(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記車体挙動検出手段は、前記並進方向加速度として前記車体の上下方向加速度を検出するとともに、前記回転方向加速度として前記車体のピッチング方向加速度を検出すること
を特徴とする請求項7から請求項10までのいずれか1項に記載の2次ばね系の異常検出装置。
前記車体挙動検出手段は、前記並進方向加速度として前記車体の左右方向加速度を検出するとともに、前記回転方向加速度として前記車体のヨーイング方向加速度を検出すること
を特徴とする請求項7から請求項10までのいずれか1項に記載の2次ばね系の異常検出装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用した2次ばね系の異常検出方法、及び、この異常検出方法に用いられる異常検出装置の第1乃至第4実施形態について説明する。
各実施形態の説明に先立ち、先ず、本発明の参考例である2次ばね系の異常検出方法、及び、異常検出装置について説明する。
【0016】
図1は、参考例の2次ばね系の異常検出装置の構成を示す模式図である。
図1に示すように、異常検出装置100が設けられる鉄道車両1は、車体10の前後に一対のボギー台車である第1台車20、第2台車30を備えたボギー車である。
車体10は、床部に設けられる台枠の上部に側構、妻構、屋根構などを設けてほぼ六面体状に構成されている。
【0017】
第1台車20及び第2台車30は、車両1の進行方向前方側から順次配置されている。
第1台車20は、台車枠21、第1輪軸22、第2輪軸23、2次ばね系24等を備えて構成されている。
台車枠21は、第1輪軸22及び第2輪軸23が軸箱及び軸箱支持装置を介して取り付けられる枠状の構造部材である。
第1輪軸22、第2輪軸23は、車軸の両端部に、一対の車輪を固定したものである。
第1輪軸22、第2輪軸23は、車両1の進行方向前方側から順次配置されている。
第1輪軸22、第2輪軸23は、車軸の両端部を図示しない軸箱によって支持されている。軸箱は、軸受及び潤滑装置などを備えている。
軸箱は、図示しない軸箱支持装置を介して、台車枠21に対して上下方向等に相対変位可能に支持されている。
軸箱支持装置には、台車枠21に対する軸箱の上下方向変位に応じたばね反力を発生する軸ばね、及び、軸ばねの伸縮速度に応じた減衰力を発生する軸ダンパからなる1次ばね系が設けられる。
【0018】
第2台車30は、台車枠31、第3輪軸32、第4輪軸33、2次ばね系34等を備えて構成されている。
台車枠31は、第3輪軸32及び第4輪軸33が軸箱及び軸箱支持装置を介して取り付けられる枠状の構造部材である。
第3輪軸32、第4輪軸33は、車軸の両端部に、一対の車輪を固定したものである。
第3輪軸32、第4輪軸33は、車両1の進行方向前方側から順次配置されている。
第3輪軸32、第4輪軸33は、車軸の両端部を図示しない軸箱によって支持されている。軸箱は、軸受及び潤滑装置などを備えている。
軸箱は、図示しない軸箱支持装置を介して、台車枠31に対して上下方向等に相対変位可能に支持されている。
軸箱支持装置には、台車枠31に対する軸箱の上下方向変位に応じたばね反力を発生する軸ばね、及び、軸ばねの伸縮速度に応じた減衰力を発生する軸ダンパからなる1次ばね系が設けられる。
【0019】
第1台車20及び第2台車30の台車枠21,31は、2次ばね系24,34を介して、車体10の下部に取り付けられている。
2次ばね系24,34は、図示しないまくらばね及びこのまくらばねと並行に設けられたまくらばねダンパ24a,34aを備えている。
まくらばねは、車体10に対する台車枠21,31の上下方向及び左右方向の相対変位に応じたばね反力を発生する例えば空気ばね等のばね要素である。
まくらばねダンパ24a,34aは、車体10に対する台車枠21,31の上下方向相対速度に応じた減衰力を発生する例えば油圧式緩衝器等の減衰要素である。
また、まくらばねダンパ24a,34aは、図示しない上下制振システムからの指令に応じて、減衰力特性を走行中に随時変更可能なセミアクティブダンパとなっている。
まくらばね及びまくらばねダンパ24a,34aは、各台車枠21,31において、枕木方向(左右方向)に離間して例えば一対が設けられている。
【0020】
参考例の異常検出装置100は、例えば、上述したまくらばねダンパ24a,34aが正常に減衰力を発生しなくなる異常を検出するものである。
