(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、添付図面を参照して、本願の開示するリチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池、リチウムイオン二次電池用負極の製造方法の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0008】
まず、第1の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極の構成について、
図1A、
図1Bを用いて説明する。
図1Aは、第1の実施形態に係るリチウムイオン二次電池用負極の概略を示す平面図であり、
図1Bは、
図1AのI−I断面図である。
【0009】
図1A、
図1Bに示すリチウムイオン二次電池用負極(以下、「負極」とも称する)8は、負極集電体(以下、「集電体」とも称する)6と、集電体6上に配置された負極活物質層(以下、「活物質層」とも称する)7とを備える。
【0010】
なお、説明を分かりやすくするために、
図1A、
図1Bには、鉛直上向きを正方向とし、鉛直下向きを負方向とするZ軸を含む3次元の直交座標系を図示している。かかる直交座標系は、後述の説明に用いる他の図面でも示す場合がある。
【0011】
集電体6としては、例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼などを用いることができる。
【0012】
また、活物質層7は、負極活物質を含む複数の針状体13を有する。針状体13は、円形状の底面13aを集電体6上に有するよう、集電体6に対して立設される円錐形状を有する。針状体13は、長手方向に第1端部と第2端部とを有する。「立設される」とは、針状体13の第1端部である円形状の底面13aの領域と針状体13の第2端部である頂点Pとが平面視で重なり合うことをいう。すなわち、針状体13が有する「円錐形状」は、円形状の底面13aの中心(図示せず)と針状体13の頂点Pとが平面視で一致する直円錐に限らず、斜円錐であってもよい。
【0013】
このような負極8を備えるリチウムイオン二次電池では、充電時には針状体13に含まれる負極活物質にリチウムイオンが吸蔵される。隣り合う針状体13は、頂点Pが互いに離れており、負極活物質がリチウムイオンを十分に吸蔵しても隣り合う針状体13同士が干渉し、あるいは活物質層7の見かけ上の体積変化を伴うような針状体13の構造の変化が生じにくい。このため、リチウムイオンの吸蔵と放出の繰り返しによる活物質層7の構造の変化に伴うサイクル劣化を抑制することができる。
【0014】
ここで、負極8の製造方法の一例について、
図2を用いて説明する。
図2は、第1の実施形態に係る負極8の製造方法の概略を示す図である。
【0015】
負極8(
図1A、
図1B参照)は、ケイ素粒子18とバインダ(図示せず)とを含むシート状の負極材料(以下、「負極シート」とも称する)17を集電体6上に載せ、次いで負極シート17にレーザ光19を例えば大気中などの酸素を含む雰囲気下で照射することにより作製することができる。レーザ光19は、負極シート17に対して垂直、すなわちθ2=90°の角度で照射される。このようにレーザ光19を照射することで集電体6に対して立設された針状体13が形成される理由としては、次のようなことが推定されている。
【0016】
すなわち、ケイ素粒子18は、負極シート17に対して照射されたレーザ光19を吸収する。レーザ光19を吸収したケイ素粒子18は、急峻な温度上昇により一部が溶融し、一部が気化する。集電体6に近い箇所で溶融したケイ素粒子18は、集電体6と融着する核となる。そして、集電体6と融着した核の周囲で溶融または気化したケイ素粒子18の一部は、集電体6と融着した核に取り込まれるように融合され、レーザ光19の照射方向に沿うように順次結晶成長する。これにより、集電体6に融着された針状体13を複数有する活物質層7が集電体6上に形成される。すなわち、集電体6上に形成された活物質層7は針状体13を複数有し、当該針状体13は集電体6と直接融着した融着部を有する。なお、有機ゲル化材などで構成されるバインダは、レーザ光19が照射される過程で大部分が酸化されて揮発する。このため、活物質層7の主成分は、針状体13を構成するケイ素となる。通常、集電体6上で溶融したケイ素は球状になる傾向がある。上記の製造方法では、ケイ素粒子18はバインダとともにレーザ光19を照射される。バインダまたはバインダに含まれる炭素が存在することにより、溶融したケイ素が集電体6と融着でき、さらにレーザ光19の照射方向に沿うようにケイ素が順次結晶成長できると考えられる。
