(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の複数台の映像投射装置を用いた投射方法は、個々の映像投射装置における解像度及び照射輝度の性能に関して、略同等であることを前提にしている。従って、特許文献1の投射方法では、映像投射装置固有の性能である最大輝度及び映像投射可能範囲が異なると、投射される映像を高コントラストで滑らかな輝度階調に形成することが困難な場合があり、また、広ダイナミックレンジの輝度に対応できない場合もある。
【0006】
本発明は、映像投射装置固有の性能である最大輝度及び映像投射可能範囲を有する映像投射装置を用いる場合でも、投射される映像を高コントラストで滑らかな輝度階調に形成するとともに、広ダイナミックレンジの輝度にも対応できる映像投射システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、相対輝度の上限値が大きい順に映像投射可能な範囲が狭くなるように設定された複数の映像投射装置と、入力映像の輝度分布から各映像投射装置に与える映像投射範囲の輝度分布を抽出し、抽出された前記映像投射範囲の輝度分布を表す個別映像信号を各映像投射装置に出力する映像信号分配部とを備え、前記映像信号分配部は、前記複数の映像投射装置の中から前記相対輝度の上限値の大きい順に一の映像投射装置を選択し、前記一の映像投射装置の映像投射可能な範囲において、前記一の映像投射装置の相対輝度の上限値以下の範囲を前記一の映像投射装置の前記映像投射範囲の輝度分布に設定し
て、前記一の映像投射装置の個別映像信号を設定するとともに、前記一の映像投射装置に設定された個別映像信号に相当する輝度分布を前記入力映像の輝度分布から除去し、当該除去された映像が、次に選択される映像投射装置の個別映像信号を設定するときの前記入力映像として用いられるようにして、前記複数の映像投射装置の個別映像信号を順番に設定し、各映像投射装置の画素ピッチは、同一に設定されており、各映像投射装置に出力される前記個別映像信号で表現される輝度分布の映像を結合すると、前記入力映像の輝度分布と一致することを特徴とする。
【0008】
映像投射装置は、相対輝度で表される最大輝度及び映像投射可能範囲という装置固有の性能を有する。そして、映像投射装置が有する最大輝度及びその近傍値の映像を投射した場合には、所望の輝度の映像が得られ難く、また、映像投射可能範囲が狭いほど、明るい映像を投影し得る一方、映像投射可能範囲が広がるほど、投影された映像の周縁領域が暗くなる傾向がある。
【0009】
本発明によれば、映像信号分配部により、まず、複数の映像投射装置の中から相対輝度の上限値の大きい映像投射装置から順に、各映像投射装置の映像投射可能な範囲において、入力映像の輝度分布から映像投射装置の相対輝度の上限値以下の範囲を映像投射装置の映像投射範囲の輝度分布として抽出する。
【0010】
次に、抽出された映像投射範囲の輝度分布は、当該輝度分布を表す個別映像信号として各映像投射装置に出力される一方、入力映像の輝度分布から除去される。
【0011】
そして、全ての映像投射装置に対して順に、映像投射装置の映像投射範囲の輝度分布の抽出、個別映像信号の出力、及び、入力映像の輝度分布からの当該映像投射範囲の輝度分布の除去を行う。
【0012】
本発明によれば、各映像投射装置から投射された映像投射範囲の映像を結合した結合映像を、入力映像に対応して投射できる。また、各映像投射装置の相対輝度の上限値を超える映像を投射することがないので、より高いコントラストで、滑らかな輝度階調の結合映像を形成することができる。
【0013】
さらに、映像の輝度に関して、相対輝度の上限値及び映像投射可能な範囲が異なる複数の映像投射装置を用いるので、単一の映像投射装置を用いた場合では実現し得ない広ダイナミックレンジ、例えば自動車用前照灯の配光分布に要求される広ダイナミックレンジ等に対応させることができる。
【0014】
