【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上述の目的を達成するために検討を重ねたところ、シールフィン間の空洞の流れ場が、ロータの周方向に一様であるときに、空洞における主渦及び剥離渦の渦構造が最適になるとの知見を得た。そして、渦構造の最適化により、子午面内の剥離渦の強さが最大になり、シール性能が高くなるとの知見を得た。
一方、本発明者等は、現実には、空洞において周方向の速度変動(2次流れ)が発生して子午面内の流体の運動エネルギが低下し、主渦及び剥離渦が期待していたよりも弱くなることがあるとの知見を得た。そして、主渦や剥離渦の中心位置が周方向にうねり、渦構造が壊れてしまうことがあるとの知見を得た。更に、シールフィンがロータの径方向に対し傾斜している場合に、このような傾向が強くなるとの知見も得た。また、空洞に流入する流体の周方向速度の絶対速度が零に近い場合にも、このような傾向が強くなるとの知見も得た。
これらの知見に基づき、本発明者等は更に検討を重ね、シールフィン間の空洞の流れ場をロータの周方向に一様にすることが可能な構成を見出し、本発明を創作するに至った。
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係るタービンは、
ケーシングと、
前記ケーシングの内部を延びるロータと、
前記ロータに固定され且つ前記ロータの周方向に配列された複数の動翼と、
前記ケーシングに対し固定され、第1径方向隙間を存して前記複数の動翼を囲む囲繞部と、
前記ケーシングに対し固定されるとともに前記ロータの外周面との間に第2径方向隙間を存して前記ロータの周方向に配列された複数の静翼と
前記第1径方向隙間又は前記第2径方向隙間における流体の流れを制限可能なシール装置と、を備え、
前記シール装置は、
前記第1径方向隙間に面する前記動翼の径方向外面又は前記第2径方向隙間に面する前記ロータの外周面に設けられるとともに前記流体の流れ方向にて上流を向き、前記動翼の径方向外面又は前記ロータの外周面を前記ロータの軸方向にて少なくとも2つの区画に区画する少なくとも1つの段差面と、
前記囲繞部材又は前記静翼から前記少なくとも2つの区画に向かってそれぞれ突出するとともに前記少なくとも2つの区画とシール隙間を存してそれぞれ対向する少なくとも2つのシールフィンであって、前記ロータの軸方向にて前記少なくとも1つの段差面を跨いで延在する空洞を互いの間に形成する少なくとも2つのシールフィンと、
前記流体の流れ方向にて前記シールフィンの下流面に設けられ、前記下流面に沿う流体の流れを剥離させるように構成された剥離促進部と、
を有する。
【0006】
上記構成(1)のタービンでは、シールフィンの下流面に設けられた剥離促進部によって、シールフィンの下流面に沿う流体の流れが剥離する剥離点が決定される。子午面内での剥離点の位置が決定されることで、剥離点の位置が周方向にばらつくことが防止され、シールフィン間の空洞における周方向の速度変動(2次流れ)が抑制される。この結果、空洞の流れ場が周方向に一様になり、空洞における主渦及び剥離渦の強化を図ることができ、縮流効果が向上し、シール隙間を通じた漏れ流れを低減させることができる。
【0007】
(2)幾つかの実施形態では、上記構成(1)において、
前記ロータの軸方向に沿った前記シールフィンの下流面の先端から前記空洞の軸方向最遠方部までの距離をWとし、
前記ロータの径方向に沿った前記シールフィンの下流面の先端から前記空洞の径方向最遠方部までの距離をRとし、
前記シールフィンの先端における厚さをtとし、
前記ロータの軸方向に沿った前記シールフィンの下流面の先端から前記流体の流れの剥離を引き起こす前記剥離促進部の形状変化点までの距離をxとし、
前記ロータの径方向に沿った前記シールフィンの下流面の先端から前記剥離促進部の形状変化点までの距離をyとしたとき、次の2つの式:
0<x≦W/2
t≦y≦R/2
で示される関係がそれぞれ満たされている。
【0008】
上記構成(2)のタービンでは、距離xが距離Wの半分以下であり、且つ、距離yが距離Rの半分以下であることによって、剥離促進部が空洞における主渦及び剥離渦の生成を妨げることなく、シールフィンの下流面に沿う流体の流れを剥離させることができる。この結果、空洞における主渦及び剥離渦の強さの最大化を図ることができ、縮流効果が向上し、シール隙間を通じた漏れ流れを低減させることができる。
【0009】
(3)幾つかの実施形態では、上記構成(1)又は(2)において、
前記剥離促進部は、前記シールフィンの下流面に設けられるとともに、前記シールフィンの突出方向を向いた後向き段差面によって構成されている。
【0010】
上記構成(3)では、後向き段差面によって、シールフィンの下流面に沿う流体の流れを剥離させることができる。
【0011】
(4)幾つかの実施形態では、上記構成(3)において、
