特許第6530007号(P6530007)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6530007担体無添加(177)Lu化合物を含有する放射性医薬品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6530007
(24)【登録日】2019年5月24日
(45)【発行日】2019年6月12日
(54)【発明の名称】担体無添加(177)Lu化合物を含有する放射性医薬品
(51)【国際特許分類】
   A61K 51/00 20060101AFI20190531BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20190531BHJP
【FI】
   A61K51/00 100
   A61P35/00
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-90065(P2017-90065)
(22)【出願日】2017年4月28日
(62)【分割の表示】特願2014-519460(P2014-519460)の分割
【原出願日】2012年4月12日
(65)【公開番号】特開2017-214355(P2017-214355A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2017年5月1日
(31)【優先権主張番号】102011051868.1
(32)【優先日】2011年7月15日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】511228698
【氏名又は名称】イーテーエム イゾトーペン テクノロジエン ミュンヘン アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(72)【発明者】
【氏名】マルクス, セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ハルフェンステラー, マルク
(72)【発明者】
【氏名】ツェルノスコフ, コンスタンティン
(72)【発明者】
【氏名】ニクラ, トゥオモ
【審査官】 大西 隆史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−223827(JP,A)
【文献】 特開2010−116415(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/140599(WO,A1)
【文献】 特表2003−500455(JP,A)
【文献】 Lebedev, Nikolai A. et al.,Applied Radiation and Isotopes,2000年,Vol. 53, Issue 3,p. 421-425
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00−51/12
A61K 31/00−33/44
A61P 1/00−33/44
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテチウム1mgあたり3.9TBqの177Luという比放射能を有すること、および177mLuを本質的に含まない担体無添加177Lu化合物を含有する放射性医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1および請求項10に記載する医薬用および/または診断用の本質的に担体無添加の高純度177Lu化合物の製造方法ならびに請求項12に記載の担体無添加177Lu化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性核種療法および放射性核種診断における臨床的基本アプローチが前途有望であることから、リアクター核種177Luに対する需要は世界的に増加しつつある。T1/2=6.71日の比較的短い半減期を有する低エネルギーβ放射体として、177Luは、小体積に多量のエネルギーを特異的に沈着させるための優れた媒体を構成する。これらの物理的性質は、主として、腫瘍学において、とりわけ腫瘍の処置および診断のために、放射免疫−放射性核種療法およびペプチド受容体放射性核種療法の形で使用される。
【0003】
一般的に知られているように、177Luは以下の核反応によって生成させることができる。
直接法:176Lu(n,γ)177Lu (1)
間接法:176Yb(n,γ)177Yb→177Lu (2)
【0004】
