特許第6530006号(P6530006)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6530006
(24)【登録日】2019年5月24日
(45)【発行日】2019年6月12日
(54)【発明の名称】スチームエアワイパーシステム
(51)【国際特許分類】
   B60S 1/54 20060101AFI20190531BHJP
   B60S 1/48 20060101ALI20190531BHJP
   B60S 1/50 20060101ALI20190531BHJP
   B60S 1/52 20060101ALI20190531BHJP
【FI】
   B60S1/54 Z
   B60S1/48 B
   B60S1/50
   B60S1/52
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-87972(P2017-87972)
(22)【出願日】2017年4月27日
(65)【公開番号】特開2018-184119(P2018-184119A)
(43)【公開日】2018年11月22日
【審査請求日】2018年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】591150982
【氏名又は名称】神戸 孝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(72)【発明者】
【氏名】神戸 孝夫
【審査官】 神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】 登録実用新案第3094086(JP,U)
【文献】 特開平09−065972(JP,A)
【文献】 特開2001−263953(JP,A)
【文献】 特開2002−333275(JP,A)
【文献】 特開2011−244725(JP,A)
【文献】 特開2008−001335(JP,A)
【文献】 実開昭49−118702(JP,U)
【文献】 実開平06−016166(JP,U)
【文献】 特開2002−220032(JP,A)
【文献】 特開昭50−090027(JP,A)
【文献】 米国特許第04832262(US,A)
【文献】 実開昭60−046466(JP,U)
【文献】 特開2012−096652(JP,A)
【文献】 特開2005−014787(JP,A)
【文献】 特開昭51−132544(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0117701(US,A1)
【文献】 実開昭56−034572(JP,U)
【文献】 実開平02−125874(JP,U)
【文献】 特開2010−279485(JP,A)
【文献】 特開2002−234423(JP,A)
【文献】 特開2015−027656(JP,A)
【文献】 特開2011−239754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60S 1/00 − 1/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温高圧の水蒸気を雨雪除去対象物に向けて円錐螺旋状に噴射する噴射装置と、
多管構造を有する誘導加熱方式の加熱装置を備えて前記噴射装置に水蒸気を供給する給気手段と、
を備え
前記加熱装置は、雨雪量に応じて水蒸気の温度を制御する制御手段を有するスチームエアワイパーシステム。
【請求項2】
高温高圧の水蒸気を雨雪除去対象物に向けて円錐螺旋状に噴射する噴射装置と、
多管構造を有する誘導加熱方式の加熱装置を備えて前記噴射装置に水蒸気を供給する給気手段と、
を備え
貯水タンクに貯留された水を加熱して所定の温度範囲内で保温する保温タンクを備え、前記保温タンク内の水を前記加熱装置により気化させるスチームエアワイパーシステム。
【請求項3】
前記多管構造は、ハニカム構造である請求項1又は2記載のスチームエアワイパーシステム。
【請求項4】
前記多管構造の加熱装置は水蒸気を150℃から300℃に加熱する請求項1〜3のいずれかに記載のスチームエアワイパーシステム。
【請求項5】
水を気化させる単管の加熱装置をさらに備え、前記単管の加熱装置で加熱された水蒸気を前記多管構造の加熱装置でさらに加熱する請求項1〜のいずれかに記載のスチームエアワイパーシステム。
【請求項6】
