特許第6530675号(P6530675)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6530675
(24)【登録日】2019年5月24日
(45)【発行日】2019年6月12日
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20190531BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20190531BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20190531BHJP
【FI】
   C08L9/00
   C08L53/02
   B60C1/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-161259(P2015-161259)
(22)【出願日】2015年8月18日
(65)【公開番号】特開2017-39819(P2017-39819A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2018年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100124707
【弁理士】
【氏名又は名称】夫 世進
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100059225
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 璋子
(72)【発明者】
【氏名】川合 伸友
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 大樹
【審査官】 長岡 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−174232(JP,A)
【文献】 特開2017−137470(JP,A)
【文献】 特開2013−159232(JP,A)
【文献】 特開2013−086295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 7/00−11/02
C08L 25/00−25/18
C08L 53/00−53/02
B60C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部に対し、
ポリスチレンのハードセグメントと水添ポリブタジエンからなるエラストマーソフトセグメントを含むスチレン系ブロックポリマーであって、ポリスチレンの含有量が15質量%以下でありかつスチレン系ブロックポリマーの数平均分子量にポリスチレンの含有比を乗じて算出されるポリスチレンの数平均分子量が2万以下であるスチレン系ブロックポリマー1〜70質量部を、
含有するタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記スチレン系ブロックポリマーの数平均分子量が20万以下である、請求項記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ポリスチレンのハードセグメントからなる球状ドメインを含有する前記スチレン系ブロックポリマーからなる分散相が、前記ジエン系ゴムからなる連続相中に、分散した海島構造を持つ、請求項1又は2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載のゴム組成物を用いて作製された空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りタイヤに用いられるゴム組成物において、耐摩耗性や低燃費性などの特性を改良することを目的として、種々のブロックポリマーを配合することが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、スチレンブタジエンゴムとブタジエンゴムとの非相溶ブレンド系のゴム成分において相溶性を改善するために、スチレンブタジエン共重合体又はポリイソプレンからなるブロックAとスチレンブタジエン共重合体又はポリブタジエンからなるブロックBとのブロック共重合体を配合することが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、耐摩耗性及び低燃費性の改善を目的として、スチレンモノマーユニットのブロックセグメント及びジエンモノマーユニットのブロックセグメントから構成されるトリブロック共重合体を配合することが開示され、特許文献3には、該トリブロック共重合体として極性官能基を持つ変性ブロック共重合体を配合することが開示されている。
