(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
爆発性・引火性・毒性のある液体や、強酸・強アルカリの化学薬品などを移送するには、キャンドモーターポンプが用いられる。従来のキャンドモーターポンプとして、たとえば下記の特許文献1に開示されたものがある。
【0003】
〔特許文献1〕
特許文献1には、つぎの記載がある。
[0002][従来の技術]従来、キャンドモーターポンプは、シャフトをすべり軸受で支えているが、特に反負荷側すべり軸受の水循環をよくし、軸受磨耗および機械損を少なくするため、すべり軸受と軸受金具との間に溝を設けて水循環回路を構成している。
[0015][発明の実施の形態]本発明の請求項1に記載の発明は、モーター部におけるシャフトをすべり軸受で支え、前記すべり軸受のうち、反負荷側すべり軸受を軸受金具に圧入して保持する構成であって、前記軸受金具の内周部に水循環用のネジ溝を形成し、前記ネジ溝のネジ山部を、反負荷側すべり軸受の圧入寸法に仕上げたキャンドモーターポンプであり、軸受金具の製作工数を大幅に低減することができ、シャフトのロック解除作業も容易にできるという作用を有する。
【0004】
〔特許文献2〕
一方、液体酸素、液体窒素、液体アルゴン、液化天然ガスなど、沸点が−150℃以下の低温液化ガスを移送するための低温液化ガス用ポンプとして、下記の特許文献2に記載されたものが提案されている。
【0005】
特許文献2には、つぎの記載がある。
[0037]上記モータ1およびインペラ2ならびにシャフト3はそれぞれ、互いに連通して低温液化ガスが導入される密閉空間14内に存在する。上記密閉空間14は、この例では、それぞれ上記密閉空間14の一部をなす、モータ用空間5、インペラ用空間9および回転伝達手段用空間としてのシャフト用空間13を備えて構成されている。モータ用空間5とインペラ用空間9ならびにシャフト用空間13は互いに連通している。すなわち、ボリュートハウジング7、熱調整ハウジング12およびモータ1の耐圧壁4a,4bにより1つの圧力密閉空間を作っている。
[0038]上記モータ1とインペラ2は、モータ1が上側にインペラ2が下側になるよう配置されている。
[0039]そして、上記モータ1とインペラ2の間は、低温液化ガスの液相内にインペラ2を存在させるよう保つとともに、低温液化ガスの気相内にモータ1を存在させるよう保つための熱調整部11に形成されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の記載によれば、従来のキャンドモーターポンプは、モーター部の軸受けにすべり軸受けが用いられている。つまり、従来のキャンドモーターポンプは、キャンの内部に配置されたシャフトと軸受けが、移送する液体に浸かる構造になっている。このため、転がり軸受けでは潤滑不良を起こしやすいため、すべり軸受けを使用している。
【0008】
このようなキャンドポンプでは、常温の液体を移送するのであれば、何らかの事情で液体にガスが混入したときに、液切れとなって潤滑不良が生じ、軸受けが破損することがある。また、低温液化ガスを移送する場合、軸受けの摩擦熱で低温液化ガスが気化し、液切れとなって潤滑不良が生じ、軸受けが破損することがある。
【0009】
また、上記のようなキャンドポンプに転がり軸受けを適用したものもある。この場合、軸受けは自己潤滑材料を使った特殊品であり、移送する液体によって軸受けを潤滑する。このようなキャンドポンプでも、移送する液体にガスが混入したり、低温液化ガスが摩擦熱で気化したりすると、液切れとなって潤滑不良が生じる。また、キャンの内部に満たされた低温液化ガスが軸受けの摩擦やモーター部の発熱で熱せられ、甚大なロスが生じるおそれもある。
【0010】
特許文献2の記載によれば、従来の低温液化ガス用ポンプは、モータのハウジング全体を耐圧構造とし、外部へガスが漏れないようにしたことにより、以下の課題が生じた。
特許文献1記載のキャンと比較すると、耐圧構造部の容積が大きいため、耐圧壁の板厚が厚くなり、コスト面で不利である。
モータに接続する電線が耐圧壁を貫通する構造となるため、この貫通部に特殊なシール構造を採用し、電線のコネクタ部には耐圧性のある端子ボックスを採用しなければならず、コスト面で不利である。
モータ部の固定子には樹脂製の部品が多いため、移送する低温液化ガスが樹脂製の部品と接触し、細かな樹脂のバリや樹脂から発生する不純ガスなどが低温液化ガス中に混入するおそれがある。
