【文献】
GRAY, N.E. et al.,Caffeoylquinic Acids in Centella asiatica Protect against Amyloid-β Toxicity,Journal of Alzheimer's Disease,2014年,Vol.40,p.359-373,ISSN 1387-2877
【文献】
宮前友策ら,カフェオイルキナ酸のアミロイドβ凝集阻害活性及び分子機構,天然有機化合物討論会講演要旨集,2011年,Vol.53,p.67-72,ISSN 2433-1856
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は記憶・学習や理解・判断などの認知機能の障害を主な症状とする神経変性疾患である。アルツハイマー病がおよそ70%を占める認知症は、高齢者の要介護、要支援に至る主な要因のうち、脳血管疾患や骨折・転倒に次いで3番目に多い要因となっていることが報告されており(平成25年度厚生労働省国民生活基礎調査)、また、その患者数は高齢化に伴って今後も世界的に急速に増加すると予測されていることから早急な対策が求められている。しかしながら、現在のところアルツハイマー病には有効な予防、治療法がなく、新たな化合物や予防・治療方法の開発が求められている。
【0003】
アルツハイマー病の病理学的特徴は老人斑及び神経原線維変化であり、老人班はアミロイドβタンパク質が凝集及び線維化して細胞外に蓄積したものであることが明らかにされて以来、その発症及び病態進行の中核をなす機構としてアミロイド仮説が注目されている。アミロイド前駆体タンパク質(APP)が酵素反応によって段階的に切断されてアミロイドβが産生され、それらが細胞外で不溶化、凝集・蓄積して神経伝達など、神経機能に障害をもたらすことで症状が進行しアルツハイマー病が発症する(非特許文献1)。
【0004】
アミロイドβはその詳細な役割は明らかとなっていないものの、健常者でも加齢に伴ってその産生は増加することが知られている。アミロイドβは脳内及び末梢組織で産生されるが、脳内の濃度はホメオスタシス機構の働き、特に、脳から末梢へのクリアランス機構によって低く抑えられている。アミロイドβのクリアランスには様々な経路が存在するが、代表的なものとしては脳血管に存在する輸送体low-density lipo-protein receptor-related protein(LRP1)などを介した排出機構が知られている。すなわち脳内のアミロイドβの産生、排出を適切に保つホメオスタシスを維持することが健康な脳機能の維持には重要であり、何らかの原因によりこうした機構が破綻してしまうとアルツハイマー病の発症につながると考えられている(非特許文献2)。
【0005】
従来、及び現在開発中のアミロイドβの産生に端を発するアルツハイマー病の予防及び治療方法は、そのほとんどがアミロイド仮説に基づいており、APPの切断酵素阻害、アミロイドβの中和、アミロイドβの凝集阻害、分解促進などを中心に物質探索が行われている。例えば、天然物由来成分である、フラボノイドのケルセチンやケンフェロールにアミロイドβの凝集阻害作用があること(特許文献1)、ウンカリア属植物エキスから単離された化合物に凝集アミロイドβの分解作用があること(特許文献2)等が報告されている。
しかしながら、アミロイドβの産生抑制や凝集抑制作用のみでは既に蓄積したアミロイドβを除去することが難しく、また、アミロイドβを分解してもそれらを排出することができなければ治療の効果を得ることは困難である。またアミロイドβの抗体療法も副作用の出現等もあり、これまでにこれらの手法によってアルツハイマー病に対して明確な有効性が認められるまでに至っていない。
【0006】
一方、クロロゲン酸類は、植物においてはコーヒー豆やじゃがいも等に見出され、これまでに抗酸化作用、血圧降下作用等が報告されている(特許文献3)。また、2個のカフェ酸がエステル結合したジ−O−カフェオイルキナ酸に神経細胞保護作用があることが報告されている(特許文献4)。
【0007】
しかしながら、クロロゲン酸類に、アミロイドβの分解及び排出促進作用があることは知られていない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明における「クロロゲン酸類」とは、3−カフェオイルキナ酸(3-CQA)、4−カフェオイルキナ酸(4-CQA)及び5−カフェオイルキナ酸(5-CQA)のモノカフェオイルキナ酸と、3−フェルロイルキナ酸(3-FQA)、4−フェルロイルキナ酸(4-FQA)及び5−フェルロイルキナ酸(5-FQA)のモノフェルロイルキナ酸の総称である。クロロゲン酸類の含有量は上記6種の合計量に基づいて定義される。
