(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6531741
(24)【登録日】2019年5月31日
(45)【発行日】2019年6月19日
(54)【発明の名称】熱伝導度検出器及びガスクロマトグラフ
(51)【国際特許分類】
G01N 30/66 20060101AFI20190610BHJP
G01N 25/18 20060101ALI20190610BHJP
G01N 27/18 20060101ALI20190610BHJP
【FI】
G01N30/66
G01N25/18 F
G01N27/18
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-175106(P2016-175106)
(22)【出願日】2016年9月8日
(65)【公開番号】特開2018-40697(P2018-40697A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2018年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中間 勇二
【審査官】
高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−094651(JP,A)
【文献】
米国特許第04316381(US,A)
【文献】
特開昭57−048655(JP,A)
【文献】
特開2016−142688(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/142688(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0236751(US,A1)
【文献】
中国実用新案第204807523(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00−30/96
G01N 25/00−25/72
G01N 27/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメントが配置された測定流路、一端が前記測定流路に接続され前記測定流路にガスを供給するガス導入流路、前記ガス導入流路の他端に接続されフィラメントが配置されていないバイパス流路、試料ガスを前記ガス導入流路に導入する試料ガス導入部、前記ガス導入流路の前記試料ガス導入部よりも前記測定流路に近い位置から参照ガスを前記ガス導入流路に導入する第1参照ガス導入部、及び前記ガス導入流路の前記試料ガス導入部よりも前記バイパス流路に近い位置から参照ガスを前記ガス導入流路に導入する第2参照ガス導入部を有し、参照ガスが前記第1参照ガス導入部から前記ガス導入流路に導入されたときに試料ガスが前記バイパス流路を流れ、参照ガスが前記第2参照ガス導入部から前記ガス導入流路に導入されたときに試料ガスが前記測定流路を流れるように構成された測定セルと、
前記第1参照ガス導入部から前記ガス導入流路に参照ガスを導入するリファレンスフェーズ、又は前記第2参照ガス導入部から前記ガス導入流路に参照ガスを導入するサンプルフェーズのいずれか一方のフェーズに選択的に切り替えるように、前記第1参照ガス導入部と前記第2参照ガス導入部との間で参照ガスの導入位置を切り替えるフェーズ切替機構と、
前記フィラメントの抵抗値に基づく信号を取り込み、前記フィラメントの抵抗値の変化量に基づいて前記測定流路を流れる流体の熱伝導度を測定する測定部と、を備え、
前記測定部は、前記フェーズ切替機構によって前記リファレンスフェーズから前記サンプルフェーズに切り替えられた後、予め設定された試料ガス測定開始時間が経過してから試料ガスの熱伝導度の測定を開始し、前記フェーズ切替機構によって前記サンプルフェーズから前記リファレンスフェーズに切り替えられた後、前記試料ガス測定開始時間とは異なる長さの時間として予め設定された参照ガス測定開始時間が経過してから参照ガスの熱伝導度の測定を開始するように構成されている熱伝導度検出器。
【請求項2】
前記参照ガス測定開始時間は前記試料ガス測定開始時間よりも短く設定されている請求項1に記載の熱伝導度検出器。
【請求項3】
前記試料ガス測定開始時間は、前記測定流路内の参照ガスが前記試料ガス導入部から導入された試料ガスによって置換されるのに要する時間を考慮して設定され、
前記参照ガス測定開始時間は、前記測定流路内の試料ガスが前記第1参照ガス導入部から導入された参照ガスによって置換されるのに要する時間を考慮して設定されている請求項2に記載の熱伝導度検出器。
