【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的は、方法に関して言えば、請求項1および10の特徴によって解決され、製品については、請求項12の特徴によって解決される。
【0019】
特に本発明は、熱中性子を照射した
176Yb化合物から治療用および/または診断用の本質的に担体無添加の高純度
177Lu化合物を製造する方法であって、質量比が約1:10
2〜1:10
10である核種
177Luと
176Ybとの混合物を本質的に含有する中性子照射の最終生成物が原材料として使用され、水に不溶性である原材料が、適宜、鉱酸および/または高温を使って可溶性の形態に変換され、かつ以下の段階を含む方法に関する:
a)鉱酸に溶解された、
177Luと
176Ybとを約1:10
2〜1:10
10の質量比で含有する原材料を、陽イオン交換体が充填された第1カラムにローディングし;NH
4Cl溶液を使って陽イオン交換体のプロトンをアンモニウムイオンと交換し;第1カラムの陽イオン交換体を水で洗浄する段階;
b)第1カラムの出口を、同様に陽イオン交換体が充填された第2カラムの入口に連結する段階;
c)第1および第2カラムから
177Lu化合物が溶出するように、第1カラムの入口において100%のH
2Oから出発して0.2Mのキレート剤に至る、水と、α−ヒドロキシイソブチレート[HIBA]、クエン酸、シトレート、酪酸、ブチレート、EDTA、EGTAおよびアンモニウムイオンからなる群より選択されるキレート剤との勾配を適用する段階;
d)
177Lu化合物の溶出を認識するために、第2カラムの出口において放射能線量を決定し;第2カラムの出口からの第1の
177Lu溶出物を容器に収集し;
177Luイオンとの錯体形成に関してキレート剤が失活するように、キレート剤をプロトン化する段階;
e)段階d)の酸性
177Lu溶出物を最終カラムの入口に連続的に搬送することによって、陽イオン交換体が充填された最終カラムにローディングし;約0.1M未満の濃度の希鉱酸でキレート剤を洗い出し;約0.01〜2.5Mの範囲にあるさまざまな濃度の鉱酸で最終カラムの陽イオン交換体を洗浄することによって
177Lu溶液から微量の他の金属イオンを除去する段階;
f)約1M〜12Mの高濃度の鉱酸を使って最終カラムから
177Luイオンを溶出させ;高純度
177Lu溶出物を気化ユニットに収集し、気化によって鉱酸を除去する段階。
【0020】
下記の実施形態において一例として説明するとおり、記載の実施形態は、キレート剤としてのα−ヒドロキシイソブチレートと上述のカラム系とを使った分離方法を繰り返すことにより、何度でも繰り返すことができる。
【0021】
本発明の方法の代替的一実施形態は、熱中性子を照射した
176Yb化合物から医薬用の本質的に担体無添加の高純度
177Lu化合物を製造する方法であって、質量比が約1:10
2〜1:10
10である核種
177Luと
176Ybとの混合物を本質的に含有する中性子照射の最終生成物が原材料として使用され、水に不溶性である原材料が、鉱酸および/または高温を使って可溶性の形態に変換され、かつ以下の段階を含む方法である:
a)鉱酸に溶解された、
177Luと
176Ybとを約1:10
2〜1:10
10の質量比で含有する原材料を、陽イオン交換体が充填された第1カラムにローディングし;NH
4Cl溶液を使って陽イオン交換体のプロトンをアンモニウムイオンと交換し;第1カラムの陽イオン交換体を水で洗浄する段階;
b)第1カラムの出口を、同様に陽イオン交換体が充填された第2カラムの入口に連結する段階;
c)第1カラムの入口において100%のH
2Oから出発して0.2Mのキレート剤に至る、水と、α−ヒドロキシイソブチレート[HIBA]、クエン酸、シトレート、酪酸、ブチレート、EDTA、EGTAおよびアンモニウムイオンからなる群より選択されるキレート剤との勾配を適用する段階;
d)
177Lu化合物の溶出を認識するために、第2カラムの出口において放射能線量を決定し;第2カラムの出口からの第1の
177Lu溶出物を容器に収集し;
177Luイオンとの錯体形成に関してキレート剤が失活するように、キレート剤をプロトン化する段階;
e)陽イオン交換体が充填された第3カラムの入口に段階d)の酸性
177Lu溶出物を連続的に搬送し(ここでは、陽イオン交換体が、酸性
177Lu溶出物のローディングにより、プロトン化された形態で存在する);NH
4Cl溶液を使って陽イオン交換体のプロトンをアンモニウムイオンと交換し;第3カラムの陽イオン交換体を水で洗浄する段階;
f)第3カラムの出口を、陽イオン交換体が充填された第4カラムの入口に連結する段階;
g)第3カラムの入口において100%のH
2Oから出発して0.2Mのキレート剤に至る、水と、α−ヒドロキシイソブチレート[HIBA]、クエン酸、シトレート、酪酸、ブチレート、EDTA、EGTAおよびアンモニウムイオンからなる群より選択されるキレート剤との勾配を適用する段階;
h)
177Lu化合物の溶出を認識するために、第4カラムの出口において放射能線量を決定し;第4カラムの出口からの第2の
177Lu溶出物を容器に収集し;