本発明の「クロロゲン酸類」は、上記6種のクロロゲン酸類のうち少なくとも1種を含有すればよいが、アミロイドβの分解排出促進作用の点から、モノカフェオイルキナ酸を含むのが好ましく、少なくとも5−カフェオイルキナ酸を含むのがより好ましい。5−カフェオイルキナ酸の含量は、クロロゲン酸類中10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上が更に好ましい。
【0016】
クロロゲン酸類は、塩の形態でもよく、塩としては薬学的に許容される塩、例えばナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン塩、アルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン等の塩基性アミノ酸塩等が挙げられる。
【0017】
本発明のクロロゲン酸類又はその塩は、これを含む植物の抽出物、その濃縮物又はそれらの精製物等を使用することができる。このような植物抽出物としては、例えば、ヒマワリ種子、リンゴ未熟果、コーヒー豆、シモン葉、マツ科植物の球果、マツ科植物の種子殻、ジャガイモ、カンショ、サトウキビ、小麦、南天の葉、ゴボウ、ニンジン、キャベツ、レタス、アーチチョーク、トマト、モロヘイヤ、ナスの皮、ナシ、プラム、モモ、アプリコット、チェリー、ウメの果実、フキタンポポ、ブドウ科植物等から抽出されたものが挙げられる。なかでも、クロロゲン酸類含量等の点から、コーヒー豆抽出物が好ましく、深焙煎コーヒー豆(L値:16.8以下)でもよいが、中焙煎コーヒー豆(L値:16.8を超え24.2以下)、浅焙煎コーヒー豆(L値:24.2を超え30.2以下)、微焙煎コーヒー豆(L値:30.2を超える)又は生コーヒー豆がより好ましく、生コーヒー豆が更に好ましい。ここで、「L値」とは、黒をL値0とし、また白をL値100として、焙煎コーヒー豆の明度を色差計で測定したものである。コーヒーの木の種類としては、アラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種及びアラブスタ種のいずれでもよい。
【0018】
コーヒー豆抽出物は、カフェインを除去したものが好ましく、カフェインとクロロゲン酸類との質量比(カフェイン/クロロゲン酸類)が、風味の観点から0.05以下が好ましく、0.03以下がより好ましく、0.02以下が更に好ましく、0.005以下が更に好ましく、0.003以下が更に好ましく、0.001以下が更に好ましい。なお、カフェイン/クロロゲン酸類の比の下限は特に限定されず、0であってもよい。
コーヒー豆抽出物は、カリウム(K)とナトリウム(Na)の和とクロロゲン酸類との質量比〔(K+Na)/クロロゲン酸類〕が風味の観点から、0.18以下、更に0.14以下、更に0.1以下、殊更に0.06以下が好ましい。なお、質量比〔(K+Na)/クロロゲン酸類〕の下限は特に限定されず、0であってもよいが、生産効率の観点から、0.0001、更に0.001が好ましい。
【0019】
本発明で用いられるコーヒー豆抽出物の好ましい例としては、カフェインとクロロゲン酸類との質量比(カフェイン/クロロゲン酸類)が、0.02以下、且つクロロゲン酸類全量中の5−カフェオイルキナ酸の含量(5−CQA/全クロロゲン酸類)が40質量%以上の生コーヒー豆抽出物が挙げられる。より好ましい例としては、(カフェイン/クロロゲン酸類)が0.001以下、且つ(5−CQA/全クロロゲン酸類)が40質量%以上の生コーヒー豆抽出物が挙げられる。
【0020】
本発明のクロロゲン酸類又はその塩の抽出、濃縮、精製の方法・条件は特に限定されず、公知の方法及び条件を採用することができる。なかでも、アスコルビン酸水溶液、クエン酸水溶液又は熱水による抽出が好ましい。
また、クロロゲン酸類又はその塩の原料として市販のクロロゲン酸類含有製剤を使用してもよく、例えば、フレーバーホルダーRC(長谷川香料(株))、生コーヒー豆エキスP(オリザ油化社製)、スベトール(Nurex Inc.製)、OXCH100(東洋発酵社製)等が挙げられる。
【0021】
