特許第6530010号(P6530010)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6530010
(24)【登録日】2019年5月24日
(45)【発行日】2019年6月12日
(54)【発明の名称】複列転動体収容バンド及び運動案内装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 29/06 20060101AFI20190531BHJP
【FI】
   F16C29/06
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-101423(P2017-101423)
(22)【出願日】2017年5月23日
(65)【公開番号】特開2018-197559(P2018-197559A)
(43)【公開日】2018年12月13日
【審査請求日】2018年12月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112140
【弁理士】
【氏名又は名称】塩島 利之
(74)【代理人】
【識別番号】100119297
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 正男
(72)【発明者】
【氏名】高橋 徹
(72)【発明者】
【氏名】濱田 喜大
(72)【発明者】
【氏名】山越 竜一
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−055670(JP,A)
【文献】 特開2008−249043(JP,A)
【文献】 実開平2−65713(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3列の転動体列がバンドに並べられており、
前記バンドの長さ方向の少なくとも一部において、第1転動体列の第1転動体に対して第2転動体列の第2転動体が前記バンドの前記長さ方向に実質的にP/nずれており、前記第2転動体に対して第3転動体列の第3転動体が前記長さ方向に実質的にP/nずれており、前記第1転動体に対して前記第3転動体が前記長さ方向に実質的に2P/nずれている複列転動体収容バンド。
ここで、Pは前記第1転動体列の第1転動体ピッチ、nは前記転動体列の3以上の列数。
【請求項2】
前記第1転動体列の第1転動体ピッチ、前記第2転動体列の第2転動体ピッチ、及び前記第3転動体列の第3転動体ピッチが、互いに実質的に等しいことを特徴とする請求項1に記載の複列転動体収容バンド。
【請求項3】
前記バンドの幅方向に順番に前記第1転動体列、前記第2転動体列、及び前記第3転動体列が配置されることを特徴とする請求項1又は2に記載の複列転動体収容バンド。
【請求項4】
前記転動体列の列数が3又は4であることを特徴とする請求項1ないしのいずれか1項に記載の複列転動体収容バンド。
【請求項5】
案内レールと、
前記案内レールに相対移動可能に組み付けられるキャリッジと、
前記キャリッジの循環路に組み込まれる請求項1ないしのいずれか一項に記載の複列転動体収容バンドと、を備え、
運動案内装置を水平面に配置した状態の前記キャリッジの正面視において、前記キャリッジの左右に上下2つの、合計4つの前記循環路が設けられ、
各循環路に前記複列転動体収容バンドが組み込まれることを特徴とする運動案内装置。
【請求項6】
案内レールと、
前記案内レールに相対移動可能に組み付けられるキャリッジと、
前記キャリッジの循環路に組み込まれる複列転動体収容バンドと、を備え、
運動案内装置を水平面に配置した状態の前記キャリッジの正面視において、前記キャリッジの左右に上下2つの、合計4つの前記循環路が設けられ、
各循環路に前記複列転動体収容バンドが組み込まれ、
2列の転動体列が前記複列転動体収容バンドに並べられており、
前記複列転動体収容バンドの長さ方向の少なくとも一部において、第1転動体列の第1転動体に対して第2転動体列の第2転動体が、前記第1転動体間にスペーサを介在させ、前記第2転動体間にスペーサを介在させ、且つ前記第1転動体と前記第2転動体とを非接触にした状態で、前記複列転動体収容バンドの前記長さ方向に実質的にP/2ずれている運動案内装置。
