(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6529894
(24)【登録日】2019年5月24日
(45)【発行日】2019年6月12日
(54)【発明の名称】コアレスリニアモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 41/03 20060101AFI20190531BHJP
【FI】
H02K41/03 A
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-223172(P2015-223172)
(22)【出願日】2015年11月13日
(65)【公開番号】特開2017-93222(P2017-93222A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180025
【氏名又は名称】山洋電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100102576
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敏章
(74)【代理人】
【識別番号】100108394
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 健一
(72)【発明者】
【氏名】唐 玉▲棋▼
【審査官】
池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/013053(WO,A1)
【文献】
登録実用新案第3113513(JP,U)
【文献】
国際公開第2007/089240(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 41/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反発し合う対向磁極の複数の永久磁石を有し、前記複数の永久磁石間に磁性スペーサが設けられているとともに、両端にそれぞれ第1の端部磁性スペーサと第2の端部磁性スペーサとが設けられている円柱状の固定子と、前記固定子の外周を囲む電機子コイルを有する中空円筒状の可動子と、を備えるコアレスリニアモータであって、
前記第1の端部磁性スペーサを収容する第1の収容部を有する第1の端面板と、前記第2の端部磁性スペーサを収容する第2の収容部を有する第2の端面板と、を有し、
前記第1の端面板に前記第1の端部磁性スペーサを押す押しネジを有する押しねじ機構を設け、
前記第2の端面板に前記第2の端部磁性スペーサを引っ張る引っ張り機構を設けたことを特徴とするコアレスリニアモータ。
【請求項2】
前記引っ張り機構は、
前記第2の端部磁性スペーサに設けたネジ孔 と、
前記ネジ孔に挿入された引っ張りネジと
を有することを特徴とする請求項1に記載のコアレスリニアモータ。
【請求項3】
前記ネジ孔と前記引っ張りネジとは、前記第2の端面板の前記押しネジと同じ高さであって前記固定子の軸方向の中心線と同じ位置に水平方向に離れて2本設けられていることを特徴とする請求項2に記載のコアレスリニアモータ。
【請求項4】
前記固定子の外周部を覆うパイプ部材を有することを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載のコアレスリニアモータ。
【請求項5】
前記第1の端部磁性スペーサの、前記第1の端面板側の表面の前記押しネジの先端部に当接する位置に、凹部を有することを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項に記載のコアレスリニアモータ。
【請求項6】
さらに、前記固定子の下方であって、前記第1の端面板と前記第2の端面板との間に設けられた磁性ヨークを有することを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項に記載のコアレスリニアモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアレスリニアモータに関する。
【背景技術】
【0002】
リニアモータは、電磁誘導により作動するため、ボールねじ機構のような機械作動に比べて、小型で高速作動可能である。
【0003】
反発し合う対向磁極配置の複数の磁石を有する円筒状の固定子と、磁石部の外周を囲む電機子コイルを有する可動子と、を備えるシャフト型のコアレスリニアモータは、推力変動が小さく効率良く駆動ができることから、物品搬送装置等のFA機器や光学精密測定機器などの分野に幅広く採用されている。
【0004】
固定子として、反発し合う対向磁極配置の複数の磁石を用いると、磁石同士の強力な反発力を受けるため、磁石を密着させることが難しい。
【0005】
例えば、特許文献1では、中空穴を有する円筒磁石にボルトを通し、磁石部を密着・固定させる。また、特許文献2では、パイプ状部材の端部を加工して構成され磁石の抜け止めを行う抜け止め機構を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−313566号公報