【0005】
特許文献4には、低燃費性を損なうことなく操縦安定性を向上するために、ブタジエンゴムに、飽和熱可塑性スチレンエラストマーを配合することが開示され、該飽和熱可塑性スチレンエラストマーとして、スチレン/エチレン/ブチレン/スチレン(SEBS)などのブロックコポリマーを用いることが開示されている。
【0006】
特許文献5には、軽量化、高硬度及び低燃費性を改善するために、タイヤ用ゴム組成物に、ポリスチレン等の芳香族ビニル重合体を含むセグメントAとエラストマーソフトセグメントBを含むA−B−Aトリブロックポリマーを配合することが開示されている。
【0007】
このように、ポリスチレンのハードセグメントとエラストマーソフトセグメントを含むスチレン系ブロックポリマーをゴム組成物に配合することは知られていた。しかしながら、従来のタイヤ用ゴム組成物に配合されているスチレン系ブロックポリマーは、一般にポリスチレンの含有量が多く、ポリスチレンの分子量が大きいものであった。そのため、低燃費性や補強性を損なうことなく、湿潤路面でのグリップ性能(ウェットグリップ性能)を向上する上で、十分な性能を引き出すことができず、更なる改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平08−283465号公報
【特許文献2】特開2004−002622号公報
【特許文献3】特開2014−105293号公報
【特許文献4】特表2012−531486号公報
【特許文献5】特開2007−154132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上の点に鑑み、ウェットグリップ性能に優れるタイヤ用ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、ポリスチレンのハードセグメントと水添ポリブタジエンからなるエラストマーソフトセグメントを含むスチレン系ブロックポリマーであって、ポリスチレンの含有量が15質量%以下でありかつスチレン系ブロックポリマーの数平均分子量にポリスチレンの含有比を乗じて算出されるポリスチレンの数平均分子量が2万以下であるスチレン系ブロックポリマー1〜70質量部を、含有するものである。本発明に係る空気入りタイヤは、該ゴム組成物を用いて作製されたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ジエン系ゴムとともに配合するスチレン系ブロックポリマーについて、そのポリスチレンの含有量と分子量を上記のように設定したことにより、低燃費性や補強性の低下を抑えながら、ウェットグリップ性能を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0013】
本実施形態に係るゴム組成物は、(A)ジエン系ゴムと、(B)スチレン系ブロックポリマーを含有するものである。
【0014】
(A)ジエン系ゴム
ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴム、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)など、通常使用される各種ジエン系ゴムが挙げられる。これらジエン系ゴムは、いずれか1種単独で、又は2種以上ブレンドして用いることができる。これらの中でも、NR、BR及びSBRからなる群から選択された少なくとも1種であることが好ましい。一実施形態として、ジエン系ゴムは、SBR単独、又はSBRと他のジエン系ゴム(例えばBR及び/又はNR)とのブレンドからなるものであってもよく、例えば、SBRを50質量%以上含むものでもよい。
【0015】
(B)スチレン系ブロックポリマー
本実施形態で用いるスチレン系ブロックポリマーは、ポリスチレンのハードセグメントとエラストマーソフトセグメントを含むブロック共重合体であり、ポリスチレンの含有量が15質量%以下かつポリスチレンの数平均分子量(Mn)が2万以下のものである。
【0016】