本発明は、相対輝度の上限値が大きい順に映像投射可能な範囲が狭くなるように設定された複数の映像投射装置と、入力映像の輝度分布から各映像投射装置に与える映像投射範囲の輝度分布を抽出し、抽出された前記映像投射範囲の輝度分布を表す個別映像信号を各映像投射装置に出力する映像信号分配部とを備え、前記映像信号分配部は、前記複数の映像投射装置の中から前記相対輝度の上限値の大きい順に一の映像投射装置を選択し、前記一の映像投射装置の映像投射可能な範囲において、前記一の映像投射装置の相対輝度の上限値以下の範囲を前記一の映像投射装置の前記映像投射範囲の輝度分布に設定し
て、前記一の映像投射装置の個別映像信号を設定するとともに、前記一の映像投射装置に設定された個別映像信号に相当する輝度分布を前記入力映像の輝度分布から除去し、当該除去された映像が、次に選択される映像投射装置の個別映像信号を設定するときの前記入力映像として用いられるようにして、前記複数の映像投射装置の個別映像信号を順番に設定し、前記映像信号分配部は、前記入力映像の輝度分布の最高輝度点の位置を特定し、各映像投射装置の前記映像投射範囲の中心を前記最高輝度点の位置に設定可能なオフセット信号を各映像投射装置に出力することを特徴とする。
【0015】
これによれば、オフセット信号が入力された各映像投射装置により、各映像投射装置により投射された映像の中心位置が入力映像の輝度分布の最高輝度点の位置に設定され得るので、結合映像の中心位置が各映像投射装置の映像投射範囲の中心に設定され、滑らかな輝度階調の結合映像を形成することができる。
【0016】
さらに、本発明において、前記複数の映像投射装置それぞれの相対輝度の上限値は、前記映像投射装置それぞれの相対輝度の最大値より小さな値であることが好ましい。
【0017】
各映像投射装置の相対輝度の上限値として、限界値である最大輝度及びその近傍値を用いた場合、当該限界値を要求する個別映像信号に対する輝度の映像を投射し難い、すなわち、個別映像信号に対する輝度の直線性を実現し難い傾向がある。
【0018】
これによれば、相対輝度の限界値である最大輝度及びその近傍値を用いることなく、個別映像信号に対する投射映像の輝度を確実に表現できる範囲の相対輝度を用いることができる。そのため、映像投射装置に出力される個別映像信号に基づいた映像を確実に表現した結合映像を投射することができる。また、映像投射範囲として低輝度領域の輝度分布の範囲を投射し得る映像投射装置により低輝度の映像を投射するので、微細な階調表現を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[映像投射システムの構成]
本実施形態の映像投射システム1は、
図1に示されるように、複数の映像投射装置10A〜10D(以下、映像投射装置10という場合がある。)と、入力映像を表す映像信号が入力され、映像投射範囲の輝度分布を表す個別映像信号、及び、投射可能な範囲を有する各映像投射装置10A〜10Dに対して映像投射位置を所定位置にオフセット可能なオフセット信号を、各映像投射装置10A〜10Dに出力する映像信号分配部20とを備える。以下、本実施形態の映像投射システムを、4台の映像投射装置を備える映像投射システムを用いて説明するが、装置数は4台に限定されず、2台以上であればよい。
【0021】
映像投射装置10は、ラスタースキャンを行う映像投射装置である。
図2に示されるように、映像投射装置10は、映像信号分配部20により、パーソナルコンピュータ、カメラシステム等の映像ソースから出力された映像信号に基づいて生成された個別映像信号が入力される個別映像信号入力部102と、受信した個別映像信号を処理するために所定ビット毎に書き込み・読み出しが行われる個別映像信号蓄積部104と、MEMSミラー106に対する駆動信号を出力するMEMS駆動部108と、駆動信号に応じてMEMSミラー106が回動したとき、MEMSミラー106の振れ角に応じた電圧を出力するセンサからの信号が入力されるセンサ信号入力部110と、MEMESミラー106に光を照射する、LED、半導体レーザー等の半導体光源112に対して画素データを出力する光源駆動部114と、個別映像信号を処理して映像投射装置10の制御を行う個別映像信号処理部116とから構成される。
【0022】
個別映像信号入力部102は、個別映像信号を処理するために、映像信号分配部20から出力された個別映像信号が入力され、個別映像信号を個別映像信号処理部116に出力する。個別映像信号入力部102として、例えば、アナログRGBレシーバー、DVI、HDMI(登録商標)、Display Port等のデジタル映像信号レシーバー等を用いることができる。
