(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
吸入口と排出口とを設け密閉した箱体と、該箱体内において気体が所定の通路を通過するように区画する仕切板と、気体が前記通路を通過するように強制的に気流を生成するためのファンと、高速で回転する円盤状の回転ブラシ体を有し、気体を通過させて含有するオイル分を前記回転ブラシ体で捕捉する捕集部と、1つ又は複数の捕集フィルタを側面に設けた筒状の枠体部を有し、該枠体部を前記捕集部の周囲に設置した副捕集部とを備えたオイルミスト捕集装置であって、
前記捕集フィルタは、前記捕集部を通過せずに前記捕集部の周囲に廻り込んだ気体を通過させると共に前記回転ブラシ体で捕捉され遠心力で周囲に飛ばされたオイル分を捕集し、
前記捕集部を通過せずに前記捕集フィルタのみを通過した気体は、前記捕集部を通過した気体と一体となって、共に前記排出口から排出されることを特徴とするオイルミスト捕集装置。
【背景技術】
【0002】
自動車部品の製造工場などの金属加工業の職場においては、金属等の切削、研削、鍛造時に、温度上昇を防止し、また切削性等を良好にするために、金属等の表面等に切削油を供給したり付着させることを行っている。しかし、この作業に伴って、加工時にオイルや切削粉を含む霧状のオイルミストが発生する。
【0003】
このオイルミストを放置すると、工場内の全ゆる個所が油まみれとなる。例えば、蛍光灯や床面に付着すると、作業者が滑って怪我をする虞があり、電灯が暗くなるなどの作業環境が悪化する原因となる。
【0004】
このようなことから、工場によっては環境衛生上の観点から、オイルミスト濃度の限界値を定めている場合もあり、捕集効率の高いオイルミスト捕集装置が要求されている。
【0005】
オイルミストからオイル等を効率良く捕集する装置は従来から多用されている。例えば、特許文献1にはオイルミストコレクタ装置が開示されており、このオイルミストコレクタ装置によって装置ケーシング内に吸引されたオイルミストは、回転するオイルミスト処理板に衝突し、遠心力を利用してオイル分を装置ケーシングの内壁面に向かって吹き飛ばし、内壁面にオイル分を付着させることにより、オイル分の捕集を行っている。
【0006】
また、特許文献2に開示されている粉塵除去装置は、天然又は合成の繊維や金属線等から成る液分離用の回転ブラシ体を設け、この回転ブラシ体を回転させることで特許文献1と同様に、遠心力を利用してオイル分を回転ブラシ体の周方向に飛散させてオイルミストからオイル分を分離、捕集を行っている。
【0007】
この回転ブラシは、従来の網部を備えた回転ディスクと比較すると、オイル分が遠心力により周方向に分離されるので、目詰まりが少ないという利点がある。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
図1はオイルミスト捕集装置の外観斜視図、
図2は横断面図である。オイルミスト捕集装置は密閉された箱体10を有し、この箱体10の側面には内部のメンテナンス等を行うための開閉扉11が蝶番により取り付けられている。
【0015】
箱体10内には、気体が所定の通路を経て循環するように区画され、そのための仕切板12が設けられている。オイル、切削粉等がミスト状になった気体は、箱体10の前面中央に設けた筒状の吸入口13から箱体10内で回転する例えばターボファンから成るファン14により箱体10内に吸引される。
【0016】
吸引された気体は捕集部20、副捕集部30を通過することにより、気体中の切削粉等を含むオイル分が除去される。オイル分が捕集、除去された気体は、箱体10の上部の格子状の排出口15から排出するようになっている。
【0017】
ファン14は電動機16の回転軸17に固定されており、箱体10の前面下部の管部18は、箱体10の下部に設けたオイルパン19に捕集したオイル分を集めて抜き取るための図示しないコックを設けた抜取口である。
【0018】
また、図示する矢印のうちでドットにより塗りつぶした矢印は、オイルミストを含む気体の流れを示し、ドットのない矢印は、オイルミストを捕集、除去した気体の流れを示している。
【0019】
図3に示すように、捕集部20は回転ブラシ体21と背面板22とから成り、
図4に示すように回転ブラシ体21と背面板22とを一体に貼り合わせた形状とされている。
【0020】
