特許第6530377号(P6530377)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6530377半導体基板の凹部の角部を丸める方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6530377
(24)【登録日】2019年5月24日
(45)【発行日】2019年6月12日
(54)【発明の名称】半導体基板の凹部の角部を丸める方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/324 20060101AFI20190531BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20190531BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20190531BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20190531BHJP
【FI】
   H01L21/324 X
   H01L21/324 R
   H01L29/78 652K
   H01L29/78 652T
   H01L29/78 653A
   H01L29/78 658Z
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-510039(P2016-510039)
(86)(22)【出願日】2015年3月24日
(86)【国際出願番号】JP2015001686
(87)【国際公開番号】WO2015146162
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2016年10月4日
【審判番号】不服2018-4237(P2018-4237/J1)
【審判請求日】2018年3月28日
(31)【優先権主張番号】特願2014-60584(P2014-60584)
(32)【優先日】2014年3月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227294
【氏名又は名称】キヤノンアネルバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100114915
【弁理士】
【氏名又は名称】三村 治彦
(74)【代理人】
【識別番号】100125139
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 洋
(72)【発明者】
【氏名】柴垣 真果
(72)【発明者】
【氏名】篠田 康子
【合議体】
【審判長】 加藤 浩一
【審判官】 鈴木 和樹
【審判官】 恩田 春香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−308029(JP,A)
【文献】 特開2004−152965(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/099063(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/042333(WO,A1)
【文献】 特開2009−147118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/324
H01L29/78
H01L29/12
H01L21/336
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理室内の排気を停止又は極めて低速にした状態であって
分子流領域の圧力を超える圧力不活性ガスが半導体基板に形成された凹部の表面を封止した状態であって
前記凹部は角部を有しており、
前記半導体基板の熱処理の温度は1500℃以上2000℃以下であって、
前記半導体基板は、SiC基板であって、
前記封止した状態は、前記処理室内へのガスの導入が完全に行われておらず、かつ、排気が完全に行われていない状態又は極めて低速に排気した状態であって、
前記半導体基板に対向する基板対向面を有した状態であって、
前記半導体基板と前記基板対向面が近接した状態であって、
前記近接した状態は、1〜25mmの距離範囲である、状態で、
前記半導体基板に対して前記熱処理を行うことを特徴とする半導体基板の凹部の角部を丸める方法。
【請求項2】
前記半導体基板に対向して放熱により前記半導体基板を加熱する前記基板対向面を有する加熱手段を用い、前記半導体基板が前記処理室内に搬送されて載置された第1の状態よりも前記半導体基板と前記基板対向面とを近接させた第2の状態で、前記半導体基板の前記熱処理を行うことを特徴とする請求項1記載の半導体基板の凹部の角部を丸める方法。
【請求項3】
前記熱処理における前記半導体基板の熱処理温度が1500℃以上であり、1750℃以下である場合には、前記処理室内に封止された前記不活性ガスの圧力を10kPa以上に設定し、
前記熱処理における前記半導体基板の熱処理温度が1750℃よりも高く、2000℃以下である場合には、前記処理室内に封止された前記不活性ガスの圧力を50kPa以上に設定することを特徴とする請求項1記載の半導体基板の凹部の角部を丸める方法。
【請求項4】
前記凹部は、前記半導体基板に形成されたトレンチであることを特徴とする請求項1に記載の半導体基板の凹部の角部を丸める方法。
【請求項5】
半導体基板の熱処理を行うための処理室と、
前記処理室内に設けられた加熱手段と、
前記半導体基板に対向する基板対向面と、
記加熱手段により前記半導体基板に対して前記熱処理を実行する制御装置と
を有し、
前記半導体基板は、SiC基板であって、
前記半導体基板は、凹部を有しており、
前記凹部は角部を有しており、
前記制御装置は、
前記処理室内の排気を停止又は極めて低速にした状態であって
分子流領域の圧力を超える圧力の不活性ガスが前記凹部の表面を封止した状態であって
前記半導体基板の前記熱処理の温度は1500℃以上2000℃以下であって、

前記封止した状態は、前記処理室内へのガスの導入が完全に行われておらず、かつ、排気が完全に行われていない状態又は極めて低速に排気した状態であって、
前記半導体基板と前記基板対向面が近接した状態であって、
前記近接した状態は、1〜25mmの距離範囲である、状態で、
前記半導体基板に対して前記熱処理を実行することを特徴とする半導体基板の凹部の角部を丸める装置。
【請求項6】
前記加熱手段は、前記半導体基板に対向して放熱により前記半導体基板を加熱する前記基板対向面を有し、
前記制御装置は、前記半導体基板が前記処理室内に搬送されて載置された第1の状態よりも前記半導体基板と前記基板対向面とを近接させた第2の状態で、前記半導体基板の前記熱処理を実行することを特徴とする請求項記載の半導体基板の凹部の角部を丸める装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板の凹部の角部を丸める方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体パワーデバイスのオン抵抗を低減するために、炭化ケイ素(SiC)基板を用いた様々なトレンチ型のFETが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このようなトレンチ型のFETにおいて、ドライエッチング装置等により半導体基板をドライエッチング処理してトレンチを形成した際、トレンチの開口部や底部の角部の形状が角張ることが知られている。
【0003】
トレンチにおける角張った角部は、ゲート絶縁膜の被覆の際に被覆不良を引き起こし、トレンチへの埋め込み電極を形成する際ボイドの発生を引き起こすことがあるため、半導体デバイスのデバイス特性に大きな影響を及ぼす。更に、トレンチの角張った角部は、電界集中によるゲート絶縁膜の絶縁破壊等を引き起こす可能性があり、改善が求められている。