【請求項4】
前記フェーズ切替機構は、前記サンプルフェーズが前記リファレンスフェーズよりも長くなるように、前記第1参照ガス導入部と前記第2参照ガス導入部との間で参照ガスの導入位置を切り替える請求項1から3のいずれか一項に記載の熱伝導度検出器。
【請求項5】
試料を気化するとともに気化した試料をキャリアガスと混合して試料ガスとして供給する試料気化部と、
前記試料気化部からの試料ガス中の試料を成分ごとに分離する分析カラムと、
請求項1から4のいずれか一項に記載の熱伝導度検出器であって、前記分析カラムで分離された各試料成分を検出する熱伝導度検出器と、を備えたガスクロマトグラフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導度検出器及びその熱伝導度検出器を備えたガスクロマトグラフに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱伝導度検出器は、フィラメントが配置された測定流路内でガスを流し、そのときのフィラメントの抵抗値の変化量を検出することによって、測定流路を流れるガスの熱伝導度を求め、それによってクロマトグラムを得るというものである。加熱されたフィラメントが配置された測定流路にガスを流すと、ガスの熱伝導によってフィラメントの熱が奪われ、フィラメントの抵抗値が変化する。試料を含むガス(試料ガス)を流したときのフィラメント抵抗値が試料を含まないキャリアガス(参照ガス)を流したときの抵抗値からどれだけ変化したかを測定することで、クロマトグラムが得られる。
【0003】
試料ガスと参照ガスの測定を並行して行なうために、熱伝導度検出器にはシングルフィラメント方式のものとマルチフィラメント方式のものが存在する。マルチフィラメント方式の熱伝導度検出器は、試料ガスを流すための流路と参照ガスを流すための流路があり、それぞれの流路にフィラメントが配置される。この方式の熱伝導度検出器は、試料ガスと参照ガスを同時に測定することができるという利点はあるものの、温度特性等の性質が完全に一致する2つのフィラメントを作製することは不可能であることから、試料ガス測定用のフィラメントと参照ガス測定用のフィラメントで僅かながら差を生じ、その差により測定感度のばらつきやクロマトグラムの経時ドリフトが生じるという課題がある。
【0004】
シングルフィラメント方式の熱伝導度検出器は、フィラメントが配置された測定流路を1つのみ備え、その測定流路に試料ガスと参照ガスを周期的に切り替えて導入する(特許文献1参照。)。試料ガスと参照ガスの測定を同一のフィラメントを用いて行なうため、試料ガス測定時と参照ガス測定時で測定感度のばらつきを抑え,また試料ガス測定時のデータと参照ガス測定時のデータの差分を取ることでクロマトグラムの経時ドリフトを除去することができる。
【0005】
シングルフィラメント方式の熱伝導度検出器は、試料ガスと参照ガスを交互に測定流路へ導入するために、試料ガス導入部よりも測定流路に近い位置と遠い位置にそれぞれ参照ガス導入部を備えている。そして、参照ガスを試料ガス導入部よりも測定流路に近い位置から導入すると、参照ガスが測定流路を流れ、試料ガスは参照ガスの圧力によって試料ガス導入部を挟んで測定流路とは反対側に設けられたバイパス流路を流れる。逆に、参照ガスを試料ガス導入部よりも測定流路に遠い位置から導入すると、試料ガスが測定流路を流れ、参照ガスがバイパス流路を流れる。
【0006】
このようにして、測定流路を試料ガスが流れる状態(サンプルフェーズ)と測定流路を参照ガスが流れる状態(リファレンスフェーズ)とを周期的に切り替え、各フェーズで得られる信号を交互に取得する。サンプルフェーズとリファレンスフェーズのそれぞれで取得した信号の差分を取ることにより経時ドリフトを除去することができるため、安定性が非常に優れている。
【0007】
特許文献1では、通常の分析時は、参照ガスの導入位置を切り替える電磁弁の切替えを周期的に行なっているが、フィラメントにダメージを与える(信号が飽和する)試料ガスが流れてきたときは、測定流路を参照ガスが流れる状態(リファレンスフェーズ)に固定してフィラメントにダメージを与える試料ガスが測定流路を流れることを防ぎ、フィラメントへのダメージを減らす工夫がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第7185527号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のようなシングルフィラメント方式の熱伝導度検出器の検出感度を向上させることができるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る熱伝導度検出器は、シングルフィラメント方式の熱伝導度検出器であって、測定セル、フェーズ切替機構及び測定部を備えている。