図2は、鉄道車両の上下並進モード及びピッチングモードの振動形態を示す模式図である。
図2に示すように、上下並進モードは、第1台車20の2次ばね系24と、第2台車30の2次ばね系34とが、同相で伸縮することによって、車体10が上下に並進方向に振動するものである。
また、ピッチングモードは、第1台車20の2次ばね系24と、第2台車30の2次ばね系34とが、逆相で伸縮することによって、車体10が枕木方向に沿った軸回りに回動(揺動)するものである。
【0021】
異常検出装置100は、処理装置110、加速度センサ121,122等を備えて構成されている。
処理装置110は、例えば情報処理装置であるCPU、RAM、ROM、磁気ディスク装置や光学ディスク装置などの記憶手段、入出力インターフェイス及びこれらを接続するバスなどを備えている。
処理装置110は、各センサからの信号を後述するように処理し、異常の検出を行う異常検出手段である。
加速度センサ121,122は、車体10の左右中心線上において前後方向に離間して配置され、車体10の上下方向の加速度を検出する加速度ピックアップを備えている。
加速度センサ121,122は、例えば、車体10の床下に吊下げられて配置されている。
加速度センサ121は、第1台車20の近傍に配置されている。
加速度センサ122は、第2台車30の近傍に配置されている。
加速度センサ121,122の出力信号は、処理装置110に伝達される。
【0022】
以下、参考例におけるまくらばねダンパの異常検出方法について説明する。
この異常検出方法は、車両1の走行速度が予め設定された異常検出可能範囲に含まれる場合に、以下の手順を行う。
(1)加速度センサ121,122で、車体10における進行方向に離間した2点の上下加速度を測定する。
(2)加速度センサ121,122がそれぞれ検出した上下加速度を、上下並進モードの加速度とピッチングモードの加速度とに分離する。
(3)車両の進行方向に合わせて、ピッチングモードの加速度の符号を変える。
(4)後述する特定の周波数における、上下並進モードの加速度とピッチングモードの加速度との位相差を検出する。この特定の周波数とは、正常時と異常時とで位相差に大きな違いが生じる周波数であり、予め実験等によって得ておく。
(5)位相差が予め設定した許容範囲を外れた場合、まくらばねダンパ24a,34aに異常があると判断する。
このとき、許容範囲をプラス側、マイナス側のどちらに超えたかによって、第1台車20、第2台車30のいずれかのまくらばねダンパ24a,34aに異常が発生したかを判断する。
【0023】
また、上述した位相差の演算は、例えば、上下方向加速度及びピッチング方向加速度の相互相関関数をフーリエ変換したクロススペクトルに基づいて行うことも可能であるが、参考例においては、計算処理の負荷を小さくするために、以下の方向によって近似的に位相差を求めている。
(1)上下方向加速度とピッチング方向加速度をそれぞれバンドパスフィルタに通すことで、特定の周波数の成分を抽出する。
(2)バンドパスフィルタ通過後の上下方向加速度とピッチング方向加速度を、0を閾値として二値化する。例えば、符号が正であれば1、負であれば0とする。
(3)二値化された上下方向加速度とピッチング方向加速度との排他的論理和(XOR)をとる。これによって、各タイミングにおいて、上下方向加速度とピッチング方向加速度の符号が一致するか否かが求まる。
(4)上述した排他的論理和について、所定の一定時間内における平均値を求めるか、あるいは、ローパスフィルタを通して平滑化することによって、上下方向加速度とピッチング方向加速度の符号不一致率が求まる。
ここで、上下方向加速度とピッチング方向加速度が周期信号である場合、両者の位相差が0°であれば、符号不一致率は0となる。また、位相差が±180°であれば、符号不一致率は1となる。実際には上下方向加速度とピッチング方向加速度は完全な周期信号にはならないが、この符号不一致率は、位相差を近似的に表現するパラメータとして用いることができる。
【0024】
以下、1車両モデルによる数値シミュレーション結果について説明する。
このシミュレーションにおいては、例えば75km/h走行時の軸箱における上下加速度の実測波形を、車両モデルに入力した。この車両モデルにおいて、まくらばねダンパ24a,34aは、走行中に減衰特性を変更可能な可変減衰ダンパとし、公知の上下制振システムによる制御状態を模擬した。また、まくらばねダンパ24a,34aの異常状態は、可変減衰ダンパが最小減衰に固定された状態とした。