【0017】
ここで、ケイ素粒子18の平均粒子径は、例えば、1μm以上10μm以下の比較的大きなサイズとすることができる。また、負極シート17の厚みt1は、例えば、10μm以上30μm以下とすることができる。ただし、ケイ素粒子18の平均粒子径および負極シート17の厚みt1は、これらの範囲に限らず、例えばレーザ光19のビーム径、エネルギ量および走査速度、ならびに作製すべき針状体13の形状等に応じて適宜変更することができる。
【0018】
次に、第1の実施形態に係る負極8の活物質層7が有する針状体13について、
図3を用いてさらに説明する。
図3は、第1の実施形態に係る負極8が有する針状体13の概略を示す図であり、
図1Bに示す負極8の部分拡大図に相当する。
【0019】
針状体13は、集電体6に融着された単結晶シリコン14を含んでもよい。単結晶シリコン14の底面14aが集電体6に融着されると、例えば絶縁性の接着材料を介して集電体6および活物質層7が接合された場合と比較して集電体6と活物質層7との接触抵抗が低減され、充放電応答特性が向上する。これにより、第1の実施形態に係る負極8を備えるリチウムイオン二次電池1によれば、例えば充電時間を短縮することができる。また、単結晶シリコン14および集電体6が接着材料を介さずに融着されていると、充放電を繰り返しても単結晶シリコン14と集電体6との界面での剥離が生じにくく、サイクル劣化を抑制することができる。
【0020】
また、針状体13は、表面に、非晶質二酸化ケイ素15を含む被覆層を有してもよい。非晶質二酸化ケイ素15を含む被覆層は、単結晶シリコン14の少なくとも一部を覆っていてもよい。針状体13が単結晶シリコン14を覆う非晶質二酸化ケイ素15を有することにより、単結晶シリコン14の酸化に伴う構造の変化を抑制することができる。非晶質二酸化ケイ素15を含む被覆層は、たとえば針状体13の表面のケイ素が、酸素を含む雰囲気中で酸化され、形成される。
【0021】
ここで、非晶質二酸化ケイ素15の厚みは、たとえば1nm以上であってもよい。非晶質二酸化ケイ素15の厚みが1nm以上であることで、単結晶シリコン14の酸化を抑制することができる。また、非晶質二酸化ケイ素15の厚みが増大し、針状体13における単結晶シリコン14の含有量が相対的に小さくなると電池容量が低下することから、非晶質二酸化ケイ素15の厚みは特に1nm以上1μm以下でもよい。なお、上記した「単結晶シリコン14」および「非晶質二酸化ケイ素15」は、厚さ方向に切断した活物質層7のTEM(Transmission Electron Microscope)画像に基づいて観察、計測される。
【0022】
また、針状体13の底面13a(
図1B参照)の直径d1は、平均値が1μm以上20μm以下であってもよく、特に3μm以上10μm以下であってもよい。直径d1の平均値が1μm以上であると、針状体13が実用上問題ない強度を有する。このような針状体13は、高さを高くすることができ、十分な電池容量を確保することができる。また、隣り合う針状体13間に十分な空隙が得られるため、活物質層7全体の構造に対して、針状体13のリチウム吸蔵による体積変化が与える影響を低減することができる。一方、直径d1の平均値が20μm以下であると、同じ活物質層7で直径d1がさらに大きい場合と比較して活物質層7の比表面積が十分得られ、十分な電池容量を確保することができる。
【0023】
また、集電体6と単結晶シリコン14との融着面、すなわち単結晶シリコン14の底面14aからの針状体13の高さh1は平均値が100μm以下であればよく、特に1μm以上30μm以下であってもよく、さらには15μm以上25μm以下であってもよい。高さh1の平均値が100μm以下であると、リチウムイオン二次電池の体格を小さくすることができる。なお、高さh1の下限には制限はないものの、高さh1の平均値が1μm以上であると、活物質層7の比表面積が十分得られ、十分な電池容量を確保することができる。なお、集電体6と単結晶シリコン14との融着面とは、集電体6と単結晶シリコン14との界面である。
【0024】
また、活物質層7の体積密度はたとえば0.8×10
3kg/m
3以上1.1×10
3kg/m
3以下であってもよい。活物質層7の体積密度を上記の範囲としたリチウムイオン二次電池では、サイクル劣化に伴う充放電性能の低下を抑制しつつ十分な電池容量を確保することができる。なお、活物質層7の体積密度とは、上面視した単位面積当たりの活物質層7の質量を、針状体13の高さh1の平均値で除した値をいう。
【0025】
