(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記支持部は、前記検出部から前記開口部を介して前記収容部の外側へ延伸する第1の部材と、前記収容部の外側において前記第1の部材から屈曲して前記駆動部側へ延伸する第2の部材と、を備える、請求項1または2に記載の中性子線測定用ファントム装置。
前記支持部の一部は、少なくとも前記検出部側の一部が前記人体模擬物質と等価な等価物質で構成されている、請求項1〜3のいずれか一項に記載の中性子線測定用ファントム装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、中性子線を測定する場合は、特許文献2のようなファントム装置の構成を適用することが困難であるという問題があった。すなわち、中性子線は様々な方向に拡散しながら進行するため、測定部を移動させる駆動機構に中性子線が照射される。従って、駆動機構で反射した中性子線の影響によって測定部で正確に中性子線を測定できないという問題があった。また、駆動機構が放射化することにより作業者が近づきにくくなるという問題があった。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、容易に、且つ精度よく中性子線を測定することができる中性子線用ファントム装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る中性子線測定用ファントム装置は、中性子線が照射される人体模擬物質を収容可能であり、中性子線の照射方向における上流側の壁部とは異なる位置に開口部を有する収容部と、中性子線を検出する検出部と、検出部を収容部内で支持し、開口部を介して収容部より外側へ延伸する支持部と、支持部へ駆動力を付与する駆動部と、を備え、駆動部は、収容部の外側であって当該収容部から離間した位置に設けられる。
【0007】
本発明に係る中性子線測定用ファントム装置は、検出部を収容部内で支持する支持部と、支持部へ駆動力を付与する駆動部と、を備える。従って、検出部は、支持部を介して付与される駆動力によって収容部内を移動することにより、収容部の複数の位置において中性子線を検出することができる。ここで、支持部は、収容部の開口部を介して収容部より外側へ延伸すると共に、駆動部は、収容部の外側であって当該収容部から離間した位置に設けられる。このような構成により、駆動部は、収容部から離間した位置より支持部を介して検出部に駆動力を付与することができる。このように、駆動部が収容部から離間した位置に配置されることにより、収容部内の人体模擬物質に照射されて拡散した中性子線が駆動部に衝突して反射することを抑制できる。従って、検出部が駆動部で反射した中性子線を誤検知することを抑制できる。また、中性子線の衝突によって駆動部が放射化することを抑制できるため、作業員にとっての取り扱い性が向上する。以上によって、容易に、且つ精度よく中性子線を測定することができる。
【0008】
本発明に係る中性子線測定用ファントム装置において、駆動部は、中性子線の照射方向の下流側へ向かって収容部から離間して設けられてよい。このような構成により、他の方向へ駆動部を離間させる場合に比して、拡散した中性子線が駆動部に衝突することを抑制できる。
【0009】
本発明に係る中性子線測定用ファントム装置において、支持部は、検出部から開口部を介して収容部の外側へ延伸する第1の部材と、収容部の外側において第1の部材から屈曲して駆動部側へ延伸する第2の部材と、を備えてよい。このような構成により、支持部は、収容部の内側から大きく退避した状態で、駆動部からの駆動力を検出部へ伝えることができる。これによって、収容部から駆動部を十分に離間させた状態で、支持部は収容部と干渉することなく検出部へ駆動力を伝えることができる。
【0010】
本発明に係る中性子線測定用ファントム装置において、支持部は、少なくとも検出部側の一部が人体模擬物質と等価な等価物質で構成されていてよい。このような構成により、検出部付近において中性子線が支持部にて反射することを抑制できるため、検出部の検出精度を向上することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、容易に、且つ精度よく中性子線を測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
まず、本実施形態に係る中性子線測定用ファントム装置100の測定対象となる中性子線Nを照射する中性子捕捉療法装置1の構成の一例について説明する。
