(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0017】
(ガスメーターシステム100)
図1は、ガスメーターシステム100の情報伝達に関する概略的な構成を示した説明図である。
図1に示すように、ガスメーターシステム100は、複数のガスメーター110と、複数のゲートウェイ機器112と、複数のガス生成工場114と、センター装置116とを含んで構成される。
【0018】
ガスメーター110は、その需要箇所120に供給されたガスの音速および流量を導出し、また、センター装置116からの指令に応じて需要箇所120に設置された機器122を制御する。ゲートウェイ機器112は、1または複数のガスメーター110のデータを収集し、また、1または複数のガスメーター110に対してデータを配信する。
【0019】
ガス生成工場114は、需要箇所に供給するガスを生成するとともに、生成したガスの温度、音速および単位体積あたりの発熱量(以下、単位発熱量とも呼ぶ)の関係を示すガス特性を特定する。
【0020】
センター装置116は、コンピュータ等で構成され、ガス事業者等、ガスメーターシステム100の管理者側に属する。センター装置116は、1または複数のゲートウェイ機器112のデータを収集し、また、1または複数のゲートウェイ機器112に対してデータを配信する。したがって、あらゆる需要箇所120に配置されるガスメーター110が有する情報を、センター装置116で一括管理することができる。
【0021】
ここで、ゲートウェイ機器112とセンター装置116との間は、例えば、基地局118を含む携帯電話網やPHS(Personal Handyphone System)網等の既存の通信網を通じた無線通信が実行される。また、ガスメーター110同士およびガスメーター110とゲートウェイ機器112との間は、例えば、920MHz帯を利用するスマートメーター用無線システム(U−Bus Air)を通じた無線通信が実行される。
【0022】
また、センター装置116は、ガス生成工場114に対して既存の通信網を通じた有線通信が実行され、1または複数のガス生成工場114の情報(ガス特性)を収集する。
【0023】
図2は、ガス供給導管網130を示す図である。
図2に示すように、ガス供給導管網130は、複数のガスメーター110、および、複数のガス生成工場114に張り巡らされたガス供給管132により構成されている。換言すると、複数のガスメーター110、および、複数のガス生成工場114は、ガス供給導管網130(ガス供給管132)を介して接続されている。
【0024】
そして、複数のガス生成工場114で生成されたガスは、ガス供給導管網130を構成するガス供給管132を通してガスメーター110に供給される。したがって、ガス供給導管網130には、複数のガス生成工場114で生成されたガスが供給されることになるが、ガス管内でのガスの拡散よりもガス管内でのガス輸送による移動が圧倒的に速いため、複数のガス生成工場114で生成されたガスが混ざり合うことは殆どない。
【0025】
一方、ガスメーター110では、複数のガス生成工場114で生成されたガスのうち、いずれかのガス生成工場114で生成されたガスが供給されることになる。そして、同一のガスメーター110であっても、時間によっては、供給されるガスの生成元(ガス生成工場114)、つまり供給されるガスが異なる場合がある。
【0026】
そこで、本実施形態のガスメーターシステム100では、以下に詳述するガスメーター110、ガス生成工場114およびセンター装置116の構成により、ガスメーター110に供給されるガスの生成元(ガス生成工場114)を特定し、ガスメーター110を通過するガスの単位発熱量を精度よく導出する。そして、ガス生成工場114からガスメーター110へガスを供給するためのガス供給管132に差し水が浸入した場合に、ガス供給管における差し水が浸入した位置を特定することが可能となる。
【0027】
(ガスメーター110)
図3は、ガスメーター110の概略的な構成を示した機能ブロック図である。ガスメーター110は、超音波流量計150と、遮断弁152と、通信回路154と、ガスメーター記憶部156と、ガスメーター制御部158とを含んで構成される。