ここで、Pは前記第1転動体列の第1転動体ピッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動案内装置のキャリッジの循環路に組み込まれる複列転動体収容バンド及び運動案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運動案内装置は、ボール、ローラ等の転動体の転がり運動を利用して、テーブル等の可動体の運動を案内する。運動案内装置は、案内レールと、案内レールに沿って相対移動するキャリッジと、を備える。案内レールとキャリッジとの間には、ボール、ローラ等の複数の転動体が転がり運動可能に介在する。キャリッジには、転動体を循環させる循環路が設けられる。案内レールに沿ってキャリッジが相対移動すると、転動体が循環路を循環する。
【0003】
案内レールとキャリッジとの間を転がる転動体は、同一方向に転がる。進行方向の前後の転動体が擦れ合って、転動体の円滑な転がりを妨げるのを防止するために、転動体間にスペーサを介在させ、スペーサをバンドで一連に連結した転動体収容バンドが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−249043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
転動体の転がり運動を利用する転がり案内には、静圧案内、すなわち案内面に油等の流体を供給して可動体を浮上させ、流体の低粘性を利用して可動体を案内する方式に比べて、案内の剛性が高いという長所がある。このため、近年、精密加工機、高精度マシニングセンタ、半導体製造装置等の機械でも、静圧案内に代わって転がり案内が用いられつつある。このような機械に転がり案内装置を用いるにあたって、可動体をいかに高精度に案内するかが課題になってくる。
【0006】
転動体の径を小さくし、案内レールとキャリッジとの間の転動体の数を増加させれば、転動体を疑似的に静圧案内の油膜とみなすことができ、案内の高精度化を図ることができる。しかし、転動体の径を小さくするのには、製作上の限界がある。
【0007】
そこで、本発明は、案内の高精度化を図ることができる複列転動体収容バンド、及びこの複列転動体収容バンドが組み込まれた運動案内装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、少なくとも3列の転動体列がバンドに並べられており、前記バンドの長さ方向の少なくとも一部において、第1転動体列の第1転動体に対して第2転動体列の第2転動体が前記バンドの前記長さ方向に実質的にP/nずれており、前記第2転動体に対して第3転動体列の第3転動体が前記長さ方向に実質的にP/nずれており、前記第1転動体に対して前記第3転動体が前記長さ方向に実質的に2P/nずれている複列転動体収容バンドである。ここで、Pは前記第1転動体列の第1転動体ピッチ、nは前記転動体列の3以上の列数。
【0009】
本発明の他の態様は、案内レールと、前記案内レールに相対移動可能に組み付けられるキャリッジと、前記キャリッジの循環路に組み込まれる複列転動体収容バンドと、を備え、運動案内装置を水平面に配置した状態の前記キャリッジの正面視において、前記キャリッジの左右に上下2つの、合計4つの前記循環路が設けられ、各循環路に前記複列転動体収容バンドが組み込まれ、2列の転動体列が前記複列転動体収容バンドに並べられており、前記複列転動体収容バンドの長さ方向の少なくとも一部において、第1転動体列の第1転動体に対して第2転動体列の第2転動体が、前記第1転動体間にスペーサを介在させ、前記第2転動体間にスペーサを介在させ、且つ前記第1転動体と前記第2転動体とを非接触にした状態で、前記複列転動体収容バンドの前記長さ方向に実質的にP/2ずれている運動案内装置である。ここで、Pは前記第1転動体列の第1転動体ピッチ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、バンドの幅方向視において、各転動体列の転動体が完全には重ならないので、あたかもキャリッジのウェービングの低減に寄与する転動体の数が増加したとみなすことができる。したがって、キャリッジのウェービングの低減、ひいては案内の高精度化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施形態の運動案内装置の断面図である。
図2図1のII-II線断面図である。
図3】本発明の第1の実施形態のボールリテーナの4面図である(図3(a)は平面図、図3(b)は正面図、図3(c)は底面図、図3(d)は左側面図)。
図4】本実施形態のボールリテーナの拡大平面図である。
図5】本実施形態のボールリテーナの拡大正面図である。
図6】ウェービングの発生原理を説明する図である。
図7】本実施形態のボールリテーナの変形例の平面図である。
図8】本発明の第2の実施形態のボールリテーナの4面図である(図8(a)は平面図、図8(b)は正面図、図8(c)は底面図、図8(d)は左側面図)。
図9】本実施形態のボールリテーナの拡大平面図である。