【0025】
先ず、正常時と異常時とで位相差に大きな違いの生じる周波数を調べ、異常検出において注目する周波数帯域を決定する。
図3は、車体の上下並進モードとピッチングモードの振動の位相差をクロススペクトルから求めた結果を示すグラフであって、横軸は周波数を示し、縦軸は位相差を示している。また、
図3において、正常時、第1台車20の右のまくらばねダンパ24a故障時、第2台車30の右のまくらばねダンパ34a故障時のデータを、それぞれ実線、点線、一転鎖線によって図示している。(後述する
図12乃至14において同様)
図3に示すように、車体10の固有振動数付近でもある1.5Hz付近において、正常と異常とで位相差が顕著に異なっている。
そこで、参考例においては、この1.5Hz近傍の周波数成分を用いて異常を検出することにする。
【0026】
図4は、加速度センサ121,122が検出した車体10の2点の上下加速度を、モード分離して求めた加速度の推移の一例を示すグラフである。
図4(a)は上下並進モードの加速度を示し、
図4(b)は、ピッチングモードの加速度を示している。
図4(a)、
図4(b)は、いずれも縦軸が加速度を示し、横軸が時間を示している。
【0027】
図5は、
図4に示す加速度を、1.5Hz近傍を通過させるバンドパスフィルタに通過させた結果を示すグラフである。
図5(a)は上下並進モードの加速度を示し、
図5(b)は、ピッチングモードの加速度を示している。
図5(a)、
図5(b)は、いずれも縦軸が加速度を示し、横軸が時間を示している。
【0028】
図6は、
図5(a)、
図5(b)に示すバンドパスフィルタ通過後の上下並進モード及びピッチングモードの加速度を、上述したように0を閾値として2値化した加速度符号の履歴を示すグラフである。
図6(a)は、上下並進モードの加速度符号を示し、
図6(b)はピッチングモードの加速度符号を示している。
図6(a)、
図6(b)は、いずれも縦軸が加速度符号を示し、横軸が時間を示している。
【0029】
図7は、
図6に示す上下並進モードの加速度符号と、ピッチングモードの加速度符号との排他的論理和(XOR)の履歴を示すグラフである。
図7において、縦軸は加速度符号の排他的論理和(1:異符号、0:同符号)を示し、横軸は時間を示している。
【0030】
図8は、
図7に示す排他的論理和をローパスフィルタに通して、所定期間内の平均値とした結果(符号不一致率)の履歴を示すグラフである。
図8は、縦軸が符号不一致率を示し、横軸が時間を示している。
この符号不一致率は、上下並進モードとピッチングモードの加速度の近似的な位相差を表すものである。
【0031】
上述した車両モデルを用いて、正常時と異常時との符号不一致率の計算を行った結果を
図9に示す。
図9は、縦軸が符号不一致率を示し、横軸が時間を示し、正常状態、第1台車20の右まくらばねダンパ24a異常状態、第1台車20の左まくらばねダンパ24a異常状態、第2台車30の右まくらばねダンパ34a異常状態、第2台車30の左まくらばねダンパ34a異常状態を、それぞれ実線、点線、一点鎖線、二点鎖線、三点鎖線で図示している(後述する
図10において同様)。
【0032】
図9に示すように、符号不一致率は正常時には0.55近傍で安定しているが、第1台車20のまくらばねダンパ24aが異常の場合、符号不一致率(近似位相差)が正常より大きく、また、第2台車30のまくらばねダンパ34aが異常の場合、符号不一致率が正常より小さくなっていることがわかる。
この場合、例えば、0.5から0.6を許容範囲と設定すれば、これを外れた場合に異常と判断し、さらに許容範囲のどちら側に外れたかによって、まくらばねダンパ24a,34aのどちらの異常かを特定することができる。
なお、ここではフィルタの初期値を0.55としたため、計算開始(0秒)はいずれも0.55になっている。
【0033】
また、
図10は、まくらばねダンパを減衰力特性固定式のパッシブダンパとした場合の計算結果を示すグラフである。
図10に示すように、
図9に示す上下制振制御状態に対して、正常時と異常時との差は縮小するものの、傾向としては共通しており、閾値を適切に設定することによって、まくらばねダンパの異常を台車単位で検出することが可能である。
【0034】