【0028】
図4は、超音波流量計150の構成を示した図である。超音波流量計150は、到達時間差式の流量計であり、
図4に示すように、ガス流路140の流れ(
図4中、白抜き矢印で示す)に沿って上流と下流との二箇所に配置された一対の超音波送受信器150a、150bを含んで構成され、一方の超音波送受信器150a、150bから他方の超音波送受信器150b、150aへガス内を超音波が伝播する伝播時間を単位時間ごとに双方向に計測できるようになされている。かかる伝播時間t1、t2は後述する音速導出部160で用いられる。
【0029】
ここで、一対の超音波送受信器150a、150bは、ガス流路140のそれぞれ上流側と下流側に配設されるため、両者間を伝播する超音波はガスの流速の影響を受け、上流側から下流側に伝播される超音波は加速され、下流側から上流側に伝播される超音波は減速される。ここでは、上流側の超音波送受信器150aから下流側の超音波送受信器150bに伝播される超音波の伝播時間をt1とし、下流側の超音波送受信器150bから上流側の超音波送受信器150aに伝播される超音波の伝播時間をt2とする。
【0030】
図3に戻り、遮断弁152は、例えばソレノイドやステッピングモータを用いた電磁弁等で構成され、ガスの流路を遮断または開放する。通信回路154は、ゲートウェイ機器112や他のガスメーター110と無線通信を確立する。ガスメーター記憶部156は、ROM、RAM、フラッシュメモリ、HDD等で構成され、ガスメーター110に用いられるプログラムや各種データを記憶する。
【0031】
ガスメーター制御部158は、CPUやDSPで構成され、ガスメーター記憶部156に格納されたプログラムを用い、ガスメーター110全体を制御する。また、ガスメーター制御部158は、音速導出部160、流量導出部162、遮断部164、メーター通信部166として機能する。
【0032】
音速導出部160は、超音波流量計150で計測された伝播時間t1、t2に基づいて音速を導出する。流量導出部162は、超音波流量計150で計測された伝播時間t1、t2に基づいてガスの流量を導出する。
【0033】
遮断部164は、遮断弁152を制御してガスの需給を制御する。メーター通信部166は、通信回路154を通じてセンター装置116と情報交換し、例えば、音速導出部160で導出された音速、流量導出部162で導出された流量の情報を1時間毎にセンター装置116に送信する。ただし、遮断部164や遮断弁152を備えない構成でも本実施形態は成り立つ。
【0034】
以下に、音速導出部160、流量導出部162の詳細な処理について説明する。
【0035】
(音速導出部160)
図5は、超音波流量計150の超音波送受信器150a、150bで受信される超音波の波形を説明する図である。
図5に示すように、超音波流量計150の超音波送受信器150aまたは150bから発信される超音波は、受信され始めた直後では振幅が小さく、徐々に振幅が大きくなり、数周波長後に振幅のピークを迎え、その後、再び振幅が小さくなる。そして、超音波送受信器150a、150bでは、対をなす超音波送受信器150b、150aから発信された超音波を受信する際、感度やS/N比の問題から振幅が小さい最初の数周波長分の到達時間を高精度に規定することが困難であり、振幅がある程度大きくなった数周波長後の超音波がゼロクロスしたときに(
図5中、黒点で示す)、超音波を受信したと判定する。
【0036】
したがって、超音波流量計150では、超音波を発信してから受信するまでの伝播時間t1、t2が、本来の到達時間よりも約2波長分に相当する遅延到達時間だけ長い時間となってしまう。つまり、伝播時間t1、t2には、遅延到達時間分の誤差が生じていることになる。
【0037】
ここで、ガスの流量は、通常、伝播時間t1と伝播時間t2との差分に基づいて導出される。そのため、伝播時間t1、t2が共に本来の到達時間に対して遅延到達時間分の誤差を有したとしても、伝播時間t1および伝播時間t2の差分を取ることにより遅延到達時間が相殺されるため、流量を導出する際にこの誤差の影響が小さくなる。
