特許第6530319号(P6530319)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6530319
(24)【登録日】2019年5月24日
(45)【発行日】2019年6月12日
(54)【発明の名称】生体類似型眼内レンズ
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20190531BHJP
   G02C 7/04 20060101ALN20190531BHJP
【FI】
   A61F2/16
   !G02C7/04
【請求項の数】29
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2015-552153(P2015-552153)
(86)(22)【出願日】2013年12月12日
(65)【公表番号】特表2016-508062(P2016-508062A)
(43)【公表日】2016年3月17日
(86)【国際出願番号】IB2013060869
(87)【国際公開番号】WO2014111769
(87)【国際公開日】20140724
【審査請求日】2016年12月12日
(31)【優先権主張番号】61/752,685
(32)【優先日】2013年1月15日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518454623
【氏名又は名称】メディセム インスティテュート エス.アール.オー.
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【弁理士】
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】シュトイ, ウラジミール
(72)【発明者】
【氏名】シセヴィック, ユージン
【審査官】 細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05674283(US,A)
【文献】 特表2008−520310(JP,A)
【文献】 特開平03−284258(JP,A)
【文献】 M. Dubbelman et al.,The shape of the aging human lens: curvature, equivalent refractive index and the lens paradox,Vision Research,2001年,Vol. 41, Issue. 14,pp. 1867-1877
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
G02C 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生得の水晶体を置き換えるためのヒト眼の後眼房に埋め込み可能な人工レンズであって、該人工レンズが、
中心光学部分を画定する本体と一体式の周辺支持部分とを備え、これらの両方が主光軸の周りに伸び、
前記中心光学部分が、第1の境界内にあって前方頂点を画定する中心前方光学面と、第2の境界内にあって後方頂点を画定する中心後方光学面とを有し、
前記周辺支持部分が、前記中心前方光学面と前方周辺部支持面とが第1の上部境界で前面を画定するように前記第1の境界から伸びる前方周辺部支持面と、前記中心後方光学面と後方周辺部支持面とが第2の上部境界で後面を画定するように前記第2の境界から伸びる後方周辺部支持面とを有し、
また該インプラントは前記第1の上部境界と前記第2の上部境界との間に伸びる遷移面を備え、
少なくとも後面が凸形状を有し、透明で柔軟なハイドロゲル材料であって、0.15モル%〜5モル%の平均濃度で、カルボキシル基、スルホ基、硫酸基、及びリン酸基からなる群から選択されるイオン性官能基を含有するハイドロゲル材料から作製され、
少なくとも前記中心前方光学面及び前記中心後方光学面が主光軸に沿った1又は複数の円錐断面の回転により画定され、前記回転により画定される前記中心前方光学面及び前記中心後方光学面が前記軸に対して垂直な平面、及び前記軸に対して対称な円錐面を含む、
生得の水晶体を置き換えるためのヒト眼の後眼房に埋め込み可能な人工レンズ。
【請求項2】
前記遷移面が鋭角(7A又は7B)を有する少なくとも1つの周縁部により限定される、
請求項1に記載の人工レンズ。
【請求項3】
前記前方頂点が前記第1の上部境界及び前記第2の上部境界の一方の更なる伸長を超えて伸びない、
請求項1に記載の人工レンズ。
【請求項4】
少なくとも1つの前記円錐断面が双曲線又は放物線である、
請求項1に記載の人工レンズ。
【請求項5】
前記前方周辺部支持面、及び後方周辺部支持面が、同軸双曲面又は円錐面である、
請求項1に記載の人工レンズ。
【請求項6】
前記後面が主光軸に沿って対称であり、前記後方頂点が主光軸上に配置される、
請求項1に記載の人工レンズ。
【請求項7】
前記後面が主光軸に沿って対称な双曲面を備える、
請求項6に記載の人工レンズ。
【請求項8】
前記中心後方光学面が主光軸に沿って対称な双曲面である、
請求項6に記載の人工レンズ。
【請求項9】
前記後方周辺部支持面が主光軸に沿って対称な双曲面又は円錐面である、
請求項1に記載の人工レンズ。
【請求項10】
前記後面が2以上の異なる同軸双曲面によって形成される、
請求項1に記載の人工レンズ。
【請求項11】
前記後面の少なくとも一部が球面である、
請求項1に記載の人工レンズ。
【請求項12】
前記球面が前記中心後方光学面の少なくとも中心部を形成する、
請求項11に記載の人工レンズ。
【請求項13】
前記中心前方光学面が、平面、凸面又は凹面であり、前記第1の上部境界及び前記第2の上部境界の更なる伸長を超えて0.25mmより長く伸びない前記前方頂点を有する、
請求項1に記載の人工レンズ。
【請求項14】
前記中心前方光学面は、主光軸に対して対称な双曲面、主光軸に対して対称な球面、主光軸に対して対称な放物面、又は主光軸に対して垂直な平面である、
請求項13に記載の人工レンズ。
【請求項15】
前記前方頂点と前記後方頂点との間の距離が、前記第2の上部境界の平面と前記後方頂点との間の距離として定義される前記後面のサジタル深度よりも大きくない、
請求項1に記載の人工レンズ。
【請求項16】
前記中心前方光学面及び前記中心後方光学面の少なくとも1つ(8A又は8B)が生得の健康な若年のヒトのレンズの双曲面形状に近似するように構成される、
請求項1に記載の人工レンズ。
【請求項17】
前記中心前方光学面及び前記中心後方光学面の両方(8A及び8B)が生得の健康な若年のヒトのレンズの双曲面形状に近似するように構成される、
請求項16に記載の人工レンズ。
【請求項18】
前記中心前方光学面及び前記中心後方光学面の少なくとも一方が、主光軸に沿った異なる円錐断面の回転によって形成される2以上の同心面により形成される、
請求項1に記載の人工レンズ。
【請求項19】
前記同心面が異なる双曲面である、
請求項18に記載の人工レンズ。
【請求項20】
前記第1の境界及び前記第2の境界の両方が、主光軸に対して垂直な平面において円形である、
請求項1に記載の人工レンズ。
【請求項21】
前記第1の上部境界及び前記第2の上部境界が前方縁部及び後方縁部をそれぞれ画定し、該前方縁部及び該後方縁部が前記主光軸に対して垂直な平面において各々非円形を有する、
請求項1に記載の人工レンズ。
【請求項22】
前記非円形は、端部が切断された円の形状、二重に端部が切断された円の形状、又は三重に端部が切断された円の形状である、
請求項21に記載の人工レンズ。
【請求項23】
前記中心前方光学面及び前記中心後方光学面を含むいずれの場合でも、前記前面及び前記後面の両方の少なくとも主要部が、成形型の固体表面と接触している液体のポリマー前駆体の固化によって形成される、
請求項1に記載の人工レンズ。
【請求項24】
完全な前面及び後面、並びに前記遷移面が固体形状面と接触しているポリマー前駆体の固化によって形成される、
請求項1に記載の人工レンズ。
【請求項25】
少なくとも前記後面が、眼内液と平衡状態にある35重量%〜65重量%の液体を含有し、負に帯電した基を含有する少なくとも1種の合成ハイドロゲルを含む、
請求項1に記載の人工レンズ。
【請求項26】
前記合成ハイドロゲルが、最も高い濃度が前記ハイドロゲルの面上にある前記イオン性官能基の濃度勾配を有する、
請求項25に記載の人工レンズ。
【請求項27】
少なくとも前記中心光学部分が少なくとも2つの透明な材料を含み、
前記少なくとも2つの透明な材料は異なる屈折率を有する、
請求項1に記載の人工レンズ。
【請求項28】
前記円錐断面を、等式
Y−Yo=X2/{Ro×(1+(1−h×(X/Ro)20.5)}
(式中、Yは主光軸方向の座標であり、Xは主光軸からの距離であり、Yoは主光軸上の頂点の位置であり、Roは中心曲率半径であり、hは円錐曲線の円錐定数である)
によって表すことができる、
請求項1に記載の人工レンズ。
【請求項29】
前記中心前方光学面及び前記中心後方光学面の円錐定数が、前記中心光学部分の屈折力が前記主光軸における最も高い値から前記中心光学部分の周辺部における最も低い値まで減少するように選択される、
請求項28に記載の人工レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2013年1月15日に出願された米国仮特許出願第61/752685号の利益を主張する。この米国仮特許出願の内容は引用することにより本明細書の一部をなす。
【0002】
本発明は、NCLを摘除し、BIOLを後眼房に埋め込んでNCLによって空いた水晶体嚢に配置した後、その様々な必須の機能において生得の水晶体(Natural Crystalline Lens:天然水晶体)(NCL)を置き換えることが可能な生体類似型埋め込み式眼内レンズ(bioanalogic implantable ophthalmic lens)(「BIOL」)に関する。
【背景技術】
【0003】