【0004】
そこで、トレンチの開口部や底部の角張った角部に丸みを付けることによって、電界集中を緩和し、ゲート絶縁膜の信頼性を確保するための方法が提案されている(特許文献2参照)。特許文献2には、ArガスまたはSiHガス/不活性ガス雰囲気で1600℃以上1800℃以下の温度範囲の第一熱処理を行い、次に水素雰囲気で1400℃以上1500℃以下の第二熱処理を行うことで、トレンチ開口部やトレンチ底部の角張った角部に丸みを付けることについて開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−077761号公報
【特許文献2】特開2008−177538号公報
【発明の概要】
【0006】
しかしながら、特許文献2に開示されているArガスまたはSiHガス/不活性ガス雰囲気で1600℃以上1800℃以下の温度範囲の第一熱処理を行い、次に水素雰囲気で1400℃以上1500℃以下の第二熱処理を行うプロセスでは、第一熱処理と第二熱処理を行うため、大幅な生産性の低下を招くことが懸念される。また、燃焼性のSiHガスや、爆発性の水素ガスを用いるため、専用のガス導入ライン、ガス検知器、及び廃ガス処理装置等の安全に関わる付帯設備が必要となり、大幅なコストアップを招くことが懸念される。
【0007】
本発明は、上記課題を契機としてなされたものであり、生産性を向上させつつ、燃焼性や爆発性を有するようなガスを用いることなく、トレンチの形状を改善可能な半導体基板の凹部の角部を丸める方法及び装置を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の一観点によれば、処理室内の排気を停止又は極めて低速にした状態であって分子流領域の圧力を超える圧力の不活性ガスが半導体基板に形成された凹部の表面を封止した状態であって、前記凹部は角部を有しており、前記半導体基板の熱処理の温度は1500℃以上2000℃以下であって、前記半導体基板は、SiC基板であって、前記封止した状態は、前記処理室内へのガスの導入が完全に行われておらず、かつ、排気が完全に行われていない状態又は極めて低速に排気した状態であって、前記半導体基板に対向する基板対向面を有した状態であって、前記半導体基板と前記基板対向面が近接した状態であって、前記近接した状態は、1〜25mmの距離範囲である、状態で、前記半導体基板に対して前記熱処理を行うことを特徴とする半導体基板の凹部の角部を丸める方法が提供される。
【0009】
また、本発明の他の観点によれば、半導体基板の熱処理を行うための処理室と、前記処理室内に設けられた加熱手段と、前記半導体基板に対向する基板対向面と、前記加熱手段により前記半導体基板に対して前記熱処理を実行する制御装置とを有し、前記半導体基板は、SiC基板であって、前記半導体基板は、凹部を有しており、前記凹部は角部を有しており、前記制御装置は、前記処理室内の排気を停止又は極めて低速にした状態であって、分子流領域の圧力を超える圧力の不活性ガスが前記凹部の表面を封止した状態であって、前記半導体基板の前記熱処理の温度は1500℃以上2000℃以下であって、前記封止した状態は、前記処理室内へのガスの導入が完全に行われておらず、かつ、排気が完全に行われていない状態又は極めて低速に排気した状態であって、前記半導体基板と前記基板対向面が近接した状態であって、前記近接した状態は、1〜25mmの距離範囲である、状態で、前記半導体基板に対して前記熱処理を実行することを特徴とする半導体基板の凹部の角部を丸める装置が提供される。
【0010】
本発明によれば、トレンチの角部が角張っているトレンチを持つ半導体基板を熱処理することによって、高い生産性で、高価な付帯設備も必要とせず、トレンチ幅を制御しつつ、角部を丸めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態による熱処理装置を示す概略断面図(その1)である。
図2図2は、本発明の一実施形態による熱処理装置を示す概略断面図(その2)である。
図3図3は、本発明の一実施形態による熱処理装置を示す概略断面図(その3)である。
図4図4は、本発明の一実施形態による熱処理装置における基板ホルダユニット及びその周辺を示す概略断面図(その1)である。
図5図5は、本発明の一実施形態による熱処理装置における基板ホルダユニット及びその周辺を示す概略断面図(その2)である。
図6図6は、本発明の一実施形態による熱処理装置における加熱ユニットを示す概略断面図である。
図7図7は、本発明の一実施形態による熱処理装置が組み込まれた基板処理システムの一例を示す概略断面図である。
図8A図8Aは、本発明の一実施形態による半導体基板の熱処理方法の事前準備を示すフローチャートである。
図8B図8Bは、本発明の一実施形態による半導体基板の熱処理方法を示すフローチャートである。
図9図9は、本発明の一実施形態による半導体装置の製造方法を用いて製造されるトレンチ型のMOSFETの一例を示す概略断面図である。
図10図10は、本発明の一実施形態に用いられた熱処理前のトレンチを持つ半導体基板の断面図の一部である。
図11図11は、本発明の一実施形態に用いられた熱処理後のトレンチの断面図(その1)の一部である。
図12図12は、本発明の一実施形態に用いられた熱処理後のトレンチの断面図(その2)の一部である。
図13図13は、本発明の比較例に用いられた熱処理後のトレンチの断面図(その1)の一部である。
図14図14は、本発明の比較例に用いられた熱処理後のトレンチの断面図(その2)の一部である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下で説明する図面において、同じ機能を有するものは同一の符号を付し、その説明を省略又は簡潔にすることもある。
【0013】
(熱処理装置)
まず、本発明の一実施形態による熱処理装置100について図1乃至図6を用いて説明する。図1は、半導体基板の搬入時又は搬出時の状態の熱処理装置100を示している。図2は、半導体基板の熱処理時の状態の熱処理装置100を示している。図3は、半導体基板の冷却時の状態の熱処理装置100を示している。また、図4は、図1における基板ホルダユニットA及びその周辺を拡大して示している。図5は、図2における基板ホルダユニットA及びその周辺を拡大して示している。図6は、加熱ユニットBの具体的構成の一例を示している。
【0014】
図1乃至図3に示すように、本実施形態による熱処理装置100は、基板保持手段である基板ホルダユニットAと、加熱手段である加熱ユニットBと、シャッタ装置Cと、処理室を構成する真空チャンバDとを有している。さらに、熱処理装置100は、熱処理装置の動作全体を制御する制御装置60を有している。基板ホルダユニットA、加熱ユニットB、及びシャッタ装置Cは、処理室内である真空チャンバD内に設けられている。
【0015】
基板ホルダユニットAは、最上段に基板ステージ1を備えている。加熱ユニットBは、基板ステージ1の上方に設けられており、基板ステージ1と対向する基板対向面2を備えている。加熱ユニットBの基板対向面2は、後述するように放熱可能に構成されている。基板ホルダユニットAは、昇降装置Eにより昇降可能なものである。基板ステージ1と加熱ユニットBの基板対向面2との近接と離間は、昇降装置Eの動作により制御することが可能である。加熱ユニットBは、図2に示すように、基板ホルダユニットAが上昇し、基板ステージ1上の半導体基板3と基板対向面2が近接されたときに、半導体基板3と非接触状態で、基板対向面2から放熱される輻射熱で半導体基板3を加熱するものとなっている。
【0016】
図1に示す基板ホルダユニットAは、下降位置にあり、半導体基板3の真空チャンバD内への搬入及び真空チャンバD内からの搬出が可能な状態である。また、図2に示す基板ホルダユニットAは、上昇位置にあり、半導体基板3の熱処理時の状態である。図3に示す基板ホルダユニットAは、熱処理後の下降位置にあり、半導体基板3の冷却時の状態である。図1に示す基板ホルダユニットA及びその周辺を拡大して示したものが図4であり、図2に示す基板ホルダユニットA及びその周辺を拡大して示したものが図5である。