このようなスチレン系ブロックポリマーを配合することにより、低燃費性や補強性の低下を抑えながら、ウェットグリップ性能を向上することができる。その理由は、次のように考えられる。ジエン系ゴムに上記スチレン系ブロックポリマーを添加し混合することにより、ジエン系ゴムを連続相とし、スチレン系ブロックポリマーを分散相とした、海島構造を持つゴム組成物が得られる。ここで、一実施形態において、分散相は一分子のスチレン系ブロックポリマーにより形成され、その場合、分散相の大きさはスチレン系ブロックポリマーの分子量により決まる。詳細には、一実施形態として、ポリスチレンのハードセグメントからなる球状ドメインを含有するスチレン系ブロックポリマーからなる分散相が、ジエン系ゴムからなる連続相中に、分散した海島構造が形成される。すなわち、スチレン系ブロックポリマーが、ジエン系ゴム中でミクロ相分離して、ポリスチレンからなるハードセグメントが球状のコアを形成し、その周りをソフトセグメントで包み込まれた状態で、ジエン系ゴム中に分散した状態となる。この球状ドメインからなるハードセグメントが補強性充填剤の代替として機能することにより、ウェットグリップ性能を向上することができる。特に、ミクロ相分離構造特有のサイズの均一性と硬度上昇効果により、補強性充填剤とは異なる状態で、低燃費性の低下を抑えながら、ウェットグリップ性能を向上することができる。
【0017】
本実施形態では、上記のようにポリスチレンの含有量と分子量が小さいものを用いるが、これは含有量や分子量が大きくなるとウェットグリップ性能の改善効果に劣るためである。ウェットグリップ性能は、ソフトセグメントの存在により、ポリスチレンの含有量や分子量が大きい場合でも、改善効果はみられるものの、ハードセグメントが大きく、その周りを取り囲むソフトセグメントが小さくなると、変形しにくくなり、ウェットグリップ性能の向上効果が十分に発揮されにくくなると考えられる。また、ハードセグメントが大きくなることで、低燃費性や補強性の点で物性低下が見られる。これに対し、ポリスチレンの含有量を15質量%以下かつ数平均分子量(Mn)を2万以下に設定することにより、形成されるハードセグメントのドメインサイズが小さくなり、低燃費性の低下を抑えながら、ウェットグリップ性能に寄与する粘弾性効果のバランスが良化すると考えられる。さらに、ソフトセグメントの割合が増えることで、加硫ゴムのモジュラスの良化もみられ、補強性の低下を抑えることができると考えられる。なお、球状ドメインの大きさはポリスチレンの分子量により決まる。
【0018】
上記スチレン系ブロックポリマーにおいて、ポリスチレンの含有量(St量)は、当該スチレン系ブロックポリマーの質量に対する、ハードセグメントであるポリスチレンの質量の比率であり、1〜15質量%であることが好ましく、より好ましくは1〜10質量%であり、2〜7質量%でもよく、2〜5質量%でもよい。エラストマーソフトセグメントの含有量は、ポリスチレン含有量の残部とすることができ、99〜85質量%でもよく、99〜90質量%でもよく、98〜93質量%でもよく、97〜95質量%でもよい。
【0019】
上記スチレン系ブロックポリマーにおいて、ポリスチレンの数平均分子量(Mn)は20,000以下であり、好ましくは15,000以下であり、より好ましくは10,000以下であり、更に好ましくは8,000以下である。下限は特に限定しないが、800以上でもよく、1,000以上でもよい。一実施形態として、St量が2〜7質量%で、ポリスチレンのMnが800〜15,000(より好ましくは1,000〜10,000、更に好ましくは1,000〜8,000)でもよい。また、一実施形態として、St量が2〜5質量%で、ポリスチレンのMnが800〜15,000(より好ましくは1,000〜10,000、更に好ましくは1,000〜8,000)でもよい。
【0020】
上記スチレン系ブロックポリマーの数平均分子量(Mn)は、20万以下であることが好ましく、より好ましくは3万〜20万であり、更に好ましくは4万〜16万であり、4万〜10万でもよい。
【0021】
上記スチレン系ブロックポリマーとしては、ポリスチレンのハードセグメントAとエラストマーソフトセグメントBを含むA−B−Aトリブロック共重合体であることが好ましい。このようにソフトセグメントの両末端にハードセグメントを配置した構造であると、ジエン系ゴム中で上記球状ドメインを形成しやすく、上記効果を高めることができる。なお、スチレン系ブロックポリマーには、このようなA−B−Aトリブロック共重合体の他に、(A−B)n−Aの形を持つブロックポリマー(nは2以上の整数)が含まれてもよい。
【0022】
上記エラストマーソフトセグメントとしては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ビニル−ポリイソプレンなどのジエン系ポリマーでもよく、あるいはまた、該ジエン系ポリマーを水素添加してなる水添ジエン系ポリマーでもよい。ここで、ジエン系ポリマーとは、ジエンモノマーユニットからなる重合体である。エラストマーソフトセグメントとして、好ましくは水添ジエン系ポリマーであり、より好ましくは水添ポリブタジエン及び/又は水添ポリイソプレンであり、更に好ましくは水添ポリブタジエンである。そのため、好ましいスチレン系ブロックポリマーは水添スチレン系熱可塑性エラストマーである。なお、水添ジエン系ポリマーとしては、ジエン系ポリマーの二重結合部分を部分的に水素添加したものでもよく、実質的に全ての二重結合を水素添加したものでもよい。
