【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。各測定方法及び試験方法は以下の通りである。
【0033】
[スチレン系ブロックポリマーの数平均分子量(Mn)]
ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)での測定により、ポリスチレン換算のMnを求めた。詳細には、測定試料は0.2mgをTHF1mLに溶解させたものを用いた。(株)島津製作所製「LC−20DA」を使用し、試料をフィルター透過後、温度40℃、流量0.7mL/分でカラム(Polymer Laboratories社製「PL Gel3μm Guard×2」)を通し、Spectra System社製「RI Detector」で検出した。
【0034】
[スチレン系ブロックポリマーの組成分析]
NMRにより、スチレン系ブロックポリマーの構造同定を行い、得られたNMRスペクトルから、スチレン系ブロックポリマーにおけるポリスチレンの含有量(St量)を算出した。NMRスペクトルは、BRUKER社製「400ULTRASHIELDTM PLUS」によりTMSを標準とし、ポリマー1gを重クロロホルム5mLに溶解し、測定した。
【0035】
[ポリスチレンの数平均分子量(Mn)]
上記で測定したスチレン系ブロックポリマーのMnに、ポリスチレンの含有比(St量/100)を乗じて算出した(Mn×St量(質量%)/100)。
【0036】
[ウェットグリップ性能]
USM社製レオスペクトロメーターE4000を用いて、周波数50Hz、静歪み10%、動歪み2%、温度0℃の条件で損失係数tanδを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。0℃でのtanδは、タイヤ用ゴム組成物において、湿潤路面に対するグリップ性能の指標として一般に用いられているものであり、上記指数が大きいほどtanδが大きく、ウェットグリップ性能に優れることを示す。
【0037】
[低燃費性]
温度を60℃に変え、その他はウェットグリップ性能の評価と同様にして、tanδを測定し、その逆数について、比較例1の値を100とした指数で表示した。60℃でのtanδは、タイヤ用ゴム組成物において、低発熱性の指標として一般に用いられているものであり、上記指数が大きいほどtanδが小さく、従って、発熱しにくく、タイヤとしての低燃費性能に優れることを示す。
【0038】
[補強性M300]
JIS K6251に準拠した引張試験(ダンベル状3号形)を行って300%モジュラスを測定し、比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど、M300が大きく剛性が高いことを示す。
【0039】
[合成例1:スチレン系ブロックポリマーの合成]
反応器としての耐圧オートクレーブに、5質量部のスチレンモノマーを含むシクロヘキサン溶液(濃度20質量%)を投入し、60℃に加温し、開始剤として0.08質量部のn−ブチルリチウムを添加し、30分間重合させた。その後、90質量部のブタジエンモノマー(1,3−ブタジエン。以下同じ)を含むシクロヘキサン溶液(濃度20質量%)を反応器に連続的に加えて3時間重合を行い、その後、5質量部のスチレンモノマーを含むシクロヘキサン溶液(濃度20質量%)を加えて30分間重合を行った。得られた反応液を貧溶媒としてエタノールを使用して凝固させ、取り出した固体を濾過して真空乾燥することでブロック共重合を得た。得られたブロック共重合体をシクロヘキサンに溶解し、水素添加触媒としてパラジウムカーボン(パラジウム担持量:5質量%)をブロック共重合体に対して5質量%添加し、水素圧力2MPa、150℃の条件で10時間反応を行った。冷却後、大気圧に戻した状態で反応溶液を取り出し、濾過によりパラジウムカーボンを除去し、減圧乾燥を行うことにより、上記ブロック共重合体の水素添加物である、合成例1に係るスチレン系ブロックポリマー(以下、ポリマー1という)を得た。
【0040】
得られたポリマー1は、ポリスチレン−(エチレン−ブチレン共重合体)−ポリスチレントリブロック共重合体であり、Mnが73,000、St量が10質量%であり、そのため、ポリスチレンのMnは7,300であった。
【0041】
[合成例2:スチレン系ブロックポリマーの合成]
スチレンモノマーの初期投入量を3.5質量部、開始剤の投入量を0.04質量部、ブタジエンモノマーの添加量を93質量部、その後のスチレンモノマーの投入量を3.5質量部とし、その他は合成例1と同様にしてポリマー2を得た。ポリマー2は、ポリスチレン−(エチレン−ブチレン共重合体)−ポリスチレントリブロック共重合体であり、Mnが152,000、St量が7質量%、ポリスチレンのMnは10,640であった。