耐圧構造部の容積が大きく、電線の接続構造も複雑で、内部に樹脂製の部品も存在するため、内部のパージに時間を要し、パージガスの消費ロスが多くなって、コスト面で不利である。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するため、つぎの目的をもってなされた。
安価な汎用品の転がり軸受けを使用でき、コストメリットが大きいキャンドモーターポンプを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載のキャンドモーターポンプは、上記目的を達成するため、つぎの構成を採用した。
インペラの回転によって移送液を移送するポンプ部と、
上記インペラに接続されて上記インペラを回転させる回転軸を有するモーター部と、
上記モーター部内において、上記回転軸に設けられた回転子と、上記回転子を回転駆動する固定子とを隔てるキャンとを備え、
上記ポンプ部と上記モーター部が、上記ポンプ部が下側に、上記モーター部が上側になるよう配置されることにより、上記モーター部の上記キャン内を、上記移送液の液相を侵入させずに気相に保つよう構成し、
上記モーター部と上記ポンプ部の間に、上記移送液の液相内に上記インペラを存在させるよう保つとともに、上記キャン内を上記気化ガスの気相に保つための熱調整部が、上記回転軸との間に軸収容空間を一定のクリアランスで保つ円筒状に設けられ、
上記キャンを導電性の金属材料で形成することにより、上記モーター部を構成するモーターを稼動することで発生する渦電流で、上記キャン自体に熱をもたせるように構成した。
【0014】
請求項
2記載のキャンドモーターポンプは、請求項
1記載の構成に加え、つぎの構成を採用した。
上記回転軸を軸支する軸受けを、上記キャン内の上記気相に存在させるよう配置した。
【0015】
請求項
3記載のキャンドモーターポンプは、請求項1
または2記載の構成に加え、つぎの構成を採用した。
上記キャンは、その内部空間が、上記気相を構成する上記移送液の気化ガスを外部に漏らさない圧力密閉空間となるよう構成されている。
本発明において「圧力密閉空間」とは、「気相の圧力が密閉された空間」である。つまり、気体を外部に漏らさない空間であれば、液体が流入するあるいは流出する開口が存在していることは問わない趣旨である。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載のキャンドモーターポンプは、
上記モーター部の上記キャン内を、上記移送液の液相を侵入させずに気相に保つよう構成した。これにより、インペラは液相内に保たれモーターは気相内に保たれる。このため、従来のキャンドモーターポンプで使用されていたすべり軸受けに替えて、トラブルの少ない転がり軸受けを使用できる。また、モーターを液中に浸漬せずにすむため、モーター自体を比較的安価な材料で構成することができ、コスト的に有利である。また、モーターを気相に保つため、吸込側の液面高さは、モーター部の高さを考慮しないインペラの高さまででよくなるため、運転に必要な最低の液面高さが低くなる。
移送液として低温液化ガスを使用した場合でも、転がり軸受けを使用できることから、従来のキャンドモーターポンプのようにすべり軸受けが固まってしまうというトラブルが生じない。また、モーターが気相内に保たれてその予冷時間を大幅に短縮でき、起動初期における低温液化ガスの気化ロスを低減できる。また、すべり軸受けの摩擦やモーターによる発熱が低温液化ガスに直接作用しないため、運転中における低温液化ガスの気化ロスも大幅に減少する。
また、上記キャンを導電性の金属材料で形成することにより、上記モーター部を構成するモーターを稼動することで発生する渦電流で、上記キャン自体に熱をもたせるように構成したことにより、上記キャン内の内部空間の温度を保ち、上記ポンプ部を満たす液相がキャン内まで上がってこない。
【0017】
請求項
1記載のキャンドモーターポンプは、
上記モーター部と上記ポンプ部の間に、上記移送液の液相内に上記インペラを存在させるよう保つとともに、上記キャン内を上記気化ガスの気相に保つための熱調整部を、上記回転軸との間に軸収容空間を一定のクリアランスで保つ円筒状に設けた。
これにより、インペラを液相内に保ちモーターを気相内に保つことによる効果を、単純な構造で実現できる。
【0018】
請求項
2記載のキャンドモーターポンプは、