図10】本実施形態のボールリテーナの拡大正面図である。
図11】本実施形態のボールリテーナの変形例の平面図である。
図12】本発明の第2の実施形態の運動案内装置の斜視図(一部断面図を含む)である。
図13】本実施形態の運動案内装置に組み込まれるリテーナを示す図である(図13(a)は平面図、図13(b)は正面図)。
図14】解析で使用したリテーナの平面図である(図14(a)が比較例1、図14(b)が比較例2、図14(c)が本発明例)。
図15】ウェービングの解析結果を示すグラフである(図15(a)がラジアル方向のウェービングを示し、図15(b)がピッチング方向のウェービングを示す)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施形態の複列転動体収容バンドを説明する。ただし、本発明の複列転動体収容バンドは種々の形態で具体化することができ、本明細書に記載される実施形態に限定されるものではない。本実施形態は、明細書の開示を十分にすることによって、当業者が発明の範囲を十分に理解できるようにする意図をもって提供されるものである。
(第1の実施形態の複列転動体収容バンド、第1の実施形態の運動案内装置)
【0013】
図1及び図2は、本発明の第1の実施形態の複列転動体収容バンドとしてのボールリテーナ11を組み込んだ運動案内装置1を示す。図1は、案内レール2に直交する平面で切断した運動案内装置1の断面図である。図2は、図1のII-II線断面図である。
【0014】
なお、図1に示す第1の実施形態の運動案内装置1と図12に示す第2の実施形態の運動案内装置41とは、ボールリテーナ11に3列のボール列が設けられるかボールリテーナ42に2列のボール列が設けられるかで相違するものの、案内レール2及びキャリッジ3の基本構造は略同一である。図1の第1の実施形態の運動案内装置1を説明するにあたって、図12も参照しつつ説明する。また、説明の便宜上、運動案内装置1を水平面に配置し、運動案内装置1を正面視したときの方向、すなわち図1図12の上下、左右、前後を用いて運動案内装置1の構成を説明する。もちろん、運動案内装置1の配置はこれに限られるものではない。
【0015】
図1に示すように、運動案内装置1は、案内レール2と、案内レール2に相対移動可能に組み付けられるキャリッジ3と、を備える。キャリッジ3の左右には、上下2つのトラック状の循環路4が設けられる(図12参照)。各循環路4には、ボールリテーナ11が収容される。
【0016】
案内レール2は前後方向に長い。案内レール2の左右には上下2つの、合計4つの転動体転走溝としてのボール転走溝5が形成される。ボール転走溝5の断面形状は、3つの円弧2a,2a,2aを組み合わせた形状である。3つの円弧2a,2a,2aは、ボール6の半径よりも僅かに大きな半径を持つ。案内レール2には、案内レール2をベース等に取り付けるための通し孔2bが開けられる。
【0017】
図2に示すように、キャリッジ3は、キャリッジ本体7と、キャリッジ本体7の相対移動方向の両端面に取り付けられるインナープレート8と、キャリッジ本体7の両端面にインナープレート8を覆うように取り付けられるエンドプレート9と、を備える(図12も参照)。
【0018】
図1に示すように、キャリッジ本体7は、断面視において逆U字状であり、案内レール2の上面に対向する中央部7aと、案内レール2の側面に対向する左右の袖部7bと、を有する。キャリッジ本体7の袖部7bには、案内レール2のボール転走溝5に対向する転動体転走溝としての負荷ボール転走溝10が形成される。負荷ボール転走溝10の断面形状は、3つの円弧7c,7c,7cを組み合わせた形状である。3つの円弧7c,7c,7cは、ボール6の半径よりも僅かに大きな半径を持つ。
【0019】
図2に示すように、各循環路4は、直線状の負荷路C1と、負荷路C1と略平行な直線状の戻し路C2と、負荷路C1と戻し路C2とを接続するU字状のターン路C3と、を備える。
【0020】
負荷路C1は、キャリッジ本体7の負荷ボール転走溝10と案内レール2のボール転走溝5との間に形成される。図1に示すように、キャリッジ本体7の袖部7bには、負荷ボール転走溝10と平行に3つの円弧を組み合わせた形状の貫通孔12が形成される。貫通孔12には、戻し路C2を形成し、貫通孔12に形状を合わせた戻し路構成部材13が挿入される。戻し路C2の断面形状は、ボール6の直径よりも僅かに大きな直径を持ち、互いに重なる3つの円を基礎とする。
【0021】