【0038】
一方で、音速導出部160では、超音波流量計150で計測された伝播時間t1、t2に基づいて音速を導出するため、伝播時間t1、t2に遅延到達時間分の誤差があると、音速を導出する際にこの誤差の影響を受ける。
【0039】
そこで、音速導出部160では、超音波流量計150で計測された伝播時間t1、t2から、誤差である遅延到達時間を減算し、本来の到達時間に相当する到達時間ta1、ta2を導出する。
【0040】
そして、本来の到達時間に相当する到達時間ta1、ta2は、式(1)のように表すことができる。
【数1】
なお、Lは一対の超音波送受信器150a、150b間の距離を示し、Vはガスの流速を示す。
【0041】
したがって、音速導出部160は、本来の到達時間に相当する到達時間ta1、ta2に基づいて、上記の式(1)を連立させた下記の式(2)を用いて、音速Cを導出する。
【数2】
【0042】
このように、音速導出部160は、超音波流量計150で計測された伝播時間t1、t2から、振幅が小さく検出することができない超音波の遅延到達時間を減算し、本来の到達時間に相当する到達時間ta1、ta2に基づいて、上記の式(2)を用いて、音速Cを導出することで、精度よく音速Cを導出することができる。なお、遅延到達時間は、実験により予め音速導出部160の1台1台に対して測定しておいてもよく、同一設計の音速導出部160では標準の遅延到達時間を計測して1台1台の測定を省略してもよい。
【0043】
(流量導出部162)
流量導出部162は、超音波流量計150で計測された伝播時間t1、t2に基づいて、下記の式(3)を用いてガスの流速Vを導出する。
【数3】
そして、流量導出部162は、導出したガスの流速Vに、ガス流路の断面積を乗算することにより、ガスの流量を導出する。
【0044】
(ガス生成工場114)
図6は、ガス生成工場114の概略的な構成を示した機能ブロック図である。
図6に示すように、ガス生成工場114は、ガス生成部170と、ガスクロマトグラフィー172と、通信回路174と、工場記憶部176と、工場制御部178とを含んで構成される。
【0045】
ガス生成部170は、LNGを気化させることで炭化水素系のガスを生成し、ガス供給管132(ガス供給導管網130)にガスを供給する。ガスクロマトグラフィー172は、ガス生成部170により生成され、ガス供給導管網130に供給されるガスの成分を分析する。通信回路174は、センター装置116と有線通信を確立する。工場記憶部176は、ROM、RAM、フラッシュメモリ、HDD等で構成され、ガス生成工場114に用いられるプログラムや各種データを記憶する。
【0046】
工場制御部178は、CPUやDSPで構成され、工場記憶部176に格納されたプログラムに基づいてガス生成工場114全体を制御する。また、工場制御部178は、ガス特性特定部180、工場通信部182として機能する。
【0047】
ガス特性特定部180は、ガスクロマトグラフィー172で分析されたガスの成分に基づいて、ガス生成部170で生成されたガスの温度、音速および単位発熱量の関係をガス特性として特定する。具体的には、ガスクロマトグラフィー172で分析されたガスの成分のうちの全体に占める炭化水素系のガスの割合、分析されたガスの成分のうちの炭化水素系のガスの温度および音速に対する単位発熱量の関係からガス特性を導き出す。なお、炭化水素系のガスの温度および音速に対する単位発熱量の関係(ガス特性)は、予め工場記憶部176に記憶されている。また、ガス生成工場114には、音速を導出する音速導出部が設けられており、導出された音速に基づいて炭化水素系のガスの音速に対する単位発熱量の関係(ガス特性)を導き出してもよい。
【0048】
したがって、ガス特性特定部180は、ガス生成部170で生成された炭化水素系のガスに窒素、酸素、水蒸気等の雑ガスが浸入していない場合には、工場記憶部176に記憶されている炭化水素系のガスのガス特性をそのまま読み出すことになる。一方、ガス特性特定部180は、ガス生成部170で生成された炭化水素系のガスに雑ガスが浸入している場合には、工場記憶部176に記憶されている炭化水素系のガスのガス特性に対して、炭化水素系のガスの割合が考慮されたガス特性を導き出することになる。
