【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、下記例におけるカチオン化度は、以下の方法により求めた。
試料となる重合体を水に溶解して、重合体濃度1ppmの溶液を得た。その溶液に対し、BTG社製チャージアナライザーMutek PCD−04型を用いて、0.001Nポリエチレンスルホン酸ナトリウムを滴下し、電荷量を測定した。そして、溶液1リットル当たりの電荷量を求め、その値をカチオン化度とした。
【0040】
(実施例1)
「紙料の調製」
脱墨パルプを離解してフリーネスを400mlC.S.F.とした。離解したパルプ100質量部に対して、硫酸バンド1質量部、カチオン化澱粉(王子コーンスターチ株式会社製エースK−100)1質量部、内添サイズ剤としてアルケニル無水コハク酸(荒川化学工業株式会社製サイズパインSA−864、表中では「ASA」と表記する。)0.3質量部を添加した。その後、填料として炭酸カルシウムを20質量部混合し、さらに歩留り向上剤(協和産業株式会社製キースロックRP40L、ポリアクリルアミド)を0.011質量部添加して、紙料を得た。
【0041】
「表面処理液の調製」
水中に、アルキル変性澱粉(王子コーンスターチ株式会社製GRS−T110、表中では「GRS」と表記する。)を60質量部、表面サイズ剤(星光PMC株式会社製SE2220)を1質量部、式(1)で表される構造及び式(2)で表される構造を有するアミン系重合体(日華化学株式会社製、ネオフィックスE−117、質量平均分子量:2,500、カチオン化度4.0meq/L、表中では「E−117」と表記する。)を40質量部の割合で添加して、固形分濃度4質量%の表面処理液を得た。なお、表面処理液の各成分の質量部数は、前記原紙のパルプを100質量部とした部数である。
【0042】
「インクジェット記録用紙の作製」
調製した紙料を、長網多筒型抄紙機を用い、坪量が42g/m
2になるように抄紙して原紙を得、長網多筒型抄紙機内の2ロールサイズプレス機を用いて前記原紙の両面に前記表面処理液を、乾燥塗布量が片面あたり1.3g/m
2となるように、塗布した。その後、長網多筒型抄紙機内の熱風乾燥機を用い、130℃で乾燥して、塗布層を有するインクジェット記録用紙を得た。
塗布層における片面あたりのアルキル変性澱粉の含有量、アミン系重合体の含有量、表面サイズ剤の含有量を表1に示す。なお、他の実施例及び比較例についても、塗布層における片面あたりの澱粉の含有量、アミン系重合体の含有量、表面サイズ剤の含有量を表1〜3に示す。
【0043】
(実施例2)
表面サイズ剤を添加せずに得た表面処理液を用いた以外は実施例1と同様にして、塗布層を有するインクジェット記録用紙を得た。
【0044】
(実施例3)
表面処理液の片面あたりの乾燥塗布量を0.3g/m
2に変更した以外は実施例1と同様にして、塗布層を有するインクジェット記録用紙を得た。
【0045】
(実施例4)
表面処理液の片面あたりの乾燥塗布量を2.3g/m
2に変更した以外は実施例1と同様にして、塗布層を有するインクジェット記録用紙を得た。
【0046】
(実施例5)
表面処理液におけるアルキル変性澱粉の添加量を78質量部に、アミン系重合体の添加量を22質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、塗布層を有するインクジェット記録用紙を得た。
【0047】
(実施例6)
表面処理液におけるアルキル変性澱粉の添加量を34質量部に、アミン系重合体の添加量を66質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、塗布層を有するインクジェット記録用紙を得た。
【0048】
(実施例7)
原紙における炭酸カルシウムの含有量を2質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、塗布層を有するインクジェット記録用紙を得た。
【0049】
(実施例8)
原紙における炭酸カルシウムの含有量を35質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、塗布層を有するインクジェット記録用紙を得た。
【0050】
(実施例9)
原紙における内添サイズ剤の含有量を0.5質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、塗布層を有するインクジェット記録用紙を得た。
【0051】
(実施例10)
原紙における内添サイズ剤の含有量を0.05質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、塗布層を有するインクジェット記録用紙を得た。
【0052】