【0017】
図4及び図5に示すように、半導体基板3を保持するための基板ホルダユニットAは、最上部に基板ステージ1、基板ステージ1の下に4枚の輻射板4、輻射板4の下に2枚の反射板5、そして最下部に冷却パネル6を備えたものとなっている。
【0018】
基板ステージ1は、熱処理の対象となる半導体基板3が載置されるものである。基板ステージ1の上面中央部には凹部が形成されており、この凹部が、半導体基板3が載置される基板載置部7となっている。図4に示す半導体基板3は、後述するリフトピン8で持ち上げ支持された状態となっている。昇降装置Eにより基板ホルダユニットAが上昇して基板ステージ1がリフトピン8より上方へ移動すると、図5に示すように、基板載置部7上に移し取られて載置されることになる。
【0019】
熱処理の対象となる半導体基板3は、例えばイオン注入等により不純物が導入された半導体基板である。具体的には、半導体基板3として、SiC基板、窒化ガリウム(GaN)基板等を挙げることができる。なお、半導体基板とは、半導体基板そのもののほか、半導体基板上にさらに半導体膜が形成されているもの、支持基板上に半導体膜が形成されているものをも含むものである。
【0020】
基板ステージ1と冷却パネル6との間には、基板ステージ1側から冷却パネル6側に向かって順に、それぞれ間隔をあけて、4枚の輻射板4と、2枚の反射板5とが設けられている。
【0021】
図4においては、リフトピン用貫通孔13を介して、真空チャンバDの底部に立設された複数本のリフトピン8が基板ステージ1上に突出している。リフトピン8は、基板載置部7上の半導体基板3を先端で持ち上げ支持可能な位置と本数となっている。図4に示す状態から基板ホルダユニットAが上昇して基板ステージ1がリフトピン8より上方へ移動すると、半導体基板3は基板載置部7上に移行されることになる。半導体基板3は、こうして基板載置部7上に載置された状態で加熱ユニットBによる熱処理に供されることになる。なお、リフトピン8は、基板ステージ1と同様、輻射率が高く、輻射熱を効率良く吸収し、高熱に耐えられる材料で構成されることが好ましい。
【0022】
また、熱処理後等において、基板載置部7上に半導体基板3が載置された状態で基板ホルダユニットAが下降すると、リフトピン8がリフトピン用貫通孔13を介して基板ステージ1上に突出する。すると、基板載置部7上の半導体基板3がリフトピン8の先端で持ち上げ支持され、図4に示す状態となる。
【0023】
加熱ユニットBは、半導体基板3に対向する基板対向面2と、基板対向面2を加熱するための加熱機構28とを備えている。加熱ユニットBの加熱機構28としては、電子衝撃加熱方式の加熱機構、高周波誘導加熱方式の加熱機構、抵抗加熱方式の加熱機構、赤外線加熱方式の加熱機構、これらの組合せによる加熱機構等を用いることができる。
【0024】
加熱ユニットBの具体的構成の一例を図6に示す。図6は、電子衝撃加熱方式の加熱機構28を用いた加熱ユニットBを拡大して示す断面図である。
【0025】
図6に示すように、電子衝撃加熱方式の加熱機構28を用いた加熱ユニットBは、真空チャンバDの第二室23における天井部を構成する内壁103に設けられた導電性被加熱部131を有している。内壁103内には、上述のように水冷機構の水冷用流路19が設けられており、内壁103が冷却されるようになっている。導電性被加熱部131は、底板131a及び周壁131bを有し、上蓋となる内壁103とともに、加熱ユニットBの加熱機構28等の各部が収容される加熱容器104を構成している。
【0026】
加熱容器104内は、排気系43(図1乃至図3参照)が接続されており、排気系43により、真空チャンバD内の加熱容器104を除く空間とは別個独立に真空排気することが可能になっている。排気系43により加熱容器104内が所定の真空度に排気された状態で、後述するフィラメント132による基板対向面2の加熱が行われる。
【0027】
加熱容器104を構成する導電性被加熱部131の底板131a及び周壁131bは、例えばCVD法による熱分解カーボン等の緻密なカーボンによりコーティングされている。具体的には、底板131aの加熱機構28側の壁面(内壁面)及び基板対向面2となる壁面(外壁面)の少なくとも一方には、熱分解カーボン等の緻密なカーボンのコーティング膜が形成されている。また、周壁131bの加熱機構28側の壁面(内壁面)及び真空チャンバDの周壁側の壁面(外壁面)の少なくとも一方には、熱分解カーボン等の緻密なカーボンのコーティング膜が形成されている。このように、導電性被加熱部131の内壁面及び外壁面には、緻密なカーボンのコーティング膜が形成されている。
【0028】
さらに、底板131a及び周壁131bについて、それぞれ外壁面に上記コーティング膜が形成されていることで、導電性被加熱部131の材料や導電性被加熱部131から発生するガスによる半導体基板3の汚染を防止又は抑制することができる。
【0029】
導電性被加熱部131は、その底板131aに基板対向面2を備える。すなわち、基板対向面2は、導電性被加熱部131の、基板処理空間の側の面のうち、基板ステージ1の基板載置面と平行に対向する面である。半導体基板3の熱処理に際して、基板対向面2は、フィラメント132からの熱電子により加熱されて放熱面となり、基板対向面2からの放熱により半導体基板3が加熱される。
【0030】
シャッタ装置Cは、図1乃至図3に示すように、基板ホルダユニットAが降下し、基板ステージ1と加熱ユニットBの基板対向面2とが離間されたときに、シャッタ17を基板ステージ1と基板対向面2の間に進退させることができるものとなっている。シャッタ装置Cは、シャッタ17を進退させるためのシャッタ駆動装置18を備えている。
【0031】
シャッタ17は、図1及び図3に示すように、基板ホルダユニットAが下降し、基板ステージ1と基板対向面2とが離間されているときに、基板ステージ1と基板対向面2との間に進出し、基板対向面2から基板ステージ1側へ熱が照射されるのを遮断する。
【0032】
真空チャンバDは、アルミニウム合金等で構成された筐体である。真空チャンバDの壁内には、水冷機構の水冷用流路19が設けられている。水冷用流路19に冷却水を流すことにより、真空チャンバDの筐体の温度が過度に上昇するのを防止することができる。また、真空チャンバDには、半導体基板3の搬入、搬出時に搬入出口を開閉するための搬入出用のスリットバルブ(ゲートバルブ)20が備えられている。また、真空チャンバDには、内部を真空雰囲気に排気するために排気系に接続される排気口を開閉するための排気用のメインバルブ(ゲートバルブ)50が備えられている。
【0033】
真空チャンバDは、下側の第一室22と、第一室22の上方に連なった第二室23とを備えている。加熱ユニットBは、上方に位置する第二室23に基板対向面2を下に向けて設けられている。また、第一室22は、第二室23が上方に連なる第一区画22aと、第一区画22aの側方に連なる第二区画22bとを有している。第一区画22aと第二区画22bとの間には、シャッタ装置Cが設けられている。
【0034】
また、基板ホルダユニットAは、昇降装置Eにより第一室22の第一区画22aと第二室23との間を昇降可能になっている。基板ホルダユニットAは、熱処理が行われる上昇位置において、図2に示すように、第一室22の第一区画22aと第二室23との間を冷却パネル6部分で塞いだ状態で、基板ステージ1と加熱ユニットBの基板対向面2とを接近させるものとなっている。このようにして半導体基板3の加熱を行うと、第二室23で生じた熱がその下方の第一室22へ漏れにくくなり、加熱後に基板ホルダユニットAを第一室22の第一区画22aへ降下させて行われる冷却をより迅速に行うことができる。また、真空チャンバDの内面、特に第二室23の内面は、加熱効率を向上させることができるよう、鏡面仕上げを施しておくことが好ましい。
