【文献】
YIN C. Cameron et al.,Rapid clonal shifts in response to kinase inhibitor therapy in chronic myelogenous leukemia are iden,Cancer Science,2010年,Vol.101, No.9,p.2005-2010,Materials and Methodsの項、Table 1, Table 2等
【文献】
SCHUMACHER J. A. et al.,A Pyrosequencing-Based Test for Quantitative Monitoring of the BCR-ABL T315I Mutation,Association for Molecular Pathology Annual Meeting Abstracts,2010年,p.869, H10,全文
【文献】
BRANFORD S. et al.,5. Detection of BCR-ABL Mutations and Resistance to Imatinib Mesylate,METHODS IN MOLECULAR MEDICINE MYELOID LEUKEMIA Methods and Protocols,2006年,Vol.125,p.93-106,Summary, Fig.1, 3.1, 3.2
【文献】
大場 光芳 他,DNAチップによるBcr−Abl融合遺伝子/T315I変異の高感度検出,臨床病理,2014年10月31日,Vol.62,p.134, 027,全文
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記遺伝子型を決定する工程では、上記突然変異部位について野性型に対応する野性型プローブと変異型に対応する変異型プローブとを用い、上記増幅した核酸に含まれる野性型及び/又は変異型の存在割合を計算することを特徴とする請求項1記載のBCR-ABL阻害剤耐性関連変異の検出方法。
上記存在割合は、上記野性型プローブに特異的にハイブリダイズする核酸の量と上記変異型プローブに特異的にハイブリダイズする核酸の量との合計量に対する、上記野性型プローブに特異的にハイブリダイズする核酸の量の比を野性型の存在割合とし、上記変異型プローブに特異的にハイブリダイズする核酸の量の比を変異型の存在割合とすることを特徴とする請求項2記載のBCR-ABL阻害剤耐性関連変異の検出方法。
上記存在割合は、上記突然変異部位を含まず、上記増幅した核酸に特異的にハイブリダイズするプローブを用いて測定した核酸の量に対する、上記野性型プローブに特異的にハイブリダイズする核酸の量の比を野性型の存在割合とし、上記変異型プローブに特異的にハイブリダイズする核酸の量の比を変異型の存在割合とすることを特徴とする請求項2記載のBCR-ABL阻害剤耐性関連変異の検出方法。
上記増幅する工程では、蛍光ラベルを有するプライマーを用いて核酸増幅反応を行い、上記野性型プローブに特異的にハイブリダイズする核酸の量、上記変異型プローブに特異的にハイブリダイズする核酸の量、及び上記増幅した核酸の量を、蛍光強度の絶対値に基づく値とすることを特徴とする請求項3又は4記載のBCR-ABL阻害剤耐性関連変異の検出方法。
上記突然変異部位は、上記BCR-ABL融合遺伝子がコードするタンパク質のうち、BCR-ABLキナーゼドメインであることを特徴とする請求項1記載のBCR-ABL阻害剤耐性関連変異の検出方法。
上記突然変異部位は、BCR-ABLキナーゼドメインの315番目のスレオニン(野性型)のイソロイシン(変異型)への置換変異部位及び当該BCR-ABLキナーゼドメインの253番目のチロシン(野性型)のヒスチジン(変異型)への置換変異部位のいずれか一方又は両方であることを特徴とする請求項1記載のBCR-ABL阻害剤耐性関連変異の検出方法。
上記BCR-ABLキナーゼドメインの315番目の置換変異部位について、野性型に対応するCTATATCATCACTGAGTTCATG(配列番号1)を含む野性型プローブと、変異型に対応するCTATATCATCATTGAGTTCATG(配列番号2)を含む変異型プローブとを使用し、
上記BCR-ABLキナーゼドメインの253番目の置換変異部位について、野性型に対応するGCCAGTACGGGGAGGTGTAC(配列番号3)を含む野性型プローブと、変異型に対応するGCCAGCACGGGGAGGTGTAC(配列番号4)を含む変異型プローブとを使用することを特徴とする請求項7記載のBCR-ABL阻害剤耐性関連変異の検出方法。
請求項1乃至8いずれか一項記載のBCR-ABL阻害剤耐性関連変異の検出方法により、被験者から採取した生体試料に含まれるBCR-ABL融合遺伝子について決定した遺伝子型に基づいて上記被験者のBCR-ABL阻害剤耐性に関連するデータを取得する工程とを含む、BCR-ABL阻害剤耐性を予測するためのデータ取得方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、被験者から採取した生体試料には、BCR-ABL融合遺伝子が発現している細胞と、上述した転座は起こっていないがABL遺伝子が発現している(正常)細胞が混在していることがあるため、BCR-ABL阻害剤耐性に関連する突然変異を検出する場合、生体試料中に含まれる(正常)細胞由来の9番染色体上のABLキナーゼドメインに存在する同変異も検出することがあり、同ABLキナーゼドメインの上記変異はBCR-ABL阻害剤耐性に直接寄与しないことから、BCR-ABL阻害剤耐性に関連する突然変異を正確に検出できないといった問題があった。そこで、本発明は、慢性骨髄性白血病等におけるBCR-ABL阻害剤耐性に関連する突然変異をより高精度に検出することができる、BCR-ABL阻害剤耐性関連変異の検出方法、及びこれを用いたBCR-ABL阻害剤耐性を予測するためのデータ取得方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述した目的を達成するために鋭意検討した結果、転座によって生じたBCR-ABL融合遺伝子を特異的に増幅し、増幅した核酸に含まれるBCR-ABL阻害剤耐性に関連する突然変異を検出することで、同突然変異を特異的に検出できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は以下を包含する。