(実施例11)
原紙における内添サイズ剤を、アルキルケテンダイマー(荒川化学工業株式会社製サイズパイン K−287、表中では「AKD」と表記する。)0.3質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、塗布層を有するインクジェット記録用紙を得た。
【0053】
(実施例12)
原紙の坪量を15g/m
2に変更した以外は実施例1と同様にして、塗布層を有するインクジェット記録用紙を得た。
【0054】
(実施例13)
原紙の坪量を67g/m
2に変更した以外は実施例1と同様にして、塗布層を有するインクジェット記録用紙を得た。
【0055】
(実施例14)
原紙を構成するパルプを脱墨古紙パルプ90質量部、広葉樹晒クラフトパルプ10質量部に変更した以外は実施例1同様にして、塗布層を有するインクジェット記録用紙を得た。
【0056】
(比較例1)
表面処理液におけるアルキル変性澱粉の添加量を100質量部に、アミン系重合体の添加量を0質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、塗布層を有するインクジェット記録用紙を得た。
【0057】
(比較例2)
アミン系重合体を、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(センカ株式会社製ユニセンスCP−103、質量平均分子量140,000、カチオン化度3.1meq/L、表中では「CP−103」と表記する。)に変更した以外は実施例1と同様にして、塗布層を有するインクジェット記録用紙を得た。
【0058】
(比較例3)
アミン系重合体を、ポリアミン・エピクロルヒドリン共重合体(星光PMC株式会社製DK6802、質量平均分子量1,000、カチオン化度3.2meq/L、表中では「DK6802」と表記する。)に変更した以外は実施例1と同様にして、塗布層を有するインクジェット記録用紙を得た。
【0059】
(比較例4)
アルキル変性澱粉を、酸化澱粉(王子コーンスターチ株式会社製エースA、表中では「エースA」と表記する。)に変更した以外は実施例1と同様にして、塗布層を有するインクジェット記録用紙を得た。
【0060】
(比較例5)
アルキル変性澱粉を、ポリビニルアルコール(株式会社クラレ製PVA−117、表中では「PVA」と表記する。)に変更した以外は実施例1と同様にして、塗布層を有するインクジェット記録用紙を得た。
【0061】
(比較例6)
脱墨パルプ60質量部、サーモメカニカルパルプ20質量部、グラインドパルプ10質量部、針葉樹晒クラフトパルプ10質量部の割合で混合した後、離解してフリーネスを400mlC.S.F.とした。この離解したパルプ100質量部に対し、硫酸バンド1質量部、カチオン化澱粉(王子コーンスターチ株式会社製エースK−100)1質量部、内添サイズ剤としてアルケニル無水コハク酸(荒川化学工業株式会社製サイズパイン SA−864)0.3質量部を添加した。その後、填料として炭酸カルシウムを20質量部混合し、さらに歩留り向上剤(協和産業株式会社製キースロックRP40L、ポリアクリルアミド)を0.011質量部添加した。これにより調製した紙料を、長網多筒型抄紙機を用い、坪量が42g/m
2になるように抄紙して原紙を得た。
その原紙を用いた以外は実施例1と同様にして、塗布層を有するインクジェット記録用紙を得た。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
<評価>
各実施例及び比較例で得たインクジェット記録用紙について、以下に示す方法により評価した。得られた結果を表1〜3に示す。
【0066】
[坪量]
各例で得たインクジェット記録用紙の坪量を、JIS P 8124:2011に従って測定した。
【0067】
[灰分]
各例で得たインクジェット記録用紙の灰分を、JIS P 8251:2003に従って測定した。
【0068】
[白色度]
各例で得たインクジェット記録用紙の白色度を、JIS P 8148に従って測定した。なお、通常、新聞用紙の白色度は52〜58%の範囲内である。
【0069】
[不透明度]
各例で得たインクジェット記録用紙の不透明度を、JIS P 8149に従って測定した。
【0070】
[表面電気抵抗]
各例で得たインクジェット記録用紙を、室温23℃、湿度50%の温湿度環境にて4時間調湿した後、株式会社アドバンテスト製電気抵抗計R8340Aを用いて、表面電気抵抗を測定した。なお、表面電気測定値が1GΩ以上であれば、実用上問題がない。
【0071】
[印刷画質/にじみ防止性]
各例で得たインクジェット記録用紙の片面に、インクジェット印刷機(キヤノンプロダクションプリンティングシステム株式会社製ColorStream 3900)を用い、GS1−128コードのバーコードを印刷した。