測定セルは、フィラメントが配置された測定流路、一端が前記測定流路に接続され前記測定流路にガスを供給するガス導入流路、前記ガス導入流路の他端に接続されフィラメントが配置されていないバイパス流路、試料ガスを前記ガス導入流路に導入する試料ガス導入部、前記ガス導入流路の前記試料ガス導入部よりも前記測定流路に近い位置から参照ガスを前記ガス導入流路に導入する第1参照ガス導入部、及び前記ガス導入流路の前記試料ガス導入部よりも前記バイパス流路に近い位置から参照ガスを前記ガス導入流路に導入する第2参照ガス導入部を有する。そして、当該測定セルは、参照ガスが前記第1参照ガス導入部から前記ガス導入流路に導入されたときに試料ガスが前記バイパス流路を流れ、参照ガスが前記第2参照ガス導入部から前記ガス導入流路に導入されたときに試料ガスが前記測定流路を流れるように構成されている。
【0011】
フェーズ切替機構は、前記第1参照ガス導入部から前記ガス導入流路に参照ガスを導入するリファレンスフェーズ、又は前記第2参照ガス導入部から前記ガス導入流路に参照ガスを導入するサンプルフェーズのいずれか一方のフェーズに選択的に切り替えるように、前記第1参照ガス導入部と前記第2参照ガス導入部との間で参照ガスの導入位置を切り替える。
【0012】
測定部は、前記フィラメントの抵抗値に基づく信号を取り込み、前記フィラメントの抵抗値の変化量に基づいて前記測定流路を流れる流体の熱伝導度を測定するものである。
【0013】
シングルフィラメント方式の測定セルは、上記のように試料ガス導入部よりも測定流路に近い位置と遠い位置のそれぞれの位置に参照ガス導入部が設けられており、リファレンスフェーズでは試料ガス導入部よりも測定流路に近い第1参照ガス導入部から参照ガスが導入される。そのため、サンプルフェーズに切り替えられてから測定流路内のガスがすべて試料ガスによって置換されるまでに要する時間と、リファレンスフェーズに切り替えられてから測定流路内のガスがすべて参照ガスによって置換されるまでに要する時間が異なる。
【0014】
従来では、測定流路内のガスがすべて試料ガス又は参照ガスによって置換されるのに十分な時間を見越して、いずれのフェーズにおいても、フェーズが切り替えられてから一定時間が経過するまで待機した後で、フィラメントからの信号を取り込んでガスの熱伝導度の測定を開始していた。しかし、上記のように、測定流路内のガスがすべて置換されるまでに要する時間は、サンプルフェーズとリファレンスフェーズで異なっており、少なくもいずれかのフェーズでは無駄な待機時間が生じていることになる。本発明者は無駄な待機時間を短縮することによって、検出感度の向上が図られることを見出した。
【0015】
本発明に係る熱伝導度検出器の測定部は、前記フェーズ切替機構によって前記リファレンスフェーズから前記サンプルフェーズに切り替えられた後、予め設定された試料ガス測定開始時間が経過してから試料ガスの熱伝導度の測定を開始し、前記フェーズ切替機構によって前記サンプルフェーズから前記リファレンスフェーズに切り替えられた後、前記試料ガス測定開始時間とは異なる長さの時間として予め設定された参照ガス測定開始時間が経過してから参照ガスの熱伝導度の測定を開始するように構成されている。
【0016】
すなわち、本発明の熱伝導度検出器は、リファレンスフェーズからサンプルフェーズに切り替えられた後、試料ガスの熱伝導度測定が開始されるまでの待機時間である試料ガス測定開始時間と、サンプルフェーズからリファレンスフェーズに切り替えられた後、参照ガスの熱伝導度測定が開始されるまでの待機時間である参照ガス測定開始時間とが異なっている。
【0017】
リファレンスフェーズでは、試料ガス導入部よりも近い位置に設けられた参照ガス導入部から参照ガスが測定流路に導入されることになるので、測定流路内のガスがすべて参照ガスによって置換されるまでに要する時間は、測定流路内のガスがすべて試料ガスによって置換されるまでに要する時間よりも短いことになる。そこで、参照ガス測定開始時間は試料ガス測定開始時間よりも短く設定されていることが好ましい。そうすれば、リファレンスフェーズにおける無駄な待機時間の短縮を図ることができる。
【0018】
