(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ホログラム層を有して2次元に配置された複数の画像セルを備え、前記ホログラム層が、第1方向に沿って延びる1次元の格子パターンを前記第1方向と直交する第2方向に沿って繰り返す回折格子を含む画像表示デバイスであって、
前記第2方向に沿って並び、かつ、1つの色に対応付けられた複数の前記画像セルが、1つの画像セル群であり、
前記画像セル群は、前記画像表示デバイスに対する所定の方向に視点が位置する状態で、前記画像セル群を構成する複数の前記画像セルの各々が相互に同じ色を表示するように、前記第2方向における前記画像セル群の一方の端部からの距離が大きいほど前記回折格子の空間周波数が小さい部分を含み、
前記画像表示デバイスは、複数の前記画像セルによって構成され、画像を表示する画像表示部を備え、
前記画像の横方向が前記第1方向であり、前記画像の縦方向が前記第2方向である
ことを特徴とする画像表示デバイス。
ホログラム層を有して2次元に配置された複数の画像セルを備え、前記ホログラム層が、第1方向に沿って延びる1次元の格子パターンを前記第1方向と直交する第2方向に沿って繰り返す回折格子を含む画像表示デバイスであって、
前記第2方向に沿って並び、かつ、1つの色に対応付けられた複数の前記画像セルが、1つの画像セル群であり、
前記画像表示デバイスに対する所定の方向に視点が位置する状態で、1つの前記画像セル群を構成する複数の前記画像セルの各々が相互に同じ色を表示するように、前記画像セル群は、前記画像セル群における前記回折格子の空間周波数fと、前記1つの色の光の波長λとが下記式(1)を満たす部分を有する
f=(sinα−sinβ)/λ (α>β) ・・・(1)
入射角αは、前記画像表示デバイスに対する照明光の入射角であり、
回折角βは、前記格子パターンにおける回折光の中で前記視点を通る回折光の回折角であり、
前記画像表示デバイスは、複数の前記画像セルによって構成され、画像を表示する画像表示部を備え、
前記画像の横方向が前記第1方向であり、前記画像の縦方向が前記第2方向である
ことを特徴とする画像表示デバイス。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のOVD技術を利用したパスポートであっても、それの偽造や改竄などの不正行為は後を絶たない。そのため、顔画像の真偽を利用者の目視によって容易に判別することの可能な技術が望まれている。なお、画像の真偽判別を容易にする要請は、パスポートが有する所有者表示部に限らず、OVD技術を利用して画像を表示する画像表示デバイスにおいて共通する。
【0005】
本開示の技術は、目視による画像の真偽の判別が容易である画像表示デバイス、および、画像表示媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する画像表示デバイスは、ホログラム層を有して2次元に配置された複数の画像セルを備え、前記ホログラム層が、第1方向に沿って延びる1次元の格子パターンを前記第1方向と直交する第2方向に沿って繰り返す回折格子を含む画像表示デバイスである。また、前記第2方向に沿って並び、かつ、1つの色に対応付けられた複数の前記画像セルが、1つの画像セル群である。そして、前記画像セル群は、前記画像表示デバイスに対する所定の方向に視点が位置する状態で、前記画像セル群を構成する複数の前記画像セルの各々が相互に同じ色を表示するように、前記第2の方向における前記画像セル群の一方の端部からの距離が大きいほど前記回折格子の空間周波数が小さい部分を含む。
【0007】
上記課題を解決する他の画像表示デバイスは、ホログラム層を有して2次元に配置された複数の画像セルを備え、前記ホログラム層が、第1方向に沿って延びる1次元の格子パターンを前記第1方向と直交する第2方向に沿って繰り返す回折格子を含む画像表示デバイスである。また、前記第2方向に沿って並び、かつ、1つの色に対応付けられた複数の前記画像セルが、1つの画像セル群である。そして、前記画像表示デバイスに対する所定の方向に視点が位置する状態で、1つの前記画像セル群を構成する複数の前記画像セルの各々が相互に同じ色を表示するように、前記画像セル群は、前記画像セル群における前記回折格子の空間周波数fと、前記1つの色の光の波長λとが下記式(1)を満たす部分を有する。
【0008】
f=(sinα−sinβ)/λ (α>β) ・・・(1)
入射角αは、前記画像表示デバイスに対する照明光の入射角であり、回折角βは、前記格子パターンにおける回折光の中で前記視点を通る回折光の回折角である。
【0009】
上記課題を解決する画像表示媒体は、所有者の顔画像を表示する画像表示デバイスを備える画像表示媒体であって、前記画像表示デバイスは、上述の画像表示デバイスである。
上記各構成によれば、画像セル群を構成する複数の画像セルの各々が同じ色を表示するため、こうした視認の結果が得られるか否かに基づいて画像の真偽を判別できる。
【0010】
上記画像表示デバイスにおいて、前記画像セル群は、前記画像表示デバイスに対する前記所定の方向に視点が位置する状態で、前記画像セル群を構成する複数の前記画像セルの各々が第1の色を表示するように、前記第1の色に対応付けられた複数の前記画像セルから構成される第1の画像セル群である。そして、前記第2方向に沿って並び、かつ、第2の色に対応付けられた複数の前記画像セルが、第2の画像セル群であり、前記第2の画像セル群は、前記画像表示デバイスに対する前記所定の方向に視点が位置する状態で、前記第2の画像セル群を構成する複数の画像セルの各々が前記第2の色を表示するように、前記第2の方向における前記第2の画像セル群の一方の端部からの距離が大きいほど前記回折格子の空間周波数が小さい部分を含むことが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、第1の画像セル群において第1の色が視認されるか否か、および、第2の画像セル群において第2の色が視認されるか否かに基づいて、画像の真偽が判別される。それゆえに、第1の色の視認のみによって画像の真偽が判別される構成と比べて、画像の真偽の判別における結果の精度が高まる。
【0012】