眼内レンズ(IOL)は、NCLの光学機能を置換又は補う外科的に埋め込み可能なレンズである。いわゆる「後眼房眼内レンズ(posterior chamber intraocular lens)」、すなわちPC IOLは、白内障の場合、又は更に最近では、老眼の場合、いわゆる「クリアレンズ交換(clear lens exchange)」すなわちCLEによりNCLを置換する。他の埋め込み式レンズは前眼房(AC IOL)、角膜(角膜インプラント又は基質内インプラント)、又はNCLと虹彩との間(いわゆる「埋め込み式コンタクトレンズ(implantable contact lens)」すなわちICL)に配置される。これまで、これらIOLの大半は、NCLの基本的な光学機能のみを置き換えるか補うために設計されていた。図1に描かれるヒトの眼においてNCLは、幾つかの機能を有する複雑な構造であることがわかる。眼の主要部分は、角膜101、虹彩102、NCL103、後嚢104、毛様体筋105、毛様小体106、硝子体107及び網膜108を含む。
【0004】
NCL103の基本的な光学機能は、遠くの物体を網膜108に映すことができるように、入射する光の焦点を合わせるため角膜101を補助することにある。他の重要な光学機能は、視力調節、すなわち、様々な距離の物体を網膜108に映すことができるようなレンズの光学力の調整である。視力調節機構を説明する幾つかの理論が存在する。例えば、非特許文献1を参照されたい。
【0005】
最もしっかりと確立された理論は、図1を参照すると、弛緩した毛様体筋105がレンズ103の外周を引っ張る毛様小体106の緊張を生じ、NCL103を遠方視に適したより低い屈折力を提供する変型した(扁平な)形状で保持することを説明するフォンヘルムホルツ論である。近い物体に焦点を当てることは、毛様小体106を弛緩する毛様体筋105における緊張によって生じ、NCL103がより小さい直径、より大きな中心厚さ、並びに前面及び後面の両方におけるより小さな曲率半径を有するその「生得の(natural)」構成を得ることを可能とする。これは、NCLの屈折力を増加し、網膜108上に近い物体の画像を映すことを可能とする。
【0006】
一般的な眼内レンズの大半は、ある程度容易に製造することができる球面を有する。しばらくの間、NCL103は、球体でなくてはならないと決められていた。しかしながら、球体レンズは正確には単焦点ではなく、代わりに、中心を通って入射する光線が、レンズ周辺部を通って入射する光線よりもレンズからわずかに遠い焦点へと屈曲するいわゆる「球面収差」を示す。したがって、球体レンズは、その周辺部においてその中心部よりもやや強く屈折する。この変化は持続的であり、そのようなレンズは、単焦点を有するのではなく、最も長い焦点距離と最も短い焦点距離との間で短い距離間隔(焦点領域)で多くの焦点を有する。換言すれば、球体レンズは、負の多焦点(その焦点距離が中心部から周辺部へと減少する)である。球面よりもむしろ楕円面(静的液体メニスカスの固化により作られる面等)を有するレンズは、より一層明確な球面収差を有し、したがって、球体レンズよりも更に負の多焦点である。
【0007】
幾つかの人工眼内レンズは、負の多焦点性(polyfocality)及び正反対の光学効果を有する球面又は更には楕円面等の他の二次面が並ぶ双曲面を含む。より重要なことに、従来技術は、一般的に、二次面(又は円錐断面)と、明らかな特徴がなく正の球面収差を有する二次面に近似するに過ぎないメニスコイド面(しかし、双曲面収差(hyperbolic aberration)を有することのない面)とを組み合わせる。
【0008】
例えば、特許文献1においてWichterleは、平坦な楕円に近似するメニスコイド面を主張しているのに対し、特許文献2においてStoyは、メニスコイド面を球面の近似であり、いずれも負の多焦点性を有すると考えている。正及び負の多焦点性を有する面の組合せは、前者の利点を減少するか、又は否定するものである。
【0009】
さらに、特許文献1は、モノマーが開放成形型で固化し、レンズの一方(後方)の側面が成形用キャビティーの形状を有するのに対し、前方側面が固化した液体メニスカスの(おそらくは、負の多焦点性を有する扁平な楕円形に近似し、幾分、純粋な球面と純粋な楕円面との間にある)形状を有する、眼内レンズの製造方法を記載する。成形用キャビティーは、双曲面を含み得る二次面の形状を有する。各光学面を別々に、すなわち、一方は固体面に対するポリマー前駆体の固化により、他方は液気界面上での固化により作り出されると気付くことができる。かかる異なる状況下で形成された2つの光学面の表面性状は、光学及び生物学の観点で大きく異なる可能性があることが当業者に知られている。
【0010】
特許文献3においてWichterleは、レンズの後方側面が固化した液体メニスカス(おそらくは、負の多焦点性を有する扁平な楕円形に近似する)の形状を有し、一方、前方側面が、非明示的に双曲面をも含み得る二次面として形作られた固体成形型のインプリントとして形成される、眼内レンズの別の製造方法を記載する。ここでも、本発明者らは、各光学面を別々に、すなわち、一方は固体面に対するポリマー前駆体の固化により、他方は液気界面上での固化により作り出されると気付くことができる。
【0011】
特許文献2は、一方の部分がWichterleの成形型に類似し、他方の部分が前方レンズ面上により小さい直径の修飾されたメニスコイドを形成するため使用される、二部式成形型を使用することにより特許文献1によって記載される方法を修正することを開示する。メニスコイド光学面は、より小径であるにもかかわらず、特許文献1から得られるメニスコイドと同じ性質であり、したがって、おそらくは楕円面よりも球面に近い。いずれにしても、そのような表面は負の多焦点性を有する。後方側面を、双曲面を含み得る二次面として形作られる固体成形型のインプリントとして形成するのに対し、他方の光学面を液気界面上での液体ポリマー前駆体の固化により形成する。
【0012】
特許文献4においてMichalek及びVacikは、開放成形型においてスピンキャスト法を使用してIOLを製造する方法を記載する。モノマー混合物で満たされた成形型は、重合が進む間垂直軸に沿って回転する。光学面の一方は固体成形型表面のインプリントとして作り出され、他方は成形型の回転により形成される。インプリントした面は、垂直軸に沿った円錐断面の回転により形成される形状を有する(双曲面形状を含む場合がある)。他の面を、幾つかの液体前駆体を中心部から周辺部へと移動する遠心力により修正されたメニスコイドとして形作る。凸状メニスカスの場合、遠心力が中心部を扁平にし、周辺部においてより急な湾曲を作り出し、すなわち、表面の球面収差を増加する。凸状メニスカスの場合、遠心力がより小さな中心半径を有するメニスカスを作り出し、球形と放物線形状との間の形状に近似するように表面を修飾する。いずれにしても、凸状又は凹状のメニスコイド面のいずれについても双曲面収差を達成することはできない。
【0013】
特許文献5及び特許文献6においてSulc et al.は、レンズを中心に置く虹彩との永続的な接触状態になるように、その前面が前方に突き出ている眼内レンズを開示する。後面及び前面のいずれもが、光学軸の周りの円錐断面の回転により得られる形状(球、放物線、双曲線、楕円)を有し得る。レンズの虹彩接触部分は、本来的に軟質で変形しやすい、非常に高い水分含有量(少なくとも70%、有利には90%超の水)を有するハイドロゲルである。したがって、虹彩との接触により変形した光学面は、正確には円錐断面にはなり得ないが、おそらくは幾分小さい中心半径を有する球形に近い、瞳孔の直径に応じて可変的な形状を有する面となり得る。すなわち、この状況は、虹彩様の人工要素における瞳孔様の開口部に対して変形しやすいゲルを充填したレンズを圧迫することにより、中心直径の減少を達成する、別の引用文献によるレンズに類似する(特許文献7におけるNun)。特許文献7は、双曲面の光学面の使用について言及も暗示もしていない。特許文献8及び特許文献9においてCummingsは、液体を毛様体装置の作用により内部IOLチャンバへと押し入れるようにして、光学面の変化及び視力調節を生じる、水圧調節IOLを開示する。
【0014】
特許文献10及び特許文献11においてHong et al.は、角膜の正の球面収差を補償するため、負の球面収差を有する少なくとも1つの光学面を備えた非球面眼内レンズを開示する。負の球面収差は、双曲面形状の光学面により達成される。
【0015】
特許文献12においてHong et al.は、ヒト眼に対して最適なIOL形状係数を開示し、−0.5〜+4の或る特定範囲の「形状係数」(前方及び後方の湾曲の差に対するそれらの合計の比としてHongにより定義される形状係数)によって最適なレンズを規定し、有利には少なくとも1つの光学面が−76〜−27の円錐定数を有する非球形である。
【0016】
特許文献10においてHong et al.は、出力領域(power range)に亘って約−0.202ミクロン〜約−0.190ミクロンの範囲の負の球面収差を有する少なくとも1つの光学面を備えたIOLを記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第4,971,732号
【特許文献2】米国特許第5,674,283号
【特許文献3】米国特許第4,846,832号
【特許文献4】国際出願PCT/CZ2005/000093号
【特許文献5】米国特許第4,994,083号
【特許文献6】米国特許第4,955,903号
【特許文献7】米国特許第7,220,279号
【特許文献8】米国特許出願公開第2007/0129800号
【特許文献9】米国特許出願公開第2008/0269887号
【特許文献10】米国特許第7,350,916号
【特許文献11】米国特許出願公開第2006/0244904号
【特許文献12】米国特許出願公開第2006/0227286号
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】L. Werner et al, Physiology of Accommodation and Presbyopia, ARQ. BRAS. OFTALMOL. 63(6), DEZEMBRO/2000-503.