【0023】
個別映像信号蓄積部104では、個別映像信号入力部102から出力された個別映像信号を処理するために信号の書き込み・読み出しが行われる。個別映像信号蓄積部104としては、SDRAM等を用いることができる。本実施形態の映像投射システム1では、個別映像信号は高速信号として生成されるため、DDR2 SDRAM、DDR3 SDRAMが好適である。
【0024】
MEMS駆動部108は、MEMSミラー106に対する駆動信号を出力するために、個別映像信号処理部116からのデジタル信号をアナログ信号に変換するD/Aコンバーターと、その出力信号をMEMSミラー106の駆動電圧レベルまで増幅するオペアンプから構成される。
【0025】
センサ信号入力部110は、駆動信号に応じてMEMSミラー106が回動したときのMEMSミラー106の振れ角に応じた電圧を出力するセンサからの信号が入力される信号入力部である。センサ信号入力部110は、受信したアナログ信号を個別映像信号処理部116に出力されるデジタル信号に変換するA/Dコンバーターと、A/Dコンバーターに対する適切な入力レベルを確保するオペアンプとから構成される。
【0026】
光源駆動部114は、個別映像信号処理部116から出力されたデジタル信号をアナログ信号に変換する高速D/Aコンバーターと、RGB各色の半導体光源112を駆動できるだけの電流容量を持つドライバトランジスタ等とから構成される。
【0027】
個別映像信号処理部116は、個別映像信号を処理して映像投射装置10の制御を行う。FPGA(Field-Programmable Gate Array)、マイクロプロセッサ、又は、これらのハイブリッド(EPP(Extensible Processing Platform)、SoC(System-on-a-chip))等を用いることができる。
【0028】
図3に示されるように、個別映像信号処理部116は、個別映像信号を個別映像信号入力部102から個別映像信号蓄積部104に出力するインターフェースとしての入力映像処理部120と、MEMSミラー106に対する駆動信号、及び、光源駆動部114に対して画素データ抽出の基礎となる信号を生成する駆動信号生成部122と、センサ信号入力部110及び駆動信号生成部122から出力された信号に基づいて、共振周波数追従制御、及び、光源駆動部114に対して遅延信号を出力する駆動信号演算処理部124と、個別映像信号蓄積部104から読み出された個別映像信号に基づいて駆動信号生成部122及び駆動信号演算処理部124から出力された信号によって光源駆動部114に出力する画素データを抽出する画素データ抽出部126と、これらの各信号処理の制御パラメータに対する制御を行うとともに、スイッチ、UART(Universal Asynchronous Receiver Transmitter)等の図示しない外部制御手段とのインターフェースとしての機能を果たす総合制御部128とから構成される。
【0029】
本実施形態のMEMSミラー106を備えるMEMS130は、
図4に示されるように、反射面を有するMEMSミラー106を一対のトーションバー131A,131Bにより支持する第1支持部132と、MEMSミラー106を第1支持部132に対して一対のトーションバー131A,131B、すなわち、主走査方向(Y軸周り)に揺動させる第1アクチュエータ134,136と、第1支持部132を支持する第2支持部138と、第1支持部132を第2支持部138に対して副走査方向(X軸周り)に揺動させる第2アクチュエータ140,142とを備え、2次元走査が可能な2軸型光偏向器である。MEMS130を備える映像投射装置10は、照射範囲のうち描画範囲のみが2次元走査に応じて光が照射されるように、半導体光源112が点灯されるので、光の利用効率の向上を図ることができる。
【0030】
MEMS130のアクチュエータとしては、圧電方式、静電方式、電磁形式のアクチュエータを用いることができる。本実施形態では、アクチュエータ134,136として、圧電アクチュエータを採用している。また、アクチュエータ140,142はそれぞれ、4つの圧電カンチレバーが連結されて構成されている。各圧電カンチレバー140A〜140D,142A〜142Dは、支持体と、下部電極と、圧電体と、上部電極とから構成された積層体を含む。
