特許第6529907号(P6529907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6529907マイコプラズマ・ニューモニエの免疫学的検出法およびキット
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  • 特許6529907-マイコプラズマ・ニューモニエの免疫学的検出法およびキット 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6529907
(24)【登録日】2019年5月24日
(45)【発行日】2019年6月12日
(54)【発明の名称】マイコプラズマ・ニューモニエの免疫学的検出法およびキット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/569 20060101AFI20190531BHJP
   C07K 16/12 20060101ALI20190531BHJP
   C12N 15/00 20060101ALI20190531BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20190531BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20190531BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20190531BHJP
【FI】
   G01N33/569 A
   C07K16/12ZNA
   C12N15/00
   C12P21/08
   G01N33/53 D
   G01N33/543 521
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-532927(P2015-532927)
(86)(22)【出願日】2014年8月22日
(86)【国際出願番号】JP2014072068
(87)【国際公開番号】WO2015025968
(87)【国際公開日】20150226
【審査請求日】2017年8月17日
【審判番号】不服2018-8085(P2018-8085/J1)
【審判請求日】2018年6月12日
(31)【優先権主張番号】特願2013-173991(P2013-173991)
(32)【優先日】2013年8月23日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】316011536
【氏名又は名称】株式会社タウンズ
(74)【代理人】
【識別番号】100091502
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 正威
(72)【発明者】
【氏名】齋藤憲司
【合議体】
【審判長】 三崎 仁
【審判官】 ▲高▼見 重雄
【審判官】 福島 浩司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−72663(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/068189(WO,A1)
【文献】 特開2011−220931(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/125606(WO,A1)
【文献】 INFECTION AND IMMUNITY,1996年,Vol.64 No.7,Page.2595−2601
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する第一の抗体を予め所定位置に固定せしめて形成された捕捉部位を備える膜担体を用意し、該P30タンパク質に対する第二の抗体と所定量の被検試料との混合液を、前記捕捉部位に向けて前記膜担体にてクロマト展開せしめ、前記被検試料中に含まれる抗原と前記第二の抗体との複合体を前記捕捉部位に捕捉させることからなる、マイコプラズマ・ニューモニエ検出イムノクロマトグラフィー測定法であって、前記第一の抗体及び第二の抗体の両方が、配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識するモノクローナル抗体であり、前記配列番号2のアミノ酸配列の領域がプロリンを多く含むアミノ酸配列からなる領域であり、前記被検試料が生体試料であり、前記第一の抗体及び第二の抗体が、前記測定法において菌濃度1×10(CFU/mL)に調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株の培養菌液を検出できる感度を備えるイムノクロマトグラフィー測定法。
【請求項2】
前記第二の抗体は金属コロイドまたはラテックスで標識されている請求項に記載のイムノクロマトグラフィー測定法。
【請求項3】
前記膜担体がニトロセルロース膜である請求項2記載のイムノクロマトグラフィー測定法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイコプラズマ・ニューモニエ(Mycoplasma pneumoniae)のP30タンパク質に対する抗体とそれを用いたマイコプラズマ・ニューモニエの免疫学的検出法およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
マイコプラズマ肺炎はマイコプラズマ・ニューモニエによって引き起こされる非定型肺炎である。マイコプラズマ肺炎はクラミジア肺炎とともに非定型肺炎の30〜40%を占め、市中肺炎の中でも高い割合を占めている。
マイコプラズマ肺炎は幼児、小児、青年期に多く見られる。潜伏期間は2〜3週間であり、気道粘膜への病原体の排出は初発症状発現前2〜8日で見られ、臨床症状発現時にピークとなり、高いレベルが約1週間続いた後、4〜6週間以上排出が続く。主な臨床症状としては発熱、全身倦怠、頭痛、その他の感冒様症状である。38℃を超える高熱、強い乾性咳嗽などが特徴とされ、咳嗽は解熱後も3〜4週間と長期にわたる。しかし、マイコプラズマ肺炎に特徴的な検査所見はなく、胸部X線検査ではすりガラス様の淡い陰影が典型的とされる。
【0003】
マイコプラズマの感染様式は感染患者からの飛沫感染と接触感染であり、マイコプラズマ・ニューモニエが経気道的に侵入し、気管支または細気管支上皮に吸着することより感染が成立する。
【0004】
マイコプラズマ感染症は感染症法に基づく届出感染症(5類感染症)に指定されており、指定医療機関は迅速に患者数を届け出る義務がある。
【0005】