図2に示すように、ターン路C3は、インナープレート8とエンドプレート9との間に形成される。インナープレート8は、正面視において逆U字状であり、案内レール2の上面に対向する中央部8aと、案内レール2の側面に対向する左右一対の袖部8bと、を有する(図12参照)。インナープレート8の袖部8bには、ターン路C3の内周側が形成される。エンドプレート9も、正面視において逆U字状であり、案内レール2の上面に対向する中央部9aと、案内レール2の側面に対向する左右一対の袖部9bと、を有する(図12参照)。エンドプレート9には、ターン路C3の外周側が形成される。
【0022】
図3は、本実施形態のボールリテーナ11の4面図を示す。図3(a)は平面図、図3(b)は正面図、図3(c)は底面図、図3(d)は左側面図である。背面図は正面図と同一であり、右側面図は左側面図と同一である。なお、以下のボールリテーナ11の説明において、図3(a)に示す幅方向及び長さ方向、図3(b)に示す厚さ方向を用いて、ボールリテーナ11の構成を説明する。
【0023】
図3(a)に示すように、ボールリテーナ11のバンド15には、3列のボール列17,18,19が並べられる。ボール列は、幅方向の一端から他端に向かって順番に第1ボール列17、第2ボール列18、第3ボール列19である。各ボール列17,18,19の各ボール17a,18a,19a間には、略短円柱状のスペーサ20が介在していて、各ボール列17,18,19のボールピッチは一定に保たれる。スペーサ20の両端部には、第1ないし第3ボール17a,18a,19aの形状に合わせた球面状凹部が形成される。第1ボール列17の第1ボール17aの直径、第2ボール列18の第2ボール18aの直径、及び第3ボール列19の第3ボール19aの直径は、互いに等しい。第1ボール列17のボールピッチ、第2ボール列18のボールピッチ、第3ボール列19のボールピッチも、互いに等しい。
【0024】
図3(a)に示すように、第1ボール列17の各第1ボール17aに対して第2ボール列18の各第2ボール18aは、バンド15の長さ方向にずれている。各第1ボール17a及び各第2ボール18aに対して第3ボール列19の各第3ボール19aは、バンド15の長さ方向にずれている。言い換えれば、バンド15の長さ方向に最も近接する第1ボール17a、第2ボール18a、第3ボール19aの位置が、互いに長さ方向にずれている。
【0025】
図3(b)に示すように、幅方向視(言い換えれば正面視)において、各第1ボール17a、各第2ボール18a、各第3ボール19aが完全に重なることはない(図5も参照)。ただし、各第1ボール17aの一部、各第2ボール18aの一部、及び各第3ボール19aの一部は、互いに重なる。
【0026】
図3(a)に示すように、バンド15は、平面視で横長長方形状に形成される。バンド15には、3列のボール列17,18,19を収容するための3列の円形の開口部列15a,15b,15cが形成される。3列の開口部列15a,15b,15cの開口部間には、3列のスペーサ列20a,20b,20cが設けられる。第1スペーサ列20aの各第1スペーサ20に対して第2スペーサ列20bの各第2スペーサ20がバンド15の長さ方向にずれている。第1スペーサ列20aの各第1スペーサ20及び第2スペーサ列20bの各第2スペーサ20に対して第3スペーサ列20cの各第3スペーサ20がバンド15の長さ方向にずれている。スペーサ20とバンド15とは一体に樹脂成形されていて、3列のスペーサ列20a,20b,20cはバンド15によって一連に連結される。トラック状の循環路4を循環できるように、バンド15は可撓性を持つ。
【0027】
バンド15は、3列のボール列17,18,19及び3列のスペーサ列20a,20b,20cによって4つに区画される。すなわち、第1ボール列17から幅方向の外側に突出するサイドバンド21と、第1ボール列17と第2ボール列18との間の波状の第1中間バンド22と、第2ボール列18と第3ボール列19との間の波状の第2中間バンド23と、第3ボール列19から幅方向の外側に突出するサイドバンド24と、に区画される。第1中間バンド22によって第1ボール17aと第2ボール18aとは非接触になる。第2中間バンド23によって第2ボール18aと第3ボール19aとは非接触になる。第1ボール列17と第2ボール列18との間の間隔は、第2ボール列18と第3ボール列19との間隔に等しい。
【0028】
バンド15の長さ方向の両端部は、階段状に形成される。循環路4には1本又は複数本のボールリテーナ11が組み込まれる。1本のボールリテーナ11の両端部を繋げたとき、又は隣り合うボールリテーナ11を繋げたときに、繋ぎ目でも第1ボール列17のボールピッチ、第2ボール列18のボールピッチ、第3ボール列19のボールピッチが略一定になるように、バンド15の両端部は相補的な階段状に形成される。
