特許第6529931号(P6529931)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ガット・テクノロジーズ・ビー.ブイ.の特許一覧

特許6529931求電子的に活性化されたポリオキサゾリン由来の架橋ポリマーおよびインプラント
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6529931
(24)【登録日】2019年5月24日
(45)【発行日】2019年6月12日
(54)【発明の名称】求電子的に活性化されたポリオキサゾリン由来の架橋ポリマーおよびインプラント
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/02 20060101AFI20190531BHJP
   A61L 15/58 20060101ALI20190531BHJP
   A61L 17/00 20060101ALI20190531BHJP
   A61L 24/04 20060101ALI20190531BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20190531BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20190531BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20190531BHJP
   C09J 179/02 20060101ALI20190531BHJP
【FI】
   C08L79/02ZBP
   A61L15/58 310
   A61L17/00
   A61L24/04 200
   A61L31/06
   C08J3/24 Z
   C08J5/18CEZ
   C09J179/02
【請求項の数】11
【外国語出願】
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2016-123770(P2016-123770)
(22)【出願日】2016年6月22日
(62)【分割の表示】特願2013-548377(P2013-548377)の分割
【原出願日】2012年1月2日
(65)【公開番号】特開2017-8315(P2017-8315A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2016年7月22日
【審判番号】不服2017-17412(P2017-17412/J1)
【審判請求日】2017年11月24日
(31)【優先権主張番号】11150099.7
(32)【優先日】2011年1月4日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518046565
【氏名又は名称】ガット・テクノロジーズ・ビー.ブイ.
【氏名又は名称原語表記】GATT Technologies B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜飼 健
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(72)【発明者】
【氏名】リチャルド・ホーゲンボーム
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス・カスパー・マティアス・エリザベス・ベンデル
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・コルネリス・マリア・ファン・へスト
【合議体】
【審判長】 大熊 幸治
【審判官】 近野 光知
【審判官】 橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/089542(WO,A2)
【文献】 国際公開第2009/108910(WO,A2)
【文献】 特表2003−502488(JP,A)
【文献】 米国特許第5635571(US,A)
【文献】 特許第5960165(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
A61K
A61L
CAPlus/REG(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
m個の求電子基を含む求電子的に活性化されたポリオキサゾリン(EL−POX)、およびn個の求核基を含む求核架橋剤を含む生体適合性の架橋ポリマーの製造用キットであって、
前記求電子基は前記求核基と反応して共有結合を介した架橋を形成することが可能で;
m≧2、n≧2およびm+n≧5であり;
前記m個の求電子基の少なくとも1個はペンダント求電子基であり、および/またはm≧3である、キット。
【請求項2】
前記EL−POXおよび前記求核架橋剤の別々に収納された容量体を含み、前記EL−POXは1〜95重量%の濃度で第1の溶媒に含まれており、前記求核架橋剤は1〜95重量%の濃度で第2の溶媒に含まれており、前記第1および前記第2の溶媒は5〜50重量%の水を含む、請求項1に記載のキット。
【請求項3】
別々に収納された前記容量体は、両方の容量体を同時に分注できる分注手段内に収容されている、請求項2に記載のキット。
【請求項4】
前記EL−POXを含有する生体適合性のフィルムおよび前記求核架橋剤を含有する生体適合性のフィルムを含む、請求項1に記載のキット。
【請求項5】
0.01〜1000μmの重量平均直径を有する粒子を含み、前記粒子はEL−POXを含有する粒子および前記求核架橋剤を含有する粒子を含む、請求項1に記載のキット。
【請求項6】
求電子的に活性化されたポリオキサゾリン(EL−POXの乾燥物を少なくとも1重量%含み、接着性組織テープ、組織封止剤、止血多孔質材およびインプラントからなる群から選択される組織接着性の医療製品であって、前記EL−POXは、少なくとも1個のペンダント反応性求電子基を含む少なくとも2個の反応性求電子基を含み、前記反応性求電子基は、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、ホスホン酸エステル、ペンタフルオロフェニルエステル、p−ニトロフェニルエステル、p−ニトロチオフェニルエステル、酸ハロゲン化物基、無水物、ケトン、アルデヒド、イソシアナト、チオイソシアナト、イソシアノ、エポキシド、活性化ヒドロキシル基、オレフィン、グリシジルエーテル、カルボキシル、スクシンイミジルエステル、スクシンイミジルカーボネート、スクシンイミジルカルバメート、スルホスクシンイミジルエステル、スルホスクシンイミジルカーボネート、マレイミド、エテンスルホニル、イミドエステル、アセトアセテート、ジヒドロキシ−フェニル誘導体、ハロアセタール、オルトピリジルジスルフィド、ビニルアクリレート、アクリルアミド、ヨードアセトアミドおよびそれらの組み合わせから選択され、組織接着性の医療製品。
【請求項7】
組織接着性の医療製品に含有されるEL−POXは架橋していない、請求項6に記載の組織接着性の医療製品。
【請求項8】
組織接着性の医療製品が求核架橋剤を含まない、請求項6または7に記載の組織接着性の医療製品。
【請求項9】
EL−POXは別の未反応のフィルム形成ポリマーのマトリックス中に組み込まれている、請求項6〜8のいずれか1項に記載の組織接着性の医療製品。
【請求項10】
乾燥物の10〜95重量%のEL−POXと、乾燥物の5〜90%の別の未反応のフィルム形成ポリマーを含む、請求項9に記載の組織接着性の医療製品。
【請求項11】
組織封止剤である、請求項6〜10のいずれか1項に記載の組織接着性の医療製品。
【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、求電子的に活性化されたポリオキサゾリン(EL−POX)と架橋剤との反応により得られる、生体適合性の共有結合架橋ポリマーに関する。
【0002】
本発明はさらに、このような架橋POX−ポリマーを含む生体適合性の医療製品に関する。このような医療製品の例として医療用インプラントが挙げられ、医療用インプラントとして骨インプラント、軟組織インプラント、接着性インプラント、被覆インプラント(coating on implant)、縫合糸、接着性組織封止剤および接着性組織テープが挙げられる。
【0003】
また、生体適合性の架橋POX−ポリマーの製造用キットが提供される。
【0004】
本発明はさらに、組織の成分と反応可能な反応基を含む求電子的に活性化されたPOXの乾燥物を少なくとも1重量%含む組織接着性の医療製品を提供する。
【0005】
[発明の背景]
組織接着剤は、創傷閉鎖、外科手術における縫合糸またはステープルの補助または置きかえ、合成オンレイまたはインレイの角膜への接着、薬物送達デバイスおよび例えば手術後の癒着を防ぐ癒着防止剤としてなどの多くの潜在的な医療用途を有している。
【0006】
従来の組織接着剤として、フィブリン封止剤、シアノアクリレート系封止剤および他の合成封止剤ならびに重合性マクロマ−が挙げられる。これら従来の封止剤の一部は、接着用途の特定の範囲に適しているのみである。例えば、シアノアクリレート系接着剤は局部的な創傷閉鎖に用いられているが、有毒な分解生成物の放出によりシアノアクリレート系接着剤を体内に用いることは制限されている。フィブリン系接着剤は高価であり、多くの場合に冷蔵貯蔵を必要とし、緩やかに硬化し、機械的強度に限界があり、およびウイルス感染の危険性がある。
【0007】
特定の用途、例えば眼への用途、例えば外傷(例えば角膜の裂傷)または外科手術(例えば硝子体茎切除、腹部ヘルニア、白内障の手術、LASIK手術、緑内障の手術および角膜の移植)によって生じる創傷の密閉;神経外科の用途、例えば硬膜の密閉;瘻孔または斑点を密閉する閉塞のために、緩やかに分解する組織接着剤が必要とされている。
【0008】
この10年間に、数種類の(半)合成のヒドロゲル組織接着剤が開発されており、これらでは接着性が改良されており、これらは無毒である。これらのヒドロゲル組織接着剤の大部分、例えばDuraSeal(登録商標)は、例えばPEG−スクシンイミジルグルタレートなどのポリエチレングリコール(PEG)でエンドキャップされたmPEG−NHS前駆体によるポリマー修飾治療(polymer-modified therapeutic)で用いられるPEG化と呼ばれる処理に化学的に基づいている。PEG化に基づくこれらのヒドロゲル組織接着剤は通常、急速に膨潤するか、もしくは溶解して除去され、または凝集力(相互接続の機械的強度)が不十分であり、その結果、ヒドロゲル組織接着剤の外科用接着剤としての有効性が低下する。さらに、これらのヒドロゲル組織接着剤を塗布するためにデュアルシリンジ噴霧技術が必要とされることがあり、この技術は凍結乾燥した出発材料から多量の試料を生成することを必要とする。最後に、このようなPEG系材料の性質は容易に制御することができず、NHS基の数は鎖末端の数に制限されており、鎖末端は鎖末端当たり多数のNHS基を含む場合があり、その結果、規則正しく分散した基よりも高密度のNHS基となる。
【0009】
WO02/062276には星形状のPEG−スクシンイミジルグルタレート前駆体を含むヒドロゲル組織封止剤が記載されており、PEG−スクシンイミジルグルタレート前駆体はまた、星型PEG−NHS、星型PEG−NS、星型SG−PEGまたは星型PEG−SGとして周知であり、トリリシン前駆体と反応する。星型SG−PEG前駆体がpH4のリン酸塩中で再構成されていてもよいし、トリリシン前駆体がpH8のホウ酸塩緩衝液中で再構築されていてもよい。混合中、トリリシン前駆体のアミンと、星型SG−PEG前駆体のNHS活性化末端カルボキシレート基との間に共有アミド結合が形成される。
【0010】
US2003/0119985およびUS2005/0002893には、同じ星型PEG−NHS/トリリシンの原理に基づく組織封止剤が記載されている。この組織封止剤において、ヒドロゲルは、求核基を有する成分と求電子基を有する成分とが反応して共有結合を介して架橋ネットワークが形成されることにより生成されている。
【0011】
WO2010/043979には多孔質層を含むインプラントが開示されており、この多孔質層は、第1の副層と第2の副層と第1の別の層とを含む。第1の副層は第1のヒドロゲル前駆体を含み、第2の副層にはヒドロゲル前駆体が存在せず、第1の別の層は第2のヒドロゲル前駆体を含む無孔層である。第1のヒドロゲル前駆体は求核官能基を有しており、第2のヒドロゲル前駆体は求電子官能基を有している。
【0012】
WO02/102864には、架橋可能な組成物が記載されている。架橋可能な組成物は、
a)m個の求核基を有する第1の架橋可能な成分Aであってm>2である成分A、
