特許第6529977号(P6529977)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6529977アクリル酸エステルの製造のための液体−液体抽出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6529977
(24)【登録日】2019年5月24日
(45)【発行日】2019年6月12日
(54)【発明の名称】アクリル酸エステルの製造のための液体−液体抽出方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/58 20060101AFI20190531BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20190531BHJP
   B01D 11/04 20060101ALI20190531BHJP
【FI】
   C07C67/58
   C07C69/54 Z
   B01D11/04 C
【請求項の数】17
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-543440(P2016-543440)
(86)(22)【出願日】2014年8月26日
(65)【公表番号】特表2016-535070(P2016-535070A)
(43)【公表日】2016年11月10日
(86)【国際出願番号】FR2014052124
(87)【国際公開番号】WO2015040298
(87)【国際公開日】20150326
【審査請求日】2017年7月24日
(31)【優先権主張番号】1359110
(32)【優先日】2013年9月23日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トレチャク,セルジュ
(72)【発明者】
【氏名】ドゥニ,ステファーヌ
【審査官】 東 裕子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−246132(JP,A)
【文献】 特開2003−226672(JP,A)
【文献】 特公昭44−030247(JP,B1)
【文献】 特開平06−055063(JP,A)
【文献】 特開昭52−035769(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0107629(US,A1)
【文献】 米国特許第03821286(US,A)
【文献】 米国特許第05435892(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0131376(US,A1)
【文献】 改訂6版 化学工学便覧,丸善株式会社,2001年 4月25日,第2刷,第661-669頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体−液体抽出方法であって、
− 少なくとも1つの対象の化合物および過剰の化合物を含む主要な投入液体ストリームを提供すること;
− 液体洗浄ストリームを提供すること;
− 液体洗浄ストリームと接触させることにより、主要な投入液体ストリームから過剰の化合物を抽出し、主要な投入液体ストリームに対し過剰の化合物が激減した主要な産出液体ストリームを収集することを可能にすることを含み;ここで:
− 主要な投入液体ストリームおよび液体洗浄ストリームは50kg/m以下の密度差および3ダイン/cm以下の界面張力を示し;および
− 抽出段階は、0.3から0.5の範囲の液体洗浄ストリーム/主要な投入液体ストリームの重量比で、充填成分の比表面積が200m/m以上である充填接触器内で行われる、方法。
【請求項2】
− 主要な投入液体ストリームは有機ストリームであり、液体洗浄ストリームは水性ストリームであり;
− 対象の化合物はアクリル酸エステルであり、過剰の化合物はアルコールである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
− 対象の化合物はアクリル酸メチルおよび/またはアクリル酸エチルであり、過剰の化合物はメタノールおよび/またはエタノールである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
主要な投入液体ストリームは、0.5%から30%の過剰の化合物を含み、および/または主要な産出液体ストリームは、2000ppm未満の過剰の化合物を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
主要な投入液体ストリームは、1%から20%の過剰の化合物を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