上記画像表示デバイスにおいて、前記第2方向に沿って並び、かつ、第3の色に対応付けられた複数の前記画像セルが、第3の画像セル群である。そして、前記第3の画像セル群は、前記画像表示デバイスに対する前記所定の方向に視点が位置する状態で、前記第3の画像セル群を構成する複数の画像セルの各々が前記第3の色を表示するように、前記第2の方向における前記第3の画像セル群の一方の端部からの距離が大きいほど前記回折格子の空間周波数が小さい部分を含むことが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、第1の画像セル群、第2の画像セル群、および、第3の画像セル群の各々において相互に異なる色が視認されるか否かに基づいて、画像の真偽が判別される。それゆえに、第1の色の視認のみによって画像の真偽が判別される構成と比べて、画像の真偽の判別における結果の精度が高まる。
【0014】
上記画像表示デバイスにおいて、前記第2方向に沿って並ぶ全ての前記画像セルの各々が、前記第1の画像セル群、前記第2の画像セル群、および、前記第3の画像セル群のいずれか1つに属することが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、第2の方向に沿って並ぶ画像セルの各々が3つの色のいずれか1つに帰属するか否かに基づいて画像の真偽が判別されるため、第1の色の視認のみによって画像の真偽が判別される構成と比べて、画像の真偽の判別における結果の精度が高まる。
【0016】
上記画像表示デバイスにおいて、複数の前記画像セルが相互に重なる部分を含むことが好ましい。
上記構成によれば、画像表示デバイスの表示する画像の精細さが高まる。
【0017】
上記画像表示媒体において、前記画像表示デバイスは、第1画像表示部であり、前記所有者の顔画像を光の波長と光の振幅とによって表現した印刷部である第2画像表示部をさらに備えることが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、第1画像表示部の表示する顔画像と、第2画像表示部の表示する顔画像との比較によっても、第1画像表示部の表示する顔画像の真偽を判別することが可能である。
【0019】
上記画像表示媒体において、前記第1画像表示部の面積は、前記第2画像表示部の面積に対して0.25倍以上、2倍以下であることが好ましい。
上記構成によれば、第1画像表示部の表示する顔画像と、第2画像表示部の表示する顔画像との比較を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本開示の技術によれば、目視による画像の真偽の判別が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1〜
図14を参照して、本開示の技術における画像表示媒体をパスポートに具体化した一実施形態を説明する。
図1が示すように、パスポート10は、画像表示デバイスの一例である第1画像表示部12、および、第2画像表示部13を備えている。パスポート10を構成する複数のシート11は、例えば、パスポート10を構成する綴込み紙であり、第1画像表示部12、および、第2画像表示部13は、パスポート10を構成する複数のシート11の中で、所有者の身元を示すシート11に設けられている。
【0023】
第1画像表示部12は、シート11の紙面上において所有者の顔画像を表示する光学デバイスを有し、所有者の顔画像を、それを構成する光の振幅、光の波長、および、光の位相として記憶する部分である。第1画像表示部12は、光学デバイスとして回折格子を含むホログラム層を有している。第1画像表示部12は、例えば、サーマルヘッドを用いたホログラムシートの熱転写記録、サーマルヘッドを用いた熱転写記録の後のホットスタンプ、または、熱ロールを用いた熱転写記録によって形成されている。
【0024】
第2画像表示部13は、シート11の紙面上において所有者の顔画像を表示する顔料や色素などから構成され、所有者の顔画像を、それを構成する光の振幅、および、光の波長として記憶する部分である。第2画像表示部13の表示する所有者の顔画像は、第1画像表示部12の表示する所有者の顔画像と同じ外観を示す。第2画像表示部13は、例えば、サーマルヘッドを用いた熱転写記録法、インクジェット記録法、電子写真法、感熱発色剤を含んだ発色層にレーザービームを照射するレーザービーム描画法など、これらを単独あるいは複数組み合わせた方法によって形成されている。
【0025】
なお、第1画像表示部12の有する面積は、第2画像表示部13の有する面積に対して、例えば、0.25倍以上、2倍以下の範囲内に設定されることが好ましい。第1画像表示部12の有する面積が、第2画像表示部13の有する面積に対して上記の範囲内の倍率を有するとき、第1画像表示部12の表示する画像と、第2画像表示部13の表示する画像との比較が容易であって、画像同士の照合の精度が高まる。第1画像表示部12の表示する顔画像と、第2画像表示部13の表示する顔画像とにおいて、縦方向に沿った顔画像の長さは、横方向に沿った顔画像の長さに対して相互に同じ比率を有することが好ましい。こうした構成においても、第1画像表示部12の表示する画像と、第2画像表示部13の表示する画像との比較が容易であって、画像同士の照合の精度が高まる。
【0026】
図2〜
図5を参照して第1画像表示部12の構成を説明する。なお、
図2は、
図1における第1画像表示部12の単層表示部12aを拡大して示す拡大平面図であり、
図4は、
図1における第1画像表示部12の積層表示部12bを拡大して示す拡大平面図である。
【0027】
図2が示すように、シート11の中で単層表示部12aの設けられた部分は、紙材15と受像層16とを備え、受像層16は、光透過性を有する樹脂から形成されて、紙材15を被覆している。
【0028】
単層表示部12aにおいて、受像層16の表面16aの上には、複数の画像セル20が2次元に配置されている。複数の画像セル20は、第1の画像セル20a、第2の画像セル20b、および、画像セル20cを含む。複数の画像セル20は、平面視において微小な円形形状を有している。複数の画像セル20の中心は、受像層16の表面16aにおいて、
図2の二点鎖線が示すように、仮想の平面格子である正方格子16bの格子点16cに位置している。
【0029】
第1の画像セル20aは、顔画像を構成する光の振幅、光の波長、および、光の位相を記憶したレリーフ構造を有している。レリーフ構造は、横方向に沿って延びる溝である格子パターンを、横方向と直交する縦方向に沿って繰り返している。横方向は、第1方向の一例であり、縦方向は、第2方向の一例である。第1の画像セル20aは、レリーフ構造を回折に用いるホログラム素子であり、縦方向に沿って並ぶ複数の第1の画像セル20aは、1つの第1の画像セル群を構成している。
