(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6531480
(24)【登録日】2019年5月31日
(45)【発行日】2019年6月19日
(54)【発明の名称】横型空気式防舷材用の保護カバーおよび横型空気式防舷材並びに横型空気式防舷材の使用方法
(51)【国際特許分類】
E02B 3/26 20060101AFI20190610BHJP
【FI】
E02B3/26 K
E02B3/26 D
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-85660(P2015-85660)
(22)【出願日】2015年4月20日
(65)【公開番号】特開2016-204906(P2016-204906A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年4月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】和泉 南
(72)【発明者】
【氏名】天野 成彦
【審査官】
神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−348840(JP,A)
【文献】
実開平3−55397(JP,U)
【文献】
特開平5−25812(JP,A)
【文献】
特開2014−218866(JP,A)
【文献】
特開昭58−146610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の胴体部の左右両端に連接されたボウル状の鏡部を備えた横型空気式防舷材に着脱自在に装着される横型空気式防舷材用の保護カバーであって、
少なくとも前記胴体部全体の外面およびそれぞれの鏡部における半径方向外側で鏡部の総面積の半分の面積となる外面の領域を被覆する保護層体と、この保護層体を前記防舷材の所定位置に配置する取り付け部とを備え、前記防舷材の所定位置に配置された際に、前記保護層体により、水面に浮遊する油と前記防舷材の前記保護層体により被覆した範囲とを隔絶可能にすることを特徴とする横型空気式防舷材用の保護カバー。
【請求項2】
前記保護層体が、前記胴体部全体の外面およびそれぞれの鏡部全体の外面を被覆する請求項1に記載の横型空気式防舷材用の保護カバー。
【請求項3】
前記保護層体が、耐油性部材により形成される請求項1または2に記載の横型空気式防舷材用の保護カバー。
【請求項4】
前記耐油性部材が、アクリロニトリル・ブタジエンゴムを含有する弾性部材である請求項3に記載の横型空気式防舷材用の保護カバー。
【請求項5】
円筒状の胴体部と、この胴体部の左右両端に連接されたボウル状の鏡部とを備えた横型空気式防舷材において、
少なくとも前記胴体部全体の外面およびそれぞれの鏡部における半径方向外側で鏡部の総面積の半分の面積となる外面の領域を被覆する着脱自在な保護層体を備え、この保護層体により、水面に浮遊する油と前記防舷材の前記保護層体により被覆した範囲とを隔絶可能にすることを特徴とする横型空気式防舷材。
【請求項6】
円筒状の胴体部と、この胴体部の左右両端に連接されたボウル状の鏡部とを備えた横型空気式防舷材において、
少なくとも前記胴体部全体の外面およびそれぞれの鏡部における半径方向外側で鏡部の総面積の半分の面積となる外面の領域を被覆する保護層体を備え、この保護層体が、耐油性部材により形成されるとともに、加硫接着によって一体化して設けられていて、この保護層体により、水面に浮遊する油と前記防舷材の前記保護層体により被覆した範囲とを隔絶可能にすることを特徴とする横型空気式防舷材。
【請求項7】
前記保護層体が、耐油性部材により形成される請求項5に記載の横型空気式防舷材。
【請求項8】
前記耐油性部材が、アクリロニトリル・ブタジエンゴムを含有する弾性部材である請求項6または7に記載の横型空気式防舷材。
【請求項9】
前記保護層体が、前記胴体部全体の外面およびそれぞれの鏡部全体の外面を被覆する請求項5〜8にいずれかに記載の横型空気式防舷材。
【請求項10】