図1に示される中性子捕捉療法装置1は、ホウ素中性子捕捉療法(BNCT:Boron Neutron Capture Therapy)を用いたがん治療を行う装置である。中性子捕捉療法装置1では、例えばホウ素(
10B)が投与された患者(被照射体)50の腫瘍に中性子線Nを照射する。
【0015】
中性子捕捉療法装置1は、サイクロトロン2を備えている。サイクロトロン2は、陰イオン等の荷電粒子を加速して、荷電粒子線Rを作り出す加速器である。本実施形態において、荷電粒子線Rは陰イオンから電荷を剥ぎ取って生成した陽子ビームである。陽子ビームは、加速された陰イオンがサイクロトロン2内でフォイルストリッパー等を用いて電子を剥ぎ取られることで生成され、サイクロトロン2から出射される。このサイクロトロン2は、例えば、ビーム半径40mm、60kW(=30MeV×2mA)の荷電粒子線Rを生成する能力を有している。なお、加速器は、サイクロトロンに限られず、シンクロトロンやシンクロサイクロトロン、ライナックなどであってもよい。
【0016】
サイクロトロン2から出射された荷電粒子線Rは、中性子線生成部Mへ送られる。中性子線生成部Mは、ターゲット7、減速材9及びコリメータ10を備える。サイクロトロン2から出射された荷電粒子線Rは、ビームダクト3を通り、ビームダクト3の端部に配置されたターゲット7へ向かって進行する。このビームダクト3に沿って複数の四極電磁石4、電流検出部5、及び走査電磁石6が設けられている。複数の四極電磁石4は、例えば電磁石を用いて荷電粒子線Rのビーム軸調整やビーム径調整を行うものである。
【0017】
電流検出部5は、ターゲット7に照射される荷電粒子線Rの電流値(つまり、電荷,照射線量率)を、荷電粒子線Rの照射中にリアルタイムで検出する。電流検出部5は、荷電粒子線Rに影響を与えずに電流測定可能な非破壊型のDCCT(DC Current Transformer)が用いられている。すなわち、電流検出部5は、荷電粒子Rに触れることなく(非接触で)荷電粒子線Rの電流値を測定することができる。電流検出部5は、検出結果を制御部(不図示)に出力する。なお、「線量率」とは、単位時間当たりの線量を意味する。
【0018】
具体的には、電流検出部5は、ターゲット7に照射される荷電粒子線Rの電流値を精度よく検出するため、四極電磁石4による影響を排除すべく、四極電磁石4より下流側(荷電粒子線Rの下流側)で走査電磁石6の直前に設けられている。すなわち、走査電磁石6はターゲット7に対して常時同じところに荷電粒子線Rが照射されないように走査するため、電流検出部5を走査電磁石6よりも下流側に配設するには大型の電流検出部5が必要となる。これに対し、電流検出部5を走査電磁石6よりも上流側に設けることで、電流検出部5を小型化することができる。
【0019】
走査電磁石6は、荷電粒子線Rを走査し、ターゲット7に対する荷電粒子線Rの照射制御を行うものである。この走査電磁石6は、荷電粒子線Rのターゲット7に対する照射位置を制御する。
【0020】
中性子捕捉療法装置1は、荷電粒子線Rをターゲット7に照射することにより中性子線Nを発生させ、患者50に向かって中性子線Nを出射する。中性子捕捉療法装置1は、ターゲット7、遮蔽体8、減速材9、コリメータ10、ガンマ線検出部11を備えている。
【0021】
ターゲット7は、荷電粒子線Rの照射を受けて中性子線Nを生成する。ここでのターゲット7は、例えば、ベリリウム(Be)やリチウム(Li)、タンタル(Ta)、タングステン(W)により形成され、例えば直径160mmの円板状を成している。なお、ターゲット7は、板状に限定されず、例えば、液状でもよい。
【0022】
減速材9は、ターゲット7で生成された中性子線Nを減速させて、中性子線Nのエネルギーを低下させる。減速材9は、中性子線Nに含まれる速中性子を主に減速させる第1の減速材9Aと、中性子線Nに含まれる熱外中性子を主に減速させる第2の減速材9Bと、からなる積層構造を有している。
【0023】
遮蔽体8は、発生させた中性子線N、当該中性子線Nの発生に伴ってターゲット7にて生じたガンマ線等の二次的な放射線、及び当該中性子線Nが減速材9によって減速される際に減速材9にて生じるガンマ線等の二次的な放射線遮蔽し、これらの放射線が患者50が居る照射室側へ放出されることを抑制する。遮蔽体8は、減速材9を囲むように設けられている。遮蔽体8の上部及び下部は、減速材9より荷電粒子線Rの上流側に延在しており、これらの延在部にガンマ線検出部11が設けられている。
【0024】