(1)被験者から採取した生体試料を使用して、BCR-ABL融合遺伝子に含まれる融合部位及びBCR-ABL阻害剤耐性に関与する突然変異部位を含む領域を増幅する工程と、
上記工程で増幅した核酸を用いて、上記BCR-ABL阻害剤耐性に関与する突然変異部位の遺伝子型を決定する工程と、を含むBCR-ABL阻害剤耐性関連変異の検出方法。
(2)上記遺伝子型を決定する工程では、上記突然変異部位について野性型に対応する野性型プローブと変異型に対応する変異型プローブとを用い、上記増幅した核酸に含まれる野性型及び/又は変異型の存在割合を計算することを特徴とする(1)記載のBCR-ABL阻害剤耐性関連変異の検出方法。
(3)上記存在割合は、上記野性型プローブに特異的にハイブリダイズする核酸の量と上記変異型プローブに特異的にハイブリダイズする核酸の量との合計量に対する、上記野性型プローブに特異的にハイブリダイズする核酸の量の比を野性型の存在割合とし、上記変異型プローブに特異的にハイブリダイズする核酸の量の比を変異型の存在割合とすることを特徴とする(2)記載のBCR-ABL阻害剤耐性関連変異の検出方法。
(4)上記存在割合は、上記突然変異部位を含まず、上記増幅した核酸に特異的にハイブリダイズするプローブを用いて測定した核酸の量に対する、上記野性型プローブに特異的にハイブリダイズする核酸の量の比を野性型の存在割合とし、上記変異型プローブに特異的にハイブリダイズする核酸の量の比を変異型の存在割合とすることを特徴とする(2)記載のBCR-ABL阻害剤耐性関連変異の検出方法。
(5)上記増幅する工程では、蛍光ラベルを有するプライマーを用いて核酸増幅反応を行い、上記野性型プローブに特異的にハイブリダイズする核酸の量、上記変異型プローブに特異的にハイブリダイズする核酸の量、及び上記増幅した核酸の量を、蛍光強度の絶対値に基づく値とすることを特徴とする(3)又は(4)記載のBCR-ABL阻害剤耐性関連変異の検出方法。
(6)上記突然変異部位は、上記BCR-ABL融合遺伝子がコードするタンパク質のうち、BCR-ABLキナーゼドメインであることを特徴とする(1)記載のBCR-ABL阻害剤耐性関連変異の検出方法。
(7)上記突然変異部位は、BCR-ABLキナーゼドメインの315番目のスレオニン(野性型)のイソロイシン(変異型)への置換変異部位及び当該BCR-ABLキナーゼドメインの253番目のチロシン(野性型)のヒスチジン(変異型)への置換変異部位のいずれか一方又は両方であることを特徴とする(1)記載のBCR-ABL阻害剤耐性関連変異の検出方法。
(8)上記BCR-ABLキナーゼドメインの315番目の置換変異部位について、野性型に対応するCTATATCATCACTGAGTTCATG(配列番号1)を含む野性型プローブと、変異型に対応するCTATATCATCATTGAGTTCATG(配列番号2)を含む変異型プローブとを使用し、
上記BCR-ABLキナーゼドメインの253番目の置換変異部位について、野性型に対応するGCCAGTACGGGGAGGTGTAC(配列番号3)を含む野性型プローブと、変異型に対応するGCCAGCACGGGGAGGTGTAC(配列番号4)を含む変異型プローブとを使用することを特徴とする(7)記載のBCR-ABL阻害剤耐性関連変異の検出方法。
(9)上記(1)乃至(8)いずれか記載のBCR-ABL阻害剤耐性関連変異の検出方法により、被験者から採取した生体試料に含まれるBCR-ABL融合遺伝子について決定した遺伝子型に基づいて上記被験者のBCR-ABL阻害剤耐性を判定する工程とを含む、BCR-ABL阻害剤耐性を予測するためのデータ取得方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るBCR-ABL阻害剤耐性関連変異の検出方法は、BCR-ABL融合遺伝子に含まれる融合部位及びBCR-ABL阻害剤耐性に関与する突然変異部位を含む領域を増幅し、増幅した核酸について遺伝子型を決定している。これにより、本発明に係るBCR-ABL阻害剤耐性関連変異の検出方法によれば、上記突然変異部位の遺伝子型を高精度に決定できる。
【0010】
また、本発明に係るBCR-ABL阻害剤耐性を予測するためのデータ取得方法によれば、上記BCR-ABL阻害剤耐性に関与する突然変異部位について高精度に決定された遺伝子型の情報を利用するため、BCR-ABL阻害剤耐性に関する予測を高精度に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るBCR-ABL阻害剤耐性関連変異の検出方法及びこれを用いたBCR-ABL阻害剤耐性を予測するためのデータ取得方法(以下、まとめて本方法と称する)では、先ず、被験者から採取した生体試料を使用して、BCR-ABL融合遺伝子に含まれる融合部位及びBCR-ABL阻害剤耐性に関与する突然変異部位(例えば、BCR-ABLキナーゼドメインの突然変異部位)を含む領域を増幅する。そして、本方法では、増幅した核酸を用いて、上記BCR-ABL阻害剤耐性に関与する突然変異部位の遺伝子型を決定し、決定した遺伝子型に基づいて上記被験者のBCR-ABL阻害剤耐性を判定する。
