特許第6530248号(P6530248)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6530248
(24)【登録日】2019年5月24日
(45)【発行日】2019年6月12日
(54)【発明の名称】繊維製品の柔軟化処理方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/463 20060101AFI20190531BHJP
【FI】
   D06M13/463
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-119516(P2015-119516)
(22)【出願日】2015年6月12日
(65)【公開番号】特開2017-2440(P2017-2440A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年3月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】市村 真一
(72)【発明者】
【氏名】石川 晃
(72)【発明者】
【氏名】小島 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】植松 潤平
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−291999(JP,A)
【文献】 特開昭53−134784(JP,A)
【文献】 特表2009−544869(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0281785(US,A1)
【文献】 特表2010−500483(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0042765(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0042767(US,A1)
【文献】 特表2007−508126(JP,A)
【文献】 特開昭60−255141(JP,A)
【文献】 特開昭61−194274(JP,A)
【文献】 特開平06−306769(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M10/00−16/00
19/00−23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(a1)で表される陽イオン性化合物(A)のユニラメラ構造ベシクルの凝集体を含む処理液に、繊維製品を接触させる、繊維製品の柔軟化処理方法であって、
前記凝集体が、(A)のユニラメラ構造ベシクルを(B)凝集促進剤として無機塩を用いて凝集させたものであり、
前記凝集体の平均粒径が10000nmを超えない、
繊維製品の柔軟化処理方法。
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数16以上22以下の炭化水素基又は水素原子を示す。但し、RとRは同時に水素原子であることはない。
は、炭素数が2以上4以下のアルキレン基を示す。
は、炭素数1以上3以下のアルキル基、炭素数1以上3以下のヒドロキシアルキル基又は−R−OC(=O)−Rを示す。
は、炭素数1以上3以下のアルキル基又は水素原子を示す。
Yは、−C(=O)O−又は−C(=O)NH−を示す。
m及びnは、独立して、0又は1の数を示す。
は、有機又は無機の陰イオンを示す。)
【請求項2】
前記凝集体の平均粒径が100nm以上3000nm以下である、請求項1記載の柔軟化処理方法。
【請求項3】
前記ユニラメラ構造ベシクルの平均粒径が10nm以上200nm以下である、請求項1又は2記載の柔軟化処理方法。
【請求項4】
下記工程1〜工程3を有する、請求項1〜3いずれか1項記載の柔軟化処理方法。
工程1:(A)のユニラメラ構造ベシクルを調製する工程
工程2:前記工程1で得られたユニラメラ構造ベシクルを、凝集促進剤(B)として無機塩を含む液体中で凝集させて、(A)のユニラメラ構造ベシクルの凝集体を含む処理液を調製する工程
工程3:前記工程2で得られた処理液に、繊維製品を接触させる工程
【請求項5】
工程1で、(A)のユニラメラ構造ベシクルと水とを含有する分散液を調製する、請求項4記載の柔軟化処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維製品の柔軟化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衣類やタオルなどの繊維製品を柔らかく仕上げる為に、多くの家庭においては、洗濯の濯ぎ段階で、柔軟仕上げ剤を用いて処理することが行われている。現在、家庭用軟仕上げ剤として市販されているものは、ほとんどがカチオン界面活性剤を主成分とする液体柔軟剤組成物である。これらのカチオン界面活性剤は、濯ぎ水中で負に帯電している繊維表面に吸着し、吸着した界面活性剤分子中の親油性部位による潤滑効果により柔軟性を発揮する。