【0029】
図4は、ボールリテーナ11の拡大平面図を示す。各第1ボール17aに対して各第2ボール18aは、バンド15の長さ方向(より正確にいえば長さ方向の一方向、すなわち図4の右方向)にP/3ずれている。Pは第1ボール列17のボールピッチである。同様に各第2ボール18aに対して各第3ボール19aはバンド15の長さ方向にP/3ずれている。このため、図5の正面図に示すように、幅方向視において、完全に重なるボール6は無く、バンド15の長さ方向に第1ボール17a、第2ボール18a、第3ボール19aがP/3の周期で順番に現れる。
【0030】
各第1ボール17aに対して各第2ボール18aを長さ方向にずらし、各第2ボール18aに対して各第3ボール19aをずらすことで、キャリッジ3のウェービングを低減できる。以下にこの理由を説明する。ウェービングとは、キャリッジ3がストロークをするときにキャリッジ3とボール6の相対位置が変化するため、それに伴いキャリッジ3内の有効ボールの数や力のバランスが変化し、微小なラジアル方向の変位やピッチング方向の傾きが生ずることをいう。
【0031】
図6は、ウェービングの発生原理を説明する図である。2は案内レール、3はキャリッジ、1−8は案内レール2とキャリッジ3との間の負荷路を転がるボールである。Stはキャリッジ3のストローク量、Iは有効ボールの数、Pはボールピッチ、白抜きの矢印A1はキャリッジ3に働く荷重、矢印A2はキャリッジ3のラジアル方向への変位、矢印A3はキャリッジ3のピッチング方向(時計方向)への傾き、矢印A4はキャリッジ3のピッチング方向(反時計方向)への傾きである。
【0032】
S1からS5は、キャリッジ3が右方向にストロークするときの状態を示す。キャリッジ3の右側のStはキャリッジ3のストローク量を表す。Iは有効ボールの数を表す。キャリッジ3の右方向の移動に伴って、ボール1−8も転がりながら右方向に移動する。ボール1−8の移動量は、キャリッジ3の移動量の1/2である。
【0033】
St=0であるS1のとき、キャリッジ3の中心3cを境に左右それぞれに4つのボールがある。ボール1−8のうち、斜線を付したボール2−7がキャリッジ3に働く荷重を受ける有効ボールである。キャリッジ3の中心3cを境に左右それぞれに荷重を受ける等しい数の、ここでは3つの有効ボール2−4,5−7が存在するので、キャリッジ3はピッチング方向に傾くことはない。ただし、有効ボール2−7が荷重を受けると、有効ボール2−7が圧縮され、矢印A2で示すように、キャリッジ3はラジアル下方向に変位する。なお、キャリッジ3の両端部にはクラウニング3dが施されていて、ボール1,8は荷重を受けていない。
【0034】
St=0.5PであるS2のとき、S1のときと同様に、有効ボール2−7がキャリッジ3に働く荷重を受けるので、キャリッジ3はラジアル下方向に変位したままである。S2のとき、キャリッジ3の中心3cよりも左側の有効ボール5−7がキャリッジ3の中心よりも右側の有効ボール2−4よりもキャリッジ3の中心から僅かに離れる。このため、有効ボール2−7の反力によるモーメントバランスがとれなくなり、キャリッジ3は矢印A3で示すようにピッチング方向(時計方向)に僅かに傾く。
【0035】
St=1.0PであるS3のとき、ボール1が有効ボールに変わり、有効ボールの数Iが7になる。有効ボールの数Iが6から7に増えるので、矢印A2で示すように、キャリッジ3のラジアル下方向への変位が少なくなる。有効ボール1−7はキャリッジ3の中心3cを境に左右対称に存在するので、キャリッジ3はピッチング方向に傾いていない。
【0036】
St=1.5PであるS4のとき、有効ボールであったボール7が荷重を受けないボール7に変わり、有効ボールの数Iが6になる。このため、矢印A2で示すように、キャリッジ3のラジアル下方向への変位はS3のときよりも大きくなる。このとき、キャリッジ3の中心3cよりも右側の有効ボール1−3がキャリッジ3の中心3cよりも左側の有効ボール4−6よりもキャリッジ3の中心から僅かに離れる。有効ボール1−6の反力によるモーメントバランスがとれなくなり、矢印A4で示すように、キャリッジ3はピッチング方向(反時計方向)に僅かに傾く。
【0037】
St=2.0PであるS5のとき、キャリッジ3はS1の初期状態に戻る。このように、キャリッジ3は、2kDaの周期で微小なラジアル方向の変位やピッチング方向の傾きを繰り返す。
【0038】
