように)、被加工物22の上面における、被加工物22が直線運動する向きと平行な辺により形成されるエッジ部分とブラシ状砥石1の先端面とが接触するように、先端面の一部のみが被加工物22の上面と接触している。
図16(b)において、ブラシ状砥石1の先端面の手前側端部は、被加工物22と接触していない。
図15において、ブラシ状砥石1の先端面における被加工物22との接触部分に、左側の方向に運動エネルギーが与えられることによって、ブラシ状砥石1が回転する。なお、被加工物22は、一方向だけに直線運動をするようにしても良いし、左右へと往復運動するようにしてもよい。被加工物22が、ブラシ状砥石1が備えられた箇所を往復するように直線運動することで、バリ取り効果を向上させることができる。
【0058】
被加工物22とブラシ状砥石1との接触方法は、特に限定されないが、ブラシ状砥石の回転力を上げ、バリ取り効果を向上させるという観点からは、ブラシ状砥石の先端面における回転中心を通り、かつ、ブラシ状砥石が被加工物22から受ける力の向きと平行な直線を対称軸とした場合に、ブラシ状砥石における被加工物との接触領域が、非線対称となることが好ましい。
【0059】
ブラシ状砥石1は、回転把持部7及び固定治具8を備える工具ホルダ11によって、把持される。工具ホルダ11を工作機械に固定する方法としては、特に限定されず、例えば、工作機械に工具ホルダ11をネジ止めすることなどが挙げられる。
【0060】
ブラシ状砥石1を直線運動する被加工物22に接触させ、被加工物22から受ける力によってブラシ状砥石1を回転させて、被加工物22を加工する。ブラシ状砥石1における被加工物22との接触点が一定とはならないため、バリ取り、研磨の効果を十分に得ることができ、かつ、ブラシ状砥石1の一部分だけが極端に磨耗するといったことを防ぎ、ブラシ状砥石1の寿命を長くすることが可能である。
【0061】
被加工物22の直線運動を受けてブラシ状砥石が回転することによりバリ取り、研磨効果を発揮するため、ブラシ状砥石が回転するように切込み量と被加工物の直線運動の速度を調整することが望ましい。被加工物22における直線運動の速度としては、特に限定はされないが、5m/分以上が好ましく、20m/分以上がより好ましい。
【0062】
第四の実施の形態にかかる加工方法は、例えば、被加工物22を搬送する場合などに、被加工物22を搬送する際の直線運動を利用して、ブラシ状砥石1を回転させ、バリ取りを行なうことができる。また、サーボモータなどの駆動源を備えたボールねじ直動ユニットによって被加工物22を往復運動させる場合などにも、被加工物22の直線運動を利用して、ブラシ状砥石1を回転させ、バリ取りを行なうことが可能である。
【0063】
(第五の実施の形態)
第四の実施の形態では、被加工物20が直線運動する場合の加工方法について述べたが、第五の実施の形態では、被加工物20が固定され、ブラシ状砥石1が直線運動する場合の加工方法について、説明する。
【0064】
図17は、本発明の加工方法にかかる第五の実施の形態を表す模式図である。
図17は、固定された被加工物22に、ブラシ状砥石1を直線運動させながら接触させた場合の図である。
図17において、ボールねじ直動ユニット16は、サーボモータ17とスライドブロック18を備えている。ブラシ状砥石1は、回転把持部(図示せず)によって回転可能に把持されており、回転把持部は、スライドブロック18と連結されている。
図17では、ブラシ状砥石1の先端面と被加工物22の上面とが平行になるように(つまり、ブラシ状砥石1の先端面と被加工物22の上面の接平面とが平行になるように)、被加工物22の上面における、ブラシ状砥石1が直線運動する向きと平行な辺により形成されるエッジ部分とブラシ状砥石1の先端面とが接触するように、先端面の一部のみが被加工物22の上面と接触している。
図17において、ブラシ状砥石1の先端面の左側端部は、被加工物22と接触していない。
図17では、サーボモータ16を駆動源として、ブラシ状砥石1が図中の矢印の方向に直線運動することによって、ブラシ状砥石1の先端面における被加工物22との接触部分に、ブラシ状砥石1を反時計回りに回転させるエネルギーが与えられ、ブラシ状砥石1が回転する。なお、ブラシ状砥石1は、一方向だけに直線運動をするようにしても良いし、往復運動するようにしてもよい。ブラシ状砥石1が、被加工物22のエッジ部分を往復するように直線運動することで、バリ取り効果を向上させることができる。なお、図示はしないが、回転把持部を固定冶具と連結させ、固定冶具とスライドブロック18とを連結させるように構成しても良い。
【実施例】
【0065】
(実施例1)
径100mmの被加工物と、径100mmのブラシ状砥石を用いて、切込み量0.1mm、被加工物の回転数2000rpmの条件で、ラップ率を変更しながら、被加工物の端面とブラシ状砥石とを接触させた。各ラップ率におけるブラシ状砥石の回転方向、及び被加工物への研磨効果を評価した。結果を表1に示す。表1において、W径は被加工物の径を示し、B径はブラシ状砥石の径を示す。また、「○」は被加工物の端面、及びそのエッジ部分に対するバリ取り・研磨効果があった場合を示し、「NA」はブラシ状砥石が被加工物の端面、及びそのエッジ部分に作用せず、バリ取り・研磨効果がなかったことを示し、「×」はブラシ状砥石が回転しなかったことを示す。
【0066】
(実施例2及び3)
被加工物の径と、ブラシ状砥石の径を、表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、被加工物の端面とブラシ状砥石とを接触させた。各ラップ率におけるブラシ状砥石の回転方向、及び被加工物へのバリ取り・研磨効果についての評価を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
(実施例4及び5)
被加工物の径と、ブラシ状砥石の径を、表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、被加工物の端面とブラシ状砥石とを接触させた。各ラップ率におけるブラシ状砥石の回転方向、及び被加工物への研磨効果についての評価を表2に示す。なお、実施例4における最も高いラップ率は120%であり、実施例5における最も高いラップ率は50%であり、両者ともに、上方視で、ブラシ状砥石全体が被加工物の内部にある場合である。
【0069】
【表2】