主要な投入液体ストリームは、2%から10%の過剰の化合物を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
主要な産出液体ストリームは、1000ppm未満の過剰の化合物を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
主要な産出液体ストリームは、500ppm未満の過剰の化合物を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
充填接触器は、式:d=2.42×(Sgc/Δρg)0.5、ここでSは、N/mで表される主要な投入液体ストリームと液体洗浄ストリームとの間の界面張力を表し、Δρは、kg/mで表される主要な投入液体ストリームと液体洗浄ストリームの間の密度差を表し、gcは重力定数の変換係数であり(kg.m/N.s)、およびgは重力定数(9.83m/s)である関係から得られた、mで表される臨界直径以上の直径を示す充填成分を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
アクリル酸エステルの製造方法であって、
− 反応器にアクリル酸、触媒およびアルコールを供給すること;
− 反応器出口でアクリル酸エステルストリームを抜き出すこと;
− 精製されたアクリル酸エステルストリームを収集することを可能にする水性ストリームによる、アクリル酸エステルストリームの液体−液体抽出を含み、液体−液体抽出は請求項1から9のいずれか一項に記載の方法に従って行われ、そこで主要な投入液体ストリームはアクリル酸エステルストリームであり、液体洗浄ストリームは水性ストリームであり、主要な産出液体ストリームは精製されたアクリル酸エステルストリームであり、対象の化合物はアクリル酸エステルであり、過剰の化合物はアルコールである、方法。
【請求項11】
精製されたアクリル酸エステルストリームは、追加の有機化合物を除去するために、さらに1つ以上の蒸留段階に供される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
アクリル酸エステルストリームに加えて、水相を収集することを可能にする、反応器出口での沈降段階を含み、水相は、一方で前記反応器にリサイクルされるアルコールに富む画分を、他方で液体−液体抽出段階で液体洗浄ストリームとして使用される水に富む画分を回収するために蒸留される、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
液体−液体抽出段階の結果、アルコールに富む水性ストリームを回収すること、およびこれと前記反応器から生じる水相とを組み合わせることを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
アクリル酸エステルの製造のためのプラントであって、
− アクリル酸を導入するためのパイプ(2)、アルコールを導入するためのパイプ(3)および触媒を導入するためのパイプ(1)を介して供給される反応器(4);
− 反応器(4)の出口でアクリル酸エステルを収集するためのパイプ(8);
− アクリル酸エステルを収集するためのパイプ(8)、および液体洗浄ストリームを供給するためのパイプ(11)を介して供給される充填接触器を含む液体−液体抽出ユニット(9);
− 液体−液体抽出ユニット(9)の出口で、精製されたアクリル酸エステルを収集するためのパイプ(13)
を備え、充填接触器は、式:d=2.42×(Sgc/Δρg)0.5、ここでSは、N/mで表される主要な投入液体ストリームと液体洗浄ストリームの間の界面張力を表し、Δρは、kg/mで表されるアクリル酸エステルストリーム(8)と液体洗浄ストリーム(11)との間の密度差を表し、gcは重力定数の変換係数であり(kg.m/N.s)、およびgは重力定数(9.83m/s)である関係から得られた、mで表される臨界直径以上の直径を示す充填成分を含み、該充填成分の比表面積が200m/m以上であることを特徴とする、プラント。
【請求項15】
精製されたアクリル酸エステルを収集するためのパイプ(13)は、1つ以上の蒸留ユニット(14、15)に供給する、請求項14に記載のプラント。
【請求項16】
− 反応器(4)の出口で水相を収集するためのパイプ(6);
− 水相を収集するためのパイプ(6)を介して、および場合により追加的に液体−液体抽出ユニット(9)から出るアルコールに富む水性ストリームを収集するためのパイプ(10)を介して供給される水性/アルコール蒸留ユニット(7)であって、液体洗浄ストリームを供給するためのパイプ(11)は水性/アルコール蒸留ユニットの出口で接続される水性/アルコール蒸留ユニット(7);