【特許文献2】特開2007−43780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の構造は、円筒磁石にのみ対応可能であるため、推力を犠牲にするだけではなく、磁石の製造工程が難しく、コストが高くなるという問題がある。
【0008】
また、特許文献2の製造方法では、円柱磁石が使えるようになっているが、磁石を挿入してから端部に抜け防止機構を設ける必要があるため、製造工程が煩雑であるという問題がある。
【0009】
本発明は、反発し合う対向磁極配置の円柱磁石を用いたシャフト型のコアレスリニアモータにおいて、磁石を簡単かつ確実に固定する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一観点によれば、反発し合う対向磁極の複数の永久磁石を有し、前記複数の永久磁石間に磁性スペーサが設けられているとともに、両端にそれぞれ第1の端部磁性スペーサと第2の端部磁性スペーサとが設けられている円柱状の固定子と、前記固定子の外周を囲む電機子コイルを有する中空円筒状の可動子と、を備えるコアレスリニアモータであって、前記第1の端部磁性スペーサを収容する第1の収容部を有する第1の端面板と、前記第2の端部磁性スペーサを収容する第2の収容部を有する第2の端面板と、を有し、前記第1の端面板に前記第1の端部磁性スペーサを押す押しネジを有する押しねじ機構を設けたことを特徴とするコアレスリニアモータが提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、反発し合う対向磁極配置の円柱磁石を用いたシャフト型のコアレスリニアモータにおいて、磁石を簡単かつ確実に固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態によるシャフト型のコアレスリニアモータの出荷状態における外観構成例を示す斜視図である。
【
図2】シャフト型のコアレスリニアモータの出荷状態における外観構成例を示す両側面図、そのA−A線に沿う断面図およびそのB−B線に沿う断面図である。
【
図3】
図3(A)、(B)は、左右のそれぞれの端面磁性スペーサの構成例を示す正面図および側断面図である。
【
図4】左右のそれぞれの端面板の構成例を示す正面図、側断面図および裏面図である。
【
図5】左右のそれぞれの端面板の構成例を示す正面図、側断面図および裏面図である。
【
図6】
図2のA−A線に沿う正面の断面図の詳細な図面である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の一実施の形態によるコアレスリニアモータについて、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
シャフト型のコアレスリニアモータにおいて、反発し合う対向磁極配置の円柱磁石を密着させながら、確実に磁石を固定するためには、その固定構造を工夫する必要がある。例えば、各部品の累積公差を吸収することができる、高品質・高精度な磁石部の固定構造が求められている。
【0015】
本発明の実施の形態によるリニアモータは、シャフト型のコアレスリニアモータと呼ばれる構造を有している。以下に示すシャフト型のコアレスリニアモータは、ビルトインタイプと呼ばれ、出荷状態では、リニアエンコーダやリニアガイドは取り付けられておらず、出荷した後に、リニアエンコーダやリニアガイドを取り付ける。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態によるシャフト型のコアレスリニアモータの出荷状態における外観構成例を示す斜視図である。
図2は、シャフト型のコアレスリニアモータの出荷状態における外観構成例を示す両側面図、そのA−A線に沿う断面図およびそのB−B線に沿う断面図である。
【0017】
コアレスリニアモータ1は、固定子(励磁部)3と、電機子(可動子)5と、フレーム部を構成する端面板7a、7b、磁性ヨーク11および磁性カバー15を有する。
【0018】
固定子3は、反発し合う対向磁極配置の円柱磁石(磁石部)31の間に磁性スペーサ33bを挟み、両端にも磁性スペーサ(端部磁性スペーサ)33a、33cを配置した構造を有する。そして、その外周部を、ステンレスパイプ(パイプ部材)25により覆っている。円柱磁石31は、永久磁石を用いることができる。
【0019】
電機子5は、中空円筒状の構造を有しており、中空内に固定子3が挿入されている。
【0020】
端面板7a、7bは、固定子3の両端に設けられ、固定子3と端面板7a、7bとは、それぞれ押しネジ21a、引っ張りネジ21bにより固定される。磁性ヨーク11は、固定子3および電機子5の下方に配置される。磁性ヨーク11は、例えばネジ22a、22bにより端面板7a、7bに取り付けられる。
【0021】
磁性カバー15は、固定子3および電機子5の上方に配置される。磁性カバー15は、例えばネジ24a、24bにより端面板7a、7bに取り付けられる。
【0022】
磁性スペーサと端面板の構造について詳細に説明する。
図3(A)、(B)は、左右のそれぞれの端面磁性スペーサの構成例を示す正面図および側断面図である。
図4、
図5は、左右のそれぞれの端面板の構成例を示す正面図(端部磁性スペーサ側から見た図)、側断面図および裏面図(端部磁性スペーサ側とは反対側から見た図)である。
図6は、
図2のA−A線に沿う正面の断面図の詳細な図面である。
【0023】
図3、
