【文献】
Hwi-Gang Kim, et al.,"Color Correction using Rotation Matrix for HDR Rendering in iCAM06",Proceedings of 2011 IEEE International Conference on Computer Vision Workshops (ICCV Workshops),2011年11月13日,Pages 738-744,ISBN: 978-1-4673-0063-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一つまたは複数のプロセッサにより、請求項1ないし18のうちいずれか一項記載の方法を実行するためのコンピュータ実行可能命令を記憶している非一時的なコンピュータ可読記憶媒体。
【発明を実施するための形態】
【0012】
高ダイナミックレンジ(HDR)画像の信号整形および符号化が本稿で記述される。以下の記述では、本発明の十全な理解を提供するために、説明の目的で数多くの個別的詳細が記載される。しかしながら、本発明がそうした個別的詳細なしでも実施されうることは明白であろう。他方、本発明を無用に隠蔽し、かすませ、あるいは埋没させるのを避けるために、よく知られた構造および装置は網羅的な詳細さでは記述されない。
【0013】
〈概観〉
本稿に記載される例示的実施形態は、高ダイナミックレンジ画像の整形および符号化に関する。後方互換なデコードを改善するための方法において、エンコーダにおいて、プロセッサが画像データベースにアクセスし、
第一の色空間における前記データベース中の画像の第一の色相値を計算する段階と;
第二の色空間における前記データベース中の画像の第二の色相値を計算する段階と;
色相コスト関数を最小化することに基づいて色相回転角を計算する段階であって、前記色相コスト関数は、前記第一の色相値と回転された第二の色相値の差の指標に基づく、段階と;
前記色相回転角に基づいて色回転行列を生成する段階とを実行する。
【0014】
ある実施形態では、前記第一の色空間はガンマ・ベースのYCbCr色空間であり、前記第二の色空間はPQベースのIPT色空間である。
【0015】
ある実施形態では、前記色回転行列は、前記好ましい色空間に基づく整形された色空間を生成するために使われる。画像は整形された色空間を使って符号化され、前記色回転行列についての情報は当該エンコーダからデコーダに信号伝達される。
【0016】
ある実施形態では、デコーダにおいて、整形された色空間において符号化された入力画像を再構成する方法において、デコーダが:
整形された色空間における符号化された入力画像を受領する段階であって、前記整形された色空間は、レガシー色空間の一つまたは複数のパラメータを近似するために好ましい色空間のクロマ成分を回転させることによって生成される、段階と;
エンコーダから当該デコーダに伝送されたメタデータにアクセスする段階であって、前記メタデータは前記符号化された入力画像に関連付けられており:
色回転およびスケーリング行列の有無を示すフラグ;および
前記フラグが前記色回転およびスケーリング行列の存在を示すときは、前記色回転およびスケーリング行列のための複数の係数を含む、段階と;
前記符号化された入力画像をデコードして、前記整形された色空間におけるデコードされた画像を生成する段階と;
前記整形された色空間における前記デコードされた画像および前記色回転およびスケーリング行列に基づいて、前記好ましい色空間におけるデコードされた画像を生成する段階とを実行する。
【0017】
もう一つの実施形態では、エンコーダにおいて、プロセッサが:
好ましい色空間における入力画像を受領する段階と;
色相回転関数にアクセスする段階であって、前記好ましい色空間における前記入力画像中のピクセルの色相値について、前記色相回転関数は、色相コスト基準に基づいてレガシー色空間における色相値にマッチする、回転された色相出力値を生成する、段階と;
前記入力画像および前記色相回転関数に基づいて、整形された画像を生成する段階と;
前記整形された画像をエンコードして、符号化された整形された画像を生成する段階とを実行する。
【0018】
もう一つの実施形態では、デコーダにおいて、プロセッサが:
整形された色空間においてエンコードされた入力画像にアクセスする段階と;
前記入力画像に関連付けられたメタデータにアクセスする段階であって、前記メタデータは、ある好ましい色空間から前記整形された色空間に前記入力画像を変換するために使われた色相回転関数に関連したデータを含み、前記好ましい色空間における前記入力画像中のピクセルの色相値について、前記色相回転関数は、色相コスト基準に基づいてレガシー色空間における色相値にマッチする、回転された色相出力値を生成する、段階と;
前記入力画像および前記色相回転関数に関連付けられたデータに基づいて前記好ましい色空間における出力画像を生成する段階とを実行する。
【0019】
〈例示的なビデオ送達処理パイプライン〉
図1は、ビデオ捕捉からビデオ・コンテンツ表示までのさまざまな段階を示す通常のビデオ送達パイプライン(100)の例示的なプロセスを描いている。ビデオ・フレーム(102)のシーケンスが画像生成ブロック(105)を使って捕捉または生成される。ビデオ・フレーム(102)は(たとえばデジタル・カメラによって)デジタル的に捕捉されても、あるいは(たとえばコンピュータ・アニメーションを使って)コンピュータによって生成されてもよいが、ビデオ・データ(107)を与える。あるいはまた、ビデオ・フレーム(102)はフィルム・カメラによってフィルム上で捕捉されてもよい。そのフィルムがデジタル・フォーマットに変換されてビデオ・データ(107)を与える。制作フェーズ(110)では、ビデオ・データ(107)は編集されて、ビデオ制作ストリーム(112)を与える。
【0020】
制作ストリーム(112)のビデオ・データは次いでブロック(115)でポストプロダクション編集のためにプロセッサに与えられる。ポストプロダクション編集(115)は、画質を高めるためまたはビデオ・クリエーターの創造的な意図に従って画像の特定の見え方を達成するために画像の特定の領域における色または明るさを調整または修正することを含んでいてもよい。これは時に「カラータイミング(color timing)」または「カラーグレーディング(color grading)」と呼ばれる。頒布のための制作物の最終版(117)を与えるために、他の編集(たとえばシーン選択およびつなぎ、画像クロッピング、コンピュータ生成された視覚特殊効果の付加など)がブロック(115)で実行されてもよい。ポストプロダクション編集(115)の間は、ビデオ画像は参照ディスプレイ(125)で閲覧される。
【0021】