【0030】
予め定められた入射角度から第1の画像セル20aに照明光が入射するとき、予め定められた視点である定点において、特定の波長を有した光同士が強め合うように、第1の画像セル20aの空間周波数は設定されている。例えば、第1の画像セル20aは、赤色に対応する光を強め合う空間周波数を有して赤色に対応付けられている。赤色に対応する光とは、単一の波長を有する光であってもよいし、一定の範囲を有した波長を有する光であってもよく、赤色として視認される光であればよい。
【0031】
第2の画像セル20bもまた、顔画像を構成する光の振幅、光の波長、および、光の位相を記憶したレリーフ構造を有し、第2の画像セル20bの有するレリーフ構造は、第1の画像セル20aの有するレリーフ構造とは異なる波長を記憶している。縦方向に沿って並ぶ複数の第2の画像セル20bは、1つの第2の画像セル群を構成している。予め定められた入射角度から第2の画像セル20bに照明光が入射するとき、予め定められた視点である定点において、第1の画像セル20aとは異なる特定の波長を有した光同士が強め合うように、第2の画像セル20bの空間周波数は設定されている。例えば、第2の画像セル20bは、緑色に対応する光を強め合う空間周波数を有して緑色に対応付けられている。緑色に対応する光とは、単一の波長を有する光であってもよいし、一定の範囲を有した波長を有する光であってもよく、緑色として視認される光であればよい。
【0032】
第3の画像セル20cもまた、顔画像を構成する光の振幅、光の波長、および、光の位相を記憶したレリーフ構造を有し、第3の画像セル20cの有するレリーフ構造は、第1の画像セル20aの有するレリーフ構造、および、第2の画像セル20bの有するレリーフ構造とは異なる波長を記憶している。縦方向に沿って並ぶ複数の第3の画像セル20cは、1つの第3の画像セル群を構成している。予め定められた入射角度から第3の画像セル20cに照明光が入射するとき、予め定められた視点である定点において、第1の画像セル20a、および、第2の画像セル20bとは異なる特定の波長を有した光同士が強め合うように、第3の画像セル20cの空間周波数は設定されている。例えば、第3の画像セル20cは、青色に対応する光を強め合う空間周波数を有して青色に対応付けられている。青色に対応する光とは、単一の波長を有する光であってもよいし、一定の範囲を有した波長を有する光であってもよく、青色として視認される光であればよい。
【0033】
図3が示すように、単層表示部12aにおいて、受像層16の表面16aの上には、第1画像表示部12を構成する複数の画像セル20が位置している。受像層16は、複数の画像セル20の各々と紙材15とを接着する機能を有している。複数の画像セル20は、受像層16の表面16aを、画像セル20が位置する領域である単層セル領域と、画像セル20が位置しない領域である非セル領域とに区画する。
【0034】
図4が示すように、シート11の中で積層表示部12bの設けられた部分は、単層表示部12aが設けられた部分と同じく、紙材15と受像層16とを備えている。積層表示部12bにおいて、受像層16の表面16aの上には、単層表示部12aと同じく、複数の画像セル20が2次元に配置されている。複数の画像セル20は、平面視においてほぼ正方形形状を有し、
図4の二点鎖線が示すように、仮想の平面格子である正方格子16bの格子点16cに位置している。積層表示部12bは、第1の画像セル20a、第2の画像セル20b、第3の画像セル20cのいずれか1つが縦方向に沿って連続する部位を有している。同じ種類の画像セル20が縦方向に沿って並ぶ部位は、その種類の画像セル20が縦方向に沿って延びる帯形状を有している。
【0035】
図5が示すように、積層表示部12bは、2つの画像セル20が積重なる部位を有している。積重なった2つの画像セル20は、第1の画像セル20a、第2の画像セル20b、第3の画像セル20cの中で、相互に異なる2種類の画像セル20であってもよいし、予め選択される1種類の画像セル20であってもよい。
図5では、第2の画像セル20bに第3の画像セル20cが積重なる部位と、第3の画像セル20cに他の第3の画像セル20cが積重なる部位とが例示されている。
【0036】
なお、画像セル20の位置を定める仮想的な平面格子は、正方格子16bに限らず、三角格子や矩形格子などの他の格子であってもよい。また、相互に隣り合う画像セル20の位置は、画像セル20の輪郭同士が1点で接してもよいし、画像セル20の一部同士が相互に重なっていてもよいし、画像セル20の輪郭同士が相互に離れていてもよい。相互に隣り合う画像セル20において、画像セル20間における中心間距離は、0.085mm以上、0.508mm以下、言い換えれば、約300dpi以上、約50dpi以下であることが好ましい。また、相互に隣り合う画像セル20において、画像セル20間における中心間距離は、0.085mm以上、0.169mm以下、言い換えれば、約300dpi以上、約150dpi以下であることがより好ましい。相互に隣り合う画像セル20間における中心間距離が上記範囲内であれば、複数の画像セル20によって、きめ細やかな顔画像が得られる。また、相互に隣り合う画像セル20間における中心間距離が上記範囲内であれば、複数の画像セル20によって表示される顔画像の再現性が高まる。
【0037】
図6〜
図9を参照して、第1画像表示部12の詳細な構成をその製造方法と共に説明する。まず、第1画像表示部12の製造に使用されるホログラムリボン30を説明する。
図6が示すように、ホログラムリボン30は、支持体31を備え、支持体31には、剥離保護層32、微細凹凸形成層33、透明反射層34、および、接着層35から構成された多層構造体である転写体36が接触している。支持体31と接着層35とは、剥離保護層32、微細凹凸形成層33、および、透明反射層34を挟み、剥離保護層32と透明反射層34とは、微細凹凸形成層33を挟んでいる。
【0038】
支持体31は、例えば、樹脂フィルム、および、樹脂フィルムよりも厚く、かつ、その厚みよりも十分に広い表面を有した平面的な樹脂製の薄板を含む樹脂シートであって、ポリエチレンテレフタレートなどの耐熱性に優れた材料から形成されることが好ましい。支持体31において剥離保護層32と接触する面である支持体31の剥離面31aには、剥離面31aと剥離保護層32との間に、例えば、フッ素樹脂やシリコーン樹脂を含む離型層が設けられていてもよい。