以上説明した参考例によれば、まくらばねダンパ24a,34aの正常、異常に応じて、車体10の上下方向加速度とピッチング方向加速度との位相差は変化することから、この位相差が所定の許容範囲を外れた場合に異常と判断することによって、車両1の運行中に適切にまくらばねダンパ24a、34aの異常を検出することができる。
さらに、位相差が許容範囲のどちら側に外れたかによって、まくらばねダンパ24a、34aのいずれの異常かを判別することができる。
また、上下方向加速度とピッチング方向加速度を、正常時と異常時との差が大きい1.5Hz近傍のバンドパスフィルタを通過させてから異常検出に用いることによって、より適切にまくらばねダンパ24a,34aの異常を検出することができる。
さらに、バンドパスフィルタ通過後の上下方向加速度とピッチング方向加速度の符号不一致率を、位相差の大きさを示すパラメータ(近似的位相差)として利用することによって、演算負荷を軽減し、比較的簡素な機器によって演算したり、高速に演算することが可能となる。
【0035】
<第1実施形態>
次に、本発明を適用した2次ばね系の異常検出装置の第1実施形態について説明する。
第1実施形態においては、2次ばね系の正常時と異常時とで位相差に違いが生じやすい周波数帯域は、車体の上下並進モードの振動の固有振動数前後であることに鑑み、この固有振動数前後の周波数帯域をバンドパスフィルタで抽出し、異常検出を行なう構成とした。
【0036】
上下方向加速度とピッチング方向加速度の位相差は、ある周波数を境に180°反転し、その周波数は走行速度に比例することがわかっている。
図11は、車両の走行速度に応じた車体の上下方向加速度とピッチング方向加速度の位相差の変化の一例を示すグラフである。
このため、バンドパスフィルタで抽出する周波数帯域が一定である場合、走行速度によっては反転した両方の位相差が混在し、安定した符号不一致率が得られない。
【0037】
そこで、第1実施形態においては、バンドパスフィルタのカットオフ周波数を走行速度に比例して変化させるようにしている。
このように、走行速度に応じてカットオフ周波数が推移するフィルタは、例えば、カットオフ周波数が異なる2つのバンドパスフィルタを設計し、これらのフィルタ係数の間を線形補間することによって、近似的に実現することが可能である。このような手法を用いると、例えばフィルタ係数を毎回計算するよりも演算負荷を軽減することができる。
このようなフィルタの構成の一例を、式1乃至式3に示す。
【数1】
ここで、xはフィルタ通過前の信号、yはフィルタ通過後の信号、a
1及びb
1は低速度用フィルタの係数、a
2及びb
2は高速度用フィルタの係数、ζは補間係数である。
なお、このように走行速度に応じて抽出する周波数帯域を変化させる場合であっても、例えば走行速度が極低速の場合等には、本手法による異常検出は困難である。
そこで、第1実施形態においては、走行速度が所定値以上の場合にのみ異常検出を行なうとともに、所定値未満の場合には異常検出を停止するようにしている。
【0038】
ここで、単純にバンドパスフィルタのカットオフ周波数を走行速度に比例して変化させると、走行速度変化に応じて抽出される周波数帯域が車体の上下並進モードの振動の固有振動数前後に設定される異常検出可能周波数の範囲から逸脱してしまう場合がある。
この場合、位相差は反転しないものの、正常時と異常時との差が小さくなるため、異常の検出は困難となる。
図12乃至14は、まくらばねダンパが正常又は異常である場合の車体の上下方向加速度とピッチング方向加速度の位相差の一例を示すグラフであって、走行速度がそれぞれ50km/h、60km/h、75km/hであるときの位相差を示すものである。
【0039】
図12乃至14において、バンドパスフィルタによって抽出される周波数帯域を、破線の矩形によって図示する。
図12乃至14に示すように、バンドバスフィルタのカットオフ周波数を走行速度に比例するようにして、抽出される周波数帯域を速度向上に応じて高周波数側へ推移させた場合、抽出される周波数帯域に位相差の反転が生じて異常検出に支障をきたすことは防止できる。
しかし、
図14に示す75km/hの場合においては、
図12、13に対して抽出される周波数帯域が高周波数側へ推移した結果、車体の上下並進モードの振動の固有振動数から乖離し、異常検出可能周波数の範囲を逸脱してしまい、正常時と異常時との差が小さくなって検出が困難となってしまう。
【0040】