【発明の概要】
【0019】
少なくとも1つの態様では、本発明は、生得の水晶体の置換のためのヒト眼の後眼房に埋め込み可能な人工レンズであって、主光軸1Aと、中心光学部分2と、周辺支持部分3とを有し(図3を参照)、インプラントの全体形状が、その前面4、後面5、及びインプラントの前面の上部境界7Aと後面の上部境界7Bとの間の遷移面6により画定され、境界9Aと前方頂点10Aとを有する中心前方光学面8Aと、境界9Bと後方頂点10Bとを有する中心後方光学面8Bと、前方周辺部支持面11A及び後方周辺部支持面11Bとを有する、人工レンズを提供する。
【0020】
NCLの形状、サイズ、光学特性、及び材料特性を実行可能な限り細かく再現しながら、小さい切開による外科的埋め込みの必要性に配慮する、生得の水晶体の置き換えのためのヒト眼の後眼房に埋め込み可能な人工レンズ。
【0021】
本発明の少なくとも1つの実施の形態による人工レンズは、少なくとも、眼の後嚢との実質的に完全な接触を達成するため、生得のレンズの後面の形状及びサイズに近似する後面を有する。後嚢と接触している本発明による人工レンズの部分は、少なくとも生得のレンズを形成する組織の光学性、親水性及び電気化学的性質に近似する透明で柔軟なハイドロゲル材料から作製される。前方側面は、虹彩との永続的な接触を回避するように設計される。
【0022】
少なくとも1つの実施の形態では、前面は、凹状の前方周辺部支持面11Aによって虹彩との持続的な接触を回避するように形作られる。
【0023】
少なくとも1つの実施の形態では、本発明による人工レンズは、光学軸に沿った1又は複数の円錐断面の回転により画定され、成形型、好ましくは疎水性プラスチック成形型の固体壁と接触する液体ポリマー前駆体の固化によって形成される、両方の光学面を含むその前面及び後面の少なくとも主要部を有する。
【0024】
本明細書で引用することによって本明細書の一部をなす添付の図面は、本発明の好ましい実施形態を解説し、前述の一般的な説明及び後述される詳細な説明と共に、本発明の特徴を説明する役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、角膜、強膜、虹彩、NCL、硝子体、網膜、及びレンズの懸垂機構(水晶体嚢、毛様小体、及び毛様体筋)を含む主な構造を伴う眼の内部配置を説明する図である。
図2図2は、1つの双曲面を有するレンズにおける屈折力の分布を説明する図である。
図3A図3Aは、本発明の例示的な実施形態による生体類似型眼内レンズの横断面図である。
図3B図3Bは、図3Aのレンズの上面図である。
図4A図4Aは、円形光学部及び楕円形支持部を有するレンズの別の例示的な実施形態の上面図である。
図4B図4Bは、1つのまっすぐな切断により端部が切断された円形支持部を有するレンズの別の例示的な実施形態の上面図である。
図4C図4Cは、2つの対称な切断により端部が切断された円形支持部を有するレンズの別の例示的な実施形態の上面図である。
図4D図4Dは、1つのまっすぐな切断と2つの三日月形の切断とにより端部が切断された円形支持部を有するレンズの別の例示的な実施形態の上面図である。
図4E図4Eは、4つの対称な切断により端部が切断された円形支持部を有するレンズの別の例示的な実施形態の上面図である。
図4F図4Fは、2つのまっすぐな並行する切断により端部が切断された円形支持部を有するレンズ、及び切断方向に関して角度αの円柱軸1Bを有する円柱形レンズの別の例示的な実施形態の上面図である。
図5A図5Aは、2以上の光学部に分割された光学面を有する例示的なレンズの上面図を説明する図である。
図5B図5Bは、2以上の光学部に分割された光学面を有する例示的なレンズの上面図を説明する図である。
図5C図5Cは、2以上の光学部に分割された光学面を有する例示的なレンズの上面図を説明する図である。
図6A図6Aは、2以上の材料から構成される本発明による代替的なレンズの横断面図である。
図6B図6Bは、2以上の材料から構成される本発明による代替的なレンズの横断面図である。
図6C図6Cは、2以上の材料から構成される本発明による代替的なレンズの横断面図である。
図7A図7Aは、例示的なレンズの支持周辺部の代替的なプロファイルを説明する拡大図である。
図7B図7Bは、例示的なレンズの支持周辺部の代替的なプロファイルを説明する拡大図である。
図7C図7Cは、例示的なレンズの支持周辺部の代替的なプロファイルを説明する拡大図である。
図8図8は、本発明の例示的な実施形態によるレンズの製造用成形型の模式的な配置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図面において、類似する数字は、全体を通して類似する要素を示す。便宜上、或る特定の用語法を本明細書で使用するが、本発明の限定と解釈されるものではない。下記に、本発明の好ましい実施形態を記載する。しかしながら、本開示に基づいて本発明が本明細書に記載される好ましい実施形態に限定されないことを理解されたい。
【0027】
NCLは、経時的に発達する非常に複雑な構造を有する。構造上の特徴の1つは、NCL103の後面及び前面の非球面性である。E.L.MARKWELL et al, MRI study of the change in crystalline lens shape with accommodation and aging in humans, Journal of Vision (20110 11(3);19, 1-16; M.Dubbelman et al, Change in shape of the aging human crystalline lens with accommodation, Vision Research 45 (2005), 117-132; F.Manns et al, Radius of curvature and asphericity of the anterior and posterior surface of human cadaver crystalline lens, Experimental Eye Research 78 (2004), 39-51; M.Dubbelman et al, The shape of the aging human lens: curvature, equivalent refractive index and the lens paradox, Vision Research 41 (2001) 1867-1877で近年確立されたように、若年のヒトレンズの前面及び後面の両方が双曲面であり、等式:
Y−Yo=X2/{Ro×(1+1−h×(X/Ro)20.5}…1
を特徴と得る。式中、Yは主光軸1A方向の座標であり、Xは主光軸1Aからの距離であり、Yoは主光軸1A上の頂点の位置であり、Roは中心曲率半径であり、hは円錐定数(又は形状パラメータ)である。上記等式1は、形状パラメータh値に応じて任意の円錐断面の湾曲を説明し、すなわち、h=0の場合は放物線形であり、h=1の場合は円形であり、h<0の場合は双曲面形であり、0<h<1の場合は扁長楕円形であり、h>1の場合は扁円楕円形である。
【0028】
典型的な若年のヒトNCLについて、前面は後面よりも双曲面であり、双曲性は視力調節により顕著に増加し、老年NCLが実質的に球面となる場合があるように、ヒトレンズは年齢と共に成長してその双曲性は減少することが見出されている。
【0029】
参照される研究は、選択された集団試料について典型的なNCLの寸法を対応付けた。これらの参考文献によれば、典型的なヒトレンズの前方中心半径は約5mm〜13mmの範囲であり、平均前方円錐パラメータは約−4(約−22〜+6の範囲)である。後方中心半径は約4mm〜8mmの範囲であり、平均後方円錐パラメータは約−3(約−14〜+3の範囲)である。
【0030】
若年の弛緩したNCLの中心厚さは、典型的には約3.2mm〜約4.2mmの範囲であり、年齢と共に、及び/又は短焦点調整により約3.5mm〜約5.4mmの厚さまで増加する。NCLの後方部分の深度は、典型的には前方部分の深度と同じか、又はそれより大きい。したがって、後方レンズ面のサジタル深度は、典型的には、約8.4mm〜約10mmの赤道直径上、約1.75mm〜約2.75mmである。これは、後嚢の「生得」状態の基本的な寸法を定義する。
【0031】
上記参考文献はNCLの幾何学特性と光学特性との何らの特定の関連も記述していないが、本発明者らは、双曲面が、その中心部において最大で周辺部に向かって徐々に減少する屈折力を有する多焦点へとレンズを変えることを、数学モデリングによって見出した。かかる多焦点性から本発明者らが予測した1つの直接的な結果は大きな焦点深度のレンズであり、それにより、近い物体をいかなる特定のレンズ形状の変化も伴わずに網膜上に映すことができる。上記モデリングから推測される別の結果は、レンズの平均屈折力が開口部の減少に伴って増加することである。したがって、本発明者らは、瞳孔収縮(これは、実際に臨床上、短焦点において観察され得るいわゆる「瞳孔反射」すなわち「短距離縮瞳(near myosis)」)により短焦点を改善することができると結論付ける。生得のレンズ双曲性から推測される別の結果は、ヒト(特に若年の)脳の自然に神経適合をし、双曲面レンズを通して網膜上に映すことにより形成された画像を正確に解釈する能力である。
【0032】
或る特定の種類の多焦点性を利用するこの視力調節機構は、おそらくは、もう少し説明を要する。
【0033】
少なくとも1つの双曲面を有するレンズは、球面収差とは反対の「双曲面収差」を示し、すなわち、中心部を通って入射する光線をレンズに最も近い焦点へと屈曲させ、その焦点は、光線がレンズの中心部からレンズの周辺部に向かって増加する距離で入射するためレンズから徐々に遠くなる。
【0034】
したがって、双曲面を有するレンズは正の多焦点であり、すなわちその中心部において最短の焦点距離(すなわち、最も高い屈折力)を有し、焦点距離は中心部からレンズ周辺部に向かって増加する(すなわち、屈折力が減少する)。双曲面レンズの焦点領域はむしろ大きく、いわゆる円錐定数又は双曲面形状を規定する形状パラメータによって制御可能である。
【0035】
双曲面を有するレンズにおける屈折力の分布の例を図2に示し、図中、ジオプトリm-1で示される局所屈折力は、mmで示される光学軸からの距離に対してプロットされる。
【0036】
本発明者らは、本発明者らの研究に基づき、正の多焦点性及びその生得のレンズにおける変化が幾つかの方式で眼の視力調節を補助すると想定する。
【0037】
生得のレンズは、レンズの焦点領域が及ぶ全ての距離の視野の全ての物体の画像を同時に網膜上に映す。これは、全ての物体が(我々の脳が抑制するように学習する多くの焦点の合っていない画像を伴って)焦点の合った画像を作り出すことから、眼の焦点の深度を実質的に増加する。
【0038】
生得のレンズは、調節によりその双曲性を増し、これは、レンズの焦点領域を更に増加し、したがって焦点の深度を更に遠くする。
【0039】
眼は、瞳孔を狭くすることによって近い物体に焦点を合わせることを補助する。このいわゆる「瞳孔反射」又は「短距離縮瞳」は、2つの結果を有し、すなわち、1つは、開口部を減少することにより光学システムとしての眼の焦点の深度を増し(開口部を狭くすることで、軸から遠くにあり、軸に対して鋭角で入射する光線を遮断する)、そして、最も高い屈折力でその中心部のみを使用することによってレンズの平均屈折力を増加する。
【0040】