より好ましい実施態様では、試料ガス測定開始時間は、前記測定流路内の参照ガスが前記試料ガス導入部から導入された試料ガスによって置換されるのに要する時間を考慮して設定され、前記参照ガス測定開始時間は、前記測定流路内の試料ガスが前記第1参照ガス導入部から導入された参照ガスによって置換されるのに要する時間を考慮して設定されている。これにより、サンプルフェーズとリファレンスフェーズの両方のフェーズにおいて無駄な待機時間を減らすことができる。
【0019】
上記のように、各フェーズにおける無駄な待機時間を減らせば、リファレンスフェーズにおける参照ガス測定開始時間はサンプルフェーズにおける試料ガス測定開始時間よりも短くなる。したがって、各フェーズにおける測定時間として同じ長さの時間を確保すれば、リファレンスフェーズはサンプルフェーズよりも短くなる。そこで、本発明の熱伝導度検出器において、フェーズ切替機構は、サンプルフェーズがリファレンスフェーズよりも長くなるように、第1参照ガス導入部と第2参照ガス導入部との間で参照ガスの導入位置を切り替えるようになっていてもよい。
【0020】
本発明に係るガスクロマトグラフは、試料を気化するとともに気化した試料をキャリアガスと混合して試料ガスとして供給する試料気化部と、分析カラムで分離された各試料成分を検出する検出器を備え、検出器として上記の熱伝導度検出器が用いられているものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る熱伝導度検出器は、リファレンスフェーズからサンプルフェーズに切り替えられた後、試料ガスの熱伝導度測定が開始されるまでの待機時間である試料ガス測定開始時間と、サンプルフェーズからリファレンスフェーズに切り替えられた後、参照ガスの熱伝導度測定が開始されるまでの待機時間である参照ガス測定開始時間とが異なっているので、サンプルフェーズとリファレンスフェーズとで、測定流路内のガスがすべて置換されるまでに要する時間が異なっていることに関係なく一律に待機時間が設けられているものとは差別化が図られる。
【0022】
すなわち、本発明に係る熱伝導度検出器は、測定流路内のガスが置換されるまでに要する時間の違いにより、試料ガス測定開始時間と参照ガス測定開始時間とが異なる長さに設定されているため、少なくとも一方のフェーズにおける無駄な待機時間の低減が図られる。熱伝導度の測定開始前の無駄な待機時間が低減されれば、その分だけフェーズの切替え頻度を多くして時間分解能の向上を図ったり、フィラメントからの信号取得時間を長くとってS/Nの向上を図ったりすることができる。また、無駄な待機時間をなくしつつ測定流路の長さを長くしてより長いフィラメントを配置するなどして設計の最適化を図ることで、感度の向上を図ることも可能になる。
【0023】
本発明に係るガスクロマトグラフは、検出器として上記の熱伝導度検出器を備えているので、検出器の検出感度の向上が図られ、分析精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】熱伝導度検出器を備えたガスクロマトグラフの一実施例を概略的に示す構成図である。
【
図2】同実施例の熱伝導度検出器の測定セルの(A)サンプルフェーズにおけるガスの置換容量、(B)リファレンスフェーズにおけるガスの置換容量をそれぞれ示す概念図である。
【
図3】同実施例の熱伝導度検出器において各フェーズにおける測定開始時間を均一に設定した場合のタイムチャートの一例である。
【
図4】同実施例の熱伝導度検出器において各フェーズにおける測定開始時間を不均一に設定した場合のタイムチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、熱伝導度検出器及びそれを備えたガスクロマトグラフの一実施例について、図面を用いて説明する。
【0026】
まず、
図1を用いて一実施例のガスクロマトグラフ及びそれに用いられている熱伝導度検出器について説明する。
【0027】
ガスクロマトグラフは、試料を成分ごとに分離するための分析カラム2の一端に試料気化部4が接続され、分析カラム2の他端に検出器10が接続されている。分析カラム2はカラムオーブン8内に収容され温調される。試料気化部4にはインジェクタ6が設けられており、インジェクタ6から注入された試料が試料気化部4内で気化し、試料気化部4に供給されるキャリアガスとともに分析カラム2へ導かれる。分析カラム2に導入された試料ガスは成分ごとに分離され、検出器10に導かれて検出される。
【0028】
