(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1実施形態]
図1は、本発明の磁性シートの一例である磁性シート10の断面図である。
本実施形態の磁性シート10は、磁性層12と、磁性層12の表面に設けられた表面樹脂層14と、磁性層12の裏面に設けられた接着層16と、を有する可撓性のシートである。
【0012】
(磁性層)
磁性層12は、軟磁性材料と、バインダーとを含有する層である。
【0013】
<軟磁性材料>
磁性シート10では、磁性層12に含有される軟磁性材料がソフトフェライトのみからなる。これにより、磁性シート10に錆が発生することが抑制される。また、軟磁性材料に鉄粉を用いる場合に比べてコストが低くなるうえ、材料の取り扱いも容易になる。
【0014】
ソフトフェライトとしては、例えば、Mn−Zn系ソフトフェライト、Ni−Zn系ソフトフェライト、Mg−Zn系ソフトフェライト等が挙げられる。なかでも、初透磁率とコストの点では、Mn−Zn系ソフトフェライトが好ましい。また、磁気吸着特性の点では、Ni−Zn系ソフトフェライトが好ましい。
磁性層12に含有されるソフトフェライトは、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0015】
磁性層12には、粒子状のソフトフェライトが充填されることが好ましい。
ソフトフェライトの粒径は、1〜10μmであり、2〜5μmが好ましい。前記ソフトフェライトの粒径が下限値以上であれば、高い充填率でバインダーに練り込むことが可能である。前記ソフトフェライトの粒径が上限値以下であれば、ソフトフェライトの充填率を高くしてもシートの寸法安定性及び外観を良好に保てるため、磁気吸着特性、寸法安定性及び外観が両立された磁性シートが得られやすい。
【0016】
ソフトフェライトの粒径は、以下の手順にて測定される。
測定対象(ソフトフェライトの粉末)を水またはエタノールなどの有機液体に投入し、35kHz〜40kHz程度の超音波を付与した状態にて約2分間分散処理して分散液を調製する。分散液中の粒状物の量は該分散液のレーザー透過率(入射光量に対する出力光量の比)が70%〜95%となる量とする。次いで該分散液について、マイクロトラック粒度分析計にかけてレーザー光の散乱により個々の粒状物の粒径(D1、D2、D3・・・)、および各粒径ごとの存在個数(N1、N2、N3・・・)を計測する(個々の粒状物の粒径(D)は、マイクロトラック粒度分析計によれば種々の形状の粒状物ごとに球相当径が自動的に測定される。)。視野内に存在する個々の粒子の個数(N)と各粒径(D)とから、下記式(1)にて平均粒径を算出する。
平均粒径=(ΣND
3/ΣN)
1/3 (1)
【0017】
磁性層12中のソフトフェライトの充填率は、40〜80体積%が好ましく、50〜70体積%がより好ましい。前記ソフトフェライトの充填率が前記下限値以上であれば、磁性層が鉄粉を含有しなくても磁気吸着特性に優れた磁性シートが得られやすい。前記ソフトフェライトの充填率が前記上限値以下であれば、成形性が良好である。
なお、磁性層中のソフトフェライトの充填率とは、磁性層の総体積に対するソフトフェライトの総体積の比率である。
【0018】
<バインダー>
バインダーとしては、磁性シートの磁性層に用いられる公知のバインダーを用いることができ、例えば、ゴム(天然ゴム、アクリル系ゴム等の合成ゴム等)、樹脂(塩素化ポリエチレン等)等が挙げられる。
磁性層12に含有されるバインダーは、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0019】
磁性層12(100体積%)中のバインダーの含有量は、20〜60体積%が好ましく、30〜50体積%がより好ましい。前記バインダーの含有量が下限値以上であれば、シート化が容易になる。前記バインダーの含有量が上限値以下であれば、磁気吸着特性に優れた磁性シートが得られやすい。
【0020】
磁性層12は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、添加剤を含有してもよい。