【0035】
さらに、真空チャンバDの第一室22の第二区画22bの側壁には、ガスを導入するためのガス導入口51が設けられている。ガス導入口51には、ガス導入手段であるガス導入系52が接続されている。ガス導入系52は、ガス導入口51に配管53を介して接続されたガス供給源54と、ガス導入口51側から配管に順次介設されたピュリファイヤー55と、バルブ56と、マスフローコントローラ(MFC)57と、バルブ58とを備えている。ピュリファイヤー55は、あってもなくてもよい。
【0036】
ガス供給源54は、真空チャンバD内に導入する不活性ガスを供給するものである。不活性ガスとしては、Arガス等を挙げることができる。なお、真空チャンバD内に導入するガスとしては、不活性ガスに限定されるものではないが、反応性が低いガスが好ましく、Arガスやクリプトン(Kr)ガス等の不活性ガスがより好ましい。また、ピュリファイヤー55は、通過する不活性ガスから不純物を除去するものである。また、MFC57により、所定の流量で不活性ガスを真空チャンバD内に供給することができるようになっている。
【0037】
制御装置60は、種々の演算、制御、判別等の処理を実行するCPU(図示せず)を有している。また、制御装置60は、CPUによって実行される様々な制御プログラム等を格納するROM(図示せず)等を有している。また、制御装置60は、CPUが処理中のデータや入力データ等を一時的に格納するRAM(図示せず)等を有している。制御装置60は、熱処理装置100の各部の動作を制御し、半導体基板3の熱処理を実行する。
【0038】
(基板処理システム)
上記本実施形態による熱処理装置100を組み込んだ基板処理システムの一例について図7を用いて説明する。
【0039】
図7に示すように、基板処理システムは、熱処理装置100と基板搬送装置240とを備えている。また、基板処理システムは、処理済み又は処理前の半導体基板3がセットされるロードロックチャンバ260と、処理済み又は処理前の半導体基板3を収納する基板載置室280とを備えている。
【0040】
熱処理装置100の真空チャンバD、基板搬送装置240、及びロードロックチャンバ260は、スリットバルブにより各々の装置のチャンバが相互に隔離可能に接続されている。なお、図7では、後の説明のため、各々の間のスリットバルブを示している。すなわち、図7には、基板載置室280とロードロックチャンバ260との間のスリットバルブVa、ロードロックチャンバ260と搬送チャンバ241との間のスリットバルブVb、搬送チャンバ241と真空チャンバDとの間のスリットバルブVcを示している。
【0041】
基板搬送装置240の搬送チャンバ241内には、半導体基板3を搬送するための搬送手段である搬送ロボット242等が設けられている。これにより、各装置のチャンバに対して半導体基板3の搬入及び搬出が可能になっている。
【0042】
基板搬送室である搬送チャンバ241と基板載置室280との間には、ロードロックチャンバ260が設けられている。ロードロックチャンバ260内には、処理済みの半導体基板3が搬送ロボット242により搬送チャンバ241から搬入されて載置される。また、ロードロックチャンバ260内には、未処理の半導体基板3が基板載置室280から搬入されて載置される。
【0043】
基板載置室280には、半導体基板3を収容するカセット281〜284が搭載可能である。基板載置室280内には、半導体基板3を搬送するための搬送手段である搬送ロボット285等が設けられている。また、基板載置室280には、半導体基板3のオリフラやノッチ、及び基板中心をアライメントするためのアライナー(不図示)を設けてもよい。搬送ロボット285は、カセット281〜284のいずれかから未処理の半導体基板3をロードロックチャンバ260内に搬入する。また、搬送ロボット285は、処理済みの半導体基板3をロードロックチャンバ260内から搬出し、所定のカセット281〜284に収める。
【0044】
ロードロックチャンバ260、及び搬送チャンバ241のそれぞれには、各チャンバ内を排気する排気系(不図示)が設けられている。また、ロードロックチャンバ260、及び搬送チャンバ241のそれぞれには、各チャンバ内にArガス等のガスを導入するガス導入系(不図示)が設けられている。なお、真空チャンバDの排気系47及びガス導入系52については上述したとおりである。上述した制御装置60は、これらの排気系によるチャンバ内の排気、及びこれらのガス導入系によるチャンバ内へのガス導入を制御可能に構成されている。また、制御装置60は、搬送ロボット242、285の動作を制御可能に構成されている。
【0045】
(半導体基板の熱処理方法)
次に、上記図7に示す基板処理システムにおける熱処理装置100を用いた本実施形態による半導体基板の熱処理方法について図8A及び図8Bを用いて説明する。図8Aは、本実施形態による半導体基板の熱処理方法の事前準備を示すフローチャートである。図8Bは、本実施形態による半導体基板の熱処理方法を示すフローチャートである。
【0046】
本実施形態による半導体基板の熱処理方法は、分子流領域の圧力を超える圧力でArガスが封止された状態の真空チャンバD内において、半導体基板3の熱処理を行うものである。なお、半導体基板3の熱処理の実行に際しては、熱処理装置100の各部の動作が制御装置60により制御される。例えば、制御装置60により、排気系47による真空チャンバD内の排気、ガス導入系52による真空チャンバDへのArガスの導入等が制御される。
【0047】
なお、ガスが封止された状態は、処理室を構成する真空チャンバD内に対するガスの導入及び排気が完全に行われていない状態のみならず、半導体基板3の表面のArガスがシリコンの放出を抑制できる程度に維持されていればよい。すなわち、真空チャンバDに対して極めて低速にガスの排気が行われている場合をも含むものとする。具体的には、真空チャンバDの容積の0.1%前後が5分で排気されている状態及びこれよりも低速に排気されている状態をも含む。
【0048】
本実施形態による半導体基板の熱処理方法の行う前には、真空チャンバD内の部材に対し脱ガス処理を行うこと等を目的として、事前準備(コンディショニング)が行われる。以下、熱処理前の事前準備について図8Aを用いて説明する。
【0049】
まず、ロードロックチャンバ260内、搬送チャンバ241内、及び真空チャンバD内を例えば10−3Pa以下の高真空に排気する(ステップS101)。
【0050】
次いで、スリットバルブVcを閉鎖した状態で、基板ホルダユニットAを加熱位置まで上昇させ(ステップS102)、加熱ユニットBにより真空加熱を行う(ステップS103)。この真空加熱における加熱温度は、基板相当温度で例えば1500℃以上、具体的には例えば1900℃とする。基板相当温度とは、基板が基板ホルダユニットに設置された場合に想定される基板の温度である。
【0051】
次いで、加熱ユニットBによる加熱を停止して真空加熱を停止し(ステップS104)、基板ホルダユニットAを搬送位置まで降下させ(ステップS105)、その後、真空チャンバD内の排気を停止する(ステップS106)。なお、加熱を停止することに代えて、加熱ユニットBの加熱機構28のパワーを低下させて加熱温度を低下させるだけでもよい。
【0052】
次いで、ガス導入系52のバルブ56、58を開放する。こうして、配管53を通して、ガス供給源54のArガスをガス導入口51から真空チャンバD内にArガスを導入する(ステップS107)。これにより真空チャンバD内に導入するArガスは、例えば10〜100kPaまでであり、本実施形態では75kPaを導入している。Arガスを導入した後、バルブ56、58を閉鎖して真空チャンバD内にArガスを封止する。
【0053】
なお、ステップS106とステップS107とは、上記の順に行う必要はなく、どのような順序で行ってもよく、最終的にArガスの封止状態が得られればよい。