コリメータ10は、中性子線Nの照射野を整形するものであり、中性子線Nが通過する開口10aを有する。コリメータ10は、例えば中央に開口10aを有するブロック状の部材である。
【0025】
ガンマ線検出部11は、荷電粒子線Rの照射により中性子線生成部Mから発生するガンマ線を、中性子線の生成中(すなわち、患者50への中性子線Nの照射中)にリアルタイムで検出する。ガンマ線検出部11としては、シンチレータや電離箱、その他様々なガンマ線検出機器を採用することができる。本実施形態において、ガンマ線検出部11は、ターゲット7の周囲で減速材9より荷電粒子線Rの上流側に設けられている。
【0026】
ガンマ線検出部11は、荷電粒子線Rの上流側に延在する遮蔽体8の上部及び下部の内側にそれぞれ配置されている。なお、ガンマ線検出部11の数は特に限定されず、一つであってもよく、三つ以上であってもよい。ガンマ線検出部11を三つ以上設けるときは、ターゲット7の外周を囲むように所定間隔で設けることができる。ガンマ線検出部11は、ガンマ線の検出結果を制御部(不図示)に出力する。このガンマ線検出部11を備えていない構成でもよい。
【0027】
次に、
図2及び
図3を参照して、本実施形態に係る中性子線測定用ファントム装置100の構成について説明する。中性子線測定用ファントム装置100は、治療前の治療品質保証のために、中性子捕捉療法装置1から照射される中性子線Nのビームプロファイルを実際の治療を行う前に測定するものである。中性子線測定用ファントム装置100は、収容部20と、検出部21と、支持部22と、駆動部23と、台座24と、を備えている。なお、説明の便宜上、
図2及び
図3には、XYZ座標系を示す。Y軸方向は、中性子線Nが照射される方向である。ここでは、Y軸方向正側が中性子線Nの照射方向における下流側とし、Y軸方向負側が中性子線Nの照射方向における上流側とする。本実施形態では、Y軸方向(すなわち中性子線Nの照射方向)は水平であるものとする。X軸方向は、Y軸方向と直交する水平方向である。Z軸方向は、X軸方向とY軸方向とに直交する方向、すなわち上下方向である。Z軸方向正側が上側であり、Z軸方向負側が下側であるものとする。
【0028】
収容部20は、中性子線Nが照射される人体模擬物質を収容可能な容器である。人体模擬物質は、中性子線Nのビームプロファイルを測定する際に、人体を模したモデルとなる物質である。本実施形態では人体模擬物質として水Wを採用する。収容部20は、少なくとも中性子線Nを測定する際に人体模擬物質が収容されていればよく、中性子線測定用ファントム装置100の搬送時等は、収容部20に人体模擬物質が収容されていなくともよい。
【0029】
収容部20は矩形箱状をなしており底壁部20aと、Y軸方向に対向する側壁部20b,20cと、X軸方向に対向する側壁部20d,20eと、を備えている。Y軸方向負側に配置される側壁部20bは、中性子線Nの照射方向における上流側の壁部である。Y軸方向正側に配置される側壁部20cは、中性子線Nの照射方向における下流側の壁部である。収容部20の上端部(中性子線Nの照射方向における上流側の壁部とは異なる位置)には上壁部が設けられておらず、開口部20fが形成されている。なお、収容部20に上壁部が設けられ、当該上壁部の一部の領域に開口部が形成されてもよい。中性子線測定用ファントム装置100によって中性子線Nの測定を行う場合、中性子線測定用ファントム装置100は、収容部20の側壁部20bがコリメータ10の開口10aと対向するように配置される(
図1参照)。従って、開口10aを通過した中性子線Nは、側壁部20bを介して収容部20内の水Wに照射される。
【0030】
検出部21は、水Wに照射された中性子線Nを検出する。検出部21は、中性子線Nの測定中は水W中に配置される。ここで、中性子線Nは、水W中を拡散するように進行する。検出部21は、駆動部23からの駆動力によって、水W中を移動する。これによって、検出部21は、水W中の各箇所における中性子線Nを検出することができる。検出部21は、配置箇所における中性子線Nの線量を検出することができる。
【0031】
検出部21として、例えば、シンチレーション検出器が採用されてよい。検出部21としてシンチレーション検出器を採用した場合、シンチレータ26が水Wの中に配置される。シンチレータ26は、入射した中性子線Nを光に変換する蛍光体である。シンチレータ26は、入射した中性子線Nの線量に応じて内部結晶が励起状態となり、シンチレーション光を発生させる。シンチレータ光は光ファイバー(不図示)で演算部(不図示)へ伝達される。演算部は、光ファイバーで伝達された光に基づいて中性子線Nの線量を演算する。なお、検出部21として、シンチレーション検出器以外に、イオンチェンバー、ガスチェンバー、半導体検出器や比例係数管等を採用してもよい。