【0023】
好ましい一実施形態に係るスチレン系ブロックポリマーは、ポリスチレンAとポリブタジエンBからなるA−B−Aトリブロック共重合体の二重結合部分を水素添加した水添ポリスチレン−ポリブタジエントリブロック共重合体である。この場合、ソフトセグメントとしては、エチレン−ブチレン共重合体(完全水添物)でもよく、ブタジエン−ブチレン共重合体(部分水添物)でもよい。好ましくは完全水添物であり、よって、一実施形態に係るスチレン系ブロックポリマーは、ポリスチレン−(エチレン−ブチレン共重合体)−ポリスチレントリブロック共重合体(SEBS)である。
【0024】
上記スチレン系ブロックポリマーの配合量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、1〜70質量部であり、好ましくは5〜60質量部であり、10〜50質量部でもよい。なお、スチレン系ブロックポリマーの配合量は、上記ジエン系ゴム100質量部には含まれない。
【0025】
(C)その他の成分
本実施形態に係るゴム組成物には、上記の成分の他に、補強性充填剤、シランカップリング剤、オイル、ステアリン酸、亜鉛華、老化防止剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤など、ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。
【0026】
補強性充填剤としては、湿式シリカ(含水ケイ酸)等のシリカやカーボンブラックが好ましく用いられる。より好ましくは、転がり抵抗性能とウェットグリップ性能のバランスを向上するために、シリカを用いることであり、シリカ単独又はシリカとカーボンブラックの併用が好ましい。補強性充填剤の配合量は、特に限定されず、例えば、上記ジエン系ゴム100質量部に対して20〜150質量部でもよく、20〜100質量部でもよく、30〜80質量部でもよい。シリカの配合量も特に限定されず、例えば、ジエン系ゴム100質量部に対して20〜150質量部でもよく、20〜100質量部でもよく、30〜80質量部でもよい。
【0027】
シリカを配合する場合、スルフィドシランやメルカプトシラン等のシランカップリング剤を併用することが好ましく、その場合、シランカップリング剤の配合量は、シリカ質量の2〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは4〜15質量%である。
【0028】
加硫剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜5質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜3質量部である。
【0029】
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チウラム系、チアゾール系、及びグアニジン系などの各種加硫促進剤が挙げられ、いずれか1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫促進剤の配合量は、特に限定するものではないが、上記ジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0030】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。例えば、第1混練段階で、ジエン系ゴムに対し、スチレン系ブロックポリマーとともに、加硫剤及び加硫促進剤を除く他の添加剤を加えて混練し、次いで、得られた混練物に、最終混練段階で、加硫剤と加硫促進剤を添加し混練することによりゴム組成物を得ることができる。
【0031】
このようにして得られたゴム組成物は、タイヤ用として用いられ、乗用車用タイヤ、トラックやバスの重荷重用タイヤなど、各種用途、サイズの空気入りタイヤのトレッド部、サイドウォール部などタイヤの各部位に適用することができる。すなわち、該ゴム組成物は、常法に従い、例えば、押出加工によって所定の形状に成形され、他の部品と組み合わせて未加硫タイヤ(グリーンタイヤ)を作製した後、例えば140〜180℃で加硫成型することにより、空気入りタイヤを製造することができる。これらの中でも、タイヤの接地面を構成するトレッドゴムに用いることが好ましい。空気入りタイヤのトレッド部には、キャップゴムとベースゴムとの2層構造からなるものと、両者が一体の単層構造のものがあるが、接地面を構成するゴムに好ましく用いられる。すなわち、単層構造のものであれば、当該トレッドゴムが上記ゴム組成物からなり、2層構造のものであれば、キャップゴムが上記ゴム組成物からなることが好ましい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。各測定方法及び試験方法は以下の通りである。