【0012】
ここで、被験者とは、健常者であっても良いし、BCR-ABL阻害剤が適用される各種疾患に罹患した患者でもよい。BCR-ABL阻害剤が適用される各種疾患としては、特に限定されないが、例えばBCR-ABL阻害剤のうちイマチニブであれば、慢性骨髄性白血病(CML)、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)、KIT(CD117)陽性消化管間質腫瘍(GIST)を挙げることができる。特に慢性骨髄性白血病に罹患した患者を被験者とすることが好ましい。また、被験者としては、BCR-ABL阻害剤投与が開始された患者でも良いし、BCR-ABL阻害剤投与の開始前の患者でも良い。なお、BCR-ABL阻害剤としては、イマチニブに限定されず、例えばニロチニブ及びダサチニブ等を挙げることができる。
【0013】
特に、本方法では、9番染色体と22番染色体の一部が転座してなるBCR-ABL融合遺伝子を有する被験者について、当該BCR-ABL融合遺伝子のうち、BCR-ABLキナーゼドメインの突然変異に起因するBCR-ABL阻害剤耐性を評価するものである。よって、被験者としては、9番染色体と22番染色体との転座によるBCR-ABL融合遺伝子を有するものとする。
【0014】
また、被験者由来の生体試料としては、特に限定されないが、血液、血漿、血清、髄液、膵液、尿、糞便、組織液等が挙げられる。特に生体試料としては、血液、血漿、血清を使用することが好ましい。
【0015】
「生体試料を使用して、BCR-ABL融合遺伝子に含まれる融合部位及びBCR-ABL阻害剤耐性に関与する突然変異部位を含む領域を増幅」するとは、生体試料に含まれる細胞から、全RNA又はmRNAを抽出し、抽出した全RNA又はmRNAを逆転写してなるcDNAを鋳型として核酸増幅反応を行うことを意味している。核酸の抽出手段としては、特に限定されない。例えばフェノール/クロロホルム、エタノール、水酸化ナトリウム、CTABなどを用いたRNA抽出法を用いることができる。
【0016】
この核酸増幅反応では、BCR-ABL融合遺伝子に含まれる融合部位及びBCR-ABL阻害剤耐性に関与する突然変異部位を含む領域を増幅するが、同時に他の領域を増幅しても良い。核酸増幅反応としては、特に限定されず、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法やLAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、TMA(Transcription-Mediated Amplification)法、TRC(Transcription-Reverse Transcription Concerted Reaction)法、SDA(Strand Displacement Amplification)法、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)法等を適宜使用することができる。例えばPCR法では、増幅目的の領域を挟み込む一対のプライマーを設計し、ポリメラーゼ及び基質等を含む試薬を準備する。そして、上述した生体試料から抽出した全RNA又はmRNAから逆転写されたcDNAを鋳型として、所定の温度サイクル条件に従って核酸増幅反応を行い、一対のプライマーから目的の領域を特異的に増幅することができる。なお、核酸増幅反応は、核酸増幅・標識に必要な緩衝剤、耐熱性DNAポリメラーゼ、増幅領域に特異的なプライマー、標識ヌクレオチド三リン酸(具体的には蛍光標識等を付加したヌクレオチド三リン酸)、ヌクレオチド三リン酸および塩化マグネシウム等を含む反応系である。
【0017】
特に、核酸増幅反応では、増幅後の領域を識別できるように標識を付加することが望ましい。このとき、増幅された核酸を標識する方法としては、特に限定されないが、例えば増幅反応に使用するプライマーをあらかじめ標識しておく方法を使用してもよいし、増幅反応に標識ヌクレオチドを基質として使用する方法を使用してもよい。標識物質としては、特に限定されないが、放射性同位元素や蛍光色素、あるいはジゴキシゲニン(DIG)やビオチンなどの有機化合物などを使用することができる。
【0018】
すなわち、PCR法を適用する場合、「BCR-ABL融合遺伝子に含まれる融合部位及びBCR-ABL阻害剤耐性に関与する突然変異部位を含む領域」を挟み込むように設計した一対のプライマーを用いることで、当該領域を定法に従って特異的に増幅することができる。なお、PCR法以外の他の核酸増幅方法を適用しても、各核酸増幅反応の原理に従って当該領域を特異的に増幅できる。
【0019】
より具体的に、PCR法に使用する一対のプライマーとしては、BCR-ABL融合遺伝子におけるBCR遺伝子に由来する領域と、BCR-ABL融合遺伝子におけるABL遺伝子に由来する領域とからそれぞれ設計すれば良い。なお、一対のプライマーには、いわゆるフォワードプライマーとリバースプライマー(二本鎖DNAにおける互いに異なる鎖にハイブリダイズする)が含まれるが、BCR-ABL融合遺伝子におけるBCR遺伝子に由来する領域及びABL遺伝子に由来する領域のいずれか一方からフォワードプライマーを設計し、他方からリバースプライマーを設計すれば良い。
【0020】