【0049】
工場通信部182は、通信回路174を通じてセンター装置116と情報交換し、ガス特性特定部180で特定されたガス特性の情報を随時にセンター装置116に送信する。
【0050】
このように、各ガス生成工場114では、生成したガスの成分の分析結果に基づいて、ガス供給導管網130に送出されるガスのガス特性の情報を随時、センター装置116に送信する。
【0051】
(センター装置116)
図7は、センター装置116の概略的な構成を示した機能ブロック図である。
図7に示すように、センター装置116は、通信回路190と、使用量記憶部192と、機器記憶部194と、ガス特性記憶部196と、センター制御部198とを含んで構成される。
【0052】
通信回路190は、基地局118を介してゲートウェイ機器112と無線通信を確立するとともに、ガス生成工場114と有線通信を確立する。使用量記憶部192は、ROM、RAM、フラッシュメモリ、HDD等で構成され、各ガスメーター110から受信したガスの音速および流量を、そのガスメーター110に関連付けて蓄積する。したがって、使用量記憶部192には、ガスメーター110毎の過去のガスの音速および流量の推移が保持されている。機器記憶部194は、使用量記憶部192同様、ROM、RAM、フラッシュメモリ、HDD等で構成され、口火機器等、ガスメーター110を経由して使用する機器122を、そのガスメーター110に関連付けて記憶する。ガス特性記憶部196は、使用量記憶部192同様、ROM、RAM、フラッシュメモリ、HDD等で構成され、ガス生成工場114から受信したガス特性を、そのガス生成工場114に関連付けて蓄積する。したがって、ガス特性記憶部196には、ガス生成工場114毎の過去のガス特性の推移が保持されている。
【0053】
センター制御部198は、CPUやDSPで構成され、差し水位置特定処理(差し水位置特定方法)を実行する際、使用量記憶部192、機器記憶部194、ガス特性記憶部196に記憶された情報に基づいてセンター装置116全体を制御する。また、センター制御部198は、センター通信部(ガス情報取得部)200、工場特定部202、発熱量導出部204、通過発熱量導出部206、差し水位置特定部208、異常診断部210として機能する。
【0054】
センター通信部200は、通信回路190を通じて各ガスメーター110と情報交換し、例えば、ガスメーター110からガスの音速および流量を受信、取得する。また、センター通信部200は、通信回路190を通じて各ガス生成工場114と情報交換し、例えば、ガス生成工場114からガス特性を受信する。
【0055】
工場特定部202は、ガスメーター110から受信したガスの音速自体やその時系列的な変化と、ガス生成工場114から受信したガス特性に基づいて、そのガスメーター110に供給しているガスの生成元、つまり、複数のガス生成工場114のうち、供給されているガスを生成したガス生成工場114を特定する。
【0056】
図8は、ガスの音速の時系列的な変化を説明する図である。
図8(a)は、ガスの温度が一定である場合に、ガスメーター110に供給されるガスが変更された場合の音速の変化を説明する図であり、
図8(b)は、ガスの温度が一定でない場合に、ガスメーター110に供給されるガスが変更された場合の音速の変化を説明する図である。
【0057】
図8(a)に示すように、ガスの温度が一定であり、ガスメーター110に供給されるガスが変更されていない時間(時刻t11よりも前、および、時刻t11よりも後)では、音速も一定である。そして、時刻t11において供給されるガスが変更される、つまり、ガスの供給元(ガス生成工場114)が変わると、ガスの音速も変化する。
【0058】
また、
図8(b)に示すように、ガスの温度が一定でなく、ガスメーター110に供給されるガスが変更されていない時間(時刻t12よりも前、および、時刻t12よりも後)では、ガスの温度に応じてガスの音速も変化する。そして、時刻t12において供給されるガスが変更される、つまり、ガスの供給元(ガス生成工場114)が変わると、ガスの音速は、ガスの温度に応じて変化していた場合よりも急激に(段階的に)変化する。