【0039】
剥離保護層32は、光透過性を有する層であって、透明であることが好ましく、例えば、熱可塑性樹脂から形成されている。剥離保護層32は、転写体36の支持体31からの剥離の安定性を高める機能と、画像セル20と受像層16との接着を促す機能とを有している。なお、転写体36の支持体31からの剥離性や画像セル20と受像層16との接着性が特に必要とされない製法であれば、こうした剥離保護層32は省略されてもよい。
【0040】
微細凹凸形成層33は、剥離保護層32よりも高い光透過性を有する透明層であって、例えば、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などの樹脂から形成されている。ホログラムリボン30における幅方向は、画像セル20における縦方向であって、ホログラムリボン30における長手方向は、画像セル20における横方向である。微細凹凸形成層33は、レリーフ構造を回折格子として表面に有したホログラム素子である。レリーフ構造は、ホログラムリボン30の長手方向に沿って延びる溝である格子パターンをホログラムリボン30の幅方向に繰り返している。
【0041】
微細凹凸形成層33が有するレリーフ構造において、単位長さ当たりの格子パターンの本数である空間周波数は、格子パターン間のピッチであって、定点において強め合う波長を定める。微細凹凸形成層33は、顔画像を構成する光の波長をこうした空間周波数によって記憶する。相互に異なる空間周波数を有したレリーフ構造は、定点において相互に異なる色の光を強め合う。
【0042】
微細凹凸形成層33が有するレリーフ構造において、格子パターンの延びる方向は、相互に強め合う干渉の視認される方向を定める。微細凹凸形成層33は、顔画像を構成する光の位相をこうした格子パターンの延びる方向によって記憶する。格子パターンの延びる方向が相互に異なるレリーフ構造では、相互に強め合う干渉が、相互に異なる方向から視認される。
【0043】
微細凹凸形成層33が有するレリーフ構造において、格子パターンの深さは、格子パターンに取り込まれる光量を定める。微細凹凸形成層33は、顔画像を構成する光の振幅をこうした格子パターンの深さによって記憶する。格子パターンの深さが相互に異なるレリーフ構造では、相互に強め合う干渉の度合いが相互に異なる。
【0044】
透明反射層34は、例えば、微細凹凸形成層33とは屈折率が異なる透明層であって、例えば、真空蒸着やスパッタリングなどの真空成膜法によって形成される。透明反射層34は、顔画像の視認性を高める機能を有するが、顔画像の視認性が特に必要とされない用途であれば、こうした透明反射層34は省略されてもよい。透明反射層34は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。透明反射層34が多層構造を有する場合、透明反射層34は、透明反射層34の内部において反射干渉を繰り返す構成であってもよい。透明反射層34を形成する透明材料としては、例えば、ZnSやTiO
2などの透明誘電体を用いることができる。また、透明反射層34としては、厚さが20nm未満の金属層を用いてもよい。金属層の形成材料としては、例えば、クロム、ニッケル、アルミニウム、鉄、チタン、銀、金、銅などを用いることができる。
【0045】
接着層35は、透明反射層34を被転写体45の表面に接着するためのものであって、微細凹凸形成層33と透明反射層34の表面上に形成されている。接着層35の材料としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタラート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂等を挙げることができ、これらの樹脂に無機微粒子を添加させたものである。添加させる無機微粒子としては、例えば、シリカ等が用いられ、こうした無機微粒子は、溶剤に対して固形分比が10以上50以下で加えられるのが好ましい。また、接着層35の層厚は、0.2μm以上1.0μm以下が好ましい。ホログラムリボン30は、微小面積のドット、あるいは、微小幅の線形状で転写されるため、箔切れ性が要求される。無機微粒子が添加された接着層35であれば、こうした箔切れ性が良好である。
【0046】
図7が示すように、ホログラムリボン30において、微細凹凸形成層33は、複数の微細凹凸形成部Hから構成され、複数の微細凹凸形成部Hは、第1の微細凹凸形成部H1、第2の微細凹凸形成部H2、第3の微細凹凸形成部H3から構成されている。第1の微細凹凸形成部H1、第2の微細凹凸形成部H2、第3の微細凹凸形成部H3は、ホログラムリボン30の長手方向に沿って順に繰り返されている。
【0047】
複数の微細凹凸形成部Hの各々は、ホログラムリボン30の長手方向に沿って延びる複数の格子パターンを有し、複数の格子パターンはホログラムリボン30の幅方向に沿って並んでいる。第1の微細凹凸形成部H1は、第1の画像セル20aを形成するための微細凹凸形成部Hであり、第2の微細凹凸形成部H2は、第2の画像セル20bを形成するための微細凹凸形成部Hであり、第3の微細凹凸形成部H3は、第3の画像セル20cを形成するための微細凹凸形成部Hである。
【0048】
なお、
図7において、ホログラムリボン30の幅方向における上端が第1画像表示部12における上端に対応し、ホログラムリボン30の幅方向における下端が第1画像表示部12における下端に対応している。
【0049】
図8、および、
図9を参照して微細凹凸形成部Hの構成を説明する。なお、第2の微細凹凸形成部H2、および、第3の微細凹凸形成部H3は、それによって視認される光の色が第1の微細凹凸形成部H1とは異なる一方で、それ以外の構成は、第1の微細凹凸形成部H1と同様である。すなわち、第1の微細凹凸形成部H1は、定点から第1の微細凹凸形成部H1が目視されたときに、縦方向において同じ色、例えば、赤色が視認されるように構成されている。第2の微細凹凸形成部H2は、定点から第2の微細凹凸形成部H2が目視されたときに、縦方向において同じ色、例えば、緑色が視認されるように構成されている。第3の微細凹凸形成部H3は、定点から第3の微細凹凸形成部H3が目視されたときに、縦方向において同じ色、例えば、青色が視認されるように構成されている。
【0050】
