(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6529821
(24)【登録日】2019年5月24日
(45)【発行日】2019年6月12日
(54)【発明の名称】地盤安定化用粉体混和剤、地盤安定化材料、及びそれを用いた地盤安定化工法
(51)【国際特許分類】
C09K 17/06 20060101AFI20190531BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20190531BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20190531BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20190531BHJP
C04B 24/32 20060101ALI20190531BHJP
C04B 24/16 20060101ALI20190531BHJP
C04B 24/22 20060101ALI20190531BHJP
C04B 24/30 20060101ALI20190531BHJP
C09K 17/10 20060101ALI20190531BHJP
C09K 17/44 20060101ALI20190531BHJP
C09K 17/22 20060101ALI20190531BHJP
B09C 1/02 20060101ALI20190531BHJP
B09C 1/08 20060101ALI20190531BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20190531BHJP
【FI】
C09K17/06 P
C04B22/14 BZAB
C04B28/02
C04B24/26 E
C04B24/32 A
C04B24/16
C04B24/22 A
C04B24/30 B
C09K17/10 P
C09K17/44 P
C09K17/22 P
B09B3/00 304K
E02D3/12 102
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-100303(P2015-100303)
(22)【出願日】2015年5月15日
(65)【公開番号】特開2016-216548(P2016-216548A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2018年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇
(72)【発明者】
【氏名】串橋 巧
(72)【発明者】
【氏名】庄司 慎
(72)【発明者】
【氏名】盛岡 実
【審査官】
柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−066570(JP,A)
【文献】
特開2014−159521(JP,A)
【文献】
特開平09−295843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00
B09B 3/00
B09C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜硫酸カルシウムを含有する石灰硫黄合剤の副産物と、粉体減水剤を有する地盤安定用粉体混和材であり、該粉体減水剤はナフタレン類、メラミン類、アミノスルホン酸類、ポリカルボン酸類またはポリエーテル類からなる群の中から選ばれた1種または2種である、pHが9.0以上、酸化還元電位(ORP)が50mv以下、MgO含有量が0.5%以上である地盤安定化用粉体混和剤。
【請求項2】
セメント100質量部に対し地盤安定化用混和剤を0.01〜10質量部使用する請求項1に記載の地盤安定化用粉体混和剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の地盤安定化用粉体混和剤とセメントを混合してなる地盤安定化用材料。
【請求項4】
請求項3に記載の地盤安定化材料を、土と混合して粘性を低下させる地盤安定化工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中にセメントを注入又は混合し、地盤を硬化、安定化させる地盤安定化用粉体混和剤、地盤安定化材料、及び地盤安定化工法に関する。
【背景技術】
【0002】
軟弱地盤のような不安定な地盤を改良するためには、軟弱な地盤を硬化、安定化させなければならない。この際、セメント系固化材を地盤に混合して固化させる方法がある。このような工法として、地盤改良工法、山留め工法、基礎杭工法、埋め戻し工法などがある。地盤改良工法としては、深層混合処理工法または浅層混合処理工法が代表例であり、山留め工法はソイルセメント柱列壁工法、ソイルセメント地中壁工法、基礎杭工法の代表例は鋼管ソイルセメント杭工法や鋼管の代わりにPH C杭などの既製杭を使用する合成杭工法などである。