【0032】
支持部22は、検出部21を収容部20内で支持する。支持部22は、一方の端部側で検出部21に接続され、他方の端部側で駆動部23に接続される。これによって、支持部22は、駆動部23からの駆動力によって、検出部21と共に移動する。支持部22は、検出部21から開口部20fを介して収容部20の外側へ延伸する第1の部材22aと、収容部20の外側において第1の部材22aから屈曲して駆動部23側へ延伸する第2の部材22bと、を備える。支持部22は、全体として略L字状の形状を有している。
【0033】
第1の部材22aは、上下方向(Z軸方向)に延伸しており、下端部に検出部21が固定されて、上端部に第2の部材22bが固定されている。少なくとも中性子線Nの測定中において、第1の部材22aの下端部は検出部21と共に収容部20内に配置され、第1の部材22aの上端部は収容部20の上端部(すなわち開口部20f)よりも上方に配置される。第2の部材22bは、第1の部材22aの上端部から駆動部23側へ向かって延伸しており、第1の部材22aと反対側の端部にて駆動部23に固定されている。後述のように、本実施形態では、駆動部23は収容部20に対して、Y軸方向正側、すなわち中性子線Nの照射方向における下流側に配置されている。従って、第2の部材22bは、第1の部材22aの上端部からY軸方向正側、すなわち中性子線Nの照射方向における下流側へ向かって延伸している。支持部22は、少なくとも検出部21側の一部が人体模擬物質(本実施形態では水W)と等価な等価物質で構成されている。本実施形態では、第1の部材22a及び第2の部材22bが水と等価なアクリルによって構成されている。なお、支持部22のうち少なくとも収容部20内に配置される部分が等価物質で構成されていればよい。例えば、収容部20に収容される第1の部材22aが等価物質で構成され、収容部20から離間した位置に配置される第2の部材22bは等価物質によって構成されていなくともよい。
【0034】
台座24は、収容部20及び駆動部23を支持するための部材であり、収容部20を支持するための矩形板状の第1の台座28と、駆動部23を支持するための矩形板状の第2の台座29と、を備えている。本実施形態では、第2の台座29は、第1の台座28に対して中性子線Nの照射方向における下流側(すなわちY軸方向正側)に配置される。第1の台座28のY軸方向正側の縁部の下面が、第2の台座29のY軸方向負側の縁部の上面に接続される。なお、第1の台座28のY軸方向正側の縁部と、第2の台座29のY軸方向負側の縁部との間の段差部分には、X軸方向に延びるレール部31が設けられる。
【0035】
駆動部23は、支持部22へ駆動力を付与して検出部21を収容部20内で移動させる。駆動部23は、少なくとも一軸方向に駆動力を付与すればよいが、本実施形態では、三軸方向に駆動力を付与することができる。従って、駆動部23は検出部21を収容部20内で三次元的に移動させることができる。具体的には、駆動部23は、X軸アクチュエータ32と、Y軸アクチュエータ33と、Z軸アクチュエータ34と、を備えることによって、検出部21及び支持部22に対してXYZ軸方向に駆動力を付与することができる。なお、駆動部23の各アクチュエータ32,33,34は金属材料によって構成されてよい。
【0036】
X軸アクチュエータ32は、X軸方向に延びるX軸レール部32Aと、X軸レール部32Aの上面に沿ってX軸方向に往復移動するX軸可動部32Bと、X軸可動部32Bの駆動力を発生するX軸駆動力発生部32Cと、を備えている。本実施形態では、X軸アクチュエータ32は、第2の台座29のY軸方向正側の縁部に配置される。なお、X軸可動部32B上には、Y軸方向へ延びる載置部材36が設けられている。載置部材36は、Y軸方向負側の端部がレール部31に移動可能に接続され、Y軸方向正側の端部がX軸可動部32Bの上面に接続されている。これによって、載置部材36は、X軸可動部32Bの移動に合わせてX軸方向に移動する。
【0037】
Y軸アクチュエータ33は、Y軸方向に延びるY軸レール部33Aと、Y軸レール部33Aの上面に沿ってY軸方向に往復移動するY軸可動部33Bと、Y軸可動部33Bの駆動力を発生するY軸駆動力発生部33Cと、を備えている。本実施形態では、Y軸アクチュエータ33は、載置部材36上に配置される。なお、Y軸可動部33B上には、Y軸可動部33Bより幅広な載置部材37が設けられている。載置部材37は、Y軸可動部33Bの移動に合わせてY軸方向に移動する。