マイコプラズマは自己増殖可能な最小の微生物であり、他の細菌とは異なり細胞壁を持たない。したがって、細胞壁合成阻害作用を持つ抗菌薬であるβラクタム系抗菌薬およびセファム系抗菌薬は無効であり、治療にあたってはマクロライド系抗菌薬、テトラサイクリン系抗菌薬およびニューキノロン系抗菌薬の投与が必要である。よって、原因菌の特定は初期治療方針を決定する上でも迅速に行われることが求められている。
【0006】
現在、マイコプラズマ・ニューモニエ感染の確定診断には分離培養法と血清学的検査が用いられている。
分離培養にはマイコプラズマを検出するための専用培地(PPLO培地)を必要とする。また他の細菌と比べても、増殖が遅く判定まで早くても一週間程度かかるため、分離培養法では臨床現場において迅速に原因菌を特定することが難しい状況にある。
またマイコプラズマは温度に敏感であり、マイコプラズマを含有する検体は一般的な細菌を含有する検体と異なり、冷蔵状態で保管することができない。そのため検体保管もしくは輸送中に検体に含まれるマイコプラズマが死滅もしくは減少し、分離培養法によっても検出できないこともある。
【0007】
血清学的検査としては、IgG抗体やIgM抗体を特異的に検出する間接赤血球凝集反応(Indirect Hemaggulutination test:IHA法)、粒子凝集法(Particle Agglutination:PA法)、酵素免疫測定法(Enzyme Immunoassay:EIA法)などが挙げられる。
さらに、簡易検査として血清または血漿中のマイコプラズマ・ニューモニエ特異的IgM抗体をEIA法で検出するイムノクロマトグラフキット(イムノカード マイコプラズマ抗体(株式会社テイエフビー製))が市販されており、臨床現場にて使用されている。
【0008】
血清学的検査では、検出する検体中のIgM抗体は感染初期に上昇するが、抗体産生応答が低い場合や測定時期により偽陰性と判定される場合がある。さらに血中からIgM抗体が消失するまでに時間がかかるため、血清学的検査の結果が現在の感染状況を的確に示しているとは言い難い側面がある。
したがって、血清学的検査による確定診断は急性期と回復期のペア血清を用いた定量的検査をせざるを得ず、事後診断となる場合が多い。
【0009】
またマイコプラズマ・ニューモニエのDNAを検出する核酸検出法も用いられている。しかし、核酸増幅法は操作が複雑で、かつ、特別な機器を必要とすること、測定に数時間を要することなどから一般的に用いられている検査ではない。
【0010】
より迅速かつ簡便にマイコプラズマ・ニューモニエ感染を検出するために、マイコプラズマ・ニューモニエ抗原に対する特異的抗体が開発され、マイコプラズマ感染の有無を鑑別する検出法が報告されている。
【0011】
マイコプラズマ・ニューモニエは、フラスコ型の突起部である接着器官により呼吸器上皮細胞の繊毛に付着した後、滑走運動により細胞表面に移動して接着することで感染が成立する。この接着や滑走運動に中心的な役割を果たす接着タンパク質として知られているP1タンパク質(169KDa)に特異的な抗体を作製し、前記P1タンパク質を検出マーカーとして用いた検出法(特許文献1及び2)が報告されている。
前記報告にある検出抗原であるP1タンパク質は、2つの遺伝子型が存在し、遺伝子型間でP1タンパク質のアミノ酸配列が異なることも知られている。したがって、広範にマイコプラズマ・ニューモニエを検出するためには、それぞれのP1遺伝子型のP1タンパク質に対応した抗体、もしくは各遺伝子型間のP1タンパク質の共通部位を認識する抗体を作出する必要がある。また季節ごとの流行によっては、昨流行期とは異なる遺伝子型が検出されること、つまり流行期により遺伝子型が変化することが報告されているため、流行初期に遺伝子型を見極め、対応した抗体を使用する必要がある。
【0012】
またマイコプラズマ・ニューモニエの分離株間においてP1タンパク質よりも共通して保存されていることが知られているDnaKタンパク質を検出用マーカーとして用いた検出法(特許文献3)も報告されている。しかしながら、ヒトにおける泌尿器感染症の原因となるマイコプラズマ・ジェニタリウムもDnaKタンパク質を保有しているため、前記検出法においても反応性を示す。したがって、当該タンパク質を検出用マーカーとしてマイコプラズマ・ニューモニエを特異的に検出することはできない。
【0013】
マイコプラズマ肺炎は、適切な治療が行われない場合、症状の長期化や重症化、さらには二次感染による感染拡大を招く恐れがあった。そこで適切な治療や抗菌薬を選択するため、マイコプラズマ・ニューモニエの迅速かつ確実な検出が求められていた。
さらにはマイコプラズマ・ニューモニエを特異的かつ迅速に検出する試みはなされているものの、さらにマイコプラズマ・ニューモニエを特異的に検出できる検出マーカー及び前記マーカーに対する特異的抗体、さらに前記抗体を含む免疫測定法及びキットが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平5−304990号公報
【特許文献2】特開2013−72663号公報
【特許文献3】国際公開WO2011/068189号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】D. Nakaneら,「Isolation and Characterization of P1 Adhesin, a Leg Protein of the Gliding Bacterium Mycoplasma pneumoniae」, Journal of Bacteriology, Feb. 2011, p.715-722
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、マイコプラズマ肺炎の原因菌であるマイコプラズマ・ニューモニエを簡便かつ迅速に高感度検出できる検出マーカー及び前記マーカーに対する特異的抗体、さらに前記抗体を含む免疫学的検出法及びキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者は、前述のような現状を鑑みて鋭意検討した結果、マイコプラズマ・ニューモニエの接着因子の1つであるP30タンパク質が、分離株間に共通して保存され、特異的かつ有用な検出マーカーであることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0018】
すなわち、本発明の一局面によれば、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する抗体を用いることを特徴とするマイコプラズマ・ニューモニエの免疫学的検出法が提供される。
また、本発明の他の局面によれば、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する抗体を少なくとも備えてなるマイコプラズマ・ニューモニエの免疫学的測定キットが提供される。