円盤状の回転ブラシ体21では、中央の金属製の円板部21aの周囲に、外側である放射方向に向けた多数本の合成樹脂製の線状素材21bが密にブラシ状に配列され、固定されている。線状素材21bは、例えば複数本ずつの束として、円板部21aに設けた孔部を挿通させることにより固定している。
【0021】
また、回転ブラシ体21の直径は例えば直径30cm程度の大きさとされているが、設置場所の規模に応じて、適宜の大きさのものを使用し、線状素材21bは弾力性、柔軟性を備える合成樹脂製が好ましいが、金属製であっても支障はない。
【0022】
線状素材21bは回転ブラシ体21の厚み方向に対して複数本になって配列されているが、線状素材21bの充填率、つまり線状素材が所定空間中に占める割合は回転ブラシ体21の捕集効率に影響を与え、充填率が高いほど捕集効率は大きい。また、線状素材21bの線径は例えば0.1〜0.5mm程度であり、線径が細いほど捕集効率が高い。しかし、充填率が高くなるほど、また線径が細くなるほど、オイル分による目詰りが生じ易くなる傾向がある。
【0023】
従って、線状素材21bの線径が細過ぎると使用当初は捕集効率が高いが、時間の経過に伴いオイルによる目詰りが発生し、捕集効率が著しく低下する。このため、線状素材21bの充填率、線径を適宜に選択することにより時間経過によるオイルの目詰り、つまり捕集効率の低下を緩和することができる。
【0024】
回転ブラシ体21の風下側であって背後に設けた背面板22は、円環状の金属板等から成り、回転ブラシ体21の線状素材21bの位置する背面に相当する位置に、通気孔としての窓部22aが打ち抜いて設けられている。窓部22aに対し放射方向に沿って配置した縦枠部22bと、窓部22aを横切るように円周方向に沿って配置した弧枠部22cとにより窓部22aは区画されている。
【0025】
図3に示す背面板22においては、外周縁である外側の弧枠部22cと内側の2つの弧枠部22cにより区画され、放射方向に2重の窓部22aが配置されているが、窓部22aが放射方向へ1重又は3重以上になるように、適宜に弧枠部22cの数を調整しても支障はない。
【0026】
回転ブラシ体21の直径は、背面板22の外周縁の直径に対して同等又は若干短い程度にし、線状素材21bの先端部が、背面板22の最外周縁の弧枠部22cに十分に重なるようにしている。
【0027】
線状素材21bの先端部が最外周縁の弧枠部22cに十分に重ならない場合には、捕集部20が高速回転時に背面板22の窓部の裏側に線状素材21bの先端部が入り込み、線状素材21bの先端部が後方へ膨らむことになる。
【0028】
そこで、線状素材21bの先端部が背面板22の窓部の裏側に入り込むことを防止するため、線状素材21bの先端部が最外周縁の弧枠部22cに十分に重なった状態にする必要がある。なお、回転ブラシ体21の直径を背面板22の外周縁の直径よりも若干長くした場合も同様な効果を得ることができる。
【0029】
逆に、背面板22の外周縁の直径に対して回転ブラシ体21の直径が長過ぎる場合には、捕集部20が高速回転時に、線状素材21bのうちの背面板22よりも長い部分が背面板22の後方へ膨らみ、背面板22の外周縁に繰り返し衝突することで擦り切れてしまい、線状素材21bが短くなるという問題が生ずる。
【0030】
従って、線状素材21bが背面板22との繰り返しの衝突によって擦り切れることを防止するために、上述のように回転ブラシ体21の直径を背面板22の外周縁の直径よりも若干長くした程度が好ましい。
【0031】
また、窓部22aの縦枠部22bの長さが放射方向に対して長過ぎると、捕集部20が高速回転時に線状素材21bが撓んだ場合に、回転ブラシ体21の直径を背面板22の外周縁の直径よりも若干長くした場合でも、線状素材21bが背面板22の窓部22aの裏側に入り込んでしまうことがある。
【0032】
この結果、線状素材21bの先端部が後方へ膨らんだり、線状素材21bが弧枠部22cに繰り返して衝突することで擦り切れてしまい、線状素材21bが短くなるという問題が生じる。そこで、縦枠部22bの長さが放射方向に対して長くなり過ぎないよう、窓部22aの縦枠部22bと弧枠部22cの数や間隔を適宜に調整する必要がある。
【0033】