軸受けを気相に存在させたことにより、一般的な潤滑剤であるグリースを使用でき、移送液中に潤滑剤が混入して不純物となるおそれがない。また、軸受け自体を比較的安価な材料で構成することができ、コスト的に有利である。また、熱調整部で気相に保たれた部分に軸受けを配置するため、極低温の液体を移送しても軸受けが過度に冷却されず、軸受けの損傷や劣化を防止できる。また、モーターの回転部分が気相内で回転するため抵抗が少なく、エネルギー効率がよい。
【0019】
請求項
3記載のキャンドモーターポンプは、
上記キャンの内部空間を圧力密閉空間とし、上記気相を構成する上記移送液の気化ガスを外部に漏らさないことにより、インペラを液相内に保ちモーターを気相内に保つ。
これにより、本発明のキャンドモーターポンプはコスト面で有利となる。つまり、耐圧構造部であるキャンは、特許文献2記載の低温液化ガスポンプに比べて直径が小さいため、耐圧壁の板厚を薄くできる。モーターに接続する電線が耐圧壁を貫通しない構造であるため、特殊なシール構造や耐圧性のある端子ボックスを採用する必要がない。また、耐圧構造部の容積が小さく、電線の接続構造も単純で、キャンの内部には樹脂製の部品が少なく不純ガスによる汚染が少ないため、内部のパージが短時間ですみ、パージガスの消費ロスが少なくてすむ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
つぎに、本発明を実施するための形態を説明する。
【0022】
図1は、本発明のキャンドモーターポンプの第1実施形態を示す概略図である。本実施形態では、低温液化ガスを移送液とした例を説明する。
【0023】
〔全体構成〕
このキャンドモーターポンプは、ポンプ部1と、モーター部2と、熱調整部3とを備えている。上記ポンプ部1とモーター部2は、モーター部2が上側に配置され、ポンプ部1が下側に配置されている。上記熱調整部3は、上記ポンプ部1とモーター部2の間に配置されている。
【0024】
〔ポンプ部〕
上記ポンプ部1は、インペラ10の回転によって移送液を移送する。
【0025】
上記インペラ10は、移送液を導入する導入流路11に連通するボリュートハウジング12内に配置されている。上記インペラ10には、回転軸20が接続されている。上記回転軸20の回転にともないインペラ10が回転する。上記インペラ10がボリュートハウジング12内で回転することにより、移送液に遠心力が付与され、上流と下流のあいだに圧力差を生じさせる。この圧力差により、移送液を導入流路11から吸引し、ボリュートハウジング12の外周部に設けられた吐出開口15から吐出する。上記ボリュートハウジング12内の空間が、インペラ10が収容されるインペラ用空間13である。図において符号14は、低温液化ガスの流動を助けるインデューサ14である。上記インペラ10、ボリュートハウジング12、インデューサ14を含んで本実施形態のポンプ部1が形成されている。
【0026】
〔モーター部〕
上記モーター部2は、上記インペラ10に接続されて上記インペラ10を回転させる回転軸20を有する。
【0027】
上記モーター部2を構成するモータとしては、例えば、直流モーター、三相誘導モーターなど一般的なモーターをベースとして製作することができる。その他にPMモーター(永久磁石モーター)を使用することによりエネルギー効率のよいポンプとすることができる。
【0028】
上記モーター部2を構成するモーターは、上記回転軸20に設けられた回転子21と、上記回転子21を回転駆動するための固定子22とを備えている。これにより、上記モーター部2を構成するモーターを駆動することにより、上記回転軸20を回転駆動することができる。
【0029】
上記回転軸20は、長手方向が上下を向くように配置されている。上部がモーター部2を構成するモーターの回転軸であり、下部がポンプ部1のインペラ10に接続されている。この例では、上記回転軸20は、モーター部2側のシャフトとポンプ部1側のシャフトが一体となった一本のシャフトを用いている。
【0030】
上記回転軸20は、上記モーター部2の上下部分において軸受け23によって軸支されている。上記軸受けとしては転がり軸受け23が使用される。
【0031】
上記モーター部2には、上記モーター部2内において、上記回転軸20に設けられた回転子21と、上記回転子21を回転駆動する固定子22とを隔てるキャン4を備えている。上記キャン4は、上記回転軸20と、上記回転軸20を軸支する軸受け23を収容する有天筒状のケース部4Aと、上記ケース部4Aの下部開口の外周に形成されたフランジ部4Bとを含んで構成される。上記回転軸20は、軸受け23によってケース部4A内に上部が軸支され、ケース部4Aの下部開口から下方に下部が突出し、熱調整部3およびポンプ部1に至っている。