上記免疫学的検出法としては、とりわけELISA(Enzyme−linked Immunosorbent assay)法、イムノクロマトグラフィー測定法などが好ましい。
【0019】
また、本発明の他の局面によれば、配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識する抗体を用いた、マイコプラズマ・ニューモニエの免疫学的検出法が提供される。
【0020】
また、本発明の他の局面によれば、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する第一の抗体と第二の抗体とを用いたサンドイッチ式免疫測定法からなる、マイコプラズマ・ニューモニエの免疫学的検出法が提供される。
また、本発明の他の局面によれば、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する第一の抗体と第二の抗体とを少なくとも備えてなるマイコプラズマ・ニューモニエのサンドイッチ式免疫測定キットが提供される。
上記サンドイッチ式免疫測定法としては、とりわけELISA(Enzyme−linked Immunosorbent assay)法、イムノクロマトグラフィー測定法などが好ましい。
【0021】
また、本発明の好ましい実施形態によれば、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する第一の抗体を予め所定位置に固定せしめて形成された捕捉部位を備える膜担体を用意し、該P30タンパク質に対する第二の抗体と所定量の被検試料との混合液を、前記捕捉部位に向けて前記膜担体にてクロマト展開せしめ、前記被検試料中に含まれる抗原と前記第二の抗体との複合体を前記捕捉部位に捕捉させることからなる、マイコプラズマ・ニューモニエ検出イムノクロマトグラフィー測定法が提供される。
【0022】
また、本発明の好ましい実施形態によれば、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する第一の抗体と第二の抗体と膜担体とを少なくとも備え、前記第一の抗体は前記膜担体の所定位置に予め固定されて捕捉部位を形成し、前記第二の抗体は適当な標識物質で標識され、かつ、前記捕捉部位から離隔した位置で前記膜担体にてクロマト展開可能なように用意されてなる、マイコプラズマ・ニューモニエ検出イムノクロマトグラフィーテストストリップが提供される。
【0023】
本発明で必須に使用するP30タンパク質に対する抗体は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよいが、反応特異性の観点から、モノクローナル抗体とすることが好ましい。
さらに別の局面によれば、本発明に必須に使用する配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識する抗体であり、同様に反応特異性の観点から、モノクローナル抗体とすることが好ましい。なお、配列番号2のアミノ酸配列は、配列番号1に示されるP30タンパク質の全アミノ酸配列の一部を構成するものであり、P30タンパク質に存在するエピトープを含む領域である。
【0024】
イムノクロマトグラフィー測定法などのサンドイッチ式免疫測定法の場合、そこで使用する第一の抗体及び第二の抗体は、それぞれ、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよいが、反応特異性の観点から、一般に、少なくとも一方の抗体をモノクローナル抗体とすることが好ましく、両方の抗体をモノクローナル抗体とすることが特に好ましい。また、P30タンパク質は菌体表面に局在し多数存在しているが、抗体同士の競合反応を回避し、より高い反応性を有するためにも、第一の抗体と第二の抗体は、P30タンパク質に存在する異なるエピトープを認識する抗体であることが好ましい。
【0025】
なお、本発明のマイコプラズマ・ニューモニエ検出用抗体が反応するマイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質は、マイコプラズマが生体細胞に接着する際に必要なタンパク質であり、接着因子であるP1タンパク質と共に働く、アクセサリータンパク質の1つとして知られている。
【0026】
P30タンパク質は分子量30KDaのタンパク質であり、P1タンパク質と同様に接着と病原性に関係する接着タンパク質の1つである。マイコプラズマ・ニューモニエの菌体においては、接着器官の先端部の細胞表面に局在しており、細胞膜内に埋没しているN末端と細胞膜外に存在するC末端を持つ膜貫通型タンパク質である。また、C末端側にはプロリンを多く含むアミノ酸配列が存在し、前記プロリンを多く含むアミノ酸配列の繰り返し構造が存在する。一般的にプロリンを含むアミノ酸配列からなる領域は、立体的な高次構造をとることが知られており、抗体の反応するエピトープとなり得ることが知られている。
したがって、本発明で使用する抗体は、P30タンパク質の細胞外領域における、プロリンを多く含むアミノ酸配列の繰り返し構造からなる部分を認識する抗体である可能性が高い。また配列番号2のアミノ酸配列は、前記細胞外領域を構成するアミノ酸配列であり、前記プロリンを多く含むアミノ酸配列の繰り返し構造を含む領域を含み、P30タンパク質におけるエピトープを含むと考えられる領域である。
【0027】
かくして、本発明の他の局面によれば、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質を認識する抗体が提供される。さらには、配列番号2のアミノ酸配列の領域に存在するP30タンパク質のエピトープを認識する抗体が提供される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対して特異的に反応する抗体を作製し、前記マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質を検出マーカーとして用いて免疫学的検出を行うことにより、マイコプラズマ・ニューモニエの感染を、迅速かつ特異的に診断することができる。また、本発明の免疫学的検出法および測定器具によれば、特殊な機器および熟練した技術を必要とすることなく、病院等において簡便かつ迅速にマイコプラズマ・ニューモニエの検出及び該細菌による感染を診断することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】aはイムノクロマトグラフィーテストストリップの平面図、bはaで示されたイムノクロマトグラフィーテストストリップの縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明において、抗体の製造および該抗体を使用する検出法及び測定法における各ステップは、それぞれ、それ自体、公知の免疫学的手法に準拠して行われる。