【0054】
次いで、真空チャンバD内にArが封止された状態で、基板ホルダユニットAを熱処理位置まで上昇させ(ステップS108)、加熱ユニットBにより加熱を行う(ステップS109)。このArガスの封止状態での加熱温度は、基板相当温度で例えば1500℃以上、具体的には例えば1900℃とする。
【0055】
次いで、加熱ユニットBによる加熱を停止して、Arガスの封止状態での加熱を停止する(ステップS110)。なお、加熱を停止することに代えて、加熱ユニットBの加熱機構28のパワーを低下させて加熱温度を低下させるだけでもよい。続いて、基板ホルダユニットAを搬送位置まで降下させる(ステップS111)。
【0056】
次いで、真空チャンバD内の排気を開始する(ステップS112)。なお、ステップS110の後にステップS112を行う必要は必ずしもなく、ステップS112の後にステップS110を行ってもよい。この真空チャンバD内の排気では、排気系47のドライポンプ49及び必要に応じてターボ分子48を用いて、真空チャンバD内を所定の圧力まで排気する。例えば、真空チャンバD内の圧力を10−4Pa〜10−3Paとする。これにより、真空チャンバD内のHOの分圧を例えば10−5Pa〜10−4Paとする。このようにHOの分圧を低減しておくことにより、高温下においてもSiC等の半導体基板3の基板材料と残留水分との反応確率を大幅に低減でき、エッチング反応を抑制することができる。この結果、熱処理後の半導体基板3について、高い表面平坦性を確保しつつ、高い電気的活性化を容易に実現することができる。
【0057】
次いで、真空チャンバD内の排気を停止する(ステップS113)。
【0058】
次いで、真空チャンバD及び搬送チャンバ241内に、それぞれArガスを導入する(ステップS114)。導入するArガスの圧力は、それぞれ、例えば1kPa〜10kPa、具体的には1kPaとする。
【0059】
こうして、本実施形態による半導体基板の熱処理方法を行う前の事前準備を終了する。なお、事前準備では、真空加熱及びArガスの封止状態での加熱の両加熱を行う必要は必ずしもない。例えば、真空加熱を行う一方、Arガスの封止状態での加熱を行わなくてもよい。
【0060】
上記のようにして事前準備を行ったうえで、本実施形態による半導体基板の熱処理方法を行う。以下、本実施形態による半導体基板の熱処理方法について図8Bを用いて説明する。
【0061】
熱処理が行われる半導体基板3には、トレンチが形成されている。半導体基板3は、例えばSiC膜である。本実施形態では、半導体基板3に形成されたトレンチの開口部及び底部の角張った角部を丸める熱処理を行う。
【0062】
まず、半導体基板3の投入する前に、必要に応じて、加熱ユニットBにより真空チャンバDのチャンバベークを行う(ステップS201)。このチャンバベークにおける加熱温度は、基板相当温度で例えば1500℃以上、具体的には例えば1900℃とする。
【0063】
次いで、ロードロックチャンバ260をベントした後、スリットバルブVaを開放して、基板載置室280からロードロックチャンバ260内に半導体基板3を投入する(ステップS202)。なお、投入する半導体基板3は1枚でも複数枚でもよい。ロードロックチャンバ260内に半導体基板3を投入した後、スリットバルブVaを閉鎖する。
【0064】
次いで、ロードロックチャンバ260内の排気を開始し(ステップS203)、ロードロックチャンバ260内を例えば50Pa以下まで排気して、ロードロックチャンバ260内の排気を停止する(ステップS204)。
【0065】
次いで、ロードロックチャンバ260内にArガスを導入する(ステップS205)。導入するArガスの圧力は、例えば100Pa〜10kPaとし、具体的には1kPaとする。
【0066】
次いで、スタンバイ加熱として、加熱ユニットBによる加熱を行う(ステップS206)。このスタンバイ加熱における加熱温度は、加熱ユニットBの加熱機構28の放熱面温度で例えば1000〜2000℃、具体的には例えば1200℃とする。
【0067】
次いで、スリットバルブVbを開放して、搬送ロボット242により、ロードロックチャンバ260内から搬送チャンバ241内へ半導体基板3を取り出す(ステップS207)。このとき、ロードロックチャンバ260内と搬送チャンバ241内とは、互いに同程度の圧力になっている(ステップS110及びステップS205を参照)。搬送チャンバ241内へ半導体基板3を取り出した後、スリットバルブVbを閉鎖する。
【0068】
次いで、排気系47又はガス導入系52を用いて真空チャンバD内の圧力の調整を行う(ステップS208)。これにより、真空チャンバD内のArガスの圧力を例えば1kPa〜100kPa、具体的には10kPaとする。
【0069】
次いで、図1に示すように、スリットバルブ20(図7に示すスリットバルブVcに相当する)を開放して、搬送チャンバ241内から真空チャンバD内に半導体基板3を搬送する(ステップS209)。真空チャンバD内に搬送した半導体基板3は、リフトピン8上に載置する。このとき、搬送チャンバ241内と真空チャンバD内とは、互いに同程度の圧力になっている(ステップS114及びステップS208を参照)。また、シャッタ17は、基板ホルダユニットAと基板対向面2との間に進出している。真空チャンバD内に半導体基板3を搬送した後、スリットバルブ20(スリットバルブVc)を閉鎖する。
【0070】
なお、半導体基板3を真空チャンバD内に搬送した後に、真空チャンバD内の排気を行ってもよい。これにより、事前準備におけるステップS108により行われる真空チャンバD内の排気と同様に、熱処理の際に真空チャンバD内に存在する水等の不純物を低減することができる。
【0071】
次いで、ガス導入系52のバルブ56、58を開放する。こうして真空チャンバD内へのArガスの導入を開始し、配管53を通して、ガス供給源54のArガスをガス導入口51から真空チャンバD内に導入する(ステップS210)。このとき、MFC57によりArガスの流量を所定の流量に適宜制御する。また、真空チャンバD内に導入されるArガスは、ピュリファイヤー55により不純物が除去されて真空チャンバD内に導入される。
【0072】
上記のようにガス導入系52からArガスを導入することにより、真空チャンバD内の圧力が所定の圧力になった時点で、バルブ56、58を閉鎖する。これにより、真空チャンバD内へのArガスの導入を停止する。Arガスの導入を停止する真空チャンバD内のArガスの圧力は、例えば1kPa〜100kPaとし、具体的には例えば10kPaとする。こうして、真空チャンバD内にArガスを封止する。ここで、真空チャンバD内の排気を停止した後に真空チャンバD内へのArガスの導入を停止することにより、熱処理前の真空チャンバD内の圧力を容易に調整することができる。
【0073】
なお、真空チャンバD内のArガスの圧力は、半導体基板の熱処理温度に応じて適宜設定することができる。より高温な熱処理の場合ほどArガスの圧力をより高圧に設定することにより、半導体基板3の材料の昇華を抑制しつつ、トレンチの角部の丸みを形成することができる。例えば、半導体基板3の熱処理温度が1500℃以上2000℃以下、具体的には1600℃の場合には、Arガスの圧力を10kPa以上に設定することができる。
【0074】
真空チャンバD内にArガスを封止した後、シャッタ17を後退させ、昇降装置Eにより基板ホルダユニットAを上昇させる。上昇する基板ホルダユニットAの基板ステージ1における基板載置部7で半導体基板3をすくい取った後、さらに基板ホルダユニットAを熱処理位置まで上昇させる。こうして、図2及び図5に示されるように、半導体基板3をリフトアップして、基板ホルダユニットAの基板ステージ1と、加熱ユニットBの基板対向面2とを近接させる(ステップS211)。このとき、少なくとも半導体基板3は、基板対向面2と非接触状態であることが必要である。基板ステージ1は基板対向面2と接触状態にすることも可能であるが、基板ステージ1と基板ステージ1上の半導体基板3の両者とも基板対向面2とは非接触状態であることが好ましい。基板対向面2と半導体基板3の大きさ、熱処理温度、加熱機構28の出力等にもよるが、基板対向面2と半導体基板3の間隔は1〜25mmとすることが好ましい。