ポストプロダクション(115)後、最終制作物(117)のビデオ・データがエンコード・ブロック(120)に送達されてもよい。テレビジョンセット、セットトップボックス、映画シアターなどといったデコードおよび再生装置に向けて下流に送達するためである。いくつかの実施形態では、符号化ブロック(120)は、符号化されたビットストリーム(122)を生成するために、ATSC、DVB、DVD、ブルーレイおよび他の送達フォーマットによって定義されるようなオーディオおよびビデオ・エンコーダを含んでいてもよい。レシーバーでは、符号化ビットストリーム(122)はデコード・ユニット(130)によってデコードされて、信号(117)と同一のまたは近い近似を表現するデコードされた信号(132)を生成する。レシーバーは、参照ディスプレイ(125)とは完全に異なる特性をもつことがあるターゲット・ディスプレイ(140)に取り付けられていてもよい。その場合、ディスプレイ・マッピングされた信号(137)を生成することによって、デコードされた信号(132)のダイナミックレンジをターゲット・ディスプレイ(140)の特性にマッピングするために、ディスプレイ管理ブロック(135)が使用されてもよい。
【0022】
〈IPT-PQ色空間〉
ある好ましい実施形態では、限定なしに、処理パイプラインの一部、たとえば符号化(120)、デコード(130)およびディスプレイ管理(135)は、これからIPT-PQ色空間と称されるものにおいて実行されてもよい。ディスプレイ管理アプリケーションのためのIPT-PQ色空間の例示的な使用は、特許文献1に見出され、同文献は参照によってその全体において組み込まれる。ここで参照によってその全体において組み込まれる非特許文献1(エブナー論文と称する)に記載されるIPTは、人間の視覚系における錐体の間の色差のモデルである。この意味で、これはYCbCrまたはCIE-Lab色空間に似ているが、いくつかの科学的研究で、これらの空間よりも人間の視覚処理をよりよく模倣することが示されている。CIE-Labと同様に、IPTは何らかの参照ルミナンスに対して規格化された空間である。ある実施形態では、規格化は、ターゲット・ディスプレイの最大ルミナンス(たとえば5000ニト)に基づく。
【0023】
用語「PQ」は本稿では知覚的量子化(perceptual quantization)を指すために使われる。人間の視覚系は、光レベルの増大に対して、非常に非線形な仕方で応答する。人間が刺激を見る能力は、その刺激のルミナンス、刺激のサイズ、刺激をなす空間周波数(単数または複数)および刺激を見ているその特定の時点において目が順応〔適応〕しているルミナンス・レベルに影響される。ある好ましい実施形態では、知覚的量子化器関数は、入力グレーレベルを、人間の視覚系におけるコントラスト感度閾値によりよくマッチする出力グレーレベルにマッピングする。PQマッピング関数の例は、ここに参照によってその全体において組み込まれる特許文献2('994特許と称する)に記載されており、その一部は、ここに参照によってその全体において組み込まれる非特許文献2のSMPTE ST 2084規格によって採用されている。それによれば、固定した刺激サイズのもとで、すべてのルミナンス・レベル(すなわち刺激レベル)について、そのルミナンス・レベルにおける最小の可視コントラストきざみが、(HVSモデルに応じて)最も敏感な適応レベルおよび最も敏感な空間周波数に従って選択される。物理的な陰極線管(CRT)装置の応答曲線を表わし、たまたま人間の視覚系が応答する仕方と非常に大まかな類似性をもちうる伝統的なガンマ曲線に比べ、'994特許によって決定されたPQ曲線は、比較的単純な関数モデルを使って人間の視覚系の真の視覚的応答を模倣する。
【0024】
図2は、ある実施形態に基づく、IPT-PQ色空間への色変換のための例示的プロセス(200)をより詳細に描いている。
図2に描かれるように、第一の色空間(たとえばRGB)にある入力信号(202)を与えられるとき、知覚的に補正されたIPT色空間(IPT-PQ)への色空間変換は以下の段階を含んでいてもよい:
a)任意的な段階(210)が、入力信号(202)のピクセル値(たとえば0ないし4095)を0から1までの間のダイナミックレンジをもつピクセル値に規格化してもよい。
【0025】
b)入力信号(202)が(たとえばBT.1866またはSMPTE ST 2084により)ガンマ符号化またはPQ符号化されていたら、任意的な段階(215)が、(信号メタデータによって与えられる)信号の電気‐光伝達関数(EOTF)を使って、符号値からルミナンスへの、ソース・ディスプレイの変換を反転させるまたは取り消してもよい。たとえば、入力信号がガンマ符号化されていたら、この段階は逆ガンマ関数を適用する。入力信号が'SMPTE ST 2084に従ってPQエンコードされていたら、この段階は逆PQ関数を適用する。実際上は、規格化段階(210)および逆非線形エンコード(215)は、あらかじめ計算された1Dのルックアップテーブル(LUT)を使って実行されて、線形信号217を生成してもよい。
【0026】
c)段階(220)では、線形信号217がそのもとの色空間(たとえばRGB、XYZなど)からLMS色空間に変換される。たとえば、もとの信号がRGBであれば、この段階は二つの段階を含んでいてもよい:RGBからXYZの色変換と、XYZからLMSの色変換である。ある実施形態では、限定なしに、XYZからLMSの変換は次式によって与えられてもよい。
【0027】
【数1】
ここに参照によってその全体において組み込まれる、2015年9月26日に出願された「Encoding and decoding perceptually-quantized video content」と題する米国仮特許出願第62/056,093号(2015年9月24日にPCT/US2015/051964号としても出願された)に記載されている別の実施形態では、IPT-PQ色空間における全体的な符号化効率は、XYZからLMSの変換の一部としてクロストーク行列
【0028】
【数2】
を組み込めば、さらに向上されうる。たとえば、c=0.02については、クロストーク行列に式(1a)の3×3行列をかけると、次式が得られる。
【0029】
【数3】
同様に、別の実施形態において、c=0.04については、クロストーク行列にもとのXYZからLMSの行列(たとえば式(1a)の3×3行列)をかけると、次式が得られる。
【0030】
【数4】
d)エブナー論文によれば、伝統的なLMSからIPTへの色空間変換は、LMSデータにまず非線形冪関数を適用し、次いで線形変換行列を適用することを含む。データをLMSからIPTに変換してからPQ関数を適用してIPT-PQドメインにすることもできるが、ある好ましい実施形態では、段階(225)において、LMSのIPTへの非線形エンコードのための伝統的な冪関数は、L、M、Sの各成分のPQ非線形エンコードによって置き換えられる。