− 水性/アルコール蒸留ユニット(7)の出口に接続され、反応器(4)に供給する、アルコールに富む画分の収集のためのパイプ(12)を含む、請求項14または15に記載のプラント。
【請求項17】
アルコールを導入するためのパイプ(3)は、メタノールを導入するためのパイプまたはエタノールを導入するためのパイプである、請求項14から16のいずれか一項に記載のプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体−液体抽出方法、およびアクリル酸エステル、特にアクリル酸メチルアおよびアクリル酸エチルの製造との関連におけるこの方法の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、硫酸が触媒として機能する、対応するアルコールによるアクリル酸の直接エステル化により、アクリル酸エステル、特にアクリル酸メチルおよびアクリル酸エチルを製造する方法が知られている。このような方法は、大量の未反応のアルコールが反応器出口で収集される。
【0003】
環境的および経済的理由から、一般に反応器に未反応のアルコールをリサイクルするために、未反応のアルコールを回収ことが不可欠である。
【0004】
この目的のために、生成物ストリームを蒸留、または水流を使用してそれを洗浄することが知られている。
【0005】
文献FR2509294、US5435892およびFR2884514は、アクリル酸エステルを製造するためのこのような方法の例を提供する。
【0006】
EP1721886では、粗製アクリル酸エステルの混合物は、触媒を分離し、所望の生成物を濃縮し、精製することを対象として異なる処理に供される。これらの処理は、洗浄、中和および/または抽出によって行うことができる。引用された設備の例は、ミキサー/デカンター、抽出カラムまたは撹拌タンクである。抽出カラムは、充填型、プレート型または回転ディスク型である。アクリル酸メチルを製造する方法は、充填カラムにおける反応混合物の抽出と濾過を組み合わせた処理を使用して説明される。しかし、抽出した有機相の残留アルコール含有量は、0.1重量%から0.2重量%のオーダーのままである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】仏国特許発明第2509294号明細書
【特許文献2】米国特許第5435892号明細書
【特許文献3】仏国特許発明第2884514号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第1721886号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
反応器出口でより効率的にアルコールを回収することに成功する必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、まず液体−液体抽出方法であって、
− 少なくとも1つの対象の化合物および過剰の化合物を含む主要な投入液体ストリームを提供すること;
− 液体洗浄ストリームを提供すること;
− 液体洗浄ストリームと接触させることにより、主要な投入液体ストリームから過剰の化合物を抽出し、主要な投入液体ストリームに対し過剰の化合物が激減した主要な産出液体ストリームを収集することを可能にすることを含み;ここで:
− 主要な投入液体ストリームおよび液体洗浄ストリームは50kg/m以下の密度差および3ダイン/cm以下の界面張力を示し;および
− 抽出段階は、0.3から0.5の範囲の投入液体洗浄ストリーム/主要な液体ストリームの重量比で充填接触器内で行われる
前記方法に関する。
【0010】
1つの実施形態によれば:
− 主要な投入液体ストリームは有機ストリームであり、液体洗浄ストリームは水性ストリームであり;
− 好ましくは、対象の化合物はアクリル酸エステル、より好ましくはアクリル酸メチルおよび/またはアクリル酸エチルであり、過剰の化合物はアルコール、好ましくはメタノールおよび/またはエタノールである。
【0011】
1つの実施形態によれば、主要な投入液体ストリームは、0.5%から30%、好ましくは1%から20%、より詳細には2%から10%の過剰の化合物を含み、および/または主要な産出液体ストリームは、2000ppm未満、好ましくは1000ppm未満、より詳細には750ppm未満、さらには500ppm未満の過剰の化合物を含む。
【0012】
1つの実施形態によれば、充填接触器は、式:d=2.42×(Sgc/Δρg)0.5、ここでSは、N/mで表される主要な投入液体ストリームと液体洗浄ストリームとの間の界面張力を表し、Δρは、kg/mで表される主要な投入液体ストリームと液体洗浄ストリームとの間の密度差を表し、gcは重力定数の変換係数であり(kg.m/N.s)、およびgは重力定数(9.83m/s)である関係から得られた、mで表される臨界直径以上の直径を有する充填成分を含む。