b)n個の求電子基を有する第2の架橋可能な成分Bであって、求電子基はm個の求核基と反応して共有結合を形成可能であり、n>2であるとともにm+n>4である成分B、ならびに
c)少なくとも1個の官能基を有する第3の架橋可能な成分Cであって、官能基は、(i)成分Bの求電子基と反応可能な求核基および(ii)成分Aの求核基と反応可能な求電子基から選択され、成分Cの官能基の全数がpで示され、m+n+p>5となる成分Cから成る。成分A、BおよびCの少なくとも一つは親水性ポリマーから成り、組成物の架橋は生体適合性で非免疫原性の架橋マトリックスを生じる。親水性ポリマーの例として、ポリオキサゾリンが言及されている。
【0013】
WO2006/078282には、m個の求核基で置換されたコアを有する第1の成分であってm>2である第1の成分、およびn個の求電子基で置換されたコアを有する第2の成分であってn>2であるとともにm+n>4である第2の成分から成る乾燥粉末組成物が記載されている。乾燥粉末組成物において、求核基および求電子基は乾燥環境下では無反応性であるが、水環境に曝されると反応性となり、水環境中において各成分が相互に反応して3次元の構成物を形成するようになる。第1または第2の成分のコアは親水性ポリマーであり得る。WO2006/078282には異なる親水性ポリマーの範囲が言及されており、異なる親水性ポリマーとしてポリオキサゾリンが挙げられる。
【0014】
WO2010/033207には、直接に、または1つ以上の原子のスペーサ部分を介してのいずれかで水溶性の非ペプチドポリマーと共有結合的に結合している治療用ペプチド部分の残基を含むコンジュゲートが記載されている。ポリオキサゾリンが水溶性ポリマーの一例として言及されている。
【0015】
WO2009/043027には、ポリオキサゾリンの分枝した単官能型、およびこのようなポリオキサゾリン誘導体と薬物とのコンジュゲートが記載されている。例18には、ビス−アミンと構造−[N(COCH2CH3)CH2CH2n−を有する繰り返し単位を含むポリオキサゾリンとのカップリングが記載されている。この結合において、末端の窒素はメチルに結合しており、他の末端は以下の求電子残基−OCO2−NHSを有している。
【0016】
US5,635,571には、末端NH2またはOH基とペンダントエステル基とを含むポリオキサゾリンが記載されている。ペンダントエステル基と鎖末端NH2との間のアミド化、またはペンダントエステル基と鎖末端OH基との間のエステル交換により、多分枝ポリマーが生成されている。
【0017】
Chujo他(Reversible Gelation of Polyoxazoline by Means of Diels−Alder Reaction, Macromolecules, 1990(23), 2636−2641)には、フラン修飾ポリ(N−アセチルエチレンイミン)(PAEI)とマレイミド修飾PAEIとの間の分子間ディールス−アルダー反応によるポリオキサゾリンヒドロゲルの生成が記載されている。フラン修飾PAEIおよびマレイミド修飾PAEIは、ジシクロヘキシルカルボジイミドの存在下で、それぞれフランまたはマレイミドカルボン酸との反応により部分的に加水分解されたPAEIから合成された。
【0018】
Luxenhofer (Thesis: Novel Functional Poly(2−oxazoline)s as Potential Carriers for Biomedical Applications, Technische Universit(ae)t M(ue)nchen (2007))にはポリ(2−オキサゾリン)ヒドロゲルが記載されている。これらのヒドロゲルは、アルデヒド側鎖を含むポリ(2−メチル−2−オキサゾリン)とヒドラジンまたはアミン側鎖を含むポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)との架橋により調製されている。4〜9の範囲内のpHを有する水性緩衝液中でのゲル化および膨潤が評価された。
【0019】
インプラントまたは組織封止剤の用途を有するポリマーの範囲を広げること、特にPEG系ポリマーが有していない性質を有しつつ同様に生体適合性であるポリマーを提供することは興味あることである。
【0020】
[発明の概要]
本発明者らは、優れた移植および/または封止特性を有するポリマーが、少なくとも2個の求電子基を含む求電子的に活性化されたポリオキサゾリン(EL−POX)と2個以上の求核基を含む架橋剤とを反応させることにより得ることができることを発見した。架橋ポリマーに用いられるEL−POXは少なくとも1個のペンダント求電子基を含む、または含まない場合には少なくとも3個の末端求電子基を含む。
【0021】
本発明の一態様によれば、架橋ポリマーは組織接着性を有しており、組織接着性は未反応の求電子基をポリマーが含むという事実に起因しており、未反応の求電子基は組織内に自然に存在している求核種含有成分と反応することができる。したがって、本発明は、EL−POXと求核架橋剤との反応により得られる、組織接着性で生体適合性の共有結合架橋ポリマーを提供し、前記EL−POXはm個の求電子基を含み;および前記求核架橋剤はn個の求核基を含み、m個の求電子基はn個の求核基と反応して共有結合を形成することができ;m≧2、n≧2およびm+n≧5であり;m個の求電子基の少なくとも1個がペンダント求電子基であり、および/またはm≧3であり;ならびにEL−POXは求核架橋剤に含まれる求核基の量と比較して過剰量の求電子基を含む。
【0022】
本発明の架橋ポリマーは多くの有益な性質を備えている:
・架橋ポリマーの接着性および機械的性質は、アルキル側鎖および/または末端基の官能化の程度および種類、ならびにポリマー鎖の長さを制御することにより効率的に操作可能である。カチオン性の2−アルキル−2−オキサゾリン重合を適宜用いてPOXポリマーのアルキル側鎖中に多数の活性基を組み込むことができる;
・架橋ポリマーの凝集性は、ポリマー中の架橋の数/密度により主に決定される。ポリマー中の架橋の数は、POXのアルキル側鎖中に活性基を様々な量で組み込むことにより広範囲に変更可能である;
・架橋ポリマーの膨潤指数は、POX中の架橋の数およびアルキル側鎖の鎖長を操作することより制御可能である;
・架橋ポリマーで作製したインプラントは、局所的な薬物送達用の理想的な薬物デポ(drug depot)である。薬物、例えば抗生物質、VEGFなどの成長因子、および骨形成因子(BMP−2)の放出は相互接続ネットワークからの緩慢な拡散により維持されていてもよく、相互接続ネットワークは該ネットワーク内のアルキル側鎖の種類および架橋の密度に依存している;
・架橋ポリマーの生分解性は、加水分解性基、例えばエステルまたはカーボネートのコポリマー中への組み込みにより効率的に制御可能である。さらに、内部の架橋の数の影響を受ける。したがって、用途に合わせてポリマーの生分解性を微調整することができる;
・薬物送達の研究におけるエンドキャップPOX−NHSに基づいて、POXはPEGと同様の、またはより良好なステルス性および防汚挙動(antifouling behaviour)を有しているように見える。腎クリアランスのために、POXは30,000以下の分子量を有しているべきである。
【0023】
本発明の別の側面は生体適合性の架橋ポリマーの製造用キットに関し、前記キットは本明細書で前述したEL−POXおよび求核架橋剤を含み、m個の求電子基の少なくとも1個はペンダント求電子基である。このキットは、骨の代用材料、癒着防止インプラント(フィルム)、接着性インプラント(例えば動脈の穿刺部位を閉じるための、塞栓形成のための、また尿失禁を治療するための組織封止剤)を送達するために適宜用いられていてもよい。
【0024】
EL−POXおよび架橋剤が結合する際に架橋が生じる頻度は、不活性ではない液体、例えば水(pH)、アルコールおよび/またはポリオールを加えることにより効率的に制御可能である。
【0025】
本発明はまた、本発明の組織接着性の架橋ポリマーの乾燥物を少なくとも1重量%含む生体適合性の医療製品を提供する。このような生体適合性の医療製品の例として、インプラント、組織封止剤、接着性組織テープ、縫合材、ポリマー被覆ステントおよび止血材が挙げられる。
【0026】
本発明はさらに、EL−POXの乾燥物を少なくとも10重量%含む組織接着性の医療製品であって、前記EL−POXは少なくとも1個のペンダント求電子基を含む少なくとも2個の求電子基を含む。前記反応基は、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、ホスホン酸エステル、ペンタフルオロフェニルエステル、p−ニトロフェニルエステル、p−ニトロチオフェニルエステル、酸ハロゲン化物基、無水物、ケトン、アルデヒド、イソシアナト、チオイソシアナト(イソチオシアナト)、イソシアノ、エポキシド、活性化ヒドロキシル基、オレフィン、グリシジルエーテル、カルボキシル、スクシンイミジルエステル、スクシンイミジルカーボネート、スクシンイミジルカルバメート、スルホスクシンイミジルエステル、スルホスクシンイミジルカーボネート、マレイミド、エテンスルホニル、イミドエステル、アセトアセテート、ハロアセタール、オルトピリジルジスルフィド、ジヒドロキシフェニル誘導体、ビニルアクリレート、アクリルアミド、ヨードアセトアミドおよびそれらの組み合わせから選択される、組織接着性の医療製品を提供する。前述した反応基は組織内に自然に存在している求核種含有成分と反応することができ、それによってEL−POXを含む医療製品に組織接着性が付与される。
【0027】
本発明の組織接着性の医療製品は下記の利点を示す:
・EL−POXの親水性/疎水性のバランスに起因して、EL−POXは有機液体、例えばエタノールおよびジクロロメタンならびに水に溶解する。
【0028】
・EL−POXは、例えばポリエチレングリコールと比較して著しく高いガラス転移温度を示す優れた非晶質性を有している。
【0029】
・EL−POXはフィルム形成能を有しており、限られた量の可塑剤で容易に可塑化する。求電子的に活性化されたPEGに対するEL−POXの利点は、特定の用途のためにポリマー性質を調整すべく、異なるとともに官能化された複数の基を鎖の途中に組み込む可能性があることである;
・POXは、インプラントが水または体液に曝されていない場合には、インプラント中のNHS基のための保護環境を備えている。
【0030】
[発明の詳細な説明]
したがって、本発明の一側面は、求電子的に活性化されたポリオキサゾリン(EL−POX)と求核架橋剤との反応により得られる、組織接着性で生体適合性の共有結合架橋ポリマーに関する。前記EL−POXはm個の求電子基を含み;および前記求核架橋剤はn個の求核基を含み、m個の求電子基はn個の求核基と反応して共有結合を形成することができ;m≧2、n≧2およびm+n≧5であり;m個の求電子基の少なくとも1個はペンダント求電子基であり、および/またはm≧3であり;EL−POXは求核架橋剤に含まれる求核基の量と比較して過剰量の求電子基を含む。
【0031】
本明細書で用いられる用語「ポリオキサゾリン」はポリ(N−アシルアルキレンイミン)またはポリ(アロイルアルキレンイミン)を示しており、さらにPOXと称される。POXの例としてポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)が挙げられる。用語「ポリオキサゾリン」はまた、POXコポリマーを含む。
【0032】
術語「ペンダント求電子基」は、POXポリマー鎖の末端に位置する求電子鎖とは対照的に、POXポリマーの側鎖、例えばアルキルまたはアリール側鎖中に含まれる求電子基を示す。特定の側鎖中の各求電子基をペンダント求電子基とみなす場合には、POXポリマーの特定の側鎖は1個以上の求電子基を適宜含んでいてもよいことを理解すべきである。
【0033】
本明細書で用いられる用語「アミン基」は第1級または第2級アミン基を示す。
【0034】
本発明の架橋ポリマーが、モノマー100個当たりに特定の基または結合が特定の数で存在することに基づいて特徴付けられているときは常に、このことはポリマーが少なくとも100個のモノマーを含むことを意味していないことを理解すべきである。例えば、80個のモノマーおよび8個のペンダント基を含む架橋ポリマーは、モノマー100個当たり10個のペンダント基を含む。同様に、ポリマーが80個のモノマーを含み、このポリマーが例えばモノマー100個当たり少なくともx個のペンダント基を含むと規定されている場合、この基準は、この特定のポリマーが平均して少なくとも0.8x個のペンダント基を含む場合に満たされる。
【0035】
好ましくは、本発明のEL−POXはポリオキサゾリンポリマーの求電子的に活性化された型であり、その繰り返し単位は下記式(I)で示される:
(CHR1mNCOR22および各R1は独立して、H、置換されていてもよいC1~22アルキル、置換されていてもよいシクロアルキル、置換されていてもよいアラルキル、置換されていてもよいアリールから選択され、mは2または3である。本発明はまた、ポリオキサゾリンコポリマーの使用を含み、ポリオキサゾリンコポリマーは2個以上の異なる繰り返し単位を含み、繰り返し単位は式(I)で示される。
【0036】
好ましくは、式(I)中のR1およびR2は、HおよびC1~22アルキルから選択され、さらに好ましくはHおよびC1~4アルキルから選択される。R1は最も好ましくはHである。式(I)中の整数mは、好ましくは2と等しい。
【0037】
好ましい態様によれば、本発明に従って用いられるポリオキサゾリンはポリマーであり、さらに好ましくは2−アルキル−2−オキサゾリンのホモポリマーである。前記2−アルキル−2−オキサゾリンは2−メチル−2−オキサゾリン、2−エチル−2−オキサゾリン、2−プロピル−2−オキサゾリン、2−ブチル−2−オキサゾリンおよびそれらの組み合わせから選択される。最も好ましくは、ポリオキサゾリンは2−エチル−オキサゾリンのホモポリマーである。
【0038】
好ましくは、本発明の架橋ポリマーで用いられる求電子的活性POX(EL−POX)および架橋剤は同一ではない。
【0039】
求核架橋剤のn個の求核基は、好ましくはアミン基、チオール基およびそれらの組み合わせから選択される。最も好ましくは、これらの求核基はアミン基である。
【0040】
EL−POXは、その側鎖中で、その末端で(但し、EL−POXは少なくとも3個の末端エレクロフィリック(elecrophilic)基を含む)、または両方で活性化可能である。末端エンドキャップされたEL−POXの例として、スクシンイミジルスクシネートエステル、例えばCH3O−POX−O2C−CH2−C(CH2CO2−NHS)3が挙げられる。側鎖活性化EL−POXの例として、アルキル側鎖中にNHS基を含むPOXが挙げられる。EL−POXのさらに別の例として、NHS−エステルにより末端が官能化された星状ポリマーが挙げられる。
【0041】
EL−POXに含まれる求電子基は、好ましくは周囲および/または生理的条件で好ましくはアミン基またはチオール基に対する反応性が高い。したがってUS5,635,571とは異なり、求電子基は、好ましくは下記式−(CO)R(CO)OR2を有するペンダントエステル基ではなく、ここでRは2〜18個の炭素原子を含むフェニレンまたはアルキレンであり、R2はC1~4アルキルである。
【0042】
EL−POXに含まれる求電子基は、好ましくはカルボン酸エステル、スルホン酸エステル、ホスホン酸エステル、ペンタフルオロフェニルエステル、p−ニトロフェニルエステル、p−ニトロチオフェニルエステル、酸ハロゲン化物基、無水物、ケトン、アルデヒド、イソシアナト、チオイソシアナト(イソチオシアナト)、イソシアノ、エポキシド、活性化ヒドロキシル基、オレフィン、グリシジルエーテル、カルボキシル、スクシンイミジルエステル、スクシンイミジルカーボネート、スクシンイミジルカルバメート、スルホスクシンイミジルエステル、スルホスクシンイミジルカーボネート、マレイミド(マレイミジル)、エテンスルホニル、イミドエステル、アセトアセテート、ハロアセタール、オルトピリジルジスルフィド、ジヒドロキシ−フェニル誘導体、ビニル、アクリレート、アクリルアミド、ヨードアセトアミドおよびそれらの組み合わせから選択される。
【0043】
より好ましくは、EL−POXに含まれる求電子基は、カルボン酸エステル、酸塩化物基、無水物、ケトン、アルデヒド、イソシアナト、チオイソシアナト、エポキシド、活性化ヒドロキシル基、オレフィン、カルボキシル、スクシンイミジルエステル、スクシンイミジルカーボネート、スクシンイミジルカルバメート、スルホスクシンイミジルエステル、スルホスクシンイミジルカーボネート、マレイミド、エテンスルホニルおよびそれらの組み合わせから選択される。さらに好ましくは、EL−POXに含まれる求電子基は、アルデヒド、イソシアナト、チオイソシアナト、スクシンイミジルエステル、スルホスクシンイミジルエステル、マレイミドおよびそれらの組み合わせから選択される。
【0044】
最も好ましくは、EL−POXに含まれる求電子基は、イソシアナト、チオイソシアナト、スクシンイミジルエステル、スルホスクシンイミジルエステル、マレイミドおよびそれらの組み合わせから選択される。
【0045】
求電子基として使用可能なスルホン酸エステルの例として、メシレート、トシレート、ノシレート、トリフレートおよびそれらの組み合わせが挙げられる。使用可能なオレフィンの例として、アクリレート、メタクリレート、エチルアクリレートおよびそれらの組み合わせが挙げられる。活性化ヒドロキシル基の例として、p−ニトロフェニルクロロカーボネート、カルボニルジイミダゾール(例えば1,1−カルボニルジイミダゾール)およびスルホニルクロリドから選択される活性化剤で活性化されているヒドロキシル基が挙げられる。
【0046】
一つの好ましい態様によれば、求核架橋剤の求核基はアミン基であり、EL−POXに含まれる求電子基は、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、ホスホン酸エステル、ペンタフルオロフェニルエステル、p−ニトロフェニルエステル、p−ニトロチオフェニルエステル、酸ハロゲン化物基、無水物、ケトン、アルデヒド、イソシアナト、チオイソシアナト、イソシアノ、エポキシド、活性化ヒドロキシル基、グリシジルエーテル、カルボキシル、スクシンイミジルエステル、スクシンイミジルカーボネート、スクシンイミジルカルバメート、スルホスクシンイミジルエステル、スルホスクシンイミジルカーボネート、イミドエステル、ジヒドロキシ−フェニル誘導体およびそれらの組み合わせから選択される。
【0047】
用いられていてもよいスクシンイミジル誘導体の例として、スクシンイミジルグルタレート、スクシンイミジルプロピオネート、スクシンイミジルスクシンアミド、スクシンイミジルカーボネート、ジスクシンイミジルスベレート、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)、ビス(2−スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチルスルホンおよび3,3’−ジチオビス(スルホスクシンイミジル−プロピオネート)が挙げられる。使用可能なスルホスクシンイミジル誘導体の例として、スルホスクシンイミジル(4−ヨードアセチル)アミノベンゾエート、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート、スルホスクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)−シクロヘキサン−1−カルボキシレート、ジチオビス−スルホスクシンイミジルプロピオネート、ジスルホ−スクシンイミジルタルタレート、ビス[2−(スルホ−スクシンイミジルオキシカルボニルオキシエチルスルホン)]、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミシルスクシネート)、ジチオビス−(スクシンイミジルプロピオネート)が挙げられる。ジヒドロキシフェニル誘導体の例として、ジヒドロキシフェニルアラニン、3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)、ドーパミン、3,4−ジヒドロキシヒドロケイ皮酸(dihydroxyhydroccinamic acid)(DOHA)、ノルエピネフリン、エピネフリンおよびカテコールが挙げられる。
【0048】
さらに好ましくは、EL−POXに含まれる求電子基は、アルデヒド、スクシンイミジルエステル、スクシンイミジルカーボネート、スクシンイミジルカルバメート、イミドエステル、ジヒドロキシフェニル誘導体およびそれらの組み合わせから選択される。最も好ましくは、求電子基はN−ヒドロキシスクシンイミドエステル、アルデヒド、ジヒドロキシフェニル誘導体およびそれらの組み合わせの群から選択される。
【0049】
別の好ましい態様によれば、求核架橋剤の求核基はチオール基であり、EL−POXに含まれる求電子基は、ハロアセタール、オルトピリジルジスルフィド、マレイミド、ビニルスルホン、ジヒドロキシフェニル誘導体、ビニル、アクリレート、アクリルアミド、ヨードアセトアミド、スクシンイミジルエステル、スクシンイミジルカーボネート、スクシンイミジルカルバメート、スルホスクシンイミジルエステル、スルホスクシンイミジルカーボネートおよびそれらの組み合わせから選択される。より好ましくは、求電子基は、スクシンイミジルエステル、ハロアセタール、マレイミド、またはジヒドロキシフェニル誘導体およびそれらの組み合わせから選択される。最も好ましくは、求電子基は、マレイミドまたはジヒドロキシフェニル誘導体およびそれらの組み合わせから選択される。
【0050】
本発明の利点は、EL−POXに含まれる求電子基の数mが少なくとも13である場合に特に認識される。
【0051】
本発明に係るEL−POXは、有利には2−NHS−官能性−2−オキサゾリンおよび2−アルキル−2−オキサゾリンのコポリマーに由来する。コポリマーに含まれる2−NHS−官能性−2−オキサゾリンは、好ましくはメルカプトアルカノエートNHS−エステル官能化2−アルケニル−2−オキサゾリンまたは2−NHS−アルカノエート−2−オキサゾリンおよびそれらの組み合わせから選択される。さらに好ましくは、2−NHS−官能性−2−オキサゾリンは、メルカプト酢酸NHS−エステル官能化2−ブテニル−2−オキサゾリン、2−NHSプロピオネート−2−オキサゾリンおよびそれらの組み合わせから選択される。
【0052】
NHS−エステルはポリマーの合成中に用いられるモノマーに既に含まれていてもよいし、または官能性コモノマーへのカップリングもしくはPOXの部分的加水分解、続いて生じるポリマー鎖中の第2級アミン基のアルキル化もしくはアミド化により後に導入されていてもよい。2−アルキル−2−オキサゾリンは、好ましくは2−エチル−2−オキサゾリン、2−メチル−2−オキサゾリン、2−プロピル−2−オキサゾリンおよびそれらの組み合わせから選択される。通常、EL−POXは2−NHS−官能性−2−オキサゾリンおよび2−アルキル−2−オキサゾリンを1:33〜1:2、より好ましくは1:20〜1:5の範囲内であるモル比で含む。
【0053】
別の望ましい態様によれば、本発明に係るEL−POXは2−アルキル−2−オキサゾリンおよび2−マレイミド−官能化−2−オキサゾリンのコポリマーである。後者のマレイミド単位を、アミンもしくは酸側鎖官能基または部分的加水分解で生じる主鎖の第2級アミンの後修飾で導入することができる。
【0054】
本発明のEL−POXは、有利には1個以上のペンダント求電子基を含む。通常、EL−POXはモノマー100個当たり3〜50個のペンダント求電子基、より好ましくはモノマー100個当たり4〜35個のペンダント求電子基、さらに好ましくはモノマー100個当たり少なくとも5〜20個のペンダント求電子基を含む。
【0055】
本明細書において既に説明したように、1個以上の求電子基がEL−POXの側鎖に含まれていてもよい。しかしながら、好ましくはEL−POXの各ペンダント求電子基は異なる側鎖に位置している。
【0056】
本発明に従って用いられるEL−POXは通常、1,000〜100,000g/モル、より好ましくは5,000〜50,000および最も好ましくは10,000〜30,000g/モルの範囲内の分子量を有している。
【0057】
特に好ましい態様によれば、求核架橋剤に含まれるn個の求核基は第1級アミン基である。
【0058】
本発明の一つの態様において、架橋ポリマーに用いられる求核架橋剤は、1,000g/モル未満、より好ましくは700g/モル未満および最も好ましくは400g/モル未満の分子量を有する低分子量ポリアミンである。さらに好ましくは、求核架橋剤は、ジリシン;トリリシン;テトラリシン;ペンタリシン;ジシステイン;トリシステイン;テトラシステイン;ペンタシステイン;リシン、オルニチン、システイン、アルギニンおよびそれらの組み合わせから選択される2個以上のアミノ酸残基と他のアミノ酸残基とを含むオリゴペプチド;スペルミン;トリス(アミノメチル)アミン;アルギニンならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0059】