【0038】
Z軸アクチュエータ34は、Z軸方向に延びるZ軸レール部34Aと、Z軸レール部34Aに沿ってZ軸方向に往復移動するZ軸可動部34Bと、Z軸可動部34Bの駆動力を発生するZ軸駆動力発生部34Cと、を備えている。Z軸可動部34Bは、Z軸レール部34AのY軸方向負側の側面に沿って、Z軸方向に往復移動する。本実施形態では、Z軸アクチュエータ34は、載置部材37上に配置される。なお、Z軸可動部34Bには、固定部材38を介して支持部22の第2の部材22bのY軸方向正側の端部が固定されている。
【0039】
駆動部23は、中性子線Nの照射方向の下流側へ向かって収容部20から離間して設けられる。駆動部23の各アクチュエータ32,33,34は、少なくとも収容部20の側壁部20cよりもY軸方向正側の位置に配置されている。また、駆動部23のうち、最もY軸方向負側の位置に配置される部分(本実施形態ではY軸アクチュエータ33のY軸レール部33AのY軸方向負側の端部、又はZ軸アクチュエータ34のZ軸可動部34BのY軸方向負側の面)も、収容部20に対してY軸方向正側へ離間している。
【0040】
次に、本実施形態に係る中性子線測定用ファントム装置100の作用・効果について説明する。
【0041】
まず、比較例に係る測定方法について説明する。比較例に係る測定方法は、固定治具の複数カ所に金箔を貼り付ける工程と、金箔が貼り付けられた複数の固定治具を水が収容された収容部に固定する工程と、当該収容部を中性子捕捉療法装置に設置して中性子線Nを照射する工程と、収容部の固定治具から放射化した金箔を取り外して放射化分析を行う工程と、を備えている。このような測定方法によれば、中性子線の放射時間に加えて、放射化分析を測定点の数だけ行う必要があるため、測定のための時間が長くなると共に、測定作業が複雑であるという問題があった。
【0042】
一方、陽子線や粒子線の測定では、
図4に示すようなファントム装置200が用いられる。
図4に示すファントム装置200は、水Wが収容される収容部201内に配置された検出部202に駆動力を付与する駆動部203を備えている。駆動部203の駆動力によって検出部202を収容部201内で移動させて複数カ所で測定を行うことにより、ファントム装置200は、上述の測定方法に比して短時間で測定を行うことができる。しかしながら、このようなファントム装置200では、駆動部203が収容部201に直接設けられている。すなわち、駆動部の各アクチュエータは、収容部201の上縁部、及び収容部201の内部に設けられている。このように駆動部203の各アクチュエータが収容部201に近接した位置に設けられているファントム装置200で中性子線Nを測定した場合、次のような問題が発生する。すなわち、中性子線Nは陽子線や粒子線のように狭い範囲に絞られた状態で照射されるものではなく、広い範囲に拡散した状態で照射されるため、駆動部203のアクチュエータで反射した中性子線Nの影響によって検出部202で正確に中性子線Nを測定できないという問題が生じる。また、駆動部203のアクチュエータが放射化することにより作業者が近づきにくくなるという問題が生じる。
【0043】
一方、本実施形態に係る中性子線測定用ファントム装置100は、検出部21を収容部20内で支持する支持部22と、支持部22へ駆動力を付与する駆動部23と、を備える。従って、検出部21は、支持部22を介して付与される駆動力によって収容部20内を移動することにより、収容部20の複数の位置において中性子線Nを検出することができる。従って、金箔を用いた上述の測定方法に比して、中性子線Nの測定に要する時間を大幅に短縮することができる。
【0044】
ここで、支持部22は、収容部20の開口部20fを介して収容部20より上方へ向かって外側へ延伸する。また、駆動部23は、収容部20の外側であって当該収容部20から離間した位置に設けられる。このような構成により、駆動部23は、収容部20から離間した位置より支持部22を介して検出部21に駆動力を付与することができる。このように、駆動部23が収容部20から離間した位置に配置されることにより、収容部20内の水Wに照射されて拡散した中性子線Nが駆動部23に衝突して反射することを抑制することができる。従って、検出部21が駆動部23で反射した中性子線Nを誤検知することを抑制できる。また、中性子線Nの衝突によって駆動部23が放射化することを抑制できるため、作業員にとっての取り扱い性が向上する。以上によって、容易に、且つ精度よく中性子線Nを測定することができる。