核反応(1)は176Luの中性子捕捉反応を構成し、これは最終結果として、担体添加177Lu(177Lu担体添加(177Lu carrier added)[177Lu c.a.])をもたらし、したがって比放射能がかなり低い形態にある限られた製品品質をもたらす。その結果、177Luによる生体分子のマーキングでは、単位量の生体分子あたりの結合放射能はかなり低くなる。これが、腫瘍表面上の限られた数の受容体では、低品位な治療結果または副作用につながる。176Luの照射では、医薬上および放射線防護上望ましくない持続性準安定放射性核種177mLu(T1/2=160.1日)も生成する。照射パラメータによっては、177mLuの割合が177Lu放射能の0.1%に達しうる。ヒトへの応用との関連において、生産すべき高い総放射能を考慮すると、そのような混入は重大な問題であるとみなすべきである。処置においては、この核種の長い半減期とLu同位体で処置された患者の腎排泄とにより、環境に177mLuが放出されるリスクの増大が持続する。したがって、病院での使用者は、持続性核種の残存量の安全な取扱いおよび処分という課題に直面することになり、この課題は、病院における通例の放射性廃棄物の貯蔵では解決されがたい。
【0005】
最初に述べたように、現在市場で入手することができる担体添加177Luには、担体無添加177Luとは対照的に、さまざまな欠点がある。それでもなお、今までは177Lu c.a.の方が入手がより容易であったことから、その欠点にもかかわらず、多くの病院で好ましく使用されている。
【0006】
現在市場で入手することができる177Luは基本的に3つの供給業者によって販売されている。どの供給業者も同じ経路によって、すなわち上記核反応(1)によって176Luから直接的に、177Luを生産している。
【0007】
これは上述の課題につながる。
【0008】
したがって、より魅力的であり、医薬的にも商業的にも有用であるが、技術的要求はより厳しくなる選択肢は、間接的核反応(2)による担体無添加177Luの生産である。無担体177Luを生産するためのかかる核反応には、例えば、高フラックス中性子源を使用することができる。176Ybを使った照射により、短寿命の放射性同位体177Yb(T1/2=1.9時間)が生成し、それが177Luに崩壊する。
【0009】
この場合、所望の核種177Luはターゲット核種176Ybの元素とは異なる元素の核種であるから、Yb核種の定量的な分離が可能であるとすれば、担体無添加の形態(177Lu無担体添加[177Lu n.c.a.])で、化学的に単離することができる。核種177Ybの崩壊によって177mLuが生じることはないので、放射性同位体純度および放射性核種純度が非常に高い177Luを生産することができる。
【0010】
しかし、このような戦略の選択における欠点は、Yb(マクロ)/177Lu(ミクロ)系を分離するために必要となる放射化学的方法である。目的核種とターゲット核種とはランタニド群内で隣り合う2つの元素であるから、それらの化学的類似性ゆえに、その分離は依然として非常に困難である。
【0011】
上で述べた分離という課題を解決するためのアプローチは特許US6,716,353B1に見いだされる。この特許には、高い比放射能を有する177Luを生産するために、上記式(2)による間接的方法を使ってイッテルビウムから177Lu n.c.a.を分離することが記載されている。その際、イッテルビウムは、中等度の濃度の鉱酸を利用して、まず、ジ−(2−エチルヘキシル)オルトリン酸(HDEHP)を抽出剤として含むLN樹脂(EichromのLn樹脂)に吸着される。US6,716,353B1の方法では、まず、中等度の濃度の塩酸を使って、LN樹脂が入っているクロマトグラフィーカラムからイッテルビウムを溶出させ、次に、より高濃度の塩酸を使って、177Luが得られる。
【0012】
微視的な量の177Luを巨視的な量のイッテルビウムから分離しなければならないという事実ゆえに、この先行技術の方法の欠点は、US6,716,353B1では、最初に、極端に過剰に存在する巨視的構成要素を溶出させることにあると考えられる。この抽出クロマトグラフィー系ではピークの末端でテーリングによるイッテルビウムの拡がりが起るので、相応の品質の177Lu n.c.a.を得るためにこの工程は数回繰り返されるが、この系では、無視できない量の176YbがLu溶出物中に残留することは避けられない。そのうえ、US6,716,353B1の先行技術では、MBq域の放射能量が得られるに過ぎない。US6,716,353B1に開示されている方法は抽出クロマトグラフィー法である。これは、カラム材の表面に抽出剤を吸着させることを意味し、それは当然、部分的には、所望の177Luと共に溶出するので、製品にはさらなる化学的混入が起ることになる。そのうえ、177Luの溶出には多量の濃塩酸が必要になるので、製品はその中に存在することになる。さらに、US6,716,353B1に記載の方法は、非常に時間がかかり、一つのカラムで16時間を超える工程時間を必要とする。また、繰返し段階が必要であることから、生産は数日にわたる。