また、背面板22の中央に配置される線状素材21bは、中心にゆくにつれて密に配置されているため、気体が通り抜ける隙間が十分にない。従って、背面板22の中央部に気体を通過させるための窓部22aを設ける必要がないので、窓部22aは背面板22の外周近傍にのみ設ければよい。背面板22の中央部に窓部22aを設けることなく板面状にすることにより、背面板22の全体の剛性を増すことができる。
【0034】
背面板22に設けたビス孔22dには、回転ブラシ体21の円板部21aのビス貫通孔21cを介して複数個のビス23が螺合され、円板部21aの後面に背面板22が固定されている。円板部21aの中央には後方から電動機16の水平方向を向く回転軸17が固定されており、ファン14も捕集部20と電動機16との間で回転軸17に固定されている。そして、電動機16の駆動によりファン14と回転ブラシ体21は共に回転するようになっている。
【0035】
箱体10内に設置した回転ブラシ体21の周囲には、
図5に示す副捕集部30が
図6に示すように略環状に組み合わせた状態で配置されており、この副捕集部30は箱体10内にネジ止め等により固定される。この副捕集部30の前端には略環状の例えば正八角形の前面板31が設けられ、更に副捕集部30の後端には同様に円環状の後面板32が設けられ、これらの間に筒状の枠体部33が配置されている。
【0036】
前面板31には箱体10内に固定するための複数の固定孔34が設けられており、更に回転ブラシ体21の背面板22よりもやや径が大きい内径を有する円状の孔部35が設けられている。また、後面板32にも中央部に小孔部36が設けられており、この小孔部36は前面板31の孔部35よりもやや小さくされている。
【0037】
枠体部33の筒状の側面部は幾つかに区画され、これらの区画には合成樹脂製又は金属製の網状の複数の捕集フィルタ37が張られている。捕集フィルタ37は例えば直径0.1mm程度の合成樹脂製又は金属製の線材がメッシュ100程度の網目とされている。なお、副捕集部30の前面板31は周囲の枠体部33と共に、箱体10内の気体の流路としての仕切板12を兼ねている。
【0038】
作動に際して、箱体10の背面側に配置した電動機16を駆動させると、回転軸17を介してファン14及び捕集部20が高速に回転する。ファン14の回転により生じた圧力差によって、オイル分を含む気体を吸入口13から箱体10内に
図2の矢印に示すように左から右へ向けて吸引し、捕集部20の前面から後面に向けて通過させる。
【0039】
気体は、前面側の回転ブラシ体21から背後の背面板22に向けて流れ、
図7の矢印に示すように殆どの気体は、回転ブラシ体21の線状素材21b及び背面板22の窓部22aを通して強制的に通過する。
【0040】
捕集部20において、回転ブラシ体21は例えば3000rpmの速度で回転し、気体中のオイル分は線状素材21bに衝突し、線状素材21bに付着して捕捉される。捕集部20を通過した気体は、上部に流れて
図2の矢印に示すように排出口15から箱体10の外部に排出される。
【0041】
この捕集過程では、線状素材21bに捕捉されたオイル分は線状素材21b上に凝集され、そのまま塊として線状素材21b上に留まるものもあるが、多くのオイル分は、回転ブラシ体21が高速で回転することで発生する遠心力及び線状素材21bの振動力により線状素材21bから分離し、外周方向へ吹き飛ばされる。
【0042】
外周方向へ飛び散ったオイル分は、回転ブラシ体21の高速回転により発生する気流と共に、回転ブラシ体21の周囲を囲むように設置された副捕集部30の捕集フィルタ37にぶつかる。ぶつかった際にオイル分は捕集フィルタ37に付着し、気体は通過する。付着したオイル分は、捕集フィルタ37の表面で液状となって、重力により下部に流れ落ちながら移動し、箱体10の下部の所定個所に設けられたオイルパン19に集められる。
【0043】
背面板22には線状素材21bの先端部に相当する個所に、窓部22aが設けられ通気孔とされているが、この窓部22aには弧枠部22cが設けられているので、線状素材21bは弧枠部22cに支えられる。従って、ファン14の回転により捕集部20の前面から後面に向けて強い気流が発生した場合であっても、線状素材21bが後方に倒れ込むことを防止し、線状素材21bの充填率が低下する、つまり線状素材21bが気体通過方向へ膨らむことがないようにされている。
【0044】
また、捕集部20が高速で回転することで、線状素材21bの先端部は捕集部20の前方に向けて幅方向へ拡がるので、拡がる分を考慮して線状素材21bの線の長さ、配置密度を設定する必要がある。