【0032】
上記キャン4は、その内部空間24が、上記気相を構成する上記移送液の気化ガスを外部に漏らさない圧力密閉空間となるよう構成されている。上記キャン4を構成する材質としては、たとえばアルミニウムやステンレス鋼のような金属材料や、FRPのような樹脂材料などを用いることができる。これらの材料で形成したキャン4は、少なくとも有天筒状のケース部4Aに、移送液の気化ガスが通り抜ける貫通部がなく、内部空間24を圧力密閉空間とする。
【0033】
上記キャン4のケース部4Aの外側が外側ケース25で囲われ、上記キャン4のケース部4Aと外側ケース25の間に固定子22が収容されている。上記外側ケース25の外周面には、固定子22に対して通電するための端子ケース28が設けられている。また、上記モーター部2の上部には、ファン26によってモーター部2を冷却する冷却ユニット27が配置されている。符号28Aと26Aは、それぞれ端子ケース28およびファン26に対して電気を供給するための電線28A,26Aである。
【0034】
上記端子ケース28およびファン26などの電気系統部は、上記キャン4の外側、つまり大気環境中に配置される。したがって、上記電気系統部が、移送液の液相やその気化ガスに接触することはない。このため、電気系統部を構成する部材として液体や気化ガスとの接触やシール性を考慮した特別仕様のものを採用する必要性がなく、一般的な汎用品を使うことができる。
【0035】
上記モーター部2全体に比べてキャン4の直径が小さくなるので、耐圧性を確保するための板厚を薄くできる。つまり、高さ寸法が同じであれば、内容積に反比例して板厚を薄くできる。したがって、外側ケース25より直径の小さいキャン4は、板厚を薄くできるのである。また、樹脂部品の多い固定子22が液体や気化ガスと接触しないため、移送液を汚染するリスクが低くなる。さらに、複雑な電気系統部がキャン4の外側になり、モーター部2全体に比べてキャン4の容積も小さいことから、キャン4の内部空間24をパージしやすく、パージガスのロスが少なくなる。
【0036】
〔熱調整部〕
上記熱調整部3は、上記モーター部2と上記ポンプ部1の間に配置されている。上記熱調整部3は、軸ハウジング30と、上記軸ハウジング30に収容される回転軸20の一部と、上記軸ハウジング30内で回転軸20が収容される軸収容空間31とを含んで構成される。上記回転軸20のうち軸ハウジング30に収容される一部は、回転軸20のうち長手方向の半ば付近である。つまり、モーター部2の下部から突出し、ポンプ部1の上部から突出した部分である。
【0037】
上記回転軸20は、モーター部2のキャン4における内部空間24と、熱調整部3の軸収容空間31と、ポンプ部1のインペラ用空間13とを貫いて存在している。そして、キャン4と、軸ハウジング30とボリュートハウジング12は、気密および液密を保つように図示しないシール部材等を介して接合されている。具体的には、それぞれの接合部に、ガスケット、O−リングなどを介してフランジをボルトで締め込んだり、ねじ構造としてシールテープを介して締め込んだりして気密および液密を保つことができる。
【0038】
つまり、モーター部2のキャン4における内部空間24と、熱調整部3の軸収容空間31と、ポンプ部1のインペラ用空間13は互いに連通している。また、キャン4の内部空間24と軸収容空間31とインペラ用空間13は、導入流路11との連通部および吐出開口15を除いて気密および液密を保っており、圧力密閉空間を形成している。
【0039】
〔配置〕
上記ポンプ部1と上記モーター部2が、上記ポンプ部1が下側に、上記モーター部2が上側になるよう配置されるている。これにより、上記モーター部2の上記キャン4内を、上記移送液の液相を侵入させずに気相に保つよう構成した。
【0040】
また、上記熱調整部3は、上記移送液の液相内に上記インペラ10を存在させるよう保つとともに、上記キャン4内を上記気化ガスの気相に保つ。つまり、上記モーター部2とポンプ部1の間に挟まれた隙間の部分に熱調整部3を設け、下側からポンプ部1、熱調整部3、モーター部2の順に配置している。このようにすることにより、冷気は下がり暖気は上がる性質により、下側のポンプ部1を低温部とし、中間の熱調整部3を低温〜常温とし、上部のモーター部2を常温とするように、温度範囲を分けるのに有利となる。ここでいう常温とは一般的なモーターの使用環境温度であり、−20〜40℃程度である。