雨雪又は車両の排水を、フィルターを介して収集する集水器を備え、前記集水器は前記貯水タンクに接続される請求項に記載のスチームエアワイパーシステム。
【請求項7】
前記噴射装置は、2つの噴射口を備え、一方の噴射口から水蒸気をZ巻きの円錐螺旋状に噴射するとともに、他方の噴射口から水蒸気をS巻きの円錐螺旋状に噴射する請求項1〜のいずれかに記載のスチームエアワイパーシステム。
【請求項8】
前記噴射装置は、前記2つの噴射口の噴射方向の間に噴射方向を有する第1噴射口を備え、この第1噴射口は、前記雨雪除去対象物の上方に高温高圧の水蒸気を噴射することにより、前記雨雪除去対象物に雨雪が付着するのを抑制する請求項に記載のスチームエアワイパーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に四輪車のフロントウインドーなどのウインドーに適用されるスチームエアワイパーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のワイパーとしては、1〜3本のアームが揺動自在に支持され、各アームの先端にそれぞれゴム製のブレードが取り付けられてウインドーのガラス面に接触した構造のもの(以下、「ブレード式のワイパー」という。)が広く用いられている。そして、このワイパーを作動させると、ブレードがウインドーのガラス面に接触したままアームが揺動し、それに伴ってブレードがウインドーのガラス面を掃くことにより、ウインドーから雨雪が除去される。
【0003】
ところが、このようなブレード式のワイパーでは、ワイパーを作動させたときに、ウインドー上に掃き残しが生じ、ウインドーの全面を掃くことができない。また、ワイパーを長期間にわたって使用すると、ブレードの劣化に伴って、ブレードによる雨雪の除去能力が低下するばかりか、アームが揺動するたびに雑音が発生する恐れがある。さらに、雨天走行中、とりわけアームを高速で揺動させた場合に、ブレードの揺動が目障りとなり、運転者の視界を妨げる要因になる。
【0004】
そこで、こうしたブレード式のワイパーの種々の不都合を解消すべく、ウインドーのガラス面にノズルから高速風(ジェットストリーム)を吹き当てて水滴を除去するエアワイパーが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−201766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このエアワイパーでは、単にウインドーのガラス面に高速風を吹き当てるだけであるため、雨水を蒸発させることができない。そればかりか、高速風を発生させるためのエアコンプレッサが大掛かりで高価(例えば、20万円程度)になり、四輪車の車両本体価格(200〜400万円程度)に対して、その5〜10%の高い比率を占める。これらの結果、このエアワイパーは、その機能および価格の両面で実用性に乏しいという問題点があった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑み、機能および価格の両面で実用性に優れたスチームエアワイパーシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るスチームエアワイパーシステムは、高温高圧の水蒸気を雨雪除去対象物に向けて円錐螺旋状に噴射する噴射装置と、多管構造を有する誘導加熱方式の加熱装置を備えて前記噴射装置に水蒸気を供給する給気手段と、を備えるように構成されている。
【0009】
多管構造は、ハニカム構造である。
多管構造の加熱装置は水蒸気を150℃から300℃に加熱する。
【0010】
水を気化させる単管の加熱装置をさらに備え、単管の加熱装置で加熱された水蒸気を多管構造の加熱装置でさらに加熱する。
【0011】
加熱装置は、雨雪量に応じて水蒸気の温度を制御する制御手段を有する。
【0012】
貯水タンクに貯留された水を加熱して所定の温度範囲内で保温する保温タンクを備え、保温タンク内の水を前記加熱装置により気化させる。
雨雪又は車両の排水を、フィルターを介して収集する集水器を備え、集水器は貯水タンクに接続される。
【0013】
噴射装置は、2つの噴射口を備え、一方の噴射口から水蒸気をZ巻きの円錐螺旋状に噴射するとともに、他方の噴射口から水蒸気をS巻きの円錐螺旋状に噴射する。
【0014】