【0059】
つまり、
図8(a)および(b)に示すように、ガスの温度が一定であるかないかに拘わらず、供給されるガスが変更されるとガスの音速も急激に変化する。
【0060】
そこで、工場特定部202は、ガスメーター110から受信したガスの音速の時系列的な変化、より具体的には、ガスの音速の微分値を導出し、導出した微分値が、ガスの供給元が変わったとされる所定の閾値以上になった場合、供給されるガスが変更されたと判定する。
【0061】
ここで、工場特定部202は、ガス供給導管網130において、ガス生成工場114で生成されたガスがどのガスメーター110に供給されているかを時系列で監視することにより、どのガスメーター110にどのガス生成工場114で生成されたガスが供給されているかを示すガス供給マップを生成している。そして、工場特定部202は、1のガスメーター110に供給されているガスが変更されたと判定した場合に、ガス供給マップを参照して、いずれのガス生成工場114で生成されたガスが、そのガスメーター110に供給されているかを特定する。
【0062】
図9は、ガス供給マップを説明する図である。ここで、上記したにように、ガス供給導管網130には、複数のガスメーター110が配置されており、複数のガス生成工場114で生成されたガスが混在した状態で各ガスメーター110にガスが供給される。
【0063】
例えば、
図9(a)に示すように、ガス供給導管網130において、境界134を境にして、それぞれのガス生成工場114で生成されたガスがガスメーター110(需要箇所)に供給されているとする。そして、
図9(b)に示すように、ガス供給導管網130において、時間の経過とともに、各ガス生成工場114で生成されたガスの供給範囲が変わると、境界134も変化していくことになる。そして、工場特定部202は、ガスメーター110において導出されたガスの音速が急激に変化した場合に、複数のガスメーター110におけるガスの音速から、境界134の変化を特定することで、ガス供給マップを更新する。
【0064】
このように、工場特定部202は、複数のガスメーター110で導出されるガスの音速を時系列的に監視し、複数のガスメーター110で導出されるガスの音速の急激な変化のタイミングを判定することで、どのガス生成工場114で生成されたガスが、どのガスメーター110に供給されているかを判断し、ガス供給マップを更新する。つまり、ガス供給マップは、各ガス生成工場114で生成されたガスが、ガス供給導管網130において、どの範囲に供給されているかを示すものとも言える。
【0065】
発熱量導出部204は、ガスメーター110に供給されているガスを生成したガス生成工場114が特定されると、特定されたガス生成工場114のガス特性、および、ガスメーター110から受信した音速に基づいて、ガスの単位発熱量を導出する。
【0066】
図10は、温度、音速およびガスの種別(標準状態での発熱量)の関係を示す図である。
図11は、音速および単位発熱量の関係を示す図である。以下では、標準状態での発熱量を標準発熱量とも呼ぶ。
【0067】
ここで、
図10に示すように、炭化水素系のガスの種別(標準発熱量)に拘わらず、ガスの温度が低いとガスの音速が遅くなり、ガスの温度が高くなるに連れてガスの音速が高くなる。一方で、ガスの種別(標準発熱量)が異なると、ガスの温度が同一であってもガスの音速が異なり、また、ガスの音速が同一であってもガスの温度が異なる。より詳細には、ガスの標準発熱量が高くなるに連れて、ガスの温度が同一であってもガスの音速が遅くなり、また、ガスの音速が同一であってもガスの温度が高くなる。
【0068】
このような特性により、ガスの温度および音速を特定することができれば、ガスの種別(標準発熱量)を推定することが可能となる。例えば、ガスの温度が20℃で、ガスの音速が415m/sであった場合には、ガスの種別(標準発熱量)は、44.4MJ/Nm
3と推定することが可能である。
【0069】
ところで、
図10に示した温度、音速およびガスの種別(標準発熱量)の関係に基づいて、音速を405m/sと同一にした場合の、異なるガスの種別(標準発熱量)での温度および単位発熱量を表1に示す。