【0003】
これらの工法は、セメントを地盤に注入又は混合するとセメント粒子と土の粒子とが電気的作用により互いに凝集するために、粘性が上昇し、施工しずらい課題がある。また、粘性が高いと、注入又は混合したセメントと同体積の地盤と混入したスライムを排泥できず、地盤中で圧力がかかり地盤が隆起し地表面が盤膨れしてしまうという課題があった(非特許文献1参照)。
【0004】
混合土の粘性を低下させるものとして、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、及び/又はポリカルボン酸系化合物等を含有する超高圧噴流注入工法用セメント添加剤が知られている(特許文献1参照)。
しかしながら、これらの超高圧噴流注入工法用セメント添加剤は、砂質土や砂分の多いシルト地盤では、その結果がある程度認められるが、粘性土地盤においては、粘性低下の効果が小さいために多量に添加する必要があり、強度発現性が向上しにくいという課題があった。
さらに、混合土の粘性を低下させるものとして、リン酸塩、アルカリ金属含有物(硫酸塩、亜硫酸塩、炭酸塩、重炭酸塩等)、有機酸、およびアンモニウム塩等を含有する物質を組み合わせたものが知られている(特許文献2〜7参照)。
【0005】
また、近年、セメント産業が各方面の産業副産物を原料に受け入れており、産業副産物に由来する微量成分が、セメントの品質に大きな影響を及ぼし、六価クロムの溶出量などにも大きな違いが出てくる。特許文献8は、CaとSを含む化合物である多硫化カルシウムに生石灰などの固定化材に担持させて、改良処理土の強度の低下をもたらすことなく、有害重金属溶出を著しく抑制する機能を付加した地盤改良材を提供することを目的としている。この文献には、固定化材である生石灰に担持させた後、セメントやセッコウと混合する技術が開示されている。
【0006】
特許文献9は、Ca
8S
5(S
2O
3)(OH)
12・20H
2O及び水酸化カルシウムを主成分とする重金属固定化剤であり、多硫化カルシウムとして市販の石灰硫黄合剤を用いることが記載されている。
しかしながら、これら文献では、混合土の粘性を低下させる効果が少なかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】坪井 直道著、薬液注入工法の実際、第5〜9頁、昭和56年3月25日、鹿島出版会、改訂版第2刷発行
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平06−127993号公報
【特許文献2】特開平05−254903号公報
【特許文献3】特開平06−206747号公報
【特許文献4】特開平07−206495号公報
【特許文献5】特開平07−069695号公報
【特許文献6】特開2004−143041号公報
【特許文献7】特開平09−194835号公報
【特許文献8】特開2001−342461号公報
【特許文献9】特開2004−33839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記課題を解決すべく種々検討を行った結果、高い粘性低減効果の付与と六価クロムの溶出量を抑えることが可能となる、地盤安定化用粉体混和剤、地盤安定化材料、及びそれを用いた地盤安定化工法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、(1)亜硫酸カルシウムを含有する
石灰硫黄合剤の副産物と、粉体減水剤を有する地盤安定用粉体混和材であり、該粉体減水剤はナフタレン類、メラミン類、アミノスルホン酸類、ポリカルボン酸類またはポリエーテル類からなる群の中から選ばれた1種または2種である、pHが9.0以上、酸化還元電位(ORP)が50mv以下、MgO含有量が0.5%以上である地盤安定化用粉体混和剤、(2)セメント100質量部に対し地盤安定化用混和剤を0.01〜10質量部使用する(1)の地盤安定化用粉体混和剤、
(3)(1)
または(2)の地盤安定化用粉体混和剤とセメントを混合してなる地盤安定化用材料、
(4)(3)の地盤安定化材料を、土と混合して粘性を低下させる地盤安定化工法、である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の地盤安定化用粉体混和剤、地盤安定化材料及び地盤安定化工法により、流動化によって施工性が改善し、さらに、重金属が低減できるといった効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で使用する部や%は特に規定のない限り質量基準である。
【0013】