請求項5〜9のいずれかに記載の横型空気式防舷材を、それぞれの鏡部における前記保護層体の内周縁の下端位置を水面位置よりも高い位置に設定して設置し、この防舷材を設置した水域に油が浮遊している場合に、前記保護層体により、前記油と前記防舷材の前記保護層体により被覆した範囲とを隔絶する横型空気式防舷材の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横型空気式防舷材用の保護カバーおよび横型空気式防舷材並びに横型空気式防舷材の使用方法に関し、さらに詳しくは、水面に浮遊する油が付着して防舷材が膨潤劣化することを抑制できる横型空気式防舷材用の保護カバーおよび横型空気式防舷材並びに横型空気式防舷材の使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船舶の接岸時における船体および岸壁の損傷防止等を目的として、岸壁の壁面または舷側に設置される空気式防舷材が知られている。空気式防舷材は、補強材が埋設されたゴムにより形成された中空体である。その中空内部には、空気が封入されていて船舶の接岸時には、封入された空気によって生じる弾性力により、その衝撃を緩和する。
【0003】
空気式防舷材の形態は、横型と縦型との2種類に大別することができる。横型空気式防舷材は、長手方向を横にした状態で水に浮かべて使用される。縦型空気式防舷材は、中空内部に所定量の水を収容することで、一部を水中に沈めて長手方向を縦にした立設状態で水に浮かべて使用される。
【0004】
ところで、空気式防舷材を設置した水域に油が漂着して滞留する場合、空気式防舷材の外面には水面に浮遊する油が付着した状態になる。従来の空気式防舷材には、このような油に対する考慮がされていないため、この状態が長時間続くと油が付着した部分のゴムが膨潤して劣化する。これにより、空気式防舷材は使用できなくなり耐用期間が短くなるという問題がある。
【0005】
横型空気式防舷材については、防舷材の外面を覆うシート状の保護部材が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この保護部材は、船体等との接触に起因する防舷材の外傷を防止することを目的としたものであり、上述した油による膨潤劣化を意図したものではなかった。そして、この保護部材を防舷材に装着すると、周方向には継ぎ目があり、左右両端部には切れ目が存在する。横型空気式防舷材は使用中に鏡部の中心軸まわりに回転するので、この保護部材を装着しても上記の継ぎ目や切れ目を通じて、水面に浮遊する油が防舷材の外面に付着する。それ故、この保護部材では、防舷材の膨潤劣化を抑制することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−25812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、水面に浮遊する油が付着して防舷材が膨潤劣化することを抑制できる横型空気式防舷材用の保護カバーおよび横型空気式防舷材並びに横型空気式防舷材の使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明の横型空気式防舷材用の保護カバーは、円筒状の胴体部の左右両端に連接されたボウル状の鏡部を備えた横型空気式防舷材に着脱自在に装着される横型空気式防舷材用の保護カバーであって、少なくとも前記胴体部全体の外面およびそれぞれの鏡部における半径方向外側で鏡部の総面積の半分の面積となる外面の領域を被覆する保護層体と、この保護層体を前記防舷材の所定位置に配置する取り付け部とを備え、前記防舷材の所定位置に配置された際に、前記保護層体により、水面に浮遊する油と前記防舷材の前記保護層体により被覆した範囲とを隔絶可能にすることを特徴とする。
【0009】
本発明の横型空気式防舷材は、円筒状の胴体部と、この胴体部の左右両端に連接されたボウル状の鏡部とを備えた横型空気式防舷材において、少なくとも前記胴体部全体の外面およびそれぞれの鏡部における半径方向外側で鏡部の総面積の半分の面積となる外面の領域を被覆する着脱自在な保護層体を備え、この保護層体により、水面に浮遊する油と前記防舷材の前記保護層体により被覆した範囲とを隔絶可能にすることを特徴とする。