後記実施例に示すように、クロロゲン酸類は、凝集アミロイドβの分解作用を有し、併せて、海馬においてアミロイドβ排出輸送体遺伝子(LRP1遺伝子及びp−gp遺伝子)の発現を増強し、アミロイドβの脳内蓄積を抑制する。さらに、クロロゲン酸類は、アルツハイマー病モデル動物において記憶学習能力改善効果を発揮することが確認された。
従って、クロロゲン酸類又はその塩は、アミロイドβ分解排出促進剤、アルツハイマー病の予防、治療又は改善剤となり得、アミロイドβの分解及び排出を促進するため、アルツハイマー病を予防、治療又は改善するために使用することができ、またアミロイドβ分解排出促進剤、アルツハイマー病の予防、治療又は改善剤を製造するために使用することができる。
ここで、「使用」は、ヒト若しくは非ヒト動物への投与又は摂取であり得、また治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。尚、「非治療的」とは、医療行為を含まない概念、すなわち人間を手術、治療又は診断する方法を含まない概念、より具体的には医師又は医師の指示を受けた者が人間に対して手術、治療又は診断を実施する方法を含まない概念である。
【0022】
本発明において、「アミロイドβの分解排出促進」とは、脳内に蓄積した凝集アミロイドβタンパク質の分解を促進し、且つアミロイドβタンパク質の脳内からの排出を促進して脳内蓄積を抑制することを意味する。
また、本発明において「アルツハイマー病」とは、脳内でのアミロイドβの増加・蓄積に起因する認知障害(記憶障害、見当識障害、学習障害、注意障害、空間認知機能等)及び人格の変化、また、社会的に適応できなくなる等の症状を呈する痴呆性疾患を意味する。
【0023】
本明細書において、「予防」とは、個体における疾患若しくは症状の発症の防止又は遅延、あるいは個体の疾患若しくは症状の発症の危険性を低下させることをいう。
また、「改善」とは、疾患、症状又は状態の好転、疾患、症状又は状態の悪化の防止又は遅延、あるいは疾患又は症状の進行の逆転、防止又は遅延をいう。
また、「治療」には、疾患の完全治癒に加えて、症状を改善することが包含される。
【0024】
本発明のアミロイドβ分解排出促進剤及びアルツハイマー病の予防、改善又は治療剤は、それ自体、アミロイドβの分解排出促進、又はアルツハイマー病を予防、改善又は治療するための医薬品、医薬部外品、サプリメント又は食品であってもよく、或いは当該医薬品、医薬部外品、又は食品に配合して使用される素材又は製剤であってもよい。
当該食品には、アミロイドβの分解排出促進やアルツハイマー病の予防又は改善をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した食品、機能性食品、病者用食品、特定保健用食品、サプリメントが包含される。これらの食品は機能表示が許可された食品であるため、一般の食品と区別することができる。
【0025】
上記医薬品(医薬部外品も含む)の投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与、又は注射剤、坐剤、吸入薬等による非経口投与が挙げられる。また、このような種々の剤型の製剤は、本発明のクロロゲン酸類又はその塩を単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤、本発明のクロロゲン酸類又はその塩以外の薬効成分等を適宜組み合わせて調製することができる。これらの投与形態のうち、好ましい形態は経口投与である。
【0026】
上記食品の形態としては、清涼飲料水、茶系飲料、コーヒー飲料、果汁飲料、炭酸飲料、ゼリー、ウエハース、ビスケット、パン、麺、ソーセージ等の飲食品や栄養食等の各種食品の他、さらには、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)の栄養補給用組成物が挙げられる。
【0027】
種々の形態の食品は、本発明のクロロゲン酸類又はその塩を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、酸味料、甘味料、苦味料、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤、クロロゲン酸類又はその塩以外の有効成分等を適宜組み合わせて調製することができる。
【0028】