そのため、以下では、第1の微細凹凸形成部H1の構成を説明し、第2の微細凹凸形成部H2、および、第3の微細凹凸形成部H3については、第1の微細凹凸形成部H1と異なる部分を主に説明する。まず、
図8を参照して、定点に集光する光の波長と空間周波数との関係を説明し、次いで、
図9(a)(b)を参照して、第1の微細凹凸形成部H1の構成を説明する。
【0051】
図8が示すように、第1の微細凹凸形成部H1の表面が、仮想平面として示され、第1の微細凹凸形成部H1の表面には、仮想的な点である基準点41が定められている。基準点41を通って縦方向に沿って延びる直線は、基準線42である。縦方向、および、横方向に対して直交する方向であって、第1の微細凹凸形成部H1の表面に対する法線の延びる方向は、法線方向である。
【0052】
また、観察距離ωは、基準点41と定点40との間の距離である。入射角αは、観察角度に対する照明光の入射角である。回折角βは、観察角度に対して反時計回り方向を正とする回折光の回折角である。回折角βは、基準点41よりも上側の各位置では正の値をとり、基準点41よりも下側の各位置では負の値をとる。また、回折角βは、基準線42上の各位置においては、基準点41から離れるほど絶対値が大きくなる。縦方向距離γは、基準点41から基準線42上における各位置までの距離である。
【0053】
ここで、第1の微細凹凸形成部H1における回折角βと、縦方向距離γと、観察距離ωとは、下記式(2)を満たし、基準線42上の各位置における空間周波数fと、定点40に集光する光の波長λとは、下記(3)を満たす。
【0054】
tanβ=γ/ω ・・・ (2)
f=(sinα−sinβ)/λ (α>β) ・・・ (3)
式(3)が示すように、入射角α、および、波長λが固定値であるとき、基準線42上の各位置における空間周波数fは、回折角βに依存する。この回折角βは、基準線42上において、上端から下端にかけて連続的に減少し、基準点41よりも上側の各位置では正の値をとり、定点40よりも下側の各位置では負の値を有する。そのため、入射角α、および、波長λが固定値であるとき、基準線42上の各位置における空間周波数fは、上端部から下端部にかけて連続的に減少する。
【0055】
図9(a)及び
図9(b)が示すように、第1の微細凹凸形成部H1は、横方向に沿って延びる格子パターンを縦方向に繰り返すパターンを有し、格子パターン間の距離は、上端部から下端部に向かって連続的に減少している。すなわち、第1の微細凹凸形成部H1の有する空間周波数fは、上端部からの距離が大きいほど小さく、上端部から下端部に向かって連続的に減少している。そして、第1の微細凹凸形成部H1は、式(3)における波長λが赤色の光の波長であるように、上端部から下端部に向かって連続的に減少する空間周波数fを有している。こうした構成であれば、入射角αが固定値であるとき、定点40に集光する光が赤色である。赤色の光の波長とは、例えば、単一の波長を有する光の波長であってもよいし、一定の範囲を有した波長を有する光において最高強度を有する波長であってもよいし、一定の範囲を有した波長を有する光の強度スペクトルにおいて中心波長であってもよく、例えば、650nmである。
【0056】
同様に、第2の微細凹凸形成部H2は、式(3)における波長λが緑色の光の波長であるように、上端部から下端部に向かって連続的に減少する空間周波数fを有している。緑色の光の波長とは、例えば、単一の波長を有する光の波長であってもよいし、一定の範囲を有した波長を有する光において最高強度を有する波長であってもよいし、一定の範囲を有した波長を有する光の強度スペクトルにおいて中心波長であってもよく、例えば、550nmである。
【0057】
第3の微細凹凸形成部H3は、式(3)における波長λが青色の光の波長であるように、上端部から下端部に向かって連続的に減少する空間周波数fを有している。青色の光の波長とは、例えば、単一の波長を有する光の波長であってもよいし、一定の範囲を有した波長を有する光において最高強度を有する波長であってもよいし、一定の範囲を有した波長を有する光の強度スペクトルにおいて中心波長であってもよく、例えば、450nmである。
【0058】
図10及び
図11を参照して、ホログラムリボン30を用いたパターン形成方法の一例を説明する。
ホログラムリボン30を用いたパターンの形成においては、例えば、まず、所有者の顔画像を形成するための画像データが取得される。次いで、被転写体45の一部にホログラムリボン30の一部が転写される。
【0059】
図10(a)が示すように、被転写体45は、基材46と、基材46を被覆する受像層47とを含んでいる。基材46は、例えば、紙材、プラスチック基板、金属基板、セラミックス基板、ガラス基板などである。
【0060】
ホログラムリボン30の転写に際しては、被転写体45の表面に接着層35が接触するようにホログラムリボン30が被転写体45の上に配置される。この状態から、支持体31の上面において一対の点線48で挟まれる範囲に、例えば、サーマルヘッドで熱圧49が加えられる。これによって、熱圧49が加えられた部分では、接着層35が被転写体45に接着する。そして、ホログラムリボン30が被転写体45から引き剥がされると、熱圧49が加えられた部分において被転写体45に接着層35が接着した状態のまま、剥離保護層32から支持体31が剥がされる。
【0061】
図10(b)に示すように、ホログラムリボン30の中で熱圧49が加えられた転写体36のみが、被転写体45の表面上に転写される。このように被転写体45の表面上の所定位置に転写体36が転写されることによって各画像セル20が形成される。
【0062】
図11が示すように、転写体36の転写が画像データに基づいて各微細凹凸形成部H1,H2,H3に対して繰り返されることによって、各画像セル20a,20b,20cによって構成されるパターンが被転写体45に形成される。そして、縦方向に沿って並ぶ各画像セル20a、すなわち、第1の画像セル群は、共通する1つの微細凹凸形成部H1において縦方向に沿って連なる部分から形成される。縦方向に沿って並ぶ各画像セル20b、すなわち、第2の画像セル群は、共通する1つの微細凹凸形成部H2において縦方向に沿って連なる部分から形成される。縦方向に沿って並ぶ各画像セル20c、すなわち、第3の画像セル群は、共通する1つの微細凹凸形成部H3において縦方向に沿って連なる部分から形成される。
【0063】