【0071】
表1からも明らかなように、音速を405m/sと同一にした場合には、ガスの種別(標準発熱量)および温度に拘わらず、単位発熱量は約43.5±0.5MJ/m
3に収まる一定の値となる。
【0072】
また、
図11に示すように、ガスの種別(標準発熱量)に拘わらず、音速と単位発熱量とは、ほぼ同一線の関係で表すことができる。したがって、ガスの種別(標準発熱量)に拘わらず、音速のみに基づいて単位発熱量を導出することが可能であることが理解できる。なお、表1および
図11においては、ガスの種別(標準発熱量)によって、音速と単位発熱量との関係に若干の誤差が生じているものの、その誤差は約±2.5%以下であり、音速のみを用いて、ガスの種別に拘わらず、精度よく単位発熱量を導出することが可能である。
【0073】
以下には、音速Cのみで単位発熱量を導出することが可能であることを理論的に説明する。
【0074】
音速Cは、下記の式(4)で表すことができる。
【数4】
ここで、γは混合気体の比熱比を示し、Rは気体定数(J/mol/K)を示し、Mは混合気体の平均分子量(kg/mol)を示す。
【0075】
また、ガス密度(平均分子量)と標準発熱量との関係は、下記の式(5)で表すことができる。
【数5】
ここで、CV
0は標準発熱量(kJ/Nm
3)を示し、a、bは定数(飽和炭化水素の理想気体の場合、a=2.1×10
6、b=7.4×10
3、飽和炭化水素の実在気体の場合、a=2.4×10
6、b=5.7×10
2)を示す。
【0076】
また、温度Tにおけるガスの単位発熱量は、下記の式(6)で表すことができる。
【数6】
ここで、CV
Tは温度Tにおける単位発熱量(kJ/m
3)を示し、pは温度Tにおける圧力(供給圧力、Pa)を示し、p
0は標準圧力(101325Pa)を示し、T
0は標準温度(273.15K)を示す。
【0077】
これら式(4)〜式(6)により、下記の式(7)が導き出せる。
【数7】
ここで、Mは都市ガスであれば16〜20程度であり、a>>b/Mの関係が成り立つため、式(7)は式(8)と表すことができる。
【数8】
【0078】
このように、式(8)では、測定時の温度Tの影響を受けないことから、供給圧力pが既知であれば、温度Tを計測せずに音速Cのみから単位発熱量を導出することが可能であることが判る。なお、温度Tを計測せずに音速Cのみから単位発熱量を導出する場合には、直鎖飽和炭化水素のガスであれば若干導出精度が高い。また、音速は圧力の影響をほとんど受けないことが知られているので、圧力pについては、必要に応じて、圧力を計測することで通常のボイルの法則に従って補正すればよい。
【0079】
通過発熱量導出部206は、発熱量導出部204により導出されたガスの単位発熱量と、ガスメーター110から受信した流量との積を時間軸に対して積分していくことにより、ガスの通過発熱量を導出する。
【0080】
ところで、ガス供給管132に差し水が浸入していくと、ガス供給管132が差し水により閉塞してしまい、ガス供給箇所(ガスメーター110)へのガスの供給に支障をきたすおそれがある。よって、ガス供給管132が差し水により閉塞してしまう前に、差し水の位置を特定する必要がある。
【0081】
一方で、ガス生成工場114で生成されたガスは乾燥状態であるため、ガス供給管132に差し水が浸入している場合には、ガス供給管132における差し水が浸入している位置(箇所)をガス生成工場114で生成されたガスが通過すると、差し水が気化して水蒸気となる。したがって、このような場合には、ガス生成工場114で生成されたガスとともに気化した水蒸気が混合して下流に流れていくことになる。この時、数メートルの差し水区間をガスが通過すると、ガス内の水蒸気量は飽和水蒸気圧まで上昇する。差し水が浸入している位置を通過するガスが例えば10℃の場合には、ガス生成工場114で生成されたガスに体積比で約1%の水蒸気が混ざり合うことになる。また、差し水が浸入している位置を通過するガスが例えば20℃の場合には、ガス生成工場114で生成されたガスに体積比で約2%の水蒸気が混ざり合うことになる。