【0031】
e)LMSからIPTへの線形変換(たとえばエブナー論文で定義されるもの)を使って、段階(230)は信号222のIPT-PQ色空間への変換を完了する。たとえば、ある実施形態では、L'M'S'からIPT-PQへの変換は次式によって与えられてもよい。
【0032】
【数5】
もう一つの実施形態では、実験によって、I'成分がS'成分に全く依存することなく導出されうることが好ましいことがありうることが示されている。よって、式(2a)は
【0034】
〈IPT-PQ対YCbCrガンマ〉
MPEG-1、MPEG-2、AVC、HEVCなどのような既存のビデオ圧縮標準の大半はYCbCr色空間におけるガンマ符号化された画像について試験され、評価され、最適化されてきたが、実験結果は、IPT-PQ色空間が、色成分あたりピクセル毎に10ビット以上をもつ高ダイナミックレンジ画像のためのよりよい表現フォーマットを提供しうることを示している。HDRおよび広い色域(wide color gamut)の信号により好適な色空間(たとえばIPT-PQ)における信号エンコードは、よりよい全体的な画質を与えることがありうるが、レガシー・デコーダ(たとえばセットトップボックスなど)は適正なデコードおよび色変換を行なうことができないことがありうる。後方互換性を改善して、新しい色空間を認識しない装置でさえもそこそこのピクチャーを生成できるようにするために、発明者によって認識されたように、新たな信号整形技法が必要とされる。
【0035】
図3は、ある実施形態に基づく、信号整形および符号化のための例示的プロセスを描いている。
図3に描かれるように、入力(302)を与えられると、前方色整形ブロック(305)は必要に応じて色変換およびまたは整形関数を適用して、好ましい色空間(たとえばIPT-PQ-r)における信号(307)を生成する。整形に関係したメタデータ(309)も生成されて、エンコーダ(310)、デコーダ(315)、後方色整形(320)のような符号化パイプラインのその後のブロックに伝えられてもよい。
【0036】
デコーダは、符号化された信号を受領(315)した後、デコード(315)(たとえばHEVCデコード)を適用して、デコードされた信号(317)を生成する。好ましいHDR-WCG符号化色空間(たとえばIPT-PQ-r)を認識するデコーダは、適正な後方または逆整形(320)を適用して、適正な色空間(たとえばIPT-PQ)における信号(322)を生成する。次いで、信号(322)は、追加的な後処理、記憶または表示のために、YCbCrまたはRGBに変換されてもよい。
【0037】
好ましいHDR-WCG符号化空間を認識しないレガシー・デコーダは、HDR-WCG空間をレガシー色空間(たとえばガンマ符号化されたYCbCr)として扱ってもよいが、前方色整形(305)のため、出力(317)は、後方整形または他の色変換がデコーダの出力(317)に適用されていないという事実にもかかわらず、そこそこの画質をもちうる。
【0038】
〈色整形〉
一般性を失うことなく、IPT-PQ色空間を考える。ある実施形態において、IPT-PQ信号における肌色をYCbCr-ガンマ信号における肌色に知覚的にマッチさせるよう、線形整形行列(たとえば3×3行列)が生成される。そのような色変換は、IPT色空間におけるたいていの画像処理アプリケーションの実行に影響がないが、レガシー・デバイスによる色再現を大幅に改善する。肌色の代わりに、または肌色に加えて、葉、空などといった他の重要な色をマッチさせるよう、同様の変換行列が生成されてもよい。ある実施形態では、整形行列は次のように計算される。
【0039】
a)肌色、たとえば反射スペクトルのデータベースをロードし、それらの色をXYZのような装置独立な色空間に変換する。
【0040】
b)肌色の前記データベースを、XYZからレガシー色空間フォーマット(たとえばYCbCr、Rec.709)に変換する。この段階はたとえば以下のサブステップを含んでいてもよい:
b.1)データベースをRGB(Rec.709)に変換する;
b.2)(たとえばBT.1886により)RGB値にガンマを適用して、ガンマ符号化されたR'G'B'信号を生成する;
b.3)(たとえばRec.709により)R'G'B'信号をYCbCr-ガンマ値に変換する;
b.4)YCbCr-ガンマ信号の色相(たとえばHue
YCbCr=tan
-1(Cr/Cb))の値を計算する;
b.5)YCbCr-ガンマ信号の彩度値(たとえばSat
YCbCr=√(Cb
2+Cr
2))を計算する。
【0041】
c)前記好ましい色フォーマット(たとえばIPT-PQ)での前記データベース中の前記肌色値を計算する。この段階は以下のサブステップを含んでいてもよい。
【0042】
c.1)XYZからLMSに変換する;
c.2)LMSからL'M'S'に、そしてI'P'T'に変換する;(たとえばST2084によって)PQを適用することによる;
c.3)色相値(たとえばHue
IPT=tan
-1(T'/P'))を計算する;
c.4)彩度値(たとえばSat
IPT=√(T'
2+P'
2))を計算する。
【0043】
d)回転または整形されたIPT-PQ(reshaped IPT-PQ)(たとえばIPT-PQ-r)における肌色がYCbCr-ガンマにおける肌色と揃えられるようIPT値を回転するための回転行列を計算する。ある実施形態では、この段階は、二つの色空間におけるサンプルの色相および彩度の値に関係したコスト関数を最適化することによって計算される。たとえば、ある実施形態では、コスト関数は、レガシー色空間(たとえばYCbCr)と回転された好ましいHDR色空間(たとえばIPT-PQ)の間の平均平方誤差(MSE)を表わしていてもよい。たとえば、
【0044】
【数7】
が色相に関係したコスト関数を表わすとする。ここで、Hue
IPT-PQ-rは整形された色(すなわち、IPT-PQ-r)の色相(hue)を表わし、次のように定義できる。
【0045】
【数8】
ここで、すべての逆正接関数は(−π,π)において計算される。
【0046】
ある実施形態では、所与の基準に従ってコスト関数を最小化する角「a」の値(a'と記される)を見出すために当技術分野で既知のいかなる最適化技法を適用してもよい。たとえば、MATLAB関数fminunc(fun,x0)を、fun=Cost
Hおよびx0=0.1として適用してもよい。a'を与えられると、回転行列Rは次のように定義されうる。
【0047】
【数9】
一例として、サンプル・データベースに基づいて、ある実施形態では、a'=71.74度について、
【0049】