前記シールフィンの先端における厚さをtとし、
前記後向き段差面の高さをhとしたとき、次式:
0.5≦h/t≦10
で示される関係が満たされている。
【0012】
上記構成(4)では、シールフィンの先端における厚さtに対する後向き段差面の高さhの比h/tが0.5以上であることによって、流体の流れが後向き段差面の存在を感じることができ、後向き段差面にて流体の流れを確実に剥離させることができる。一方、比h/tが10以下であることによって、剥離による圧力損失を抑制することができ、主渦及び剥離渦の強さが低下することを防止することができる。
【0013】
(5)幾つかの実施形態では、上記構成(1)又は(2)において、
前記剥離促進部は、前記シールフィンの下流面に固定された線材よって構成されている。
上記構成(5)では、線材によって、シールフィンの下流面に沿う流体の流れを剥離させることができる。
【0014】
(6)幾つかの実施形態では、上記構成(5)において、
前記シールフィンの先端における厚さをtとし、
前記線材の直径をφとしたとき、次式:
0.5≦φ/t≦10
で示される関係が満たされている。
【0015】
上記構成(6)では、シールフィンの先端における厚さtに対する線材の直径φの比φ/tが0.5以上であることによって、流体の流れが線材の存在を感じることができ、線材にて流体の流れを確実に剥離させることができる。一方、比φ/tが10以下であることによって、剥離による圧力損失を抑制することができ、主渦及び剥離渦の強さが低下することを防止することができる。
【0016】
(7)幾つかの実施形態では、上記構成(1)又は(2)において、
前記剥離促進部は、前記シールフィンの下流面の根元側と先端側とが相互に異なる傾きで交わる折れ曲がり部によって構成されている。
上記構成(7)では、折れ曲がり部によって、シールフィンの下流面に沿う流体の流れを剥離させることができる。
【0017】
(8)幾つかの実施形態では、上記構成(7)において、
前記折れ曲がり部にて前記シールフィンの下流面の根元側と先端側が相互に交わる角度は、7°以上45°以下である。
【0018】
上記構成(8)では、折れ曲がり部にてシールフィンの下流面の根元側と先端側が相互に交わる角度が7°以上であることによって、流体の流れが折れ曲がり部の存在を感じることができ、折れ曲がり部にて流体の流れを確実に剥離させることができる。一方、角度が45°以下であることによって、剥離による圧力損失を抑制することができ、主渦及び剥離渦の強さが低下することを防止することができる。
【0019】
(9)幾つかの実施形態では、上記構成(1)又は(2)において、
前記剥離促進部は、前記シールフィンの下流面から突出する突起によって構成されている。
上記構成(9)では、突起によって、シールフィンの下流面に沿う流体の流れを剥離させることができる。
【0020】
(10)幾つかの実施形態では、上記構成(9)において、
前記シールフィンの先端における厚さをtとし、
前記シールフィンの下流面に沿った前記突起の長さをwとし、
前記シールフィンの下流面からの前記突起の突出高さをhとしたとき、以下の2つの式:
0.5≦w/t
0.5≦h/t≦10
で示される関係がそれぞれ満たされている。
【0021】
上記構成(10)では、シールフィンの先端における厚さtに対する突起の長さwの比w/t及びシールフィンの先端における厚さtに対する突起の突出高さhの比h/tが0.5以上であることによって、流体の流れが突起の存在を感じることができ、突起にて流体の流れを確実に剥離させることができる。一方、比h/tが10以下であることによって、剥離による圧力損失を抑制することができ、主渦及び剥離渦の強さが低下することを防止することができる。
【0022】
(11)幾つかの実施形態では、上記構成(1)又は(2)において、
前記剥離促進部は、前記シールフィンの下流面に開口する溝によって構成されている。
上記構成(11)では、溝によって、シールフィンの下流面に沿う流体の流れを剥離させることができる。
【0023】
(12)幾つかの実施形態では、上記構成(11)において、
前記シールフィンの先端における厚さをtとし、
前記シールフィンの下流面に沿った前記溝の開口の幅をwとし、
前記溝の深さをhとしたとき、以下の2つの式:
h≦w
0.5≦h/t≦10
で示される関係がそれぞれ満たされている。
【0024】
上記構成(12)では、溝の開口の幅が溝の深さh以上であり且つシールフィンの先端における厚さtに対する溝の深さhの比h/tが0.5以上であることによって、流体の流れが溝の存在を感じることができ、溝にて流体の流れを確実に剥離させることができる。一方、比h/tが10以下であることによって、剥離による圧力損失を抑制することができ、主渦及び剥離渦の強さが低下することを防止することができる。
【0025】