【0031】
個別映像信号に基づく映像の投射は、水平方向の高速走査、垂直方向の低速走査によって実施される。そのため、MEMSミラー106は、高速動作に対応したアクチュエータ134,136の共振駆動により主走査方向に搖動し、低速動作に対応したアクチュエータ140,142の非共振駆動により副走査方向に搖動する。
【0032】
尚、本実施形態では、副走査方向の搖動は低速動作であるため、非共振駆動のアクチュエータ140,142を用いたが、これに限定されず、共振駆動のアクチュエータを用いてもよい。
【0033】
MEMSミラー106の回動状態を検出するために、第1支持部132には、センサ144,146が設けられている。圧電効果を用いたセンサは、MEMSミラー106の振れ角の変位量に対して微分値を返す速度センサとして動作する。また、ピエゾ抵抗効果を用いたセンサは、MEMSミラー106の振れ角の変位量に比例した値を返す位置センサとして動作する。
【0034】
本実施形態の映像投射システムのMEMS130は、圧電効果を用いたアクチュエータ及びセンサを用いることが好ましい。圧電効果を用いたアクチュエータ及びセンサを用いることにより、同一の製造プロセスでアクチュエータ及びセンサの積層構造を形成できるからである。
【0035】
また、センサ144,146はそれぞれ、少なくとも1つ設ける必要があるが、MEMSミラー106の主走査方向及び副走査方向の揺動安定性及び差動信号のノイズキャンセリング効果の向上のために、
図4に示されるように、Y軸及びX軸を中心として線対称に2つ設けることが好ましい。
【0036】
映像信号分配部20は、CPU,ROM,RAM、並びにI/O回路及びA/D回路等の電子回路等により構成され、後述するように、図示しない映像ソースから得られた映像信号により表現される入力映像の輝度分布から各映像投射装置10に与える映像投射範囲の輝度分布を抽出する。そして、映像信号分配部20は、抽出された映像投射範囲の輝度分布を表す個別映像信号として各映像投射装置10に出力する。
【0037】
また、映像信号分配部20は、後述するように、入力映像の輝度分布の最高輝度点の位置を特定し、各映像投射装置10の映像投射範囲の中心を最高輝度点の位置に設定可能なオフセット信号を個別映像信号と共に各映像投射装置10に出力する。
【0038】
オフセット信号とは、MEMSミラー106の振り角の制限に由来する映像投射可能な範囲を有する映像投射装置に対して、映像投影範囲を描画範囲のうちの所望の範囲にオフセットする(位置付ける)信号である。具体的には、オフセット信号は、映像が投射される画面全体の中心を基準位置として、基準位置から水平方向及び垂直方向に移動させる変位量を示す信号である。
【0039】
各映像投射装置10は、オフセット信号に応じて、各映像投射装置10全体を上下左右方向に回動可能に設けられている。各映像投射装置10の上下左右方向への回動は、ステッピングモータ等を用いることにより実施される。
【0040】
[ラスタースキャン]
図5〜
図7を用いて、半導体光源112と、
図4に示されるMEMS130のMEMSミラー106とを用いたラスタースキャンを説明する。
【0041】
副走査方向に搖動するMEMSミラー106により、
図5の照射範囲において垂直方向の走査が実施される。本実施形態の副走査方向に搖動するMEMSミラー106の駆動信号の波形は、
図6Aに示される鋸波形状とするのが好ましい。
【0042】
副走査方向に搖動するMEMSミラー106は低速駆動されるので、共振駆動のアクチュエータと非共振駆動のアクチュエータのいずれも用いることができるが、非共振駆動のアクチュエータに好適な鋸波形状の駆動信号を用いて有効描画時間を長く確保することにより、投影画面の明るさの向上を図ることができる。
【0043】
具体的には、鋸波形状の駆動信号には、
図6Aに示されるように、時間経過に対する駆動信号の波形の傾きが緩やかな区間と、急峻な区間とが交互にあらわれる。そして、
図6Aに示さるように、鋸波形状の駆動信号の傾きが緩やかな区間で半導体光源112を点灯して描画を行い、傾きが急峻な区間で半導体光源112を消灯して非描画区間、すなわち、垂直帰線区間を設ける。