【0082】
図12は、炭化水素系のガスのみの場合、および、炭化水素系のガスに水蒸気が混合した場合における、温度および音速の関係を示す図である。ここで、
図12に示すように、標準発熱量が44.0(MJ/Nm
3)の炭化水素系のガスのみの場合と、標準発熱量が44.0(MJ/Nm
3)の炭化水素系のガスに1%の水蒸気(水)が混合した場合とでは、温度および音速の関係が異なる線上に表される。具体的には、同一の温度であっても、炭化水素系のガスに1%の水蒸気が混合している場合の方が、炭化水素系のガスのみの場合よりも音速が速くなる。
【0083】
また、炭化水素系のガスのみの場合と、炭化水素系のガスに1%の水蒸気(水)が浸入した場合とでは、単位発熱量も異なってくる。例えば、炭化水素系のガスに1%の水蒸気が浸入している場合の方が、炭化水素系のガスのみの場合よりも、単位発熱量が約0.6%低くなる。
【0084】
図13は、ガス供給管132に差し水が混合している場合における、ガスメーター110での音速を説明するための図である。上記したように、ガス供給管132に差し水が浸入すると、ガス供給管132における差し水が浸入している箇所よりも下流のガスの音速が高くなる。例えば、
図13に示すように、ガス供給管132において温度が一定であり、かつ、ガス供給管132において差し水136が浸入した場合に、ガス供給管132における差し水136が浸入した位置よりも上流側に接続されたガスメーター110において、ガスの音速が415m/sと導出されるとする。このような場合に、ガス供給管132における差し水136よりも下流側では、炭化水素系のガスに水蒸気が混合し、ガス供給管132における差し水136が浸入した位置よりも下流側に接続されたガスメーター110では、ガスの音速が例えば418m/sと導出される。
【0085】
そこで、差し水位置特定部208は、ガス供給管132における上流から下流にかけて接続された複数のガスメーター110で導出されるガスの音速を、発熱量に関する発熱量情報(ガス情報)として監視(図示化)することで、ある位置から下流にかけて音速が高くなっている場合には、音速が高くなった位置(最も上流側)に差し水が浸入していると判定する。つまり、差し水位置特定部208は、ガス供給管132における上流から下流のガスの音速の差異(差分)に基づいて、音速が高くなった位置(最も上流側)を差し水の位置として特定する。
【0086】
ただし、ガスメーター110で導出される音速は、例えば
図10で示したように、供給されるガスの温度によっても変化する。しかしながら、ガス生成工場114で生成されたガスに水蒸気が混合した場合、ガス生成工場114で生成されたガスに水蒸気が混合していない場合よりも、常に音速が高くなる。したがって、差し水位置特定部208は、ガスメーター110から受信した音速を時系列的に常に監視しておけば、ガス供給管132上の周囲の音速の変化と比較して、差し水が浸入したことによる音速の変化を判定することで、その位置に差し水が浸入していると判定することができる。例えば、ガス供給管132上の周囲の音速が、気温の低下とともに低くなっているのにもかかわらず、ある領域では、音速が高くなっていたとした場合に、その領域に差し水が浸入していると判定する。
【0087】
また、過去の天候や時刻(地理的情報)に音速を関連付けて記憶しておくことにより、差し水位置特定部208は、冗長的に、現在の天候や時刻と同様の過去の天候や時刻に関連付けられた音速と比較し、過去の音速よりも現在の音速の方が常に一定の値だけ高い場合に差し水が浸入していると判定するようにしてもよい。これにより、差し水の検出精度を向上させることができる。
【0088】
異常診断部210は、使用量記憶部192に記憶された過去の通過発熱量の推移に基づいて現在の通過発熱量が異常であるか否か診断する。また、異常診断部210は、機器記憶部194に記憶された機器122におけるガスの定格通過発熱量に基づいても異常を診断することができる。
【0089】