上記の医薬品(医薬部外品を含む)や食品中の本発明のクロロゲン酸類又はその塩の含有量は、その使用形態により異なるが、通常、クロロゲン酸類として総量中好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上であり、また、好ましくは90質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。また、好ましくは0.001〜90質量%、より好ましくは0.01〜60質量%、更に好ましくは0.1〜30質量%である。
【0029】
上記医薬品(医薬部外品も含む)及び食品の投与量又は摂取量は、適宜決定され得るが、通常、成人(60kg)に対して1日あたり、クロロゲン酸類として、好ましくは100mg以上、より好ましくは300mg以上であり、また、好ましくは3000mg以下、より好ましくは1000mg以下である。本発明では斯かる量を1回で投与又は摂取するのが好ましい。
【0030】
上記製剤は、任意の計画に従って投与又は摂取され、投与又は摂取期間は特に限定されないが、反復・連続して投与又は摂取することが好ましく、7日間以上連続して投与又は摂取することがより好ましく、28日間以上連続して投与又は摂取することが更に好ましい。
【0031】
投与又は摂取対象としては、認知機能低下の予防又は改善を必要とする若しくは希望するヒト又は非ヒト動物であれば特に限定されないが、ヒトにおける投与又は摂取が有効である。ここで言う認知機能の低下とは、アルツハイマー病に代表される認知機能障害に見られる症状のことであり、例えば、記憶・学習障害(新しい情報を獲得し、記憶にとどめておく能力の障害)や、推論、複雑な仕事の取り扱いの障害や乏しい判断力、視空間認知障害、言語障害、人格、行動あるいは振る舞いの変化などを伴い、仕事や日常活動に支障を来したり、遂行機能が低下した状態を言う。また、こうした認知機能の低下の予防を必要とする若しくは希望するヒトとは、例えば、国際的に最も広く用いられる認知機能テストのミニメンタルステート検査(MMSE)において27〜30点の健常者のことを言い、また、認知機能の低下の改善を必要とする若しくは希望するヒトとは、上述の検査にて22〜26点の軽度認知障害の疑いがあるヒト、及び21点以下の認知症などの認知障害がある可能性が高いヒトが含まれる。
【0032】
上述した実施形態に関し、本発明においては以下の態様が開示される。
<1>クロロゲン酸類若しくはその塩、又はこれを含む植物抽出物を有効成分とするアミロイドβ分解排出促進剤。
<2>クロロゲン酸類若しくはその塩、又はこれを含む植物抽出物を有効成分とするアルツハイマー病の予防、治療又は改善剤。
<3>クロロゲン酸類若しくはその塩、又はこれを含む植物抽出物を有効成分とするアミロイドβ分解排出促進用食品。
<4>クロロゲン酸類若しくはその塩、又はこれを含む植物抽出物を有効成分とするアルツハイマー病の予防又は改善用食品。
【0033】
<5>アミロイドβ分解排出促進剤を製造するための、クロロゲン酸類若しくはその塩、又はこれを含む植物抽出物の使用。
<6>アルツハイマー病の予防、治療又は改善剤を製造するための、クロロゲン酸類若しくはその塩、又はこれを含む植物抽出物の使用。
<7>アミロイドβ分解排出促進用食品を製造するための、クロロゲン酸類若しくはその塩、又はこれを含む植物抽出物の使用。
<8>アルツハイマー病の予防又は改善用食品を製造するための、クロロゲン酸類若しくはその塩、又はこれを含む植物抽出物の使用。
【0034】
<9>アミロイドβの分解排出促進に使用するための、クロロゲン酸類若しくはその塩、又はこれを含む植物抽出物。
<10>アルツハイマー病の予防、治療又は改善に使用するための、クロロゲン酸類若しくはその塩、又はこれを含む植物抽出物。
【0035】
<11>クロロゲン酸類若しくはその塩、又はこれを含む植物抽出物を、それらを必要とする対象に有効量で投与又は摂取するアミロイドβの分解排出促進方法。
<12>クロロゲン酸類若しくはその塩、又はこれを含む植物抽出物を、それらを必要とする対象に有効量で投与又は摂取するアルツハイマー病の予防、治療又は改善方法。
【0036】
<13><1>〜<12>において、クロロゲン酸類は少なとも5−カフェオイルキナ酸を含むものである。
【0037】
<14><1>〜<13>において、クロロゲン酸類又はその塩を含む植物抽出物はコーヒー豆抽出物、好ましくは生コーヒー豆抽出物である。