結果として、微細凹凸形成部H1の空間周波数fが縦方向において上記式(3)を満たすため、第1の画像セル群の空間周波数fもまた縦方向において上記式(3)を満たす。こうして得られる第1の画像セル群では、式(3)における波長λが赤色の光の波長であるように、上端部からの距離が大きい部位ほど空間周波数fが小さい。また、第1の画像セル群の中で第1の画像セル20aが縦方向に沿って連続する部分では、式(3)における波長λが赤色の光の波長であるように、その部分の上端部から下端部に向かって空間周波数fが連続的に減少している。
【0064】
また、微細凹凸形成部H2の空間周波数fが縦方向において上記式(3)を満たすため、第2の画像セル群の空間周波数fもまた縦方向において上記式(3)を満たす。こうして得られる第2の画像セル群では、式(3)における波長λが緑色の光の波長であるように、上端部からの距離が大きい部位ほど空間周波数fが小さい。また、第2の画像セル群の中で第2の画像セル20bが縦方向に沿って連続する部分では、式(3)における波長λが緑色の光の波長であるように、その部分の上端部から下端部に向かって空間周波数fが連続的に減少している。
【0065】
また、微細凹凸形成部H3の空間周波数fが縦方向において上記式(3)を満たすため、第3の画像セル群の空間周波数fもまた縦方向において上記式(3)を満たす。こうして得られる第3の画像セル群では、式(3)における波長λが青色の光の波長であるように、上端部からの距離が大きい部位ほど空間周波数fが小さい。また、第3の画像セル群の中で第3の画像セル20cが縦方向に沿って連続する部分では、式(3)における波長λが赤色の光の波長であるように、その部分の上端部から下端部に向かって空間周波数fが連続的に減少している。
【0066】
図12、および、
図13を参照して、サーマルヘッドによって転写されるホログラムリボン30の転写範囲を説明する。
図12が示すように、ホログラムリボン30を被転写体45に転写する転写装置50は、相互に対向する転写ロール51とサーマルヘッド52とを備えている。転写装置50は、転写ロール51とサーマルヘッド52との間の空間でホログラムリボン30を移送するリボン移送機構53と、転写ロール51とサーマルヘッド52との間の空間であって、ホログラムリボン30よりも転写ロール51側の空間で被転写体45を移送する被転写体移送機構54とを備えている。転写装置50は、画像データに基づいて、転写ロール51、サーマルヘッド52、リボン移送機構53、および、被転写体移送機構54を駆動することによって、被転写体45に各微細凹凸形成部H1,H2,H3の一部を順に転写し、各画像セル20a,20b,20cによって構成されるパターンを被転写体45に形成する。
【0067】
図13が示すように、各微細凹凸形成部H1,H2,H3は、ホログラムリボン30の長手方向、および、幅方向において、第1画像表示部12の外形よりも大きな外形を有している。例えば、上述した第1画像表示部12であれば、第1画像表示部12の外形よりも10mm以上100mm以下だけ大きな外形を有している。
【0068】
こうした構成によれば、リボン移送機構53に対するホログラムリボン30の取り付け時や被転写体移送機構54に対する被転写体45の取り付け時において、これらホログラムリボン30と被転写体45との間の相対位置に位置ずれが生じたとしても、その位置ずれによって転写が不可能になることが抑えられる。
【0069】
例えば、被転写体45とホログラムリボン30との相対位置に位置ずれがない場合の転写範囲である基準転写範囲A1s,A2s,A3sから、転写範囲A1,A2,A3へ各微細凹凸形成部H1,H2,H3の転写範囲がずれるとする。こうした場合であっても、各微細凹凸形成部H1,H2,H3においては、上記式(1)(2)が満たされるように、すなわち、定点40において特定の波長の光が集光するように空間周波数が設定されているため、各微細凹凸形成部H1,H2,H3の一部が転写範囲である以上、各転写範囲に対する定点40の位置が大幅にずれることはない。
【0070】
また、リボン移送機構53に取り付けられたホログラムリボン30において送り量にずれが生じ、送り量のずれに伴い、ホログラムリボン30の長手方向に沿って、被転写体45とホログラムリボン30との相対位置に位置ずれが生じるとする。こうした場合であっても、各微細凹凸形成部H1,H2,H3の空間周波数が、縦方向、すなわち、ホログラムリボン30の幅方向を基準として設定されているため、長手方向の位置ずれは、定点40のずれに影響しない。
【0071】
なお、定点40において厳密なカラー表現を得るうえでは、縦方向のみならず横方向でのカラー補正が必要である。横方向においてカラー補正を行なう場合には、回折格子において格子パターンの延びる方向が連続的に変わるように回折格子を変更し、リボン移送機構53において送り量のずれが起こらないようにする必要がある。一方で、ホログラムリボン30の長手方向においてホログラムリボン30の位置ずれが生じやすいため、横方向のカラー補正は各微細凹凸形成部H1,H2,H3の設計変更ではなく、画像処理により、カラーの補正を行われることが望ましい。このような縦方向のカラー補正を微細凹凸形成部H2の空間周波数により補正し、さらに画像処理により横方向のカラー補正をすることにより、転写時のホログラムリボン30の送り量のずれが発生しても、色ずれが発生せず、かつ定点40で上下左右で色ずれが生じない像を表示することができる。
【0072】
図14(a)は、第1画像表示部12の生成する顔画像の一例である観察画像56を示し、
図14(b)は、第1画像表示部12とは異なり、縦方向において空間周波数fが均一である画像表示部の生成する顔画像の一例である観察画像57を示している。
【0073】
図14が示すように、観察画像56は、各画像セル20a,20b,20cが定点40に特定の波長の光を集光するため、ある一方向から第1画像表示部12を観察した場合、例えば、顔画像の額から顎にかけて肌の色味が大幅に異なることはない。一方で、観察画像57は、各画像セルが定点40に特定の波長の光を集光しないため、ある一方向から画像表示部を観察したとしても、顔画像の額から顎にかけて肌の色味が大幅に異なってしまう。また、観察画像56の上端と下端とに配色の指定されたマーク58,59が含まれる場合、観察画像56のマーク58,59は定点40において同じ色に視認されるが、観察画像57のマーク58,59はでは定点40において同じ色で視認されない。これら顔画像の色やマークの色が目視されることによって、第1画像表示部12の真偽、ひいては、パスポート10に対する不正行為の有無について判別が容易となる。