【0003】
これまで、柔軟化活性物質を微細な粒子として用いることが提案されている。特許文献1には、ナノサイズの層状小胞の陽イオン性の布地柔軟化物質を用いることで、洗剤から持ち込まれるアニオン界面活性剤のキャリーオーバーの影響を受けにくい繊維製品向上組成物が開示されている。また、特許文献2には、ナノサイズの層状小胞の陽イオン性の布地柔軟化物質を用いた透明又は半透明の布地向上剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−544869号公報
【特許文献2】特表2010−500483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、繊維へのカチオン界面活性剤の吸着量が増えれば繊維製品の柔軟性は向上していくが、その一方で、繊維製品の吸水性は低下し、また、油っぽい感触も発現してしまうため、手触りは悪くなる傾向にある。
【0006】
本発明は、より優れた柔軟性を繊維製品に付与できる繊維製品の柔軟化処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、柔軟基剤となる陽イオン性化合物を、ユニラメラ構造ベシクルとし、更に、このユニラメラ構造ベシクル凝集させた凝集体として繊維製品に適用すると、衣類やタオルなどの繊維製品を効率的に柔軟化処理できることを見出した。
【0008】
本発明は、下記一般式(a1)で表される陽イオン性化合物(A)のユニラメラ構造ベシクルの凝集体を含む処理液に、繊維製品を接触させる、繊維製品の柔軟化処理方法であって、
前記凝集体の平均粒径が10000nmを超えない、
繊維製品の柔軟化処理方法に関する。
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数16以上22以下の炭化水素基又は水素原子を示す。但し、RとRは同時に水素原子であることはない。
は、炭素数が2以上4以下のアルキレン基を示す。
は、炭素数1以上3以下のアルキル基、炭素数1以上3以下のヒドロキシアルキル基又は−R−OC(=O)−Rを示す。
は、炭素数1以上3以下のアルキル基又は水素原子を示す。
Yは、−C(=O)O−又は−C(=O)NH−を示す。
m及びnは、独立して、0又は1の数を示す。
は、有機又は無機の陰イオンを示す。)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、より優れた柔軟性を繊維製品に付与できる繊維製品の柔軟化処理方法が提供される。
本発明の処理方法では、同じ柔軟性を得るための陽イオン性化合物の量が低減できるため、吸水性の低下や油っぽい感触の発生も抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の繊維製品の柔軟化処理では、より優れた柔軟性を繊維製品に付与することができる。この効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推察される。
一般に、タオル、肌着といった繊維製品は、単繊維の集合体である糸を含んで構成されている。単繊維同士は、様々な間隔の空隙を形成している。そのうち、単繊維同士の距離が短い狭小部分は、単繊維の摩擦発現に寄与していると考えられる。
本発明では、ユニラメラ構造ベシクルが平均粒径10000nmを超えない範囲で凝集体となって粒径が大きくなっていることから、単繊維間の狭小部分に接触、捕捉される。その時点では、凝集体となっていることで単繊維の表面では積層せずに広い範囲に薄く分布していく。そして、この凝集体は、凝集力が弱いため、繊維への接触により凝集状態から開放され、ユニラメラ構造ベシクルとなる。更に、ユニラメラ構造ベシクルは、マルチラメラ構造ベシクルよりも凝集力が弱いため、ベシクル構造が破壊され陽イオン性化合物(A)の分子膜となって単繊維表面に付着する。
その結果、単繊維の狭小部分に陽イオン性化合物(A)が均一に効率よく付着し、単繊維同士の摩擦力が低減され、柔軟性が向上する。
【0013】
本発明は、前記一般式(a1)で表される陽イオン性化合物(A)〔以下、(A)成分という〕のユニラメラ構造ベシクルの平均粒径10000nmを超えない凝集体を含む処理液を、繊維製品を接触させることで、繊維製品を柔軟化処理する。
【0014】
(A)成分は、下記一般式(a1)で表される化合物である。
【0015】
【化2】
【0016】
一般式(a1)中、R及びRの炭化水素基は、アルキル基及びアルケニル基から選ばれる基が挙げられる。
一般式(a1)中、Rは、炭素数16もしくは18の直鎖のアルキル基又は炭素数16もしくは18の直鎖のアルケニル基が好ましい。