噴射装置は、2つの噴射口の噴射方向の間に噴射方向を有する第1噴射口を備え、この第1噴射口は、雨雪除去対象物の上方に高温高圧の水蒸気を噴射することにより、雨雪除去対象物に雨雪が付着するのを抑制する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ウインドーなどの雨雪除去対象物から雨雪を除去する際に、噴射装置から高温高圧の水蒸気を噴射した状態で、この噴射装置を揺動することにより、高温高圧の水蒸気の流れで雨雪を切ることができる。その結果、機能および価格の両面で実用性に優れたスチームエアワイパーを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態に係るスチームエアワイパーのシステム全体構成を示す図である。
図2A】本発明の第1実施形態に係るスチームエアワイパーの噴射装置を示す正面図である。
図2B図2Aに示す噴射装置のB−B線による断面図である。
図3】本発明の第1実施形態に係るスチームエアワイパーの噴射装置の第2噴射口および第3噴射口の構造を示す正面図である。
図4】本発明の第1実施形態に係るスチームエアワイパーが搭載された四輪車の斜視図である。
図5図4に示す四輪車の要部(スチームエアワイパーの噴射装置の近傍)を示す側面図である。
図6】本発明の第1実施形態に係るスチームエアワイパーの作動状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
[第1実施形態]
図1は、この第1実施形態に係るスチームエアワイパーのシステム全体構成を示す図である。図2Aは、この第1実施形態に係るスチームエアワイパーの噴射装置を示す正面図である。図2Bは、図2Aに示す噴射装置のB−B線による断面図である。図3は、この第1実施形態に係るスチームエアワイパーの噴射装置の第2噴射口および第3噴射口の構造を示す正面図である。図4は、この第1実施形態に係るスチームエアワイパーが搭載された四輪車の斜視図である。図5は、図4に示す四輪車の要部(スチームエアワイパーの噴射装置の近傍)を示す側面図である。図6は、この第1実施形態に係るスチームエアワイパーの作動状態を示す正面図である。
【0019】
この第1実施形態に係るスチームエアワイパー1は、図1に示すように、水Wを貯留するための所定の容量(例えば、0.5〜5リットル)の貯水タンク2を有している。貯水タンク2には、その上面にキャップ(蓋)21が着脱自在に取り付けられているとともに、底面に排水口22が開閉自在に取り付けられている。
【0020】
また、貯水タンク2の上側には、図1に示すように、漏斗形(朝顔の花の形)の集水器3が装着されている。集水器3の取込口31には、2重のフィルター(第1フィルター5Aおよび第2フィルター5B)が取り付けられている。第1フィルター5Aは、主に虫除けの粗い目のフィルターである。一方、第2フィルター5Bは、雪や霰を溶かして通過させる熱線フィルターである。他方、集水器3の排出口32は貯水タンク2内に連通している。
【0021】
さらに、貯水タンク2の底面には、図1に示すように、給水ホース6を介してポンプ7が接続されている。給水ホース6の途中には、第3フィルター5Cが設けられている。ポンプ7には、このポンプ7をON/OFF制御するためのコンピューター8が接続されている。
【0022】
また、ポンプ7には、図1に示すように、金属製の細い給水管9が接続されている。給水管9には、貯水タンク2から給水ホース6を通って給水管9に供給された水Wを気化させて後述の噴射装置15に水蒸気Vを供給する給気手段23が接続されている。この給気手段23は、第1加熱装置10、保温タンク11、給気管12、連結コード13および第2加熱装置14から構成されている。
【0023】
ここで、給水管9の上端部の近傍には、誘導加熱方式の第1加熱装置10が付設されている。この第1加熱装置10としては、例えば、円筒形の単管式のものを採用することができる。円筒形に限らず、四角柱等の断面多角形の単管構造でもよい。第1加熱装置10の前段には、水Wを50〜90℃又は60〜80℃等に保温する保温タンク11が連設されている。保温タンク11は無くても良い。第1加熱装置10の上側(後段)には、金属製の細い給気管12が連設されている。給気管12には、誘導加熱方式の第2加熱装置14が付設されている。この第2加熱装置14としては、例えば、ハニカム形の多管式のものを採用することができる。ハニカム形(正六角柱を隙間なく並べた構造)の多管を用いて、加熱表面積を大きくすることにより、単管の加熱装置で加熱された水蒸気をより高速で高温に加熱することができる。また、必ずしもハニカム形でなくとも、断面が三角形、四角形等の多角形、円筒形又はそれらを組み合わせて多管構造としたものでもよい。