【0031】
(抗体)
マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に特異的なポリクローナル抗体は、例えば、マイコプラズマ・ニューモニエ菌体から抽出精製したP30タンパク質またはクローニングされたP30タンパク質の遺伝子を大腸菌などの宿主で遺伝子工学的に発現させて抽出精製したP30タンパク質、さらにはP30タンパク質の一部を構成するポリペプチドを免疫用抗原として、常法に従って動物を免疫し、その抗血清から得ることができる。
【0032】
さらに、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に特異的なモノクローナル抗体は、例えば、前記と同様にマイコプラズマ・ニューモニエ菌体から抽出精製したP30タンパク質または遺伝子工学的に発現させたP30タンパク質、さらにはP30タンパク質の一部を構成するポリペプチドを免疫用抗原として、マウスのような動物に免疫した後、この免疫された動物の脾臓細胞とミエローマ細胞とを細胞融合して得られた融合細胞をHAT含有培地で選択した後に増殖せしめる。増殖せしめた株を前記のようにして得られたP30タンパク質を利用して、例えば、酵素標識免疫法等により抗P30タンパク質抗体産生株を選別する。
【0033】
本発明の抗体は、抗体ならびに当該抗体と実質的に同等のマイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する抗体フラグメントおよび改変抗体も含む。抗体フラグメントとしてはFabフラグメント、F(ab’)フラグメント、Fab’フラグメント、scFvフラグメントなどが挙げられる。さらに、P30タンパク質に結合する抗体由来のポリペプチドも含む。
【0034】
被験試料中のマイコプラズマ・ニューモニエを検出するための本発明のイムノクロマトグラフィー測定法は、公知のイムノクロマトグラフィーテストストリップの構成に準拠して容易に実施できる。
一般に、かかるイムノクロマトグラフィーテストストリップは、抗原の第一の抗原決定基にて抗体抗原反応可能な第一の抗体と、前記抗原の第二の抗原決定基にて抗体抗原反応可能で且つ標識された第二の抗体と、膜担体とを少なくとも備え、前記第一の抗体は前記膜担体の所定位置に予め固定されて捕捉部位を形成し、前記第二の抗体は前記捕捉部位から離隔した位置で前記膜担体にてクロマト展開可能なように配置されて構成される。第一の抗体および第二の抗体は、上述のように、それぞれポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であっても良いが、少なくとも何れか一方がモノクローナル抗体であることが好ましい。通常は、第一の抗体及び第二の抗体は「ヘテロ」の組み合わせで用いられ、すなわち、抗原上の位置および構造の何れもが異なる各抗原決定基をそれぞれ認識する第一の抗体及び第二の抗体が組み合わせて用いられる。しかしながら、第一の抗原決定基と第二の抗原決定基は抗原上の位置が異なっていれば構造的に同一であってもよく、その場合、第一の抗体および第二の抗体は「ホモ」の組み合わせのモノクローナル抗体であってよく、すなわち、第一の抗体および第二の抗体の両方に同一のモノクローナル抗体が使用できる。
【0035】
例えば、図1に示されるテストストリップが挙げられる。図1において、数字1は粘着シート、2は含浸部材、3は膜担体、31は捕捉部位、32は対照捕捉部位、4は吸収用部材、5は試料添加用部材を示している。
図示の例では、膜担体3は、幅5mm、長さ36mmの細長い帯状のニトロセルロース製メンブレンフィルターで作成されている。
該膜担体3には、そのクロマト展開始点側の末端から7.5mmの位置に、第一の抗体が固定され、検体の捕捉部位31が形成される。さらに、膜担体3のクロマト展開始点側の末端から15mmの位置に対照捕捉部位32が設けられている。この対照捕捉部位32は、分析対象物質の存否にかかわらず反応が行われたことを確認するためのものであり、通常、前記第二の抗体と免疫学的に特異的に結合する物質(分析対象物質を除く)を膜担体3に固定化することによって形成することができる。例えば、第二の抗体としてマウス由来の抗体を用いた場合は、該マウス抗体に対する抗体を用いることができる。
図示の例では、膜担体3は、ニトロセルロース製メンブレンフィルターを用いているが、被験試料に含まれる検体をクロマト展開可能で、かつ、上記捕捉部位31を形成する抗体を固定可能なものであれば、いかなるものであってもよく、他のセルロース類膜、ナイロン膜、ガラス繊維膜なども使用できる。
【0036】
含浸部材2は、前記第一の抗体が結合する第一の抗原決定基と異なる部位に位置する第二の抗原決定基にて前記抗原と抗体抗原反応する第二の抗体を含浸せしめた部材からなる。当該第二の抗体は、適当な標識物質で予め標識される。
図示の例では、含浸部材2として、5mm×15mmの帯状のガラス繊維不織布を用いているが、これに限定されるものではなく、例えば、セルロース類布(濾紙、ニトロセルロース膜等)、ポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔質プラスチック布類なども使用できる。
【0037】
第二の抗体の標識物質としては、使用可能なものであればいかなる物質であってもよく、呈色標識物質、酵素標識物質、放射線標識物質などが挙げられる。このうち、捕捉部位31での色の変化を肉眼で観察することにより迅速かつ簡便に判定できる点から、呈色標識物質を用いることが好ましい。
呈色標識物質としては、金コロイド、白金コロイド等の金属コロイド、またそれらの複合金属コロイドの他、赤色および青色などのそれぞれの顔料で着色されたポリスチレンラテックスなどの合成ラテックスや、天然ゴムラテックスなどのラテックスが挙げられ、このうち、金コロイドなどの金属コロイドが特に好ましい。
当該含浸部材2は、標識された第二の抗体の懸濁液を前記ガラス繊維不織布等の部材に含浸せしめ、これを乾燥させることなどによって作製できる。
【0038】
図1に示されるように、膜担体3を粘着シート1の中程に貼着し、該膜担体3のクロマト展開の開始点側(すなわち図1の左側、以下「上流側」と記す、また、その逆の側、すなわち図1の右側を、以下「下流側」と記す)の末端の上に、含浸部材2の下流側末端を重ね合わせて連接するとともに、この含浸部材2の上流側部分を粘着シート1に貼着して本発明のイムノクロマトグラフィーテストストリップを作成できる。