本発明の別の態様によれば、架橋ポリマーに用いられる求核架橋剤は、少なくとも2個のアミン基を含む求核的に活性化されたPOX(NU−POX);キトサン;キトサン誘導体(例えばWO2009/028965に記載のジカルボキシ−誘導体化キトサンポリマー)、ポリエチレンイミン;ポリビニルアミン;ポリアリルアミン;アミン官能化ポリ(メタ)アクリレート;アミン官能化部分を含む多糖、例えばポリ(ガラクトサミン);スチレン(styrenics);リシン、オルニチン、システイン、アルギニンおよびそれらの組み合わせから選択される2個以上のアミノ酸残基と他のアミノ酸残基とを含むポリペプチド;ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される高分子量ポリアミンである。天然源または組み替え体由来のアルブミンは、ポリペプチドとして適宜用いられていてもよいポリペプチドの例である。アミン官能化ポリエチレングリコールは、求核架橋剤として適宜用いることができる高分子量ポリアミンの別の例である。
【0060】
高分子量架橋剤は通常、少なくとも2,000g/モル、さらに好ましくは少なくとも10,000g/モルの分子量を有している。
【0061】
好ましくは、求核架橋剤は、(WO2010/033207に記載されたコンジュゲートとは対照的に)5個を超える、より好ましくは2個を超えるアミノ酸残基を含む薬学的活性ペプチドではない。最も好ましくは、架橋剤は薬学的活性ペプチドではない。ここで用語「薬学的活性ペプチド」は、科学的に証明されているペプチドの薬学的活性を意味している。
【0062】
特に好ましい態様によれば、高分子量ポリアミンは少なくとも2個のアミン基を含むNU−POXである。さらに好ましくは、高分子ポリアミンは、システアミン修飾2−アルケニル−2−オキサゾリンまたは2−t−BOC−アミノアルキル−2−オキサゾリンと2−アルキル−2−オキサゾリンとのホモポリマーまたはコポリマーから得られる。コポリマーに含まれる、システアミン修飾2−アルケニル−2−オキサゾリンは、好ましくは2−ブテニル−2−オキサゾリンおよびそれらの組み合わせから選択される。2−アルキル−2−オキサゾリンは、好ましくは2−エチル−2−オキサゾリン、2−メチル−2−オキサゾリン、2−プロピル−2−オキサゾリンおよびそれらの組み合わせから選択される。アミン部分はまた、POXの部分的な加水分解、続いて生じるポリマー鎖中の第2級アミン基のアルキル化またはアミド化により導入可能である。通常、NU−POXはシステアミン修飾2−アルケニル−2−オキサゾリンおよび2−アルキル−2−オキサゾリンを1:33〜1:2、より好ましくは1:20〜1:5の範囲内であるモル比で含む。
【0063】
別の好ましい態様によれば、求核架橋剤に含まれるn個の求核基はチオール(スルホヒドリル)基である。
【0064】
本発明の一つの態様において、架橋ポリマーで用いられる求核架橋剤は、2個以上のチオール基を含む低分子量ポリチオールであり、低分子量ポリチオールは1,000g/モル未満、より好ましくは700g/モル未満および最も好ましくは400g/モル未満の分子量を有している。さらに好ましくは、求核架橋剤は、トリメルカプトプロパン、エタンジチオール、プロパンジチオール、2−メルカプトエチルエーテル、2,2’−(エチレンジオキシ)ジエタンチオール、テトラ(エチレングリコール)ジチオール、ペンタ(エチレングリコール)ジチオール、ヘキサエチレングリコールジチオール;チオール修飾ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、トリメチロールプロパンまたはジトリメチロールプロパン;少なくとも2個のシステイン単位を含むオリゴペプチドの群から選択される。
【0065】
本発明の別の態様によれば、架橋ポリマーに用いられる求核架橋剤は高分子量ポリチオールであり、高分子量ポリチオールは少なくとも2個のチオール基を含むNU−POX;チオール−官能化ポリ(メタ)アクリレート;チオール−官能性部分を含む多糖;スチレン;2個以上のチオール基を含むポリペプチドの群から選択される。
【0066】
特に好ましい態様によれば、高分子量ポリチオールは、少なくとも2個のチオール基を含むNU−POXである。さらに好ましくは、高分子ポリチオールはチオール末端基を有するポリ(2−アルキル−2−オキサゾリン)であり、チオール末端基は、キサントゲン酸カリウムを有する多官能性開始剤による重合、続いてアミノ分解によりフリーのチオール基を得るエンドキャップにより導入されている。また、チオール部分は、保護されたチール含有モノマーの共重合により、酸、アミンもしくはアルケニル側鎖の修飾により、または部分的加水分解で生じる主鎖の第2級アミンの修飾によりNU−POXの側鎖中に導入される。2−アルキル−2−オキサゾリンは、好ましくは2−エチル−2−オキサゾリン、2−メチル−2−オキサゾリン、2−プロピル−2−オキサゾリンおよびそれらの組み合わせから選択される。
【0067】
NU−POXは通常、1,000〜100,000g/モル、より好ましくは10,000〜30,000g/モルの範囲内の分子量を有している。
【0068】
特に好ましい態様によれば、架橋ポリマーのEL−POX成分に含まれるm個の求電子基は、周囲および/または生理的条件下で架橋剤のn個の求核基と反応して共有結合を形成することができる。最も好ましくは、求電子基は周囲条件下で求核基と反応して共有結合を形成することができる。周囲温度で架橋を形成する能力は、架橋がインサイチュ(in situ)、例えば手術中に生じなくてはならない場合に特に好都合である。通常、35℃および1気圧で、EL−POXと架橋剤との間の架橋反応は30分以内、好ましくは10分以内、より好ましくは5分以内、最も好ましくは2分以内に完了する。
【0069】
本明細書において既に説明したように、求核架橋剤の求核基と反応しないフリーの求電子基を架橋ポリマーが含む場合には、特定の用途にとって好都合であり得る。このような架橋ポリマーは、架橋剤に含まれる求核基の量と比較して過剰量の求電子基を含むEL−POXを用いることにより得られる。したがって、好ましい態様において、比m/nは1.2を超えており、より好ましくは1.5を超えており、最も好ましくは2.0を超えている。通常、後者の比は1000を超えず、より好ましくは200を超えず、さらに好ましくは50を超えず、および最も好ましくは10を超えない。
【0070】
本発明の架橋ポリマー中の未反応の求電子基は組織接着性をポリマーに付与する。これは、求電子基が組織内に自然に存在している求核基(例えばアミノ基およびチオール基)と反応することができるからである。したがって、未反応の求電子基を含む架橋ポリマーが組織に塗布される際には、未反応の求電子基は組織中の求核基と反応することができ、それによりポリマーと組織との間に強力な接着が生じる。
【0071】
架橋ポリマーの組織接着性は、架橋ポリマー中の未反応の求電子基の数を操作することにより、非常に効率的に制御可能である。一般的に、未反応の求電子基の数がより多いと、接着はより強力である。
【0072】
したがって、本発明の特に好ましい態様によれば、架橋ポリマーは、モノマー100個当たり、架橋ポリマーのEL−POX成分に含まれており、求核架橋剤の求核基と反応していない求電子基を少なくとも1個、より好ましくは2〜95個、さらに好ましくは5〜70個、最も好ましくは10〜50個含む。
【0073】
架橋ポリマーにおける反応した、および未反応の求電子基の総数の内、未反応の求電子基は好ましくは10〜95%、より好ましくは20〜80%および最も好ましくは40〜60%を示す。
【0074】
架橋ポリマーは通常、EL−POXと求核架橋剤とが50:1〜1:1のモル比、より好ましくは10:1〜3:2の範囲内で反応することにより得られる。
【0075】
有利には、EL−POXの側鎖の3〜50%、より好ましくは4〜35%および最も好ましくは5〜20%が求電子基を含む。本明細書において既に説明したように、複数のペンダント求電子基を有するEL−POXの架橋により得られる架橋ポリマーは、末端の求電子基のみを有するEL−POXの架橋により得られる架橋ポリマーとは対照的に多数の利点を示す。この利点として、特性、例えば凝集性、機械的強度、膨潤性、生分解性および粘性を求電子基でエンドキャップされているポリマーで可能な場合と比較して非常により広い範囲にわたって調整する可能性が挙げられる。この点において、求電子的に活性化されたPEG(これは医療用インプラントに関する多数の従来技術文献に記載されている)はペンダント求電子基の組み込みを可能にするいかなる側鎖も含んでいないことに留意されたい。
【0076】
(乾燥した)架橋ポリマーが水と接触した際に膨潤する能力は、架橋の程度に強く依存している。架橋がより多いと、膨潤指数はより低い。好ましくは、ポリマーはモノマー100個当たり50個以下、より好ましくは20個以下および最も好ましくは10個以下の共有結合を含み、該共有結合はEL−POX中の求電子基と架橋剤中の求核基との間の反応により形成されている。通常、この共有結合の数はモノマー100個当たり少なくとも2個である。
【0077】
本発明の架橋ポリマーに用いられるEL−POXは通常、少なくとも1,000g/モル、より好ましくは5,000〜100,000g/モルおよび最も好ましくは10,000〜30,000g/モルの分子量を有している。
【0078】
ペンダント求電子基を含むEL−POXおよびペンダント求核基を含むNU−POXは、様々な求電子種、例えばハロゲン化アルキル、スルホン酸エステル、強酸およびその他により始まる2−オキサゾリンモノマーのカチオン重合によって適宜調製可能である。側鎖に活性基を含むPOX−誘導体は、必須の基を含む2−オキサゾリンモノマーから直接に、またはポリマー前駆体のポリマー類似反応により調製可能である。側鎖にヒドロキシル、アミノ、カルボキシル、メルカプトおよびアルデヒド基を含むPOXの調製は文献に記載されている。
【0079】
POX末端での官能基の合成は、例えばAnna Mero他(Synthesis and characterization of poly(2−ethyl 2−oxazoline)−conjugates with proteins and drugs: Suitable alternatives to PEG−conjugates?, Journal of Controlled Release 125 (2008) 87−95)に記載されている。
【0080】
本発明に従って用いられるEL−POXはホモポリマーまたはコポリマーであり得る。最も好ましくは、EL−POXはコポリマーである。
【0081】
EL−POXコポリマー、特に両親媒性コポリマーは、いくつかの異なる方法で調製可能である。例えば、(保護された)求電子または求核基を含む2−オキサゾリンと親水性または親油性のコモノマーとを重合することが可能である。POXの部分的加水分解、続いて生じるポリマー中の第2級アミン基の修飾も可能である。ポリマーの別の種類は、活性化2−アルキル−2−オキサゾリンと他のポリマー、例えばポリラクチド、ポリカプロラクトンまたはポリエチレングリコールとのブロック共重合により調製可能である。
【0082】
アルキル側鎖中にエチルおよびNHS基を含むEL−POXのコポリマーは、2−エチル−2−オキサゾリン(ETOX)と2−(3−ブテニル)−2−オキサゾリン(BUTOX)とをカチオン重合させてポリ[2−(エチル/3−ブテニル)−2−オキサゾリンコポリマーを得ることにより合成可能である。このポリ[2−(エチル/3−ブテニル)−2−オキサゾリンコポリマーは、3−メルカプトプロピオニック−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルにより、または最初にメルカプトプロピオン酸のチオール−エンカップリング、続いてNHSで活性化させてNHS−側鎖活性化ポリ[2−(エチル/3−ブテニル)]−2−オキサゾリンコポリマーを合成する2ステップアプローチにより官能化可能である。
【0083】
アルキル側鎖中にエチルおよびアミノ(−NH2)基を含むNU−POXも同様に、ポリ[2−(エチル/3−ブテニル)]−2−オキサゾリンコポリマーとシステアミンとの反応、またはPOXの部分的加水分解、続いて後修飾により合成可能である。
【0084】
アルキル側鎖中にエチルおよびチオール(−SH)基を含むNU−POXも同様に、ポリ[2−(エチル/3−ブテニル)]−2−オキサゾリンコポリマーと過剰なエタンジスルフィドとの反応により、または2−エチル−2−オキサゾリンと保護されたチオール基を有するモノマーとの共重合により調製可能である。
【0085】
本発明の架橋ポリマーがNHS−活性化EL−POXの架橋により得られる場合には、生分解性は実質上の非分解性から易分解性まで変動することができる。生分解性をエステル結合の組み込みにより高めることができ、エステル結合はNHS−エステルとアミンとの間の反応により生じる第2級アミドと比較してより容易に加水分解される。エステルは水性の環境中において緩やかに加水分解されるが、第2級アミドは架橋ネットワーク中で非常に緩やかであろう酵素分解により主に加水分解される。
【0086】