【0033】
[スチレン系ブロックポリマーの数平均分子量(Mn)]
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)での測定により、ポリスチレン換算のMnを求めた。詳細には、測定試料は0.2mgをTHF1mLに溶解させたものを用いた。(株)島津製作所製「LC−20DA」を使用し、試料をフィルター透過後、温度40℃、流量0.7mL/分でカラム(Polymer Laboratories社製「PL Gel3μm Guard×2」)を通し、Spectra System社製「RI Detector」で検出した。
【0034】
[スチレン系ブロックポリマーの組成分析]
NMRにより、スチレン系ブロックポリマーの構造同定を行い、得られたNMRスペクトルから、スチレン系ブロックポリマーにおけるポリスチレンの含有量(St量)を算出した。NMRスペクトルは、BRUKER社製「400ULTRASHIELDTM PLUS」によりTMSを標準とし、ポリマー1gを重クロロホルム5mLに溶解し、測定した。
【0035】
[ポリスチレンの数平均分子量(Mn)]
上記で測定したスチレン系ブロックポリマーのMnに、ポリスチレンの含有比(St量/100)を乗じて算出した(Mn×St量(質量%)/100)。
【0036】
[ウェットグリップ性能]
USM社製レオスペクトロメーターE4000を用いて、周波数50Hz、静歪み10%、動歪み2%、温度0℃の条件で損失係数tanδを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。0℃でのtanδは、タイヤ用ゴム組成物において、湿潤路面に対するグリップ性能の指標として一般に用いられているものであり、上記指数が大きいほどtanδが大きく、ウェットグリップ性能に優れることを示す。
【0037】
[低燃費性]
温度を60℃に変え、その他はウェットグリップ性能の評価と同様にして、tanδを測定し、その逆数について、比較例1の値を100とした指数で表示した。60℃でのtanδは、タイヤ用ゴム組成物において、低発熱性の指標として一般に用いられているものであり、上記指数が大きいほどtanδが小さく、従って、発熱しにくく、タイヤとしての低燃費性能に優れることを示す。
【0038】
[補強性M300]
JIS K6251に準拠した引張試験(ダンベル状3号形)を行って300%モジュラスを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、M300が大きく剛性が高いことを示す。
【0039】
[合成例1:スチレン系ブロックポリマーの合成]
反応器としての耐圧オートクレーブに、5質量部のスチレンモノマーを含むシクロヘキサン溶液(濃度20質量%)を投入し、60℃に加温し、開始剤として0.08質量部のn−ブチルリチウムを添加し、30分間重合させた。その後、90質量部のブタジエンモノマー(1,3−ブタジエン。以下同じ)を含むシクロヘキサン溶液(濃度20質量%)を反応器に連続的に加えて3時間重合を行い、その後、5質量部のスチレンモノマーを含むシクロヘキサン溶液(濃度20質量%)を加えて30分間重合を行った。得られた反応液を貧溶媒としてエタノールを使用して凝固させ、取り出した固体を濾過して真空乾燥することでブロック共重合を得た。得られたブロック共重合体をシクロヘキサンに溶解し、水素添加触媒としてパラジウムカーボン(パラジウム担持量:5質量%)をブロック共重合体に対して5質量%添加し、水素圧力2MPa、150℃の条件で10時間反応を行った。冷却後、大気圧に戻した状態で反応溶液を取り出し、濾過によりパラジウムカーボンを除去し、減圧乾燥を行うことにより、上記ブロック共重合体の水素添加物である、合成例1に係るスチレン系ブロックポリマー(以下、ポリマー1という)を得た。
【0040】
得られたポリマー1は、ポリスチレン−(エチレン−ブチレン共重合体)−ポリスチレントリブロック共重合体であり、Mnが73,000、St量が10質量%であり、そのため、ポリスチレンのMnは7,300であった。
【0041】
[合成例2:スチレン系ブロックポリマーの合成]