【0013】
このように、177Lu核種の品質に関する極めて高い医薬上の要求が、製造工程を、そしてそれゆえにその実現を、より困難にしている。
【0014】
しかし、放射性核種177Luの応用の成功は、生産によって得られる核種の比放射能[Bq/mg]およびその純度によって決まる。対応する放射性医薬品の比放射能を可能な限り高くし、よってその適用量を最適にするには、比放射能の高い放射性核種が必要である。高い比放射能と純度が達成されない場合、それは、とりわけ、放射性医薬品の生産において、また放射性医薬品そのものの品質に対して、有害な影響をもたらしうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第6,716,353号明細書(US6,716,353B1)
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Hollemann−Wieberg著「Lehrbuch der Anorganischen Chemie」(無機化学の教科書)(発行所:Walter de Gruyter、ベルリン−ニューヨーク、第102版、2007)の1932〜1933頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
それゆえに、最も近い先行技術であるUS6,716,353B1から、客観的に技術的な本発明の目的は、医薬用途に工業的規模で利用することができる担体無添加の高純度177Lu(担体無添加[n.c.a.]177Lu)を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的は、方法に関して言えば、請求項1および10の特徴によって解決され、製品については、請求項12の特徴によって解決される。
【0019】
特に本発明は、熱中性子を照射した176Yb化合物から治療用および/または診断用の本質的に担体無添加の高純度177Lu化合物を製造する方法であって、質量比が約1:102〜1:1010である核種177Luと176Ybとの混合物を本質的に含有する中性子照射の最終生成物が原材料として使用され、水に不溶性である原材料が、適宜、鉱酸および/または高温を使って可溶性の形態に変換され、かつ以下の段階を含む方法に関する:
a)鉱酸に溶解された、177Luと176Ybとを約1:102〜1:1010の質量比で含有する原材料を、陽イオン交換体が充填された第1カラムにローディングし;NH4Cl溶液を使って陽イオン交換体のプロトンをアンモニウムイオンと交換し;第1カラムの陽イオン交換体を水で洗浄する段階;
b)第1カラムの出口を、同様に陽イオン交換体が充填された第2カラムの入口に連結する段階;
c)第1および第2カラムから177Lu化合物が溶出するように、第1カラムの入口において100%のH2Oから出発して0.2Mのキレート剤に至る、水と、α−ヒドロキシイソブチレート[HIBA]、クエン酸、シトレート、酪酸、ブチレート、EDTA、EGTAおよびアンモニウムイオンからなる群より選択されるキレート剤との勾配を適用する段階;
d)177Lu化合物の溶出を認識するために、第2カラムの出口において放射能線量を決定し;第2カラムの出口からの第1の177Lu溶出物を容器に収集し;177Luイオンとの錯体形成に関してキレート剤が失活するように、キレート剤をプロトン化する段階;
e)段階d)の酸性177Lu溶出物を最終カラムの入口に連続的に搬送することによって、陽イオン交換体が充填された最終カラムにローディングし;約0.1M未満の濃度の希鉱酸でキレート剤を洗い出し;約0.01〜2.5Mの範囲にあるさまざまな濃度の鉱酸で最終カラムの陽イオン交換体を洗浄することによって177Lu溶液から微量の他の金属イオンを除去する段階;
f)約1M〜12Mの高濃度の鉱酸を使って最終カラムから177Luイオンを溶出させ;高純度177Lu溶出物を気化ユニットに収集し、気化によって鉱酸を除去する段階。
【0020】
下記の実施形態において一例として説明するとおり、記載の実施形態は、キレート剤としてのα−ヒドロキシイソブチレートと上述のカラム系とを使った分離方法を繰り返すことにより、何度でも繰り返すことができる。
【0021】
本発明の方法の代替的一実施形態は、熱中性子を照射した176Yb化合物から医薬用の本質的に担体無添加の高純度177Lu化合物を製造する方法であって、質量比が約1:102〜1:1010である核種177Luと176Ybとの混合物を本質的に含有する中性子照射の最終生成物が原材料として使用され、水に不溶性である原材料が、鉱酸および/または高温を使って可溶性の形態に変換され、かつ以下の段階を含む方法である:
a)鉱酸に溶解された、177Luと176Ybとを約1:102〜1:1010の質量比で含有する原材料を、陽イオン交換体が充填された第1カラムにローディングし;NH4Cl溶液を使って陽イオン交換体のプロトンをアンモニウムイオンと交換し;第1カラムの陽イオン交換体を水で洗浄する段階;
b)第1カラムの出口を、同様に陽イオン交換体が充填された第2カラムの入口に連結する段階;
c)第1カラムの入口において100%のH2Oから出発して0.2Mのキレート剤に至る、水と、α−ヒドロキシイソブチレート[HIBA]、クエン酸、シトレート、酪酸、ブチレート、EDTA、EGTAおよびアンモニウムイオンからなる群より選択されるキレート剤との勾配を適用する段階;
d)177Lu化合物の溶出を認識するために、第2カラムの出口において放射能線量を決定し;第2カラムの出口からの第1の177Lu溶出物を容器に収集し;177Luイオンとの錯体形成に関してキレート剤が失活するように、キレート剤をプロトン化する段階;
e)陽イオン交換体が充填された第3カラムの入口に段階d)の酸性177Lu溶出物を連続的に搬送し(ここでは、陽イオン交換体が、酸性177Lu溶出物のローディングにより、プロトン化された形態で存在する);NH4Cl溶液を使って陽イオン交換体のプロトンをアンモニウムイオンと交換し;第3カラムの陽イオン交換体を水で洗浄する段階;
f)第3カラムの出口を、陽イオン交換体が充填された第4カラムの入口に連結する段階;
g)第3カラムの入口において100%のH2Oから出発して0.2Mのキレート剤に至る、水と、α−ヒドロキシイソブチレート[HIBA]、クエン酸、シトレート、酪酸、ブチレート、EDTA、EGTAおよびアンモニウムイオンからなる群より選択されるキレート剤との勾配を適用する段階;
h)177Lu化合物の溶出を認識するために、第4カラムの出口において放射能線量を決定し;第4カラムの出口からの第2の177Lu溶出物を容器に収集し;177Luイオンとの錯体形成に関してキレート剤が失活するように、キレート剤をプロトン化する段階;
i)段階h)の酸性177Lu溶出物を最終カラムの入口に連続的に搬送することによって、陽イオン交換体が充填された最終カラムにローディングし;希鉱酸でキレート剤を洗い出し;約0.01〜2.5Mの範囲にあるさまざまな濃度の鉱酸で最終カラムの陽イオン交換体を洗浄することによって177Lu溶液から微量の他の金属イオンを除去する段階;
j)約1M〜約12Mの濃鉱酸を使って最終カラムから177Luイオンを溶出させ;高純度177Lu溶出物を気化ユニットに収集し、気化によって鉱酸を除去する段階。
【0022】
Hollemann−Wieberg著「Lehrbuch der Anorganischen Chemie」(無機化学の教科書)(発行所:Walter de Gruyter、ベルリン−ニューヨーク、第102版、2007)の1932〜1933頁に記載の先行技術は、陽イオン交換と錯化とに基づいてランタニド、特に三価ランタニドを分離する基本原理を、古くから開示しているが、これが有効であるのは、類似する量のランタニドが存在する場合に限られ、最高純度の所望のランタニド陽イオンを100万倍質量過剰の別のランタニドから単離する必要があるような質量比には有効でない。そのうえ、Hollemann−Wiebergの先行技術でも、特に図393から、LuとYbとの間の選択性は不十分でしかないとわかる。というのも、ランタニドEu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの混合物においてα−ヒドロキシイソ酪酸アンモニウムを使ってイオン交換樹脂Dowex−50からランタニドの溶出を行なうと、どちらのピークも著しくオーバーラップするからである。
【0023】
先行技術に記載の方法とは対照的に、本発明は、工業的に妥当な量の高純度担体無添加177Luを製造することを初めて可能にするものであり、これにより、例えば放射性医薬品を製造するための生体分子へのカップリングなどといった、さらなる加工を直接行なうことができる。これは特に、得られた177Lu製品に対する純度および無菌性に関する要求があるという事実、および本方法がEU−GMPガイドラインに完全に適合しているという事実によるものである。
【0024】
本発明の製造方法の特別な利点は、イッテルビウムをグラム量で加工しうることである。これにより、1回の生産作業で数テラベクレル(TBq)の177Lu n.c.a.を生産することが可能になる。したがって本製造工程は、その化学純度および放射化学純度ゆえに核医学および核診断法における使用に適しているミリグラム量の放射性核種177Lu n.c.a.の生産を、初めて可能にするものである。