【0045】
そこで、線状素材21bの幅方向へ拡がった際の厚みと、1から捕集する割合を示す捕集効率ηを引いた透過率Pの実験例を測定した。実験条件として、線状素材21bの線径0.2mm、長さ9cm、本数15000本、円板部21a近傍の線状素材21bの幅方向の厚みH1は3mmであって、直径が約33cmの捕集部20を2900回転/分で回転させた。そして、この捕集部20に所定量のオイル分を通過させ、この所定量のオイル分と回収できたオイル分から捕集効率η及び透過率Pを算出した。
【0046】
図8はこのときの線状素材21bの先端の幅方向へ拡がった場合の厚みH2と、透過率Pとの関係を示す両対数グラフ図を示す。線状素材21bの先端部の厚みH2は、回転前の3mmから回転後の5mm程度に拡がるときが最も透過率Pが低くなる、つまり捕集効率ηが高くなることが分かる。従って、捕集部20の高速回転時に、円板部21a近傍の線状素材21bの配置間隔が、回転前から2〜3倍に拡がることを考慮して、線状素材21bの線径、長さ、本数密度及び材質を適宜に選択する必要がある。
【0047】
一方、捕集部20の回転ブラシ体21を通過せずに、回転ブラシ体21の線状素材21bの先端部を外側に廻り込むリーク流れによる気体が存在する。この気体は副捕集部30において捕集フィルタ37を介して外側方向、つまり
図7の通過する気体の説明図における上下方向に発生する気流によって吸引され、オイル分は捕集フィルタ37により捕集される。
【0048】
更に、副捕集部30に後面板32を設けることによりリーク流れは塞き止められ、気体は捕集フィルタ37を通過する方向に流れ易くなる。なお、後面板32は副捕集部30に設けなくても支障はない。
【0049】
捕集フィルタ37を通過することでオイル分が除去された気体は、
図2及び
図7の矢印に示すように捕集部20を通過した気体と一体になって共に排出口15から排出される。
【0050】
そして、気体が副捕集部30を通過することにより捕集されたオイル分は、捕集部20によって吹き飛ばされ、捕集フィルタ37に付着したオイル分と共に下方に流れ落ち、捕集フィルタ37の下部から落下してオイルパン19に溜められる。溜められたオイル分は適当な時間間隔で管部18から外部に抜き取られる。
【0051】
また、ファン14、回転ブラシ体21を同一の電動機16により作動させていが、これらの回転数を異ならせる場合などには、別個の電動機により回転させることもできる。
【0052】
なお、捕集部20に背面板22を設けない場合と設けた場合とを前述の実験条件の下で比較実験したところ、背面板22を設けない捕集部20では、回転時に線状素材21bの先端の幅方向の厚みH2は45mm程度に達し、捕集する割合を示す捕集効率ηが86.5%であった。これに対して、背面板22を設けた捕集部20では、前述のとおり線状素材21bの先端部の幅方向の厚みH2は5mm程度であり、捕集効率ηが92.0%に達した。つまり、13.5%の除去できなかったオイル分を背面板22を設けることで8%に低減したことになり、除去できなかったオイル分の内、約40%のオイル分が背面板22を設けることにより捕集できたことになる。
【0053】
また、
図3、
図4に示す捕集部20の線状素材21bは、直線状のものを使用して説明したが、
図9に示すように線状素材21b’の形状が波線状のものを採用してもよい。直線状の線状素材21bを使用し続けた場合では、線状素材21bは使用時のばらけて膨らんだ状態と、不使用時の膨らんでいない状態を繰り返すので、一部の線状素材21bが倒れて隣接する線状素材21bと常に密接状態になり易い。
【0054】
このように、直線状である線状素材21b同士は密接し易く、線状素材21b同士が線接触した状態になると、その線状素材21b間にオイル分が溜まって付着する。そして、この付着したオイル分により線状素材21b同士が更に密着し、線状素材21b同士が分離し難くなる。
【0055】
そこで、
図9に示すように線状素材21b’を波線状にすることにより一部の線状素材21b’が倒れたとしても、線状素材21b’同士の間に隙間が生じ易く、オイル分が溜まることはない。
【0056】
なお、線状素材21b’の形状は波線状以外にも、隣接する線状素材21b’同士が密接し難い形状のものを適宜に採用することもできる。