RおよびもとのL'M'S'からI'P'T'の行列LMS2IPTmat(たとえば式(2)参照)を与えられて、整形されたIPT-PQ-r色空間への変換は、次のように定義される新しいLMS2IPTmat-r行列を使ってもよい。
【0050】
【数11】
ここで、A
Tは行列Aの転置を表わす。
【0051】
ある実施形態では、肌色について色相を揃えることに加えて、彩度も揃えてもよい。これは以下の段階を含みうる:
a)もとのIPT-PQデータにRを適用して、色回転されたクロマ値P
RおよびT
Rデータを生成する;
b)彩度コスト関数を定義する。これはたとえば次のようなもとの色空間とターゲット色空間における彩度値の間のMSEである:
【0052】
【数12】
c)b'がCost
sを最適化するbの値であるとする。次いで、スケーリング・ベクトル
【0053】
【数13】
をクロマ回転行列に適用して、単一の色回転およびスケーリング3×3行列
【0054】
【数14】
を形成することができる。
【0055】
何らかの実施形態では、色相コスト関数および彩度コスト関数(たとえば式(3)および(8))は単一の色相/彩度コスト関数に組み合わされて、a'およびb'について同時に解かれてもよい。たとえば、式(11)から、ある実施形態では、
【0057】
【数16】
のように修正でき、式(3)を最適なa'および最適なbi'(i=1ないし4)スケール因子の両方について解くことができる。
【0058】
たとえば、ある実施形態では、a'=65度、b1'=1.4、b2'=1.0、b3'=1.4、b4'=1.0について、式(12)は
【0060】
〈トーン整形〉
提案される回転行列Rは色再現を改善しうるが、デコードされた画像(317)はそれでも、非線形なEOTFエンコード関数(たとえばST2084かBT1866か)の相違のため、低いコントラストをもつと知覚されることがありうる。ある実施形態では、コントラストは、ルミナンス・チャネル(たとえばI')に1Dトーンマッピング曲線を適用することによって改善されうる。この段階は以下のサブステップを含んでいてもよい。
a)もとのHDR最大輝度(たとえば4000ニト)からのもとのコンテンツをSDRターゲット輝度(たとえば100ニト)にマッピングするためにトーンマッピング曲線(たとえばシグモイド)を適用する。そのようなシグモイド関数の例は、ここに参照によってその全体において組み込まれる特許文献3に見出されうる。代替的な整形関数の例が、ここに参照によってその全体において組み込まれる特許文献4でも開示された。I'
T=f(I')がトーンマッピング関数f()の出力を表わすとして、
b)I'
Tを線形化して(たとえば逆PQまたは逆ガンマ関数を適用して)線形なI
Tデータを生成する;
c)線形化されたI
T信号にレガシーEOTFエンコード(たとえばBT1866)エンコードを適用して、エンコーダによって圧縮され、送信されるガンマ符号化されたルミナンス信号を生成する。
【0061】
ST2084(PQ)とBT1866の間のそのようなマッピングの例が
図4に示されている。この曲線は、より高い中間色調コントラスト、より低い黒、およびより明るい(コントラストはより小さい)ハイライトをもつ。これは、トーン・スケールを標準的なSDRに、より密接に揃える。それにより、入力がレガシー装置によってデコードされるときでも、画像を見ることができる。
図4では、一般性を失うことなく、入力および出力値は(0,1)に規格化されている。
【0062】
整形情報は、エンコーダからパイプラインの残りの部分に、メタデータとして信号伝達されてもよい。整形パラメータは、所与のビデオ・シーケンスのために可能な最良のパフォーマンスを与えるために、フレーム毎、シーン毎またはシーケンス毎など、多様な時点で決定されうる。
【0063】
この記述はIPT-PQ色空間に焦点を当てているが、これらの技法は他の色空間および色フォーマットにも等しく適用可能である。たとえば、同様の技法は、YCbCrの異なるバージョン、たとえばRec.709YCbCrとRec.2020YCbCrを横断した後方互換性を改善するために適用されてもよい。よって、ある実施形態では、Rec.2020ビットストリームが、レガシーのRec.709デコーダを使ってデコードされる際によりよい色相および彩度出力を提供するよう、本稿に記載される信号整形技法を使って調整されてもよい。
【0064】
図6は、ある実施形態に従って色回転およびスケーリング行列を生成するための例示的なプロセス・フローを描いている。画像データベース(605)を与えられて、段階(610)は、第一の(レガシーの)色空間(たとえばYCbCr-ガンマ)における前記データベース中の画像について色相および彩度値を計算する。段階(615)は、第二の(好ましい)色空間(たとえばIPT-PQ)における、前記データベース中の画像についての色相を計算する。
【0065】
色相に関係したコスト関数(たとえば式(3))を与えられて、段階(620)は、レガシー色空間において計算された色相と回転された好ましい色空間において計算された色相との間の距離を最小化する最小化コスト基準(平均平方誤差(MSE)など)に従って、最適な回転角a'について解く。段階(625)では、a'の値は色回転行列を生成するために使われる。
【0066】
任意的な彩度スケーラー(scaler)も計算されてもよい。飽和コスト関数(たとえば式(8))を与えられて、段階(630)は任意的に、第一の色空間における信号の彩度と色回転された好ましい色空間におけるスケーリングされた信号の彩度との間のMSEなどの最小化コスト基準に従って、最適なスケーラーb'について解く。
【0067】
最後に、段階(635)において、上記の回転角およびスケーラーが組み合わされて、色回転およびスケーリング行列(たとえば式(11))を生成する。
【0068】
エンコーダでは、エンコーダは、この色回転およびスケーリング行列を、前記好ましい色空間における入力データに適用して、整形された色空間におけるデータを生成する。データは、エンコード(圧縮)され、色回転およびスケーリング行列に関する情報と一緒に、デコーダに伝送される。
【0069】
デコーダでは、レガシー・デコーダは、データがレガシー色空間において符号化されていると想定して該データをデコードする。誤った色空間情報を使うにもかかわらず、画像は、ダイナミックレンジは低くなるが十分な品質で見ることができる。より新しい、完全対応のデコーダは、色回転およびスケーリング行列についての受領されたメタデータ情報を利用して、好ましい色空間において画像データをデコードし、それにより観察者に対して、データの完全な高ダイナミックレンジを提供することができる。
【0070】
〈整形情報のためのSEIメッセージ・シンタックス〉