【0025】
本発明の方法のさらなる利点は、最終製品が得られるまでを、約10時間以内で行なうことができるという点にある。
【0026】
これにはいくつかの要因がある。一つには、多くの工程が同時に進行するので、好ましい実施形態において使用されるプレカラム系VS1およびVS2(図1参照)によって、先の分離がまだ進行している間であっても、後続の各分離工程を開始することができる。さらにまた、177Luに関して高い分離係数および短い保持時間が得られるように、ポンプの勾配を最適化することができる。
【0027】
プレカラムなどを使用すれば、それによって、例えば分離にとっては基本的に最適ではないであろう酸性溶液または酸性化された溶液を陽イオン交換体にローディングすることが可能になる。したがって、気化または中和などの複雑な工程段階を、少なくともかなりの程度、省略することができる。そのうえ、付加的な気化段階によって攻撃的な蒸気が発生することがないので、生産プラントの腐蝕も回避される。加えて、混入のリスクが明確に低下する。プレカラムを洗浄することにより、混入物を系から除去し、必要であれば、適切に処分または再利用することができる。
【0028】
プレカラムの使用は、一般に、Ybからの所望の177Luの分離を改良し、さらなるカラムを使った最終精製段階により、微量の他の金属でさえそれによって177Lu製品から除去されうるので、品質がさらに向上する。そのうえ、本発明の方法により、既に無菌状態にある最終製品であって、毒素も事実上含まず、さらなる放射性医薬品加工(例えばタンパク質へのカップリング)にそのまま使用することができるものを提供することも可能になる。
【0029】
そのようなプレカラムおよび分離カラムの寸法決定は、幾何学的寸法および互いの寸法比に関して、当業者には良く知られている。
【0030】
好ましくは、本発明の方法は、以下の代替的実施形態に従って行なわれる:請求項1の段階d)と段階f)の間に、以下の段階がさらに行なわれる:
d.1)陽イオン交換体が充填された第3カラムの入口に段階d)の177Lu溶出物を連続的に搬送すると同時に酸性化し(ここでは、陽イオン交換体が、酸性177Lu溶出物のローディングにより、プロトン化された形態で存在する);NH4Cl溶液を使って陽イオン交換体のプロトンをアンモニウムイオンと交換し;第3カラムの陽イオン交換体を水で洗浄する段階;
d.2)第3カラムの出口を、陽イオン交換体が充填された第4カラムの入口に連結する段階;
d.3)第3および第4カラムから177Lu化合物が溶出するように、第3カラムの入口において100%のH2Oから出発して0.2Mのキレート剤に至る、水と、α−ヒドロキシイソブチレート[HIBA]、クエン酸、シトレート、酪酸、ブチレート、EDTA、EGTAおよびアンモニウムイオンからなる群より選択されるキレート剤との勾配を適用する段階;
d.4)177Lu化合物の溶出を認識するために、第4カラムの出口において放射能線量を決定し;第3カラムの出口からの第2の177Lu溶出物を容器に収集し;177Luイオンとの錯体形成に関してキレート剤が失活するように、キレート剤をプロトン化する段階。
【0031】
上述のアプローチの利点は、工程方向にそれぞれ逐次的に接続された2対のカラムにおいて、それぞれ一つのプレカラムと一つの分離カラムとが設けられる点にある。プレカラムと分離カラムとの2つ目の対を通った後に、2倍精製された177Lu溶出物は、次いで最終分離カラムに付されて、さらなる微量の金属をさらに遊離させる。さらにまた、プレカラム/分離カラムの概念には、元来それ自体は分離にはあまり適していないであろう酸性溶液および酸性化された溶液のカラム適用が、それによって可能になるという利点もある。実際のシャープな分離は分離カラム、すなわち例えば第2および/または第4カラムだけで行なわれる。さらなる利点は、より小さなプレカラムへのより迅速なローディングが可能であることによる、工程時間の短縮である。
【0032】
もちろん、必要に応じて3対以上のプレカラム/分離カラムも使用できることは、当業者にはよく知られていることである。
【0033】
使用したYb材料の再利用と工程時間の短縮に関して言えば、段階d)およびd.4)における177Lu化合物の溶出後に、陽イオン交換体からYbイオンが溶出するように、第1および第2カラムと第3および第4カラムとを、より高濃度のキレート剤を使って洗浄すれば有利であり、本質的に176Ybイオンを含有する得られたYb溶出物は、それらを177Luの製造原材料として再使用する目的で別個に収集される。
【0034】
177Lu溶出物を酸性化するには、HNO3、HCl、H2SO4、HFのような鉱酸、ならびに例えば酢酸などの有機酸が適切であることが判明している。
【0035】