一般式(a1)中、Rは、独立してエチレン基又はプロピレン基が好ましい。
一般式(a1)中、Rは、メチル基、エチル基、ヒドロキシエチル基又は−C−OC(=O)−Rで表される基が好ましい。
一般式(a1)中、Rは、炭素数16もしくは18の直鎖のアルキル基、炭素数16もしくは18の直鎖のアルケニル基、又は水素原子が好ましい。
一般式(a1)中、Rは、メチル基が好ましい。
一般式(a1)中、Yが存在する場合は、−C(=O)O−が好ましい。
一般式(a1)中、mは1又は0であって、0が好ましい。
一般式(a1)中、nは1又は0であって、0が好ましく、更にはm及びnが同時に0であることがより好ましい。
【0017】
或いは、(A)成分は、一般式(a1)中、m=1且つn=1であり、Yは−C(=O)O−であり、R及びRは独立して炭素数16又は18の直鎖アルキル基、Rはエチレン基又はプロピレン基、R及びRは独立してメチル基、エチル基又はヒドロキシエチル基であることもまた好ましい。
【0018】
一般式(a1)中、Zとしては、塩化物イオン、硫酸メチルイオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、水酸化物イオン、酢酸イオンが挙げられる。Zは塩化物イオンが好ましい。
【0019】
(A)成分のユニラメラ構造ベシクル(以下、ユニラメラ構造ベシクルという場合もある)は、二分子膜からなる単層構造(ユニラメラ構造)の殻を有する球状粒子である。球状粒子の内部は中空でもよく、水溶性化合物(例えば無機塩や水性溶媒等)を含む水相などで満たされていてもよい。
【0020】
ユニラメラ構造ベシクルの平均粒径は、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、更に好ましくは30nm以上、より更に好ましくは50nm以上、そして、好ましくは200nm以下、より好ましくは100nm以下である。
ユニラメラ構造ベシクルの平均粒径は、実施例に記載の方法により測定する。
【0021】
ユニラメラ構造ベシクルは、超音波法、フレンチプレス法、エクストルージョン法、ホモジナイザー法、活性剤法等の方法により調製される。
ユニラメラ構造ベシクルは、電子顕微鏡観察により確認することができる。
【0022】
超音波法は、例えば、バンガム法などで作製したマルチラメラ構造のベシクルを超音波照射により機械的にユニラメラ構造のベシクルにする方法である。
具体的には、マルチラメラ構造のベシクルを含有する液体混合物に超音波照射して、ユニラメラ構造ベシクルを調製する。
【0023】
ユニラメラ構造ベシクルを調製するためには超音波発生装置を用いることが好ましい。超音波照射はバス型、プローブ型、連続型を用いることができる。超音波照射における発信周波数は好ましいユニラメラ構造ベシクルの平均粒径を調製するために20kHz以上1000kHz以下、出力密度は0.5W/mL以上100000W/mL以下であることが好ましい。前記液体混合物中の(A)成分濃度は、好ましくは0.01質量%以上10質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上1質量%以下である。また、前記液体混合物の温度は、示差走査熱量測定などより算出されるベシクル膜のゲル液晶転移温度よりも10℃以上高い温度、但し95℃を越えない温度に設定することが好ましい。ユニラメラ構造ベシクルの生成は以下に示す光散乱法で確認することができる。
【0024】
超音波法を用いた場合、超音波の照射時間により、ユニラメラ構造ベシクルの生成率を制御することができる。
超音波法を用いた場合、マルチラメラ構造のベシクルを含有する液体混合物中のユニラメラ構造ベシクルの生成率を経時で光散乱測定により確認し、散乱光強度で重みづけした粒径分布のうち90%以上が100nm以下(但し90%以上が5nm以下にはならない)になった時点で照射終了することができる。ここで、ユニラメラ構造ベシクルの生成率は、開始時のマルチラメラ構造ベシクルの総量に対するユニラメラ構造ベシクル生成量の割合である。一般に、対象物の平均粒径が例えば100nm以下のように十分小さくなればマルチラメラ構造ベシクルがユニラメラ構造ベシクルに十分に変換されていると考えられる。
【0025】
フレンチプレス法、エクストルージョン法、ホモジナイザー法は、マルチラメラ構造のベシクルをフレンチ加圧セル(フレンチプレス)、エクストルーダー、ホモジナイザーを用いて機械的にユニラメラ構造のベシクルにする方法である。
【0026】
活性剤法は、マルチラメラ構造ベシクルにコール酸ナトリウム水和物やデオキシコール酸ナトリウムのような陰イオン界面活性剤を混合し、この混合物から透析、ゲルろ過などにより界面活性剤を除去することによりユニラメラ構造のベシクルを得る方法である。
【0027】