【0044】
鋸波形状の駆動信号の傾きが変化する頂点付近では、副走査方向に搖動するMEMSミラー106は非常に低速な駆動状態になるため、当該頂点付近の区間に対応する描画部分は描画範囲の他の部分と比較すると特に明るく見える。そのため、当該頂点付近の区間では、半導体光源を消灯することにより、描画範囲で表される画面全体の明るさの均一性を実現し得る。
【0045】
一方、主走査方向に搖動するMEMSミラー106により、
図5の照射範囲において水平方向の走査が実施される。本実施形態の主走査方向に搖動するMEMSミラー106の駆動信号の波形は、
図6Bに示される正弦波形状とするのが好ましい。主走査方向に搖動するMEMSミラー106は高速駆動されるので、共振駆動のアクチュエータを用いることが好ましく、また、共振駆動のアクチュエータに好適な正弦波形状の駆動信号を用いることが好ましいからである。
【0046】
具体的には、正弦波形状の駆動信号には、
図6Bに示されるように、時間経過に対する駆動信号の波形の頂点付近の区間と、それ以外の区間とが交互にあらわれる。そのため、
図5に示されるように、往復走査、すなわち、右方向走査及び左方向走査の両方で描画を行うことが、有効描画時間の確保の点から好適である。片側走査、例えば、右方向走査(左方向走査)のみで描画を行い、左方向走査(右方向走査)においては非描画区間、すなわち、水平帰線区間を設ける方式を比較して、往復走査、すなわち、右方向走査と左方向走査の両方で描画を行い、有効描画時間を長く確保することができる。
【0047】
さらに、正弦波形状の駆動信号の頂点付近(水平折返区間)では、主走査方向に搖動するMEMSミラー106は非常に低速な駆動状態になるため、当該頂点付近の区間に対応する描画部分は描画範囲の他の部分と比較すると特に明るく見える。描画範囲で表される画面全体の明るさの均一性を実現し得るため、
図6Bに示されるように、経過時間に対して隣り合う当該頂点付近の区間(水平折返区間)の間の区間で半導体光源112を点灯して
図5の水平方向の走査軌跡の1ライン分の描画を行い、水平折返区間で半導体光源112を消灯して非描画区間を設ける。
【0048】
上述したラスタースキャンを実施することにより、
図7に示されるように、走査軌跡全体から水平方向及び垂直方向において
図5の照射範囲の周縁領域が切り取られた描画範囲が得られる。
【0049】
[映像信号分配部20の映像信号の分配処理]
映像信号分配部20の分配処理を、
図8、
図9、
図10A及び
図10Bを用いて説明する。本実施形態の映像信号分配部20の分配処理は、
図10A〜
図10Bに示される、画面内に1点存在する最高輝度点を中心に、水平方向、垂直方向共に輝度が単調減少する分布を持った映像信号を処理する。
【0050】
図8は、本実施形態の映像投射システム1の第1映像投射装置10A〜第4映像投射装置10Dにおける、MEMSミラー106の水平方向及び垂直方向の振り角で表された投射角度範囲(映像投射可能な範囲)と、相対輝度で表された最大輝度との関係を例示的に示した図である。
【0051】
図8に示されるように、本実施形態では、各映像投射装置10A〜10Dの投射角度範囲と最大輝度は、相対輝度の上限値である最大輝度が大きい映像投射装置の順に、映像投射可能な範囲である投射角度範囲が狭くなるように設定されている。尚、各映像投射装置10A〜10Dの画素ピッチは、制御し易さの観点から、同一に設定されているが、これに限定されず、各映像投射装置10A〜10Dの画素ピッチを異なる値に設定してもよい。各映像投射装置10A〜10Dの画素ピッチが異なる値に設定された場合、各映像投射装置10A〜10Dにおいて解像度のスケーリングを行う。
【0052】
映像信号分配部20の分配処理は、まず、第1映像投射装置10A〜第4映像投射装置10Dの性能(輝度)についての相対関係を規定する。具体的には、同一スケールで評価したときに各映像投射装置10A〜10Dが表現できる輝度階調の最小単位(輝度分解能)について、最小公倍数を求める(
図9/S1)。例えば、各映像投射装置10A〜10Dの輝度分解能がそれぞれ相対値で、1:2:4:8であった場合は、最小公倍数は8である。
【0053】