【0010】
本発明の別の横型空気式防舷材は、円筒状の胴体部と、この胴体部の左右両端に連接されたボウル状の鏡部とを備えた横型空気式防舷材において、少なくとも前記胴体部全体の外面およびそれぞれの鏡部における半径方向外側で鏡部の総面積の半分の面積となる外面の領域を被覆する保護層体を備え、この保護層体が、耐油性部材により形成されるとともに、加硫接着によって一体化して設けられていて、この保護層体により、水面に浮遊する油と前記防舷材の前記保護層体により被覆した範囲とを隔絶可能にすることを特徴とする。
【0011】
本発明の横型空気式防舷材の使用方法は、上記の横型空気式防舷材を、それぞれの鏡部における前記保護層体の内周縁の下端位置を水面位置よりも高い位置に設定して設置し、この防舷材を設置した水域に油が浮遊している場合に、前記保護層体により、前記油と前記防舷材の前記保護層体により被覆した範囲とを隔絶することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、少なくとも前記胴体部全体の外面およびそれぞれの鏡部における半径方向外側で鏡部の総面積の半分の面積となる外面の領域を被覆する保護層体を設けて、この保護層体により、水面に浮遊する油と前記防舷材の前記保護層体により被覆した範囲とを隔絶可能にするので、保護層体により被覆した範囲が水面に浮遊する油により膨潤劣化することを防止できる。また、層状の保護層体を用いるので、防舷材の衝撃緩和性能等に実質的な悪影響が生じることもない。
【0013】
保護層体が、前記胴体部全体の外面およびそれぞれの鏡部全体の外面を被覆する構成にすると、実質的に防舷材の全体の外面が、保護層体によって、水面に浮遊する油から保護される。これにより、防舷材の膨潤劣化を抑制するには一段と有利になる。
【0014】
保護層体が、耐油性部材により形成される構成にすると、保護層体により被覆した範囲の膨潤劣化を防止するには有利になる。耐油性部材としては、例えば、アクリロニトリル・ブタジエンゴムを含有する弾性部材を用いる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の横型空気式防舷材用の保護カバーの実施形態を側面視で例示する説明図である。
【
図2】
図1の横型空気式防舷材用の保護カバーを鏡部側から見た正面視で例示する説明図である。
【
図3】本発明の横型空気式防舷材用の保護カバーの別の実施形態を側面視で例示する説明図である。
【
図4】
図3の横型空気式防舷材用の保護カバーを鏡部側から見た正面視で例示する説明図である。
【
図5】本発明の横型空気式防舷材の実施形態を縦断面視で例示する説明図である。
【
図6】横型空気式防舷材の別の実施形態を縦断面視で例示する説明図である。
【
図7】横型空気式防舷材を縦断面視で例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の横型空気式防舷材用の保護カバーおよび横型空気式防舷材並びに横型空気式防舷材の使用方法を、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0017】
従来の横型空気式防舷材1A(以下、防舷材1Aという)は、
図7に例示するように、円筒状の胴体部1aと、胴体部1aの左右両端に連接されたボウル状の鏡部1bとを備えている。右側、左側の鏡部1bにはそれぞれ口金部1c、口金部1dが設けられている。一方側の鏡部1bに口金部1cのみが設けられることもある。
【0018】
胴体部1aおよび鏡部1bは、内層ゴムと外層ゴムとの間に複数の補強層が積層された部材で構成されている。胴体部1aと鏡部1bとにより形成された中空の内部空間に空気Aが充填される。図面では、胴体部1aと鏡部1bとの境界を二点鎖線で示している。
【0019】