(13)幾つかの実施形態では、上記構成(1)又は(2)において、
前記剥離促進部は、前記シールフィンの下流面に形成された凹部によって構成されている。
上記構成(13)では、凹部によって、シールフィンの下流面に沿う流体の流れを剥離させることができる。
【0026】
(14)幾つかの実施形態では、上記構成(13)において、
前記凹部の壁面と前記シールフィンの先端側とが相互に交わる角度は7°以上である。
【0027】
上記構成(14)では、凹部の壁面とシールフィンの先端側とが相互に交わる角度が7°以上であることによって、流体の流れが凹部の壁面とシールフィンの先端側との境界の存在を感じることができ、凹部により流体の流れを確実に剥離させることができる。
一方、シールフィンの下流面に沿ってシールフィンの先端に向かって流れる流体の流路幅が徐々に拡大している場合、下流面に沿って流れる流体の速度が徐々に低下する。流体の速度が低下すると、剥離点が定まらず、空洞内の周方向に圧力分布が生じやすくなる。そしてこの結果、周方向の2次流れが生じるという問題がある。
この点、上記構成(14)では、シールフィンの下流面に凹部を設けることによって、下流面に沿ってシールフィンの先端に向かって流れる流体の流路幅の拡大率を低下させることができ、流速の減少を抑制することができる。これにより、空洞内で周方向の不均一な圧力分布の発生が抑制されるので周方向の2次流れの発生が抑制され、空洞における主渦及び剥離渦の強さが低下することを防止することができる。
【0028】
(15)幾つかの実施形態では、上記構成(1)又は(2)において、
前記剥離促進部は、前記シールフィンの下流面に設けられるとともに、前記シールフィンの突出方向とは反対側を向いた前向き段差面によって構成されている。
上記構成(15)では、前向き段差面によって、シールフィンの下流面に沿う流体の流れを剥離させることができる。
【0029】
(16)幾つかの実施形態では、上記構成(15)において、
前記シールフィンの先端における厚さをtとし、
前記前向き段差面の高さをhとしたとき、次式:
0.5≦h/t≦10
で示される関係が満たされている。
【0030】
上記構成(16)では、シールフィンの先端における厚さtに対する前向き段差面の高さhの比h/tが0.5以上であることによって、流体の流れが前向き段差面の存在を感じることができ、前向き段差面にて流体の流れを確実に剥離させることができる。一方、比h/tが10以下であることによって、剥離による圧力損失を抑制することができ、主渦及び剥離渦の強さが低下することを防止することができる。
【0031】
(17)幾つかの実施形態では、上記構成(1)又は(2)において、
前記剥離促進部は、前記シールフィンの下流面に設けられるとともに、前記シールフィンの先端側が根元側よりも薄くなるように傾斜した傾斜面によって構成されている。
上記構成(17)では、傾斜面によって、シールフィンの下流面に沿う流体の流れを剥離させることができる。
【0032】
(18)幾つかの実施形態では、上記構成(17)において、
前記傾斜面の傾斜角度は7°以上45°以下である。
【0033】
上記構成(18)では、傾斜面の傾斜角度が7°以上であることによって、流体の流れが傾斜面の存在を感じることができ、傾斜面にて流体の流れを確実に剥離させることができる。一方、傾斜角度が45°以下であることによって、剥離による圧力損失を抑制することができ、主渦及び剥離渦の強さが低下することを防止することができる。
【0034】
(19)幾つかの実施形態では、上記構成(1)乃至(18)の何れか1つにおいて、
前記シールフィンは、前記ロータの径方向に対し傾斜して延びている。
【0035】
上記構成(19)では、シールフィンがロータの径方向に対して傾斜していることで、縮流効果が大きくなり、シール隙間を流れる流体の漏れ流れをより一層低減することができる。
一方、シールフィンがロータの径方向に対して傾斜している場合、シールフィンの下流面に沿ってシールフィンの先端に向かって流れる流体の流路幅が徐々に拡大し、流体の速度が低下する。流体の速度が低下すると、剥離点が定まらず、空洞内の周方向に圧力分布が生じやすくなる。そしてこの結果、周方向の2次流れが生じるという問題がある。
更に、シールフィンがロータの径方向に対して傾斜していることで、空洞内のアスペクト比が大きくなり、空洞内の主渦が径方向に長い縦長形状になる。縦長形状の主渦は、真円形状に近づこうとする性質があるため、主渦の中心が変動しやすく、渦構造が不安定になりやすい。
この点、上記構成(19)では、剥離促進部によって剥離点を決定することで、子午面内における渦構造が安定するので、周方向の不均一な圧力分布の発生が抑制され、周方向の2次流れの発生が防止される。このため、シールフィンがロータの径方向に対して傾斜していることによる縮流効果増大のメリットを十分に享受することができ、漏れ流れを低減することができる。