カチオン重合は、所定の数の活性基を有するコポリマーの合成を可能にする。さらに、多数の活性基がPOX中の多数のアルキル側鎖にカップリングされるように、これらの活性基を組み込むためにカチオン性2−アルキル−2−オキサゾリン重合を用いてもよい。このことはさらに、架橋ポリマーが未反応の求電子基を高濃度で有する場合に、優れた凝集性および優れた接着性を有する高度に架橋したポリマーの生成を可能にする。
【0087】
さらに、カチオン重合により様々な官能基を側鎖および/または末端に組み込みことができ、それによりPOXポリマー系の多様性を高めることができる。
【0088】
コポリマー毎に所定の数の活性基を含むコポリマーの合成を以下のように行なうことができる。コポリマーは、前述したようにETOXおよびBUTOXをカチオン重合させてポリ[2−(エチル/3−ブテニル)−2−オキサゾリンコポリマーを得ることにより合成される。チオール−エン・ラジカルカップリングを介した3−メルカプトプロピオニック−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルによる官能化中(直接または最初にメルカプトプロピオン酸の導入、続いてNHS活性化による2ステップのいずれか)、NHSで活性された側鎖が導入される。最初のETOX/BUTOXのモル比が90/10である場合、ポリ[2−(エチル/3−ブテニル)]−2−オキサゾリンコポリマー当たりの反応基の割合は10%になるであろう。最初の90/10ETOX/BUTOX混合物中のBUTOXを増加させることにより、最終的には−NHS基の割合がより高く、例えば10%を超えるであろう。組み込まれたNHS基の正確な数は、ポリマーの長さを決める開始剤に対するモノマーの比により制御可能である。例えば、90/10であるETOX/BUTOXの比、および100:1であるモノマー対開始剤の比を用いることにより、10個のNHS基を含む100個の繰り返し単位を有するポリマーが得られる。モノマー対開始剤の比が200:1に変更される場合、生じるコポリマーは、同じETOX/BUTOXの比により20個のNHS基を有するだろう。同様の手順に従ってPOX−マレイミドを合成することができ、その結果、チオール−エン・ラジカルカップリングによってチオール修飾マレイミド(フランで保護されている)がポリ[2−(エチル/3−ブテニル)−2−オキサゾリンコポリマーに付加される。フラン−マレイミドの脱保護により、EL−POXとしてのPOX−マレイミドが得られる。
【0089】
本発明の架橋ポリマーは、生分解性であってもよいし、または非生分解性であってもよい。好ましくは、ポリマーは生分解性である。
【0090】
本発明のさらなる態様は、本明細書で既に定義した組織接着性の架橋ポリマーの乾燥物を少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも25重量%および最も好ましくは50〜100重量%含む生体適合性の医療製品に関する。このような医療製品の例として、インプラント、組織封止剤、接着性組織テープ、接着性組織フィルム、縫合材、ポリマー被覆ステントおよび止血(多孔質)材が挙げられる。
【0091】
EL−POX、架橋剤、およびEL−POXと架橋剤との組み合わせは、溶媒キャスティングまたは溶融押し出しにより、例えば非晶質のフィルムまたはテープとなる形状に形成可能である。EL−POXの求電子基と架橋剤の求核基との間の反応により架橋がもたらされ、過剰な求電子基により架橋ポリマーが組織との結合を形成することが可能になる。したがって、本発明により、凝集性と接着性とを組み合わせた医療製品の調製が可能になる。
【0092】
POXフィルムの非常に重要な性質は、完全乾燥中にPOXフィルムが内部を加水分解から保護することである。したがって、EL−POX中または架橋ポリマー中の過剰な(未反応の)求電子基は、保管中にその活性を維持するであろう。未反応の求電子基を含む医療製品が組織に塗布される際には、この求電子基と求核反応物質、特に組織に含まれるアミノまたはチオール基との間で求電子−求核反応が起き、それによって共有結合を介して架橋した外部ネットワーク(接着)が形成されるだろう。したがって、医療製品は、有利には架橋ポリマーの少なくとも10重量%未満、さらに好ましくは5重量%未満および最も好ましくは1重量%未満の水を含む。
【0093】
医療製品はまた、好ましくは有機溶媒を限られた量以下で含む。好ましくは、前記製品は、架橋ポリマーの5重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満の有機溶媒を含む。
【0094】
例えば組織封止テープの場合には、EL−POXおよび架橋剤は溶媒キャスティングまたは溶融押し出しに必要な任意の比率で混合可能である。この手法により、接着性組織テープに必要な性質の非常に正確な微調整が可能になる。EL−POX中の求電子基の量が多いとともに架橋剤から供給される求核基の数が比較的少ない場合には、生じる架橋ポリマーの凝集力は低くなるとともに組織への接着力は高くなるであろう。当然のことながら、比較的多い量の架橋剤とEL−POX中の過剰量の求電子基とを組み合わせることにより、高い凝集力および高い接着力を有する接着性組織テープを製造することも可能である。
【0095】
本発明の医療製品の特に望ましい態様は、接着性組織テープまたは接着性組織フィルムである。本発明によって優れた組織接着性を有するテープまたはフィルムの調製が可能になり、これは組織内に自然に存在している求核基と反応可能な未反応の求電子基の存在に起因している。さらに、本発明の架橋ポリマーにより、その非晶質性および調節可能なガラス転移温度に起因して、凝集性があり、柔軟で弾力性のあるテープおよびフィルムならびに特定の用途によく合う丈夫でより硬い材料の調製が可能になる。
【0096】
本明細書において既に説明したように、医療製品に含まれる架橋ポリマーが非晶質状態である場合には非常に好都合である。用語「非晶質」は、固体ではあるが、その固体内において分子の位置に関して長距離秩序がない材料を示している。秩序の欠如により、非晶質固体は結晶性固体から区別される。
【0097】
さらに好ましくは、架橋ポリマーは少なくとも−50℃、より好ましくは少なくとも0℃および最も好ましくは少なくとも20℃のガラス転移温度を有している。通常、ポリマーのガラス転移温度は120℃を超えない。
【0098】
本発明の接着性組織フィルムの接着性組織テープは、実質量の水を吸収して凝集性ヒドロゲルを形成することができるという利点を示す。水の吸収により、製品に著しい膨潤が生じていてもよい。しかしながら、製品を水蒸気と接触させる際に著しい膨潤が生じないように製品を設計することも可能である。
【0099】
一つの望ましい態様によれば、医療製品が水蒸気と接触する際に医療製品は著しい膨潤を示さない。通常、そのような医療製品は、100%以下、好ましくは30%以下および最も好ましくは10%以下の膨潤指数を有している。低い膨潤指数を有する医療製品は、硬膜欠損部の治療および脊髄の治療に適宜適用可能である。
【0100】
別の好ましい態様によれば、医療製品が水を吸収することができる際には医療製品は著しい膨潤を示す。通常、そのような膨潤性の製品は、100〜1000%の膨潤指数を有している。高い膨潤指数を有する医療製品は止血、例えば手術中または手術後の止血に適宜用いられていてもよい。
【0101】
膨張指数は、完全に膨潤した材料からなる約2gの試料の正確な重量を記録することにより測定される。次に、膨潤した材料が20mLのPBS緩衝液中に浸漬され、温風乾燥機内において37℃で24時間にわたり恒温放置される。次いで、材料がペーパータオルで拭かれて秤量される。膨潤が下記式に基づいて算出される。
【0102】
膨潤指数%=(Wt−W0)W0×100
ここで、
0は膨潤した材料の恒温放置前の重量であり、
tは膨潤した材料の恒温放置後の重量である。
【0103】
より大きな架橋は、より強固なネットワークを作り出し、これは膨潤を減少させることができるだろう。このことは、特定の用途において、例えば医療製品が、ゲル膨潤により副作用が起きる可能性がある厳しい場所に用いられるインプラント、縫合材または組織封止剤である場合に有利であり得る。この場合、膨潤指数は好ましくは50%を超えず、最も好ましくは10%を超えない。
【0104】
本発明により、例えば支持層を必要とすることなく、優れた性質を有する接着性組織テープまたは組織フィルムを調製することが可能になる。したがって、接着性組織テープは、好ましくは単一層のテープである。同様に、接着性組織フィルムは、好ましくは単一層のフィルムである。
【0105】
別の望ましい態様によれば、本発明の医療製品はインプラントである。特に好ましい態様によれば、インプラントに含まれる架橋ポリマーは組織の再生を支持するマトリックスを備えている。好ましくは、マトリックスは、骨材料への付着性ならびに細胞付着およびその後の組織形成を導くのに適切な機械的性質を有している生分解可能で三次元の生体吸収可能な多孔質の構成物である。骨の再生のために、構成物はまた、好ましくは耐荷重性であり、耐荷重性は、インプラントまたはインサイチュ(in situ)で形成されるインプラント中の任意の液成分が可能な限り低く保持されるべきであることを意味する。この点において、非常に限られた量の可塑剤、例えばトリアセチンまたは水がEL−POXおよびNU−POXを押し出し可能な状態にするのに必要であるということは好都合である。
【0106】
特に好ましい態様によれば、本発明のインプラントに含まれるポリマーネットワークは骨伝導性充填材(osteoconductive filler)、例えば骨補填材を含む。骨伝導性充填材は、自家骨、自家骨粒子、自家骨補填材、ヒトの死体の骨(human cadaver bone)、異種骨移植材(xenograft bone graft material)、動物の骨、成長因子または合成材料、例えばヒドロキシアパタイト、リン酸三カルシウムおよび生体活性ガラスを含む。
【0107】
本発明の別の態様は、本発明の生体適合性の架橋ポリマーの製造用キットに関し、前記キットは、本明細書で既に定義したEL−POXおよび求核架橋剤を含む。好ましくは、EL−POXのm個の求電子基の少なくとも1個はペンダント求電子基である。
【0108】
独立して、EL−POXおよび求核架橋剤は液状または粉末状で提供されていてもよい。粉末状で提供される場合、粉末は、同じキット内に含まれていてもよい液体中に速やかに分散可能であるべきである。
【0109】
本発明のキットで製造可能な架橋ポリマーは、組織接着性を有していてもよいし、有していなくてもよい。いくつかの用途に関して、キットが組織接着性を有する架橋ポリマーの製造に使用可能である場合には有益である。したがって、有利には、本発明のキットに含まれるEL−POXは、求核架橋剤に含まれる求核基の量と比較して過剰量の求電子基を含む。したがって、EL−POXおよび求核架橋剤は、反応して本明細書で既に定義した組織接着性の架橋ポリマーを形成することができる。
【0110】
好ましい態様において、キットは、EL−POXおよび求核剤の別々に収納された容量体(volume)を含む。EL−POXおよび架橋剤が迅速な架橋反応を受けることを可能にするために、EL−POXと架橋剤の両方が液状で提供されることが好ましい。より好ましくは、EL−POXが1〜95重量%の濃度で第1の溶媒に含まれるとともに求核架橋剤が1〜95重量%の濃度で第2の溶媒に含まれる。
【0111】
特に好ましい態様によれば、第1の溶媒および第2の溶媒は、水、ポリオール、アルコール(例えばエタノールまたはイソ−プロパノール)、およびそれらの組み合わせから選択される。EL−POXを含む容量体および/または架橋剤を含む容量体は、有利にはポリオール、水、または両方の混合物を含む。さらに、後者の容量体は適宜緩衝化されていてもよい。本発明のキットで用いられる溶媒(単数または複数)および緩衝系は、最適な架橋速度を達成するために適切に選択される。
【0112】
本発明のキットで適宜用いることができるポリオールとして、グリセロール、ジアセチン、トリアセチン、ソルビトールおよびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0113】
特に好ましい態様によれば、第1の溶媒および第2の溶媒は、5〜50重量%の水、より好ましくは10〜30重量%の水および最も好ましくは15〜20重量%の水を含む。
【0114】
可塑剤を用いてEL−POXおよび任意でNU−POXを可塑化することによりインサイチュ(in situ)での架橋特性を向上させることができ、可塑剤はトリアセチン、グリセロール、トリメチルアミンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される。通常、可塑剤はEL−POXおよび/またはNU−POXの1〜50重量%、より好ましくは3〜15重量%の濃度で用いられる。