【0042】
[合成例3:スチレン系ブロックポリマーの合成]
スチレンモノマーの初期投入量を3.5質量部、開始剤の投入量を0.08質量部、ブタジエンモノマーの添加量を93質量部、その後のスチレンモノマーの投入量を3.5質量部とし、その他は合成例1と同様にしてポリマー3を得た。ポリマー3は、ポリスチレン−(エチレン−ブチレン共重合体)−ポリスチレントリブロック共重合体であり、Mnが72,000、St量が7質量%、ポリスチレンのMnは5,040であった。
【0043】
[合成例4:スチレン系ブロックポリマーの合成]
スチレンモノマーの初期投入量を2.5質量部、開始剤の投入量を0.04質量部、ブタジエンモノマーの添加量を95質量部、その後のスチレンモノマーの投入量を2.5質量部とし、その他は合成例1と同様にしてポリマー4を得た。ポリマー4は、ポリスチレン−(エチレン−ブチレン共重合体)−ポリスチレントリブロック共重合体であり、Mnが155,000、St量が5質量%、ポリスチレンのMnは7,750であった。
【0044】
[合成例5:スチレン系ブロックポリマーの合成]
スチレンモノマーの初期投入量を2.5質量部、開始剤の投入量を0.08質量部、ブタジエンモノマーの添加量を95質量部、その後のスチレンモノマーの投入量を2.5質量部とし、その他は合成例1と同様にしてポリマー5を得た。ポリマー5は、ポリスチレン−(エチレン−ブチレン共重合体)−ポリスチレントリブロック共重合体であり、Mnが75,000、St量が5質量%、ポリスチレンのMnは3,750であった。
【0045】
[合成例6:スチレン系ブロックポリマーの合成]
スチレンモノマーの初期投入量を1.5質量部、開始剤の投入量を0.08質量部、ブタジエンモノマーの添加量を97質量部、その後のスチレンモノマーの投入量を1.5質量部とし、その他は合成例1と同様にしてポリマー6を得た。ポリマー6は、ポリスチレン−(エチレン−ブチレン共重合体)−ポリスチレントリブロック共重合体であり、Mnが72,000、St量が3質量%、ポリスチレンのMnは2,160であった。
【0046】
[合成例7:スチレン系ブロックポリマーの合成]
スチレンモノマーの初期投入量を1.5質量部、開始剤の投入量を0.14質量部、ブタジエンモノマーの添加量を97質量部、その後のスチレンモノマーの投入量を1.5質量部とし、その他は合成例1と同様にしてポリマー7を得た。ポリマー7は、ポリスチレン−(エチレン−ブチレン共重合体)−ポリスチレントリブロック共重合体であり、Mnが45,000、St量が3質量%、ポリスチレンのMnは1,350であった。
【0047】
[合成例8:水添ポリブタジエンの合成]
反応器としての耐圧オートクレーブに、100質量部のブタジエンモノマーを含むシクロヘキサン溶液(濃度20質量%)を投入し、60℃に加温し、開始剤として0.09質量部のn−ブチルリチウムを添加し、3時間重合させた。得られた反応液を貧溶媒としてエタノールを使用して凝固させ、取り出した固体を濾過して真空乾燥することでポリブタジエンを得た。得られたポリブタジエンをシクロヘキサンに溶解し、水素添加触媒としてパラジウムカーボン(パラジウム担持量:5質量%)をポリブタジエンに対して5質量%添加し、水素圧力2MPa、150℃の条件で10時間反応を行った。冷却後、大気圧に戻した状態で反応溶液を取り出し、濾過によりパラジウムカーボンを除去し、減圧乾燥を行うことにより、合成例8に係る水添ポリブタジエン(ポリマー8という)を得た。ポリマー8は、Mnが70,000であった(St量:0質量%)。
【0048】
[ゴム組成物の調製及び評価]
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従って、常法に従いタイヤ用ゴム組成物を調製した。詳細には、第一混練段階で、ジエン系ゴムに対し、硫黄及び加硫促進剤を除く他の配合剤を添加し混練し(排出温度=150℃)、次いで、得られた混練物に、最終混練段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して(排出温度=110℃)、ゴム組成物を調製した。表1中の各成分は以下の通りである。
【0049】
・ジエン系ゴム:日本ゼオン(株)製スチレンブタジエンゴム「Nipol 1502」
・タフテックH1041:旭化成ケミカルズ(株)製「タフテックH1041」、ポリスチレン−(エチレン−ブチレン共重合体)−ポリスチレントリブロック共重合体(Mn:72,000、St量:30質量%、ポリスチレンのMn:21,600)