【0074】
[実施例]
以下のようにホログラムリボン30を形成した。まず、支持体31として、厚み12μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた。支持体31上に、グラビアコータを用いて、剥離保護層32と熱可塑性樹脂層とをこの順に形成し、これらをオーブンで乾燥させた。剥離保護層32の材料としてはアクリル樹脂を用い、熱可塑性樹脂層の材料としてはアクリルポリオールを用いた。乾燥後の剥離保護層32の膜厚は0.6μmであり、乾燥後の熱可塑性樹脂層の膜厚は0.7μmであった。
【0075】
次に、ロールエンボス装置を用いた熱プレスによって、上記熱可塑性樹脂層の表面に、ホログラムとしての各微細凹凸形成部H1,H2,H3を形成した。各微細凹凸形成部H1,H2,H3のサイズは50mm×50mmであり、深さは約100nmである。また、第1の微細凹凸形成部H1の空間周波数fは1020本/mm以上、1275本/mm以下、第2の微細凹凸形成部H2の空間周波数fは1205本/mm以上、1505本/mm以下、第3の微細凹凸形成部H3の空間周波数fは1470本/mm以上、1840本/mm以下である。これら空間周波数fは、下側に近い部位ほど値が高くなるよう連続的に変化している。なお、第1の微細凹凸形成部H1の空間周波数fは、赤色の光の波長λ=650nmに基づくものであり、第2の微細凹凸形成部H2の空間周波数fは、緑色の光の波長λ=550nmに基づくものであり、第3の微細凹凸形成部H3の空間周波数fは、青色の光の波長λ=450nmに基づくものである。
【0076】
次いで、微細凹凸形成層33上に、硫化亜鉛からなる透明反射層34を蒸着法によって形成した。透明反射層34の膜厚は50nmであった。さらに、透明反射層34上に熱可塑性樹脂であるポリエステル樹脂を印刷することによって、接着層35を形成した。接着層35の膜厚は0.6μmであった。
【0077】
上述したホログラムリボン30を用い、以下の方法で第1画像表示部12を形成した。
まず、被転写体45の基材46としてプラスチックカードを用いた。基材46上に、グラビアコータを用いて受像層47を形成し、オーブンで乾燥させた。受像層47の材料にはアクリルポリオールを用いた。受像層47の乾燥後の膜厚は、2.0μmであった。
【0078】
次に、顔画像をR,G,Bの三色で表示できるように画像処理を行なった画像データに基づいて、300dpiのサーマルヘッドを用いた熱転写を行なうことにより、支持体31から受像層47上へ各画像セル20a,20b,20cを転写した。
【0079】
各画像セル20a,20b,20cの転写は、ホログラムリボン30のうち、まず、第1の微細凹凸形成部H1を転写ロール51とサーマルヘッド52との間の空間に配置して、画像データの中で赤色に対応付けられた位置に、画像セル20aをドット形状、あるいは、線形状で印字した。次に、第2の微細凹凸形成部H2を転写ロール51とサーマルヘッド52との間の空間まで移送し、画像データの中で緑色に対応付けられた位置に、画像セル20bをドット形状、あるいは、線形状で印字した。そして、第3の微細凹凸形成部H3を転写ロール51とサーマルヘッド52との間の空間まで移送し、画像データの中で青色に対応付けられた位置に、画像セル20cをドット形状、あるいは、線形状で印字した。なお、各画像セル20の面積である印字面積は、横方向にて相互に隣接する画像セル20が相互に重なり合わない範囲で、かつ、最大となる大きさと、その1/2の大きさとの合計で2種である。以上のようにして実施例の第1画像表示部12を得た。
【0080】
[比較例]
比較例では、実施例のホログラムリボン30と同じ構造を基本構造として有するものの、微細凹凸形成部の空間周波数fが実施例とは異なるホログラムリボン30を用いて第1画像表示部12を形成した。比較例において、第1の微細凹凸形成部H1の空間周波数fは、1150本/mmであり、第2の微細凹凸形成部H2の空間周波数fは、1350本/mm、第3の微細凹凸形成部H3の空間周波数fは、1650本/mmである。すなわち、各微細凹凸形成部H1,H2,H3内において、空間周波数fは均一である。
【0081】
なお、第1の微細凹凸形成部H1は赤色の光用であり、第2の微細凹凸形成部H2は緑色の光用であり、第3の微細凹凸形成部H3は青色の光用である。そして、比較例のホログラムリボンを用い、被転写体45に対して実施例と同じ画像データで第1画像表示部12を形成した。以上のようにして比較例の第1画像表示部12を得た。
【0082】
実施例の第1画像表示部12と、比較例の第1画像表示部12とに対して、入射角度が40°である照明光を照明して、第1画像表示部12から30cmだけ離れたところから、第1画像表示部12の表示する画像を観察した。結果として、実施例の第1画像表示部12においては、上端と下端との間で顔画像の肌の色味が異なることはなく、顔画像の肌の色味が同じ色で視認された。一方、比較例の第1画像表示部12においては、顔画像の真ん中は肌色を示したものの、上端と下端の各々では、肌色から外れた色で視認された。
【0083】
以上、上記実施形態によれば、以下に列挙する効果が得られる。
(1)定点40から第1画像表示部12が目視されるとき、第1の画像セル群は赤色を示し、第2の画像セル群は緑色を示し、第3の画像セル群は青色を示す。この観察結果が得られるか否かによって、第1画像表示部12に表示される顔画像の真偽を判別することができる。その結果、第1画像表示部12の真偽を照合者の目視によって判別しやすくなる。
【0084】
(2)画像セル20a,20b,20cは、互いに設計波長が異なるため、定点40において観察される画像をカラーあるいはフルカラーにすることができる。その結果、第1画像表示部12にて表示可能な画像の自由度が拡張され、第1画像表示部12が表示する画像の真偽がさらに判別しやすくなる。
【0085】
(3)画像セル20a,20b,20cが選択的に積層されているため、第1画像表示部12が表示する画像がきめ細やかになる。
(4)第1画像表示部12と第2画像表示部13とが1つの紙面に並んでいるため、第1画像表示部12の表示する画像と、第2画像表示部13の表示する画像との比較が容易であり、その比較結果の精度も高まる。
【0086】