添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、可塑剤、着色剤、滑剤、加工助剤等が挙げられる。
添加剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
磁性層12の厚さは、0.1〜1mmが好ましく、0.2〜0.8mmがより好ましい。磁性層12の厚さが下限値以上であれば、十分な吸着力で磁石を吸着させることが可能である。磁性層12の厚さが上限値以下であれば、壁面等への施工が容易となる。
【0022】
(表面樹脂層)
表面樹脂層14を形成する材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン等が挙げられる。なかでも、顔料等による着色性が容易である点では、ポリ塩化ビニルが好ましく、イレーサーによるマーカーインクの消去しやすさの点では、ポリエチレンテレフタレート、フッ素樹脂から選択されることが好ましい。
例えば、磁性シート10をホワイトボードとして使用する場合は、表面樹脂層14に顔料(酸化チタン、酸化亜鉛等)等を配合して白色とする。
【0023】
表面樹脂層14の厚さは、0.1〜0.5mmが好ましく、0.1〜0.3mmがより好ましい。表面樹脂層14の厚さが下限値以上であれば、磁性層の色を十分に隠蔽可能である。表面樹脂層14の厚さが上限値以下であれば、磁石の吸着力を阻害しにくい。
【0024】
磁性層12と表面樹脂層14との接着は、可能であれば熱ラミネートでも押出ラミネートでもよく、接着剤又は粘着剤を適用してもよい。各層の種類に応じて適宜選択することができる。
【0025】
(接着層)
既存の壁面、扉、窓又は家具等に磁性シート10を設けるために用いられる接着層16を形成する材料としては、例えば、一時的に磁性シートを利用する場合、再剥離可能な接着剤、表面に微小な凹部及び/又は円環状、多角環状等の微小な突起を有するエラストマーからなる吸盤シート等が挙げられる。
【0026】
接着層16の厚さは、0.1〜3mmが好ましく、0.5〜2mmがより好ましい。接着層16の厚さが下限値以上であれば、磁性シート10を壁面等により安定に取り付けることができる。接着層16の厚さが上限値以下であれば、磁性シート10を容易に取り扱うことが可能であり、省スペースである。
【0027】
磁性シート10の透磁率は、5〜30が好ましく、10〜25がより好ましい。磁性シート10の透磁率が前記範囲内であれば、磁気吸着特性に優れる。
【0028】
(製造方法)
磁性シート10の製造方法は、特に限定されず、軟磁性材料としてソフトフェライトのみを用いる以外は公知の方法を採用できる。例えば、以下に示す方法が挙げられる。
軟磁性材料であるソフトフェライトとバインダーを混合した組成物を混練し、粉砕し、ロール圧延によりシート化した後、着磁装置で着磁して磁性層12を形成する。得られた磁性層12の表面に、表面樹脂層14を形成する樹脂シート(ポリ塩化ビニルシート等)をドライラミネート法により積層し、磁性層12における裏面側に吸盤シートをドライラミネート法により積層し、接着層16を形成して磁性シート10とする。
【0029】
[第2実施形態]
図2は、本発明の磁性シートの別の実施形態である磁性シート20の断面図である。
本実施形態の磁性シート20は、磁性層22と、磁性層22の表面に設けられた表面樹脂層24と、磁性層22の裏面に設けられた裏打層26と、を有する可撓性のシートである。
磁性層22は、上記した磁性層12と同じものを使用することができる。
【0030】
(表面樹脂層)
表面樹脂層24は表面層241と化粧層242とからなる。磁性層22上に化粧層242が設けられ、化粧層242上に表面層241が設けられている。
表面層241を形成する材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン等が挙げられる。なかでも、イレーサーによるマーカーインクの消去しやすさの点から、ポリエチレンテレフタレート、フッ素樹脂から選択されることが好ましい。表面層241を通して化粧層242を視覚的に感知できるよう、表面層241の少なくとも一部は透明である。
