(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。更に、各成分の含有量は、免疫賦活剤の乾物換算の値であり、平均値であってもよい。ここで含有量を平均値とするのは、製造ロット間のばらつきを考慮するものであり、例えば、任意に選択される6個以上の試料についての算術平均値である。平均値を算出する試料数の上限としては例えば20個以下である。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、免疫賦活剤等を例示するものであって、本発明は、以下に示す免疫賦活剤等に限定されない。
【0011】
免疫賦活剤
免疫賦活剤は、グルカンと脂質とを含み、グルカンと脂質の総含有率が80質量%以上である。本実施形態に係る免疫賦活剤は、良好な品質安定性と明確な免疫賦活効果を有する。これにより、家畜、ヒト、養殖魚等における感染症の罹患、進行を抑制することが期待されるだけでなく、薬剤耐性菌発生の脅威を軽減する手段を提供しうる。免疫賦活剤を構成するグルカンと脂質は、例えば、酵母細胞壁に由来し、酵母細胞壁を加水分解処理して得られるものであることが好ましい。加水分解処理にはアルカリ加水分解、酸加水分解が含まれる。
【0012】
免疫賦活剤を構成するグルカンは、D−グルコースがグリコシド結合で連結したポリマーであり、β−グルカン及びα−グルカンが含まれる。β−グルカンは、例えば、β−1,3結合の直鎖の主鎖骨格及びβ−1,6結合して分岐する側鎖を有する。また、α−グルカンは、例えば、α−1,4結合の直鎖の主鎖骨格及びα−1,6結合して分岐する側鎖を有する。
【0013】
免疫賦活剤におけるグルカンの総含有率は、例えば、60質量%以上であり、好ましくは65質量%以上、より好ましくは70質量%以上であり、また例えば、90質量%以下であり、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
【0014】
免疫賦活剤におけるβ−グルカンの含有率は、例えば、30質量%以上であり、好ましくは35質量%以上、又は40質量%以上であり、また例えば、65質量%以下であり、好ましくは60質量%以下、又は50質量%以下である。また、α−グルカンの含有率は、例えば、10質量%以上であり、好ましくは15質量%以上、又は20質量%以上であり、また例えば、40質量%以下であり、好ましくは35質量%以下、又は30質量%以下である。
【0015】
免疫賦活剤におけるβ−グルカン含有量に対するα−グルカン含有量の比は、例えば、0.2以上0.85以下であり、好ましくは0.25以上、0.3以上、0.4以上、0.45以上、又は0.5以上であり、また好ましくは0.8以下、0.7以下、又は0.6以下である。β−グルカンに対するα−グルカンの含有比が前記範囲であると、免疫賦活活性がより増強される傾向がある。
【0016】
免疫賦活剤における脂質には、アルコールと脂肪酸とがエステル結合して形成する単純脂質、分子中にリン酸、糖、タンパク質などを含む脂質である複合脂質、及び単純脂質又は複合脂質から加水分解によって誘導される誘導脂質が含まれる。免疫賦活剤における脂質の総含有率は、例えば、3質量%以上であり、好ましくは5質量%以上、又は10質量%以上であり、また例えば、20質量%以下であり、好ましくは16質量%以下、又は14質量%以下である。脂質の含有率が前記範囲内であると、免疫賦活活性がより増強される傾向がある。
【0017】
免疫賦活剤におけるグルカンと脂質の総含有率は、80質量%以上であり、好ましくは82質量%以上である。また例えば95質量%以下であり、好ましくは90質量%以下、又は88質量%以下である。グルカンと脂質の総含有率が前記範囲内であると、免疫賦活活性がより増強される傾向がある。
【0018】
免疫賦活剤におけるグルカンの総含有量に対する脂質の総含有量の比は、例えば、0.1以上0.4以下であり、好ましくは0.12以上、又は0.15以上であり、また例えば、0.3以下であり、好ましくは0.25以下、又は0.2以下である。グルカンに対する脂質の含有比が前記範囲であると、免疫賦活活性がより増強される傾向がある。
【0019】