<15><14>において生コーヒー豆抽出物は、好ましくは、カフェインとクロロゲン酸類との質量比(カフェイン/クロロゲン酸類)が、0.02以下、且つクロロゲン酸類全量中の5−カフェオイルキナ酸の含量(5−CQA/全クロロゲン酸類)が40質量%以上であり、より好ましくは、(カフェイン/クロロゲン酸類)が0.001以下、且つ(5−CQA/全クロロゲン酸類)が40質量%以上である。
【0038】
<16><1>及び<5>のアミロイドβ分解排出促進剤、<2>及び<6>のアルツハイマー病の予防、治療又は改善剤、<3>及び<7>のアミロイドβ分解排出促進用食品、<4>及び<8>のアルツハイマー病の予防又は改善用食品における、前記有効成分の含有量は、クロロゲン酸類として総量中好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上であり、また、好ましくは90質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは質量30%以下である。また、好ましくは0.001〜90質量%、より好ましくは0.01〜60質量%、更に好ましくは0.1〜30質量%である。
【0039】
<17><9>〜<10>において、成人1人当たりの1日の投与量は、クロロゲン酸類として、好ましくは100mg以上、より好ましくは300mg以上であり、また、好ましくは3000mg以下、より好ましくは1000mg以下である。
【実施例】
【0040】
製造例1 クロロゲン酸類含有組成物の調製
1)ロブスタ種のコーヒー生豆を熱水にて抽出し、得られた抽出液をスプレードライにて乾燥し、粗クロロゲン酸類含有組成物を得た。該粗クロロゲン酸類含有組成物の組成は、クロロゲン酸類32.3質量%、カフェイン9.8質量%、質量比(カフェイン/クロロゲン類)が0.303、質量比((K+Na)/クロロゲン酸類)が0.24であった。
2)該粗クロロゲン酸類含有組成物189gを、エタノール濃度52.4質量%のエタノール水溶液756g、酸性白土(ミズカエース#600、水澤化学社製)94.5g、ろ過助剤(ソルカフロック、新日鉱プロキュアメント社製)10.7gと混合することによりクロロゲン酸類含有スラリー1051gを得た。該クロロゲン酸類含有スラリーのpHは5.7であった。
3)該クロロゲン酸類含有スラリー1051gをプレコート剤として珪藻土を堆積させた2号濾紙にてろ過し、続いてエタノール濃度52.4質量%のエタノール水溶液189gを通液して、ろ過液1054gを回収した。
【0041】
4)次いで、活性炭(白鷺WH2C、日本エンバイロケミカルズ社製)を132mL充填したカラムと及びH形カチオン交換樹脂(SK1BH、三菱化学社製)を105mL充填したカラムとを連結し、これに、該ろ過液1019gを通液し、続いてエタノール濃度52.4質量%のエタノール水溶液231gを通液して、溶出したカラム処理液1072gを回収した。ろ過液中のクロロゲン酸類に対する活性炭の使用量は、0.81質量倍(g/g)であった。イオン交換樹脂の使用量は、粗クロロゲン酸類含有組成物中の固形分含量に対して0.74(mL/g)であった。
5)該カラム処理液1038gを0.2μmメンブランフィルターにてろ過した後、ロータリーエバポレーターにてエタノールを留去してクロロゲン酸類含有液を225g得た。該クロロゲン酸類含有液の組成は、クロロゲン酸類22.6質量%、カフェイン0.29質量%、質量比(カフェイン/クロロゲン酸類)が0.013、エタノール濃度0質量%で、かつそのpHは3.1であった。
6)該クロロゲン酸類含有液を蒸留水にて希釈し、クロロゲン酸類の濃度を3質量%に調整した。得られた希釈液10gを遠心管にサンプリングした後、3000rpm、15℃、60分の条件にて遠心分離し、上清を凍結乾燥処理して、クロロゲン酸類含有精製コーヒーポリフェノール(CPP)を得た。該CPP中、クロロゲン酸類全量中の5-CQAの含量は45.6%であった。CPP中のクロロゲン酸類の組成比を表1に示した。
【0042】
【表1】
【0043】
実施例1 クロロゲン酸による凝集アミロイドβの分解作用
クロロゲン酸(5−CQA)による直接的な凝集アミロイドの分解活性をチオフラビンT(ThT)蛍光測定法を用いて検討した。