【0031】
表面層241の厚さは、0.01〜0.5mmが好ましく、0.02〜0.2mmがより好ましい。表面層241の厚さが下限値以上であれば、表面の平滑性が良好である。表面層241の厚さが上限値以下であれば、磁石の吸着力を阻害しにくい。
【0032】
化粧層242を形成する材料としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリプロピレン等が挙げられる。なかでも、顔料等による着色性が容易である点から、ポリ塩化ビニルが好ましい。
例えば、磁性シート20をホワイトボードとして使用する場合は、化粧層242に顔料(酸化チタン、酸化亜鉛等)等を配合して白色とする。
【0033】
化粧層242の厚さは、0.05〜0.5mmが好ましく、0.1〜0.3mmがより好ましい。化粧層242の厚さが下限値以上であれば、磁性層の色を十分に隠蔽可能である。化粧層242の厚さが上限値以下であれば、磁石の吸着力を阻害しにくい。
【0034】
例えば、磁性シート20をプロジェクター用スクリーンとしての使用する場合、表面層241の表面に高光線反射率の凹凸をつけてもよい。このような表面樹脂層24は、たとえば「書き映シート」(ゼネラル社製)として市販されている。
【0035】
表面樹脂層24は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、添加剤を含有してもよい。
添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、可塑剤、着色剤、滑剤、加工助剤等が挙げられる。
添加剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
表面層241と化粧層242との接着は、可能であれば熱ラミネートでも押出ラミネートでもよく、接着剤を適用してもよい。接着する層の種類に応じて適宜選択することができる。
接着剤の厚さは、1〜10μmが好ましく、3〜7μmがより好ましい。接着剤の厚さが下限値以上であれば、表面層241と化粧層242とを安定して接着することができる。接着剤の厚さが上限値以下であれば、磁性吸着力を阻害しない。
【0037】
磁性層22と表面樹脂層24との接着は、可能であれば熱ラミネートでも押出ラミネートでもよく、接着剤又は粘着剤を適用してもよい。各層の種類に応じて適宜選択することができる。
【0038】
(裏打層)
裏打層26は、磁性シート20の取り扱い容易性、壁面への適用性、壁面設置後の触感の向上等を目的として、磁性層22の裏面側に設けられる。裏打層26は、例えば、難燃性ポリエステル系繊維、ガラス繊維、カーボン繊維等の難燃性又は不燃性を有する繊維からなるマット、織物、編み物、不織布等からなる。
【0039】
裏打層26を設けることにより、磁性シート20を壁面へ設ける際、壁面下地が木質板やプラスターボードであれば、安価で有機溶剤やシックハウス症候群の原因となるホルマリンを含有しないでんぷん糊系の接着剤が使用可能である。また、壁面下地が金属板であっても、磁性シート20を壁面へ設ける際に安価で入手が容易なゴム系接着剤を選択することが可能である。また、磁性シート20を設置後の壁面は適度な弾性を有するため、磁性シート20をホワイトボードとして使用する際、手が疲れにくいという効果を得ることができる。
【0040】
裏打層26の厚さは、1〜10mmが好ましく、3〜7mmがより好ましい。裏打層26の厚さが下限値以上であれば、磁性シート10を壁面等により安定に取り付けることができる。裏打層26の厚さが上限値以下であれば、取り扱いやすい。
【0041】
裏打層26と表面樹脂層24との接着は、可能であれば熱ラミネートでも押出ラミネートでもよく、接着剤又は粘着剤を適用してもよい。各層の種類に応じて適宜選択することができる。
【0042】
[作用効果]
以上説明した本発明の磁性シートは、充分な磁気吸着特性を有している。