免疫賦活剤は、グルカンと脂質に加えてマンナンを更に含んでいてもよい。マンナンはD−マンノースを主な構成単位とする多糖類である。免疫賦活剤がマンナンを含む場合、マンナンの含有率は、例えば、5質量%以下であり、好ましくは3質量%以下、又は1.2質量%以下であり、また例えば、0.1質量%以上であり、好ましくは0.2質量%以上、又は0.3質量%以上である。マンナンの含有率が前記範囲であると、免疫賦活活性がより増強される傾向がある。免疫賦活剤におけるグルカンの総含有量に対するマンナンの総含有量の比は、例えば、0.004以上0.05以下であり、好ましくは0.005以上、又は0.008以上であり、また好ましくは0.02以下、又は0.018以下である。
【0020】
免疫賦活剤は、グルカンと脂質に加えてタンパク質を更に含んでいてもよい。免疫賦活剤がタンパク質を含む場合、タンパク質の含有率は、例えば、10質量%以下であり、好ましくは8質量%以下、又は6質量%以下であり、また例えば、1質量%以上であり、好ましくは2質量%以上、又は3質量%以上である。タンパク質の含有率が前記範囲であると、免疫賦活活性がより増強される傾向がある。
【0021】
免疫賦活剤におけるグルカンの総含有量に対するマンナンとタンパク質の総含有量の比は、例えば、0.01以上0.2以下であり、好ましくは0.02以上、又は0.05以上であり、また好ましくは0.1以下、又は0.09以下である。
【0022】
免疫賦活剤は、灰分を更に含んでいてもよい。免疫賦活剤が灰分を含む場合、灰分の含有率は、例えば、10質量%以下であり、好ましくは6質量%以下、又は4質量%以下であり、また例えば、1質量%以上であり、好ましくは1.5質量%以上、又は2質量%以上である。灰分の含有率が前記範囲であると、免疫賦活活性がより増強される傾向がある。
【0023】
免疫賦活剤の各成分の含有量は、常法により測定することができる。例えば、グルカンの含有量は、グルカンを加水分解して生成するグルコースを定量することで測定することができる。また、脂質の含有量は、酸分解法で定量することができる。
【0024】
免疫賦活剤は、品質安定性に優れる。免疫賦活剤の品質の安定性は、例えば、製造ロットの相違に起因する各成分の含有率のばらつきで評価できる。具体的には、各成分の含有率の変動係数(%)で評価される。変動係数(%)は、免疫賦活剤の各成分の含有率を、任意に選択される6個以上の試料について測定して、含有率の算術平均値と標準偏差を算出し、標準偏差を算術平均値で除した値の百分率として算出される。免疫賦活剤におけるグルカンの総含有率の変動係数(%)は、例えば、10%以下であり、好ましくは8%以下、又は5%未満である。また、脂質の含有率の変動係数(%)は、例えば、20%以下であり、好ましくは15%以下、又は8%以下である。更に、グルカンと脂質の総含有率の変動係数(%)は、例えば、6%以下であり、好ましくは5%以下、又は5%未満である。なお、変動係数の下限値は0%であるが、実質的には0%より大きい値となる。
【0025】
免疫賦活剤は、主要成分であるグルカンと脂質に加えて、免疫調整作用を有する公知の成分を更に含んでいてもよい。免疫調整作用を有する成分としては、例えば、甜茶抽出物、フコイダン、アラビノキシラン、ラクトフェリン、カテキン、キトサン、キトサンオリゴ糖、キチンオリゴ糖、L−アスコルビン酸、コエンザイムQ
10(還元型を含む)等を挙げることができる。
【0026】
免疫賦活剤には、必要に応じて通常、医薬品、食品、飼料等に用いられ得ることが知られている任意の成分、例えば、水、油脂、糖類、ビタミン類、甘味料、調味料、酸味料、保存料、香料、着色料、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、安定剤、乳化剤、pH調整剤等を配合することができる。
【0027】
免疫賦活剤の形態は、粉末、顆粒等の固体、液体、ペースト等のいずれであってもよい。また、免疫賦活剤の剤型は、投与方法、投与対象等に応じて適宜選択することができる。剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、トローチ剤、散剤、液剤等の経口投与用製剤が挙げられる。これらの製剤は、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤等の添加剤を用いて公知の方法に従って製造することができる。また、免疫賦活剤を含有させて、健康食品、健康補助食品等の食品組成物、飲料組成物、飼料等を構成することもできる。