【0013】
1つの実施形態によれば、接触器の充填(ランダムまたは積み重ね)の比表面積は200m/m以上である。
【0014】
本発明の別の主題は、アクリル酸エステルの製造方法であって、
− 反応器にアクリル酸、触媒およびアルコールを供給すること;
− 反応器出口でアクリル酸エステルストリームを抜き出すこと;
− 精製されたアクリル酸エステルストリームを収集することを可能にする水性ストリームによる、アクリル酸エステルストリームの液体−液体抽出を含み、液体−液体抽出は上記の方法に従って行われ、そこで主要な投入液体ストリームはアクリル酸エステルストリームであり、液体洗浄ストリームは水性ストリームであり、主要な産出液体ストリームは精製されたアクリル酸エステルストリームであり、対象の化合物はアクリル酸エステルであり、過剰の化合物はアルコールである
前記製造方法である。
【0015】
1つの実施形態によれば、精製されたアクリル酸エステルストリームは、追加の有機化合物を除去するために、さらに1つ以上の蒸留段階に供される。
【0016】
1つの実施形態によれば、該方法は、アクリル酸エステルストリームに加えて、水相を収集することを可能にする、反応器出口での沈降段階を含み、水相は、一方でアルコール(反応器にリサイクルされる)に富む画分を、他方で液体−液体抽出段階で液体洗浄ストリームとして使用される水に富む画分を回収するために蒸留される。
【0017】
1つの実施形態によれば、この方法は、液体−液体抽出段階の結果、アルコールに富む水性ストリームを回収することおよびこれと反応器から生じる水相とを組み合わせることを含む。
【0018】
本発明の別の主題は、アクリル酸エステルの製造のためのプラントであって、
− アクリル酸を導入するためのパイプ、アルコールを導入するためのパイプおよび触媒を導入するためのパイプを介して供給される反応器;
− 反応器出口でアクリル酸エステルを収集するためのパイプ;
− アクリル酸エステルを収集するためのパイプ、および液体洗浄ストリームを供給するためのパイプを介して供給される充填接触器を含む液体−液体抽出ユニット;
− 液体−液体抽出ユニットの出口で、精製されたアクリル酸エステルを収集するためのパイプ
を備えるプラントである。
【0019】
本発明によれば、抽出ユニットは、式:d=2.42×(Sgc/Δρg)0.5、ここでSは、N/mで表されるアクリル酸エステルストリームと液体洗浄ストリームとの間の界面張力を表し、Δρは、kg/mで表される主要な投入液体ストリームと液体洗浄ストリームとの間の密度差を表し、gcは重力定数の変換係数であり(kg.m/N.s)、およびgは重力定数(9.83m/s)である関係から得られた、mで表される臨界直径以上の直径を示す充填成分を含む充填接触器を備える。
【0020】
1つの実施形態によれば、精製されたアクリル酸エステルを収集するためのパイプは、1つ以上の蒸留ユニットに供給する。
【0021】
1つの実施形態によれば、プラントは、
− 反応器の出口で水相を収集するためのパイプ;
− 水相を収集するためのパイプを介して、および場合により追加的に液体−液体抽出ユニットから出るアルコールに富む水性ストリームを収集するためのパイプを介して供給される水性/アルコール蒸留ユニットであって、液体洗浄ストリームを供給するためのパイプは水性/アルコール蒸留ユニットの出口で接続される水性/アルコール蒸留ユニット;
− 水性/アルコール蒸留ユニットの出口に接続され、反応器に供給する、アルコールに富む画分を収集するためのパイプ
を含む。
【0022】
1つの実施形態によれば、アルコールを導入するためのパイプは、メタノールを導入するためのパイプまたはエタノールを導入するためのパイプである。
【0023】
本発明は、従来技術の欠点を克服することを可能にする。それは、より具体的にはより効率的なアクリル酸エステルの製造のための反応器の出口で未反応のアルコールを回収する手段を提供する。
【0024】
これは、充填接触器の使用に基づく改善された液体−液体抽出によって達成される。
【0025】
本発明者らは、液体−液体抽出ユニットで接触する液体ストリームが小さい密度差および低い界面張力を示す場合、このような充填接触器の使用が、従来の機械的撹拌接触器よりも、より高い生産性(同様の抽出性能で)を提供する点でより有利であることを見出したからであり、遠心分離接触器のような他の種類の接触器は、例えば、より複雑であり、そのためより高価になるという欠点を示すことが述べられる。
【0026】
その分離は、比較的高い液滴サイズ(0.6mmを超える)の結果、あまり効率的ではない傾向があるので、上記の特性を有する液体ストリームは処理において特定の難点を示す。目詰まりの傾向が、低い処理量で使用する場合を除き、機械的な撹拌接触器では特に観察された。
【0027】