次に、輝度分解能の最小公倍数と各映像投射装置10A〜10Dの輝度レベルの分解数とを乗算し、輝度分解能の最小公倍数を基にした輝度階調を求める(
図2/S2)。例えば、映像投射装置10A〜10D全ての輝度レベルの分解数が256である場合は、映像投射装置10A〜10Dの最大輝度[cd/m
2]はそれぞれ相対値で、256:512:1024:2048となり、最小公倍数を基にした輝度階調は2048階調となる。
【0054】
次に、最小公倍数を基にした輝度階調に対して入力映像の輝度階調を調整するスケーリング処理の要否を判定するために、最小公倍数を基にした輝度階調と入力映像の輝度階調とを比較して、2つの輝度階調が一致しているのか否か判定する(
図9/S3)。
【0055】
2つの輝度階調が一致していない場合(
図9/S3:No)、入力映像の輝度階調のスケーリング処理を行う(
図9/S4)。例えば、最小公倍数を基にした輝度階調は2048階調であるときに、入力映像の輝度階調が1024階調であれば2倍し、4096階調であれば1/2倍するスケーリング処理を行う。スケーリング処理を行った後、複数の映像投射装置10A〜10Dの中から最大輝度が大きく、かつ、投射角度範囲が狭い映像投射装置の順に、映像信号の分配処理を行う(
図9/S5〜S13)。
【0056】
一方、2つの輝度階調が一致している場合(
図9/S3:Yes)、後工程の映像信号の分配処理を行う(
図9/S5〜S13)。尚、本実施形態では、最小公倍数を基にした輝度階調と入力映像の輝度階調とがともに、スケーリング処理が不要である2048階調とする。
【0057】
次に、入力映像の輝度分布における最高輝度点の位置を特定する(
図9/S5)。例えば、
図10Aに示される入力映像から得られる輝度分布に対して、入力画像の全画面分を探索することにより、入力画像の最高輝度点の位置を特定する。
図10Bでは、特定した入力画像の最高輝度点の位置を「×」を用いて示している。尚、
図10Bに追加された点線は、水平方向の輝度分布を説明するために用いられる基準線を示す。
【0058】
以下、複数の映像投射装置10A〜10Dの中から最大輝度が最も大きく、投射角度範囲が最も狭い第4映像投射装置10Dを例に分配処理を説明する。尚、映像投射装置10A〜10Cについても、最大輝度が大きく、かつ、投射角度範囲が狭い順に、すなわち、映像投射装置10C→10B→10Aの順に特定し、特定された映像投射装置に対して、同様の映像信号の分配処理が行われる。
【0059】
最高輝度点の位置を中心として、特定した映像投射装置が表現し得る、最小輝度以上、かつ、次に特定される映像投射装置が表現し得る最高輝度以上の輝度分布範囲に対して、水平方向及び垂直方向にスキャンする(
図9/S6)。
【0060】
例えば、特定した映像投射装置が第4映像投射装置10Dである場合、次に特定される映像投射装置10Cは第3投射装置である。この場合、特定した第4映像投射装置10Dが表現し得る最小輝度(例えば、相対輝度8[cd/m
2])以上、かつ、
図8に示されるように第3映像投射装置10Cの表現し得る最大輝度1024以上の輝度分布範囲についてスキャンする。
【0061】
次に、特定した映像投射装置によりスキャンした輝度分布範囲の映像の投射可否を判定するために、スキャンした輝度分布範囲が特定した映像投射装置の投射角度範囲外であるか否かを判定する(
図9/S7)。例えば、特定した映像投射装置が第4映像投射装置10Dである場合、スキャンした輝度分布範囲が投射角度範囲(水平16°×垂直6°)外であるか否かを判定する。
【0062】
スキャンした輝度分布範囲が特定した映像投射装置の投射角度範囲外である場合(
図9/S7:Yes)、以後に特定される映像投射装置にエラー信号を出力し、入力映像(フレーム)に対する処理を中止する(
図9/S8)。例えば、特定した第4映像投射装置10Dに対する処理において、処理を中止した場合(
図9/S8)、以後に特定される映像投射装置10A〜10Cにもエラー信号を出力し、映像信号の分配処理が中止される。
【0063】
入力画像は、映像信号分配部20に図示しない映像ソースから一定時間間隔で(例えば、60フレーム/秒)出力される。従って、エラー信号を出力して処理を中止した場合(