(5)第1画像表示部12の面積が第2画像表示部13の面積に対して0.25倍以上2倍以下であるため、第1画像表示部12の表示する画像と、第2画像表示部13の表示する画像との比較が困難になることもなく、個人識別の精度の低下を抑えることができる。
【0087】
(6)各微細凹凸形成部H1,H2,H3の格子パターンは、ホログラムリボン30の移送方向であるホログラムリボン30の長手方向に沿って形成されている。そのため、画像セル20a,20b,20cの転写時にホログラムリボン30の移送方向に位置ずれが生じたとしても、各画像セル20a,20b,20cに対する定点40の位置が大幅にずれることは少ない。
【0088】
なお、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・パスポート10は、第1画像表示部12を備えていればよく、例えば、第1画像表示部12と第2画像表示部13とが別の紙面に設けられていてもよいし、第2画像表示部13が割愛された構成であってもよい。
【0089】
・第1画像表示部12の表示する画像をカラー化するうえでは、各画像セル20a,20b,20cは、積層されることなく、1つの平面上に沿って単に並べられてもよい。
・第1画像表示部12の表示する画像は、カラーでなくともよく、例えば、第1画像表示部12は、単一の色に対応した画像セル20のみから構成されてもよい。
【0090】
・1つの画像セル群は、格子パターンの延びる方向と直交する方向において、画像セル群の一端部からの距離が大きいほど空間周波数fが小さい部分を含む構成であればよく、画像セル群の一端部からの距離が大きいほど空間周波数fが大きい部分を含んでいてもよく、また、空間周波数fが一定である部分を含んでいてもよい。
【0091】
また、画像セル群の一端部からの距離が大きいほど空間周波数fが小さい部分は、例えば、1つの画像セル群は、格子パターンの延びる方向と直交する方向において、画像セル群の一端部からの距離が大きい画像セル20ほど空間周波数fが小さい構成であってもよい。また、例えば、1つの画像セル群は、格子パターンの延びる方向と直交する方向において相互に並ぶ所定数の画像セル20が、1つの画像セルブロックであって、格子パターンの延びる方向と直交する方向において、画像セル群の一端部からの距離が大きい画像セルブロックほど空間周波数fが小さい構成であってもよい。さらに、1つの画像セル群における空間周波数fは、これらの形態から任意に選択される2以上の形態の組合わせであってもよい。
【0092】
・
図15及び
図16を参照して、シートに対する画像表示デバイスの形成方法についての変形例を説明する。以下に説明する方法では、第1転写体に対して複数の画像セルが形成された後、その複数の画像セルが第2転写体であるシートに転写されることでシートに画像表示デバイスが形成される。
【0093】
図15が示すように、第1被転写体61は、基材62、剥離保護層63、受像層64、これらが順次積層された積層構造を有している。第2被転写体65は、基材66、受像層67、これらが順次積層された積層構造をなしている。
【0094】
第1被転写体61において、基材62は、例えば、樹脂フィルム、および、樹脂フィルムよりも厚く、かつ、その厚みよりも十分に広い表面を有した平面的な樹脂製の薄板を含む樹脂シートであって、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどの耐熱性に優れた材料から形成されている。剥離保護層63は、基材62に積層されている。剥離保護層63は、基材62からの剥離を安定化すると共に、第2被転写体65の受像層67に対する画像セル20a,20b,20cの接着を促進する役割を果たす。剥離保護層63は、光透過性を有しており、典型的には透明である。受像層64は、基材62と複数の画像セル20a,20b,20cとの間の接着力を高めている。
【0095】
第2被転写体65において、基材66は、例えば、樹脂フィルム、および、樹脂フィルムよりも厚く、かつ、その厚みよりも十分に広い表面を有した平面的な樹脂製の薄板を含む樹脂シートであって、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどの耐熱性に優れた材料から形成されている。受像層67は、基材66と複数の画像セル20a,20b,20cとの間の接着力を高める機能を発揮する。そして、第1被転写体61に対して画像セル20a,20b,20cが形成された後、その画像セル20a,20b,20cを第2被転写体65の受像層16に接触させた状態で熱圧68が加えられる。
【0096】
図16が示すように、第1被転写体61の基材46が引き剥がされると、第1被転写体61の基材62以外の積層体が転写体として第2被転写体65に転写される。なお、この熱転写は、ポットスタンプを用いた熱転写の他、熱ロール又はサーマルヘッドを利用した熱転写を行なってもよい。
【0097】
以上のようにして積層体を第2被転写体65に熱転写した後、必要な工程を適宜実施する。こうした方法であっても第1画像表示部12は得られる。こうした方法であれば、各画像セル20a,20b,20cが第1被転写体61に形成されるため、シート11の表面粗さなどが画質に影響を及ぼすことが少ない。
【0098】
・シート11は、紙以外であってもよく、例えば、プラスチック基板、金属基板、セラミックス基板、または、ガラス基板であってもよい。
・画像表示デバイスが表示する画像は、顔画像に加えて他の生体情報を含んでもよいし、顔画像の代わりに他の生体情報を含んでもよい。また、画像表示デバイスが表示する画像は、生体情報に加えて非生体個人情報、および、非個人情報の少なくとも一方を含んでもよいし、生体情報の代わりに非生体個人情報、および、非個人情報の少なくとも一方を含んでもよい。
【0099】
・画像表示デバイスが表示する画像は、所有者の顔画像に限らず、例えば、文字、数字、記号、図形、模様、これらの組み合わせであってもよい。
・画像セル20の形成方法は、微細凹凸形成層33の転写に限らず、画像セル20がシート11に直接形成される方法であってもよい。
【0100】
・画像表示媒体は、パスポート10に限らず、例えば、クレジットカード、運転免許証、社員証、会員証等の身分証明書、入学試験用の受験票、パスポート等、紙幣、商品券、ポイントカード、株券、証券、抽選券、馬券、預金通帳、乗車券、通行券、航空券、種々の催事の入場券、遊戯券、交通機関や公衆電話用のプリペイドカードなどであってもよい。