また、本発明の磁性シートは、軟磁性材料としてソフトフェライトのみを用いているため、軟磁性材料に鉄粉を用いる場合に比べて防錆性に優れている。また、鉄粉を用いないため、低コストであるうえ、材料の取り扱いも容易である。
【0043】
なお、本発明の磁性シートは、前記した磁性シート10には限定されない。
例えば、現場において接着剤により壁面等に取り付ける場合、ネジ、両面テープ等で壁面等に取り付ける場合等においては、本発明の磁性シートは、磁性層の裏面に接着層を有さない磁性シートであってもよい。
また、本発明の磁性シートは、磁性層の表面に表面樹脂層を有さない磁性シートであってもよい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[防錆性の評価]
磁性シートから5cm×5cmの四角形に切り取りサンプルとした。このサンプルを温度60℃、相対湿度90%RHの雰囲気に1週間放置し、その後のサンプルの状態を目視により確認し、磁性シートの防錆性を評価した。
評価は以下の基準で行った。
○:錆が発生しない。
×:錆の発生が見られる。
【0045】
[透磁率]
磁性シートを外径20mm、内径9mmのリング状に複数打ち抜き、打ち抜いたものを厚さ10mm程度になるように積層して環状体を得た。その環状体にエナメル線を30ターン巻き、エナメル線の両端部をLCRメーター(アジレント社製、E4980A)に接続し、トロイダルコイルの実効自己インダクタンスを測定した。測定時の周波数は100kHzとした。そして、以下の式より実効透磁率μ
eを求めた。
μ
e=πDL/(n
2Aμ
0)
D:環状体の平均直径=(外径+内径)/2
L:トロイダルコイルのインダクタンス(測定値)
n:ターン数=30
A:環状体の断面積=(外径−内径)×t/2
t:環状体の高さ(厚さ)
μ
0=4π×10
−7(H/m)
【0046】
[実施例1]
軟磁性材料であるMn−Zn系ソフトフェライトA(粒径2μm)63体積%と、バインダーである塩素化ポリエチレン(昭和電工社製、塩素含有量32質量%)37体積%とを混合して混練し、粉砕した後、ロール圧延を行って、厚さ0.5mmの磁性層のみからなる磁性シートを得た。
【0047】
[実施例2]
軟磁性材料としてMn−Zn系ソフトフェライトB(粒径5μm)63体積%と、バインダーである塩素化ポリエチレン(昭和電工社製、塩素含有量32質量%)37体積%とを混合した以外は、実施例1と同様にして磁性シートを得た。
【0048】
[実施例3]
軟磁性材料としてMn−Zn系ソフトフェライトB(粒径5μm)75体積%と、バインダーである塩素化ポリエチレン(昭和電工社製、塩素含有量32質量%)25体積%とを混合した以外は、実施例1と同様にして磁性シートを得た。
【0049】
[比較例1]
軟磁性材料としてMn−Zn系ソフトフェライトA(粒径2μm)60体積%、及び鉄粉5体積%と、バインダーである塩素化ポリエチレン(昭和電工社製、塩素含有量32質量%)35体積%とを混合した以外は、実施例1と同様にして磁性シートを得た。
【0050】
[比較例2]
軟磁性材料としてMn−Zn系ソフトフェライトC(粒径15μm)60体積%と、バインダーである塩素化ポリエチレン(昭和電工社製、塩素含有量32質量%)40体積%とを混合した以外は、実施例1と同様にして磁性シートを得ようとしたが、自重によってバラバラになってしまい、シート化できなかった。
実施例及び比較例の評価結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示すように、軟磁性材料としてMn−Zn系ソフトフェライトのみを用いた実施例1〜3の磁性シートは、透磁率が高く充分な磁気吸着特性を有し、かつ錆の発生も見られず防錆性に優れていた。実施例3は透磁率が特に高かったが、質量や曲げ弾性も大きく、比較的シートが取り扱いづらかった。
一方、軟磁性材料としてMn−Zn系ソフトフェライトに加えて鉄粉を用いた比較例1の磁性シートは、充分な磁気吸着特性を有していたものの、錆の発生が見られた。