また、BCR-ABL阻害剤耐性に関与する突然変異部位とは、例えばBCR-ABLキナーゼドメインに存在し、BCR-ABL阻害剤による治療効果が低減する現象に相関するアミノ酸変異を伴う突然変異の部位である。BCR-ABL阻害剤による治療効果が低減する現象とは、言い換えると、BCR-ABL阻害剤によるBCR-ABL融合タンパク質のチロシンキナーゼ活性抑制効果が低減することを意味する。BCR-ABL阻害剤耐性に関与する突然変異としては、BCR-ABLキナーゼドメインのアミノ酸置換変異が挙げられる。具体的には、BCR-ABL阻害剤耐性に関与するBCR-ABLキナーゼドメインの突然変異としては、M237V、I242T、M244V、K247R、L248V、G250E/R、Q252R/H、Y253F/H、E255K/V、E258D、W261L、L273M、E275K/Q、D276G、T277A、E279K、V280A、V289A/I、E292V/Q、I293V、L298V、V299L、F311L/I、T315I、F317L/V/I/C、Y320C、L324Q、Y342H、M343T、A344V、A350V、M351T、E355D/G/A、F359V/I/C/L、D363Y、L364I、A365V、A366G、L370P、V371A、E373K、V379I、A380T、F382L、L384M、L387M/F/V、M388L、Y393C、H396P/R/A、A397P、S417F/Y、I418S/V、A433T、S438C、E450K/G/A/V、E453G/K/V/Q、E459K/V/G/Q、M472I、P480L、F486S、E507G等があげられる。なお、上記突然変異の記載において、数値は突然変異の部位を示しているが、BCR-ABL融合タンパク質のN末端のメチオニンを1として数えた値である。
【0021】
特に、BCR-ABL阻害剤耐性に関与するBCR-ABLキナーゼドメインの突然変異部位としては、T315I及びY253Hを使用することが好ましい。言い換えると、BCR-ABL融合遺伝子に含まれる融合部位及びイマチニブ耐性関与するT315I及び/又はY253Hを含む領域を挟み込むように一対のプライマーを設計することが好ましい。
【0022】
なお、フィラデルフィア染色体は、t(9;22)(q34;q11)によって形成される小染色体で、22q11に座位するbcr(breakpoint cluster region)遺伝子に9q34座位するc-abl遺伝子が融合している。bcr 遺伝子の切断部位はintron 1(minor bcr、m-bcr)又はintron 2もしくは3(major bcr、M-bcr)に集中しており、c-ablの一部とhead to tailで融合する。M-bcrに切断点がある場合はbcr exon 2(b2)又はexon 3(b3)がa2に連結したb2-a2 mRNA又はb3-a2 mRNAが転写され、融合タンパク質p210BCR-ABLが産生される。一方、m-bcrに切断点がある場合は exon 1(B1)がc-ablのexon 2(a2)と連結したB1-a2 mRNAが転写され、融合タンパク質 p190BCR-ABLが産生される。
【0023】
なお、b2-a2 mRNAの一部の配列をDNA配列として配列番号5に示し、b3-a2 mRNAの一部の配列をDNA配列として配列番号6に示し、B1-a2mRNAの一部の配列をDNA配列として配列番号7に示した。また、b2-a2 mRNAに含まれるBCR-ABL融合タンパク質をコードする領域を含むDNA配列を配列番号8に示した。
【0024】
このような知見に基づけば、BCR-ABL融合遺伝子に含まれる融合部位及びBCR-ABL阻害剤耐性に関与する突然変異部位を含む領域を増幅」するためのプライマーを適宜設計することができる。詳細には、例えば以下のようにしてプライマーを設計することができる。
【0025】
まず、検出対象の変異を決める(例えばT315I)。次に、設計位置について、フォワードプライマーをBcr遺伝子配列(配列番号9又は10)においてBCR-ABL融合遺伝子となる領域から設計する。なお、配列番号9及び10においては5’末端から3304番目までがBCR-ABL融合遺伝子となる領域である。また、リバースプライマーは、Abl遺伝子配列(配列番号11)においてBCR-ABL融合遺伝子となる領域で且つ変異部位(例えばT315I)よりも3’末端側に相補鎖として設計する。なお、配列番号11において445番目から3’末端までがBCR-ABL融合遺伝子となる領域である。フォワードプライマーをAbl遺伝子配列から設計し、リバースプライマーをBcr遺伝子配列から設計しても良い。
【0026】
プライマーの設計法としては塩基長、Tm及びGC含量等を指標として、一般的な設計手法を用いることができる。
【0027】
なお、一対のプライマーにより増幅される領域の長さは、融合部位と変異部位を含めば特に限定されないが、例えば10〜10k塩基とすることができ、50〜6k塩基とすることが好ましく、500〜3k塩基とすることがより好ましく、800〜2k塩基とすることが最も好ましい。増幅する領域の長さをこの範囲とすることで、BCR-ABL融合遺伝子に含まれる融合部位及びBCR-ABL阻害剤耐性に関与する突然変異部位を含むことができる。
【0028】
以上のように設計した一対のプライマーを使用することで、「BCR-ABL融合遺伝子に含まれる融合部位及びBCR-ABL阻害剤耐性に関与する突然変異部位を含む領域」を特異的に増幅することができる。言い換えると、以上のように設計した一対のプライマーを使用した場合、9番染色体と22番染色体との転座していなければ、核酸増幅反応が進行せず増幅断片は確認されない。