さらに、給気管12には、可撓性のあるフレキシブルな分岐型の連結コード13を介して左右一対の噴射装置15が並列に接続されている(図4参照)。なお、図1では、左右一対の噴射装置15のうち1個のみを図示している。これらの噴射装置15は、コンピューター8からの指令に基づき、別個のサーボモータ19(図5参照)で独立して駆動されるように構成されている。
第1加熱装置10及び第2加熱装置14の加熱エネルギーはコンピュータ8により、雨雪量に応じて制御される。雨雪量が大きくなるにしたがって第1加熱装置10及び第2加熱装置14の加熱温度を増大させる。例えば、第1加熱装置10により、水Wは気化されて110〜160℃の水蒸気になり、第2加熱装置14により水蒸気は150〜300℃の水蒸気に急速に加熱され、低流体抵抗で噴射装置に供給される。また、第1加熱装置10及び第2加熱装置14のいずれか一方のみを雨雪量に応じてその加熱エネルギーを制御してもよい。手動で、加熱温度又は加熱範囲を切り替えるようにしてもよい。
【0024】
各噴射装置15は、それぞれ、図2A図2Bに示すように、略L字形パイプ状の筒体16を有している。筒体16の内部には通気路16bが形成されている。筒体16の排気口16aには、ほぼ三角柱状のノズル17が嵌着されている。ノズル17は、正三角形の3つの頂点に位置する形で互いに平行に形成された3つの噴射口(第1噴射口17a、第2噴射口17b、第3噴射口17c)を備えている。ここでは、3つの噴射口の例を説明しているが、第1噴射口は省略してもよく、第2噴射口17b及び第3噴射口17cをそれぞれ複数としてもよい。
【0025】
ここで、第1噴射口17aは、図2Aに示すように、ノズル17の上部に形成されている。一方、第2噴射口17b、第3噴射口17cは、いずれも、ノズル17の下部に形成されており、図3に示すように、その内部に3枚の整流フィン18が、円周上に等角度(120°)間隔に位置する形で、水蒸気Vの噴射方向(図3の紙面に直角な方向)に対して少し傾斜して取り付けられている。ただし、第2噴射口17bの整流フィン18と第3噴射口17cの整流フィン18とは、互いに逆向きに傾斜している。なお、第1噴射口17aの内部には、このような整流フィンは設けられていない。
【0026】
そして、このスチームエアワイパー1を四輪車20に搭載する際には、図1に示すように、集水器3の取込口31を四輪車20の傾斜したフロントグリル24の内側に沿わせて斜め上向きに傾斜して配置する。また、図5図6に示すように、左右一対の噴射装置15をフロントウインドー25の下辺の略3等分点であってフロントウインドー25とボンネット26との隙間に、所定の角度(例えば、120〜130°)だけ矢印M、N方向に円弧状に揺動(首振り運動)自在に取り付ける。さらに、フロントウインドー25の下辺の略中央部(つまり、左右一対の噴射装置15の中間の部位)に略T字形パイプ状の水蒸気回収管28を設置する。この水蒸気回収管28は、四輪車20の車体の下方(運転席の下方)に向けて開口している。
【0027】
なお、四輪車20には、図6に示すように、フロントウインドー25の左右2辺(いわゆる2本のAピラーと接する部位)に左右一対のU字断面状のガイド部材27が取り付けられている。
【0028】
スチームエアワイパー1は以上のような構成を有するので、四輪車20に雨雪が降ると、その雨雪はフロントグリル24から集水器3を経て貯水タンク2に供給される。このとき、集水器3の取込口31に取り付けられた第1フィルター5Aにより、虫の侵入を阻止することができる。また、集水器3の取込口31に取り付けられた第2フィルター5Bにより、雪や霰を溶かして水Wに変えることができる。これらの結果、きれいな水Wを貯水タンク2に溜めることができる。しかも、集水器3はその取込口31が斜め上向きに傾斜しているので、四輪車20の走行中のみならず停車中にも、この集水器3を介して貯水タンク2に水Wを溜めることができる。
また、前記集水器3は、例えば、水素燃料電池から排出された排水等、車両から排出される水を集水できるよう構成することができる。
【0029】
