【実施例】
【0034】
(実施例1〜6)
<KNbO
3−BaTiO
3複合圧電磁器の作製>
KNbO
3粉末およびTiO
2粉末を準備してよく乾燥させ、表1に示したKNbO
3/BaTiO
3比率(反応後)となるように秤量後、フッ素加工された樹脂製容器にジルコニアボール(φ3mm)とともに入れてエチルアルコールで16時間混合した。
【0035】
混合したスラリーはジルコニアボールと分離し80℃で乾燥後、乳鉢、乳棒で粉砕し、バインダであるポリビニルブチラール(PVB)を乾燥試料の2wt%加えて良く混合した。混合後、目開き250μmのふるいで分級を行った。
【0036】
分級後の粉末約0.5gを秤量し直径10mmの金型で油圧プレスを用いて2tonの圧力でディスク状に成形を行った。ディスク状に成形されたKNbO
3−TiO
3成形体を600℃で10時間脱バインダを行い混合粉末成形体とした。
【0037】
内容量25mlの容器中に、溶媒となる水10mlおよび表1に示す、所定量のBa(OH)
2を入れてよく攪拌し、その中に脱バインダ後のKNbO
3−TiO
2混合粉末成形体を入れ、オートクレーブ中で180℃、20時間反応させた。反応後、混合粉末成形体をエタノールおよび純水で洗浄して200℃で乾燥させてKNbO
3−BaTiO
3複合圧電磁器1とした。
【0038】
<KNbO
3−BaTiO
3複合圧電磁器の電気的評価>
実施例1から6で作製した試料に、
図1の2,3のように金(Au)電極をスパッタリング法で形成し、
図1の圧電素子4を作製した。この圧電素子4に北本電子株式会社製の電界誘起歪み測定器(JP005−SE)で周波数0.1Hz、1〜30kV/cmの電界を印加して圧電歪(変位)を測定、その値からd
33を計算してその結果も表1に示した。その結果、BaTiO
3比が0.05から1.5の範囲で大きな圧電特性を持つことを確認した。
【表1】
【0039】
さらに、恒温槽およびアジレント・テクノロジー株式会社製のインピーダンスアナライザ(4294A)を使用して、これらの試料の−40℃から150℃まで比誘電率の温度
特性を測定した。25℃のときの比誘電率を基準として、この温度範囲で最も大きな比誘電率の変化率も表1に示した。その結果、BaTiO
3比が0.05から1.0の範囲では比誘電率の変化率の最大値は10%以内と良好であったが、BaTiO
3比が1.5の場合は比誘電率の変化率は20%以上となった。
【0040】
<BaTiO
3相の確認>
作製したKNbO
3−BaTiO
3複合圧電磁器1をリガク製XRD装置によりCuKα線を使用して、管電圧50kV、管電流40mA、走査速度20°/分でXRD測定を行った。
複合圧電磁器1の結晶構造は、斜方晶であるKNbO
3を含む固溶体の、特に(220)、(002)面のピーク形状は反応前後で変化がみられる。KNbO
3、BaTiO
3は、ともに格子定数の近いペロブスカイト構造であるため、これらの面のピークの形状によりKNbO
3の結晶粒子のほかに、BaTiO
3が成長しているかを確認することできる。
【0041】
例えば
図3は実施例3のXRDピークである。斜方晶であるKNbO
3の(220)、(002)面ピークであるが、ソルボサーマル反応後は、反応前のKNbO
3のピークと比較すると、KNbO
3の(220)、(002)ピークが低くなり、45.2度付近に正方晶であるBaTiO
3の(200)のピークが現れてくるため、ピークの形状が歪んでくる。この変化が、BaTiO
3が形成したことを示している。このようにしてBaTiO
3の生成を確認した結果を表1に示した。
図3のようにBaTiO
3の(200)ピーク強度がKNbO
3の(220)ピーク強度の0.7から2倍程度のものには、表1に◎印で示した。
【0042】
また、
図4は実施例1の斜方晶のKNbO
3の(220)、(002)面ピークであるが、
図3と比較して斜方晶のKNbO
3(220)、(002)面ピークの低下が小さく、BaTiO
3の(200)のピークも小さいことがわかる。これはBaTiO
3の生成量が少ないことを意味している。このようにBaTiO
3の(200)ピーク強度がKNbO
3の(220)ピーク強度の0.7倍よりも小さくなったものには、表1に○印で示した。
【0043】
斜方晶のKNbO3の表面に正方晶であるBaTiO
3が形成されると、それぞれの格子定数がわずかに違うため、これらの界面で格子定数の不整合により歪が発生することで誘電特性、圧電特性が向上すると考えられる。
【0044】
実施例3に示したKNbO
3−BaTiO
3複合圧電磁器1を集束イオンビーム(FIB)により薄膜形状に加工して、微細構造および組成分析測定の試料とした。株式会社日立ハイテクノロジーズ製STEMを使用して、加速電圧200kV、視野サイズ約1×1μmで、この試料の走査透過像を撮影した。また、BaはLβ2線、TiはKα線、KはKα線、NbはLα線をそれぞれの特性X線として付属するEDSによる各元素のマッピングを行った。その結果を
図6に示す。
図6の(A)はSTEM像を示し、(B)はBa、(C)はTi、(D)はK、(E)はNbの元素マッピングをそれぞれ示しており、図中の白色が濃い部分に各元素が多く分布している。
図6の(B)、(C)、(D)および(E)によりKNbO
3を核とし、その核の周りを覆うようにBaTiO
3が形成されていることがわかる。
また、STEMにより格子像を観察して、KNbO
3のまわりに形成されたBaTiO
3がヘテロ接合されていることを確認した。
【0045】
(実施例7〜11)
KNbO
3粉末の代わりにNaNbO
3粉末を使用したもの、KNbO
3粉末にNaNbO
3粉末を加えたもの、またKNbO
3にNaNbO
3とLiNbO
3粉末を加えたものを実施例1〜6と同様にして試料を作製し、評価した結果も表1に示した。その結果、いずれの試料とも高い圧電特性を示し、比誘電率の温度特性が10%以内で、良好なものとなった。このときBaTiO
3が生成していることをXRDで確認した。
【0046】
(比較例1〜3)
表1に示すようにKNbO
3、NaNbO
3、LiNbO
3とBaTiO
3のモル比率を変えた以外は実施例1から11と同様の方法でKNbO
3、NaNbO
3、LiNbO
3−BaTiO
3複合圧電磁器1を作製し、同様にして電極を形成して圧電歪(変位)を測定、d
33を求めて表1に示した。BaTiO
3がヘテロ接合を有する層を形成しなかった場合は、d
33を測定することはできず、またBaTiO
3比が0.02の場合はd
33が小さいことを確認した。また、LiNbO
3を0.12とした場合はd
33が大きく低下した。
【0047】
また、実施例1から11と同様の方法でBaTiO
3相の確認を行い、その結果も表1に示した。比較例2についてはソルボサーマル反応後においても、
図5に示すように斜方晶のKNbO
3の(220)、(002)面ピークのみであり、BaTiO
3のピークは確認されなかった(表1の×印)。
【0048】
(比較例4、5)
従来のセラミックスの製造工程(固相法)を用いて1150℃で焼成して作製したKNbO
3−BaTiO
3圧電セラミックスを実施例1から11と同様の評価方法によりd
33を求め表1に示した。BaTiO
3比が0.2の場合、d
33は128pm/Vと低くいが、BaTiO
3比を0.5とすると、d
33は260pm/Vと高い値を示す。しかし、合成(焼成)温度が高く、焼成時に大きなエネルギーを使うということでコストが高くなる要因となる。