【0115】
EL−POXおよび求核剤の別々に収納された容量体は、pH調整剤を適宜含んでいてもよい。水または体液の存在下で、容量体または架橋EL−POX−配合物を含むEL−POXの微小環境でのpHをより酸性の条件に移動させるために、本発明に従って酸性化剤が有利には用いられる。用語「微小環境でのpH」は、架橋EL−POX−配合物中のEL−POX内およびその近くのpHを示す。
【0116】
適宜用いられていてもよい酸性化剤の例として、プロトンを放出可能な有機および無機成分、例えば有機または無機酸、酸性ポリマー、例えばカルボマー、または潜在性の酸(例えばグルコノ−δ−ラクトン)が挙げられる。好ましくは、酸性化剤は25℃で1〜7、好適には2〜6.5、より好適には3〜6.5のpKaを有している。
【0117】
EL−POXを含み別々に収納された容量体のpHは、好ましくは2〜7、より好ましくは3〜6、最も好ましくは4〜5の範囲内である。
【0118】
求核剤を含み別々に収納された容量体は、好ましくはアルカリ化剤を含み、アルカリ化剤は水または体液の存在下で、容量体を含む求核剤の微小環境でのpHをよりアルカリ性の条件に移動させる。
【0119】
適切なアルカリ化剤の例として、アンモニア溶液、炭酸アンモニウム、アルカリ金属炭酸塩(例えば炭酸カリウムおよび炭酸ナトリウム)を含むアルカリ金属塩、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムならびにホウ酸ナトリウム(ホウ砂)、または第3級アミン(例えばトリエチルアミン)、トリエタノールアミンもしくは他のアミン(例えばジエタノールアミンおよびモノエタノールアミン)が挙げられる。
【0120】
好ましくは、アルカリ化剤は25℃で8〜14、好適には8.5〜11、より好適には9〜11のpKaを有している。
【0121】
求核剤を含み別々に収納された容量体のpHは、好ましくは7〜12、より好ましくは8〜11,最も好ましくは9〜10の範囲内である。
【0122】
EL−POXおよび架橋剤の別々に収納された容量体は、有利には分注手段内に収容されており、分注手段から両方の容量体を同時に分注することができる。したがって、2つの架橋剤を同時に搬送していてもよく、架橋ポリマーがインサイチュ(in situ)で生成される。2つの反応剤を同時に分注してそれらが架橋すべき場所へ搬送することによりプレ混合を避けることができ、早期の架橋が効果的に抑えられる。適切な分注手段の例として、スプレー式ディスペンサ、シリンジ、およびデュアルシリンジが挙げられる。シリンジはスタティックミキサを適宜含んでおり、スタティックミキサにより、2つの反応剤が前記シリンジから同時に吐出される際に互いに混合されるのが確実になる。
【0123】
好ましい態様によれば、別々に収納された容量体の少なくとも1つは、視認性を高めるために可視化剤を含有する。可視化剤(例えば着色料)は、ヒトの眼が検出可能な波長で光を反射または放出する。可視化剤を含むことにより、使用者にとって反応混合物を正確に塗布することは容易である。適切な着色料の例として、FD&CおよびD&C着色料、例えばFD&CバイオレットNo.2、FD&CブルーNo.1、D&CグリーンNo.6、D&CグリーンNo.5、D&CバイオレットNo.2;天然着色料、例えばビートルートレッド、カンタキサンチン、クロロフィル、エオシン、サフラン、カルミン、インドシアニングリーン、または合成外科縫合糸で通常見られる有色色素が挙げられる。同様に、染料、例えばフルオロセインおよびメチレンブルーを用いることができる。可視化剤は、ヒドロゲルとの化学的な結合に適していてもよいし、適していなくてもよい。
【0124】
代替の態様において、キットは、EL−POXを含有する第1の生体適合性の薄いフィルム、および求核架橋剤を含有する第2の生体適合性の薄いフィルムを含む。2枚のフィルムは、それらが互いに重なり合って組み合わされた後に適宜用いられていてもよい。フィルムには、その比表面積を高めるために孔が適宜開けられていてもよい。
【0125】
求核架橋剤を含有する生体適合性の薄いフィルムは、好ましくは本明細書において既に定義されているアルカリ化剤を含む。
【0126】
別の代替の態様によれば、キットは、0.01〜1000μmの重量平均直径(weight averaged mean diameter)を有する粒子、EL−POXを含有する粒子を含む前記粒子、および求核架橋剤を含有する粒子を含む。EL−POXおよび求核架橋剤は同じ粒子に含有されていてもよく、またはそれらは同じ粉末内の異なる粒子に含有されていてもよい。
【0127】
前述した粉末は、止血粉末として適宜用いられていてもよく、止血粉末を周囲条件下で保存することができる。
【0128】
EL−POXおよび/または求核架橋剤に加えて、止血粉末に含まれる粒子は担体、好ましくは水溶性担体を適宜含有してもよい。適宜用いられていてもよい担体の例として、単糖;ジ−およびオリゴ糖(例えばラクトース、マンニトール、トレハロース、エリトリトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、イソマルト、マルトデキストリン、セロビオース、グルコース、フルクトース、マルツロース、ラクツロース、マルトース、ゲンチオビオース、イソマルトース、ラクチトール、パラチニトール、ズルシトール、リビトール、スクロース、ラフィノース、ゲンチアノース、プランテオース、ベルバスコース、スタキオース、メレジトース、イノシトール);および多糖(例えばデキストラン、スターチ(アミロース、アミロペクチン)、グリコーゲン、セルロース、キチン、アルジネート、カロース、クリソラミナリン、キシラン、アラビノキシラン、マンナン、フコイダンおよびガラクトマンナン);ならびにそれらの炭水化物の組み合わせが挙げられる。好ましくは、用いられる担体は少なくとも0℃、より好ましくは少なくとも25℃のガラス転移温度を有している。
【0129】
通常、止血粉末は25〜75重量%のEL−POX、25〜75重量%の求核架橋剤および0〜50重量%の担体を含む。
【0130】
本発明のさらに別の側面は、EL−POXの乾燥物を少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも50重量%および最も好ましくは少なくとも90重量%含む組織接着性の医療製品に関し、前記EL−POXは、少なくとも1個のペンダント求電子基を含む少なくとも2個の求電子基を含み、前記反応基は、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、ホスホン酸エステル、ペンタフルオロフェニルエステル、p−ニトロフェニルエステル、p−ニトロチオフェニルエステル、酸ハロゲン化物基、無水物、ケトン、アルデヒド、イソシアナト、チオイソシアナト、イソシアノ、エポキシド、活性化ヒドロキシル基、オレフィン、グリシジルエーテル、カルボキシル、スクシンイミジルエステル、スクシンイミジルカーボネート、スクシンイミジルカルバメート、スルホスクシンイミジルエステル、スルホスクシンイミジルカーボネート、マレイミド、エテンスルホニル、イミドエステル、アセトアセテート、ハロアセタール、オルトピリジルジスルフィド、ジヒドロキシフェニル誘導体、ビニルアクリレート、アクリルアミド、ヨードアセトアミドおよびそれらの組み合わせから選択される。EL−POX中の求電子基は、カルボン酸エステル、酸塩化物基、無水物、ケトン、アルデヒド、イソシアナト、チオイソシアナト、エポキシド、活性化ヒドロキシル基、オレフィン、カルボキシル、スクシンイミジルエステル、スクシンイミジルカーボネート、スクシンイミジルカルバメート、スルホスクシンイミジルエステル、スルホスクシンイミジルカーボネート、マレイミド、エテンスルホニルおよびそれらの組み合わせから適宜選択されていてもよい。
【0131】
好ましくは、EL−POX中の求電子基は、アルデヒド、イミドエステル、イソシアナト、チオイソシアナト、スクシンイミジル誘導体、スルホスクシンイミジル誘導体、ジヒドロキシフェニル誘導体、ハロアセタール、オルトピリジルジスルフィド、マレイミド、ビニルスルホンおよびそれらの組み合わせから選択される。
【0132】
さらに好ましくは、EL−POXに含有される求電子基は、アルデヒド、スクシンイミジルエステル、スクシンイミジルカーボネート、スクシンイミジルカルバメート、イミドエステル、ジヒドロキシフェニル誘導体、ハロアセタール、マレイミドおよびそれらの組み合わせから選択される。
【0133】
最も好ましくは、求電子基は、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、アルデヒド、マレイミド、ジヒドロキシフェニル誘導体およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0134】
本発明のこの特定の態様によれば、組織接着性の医療製品に含有されるEL−POXは架橋していないか、または部分的にのみ架橋していることが好ましい。最も好ましくは、組織接着性の医療製品に含有されるEL−POXは架橋していない。
【0135】
本発明の組織接着性の製品は、本明細書で既に定義した求核架橋剤を含んでもよい。前記架橋剤から供給される反応性求核基の数がEL−POXに含有される反応性求電子基の数よりも著しく少ないことが好ましい。したがって、EL−POXと求核架橋剤との間の架橋反応後に十分な数の求電子基が残存し、架橋ポリマーと例えば組織との間に接着がもたらされるだろうということが確実になる。この望ましい態様は、例えばEL−POXおよび求核架橋剤を可塑化して単一のフィルムまたはテープにすることにより実現されていてもよい。組織テープとしての適用の前に、後者のテープは、活性剤を含有する別の水溶性フィルム、または活性剤を含有する液体もしくは塗布可能な組成物と組み合わされていてもよい。
【0136】
特に好ましい態様によれば、組織接着性の医療製品は、EL−POXの乾燥物を少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも50重量%および最も好ましくは少なくとも75重量%含むとともに、NU−POXの乾燥物を少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも50重量%および最も好ましくは75重量%含む。有利には、EL−POXおよびNU−POXはともに、組織接着性の製品に含有される乾燥物の少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも95重量%を示す。
【0137】
組織接着性の医療製品におけるEL−POXおよびNU−POXの併用は、例えば溶融押し出しにより、製品を非晶質のフィルム、テープまたは粉末の形態で製造することができるという利点を提供する。
【0138】
架橋していない形態でEL−POXおよびNU−POXの組み合わせを用いることに伴う利点は、手術中にその領域が容易に広がる非常に柔軟なフィルムまたはテープの調製が可能になるという事実である。さらに、EL−POXおよびNU−POXが速やかに反応して架橋ポリマーを形成すると直ちに、組織接着性の医療製品(例えばフィルムまたはテープ)により水が吸収され、それにより優れた封止性が提供される。
【0139】
別の態様によれば、組織接着性の医療製品は求核架橋剤を含まない。EL−POXは、別の(未反応)フィルム形成ポリマーのマトリックスに適宜組み込まれていてもよく、ポリマーとしてポリオキサゾリン(例えばポリエチルオキサゾリン、ポリメチルオキサゾリンまたはポリプロピルオキサゾリン)が挙げられる。好ましくは、この態様に係る接着性の医療製品は、乾燥物の10〜95重量%、より好ましくは30〜80重量%および最も好ましくは50〜70重量%のEL−POXを含む。別のフィルム形成ポリマーは、好ましくは接着性の医療製品に含有される乾燥物の5〜90%、より好ましくは20〜70%および最も好ましくは30〜50%を示す。
【0140】
組織接着性の医療製品に含まれるEL−POXは、好ましくはモノマー100個当たり少なくとも2個の求電子基、より好ましくはモノマー100個当たり少なくとも5個の求電子基、さらに好ましくはモノマー100個当たり10〜80個の求電子基および最も好ましくはモノマー100個当たり10〜50個の求電子基を含有する。
【0141】
本発明に包含される組織接着性の医療製品の例として、接着性組織テープ、組織封止剤、止血多孔質材およびインプラントが挙げられる。
【0142】
テープまたはフィルムの形態の医療製品は、EL−POXおよび水溶性バッキング膜を含むポリマーマトリックスを適宜含んでいてもよい。バッキング膜またはフィルムを使用することにより、EL−POXが不必要な接着を生じないことが確実になる。これは、周囲の組織への共有結合を抑えることができるからである。バッキング膜は、任意の適切な生体適合性ポリマーで形成されていてもよい。好ましくは、バッキング膜は、第1級アミンを含有する生体適合性ポリマーで形成されている。これは、第1級アミンがEL−POXと共有結合することができるからである。