そして、四輪車20の走行中に雨雪が降ってきたときには、運転者はスチームエアワイパー1を作動させる。これに対応して、コンピューター8は、ポンプ7をONにする。すると、貯水タンク2に貯留された常温の水Wが給水ホース6を通って給水管9に供給される。このとき、給水ホース6の途中に設けられた第3フィルター5Cにより、この水Wに含まれる不純物が取り除かれる。
【0030】
その後、この水Wは、保温タンク11内に保持される。水Wは、給水管9を上昇するときに、第1加熱装置10で急速に加熱され、例えば約110℃に気化されて高温高圧の水蒸気Vとなる。加熱温度は、雨雪量に応じて、例えば110〜140℃、120〜150℃、又は130〜160℃の範囲で、変化するよう制御される。110〜160℃の範囲で制御されてもよい。このとき、水Wは気化によって約3000倍に膨張する。なお、給水管9には、その内部を通過する水Wの温度を検出する温度センサー(図示せず)が取り付けられており、コンピューター8は、この温度センサーの出力に基づき、第1加熱装置10に流す電流を増減することにより、この水Wの温度をフィードバック制御するように構成されている。
【0031】
そして、この水蒸気Vは、第1加熱装置10から給気管12に供給される。このとき、水蒸気Vは、第2加熱装置14で急速に加熱されて例えば約230℃に昇温し、さらに高温高圧になる。加熱温度は、雨雪量に応じて、例えば150〜230℃、170〜250℃又は190〜300℃の範囲で、変化するよう制御される。150〜300℃の範囲で制御されてもよい。気体の流体抵抗は極めて小さく、瞬時に噴射装置に供給される。さらに、この高温高圧の水蒸気Vは、連結コード13を通って左右一対の噴射装置15に供給され、各噴射装置15の3つの噴射口(第1噴射口17a、第2噴射口17b、第3噴射口17c)から雨雪除去対象物としてのフロントウインドー25に向けて噴射される。なお、給気管12には、その内部を通過する水蒸気Vの温度を検出する温度センサー(図示せず)が取り付けられており、コンピューター8は、この温度センサーの出力に基づき、第2加熱装置14に流す電流を増減することにより、この水蒸気Vの温度をフィードバック制御するように構成されている。
【0032】
このとき、図2A図6に示すように、第1噴射口17aからは、フロントウインドー25の上方に高温高圧の水蒸気Vが直線状に噴射される。また、第2噴射口17bからは、高温高圧の水蒸気VがZ巻き(時計回り)の円錐螺旋状に噴射され、第3噴射口17cからは、高温高圧の水蒸気VがS巻き(反時計回り、つまり、第2噴射口17bとは逆向き)の円錐螺旋状に噴射される。ここで、円錐螺旋状とは、水蒸気Vの噴射距離が長くなるほど拡径する螺旋状(スパイラル)であることを意味する。
このように、2つの噴射口から噴出される螺旋噴射流の方向を逆にすることにより、2つの歯車が噛み合って逆方向にスムースに回転するように、2つの噴射流が共に前記歯車のように作用して雨雪を除去する。第2噴射口17bから、水蒸気VをS巻き(反時計回り)、第3噴射口17cから水蒸気VがZ巻き(時計回り)の円錐螺旋状に噴射すると、雨雪を左右に吹き飛ばす力が大きくなる。
【0033】
また、コンピューター8は、高温高圧の水蒸気Vが左右一対の噴射装置15から噴射されるのと同じタイミング(或いは、少し間を置いたタイミング)で、各サーボモータ19をそれぞれ駆動して、これらの噴射装置15を矢印M、N方向に揺動する。このとき、コンピューター8は、各噴射装置15の揺動角度(水蒸気Vの噴射方向)を適宜調整することにより、第2噴射口17bから噴射される水蒸気Vと、第3噴射口17cから噴射される水蒸気Vとが、相互に干渉しないようにする。
【0034】
すると、図6に示すように、高温高圧の水蒸気Vが左右一対の噴射装置15からフロントウインドー25に向けて噴射された状態で、これらの噴射装置15が矢印M、N方向に揺動される。これにより、高温高圧の水蒸気Vの流れでフロントウインドー25上の雨雪を切ることができる。したがって、この雨雪を高温高圧の水蒸気Vで蒸発させて除去することができるとともに、ウォッシャー液をフロントウインドー25に噴射させなくても、油分を溶かして油膜を取り除くことで、晴天時のようにクリアな視界を確保することができる。このように、スチームエアワイパー1では、フロントウインドー25上の雨雪を除去する際に、従来のエアワイパー(例えば、特許文献1参照)と違って、この雨雪を蒸発させることができる。しかも、高速風を発生させるための高価なエアコンプレッサが不要となり、スチームエアワイパー1を安価に製造することができる。これらの結果、機能および価格の両面で実用性に優れたスチームエアワイパー1を提供することが可能となる。