短距離縮瞳は、双曲面収差を有する、すなわち、正の多焦点性を有するレンズのみに対して短焦点を補助できることが本発明者らの研究から明らかである。単焦点放物線型レンズではほとんど効果がなく、負の多焦点性を有するレンズでは逆効果であり、すなわち、球形又は楕円形(例えば、メニスコイド)のレンズは、短焦点に必要なより強力なレンズよりもむしろ短距離縮瞳によってより低い屈折力を有するより弱いレンズとなる。
【0041】
本発明による人工レンズは、生得の水晶体と置き換えるためのヒト眼の後眼房へと埋め込み可能なハイドロゲルデバイスである。本発明による人工レンズは、先の試みが或る状況下でもたらしたであろう問題を生じることなく、生得のレンズの必須の生理学的機能及び光学機能を模倣又は複製するように設計される。これは、より成功する可能性が低い、個別に又は異なる組合せで、以前に適用された可能性のある特徴の新規な思慮深い組合せにより達成されると認識することが重要である。また、生得のレンズは、単一の特徴よりも、その均衡のとれた特徴の組合せによりその機能を達成する。
【0042】
全体的な機能に寄与し、本発明によって組み合わせられる特徴は、インプラントのサイズ及び形状、材料特性、表面特性、光学特性、埋め込み方法、及び製造方法を含む。本発明者らは、以下に様々な特徴を記載し、いかにして個々の特徴が相互作用して有益な効果をもたらすかという構成の例を提供する。インプラントは、記載される特徴の幾つかを組み合わせて所望の効果を達成し得るが、本発明は、以下に記載される構成の例に限定されず、特徴の様々な組合せを含むと認識するのが重要である。
【0043】
図3A及び図3Bを参照すると、インプラントは、中心光学部分2及び周辺支持部分3とともに主光軸1Aを有する。インプラントの全体形状は、その前面4、後面5、並びに前面及び後面それぞれの上部境界7Aと上部境界7Bとの間の遷移面6により画定される。各面は2以上の面で構成される。前方中心光学面8Aは境界9Aを有し、中心後方光学面8Bは境界9Bを有する。各面は、円形、直線、又はそうでなければ規定の形状である、それらの間の境界(図5A図5Cにおいて13A及び13Bで示す)によって2以上の区域に分けられてもよい。中心前方光学面の頂点10A及び中心後方光学面の頂点10Bは、主光軸1A上に位置される。前方周辺部支持面は11Aであり、後方周辺部支持面は11Bである。
【0044】
境界7A及び境界7Bは、それぞれ、前面4及び後面5の頂部の切れ目として区別することができる。かかる切れ目は、光学軸方向にある面の変曲点にあるか、又は、光学軸方向にある面の二次導関数の不連続点にある。境界は、曲線的であってもよく、連続していてもよいが、有利には、鋭い縁部又は鋭角で形成される。鋭角の利点は、水晶体嚢表面に沿って線維芽細胞等の細胞の遊走(後嚢混濁の通常の原因)に対する障害を形成することにある。
【0045】
レンズ全体の直径は、境界7A及び境界7Bのより大きな直径として定義される。レンズ光学部の直径は、境界9A及び境界9Bの最も小さい直径として定義される。後方サジタル深度は、後方頂点10Bと後方境界7Bを画定する平面との間の垂直距離である。中心厚さは、頂点10Aと頂点10Bとの間の距離である。前方深度は、前方頂点10Aと前方境界7Aを画定する平面との間の垂直距離である。
【0046】
主光軸1Aは、境界7A及び境界7B、また同じく境界9A及び境界9Bが光学軸に対して垂直な平面にある円によって画定される場合、また、中心光学部分2が対称であって、例えば、いかなる円柱形の構成要素も有しない場合、対称軸であってもよい。対称な円形フットプリントを有するかかるインプラントを図3Bに示す。しかしながら、縁部及び境界は、円形フットプリント以外のもの、例えば、図4Aに示される楕円形のフットプリントを有してもよく、又は単一の、2つの、3つの又は4つの端部の切断(truncating cut)12A〜12Dを含む図4B図4Eにおける端部が切断された円として形作られたフットプリントを有してもよい。これらの端部が切断されたフットプリントの形状は、幾つかの目的を果たす。
【0047】
これらのフットプリントは、埋め込みの間、レンズの後ろの空間へのより良好なアクセスを提供する。外科的切開を閉じる前にあらゆる粘弾性ポリマー若しくは潤滑剤、又は他の助剤を除去するため、この空間を清潔にしておくことが重要である。
【0048】
これらのフットプリントは、IOL周辺で水晶体嚢が収縮した後のレンズの回転を抑制する。これは、特に円環レンズに重要である。
【0049】
これらのフットプリントは、折りたたみ及び小さな切開による挿入を容易にする。
【0050】
光学系が、円柱形の構成要素を有する場合では、円柱軸1Bは、外側縁部の非対称に関して規定される方法、例えば、図4Fに示される端部の切断12A及び12Bに対して角度αで配置される。端部の切断12A〜12Dは直線の切断でなくてもよいことは言うまでもないが、好適には、例えば、三日月形状に形成されてもよく、それらの数は4よりも多くてもよい。また、端部の切断は、同じ長さでなくてもよく、対称に配置されなくてもよい。切断された縁部を有するフットプリントは、インプラントの折りたたみ、及び小さな外科的切開によるインプラントの挿入を容易にすることがわかる。さらに、非対称の縁部フットプリントは、一旦、その周囲に水晶体嚢が定着するとインプラントの回転を抑制する。これは、乱視を補正するように設計された円柱形構成要素を有する円環レンズに特に重要である。
【0051】
後面5は、生得のレンズの後面の形状及びサイズに近似するように、また眼の後嚢の少なくとも主要部との接触を達成するような形状及びサイズとなる。これは幾つかの理由のため重要である。
【0052】
インプラントは、最適な光学性能のため後嚢をその生得の形状で、しわがなく、平滑に保つ。
【0053】
水晶体嚢とインプラントとの間の密な接触は、後嚢混濁を引き起こし得る線維芽細胞の遊走を抑制し、これは、後面が高度に水和され、負の固定電荷を保有する場合に特に効果的である。
【0054】
インプラントは、生得のレンズの後方側面によって空いた空間を占めて、硝子体が前に進むのを防ぎ、それにより網膜に対する硝子体の圧力の減少(これは、網膜剥離及び/又は嚢胞様黄斑浮腫を促進し得る)を抑制する。
【0055】
インプラントと後嚢との間の密接な接触は、本明細書において後述されるように、インプラント機能を妨げる(又は更にはインプラントの位置を変え得る)後嚢の線維化及びその結果生じる硬化、混濁及び収縮を予防するため、インプラントの接触面が親水性であり、負の固定電荷を保有する場合に特に有益であることに留意されたい。
【0056】
本発明の好ましい実施形態では、後面5の少なくとも主要部が、一般的には、光学軸の周りの円錐断面の回転により形成される平滑な凸面であるか、又はかかる面の組合せによって形成される。周辺部は、好ましくは、円錐面又は双曲面により形成され、一方で、中心光学面は、好ましくは双曲面、放物面又は球面(又はそれらの組合せ)である。後面のサジタル深度(すなわち、主光軸1A上で測定される後方中心光学面の頂点10Bと後面の境界7Bとの間の垂直距離)は、レンズがその機能を良好に発揮するため1.1mmより大きくなくてはならない。屈折範囲全体で良好に発揮するため、後方サジタル深度は、1.25mmより大きく、有利には1.75mmより大きく、好ましくは2mmより大きくなくてはならないが、いずれにしても約2.75mm未満でなくてはならない。
【0057】
インプラント(LOD)の全外径は、その中心性、位置安定性及び水晶体嚢充填能力に重要である。後面5の外径、すなわち、(主軸1Aに対して垂直な平面における)後方外部境界7Bの最大寸法は8.4mmより大きく、望ましくは少なくとも8.9mm、好ましくは少なくとも9.2mmでなくてはならない。許容される最大外径は、約11mmであるが、望ましくは10.75mmを下回り、好ましくは10.5mmより小さくなくてはならない。外形寸法におけるかなりの柔軟性は、幾つかの要因、すなわち、レンズの柔軟性、並びに特に中心光学部分2を変形せずに様々な後嚢サイズ及び水晶体嚢収縮を調節することができる外周支持部分3の柔軟性によって可能とされる。
【0058】
中心光学面は、異なる幾何学を有する1以上の区域からなってもよい。上記区域は、同心であってもよく、その場合、図5Aにおけるそれらの間の後方境界13Bは円形となる。また、区域は、直線の境界によって分割されてもよく、その場合、区域は三日月形又はくさび形のフットプリントを有してもよい。様々な例を図5A図5Cに示す。上記区域は、前方光学面上にあってもよく、後方光学面上にあってもよい。図5Aは、後方光学面が境界13Bによって2つの同心光学部、すなわち、中心光学部8B1及び外側光学部8B2に分けられることを示す。例えば、中心光学部8B1の後方光学面は、はっきりとした近見視力に使用される球面又は放物面の区域であってもよく、一方で、双曲面外部領域は、中間及び遠見視力に役割を果たす。代替的には、両方の区域は、異なる中心半径Ro及び/又は異なる円錐定数を有する双曲面を有してもよい。また、各光学面は、3以上の区域に分けられてもよい。図5Bにおける実施例は、前方光学面8Aが直線境界13Aによって等しい領域8A1及び領域8A2の2つの光学部に分けられたレンズの上面図を示す。それらの区域の各々が、異なる光学パラメータを有する異なる形状を有する。図5Cの実施例は、2本の直線境界13A及び直線境界13Bにより4つの対となる光学部8A1及び光学部8A2に分けられ、各々が異なる領域及び異なる光学パラメータを有する、前方光学面8Aを有するレンズの上面図を示す。例えば、8A1は、8A2よりも高い屈折力を有してもよく、短焦点の役割を果たしてもよい。上記区域の1つは、円柱形構成要素を有してもよい。
【0059】
両方の光学面(又はそれらの区域若しくは区分)は、光学軸に沿った円錐断面の回転によって、又はそれらの組合せによって形成される面である。光学面の1つ又は両方が1又は複数の球面光学部を含んでもよい。少なくとも1つの光学面が、好ましくは外側光学部において少なくとも1つの双曲面を備えることが有利である。両方の光学面が、少なくとも1つの双曲面区域をそれぞれ備えることが好ましい。かかる双曲面は、NCLの表面に似て、その有益な光学特性の一部を模倣する。後方光学面及び前方光学面のいずれもが双曲面又は2以上の同中心の双曲面区域の組合せであることが更に好ましい。少なくとも1つの双曲面を有するレンズは、球面、楕円面又はメニスコイド面を有するレンズの球面収差と正反対のいわゆる双曲面収差を有する。双曲面収差を有するレンズは、中心部で最も高い屈折を有し、光学軸からの距離に伴って徐々に減少する(球面収差を有するレンズでは、屈折力は光学軸からの距離に伴って増加する)。双曲面収差は、上述の幾つかの機構を通して眼の視力調節を補助する。
【0060】
NCLの光学特性を模倣するため、前方光学面及び後方光学面の円錐定数を、中心光学部分2の屈折力が、概して、光学軸において最も高い値から中心光学部分2の周辺部において最も低い値まで減少するように選択する。
【0061】
光学軸からの距離に伴う屈折力の峻度の減少は、双曲面の形状パラメータ(円錐定数)に依存する。円錐パラメータは、屈折力の平均減少が−0.25Dpt/mm〜−3Dpt/mm、有利には−0.5Dpt/mm〜−2.5Dpt/mm、好ましくは約−1Dpt/mm〜−2Dpt/mmであるように選択されなくてはならない。
【0062】
後方中心曲率半径(光学軸が後方頂点と交差する点における)は、有利には2.5mm〜8mm、好ましくは約3.0mm〜5mmである。後面の円錐定数は、有利には、NCLについて報告される約+3〜約−14、好ましくは約−1〜−8の範囲から選択される。