図6に示すように、端部磁性スペーサ33aには、押しネジ21aの先端部に当接する位置に、軸方向にΔtだけ凹んだ凹部41が設けられている。凹部41の深さは1mm程度で良い。尚、凹部41を形成しなくても良い。また、
図3(B)に示すように、端部磁性スペーサ(右)には、引っ張りネジ21bを固定するネジ孔73が設けられている。
【0024】
図4に示すように、端面板7aには、円柱状の固定子3の端部を収容するための収容部71aが設けられ、さらに、
図2にも示すように、押しネジ21aのための貫通孔(ネジ孔)75が設けられている。
図5に示すように、端面板7bには、円柱状の固定子3の端部を収容するための収容部71bが設けられ、さらに、
図2に示すように、引っ張りネジ21bの位置に、引っ張りネジ21bのための貫通孔77が設けられている。収容部71a、71bは、固定子(ステンレスパイプ25、磁石31および磁性スペーサ33)を支えるために設ける。収容部71a、71bの凹部の深さAは、例えば、3〜5mm程度である。
【0025】
上記の構成において、引っ張りネジ21bにより、端部磁性スペーサ33cを引っ張りながら、押しねじ21aにより端部磁性スペーサ33aを押すことで、ステンレスパイプ25に挿入した磁石部31と磁性スペーサ33(33a、33b、33c)とを密接させながら、複数の磁石部31と磁性スペーサ33(33a、33b、33c)とをステンレスパイプ25内において確実に固定することができる。
【0026】
図6に示すように、各部品の製造公差を含み磁石部31と磁性スペーサ33とを含めた固定子3の全長Lmを、磁石部31と磁性スペーサ33とを含めた固定子3の固定枠である端面板7a、7b間の距離Lよりも短くする。このようにすることで、端面板7a、7b間に複数の磁石部31と磁性スペーサ33(33a、33b、33c)とを、寸法的な余裕を持たせて配置して容易に組み立てることができる。そして、押しねじ機構により、各部品の累積公差を含めた複数の磁石部31と磁性スペーサ33との長さLmにおける累積公差を吸収しながら、磁石部31と磁性スペーサ33とを確実に固定することができる。
【0027】
例えば、磁性ヨーク(両端面で挟んでいる円弧付磁性体)11の長さをLyとすると、Lを以下の式のようにすれば良い。
【0028】
L=Ly+2A>Lm
ここで、Aは、収容部71a、71bの凹部の深さである。
【0029】
以上に説明したように、本実施の形態によれば、ステンレスパイプ25の両端にある端部磁性スペーサ33a、33cにおいて、片側に引っ張り用のタップ(ネジ孔)を設け、もう片側に押しねじ機構を設けることで、ステンレスパイプ25内に挿入した磁石部31と磁性スペーサ33a、33b、33cとを密接させながら、磁石部31と磁性スペーサ33a、33b、33cとの確実な固定を実現することができる。両端磁性スペーサ31a、31cをステンレスパイプ25に接着固定すること、引っ張り・押しねじ機構を併用することで、より安定で、高品質な磁石固定部を実現することができる。
【0030】
磁性ヨーク11に固定する両端面板7a、7bにそれぞれ押しねじ固定用のネジ孔(貫通孔)75と引っ張りねじ固定用穴(貫通孔)77と、を設け、さらに、両端面板7a、7bに収容部(凹み部)71a、71bを設けることで、磁石部31と磁性スペーサ33(33a、33b、33c)とを精度よく、簡単に組み立てることができる。
【0031】
尚、電機子5には、円筒の延在する方向の両端部に、非磁性金属により形成されたリング55a、55bを設けても良い。電機子コイルにリングを設けることで、インダクタンスのアンバランスが小さくなり、推力リップルを低減することができる。
【0032】
また、電機子5の外側に、円弧状の磁性ヨーク11と磁性カバー15とを設けることで、電機子コイルに鎖交する磁束量を増やし、モータの大推力化を図ることができる。また、磁性スペーサ33a、33bにより、磁束密度を向上させるとともに、使用する磁石量を減らすことができる。
【0033】
磁性ヨーク11と磁性カバー15とは、固定子3および電機子5と同心円の円弧をその内面に有する。電機子5の円筒状のコイルが固定子3の円柱磁石を囲み、電機子5の円筒状のコイルの外側に円弧状の磁性体(磁性ヨーク11、磁性カバー15)を設けて漏れ磁束の削減と磁気ギャップを最短にすることにより、固定子3の磁石からの磁束を有効に利用することができ、モータ推力を向上させることができる。
【0034】
上記の実施の形態において、添付図面に図示されている構成等については、これらに限定されるものではなく、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0035】
また、本発明の各構成要素は、任意に取捨選択することができ、取捨選択した構成を具備する発明も本発明に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、コアレスリニアモータに利用可能である。
【符号の説明】
【0037】
1…シャフト型のコアレスリニアモータ、3…固定子(円柱磁石、励磁部)、5…電機子(可動子)、7a、7b…端面板、11…磁性ヨーク、15…磁性カバー、21…押しネジ、21b…引っ張りネジ、25…ステンレスパイプ(パイプ部材)、31…磁石部、33a、33c…端部磁性スペーサ、33b…磁性スペーサ、41…凹部、71a、71b…収容部、73…ネジ孔、75、77…貫通孔。