次いで、バーコードを印刷したインクジェット記録用紙に対し、バーコード検証機(RJS社製Inspector D4000)を用い、バーコードリーダーを10回走査させた。その際の、バーコードを読み取れた回数を測定し、以下の基準で評価した。
(評価基準)
5:バーコードリーダーの10回の走査の内、10回読み取れる。
4:バーコードリーダーの10回の走査の内、9回読み取れる。
3:バーコードリーダーの10回の走査の内、6回以上9回未満読み取れる。
2:バーコードリーダーの10回の走査の内、読み取れる回数が5回未満である、又は、読み取り回数が0回であってもバーコードに対して複数のレーザ走査線を通過させると読み取れる。
1:バーコードを読み取ることができない。
なお、評価の数値が大きい程、インクジェット印刷による印刷画質に優れ、インクジェット印刷適性に優れることを意味する。評価が3以上であれば、実用上問題がない。
【0072】
[印刷画質/細線再現性]
各例で得たインクジェット記録用紙の片面に、インクジェット印刷機(キヤノンプロダクションプリンティングシステム株式会社製ColorStream 3900)を用い、ゴシック体の6ポイントの文字を印刷した。印刷した文字は、「1」、「2」、「3」、「4」、「5」、「6」、「7」、「8」、「9」、「10」とした。印刷した文字を目視観察し、細線の再現性を下記基準で評価した。
(評価基準)
5:数字の細線部分ににじみ又はつぶれが全くなく、数字の判別に影響がない。
4:数字の細線部分ににじみ又はつぶれが僅かにあるが、数字の判別に影響がない。
3:数字の細線部分ににじみ又はつぶれがあるが、全ての数字が判別できる。
2:数字の細線部分ににじみ又はつぶれがあり、「4」、「6」、「8」、「9」、「0」等の一部の数字が判別できない。
1:数字の細線部分ににじみ又はつぶれがあり、全ての数字が判別できない。
なお、評価の数値が大きい程、インクジェット印刷による印刷画質に優れ、インクジェット印刷適性に優れることを意味する。評価が3以上であれば、実用上問題がない。
【0073】
[裏抜け防止性]
各例で得たインクジェット記録用紙の両面に、インクジェット印刷機(キヤノンプロダクションプリンティングシステム株式会社製ColorStream 3700Z)を用い、日本規格協会発行の「カラーディジタル標準画像データ/N3」を印刷した。
そして、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各々のベタ印刷部、すなわち隙間なく印刷された部分の、印刷された面とは反対側の面(以下、「印刷裏面」という。)を目視観察し、印刷裏面への印刷インクの移行の程度(裏抜けの程度)を下記基準で評価した。
(評価基準)
5:印刷裏面への印刷インクの移行が全く見られず、印刷裏面に影響がない。
4:印刷裏面への印刷インクの移行が僅かに見られるが、印刷裏面に影響がない。
3:印刷裏面への印刷インクの移行が見られるが、印刷裏面の画像が損なわれていない。
2:印刷裏面への印刷インクの移行が見られ、印刷裏面の画像が損なわれている。
1:印刷裏面への印刷インクの著しい移行が見られる。
なお、評価が3以上であれば、実用上問題がない。
【0074】
[裏透け防止性]
各例で得たインクジェット記録用紙の片面に、インクジェット印刷機(キヤノンプロダクションプリンティングシステム株式会社製ColorStream 3700Z)を用い、日本規格協会発行の「カラーディジタル標準画像データ/N3」を印刷した。
そして、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各々のベタ印刷部、すなわち隙間なく印刷された部分の印刷裏面を目視観察し、印刷インクが透過して見える程度(裏透けの程度)を評価した。
評価は5段階とし、数値が大きい程、裏透け防止性が高いと評価した。なお、 評価が「3」以上であれば、実用上問題がない。
【0075】
[色調]
各例で得たインクジェット記録用紙を王子製紙株式会社製新聞用紙(SL新聞用紙)と比較し、色調の差を目視で下記の基準で評価した。
(評価基準)
5:新聞用紙と見かけの色調がほぼ同一である。
4:新聞用紙と見かけの色調に僅かな差があるが、新聞用紙として実用上問題がない。
3:新聞用紙と見かけの色調に差があるが、新聞用紙として実用上問題がない。
2:新聞用紙と見かけの色調に明確な差があり、新聞用紙として実用上問題がある。
1:新聞用紙と見かけの色調に大きな差があり、新聞用紙として実用上問題がある。
なお、評価が「3」以上であれば、実用上問題がない。
【0076】
[帳合適性]