【0075】
本実施形態では、このように、半導体基板3が真空チャンバD内に搬送されてリフトピン8上に載置された位置よりも基板対向面2に近接させた熱処理位置で熱処理を行う。すなわち、半導体基板3が真空チャンバD内に搬送されて載置された状態(搬送位置)よりも半導体基板3と基板対向面2とを近接させた状態で熱処理を行う。このため、真空チャンバD内を広範囲に温度上昇させる必要がなく、高い効率で熱処理を行うことができる。なお、本実施形態では、基板ホルダユニットAを上昇させることにより、半導体基板3と基板対向面2とを近接させているが、半導体基板3と基板対向面2とを相対的に近接させることができればよい。例えば、基板対向面2を含む加熱ユニットBが下降することにより基板対向面2と半導体基板3とが近接するように熱処理装置100を構成することもできる。
【0076】
また、真空チャンバD内にArガスを封止する前に、熱処理の温度を下回る予熱温度に半導体基板3を予熱しておいてもよい。半導体基板3の予熱は、上記のように基板ホルダユニットAの基板ステージ1と加熱ユニットBの基板対向面2とを近接させた状態又は近接させる前の状態で、加熱ユニットBにより行うことができる。上記では、スタンバイ加熱(ステップS206を参照)がこの予熱に相当する。予熱温度は、半導体基板3がSiC基板である場合、例えば1700℃以下、具体的には1200℃とする。なお、この温度は、加熱ユニットBの設定温度である。1700℃以下の温度であれば、SiC基板におけるSiが昇華する確率は低いためである。こうして熱処理の温度を下回る予熱温度に予熱しておくことで、処理時間を短縮することができる。
【0077】
また、処理時間を短縮するため、加熱ユニットBの加熱機構28の昇温中に、真空チャンバD内へのArガスの導入及びその停止により真空チャンバD内にArガスを封止してもよい。このように、真空チャンバD内にArガスを封止するタイミングは、特定のタイミングに限定されるものではない。Arガスを封止するタイミングは、Arガスを封止された状態で半導体基板3の熱処理を行うことができるものであればよく、熱処理温度に到達するまでに封止が完了していればよい。
【0078】
次いで、上記のようにして真空チャンバD内にArガスが封止された状態で、加熱ユニットBの加熱機構28のパワーを上昇させ高温に加熱する。こうして、基板対向面2からの輻射熱により、半導体基板3を熱処理する(ステップS212)。熱処理時の半導体基板3の温度である半導体基板3の熱処理温度は、例えば1500℃〜2000℃、より具体的には1600℃とする。熱処理では、温度測定器16で測定される基板ステージ1の温度が所定の熱処理温度になるまで加熱機構28の加熱を継続する。所定の熱処理温度に達した後、所定の熱処理時間が経過するまでこの温度を保持する。熱処理時間は、例えば1分間〜30分間とする。
【0079】
本実施形態による半導体基板の熱処理方法では、上述のように、真空チャンバD内にArガスが封止された形態で半導体基板3の熱処理を行う。封止されたArガスの圧力は、分子流領域の圧力を超える圧力、例えば1kPa〜100kPaであり、より具体的には10kPaである。また、封止されたArガスの圧力は、上述のように半導体基板3の熱処理温度に応じて適宜設定することができる。例えば、熱処理温度が1500℃以上1750℃以下の場合には、Arガスの圧力を10kPa以上に設定することができる。また、例えば、熱処理温度が1750℃よりも高く2000℃以下の場合には、Arガスの圧力を50kPa以上に設定することができる。
【0080】
このように封止されたArガスの圧力が分子流領域の圧力を超える圧力において、Arガスの圧力が高い雰囲気中で熱処理を行うと、SiC基板表面付近において脱離したSi原子とAr原子とが衝突する確率が増加する。この結果、Si原子の蒸気圧をSiC基板表面付近で局所的に上昇させることができる。また、真空チャンバD内にArガスが封止されているため、Arガスの流れがSiC表面で抑制される。このため、加熱によりSiC基板表面から脱離したSi原子が排気されることなく、SiC基板表面付近に留まることになる。この結果、SiC基板表面付近のSi原子の蒸気圧が飽和状態となる。すると、SiC基板表面のSi原子の脱離が抑制され、SiC基板の表面の数層のSi原子のみが脱離するに留まる。さらに、SiC表面に留まっているSi原子は、加熱によりえられたエネルギーによりSiC表面を移動する。このとき、移動したSi原子は、トレンチの開口部及び底部の角張った角部を丸くすることによって、より安定した形状をとることができる。
【0081】
さらに、本実施形態では、半導体基板3が真空チャンバD内に搬送されて載置された状態よりも半導体基板3と加熱ユニットBの基板対向面2とを近接させた状態で熱処理を行う。このように半導体基板3と基板対向面2とを近接させた状態で熱処理を行うことによって、Si原子の脱離を最小限に抑えることができ、処理前のトレンチの開口幅を大幅に広げることなく、トレンチの開口部及び底部の角張った角部を丸くすることができる。
【0082】
なお、SiC基板を用いたトレンチ型のMOSFETにおけるトレンチ幅は、エッチング前と、角部を丸く処理した後の寸法の差を、トレンチ内部の上部、つまり開口部付近で±100nm以下に抑えることが必要とされ、より好ましくは、±50nm以下に抑えることが求められる。本実施形態では、トレンチ幅は、エッチング前と、角部を丸く処理した後との寸法の差を±50nm以下に抑えることができ、より具体的には−35nmの寸法差を実現することができる。
【0083】
上記のようにして半導体基板3の熱処理を行った後、加熱ユニットBの加熱機構28をオフにし、自然冷却を開始する。なお、続けて処理すべき半導体基板3がある場合には、加熱ユニットBによりスタンバイ加熱を行うようにしてもよい。これとともに、昇降装置Eにより基板ホルダユニットAを所定の予備冷却位置まで降下させ、温度測定器16で測定される基板ステージ1の温度が所定の温度になるまで降温させる。
【0084】
その後、リフトピン8に半導体基板3を接触させることなく冷却するために、図3に示すように、昇降装置Eにより基板ホルダユニットAを所定の冷却位置までさらに降下させて半導体基板3をリフトダウンする(ステップS213)。これとともに、冷却機構を有するシャッタ17を、冷却位置に下降させた基板ホルダユニットAの基板ステージ1と、加熱ユニットBの基板対向面2との間に進出させ、冷却を促進する。こうして、冷却位置において、温度測定器16で測定される基板ステージ1の温度が所定の温度になるまでさらに冷却する。
【0085】
次いで、基板ホルダユニットAを搬入出位置まで降下させる。冷却位置から搬入出位置までの降下の間に、半導体基板3はリフトピン8上に移し取られ、取り出しやすい状態となる。
【0086】
基板ホルダユニットAが搬入出位置まで降下した後、排気系47を用いて真空チャンバD内の圧力の調整を行う(ステップS214)。これにより、真空チャンバD内のArガスの圧力を例えば100Pa〜10kPaとし、具体的には1kPaとする。
【0087】
次いでスリットバルブ20(スリットバルブVc)を開放し、搬送チャンバ241の搬送ロボット242を用いて半導体基板3を真空チャンバD内から搬送チャンバ241内へ搬送する(ステップS215)。搬送後、スリットバルブ20(スリットバルブVc)を閉鎖する。こうして、トレンチの開口部及び底部の角張った角部に丸みをつけた半導体基板3が製造される。
【0088】