先に論じたように、ある実施形態では、回転(R)行列およびスケーリング・ベクトル(S)は、(230)におけるL'M'S'からI'P'T'への変換行列に吸収されてもよい。いずれの場合にも、適応整形情報(すなわち、上記行列およびトーンマッピング曲線)は、ここに参照によってその全体において組み込まれる2015年7月16日に出願された米国仮出願第62/193,390号(2016年4月19日にPCT/US2016/02861号としても出願された)で提案されるシンタックスを使って、エンコーダによってデコーダに伝送されてもよい。
【0071】
もう一つの実施形態では、
図5に描かれるように、新しい色回転およびスケール・ブロック(510)がエンコーダ(500A)に追加されてもよい。このブロックは、色変換(200)(たとえばRGBからIPT-PQ)後に追加されてもよいが、好ましくは前方整形(305)より前である。デコーダ(500B)では、対応する逆色回転およびスケーリング・ブロック(515)は、後方整形ボックス(320)の後に追加されてもよい。
図5に描かれるように、任意的な色フォーマット変換ボックス(たとえば4:4:4から4:2:0(505)または4:2:0から4:4:4(520))が必要に応じてエンコードおよび/またはデコード・パイプラインに追加されてもよい。
【0072】
シンタックスの点では、3×3回転行列を、あるいは典型的にはルミナンス・チャネル(たとえばYまたはI)は不変のままにされるので単に2×2行列を、指定してもよい。表1は、色回転およびスケーリング行列を通信するためのSEIメッセージングの例を与えているが、信号伝達はSEIメッセージに限定されず、SPS、PPSなどのようないかなる高レベルのシンタックスに挿入されることもできる。
【0073】
【表1】
colour_rotation_scale_matrix_present_flag〔色回転スケール行列存在フラグ〕が1に等しいことは、シンタックス要素colour_rotation_scale_coeffs[c][i]が両端を含めて0から1までの範囲内のcおよびiについて存在することを示す。colour_rotation_scale_matrix_present_flagが0に等しいことは、両端を含めて0から1までの範囲内のcおよびiについてシンタックス要素colour_rotation_scale_coeffs[c][i]が存在しないことを示す。
【0074】
colour_rotation_scale_coeffs[c][i]〔色回転スケール係数[c][i]〕は、2かける2の色回転およびスケール行列係数の値を指定する。colour_rotation_scale_coeffs[c][i]の値は両端を含めて−2^15から2^15−1の範囲内でなければならない。colour_rotation_scale_coeffs[c][i]が存在しないときは、デフォルトの色回転およびスケール行列行列が使われる。
【0075】
ある実施形態では、エンコーダおよびデコーダの両方が(たとえば新しい色空間の共通の定義を通じて)上記色回転およびスケーリング行列を知っていてもよい。よって、色回転行列をエンコーダからデコーダに信号伝達する必要がないことがある。別の実施形態では、色回転およびスケーリング行列は、IPT-PQと一緒に、VUI(Video Usability Information[ビデオ使用可能性情報])において参照されることができる。
【0076】
〈複数色相および彩度整形(multiple-hue and saturation reshaping)〉
いくつかの実施形態では、整形を複数の色相に対して適用することが有益であることがある。これは、整形された色空間がレガシー色にマッチする精度を高めるが、デコーダでの追加的な計算が代償となる。たとえば、N個の色相(たとえば肌色、空、緑など)について整形を最適化する問題を考える。ある実施形態では、先に論じたプロセスを繰り返して一組の最適な角度および彩度を色相の関数として同定してもよい。たとえば、多様な色相についてのデータベース画像を使って、最適な(回転角、彩度スケール)値の集合、たとえば{(a
1,b
1),(a
2,b
2),...,(a
N,b
N)}を生成しうる。あるいはより一般に、ピクセルpについて、
【0077】
【数18】
が最適なクロマ(色相)回転および彩度スケーリング値を表わすとする。ここで、h(p)はピクセルpについての色相(hue)の指標である。たとえば、IPT-PQ色空間について、f
Hおよびf
S関数が色相h(p)および彩度s(p)関数を用いて計算されてもよい。
【0078】
【数19】
関数f
H(h(p))およびf
S(h(p))は、当技術分野で知られている多様な仕方で、たとえばルックアップテーブルまたは区分線形もしくは非線形な多項式として、表現され、記憶されることができ、エンコーダからデコーダにメタデータとして信号伝達されることができる。
【0079】
f
H(h(p))およびf
S(h(p))を与えられて、エンコーダは次の整形関数
【0080】
【数20】
を各ピクセルに適用して、適切な整形された信号を生成する。たとえば、IPT-PQ色空間について、ピクセルpについての整形されたP'およびT'色成分は
【0081】
【数21】
を使って導出されてもよい。
【0082】
デコーダでは、プロセスが反転される。たとえば、f
H(h(p))およびf
S(h(p))を与えられて、式(14)および(16)から、デコーダは
【0084】
デコーダにおける除算を回避するために、いくつかの実施形態では、エンコーダはデコーダにf
S(h(p))の逆数(たとえば1/b(p)の値)を信号伝達してもよい。IPT-PQでの入力データについて、もとのデータは
【0085】
【数23】
として表現されてもよい。
【0086】
式(17)から、逆整形を適用して好ましい色空間におけるデータを復元することは、三角関数演算を必要とする。いくつかの実施形態では、三角関数演算はルックアップテーブルを使って実行されてもよい。例として、式(18)から、式(19)は次のように書き換えられる。
【0087】
【数24】
これらの演算は、余弦および正弦関数を計算するための好適なルックアップテーブルを使ってさらに単純化されてもよい。
【0088】
図7のAは、レガシー色空間がYCbCr-ガンマであるときの、色相を、整形されたIPT-PQ-r(これはレガシー装置にはYCbCrのように見える)からIPT-PQに変換し戻す例示的な後方整形関数を描いている。
図7のBは、彩度を調整するための対応する後方整形関数を描いている。
図8は、好ましい色空間IPT-PQ(820)が、レガシーYCbCr色空間(810)の特性にマッチするためにどのように調整されうるかを描いている。射線(830)は回転およびスケーリングを描いている。