177Lu化合物が水に不溶性の176Yb酸化物から得られることを考えると、例えば1M〜12MのHNO3または他の酸化性酸を使用することによって、これらの酸化物を水溶性の形態に変換することが可能であり、好ましい。
【0036】
典型的には、陽イオン交換体へのローディングは、0.01M〜2Mの酸濃度のHNO3、HClまたは他の無機および/もしくは有機酸を使って行なわれる。
【0037】
ポリスチレンに基づくまたは他の有機ポリマーに基づくマクロポーラスおよびゲル様陽イオン交換樹脂ならびにシリケートに基づく陽イオン交換樹脂からなる群より選択される陽イオン交換体は、とりわけ適切であることが判明している。
【0038】
先行技術とは異なり、好ましいことに、グラム量のYb原材料を使用することができ、ミリグラム量までの177Luを生産することができる。
【0039】
典型的には、収量は数TBqの177Luであり、約3.9TBqの177Lu/mg−ルテチウムの比放射能を得ることができ、これは4TBqの177Lu/mg−177Luという理論上の物理的限界に近い。
【0040】
放射線防護上の理由から、そしてまた薬事法上の理由から、本方法は、EU−GMPの規制に従って少なくともクリーンルームクラスCのホットセルにおいて行なわれる。
【0041】
担体無添加177Lu製品の医薬品質を保証し、製造認可を取得するために、本発明の方法を実施するためのクロマトグラフィー装置は、クリーンルームの環境に移された。そのうえ、ホットセルの使用により、本発明の方法を半自動工程または全自動工程の形で行なうことも可能になる。
【0042】
最後に、本発明の方法は、請求項1〜11の方法の少なくとも一つによって得られる担体無添加177Lu化合物(177Lu n.c.a)をもたらす。
【0043】
担体無添加177Lu化合物の特別な利点は、それが、そのままで、即ち更なる精製および/または滅菌を必要とせずに、放射性医薬品用途に適していることである。
【0044】
本発明の177Lu化合物を使えば、1μgのペプチドもしくはポリペプチドまたは他の生体分子につき400MBqの177Luを上回るマーキング比に達することができる。
【0045】
本発明の担体無添加177Lu化合物のさらなる利点は、それを、その製造の数週間後でさえ、依然として、ペプチド、ポリペプチド、抗体または他の生体分子のマーキングに使用できることである。これは、とりわけ、その高い比放射能ならびにその放射性同位体純度および化学純度によるものである。
【0046】
本発明の方法により、工業的な量での担体無添加(n.c.a.)177Luの定常的生産を初めて確立することができた。
【0047】
さらなる利点および特徴は、以下の実施例の説明および図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】本発明の方法を実施するための例示的な装置の概略的構造を示す図である。
図2図1のカラムS1の出口で記録された177Luとイッテルビウムとの分離のカラムクロマトグラムを示す図である。
図3図1のカラムS2の出口で記録された177Luとイッテルビウムとの分離のカラムクロマトグラムを示す図である。
図4】本発明によって得られる担体無添加177Lu最終製品(n.c.a.177Lu)のSF−ICP質量スペクトルを、先行技術によるc.a.177Luと比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下に、図1を参照して、本発明の方法を実施するための装置の例示的構成を説明する。
【0050】
放射線防護上の理由から、本工程は、鉛および/またはプレキシガラスによって遮蔽された環境において行なわれる。これはホットセルであってもよいし、別の適切なシステムであってもよい。製品が医薬剤として使用されるという事実を考慮すると、環境は、医薬品製造の要求(EUの医薬品の製造管理および品質管理に関する基準、GMP)に従って、対応する清浄度クラスに分類されるべきである。この場合、ホットセルにおける周囲環境は、クラスC以上に適合する必要がある。
【0051】
ホットセルは、環境に対して適切な二重ドア系を有し、そこに、生産用の補助系、例えばHPLCポンプ、シリンジポンプまたは他の搬送系と、制御系とが収容される。
【0052】
この系は、細管と弁によって互いに接続された、いくつかの個別構成要素、例えばクロマトグラフィーカラム(VS1、S1、VS2、S2およびS3)、フラスコ(F1〜F6)およびポンプ(P1〜P7)などを有する。
【0053】