本発明で云う亜硫酸カルシウムとは、亜硫酸カルシウム無水和物、亜硫酸カルシウム半水和物を総称するものである。
本発明で使用する亜硫酸カルシウムは、pHは9.0以上である。pHは9.0以上の亜硫酸カルシウムとしては、石灰硫黄合剤を製造する際の副産物がある。
農薬の1種である石灰硫黄合剤は、主に果樹の農薬として用いられ、生石灰と硫黄と水を原料とし、オートクレーブで反応させる。固液分離した液体が石灰硫黄合剤となる。石灰硫黄合剤を製造する際の副産物として亜硫酸カルシウム半水和物があり、pHは9.0以上であることが知られている。
一方、試薬の亜硫酸カルシウム半水和物のpHは8.0以下の中性塩であり、石炭火力発電の排煙脱硫工程から生成する亜硫酸カルシウム半水和物を含む石膏が得られるが、この物質のpHは酸性領域にある。
【0014】
本発明で使用する石灰硫黄合剤を製造する際の副産物の亜硫酸カルシウムのpHがアルカリ性領域であることは、極めて重要である。pHが9.0未満では、本発明の効果、すなわち、流動性の向上や六価クロムの還元効果、さらには強度発現性が十分に得られない場合がある。
なお、本発明で云うpHとは、石灰硫黄合剤の副産物などの亜硫酸カルシウムを含有するセメント添加剤10gに純水100mlを加え、撹拌した後の上澄み液のpHを意味し、イオン電極式pH計を用いることで測定することが出来る。
【0015】
本発明で使用する石灰硫黄合剤を製造する際の副産物の亜硫酸カルシウムの酸化還元電位(ORP)が、50mv以下の範囲にある。試薬の亜硫酸カルシウムのORPは、ほぼ100mvである。酸化還元電位が50mv以下の範囲にないと、本発明の効果、すなわち、流動性の向上や六価クロムの還元効果、さらには強度発現性が十分に得られない場合がある。
なお、本発明で言うORPとは、石灰硫黄合剤の副産物10gに純水100mlを加え、撹拌した後の上澄み液のORPを意味する。
【0016】
本発明の石灰硫黄合剤を製造する際の副産物の亜硫酸カルシウムには、MgO換算で0.5〜2.0%の範囲でMgが含まれる。Mgの含有量がMgO換算で0.5%未満であると、本発明の効果、すなわち、流動性の向上や六価クロムの還元効果、さらには強度発現性が十分に得られない場合がある。
【0017】
地盤安定化用粉体混和剤の使用量は、特に限定されるものではないが、通常、セメント100部に対して0.01〜10部が好ましく、0.1〜5部がより好ましい。地盤安定化用粉体混和剤の使用量が少ないと、本発明の効果、すなわち、流動性の向上や六価クロムの還元効果、さらには強度発現性が十分に得られない場合がある。
本発明の地盤安定化用粉体混和剤は、あらかじめ一部あるいは全部を混合しておいても差し支えない。
【0018】
さらに、ナフタレン類、メラミン類、アミノスルホン酸類、ポリカルボン酸類またはポリエーテル類からなる群の中から1種または2種の粉体減水剤を併用することでさらなる流動性の向上を図ることができる。
ナフタレン類、メラミン類、アミノスルホン酸類、ポリカルボン酸類またはポリエーテル類としては、分子量や重合度など特に限定されるものではない。
【0019】
さらに、粘性を低下させるものとしてリン酸塩、アルカリ金属炭酸塩、オキシカルボン酸類があり、これらを併用することも可能である。
【0020】
本発明では、本発明の地盤安定化用粉体混和剤とセメントと水とを混合して地盤安定化材料を調製する。
本発明で使用するセメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱などの各種ポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ又はシリカを混合した各種混合セメント、石灰石粉末や高炉徐冷スラグ微粉末などを混合したフィラーセメント、並びに、都市ゴミ焼却灰や下水汚泥焼却灰を原料として製造された環境調和型セメント(エコセメント)などのポルトランドセメント、並びに、市販されている微粒子セメントなどが挙げられ、が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上が使用可能である。また、通常セメントに使用されている成分(例えば石膏等)量を増減して調整されたものも使用可能である。
本発明で使用する水の使用量は、土の含水比や工法によって異なり、特に限定されるものではない。
【0021】
本発明の地盤安定化用粉体混和剤は、粘性土に限らず、砂質土や腐食土等の土に対しても優れた効果がある。
本発明の地盤安定化工法として、深層混合処理工法または浅層混合処理工法が代表例であり、山留め工法はソイルセメント柱列壁工法、ソイルセメント地中壁工法、基礎杭工法の代表例は鋼管ソイルセメント杭工法や鋼管の代わりにPHC杭などの既製杭を使用する合成杭工法などである。例えば、セメントミルクを、高圧で地中深くに噴射し、土と混合して硬化させ安定化する工法が挙げられ、この工法について以下に記載する。