ここで、上記した針状体13の「直径d1」および「高さh1」は、厚さ方向に切断した活物質層7のSEM(Scanning Electron Microscope)画像に基づいて計測される。具体的には、たとえば活物質層7を集電体6とともに厚さ方向に破断し、破断した活物質層7を破断面からSEMを用いて観察し、針状体13の融着面の大きさ、および融着面から頂点Pまでの高さを計測する。計測した融着面の大きさが「直径d1」であり、融着面から頂点Pまでの高さが「高さh1」である。また、「活物質層7の質量」は、たとえば集電体6上に配置された活物質層7から、集電体6を除去し、得られた活物質層7の質量を計測することにより得られる。
【0026】
また、
図1Aでは、集電体6上に配置された針状体13は、X軸方向およびY軸方向に整列するように図示したが、これに限らず、針状体13はランダムに配置されてよい。また、隣り合う針状体13は、
図1A、
図1Bに示すように底面13aの外周部分が互いに接していてもよく、あるいは
図4A、
図4Bに示すように離れていてもよい。また、底面13aの外周部分が互いに接している部分と、底面13aの外周部分が互いに離れている部分とが、混在していてもよい。隣り合う針状体13の底面13aの外周部分が互いに離れていると、負極活物質がリチウムイオンを十分に吸蔵しても隣り合う針状体13の底面13a同士が干渉しにくい。このため、リチウムイオンの吸蔵と放出の繰り返しによる活物質層7の構造の変化に伴うサイクル劣化を、より抑制することができる。
【0027】
次に、上記した負極8を備えるリチウムイオン二次電池について、
図5を用いて説明する。
図5は、第1の実施形態に係るリチウムイオン二次電池の概略を示す断面図である。
【0028】
図5に示すリチウムイオン二次電池(以下、「リチウム二次電池」とも称する)1は、リチウムイオン二次電池用正極(以下、「正極」とも称する)4と、負極8と、セパレータ10と、絶縁材11と、電解液12とを備える。
【0029】
正極4は、正極集電体2と正極活物質層3とを備える。正極集電体2は、正極端子を兼ねた正極缶5と電気的に接続されている。正極集電体2としては、例えば、アルミニウムを用いることができる。
【0030】
また、正極活物質層3は、正極活物質を含んでいる。正極活物質としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物、およびリチウムバナジウム複合酸化物などのうち少なくとも1種を用いることができる。また、正極活物質層3は、必要に応じて導電助剤その他の添加剤を含んでもよい。
【0031】
負極8は、集電体6と活物質層7とを備える。負極8は、正極4よりも電位の低い電極である。集電体6は、負極端子を兼ねた負極缶9と電気的に接続されている。活物質層7は、集電体6とセパレータ10との間に位置し、活物質を含む。活物質層7は、針状体13以外に、たとえば針状体13間に電解液12などの電解質を含んでもよい。また、活物質層7の厚さt2は、針状体13の高さh1の最大値以上であればよく、例えば100μm以下、特には1μm以上30μm以下とすることができる。
図5に示すように活物質層7とセパレータ10とが接する場合、活物質層7の厚さt2は、集電体6とセパレータ10との間の距離とみなしてもよい。
【0032】
セパレータ10は、正極4と負極8との間に配置され、正極4および負極8を区画する。セパレータ10としては、例えば、有機樹脂繊維または無機繊維の不織布、セラミックス製の多孔質材料、ポリエチレンやポリプロピレンその他のポリオレフィンなどを用いることができる。
【0033】
絶縁材11は、正極缶5と負極缶9との間に配置され、正極缶5と負極缶9との短絡を防止するとともに内部に封入した電解液12の漏出を防止する。絶縁材11としては、耐電解液性を有する絶縁性材料、例えば、ポリプロピレンや、フッ素樹脂またはフッ素ゴムなどのフッ素系材料を用いることができる。
【0034】
電解液12は、有機溶媒と、リチウムイオン源であるリチウム塩とを含み、流動性を有する非水電解液である。有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、スルホラン、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、メチルエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどから選ばれる1種もしくは2種以上を混合したものを用いることができる。このような有機溶媒は、高誘電率、低粘性、および低蒸気圧を有する。
【0035】
また、リチウム塩としては、例えば、LiClO
4、LiBF
4、LiPF
6、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(C
2F
5SO
2)