アミロイドβペプチド(Human,1−42,(株)ペプチド研究所)をジメチルスルホキシド(DMSO)にて2.5mMとなるように溶解し、さらに滅菌水にて250μMに調整した後、37℃で7日間インキュベートして凝集反応を促進させた。反応後、凝集させたアミロイドβ(10質量%)にクロロゲン酸(5−CQA, Cayman Chemical)を終濃度1、10、100μMの各濃度で添加し、37℃でさらに7日間インキュベートした。尚、コントロールにはクロロゲン酸の溶媒として用いた0.5%DMSOを加えた。反応終了後、96well プレート(サーモフィッシャー サイエンティフィック)中で50 mM グリシンバッファー(pH8.5)に溶解したThT(シグマ、終濃度5μM)を加え、遮光下で軽く撹拌しながら室温で15分間反応した。反応終了後、蛍光プレートリーダー(Ensight3400,Perkin Elmer)を用いて450nm(励起)/480nm (発光)の蛍光を検出し、アミロイドβの凝集度を測定した。
図1よりクロロゲン酸はその用量依存的に凝集アミロイドの分解活性を有することがわかる。
【0044】
実施例2 クロロゲン酸類継続摂取によるアミロイドβ排出輸送体増加作用
12週齢の雄性C57BL/6マウスを用い、実験群には製造例1で調製したクロロゲン酸類含有精製コーヒーポリフェノール(CPP)を0.5質量% 及び1質量% 配合した標準食を4週間摂取させ、コントロール群には標準食のみを与えた(各n=8)。尚、標準食の組成は、10質量%コーン油、20質量%カゼイン、4質量%セルロース、3.5質量%混合ミネラル、1質量%混合ビタミン、61.5質量%ポテトスターチであり、CPP配合食は、配合するCPP相当量のポテトスターチをCPPに置き換えることで作製した。摂取期間終了後、深麻酔下で海馬を摘出し、摘出した脳組織からRNeasy universal mini kit(QIAGEN)を用いてトータルRNAを抽出した。トータルRNAからHigh Capacity RNA−to−cDNA kit(サーモフィッシャー サイエンティフィック)を用いた逆転写反応(37℃、60分)によりcDNAを合成した。合成したcDNA(100ng)にTaqMan(登録商標)Fast Universal PCR Master Mix(サーモフィッシャー サイエンティフィック)、及びTaqMan(登録商標)Gene Expression Assay(サーモフィッシャー サイエンティフィック)を利用して購入した予めデザインされたプライマー及びプローブを混合し、リアルタイムPCR法によりアミロイドβの排出輸送体であるLow density lipoprotein receptor−related protein 1 (LRP1)、p−glycoprotein(p−gp) の遺伝子発現量を解析した。調べた2種類のアミロイドβ排出輸送体遺伝子の発現量はいずれも、海馬においてコントロール群と比較して、CPPを摂取した場合(実験群)において有意に増加した(
図2)。
【0045】
実施例3 クロロゲン酸類継続摂取によるアミロイドβの脳内蓄積抑制作用
アミロイドβを高発現するアルツハイマー病モデルマウスであるAPP/PS2ダブルトランスジェニックマウス(APP/PS2WTg)の作出には、B6;SJLをバックグランドとしたヒトアミロイド前駆体蛋白質(APP)のK670NとM671L変異(スェーデン型変異)を全身に有するAPP−Tgマウス(Taconic Biosciences)と、C57BL/6Jマウスをバックグラウンドとしたヒトプレセニン2(PS2)のN141変異を全身に有するPS2−Tgマウス(オリエンタル酵母)を使用した。雄性APP−Tgマウス(10週齢以上)より採取した精子と、雌性PS2−Tgマウス(4週齢以上)の卵母細胞を体外受精に供し、APP/PS2WTgマウスを作出した。試験には5週齢の雄性APP/PS2WTgを用い、実験群には製造例1で調製したクロロゲン酸類含有精製コーヒーポリフェノール(CPP)を1質量% 配合した実施例2記載と同様の標準食を20週間摂取させ、コントロール群には標準食のみを与えた(各n=6−8)。摂取期間終了後、深麻酔下で氷冷下の生理食塩水(20mL)、及び4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液(PFA、20mL)で灌流した後、全脳を摘出し、4%PFAに浸漬して4℃で固定した。次いでパラフィンブロックを作製し、背側海馬領域について4μm厚のパラフィン切片を作製した。脳切片は脱パラフィン化し、90%ギ酸に室温で5分間浸し、次にメタノールに0.1%過酸化水素水を加えた溶液に室温で30分間浸して内因性ペルオキシダーゼを不活化させた。