【0028】
免疫賦活剤は、脊椎動物等の投与対象に投与されると、対象において免疫賦活作用を発現する。これにより、対象における感染症の発症を抑制することができる。すなわち、免疫賦活剤は対象の感染症の予防方法に適用することができる。投与の対象となる脊椎動物としては、哺乳動物、鳥類、魚類等が挙げられる。哺乳動物は、ヒトを含んでいてもよく、ヒト以外の哺乳動物であってもよい。ヒト以外の哺乳動物としては、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、サルの他イヌ、ネコ等の愛玩動物等が挙げられる。鳥類としては、肉鶏、産卵鶏、七面鳥、アヒル、ハト等が挙げられる。また、魚類としては、サケ、マス、ヤマメ、イワナ、イトウ等のサケ科魚類、コイ、フナ、ティラピア、ナマズ、スズキ、ブリ、カンパチ、ハマチ、ヒラメ、タイ、マグロ、ウナギ等が挙げられる。
【0029】
免疫賦活剤を医薬品又は飲食品として投与する場合、例えば、1回あたり1mgから500mg(乾燥重量)/kg体重の量を、1日に1回から数回の経口投与とすることができる。また、飲食品、飼料等として使用する場合、飲食品、飼料等の100gあたり0.1gから1gを添加することができる。
【0030】
免疫賦活剤を飼料として投与する場合、例えば、哺乳動物、鳥類、魚類に対しては投与する餌に対して0.001質量%以上1質量%以下で混合したものを一日に1回から数回投与することができる。
【0031】
免疫賦活剤の製造方法
免疫賦活剤は、例えば、酵母細胞壁を原料とする以下のような製造方法で製造することができる。免疫賦活剤の製造方法は、例えば、酵母細胞壁を酸水溶液又はアルカリ水溶液で加水分解処理して加水分解物を得る加水分解工程と、加水分解物からグルカン含有組成物を回収する回収工程とを含む。
【0032】
ここで加水分解工程に供される酵母細胞壁は、前処理工程で前処理されていてもよい。前処理工程には、原料となる酵母を自己消化して自己消化物を得る自己消化工程、原料となる酵母を熱水抽出して熱水抽出物得る熱水抽出工程、原料となる酵母を酵素処理して酵素処理物を得る酵素処理工程等の予備分解工程、自己消化物、熱水抽出物、酵素処理物等の予備分解物を遠心分離して酵母細胞壁を得る第1遠心分離工程等が含まれる。
【0033】
原料となる酵母としては、例えば、サッカロマイセス属、シゾサッカロマイセス属、クルイベロマイセス属、カンジダ属、ピキア属、トルロプシス属等の酵母が挙げられ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、サッカロマイセス属の酵母がより好ましい。サッカロマイセス属の酵母には、ビール酵母、パン酵母等の食品用酵母が含まれる。
【0034】
自己消化工程では、酵母自体のプロテアーゼ等により酵母のタンパク質等を分解して自己消化物を得る。自己消化工程は、例えば、pHを2から7に、温度を40℃以上65℃以下に調整して、1時間以上48時間以下で行われる。第1遠心分離工程では、自己消化物を遠心分離して重液として酵母細胞壁を含む画分を得る。遠心分離には、例えば、工業生産においてはノズル型遠心機、間欠排出型遠心機、シャープレス型遠心機等を用いることができ、自己消化物中の不溶性成分を回収できる限り、遠心分離の条件は適宜調整することができる。
【0035】
加水分解工程では、酵母細胞壁を、例えば、アルカリ水溶液を用いて加水分解処理して加水分解物を得る。アルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物を含む水溶液が用いられる。アルカリ水溶液の濃度は、例えば、0.01質量%以上10質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以上5質量%以下、より好ましくは1質量%以上3質量%以下である。加水分解処理の温度は、例えば70℃以上100℃以下であり、好ましくは85℃以上95℃以下である。加水分解処理の時間は、例えば1時間以上48時間以下であり、好ましくは4時間以上24時間以下である。