ポンプは、その機能に応じて、真空ポンプ、シリンジポンプ、HPLCポンプ、蠕動ポンプとして構成されるか、他の作動原理に従って構成される。この例では、ポンプ(P1)および(P2)はHPLCポンプとして構成される。これらは、異なる濃度(0.01M〜10M)および流量(0.05ml/分〜100ml/分)のH2O、HIBAおよびNH4Clを搬送する。ポンプ(P3)、(P4)、(P5)、(P6)は、異なる濃度(0.01M〜10M)および流量(0.05ml/分〜100ml/分)のさらなる試薬類、例えばHCl、HNO3、H2Oおよび空気などを搬送する。好ましい構成では、ポンプP3〜P6がシリンジポンプまたはプランジャポンプである。しかしそれらは、さらなる弁によって、シリンジポンプの構成でポンプ系を形成するように実装されてもよい。ポンプ7(P7)は、系にさまざまな陰圧(1mbar〜1000mbar)を適用することができるように構成された真空ポンプである。
【0054】
(N2)と印された構成要素(これ自体には番号が付されていない)は不活性ガス源、好ましくは窒素およびアルゴンであり、これにより、系の構成に応じて0.1bar〜5barまたはそれを上回る圧力を、系に適用することができる。
【0055】
構成要素(1)は、アンプルを破断すると共に、酸化イッテルビウムを硝酸イッテルビウムに変換するように構成される。この例では、2つの別個の機能が、機能の統合として構成されている。
【0056】
構成要素(2)は、ルテチウム溶液を乾固するための気化ユニットである。構成要素(3)は、最終製品を収容するための系、例えばガラス製バイアルなどである。機能統合の範囲において、構成要素(2)および(3)は、一つの構造的構成要素として構成させることができる。
【0057】
この例では全ての弁が各方向に切り替え可能であるように描かれている。弁の位置は、その数が最小になるように選択される。平均的な当業者には図1から自明であるように、他の弁構成も、とりわけ接合または分離機能用に、容易に考えられる。
【0058】
フラスコ(F1)、(F2)、(F3)、(F4)、(F5)、(F6)は溶液を受けるための容器である。好ましいのは、本発明の方法の要件に適合した容積を有するガラス製のフラスコである。特に、より大きな容積の場合は、好ましい実施形態はプラスチック製容器である。
【0059】
好ましい実施形態に例示的に示すカラム系は、いわゆるプレカラム(VS1)および(VS2)を含み、それらを通してローディングが行なわれる。この例において実際の分離カラムを形成する主カラム(S1)および(S2)は、各パートナーカラム(VS1)と(S1)または(VS2)と(S2)をカラム系に接続することができるように、プレカラムに取付けられる。
【0060】
本発明を実施するための例示的装置の全流れスキームを、実際の構成もホットセル内での構成も考慮せずに、図1に示す。好ましい実施形態は、後続の工程、すなわち顧客のために意図した量の177Luの充填が、全て一つのデバイスで可能になるように、別個の遮蔽デバイスへの、構成要素(2)および(3)の配置である。合理的理由から、構成要素(2)および(3)は一つの系に統合される。さらにもう一つの好ましい実施形態は、全工程が一つのユニット内で行なわれ、製品を受けるためのバイアル(3)だけは医薬的により精密な環境に配置されるべく別個の遮蔽ユニットに配置される。
【0061】
工程を管理するために、この例では、カラム(S1)、(S2)および(S3)の末端にそれぞれ配置された放射能センサーを使って分離工程をモニタリングする。
【実施例】
【0062】
本発明は、リアクター照射された176Ybから177Lu n.c.a.が抽出される製造工程である。この目的のために、照射されたアンプルをアンプルカップにおいて開封し、変換容器(F1)に移す。176Ybは、不溶性酸化物として存在しうる。照射中に生じた177Luを抽出するには、原材料を可溶性の形態に変換する必要がある。本実施例では、1M〜12MのHNO3を使用し、必要であれば加熱することによって、これを達成することができる。
【0063】
0.01M〜1.5MのHNO3という、より低い酸濃度への希釈によって、その溶液を、第1カラムとしてのプレカラム系(VS1)にローディングすることができる。ローディングにより、プレカラム系の、ポリスチレンに基づくマクロポーラス陽イオン交換体であるカラム材料は、分離にとってはネガティブなH+型(プロトン化型)に変換される。NH4Clの使用により、プレカラム系のカラム材料はそのNH4+型に変換される。次に、プレカラム系VS1を水で洗浄し、第2カラムとしての分離カラムS1に接続する。
【0064】
分離は、ポンプP1を使って、高流量(10〜50ml/分)で行なわれる。この目的のために、VS1/S1系における分離に最適化された、水と、本実施例においてキレート剤として使用されるα−ヒドロキシ−イソブチレート(HIBA)との勾配を、100%H2Oから0.2MのHIBAまでに基づいて設定し、プレカラム系VS1と分離カラムS1とによって分離を行なう。分離は、線量率センサーを使ってモニタリングされる。177LuがカラムS1から溶出したら直ちに、溶出物を収集フラスコF2に収集する。