ユニラメラ構造ベシクルの凝集体(以下、ベシクル凝集体という場合もある)は、ユニラメラ構造ベシクルの二分子膜構造を壊さずに凝集させたものである。
【0028】
ベシクル凝集体の平均粒径は、本発明の柔軟効果を得る上で10000nmを超えない。好ましくは100nm以上、より好ましくは200nm以上、更に好ましくは300nm以上、そして、好ましくは3000nm以下、より好ましくは2000nm以下、更に好ましくは1000nm以下、より更に好ましくは500nm以下である。
ベシクル凝集体の平均粒径は、実施例に記載の方法により測定する。
【0029】
ベシクル凝集体は、凝集促進剤(B)〔以下、(B)成分という〕を用いてユニラメラ構造ベシクルを凝集させることで調製できる。
ベシクル凝集体は、好ましくはベシクルのゲル液晶温度よりも10℃以上低い温度、但し5℃以下にならない温度において、凝集剤(B)を添加し、100r/min以上、1000r/min以下で撹拌することにより調製できる。
【0030】
(B)成分としては、無機塩、有機酸、有機酸塩、キレート剤、陰イオン性高分子化合物、非イオン性高分子化合物等が挙げられる。
【0031】
無機塩としては、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化アンモニウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化マグネシウムなどの無機のハロゲン塩、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸カルシウム、チオ硫酸マグネシウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸カルシウム、過塩素酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0032】
有機酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコサペンタエン酸などの脂肪酸、サリチル酸、安息香酸、フタル酸などの芳香族カルボン酸、シュウ酸、乳酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、クエン酸、アジピン酸の他に、ドデシルスルホン酸などのアルキルスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸などのアルキルベンゼンスルホン酸、ドデシル硫酸エステル等のアルキル硫酸エステル等が挙げられる。
有機酸塩としては、前記有機酸のアルカリ金属塩又はアンモニウム塩が挙げられる。
【0033】
キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラアミン六酢酸、エチレンジアミン-N、N’ジコハク酸などのアミノカルボン酸又はそのアルカリ金属塩、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、ニトリロトリスメチレンホスホン酸などのホスホン酸又はそのアルカリ金属塩などが挙げられる。これらの化合物も有機酸に属するが、キレート能に着目して本発明では前記有機酸とは別に例示した。また、前記有機酸又はその塩がキレート剤として機能してもよい。
【0034】
陰イオン性高分子化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸などのカルボン酸を有するモノマーを含むポリマー若しくはそれを含む共重合体、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸などのスルホン酸を有するモノマーを含むポリマー若しくはそれを含む共重合体などが挙げられる。陰イオン性高分子化合物を構成している陰イオン性基は、一部又は全部が塩構造のものを用いてもよく、アルカリ金属塩がより好ましく、ナトリウム塩が更に好ましい。
非イオン性高分子化合物としては、ポリアクリルアミドなどが挙げられる。
【0035】
(B)成分の凝集促進剤としては、好ましくは無機塩、より好ましくは水溶性無機塩、更に好ましくは塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、及び塩化カルシウムから選ばれる一種以上の水溶性無機塩が挙げられる。無機塩は配合量を増やすことで静電気反発力を低下させ、ユニラメラ構造ベシクルを凝集させることができる。
【0036】
(B)成分を用いる場合、ユニラメラ構造ベシクルを含む液体混合物を、(B)成分を含む液体混合物と混合してユニラメラ構造ベシクルの凝集体を調製することが好ましい。ユニラメラ構造ベシクルを含む液体混合物は、ラメラやベシクルとなっていない状態の(A)成分や、(A)成分のマルチラメラ構造ベシクルを含んでいてもよい。
【0037】