そこで、第1実施形態においては、抽出される周波数帯域を車両の走行速度に比例して高周波数側へ推移させるとともに、抽出される周波数帯域が車体の上下並進モードの固有振動数から乖離した場合には、現在の周波数帯域よりも低い側における位相差が反転する周波数よりも低周波数側となるように(位相差が反転する周波数をまたぐように)、抽出される周波数帯域を段階的に変化させる構成としている。
例えば、
図14においては、破線の矩形で示す領域から、二点鎖線の矩形で示す領域に抽出される周波数帯域をシフトすることによって、位相差に基づいた2次ばね系の異常検出を適切に行えるようにしている。
【0041】
図15は、第1実施形態の2次ばね系の異常検出装置における異常検出手段の構成を示す図である。
異常検出装置100の処理装置110は、
図15に示すようなバンドパスフィルタ(BPF)210,220、位相差検出手段230、閾値判定手段240を有する異常検出手段200を備える。
BPF210は、上下方向加速度(並進方向加速度)から、所定の周波数帯域の成分を抽出するものである。
BPF220は、ピッチング方向加速度(回転方向加速度)から、所定の周波数帯域の成分を抽出するものである。
位相差検出手段230は、BPF210,220の出力に基づいて、上下方向加速度とピッチング方向加速度との位相差を検出するものである。
閾値判定手段240は、位相差検出手段230が検出した位相差を、所定の閾値と比較し、位相差が閾値以上である場合に異常判定を成立させるものである。
【0042】
図16は、第1実施形態の位相差検出装置における抽出周波数帯域を示すグラフである。
図16において、縦軸は周波数を示し、横軸は車両の走行速度を示している。
また、
図16において、上下方向加速度とピッチング方向加速度との位相差が反転する周波数を破線で示し、BPF210,220が抽出する周波数帯域(抽出周波数帯域)を網掛け太線で示している。(
図22において同じ)
図16に示すように、位相差が反転する周波数は複数存在するが、いずれも走行速度と比例する関係にある。
【0043】
図16に示すように、第1実施形態においては、抽出周波数帯域は、車速の増加に応じてリニアに増加するように設定されるとともに、抽出周波数帯域が異常検出可能周波数の範囲上限に近づいた場合には、その周波数の直下に存在する位相差反転周波数よりも低くかつ異常検出可能周波数の範囲内に含まれるように、段階的にシフトされる。
例えば、
図16に示す例においては、抽出周波数帯域は、走行速度が45km/h未満ではB1に設定され、走行速度が45km/h以上70km/h未満ではB2に設定され、走行速度が70km/h以上ではB3に設定されている。
45km/h、70km/hは、本発明にいう抽出周波数変更速度となっている。
すなわち、BPF210,220は、車両の走行速度に応じて、抽出周波数帯域B1乃至B3を順次切り替えることによって、現在の抽出周波数帯域が、車体の並進モードの固有振動数を含む異常検出可能周波数の範囲に含まれるよう維持する。
抽出周波数帯域B1乃至B3は、いずれも走行速度の増加に比例して増加するよう設定されている。
また、抽出周波数帯域B1とB2との間、抽出周波数帯域B2とB3との間には、位相差が反転する周波数がそれぞれ一つ存在する。
【0044】
また、符号並びに符号不一致率は、正常時であっても走行速度に依存して変動する傾向があり、この変動が異常の判別を困難にする場合があった。
そこで、第1実施形態においては、走行速度と符号不一致率との関係を予め取得した走行データに基づいて関数で近似し、この近似関数を基準として相対化した符号不一致率を評価値とすることによって、走行速度による影響を低減し、異常検出精度を高めている。
【0045】
図17は、走行試験で取得したダンパ正常時の符号不一致率と走行速度との関係を示すグラフである。平均的な傾向を把握するために、符号不一致率、走行速度ともに移動平均化処理を施している。
図17からは、符号不一致率が走行速度に依存し、低速になるほど大きくなる傾向がみられる。
ここで、走行速度v(t)と符号不一致率y(t)の関係を、式4のように2次関数で近似する。
y
o=av(t)
2+bv(t)+c ・・(式4)
図17の場合には、
図2に太実線にて示す近似関数(式5)が得られた。
y
o=0.0020797v
2−0.0359v+1.8268 ・・(式5)
【0046】
図18は、正常時、第1台車右異常時、第2台車右異常時における符号不一致率の推移の一例を示すグラフである。
図19は、
図18のデータを、
図17に示す近似関数を基準とした相対値としたものを示すグラフである。