図9/S8)場合、エラー信号が入力された映像投射装置からの映像投射は行われず、単位時間経過後、次の入力映像に対する映像信号の分配処理が行われ、映像投射が行われる。
【0064】
一方、スキャンした輝度分布範囲が特定した映像投射装置の投射角度範囲外ではない場合(
図9/S7:No)、投射角度範囲の中心位置と描画画面全体の中心位置とを比較し、2つの中心位置が一致しているか否かを判定する(
図9/S9)。2つの中心位置が一致している場合(
図9/S9:Yes)、後述するように個別映像信号を出力し、入力映像から個別映像信号に対応する範囲を除去する(
図9/S11)。
【0065】
従って、各映像投射装置10A〜10Dは、個別映像信号に基づく映像投射範囲の映像を投射する。また、入力映像から個別映像信号に対応する範囲が除去された入力映像の輝度分布に対して、他の映像投射装置に対応する分配処理を行うことが可能になる。
【0066】
2つの中心位置が一致していない場合(
図9/S9:No)、オフセット信号を特定した映像投射装置に出力し(
図9/S10)、個別映像信号出力処理等を行う(
図9/
図11)。「オフセット信号」は、映像が投射される画面全体の中心を基準位置として、基準位置から水平方向及び垂直方向に移動させる変位量を示す信号である。
【0067】
次に、特定した映像投射装置に与える映像投射範囲の輝度分布を入力映像の輝度分布から抽出し、抽出された映像投射範囲の輝度分布を表す個別映像信号として特定した映像投射装置に出力する。さらに、入力映像の輝度分布から個別映像信号に相当する輝度分布の範囲を除去する(
図9/S11)。
【0068】
そして、全ての映像投射装置に対して処理が完了したか否か判定する(
図9/S12)。全ての映像投射装置に対して処理が完了した場合(
図9/S12:Yes)、映像信号分配部20による映像信号の分配処理を終了する。一方、全ての映像投射装置に対して処理が完了していない場合(
図9/S12:No)、全ての映像投射装置に対して処理が完了するまで、映像信号の分配処理を行う(
図9/S6〜S13)。
【0069】
本実施形態の分配処理では、最高輝度点の位置の探索(
図9/S5)は第4映像投射装置10Dに対する分配処理時のみ行われる。すなわち、検索された最高輝度点の位置は再スキャンせず、最初に検出した当該位置を分配処理が終了するまで使用する。再スキャンを行った場合、例えば、第4映像投射装置10Dの映像投射範囲外側の縁部に(暫定)最高輝度点が複数検出される可能性があり、処理が煩雑になる可能性があるためである。
【0070】
ここで、
図11Aに示されるように、投射角度範囲の中心位置と描画画面全体の中心位置が一致していない場合における、映像信号の分配処理(
図9/S9〜S11)を適用した例を示す。
図11Aは、描画画面の中心位置と、第4映像投射装置10Aの映像投射範囲の中心位置とが一致していない例を示す図である。この場合、映像信号分配部20により、第4映像投射装置10Dに対して、映像投射範囲に対応する個別映像信号と、描画画面の中心位置に映像投射範囲の中心位置を移動させるオフセット信号とを出力する(
図9/S10,S11)。
【0071】
そして、入力映像に追加された基準線に対する輝度分布断面図である
図11Bに示されるように、入力映像の輝度分布から個別映像信号に相当する輝度分布の範囲を除去する(
図9/S11)。
図11Bにおいて、破線は第4映像投射装置10Dに出力された個別映像信号に相当する輝度分布の範囲を、実線は入力映像の輝度分布から個別映像信号に相当する輝度分布の範囲が除去された範囲を示す。
【0072】
尚、映像投射範囲の中心位置と最高輝度点の位置は一致しない場合がある。
図11Cに示されるように、映像信号の分配処理では輝度分布と映像投射可能な範囲とを考慮するので、入力映像の輝度分布が最高輝度点を通過する縦軸に対して線対称ではない場合、振り分ける範囲の中心位置と、最高輝度点の位置は一致しない場合がある。
【0073】
そして、第4映像投射装置10Dに次いで、第3映像投射装置10Cに対して映像信号の分配処理を行った結果を表した、第3映像投射装置10C〜第4映像投射装置10Dの映像投射範囲と描画画面を
図12Aに示す。
【0074】