口金部1cには、空気Aを注入するための注入口や防舷材1Aの内圧が過大になることを防止する安全弁、この内圧を測定する圧力センサ等が設けられている。それぞれの口金部1c、1dには別々のガイチェーン5の一端部が接続されている。
【0020】
防舷材1Aを岸壁の壁面または舷側に設置する際には、口金部1c、1dに接続されているそれぞれのガイチェーン5の他端部を、それぞれ岸壁または船体に固定する。そして、中空の内部空間に空気Aが収容された防舷材1Aを、長手方向(胴体部1aの筒軸方向)を横にした状態で海等に浮かべて設置する。
【0021】
そのため、防舷材1Aを設置した水域に油Cが漂流して滞留すると、水面に浮遊する油Cが常に胴体部1aおよび鏡部1bに接触する。このまま防舷材1Aを使用し続けると、胴体部1aおよび鏡部1bを形成している外層ゴムが油Cによって膨潤する。この膨潤によって胴体部1aおよび鏡部1bの強度低下等が発生し、防舷材1Aを使用することが不可能になる。
【0022】
そこで、
図1、2に例示する本発明の横型空気式防舷材用の保護カバー2(以下、保護カバー2という)を用いる。この保護カバー2は、少なくとも胴体部1a全体の外面およびそれぞれの鏡部1bにおける半径方向外側で鏡部1bの総面積の半分の面積となる外面の領域を被覆する保護層体3と、保護層体3を防舷材1Aの所定位置に配置する取り付け部4とを備えている。
【0023】
保護層体3は、ゴム等の弾性部材や樹脂等を層状に薄く形成したシートであり、その厚さは例えば1mm〜30mmである。保護層体3は、実質的に水が染み込まない仕様になっている。筒状の保護層体3は、周方向にも筒軸方向にも切れ目がなく連続している。保護層体3は例えば、部材を筒状に一体成形して製造する。或いは、複数の部材を接合して筒状の保護層体3を製造する。この場合は、それぞれの部材の接合継ぎ目は、すき間が生じない加工を施して油Cが通過しない仕様にする。防舷材1Aに外挿された筒状の保護層体3により、少なくとも胴体部1a全体の外面およびそれぞれの鏡部1bにおける半径方向外側で鏡部1bの総面積の半分の面積となる外面の領域が被覆される。尚、鏡部1bの総面積とは口金部1c、1dの面積を含まない。
【0024】
保護層体3により被覆される鏡部1bの領域をより具体的に述べると、
図2に例示するように、鏡部1bの外縁から半径方向内側に寸法Hまでの円環状の領域である。この寸法Hは例えば1m以上、より好ましくは2m以上に設定される。それぞれの鏡部1bの総面積の半分以上の面積を保護層体3により被覆するとよい。
【0025】
保護層体3は、耐油性部材を用いて形成することも、非耐油性部材を用いても形成することもできる。また、弾性部材を用いて保護層体3を形成することも、非弾性部材を用いて保護層体3を形成することもできる。例えば、耐油性に優れたアクリロニトリル・ブタジエンゴムを含有する弾性部材を用いて保護層体3を形成する。耐油性を有する弾性部材としては、他にもフッ素ゴム、クロロプレンゴム、塩素化ポリエチレンゴム等を例示できる。
【0026】
保護層体3の内面と胴体部1aおよび鏡部1bの外面との間は、多少のすき間がある状態にすることも、すき間なく密着させた状態にすることもできる。保護層体3が弾性部材により形成されていると、筒状の保護層体3を拡径させて胴体部1aおよび鏡部1bに外挿させることで、保護層体3の内面と胴体部1aの外面とを密着させることができる。
【0027】
取り付け部4としては例えば、防舷材1Aに外挿させた保護層体3と右側の鏡部1b側とを接続する紐状体4b(右側の紐状体4b)およびこの保護層体3と左側の鏡部1b側とを接続する紐状体4b(左側の紐状体4b)を用いる。右側の紐状体4bによって、保護層体3の右端部と右側の鏡部1bの表面とを直接接続する、または、保護層体3の右端部と右側の鏡部1bに設けられた口金部1bとを接続する。左側の紐状体4bによって、保護層体3の左端部と左側の鏡部1bの表面とを直接接続する、または、保護層体3の左端部と左側の鏡部1bに設けられた口金部1dとを接続する。
【0028】