さらに、必要に応じて、含浸部材2の上面に試料添加用部材5の下流側部分を載置するとともに、該試料添加用部材5の上流側部分を粘着シート1に貼着してもよく、また、膜担体3の下流側部分の上面に吸収用部材4の上流側部分を載置するとともに、該吸収用部材4の下流側部分を粘着シート1に貼着せしめることもできる。
【0039】
吸収用部材4は、液体をすみやかに吸収、保持できる材質のものであればよく、綿布、濾紙、およびポリエチレン、ポリプロピレン等からなる多孔質プラスチック不織布等を挙げることができるが、特に濾紙が最適である。
【0040】
試料添加用部材5としては、例えば、多孔質ポリエチレンおよび多孔質ポリプロピレンなどのような多孔質合成樹脂のシートまたはフィルム、ならびに、濾紙および綿布などのようなセルロース製の紙または織布もしくは不織布を用いることができる。
【0041】
かくして、生体試料などからなる被検試料を必要に応じて適当な展開溶媒と混合してクロマト展開可能な混合液を得た後、当該混合液を図1に示されるイムノクロマトグラフィーテストストリップの試料添加用部材5上に注入すると、該混合液は該試料添加用部材5を通過して含浸部材2において、標識された第二の抗体と混合する。
【0042】
さらに、図1のイムノクロマトグラフィーテストストリップは、試料添加用部材5と捕捉部位31の上方にそれぞれ被験試料注入部と判定部が開口された適当なプラスチック製ケース内に収容されて提供することができる。使用者の二次感染を防ぐ目的からイムノクロマトグラフィーテストストリップは、プラスチック製ケース内に収容されて提供されることが好ましい。
【0043】
かくして、生体試料などからなる被験試料を必要に応じて適当な展開溶媒と混合してクロマト展開可能な混合液を得た後、当該混合液を図1に示されるイムノクロマトグラフィーテストストリップの試料添加用部材5上に注入すると、該混合液は、該試料添加用部材5を通過して含浸部材2において、標識された第二の抗体と混合する。
その際、該混合液中に被検出物が存在すれば、抗原抗体反応により被検出物と第二の抗体との複合体が形成される。この複合体は、膜担体3中をクロマト展開されて捕捉部位31に到達し、そこに固定された第一の抗体と抗原抗体反応して捕捉される。
このとき、標識物質として金コロイドなどの呈色標識物質が使用されていれば、当該呈色標識物質の集積により捕捉部位31が発色するので、直ちに、検体を定性的または定量的に測定することができる。さらにイムノクロマトグラフィーテストストリップの捕捉部位31に集積した当該呈色標識物質の呈色強度をイムノクロマトリーダーによる光学的読み取りを行うことにより、呈色強度を数値化し、定量的に測定することができる。
また正常にクロマト展開がなされた場合は、被検出物と抗原抗体反応しなかった第二の抗体が対象捕捉部位32に到達し、そこに固定された第二の抗体に対して反応する抗体に捕捉される。このとき、標識物質として呈色標識物質が使用されていれば、当該呈色標識物質の集積により対照捕捉部位32が発色し、正常にクロマト展開がなされたことが確認される。一方、対照捕捉領域32が発色しなかった場合は、第二の抗体の展開がなされていない等の問題が発生したことが確認される。
図示のイムノクロマトグラフィーテストストリップにおいて、第二の抗体は含浸部材2に含浸させて膜担体3上に配置されているが、捕捉部位31から離隔した位置で膜担体3にてクロマト展開可能なように用意されていればよく、図示の形態に限定されない。例えば、第二の抗体は、被験試料と展開溶媒を混合するために用意されたチューブなどの容器内に予め包入され、第一の抗体が予め固定された膜単体3からなるテストストリップと同梱されていてもよい。
【0044】
被験試料としては、特に制限はないが、例えば、鼻腔吸引液、鼻腔ぬぐい液および咽頭ぬぐい液、喀痰、唾液、気管支洗浄液等、マイコプラズマ・ニューモニエが存在し得る生体試料が挙げられる。被験試料は、展開溶媒などの適当な希釈液で希釈して膜担体に注入してもよい。さらには被験試料に含まれる生体成分に由来する粘性物や固形物を除去ずるために、フィルターによる濾過をした後に膜担体に注入しても良い。
なお血液が混入した被験試料を用いるときで、特に標識抗体の標識物質として金コロイドなどの呈色標識物質が用いられる場合、前記試料添加用部材に血球捕捉膜部材を配置しておくことが好ましい。血球捕捉膜部材は、前記含浸部材と前記試料添加用部材との間に積層することが好ましい。これにより、赤血球が膜担体に展開されるのが阻止されるので、膜担体の捕捉部位における呈色標識の集積の確認が容易になる。血球捕捉膜部材としては、カルボキシメチルセルロース膜が用いられ、具体的には、アドバンテック東洋株式会社から販売されているイオン交換濾紙CM(商品名)や、ワットマンジャパン株式会社から販売されているイオン交換セルロースペーパーなどを用いることができる。
【実施例】
【0045】
下記の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1:組換えP30タンパク質の発現と精製)
マイコプラズマ・ニューモニエ M129株のP30タンパク質のアミノ酸配列をDDBJ(国立遺伝学研究所データベース)より入手した。前記P30タンパク質のアミノ酸配列から、膜貫通ドメインを除いた細胞外領域である配列番号2に示すアミノ酸配列(AA74−274)を特定し、対応する遺伝子配列を合成した。His−tag発現用ベクターであるpET302/NT−Hisを制限酵素EcoRIで切断した後、脱リン酸化処理としてアルカリフォスファターゼにより処理し、前記遺伝子配列と混合し、DNA Ligation Kit Ver.2(タカラバイオ)を用いてライゲーション反応をおこなった。目的遺伝子を組み込んだ組換えP30プラスミドを組換え蛋白発現用宿主E.coli BL(DE3)pLysS(Novagen)に導入した。導入菌をLB寒天平板培地で培養し、得られたコロニーをLB液体培地で培養した。さらに1mM IPTG(タカラバイオ)を添加して組換えP30タンパク質の発現を誘導した後、E.coli回収した。回収した菌を可溶化バッファー[0.5%Triron X−100(sigma)、10mM Imidazole、20mM Phosphateおよび0.5M NaCl(pH7.4)(Amersham)]に再浮遊し、超音波処理により可溶化した後、組換えP30タンパク質をHis trap Kit(Amersham)を用いて精製した。この精製タンパク質をリン酸緩衝生理食塩水(以下、PBSと称する)に対して透析し、目的の組換えP30タンパク質とした。
【0047】
(実施例2:組換えP30タンパク質に対するモノクローナル抗体の作出)