【0036】
回収工程は、例えば、必要な場合には加水分解物を中和して中和物を得る中和工程と、中和物又は加水分解物を遠心分離してグルカン含有組成物を得る第2遠心分離工程と、グルカン含有組成物を乾燥する乾燥工程とを含む。酵母の自己消化物等から得られる酵母細胞壁を、アルカリ加水分解処理することで、グルカン及び脂質を含む免疫賦活剤を安定した品質で製造することができる。
【0037】
中和工程では、アルカリ加水分解物に酸性化合物を加えてpHを6.5から7.5に調整して中和物を得る。酸性化合物としては、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸、ギ酸、酢酸等の有機酸が用いられる。第2遠心分離工程では中和物を遠心分離して重液としてグルカン含有組成物を得る。遠心分離には、例えば、工業生産においてはノズル型遠心機、間欠排出型遠心機、シャープレス型遠心機等を用いることができ、中和物又は加水分解物中の不溶性成分を回収できる限り、遠心分離の条件は適宜調整することができる。乾燥工程ではグルカン含有組成物を乾燥処理して、免疫賦活剤を得る。乾燥条件としては、工業生産においては噴霧乾燥機、凍結乾燥機又はドラム乾燥機等を用いることができ、条件は適宜調整することができる。乾燥工程の前に、グルカン含有組成物を殺菌処理する殺菌工程を設けてもよい。殺菌工程は、例えば、UHT殺菌機を用いて120℃以上で10秒から60秒間熱処理して行うことができるが、目的の品質に合致するよう適宜調整することができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
免疫賦活剤の製造方法1
アサヒグループ食品(株)栃木小金井工場にて製造したサッカロマイセス(Saccharomyces)属に属するビール酵母に由来する酵母細胞壁(固形分15%;酵母の自己消化物由来)を準備し、これを加水分解処理に供した。具体的には、酵母細胞壁を含むスラリーに、最終濃度が約1.5質量%、又は約2.0質量%となるように水酸化ナトリウムを添加し、90℃に加熱して4時間加水分解処理した。処理後の酵母細胞壁スラリーを塩酸でpH7.0に調整後、高速冷却遠心機(BECKMAN COULTER社製 Avanti J−26S XP)を用い、8,000g×10分間のバッチ式遠心分離を行った。沈殿に1.5Lの蒸留水を添加し、懸濁した後に上述の条件で遠心分離を行った。本操作を4回繰り返し、沈殿を凍結乾燥機(EYELA社製FDU−2100)にて2晩以上乾燥して免疫賦活剤を得た。
【0040】
免疫賦活剤の製造方法2
アサヒグループ食品(株)栃木小金井工場にて製造したサッカロマイセス(Saccharomyces)属に属するビール酵母に由来する酵母細胞壁(固形分15%;酵母の自己消化物由来)を準備し、これを加水分解処理に供した。具体的には、酵母細胞壁を含むスラリーに、最終濃度が約1.5質量%、又は約2.0質量%となるように水酸化ナトリウムを添加し、90℃に加熱して4時間加水分解処理した。処理後の酵母細胞壁スラリーを塩酸でpH7.0に調整後、ノズル式連続遠心分離機(アルファラバル社製FEUX512T−31C−50およびFEUX412U−31C−50)により加水しながら固液分離し、得られた重液を130℃40秒の条件で殺菌し、次いでドラム乾燥機にて乾燥して免疫賦活剤を得た。
【0041】
グルカンの分析方法1
試料を約0.6g秤量し、72(w/w)%硫酸を4mL添加後、室温にて1時間撹拌した。その後、Milli−Q(登録商標)水を用いて硫酸濃度を4(w/w)%に調整し、121℃で1時間反応させた。冷却後に水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和した。定容後にろ過を行い、ろ液をHPLCに供した。カラムはWakopak(登録商標)Wakosil(登録商標)5NH