【0035】
しかも、各噴射装置15から高温高圧の水蒸気Vが噴射される際には、まず、ノズル17の上部に形成された第1噴射口17aからフロントウインドー25の上方に噴射される水蒸気Vにより、雨雪がフロントウインドー25のガラス面に付着するのを抑制する。次に、ノズル17の下部に形成された第2噴射口17bおよび第3噴射口17cから噴射される水蒸気Vにより、フロントウインドー25のガラス面に付着した雨雪を高温高圧で除去する。こうした2段階の動作により、雨雪を迅速かつ効率的に除去することが可能となる。
【0036】
なお、給気管12と左右一対の噴射装置15とを接続する連結コード13は可撓性を有するため、これらの噴射装置15を長期にわたって円滑に揺動することができる。
【0037】
また、このスチームエアワイパー1では、従来のブレード式のワイパーと異なり、フロントウインドー25の全面を掃くことができるとともに、除去能力の低下や雑音の発生を回避することが可能となる。さらに、ブレードの揺動に起因して雨天走行中の運転者の視界が妨げられる事態の発生を防止することもできる。これに加えて、スチームエアワイパー1は非接触式であるため、接触式であるブレード式のワイパーより耐久性が高い。
【0038】
また、第2噴射口17bから噴射される水蒸気Vと、第3噴射口17cから噴射される水蒸気Vとは、相互に干渉しないため、これらの水蒸気Vの威力を維持したまま噴射を継続することができる。その結果、たとえ大雨や大雪の中を走行する場合でも、その雨や雪をフロントウインドー25から吹き飛ばして運転者の視界を確保することが可能となる。
【0039】
さらに、第2噴射口17b、第3噴射口17cから噴射される水蒸気Vが円錐螺旋状であるため、フロントウインドー25のガラス面が複雑な曲面であっても、その全面を掃くことができる。
【0040】
また、四輪車20には、フロントウインドー25の左右2辺に左右一対のガイド部材27が取り付けられているので、スチームエアワイパー1で除去された雨雪が四輪車20の左右に飛び散る事態の発生を未然に防ぐことができる。
【0041】
また、それまで降っていた雨雪が降り止んだときには、運転者はスチームエアワイパー1の作動を停止させる。これに対応して、コンピューター8は、ポンプ7をOFFにする。すると、貯水タンク2から給水管9への水Wの供給が停止する。それに伴い、左右一対の噴射装置15からの水蒸気Vの噴射が程なく停止する。
【0042】
また、コンピューター8は、ポンプ7をOFFにするのと同じタイミングで、図6に想像線で示すように、左右一対の噴射装置15を適宜揺動して所定の退避位置に位置決めする。すると、これらの噴射装置15が水蒸気回収管28に連通するので、噴射装置15の3つの噴射口(第1噴射口17a、第2噴射口17b、第3噴射口17c)からフロントウインドー25に向けた水蒸気Vの噴射が中断する。したがって、その後は、ポンプ7のOFFとのタイムラグにより、たとえ第1加熱装置10及び/又は第2加熱装置14から水蒸気Vが給気管12を通って噴射装置15に供給されたとしても、その水蒸気Vは、水蒸気回収管28を通って四輪車20の車体の下方に導かれて安全に排出される。そのため、この四輪車20の近傍を自動車や自転車、歩行者が通過する場合にも、その自動車などに水蒸気Vを当ててしまう不都合を回避することができる。
【0043】
なお、左右一対の噴射装置15は、不使用時は、図6に想像線で示すように、所定の退避位置に位置決めされて水蒸気回収管28に格納されている。これにより、噴射装置15のノズル17から筒体16内に塵埃が入り込むことを防止することができる。
【0044】
また、貯水タンク2内の水Wに水垢が発生した場合には、キャップ21を取り外して貯水タンク2内を清掃した後、排水口22を開くことにより、貯水タンク2内の水Wを排出する。
【0045】
以上、スチームエアワイパー1の本来の使用法について説明したが、このスチームエアワイパー1には、その噴射装置15から高温高圧の水蒸気Vが噴射されることを利用して、ワイパーとしての本来の使用法のほかにも種々の活用法が考えられる。例えば、四輪車20の走行中にフロントウインドー25が曇った場合には、このスチームエアワイパー1を作動させることにより、フロントウインドー25を車外側から暖めて曇りを取り去ることができる。したがって、フロントウインドー25の車内側に温風を吹き付ける従来のデフロスターに比べて、フロントウインドー25の曇りを素早く取り去って、安全性を確保することができる。