図19のように、近似関数y
0(t)からの相対符号不一致率y
r(t)を用いて異常検出を行なうことによって、走行速度への符号不一致率の依存の影響を抑制し、異常検出精度を向上することが可能である。
この相対符号不一致率y
r(t)を式6に示す。
y
r(t)=y(t)−y
o(t)
=y(y)−(av(t)
2+bv(t)+c) ・・(式6)
【0047】
また、符号不一致率を相対値とすることに代えて、異常検出に用いられる閾値(許容範囲)を走行速度に応じて変動させてもよい。
図20は、符号不一致率の変動に応じて閾値を変化させる場合の一例を示すグラフである。
図20に示す例においては、閾値を正常時の符号不一致率の近似関数y
0からの相対値としている。
これによって、閾値は走行速度に応じて変化し、符号不一致率の変動に沿うように閾値を変化させることができる。
【0048】
以上説明した第1実施形態によれば、2次ばね系の正常、異常に応じて、車体10の上下方向加速度とピッチング方向加速度との位相差は変化することから、この位相差が所定の許容範囲を外れた場合に異常と判断することによって、車両の運行中に適切に2次ばね系の異常を検出することができる。
また、上下方向加速度及びピッチング方向加速度から、車両の走行速度に応じて実質的に比例して高周波数側へ推移するよう設定された所定の周波数帯域B1,B2,B3の成分を抽出し、抽出する周波数帯域を、上下方向加速度とピッチング方向加速度との位相差が反転する周波数とは異ならせて設定することによって、正常時と異常時とで位相差に違いが生じやすい周波数帯域を抽出することができ、より適切に異常を検出することができる。
また、走行速度が予め設定された抽出周波数変更速度を超過した際に、抽出される周波数帯域を、上下方向加速度とピッチング方向加速度との位相差が反転する周波数を超えるよう低周波数側に段階的に推移させることによって、車両の走行速度が変化した場合であっても異常検出に適した周波数帯域を抽出することが可能となり、異常検出を適切に行うことができる。
また、抽出される周波数帯域が車体の上下並進モードの固有振動数を含む異常検出可能周波数の範囲内に設定されることによって、2次ばね系が正常であるときの位相差と異常であるときの位相差との差を拡大し、異常検出をより確実に行うことができる。
【0049】
<第2実施形態>
次に、本発明を適用した2次ばね系の異常検出装置の第2実施形態について説明する。
なお、以下説明する各実施形態の説明において、従前の実施形態と実質的に共通する箇所には同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
【0050】
図21は、第2実施形態の2次ばね系の異常検出装置における異常検出手段の構成を示す図である。
図21に示すように、第2実施形態においては、複数の異常検出手段200が設けられ、各異常検出手段200の出力を、OR論理ゲート250に集約し、少なくとも一つの異常検出手段200において異常が判定された場合には異常判定を成立させる構成としている。
【0051】
図22は、第2実施形態の位相差検出装置における抽出周波数帯域を示すグラフである。
第2実施形態においては、複数の異常検出手段200によって、複数の周波数帯域B1,B2,B3・・・について、それぞれ並行して同時に異常検出を行っている。
そして、いずれか1つの異常検出手段200が異常を検出した場合には、異常判定を成立させている。
以上説明した第2実施形態においても、上述した第1実施形態の効果と実質的に同様の効果を得ることができる。
【0052】
<第3実施形態>
次に、本発明を適用した2次ばね系の異常検出装置の第3実施形態について説明する。
図23は、第3実施形態の2次ばね系の異常検出装置の構成を示す図である。
第3実施形態の異常検出装置100Aは、第1実施形態の加速度センサ121,122に代えて、車体10床下中央部に配置された加速度センサ123及びジャイロセンサ130を備えたものである。
【0053】
第1実施形態においては、一対の加速度センサ121,122が検出する上下加速度のモード分離によって上下並進モード及びピッチングモードの加速度を検出しているが、第3実施形態においては、加速度センサ123によって上下並進モードの加速度を検出し、ジャイロセンサ130によってピッチング方向の角加速度を検出する構成としている。