実施例1で得られた組換えP30タンパク質を免疫用抗原として、組換えP30タンパク質に対するモノクローナル抗体(以下、抗P30抗体と称する)を作出した。モノクローナル抗体の作出は常法に従っておこなった。100μgの組換えP30タンパク質と等量のAduvant Complete Freund(Difco)を混合して、マウス(BALB/c、5週齢、日本SLC)に3回免疫し、その脾臓細胞を細胞融合に用いた。細胞融合には、マウスの骨髄腫細胞であるSp2/0−Ag14細胞(Shulmanら、1978)を用いた。細胞の培養には、Dulbecco’s Modified Eagle Medium(Gibco)にL−グルタミン 0.3mg/ml、ペニシリンGカリウム 100単位/ml、硫酸ストレプトマイシン 100μg/ml、Gentacin 40μg/mlを添加し(DMEM)、これに牛胎児血清(JRH)を10%となるように加えた培養液を用いた。細胞融合は、免疫マウスの脾臓細胞とSp2/0−Ag14細胞を混合し、そこにPolyethylene glycol solution(Sigma)を添加することにより行った。融合細胞はHAT−DMEM[0.1mM Sodium Hypoxantine、0.4μM Aminopterinおよび0.016mM Thymidine(Gibco)を含む血清加DMEM]で培養し、酵素結合抗体法(ELISA)により培養上清中の抗体産生を確認した。抗体産生陽性の細胞をHT−DMEM[0.1mM Sodium Hypoxantineおよび0.16mM Thymidineを含む血清加DMEM]で培養し、さらに血清加DMEMで培養を続けた。
【0048】
(実施例3:モノクローナル抗体の調製)
クローニングした細胞は、2,6,10,14−Tetramethylpentadecane(Sigma)を接種しておいたマウス(BALB/c、リタイア、日本SLC)に腹腔内接種し、腹水を採取した。この腹水をプロテインGカラムに供し、モノクローナル抗体を精製した。作出したモノクローナル抗体のアイソタイプは、Mouse Monoclonal Antibody Isotyping Reagents(Sigma)を用いて同定した。
最終的にP30タンパク質に対するモノクローナル抗体産生細胞が5クローン得られた。これらのモノクローナル抗体のイムノグロブリンアイソタイプは全てIgGであった。
【0049】
(参考例1:試験用標準菌液の作製)
マイコプラズマ・ニューモニエのM129株およびFH株の標準株をPPLO培地に接種し、所定濃度になるまで5%CO雰囲気下、37℃で培養した。得られた培養液をPPLO液体培地にて、10万倍希釈液まで10倍段階希釈液を調製し、その各希釈液をPPLO寒天培地上の発育コロニー数を実体顕微鏡下にて計測し、菌濃度を算出した。得られた培養液を試験用菌液とした。
【0050】
(比較例1:マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質の精製)
マイコプラズマ・ニューモニエM129株をPPLO液体培地に接種し、37℃にて培養した。得られた培養液を遠心分離し、菌体を回収した。菌体からのP1タンパク質の精製方法はNakaneらの方法(Journal of Bacteriology、2011)に基づき実施した。
得られた菌体はリン酸緩衝生理食塩水(以下、PBSと称する)、pH7.4にて二回洗浄した。前記菌体を1% CHAPSを含むPBSに懸濁させた後、前記懸濁液を遠心分離し、さらに得られた沈渣に対し、2%オクチルグルコシドを含むPBSを添加し溶解させた。前記溶液を遠心分離し、上清を回収した。得られた上清を硫安分画に供し、遠心分離により残渣を得た。得られた残渣を0.3% Triton X−100を含むPBSに溶解させ、Superdex200を用いたゲル濾過カラムクロマトグラフィーにより精製した。この精製タンパク質を含む画分をSDS−pageにより分析し約170kDaに単一のバンドを確認し、目的のP1タンパク質を得た。
前記方法と同様の方法を用いて、マイコプラズマ・ニューモニエFH株由来のP1タンパク質を菌体から精製し、目的のP1タンパク質を得た。
【0051】
(比較例2:P1タンパク質に対するモノクローナル抗体の作製)
比較例1で得られた精製P1タンパク質を免疫用抗原として、P1タンパク質に対するモノクローナル抗体(以下、抗P1抗体と称する)を作出した。モノクローナル抗体の作出は実施例2に記載した方法に準拠して行った。得られた細胞は、比較例1にて得られたM129株由来のP1タンパク質およびFH株由来のP1タンパク質を固相化抗原とした酵素抗体法(以下、ELISA法と称する)を用いて、抗P1抗体産生細胞をスクリーニングした。ELISA法にて吸光度2.0以上を示した抗体産生細胞を選択した。
抗P1抗体産生細胞は、2,6,10,14−Tetramethylpentadecane(Sigma)を接種しておいたマウス(BALB/c、リタイア、日本SLC)に腹腔内接種し、腹水を採取した。この腹水をプロテインGカラムに供し、精製抗P1抗体として用いた。最終的にM129およびFH由来のP1タンパク質に対するモノクローナル抗体産生細胞を、それぞれ5クローン選択した。これらのモノクローナル抗体のイムノグロブリンアイソタイプは全てIgGであった。
【0052】
(実施例4:抗P30抗体と抗P1抗体の反応性の比較検討)
実施例3により得られた抗P30抗体及び比較例2で得られた抗P1抗体の反応性を確認した。参考例1にて調製したマイコプラズマ・ニューモニエM129株及びFH株、マイコプラズマ・ジェニタリウムの菌液を所定濃度にて固相化したマイクロプレートに、実施例2及び比較例2にて作製した各抗体を添加し、室温にて1時間反応させた。次にウェル内の溶液を吸引除去し、洗浄後、ビオチン標識抗マウス抗体を反応させた。1時間の反応の後、ウェル内の溶液を吸引除去し洗浄した後、アビジン標識ホースラディッシュペルオキシダーゼを添加し反応させた。その後、発色基質として3,3‘,5,5’−テトラメチルベンジン(TMBZ)溶液を添加し反応させ、2規定の硫酸により反応を停止させた。マイクロプレートリーダー(Biorad)にて主波長450nmにて測定した。結果を表1から表3に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
【表3】
【0056】
表1から明らかなように、実施例2にて作製された抗P30抗体は、マイコプラズマ・ニューモニエのM129株およびFH株のいずれにも高い反応性を示し、陰性対照のマイコプラズマ・ジェニタリウムに対しては交差反応しないことを確認した。
また表2および表3から明らかなように、比較例2にて作製した抗P1抗体は、マイコプラズマ・ニューモニエのM129株とFH株に対し、いずれか一方に反応性が偏る抗体であることが示された。反応性の偏りはP1遺伝子型によるものであり、P1遺伝子型によるP1タンパク質のアミノ酸配列の相違がモノクローナル抗体の反応性に表れている可能性が高い。また陰性対照としたマイコプラズマ・ジェニタリウムに対する若干の交差反応性を認めた。