2(φ4.6mm×250mm、富士フイルム和光純薬工業株式会社)、カラム温度は室温、移動相はアセトニトリル:水=75:25、流量1.0mL/分、注入量は2μLとした。反応液として1(w/v)%アルギニンおよび3(w/v)%ホウ酸混合溶液を0.7mL/min.で流し、150℃で反応させ、蛍光検出器を用いてグルコースを検出した(励起波長320nm、測定波長430nm)。得られたグルコース含有率に0.9を乗じてグルカンの総含有率を算出した。
【0042】
グルカンの分析方法2
試料を約0.5g秤量し、0.08mol/lリン酸緩衝液(pH6.0)を25ml添加し、ターマミル120L(Novozymes社)を0.1ml添加し、沸騰水浴中で30分間反応させた。放冷後、0.275mol/lの水酸化ナトリウム溶液を用いてpHを7.5±0.1に調整し、プロテアーゼ(シグマアルドリッチ社、P−5380)を60℃で30分間作用させた。放冷後、0.325mol/lの塩酸を用いてpHを4.3±0.1に調整し、アミログルコシダーゼ(シグマアルドリッチ社、A−9913)を60℃で30分間作用させた。酵素処理後の液に4倍量の95%エタノールを添加し、1時以上放置した。珪藻土を入れたろ過器に、液を流し入れ、吸引濾過を行った。残渣をエタノール、アセトンで洗浄した。残渣を回収し、72(w/w)%硫酸を5ml添加し、20℃で4時間分解した。4(w/w)%になるよう水を添加し、沸騰水浴中で2時間分解した。放冷後に中和、定容、ろ過を行った。ろ液中のグルコースをグルコースオキシダーゼ法により定量し、グルコース濃度を求め、0.9を乗じ、β−グルカンの含有率を算出した。
【0043】
α−グルカンの含有率は、分析方法1で求めたグルカンの総含有率から、β−グルカンの含有率を差し引いて算出した。
【0044】
脂質の分析方法
酸分解法により定量した。採取した試料に2mlのエタノールと10mlの濃塩酸を添加し、70℃から80℃の恒温槽で30分間から40分間分解処理した。その後、試料をマジョニア管に移し、エタノールとジエチルエーテルを混合し、さらに石油エーテルを混合した。エーテル層を回収し、水層にさらにジエチルエーテル・石油エーテルの混合液を添加して分配を行った。エーテル層を回収し、水層は再度ジエチルエーテルと石油エーテルを用いて分配を行ってエーテル層を回収した。ジエチルエーテル・石油エーテルを留去後、105℃で1時間乾燥させて、乾燥前後の重量差を脂質量とし、試料採取量から脂質の含有率を算出した。
【0045】
マンナンの分析方法
試料を約0.6g秤量し、72(w/w)%硫酸を4ml添加し、室温で1時間撹拌した。その後、硫酸濃度が4(w/w)%になるようMilli−Q(登録商標)水を添加し、121℃で1時間加水分解を行った。放冷後に中和、定容し、ろ液中のマンノースの含有量を、上述したグルカンの分析方法と同様にして定量した。試料中のマンノース濃度を算出し、0.9を乗じて、マンナン含有率を算出した。
【0046】
タンパク質の分析方法
試料中のタンパク質の含有率は、燃焼法にて定量した。分析には全窒素測定装置(住化分析センター)を用いた。試料を石英ボートに採取し、反応炉の温度を870℃以上、還元炉の温度を600℃、検出器の温度を100℃、カラムの温度を70℃に設定し、分析を行った。検出された窒素ガスを定量し、窒素・タンパク質換算係数6.25を乗じ、タンパク質含有率を算出した。
【0047】
灰分の分析方法
試料中の灰分の含有率は、直接灰化法により定量した。磁製るつぼに試料を採取し、予備灰化を行った。その後、550℃にて灰化を行った。シリカゲルデシケーター内で放冷後、秤量した。灰化前後の重量差を灰分量とし、試料採取量から灰分含有率を算出した。
【0048】
上記の製造方法で得られた14サンプルの免疫賦活剤について、成分分析を行った結果を表1に示す。なお、表1に示す各成分の含有率は、質量基準で算出された免疫賦活剤の乾物換算値である。また、表1中のグルカンの含有率は、α−グルカンとβ−グルカンの総含有率であり、以下同様である。
【0049】
【表1】
【0050】
参考例として、β−1,3/1,6−グルカンを主成分とする市販の免疫賦活剤(以下、「市販品A」ともいう)を製造ロットが異なる9サンプルを入手して、同様にして成分分析を行った。各成分の含有率の平均値、標準偏差及び変動係数(%)を表2に示す。表2に示す各成分の含有率は、質量基準の乾物換算値である。
【0051】