スチレンモノマーの初期投入量を3.5質量部、開始剤の投入量を0.04質量部、ブタジエンモノマーの添加量を93質量部、その後のスチレンモノマーの投入量を3.5質量部とし、その他は合成例1と同様にしてポリマー2を得た。ポリマー2は、ポリスチレン−(エチレン−ブチレン共重合体)−ポリスチレントリブロック共重合体であり、Mnが152,000、St量が7質量%、ポリスチレンのMnは10,640であった。
【0042】
[合成例3:スチレン系ブロックポリマーの合成]
スチレンモノマーの初期投入量を3.5質量部、開始剤の投入量を0.08質量部、ブタジエンモノマーの添加量を93質量部、その後のスチレンモノマーの投入量を3.5質量部とし、その他は合成例1と同様にしてポリマー3を得た。ポリマー3は、ポリスチレン−(エチレン−ブチレン共重合体)−ポリスチレントリブロック共重合体であり、Mnが72,000、St量が7質量%、ポリスチレンのMnは5,040であった。
【0043】
[合成例4:スチレン系ブロックポリマーの合成]
スチレンモノマーの初期投入量を2.5質量部、開始剤の投入量を0.04質量部、ブタジエンモノマーの添加量を95質量部、その後のスチレンモノマーの投入量を2.5質量部とし、その他は合成例1と同様にしてポリマー4を得た。ポリマー4は、ポリスチレン−(エチレン−ブチレン共重合体)−ポリスチレントリブロック共重合体であり、Mnが155,000、St量が5質量%、ポリスチレンのMnは7,750であった。
【0044】
[合成例5:スチレン系ブロックポリマーの合成]
スチレンモノマーの初期投入量を2.5質量部、開始剤の投入量を0.08質量部、ブタジエンモノマーの添加量を95質量部、その後のスチレンモノマーの投入量を2.5質量部とし、その他は合成例1と同様にしてポリマー5を得た。ポリマー5は、ポリスチレン−(エチレン−ブチレン共重合体)−ポリスチレントリブロック共重合体であり、Mnが75,000、St量が5質量%、ポリスチレンのMnは3,750であった。
【0045】
[合成例6:スチレン系ブロックポリマーの合成]
スチレンモノマーの初期投入量を1.5質量部、開始剤の投入量を0.08質量部、ブタジエンモノマーの添加量を97質量部、その後のスチレンモノマーの投入量を1.5質量部とし、その他は合成例1と同様にしてポリマー6を得た。ポリマー6は、ポリスチレン−(エチレン−ブチレン共重合体)−ポリスチレントリブロック共重合体であり、Mnが72,000、St量が3質量%、ポリスチレンのMnは2,160であった。
【0046】
[合成例7:スチレン系ブロックポリマーの合成]
スチレンモノマーの初期投入量を1.5質量部、開始剤の投入量を0.14質量部、ブタジエンモノマーの添加量を97質量部、その後のスチレンモノマーの投入量を1.5質量部とし、その他は合成例1と同様にしてポリマー7を得た。ポリマー7は、ポリスチレン−(エチレン−ブチレン共重合体)−ポリスチレントリブロック共重合体であり、Mnが45,000、St量が3質量%、ポリスチレンのMnは1,350であった。
【0047】
[合成例8:水添ポリブタジエンの合成]
反応器としての耐圧オートクレーブに、100質量部のブタジエンモノマーを含むシクロヘキサン溶液(濃度20質量%)を投入し、60℃に加温し、開始剤として0.09質量部のn−ブチルリチウムを添加し、3時間重合させた。得られた反応液を貧溶媒としてエタノールを使用して凝固させ、取り出した固体を濾過して真空乾燥することでポリブタジエンを得た。得られたポリブタジエンをシクロヘキサンに溶解し、水素添加触媒としてパラジウムカーボン(パラジウム担持量:5質量%)をポリブタジエンに対して5質量%添加し、水素圧力2MPa、150℃の条件で10時間反応を行った。冷却後、大気圧に戻した状態で反応溶液を取り出し、濾過によりパラジウムカーボンを除去し、減圧乾燥を行うことにより、合成例8に係る水添ポリブタジエン(ポリマー8という)を得た。ポリマー8は、Mnが70,000であった(St量:0質量%)。
【0048】
[ゴム組成物の調製及び評価]
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従って、常法に従いタイヤ用ゴム組成物を調製した。詳細には、第一混練段階で、ジエン系ゴムに対し、硫黄及び加硫促進剤を除く他の配合剤を添加し混練し(排出温度=150℃)、次いで、得られた混練物に、最終混練段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して(排出温度=110℃)、ゴム組成物を調製した。表1中の各成分は以下の通りである。
【0049】
・ジエン系ゴム:日本ゼオン(株)製スチレンブタジエンゴム「Nipol 1502」