【0065】
177Luとイッテルビウムとの分離を図2にクロマトグラムとして図示する。縦座標は、カラムに適用された177Luとイッテルビウムの溶出%量をそれぞれ示し、横軸は、保持時間を分の単位で示している。イッテルビウムの大きなピーク上昇は、イッテルビウムを妥当な時間内に許容できる体積で得ることができるように、ルテチウムピークの極大のすぐ後に、高濃度のHIBAへのシフトがなされたという事実によるものである。
【0066】
カラムS1の溶出物にまだ含まれているキレート剤、本実施例ではHIBAを、酸の添加によってプロトン化することで不活性にする。177Luを収集し終えた後に、より高濃度のHIBAの使用によって第1および第2カラムからイッテルビウムを溶出させ、再利用する目的で別途収集する。
【0067】
F2に酸を添加することにより、S1の溶出物を第2プレカラム系VS2に流すことができる。この実施例では、さらなる溶出物をまだ収集している間に、溶出物を、窒素圧によって、第3カラムとしてのプレカラム系VS2に適用する。その際、フラスコF2への酸の添加が、定期的間隔で、または連続的に、必要になる。ローディングに際して、系VS2のカラム材料は、ここでも、そのH+型に変換される。望ましくないH+型を、分離にとって好ましいNH4+型に変換するために、VS2系をNH4Clで洗浄し、次に水で洗浄する。次に、プレカラム系VS2を第4カラムとしての分離カラムS2に接続する。
【0068】
さらなる分離は、HPLCポンプP2を使って中流量(1〜10ml/分)で行なわれる。この目的のために、上述のVS2/S2系における分離に最適化された水とHIBAとの勾配を設定し、プレカラム系VS2と分離カラムS2とによる分離を行なう。
【0069】
分離は、線量率センサーを使ってモニタリングされる。177LuがカラムS2から溶出したら直ちに、溶出物を収集フラスコF3に収集する。溶出物にまだ含まれているキレート剤HIBAを、酸の添加によってプロトン化することで、不活性にする。177Luを収集し終えた後に、より高濃度のHIBAの使用によってイッテルビウムをカラムVS2およびS2から溶出させ、再利用する目的で別途収集する。
【0070】
図3にカラムS2でのカラムクロマトグラムの一区間を示す。ここでも、線量率を、分の単位で表した保持時間に対してプロットしている。図2と同様に、図3のイッテルビウムピーク(ここでは非常に小さいピークに過ぎなくなっている)も、ルテチウムピークの極大(約115分)のすぐ後に高濃度のHIBAへのシフトを行なったので、ルテチウムピークのすぐ後(約135分の保持時間)であるように見えるにすぎない。そうしなければ、分離時のイッテルビウムは、数時間後まで現われなかったであろうし、それは工程を不当に遅らせることになる。というのも、当然ながら、イッテルビウム、特に176Ybを再利用することは有用だからである。
【0071】
カラムS2の溶出物は、収集フラスコF3から、第5カラムとしての最終カラムS3にローディングされる。この目的のために、収集がまだ行なわれている間に、溶出物を、窒素圧によって、収集フラスコF3からカラムS3に適用する。その際、フラスコF3への酸の添加が定期的間隔で必要になる。最終分離カラムS3へのローディングを終了した後、希酸で洗浄することによってカラムからHIBAを遊離させる。さまざまな濃度の酸でカラムS3を選択的にフラッシュすることにより、それぞれ微量の他の金属および他の金属の不純物のさらなる分離が可能になる。
【0072】
カラムS3での最終精製後に、高濃度の酸によって、177Luを気化ユニット2中に溶出させる。酸を気化によって除去する。この段階は、同時に、最終製品を滅菌する役割も果たす。
【0073】
ここに、177Lu n.c.a.を、所望の溶媒に、所望の濃度で吸収させることができるようになった。得られた放射能の最終決定と品質検査の後、生産された177Luを、顧客の要求に応じて、バイアル3に充填する。
【0074】
典型的には、本方法によって得られる担体無添加177Lu化合物は、SF−ICP質量スペクトルが177の原子質量にしかピークを示さないことを特徴とするのに対し、c.a.177Luは、本質的に、175、176および177の原子質量単位に3つの主要ピークを示す。そのような相違を、図4の質量スペクトルに示す。縦座標は、0から12までの相対頻度の尺度で、同位体分布を示す。図4の横軸には原子質量を示す。なお、使用した質量分析法は、結合融合プラズマによるセクターフィールド質量分析であった[セクターフィールド誘導結合プラズマ−質量分析、SF−ICP−MS]。
図1
図2
図3
図4