この工法は、地中にセメントミルクを噴射する管を挿入し、管を回転させながら管先端付近からセメントミルクを高圧噴射し、地中の土を切削すると同時に、切削された土とセメントミルクとが混合された混合土を別の管内を通して地上へ排出しながら、一定速度で管を上昇させ、地中を、セメントミルクと土との混合物で置換して硬化させ、地盤を安定化させる工法である。
本発明における混合や攪拌の条件は、地中に高圧噴射する前に本発明の粉体混和剤と水とが混合されていれば特に限定するものではないが、本発明の粉体混和剤と水とを、回転数10〜1000rpm 程度で回転するグラウトミキサーにより混合するバッチ混合方式や、管内に羽根を設置しているラインミキサーにより混合する連続混合方式等により混合や攪拌が可能である。
【0022】
以下、実施例、比較例を挙げてさらに詳細に内容を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
「実験例1」
セメント100部に対して水150部、A〜Kに調製した地盤安定化用粉体混和剤をセメント100部に対して2部混合してセメントスラリーを作製する。そのセメントスラリー0.5リットルに対して土1リットルをモルタルミキサで低速1分間混合して得られたスライムの粘度、六価クロム溶出量、圧縮強度を測定した。結果を表1に示す。
【0024】
「使用材料」
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品
土:東京都町田市産粘性土、密度1.47g/ cm
3、含水比85%
地盤安定化用粉体混和剤A:石灰硫黄合剤の副産物、亜硫酸カルシウム半水和物の含有量82%、pHが10.5、酸化還元電位30mv、MgO含有量が1.0%。
地盤安定化用粉体混和剤B:石灰硫黄合剤の副産物、亜硫酸カルシウム半水和物の含有量80%、pHが10.0、酸化還元電位35mv、MgO含有量が1.0%。
地盤安定化用粉体混和剤C:石灰硫黄合剤の副産物、亜硫酸カルシウム半水和物の含有量79%、pHが9.5、酸化還元電位45mv、MgO含有量が1.0%。
地盤安定化用粉体混和剤D:石灰硫黄合剤の副産物、亜硫酸カルシウム半水和物の含有量88%、pHが9.0、酸化還元電位50mv、MgO含有量が1.0%。
地盤安定化用粉体混和剤E:石灰硫黄合剤の副産物、亜硫酸カルシウム半水和物の含有量76%、pHが10.0、酸化還元電位35mv、MgO含有量が0.5%。
地盤安定化用粉体混和剤F:試薬1級の亜硫酸カルシウム半水和物、pHが7.7、酸化還元電位100mv、MgO含有量が0.1%未満。
地盤安定化用粉体混和剤G:ナフタレンスルホン酸塩系粉体減水剤、SKWイーストアジア社製商品名「POWERCON−100」。
地盤安定化用粉体混和剤H:ポリカルボン酸塩系粉体減水剤、ライオン社製商品名「レオパックG−100」。
地盤安定化用粉体混和剤I:地盤安定化用粉体混和剤AとGを同量混合した物。
地盤安定化用粉体混和剤J:地盤安定化用粉体混和剤AとHを同量混合した物。
地盤安定化用粉体混和剤K:地盤安定化用粉体混和剤Iを70%にトリポリリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムを10%ずつ混合したもの。
【0025】
「試験方法」
粘度:混合したスライムの直後と30分後の粘度をB型粘度計で測定。
六価クロム溶出量:混合したスライムをφ5×10cmの型枠に詰めて、水が飛ばないようにビニール袋で封緘にして20℃で材齢7日まで養生する。その後、環境庁第46号法に従って測定。
圧縮強度:混合したスライムをφ5×10cmの型枠に詰めて、水が飛ばないようにビニール袋で封緘にして20℃で材齢28日まで養生後に耐圧試験機にて測定。
【0026】
【表1】
【0027】
表1より、石灰硫黄合剤を製造する際の副産物の亜硫酸カルシウムを含有してなる地盤安定化用粉体混和剤を添加することで、六価クロム溶出量を減らしながら、粘性を低減させ、さらに圧縮強度に悪影響を及ぼさないことがわかる。
【0028】
「実験例2」
地盤安定化用粉体混和剤Aを使用し、使用量を表2に示すように変化したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0029】
【表2】
【0030】
表2より、本発明の地盤安定化用粉体混和剤を使用することにより、粘度が低減し、六価クロム溶出量を減らしながら、粘性を低減させ、さらに圧縮強度に悪影響を及ぼさないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の地盤安定化用粉体混和剤を使用することにより、流動化によって施工性が改善し、そのうえ、重金属が低減することで、環境に配慮した材料を提供することが可能となるため、土木分野に好適である。