【0029】
次に、本発明に係るデータ取得方法では、増幅した核酸を用いて、上記BCR-ABL阻害剤耐性に関与する突然変異部位の遺伝子型を決定する。遺伝子型の決定方法は、特に限定されず、如何なる方法、原理に基づいてもよい。例えば、遺伝子型の決定方法としては、突然変異部位について野生型アレル、変異型アレルに特異的にハイブリダイズするプローブを利用する方法が挙げられる。遺伝子型の決定方法としては、プローブを利用した方法に限定されず、例えば、増幅断片の塩基配列を決定する方法、PCR法等の核酸増幅反応を利用した方法等を挙げることができる。
【0030】
特に、基板上にプローブを固定してなるDNAマイクロアレイ(DNAチップと称する場合もある)を使用して、増幅した核酸に含まれる上記BCR-ABL阻害剤耐性に関与する突然変異部位の遺伝子型を決定することが好ましい。プローブを固定してなるDNAマイクロアレイを利用することで、簡易且つ簡便な手順で遺伝子型を正確に決定できるからである。
【0031】
より具体的に、突然変異部位としてT315Iの遺伝子型を決定するためのプローブとしては、野性型に対応するCTATATCATCACTGAGTTCATG(配列番号1)を含む野性型プローブと、変異型に対応するCTATATCATCATTGAGTTCATG(配列番号2)を含む変異型プローブとを例示できる。また、突然変異部位としてY253Hの遺伝子型を決定するためのプローブとしては、野性型に対応するGCCAGTACGGGGAGGTGTAC(配列番号3)を含む野性型プローブと、変異型に対応するGCCAGCACGGGGAGGTGTAC(配列番号4)を含む変異型プローブとを例示できる。なお、これら野性型プローブ及び変異型プローブは、22merあるいは20merとしたが、塩基長は何ら限定されない。プローブの長さとしては、例えば、10mer〜50merとすることができ、15mer〜40merとすることが好ましく、20mer〜30merとすることがより好ましく、20mer〜25merとすることが最も好ましい。このように、遺伝子型を決定するためのプローブは、如何なる長さであっても上述したAbl遺伝子の塩基配列に基づいて適宜設計することができる。
【0032】
なお、遺伝子型を決定するためのプローブは、好ましくは核酸であり、より好ましくはDNAである。DNAには二本鎖も一本鎖も含まれるが、好ましくは一本鎖DNAである。遺伝子型を決定するためのプローブは、例えば、核酸合成装置によって化学的に合成することで取得することができる。核酸合成装置としては、DNAシンセサイザー、全自動核酸合成装置、核酸自動合成装置等と呼ばれる装置を使用することができる。
【0033】
遺伝子型を決定するためのプローブは、その5'末端を担体上に固定化することにより、マイクロアレイ(例えばDNAチップ)の形態で用いるのが好ましい。担体の材料としては、当技術分野で公知のものを使用でき、特に制限されない。また、担体としては、表面にカーボン層と化学修飾基とを有する担体を用いることが好ましい。
【0034】
特に、微細な平板状の構造を有する担体が好適に用いられる。形状は、長方形、正方形および丸形など限定されないが、通常、1〜75mm四方のもの、好ましくは1〜10mm四方のもの、より好ましくは3〜5mm四方のものを用いる。微細な平板状の構造の担体を製造しやすいことから、シリコン材料や樹脂材料からなる基板を用いるのが好ましく、特に単結晶シリコンからなる基板の表面にカーボン層および化学修飾基を有する担体がより好ましい。
【0035】
プローブを担体に固定するには、特に限定されないが、スポッティング用バッファーに溶解してスポッティング用溶液を調製し、これを96穴もしくは384穴プラスチックプレートに分注し、分注した溶液をスポッター装置等によって担体上にスポッティングする方法を適用することができる。または、スポッティング溶液をマイクロピペッターにて手動でスポッティングしてもよい。
【0036】
スポッティング後、プローブが担体に結合する反応を進行させるため、インキュベーションを行うことが好ましい。インキュベーションは、通常−20〜100℃、好ましくは0〜90℃の温度で、通常0.5〜16時間、好ましくは1〜2時間にわたって行う。インキュベーションは、高湿度の雰囲気下、例えば、湿度50〜90%の条件で行うのが望ましい。インキュベーションに続き、担体に結合していないDNAを除去するため、洗浄液(例えば、50mM TBS/0.05% Tween20、2×SSC/0.2%SDS溶液、超純水など)を用いて洗浄を行うことが好ましい。
【0037】
以上のように作製したDNAマイクロアレイを用いることで、被検者におけるBCR-ABL阻害剤耐性に関連する突然変異部位の遺伝子型を決定することができる。具体的には、上述のように増幅した核酸とプローブとのハイブリダイゼーション反応を行い、プローブにハイブリダイズした核酸の量を、例えば標識を検出することにより測定する。標識からのシグナルは、例えば、蛍光標識を用いた場合は、蛍光スキャナを用いて蛍光シグナル検出し、これを画像解析ソフトによって解析することによりシグナル強度を数値化することができる。また、プローブにハイブリダイズした増幅核酸は、例えば、既知量のDNAを含む試料を用いて検量線を作成することにより、定量することもできる。ハイブリダイゼーション反応は、好ましくはストリンジェントな条件下で実施する。ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、例えば、50℃で16時間ハイブリダイズ反応させた後、2×SSC/0.2% SDS、25℃、10分および2×SSC、25℃、5分の条件で洗浄する条件をさす。或いは、ハイブリダイズする温度としては、塩濃度が0.5×SSCのとき、42〜54℃とすることができ、プローブの鎖長が短い場合にはハイブリダイズ温度を42〜48℃とすることがより好ましく、プローブの鎖長が長い場合にはハイブリダイズ温度を46〜54℃とすることがより好ましい。なお、塩濃度が高くなると特異性を有するハイブリダイズ温度は高くなり、逆に塩濃度が低くなると特異性を有するハイブリダイズ温度は低くなる。