従って、本発明によって、より小型で且つ低コストの接触器を使用することが可能となり、所望の生産性および生成物ストリーム中の残留アルコール含有量について所望の仕様を達成する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の1つの実施形態に従ってアクリル酸エステルを製造するためのプラントを図式的に示す。
図2】本発明との関連で使用できる充填接触器の一例を示す図である。左図は、垂直面に沿った接触器の断面図である。右図は、器具の詳細の図である(上部では垂直面に沿った、底部では水平面に沿った断面)。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明を以下の説明でより詳細に、黙示の限定もなく説明する。
【0030】
特に断らない限り、示された百分率は重量百分率である。
【0031】
アクリル酸エステルの製造
説明を簡単にするために、本発明の液体−液体抽出方法を、アクリル酸エステルの製造方法に照して説明する。
【0032】
図1を参照すると、本発明のアクリル酸エステルを製造するためのプラントは、反応器4を備える。反応器4は、アクリル酸を導入するためのパイプ2、アルコールを導入するためのパイプ3および触媒を導入するためのパイプ1を介して供給される。
【0033】
1つの実施形態によれば、アルコールはメタノールである。別の実施形態によれば、アルコールはエタノールである。メタノールとエタノールの混合物も可能である。触媒として、例えば、硫酸、またはメタンスルホン酸、パラ−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ドデシルスルホン酸等の有機スルホン酸、またはこれらの混合物を使用することができる。
【0034】
反応器4の出口では、重い生成物が、重い生成物5のブリードの収集を介して除去される。
【0035】
反応器4に関連したデカンター(図示せず)によって、以下、即ち、一方でアクリル酸エステルを収集するためのパイプ8を介してアクリル酸エステルストリームを、他方で水相を収集するためのパイプ6を介して水相(未反応アルコールの一部も含む)が、反応器4の出口で回収される。
【0036】
アクリル酸エステルストリームは、「対象の化合物」(本発明の意味における)としてのアクリル酸エステル、ならびに、副生成物、汚染物および未反応反応物質、特に、前述のアルコール化合物(本発明の意味の範囲内で「過剰の化合物」を構成する)を含む。
【0037】
アクリル酸エステル(対象の化合物)は、好ましくは、アクリル酸メチルおよび/またはアクリル酸エチルである。未反応アルコール(過剰の化合物)は、好ましくは、メタノールおよび/またはエタノールである。
【0038】
アクリル酸エステルストリームは、例えば、50%から98%、好ましくは70%から97%、より詳細には80%から95%のアクリル酸エステルを含むことができる。同じアクリル酸エステルストリームは、例えば、0.5%から30%、好ましくは1%から20%、より詳細には2%から10%の未反応アルコールを含むことができる。
【0039】
上記のアクリル酸エステルストリームは、本発明の意味の範囲内で「主要な投入液体ストリーム」を構成する。
【0040】
水相を収集するためのパイプ6は、水性/アルコール蒸留ユニット7に供給する。水性/アルコール蒸留ユニット7によって、未反応のアルコールを回収、それをアルコールに富む画分を収集するためのパイプ12を介して反応器にリサイクルすることが可能になる。水相の残りの部分(水に富む画分)は、液体洗浄ストリームを供給するためのパイプ11として知られるラインを介して(本発明の意味の範囲内の)液体洗浄ストリームとして使用されるように、水性/アルコール蒸留ユニット7の底部で回収される。垂直の矢印によって図中に示されているように、このストリームのすべてが必ずしも、液体洗浄ストリームとして使用されないことに留意するべきであり、一部を除去することができる。
【0041】
液体洗浄ストリームを供給するためのパイプ11およびアクリル酸エステルを収集するためのパイプ8の両方は、液体−液体抽出ユニット9に送り込まれ、ここではこの2つのストリームの間で液体−液体抽出が行われることによって、過剰の化合物(未反応のアルコール)をアクリル酸エステルストリームから液体洗浄ストリームに移すことが可能になる。
【0042】
液体−液体抽出ユニットは、0.3から0.5の範囲の投入液体洗浄ストリーム/主要な液体ストリームとしての重量比で駆動される。これは0.3の重量比未満では、過剰の化合物が未だ主要な産出液体ストリームに高い含量で存在するままであることが示されたからである。具体的には、アクリル酸エステルの製造方法において0.3の重量比に対しては、精製された産出アクリル酸エステルストリーム中の残留アルコールは3000ppmを超え、これはこのモノマーの最終用途に適合しない。また、0.5より大きい比の使用によって、同じ抽出効率を得るのに大量の洗浄液体の使用およびより大きな抽出カラムの使用が暗示され、これは経済的に有利ではない。