・タフテックH1041:旭化成ケミカルズ(株)製「タフテックH1041」、ポリスチレン−(エチレン−ブチレン共重合体)−ポリスチレントリブロック共重合体(Mn:72,000、St量:30質量%、ポリスチレンのMn:21,600)
・タフテックH1221:旭化成ケミカルズ(株)製「タフテックH1221」、ポリスチレン−(エチレン−ブチレン共重合体)−ポリスチレントリブロック共重合体(Mn:153,000、St量:12質量%、ポリスチレンのMn:18,360)
・ポリマー1〜8:それぞれ合成例1〜8で合成したポリマー
・シリカ:東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」
・プロセスオイル:JX日鉱日石エネルギー(株)製「X-140」
・シランカップリング剤:エボニック・デグザ製「Si69」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-20」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1種」
・老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラック6C」
・硫黄:細井化学工業(株)製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤A:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」
・加硫促進剤B:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーD」
【0050】
得られた各ゴム組成物について、160℃×20分で加硫して所定形状の試験片を作製し、得られた試験片を用いて、動的粘弾性試験を行い、ウェットグリップ性能(tanδ(0℃))と低燃費性(tanδ(60℃))を評価するとともに、引張試験を行い、弾性率M300を評価した。
【0051】
【表1】
【0052】
結果は表1に示す通りである。コントロールである比較例1に対し、比較例2,3では、水添ポリスチレン−ポリブタジエントリブロック共重合体を配合したものの、当該共重合体中のポリスチレンの含有量が多くかつそのMnが大きいため、ウェットグリップ性能の改善効果が小さく、また、低燃費性と補強性において低下がみられた。
【0053】
これに対し、ポリスチレンの含有量が少なくかつそのMnが小さい水添ポリスチレン−ポリブタジエントリブロック共重合体を配合した実施例1〜16であると、低燃費性と補強性の低下を抑えながら、ウェットグリップ性能を顕著に改善することができた。実施例1〜16の中で比べると、ポリスチレンの含有量が少なくかつそのMnが小さいほど、低燃費性とウェットグリップ性能の粘弾性効果のバランスが良くなる傾向があり、また、補強性も改善する傾向にあった。ポリスチレンの含有量が12質量%でかつそのMnが18,360であるスチレン系ブロックポリマーを用いた実施例1では、低燃費性に若干の低下がみられ、また、該スチレン系ブロックポリマーを増量した実施例2では、低燃費性と補強性に低下がみられた。これに対し、ポリスチレンの含有量が10質量%でかつそのMnが7,300であるスチレン系ブロックポリマーを用いた実施例3,4では、低燃費性と補強性の低下はほとんどみられなかった。このことから、ポリスチレンの含有量は10質量%以下でかつそのMnが15,000以下であることが好ましく、ポリスチレンの含有量が少なくかつそのMnが小さいほど好ましいといえる。
【0054】
一方、ポリスチレンを含まない水添ポリブタジエンを配合した比較例4,5では、ウェットグリップ性能の改善効果はほとんど得られず、低燃費性及び補強性にも劣っていた。上記のようにポリスチレンはできるだけ少ないことが好ましいといえるが、ポリスチレンを含まないと、上述したスチレン系ブロックポリマーによる補強性充填剤の代替効果が発揮されず、本実施形態による効果を発揮することはできない。
【0055】
実施例1〜16のゴム組成物を加硫した試験片について、走査電子顕微鏡(STEM)を用いて断面構造を5万倍から40万倍の倍率で観察したところ、ポリスチレンのハードセグメントからなる球状ドメインを含有するスチレン系ブロックポリマーからなる分散相が、ジエン系ゴムからなる連続相中に、分散した100nm以下の海島構造が形成されていた。すなわち、スチレンブタジエンゴムの連続相中に、スチレン系ブロックポリマーからなる分散相が分散しており、該分散相は、ポリスチレンからなる球状ドメインをコアとし、その周りが水添ポリブタジエン部分で包み込まれた形態をなしていた。
【0056】
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。