以上、説明したように、本実施形態のセンター装置116は、ガス供給管132におけるガスの上流から下流にかけて接続された複数のガスメーター110で導出された音速の差異に基づいて、ガス供給管132における差し水の位置を特定する。これにより、ガス供給管132に差し水が浸入した時点で、差し水の位置を特定することができる。つまり、ガス供給管132に差し水が浸入してガス供給管132が閉塞する前に、早期に差し水の位置を特定することができる。
【0090】
<変形例>
図14は、変形例によるガスメーター300の概略的な構成を示した機能ブロック図である。
図14に示すように、ガスメーター300は、上記のガスメーター110に対して、温度センサ302が設けられている点で異なり、その他の構成はガスメーター110と同一である。
【0091】
温度センサ302は、供給されたガスの温度を計測する。そして、メーター通信部166は、音速導出部160で導出された音速、温度センサ302で計測された温度、および、流量導出部162で導出された流量を1時間毎にセンター装置116に送信する。
【0092】
センター装置116では、発熱量導出部204が、ガスメーター300から受信した音速および温度に基づいて、ガスの単位発熱量(MJ/m
3)を導出する。
【0093】
また、差し水位置特定部208は、発熱量導出部204により導出されたガスの単位発熱量に基づいて、差し水位置を特定する。上記したように、ガス生成工場114で生成されたガスに水蒸気が混合した場合には単位発熱量が低下するので、差し水位置特定部208は、ガス供給管132における上流から下流に向かって接続されたガスメーター300での単位発熱量を監視することで、ある位置から下流にかけて単位発熱量が低くなっている場合には、単位発熱量が低くなった位置(最も上流側)に差し水が浸入していると判断する。
【0094】
以上のように、ガスメーター300を有するガスメーターシステムでは、ガスメーター300によりガスの温度および音速を計測、導出し、センター装置116により、ガスの温度および音速に基づいて、ガスメーター300に供給されているガスの単位発熱量を導出して監視することで、差し水の位置を特定することができる。
【0095】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0096】
なお、上記の実施形態では、発熱量導出部204が、音速に基づいて単位発熱量を導出するようにしたが、差し水の位置が特定された場合には、差し水の位置よりも下流側に接続されたガスメーター110に対しては、浸入している水蒸気分の発熱量を減算補正した単位発熱量を導出するようにしてもよい。これにより、より適切な課金を行うことが可能となる。
【0097】
また、上記の実施形態では、センター装置116が、ガスメーター110で導出された音速、および、ガス生成工場114で導出されたガス特性に基づいて単位発熱量を導出するようにした。しかしながら、これに限らず、ガスメーター110が、導出した音速に基づいて、上記の式(8)を用いて単位発熱量を導出するようにしてもよい。また、ガスメーター110が、通過発熱量を導出するようにしてもよい。
【0098】
また、上記の実施形態では、ガスメーター110に供給されるガスの発熱量に関する発熱量情報(ガス情報)として音速を適応するようにしたが、単位発熱量を適応するようにしてもよい。また、単位発熱量が発熱量情報(ガス情報)として適応される場合には、ガス供給マップを参照して、同一のガス生成工場114で生成されたガスが供給されている範囲において、単位発熱量が低い領域に差し水が浸入していると特定するようにしてもよい。
【0099】
また、上記の実施形態では、ガスクロマトグラフィー172により、ガス生成部170により生成され、ガス供給導管網130に供給されるガスの成分を分析するようにしたが、ガス供給導管網130に供給されるガスの成分を分析することができれば、ガスクロマトグラフィー以外の分析装置を適応してもよい。
【0100】
また、上記の実施形態では、炭化水素系のガスの発熱量に関する発熱量情報(ガス情報)に基づいて、差し水の位置を特定するようにしたが、水素ガス、酸素ガスおよび窒素ガス等のガス情報(例えば、音速)に基づいて、それらのガス情報と水蒸気の混ざった状態でのガス情報とが異なることを用いて、差し水の位置を特定することもできる。