・タフテックH1221:旭化成ケミカルズ(株)製「タフテックH1221」、ポリスチレン−(エチレン−ブチレン共重合体)−ポリスチレントリブロック共重合体(Mn:153,000、St量:12質量%、ポリスチレンのMn:18,360)
・ポリマー1〜8:それぞれ合成例1〜8で合成したポリマー
・シリカ:東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」
・プロセスオイル:JX日鉱日石エネルギー(株)製「X-140」
・シランカップリング剤:エボニック・デグザ製「Si69」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-20」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1種」
・老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラック6C」
・硫黄:細井化学工業(株)製「ゴム用粉末硫黄150メッシュ」
・加硫促進剤A:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」
・加硫促進剤B:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーD」
【0050】
得られた各ゴム組成物について、160℃×20分で加硫して所定形状の試験片を作製し、得られた試験片を用いて、動的粘弾性試験を行い、ウェットグリップ性能(tanδ(0℃))と低燃費性(tanδ(60℃))を評価するとともに、引張試験を行い、弾性率M300を評価した。
【0051】
【表1】
【0052】
結果は表1に示す通りである。コントロールである比較例1に対し、比較例2,3では、水添ポリスチレン−ポリブタジエントリブロック共重合体を配合したものの、当該共重合体中のポリスチレンの含有量が多くかつそのMnが大きいため、ウェットグリップ性能の改善効果が小さく、また、低燃費性と補強性において低下がみられた。
【0053】
これに対し、ポリスチレンの含有量が少なくかつそのMnが小さい水添ポリスチレン−ポリブタジエントリブロック共重合体を配合した実施例1〜16であると、低燃費性と補強性の低下を抑えながら、ウェットグリップ性能を顕著に改善することができた。実施例1〜16の中で比べると、ポリスチレンの含有量が少なくかつそのMnが小さいほど、低燃費性とウェットグリップ性能の粘弾性効果のバランスが良くなる傾向があり、また、補強性も改善する傾向にあった。ポリスチレンの含有量が12質量%でかつそのMnが18,360であるスチレン系ブロックポリマーを用いた実施例1では、低燃費性に若干の低下がみられ、また、該スチレン系ブロックポリマーを増量した実施例2では、低燃費性と補強性に低下がみられた。これに対し、ポリスチレンの含有量が10質量%でかつそのMnが7,300であるスチレン系ブロックポリマーを用いた実施例3,4では、低燃費性と補強性の低下はほとんどみられなかった。このことから、ポリスチレンの含有量は10質量%以下でかつそのMnが15,000以下であることが好ましく、ポリスチレンの含有量が少なくかつそのMnが小さいほど好ましいといえる。
【0054】
一方、ポリスチレンを含まない水添ポリブタジエンを配合した比較例4,5では、ウェットグリップ性能の改善効果はほとんど得られず、低燃費性及び補強性にも劣っていた。上記のようにポリスチレンはできるだけ少ないことが好ましいといえるが、ポリスチレンを含まないと、上述したスチレン系ブロックポリマーによる補強性充填剤の代替効果が発揮されず、本実施形態による効果を発揮することはできない。
【0055】
実施例1〜16のゴム組成物を加硫した試験片について、走査電子顕微鏡(STEM)を用いて断面構造を5万倍から40万倍の倍率で観察したところ、ポリスチレンのハードセグメントからなる球状ドメインを含有するスチレン系ブロックポリマーからなる分散相が、ジエン系ゴムからなる連続相中に、分散した100nm以下の海島構造が形成されていた。すなわち、スチレンブタジエンゴムの連続相中に、スチレン系ブロックポリマーからなる分散相が分散しており、該分散相は、ポリスチレンからなる球状ドメインをコアとし、その周りが水添ポリブタジエン部分で包み込まれた形態をなしていた。
【0056】
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。