キャリッジ3のラジアル方向の変位やピッチング方向の傾きは、有効ボールの数が多ければ多いほど、例えば有効ボールの数が6から7に変化する場合よりも、有効ボールの数が18から19に変化する場合の方が小さい。本実施形態のように、負荷路に3列のボール列17,18,19を配置し、各第1ボール17aに対して各第2ボール18aを長さ方向にずらし、各第2ボール18aに対して各第3ボール19aをずらすことで、同一の負荷路C1の長さであるにも関わらず、あたかもウェービングの低減に寄与する有効ボールの数が増加したとみなすことができる。したがって、ウェービングの低減、ひいては運動案内装置1の案内の高精度化を図ることができる。
【0039】
また、ボール列17,18,19が3列のとき、各第1ボール17aに対して各第2ボール18aを長さ方向にP/3ずらし、各第2ボール18aに対して各第3ボール19aをP/3ずらすので、第1ボール17a、第2ボール18a、第3ボール19aが重なることなく等ピッチで負荷路C1に現れ、かつ等ピッチで負荷路C1に進入する。このため、よりウェービングを低減することができる。同様にボール列がn列のとき、P/nずつずらすことで、よりウェービングを低減することができる。
【0040】
さらに、第1ボール列17のボールピッチ、第2ボール列18のボールピッチ、及び第3ボール列19のボールピッチを等しくするので、負荷路C1の全長に渡って、第1ボール17a、第2ボール18a、第3ボール19aが重なることなく等ピッチで現れる。このため、よりウェービングを低減することができる。
【0041】
バンド15の幅方向に順番に第1ボール列17、第2ボール列18、及び第3ボール列19を配置するので、U字状のターン路C3において、バンド15の先端部が幅方向の一端部(図4の下端部)から他端部(図4の上端部)に向かって徐々に湾曲する。このため、ターン路C3でバンド15を円滑に湾曲させることができる。
【0042】
運動案内装置1のキャリッジ3には、上下方向及び左右方向の荷重を受けられるように四つの負荷路C1が設けられる。各負荷路C1に3列のボール列17,18,19を配置し、上記のように各ボール17a,18a,19aをずらすことで、各負荷路C1に小径のボールを多数配置したとみなすことができ、運動案内装置1の案内の高精度化と高剛性化とを両立できる。
【0043】
図7は、第1の実施形態のボールリテーナ11の変形例を示す。第1の実施形態では、図7(a)に示すように、ボールリテーナ11の幅方向の一端部(図7(a)の下端部)から他端部(図7(a)の上端部)に向かって順番に第1ないし第3ボール列17,18,19が配置されている。これを図7(b)に示すように、第1ボール列17、第3ボール列19、第2ボール列18の順番で配置することもできる。図7(c)に示すように、第2ボール列18、第1ボール列17、第3ボール列19の順番で配置することもできる。図7(d)に示すように、第3ボール列19、第1ボール列17、第2ボール列18の順番で配置することもできる。図7(e)に示すように、第2ボール列18、第3ボール列19、第1ボール列17の順番で配置することもできる。図7(f)に示すように、第3ボール列19、第2ボール列18、第1ボール列17の順番で配置することもできる。いずれの場合でも、各第1ボール17aに対して各第2ボール18aは長さ方向にP/3ずれていて、各第2ボール18aに対して各第3ボール19aは長さ方向にP/3ずれている。ボールリテーナ11の裏表を区別する場合、第1ないし第3ボール列17,18,19の配置パターンは3!通りあり、ボールリテーナ11の裏表を区別しない場合、第1ないし第3ボール列17,18,19の配置パターンは3!/2通りある。
(第2の実施形態のボールリテーナ)
【0044】
図8は、本発明の第2の実施形態のボールリテーナ31を示す。この実施形態では、図8(a)に示すように、ボールリテーナ31のバンド32には、4列のボール列33−36が並べられる。4列のボール列33−36は、幅方向の一端から他端に向かって順番に第1ボール列33、第2ボール列34、第3ボール列35、第4ボール列36である。隣り合うボール列33−36間の幅方向の距離は、全て等しい。各ボール列33−36のボール間には、スペーサ37が介在していて、各ボール列33−36のボールピッチは一定に保たれる。バンド32の両端部は、互いに相補的な4段の階段状に形成される。
【0045】
図9は、ボールリテーナ31の拡大平面図を示す。各第1ボール33aに対して各第2ボール34aは、バンド32の長さ方向にP/4ずれている。Pは第1ボール列33のボールピッチである。同様に各第2ボール34aに対して各第3ボール35aはバンド32の長さ方向にP/4ずれていて、各第3ボール35aに対して各第4ボール36aはバンド32の長さ方向にP/4ずれている。このため、図10に示すように、幅方向視において、完全に重なるボールは無く、バンド32の長さ方向に第1ボール33a、第2ボール34a、第3ボール35a、第4ボール36aがP/4の周期で順番に現れる。このように4列のボール列33−36を配置することで、3列のボール列17−19を配置する場合に比べて、有効ボールの数を4/3倍に増やすことができ、よりウェービングを低減することができる。