【表2】
【0052】
表1に示すように、免疫賦活剤は、脂質とグルカンの総含有率の平均値が80質量%以上であり、また、サンプル間の含有率のばらつきが小さかった。一方、表2に示すように、市販品Aの脂質とグルカンの総含有率の平均値は80質量%未満であり、サンプル間のばらつきが大きかった。
【0053】
次に上記で得られた免疫賦活剤と市販品Aについて、白血球に対する活性酸素種(ROS)産生促進能を評価した。
【0054】
ブタ白血球に対するROS産生促進能
10週齢の離乳子豚より採取した末梢血から単球を分取した。具体的には、10%ウシ胎児血清入りRPMI1640培地で懸濁させた末梢血単核細胞(PBMC)を2×10
6個/ウェルとなるように96ウェルプレートに播種した後、2時間の培養によりウェル内に単球を付着固定した。培養上清を除去し、HBSS(Hanks’Balanced Salt Solution)で洗浄してリンパ球を除去した後、免疫賦活剤(#5、#6)又は市販品Aを最終濃度が100μg/mLから400μg/mLとなるように発光試薬(ルミノール)とHBSSとともに各ウェルに添加した。その後、ルミノメーター(ThermoFisher Scientific社)で120分間の積算発光量を測定した。陰性対照には発光試薬(ルミノール)とHBSSのみを添加し、相対発光単位(RLU)をROS産生量として評価した。陽性対照にはホルボール12−ミリステート13−アセテート(PMA)を50μg/mLとなるように発光試薬(ルミノール)とHBSSとともに添加した。結果を
図1に示す。
【0055】
図1に示すように、2つの異なる製造ロットの免疫賦活剤#5、#6は、100μg/mLから400μg/mLの全て添加濃度において、市販品AよりもROS産生量が多かった。なお、免疫賦活剤#5のグルカンと脂質の総含有率は85.4質量%、免疫賦活剤#6のグルカンと脂質の総含有率は83.9質量%であった。
【0056】
ヒト白血球に対するROS産生促進能
Collinsらの方法(Collins SJ,Ruscetti FW,Gallagher RE,Gallo RC,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75,2458−2462,1978)に従い、ヒト白血病細胞株HL−60を1.25体積%のジメチルスルホキシドと10%ウシ胎児血清入りRPMI1640培地で6日間培養して好中球様に分化誘導した。前述の培地で懸濁させた好中球様HL−60を4×10
5個/ウェルとなるように96ウェルプレートに播種した後、1時間の培養によりウェル内に付着固定し、免疫賦活剤#14又は市販品Aを最終濃度が100μg/mLから800μg/mLとなるように発光試薬(ルミノール、ナカライテスク社製)とHBSSとともに各ウェルに添加した。その後、ルミノメーターで120分間の積算発光量を測定した。陰性対照には発光試薬(ルミノール)とHBSSのみを添加し、相対発光単位(RLU)をROS産生量として評価した。結果を
図2に示す。
【0057】
図2に示すように、本発明の免疫賦活剤#14は、100μg/mLから800μg/mLの全て添加濃度において、市販品AよりもROS産生量が多かった。このとき使用した免疫賦活剤#14のグルカンと脂質の総含有率は83.8質量%であった。
【0058】
ニジマスのビブリオ病感染試験
平均体重2gのニジマス25匹を、免疫賦活剤#4又は市販品Aの最終濃度が0.2質量%となるように展着した飼料でそれぞれ飼育した。飼育開始から7日後にPBSにより9×10
4cfu/mLに希釈したVibrio anguillarum菌をニジマス腹腔内に0.05mL注射して感染処理した。その後、10日間にわたって飼育を継続し、1日毎に生存率を算出した。結果を
図3に示す。
図3において縦軸は生存率(%)、横軸は感染処理後の経過日数を示す。
【0059】
注射後7日目の生存率は、陰性コントロール(無処理)が64%、免疫賦活剤投与区が76%、市販品A投与区が68%であった。このとき使用した免疫賦活剤#4のグルカンと脂質の総含有率は81.3質量%であった。
【0060】
図3に示すように、本発明の免疫賦活剤は、市販の免疫賦活剤に比べて高い生存率を示した。