【0046】
また、寒い朝、四輪車20のフロントウインドー25が凍ってしまった場合でも、このスチームエアワイパー1を作動させれば、フロントウインドー25上の霜を短時間で蒸発させて取り除くことができる。
【0047】
さらに、四輪車20を洗車する際には、水蒸気回収管28に可撓性のあるホース(図示せず)をつないだ後、図6に想像線で示すように、左右一対の噴射装置15が所定の退避位置に位置決めされた状態で、コンピューター8を介してポンプ7をONにする。すると、上述したとおり、貯水タンク2内の水Wが瞬時に高温高圧の水蒸気Vになって左右一対の噴射装置15から噴射される。さらに、この水蒸気Vは、水蒸気回収管28を通ってホースから吐出される。したがって、この水蒸気Vを使って四輪車20の車体を手軽に洗車することができる。
【0048】
なお、四輪車20を洗車する際には、水蒸気Vが人体に触れる恐れがある。しかし、この水蒸気Vは給気管12を通過する時点で約230℃であるため、水蒸気回収管28につながれたホースから吐出される時点では約230℃より低温になり、仮に水蒸気Vが人体に触れても、やけどするほどのことはないので、安心して洗車することができる。
【0049】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前述した実施形態に限るものではない。また、本実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0050】
例えば、上述した第1実施形態では、噴射装置15の第2噴射口17b、第3噴射口17cの内部に整流フィン18を取り付けることにより、水蒸気Vを円錐螺旋状に噴射する場合について説明したが、水蒸気Vを円錐螺旋状に噴射する機構は、これに限るわけではない。例えば、筒体16の内部に円柱状の回転子を回転自在に嵌着し、この回転子に通気孔を形成し、この回転子をモータで回転させつつ、通気孔から水蒸気Vを噴射することにより、水蒸気Vを円錐螺旋状に噴射することもできる。或いは、このモータに代えて、水蒸気Vの流れ(勢い)を利用して回転子を回転させてもよい。
【0051】
また、上述した第1実施形態では、2個の噴射装置15を備えたスチームエアワイパー1について説明した。しかし、噴射装置15の個数は特に限定されず、四輪車20のフロントウインドー25の形状や大きさ等の状況に応じて、1個または3個以上の噴射装置15を設けることもできる。
【0052】
また、上述した第1実施形態では、スチームエアワイパー1を四輪車20に搭載する際に、左右一対の噴射装置15をフロントウインドー25の下辺に取り付ける場合について説明したが、例えば、これらの噴射装置15の中間に既存のブレード式のワイパーを取り付けて、スチームエアワイパー1と併用することも可能である。
【0053】
また、上述した第1実施形態では、貯水タンク2に貯留された常温の水Wを加熱して水蒸気Vを作る場合について説明した。しかし、走行中の突然の降雨に素早く対応できるように、貯水タンク2に貯留された常温の水Wを例えば、約50〜90℃、60〜80℃、70〜90℃等(つまり、水Wが気化する温度より少し低い温度範囲)まで加熱し、その温度範囲で保温する保温タンク(図示せず)を設置しておき、この保温タンク内の水(湯)を加熱して短時間で水蒸気Vを作るようにしてもよい。保温温度又はその範囲も、雨雪量に応じて制御し又は切り替え可能とすることができる。
【0054】
また、上述した第1実施形態では、四輪車20の走行中および停車中に水Wを貯水タンク2に貯留する場合について説明したが、この貯水タンク2にオーバーフロー機構(図示せず)を付加すれば、余計な水Wの貯留によって四輪車20の総重量が無駄に増加する事態の発生を防ぐこともできる。
【0055】
また、上述した第1実施形態では、雨雪を貯水タンク2に取り込んで利用する場合について説明したが、この貯水タンク2は、密閉型でも開放型でもよい。密閉型の貯水タンク2を使用する場合には、所定の熱源を用いて貯水タンク2を弱く暖めておく対策をとれば、寒冷地や冬季の凍結による貯水タンク2の破裂にも対処することができる。一方、開放型の貯水タンク2を使用する場合には、貯水タンク2内の圧力を逃がすことができるので、このような対策をとる必要はない。なお、四輪車20が燃料電池車であれば、その排出水を有効に利用することができるので、貯水タンク2内の水量を確保するために集水器3の取込口31を斜め上向きに傾斜して配置する必要がなくなる。その結果、スチームエアワイパー1の設計の自由度を高めることが可能となる。