【0089】
もう一つの実施形態では、色相の余弦および正弦関数を用いてPおよびTの値を計算する代わりに、色相の他の何らかの関数(たとえばf(tan
-1(h(p))))に基づいて生成されたルックアップテーブルを用いて、より単純なデコーダを構築することができる。たとえば、整形されたピクセル値成分P'
r(p)およびT'
r(p)を与えられて、ある実施形態では、デコーダはもとのピクセル値を次のように復元しうる。
【0090】
【数25】
ここで、v()およびw()は、整形された色空間がレガシー色空間における色相および彩度の集合にマッチするよう生成された、色相に関係した関数を表わす。v()およびw()関数は、以前と同様、エンコーダからデコーダに、メタデータを使って通信されることができ、あるいはエンコーダおよびデコーダの両方によって知られている確立された符号化プロトコルまたは標準の一部であることができる。
【0091】
〈ICTCP色空間〉
ICtCp(またはIPT)とも称されるIC
TC
Pは、高ダイナミックレンジおよび広色域(WCG: wide color gamut)信号を処理するために特に設計された、提案されている新しい色空間である。IPT-PQと同様に、I(強度)はPQエンコードされた信号の輝度を表わし、第3色覚(Tritan)軸C
Tは青黄知覚に対応し、第1色覚(Protan)軸C
Pは赤緑色知覚に対応する。IPT-PQの論じられた特徴に加えて、IC
TC
Pでは、
・先述したように、クロマは肌色をYCbCrにより近く揃えるよう回転される、
・XYZからLMSの行列は、WCG画像についての、よりよい一様性および線形性のために最適化される、
・L'M'S'からICtCpの行列は、HDRおよびWCG画像に関して等ルミナンス性および安定性を改善する。
【0092】
本稿での用法では、用語「等ルミナンス性」は、ルミナンス(たとえばICtCpのIまたはY'Cb'Cr'のY')がどのくらいよくルミナンスYに対応するかの指標をいう。間接的に、等ルミナンス性は、色空間がどのくらいよくルーマをクロマから分離するかを測る。発明者らによって実行された実験は、ICtCpのIはY'Cb'Cr'のY'よりもずっと近くルーマに対応することを示している。
【0093】
実装の観点からは、IC
TC
P色空間を使うことは、伝統的なガンマ符号化されたYCbCrを使うのと同じハードウェアおよび信号フローを必要とする。たとえば、カメラ・パイプラインにおいてガンマ補正されたYCbCr(Y'Cb'Cr')を考える。XYZから始まって、プロセスは以下の段階を必要とする:
a)3×3行列を使ってXYZからRGB BT.2020に変換、
b)段階a)の出力に逆EOTF(またはOETF)を適用、
c)段階b)の出力に3×3行列を適用。
【0094】
図2に描かれるように、IC
TC
P色を使うことは、以下の段階を必要とする:
a)段階(220)では、XYZからLMSに変換。これは好ましい実施形態では次の3×3行列を使う:
【0095】
【数26】
これは、式(1a)のXYZからLMSの3×3行列をc=0.04のクロストーク行列と組み合わせることに対応する(式(1c)も参照)。
b)段階(225)では、先述したようにPQ非線形性を適用することによって、信号(222)をL'M'S'に変換。
c)段階(230)では、3×3行列を使ってL'M'S'からIC
TC
Pに変換。この行列はある好ましい実施形態では次のように定義されてもよい。
【0096】
【数27】
式(23)は式(12b)の回転行列に、式(2b)のもとのL'M'S'からI'P'T'の行列をかけることに対応する。
【0097】
もう一つの実施形態では、段階a)ないしc)は次のように表わせる:
【0098】
【数28】
ここで、RGB
BT.2020はBT.2020におけるRGB値の三項組を表わし、EOTF
-1ST2084はSMPTE ST2084に基づくEOTFの逆関数を表わす。いくつかの実施形態では、EOTF
-1ST2084関数は、ハイブリッド対数ガンマ(HLG: Hybrid Log-Gamma)関数のような別の非線形量子化関数によって置換されてもよい。完備な参照のために、適切な式を表2にもまとめておく。ここで、添え字Dはディスプレイ光を指す。
【0099】
【表2】
IC
TC
Pからもとの色空間への変換は、同様のアプローチに従い、ある実施形態では、以下の段階を含んでいてもよい。
a)式(23)の逆または
【0100】
【数29】
を使ってIC
TC
PからL'M'S'に変換。
b)信号のEOTF関数(たとえばST2084で定義されるもの)を使ってL'M'S'信号をLMSに変換。
c)式(22)の逆、たとえば
【0101】
【数30】
を使ってLMSからXYZに変換。
【0102】
ある実施形態では、対応するL'M'S'からRGBおよびIC
TC
PからL'M'S'の行列は
【0104】
〈参照ディスプレイ管理〉
高ダイナミックレンジ・コンテンツは、コンテンツをマスタリングするために使われた参照ディスプレイより小さいダイナミックレンジをもつディスプレイで見られることがある。より低いダイナミックレンジをもつディスプレイでHDRコンテンツを見るために、ディスプレイ・マッピングが実行されるべきである。これは、ディスプレイにおけるEETF(electrical-electrical transfer function[電気‐電気伝達関数])の形を取ることができ、これは典型的にはディスプレイのためにEOTFを適用する前に適用される。この関数は、ハイライトおよびシャドーから優雅にロールオフするよう、つま先と肩を与え、芸術的意図の保存と詳細の維持との間のバランスを提供する。
図9は、完全な0〜10000ニトのダイナミックレンジから0.1〜1000ニトに対応しているターゲット・ディスプレイへの例示的なEETFマッピングである。EETFはPQ信号に導入されてもよい。プロットは、マッピングの効果を示している。すなわち、プロットは、意図される光がどのように実際の表示される光に変えられるかを示している。
【0105】
下記は、さまざまな黒および白のルミナンス・レベルのディスプレイのための、このトーンマッピング関数を実装する数学的段階である。EETFは、IC
TC
PもしくはY'C'
BC'
Rにおけるルーマ・チャネルまたはRGBチャネルに、非線形ドメインにおいて適用されてもよい。
【0106】
EETFの計算:
トーンマッピング曲線の中央領域は、ソースからターゲットへの一対一マッピングとして定義される。ダイナミックレンジをターゲット・ディスプレイの機能まで縮小するために、追加的なつま先および肩のロールオフが、エルミート・スプラインを使って計算される。
【0107】