この実施形態では、右側の紐状体4bの一端部は、接続部材4aを介して保護層体3の右端開口縁部に接続されている。右側の紐状体4bの他端部は、口金部1cに外嵌された固定部材4cを介して口金部1cに接続されている。左側の紐状体4bの一端部は、接続部材4aを介して保護層体3の左端開口縁部に接続されている。左側の紐状体4bの他端部は、口金部1dに外嵌された固定部材4cを介して口金部1dに接続されている。
【0029】
紐状体4bとしては、樹脂製や天然繊維製のロープや金属チェーン等を用いることができる。紐状体4bとして樹脂製や天然繊維製のロープを用いると、紐状体4bに起因して鏡部1bの表面に傷が生じることを防止するには有利になる。
【0030】
この保護カバー2を使用する場合、中空の内部空間に空気Aが収容された防舷材1Aに地上や船上で保護カバー2を取り付ける。その後、
図1に例示するように防舷材1Aを岸壁の壁面または舷側に設置する。それぞれの鏡部1bにおける保護層体3の内周縁の下端位置を水面位置よりも高い位置に設定する。
【0031】
防舷材1Aを設置した水域に油Cが漂流してきて防舷材1Aの周囲が水面に浮遊する油Cで囲まれると、保護層体3の外面に油Cが付着した状態が続く。胴体部1aおよび鏡部1b半径方向外側のある程度の領域は保護層体3によって被覆されているので、防舷材1Aが筒軸心を中心にして回転しても油Cが付着することがなく、油Cとは隔絶される。油Cは水面に伴って変動するが、港湾等での平時の水面の上下変動は1〜2m程度である。また、防舷材1Aはある程度、波(水面)と同調して上下移動する。したがって、水面位置の上下変動範囲は横置状態になっている胴体部1aの下端部になる。
【0032】
保護層体3の内面と胴体部1aおよび鏡部1bの外面との間に多少のすき間があっても、水面位置がそれぞれの鏡部1bにおける保護層体3の内周縁の下端位置を超えなければ、両者のすき間に油Cが入り込むことはない。したがって、波が平時よりも高い場合を除いて、防舷材1Aの保護層体3により被覆された範囲は油Cと隔絶され、平時においては防舷材1Aに油Cが付着することを回避できる。平時でない時(波が高い時)は防舷材1Aの使用を控えるとよい。それ故、本発明の保護カバー2を用いることにより、水面に浮遊する油Cによる防舷材1Aの膨潤劣化を効果的に抑制できる。
【0033】
また、層状の薄い保護層体3を用いるので、防舷材1Aに保護カバー2を取り付けて使用しても防舷材1Aの圧縮および復元変形が大幅に困難になることもない。したがって、保護カバー2によって防舷材1Aの衝撃緩和性能等に実質的な悪影響は生じない。
【0034】
非耐油性部材により保護層体3を形成すると、耐油性部材により形成した場合に比して、付着した油Cによって保護層体3は早期に膨潤等により劣化する。そのため、保護層体3の劣化を発見した際、或いは、予め設定された期間経過後に、劣化した保護層体3を防舷材1Aから取り外して新しい保護層体3に交換する。或いは、新しい保護カバー2に交換してもよい。
【0035】
耐油性部材により保護層体3を形成すると、非耐油性部材により形成した場合に比して長期に渡って、保護層体3により被覆した範囲の膨潤劣化を防止することができる。それ故、新しい保護層体3(保護カバー2)に交換する必要がなくなる。或いは新しい保護層体3(保護カバー2)への交換頻度を少なくすることができる。
【0036】
保護層体3の内面と胴体部1aおよび鏡部1bの外面とが密着していると、保護層体3が防舷材1Aに対してずれ難くなるという利点がある。これに伴って、取り付け部4の強度を低く設定することも可能になる。また、水面位置がそれぞれの鏡部1bにおける保護層体3の内周縁の下端位置を超えた場合であっても、保護層体3と鏡部1bの間から油Cが浸入し難くなる。保護層体3の内面と胴体部1aおよび鏡部1bの外面とを密着させる場合には、保護層体3を防舷材1Aの圧縮および復元変形に追従することができる弾性部材により形成するとよい。
【0037】
保護層体3の内面と胴体部1aおよび鏡部1bの外面との間にすき間を設けていると、保護層体3によって防舷材1Aの圧縮および復元変形が影響を受け難くなるという利点がある。また、防舷材1Aの圧縮および復元変形に追従するために要求される伸縮性等が低くなるので、保護層体3として採用できる部材の選択肢が広がる。