(B)成分を用いる場合、(A)成分に対する質量比(B)/(A)は、好ましくは10000/1以下、より好ましくは5000/1以下、更に好ましくは1000/1以下、より更に好ましくは500/1以下である。そして、質量比(B)/(A)は、好ましくは1/5以上、より好ましくは1/2以上、更に好ましくは1/1以上、より更に好ましくは10/1以上である。
【0038】
ユニラメラ構造ベシクルの凝集体が形成されているかどうかの確認は、電子顕微鏡観察、光散乱法などにより行うことができる。
光散乱法により得られる散乱光強度で重みづけした粒径分布の99%以上が好ましくは150nm以上10000nm以下、より好ましくは200nm以上5000nm以下になっていることより、ユニラメラ構造ベシクルの凝集体が形成されていることを確認できる。
【0039】
本発明では、(A)成分のユニラメラ構造ベシクルの凝集体を含む処理液を用いる。
処理液は、水を含有することが好ましい。水は、水道水、イオン交換水などを使用することができる。
【0040】
処理液は、前記ベシクル凝集体が水に分散した分散液であってよい。前記のように、凝集促進剤を用いる場合、ユニラメラ構造ベシクルと水とを含む液体混合物を、凝集促進剤と水とを含む液体混合物と混合し、これを、水と前記ベシクル凝集体とを含有する処理液としてそのまま用いることができる。
【0041】
処理液は、繊維製品の柔軟化処理に使用できる成分、例えば、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの水性溶媒、他の界面活性剤、好ましくはアルキル基の炭素数が12〜14であってエチレンオキシ基の平均付加モル数が10〜50モルのポリオキシエチレンアルキルエーテル等の非イオン界面活性剤、香料、マイクロカプセル化した香料、アルコール系香料のケイ酸エステル化合物、プロキセルBDN等の抗菌抗カビ剤、処理液中で安定な染料、などを含んでいてもよい。
【0042】
本発明の処理液の30℃のpHは、好ましくは5.0以上、より好ましくは6.0以上であり、そして、好ましくは10.0以下、より好ましくは9.0以下、更に好ましくは8.0以下である。
pHは、JIS K 3362;2008の項目8.3に従って30℃において測定する。
pHの調整は、アルカリ剤と酸剤によって調整されるが、酸剤は前記クエン酸、コハク酸などの有機酸やキレート剤の酸型を用いてもよい。
【0043】
本発明では、(A)成分のユニラメラ構造ベシクルの凝集体を含む処理液に、繊維製品を接触させる。処理液と繊維製品との接触は、一般的な柔軟化処理方法に準ずることができる。
【0044】
処理液中の(A)成分の濃度は、好ましくは0.5ppm以上、より好ましくは1ppm以上、更に好ましくは5ppm以上、そして、好ましくは1000ppm以下、より好ましくは500ppm以下、更に好ましくは100ppm以下である。
【0045】
処理液中の(A)成分と繊維製品との比率は、繊維製品1kgあたり、好ましくは0.05g以上、より好ましくは0.01g以上、更に好ましくは0.25g以上、そして、好ましくは10g以下、より好ましくは5g以下、更に好ましくは2.5g以下である。
【0046】
処理液と繊維製品との接触は、繊維製品を処理液に浸漬して行うことが好ましい。繊維製品を浸漬中に処理液を攪拌することが好ましい。
【0047】
本発明のより具体的な方法として、下記工程1〜工程3を有する柔軟化処理方法が挙げられる。
工程1:(A)成分のユニラメラ構造ベシクルを調製する工程
工程2:前記工程1で得られたユニラメラ構造ベシクルを、処理液となる液体中で凝集させて、(A)成分のユニラメラ構造ベシクルの凝集体を含む処理液を調製する工程
工程3:前記工程2で得られた処理液に、繊維製品を接触させる工程
【0048】
工程1では、(A)成分のユニラメラ構造ベシクルを、例えば、前記した超音波法、フレンチプレス法、エクストルージョン法、ホモジナイザー法、活性剤法等の方法により調製する。
工程1では、(A)成分のユニラメラ構造ベシクルと水とを含む液体混合物を調製することが好ましい。更に工程1では、(A)成分のユニラメラ構造ベシクルと水とを含む分散液を調製することが好ましい。
【0049】
工程2では、工程1で得られたユニラメラ構造ベシクルを、処理液となる液体中、好ましくは水中で凝集させて、(A)成分のユニラメラ構造ベシクルの凝集体を含む処理液を調製する。
工程2では、(B)成分の凝集促進剤を用いて前記ベシクル凝集体を調製することが好ましい。すなわち、工程2では、前記工程1で得られたユニラメラ構造ベシクルを、凝集促進剤(B)を含む液体中で凝集させて、(A)成分のユニラメラ構造ベシクルの凝集体を含む処理液を調製することが好ましい。(B)成分の凝集促進剤の種類、使用量は前記と同様である。
【0050】