また、入力映像の輝度分布から第4映像投射装置10Dへの個別映像信号に相当する輝度分布の範囲を除去した後の分布から、第3映像投射装置10Cへの個別映像信号に相当する輝度分布の範囲を除去した、基準線に対する輝度分布断面図を
図12Bに示す。
図12Bにおいて、破線は第3映像投射装置10Cに出力された個別映像信号に相当する輝度分布の範囲を、実線は入力映像の輝度分布から個別映像信号に相当する輝度分布の範囲が除去された範囲を示す。
【0075】
さらに、第3映像投射装置10C及び第4映像投射装置10Dに次いで、第2映像投射装置10Bに対して映像信号の分配処理を行った結果を表した、第2映像投射装置10B〜第4映像投射装置10Dの映像投射範囲と描画画面を
図13Aに示す。
【0076】
また、入力映像の輝度分布から第3映像投射装置10C及び第4映像投射装置10Dへの個別映像信号に相当する輝度分布の範囲を除去した後の分布から、第2映像投射装置10Bへの個別映像信号に相当する輝度分布の範囲を除去した、基準線に対する輝度分布断面図を
図13Bに示す。
図13Bにおいて、破線は第2映像投射装置10Bに出力された個別映像信号に相当する輝度分布の範囲を、実線は入力映像の輝度分布から個別映像信号に相当する輝度分布の範囲が除去された範囲を示す。
【0077】
同様に、第2映像投射装置10B〜第4映像投射装置10Dに次いで、第1映像投射装置10Aに対して映像信号の分配処理を行った結果を、
図14A及び
図14Bに示す。尚、第1映像投射装置10Aの投射角度範囲は、入力映像の描画画面全体と同一であるので、各映像投射装置10A〜10Dに出力される個別映像信号で表現される輝度分布の映像を結合すると、元の入力映像と一致する。
【0078】
図14Bにおいて、一点鎖線、二点鎖線、破線、及び実線は順に、第4映像投射装置10D、第3映像投射装置10C、第2映像投射装置10B、及び第1映像投射装置10Aに出力された個別映像信号に相当する輝度分布の範囲をそれぞれ示している。
【0079】
本実施形態の分配処理では、映像投射装置10A〜10Dのうちで相対輝度の上限値が最大である映像投射装置10D以外の映像投射装置10A〜10Cは、それぞれの相対輝度の上限値として、映像投射装置10A〜10Cそれぞれの相対輝度の最大値を用いている。すなわち、映像投射装置10A、10B、10C、10Dに対して、上限値として2048、1024、512、256が設定されている。
【0080】
映像投射装置の相対輝度の上限値として限界値である最大輝度及びその近傍値を用いた場合、当該限界値を要求する個別映像信号に対する輝度の映像を投射し難い、すなわち、個別映像信号に対する輝度の直線性を実現し難い傾向がある。
【0081】
そこで、変形例として、個別映像信号に対する投射映像の輝度を確実に表現できる範囲の相対輝度にするために、映像投射装置10A〜10Dのうちで相対輝度の上限値が最大である映像投射装置10Dについて、相対輝度の上限値として、相対輝度の最大値より小さな値を設定してもよい。
【0082】
尚、これに限らず、映像投射装置10A〜10Dそれぞれについて、相対輝度の上限値として、映像投射装置10A〜10Dそれぞれの相対輝度の最大値より小さな値を設定してもよい。この場合、個別映像信号に関する処理(
図9/S11)において、映像投射装置10A〜10Dに対する個別映像信号に相当する輝度分布の範囲を入力映像の輝度分布から除去する際、投射可能な範囲において、次に特定される映像投射装置の相対輝度の上限値を最大輝度に代えて最大輝度より小さな値(例えば、75%の値)に設定すればよい。
【0083】
図15A〜
図15Dに、映像投射装置10A〜10Dそれぞれについて、相対輝度の上限値として、映像投射装置10A〜10Dそれぞれの相対輝度の最大値の75%に設定した例の輝度分布断面図を示す。
【0084】
第4映像投射装置10Dに関しては映像投射範囲における最大輝度が1536[cd/m
2]に(
図15A)、第3映像投射装置10Cに関しては映像投射範囲における最大輝度が768[cd/m
2]になった(
図15B)。また、例えば、映像投射装置10Dで映像投射範囲において対応できなかった輝度分布部分についても、輝度の加法性に基づいて、他の映像投射装置10A〜10Cにより対応していることがわかる(
図15A〜
図15D)。