2などを用いることができる。電解液12は、必要に応じて、たとえば過充電を防止する、難燃性を付与する等、リチウム二次電池1の性能向上が可能な添加剤を含んでもよい。
【0036】
なお、リチウム二次電池1の形状は角型、円筒型、ボタン型、コイン型、扁平型など、用途に応じていかなるものであってもよい。また、リチウム二次電池1は、正極缶5および負極缶9に代えて、正極端子および負極端子を備える絶縁性の容器を有していてもよい。さらに、リチウム二次電池1の電極構造は、一対の正極4および負極8を有する単層構造に限らず、複数の正極4および負極8を有する積層構造であってもよい。
【0037】
上記した実施形態では、針状体13は円錐形状を有するとして説明したが、これに限らない。この点について、
図6A、
図6Bを用いて説明する。
【0038】
図6A、
図6Bは、第1の実施形態の変更例に係る負極8が備える針状体13の概略を示す図である。なお、上記の説明と同じ構成には同じ符号を付し、その説明を省略し、または簡潔にとどめる。
【0039】
図6Aに示す針状体13は、第2端部に底面13aと平行な円形状の平面である天面13bを有する円錐台形状である点で
図1Bに示す針状体13と相違する。また、
図6Bに示す針状体13は、天面13bが平面ではなく曲面である点で
図6Aに示す針状体13と相違する。
【0040】
隣り合う針状体13は、天面13bが互いに離れており、リチウムイオンを十分に吸蔵しても活物質層7の体積変化が生じにくい。このため、
図6A、
図6Bに示す針状体13を有する負極8を備えるリチウム二次電池1によっても、円錐形状の針状体13を有する負極8を備えるリチウム二次電池1と同様に、サイクル劣化に伴う充放電性能の低下を抑制することができる。なお、
図6A、
図6Bでは底面13aの外周部分が互いに接している例を示したが、これらの変更例でも
図4Bのように底面13aの外周部分が互いに離れていてもよいし、底面13aの外周部分が互いに接している部分と、離れている部分とが混在していてもよい。
【0041】
上記した実施形態では、針状体13は集電体6上に配置されるとして説明したが、これに限らない。この点について、
図7を用いて説明する。
【0042】
図7は、第1の実施形態の変更例に係る負極8の概略を示す図である。
図7に示す負極8では、活物質層7が導電ピラー20をさらに有することを除き、第1の実施形態に係る負極8と同様の構成を有している。
【0043】
導電ピラー20は集電体6上に底面を有する円錐形状を有する。また、導電ピラー20は、銅、アルミニウム、または金などの導電性の高い金属材料で構成され、集電体6と溶着または一体に形成されている。そして、針状体13は導電ピラー20を覆うように設けられており、針状体13の外観形状は
図1Bに示す針状体13と同様である。
【0044】
このように、針状体13の内部に集電体6と導通する導電ピラー20を有する負極8を備えるリチウム二次電池1によれば、サイクル劣化に伴う充放電性能の低下を抑制しつつ集電体6と活物質層7との間の接触抵抗を低減させることで充放電応答特性をさらに向上させることができる。
図7には、導電ピラー20が底面13aの中心にある場合を記載したが、導電ピラー20は底面13aの中心からずれた部位に位置してもよい。導電ピラー20は、針状体13毎に、底面13aのそれぞれ異なる部位に位置してもよい。
【0045】
次に、第1の実施形態に係る負極8を製造する方法について、
図8を用いて詳細に説明する。
図8は、第1の実施形態に係る負極8を製造する処理手順を示すフローチャートである。
【0046】
図8に示すように、まず、ケイ素粒子18とバインダ(図示せず)とを含む負極シート17を作製する(ステップS11)。負極シート17は、炭素粒子を含んでもよい。
【0047】
続いて、負極シート17を集電体6上に載置し(ステップS12)、集電体6上の負極シート17に、酸素を含む雰囲気下でレーザ光19を照射する(ステップS13)。以上の各工程により、第1の実施形態に係る負極8の製造が終了する。
【0048】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0049】
例えば、上記した実施形態では、ステップS12はステップS11と別工程として説明したが、これに限らず、ステップS11とS12とをまとめて一工程としてもよい。すなわち、ケイ素粒子18とバインダとを含む負極材料を集電体6に塗工し、集電体6に載置された負極シート17を作製してもよい。
【0050】
また、上記した実施形態では、針状体13は集電体6に対して立設されるとして説明したが、これに限らない。この点について、
図9を用いて説明する。
【0051】