本発明では、工程1を、(A)成分のユニラメラ構造ベシクルと水とを含有する分散液を調製する工程とし、工程2を、前記工程1で得られたユニラメラ構造ベシクルを、(B)成分と水とを含有する液体中で凝集させて、(A)成分のユニラメラ構造ベシクルの凝集体を含む処理液を調製する工程とすることが好ましい。
【0051】
工程3では、工程2において(A)、(B)成分を混合させ、0.5分以上、5分以下撹拌した後に繊維製品を浸漬することが好ましい。浸漬後3分以上、好ましくは5分以上撹拌した後に繊維製品を脱水することが好ましい。
【0052】
本発明の柔軟処理方法は、例えば、家庭用洗濯機での洗濯を行う際のすすぎ工程に取り込むことができる。
【実施例】
【0053】
実施例1〜3、比較例1、基準組成1〜2
<評価用タオルの前処理>
市販の木綿タオル(武井タオル製、TW−220)24枚を、日立全自動洗濯機NW−6CYで5回洗浄した。
洗浄には、非イオン界面活性剤(ラウリルアルコールのエチレンオキシド付加物(平均付加モル数8))を用いた。
洗浄条件は、非イオン界面活性剤使用量4.5g、標準コース、水量45L、水温20℃、洗浄時間10分、ため濯ぎ2回とした。
5回目の洗浄が終了した後、20℃、43%RHの条件下で乾燥し、評価用タオルを得た。
【0054】
<ユニラメラ構造ベシクル分散液の調製(工程1)>
100mlのガラス製ビーカー(パイレックス:登録商標)に、(A)成分であるコータミンD86P〔花王(株)製、塩化ジメチルジ長鎖アルキルアンモニウム、有効分75質量%、一般式(a1)においてR及びRは炭素数16〜18の直鎖アルキル基(不飽和度0%)であり、R及びRはメチル基であり、m及びnは0であり、Zは塩化物イオン(Cl)である陽イオン界面活性剤〕1.33gを入れ、65℃のウォーターバスにて内容物が融解するまで加熱した。
次いで、撹拌子(長径30mm)を入れ、750r/minで撹拌しながら、あらかじめ65℃に加熱したイオン交換水を全量が100gになるまで徐々に加え、10分間撹拌した。
次いで、65℃のイオン交換水を超音波洗浄機(アズワン(株)製、型番US−1Rに加え、3時間超音波(40kHz、55W)を照射した。
その後、室温で3時間放冷し、ユニラメラ構造ベシクル分散液を得た。ユニラメラ構造ベシクルが形成されていることは、電子顕微鏡を用いて、ベシクルを形成する膜が単層になっていることで確認した。
【0055】
前記分散液中のユニラメラ構造ベシクルの粒径を、ゼータサイザーナノZS(マルバーンインスツルメント社製)により測定した。キュムラント解析により得られたZ−平均粒径は約50nmであった。
【0056】
<処理液の調製(工程2)>
National製電気バケツ式洗濯機(MiniMini、型番:NA−35)に、水道水及び(B)成分である塩化ナトリウムを表1に記載されている量で加え、1分間撹拌して完全溶解させた。
次いで、上記記載のユニラメラ構造ベシクル分散液を表1に記載した量添加し、30秒撹拌して、ユニラメラ構造ベシクルの凝集体を含む処理液を調製した。
【0057】
前記処理液中の分散粒子の粒径を、ゼータサイザーナノZS(マルバーンインスツルメント社製)により測定した。キュムラント解析により得られたZ−平均粒径を表1に示す。この分散粒子の平均粒径が、ユニラメラ構造ベシクルの平均粒径よりも大きくなっていることから、実施例及び比較例の処理液では、ユニラメラ構造ベシクルが凝集状態にあることが確認された。
【0058】
基準組成1、2は、ユニラメラ構造ベシクル分散液を表1の量で用い、(B)成分である塩化ナトリウムを添加せずに、前記工程2により調製した。
【0059】
<繊維製品の柔軟化処理(工程3)>
前処理をした2枚の木綿タオル(150g)を、工程2で調製した処理液に投入して前記木綿タオルを完全に浸漬させ、5分間撹拌処理した。その後、処理した木綿タオルを、前記全自動洗濯機で脱水工程のみを2分間行い、その後、20℃、43%RHの条件下で12時間乾燥した。
【0060】
<柔軟性の評価>
乾燥後の木綿タオルについて、10人のパネラー(30代男性10人)が下記評価基準にて判定し、10人の平均点を算出した。この評価試験では評価点1.0以上を合格とする。
なお、評価基準に記載の「基準タオル1」は、基準組成1で処理した木綿タオルを意味し、「基準タオル2」は、基準組成2で処理した木綿タオルを意味する。
【0061】
評価基準:
0:基準タオル1と同程度の柔らかさ
1:基準タオル1と基準タオル2の間の中間値程度の柔らかさ
2:基準タオル2と同程度の柔らかさ
3:基準タオル2よりも柔らかい
【0062】
【表1】
【0063】
*1 基準組成1、2は、平均粒径がほとんど変化しておらず、凝集していないユニラメラ構造ベシクルを含んでいると判断される。
【0064】
基準組成2は、柔軟性能は良いものの、(A)成分の使用量が多い。そのため、基準組成2による処理後の繊維製品は、吸水性に劣り、また、油っぽい感触を有するものとなる。