【0143】
本発明に係る架橋ポリマー、EL−POXおよびNU−POXは、有利にはそれらに含まれるオキサゾリン単位の一つと共有結合している抗菌剤を含んでもよい。より好ましくは、架橋ポリマーまたはEL−POXは抗菌剤を含有しており、抗菌剤はアミドまたはイミド基を介してオキサゾリン単位に共有結合している。抗菌剤の例として、アミノフェノール、アミノクレゾール、アミノレゾルシノールおよびアミノナフトールが挙げられる。抗菌剤は、スペーサ基(例えばアルキレン、オキシアルキレンまたはシリコーン)を介してPOX−ポリマーと適宜結合していてもよい。抗菌剤とPOXポリマーとが共有結合することにより、ポリマーの生分解中に抗菌剤が緩やかに放出されることを確実にすることができる。
【0144】
本発明のさらなる態様は接着フィルムを含む組成物を提供し、接着フィルムは、
・EL−POX、EL−POX由来の本発明に係る生体適合性の共有結合架橋ポリマーおよびそれらの組み合わせから選択されるポリマー材料、ならびに
・1つ以上のジヒドロキシフェニレンアラニン(DHP)誘導体を含む。
【0145】
DHP誘導体は、好ましくは3,4−ジヒドロキシフェニルアラニン(DOPA)、ドーパミン、3,4−ジヒドロキシヒドロケイ皮酸(DOHA)、カテコールおよびそれらの組み合わせから選択される。
【0146】
通常、接着フィルムは、乾燥物の少なくとも1重量%、より好ましくは少なくとも25重量%、最も好ましくは50〜100重量%のポリマー材料を含有する。
【0147】
接着フィルムのDHPの含有量は通常、乾燥物の10〜95重量%、より好ましくは20〜80重量%および最も好ましくは40〜60重量%の範囲内である。
【0148】
接着フィルムの水の含有量は、好ましくは5重量%を超えず、より好ましくは1重量%を超えない。
【0149】
組成物は1個以上の添加成分をさらに適宜含んでいてもよく、添加成分は、充填材、酸化剤、架橋剤、ミクロゲル、別のポリマー、薬物および他の治療薬から選択される。
【0150】
接着フィルムは単一層から成っていてもよいし、複数層から成っていてもよい。
【0151】
組織−反応性求電子基と組織表面上の官能基との間の反応は、pHにより変化してもよい。したがって、適用直前に組織表面を緩衝化すること、または、より好ましくは反応性求電子基および/またはEL−POXを有する共有的に架橋したポリマーを含有する製品が緩衝液を含むことが好ましくてもよい。このような製品が例えば接着フィルムまたはテープである場合、フィルムまたはテープの組織−接触層が緩衝液を含むことが有利であってもよい。9.0〜12.0、特に9.5〜11.5の範囲内のpHを有する緩衝液によって製品の組織表面を緩衝化することにより、前記製品の接着性が高められていてもよい。
【0152】
本発明に係る医療製品は、様々な手術の用途で有利に使用することができる。これらの手術の用途の例を以下に要約する。
【表1】
【0153】
超音波造影剤として作用するポリマー被覆気泡を、本明細書で前述したキットまたは医療製品に適宜組み込むことができる。ポリマー被覆気泡は、その造影性を、血液と該血液に含まれる気体との間の音響インピーダンスの大きな不整合から得る。その気泡を被覆するために用いることができるポリマーの例として、ポリラクチド、ポリグリコライド、ポリカプロラクトン、ポリラクチドおよびポリグリコライドのコポリマー、ラクチドおよびラクトンのコポリマー、多糖、ポリ無水物、ポリスチレン、ポリアルキルシアノアクリレート、ポリアミド、ポリホスファゼン、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリウレタン、メタクリル酸およびアクリル酸のコポリマー、ヒドロキシエチルメタクリレートおよびメチルメタクリレートのコポリマー、ポリエステル(例えばポリカーボネート)、およびタンパク質が挙げられる。好ましいポリマーは、生体適合性および/生分解性のポリマーである。好ましい態様において、ポリマーはポリ乳酸co−グリコール酸(PLGA)である。
【0154】
また、EL−POX、NU−POXまたは架橋ポリマーは、気泡が封入されるように製造されていてもよい。好ましくは、気体は、pH調整剤(EL−POX相中に配合されている)と炭酸ガス放出基剤(NU−POX相中に配合されている)との反応によりインサイチュ(in situ)で発生する。さらに好ましくは、pH調整剤および炭酸ガス放出基剤は、一体化したNU−POX/EL−POX相中に配合されており、NU−POX/EL−POX相中において、pH調整剤は、水または体液との接触により、より低いpHをもたらす。
【0155】
本発明は、以下の非限定的な例によりさらに説明される。
【0156】
[実施例]
例1
2−エチル−2−オキサゾリン(ETOX)および2−(3−ブテニル)−2−オキサゾリン(BUTOX)のカチオン重合によってポリ[2−(エチル/3−ブテニル)−2−オキサゾリンコポリマーを得ることにより、アルキル側鎖中にエチルおよびNHS基を含むEL−POXの両親媒性コポリマーを合成した。
【0157】
初めにメルカプトプロピオン酸のチオール−エンカップリング、続いてNHSによる活性化でNHS−側鎖活性化ポリ[2−(エチル/3−ブテニル)]−2−オキサゾリンコポリマーを合成する2ステップアプローチにおいて、このポリ[2−(エチル/3−ブテニル)−2−オキサゾリンコポリマーを官能化した。最初のETOX/BUTOXのモル比は90/10であり、したがって、ポリ[2−(エチル/3−ブテニル)]−2−オキサゾリンコポリマー当たりの反応基の割合は、前述したように10%であった。
【0158】
このNHS−側鎖活性化ポリ[2−(エチル/3−ブテニル)]−2−オキサゾリンコポリマーの84.3mgの量を150μLのエタノール(無水)に溶解し、トリリシントリアセテート9.5mgを含有する水、エタノールおよびトリエチルアミン(1:1:1
v/v/v)の混合物150μLと混合した。一体化した液体混合物(28重量%のポリマーを含有し、NHS−アミン比が1:1.25である約300μL)は30〜45秒以内に架橋ネットワーク(ゲル)になった。
【0159】
例2例1に記載されたように、NHS−側鎖活性化ポリ[2−(エチル/3−ブテニル)]−2−オキサゾリンコポリマーを合成した。
このNHS−側鎖活性化ポリ[2−(エチル/3−ブテニル)]−2−オキサゾリンコポリマーの300mgの量を750μLのエタノール(無水)に溶解し、約10μLのトリエチルアミンを含有する、50/50 v/vのエタノール/水の中のトリリシントリアセテート150μL(10mg)を加えた。
【0160】
この配合物の破裂圧力を以下の方法で試験した。簡単に記載すると、新鮮なウシの硬膜を適切な大きさの組織切片に解体した。硬膜を3mmの輪状に切開し、次いで測定可能な圧力下で輪状切開から模擬体液を押し出すことができるように硬膜をビュレットに固定した。
【0161】
活性POXコポリマーを含有する配合物を室温での吸引により非晶質のテープ状に乾燥させ、固定した硬膜上に置いてシールを形成した。数分後、模擬体液の圧力をシールが破裂する程度まで高めた(破裂圧力)。破裂圧力が75mmHgであることが分かった。このフィルムにおけるNHS:アミン比は2.7:1である。
【0162】
比較例A
本実験では、フィルムが、側鎖が活性化されていないポリ−エチル−オキサゾリンフィルムからなること以外は、(同じ硬膜を用いて)例2に記載の実験を繰り返した。本実験では、破裂圧力が約15mmHgであることが分かった。
【0163】
これらの結果は、ポリ[2−(エチル/3−ブテニル)]−2−オキサゾリンコポリマーに反応性架橋基、例えばNHSを組み込むことにより、ウシの硬膜のコラーゲンに対するテープの接着力が著しく高まることを示している。
【0164】
例3
アクアゾル50(ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン(PEtOx)、分子量50,000)の酸性加水分解を制御してポリ[2−エチル−2−オキサゾリン/エチレンイミン]コポリマー(PEtOx−PEI)を得ることにより、アルキル側鎖中にエチルおよびNHS基を含有するEL−POXの両親媒性コポリマーを合成した。PEtOx−PEIにおいて、最初の2−エチル−オキサゾリン単位の6%を加水分解した。
【0165】
トリエチルアミンの存在下でのメチルスクシニルクロリドのカップリング、続いて水酸化リチウムによるメチルエステルの加水分解、続いてEDCの存在下でのNHSによる、取得するカルボン酸部分の活性化によりNHS−側鎖活性化ポリ(2−エチル/NHS−エステル−エチル)−2−オキサゾリンコポリマーを合成する3ステップアプローチにおいて、このポリ[2−エチル−2−オキサゾリン/エチレンイミン]を官能化した。UV−vis分光法で測定したコポリマーのNHSによる最終的な官能化は4.4%であった。
【0166】
このNHS−側鎖活性化ポリ[2−(エチル/NHS−エステル−エチル)]−2−オキサゾリンコポリマーの15mgの量を217μLのエタノール(無水)に溶解し、トリリシン1.0mgを含む水、エタノールおよびトリエチルアミン(1:1:1 v/v/v)の混合物16μLと混合した。一体化した液体混合物(1.01:1.00のNHS−アミン比を有する約6.5重量%のポリマーを含有する約230μL)は室温で60秒以内に架橋ネットワーク(ゲル)になった。
【0167】
例4
例3に記載されたように、NHS−側鎖活性化ポリ[2−(エチル/NHS−エステル−エチル)]−2−オキサゾリンコポリマーを合成した。
【0168】
このNHS−側鎖活性化ポリ[2−(エチル/NHS−エステル−エチル)]−2−オキサゾリンコポリマーの410mgの量を8.25mLのエタノール(無水)に溶解し、トリリシン(5mg)を含有するエタノール23μL、水10μLおよびトリエチルアミン10μLの溶液を加えた。このフィルムにおけるNHS:アミン比は5.5:1である。
【0169】
この配合物の破裂圧力を例2に記載されたように試験した。新鮮なウシの硬膜の代わりに、ウシの腹膜を使用した。
【0170】
活性POXコポリマーを含有する配合物を40℃で非晶質のテープ状に乾燥させ、固定した腹膜上に置いてシールを形成した。数分後、模擬体液の圧力をシールが破裂する程度まで高めた(破裂圧力)。破裂圧力が11mmHgであることが分かった。
【0171】
比較例B
例4に記載されたのと同じ方法で作成し、NHS:アミン比が1:1と等しい非晶質のテープを、固定した腹膜上に置いてシールを形成した。数分後、模擬体液の圧力をシールが破裂する程度まで高めた(破裂圧力)。破裂圧力が3.7mmHgであることが分かり、このことは、組織接着性を確保するために過剰な求電子基を有することの重要性を示していた。
【0172】
比較例C
側鎖が活性化されていないアクアゾル50(ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)(PEtOx)、分子量50,000)フィルムからなるフィルム(テープ)により、例4に記載の「破裂」実験を繰り返した。この実験に関して、破裂圧力は約2.6mmHgであることが分かった。水に接触すると、このフィルムは溶解し始める。
【0173】
この結果は、ポリ[2−(エチル/NHS−エステル−エチル)]−2−オキサゾリンコポリマーへの反応性架橋基、例えばNHSの組み込みにより、ウシの腹膜のコラーゲンに対するテープの接着力が著しく高まることを示している。
【0174】
例5
例4に記載されたのと同じ方法で作成したが、ポリ[2−(エチル/NHS−エステル−エチル)]−2−オキサゾリンコポリマーを用いるのみである非晶質のテープを、固定した腹膜の上に置いてシールを形成した。数分後、模擬体液の圧力をシールが破裂する程度まで高めた(破裂圧力)。破裂圧力は3.7mmHgであることが分かった。水に接触すると、このフィルムも溶解し始める。
【0175】
このテープの接着性は優れていた。求核架橋剤の欠如に起因して凝集性が制限要因であり、結果として適度に低い破裂圧力となった(フィルムが破れた)。例えばコポリマーと疎水性支持体とを組み合わせることにより、この接着テープの凝集性を向上させることができる。
【0176】
例6
例3に記載されたように、NHS−側鎖活性化ポリ[2−(エチル/NHS−エステル−エチル)]−2−オキサゾリンコポリマーを合成した。
【0177】