以上説明した第3実施形態においても、上述した第1実施形態の効果と実質的に同様の効果を得ることができる。
【0054】
<第4実施形態>
次に、本発明を適用した2次ばね系の異常検出装置の第4実施形態について説明する。
第4実施形態の2次ばね系の異常検出装置は、第1乃至第3実施形態とは異なり、車体の左右方向(方向・車幅方向)の加速度と、ヨーイング方向の加速度との位相差とに基づいて、2次ばね系における特に横ばね系の異常を検出するものである。
図24は、第4実施形態の2次ばね系の異常検出装置の構成、及び、鉄道車両の左右並進モード及びヨーイングモードの振動形態を示す模式図である。
【0055】
第4実施形態の異常検出装置100Bが設けられる車両には、第1実施形態の構成に加え、さらに2次ばね系24,34に、左右動ダンパ24b,34bが設けられる。
左右動ダンパ24b,34bは、第1台車20及び第2台車30の台車枠21,31と、車体10の下部との間に設けられ、車体10に対する台車枠21,31の左右方向相対速度に応じた減衰力を発生する例えば油圧式緩衝器等の減衰要素である。
また、左右動ダンパ24b,34bは、図示しない左右制振システムからの指令に応じて、減衰力特性を走行中に随時変更可能なセミアクティブダンパとなっている。
【0056】
また、第4実施形態の異常検出装置100Bは、加速度センサ123,124等を備えて構成されている。
加速度センサ123,124は、車体10の左右中心線上において前後方向に離間して配置され、車体10の左右方向(枕木方向)の加速度を検出する加速度ピックアップを備えている。
加速度センサ123,124は、例えば、車体10の床下に吊下げられて配置されている。
加速度センサ123は、第1台車20の近傍に配置されている。
加速度センサ124は、第2台車30の近傍に配置されている。
加速度センサ123,124の出力信号は、処理装置110に伝達される。
【0057】
図24に示すように、左右並進モードは、第1台車20及び第2台車30が、車体10に対して同相で左右方向に相対変位することによって、車体10が左右に並進方向に振動するものである。
また、ヨーイングモードは、第1台車20及び第2台車30が、車体10に対して逆相で左右方向に相対変位することによって、車体10が鉛直軸回りに回動(揺動)するものである。
【0058】
加速度センサ123,124が検出した車体10の左右方向加速度、ヨーイング方向加速度は、第1実施形態又は第2実施形態と実質的に同様の異常検出手段によって、バンドパスフィルタ処理、位相差検出処理、閾値判定処理が行われ、2次ばね系の異常を検出可能となっている。
以上説明した第4実施形態においても、2次ばね系における特にまくらばねの横ばね系や左右動ダンパ24b,34b等の異常を、車体10の左右挙動に基づいて適切に検出することができる。
なお、この場合においても、第3実施形態と実質的に同様に、ジャイロセンサを用いてヨーイング方向加速度を検出する構成とすることができる。
この場合、左右方向の並進加速度の検出は、例えば車体10の中央部一か所で行えば足りる。
【0059】
(他の実施形態)
なお、本発明は上記した実施形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。
例えば、2次ばね系の異常検出方法及び異常検出装置の詳細な構成は、上述した各実施形態のものに限らず、適宜変更することができる。
例えば、各実施形態では上下方向加速度とピッチング方向加速度を二値化した後、符号不一致率に基づいて異常の判定を行っているが、これに限らず、例えばクロススペクトルを用いて位相差を演算し、この位相差が許容範囲を外れた場合に異常を判定してもよい。
また、上下方向加速度、ピッチング方向加速度、左右方向加速度、及び、ヨーイング方向加速度を検出する各センサの種類や配置なども特に限定されない。
また、本発明は、2次ばねと独立して設けられる上下動ダンパ、左右動ダンパの異常検出に限らず、まくらばね自体の異常検出や、例えば空気ばね等のまくらばね自体が減衰要素を兼ねる場合には、その異常検出にも用いることができる。
例えば、本発明を利用して、まくらばね用の空気ばねの圧力低下を検出することができる。
また、各実施形態では、符号不一致率又は閾値を走行速度に応じて補正しているが、符号不一致率を用いずに位相差を用いて直接異常検出を行なう場合には、位相差又はこの位相差が比較される閾値を、予め取得した正常時の位相差と走行速度との相関を用いて、走行速度に応じて補正してもよい。