検出器10は、分析カラム2からの試料ガスを流通させる測定セル12を備えている。分析カラム2の他端は測定セル12に設けられた入口ポート14に接続されている。測定セル12の内部に、フィラメント18が配置された測定流路16と、フィラメントの配置されていないバイパス流路20が設けられている。測定流路16の一端とバイパス流路20の一端は互いにガス導入流路22によって接続されており、測定流路16の他端とバイパス流路20の他端は互いにガス排出流路38によって接続されている。すなわち、測定流路16とバイパス流路20は、ガス導入流路22及びガス排出流路38によって互いに並列に接続されている。
【0029】
ガス導入流路22の途中の位置に、試料ガス導入部24と第1参照ガス導入部26及び第2参照ガス導入部28が設けられている。試料ガス導入部24は流路を介して入口ポート14と接続されており、分析カラム2からの試料ガスが試料ガス導入部24を介してガス導入流路22に導入される。
【0030】
第1参照ガス導入部26は試料ガス導入部24よりも測定流路16に近い位置に設けられており、第2参照ガス導入部28は試料ガス導入部24よりも測定流路16から遠く、バイパス流路20に近い位置に設けられている。第1参照ガス導入部26及び第2参照ガス導入部28はともに、参照ガスボンベ30からの参照ガスが流れる参照ガス供給流路32に三方電磁弁36を介して接続されている。参照ガスボンベ30から供給される参照ガスは、試料気化部4に供給されるキャリアガスと同じガスである。参照ガス供給流路32を流れる参照ガスの流量は圧力制御バルブ34によって制御される。
【0031】
三方電磁弁36は参照ガス供給流路32を第1参照ガス導入部26へ通じる流路又は第2参照ガス導入部28に通じる流路のいずれか一方の流路に選択的に切り替えて接続するものである。参照ガスが第1参照ガス導入部28からガス導入流路22に導入されると、測定流路16側の圧力がバイパス流路20側の圧力よりも高くなる。そのため、試料ガス導入部24から導入された試料ガスはバイパス流路20を流れ、測定流路16を参照ガスが流れる状態となる(リファレンスフェーズ)。逆に、参照ガスが第2参照ガス導入部28からガス導入流路22に導入されると、バイパス流路20側の圧力が測定流路16側の圧力よりも高くなる。そのため、試料ガス導入部24から導入された試料ガスが測定流路16を流れる状態となる(サンプルフェーズ)。
【0032】
すなわち、三方電磁弁36は、ガス導入流路22に対する参照ガスの導入位置を切り替えることによってサンプルフェーズとリファレンスフェーズのいずれか一方のフェーズに切り替えるフェーズ切替機構をなしている。なお、フェーズ切替機構はこのようなバルブ方式のものに限られず、測定流路16を流れるガスを試料ガスと参照ガスとの間で切り替えることができるものであれば、いかなるものであってもよい。
【0033】
測定流路16とバイパス流路20を経たガスはガス排出流路38に設けられた出口部40を通じて外部へ排出される。
【0034】
熱伝導度検出器10はさらに演算制御部42を備えている。演算制御部42は、専用のコンピュータ又は汎用のパーソナルコンピュータによって実現される。演算制御部42は、その機能として測定部44、測定開始時間保持部46及びフェーズ切替制御部48を備えている。
【0035】
測定部44は、サンプルフェーズ及びリファレンスフェーズにおける所定のタイミングでフィラメント18の抵抗値を信号として読み取り、その信号から測定流路16を流れる試料ガスの電気伝導度を測定するように構成されている。サンプルフェーズ及びリファレンスフェーズの各フェーズに切り替えられてから熱伝導度の測定を開始するまでの時間は予め設定されており、試料ガス測定開始時間及び参照ガス測定開始時間として測定開始時間保持部46に保持されている。
【0036】
フェーズ切替制御部48は、サンプルフェーズとリファレンスフェーズとが所定のタイミングで切り替えられるように、三方電磁弁36の切替え動作を制御するように構成されている。測定部44による熱伝導度の測定動作はフェーズ切替制御部48によるフェーズの切替え動作に同期してなされる。
【0037】
この実施例の熱伝導度検出器10は、サンプルフェーズに切り替えられてから熱伝導度の測定が開始されるまでの試料ガス測定開始時間の長さと、リファレンスフェーズに切り替えられてから熱伝導度の測定が開始されるまでの参照ガス測定開始時間の長さが異なっており、参照ガス測定開始時間は試料ガス測定開始時間よりも短く設定されている。その理由について
図2を用いて説明する。
【0038】