【0046】
図11は、第2の実施形態のボールリテーナ31の変形例を示す。第1ないし第4ボール列33−36の配置は図9に示すものに限られることはない。図11には、ボールリテーナ31の幅方向の一端から他端に向かって、第1ボール列33、第4ボール列36、第2ボール列34、第3ボール列35を配置した例を示す。ボールリテーナ31の裏表を区別する場合、第1ないし第4ボール列33−36の配置パターンは4!通りあり、ボールリテーナ31の裏表を区別しない場合、第1ないし第4ボール列33−36の配置パターンは4!/2通りある。
(第2の実施形態の運動案内装置)
【0047】
図12は、本発明の第2の実施形態の運動案内装置41を示す。第2の実施形態の運動案内装置41の基本構造は、第1の実施形態の運動案内装置1と同一であるから、同一の符号を付してその説明を省略する。第2の実施形態の運動案内装置41でも合計4つの循環路4が設けられる。各循環路4には、2列のボール列が並べられるボールリテーナ42が組み込まれる。
【0048】
図13は、ボールリテーナ42を示す。図13(a)の平面図に示すように、第1ボール列43の第1ボール43a間には、スペーサ45が介在していて、第1ボール列43のボールピッチは一定に保たれる。第2ボール列44の第2ボール44a間にも、スペーサ45が介在していて、第2ボール列44のボールピッチは一定に保たれる。第1ボール43aの直径と第2ボール44aの直径とは等しく、第1ボール列43のボールピッチと第2ボール列44のボールピッチとは等しい。
【0049】
バンド46は、2列のボール列43,44によって3つに区画される。すなわち、第1ボール列43から幅方向の外側に突出するサイドバンド47と、第1ボール列43と第2ボール列44との間の波状の中間バンド48と、第2ボール列44から幅方向の外側に突出するサイドバンド49と、に区画される。中間バンド48によって第1ボール43aと第2ボール44aとは非接触になる。
【0050】
各第1ボール43aに対して各第2ボール44aは、バンド46の長さ方向にP/2ずれている。Pは第1ボール列43のボールピッチである。図13(b)に示すように、幅方向視において、完全に重なるボールは無く、バンド46の長さ方向に第1ボール43a、第2ボール44aがP/2の周期で順番に現れる。このように、各第1ボール43aに対して各第2ボール44aをバンド46の長さ方向にずらすことで、ウェービングを低減することができる。
【0051】
また、第1ボール43a間にスペーサ45を介在させ、第2ボール44a間にスペーサ45を介在させ、第1ボール43aと第2ボール44aとを中間バンド48によって非接触にするので、各第1ボール43aに対する各第2ボール44aのずれ量を一定に保つことができると共に、第1ボール43a及び第2ボール44aを円滑に循環させることができる。
【実施例】
【0052】
図14に示すように、ボールリテーナに3列のボール列を並べた場合のウェービングの解析を行った。図14(a)は、各第1ボール17a´、各第2ボール18a´、各第3ボール19a´を横並びにしたときの比較例1を示す。比較例1の場合、ボールリテーナ11´の幅方向視において、各第1ボール17a´、各第2ボール18a´、各第3ボール19a´は完全に重なる。図14(b)は、各第1ボール17a´´と各第2ボール18a´´とを長さ方向にP/2ずらし、各第2ボール18a´´と各第3ボール19a´´とを長さ方向にP/2ずらした比較例2を示す。この場合、各第1ボール17a´´の長さ方向の位置と各第3ボール19a´´の長さ方向の位置が一致する。図14(c)は、各第1ボール17aと各第2ボール18aとを長さ方向にP/3ずらし、各第2ボール18aと各第3ボール19aとを長さ方向にP/3ずらした本発明例を示す。
【0053】
解析条件を表1に示す。比較例1、比較例2、本発明例において、表1に示すように解析条件を共通にした。
【0054】
【表1】
【0055】
図15は、ラジアル方向、ピッチング方向のウェービングの解析結果を示すグラフである。グラフの横軸はクラウニング長さである。クラウニング長さを連続的に変化させたときのウェービング値をグラフ化している。
【0056】