【0063】
前方光学面8Aの中心半径Roは、約+3mmよりも大きいか、又は約−3mmより小さく、好ましくは約+5mmより大きいか、又は約−5mmより小さくなるように選択される。
【0064】
前方光学面8Aの円錐定数は、ヒトNCLより報告される+6〜−22の範囲、好ましくは約−1〜−8の範囲から選択される。
【0065】
前方光学面8Aは、部分的又は全体的に球面又は放物面によって形成されてもよい。その場合、中心後方光学面8Bは、好ましくは、レンズ全体が双曲面収差を有するような範囲において選択された円錐パラメータを有する双曲面でなくてはならない。
【0066】
しかしながら、前方光学面8Aの少なくとも主要部は双曲面、特に外側光学部であることが好ましい。約1.5mm〜4mm、有利には約2mm〜3.5mmの直径を有する前方光学面の中心光学部は、短焦点の解像度を更に改善するため放物面又は球面により形成され得る。
【0067】
図2は、本発明によるレンズの好ましい光学プロファイルの一例を概略的に示す。当然のことながら、異なる眼は、異なる屈折力の埋め込み式レンズを必要とする。
【0068】
現在のIOLの大半は、それらがNCLの単なる基本的な光学機能を擬態するように、すなわち、網膜上で遠くの物体に焦点を当てるために必要な基本的な屈折力を提供するように設計されることから、生体類似型ではない。具体的な眼に応じて、基本的な屈折力は、通常、いずれかの側面に対する幾らかのばらつきを伴って、15Dpt〜30Dptである。NCLの主平面近くに位置する実質的に単焦点(通常、球形)の剛性レンズによってこの要件を満たすことができる。最も詳細な画像は光学軸に位置する網膜の比較的小さい部分(黄斑)に映され、また我々の活動の多くが小さな眼開口部(縮瞳)で行われることから、大半のIOLはNCLよりも顕著に小さい(NCLについて9.5mm〜10.5mmに対して、大半のIOLについて4.5mm〜6mm)。小さいサイズの光学系は、かかるIOLが小さな切開による埋め込みにより容易に適合することから、幾つかのIOL製造業者によって好まれる。同じ理由で、大半のIOLは、変形した(折りたたまれた、巻かれた等)形状で小さな切開を通して埋め込みを可能とするため軟質の弾性材料から作製される。しかしながら、この変形能は光学機能とは何ら関係はない。
【0069】
しかしながら、小さいサイズの光学系はその不利益を有する。IOLの端部は大きく開いた瞳孔(例えば、夜間の運転中)において光を反射する場合があり、グレア、ハロー及び他の悪影響をもたらす可能性がある。さらに、小さな光学系は、特に大きく開いた瞳孔において、NCLが映すような全ての周辺及び軸外の光線を映すことができない。最後に、小さいサイズの光学系は、時に診断及び治療に必要とされる網膜周辺部の鮮明な視感度を妨げる。これらの理由のため、NCLに類似するサイズの大きな光学系が、大半の現在のIOLにおいて使用されている小さなものよりも好ましい。重要なことには、大きな光学部全体が、光学的に有用となる明確に定義された幾何学を有しなければならない。メニスコイド光学面を有するレンズは、特に周辺領域において画定が不十分な形状を有する。これは、予想外の憂慮すべき光学現象を引き起こす可能性がある。
【0070】
現在の幾つかのIOLは、或る程度、NCLの視力調節又は疑似視力調節(pseudoaccomodation)を擬態するように設計される(すなわち、遠い及び近い物体の両方に眼が焦点を合わせることを可能とする)。様々なIOLがこの目標を達成するための種々の手段を使用し、すなわち、或るものは二重焦点、多重焦点、又は多焦点の光学系を使用し、他のものは眼に関してIOL光学系の前方−後方シフトを可能とする設計を使用するか、又は2つのレンズ間の相互位置を変更することにより光強度の変化を可能とする。幾つかのレンズは、毛様体筋及び/又は硝子体の圧力、頭部位置の変化又は小型ポンプによって制御されるレンズ内の液体の移動により屈折力を変化するものさえある。
【0071】
これらのデザインは、時にはむしろ複雑な仕掛けであり、サイズ、形状及び材料特性においてNCLとは全く異なる。これは、IOLを、水晶体嚢の線維化、又はそれらの機能を妨げる表面上での細胞の内方成長若しくはタンパク質堆積等の様々な問題の影響を受けやすくする。さらに、それらの嵩の増加及び複雑なデザインは、全ての現在のIOLの小さな切開により埋め込み可能とする要求を妨げる。これは、直径の小さな光学系による設計、及びNCLよりも屈折性の高屈折率を有する材料の使用を必要とし、グレア及びハローの問題を増加する。
【0072】
殆どの場合には、これらのレンズは、その光学系を光路の中心に位置するため小径、典型的には4.5mm〜6mmの細長い、柔軟な「ハプティック」を有する光学系を使用している。さらに、変形性の材料を使用して、小さな切開による埋め込みのため折りたたみ又は巻き取りを可能とする。かかるIOLの表面特性は、時にはより優れた生体適合性を達成するため修正される(例えば、米国特許出願公開第2012/0147323号においてA. M Domschke、米国特許出願公開第2008/0003259号においてSalamone et al)。
【0073】
この共通のデザインは、比較的小さな切開(通常、2mm〜3mm)による埋め込みのためIOLを折りたたむことを可能とする。しかしながら、小さなIOLサイズはそれ自体の欠点を有する。
【0074】
直径6mm以下の小さな光学系は、眼の開口部が乏しい光条件のために大きい場合(夜間グレア、ハロー、限定された周辺視野等をもたらす)、又はIOLが偏心する場合(「サンセット症候群」又は他の問題をもたらす)、直径9mm〜10.5mmの水晶体を完全に置き換えられない場合がある。
【0075】
小さな光学系は、NCLが映す全ての周辺部及び軸外の光線を映すことができず、そのため、特に、(例えば、夜間の周辺視野に必要な)大きく開いた瞳孔において画像化性能を減少する。
【0076】
小さな光学系は、(特に糖尿病の場合に重要となり得る)網膜の検査及び治療を複雑にするか、又は阻む場合さえある。
【0077】
さらに、小さなIOLサイズは、本来、はるかに大きなNCLによって占められていた空間を原則的に空いたままにする。その結果、硝子体を前進させ、網膜に対する硝子体の圧力を部分的に和らげる。これは、J.A. Rowe, J.C. Erie, K.H. Baratz et al. (1999). "Retinal detachment in Olmsted County, Minnesota, 1976 through 1995". Ophthalmology 106 (1): 154-159によって報告されるように、白内障手術後の網膜剥離の可能性の増加をもたらす場合がある。また、同じ影響は、嚢胞様黄斑浮腫(CME)を引き起こすか、又は促進する場合がある。Steven R. Virata, The Retina Center, Lafayette, Indiana: Cystoid Macular EdemaのWEBページを参照されたい。
【0078】
小さな光学系及びハプティックを有する従来のIOLデザインの別の不利益が存在する。すなわち、比較的もろいハプティックを用いて比較的空いた空間に留められる光学系を有するIOLは、事故の衝撃(滑りやすい面での転倒、車の衝突、げんこつで殴られる等)の場合の損傷及び/又は偏位の影響を受けやすい場合がある。
【0079】
嵩の小さいIOL及び小径の光学系に由来する幾つかの問題は、多かれ少なかれNCLによって空いた空間を満たすIOLデザインによって扱われている。各々それ自体の利益及び不利益を有する、これに対する幾つかのアプローチが存在する。
【0080】
シリコーンゴム等の透明で柔軟な固体へと固化することができる液体による水晶体嚢の充填である。充填材料がNCLと類似の変形能を有する限り、このアプローチが生得のレンズの視力調節を回復し得ると予想された(例えば、米国特許第5,224,957号においてGasser et al.)。しかしながら、これまで使用された上記材料は、しばしば水晶体嚢の線維化及び混濁を生じる。さらに、自然の位置で形成されたIOLの形状及び光学パラメータを制御することは困難である。
【0081】
合理的に小さな切開により埋め込み可能であり、水晶体嚢を実質的に満たす、高度に変形した形状の大きな嵩高いIOLの埋め込み。このアプローチは、埋め込みのため高度に変形した形状に「凍結」することができ、体温まで加熱することにより本来の機能性形状へと戻る疎水性記憶ポリマーを用いて試された(米国特許第4,834,750号及び米国特許第RE 36,150号におけるGupta)。しかしながら、疎水性記憶ポリマーは極めて異質な材料であり、水晶体嚢を満たすため使用される材料と同じような問題をもたらす。
【0082】
また、同様のアプローチがハイドロゲルを用いて試された。実質的に生得のレンズのサイズ及び形状を模倣する非常に大きなIOLを空いた水晶体嚢に埋め込んだ(例えば、Wichterleの特許文献1及びStoyの特許文献2)。これら特定のIOLの問題は、それらの特殊な光学系であった。これらのレンズは、NCLの幾何学に強く由来するメニスコイド前方光学面を有した。メニスコイド形状は、モノマー混合物の自由面の固化により形成され、かかるIOLの光学特性の制御との問題があった。さらに、これらのレンズは、しばしば、小さな切開による埋め込みには嵩高過ぎた。さらに、これらのレンズに使用されるハイドロゲルの一部は、負の固定電荷を欠き、かかるハイドロゲルは埋め込み後、時に石灰化する傾向がある。他の水晶体嚢充填レンズ(Sulc et al.の特許文献5及び特許文献6)は、虹彩に触れる前方突出を有し、そのようにしてレンズをおよその中心位置に安定化するが、液体流動の遮断、レンズ光学系の変形及び虹彩びらん等の様々な問題をもたらした。
【0083】
別のアプローチは、埋め込み後に自然の位置での液体の固化により満たされる中空レンズ(又はレンズシェル)の埋め込みであった(例えば、米国特許第5,091,121号及び同第5,035,710号におけるNakada, et al.)。
【0084】
別のアプローチは、一方は前嚢と接触し、他方は後嚢と接触する2つのレンズを有し、2つのレンズが柔軟な部材又はコネクタによって分離されている、二重光学系IOLの埋め込みであった(米国特許第4,946,469号、米国特許第4,963,148号、米国特許第5,275,623号、米国特許第6,423,094号、米国特許第6,488,708号、米国特許第6,761,737号、米国特許第6,764,511号、米国特許第6,767,363号、米国特許第6,786,934号、米国特許第6,818,158号、米国特許第6,846,326号、米国特許第6,858,040号、米国特許第6,884,261号)。
【0085】
本来の水晶体嚢全体を本質的に充填するかかるインプラントもまた、幾つかの問題を有する。
【0086】
NCLと類似の水和及び負電荷を有する非常に生体適合性の材料から作製されない限り、IOLの前面は虹彩に触れて、虹彩のびらん、脱色素、出血又は炎症を引き起こす場合がある。
【0087】
幾つかの材料は、高い平衡含水量を有することにより、より生体適合性とされる。しかしながら、上記材料の屈折率を最適値(若年のNCLに対する値)からほど遠くまで減少する。
【0088】