【0043】
液体−液体抽出ユニット9を以下でより詳細に説明する。
【0044】
液体−液体抽出ユニット9の出口では、一方で(アルコールが激減したアクリル酸エステルストリームを回収するために)精製されたアクリル酸エステルを収集するためのパイプ13、他方で(アルコールに富む液体洗浄ストリームを回収するために)アルコールに富む水性ストリームを収集するためのパイプ10が接続される。
【0045】
アルコールに富む水性ストリームを収集するためのパイプ10は、水性/アルコール蒸留ユニット7に戻る。即ち、アルコールに富む(洗浄)ストリームは、このように反応器から得られた水相と組み合わせることによって、その中に存在するアルコールを回収し、リサイクルすることが可能になる。
【0046】
精製されたアクリル酸エステルを収集するためのパイプ13は、連続する蒸留ユニット14、15に送り込まれることによって、これらのユニットは他の望ましくない化合物を除去でき、最終生成物を収集するためのライン16を介してその最終形態でアクリル酸エステルを回収することが可能になる。1つ以上のリサイクルライン17が、このストリームの一部を反応器4に戻すために提供されてもよく、これらのラインは精製されたアクリル酸エステルを収集するためのパイプ13および/または連続する蒸留ユニット14、15によって供給される。
【0047】
精製されたアクリル酸エステルのためのパイプ13において回収されるストリームの残留アルコール含量は、好ましくは、2000ppmまたは1000ppm以下、例えば750または500ppm以下である。
【0048】
液体−液体抽出ユニット
本発明は、上記の液体−液体抽出ユニット9のための充填接触器の使用に備える。1つの実施形態によれば、液体−液体抽出ユニット9は、単一の充填接触器、または直列または並列に配置された複数の充填接触器からなる。代替的な実施形態によれば、液体−液体抽出ユニット9は、さらに、別の種類の接触器、例えば、機械的な撹拌接触器を含む。さらに別の実施形態によれば、過剰の化合物を除去するための追加の手段が、液体−液体抽出ユニットに関連している(例えば、蒸留ユニット)。
【0049】
用語「充填接触器」は2つの液体が接触するチャンバであって、充填を含むチャンバを含む器具を意味すると理解される。用語「充填」は2つの液体の間の接触面積を増加させることができる固体構造を意味すると理解される。
【0050】
好ましくは、充填接触器は静的接触器、即ち、前記チャンバ内で機械的撹拌手段(パドル、タービン等)を有さない。
【0051】
図2を参照すると、本発明との関連で使用できる充填接触器の一例は、チャンバを形成するカラム20を含む。重い相を供給するパイプ21および軽い相を供給するパイプ22は、カラム20の入力として、それぞれ、後者の頂部および底部で接続される。軽い相を収集するためのパイプ23および重い相を収集するためのパイプ24はカラム20の出口と、それぞれ後者の頂部および底部で接続される。
【0052】
カラム20は、グリッドの形でプレート29上に載る充填25を含む。分配システム26は、軽い相を供給するためのパイプ22の入り口の高さで提供される。この分配システム26は、重い相中に軽い相の液滴を発生させることを可能にするために、例えば、ノズルのアセンブリを含む。それはプレート29の下方に配置されており、そこを通過することができる。
【0053】
沈降領域27は、充填25の上部に挿入され、この領域は重い相および軽い相の分離を可能にする。処理量は、相の間の界面が、重い相を供給するためのパイプ21と軽い相を収集するためのパイプ23(前記パイプの上方に位置する)との間に位置するように調整される。
【0054】
上述のアクリル酸エステルの製造との関連で、軽い相は主要な液体ストリーム(アクリル酸エステルストリーム)であり、重い相は液体洗浄ストリーム(水性の)である。
【0055】
重い相は、充填25に軽い相の相滴を分散させた連続相である。
【0056】
抽出温度は、20から50℃が好ましい。投入された重い相/軽い相の重量比は0.3から0.5であることが好ましい。
【0057】
充填はランダム充填もしくは積み重ねられた充填または場合によりこれら2つを組み合わせたものであってもよく、好ましくはランダム充填である。ランダム充填は積まれた多孔質の物体、充填成分(例えば、必然的に円筒形の外形を有することができる)から構成される。積み重ねられた充填は、単一の多孔質三次元構造、または一方が他方の上に配置されたもしくは一方が他方のそばに配置されたブロックの形の構造から構成される。
【0058】