このように真空チャンバD内及び搬送チャンバ241内の圧力を予め設定することで、半導体基板3の熱処理後、直ちに真空チャンバD内から搬送チャンバ241内に半導体基板3を搬送することができる。これにより、真空チャンバD内からの半導体基板3の搬送を含めた処理時間を短縮することができる。また、この際、両チャンバの圧力が同等であるため、チャンバ間の圧力差に起因するパーティクルの巻き上げ等により熱処理後の半導体基板3が汚染されるのを回避することができる。
【0089】
次いで、スリットバルブVbを開放し、搬送チャンバ241内に搬送された半導体基板3を、搬送チャンバ241内からロードロックチャンバ260内に搬送する(ステップS216)。
【0090】
次いで、ロードロックチャンバ260内に熱処理すべき次の半導体基板3がある場合(ステップS217、YES)の場合には、ステップS207に移行して次の半導体基板3について処理を継続する。
【0091】
一方、ロードロックチャンバ260内に熱処理すべき次の半導体基板3がない場合(ステップS217、NO)、スリットバルブVbを閉鎖してロードロックチャンバ260をベントする。その後、スリットバルブVaを開放して、ロードロックチャンバ260から熱処理後の半導体基板3を取り出す(ステップS218)。
【0092】
続いて次ロットの半導体基板3について熱処理の連続処理を行う場合(ステップS219、YES)には、ステップS202に移行して次ロットの半導体基板3について処理を継続する。
【0093】
一方、次ロットの半導体基板3について熱処理の連続処理を行わない場合(ステップS219、NO)には、スリットバルブVaを閉鎖して処理を完了する。
【0094】
このように、本実施形態によれば、真空チャンバD内にArガスを封止した状態で半導体基板3の熱処理を行うので、トレンチ開口部の寸法差を抑制した状態で、生産性を高くし、高価な付帯設備も必要なく、トレンチの開口部及び底部の角張った角部に丸みをつけることができる。
【0095】
なお、上述した図8A及び図8Bに示すプロセスフローは、例示にすぎず、真空チャンバD内にArガスを封止した状態を実現するための真空チャンバD内の排気及び真空チャンバ内へのArガスの導入の態様は、上述した態様に限定されるものではない。また、熱処理すべき半導体基板3を真空チャンバD内へ搬送する際のロードロックチャンバ260、搬送チャンバ241、及び真空チャンバDの各チャンバ内の排気及び各チャンバ内へのArガスの導入の態様も、上述した態様に限定されるものではない。また、熱処理後の半導体基板3を真空チャンバD内からロードロックチャンバ260内に搬送する際の各チャンバ内の排気及び各チャンバ内へのArガスの導入の態様も、上述した態様に限定されるものではない。
【0096】
また、上述のように真空チャンバD内にArガスを封止した状態で熱処理を行うと、昇華したSiが排気されないことになる。このため、昇華したSiが真空チャンバDの内壁に付着する。真空チャンバDの内壁にSiが堆積すると、内壁面における輻射の反射率が変化する。このため、加熱ユニットBの加熱機構28の温度が同じであっても、熱処理の際の半導体基板3の温度が、熱処理を繰り返し行うことにより変動することがある。このような場合、温度測定器16等により半導体基板3の温度を検出し、その検出結果に応じて、制御装置60により加熱機構28の出力を変化させる。これにより、熱処理の際の半導体基板3の温度の調整し、熱処理の再現性を向上することが可能となる。
【0097】
(半導体装置及びその製造方法)
上述した本実施形態による半導体基板の熱処理方法は、トレンチを有する半導体基板を用いて半導体装置を製造する際のトレンチの開口部及び底部の角張った角部を丸めることに適用することができる。また、不純物を注入したトレンチを有する半導体基板を用いて半導体装置を製造する際のトレンチの開口部及び底部の角張った角部を丸めると共に不純物の活性化アニールに適用することができる。以下、本実施形態による熱処理方法を適用して製造される半導体装置の具体例について説明する。
【0098】
図9は、SiC基板を用いて製造されるトレンチ型のMOSFETを示している。図示するように、n型SiC基板401上に、エピタキシャル成長法によりn型SiC膜(ドリフト層)402を形成する。
【0099】
次いで、SiO等をエッチングマスク(不図示)として、ドライエッチング法によりドリフト層402にトレンチ406を形成する。トレンチ406を形成した後、フッ酸洗浄等によりエッチングマスクを除去する。
【0100】
次いで、本実施形態による半導体基板の熱処理方法を用い、ドライエッチング法により形成したトレンチの開口部及び底部の角張った角部に丸みを付ける。
【0101】
次いで、プラズマCVD法等を用い、開口したトレンチ406にSiO(不図示)を埋め込み、不要な部分への不純物の注入を防止する注入抑制層(不図示)を形成する。
【0102】
型SiC膜402に、SiO等をマスク(不図示)として、p型不純物、例えばアルミニウムをイオン注入し、p型ウェル層(不純物領域)403を形成する。
【0103】
次いで、注入マスクのSiOをフッ酸処理等により除去した後、p型ウェル層403に、SiO等をマスク(不図示)として、n型不純物、例えば燐をイオン注入し、高濃度のn型不純物層であるn型コンタクト層(不純物領域)404を形成する。
【0104】
次いで、注入マスクのSiOをフッ酸処理等により除去する。その後、p型ウェル層403のn型コンタクト層404の外側に隣接される形で、SiO等をマスク(不図示)として、p型不純物、例えばアルミニウムをイオン注入し、高濃度のp型不純物層であるp型コンタクト層(不純物領域)405を形成する。
【0105】
次いで、半導体基板の熱処理を行い、各不純物領域403、404、405中の不純物を活性化する。
【0106】
次いで、基板表面に形成された変質層を除去するために、例えば、縦型炉にて酸素雰囲気中で1100℃/30分程度の酸化処理を行い、犠牲酸化層(不図示)を約50nm形成する。
【0107】
次いで、犠牲酸化層をフッ酸にて洗浄し、清浄なSiC表面を露出させた後、トレンチ406の側面にゲート絶縁膜となるシリコン酸化膜407を形成する。シリコン酸化膜407を形成した後、ポリシリコン膜で、トレンチ406を埋め込む。続いて、このポリシリコン膜をパターニングすることにより、ポリシリコンからなるゲート電極408を形成する。
【0108】
次いで、電極、層間絶縁膜、配線等(不図示)を形成してトレンチ型のn型MOSFETが製造される。こうして製造されるトレンチ型のn型MOSFETでは、SiC基板401の底面側がドレインとして機能する。また、シリコン酸化膜407の周囲に形成されたn型コンタクト層404がソースとして機能する。また、チャネル409は、ゲート電極408への電圧印加により、p型ウェル層403とシリコン酸化膜407との間に形成され、キャリアはトレンチ406に沿って基板表面に対して垂直方向に移動する。
【0109】
なお、本発明は、上記実施形態に限らず種々の変形が可能である。
【0110】
例えば、上記実施形態では、トレンチの開口部及び底部の角張った角部に丸みを付けてから不純物をイオン注入し、熱処理により不純物の活性化を行ったが、トレンチの開口部及び底部の角張った角部に丸みを付ける処理と不純物の活性化とを同時に熱処理で行ってもよい。また、本実施形態ではトレンチが形成されたSiC基板に対して熱処理を行い、トレンチの開口部及び底部の角張った角部を丸くする処理について説明したが、これに限らず、凹部が形成された半導体基板に対しても適用可能である。さらに、スルーホールが形成された半導体基板に本実施形態の熱処理を適用すれば、スルーホールの開口部の角張った角部を丸くできる。
【0111】
また、上記実施形態では、真空チャンバD内にArガスを封止する場合を主な例として説明したが、上述のように、真空チャンバD内に封止するガスはArガスに限定されるものではない。真空チャンバD内に封止するガスは、熱処理すべき半導体基板の材料と反応しないか、反応性に乏しいものであればよく、他の不活性ガスを用いてもよい。