IOLに重要なのは形状及び光学系の種類のみならず、その材料である。NCLは、水、塩、並びにコラーゲンタンパク質、多糖、及びプロテオグリカンを含有するポリマー成分を含む複雑な生得のハイドロゲル構造で構成される。重要なことに、上記ポリマー成分は、カルボキシレート又はスルフェート等のかなりの濃度の酸性イオン性基を含有する。これらの基は、レンズ材料に負の固定電荷を提供する。水和及び負電荷は、NCLと眼内液中のタンパク質との相互作用に影響を及ぼす。さらに、その表面特性は、レンズと細胞との相互作用に影響を及ぼす。負の固定電荷を有する表面を含む合成ハイドロゲルは、タンパク質及び細胞を引きつけず、ハイドロゲルを石灰化に対してより抵抗性にし(Karel Smetana Jr. et al, "Intraocular biocompatibility of Hydroxyethylmethacrylate and Methacrylic Acid Copolymer/Partially Hydrolyzed Poly(2-Hydroxyethyl Methacrylate),"Journal of Biomedical Materials Research (1987) vol. 21 pp.1247-1253)、免疫系によって異物と認識されない(Karel Smetana Jr. et al, "The Influence of Hydrogel Functional Groups on Cell Behavior", Journal of Biomedical Materials Research (1990) vol. 24 pp. 463-470)ことが知られている。多くのIOL製造業者は、カルボキシレートがカルシウムイオンを引きつけることにより石灰化をもたらすという推測に基づいてカルボキシレート基を有する材料を避けているが、カルボキシレート基を含有するハイドロゲルIOLに対する幾つかの参照文献が存在する(Wichterleの特許文献1、Sulc et al.の特許文献5及び特許文献6、米国特許第5,939,208号におけるStoy、特許文献4におけるMichalek及びVacik)。
【0089】
カルボキシレート基は、例えば、Stoyの'208及びSulc et al.の米国特許第5,158,832号に記載されるように、ハイドロゲルに均一に分散するか、又は膨張及び電荷密度の勾配を形成する表面上で主に濃縮され得る。典型的には、NCL材料は、平均で約66重量%の水を含有する。しかしながら、NCLは、より緻密なコアとより水和したジャケットとで構築され、NCLの水和は年齢と共に、また個体ごとに変化する。したがって、平均以外の単一の水分含有量の値をNCLに当てることはできない。
【0090】
同様に、NCLの様々な層は異なる屈折率を有する。レンズの屈折率は、中心層でおよそ1.406からレンズのより密度の低い層で1.386まで変化する。例えば、Hecht, Eugene. Optics, 2nd ed. (1987), Addison Wesley, ISBN 0-201-11609-X. p. 178を参照されたい。したがって、光学的に意味のある平衡屈折率、すなわちERI(equivalent refractive index)は、NCLの特性として与えられる。屈折率及び水分含有量はいずれもレンズの年齢と共に変化する。誕生時に約1.441から70歳で約1.414まで減少する、平均ERI=1.441−3.9×10-4×年齢。M. Dubbelman et al. "The Shape Of The Aging Human Lens: Curvature, Equivalent Refractive Index And The Lens Paradox", Vision Research 41 (2001) 1867-1877の図9を参照されたい。
【0091】
さらに、ERIは視力調節に伴って1ジオプトリ当たり約0.0013〜0.0015増加する。M.Dubbelman et al, "Change In Shape Of The Aging Human Crystalline Lens With Accommodation", Vision Research 45 (2005), 117-132Ref pp. 127-128を参照されたい。屈折率のこの変化は、視力調節中のレンズ変形による水分含有量の変化(減少)に関連すると推測できる。別段の記述がない限り、これらの複雑な関係を無視して、本発明者らは平均ERI=1.42を使用する。
【0092】
同じ水分含有量を有すると同時にNCL材料と同じ屈折率を有する合成ハイドロゲルを見出すことは不可能でないにしても、困難であることは興味深い。具体的には、66重量%の水を含有する合成ハイドロゲルは、典型的には、50%に近い水分を含有するハイドロゲルに予測され得る1.42の屈折率ではなく約1.395の屈折率を有するであろう。
【0093】
ERI=1.441(非常に若年の平均的NCL)に対する平均液体含有量は40%の水分となるのに対し、ERI=1.414(老年の平均的NCL)は、水分含有量約55重量%を有するハイドロゲルを必要とするであろう。本発明者らは、生体類似型IOL材料にはNCLの水分含有量よりも屈折率を擬態することがより重要と考えることから、本発明の例示的な実施形態に従ってIOLの望ましい平均水分含有量の範囲を40重量%〜55重量%と選択した。もちろん、これは、NCLと類似する平均水分含有量であり、レンズは、異なる水分含有量を有する様々な層、例えば、より高い屈折率を有する内部及びより低い屈折率を有する外層を有してもよい。
【0094】
多くの従来技術文献は、高い水分含有量を有するハイドロゲルによるIOLに言及するが、水分含有量と屈折率の値との関係を認識していない。例えば、Wichterleの特許文献1は、望ましい屈折率の値は1.4程度と述べている(概ね1.37〜1.45であるが、これは指定される水分含有量を有する既知の合成ハイドロゲルには明らかに不可能であり、少なくとも60%、好ましくは65%〜70%が1.39〜1.405の屈折率の範囲となる)。実施例は、低含有量のカルボキシレート基を有する処方を示す。
【0095】
Sulc et al.の特許文献5及び特許文献6は、その表面又はその一部において、少なくとも70%、有利には少なくとも90%の水分含有量を開示し、従来技術のIOLにおいて55%〜70%の水分含有量に言及する。より高い屈折率のコア及びより低い屈折率のケーシングが言及され、コアはフレネルレンズの形態を有してもよい。水和及び屈折率の両方の勾配は、任意に、ハイドロゲル共有結合ネットワークの再編成を達成するNaOH処理により得られる。この参考文献の実施例1は、水分含有量88.5%のIOLを示し、実施例2は水分含有量81%のIOLを示し、実施例4は水分含有量91%のレンズを示す。実施例3については、水分含有量は示されていない。
【0096】
米国特許出願公開第2009/0023835号においてCharles Freemanは、水分含有量55%未満及び1.41超の屈折率及び約16マイクロ当量−mm/hr/cm2〜約20マイクロ当量−mm/hr/cm2の範囲のナトリウムイオン流量を有し、特に水晶体の後眼房IOLに有用なハイドロゲル材料を記載する。カルボキシル基又は酸性基には何ら言及されていないが、それらの基の存在は、ハイドロゲルを通るイオン拡散流を増加すると知られている。
【0097】
NCL材料のハイドロゲル性質は、幾つかの可能性のある、より自明ではないが、潜在的に重要な結果を有し、すなわち、その水分含有量はレンズに対する圧力に依存する。その結果として、遠距離に調整されたNCLは、近い物体に調整された弛緩したレンズとは異なる水分含有量を有し、したがって、異なる屈折率を有し得る。遠距離に調整されたNCLにおける負荷は均一に分散されないことから、膨張の勾配及び屈折率の勾配が生じ得る。これは、NCL表面の多焦点性に加えて、光学特性の微妙な変化を生み出す。これらの微妙な変化は、我々の視覚に重要な可能性があり、NCLのものと類似の物理化学的特性及び光学特性、また同じくNCLのものと類似する幾何学のハイドロゲルを使用しなければ、その微妙な変化を複製することは困難であろう。特に、NCLの代用品のハイドロゲルは、同様の屈折率、及びNCLに対して作用することが合理的に予想され得る外部負荷によって水分含有量を変化する能力を有しなければならない。したがって、生体類似型IOLに使用されるハイドロゲルは、水に対して水力学的流動能力を有しなければならない。
【0098】
したがって、少なくとも後嚢と接触するインプラントの部分は、生得のレンズを形成する組織の光学特性、親水性、及び電気化学的性質に近似する透明で柔軟なハイドロゲル材料から作製される。
【0099】
IOLの前方部分は、硝子体液の流れを妨げるか、又は遮断さえする場合があり、それによりIOPを増加し、最終的には緑内障を引き起こす。このデザインは、しばしば予防的虹彩切除を必要とする。
【0100】
NCLと同様の水和及び負電荷を有する非常に生体適合性の材料から作製されない限り、水晶体嚢と現在のIOLに使用される人工材料との間の広域の接触は、時に、水晶体嚢混濁、線維化等を引き起こす。これらの問題は、現在では本発明の生体類似型眼内レンズによって解決されている。
【0101】
中心光学部分2は、約35%〜65%、有利には約38%〜55%、好ましくは約40%〜50%の平衡水分含有量(別段の記述がない限り、全ての%は重量パーセントであり、平衡水分含有量は眼内液と平衡の水分含有量である)を有するハイドロゲル等の変形性の弾性材料で作製される。
【0102】
光学部分の変形性は、小さな切開による埋め込みとその視力調節機能の両方に重要である。光学部分は、図6Aに示されるような液体又は軟質ゲルから構成されるコアを有するハイドロゲルシェルとして構築されてもよい。図6Aは、後方ハイドロゲルジャケット14、より軟質なコア15及び前方シェル16を有するレンズの横断面図を示す。後方ハイドロゲルジャケット14は、有利には、レンズの周辺支持部分3と一体であり、少なくともその後面に負の固定電荷を含む。コア15は、有利には、鉱物油若しくはシリコーン油等の疎水性の液体から、又は軟質シリコーン若しくは当業者に容易に設計され作られ得るわずかに架橋したアクリル系ゲル等から作製されてもよい。代替的には、コアは親水性の流体又は軟質ハイドロゲルから作製され得る。前方シェル16は、後方ハイドロゲルジャケット14と同一又は異なる材料から作製され得る。
【0103】
1つの実施形態では、ハイドロゲルジャケット及び軟質コア15は、屈折の大部分がレンズの内部接触面上ではなく外部光学面上で起こるように同じ屈折率を必須に有する。これは、例えば、屈折率およそ1.42を有するシリコーン液又はシリコーンゲルからコアを作製すること、また約41%〜45%の水分の水分含有量を有するハイドロゲルからジャケットを作製することにより達成され得る。ハイドロゲルを正確に処方することにより、当業者は、ハイドロゲル中の水分含有量を調整して屈折率の実質的な一致を達成することができる。代替的には、コア及びジャケットは、材料間の内部接触面上で屈折の一部が起こるように異なる屈折率を有してもよい。
【0104】
図6Bのコア15と隣接する光学媒体16との間の内部接触面を有するレンズの横断面図は、複合レンズ、例えば、フレネルレンズを形成するように形作られる。コア15及び光学媒体16の材料は、異なる屈折率を有し、そのうち1つは、有利には、変形性及び屈折の両方を改善し得る流体である。この配置の利点は、基本的な構築材料として高水分含有量及び低屈折率を有するハイドロゲルを使用しながら、小さな切開による埋め込みを可能とする比較的低いレンズの中心厚さを達成することができることである。
【0105】