スプラインのための転換点(つま先開始(TS: Toe Start)および肩開始(SS: Shoulder Start))がまず定義される。これらは、ロールオフが始まる点である。minLumおよびmaxLumがターゲット・ディスプレイの最小および最大ルミナンス値を表わすとすると、次のようになる。
【0108】
【数32】
規格化されたPQ符号語におけるソース入力信号E
1を与えられたとき、出力E
2は次のように計算される。
【0110】
【数34】
結果として得られるEETF曲線は、IC
TC
Pの強度IチャネルまたはY'C'
BC'
RのルーマYチャネルに適用されることができる。注目すべきオプションが二つある。
【0111】
1)IC
TC
PのI――EETFを通じてIC
TC
Pの強度(I)チャネルを処理する
I
2=EETF(I
1)
・グレースケールをより正確に調整する
・色シフトなし
・彩度の変化が必要とされ、式
【0112】
【数35】
を使ってC
TおよびC
Pチャネルに適用されるべきである。
【0113】
2)Y'C'
BC'
RのY'――EETFを通じてY'C'
BC'
RのルーマY'チャネルを処理する
Y'
2=EETF(Y'
1)
・グレースケールをより正確に調整する
・限られた色シフト
・彩度の変化が必要とされ、式
【0114】
【数36】
を使ってC'
BおよびC'
Rチャネルに適用されるべきである。
【0116】
〈例示的なコンピュータ・システム実装〉
本発明の実施形態は、コンピュータ・システム、電気回路およびコンポーネントにおいて構成されたシステム、集積回路(IC)デバイス、たとえばマイクロコントローラ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)または他の構成可能もしくはプログラム可能な論理デバイス(PLD)、離散時間もしくはデジタル信号プロセッサ(DSP)、特定用途向けIC(ASIC)および/またはそのようなシステム、デバイスまたはコンポーネントの一つまたは複数を含む装置を用いて実装されうる。コンピュータおよび/またはICは、本稿に記載されるような、向上ダイナミックレンジをもつ画像の信号整形および符号化に関係する命令を実行、制御または執行してもよい。コンピュータおよび/またはICは、本稿に記載される信号整形および符号化プロセスに関係する多様なパラメータまたは値の任意のものを計算しうる。画像およびビデオ実施形態はハードウェア、ソフトウェア、ファームウェアおよびそのさまざまな組み合わせにおいて実装されうる。
【0117】
本発明のある種の実施形態は、プロセッサに本発明の方法を実行させるソフトウェア命令を実行するコンピュータ・プロセッサを有する。たとえば、ディスプレイ、エンコーダ、セットトップボックス、トランスコーダなどにおける一つまたは複数のプロセッサは、プロセッサにとってアクセス可能なプログラム・メモリ内のソフトウェア命令を実行することによって上記のようなHDR画像の信号整形および符号化に関係する方法を実装してもよい。本発明は、プログラム・プロダクトの形で提供されてもよい。プログラム・プロダクトは、データ・プロセッサによって実行されたときに、データ・プロセッサに本発明の方法を実行させる命令を有する一組のコンピュータ可読信号を担持するいかなる非一時的な媒体を含んでいてもよい。本発明に基づくプログラム・プロダクトは、幅広い多様な形のいずれであってもよい。プログラム・プロダクトはたとえば物理的な媒体を含んでいてもよい。物理的な媒体とは、フロッピーディスケット、ハードディスクドライブを含む磁気データ記憶媒体、CD-ROM、DVDを含む光学式データ記憶媒体、ROM、フラッシュRAMを含む電子的データ記憶媒体などといったものである。プログラム・プロダクト上のコンピュータ可読信号は、任意的に、圧縮または暗号化されていてもよい。
【0118】
あるコンポーネント(たとえばソフトウェア・モジュール、プロセッサ、アセンブリー、デバイス、回路など)が上記で言及される場合、特に断わりのない限り、そのコンポーネントへの言及(「手段」への言及を含む)は、そのコンポーネントの等価物として、記載されるコンポーネントの機能を実行する(たとえば、機能的に等価な)任意のコンポーネントを含むものとして解釈されるべきである。それには、開示される構造と構造的に等価ではないが、本発明の例解されている例示的実施形態における機能を実行するコンポーネントが含まれる。
【0119】
〈等価物、拡張、代替その他〉
HDR画像の効率的な信号整形および符号化に関係する例示的実施形態についてこのように記載されている。以上の明細書では、本発明の実施形態について、実装によって変わりうる数多くの個別的詳細に言及しつつ述べてきた。このように、何が本発明であり、出願人によって本発明であると意図されているかの唯一にして排他的な指標は、この出願に対して付与される特許の請求項の、その後の訂正があればそれも含めてかかる請求項が特許された特定の形のものである。かかる請求項に含まれる用語について本稿で明示的に記載される定義があったとすればそれは請求項において使用される当該用語の意味を支配する。よって、請求項に明示的に記載されていない限定、要素、属性、特徴、利点もしくは特性は、いかなる仕方であれかかる請求項の範囲を限定すべきではない。よって、明細書および図面は制約する意味ではなく例示的な意味で見なされるべきものである。
いくつかの態様を記載しておく。
〔態様1〕
後方互換なデコードを改善する方法であって:
プロセッサにより画像データベース(605)にアクセスする段階と;
第一の色空間における前記データベース中の画像の第一色相値を計算する段階(610)と;
第二の色空間における前記データベース中の画像の第二色相値を計算する段階(615)と;
色相コスト関数を最小化することに基づいて色相回転角を計算する段階(620)であって、前記色相コスト関数は前記第一色相値と回転された第二色相値の差の指標に基づく、段階と;
前記色相回転角に基づいて色回転行列を生成する段階(625)とを含む、
方法。
〔態様2〕
前記第一の色空間における前記データベース中の画像の第一彩度値を計算する段階(610)と;
前記データベース中の画像を前記第二の色空間に変換して変換された画像を生成する段階と;
前記変換された画像に前記色回転行列を適用して色回転された画像を生成する段階と;
前記色回転された画像の第二の彩度値を計算する段階(645)と;
彩度コスト関数を最小化することに基づいて彩度スケーラーを計算する段階(630)であって、前記彩度コスト関数は前記第一彩度値とスケーリングされた第二色相値の差の指標に基づく、段階と;
前記彩度スケーラーに基づいてスケーリング・ベクトルを生成する段階とをさらに含む、
態様1記載の方法。
〔態様3〕
前記色回転行列および前記スケーリング・ベクトルを組み合わせて整形色行列を生成する段階をさらに含む、態様2記載の方法。