【0038】
また、このとき、DNAマイクロアレイには、突然変異部位の遺伝子型を決定するためのプローブのほかに、増幅した核酸におけるBCR-ABL阻害剤耐性に関与する突然変異部位以外の領域にハイブリダイズするプローブを固定しても良い。このプローブは、当該突然変異部位の遺伝子型に拘わらず、増幅した核酸にハイブリダイズすることができる。よって、このプローブを固定したDNAマイクロアレイを使用することで、核酸増幅反応により目的とする核酸が増幅できたか否か判定することができる。
【0039】
本方法は、BCR-ABL阻害剤耐性に関与する突然変異部位について設計したプローブにハイブリダイズした上記増幅核酸の量に基づいて、当該突然変異部位の遺伝子型を決定する。特に、本方法では、BCR-ABL融合遺伝子に含まれる融合部位及びBCR-ABL阻害剤耐性に関与する突然変異部位を含む領域を増幅しているため、9番染色体上のABL遺伝子における同突然変異部位の遺伝子型の影響を受けることなく、BCR-ABL融合遺伝子における突然変異部位の遺伝子型を決定することができる。
【0040】
特に、被験者から採取した生体試料を使用し、mRNAを逆転写して得られるcDNAを鋳型として増幅した核酸について、突然変異部位の遺伝子型を決定することで、野生型のBCR-ABL融合遺伝子と変異型のBCR-ABL融合遺伝子について発現量の比率を求めることができる。言い換えると、この場合、被験者から採取した生体試料について、BCR-ABL阻害剤耐性を有する細胞(クローン)集団の、BCR-ABL阻害剤感受性の細胞に対する存在割合を推定することができる。これにより、BCR-ABL阻害剤が適用される各種疾患(CML、Ph+ALL及びGIST等)に対して、BCR-ABL阻害剤の投与の継続か他の治療薬への変更といった治療方針を適切に判断することができる。
【0041】
より具体的には、上記突然変異部位について野性型に対応する野性型プローブと変異型に対応する変異型プローブとを用い、上記増幅した核酸に含まれる野性型及び/又は変異型の存在割合を計算する。そして、野性型の存在割合が一定の値以下、あるいは変異型の存在割合が一定の値以上であるときに、例えば、疾患の再発リスクが高いと判断することができる。このとき、変異型の存在割合の閾値として、例えば、疾患の再発リスクが高いと判断する値、BCR-ABL阻害剤の投与効果がないと判断する値、BCR-ABL阻害剤に替えて他の薬剤に切り替えると判断する値等を適宜設定することができる。
【0042】
また、野性型あるいは変異型の存在割合は、一例として以下のように決定することができる。すなわち、野性型プローブに特異的にハイブリダイズする核酸の量と変異型プローブに特異的にハイブリダイズする核酸の量との合計量に対する、上記野性型プローブに特異的にハイブリダイズする核酸の量の比を野性型の存在割合とし、上記変異型プローブに特異的にハイブリダイズする核酸の量の比を変異型の存在割合とすることができる。或いは、上記存在割合は、突然変異部位以外に特異的にハイブリダイズするプローブを用いて測定した核酸の量に対する、上記野性型プローブに特異的にハイブリダイズする核酸の量の比を野性型の存在割合とし、上記変異型プローブに特異的にハイブリダイズする核酸の量の比を変異型の存在割合とすることもできる。
【0043】
いずれの場合でも、増幅した核酸、すなわち野性型BCR-ABL融合遺伝子及び変異型BCR-ABL融合遺伝子の合計量に対する、野性型BCR-ABL融合遺伝子の量を野性型の存在割合とし、変異型BCR-ABL融合遺伝子の量を変異型の存在割合とする。これにより、被験者から採取した生体試料に含まれる、BCR-ABL阻害剤耐性クローンの存在割合を合理的に推定することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが本発明の技術的範囲は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
〔実施例1〕
<検体の作製>
本実施例では下記表にまとめた5種類の検体を準備した。
【0046】
【表1】
【0047】
<検体1の作製方法>
細胞株K562を細胞培養し、細胞は1.25×10
6個/mLであることを、TC20全自動セルカウンター(バイオラッド社製)にて確認した。15mLファルコンチューブに10mLの培養液を分取し、300×gで5分間遠心操作しペレットにした。上清を注意深く完全に除去してから、RNeasy Mini Kit(キアゲン社製)にてRNAを抽出した。NanoDrop 2000(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)にて、RNA濃度を測定した。
【0048】
<検体2の作製方法>
細胞株HL60を細胞培養し、検体1の作製と同様に、RNeasy Mini Kit(キアゲン社製)にてRNAを抽出した。NanoDrop 2000(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)にて、RNA濃度を測定した。