図6Cは、2つの異なる材料を含むレンズの代替的な設計を示す。後方側面14の材料は、高い水和率を有し、負に帯電した基を含有するハイドロゲルである。これは光学部分及び支持部分についても同じである。コア15の前方側面の材料は、より低い水分含有量及びより高い屈折率を有する材料である。2つの材料の接触面は屈折性である。
【0106】
中心光学前面8A及び中心後方光学面8Bは、約5.6mmより大きい、有利には、約6.5mmより大きい、好ましくは約7.2mmより大きい直径を有する。2つの光学面のより大きい方の最適な直径は、NCL光学系のサイズに近似するため約7.5mmより大きく、有利には約8mmである。かかる大きな光学系は、通常、凹凸又は平凸の中心光学部分2に適している。両凸光学部分に対して、前方光学直径は、通常、光学部分の中心厚さを最小化するためより小さく選択される。いずれの場合でも、前方光学面8Aの直径は、有利には、中心後方光学面8Bの直径よりも大きくない。
【0107】
中心光学面8A及び8Bは、必ずしも円形でなくてもよい境界9A及び9Bにより囲まれる。また、境界9A及び/又は境界9Bは、レンズの折りたたみ及び小さな切開による埋め込みを容易にするため、楕円形であってもよく、又は端部が切断された円の形状を有してもよい。非円形の光学面は、円柱形構成要素を有するレンズに特に適している。
【0108】
後方周辺部支持面11Bは、凸面、有利には、主光軸1Aと同一の軸を有する双曲面又は円錐面により形成される。この面は、カルボキシレート基、スルホ基、硫酸基又はリン酸基等の酸性基の含有量により非常に親水性であり、負の固定電荷を保有している。この水和と負電荷の組合せは、水晶体嚢への永続的な接着を抑制し、レンズと水晶体嚢との間の接触面に沿った細胞、特に線維芽細胞の遊走を抑制し、不可逆的なタンパク質吸着を減少し、水晶体嚢の線維化及び混濁を防止する。後方周辺面は、有利には、光学部への細胞遊走を更に防止する鋭角7Bにより限定される。
【0109】
前方周辺部支持面11Aは、光学軸上に位置する頂点を有する凹面であり、好ましくは軸1Aに沿って対称である。有利には、前方周辺部支持面11Aは、主光軸1Aと一致する軸を有する円錐面又は双曲面である。当該面は、有利には、細胞接着及び遊走、並びに前嚢の線維化を防止するため、非常に親水性で負の固定電荷を保有している。前方周辺面は、有利には、細胞遊走を更に防止する鋭角7Aにより限定される。
【0110】
前方周辺部支持面11A及び後方周辺部支持面11Bは、接続面6と共に周辺支持部分3の形状を画定する。周辺支持部分は、後方側面では凸状であり、前方側面では凹状であり、2つの面の平均距離は約0.05mm〜1mm、有利には約0.1mm〜0.6mm、好ましくは0.15mm〜0.35mmの範囲である。最適な距離は、水分含有量、負電荷密度、架橋密度及び他のパラメータに依存する材料の剛度に依存する。
【0111】
後面及び前面が、双曲面等の類似する幾何学面で形成される場合には、周辺支持部分3は均等な厚さを有する。図7Aに示される配置は容易に変形可能であり、様々なサイズの水晶体嚢に調整可能である利点を有し、2つの鋭角7A及び鋭角7Bは光学部への線維芽細胞の遊走を抑制する。
【0112】
また、周辺支持部分3を、それぞれ図7B及び図7Cに示されるように、縁部から中心部へとその厚さを増加又は減少することによって多少変形可能とすることができる。また、これらの図は、角7A及び角7Bの様々な代替的配置を示す。
【0113】
インプラントの前面4は、虹彩びらん、瞳孔ブロック、インプラントへの虹彩色素の移動、及び他の問題を引き起こし得る虹彩とのあらゆる永続的な接触を回避するように形作られる。また、かかる接触は、眼内液の流れを妨げるため、眼内圧の逆転をもたらす。また、かかる接触は、生得のレンズ及び本発明によるインプラントの両方によって短焦点を補助する、いわゆる近距離縮瞳を抑制するように瞳孔の収縮を妨げる可能性がある。したがって、前方中心光学面8A部分は、前方周辺部支持面11Aの凹面により、また前方境界7Aにより画定される平面下の境界9Aの位置付けにより、部分的に沈められる。中心前面8Aは、レンズの最上端(7A及び7Bより高い)が約0.25mmを超えない前方頂点10Aを有する、有利には上方縁部を全く超えず、好ましくは最上端7Aより少なくとも0.1mm下の前方頂点10Aを有する、平面、凸面又は凹面である。
【0114】
少なくとも前面4及び後面5の両方の主要部分(中心光学面8A及び8Bを含む)は、主光軸1Aの周りを1又は複数の円錐断面が回転することにより画定され、ここで、「円錐断面」の用語は本出願の目的に関する線分を含む。上記の回転により画定される面は、その軸に対して垂直な平面及び主光軸1Aにより対称な円錐面を含む。周辺支持部分は、後方側面で凸状であり、前方側面で凹状であり、2つの面の間の平均距離は約0.05mm〜1mm、有利には約0.1mm〜0.6mm、好ましくは約0.15mm〜0.35mmの範囲である。
【0115】
少なくとも1つの実施形態では、本発明によるレンズは、液体ポリマー前駆体の固化により製造される。好ましい実施形態では、固化は、固体成形型、特に疎水性プラスチック製の成形型との接触で起こる。ポリマーの表面微細構造は、その固化が起こる環境に依存することがわかる。表面微細構造は、固化が固液界面で起こる場合と液液界面又は液気界面で起こる場合とで異なることがわかる。少なくとも全ての光学面は、固体界面上での前駆体の固化により作られることが好ましい。インプラントの面全体が、固体面、特に疎水性プラスチック面に対する液体前駆体の固化により形成されることが更に好ましい。成形型に好ましいプラスチックは、ポリオレフィンであり、特に好ましいプラスチックはポリプロピレンである。ポリオレフィンは低極性を有し、ハイドロゲル前駆体として使用される高極性のモノマーと低い相互作用を有する。同様に、液体前駆体の固化により形成されるハイドロゲルは、成形型表面に対して非常に低い接着を有し、顕微鏡レベルの表面損傷さえも伴わずにきれいに離すことができる。これは、インプラントの光学特性と長期の生体適合性の両方に対して重要である。
【0116】
正確な形状の比較的大きなレンズをモルディングにより製造することは困難である。液体前駆体のいかなる固化も、20パーセントを超えることもある体積収縮を伴うことが当業者に認識される。一定の体積の閉鎖成形型では、かかる収縮は、内部成形表面の複製を抑制し、液胞、気泡の形成、表面の変形及び他の欠陥をもたらす。これは、上記のメニスカスキャスティング法をIOLモルディングに使用した主な理由である。他の発明者らは、体積収縮により生み出される吸引により過剰量のモノマーを隣接する空間から輸送することを可能とする方法及び成形型デザインを記載した(Shepherd T.の米国特許第4,815,690号)。しかしながら、この方法は、液体前駆体が架橋重合により低転換(例えば、5パーセント〜10パーセント)でゲル化(gellifies)する場合には使用することはできない。
【0117】
本発明者らは、体積収縮の補償、すなわち、或る特定の成形型部分の変形による内部成形用キャビティー体積の減少に対する異なる方法を見出した。図8に示される成形型は、2つの部分18Aと部分18Bとで構成され、部分18Aは前面4を成形するため使用され、部分18Bは後面5を成形するため使用される。
【0118】
部分18Bの形状面19Bは、レンズの後方光学面8Bを形成するのに必要な形状を有する。成形面の周辺部22Bはレンズの直径よりも大きな直径を有し、有利には双曲面又は円錐の形状を有する。
【0119】
部分18Aは、レンズの前方光学面8Aを形作る中心部21Aと、レンズの直径よりも大きな直径の周辺部22Aとに分割される形状面19Aを有する。周辺部22Aは、有利には双曲面又は円錐の形状を有する。周辺面22Aは、実施的には部分18Bの対応する面22Bに平行である。
【0120】
成形部分18A及び18Bの直径は、レンズの直径よりも実施的に大きく、有利にはそれらは同じである。22A又は22Bに対する面のうち1つは、レンズの面6の幾何学に対応する内面を伴う比較的薄く、変形性のバリア20を備える。部分20の高さは、典型的には約0.05mm〜1.3mmであり、その厚さはその高さよりも小さい。部分20のプロファイルは、有利には、くさび状であるか、又は三角形である。部分20の面の少なくとも1つは、有利には光学軸1Aに対して平行である。バリア20は、部分18A及び18Bから分離されてもよいが、有利には、それらのうち1つの一体部分である。有利には、この部分20は、凹面22B上に位置する。好ましい操作様式では、液体前駆体をバリア20に届くようにわずかに過剰量で凹状成形部分18Bに充填し、その後、部分18Aで覆う。成形型は、部分18Aと部分18Bとの間の唯一の接触が部分20を介するように構築される。前駆体の固化は、その収縮及びその結果として生じる成形用キャビティー内の減圧を生じる。低い変換においては、追加の液体前駆体を成形用キャビティーへと引き込む。架橋によりゲル化点に一旦到達すると、前駆体はそれ以上流れない。減圧は、部分20の変形及び部分18Aと部分18Bとの間の距離の減少、また、その結果として生じる成形用キャビティー体積の減少をもたらす。本発明によるIOL用の二部式成形型は、好ましくは、ポリオレフィン、有利にはポリプロピレンから射出成型により作製される。
【0121】
本発明に好ましい液体前駆体は、架橋剤、開始剤及び当業者によく知られている他の成分を含むアクリルモノマー及び/又はメタクリルモノマーの混合物である。好ましい前駆体組成物は、アクリルモノエステル及び/又はメタクリルモノエステルとグリコールのジエステルとの混合物を含み、モノエステルは親水性成分であり、ジエステルは架橋剤である。また、好ましい前駆体は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸又はその塩を含む。また、液体前駆体は、有利には、メタクリロイルオキシベンゾフェノン(MOBP)等の重合性二重結合を有するUV吸収分子を含む。他の可能性のある誘導体又はアクリル酸若しくはメタクリル酸は、それらのエステル、アミド、アミジン及び塩である。
【0122】
また、ハイドロゲル構造の一部は、カルボキシレート基、硫酸基、リン酸基又はスルホン酸ペンダント基等の負電荷を持つイオン性基である。イオン性基は、メタクリル酸又はアクリル酸等のかかる基を持つ適切なモノマーとの共重合により導入され得る。この場合、イオノゲン官能性(ionogenic functional)は、ハイドロゲル中に均一に分散する。主に膨張及び電荷密度の結果として生じる勾配を有する面上に濃縮されたイオノゲン基を有するハイドロゲルが特に有利である。かかる勾配を、成形したレンズの後処理、例えば、Stoyの‘208、並びにSulc et al.の特許文献5及び特許文献6に記載される方法によって作り出すことができる。
【0123】
他の方法として、例えば、レンズ表面にイオノゲン基を含むモノマーのグラフティングが挙げられる。高濃度のイオノゲン基を含有するようにレンズ表面の幾つかのみを処理してもよく、又は上記表面のその異なる部分を異なる方法で処理してもよいことが理解される。
【0124】
本発明によるレンズは、変形した、部分的に脱水された状態で埋め込まれてもよい。制御された部分的な脱水は、塩化物、硫酸塩、若しくはリン酸マグネシウム等の生理学的に許容可能な塩、又はナトリウム若しくはカリウム等の一価イオンの好適に高張な水溶液とレンズを接触させることにより達成され得る。塩濃度を調整して、液体の約15重量%〜25重量%の水和を達成することができる。高張溶液中のレンズを、有利には、オートクレーブによって滅菌することができる。