アクアゾル50(ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン(PEtOx)、分子量50,000)の酸性加水分解を制御してポリ[2−エチル−2−オキサゾリン/エチレンイミン]コポリマー(PEtOx−PEI)を得ることにより、アミン側鎖活性化ポリ[2−(エチル/NHS−エステル−エチル)]−2−オキサゾリンコポリマー(NU−POX)を合成した。PEtOx−PEIにおいて、最初の2−エチルオキサゾリン単位の12%を加水分解した。
【0178】
最初にトリエチルアミンの存在下でのメチルスクシニルクロリドのカップリング、続いて形成されたメチルエステル側鎖とエチレンジアミンとの反応によりアミン側鎖活性化ポリ(2−エチル/アミノ−エチル−アミド−エチル)−2−オキサゾリンコポリマーを得る2ステップアプローチにおいて、このポリ[2−エチル−2−オキサゾリン/エチレンイミン]を官能化した。
【0179】
このNU−POX(3.4mg)を含有する250μLのホウ酸塩緩衝液(0.1M、pH8.5)の溶液を、100μLのH2Oに溶解したNHS−側鎖活性化ポリ[2−(エチル/NHS−エステル−エチル)]−2−オキサゾリンコポリマー(10.0mg)の溶液に加えた。一体化した液体混合物(1.01:1.00のNHS−アミン比を有する約4重量%のポリマーを含有する約350μL)は室温で20秒以内に架橋ネットワーク(ゲル)になった。
【0180】
例7
例3に記載されているように、NHS−側鎖活性化ポリ[2−(エチル/NHS−エステル−エチル)]−2−オキサゾリンコポリマーを合成した。
【0181】
例6に記載されているように、アミン側鎖官能化ポリ(2−エチル/アミノ−エチル−アミド−エチル)−2−オキサゾリンコポリマー(NU−POX)を合成した。
【0182】
このNHS−側鎖活性化ポリ[2−(エチル/NHS−エステル−エチル)]−2−オキサゾリンコポリマーの266mgの量を1.33mLのエタノール(無水)に溶解し、NU−POX(18.4mg)を含有する得エタノール(無水)822μLおよびトリエチルアミン27μLの溶液を加えた。活性POXコポリマーを含有する溶液を40℃で非晶質のテープ状に乾燥させ、固定した腹膜上に置いてシールを形成した。この構成体の破裂圧力を例4に記載されたように測定した。このフィルムにおけるNHS:アミン比は5.5:1である。
【0183】
数分後、模擬体液の圧力をシールが破裂する程度まで高めた(破裂圧力)。破裂圧力は23mmHgであることが分かり、それは例5に記載された基準となる実験の破裂圧力2.6mmHgよりも著しく高い。
【0184】
これらの結果も同様に、ポリ[2−(エチル/NHS−エステル−エチル)]−2−オキサゾリンコポリマーへの反応性架橋基、例えばNHSの組み込みにより、ウシの腹膜のコラーゲンに対するテープの接着力が著しく高まることを示している。このテープの接着性は優れていた。求核架橋剤(NU−POX)に起因して凝集性は良好であり、結果として比較的高い破裂圧力となった。破裂が発生する際にフィルムは破れておらず、このことは、この場合には凝集性の低下よりはむしろ接着性の低下が制限要因であったことを示している。
【0185】
例8
例6に記載されたように、アミン側鎖官能化ポリ(2−エチル/アミノ−エチル−アミド−エチル)−2−オキサゾリンコポリマーを合成した。アミンと無水マレイン酸とを反応させてマレイミド−側鎖活性化ポリ(2−エチル/マレイミド−エチル−アミド−エチル)−2−オキサゾリンコポリマーを得ることにより、このNU−POXをEL−POXにした。
【0186】
ペンタエリトリトールポリエチレングリコールエーテルテトラ−アミンからなるアミン誘導体化ポリエチレングリコール(PEG)ポリマー成分からチオール誘導体化ポリエチレングリコール(置換された4アームPEG)ポリマーを合成した。アミン基をS−アセチルチオグリコール酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステルに結合させた。チオールのアセチル保護基の除去後、チオール置換4アームPEGを得た。
【0187】
マレイミド−側鎖活性化ポリ[2−(エチル/マレイミド−エチル−アミド−エチル]−2−オキサゾリンコポリマーの17.5mgの量を100μLのエタノール(無水)に溶解し、チオール置換4アームPEGチオール32mgを含有する水およびトリエチルアミン(100:2 v/v)の混合物102μLと混合した。一体化した液体混合物(マレイミド−アミンの比が3:2であるポリマーを25重量%含む約200μL)は、室温で20秒以内に架橋ネットワーク(ゲル)になった。
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
求電子的に活性化されたポリオキサゾリン(EL−POX)と求核架橋剤との反応により得られる、組織接着性で生体適合性の共有結合架橋ポリマーであって、
前記EL−POXはm個の求電子基を含み;
前記求核架橋剤はn個の求核基を含み、前記m個の求電子基は前記n個の求核基と反応して共有結合を形成することが可能で;
m≧2、n≧2およびm+n≧5であり;
前記m個の求電子基の少なくとも1個はペンダント求電子基であり、および/またはm≧3であり;
前記EL−POXは前記求核架橋剤に含有される求核基の量に比較して過剰量の求電子基を含む、ポリマー。
[2]
前記架橋ポリマーは、前記EL−POX成分に含まれており、前記求核架橋剤の求核基と反応していない求電子基をモノマー100個当たり少なくとも1個含む、[1]に記載の生体適合性の架橋ポリマー。
[3]
前記m個の求電子基の少なくとも1個はペンダント求電子基である、[1]または[2]に記載の生体適合性の架橋ポリマー。
[4]
前記n個の求核基は、アミン基、チオール基およびそれらの組み合わせから選択される、[1]〜[3]のいずれか1に記載の生体適合性の架橋ポリマー。
[5]
前記EL−POXに含有される前記求電子基は、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、ホスホン酸エステル、ペンタフルオロフェニルエステル、p−ニトロフェニルエステル、p−ニトロチオフェニルエステル、酸ハロゲン化物基、無水物、ケトン、アルデヒド、イソシアナト、チオイソシアナト、イソシアノ、エポキシド、活性化ヒドロキシル基、オレフィン、グリシジルエーテル、カルボキシル、スクシンイミジルエステル、スクシンイミジルカーボネート、スクシンイミジルカルバメート、スルホスクシンイミジルエステル、スルホスクシンイミジルカーボネート、マレイミド(マレイミジル)、エテンスルホニル、イミドエステル、アセトアセテート、ハロアセタール、オルトピリジルジスルフィド、ジヒドロキシ−フェニル誘導体、ビニル、アクリレート、アクリルアミド、ヨードアセトアミドおよびそれらの組み合わせから選択される、[1]〜[4]のいずれか1に記載の生体適合性の架橋ポリマー。
[6]
前記求核基はアミン基であり、前記EL−POXに含まれる前記求電子基は、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、ホスホン酸エステル、ペンタフルオロフェニルエステル、p−ニトロフェニルエステル、p−ニトロチオフェニルエステル、酸ハロゲン化物基、無水物、ケトン、アルデヒド、イソシアナト、チオイソシアナト、イソシアノ、エポキシド、活性化ヒドロキシル基、グリシジルエーテル、カルボキシル、スクシンイミジルエステル、スクシンイミジルカーボネート、スクシンイミジルカルバメート、スルホスクシンイミジルエステル、スルホスクシンイミジルカーボネート、イミドエステル、ジヒドロキシ−フェニル誘導体、およびそれらの組み合わせから選択される、[4]または[5]に記載の生体適合性の架橋ポリマー。
[7]
前記求核基はチオール基であり、前記EL−POXに含まれる前記求電子基は、ハロアセタール、オルトピリジルジスルフィド、マレイミド、ビニルスルホン、ジヒドロキシフェニル誘導体、ビニル、アクリレート、アクリルアミド、ヨードアセトアミド、スクシンイミジルエステル、スクシンイミジルカーボネート、スクシンイミジルカルバメート、スルホスクシンイミジルエステル、スルホスクシンイミジルカーボネートおよびそれらの組み合わせから選択される、[4]または[5]に記載の生体適合性の架橋ポリマー。
[8]
前記求核架橋剤は1,000g/モル未満の分子量を有する低分子ポリアミンである、[1]〜[7]のいずれか1に記載の生体適合性の架橋ポリマー。
[9]
前記求核架橋剤は、少なくとも2個の求核基を含む求核的に活性化されたPOX(NU−POX);キトサン;キトサン誘導体、ポリエチレンイミン;ポリビニルアミン;ポリアリルアミン;アミン官能化ポリ(メタ)アクリレート;アミン官能化ポリエチレングリコール;アミン官能化部分を含む多糖、例えばポリ(ガラクトサミン);スチレン;リシン、オルニチン、システイン、アルギニンおよびそれらの組み合わせから選択される2種以上のアミノ酸残基と他のアミノ酸残基とを含むポリペプチド;ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される高分子量ポリアミンである、[1]〜[7]のいずれか1に記載の生体適合性の架橋ポリマー。
[10]
比m:nは少なくとも1:1である、[1]〜[9]のいずれか1に記載の生体適合性の架橋ポリマー。
[11]
前記EL−POXを前記求核架橋剤と少なくとも1:1のモル比で反応させることにより得られる、[1]〜[10]のいずれか1に記載の生体適合性の架橋ポリマー。
[12]
前記EL−POXは、モノマー100個当たりペンダント求電子基を3〜50個含有する、[1]〜[11]のいずれか1に記載の生体適合性の架橋ポリマー。
[13]
[1]〜[12]のいずれか1に記載の架橋ポリマーの乾燥物を少なくとも1重量%、好ましくは少なくとも25重量%含む生体適合性の医療製品。
[14]
接着性組織テープ、接着性組織フィルム、組織封止剤、止血材、縫合材、ポリマー被覆ステントまたはインプラントである、[13]に記載の医療製品。
[15]
前記架橋ポリマーの10重量%未満の水を含む、[13]または[14]に記載の医療製品。
[16]
0〜100%の膨潤指数を有するテープまたはフィルムである、[13]〜[15]のいずれか1に記載の医療製品。
[17]
前記架橋ポリマーは非晶質状態である、[13]〜[16]のいずれか1に記載の医療製品。
[18]
前記架橋ポリマーは少なくとも0℃のガラス転移温度を有している、[13]〜[17]のいずれか1に記載の医療製品。
[19]
[1]〜[18]のいずれか1に記載のEL−POX、および[1]〜[18]のいずれか1に記載の求核架橋剤を含み、前記m個の求電子基の少なくとも1個はペンダント求電子基である、生体適合性の架橋ポリマーの製造用キット。
[20]
前記EL−POXおよび前記求核架橋剤の別々に収納された容量体を含み、前記EL−POXは1〜95重量%の濃度で第1の溶媒に含まれており、前記求核架橋剤は1〜95重量%の濃度で第2の溶媒に含まれており、前記第1および前記第2の溶媒は5〜50重量%の水を含む、[19]に記載のキット。
[21]
別々に収納された前記容量体は、両方の容量体を同時に分注できる分注手段内に収容されている、[20]に記載のキット。
[22]
前記EL−POXを含有する生体適合性のフィルムおよび前記求核架橋剤を含有する生体適合性のフィルムを含む、[19]に記載のキット。
[23]
0.01〜1000μmの重量平均直径を有する粒子を含み、前記粒子はEL−POXを含有する粒子および前記求核架橋剤を含有する粒子を含む、[19]に記載のキット。
[24]
前記EL−POXは求核架橋剤に含まれる求核基の量と比較して過剰量の求電子基を含む、[19]〜[23]のいずれか1に記載のキット。
[25]
EL−POXの乾燥物を少なくとも1重量%含む組織接着性の医療製品であって、前記EL−POXは、少なくとも1個のペンダント求電子基を含む少なくとも2個の求電子基を含み、前記反応基は、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、ホスホン酸エステル、ペンタフルオロフェニルエステル、p−ニトロフェニルエステル、p−ニトロチオフェニルエステル、酸ハロゲン化物基、無水物、ケトン、アルデヒド、イソシアナト、チオイソシアナト、イソシアノ、エポキシド、活性化ヒドロキシル基、オレフィン、グリシジルエーテル、カルボキシル、スクシンイミジルエステル、スクシンイミジルカーボネート、スクシンイミジルカルバメート、スルホスクシンイミジルエステル、スルホスクシンイミジルカーボネート、マレイミド、エテンスルホニル、イミドエステル、アセトアセテート、ジヒドロキシ−フェニル誘導体、ハロアセタール、オルトピリジルジスルフィド、ビニルアクリレート、アクリルアミド、ヨードアセトアミドおよびそれらの組み合わせから選択される、組織接着性の医療製品。
[26]
接着性組織テープ、組織封止剤、止血材またはインプラントである、[25]に記載の組織接着性の医療製品。