【0049】
<検体3の作製方法>
細胞株K562から抽出した2mgの全RNAを対象にプライマー(プライマー配列5(CCGGAATTCTCCGCTGACCATCAATAAGGA:配列番号12)、プライマー配列6(ATAAGAATGCGGCCGCACGTCGGACTTGATGGAGAACT:配列番号13))を用いてRT-PCRを行った。1203bpのcDNA断片を、5’BCR特異的プライマー、および3’ABL特異的プライマーを用いたPCRで増幅した。
【0050】
PCR産物をpcDNA3.1(+)クローニングベクター(インビトロジェン社製)にライゲーションし、大腸菌DH5αコンピテントセル(東洋紡)に形質転換した。挿入したPCR産物をシークエンスし、野生型配列が挿入されていることを確認した。
【0051】
<検体4の作製方法>
検体3で得た野生型クローンベクターを対象に、Site-Directed. Mutagenesis(東洋紡社製)によって、315番目のスレオニンをイソロイシンとする点変異を導入した。PCRにはプライマー配列7(CCCCGTTCTATATCATCATTGAGTTCATGACCTACG:配列番号14)及びプライマー配列8(CGTAGGTCATGAACTCAATGATGATATAGAACGGGG:配列番号15)を使用した。反応液組成を下記表2(単位はμL)に示した。
【0052】
【表2】
【0053】
PCRは以下の条件で行った。すなわち、95℃で2分の後、98℃で2min及び68℃で10分を1サイクルとして10サイクル行った。
【0054】
そして、制限酵素DpnI(東洋紡)にて、鋳型野生型クローンベクターを断片化し、目的の変異を導入したPCR産物を大腸菌DH5αコンピテントセル(東洋紡社製)に形質転換(トランスフォーメーション)した。挿入したPCR産物をシークエンスし、T315I変異型配列が挿入されていることを確認した。
【0055】
<検体5の作製方法>
検体3で得た野生型クローンベクターを対象に、Site-Directed. Mutagenesis(東洋紡社製)によって、253番目のチロシンをヒスチジンとする点変異を導入した。PCRには、プライマー配列9(CAAGCTGGGCGGGGGCCAGCACGGGGAGGTGTACGAGG:配列番号16)及びプライマー配列10(CCTCGTACACCTCCCCGTGCTGGCCCCCGCCCAGCTTG:配列番号17)を使用した。検体4を作製した条件と同様にPCRを行い、挿入したPCR産物をシークエンスし、Y253H変異型配列が挿入されていることを確認した。
【0056】
<チップの作製>
BCR-ABL融合遺伝子の融合部位を検出するためのプローブ(プローブ1)BCR-ABL融合遺伝子の変異であるT315Iを検出するためのプローブ(プローブ2及び3)を作製した。各プローブの塩基配列は以下の通りである。
プローブ1(融合):CCCTTCAGCGGCCAGTAGCATCTGA(配列番号18)
プローブ2(野生型):CTATATCATCACTGAGTTCATG(配列番号1)
プローブ3(変異型):CTATATCATCATTGAGTTCATG(配列番号2)
【0057】
〔実施例1−1〕プライマーセットの評価
本実施例では、BCR-ABL融合遺伝子の融合部位及び突然変異部位を含む領域を特異的に増幅するプライマーセットA(プライマー1及び2)を使用した。プライマー1及びプライマー2の塩基配列は以下の通りである。なお、プライマー2にはCy5を付加した。
プライマー1:TCCGCTGACCATCAAYAAGGA(配列番号19、Y=C or T)
プライマー2:ACGTCGGACTTGATGGAGAACT(配列番号20)
【0058】
プライマーセットAを用いて下記表3(単位はμL)の組成の反応液でRT-PCRを行い、BCR-ABL融合遺伝子の融合部位及び突然変異部位を含む領域を増幅した。このとき、本実施例では、鋳型として検体1から抽出したヒトRNAを使用した。
【0059】
【表3】
RT-PCRは、逆転写反応を42℃で15minの後95℃で10secとする条件で行い、その後、増幅反応を95℃で30sec、60℃で30sec及び72℃で3minを1サイクルとして33サイクル、その後72℃で5minとする条件で行った。
【0060】
反応終了後、反応液とハイブリダイズ緩衝液(2×SSC/0.2%SDS/0.2 nM Cy5標識オリゴDNA(シグマアルドリッチ社製))を1:1で混合し、この溶液を3μLとり、ハイブリカバーの中央凸部の上に滴下して、これをチップに被せ、48℃に設定したハイブリダイズチャンバー装置(東洋鋼鈑社製)で1時間反応させた。
【0061】
ハイブリダイズ反応終了後、洗浄用ステンレスホルダーを1×SSC/0.1% SDS溶液に浸し、ハイブリカバーをはずしたチップをホルダーにセットした。上下に数回振動させた後、チップの蛍光強度を検出するまでホルダーを1×SSC溶液(室温)に浸した。
【0062】
カバーガラスとチップとを被せた後、FLA8000(富士フィルム社製)を用いてピクセルサイズ5μm、PMT80%で蛍光強度を検出した。FLA8000で得られたデータの解析は、ソフトウエア(ArrayGauge Ver 2.1、富士フィルム社製)で行っ た。
【0063】
なお、比較のため、プライマーセットAに替えて、BCR-ABL融合遺伝子の変異を増幅するプライマーセットB(プライマー3及び4)を使用して同様にRT-PCR、ハイブリダイズ反応及び蛍光検出を行った。プライマー3及びプライマー4の塩基配列は以下の通りである。
プライマー3:AAGACCTTGAAGGAGGACACCAT(配列番号21)