〔態様4〕
前記第一の色空間がガンマ符号化YCbCr色空間であり、前記第二の色空間がPQ符号化IPT色空間である、態様1記載の方法。
〔態様5〕
前記第一の色空間がRec.709 YCbCr色空間であり、前記第二の色空間がRec.2020 YCbCr色空間である、態様1記載の方法。
〔態様6〕
前記色回転行列が
【数37】
であり、a'は前記色相回転角を表わす、態様1記載の方法。
〔態様7〕
前記スケーリング・ベクトルが
【数38】
であり、b'が前記彩度スケーラーである、態様2記載の方法。
〔態様8〕
前記第一の色空間がRec.709 YCbCr色空間であり、前記第二の色空間がST2084 IPT色空間(ITP-PQ)であり、前記色回転行列が
【数39】
である、態様1記載の方法。
〔態様9〕
前記整形行列が
【数40】
であり、a'は前記色相回転角を表わし、b'は前記彩度スケーラーを表わす、態様3記載の方法。
〔態様10〕
前記第二の色空間における入力画像(232)を受領する段階と;
前記入力画像に前記色回転行列を適用して色回転された画像を生成する段階(510)と;
エンコーダを使って前記色回転された画像をエンコードして、符号化された画像を生成する段階(310)とをさらに含む、
態様1記載の方法。
〔態様11〕
前記第二の色空間における入力画像(232)を受領する段階と;
前記入力画像に前記整形行列を適用して整形された画像を生成する段階(510)と;
エンコーダを使って前記整形された画像をエンコードして、符号化された画像を生成する段階(310)とをさらに含む、
態様2記載の方法。
〔態様12〕
前記エンコードする段階の前に前記整形された画像のルミナンス値にトーンマッピング関数(305)を適用する段階をさらに含む、
態様10または11記載の方法。
〔態様13〕
前記整形行列に基づく情報を、メタデータとしてデコーダに信号伝達することを含む、
態様11記載の方法。
〔態様14〕
前記メタデータが:
色回転およびスケーリング行列の有無を示すフラグと;
前記フラグが前記色回転およびスケーリング行列が存在することを示すときは、前記色回転およびスケーリング行列に基づく複数の係数とを含む、
態様11記載の方法。
〔態様15〕
前記第二の色空間がIPT色空間であり、色変換器において、デフォルトのLMSからIPTへの変換行列が、前記デフォルトのLMSからIPTへの変換行列と前記色整形行列との積によって置き換えられる、態様3記載の方法。
〔態様16〕
デコーダにおいて、整形された色空間において符号化された入力画像を再構成する方法であって:
整形された色空間における符号化された入力画像(312)を受領する段階であって、前記整形された色空間は、レガシー色空間の一つまたは複数のパラメータを近似するために好ましい色空間のクロマ成分を回転させることによって生成されている、段階と;
エンコーダから当該デコーダに伝送されたメタデータ(309)にアクセスする段階であって、前記メタデータは前記符号化された入力画像に関連付けられており:
色回転およびスケーリング行列の有無を示すフラグ;および
前記フラグが前記色回転およびスケーリング行列が存在することを示すときは、前記色回転およびスケーリング行列のための複数の係数を含む、段階と;
前記符号化された入力画像をデコード(315)して、前記整形された色空間におけるデコードされた画像を生成する段階と;
前記整形された色空間における前記デコードされた画像および前記色回転およびスケーリング行列に基づいて、前記好ましい色空間におけるデコードされた画像を生成する段階とを含む、
方法。
〔態様17〕
前記レガシー色空間の前記一つまたは複数のパラメータが、色相または彩度の指標を含む、態様16記載の方法。
〔態様18〕
前記レガシー色空間がガンマ符号化YCbCr色空間であり、前記好ましい色空間がPQ符号化IPT色空間である、態様16記載の方法。
〔態様19〕
後方互換なデコードを改善する方法であって:
好ましい色空間における入力画像を受領する段階と;
色相回転関数にアクセスする段階であって、前記好ましい色空間における前記入力画像中のピクセルの色相値について、前記色相回転関数は、色相コスト基準に基づいてレガシー色空間における色相値にマッチする、回転された色相出力値を生成する、段階と;
前記入力画像および前記色相回転関数に基づいて、整形された画像を生成する段階と;
前記整形された画像をエンコードして、符号化された整形された画像を生成する段階とを含む、
方法。
〔態様20〕
彩度スケーリング関数にアクセスする段階であって、前記好ましい色空間における前記入力画像中のピクセルの前記色相値について、前記彩度スケーリング関数は、彩度コスト基準に基づいてレガシー色空間における色相飽和値にマッチする、スケーリングされた彩度をもつ色相値を生成する、段階と;
前記入力画像、前記色相回転関数および前記彩度スケーリング関数に基づいて、前記整形された画像を生成する段階とをさらに含む、
態様19記載の方法。
〔態様21〕
デコーダにおいて、整形された色空間において符号化された入力画像を再構成する方法であって:
整形された色空間においてエンコードされた入力画像にアクセスする段階と;
前記入力画像に関連付けられたメタデータにアクセスする段階であって、前記メタデータは、ある好ましい色空間から前記整形された色空間に前記入力画像を変換するために使われた色相回転関数に関連したデータを含み、前記好ましい色空間における前記入力画像中のピクセルの色相値について、前記色相回転関数は、色相コスト基準に基づいてレガシー色空間における色相値にマッチする、回転された色相出力値を生成する、段階と;
前記入力画像および前記色相回転関数に関連した前記データに基づいて前記好ましい色空間における出力画像を生成する段階とを含む、
方法。
〔態様22〕
前記メタデータがさらに、前記好ましい色空間から前記整形された色空間に前記入力画像を変換するために使われた彩度スケーリング関数に関連したデータを含み、前記好ましい色空間における前記入力画像中のピクセルの前記色相値について、前記彩度スケーリング関数は、彩度コスト基準に基づいてレガシー色空間における色相飽和値にマッチする、スケーリングされた彩度をもつ色相値を生成する、段階と;
前記入力画像ならびに前記色相回転関数および前記彩度スケーリング関数に関連した前記データに基づいて前記好ましい色空間における前記出力画像を生成する段階とを含む、
態様21記載の方法。
〔態様23〕
プロセッサを有し、態様1ないし22のうちいずれか一項記載の方法を実行するよう構成されている装置。
〔態様24〕
一つまたは複数のプロセッサにより、態様1ないし22のうちいずれか一項記載の方法を実行するためのコンピュータ実行可能命令を記憶している非一時的なコンピュータ可読記憶媒体。