【0041】
そして、上記ポンプ部1は、導入流路11から吸引されて吐出口15から排出される移送液で満たされる。上記熱調整部3は、下端部では移送液が液相であり、上端部が移送駅が気化した気化ガスの気相となるよう、温度勾配が形成される。そして、上記モーター部2の上記キャン4内は、上記移送液の液相が侵入せず、気化ガスの気相に保たれる。モーター部2を低温液化ガスに直接接触させず、一般的で安価な鉄材などを使用できる。
【0042】
上記回転軸20を軸支する軸受け23は、上記キャン4内の上記気相に存在させるよう配置される。つまり、上記回転軸20は上記気相に存在させた軸受け23で軸支され、上記軸受け23はモーター用とポンプ用を共用することになる。軸受け23は低温液化ガスと直接接触せず、ポンプ冷却の影響がおよばないため、一般的なグリースを潤滑剤として使用する鉄製の安価なものを使用できる。
【0043】
このとき、上記キャン4内の内部空間24が圧力密閉空間に形成されていることから、気化ガスは外部に漏れない。したがって、上記ポンプ部1内を通過する液相は、熱調整部3を超えてキャン4内まで上がってこない。つまり、移送液は、図面最下部のインデューサ14部分よりポンプの内部に引き込まれ、インペラ10によって動力が与えられ、吐出開口15から排出される。ポンプの内部に入った移送液は、吐出開口15しか出口がなく、圧力密閉空間で行き止まりとなるキャン4の内部空間24には入って行かない。
【0044】
このように、冷気は下がり暖気は上がる性質と、圧力密閉空間の作用により、ポンプ部1が低温部、中間の熱調整部3が低温〜常温、上部のモーター部2が常温と分けることができるのである。
【0045】
また、モーター部2を構成するモーターが発熱することによって、上記キャン4内の内部空間24の温度が常温に保たれる。さらに、上記キャン4を導電性の金属材料で形成した場合、モーター部2を構成するモーターを稼動することにより発生する渦電流でキャン4自体が熱をもち、上記キャン4内の内部空間24の温度が常温に保たれる。これらの作用が熱調整効果に寄与し、上記ポンプ部1を満たす液相は、熱調整部3を超えてキャン4内まで上がってこない。
【0046】
このようにすることにより、インペラ10を収容するインペラ用空間13内は、導入流路11から導入されて吐出開口15に向かって流れる移送液で満たされる。例えば−150℃以下に保たれ、液相の状態が維持される。一方、キャン4の内部空間24内は、常温に近い温度、例えば−20℃以上に保たれる。これにより、内部空間24内は、移送液の気化ガスで満たされ、気相の状態が維持される。軸収容空間31内は、内部空間24とインペラ用空間13の中間温度で、温度勾配が形成される。
【0047】
液相で満たされる部分は、導入流路11からポンプ部1までである。具体的には、ボリュートハウジング12、熱調整部3の底部、インペラ10、回転軸20の一部、インデューサ14などの最低必要部品のみとなる。
【0048】
〔圧力密閉空間の壁の板厚〕
本実施形態では上述したように、上記モーター部2全体に比べてキャン4の直径が小さくなるので、耐圧性を確保するための板厚を薄くできる。
ここで、特許文献2に記載された従来品の耐圧壁(符号4a)の板厚に比べ、本実施形態のキャン4の板厚をどの程度薄くできるか検討した。
【0049】
従来品では、耐圧壁(4a)の内径を229mm、高さを344mm、内容積が14.2Lで、材質としてアルミニウムを用いた場合、必要な板厚は2.9mmである。
本実施形態では、高さ344mmとした同程度の大きさのモーター部2とした場合に、キャン4の内径が119mmになり、内容積が3.9Lとなる。材質としてアルミニウムを用いた場合、必要な板厚は1.5mmになる。材質としてステンレス鋼を用いた場合、必要な板厚は0.5mmとなる。
【0050】
〔実施形態の効果〕
本実施形態のキャンドモーターポンプは、
上記モーター部2の上記キャン4内を、上記移送液の液相を侵入させずに気相に保つよう構成した。これにより、インペラ10は液相内に保たれモーターは気相内に保たれる。このため、従来のキャンドモーターポンプで使用されていたすべり軸受けに替えて、トラブルの少ない転がり軸受け23を使用できる。また、モーターを液中に浸漬せずにすむため、モーター自体を比較的安価な材料で構成することができ、コスト的に有利である。また、モーターを気相に保つため、吸込側の液面高さは、モーター部2の高さを考慮しないインペラ10の高さまででよくなるため、運転に必要な最低の液面高さが低くなる。