【実施例】
【0112】
(実施例1)
実施例1では、SiC基板として、エピタキシャル成長したSiC結晶層を表面層として有するものを用意した。このSiC表面層に形成されたSiOマスクを用いてSiCをドライエッチング法によりトレンチを形成し、フッ酸洗浄によりSiOマスクを除去したものを用意した。
【0113】
まず、予めロードロックチャンバ260、搬送チャンバ241、プロセスチャンバとしての真空チャンバD等のチャンバを10−3Pa以下の高真空に排気した。さらに、真空チャンバDをターボ分子ポンプ48で排気しつつ、加熱機構28を1500℃以上に加熱することで、加熱機構28、チャンバ、基板ホルダユニットA等から十分な脱ガスを行った。
【0114】
脱ガスが完了した後、真空チャンバD及び搬送チャンバ241のターボ分子ポンプを停止させるか排気用のメインバルブを閉じた状態で、真空チャンバD内及び搬送チャンバ241内にArガスを1kPaになるまで注入した。次いで、Arガス導入用バルブを閉鎖して、真空チャンバD内及び搬送チャンバ241内にArガスを封止した。
【0115】
上記のようにしてArガスを封止した状態で、真空チャンバDの基板ホルダユニットAを基板の搬入出位置まで降下させた。続いて、シャッタ17を基板ホルダユニットAと加熱ユニットBとの間に進出させ、加熱ユニットBの加熱機構28の放熱面温度が1200℃になるまで予め加熱した。
【0116】
次いで、ロードロックチャンバ260をArガス又は窒素(N)ガスでベントし、上記SiC基板をロードロックチャンバ260内にセットした。続いて、ロードロックチャンバ260内を10Pa程度までドライポンプで排気した後、その排気バルブを閉鎖した。その後、ロードロックチャンバ260内にArガスを1kPaまで注入し、ロードロックチャンバ260内をArガスで封止した。
【0117】
次いで、チャンバ間のスリットバルブVb、Vcを開放し、搬送チャンバ241の搬送ロボット242を介して、ロードロックチャンバ260内のSiC基板を真空チャンバD内に搬送した。このとき、ロードロックチャンバ260、搬送チャンバ241、及び真空チャンバDが同一圧力になっているため、搬送に際してスリットバルブを開放してもパーティクルの巻き上げや、SiC基板にズレを生じることはなかった。SiC基板の搬送後、真空チャンバDの搬入出用のスリットバルブVb、Vcを閉鎖した。
【0118】
次いで、真空チャンバDへArガスを10kPaになるまで導入し、ガス導入バルブを閉じて、Ar封止を行った。基板ホルダユニットAと加熱ユニットBとの間からシャッタ17を後退させ、基板ホルダユニットAを熱処理位置まで上昇させた。続いて、加熱ユニットBの加熱機構28により、SiC基板の温度が1600℃になるまで昇温し、5分間保持した。
【0119】
こうしてSiC基板の熱処理が完了した後、冷却位置に基板ホルダユニットAを降下させ、SiC基板の温度が1400℃程度になるまで冷却した。その後、基板ホルダユニットAを搬入出位置まで降下させ、シャッタ17を基板ホルダユニットAと加熱ユニットBとの間に進出させた。この冷却時間の間に排気系47により、真空チャンバDの圧力が1kPaになるように排気した。
【0120】
次いで、スリットバルブVb、Vcを開放し、SiC基板を搬送チャンバ241の搬送ロボット242を介してロードロックチャンバ260へ搬送した。続いて、ロードロックチャンバ260をベントし、SiC基板をロードロックチャンバ260から取り出した。このように、SiC基板のトレンチの角を丸める熱処理を行った。
【0121】
上記熱処理前後のSiC基板のトレンチの断面を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope、SEM)により、トレンチの開口部の角部と底部の角部の形状及びトレンチ内部の上部、中間部、底部の幅を測定した。図10及び表1に示す通り、処理前トレンチの形状は、トレンチの開口部の角部と底部の角部が角張っており、トレンチ内部の上部、中間部、底部の幅は、1366nm、1286nm、1059nmであった。本実施例による処理後のトレンチの形状を図11及び表1に示すように、トレンチ開口部の角部と底部との角部の形状は丸まっており、トレンチ内部の上部、中間部、底部の幅は、1331nm、1199nm、1036nmであり、トレンチ幅の変動は小さく、トレンチ開口部の角部と底部の角部との形状は丸まっており、トレンチ上部のトレンチ幅の変動は−35nmであり、トレンチを形状制御性よく処理できていることが分かる。なお、トレンチ内部の上部、底部の幅は、トレンチ側壁の接線の間の幅を測定した。
【0122】
(実施例2)
実施例2では、実施例1と同様にトレンチを有したSiC基板を用意した。実施例2は、実施例1の処理と比べてSiC基板の1600℃での保持時間を30分とした処理である。
【0123】
上記熱処理前後のSiC基板のトレンチの断面を走査型電子顕微鏡により、トレンチ開口部の角部と底部の角部の形状及びトレンチ内部の上部、中間部、底部の幅を測定した。図10及び表1に示す通り、処理前のトレンチの形状は、トレンチ開口部の角部と底部の角部の形状は角張っており、トレンチ内部の上部、中間部、底部の幅は、1366nm、1286nm、1059nmであった。本実施例による処理後のトレンチの形状は図12及び表1に示すように、トレンチの開口部の角部及び底部の角部の形状は丸まっており、トレンチ内部の上部、中間部、底部の幅は、1394nm、1251nm、1076nmであり、トレンチ幅の変動は小さく、トレンチの開口部の角部と底部の角部の形状は丸まっており、トレンチ上部のトレンチ幅の変動は+28nmであり、トレンチを形状制御性よく処理できていることが分かる。
【0124】
(比較例1)
比較例1では、実施例1と同様にトレンチを有したSiC基板を用意した。
【0125】
実施例1と異なり、Arガス封止を行わずArガスをフローさせて、真空チャンバD内部のArガスの圧力を10kPaとして、SiC基板を1600℃で5分間熱処理した。
【0126】
上記熱処理前後のSiC基板のトレンチの断面を走査型電子顕微鏡により、トレンチ開口部の角部と底部の角部の形状及びトレンチ内部の上部、中間部、底部の幅を測定した。図10に示す通り、処理前のトレンチの形状は、トレンチ開口部の角部と底部の角部の形状は角張っており、トレンチ内部の上部、中間部、底部の幅は、1366nm、1286nm、1059nmであった。本実施例による処理後のトレンチの形状を図13及び表1に示すように、トレンチの開口部の角部は変形後退し、底部の角部の形状は大きく丸まっていた。また、トレンチ内部の上部、中間部、底部の幅は、1430nm、1334nm、1139nmであり、トレンチ幅が全体に広がり、底面及び側面に凹凸が発生していた。
【0127】
(比較例2)
比較例2では、実施例1と同様にトレンチを有したSiC基板を用意した。
【0128】
実施例1と異なり、真空チャンバD内部のArガスの封止圧力を100Paとして、SiC基板を1600℃で5分間熱処理した。
【0129】
上記熱処理前後のSiC基板のトレンチの断面を走査型電子顕微鏡により、トレンチ開口部の角部と底部の角部の形状及びトレンチ内部の上部、中間部、底部の幅を測定した。図10に示す通り、処理前のトレンチの形状は、トレンチの開口部の角部と底部の角部の形状は角張っており、トレンチ内部の上部、中間部、底部の幅は、1366nm、1286nm、1059nmであった。本実施例による処理後のトレンチの形状を図14及び表1に示すように、トレンチ開口部の角部は角張っているままであり、底部の角部の形状は丸まっているもののトレンチ内部の上部、中間部、底部の幅は、1486nm、1303nm、1084nmであり、トレンチ幅が全体に広がりトレンチ側面からSi原子の抜けた層が観察された。
【0130】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14