プライマー4:ACGTCGGACTTGATGGAGAACT(配列番号22)
【0064】
プライマーセットAを用いた場合、プライマーセットBを用いた場合、それぞれにおいて蛍光強度を測定した結果を表4に示す。下記表4に示すように、プライマーセットAを使用した場合において、BCR-ABL融合遺伝子を有している検体1において、融合部位と変異部位の両方にシグナルが得られた。これに対して、プライマーセットBを使用した場合は、BCR-ABL融合遺伝子を有している検体1において、変異部位は検出できたものの、融合部位は検出できなかった。これにより、プライマーセットAを用いた場合、融合部位と変異部位を同時に検出することができることが明らかとなった。
なお、検出できないとする判定値を、43以下とした。なお、当該判定値は、シグナルを含まないバックグラウンド領域における蛍光シグナルを解析した結果から算出した値である。
【0065】
【表4】
【0066】
〔実施例1−2〕プライマーセットの評価
本実施例では、BCR-ABL融合遺伝子における突然変異部位として、T315I変異を検出するプローブに加えてY253H変異を検出するプローブを固定したDNAチップを用いて、検体に含まれるBCR-ABL融合遺伝子における突然変異部位を検出した。本例では、検体2の細胞株から抽出したヒトRNA 100ngと、検体5の細胞株から抽出したヒトDNA 1ngを鋳型として使用した。
【0067】
本例では、プローブ1〜3に加えて、BCR-ABL融合遺伝子の変異であるY253Hを検出するためのプローブ(プローブ4及び5)を設計し、プローブ1〜5を固定化したDNAチップを作製した。
プローブ4(野生型):GCCAGTACGGGGAGGTGTAC(配列番号3)
プローブ5(変異型):GCCAGCACGGGGAGGTGTAC(配列番号4)
【0068】
実施例1−1と同様に、プライマーセットAを用いた場合において蛍光強度を測定した結果を表5に示す。下記表5に示すように、プライマーセットAを用いた場合、融合部位と複数の変異部位(少なくともY253H及びT315I)を一括して検査することができる。
【0069】
【表5】
【0070】
〔実施例2−1〕プライマーセットの評価
本実施例では、プライマーセットA及びプライマーセットBについて、BCR-ABL融合遺伝子を有する検体1及びBCR-ABL融合遺伝子を有しない検体2をそれぞれ区別できるか検証した。実際に被験者からの生体試料についてBCR-ABL融合遺伝子における突然変異部位の遺伝子型を決定する場合、正常細胞由来のc-ABL遺伝子における同部位の遺伝子型も同時に検出する結果、BCR-ABL融合遺伝子における変異割合が低く見積もられる可能性がある。本実施例では、プライマーセットA及びプライマーセットBを用いた場合にこのような不都合が生じるか検証した。
【0071】
本実施例では、検体1及び2を使用して、実施例1−1と同様にしてDNAチップから蛍光強度を測定した。その結果を表6に示す。下記表6に示すように、プライマーセットAを使用した場合には、BCR-ABL融合遺伝子を有している検体1では、蛍光シグナルが測定され、変異部位において野生型の識別ができた。一方、プライマーセットAを使用した場合、BCR-ABL融合遺伝子を有していない検体2では、蛍光シグナルが測定されず、BCR-ABL融合遺伝子由来の変異はないことがわかる。以上のように、プライマーセットAを使用した場合には、検体1と検体2をはっきりと区別できることが示された。
【0072】
これに対し、プライマーセットBを使用した場合は、BCR-ABL融合遺伝子を有していない検体2においても、変異部位に蛍光シグナルが測定され、検体1と検体2を区別できなかった。
【0073】
【表6】
【0074】
〔実施例2−2〕プライマーセットの評価
本実施例では、検体3及び検体4の混合総量を10ngとし、100:0、50:50及び0:100の割合で混合したものをそれぞれ鋳型として使用した。なお、PCR、DNAチップを用いたハイブリダイズ反応、その後の蛍光検出等は実施例1−1と同様に行った。
【0075】
正常細胞由来のc-ABL遺伝子を含まない検体3及び4において、プライマーセットA及びプライマーセットBを用いた場合、それぞれにおいて蛍光強度を測定した結果を表7に示す。下記表7に示すように、プライマーセットA及びプライマーセットBを使用した場合の両方で、鋳型として混合した検体の混合割合と、シグナル強度に基づく変異割合との間に相関が得られた。
【0076】
【表7】
【0077】
〔実施例2−3〕プライマーセットの評価
本実施例では、検体4を1ngと検体2を100ng加えたものを鋳型として使用した。なお、PCR、DNAチップを用いたハイブリダイズ反応、その後の蛍光検出等は実施例1−1と同様に行った。
【0078】
正常細胞由来のc-ABL遺伝子を有する検体2を含む場合において、プライマーセットA及びプライマーセットBを用いた場合、それぞれにおいて蛍光強度を測定した結果を表8に示す。下記表8に示したように、プライマーセットAを使用した場合において、鋳型として使用したBCR-ABL融合遺伝子の変異割合(変異型100%)と検出したシグナル強度相関が得られた。これに対して、プライマーセットBを使用した場合は、鋳型として混合した変異割合と検出したシグナル強度が逆転しており、BCR-ABL融合遺伝子を持たない検体2の影響を大きく受けていることがわかった。これにより、プライマーセットAを用いた場合、正常細胞由来のc-ABL遺伝子の影響を受けず、変異部位の変異を正しく判定できることが明らかとなった。
【0079】
【表8】