図2は、各フェーズの際に測定流路16内のガスをすべて置換するために必要な流路内の容量を模式的に示したものであり、(A)はサンプルフェーズ、(B)はリファレンスフェーズを示している。これらの図において、破線で囲われハッチングのなされた領域が、各フェーズに切り替えられた際にガスが置換されなければならない領域である。これらの図からわかるように、サンプルフェーズで測定流路16内のガスをすべて試料ガスによって置換するために導入すべき試料ガスの量は、リファレンスフェーズで測定流路16内のガスをすべて参照ガスによって置換するために導入すべき参照ガスの量よりも多い。すなわち、試料ガスの流量と参照ガスの流量が同じである場合には、サンプルフェーズに切り替えられてから熱伝導度の測定が可能になるまでの時間は、リファレンスフェーズに切り替えられてから熱伝導度の測定が可能になるまでの時間よりも長くなる。
【0039】
このような事情があるにも拘わらず、サンプルフェーズとリファレンスフェーズで、フェーズが切り替えられてから熱伝導度の測定を開始するまでの時間(T
start)を同じに設定した場合、
図3のタイムチャートに示されるような無駄な待機時間Aが生じる。すなわち、測定流路16内のガスを置換するのに要する時間(T
rep1)がサンプルフェーズのそれ(T
rep2)よりも短いリファレンスフェーズでは、ガスの置換が完了しているにも関わらず熱伝導度測定が開始されないため、時間Aが経過するまで待機する必要がある。
【0040】
これに対し、この実施例の熱伝導度検出器10では、
図4のタイムチャートに示されているように、参照ガス測定開始時間(T
start1)が試料ガス測定開始時間(T
start2)よりも短く設定され、無駄な待機時間Aが生じないようになっている。この実施例では、参照ガス測定開始時間(T
start1)及び試料ガス測定開始時間(T
start2)がそれぞれ、測定流路16内のガスを参照ガスが置換するのに要する時間(T
rep1)と測定流路16内のガスを試料ガスが置換するのに要する時間(T
rep2)を考慮して設定されている。これにより、リファレンスフェーズとサンプルフェーズの両フェーズにおいて無駄な待機時間が生じないようになっている。
【0041】
この実施例では、リファレンスフェーズとサンプルフェーズで、測定部44によるフィラメント18からの信号読取り時間(T
data)として同じ長さの時間をとっているため、リファレンスフェーズの長さ(T
ref)とサンプルフェーズ(T
samp)の長さが異なっている。演算制御部42のフェーズ切替制御部48は、リファレンスフェーズとサンプルフェーズの長さがこのように異なるように、三方電磁弁36による切替えのタイミングを制御する。
【0042】
上記のように、リファレンスフェーズにおける無駄な待機時間Aをなくすことで、熱伝導度検出器10の検出感度を高めるための種々の改良が可能となる。例えば、単純に無駄な待機時間Aがなくなることで、フェーズの切替えタイミングを早くすることができ、それによって検出信号の時間分解能が向上する。また、待機時間Aに相当する時間を分割してリファレンスフェーズとサンプルフェーズのそれぞれの信号取得時間(T
data)に割り振れば、リファレンスフェーズとサンプルフェーズを合わせた測定1サイクルの時間を長くすることなく、これまでよりも長く信号の取得を行なうことができ、S/Nを向上させることができる。
【0043】
また、待機時間Aがなくなることから、測定1サイクルの時間を長くすることなく、測定流路16内のガスを参照ガスが置換するのに要する時間(T
rep1)と測定流路16内のガスを試料ガスが置換するのに要する時間(T
rep2)を長くとることもできる。すなわち、測定流路16をより長く設計することができる。測定流路16を長くとれば、それだけ長さの長いフィラメント18を配置することができるので、検出感度が向上し、最小検出量を向上させることができる。
【0044】
なお、上記実施例では、測定部44、測定開始時間46、フェーズ切替制御部48が同じ演算制御部42に設けられているが、これらの一部は別の装置の機能として設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0045】
2 分析カラム
4 試料気化部
6 インジェクション
8 カラムオーブン
10 熱伝導度検出器
12 測定セル
14 入口ポート
16 測定流路
18 フィラメント
20 バイパス流路
22 ガス導入流路
24 試料ガス導入部
26 第1参照ガス導入部
28 第2参照ガス導入部
30 参照ガスボンベ
32 参照ガス供給流路
34 圧力制御バルブ
36 三方電磁弁(フェーズ切替機構)
38 ガス排出流路
40 出口ポート
42 演算制御部
44 測定部
46 測定開始時間保持部
48 フェーズ切替制御部