【0125】
小型化された切開による埋め込み用のハイドロゲルレンズを調製する別の方法は、可塑化されたハイドロゲルが周囲温度を上回るが、眼の温度を下回る軟化点を有するように、グリセロール又はジメチルスルホキシド等の非毒性の有機水混和性溶媒によるハイドロゲルの可塑化である。かかる組成物及びプロセスは、この参照により本明細書の一部となるSulc et alの米国特許第4,834,753号に記載される
【0126】
本発明の少なくとも1つの実施形態によるレンズは、有利には、一時的に組織に付着するように浸透圧非平衡状態で埋め込まれる。浸透圧非平衡は、後嚢に対して付着することによりレンズを中心に置くことを可能としながら、水晶体嚢がレンズの周囲で収縮する。レンズが水晶体嚢により展開されると、その位置が安定化される。浸透圧非平衡は、様々な方法、すなわち、埋め込み前にレンズを高張な塩溶液、例えば、10重量%〜22重量%、有利には15重量%〜19重量%のNaClの溶液中に浸漬すること、埋め込み前にグリセロール若しくはジメチルスルホキシド等のより低濃度の水混和性溶媒により水を置換すること、又はイオン性基が完全にイオン化されていない状態、すなわち、中和前の酸性状態でレンズを埋め込み、体液に由来する陽イオンにより自然の位置で自発的に中和を進行させることにより達成される。レンズは、埋め込みの数時間から数日後の間に自発的にその浸透圧平衡を達成する。
【0127】
レンズ形状は、好ましくは閉鎖型の二部式成形型におけるメタクリル酸エステル及び/又はアクリル酸エステルと塩との架橋共重合によって形成される。
【0128】
レンズの一部分を除去することにより、例えば、支持部分の一部を切断することにより、光学部の外側のレンズに穴をあけること等により、成型後にレンズの形状を調整することができる。形状の調整は、ハイドロゲル又はキセロゲル(すなわち、非水和)の状態で行われ得る。本発明者らは、負に帯電したハイドロゲル材料は、超音波水晶体乳化吸引、焼灼又はフェムト秒レーザー治療等の生体組織(NCRを含む)に対して主に開発された方法の使用をも可能とすることを見出した。これらの方法は、完全に水和されたハイドロゲルの状態であっても形状調整を可能とする。フェムト秒レーザーは、例えば、乱視を補償するための屈折性の円柱形レンズとして、レンズにおける新たな屈折性部材を形成するため使用され得るハイドロゲルレンズ内のキャビティーの形成に使用されてもよい。形状調整により(例えば、レーザー処理により)取り除かれた物質が水溶性であって実質的に非毒性である場合、かかる光学調整は、おそらくは自然の位置で手術後でも達成され得る。少なくともレンズの処理された部分のハイドロゲルの組成は、有利には、ポリメタクリル酸のエステルに基づかなくてはならない。かかるポリマーは、可溶性が高く、低毒性の拡散しやすい化合物であるそれらの親モノマー(2−ヒドロキシエチルメタクリレート又はメタクリル酸等)へと脱重合できることが知られている。ポリアクリレート、ポリビニル化合物又はポリウレタン等の他のポリマーは、この利点を有しない。
【0129】
本発明の範囲の限定を伴うことなく、追加の情報を提供することを意味する下記実施例により、本発明を更に説明する。
【実施例】
【0130】
実施例1:
下記モノマー混合物を調製した:98重量部の2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、0.5重量部のトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、1重量部のメタクリロイルオキシベンゾフェノン(MOBP)、1重量部のメタクリル酸、0.25重量部のカンファーキノン(CQ)及び0.05重量部のトリエタノールアミン(TEA)。当該混合物を、二酸化炭素を使用して脱気し、18Bが後方レンズ面を成形するための成形型の部分であり、18Aがレンズ面の前方部を形作るための成形型の部分である図8に模式的に示される二部式プラスチック成形型に充填した。いずれの部分もポリプロピレン(PP)から射出成型される。部分18Bの形状面19Bは、2つの同心双曲面により形成される形状を有する。当該面の中心部は直径3mm、中心半径3.25mm及び円錐定数−3.76を有し、一方、周辺部は中心半径3.25mm及び円錐定数−6.26を有する双曲面である。成形型の表面は、非対称な三角形プロファイルを有する直径8.5mm、高さ0.2mmの突き出た円形バリア20を備える。この縁部は、図3Aの接続面6を形作るように設計される。
【0131】
部分18Aは、直径6.8mmの中心部21と直径13mmの周辺部22Aとに分けられる形状面19Aを有する。周辺部は、中心半径3.25mm及び円錐定数−6.26を有する双曲面により形成される。周辺部双曲面は、部分18Bの対応する面に対して平行である。部分18Aの中心部は−20mmの中心曲率半径及び円錐定数h=1を有する。
【0132】
約0.1mlのモノマー混合物を部分18Bにピペットで移した後、注意深く中心に置き、低重量で徐々に圧力をかけた部分18Aにより被覆する。当該部分の間の唯一の直接接触は、バリア20と22Aの周辺部との間の円形接触である。その後、成形型に波長471nmで10分間青色光を照射する。青色光は、比較的低い変換でのゲル化、及び大まかには変換に比例する体積収縮を伴ってモノマーの重合を開始する。軟質ゲルの収縮は、成形型の両方の部分を統合する穏やかな真空をつくる。成形型18Aの円錐周辺部22Aは、バリア20に対して圧力をかけ、わずかにバリア20を変形して、部分18Bに近づけ、成形用キャビティーの体積を減少する。これは、重合に起因する体積収縮を補償する。記載される成形型デザインは、比較的低い変換でゲル化点を達成する高い重合収縮を有する材料からの比較的嵩高いIOLの製造に特に適している。
【0133】
成形型部分を分離し、成形用キャビティーの正確な複製であるキセロゲルレンズを炭酸水素ナトリウムの溶液により中和し、等張液で抽出する。キセロゲルレンズとハイドロゲルレンズとの間の線形膨張係数は1.17である。光学特性の評価後、当該レンズを密閉したブリスターパッケージにおいて18重量%のNaCl水溶液中に浸漬し、オートクレーブで滅菌した。
【0134】
実施例2:
下記モノマー混合物を調製した:94重量部の2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、0.5重量部のトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、4.5重量部のメタクリロイルオキシベンゾフェノン(MOBP)、1重量部のメタクリル酸、及び0.25重量部のジベンゾイルペルオキシド。当該混合物を、窒素炭素を使用して脱気し、図8に模式的に示される二部式プラスチック成形型に充填した。部分18Bの形状面19Bは2つの円心面により形成される形状を有する。当該面の中心部は直径3mm、中心半径3.00mm及び円錐定数1を有し、一方、周辺部は中心半径3.25mm及び円錐定数−6.26を有する双曲面である。成形型の表面は、非対称な三角形プロファイルを有する直径8.8mm、高さ0.15mmの突き出た円形バリア20を備える。バリア20の内側面は、図3Aの接続面6を形作るように設計される。
【0135】
部分18Aは、直径7.1mmの中心部21と直径13mmの周辺部22Aとに分けられる形状面19Aを有する。周辺部は、中心半径3.25mm及び円錐定数−6.26を有する双曲面により形成される。周辺部双曲面は、部分18Bの対応する面に対して平行である。部分18Aの中心部は、光学軸1Aに対して垂直な平面である。
【0136】
約0.1mlのモノマー混合物を部分18Bにピペットで移した後、注意深く中心に置き、低重量で徐々に圧力をかけた部分18Aにより被覆する。当該部分の間の唯一の直接接触は、バリア20と22Aの周辺部との間の円形接触である。その後、成形型を75℃まで6時間加熱する。
【0137】
成形型部分を分離し、成形用キャビティーの正確な複製であるキセロゲルレンズを炭酸水素ナトリウムの溶液により中和し、エチルアルコールで3回及び等張液で5回抽出する。当該レンズは、UV光及び幾つかの青色可視光の完全な吸収により黄色であった。キセロゲルレンズとハイドロゲルレンズとの間の線形膨張係数は1.13である。光学特性の評価後、当該レンズを密閉したブリスターパッケージにおいて15重量部のNaCl水溶液中に浸漬し、オートクレーブで滅菌した。
【0138】
実施例3:
下記モノマー混合物を調製した:94.5重量部の2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、0.5重量部のトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、5重量部のメタクリロイルオキシベンゾフェノン(MOBP)、及び0.25重量部のジベンゾイルペルオキシド。当該混合物を、窒素炭素を使用して脱気し、図8に模式的に示される二部式プラスチック成形型に充填した。部分18Bの形状面19Bは2つの円心面により形成される形状を有する。当該面の中心部は直径6.5mm、中心半径4.5mm及び円錐定数0を有し、一方、周辺部は中心半径4.25mm及び円錐定数−8を有する双曲面である。成形型の表面は、非対称な三角形プロファイルを有する直径9.3mm、高さ0.35mmの突き出た円形バリア20を備える。バリア20の内側面は、図3Aの接続面6を形作るように設計される。
【0139】
部分18Aは、直径6.4mmの中心部21と直径13mmの周辺部22Aとに分けられる形状面19Aを有する。周辺部は、中心半径4.25mm及び円錐定数−8を有する双曲面により形成される。周辺部双曲面は、部分18Bの対応する面に対して平行である。部分18Aの中心部は直径6.4mm、中心半径3.75mm及び円錐定数−6の表面である。
【0140】
約0.1mlのモノマー混合物を部分18Bにピペットで移した後、注意深く中心に置き、低重量で徐々に圧力をかけた部分18Aにより被覆する。当該部分の間の唯一の直接接触は、バリア20と22Aの周辺部との間の円形接触である。その後、成形型を75℃まで6時間加熱する。
【0141】
成形型部分を分離し、成形用キャビティーの正確な複製であるキセロゲルレンズを抜き出す。その後、レンズを引用文献Stoyの‘208に記載される第4級塩基で処理する。
【0142】
透き通った電気的に中性の架橋親水性ポリマーによるzレンズは、高い水和及び負電荷密度を有する勾配層により作られた面を有する。zレンズを炭酸水素ナトリウムの溶液により中和し、エチルアルコールで3回、等張液で5回抽出した。zレンズは透明であり、UV光を完全に吸収した。当該キセロゲルレンズとハイドロゲルレンズとの間の線形膨張係数は約1.12である。光学特性の評価後、zレンズを密閉したブリスターパッケージにおいて等張なNaCl水溶液中に浸漬し、オートクレーブで滅菌した。
【0143】
本発明のこれらの利点及び他の利点は、上述の明細書より当業者に明らかであろう。したがって、当業者であれば、本発明の幅広い発明概念から逸脱することなく、上記実施形態に対して変更及び修飾を行ってもよいことを認識するであろう。したがって、本発明は、本明細書に記載される特定の実施形態に限定されるものではないが、特許請求の範囲に規定される本発明の範囲及び趣旨に含まれるすべての変更及び修飾を包含すると意図されることを理解されたい。
図1
図2
図3A
図3B
図4A-4C】
図4D-4F】
図5A-5B】
図5C
図6A
図6B-6C】
図7A
図7B
図7C
図8