グラフ中の(c)で示す本発明例では、グラフ中の(a)で示す比較例1と比較してウェービング値を約1/7に低減でき、グラフ中の(b)で示す比較例2と比較してもウェービング値を約1/4に低減できることがわかった。なお、比較例1に比べて比較例2のウェービング値が低減する。これは、比較例2では、各第1ボール17a´´と各第2ボール18a´´がずれていて、有効ボールの数が2倍になったとみなすことができるからである。本発明例では、各第1ボール17a、各第2ボール18a、各第3ボール19aが互いにずれているので、有効ボールの数が3倍になったとみなすことができ、比較例2よりもさらにウェービング値を約1/4に低減できる。図15の縦軸の単位はnmである。本発明例のように、あらゆるクラウニング長さにおいて、ウェービング値を略無くすことができることは画期的なことである。
【0057】
なお、本発明は上記実施形態に限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々に変更可能である。
【0058】
上記実施形態では、ボールリテーナの全長に渡って、各第1ボールに対して各第2ボールを長さ方向にずらし、各第2ボールに対して各第3ボールを長さ方向にずらしているが、ボールリテーナの長さ方向の一部において、上記のようにずらすこともできる。ボールリテーナの長さ方向の一部において、上記のようにずれていれば、たとえボールリテーナの長さ方向の他の部分(例えばボールリテーナの長さ方向の端部又はボールリテーナの長さ方向の中央部)において、第1ボールないし第3ボールの位置が一致していても、キャリッジ3のウェービングを低減できる。
【0059】
上記実施形態では、各第1ボールに対して各第2ボールを長さ方向にP/nずらし、各第2ボールに対して各第3ボールをP/nずらしているが、ずらす量はこれに限られることはない。各第1ボールに対して各第2ボールが長さ方向にずれ、各第1ボール及び各第2ボールに対して各第3ボールが長さ方向にずれていれば、キャリッジのウェービングを低減できる。
【0060】
上記実施形態では、第1ボールの直径、第2ボールの直径、及び第3ボールの直径が互いに等しく、第1ボール列のボールピッチ、第2ボール列のボールピッチ、及び第3ボール列のボールピッチが互いに等しいが、第1ボールの直径、第2ボールの直径、及び第3ボールの直径の少なくとも一つを異ならせることもできる。また、第1ボール列のボールピッチ、第2ボール列のボールピッチ、及び第3ボール列のボールピッチの少なくとも一つを異ならせることでもきる。ボールピッチの少なくとも一つを異ならせる場合、第1ボール列のボールピッチ、第2ボール列のボールピッチ、及び第3ボール列のボールピッチの最小公倍数がボールリテーナの全長以上になるのが望ましい。第1ボールないし第3ボールの長さ方向の位置を一致させないためである。
【0061】
上記実施形態では、ボールリテーナの長さ方向の一端から他端まで第1ボール、第2ボール、及び第3ボールが順番に現れるようにしているが、例えば図3(a)のボールリテーナ11の左端の第2ボールを無くし、これをボールリテーナ11の右端に配置し、ボールリテーナ11の左端の第3ボールを無くし、これらをボールリテーナ11の右端に配置することもできる。こうすれば、バンド15の階段状の両端部の勾配がより鋭角になり、U字状のターン路C3でバンド15を曲げ易くなる。
【0062】
上記実施形態では、転動体としてボールを使用した場合を説明したが、転動体としてローラを使用することもできる。
【符号の説明】
【0063】
1…運動案内装置、4…循環路、2…案内レール、3…キャリッジ、11,31…ボールリテーナ(複列転動体収容バンド)、15,32…バンド、17−19,33−36…少なくとも3列のボール列(少なくとも3列の転動体列)、17,33…第1ボール列(第1転動体列)、18,34…第2ボール列(第2転動体列)、19,35…第3ボール列(第3転動体列)、20,37…スペーサ、36…第4ボール列(第4転動体列)、17a,33a…各第1ボール(各第1転動体)、18a,34a…各第2ボール(各第2転動体)、19a,35a…各第3ボール(各第3転動体)、36a…各第4ボール(各第4転動体)、P…第1ボールピッチ(第1転動体ピッチ)、41…運動案内装置、42…ボールリテーナ(複列転動体収容バンド)、43−44…2列のボール列(2列の転動体列)、43…第1ボール列(第1転動体列)、44…第2ボール列(第2転動体列)、43a…各第1ボール(各第1転動体)、44a…各第2ボール(各第2転動体)、45…スペーサ
図1
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図10
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図15