したがって、P30タンパク質はマイコプラズマ・ニューモニエにおいて共通して保存されており、かつ、特異的なタンパク質であることが示され、さらにP30タンパク質を特異的に認識するモノクローナル抗体を取得した。
【0057】
(実施例5:抗P30抗体を用いたイムノクロマトグラフィーテストストリップの作製)
(1)抗P30抗体の調製
実施例3で得られたハイブリドーマBLA−001およびBLA−002をマウス腹腔に接種し得られた腹水それぞれを、さらに常法によりプロテインGを用いたIgG精製を行い、抗P30抗体とした。
【0058】
(2)白金−金コロイド粒子溶液の調製
使用するガラス器具の全てを王水で洗浄した。390mlの超純水をフラスコに入れて沸騰させ、この沸騰水に塩化金酸水溶液(水溶液1リットル当たり金として1g 、片山科学工業株式会社製)30mlを加え、その後、1重量% クエン酸ナトリウム水溶液60mlを加え、6分45秒後に、塩化白金酸水溶液(水溶液1リットル当たり白金として1g、和光純薬工業株式会社製) 30mlを加えた。塩化白金酸水溶液添加から5分後に1重量% クエン酸ナトリウム水溶液60mlを加え、4時間、還流を行い、白金−金コロイド懸濁液を得た。
【0059】
(3)白金−金コロイド標識抗P30抗体溶液の調製
白金ー金コロイド標識する抗P30抗体として、上記(1)で得られたクローンBLA−002を用い、下記の手順で白金−金コロイド標識を行った。
抗P30抗体の蛋白換算重量1μg(以下、抗体の蛋白換算重量を示すとき、単に、その精製蛋白質の重量分析による重量数値で示す)と上記(2)の白金−金コロイド溶液1mlとを混合し、室温で2分間静置してこの抗体のことごとくを白金−金コロイド粒子表面に結合させた後、白金−金コロイド溶液における最終濃度が1%となるように10%ウシ血清アルブミン(以下、「BSA」と記す)水溶液を加え、この白金−金コロイド粒子の残余の表面をことごとくこのBSAでブロックして、白金−金コロイド標識抗P30抗体(以下、「白金−金コロイド標識抗体」と記す)溶液を調製した。この溶液を遠心分離(5600×G、30分間)して白金−金コロイド標識抗体を沈殿せしめ、上清液を除いて白金−金コロイド標識抗体を得た。この白金−金コロイド標識抗体を10%サッカロース・1%BSA・0.5%Triton−X100を含有する50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.4)に懸濁して白金−金コロイド標識抗体溶液を得た。
【0060】
(4)マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップの作製
(4−1)マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質と白金―金コロイド標識抗体との複合体の捕捉部位
幅5mm、長さ36mmの細長い帯状のニトロセルロース膜をクロマトグラフ媒体のクロマト展開用膜担体3として用意した。抗P30抗体1.0mg/mlが含有されてなる溶液0.5μlを、このクロマト展開用膜担体3におけるクロマト展開開始点側の末端から7.5mmの位置にライン状に塗布して、これを室温で乾燥し、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質と白金ー金コロイド標識抗体との複合体の捕捉部位31とした。この塗布用抗P30抗体として、上記(1)で得られたクローンBLA−001を用いた。
(4−2)白金ー金コロイド標識抗体含浸部材
5mm×15mmの帯状のガラス繊維不織布に、白金−金コロイド標識抗体溶液37.5μlを含浸せしめ、これを室温で乾燥させて白金ー金コロイド標識抗体含浸部材2とした。
(4−3)イムノクロマトグラフィーテストストリップの作製
上記クロマト展開用膜担体3、上記標識抗体含浸部材2の他に、試料添加用部材5として綿布と、吸収用部材4として濾紙を用意した。そして、これらの部材を用いて、図1と同様のイムノクロマトグラフィーテストストリップを作製した。
【0061】
(5)試験
参考例1で得られたマイコプラズマ・ニューモニエのM129株およびFH株の培養菌液を検体抽出液で希釈して、所定濃度に調製し、被検試料とした。そして、被検試料120μlを用いて上記(4)で得られたテストストリップの試料添加用部材5にマイクロピペットで滴下してクロマト展開し、室温で15分放置後、上記捕捉部位31で捕捉されたP30タンパク質と白金ー金コロイド標識抗体との複合体の捕捉量を肉眼で観察した。捕捉量は、その量に比例して増減する黒色の呈色度合いを肉眼で−(着色なし)、±(微弱な着色)、+(明確な着色)、++(顕著な着色)、+++(顕著な着色)の5段階に区分して判定した。
その結果を表4に示す。表4から明らかなように、2種の抗P30抗体を使用したイムノクロマトグラフィー測定法により、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質を検出できることがわかった。またBlankにおける非特異的呈色も確認されなかった。
【0062】
【表4】
【0063】
(比較例4:P1タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップの作製)
実施例3に記載のイムノクロマトグラフィーテストストリップの作製手順に従い、比較例2にて作製した抗P1抗体において、M129株とFH株の両方に対して反応する抗P1抗体を使用し、標識用抗体としてBLM−002を、捕捉部位用抗体としてBLF−001を用い、イムノクロマトグラフィーテストストリップを作製した。
上記抗P1抗体を使用したイムノクロマトグラフィーテストストリップにより、マイコプラズマ・ニューモニエP1タンパク質を検出することができることが示された。
【0064】
(実施例6:P30タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップとP1タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップの反応性比較試験)
参考例1にて調製したマイコプラズマ・ニューモニエのM129株およびFH株の培養菌液を、検体抽出液にて所定濃度に調製し、被検試料とした。各イムノクロマトグラフィーテストストリップに、被検試料120μlを試料添加用部材5にマイクロピペットでそれぞれ滴下してクロマト展開し、室温で15分間放置後、捕捉部位31で捕捉された抗原と白金−金コロイド標識抗体との複合体を肉眼で観察して判定を行った。捕捉量は、その量に比例して増減する黒色の呈色度合いを肉眼で−(着色なし)、±(微弱な着色)、+(明確な着色)、++(顕著な着色)、+++(顕著な着色)の5段階に区分して判定した。結果を表5に示す。