充填は、セラミック材料、金属材料またはガラス材料、または場合によりプラスチック材料で製造することができる。好ましい材料はステンレス鋼である。
【0059】
(ランダム充填の場合)充填成分の外径は、5から50mmであることが好ましい。一般には、この外径は、Perry’s Chemical Engineer’s Handbook 7版,R.H.PerryおよびD.W.Green著,15章 − Liquid−Liquid extraction operations and equipmentに提示された臨界直径d以上となるように選択される。直径dはmで表され、式:d=2.42×(Sgc/Δρg)0.5から生じ、Sは、N/mで表される主要な投入液体ストリームと液体洗浄ストリームの間の界面張力を表し、Δρは、kg/mで表される主要な投入液体ストリーム(アクリル酸エステルストリーム)と液体洗浄ストリームとの間の密度差を表し、gcは重力定数の変換係数であり(kg.m/N.s)、およびgは重力定数(9.83m/s)である。
【0060】
これらの条件下では、形成される液滴のサイズ、ひいては交換面積は、充填の選択から実質的に独立している。
【0061】
好ましくは、充填成分の直径は、カラムの汚染を低減するために、抽出カラムの直径の10分の1未満である。
【0062】
充填成分は、例えば、ラシヒリング、ポールリング、サドルリング、バール(Berl)サドルまたはインタロックスサドルであってもよい。あるいは、ビーズを使用してもよい。好ましくは、充填成分の比表面積は、200m/m以上である。
【0063】
積み重ねられた充填が使用される場合、それは少なくとも200m/m、例えば少なくとも250m/mまたは少なくとも500m/mの表面積/体積比を示すように有利に選択される。市販の可能性のある積み重ねられた充填は、250m/mにおいてSulzerからのBX充填、および750m/mにおいてSulzerからのMellapack 750Yである。
【実施例】
【0064】
以下の実施例は、限定することなく本発明を説明する。
【0065】
この実施例では、アクリル酸メチルストリーム中に存在するメタノールの液体−液体抽出を実行する際の充填接触器および機械的撹拌接触器の効率を比較する。
【0066】
機械的攪拌機接触器としては、各々6つの攪拌機を備えた420mmの5つのセクションを有する、高さ3.9mのKuhni 150/30Gタイプのカラムを使用する。カラムの直径は150mmであり、カラムは、頂部に沈降領域および底部に直線状の領域を備える。
【0067】
充填接触器として、180mmの直径および4から5mの活性高さを有するカラムを使用する。充填は直径16mmおよび205m/mの比表面積を有するポールリングからなる。頂部のデカンターは150mmの直径を示し、直線状の領域が底部に設けられている。
【0068】
処理すべきストリーム(有機ストリーム)は、アクリル酸メチルを製造するためのプラントから採取される。これは、91.09%のアクリル酸メチルおよび5.03%のメタノールを含む。ストリームにおいて検出された他の主な化合物は、酢酸メチル(1.94%)およびアクリル酸(0.21%)である。
【0069】
洗浄ストリームは、0.1%のメタノールを含有する水相である。
【0070】
カラム頂部生成物と底部での生成物の間の密度差は、この場合には30kg/mである。生成物の密度は、容量フラスコを用いて20℃で測定し、ASPENシミュレーションソフトウェアで確認される。界面張力は、3ダイン/cmである。これは、コンピュータ、Exmire型注射器ドライバ、カメラおよびガラス容器を備えたIT概念しずく張力計によって20℃で測定され、アセンブリはHaakeサーモスタット制御浴と組み合わされる。
【0071】
異なる操作条件下で、機械的撹拌接触器を用いて得られた結果が以下の表1に並べられる。この表では、OPは有機相を表し、APは水相を表す。
【0072】
【表1】
【0073】
機械的撹拌接触器によって、所望の残留メタノール含量(一般に1000ppm未満)を得ることが可能になることがわかる。他方、このシステムは、特定の処理量が18m/m/時間に近似する場合、目詰まりする傾向を示す(表中の文字B)。目詰まりは停滞する有機相に対応し、カラム内のあらゆる移動およびひいてはあらゆる分離を妨げる。
【0074】
異なる操作条件下で、充填接触器を用いて得られた結果が以下の表2に並べられる。
【0075】
【表2】
【0076】
充填接触器は好適な分離性能も提供し、機械的撹拌カラムで達成可能な処理量よりも1.5から2倍大きい特定の処理量を可能にすることがわかる。
【0077】
静的接触器で得られたこの有利な結果は、2つの液体ストリームの間の密度差および界面張力が低い場合に、他の液体−液体抽出の構成でも達成することができる。
図1
図2