【0056】
また、上述した第1実施形態では、第1加熱装置10および第2加熱装置14として、誘導加熱方式のものを用いる場合について説明したが、水Wおよび水蒸気Vを急速に加熱できるものであれば、これ以外の方式のものを用いることもできる。
【0057】
また、上述した第1実施形態では、水蒸気回収管28が四輪車20の車体の下方(運転席の下方)に向けて開口している場合について説明したが、必ずしも運転席の下方に向けて開口している必要はない。例えば、四輪車20の駆動輪の前方の路面に向けて開口していてもよい。こうすれば、寒冷地などの雪道で四輪車20がスタックした場合に、高温高圧の水蒸気Vを水蒸気回収管28から駆動輪の前方の路面に向けて噴射して融雪することにより、駆動輪をスリップさせることなく四輪車20を発進することができる。
【0058】
また、上述した第1実施形態では、サーボモータ19で噴射装置15を駆動する場合について説明した。しかし、サーボモータ19以外の駆動手段(例えば、歯車、タイロッド、リンク機構など)で噴射装置15を駆動することも勿論できる。
【0059】
また、上述した第1実施形態では、左右一対の噴射装置15を円弧状に揺動する場合について説明した。しかし、噴射装置15の揺動は円弧状の動き(首振り運動)に限らず、水蒸気Vの噴射方向に交差する方向であれば、例えば、水平方向や垂直方向の動きでも構わない。
【0060】
さらに、上述した第1実施形態では、四輪車20のフロントウインドー25に本発明を適用した場合について説明した。しかし、四輪車20のフロントウインドー25以外のウインドー(リアウインドー、サイドウインドーなど)や、二輪車、三輪車の風防やフロントウインドー、或いは、鉄道車両(電車、汽車など)、船舶、航空機その他の乗り物のウインドーにも、本発明を同様に適用することができる。さらに、こうした乗り物に限らず、雨雪を除去することが望まれている対象物、すなわち雨雪除去対象物を有するものにも広く本発明を適用することができる。したがって、例えば、建物のウインドーガラスや屋根、外壁、展望用のガラスデッキ等に対しても、本発明を適用して雨雪を除去することが可能である。
【0061】
本発明に係るスチームエアワイパーシステムは、次の構成を有してもよい。
(1)噴射装置から高温高圧の水蒸気を雨雪除去対象物に向けて噴射した状態で、この水蒸気の流れがその噴射方向に交差する方向に前記雨雪除去対象物の表面に沿って移動するように前記噴射装置を揺動することにより、この雨雪除去対象物から雨雪をこの水蒸気で吹き飛ばして除去するように構成される。
(2)前記噴射装置は、第1噴射口を備え、この第1噴射口は、前記雨雪除去対象物の上方に高温高圧の水蒸気を噴射することにより、前記雨雪除去対象物に雨雪が付着するのを抑制してもよい。
(3)前記噴射装置は、第2噴射口および第3噴射口を備え、これら第2噴射口、第3噴射口は、いずれか一方から水蒸気をZ巻きの円錐螺旋状に噴射するとともに、他方から水蒸気をS巻きの円錐螺旋状に噴射し、これらの水蒸気が相互に干渉しないように構成されていてもよい。
(4)水を貯留する貯水タンクと、この貯水タンクに貯留された水を気化させて前記噴射装置に水蒸気を供給する給気手段と、を備えていてもよい。
(5)前記給気手段は、前記噴射装置に供給する水蒸気を200℃以上に加熱してもよい。
(6)前記貯水タンクに貯留された水を加熱して所定の温度範囲内で保温する保温タンクを備え、前記給気手段は、この保温タンク内の水を気化させて前記噴射装置に水蒸気を供給してもよい。
(7)前記噴射装置が所定の退避位置に位置決めされたときに、前記噴射装置から前記雨雪除去対象物に向けた水蒸気の噴射が中断するように構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1……スチームエアワイパー
2……貯水タンク
10……第1加熱装置
11……保温タンク
12……給気管
13……連結コード
14……第2加熱装置
15……噴射装置
17……ノズル
17a……第1噴射口
17b……第2噴射口
17c……第3噴射口
23……給気手段
25……フロントウインドー(雨雪除去対象物)
28……水蒸気回収管
V……水蒸気
W……水
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6