【0065】
【表5】
【0066】
表5から明らかなように、P30タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップを用いた場合、M129株では1×10CFU/ml、FH株では1×10CFU/mlで顕著な呈色を示し、M129株では1×10CFU/ml、FH株では1×10CFU/mlで明確な呈色を示した。
一方、P1タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップを用いた場合には、M129株では1×10CFU/ml、FH株では1×10CFU/mlにて明確な呈色を示した。
【0067】
表5の結果から明らかなように、同じ呈色強度を示した被検試料の菌濃度を比較した結果、P30タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップが、P1タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップに対し、M129株およびFH株との反応性において100倍の検出感度差があることが示された。
以上の結果より、抗P30抗体を用いた、P30タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップにより、マイコプラズマ・ニューモニエを高感度かつ特異的に検出することが可能であることが示された。
【0068】
(実施例6:咽頭拭い液からのマイコプラズマ・ニューモニエの検出)
臨床的にマイコプラズマ・ニューモニエの感染が疑われる患者から、滅菌した綿棒を用いて、咽頭拭い液を採取した。前記咽頭拭い液は国立感染症研究所作成の遺伝子検査法により、咽頭拭い液中にマイコプラズマ・ニューモニエの遺伝子が存在するか確認した。その結果より、採取した咽頭拭い液中からマイコプラズマ・ニューモニエの遺伝子が検出された検体の7例と遺伝子が検出されなかった検体の3例を選択し、選択された咽頭拭い液を検体抽出液に抽出し、被験試料として調製した。被験試料は本発明のP30タンパク質検出イムノクロマトグラフィー測定用テストストリップを用いて、マイコプラズマ・ニューモニエの検出を実施した。
【0069】
被検試料120μlを実施例3にて作製したイムノクロマトグラフィーテストストリップの試料添加用部材5にマイクロピペットでそれぞれ滴下してクロマト展開し、室温で15分間放置後、捕捉部位31で捕捉された抗原と白金−金コロイド標識抗体との複合体を肉眼で観察して判定を行った。
試験の結果を表6に示す。
【0070】
【表6】
【0071】
表6から明らかなように、本発明のP30タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップを用いた検出法と遺伝子検査法の結果は全て一致し、本発明のP30タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップを用いることにより、咽頭拭い液からのマイコプラズマ・ニューモニエを迅速かつ簡便に検出することができることが示された。
【0072】
(実施例7:咽頭拭い液からのマイコプラズマ・ニューモニエの検出)
臨床的にマイコプラズマ・ニューモニエの感染が疑われる患者81名を対象とし、患者咽頭を滅菌した綿棒により擦過し、81例の咽頭拭い液を採取した。咽頭拭い液を採取した綿棒を0.7mlの検体抽出液に抽出し、被験試料として調製した。被検試料は本発明のP30タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップを用いて、マイコプラズマ・ニューモニエの検出を実施した。また対照として、P1タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップを用い、性能比較試験を実施した。採取した全ての臨床検体は、国立感染症研究所作成の遺伝子検査法に基づく核酸増幅法(PCR法)を実施し、マイコプラズマ・ニューモニエの存在確認を実施した。
【0073】
被験試料120μlを実施例3にて作製したイムノクロマトグラフィーテストストリップの試料添加用部材5にマイクロピペットにて滴下してクロマト展開させ、室温にて15分間放置後、捕捉部位31で捕捉された抗原と白金−金コロイド標識抗体との複合体を肉眼で観察して判定を行った。結果を表7に示す。また対照として比較例4にて作製したイムノクロマトグラフィーテストストリップを用い、同様の方法にて反応後、判定を行った。結果を表8に示す。
【0074】
【表7】
【0075】
核酸増幅法を標準とした場合、本発明のP30タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップは、陽性一致率(感度)79.2%、陰性一致率(特異度)100.0%、及び全体一致率:87.7%を示した。
【0076】
【表8】
【0077】
一方、比較例のP1タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップは、陽性一致率(感度)16.7%、陰性一致率(特異度)100.0%、及び全体一致率50.6%を示した。
【0078】
表7及び表8から明らかなように、本発明のP30タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップを用いた検出法と核酸増幅法(PCR法)の結果は良好に相関することが示された。また比較例のP1タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップと比較して、本発明は高い検出感度を示した。本結果から臨床現場において、本発明のP30タンパク質検出イムノクロマトグラフィーテストストリップにより、マイコプラズマ・ニューモニエを高感度かつ特異的に検出することが可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、マイコプラズマ・ニューモニエのP30タンパク質に対する抗体を用いることを特徴とするマイコプラズマ・ニューモニエの免疫学的検出法およびキットが提供され、特殊な機器および熟練した技術を必要することなく、マイコプラズマ・ニューモニエの感染を迅速かつ特異的に診断することが可能となる。
【符号の説明】
【0080】
1 粘着シート
2 含浸部材
3 膜担体
31 捕捉部位
32 対照捕捉部位
4 吸収用部材
5 試料添加用部材
図1
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]