図9は、第2の実施形態に係る負極の概略を示す図である。
図9に示す負極8Aは、針状体13に代えて集電体6に対して斜設された針状体13Aを有することを除き、
図1Bに示す負極8と同様の構成を有している。
【0052】
ここで、「斜設される」とは、針状体13Aの第1端部である円形状の底面13Aaの領域と針状体13Aの第2端部である頂点Pとが平面視で重なり合わないことをいう。すなわち、針状体13Aが有する「円錐形状」は、斜円錐である。
【0053】
なお、集電体6に対して斜設された針状体13Aを作製する場合、
図2に示す負極シート17に対してθ2=90°の角度で照射されたレーザ光19を、θ2<90°となるように任意の角度に傾けて照射すると、集電体6に対して立設された針状体13と比較して角度θ1だけ斜設された針状体13Aが得られる。このとき、負極シート17に対するレーザ光19の照射角度θ2は、10°以上90°未満とすることが実用上好ましい。θ1はおおむね90°からθ2を差し引いた値となる。なお、
図9には斜設された各針状体13Aのθ1はすべて同じであるように示したが、各針状体13Aの斜設された方向がおおむね揃っていれば、θ1はそれぞれ異なっていてもよい。
【0054】
このような負極8Aが有する針状体13Aは、集電体6に対して立設された針状体13と比較して比表面積が大きくなる。このため、このような集電体6に対して斜設された針状体13Aを有する負極8Aによれば、リチウム二次電池1のサイクル劣化に伴う充放電性能の低下を抑制しつつ電池容量をさらに増大することができる。負極8または8Aは、立設された針状体13と斜設された針状体13Aとの両方を有してもよい。含有する全活物質のうち、立設された針状体13を50質量%以上含む場合を負極8とし、斜設された針状体13Aを50質量%以上含む場合を負極8Aとする。
【0055】
また、上記した各実施形態では、針状体13,13Aの各底面13a,13Aaは円形状であるとして説明したが、これに限らず、例えば楕円形状、多角形状、または不定形状であってもよい。この場合、各底面の直径d1として円相当径を適用することができる。さらに、針状体13,13Aは、XY平面に沿った断面積が、各底面13a,13Aaにおいて最大となり、頂点Pまたは天面13bに向かう他の箇所では各底面13a,13Aaよりも小さい断面積を有するものであればいかなる形状であってもよい。たとえば、針状体13,13Aは、第1端部と第2端部との間に位置する側面に凹凸を有していてもよい(
図6C、
図6Dを参照)。また、針状体13,13Aは、ひとつの底面13a,13Aaに対し2つ以上の頂点Pを有してもよい(
図6Eを参照)。また、負極8,8Aは上記の針状体13,13A以外の構造を有する活物質を有していてもよい。たとえば、負極8,8Aは、集電体6に融着しない活物質、または集電体6に融着した底面13a,13Aa以外の断面で最大の断面積を有する活物質を、全活物質の10質量%以下含んでいてもよい。
【0056】
また、上記した実施形態では、針状体13の直径d1および高さh1はすべて同じであるように示したが、それぞれ異なっていてもよい。2つ以上の頂点Pを有する針状体13の高さh1は、各頂点Pの高さのうち最も大きい高さを有する頂点Pの高さとする。
【0057】
また、上記した実施形態では、針状体13は集電体6に融着された単結晶シリコン14を含むとして説明したが、これに限らない。針状体13がシリコンを含み、かつ集電体6に融着されていれば、針状体13が有するシリコンの結晶性の有無は問わない。針状体13は、例えば、単結晶シリコン14に代えて、あるいは単結晶シリコン14とは別に、非晶質シリコンを含んでいてもよい。針状体13が非晶質シリコンを含み、かつ単結晶シリコン14を含まない場合、非晶質シリコンと集電体6とが融着されていてもよい。この場合も、リチウム電池1のサイクル劣化を抑制することができるとともに、充放電応答特性を向上させることができる。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
[負極塗工液の調製]
シリコン粉末(平均粒径5μm、純度99.9質量%)75質量%、導電助剤(アセチレンブラック)10質量%、バインダ(PVDF(ポリフッ化ビニリデン))15質量%を、溶剤(NMP(N−メチルピロリドン))と混合攪拌し、固形分65%の負極塗工液を調製した。
【0059】
[負極シートの作製]
40mm×35mm×30μmの銅箔(「集電体6」に対応)上に負極塗工液を塗工し、30mm×35mm×15μmの負極シート17を調製した。
【0060】
[レーザ光の照射(負極の作製)]