177Luイオンとの錯体形成に関してキレート剤が失活するように、キレート剤をプロトン化する段階;
i)段階h)の酸性
177Lu溶出物を最終カラムの入口に連続的に搬送することによって、陽イオン交換体が充填された最終カラムにローディングし;希鉱酸でキレート剤を洗い出し;約0.01〜2.5Mの範囲にあるさまざまな濃度の鉱酸で最終カラムの陽イオン交換体を洗浄することによって
177Lu溶液から微量の他の金属イオンを除去する段階;
j)約1M〜約12Mの濃鉱酸を使って最終カラムから
177Luイオンを溶出させ;高純度
177Lu溶出物を気化ユニットに収集し、気化によって鉱酸を除去する段階。
【0022】
Hollemann−Wieberg著「Lehrbuch der Anorganischen Chemie」(無機化学の教科書)(発行所:Walter de Gruyter、ベルリン−ニューヨーク、第102版、2007)の1932〜1933頁に記載の先行技術は、陽イオン交換と錯化とに基づいてランタニド、特に三価ランタニドを分離する基本原理を、古くから開示しているが、これが有効であるのは、類似する量のランタニドが存在する場合に限られ、最高純度の所望のランタニド陽イオンを100万倍質量過剰の別のランタニドから単離する必要があるような質量比には有効でない。そのうえ、Hollemann−Wiebergの先行技術でも、特に
図393から、LuとYbとの間の選択性は不十分でしかないとわかる。というのも、ランタニドEu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの混合物においてα−ヒドロキシイソ酪酸アンモニウムを使ってイオン交換樹脂Dowex−50からランタニドの溶出を行なうと、どちらのピークも著しくオーバーラップするからである。
【0023】
先行技術に記載の方法とは対照的に、本発明は、工業的に妥当な量の高純度担体無添加
177Luを製造することを初めて可能にするものであり、これにより、例えば放射性医薬品を製造するための生体分子へのカップリングなどといった、さらなる加工を直接行なうことができる。これは特に、得られた
177Lu製品に対する純度および無菌性に関する要求があるという事実、および本方法がEU−GMPガイドラインに完全に適合しているという事実によるものである。
【0024】
本発明の製造方法の特別な利点は、イッテルビウムをグラム量で加工しうることである。これにより、1回の生産作業で数テラベクレル(TBq)の
177Lu n.c.a.を生産することが可能になる。したがって本製造工程は、その化学純度および放射化学純度ゆえに核医学および核診断法における使用に適しているミリグラム量の放射性核種
177Lu n.c.a.の生産を、初めて可能にするものである。
【0025】
本発明の方法のさらなる利点は、最終製品が得られるまでを、約10時間以内で行なうことができるという点にある。
【0026】
これにはいくつかの要因がある。一つには、多くの工程が同時に進行するので、好ましい実施形態において使用されるプレカラム系VS1およびVS2(
図1参照)によって、先の分離がまだ進行している間であっても、後続の各分離工程を開始することができる。さらにまた、
177Luに関して高い分離係数および短い保持時間が得られるように、ポンプの勾配を最適化することができる。
【0027】
プレカラムなどを使用すれば、それによって、例えば分離にとっては基本的に最適ではないであろう酸性溶液または酸性化された溶液を陽イオン交換体にローディングすることが可能になる。したがって、気化または中和などの複雑な工程段階を、少なくともかなりの程度、省略することができる。そのうえ、付加的な気化段階によって攻撃的な蒸気が発生することがないので、生産プラントの腐蝕も回避される。加えて、混入のリスクが明確に低下する。プレカラムを洗浄することにより、混入物を系から除去し、必要であれば、適切に処分または再利用することができる。
【0028】
プレカラムの使用は、一般に、Ybからの所望の
177Luの分離を改良し、さらなるカラムを使った最終精製段階により、微量の他の金属でさえそれによって
177Lu製品から除去されうるので、品質がさらに向上する。そのうえ、本発明の方法により、既に無菌状態にある最終製品であって、毒素も事実上含まず、さらなる放射性医薬品加工(例えばタンパク質へのカップリング)にそのまま使用することができるものを提供することも可能になる。
【0029】
そのようなプレカラムおよび分離カラムの寸法決定は、幾何学的寸法および互いの寸法比に関して、当業者には良く知られている。
【0030】
好ましくは、本発明の方法は、以下の代替的実施形態に従って行なわれる:請求項1の段階d)と段階f)の間に、以下の段階がさらに行なわれる:
d.1)陽イオン交換体が充填された第3カラムの入口に段階d)の
177Lu溶出物を連続的に搬送すると同時に酸性化し(ここでは、陽イオン交換体が、酸性
177Lu溶出物のローディングにより、プロトン化された形態で存在する);NH
4Cl溶液を使って陽イオン交換体のプロトンをアンモニウムイオンと交換し;第3カラムの陽イオン交換体を水で洗浄する段階;