【0038】
上述した実施形態では、それぞれの鏡部1bの一部の外面は保護層体3により被覆されているが、保護層体3に被覆されずに露出している部分がある。そこで、
図3、4に例示する保護カバー2の実施形態では、保護層体3が、胴体部1a全体の外面およびそれぞれの鏡部1b全体の外面を被覆する構成になっている。
【0039】
この保護層体3は、先の実施形態とは防舷材1Aを被覆する範囲(保護層体3の防舷材1Aに対する大きさ)のみが異なる。
【0040】
この実施形態の取り付け部4は、締め付けバンド4dと、締め金具4eとで構成されている。締め付けバンド4dは、筒状の保護層体3の右端、左端のそれぞれの開口を締め付けてそれぞれ口金部1c、1dに固定する。締め金具4eは、締め付けバンド4dを所定長さで締め付け固定し、また、その解除行う。
【0041】
この保護カバー2を防舷材1Aの所定位置に配置するには、保護層体3を防舷材1A(胴体部1aおよびそれぞれの鏡部1b)に外挿した後、保護層体3の右端、左端それぞれの開口を取り付け部4によって締め付けて口金部1c、1dに取り付ける。
【0042】
この実施形態によれば、実質的に防舷材1Aの全体の外面が、保護層体3によって、水面に浮遊する油Cから隔絶されて保護される。これにより、防舷材1Aの膨潤劣化を抑制するには一段と有利になる。
【0043】
この実施形態においても、先の実施形態で述べた種々の構成を採用することができる。また、使用方法や交換についても先の実施形態と同様に行うことができる。
【0044】
また、本発明の横型空気式防舷材1(以下、防舷材1という)は、従来の防舷材1Aに対して上述した種々の保護層体3を着脱自在に備えたものである。
【0045】
防舷材1の別の実施形態を
図5に例示する。
【0046】
この防舷材1は、少なくとも胴体部1a全体の外面およびそれぞれの鏡部1bにおける半径方向外側で鏡部1bの総面積の半分の面積となる外面の領域を被覆する保護層体3を備えていて、この保護層体3が加硫接着によって防舷材1として一体化している。即ち、保護層体3の内面が、対向する面とすき間なく密着固定されている。従来の防舷材1Aの外面に保護層体3を追加的に加硫接着することも、従来の防舷材1Aの外層ゴムに置き換えて保護層体3を加硫接着することもできる。
【0047】
保護層体3としては、上述した種々の仕様を用いることができる。ただし、保護層体3のみが着脱できる仕様ではないので、保護層体3を交換することができない。そのため、保護層体3は耐油性部材により形成される。また、保護層体3は圧縮および復元変形に追従する必要があるので、ゴム等の弾性部材により形成されることが好ましい。
【0048】
防舷材1の使用方法は上述した実施形態と同様である。この防舷材1によれば、防舷材1の保護層体3により被覆された範囲は水面に浮遊する油Cと隔絶され、実質的に防舷材1に油Cが付着することを回避できる。それ故、水面に浮遊する油Cによる防舷材1の膨潤劣化を効果的に抑制できる。
【0049】
この防舷材1では上述した取り付け部4が不要になるという利点、保護層体3がずれないという利点がある。
【0050】
図5に例示した実施形態では、それぞれの鏡部1bの一部の外面は保護層体3により被覆されているが、保護層体3に被覆されずに露出している部分がある。そこで、
図6に例示する防舷材1の実施形態では、保護層体3が、胴体部1a全体の外面およびそれぞれの鏡部1b全体の外面を被覆する構成になっている。
【0051】
この実施形態によれば、実質的に防舷材1の全体の外面が、保護層体3によって、水面に浮遊する油Cから隔絶されて保護される。これにより、防舷材1の膨潤劣化を抑制するには一段と有利になる。
【符号の説明】
【0052】
1 本発明の横型空気式防舷材
1A 従来の横型空気式防舷材
1a 胴体部
1b 鏡部
1c 口金部(右側)
1d 口金部(左側)
2 保護カバー
3 保護層体
4 取り付け部
4a 接続部材
4b 紐状体
4c 固定部材
4d 締め付けバンド
4e 締め金具
5 ガイチェーン
A 空気
C 油