各例で得たインクジェット記録用紙を、室温23℃、湿度50%の温湿度環境にて4時間調湿した後、新聞帳合機(HUNKELER製DC7)を用いて、用紙を折って重ねる帳合を行った。そして、帳合後の紙ずれの程度を目視観察により評価した。
評価は5段階とし、数値が大きい程、紙ずれが小さく、帳合適性を有すると評価した。なお、 評価が「3」以上であれば、実用上問題がない。
【0077】
[インク乾燥性]
各例で得たインクジェット記録用紙の片面に、インクジェット印刷機(キヤノンプロダクションプリンティングシステム株式会社製ColorStream 3900)を用い、ゴシック体の8ポイントの文字を印刷した。印刷した文字は、「1」、「2」、「3」、「4」、「5」、「6」、「7」、「8」、「9」、「10」とした。
そして、インクジェット印刷した用紙表面におけるインクの転写汚れを目視観察し、以下の基準で評価した。インクの転写汚れは、未乾燥のインクが印刷機のローラ等に付着し、その付着したインクが用紙に転写して生じる汚れである。この転写汚れは、用紙のインク乾燥性が低い程、発生しやすい。
(評価基準)
5:転写汚れが全くなく、数字の判別に影響がない。
4:転写汚れが僅かにあるが、数字の判別に影響がない。
3:転写汚れがあるが、全ての数字が判別できる。
2:転写汚れがあり、「4」、「6」、「8」、「9」、「0」等の一部の数字が判別できない。
1:転写汚れがあり、全ての数字が判別できない。
なお、評価が3以上であれば、印刷の乾燥性が高く、実用上問題がない。
【0078】
[耐擦過性]
各例で得たインクジェット記録用紙の片面に、インクジェット印刷機(キヤノンプロダクションプリンティングシステム株式会社製ColorStream 3900)を用い、ゴシック体の8ポイントの文字を印刷した。印刷した文字は、「1」、「2」、「3」、「4」、「5」、「6」、「7」、「8」、「9」、「10」とした。
そして、印刷面を布で10回擦り、印刷部の擦れ汚れの程度を目視観察し、以下の基準で評価した。
(評価基準)
5:擦れ汚れが全くなく、数字の判別に影響がない。
4:擦れ汚れが微かにあるが、数字の判別に影響がない。
3:擦れ汚れがあるが、全ての数字が判別できる。
2:擦れ汚れがあり、「4」、「6」、「8」、「9」、「10」等の一部の数字が判別できない。
1:擦れ汚れがあり、全ての数字が判別できない。
なお、評価の数値が大きい程、耐擦過性に優れ、評価が3以上であれば、実用上問題がない。
【0079】
[印刷均一性]
各例で得たインクジェット記録用紙の片面に、インクジェット印刷機(キヤノンプロダクションプリンティングシステム株式会社製ColorStream 3900)を用い、日本規格協会発行の「カラーディジタル標準画像データ/N3」を印刷した。
そして、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各々のベタ印刷部、すなわち隙間なく印刷された部分の印刷ムラを目視観察し、以下の基準で評価した。
(評価基準)
5:印刷ムラが全くなく、画像に影響がない。
4:印刷ムラが僅かにあるが、画像に影響がない。
3:印刷ムラがあるが、画像は損なわれていない。
2:印刷ムラがあり、画像が損なわれている。
1:著しい印刷ムラがある。
なお、評価の数値が大きい程、印刷均一性に優れ、評価が3以上であれば、実用上問題がない。
【0080】
各実施例では、式(1)で表される構造及び式(2)で表される構造を有するアミン系重合体とアルキル変性澱粉を含む表面処理液を、脱墨パルプ100質量部の原紙に塗布して、インクジェット記録用紙を得た。各実施例で得たインクジェット記録用紙は、印刷画質、裏抜け防止性、裏透け防止性、新聞色調及び帳合適性のいずれもが優れていた。
アミン系重合体を含まない表面処理液を用いた比較例1では、得られたインクジェット記録用紙の印刷画質、裏抜け防止性、裏透け防止性のいずれも低かった。
式(1)で表される構造及び式(2)で表される構造を有するアミン系重合体の代わりにポリジアリルジメチルアンモニウムクロライドを含む表面処理液を用いた比較例2では、得られたインクジェット記録用紙の帳合適性が低かった。
式(1)で表される構造及び式(2)で表される構造を有するアミン系重合体の代わりにポリアミン・エピクロルヒドリン共重合体を含む表面処理液を用いた比較例3では、得られたインクジェット記録用紙の印刷画質、帳合適性が低かった。
アルカリ変性澱粉の代わりに酸化澱粉を含む表面処理液を用いた比較例4では、得られたインクジェット記録用紙の印刷画質が低かった。
アルカリ変性澱粉の代わりにポリビニルアルコールを含む表面処理液を用いた比較例5では、得られたインクジェット記録用紙の印刷画質が低かった。
原紙の脱墨パルプ含有量を60質量部とした比較例6では、得られたインクジェット記録用紙の裏抜け防止性及び裏透け防止性が低く、色調が新聞色調に近いものではなかった。