【0045】
本実施形態に係る中性子線測定用ファントム装置100において、駆動部23は、中性子線Nの照射方向の下流側へ向かって収容部20から離間して設けられている。このような構成により、他の方向(例えば側壁部20dと対向する位置や、側壁部20eと対向する位置など、照射方向と直交する方向)へ駆動部23を離間させる場合に比して、拡散した中性子線Nが駆動部23に衝突することを抑制できる。
【0046】
本実施形態に係る中性子線測定用ファントム装置100において、支持部22は、検出部21から開口部20fを介して収容部20の外側へ延伸する第1の部材22aと、収容部20の外側において第1の部材22aから駆動部23側へ屈曲して延伸する第2の部材22bと、を備えている。このような構成により、支持部22は、収容部20の内側から大きく退避した状態で、駆動部23からの駆動力を検出部21へ伝えることができる。これによって、収容部20から駆動部23を十分に離間させた状態で、支持部22は収容部20と干渉することなく検出部21へ駆動力を伝えることができる。
【0047】
本実施形態に係る中性子線測定用ファントム装置100において、支持部22は、少なくとも検出部21側の一部が水Wと等価な等価物質で構成されている。このような構成により、検出部21付近において中性子線Nが支持部22にて反射することを抑制できるため、検出部21の検出精度を向上することができる。
【0048】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0049】
例えば、上述の実施形態に係る中性子線測定用ファントム装置は、中性子線Nを検出する検出部を一つ有していた。ただし、検出部の数量は特に限定されず、複数の検出部を設けてよい。例えば、X軸方向に対して異なる位置に複数の検出部を設けてよい。また、Y軸方向に対して異なる位置に複数の検出部を設けてよい。また、Z軸方向に対して異なる位置に複数の検出部を設けてよい。
【0050】
また、上述の実施形態に係る中性子線測定用ファントム装置の駆動部は、中性子線Nの照射方向の下流側へ向かって収容部から離間して設けられていた。これに代えて、駆動部は、中性子線Nの照射方向と直交する方向へ向かって収容部から離間して設けられてもよい。例えば、駆動部は、収容部に対してX軸方向正側(側壁部20eから離間して対向する位置)に設けられてよく、収容部に対してX軸方向負側(側壁部20dから離間して対向する位置)に設けられてよい。なお、駆動部の設置スペースを確保できる場合、駆動部は、収容部に対してZ軸方向正側(開口部20fから離間して対向する位置)に設けられてよく、収容部に対してZ軸方向負側(側壁部20dから離間して対向する位置)に設けられてよい。また、駆動部が、中性子線Nの照射方向の下流側へ向かって収容部から離間して設けられている場合であっても、駆動部の一部が、中性子線Nの照射方向と直交する方向へ向かって収容部から離間した位置に及んでいてもよい。
【0051】
また、上述の実施形態に係る中性子線測定用ファントム装置の駆動部においては、X軸アクチュエータ32がY軸アクチュエータ33を支持し、Y軸アクチュエータ33がZ軸アクチュエータ34を支持している。ただし、各アクチュエータの組み合わせは特に限定されない。例えば、Y軸アクチュエータ33がX軸アクチュエータ32を支持し、X軸アクチュエータ32がZ軸アクチュエータ34を支持してもよい。また、X軸アクチュエータ32がZ軸アクチュエータ34を支持し、Z軸アクチュエータ34がY軸アクチュエータ33を支持してもよい。また、Z軸アクチュエータ34がX軸アクチュエータ32を支持し、X軸アクチュエータ32がY軸アクチュエータ33を支持してもよい。また、Y軸アクチュエータ33がZ軸アクチュエータ34を支持し、Z軸アクチュエータ34がX軸アクチュエータ32を支持してもよい。また、Z軸アクチュエータ34がY軸アクチュエータ33を支持し、Y軸アクチュエータ33がX軸アクチュエータ32を支持してもよい。
【0052】
なお、上述の実施形態に係る中性子線測定用ファントム装置の駆動部は、直線運動による3軸方向に駆動力を付与できる構造であったが、2軸方向、あるいは1軸方向に駆動力を付与する構造であってもよい。なお、駆動部が駆動力を付与できない方向については、検出部を複数設けることで対応してもよい。例えば、駆動部がX軸方向及びY軸方向のみに駆動力を付与できる場合、Z軸方向における複数カ所に検出部が設けられてよい。更に、直線運動によるアクチュエータに加え、あるいはそれに代えて、回転運動によるアクチュエータを設けてもよい。