負極シート17にレーザ光19を照射し、複数の針状体13を有する活物質層7を備える負極8を作製した。レーザ光19の照射条件について表1に示す。レーザ光19は、負極シート17上を直線状に所定回数往復させた。往路と復路とで、レーザ光19が通る負極シート17上の位置をずらすことで、レーザ光19により負極シート17上全体を走査した。ラインピッチは、往路でレーザ光19の中心が通る位置と、復路でレーザ光19の中心が通る位置との間隔である。負極8の評価は、集電体6に融着していないシリコン粒子等を除去した後に行った。得られた針状体13の直径d1の平均値、高さh1の平均値および活物質層7の体積密度について、表2に示す。以下、d1の平均値を単にd1、h1の平均値を単にh1という場合もある。
【0061】
【表1】
【0062】
[充放電試験用セル(ハーフセル)の作製]
上記のように作製した負極8の上に、セパレータ10を積層し、さらにセパレータ10の上に対極を積層したハーフセルを2組用意し、これらを直列に接続したものを電解液12とともにアルミラミネートフィルムに収納し、試験用セルとした。なお、セパレータ10として、厚さ20μmのポリエチレンを使用し、対極として、厚さ30μmのリチウム箔を使用した。また、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比で1:1の割合で混合した溶媒に、1Mの濃度となるようにLiPF
6を溶解させ、電解液12とした。
【0063】
[充放電試験]
充放電装置として、北斗電工製HJ1001SD8を使用した。また、充電を800mA/gの定電流で充電電圧が1500mVに到達するまで行い、放電を800mA/gの定電流で放電電圧が5mVに到達するまで行う1サイクルを、10分間の休止を挟みながら300サイクルまで繰り返し行った。1サイクル後の充放電容量(初期容量)と、100サイクル後、300サイクル後の充放電容量および容量維持率を、表2にまとめて示す。
【0064】
(実施例2)
レーザフルエンスを1752mJ/cm
2に変更したことを除き、実施例1と同様に負極8および試験用セルを作製し、充放電試験を行った。得られた負極8が有する針状体13の直径d1、高さh1、活物質層7の体積密度を、充放電試験の結果とともに表2に示す。
【0065】
(実施例3)
レーザフルエンスを1410mJ/cm
2に変更したことを除き、実施例1と同様に負極8および試験用セルを作製し、充放電試験を行った。得られた負極8が有する針状体13の直径d1、高さh1、活物質層7の体積密度を、充放電試験の結果とともに表2に示す。
【0066】
(実施例4)
ラインピッチを42.5μmに変更したことを除き、実施例3と同様に負極8および試験用セルを作製し、充放電試験を行った。得られた負極8が有する針状体13の直径d1、高さh1、活物質層7の体積密度を、充放電試験の結果とともに表2に示す。
【0067】
(実施例5)
レーザフルエンスを1750mJ/cm
2、走査速度を1mm/s、ラインピッチを40μmにそれぞれ変更したことを除き、実施例1と同様に負極8および試験用セルを作製し、充放電試験を行った。得られた負極8が有する針状体13の直径d1、高さh1、活物質層7の体積密度を、充放電試験の結果とともに表2に示す。
【0068】
(実施例6)
レーザフルエンスを1500mJ/cm
2、走査速度を6mm/sにそれぞれ変更したことを除き、実施例5と同様に負極8および試験用セルを作製し、充放電試験を行った。得られた負極8が有する針状体13の直径d1、高さh1、活物質層7の体積密度を、充放電試験の結果とともに表2に示す。なお、実施例1〜6では、SEMで観察した範囲のすべての針状体13が立設されていた。
【0069】
(実施例7)
照射角度(θ2)を60°に変更したことを除き、実施例1と同様に負極8および試験用セルを作製し、充放電試験を行った。得られた負極8が有する針状体13の直径d1、高さh1、活物質層7の体積密度を、充放電試験の結果とともに表2に示す。実施例7では、針状体13はレーザ光19の照射方向に沿って傾斜していた。SEMで観察した結果、傾斜した針状体13には、斜設された針状体13と立設された針状体13の両方が含まれていた。斜設された針状体13は立設された針状体13よりも多かった。θ1の平均値は約30°であった。
【0070】
(比較例1)
レーザ照射を実施しないことを除き、実施例1と同様に負極8および試験用セルを作製し、充放電試験を行った。得られた負極8が有する活物質層7の体積密度を、充放電試験の結果とともに表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
さらなる効果および変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。