PBS/Tween20(PBS−T)で洗浄した後、抗Humanアミロイドβ抗体(1:200、(株)免疫生物研究所)を用いて室温で60分間の一次抗体反応を行った。反応後PBS−で洗浄し、HRP標識ストレプトアビジンを滴下し、室温で5分間反応させた後、DABキット(DAKO)にて発色反応を行った。ヘマトキシリンで核染色を行った後、流水で洗浄し脱水、透徹、封入し、スライドサンプルを作製した。観察は蛍光顕微鏡(BZ−X710:(株)キーエンス)を用いて行い、付属の解析ソフト(BZ-IIアプリケーション)にて染色含有面積(アミロイド蓄積割合)を算出した。1個体につき4枚の切片を作成し、4切片の平均染色含有面積値をその個体の値とした。
観察像(
図3)から脳内のアミロイドβ蓄積がコントロール群と比較してCPP摂取群(実験群)で明らかに減少している様子がわかり、また、アミロイド蓄積割合の算出から、特に記憶に重要な役割を果たす海馬において有意な蓄積の減少が認められた(
図4)。
【0046】
実施例4 クロロゲン酸類継続摂取による記憶学習能力改善作用
実施例3と同様の5週齢の雄性APP/PS2WTg及び、そのバックグラウンド動物である同週齢のC57BL/6(健常対照群)を用い、実験群には製造例1で調製したクロロゲン酸類含有精製コーヒーポリフェノール(CPP)を1質量% 配合した標準食を摂取させ、コントロール群、及び健常対照群には標準食のみを与えた(各n=12−15)。試験食摂取開始18週目より新奇物体認識試験、およびモリス水迷路試験を実施して記憶、学習能力への影響を測定した。視覚的認知機能(長期記憶)を評価する新奇物体認識試験では、マウスをプラスチック製ケージ(W:220×D:320×H:130 mm)に入れ、10分間環境に馴化させた(馴化試行)。翌日、物体(積み木:A1及びA2)を設置したケージ内にマウスを入れ、10分間の行動をビデオに記録した(訓練試行)。訓練試行の2時間後に1つの物体のみ新しい物体(ゴルフボール:B)に換え、再度マウスをケージに入れ、5分間の行動をビデオに記録した(保持試行)。
記録した動画を使用し、訓練試行、保持試行中のマウスの各物体への接触回数を探索回数としてカウンターを用い計測した。物体への総探索回数に対する各物体への探索回数の割合(%)を算出した。
保持試行時の新奇物体への探索割合は健常対照群に比較して、アルツハイマー病モデルAPP/PS2WTgコントロール群では有意に低く、記憶、学習能(視覚的認知機能)の低下が認められた。それに対して1質量%CPPを摂取した実験群ではコントロール群と比較して有意に記憶、学習能(視覚的認知機能)が向上しており、また、健常対照群とほぼ同程度の記憶、学習能(視覚的認知機能)を保持していることが明らかとなった(
図5)。
【0047】
続いて、長期記憶の空間認知機能を評価するモリス水迷路試験では、直径148cmの円形プールに、視覚では識別不可能な透明のプラットホーム(直径12cm)を設置し、プラットホームが水で隠れるように水を張ったプール(水温18℃)を使用した。プラットホームはプールを4分割したうちの1か所(以下、第4象限)の中央に設置し、プールの周囲には空間的手がかりとして電球を設置した。マウスの頭をプールの壁に向けて投入し、プラットホームに到達するまで最大で90秒間遊泳させた。プラットホームに辿り着けなかった場合は、プラットホーム上に30秒間乗せた後に飼育ケージに戻した。これを1日3回、4日間(計12回)行った(習得試行)。5日目にプラットホームを取り外したプールにマウスの頭をプールの壁に向けて投入し、90秒間内にマウスが第4象限(習得試行時にプラットホームが設置されていた象限)に滞在した時間(第4象限遊泳時間)をビデオに記録した(プローブ試行)。
記録した動画は、解析ソフト(EthoVisionXT:ノルダス)を使用し、プローブ試行での第4象限遊泳時間を算出した。
プローブ試行での第4象限遊泳時間は健常対照群に比較して、アルツハイマー病モデルAPP/PS2WTgコントロール群では有意に短く、記憶、学習能(長期記憶の空間認知機能)の低下が認められた。それに対して1質量%CPPを摂取した実験群ではコントロール群と比較して有意に記憶学習能(長期記憶の空間認知機能)が向上しており、また、健常対照群とほぼ同程度の記憶、学習能(長期記憶の空間認知機能)を保持していることが明らかとなった(
図6)。