移送液として低温液化ガスを使用した場合でも、転がり軸受け23を使用できることから、従来のキャンドモーターポンプのようにすべり軸受けが固まってしまうというトラブルが生じない。また、モーターが気相内に保たれてその予冷時間を大幅に短縮でき、起動初期における低温液化ガスの気化ロスを低減できる。また、すべり軸受けの摩擦やモーターによる発熱が低温液化ガスに直接作用しないため、運転中における低温液化ガスの気化ロスも大幅に減少する。
【0051】
本実施形態のキャンドモーターポンプは、
上記熱調整部3を設けた。これにより、インペラ10を液相内に保ちモーターを気相内に保つことによる効果を、単純な構造で実現できる。
【0052】
本実施形態のキャンドモーターポンプは、
軸受け23を気相に存在させたことにより、一般的な潤滑剤であるグリースを使用でき、移送液中に潤滑剤が混入して不純物となるおそれがない。また、軸受け23自体を比較的安価な材料で構成することができ、コスト的に有利である。また、熱調整部3で気相に保たれた部分に軸受け23を配置するため、極低温の液体を移送しても軸受け23が過度に冷却されず、軸受け23の損傷や劣化を防止できる。また、モーターの回転部分が気相内で回転するため抵抗が少なく、エネルギー効率がよい。
【0053】
本実施形態のキャンドモーターポンプは、
上記キャン4の内部空間を圧力密閉空間とし、上記気相を構成する上記移送液の気化ガスを外部に漏らさないことにより、インペラ10を液相内に保ちモーターを気相内に保つ。
これにより、本実施形態のキャンドモーターポンプはコスト面で有利となる。つまり、耐圧構造部であるキャン4は、特許文献2記載の低温液化ガスポンプに比べて直径が小さいため、耐圧壁の板厚を薄くできる。モーターに接続する電線が耐圧壁を貫通しない構造であるため、特殊なシール構造や耐圧性のある端子ボックスを採用する必要がない。また、耐圧構造部の容積が小さく、電線の接続構造も単純で、キャン4の内部には樹脂製の部品が少なく不純ガスによる汚染が少ないため、内部のパージが短時間ですみ、パージガスの消費ロスが少なくてすむ。
【0054】
〔変形例〕
上記実施形態では、上記キャン4内の内部空間24を圧力密閉空間に形成したが、上記内部空間24は、気化ガスの出入りを許容する構造でも良い趣旨である。この場合、上記ポンプ部1が下側に、モーター部2が上側になるよう配置し、上記モーター部2とポンプ部1の間に熱調整部3を設け、低温液化ガスの液面を上記モーター部2とポンプ部1の間に保つ。これにより、上記モーター部2の上記キャン4内を、低温液化ガスの液相を侵入させずに気相に保つようになっている。
【0055】
上記実施形態では、低温液化ガスを移送液とした例を説明したが、本発明が対象とする移送液は、これに限定するものではなく、爆発性・引火性・毒性のある液体や、強酸・強アルカリの化学薬品など、各種の液体を適用することができる。これらの場合も同様の作用効果を奏する。
【0056】
上記実施形態では、ファン26を回転させる冷却ユニット27によりモーター部2を冷却するようにしたが、モーター部2の冷却は、モーター連動冷却ファンを用いたり、マグネットカップリングを用いたファンを使用したり、水冷による冷却を適用したりすることもできる。これらの場合も同様の作用効果を奏する。
【0057】
また、上記実施形態では、熱調整部3またはモーター部2をヒータなどで加温することにより、熱調整部3の縦寸法を小さくすることもできる。また、熱伝導率の低い材料を全部または部分的に使用することにより、熱調整部3の縦寸法を小さくすることもできる。これらの場合も同様の作用効果を奏する。
【0058】
上記実施形態では、回転軸20として1本のシャフトを用いる例を説明したが、これに限定するものではない。モーター部2側のシャフトとポンプ部1側のシャフトを別体とし、それらの間を回転動力を伝達させる構造部で連結するようにしてもよい。さらに、モーター部2の回転をインペラ10に伝達しうるものであれば、他の手段を用いることもできる。例えば、モーター用シャフトと、インペラ用シャフトとの間をギヤ、チェーン、ベルト等を用いて連結して回転を伝達するようにしてもよい。これらの場合も同様の作用効果を奏する。
【0059】
また、以上は本発明の特に好ましい実施形態について説明したが、本発明は図示した実施形態に限定する趣旨ではなく、各種の態様に変形して実施することができ、本発明は各種の変形例を包含する趣旨である。