d.2)第3カラムの出口を、陽イオン交換体が充填された第4カラムの入口に連結する段階;
d.3)第3および第4カラムから
177Lu化合物が溶出するように、第3カラムの入口において100%のH
2Oから出発して0.2Mのキレート剤に至る、水と、α−ヒドロキシイソブチレート[HIBA]、クエン酸、シトレート、酪酸、ブチレート、EDTA、EGTAおよびアンモニウムイオンからなる群より選択されるキレート剤との勾配を適用する段階;
d.4)
177Lu化合物の溶出を認識するために、第4カラムの出口において放射能線量を決定し;第3カラムの出口からの第2の
177Lu溶出物を容器に収集し;
177Luイオンとの錯体形成に関してキレート剤が失活するように、キレート剤をプロトン化する段階。
【0031】
上述のアプローチの利点は、工程方向にそれぞれ逐次的に接続された2対のカラムにおいて、それぞれ一つのプレカラムと一つの分離カラムとが設けられる点にある。プレカラムと分離カラムとの2つ目の対を通った後に、2倍精製された
177Lu溶出物は、次いで最終分離カラムに付されて、さらなる微量の金属をさらに遊離させる。さらにまた、プレカラム/分離カラムの概念には、元来それ自体は分離にはあまり適していないであろう酸性溶液および酸性化された溶液のカラム適用が、それによって可能になるという利点もある。実際のシャープな分離は分離カラム、すなわち例えば第2および/または第4カラムだけで行なわれる。さらなる利点は、より小さなプレカラムへのより迅速なローディングが可能であることによる、工程時間の短縮である。
【0032】
もちろん、必要に応じて3対以上のプレカラム/分離カラムも使用できることは、当業者にはよく知られていることである。
【0033】
使用したYb材料の再利用と工程時間の短縮に関して言えば、段階d)およびd.4)における
177Lu化合物の溶出後に、陽イオン交換体からYbイオンが溶出するように、第1および第2カラムと第3および第4カラムとを、より高濃度のキレート剤を使って洗浄すれば有利であり、本質的に
176Ybイオンを含有する得られたYb溶出物は、それらを
177Luの製造原材料として再使用する目的で別個に収集される。
【0034】
177Lu溶出物を酸性化するには、HNO
3、HCl、H
2SO
4、HFのような鉱酸、ならびに例えば酢酸などの有機酸が適切であることが判明している。
【0035】
177Lu化合物が水に不溶性の
176Yb酸化物から得られることを考えると、例えば1M〜12MのHNO
3または他の酸化性酸を使用することによって、これらの酸化物を水溶性の形態に変換することが可能であり、好ましい。
【0036】
典型的には、陽イオン交換体へのローディングは、0.01M〜2Mの酸濃度のHNO
3、HClまたは他の無機および/もしくは有機酸を使って行なわれる。
【0037】
ポリスチレンに基づくまたは他の有機ポリマーに基づくマクロポーラスおよびゲル様陽イオン交換樹脂ならびにシリケートに基づく陽イオン交換樹脂からなる群より選択される陽イオン交換体は、とりわけ適切であることが判明している。
【0038】
先行技術とは異なり、好ましいことに、グラム量のYb原材料を使用することができ、ミリグラム量までの
177Luを生産することができる。
【0039】
典型的には、収量は数TBqの
177Luであり、約3.9TBqの
177Lu/mg−ルテチウムの比放射能を得ることができ、これは4TBqの
177Lu/mg−
177Luという理論上の物理的限界に近い。
【0040】
放射線防護上の理由から、そしてまた薬事法上の理由から、本方法は、EU−GMPの規制に従って少なくともクリーンルームクラスCのホットセルにおいて行なわれる。
【0041】
担体無添加
177Lu製品の医薬品質を保証し、製造認可を取得するために、本発明の方法を実施するためのクロマトグラフィー装置は、クリーンルームの環境に移された。そのうえ、ホットセルの使用により、本発明の方法を半自動工程または全自動工程の形で行なうことも可能になる。
【0042】
最後に、本発明の方法は、請求項1〜11の方法の少なくとも一つによって得られる担体無添加
177Lu化合物(
177Lu n.c.a)をもたらす。
【0043】
担体無添加
177Lu化合物の特別な利点は、それが、そのままで、即ち更なる精製および/または滅菌を必要とせずに、放射性医薬品用途に適していることである。
【0044】
本発明の
177Lu化合物を使えば、1μgのペプチドもしくはポリペプチドまたは他の生体分子につき400MBqの
177Luを上回るマーキング比に達することができる。
【0045】
本発明の担体無添加
177Lu化合物のさらなる利点は、それを、その製造の数週間後でさえ、依然として、ペプチド、ポリペプチド、抗体または他の生体分子のマーキングに使用できることである。これは、とりわけ、その高い比放射能ならびにその放射性同位体純度および化学純度によるものである。
【0046】
本発明の方法により、工業的な量での担体無添加(n.c.a.)
177Luの定常的生産を初めて確立することができた。
【0047】
さらなる利点および特徴は、以下の実施例の説明および図面から明らかになるであろう。