【文献】
Lim Hui Yi Grace et,al.,Effect of collagen gel structure on fibroblast phenotype,Journal of Emerging Investigators,2012年,pp.1-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書の実験から、ポリマーコラーゲンとモノマーコラーゲンとをブレンドすることによって剛性コラーゲンヒドロゲルを作製することができることが示される。ポリマーコラーゲンとモノマーコラーゲンとのブレンドを含有する剛性コラーゲンヒドロゲルの圧縮は、ヒドロゲル内への哺乳動物細胞、固体要素及びナノ粒子等の移動性カーゴ粒子の封入を低減する。圧縮によりカーゴ粒子であるヒドロゲル中に封入された哺乳動物細胞が損傷する可能性もある。しかしながら、コラーゲンヒドロゲルへの非コラーゲン遮断ポリマーの組込みによりカーゴ粒子の封入を増大し、圧縮時の細胞損傷を低減することができる。
【0016】
コラーゲンヒドロゲルに組み込まれた非コラーゲン遮断ポリマーは、ヒドロゲルからの液体流動速度を低減する遮断剤としてとしての役割を果たす。これにより液体低減時の生体材料におけるナノ粒子/小分子の保持が改善され、及び/又は圧縮によりヒドロゲル中の哺乳動物細胞に生じる損傷が低減する。
【0017】
非コラーゲン遮断ポリマーは好ましくはヒドロゲルの他の成分と結合せず、ヒドロゲル内で移動性である。非コラーゲン遮断ポリマーは、ヒドロゲルのコラーゲンスキャフォールドに対して異種の大型可溶性ポリマーである。
【0018】
好適な非コラーゲン遮断ポリマーは少なくとも11nmの流体力学的半径(ストークス半径)を有する。例えば、非コラーゲン遮断ポリマーは11nm〜500nm、11nm〜250nm又は11nm〜100nmの流体力学的半径を有し得る。
【0019】
幾つかの実施形態では、コラーゲン遮断ポリマーは少なくとも11nmかつ100nm未満、50nm未満又は30nm未満の流体力学的半径(ストークス半径)を有し得る。
【0020】
流体力学的半径は、ゲル浸透クロマトグラフィー及びゲル濾過クロマトグラフィーを含む任意の簡便な方法によって測定することができる(Dutta et al (2001) Journal of Biological Physics 27: 59-71、Uversky, V.N. (1993). Biochemistry 32 (48): 13288-98、Armstrong et al Biophys J. Dec 2004; 87(6): 4259-4270)。流体力学的半径は上述のArmstrong et al (2004)に記載のように決定するのが好ましい。
【0021】
好適な非コラーゲン遮断ポリマーとしては、デキストラン、キサンタンガム、グアーガム(guar)及びデンプン等の天然ポリマー、並びにポリエチレングリコール、例えばPEG400又はPEG1000、ポリビニルアルコール、ポリ(エチレンオキシド)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ヒドロキシエチルセルロース及びカルボキシメチルセルロース等の合成ポリマーが挙げられる。
【0022】
非コラーゲン遮断ポリマーはヒドロゲル内に1mg/ml〜100mg/ml又は2mg/ml〜50mg/ml、例えば5mg/ml〜20mg/ml、好ましくは約10mg/ml存在し得る。
【0023】
コラーゲン組織は2種類のコラーゲンを含有する。酸可溶性であり、短鎖を形成するモノマーコラーゲンは、コラーゲン組織中の全コラーゲンの最大20%を占める。モノマーコラーゲンはランダム原線維構成により弱いゲルを形成する。ポリマーコラーゲンはコラーゲン組織中の全コラーゲンの80%以上を占める。
【0024】
本明細書に記載される生体材料及び構築物の作製に使用されるコラーゲン溶液は、ポリマー及びモノマーコラーゲンの両方のブレンド又は混合物を含む。コラーゲン溶液を凝固させることで、ポリマー及びモノマーコラーゲン原線維と間隙液とを含むコラーゲンヒドロゲルが得られる。
【0025】
コラーゲン溶液中のコラーゲンは20%〜100%(w/w)、30%〜80%(w/w)、35%〜70%(w/w)、40%〜60%(w/w)又は45%〜55%(w/w)、好ましくは約50%がポリマーコラーゲンであり得る。原線維形成後には、コラーゲンヒドロゲル中のコラーゲン原線維の20%〜100%(w/w)、30%〜80%(w/w)、35%〜70%(w/w)、40%〜60%(w/w)又は45%〜55%(w/w)、好ましくは約50%がポリマーコラーゲン原線維であり得る。
【0026】
コラーゲンヒドロゲル中のポリマー及びモノマーコラーゲン原線維はコラーゲンI型、II型、III型、V型、VI型、VII型、IX型及びXI型(II型、IX型、XI型は軟骨組織のみ)、並びにこれらの組合せ(例えばI、III、V又はII、IX、XI等)を含む任意の天然原繊維形成コラーゲン型であり得る。より好ましくは、コラーゲン原線維はコラーゲンI型、II型又はIII型である。例えば、原繊維はコラーゲンI型原繊維、又はI型、III型及びV型若しくはII型、IX型及びXI型の組合せであってもよい。
【0027】
ポリマーコラーゲン(PC)は殆どのコラーゲン組織の主要画分を形成する。ポリマーコラーゲンは不溶性であり、共有結合的に架橋され、幾つかの小さなオリゴマー凝集体を有する大直径原繊維へと組織化される整列したコラーゲン線維の鎖を含む。大直径原繊維は共有結合による原繊維内架橋を含有する。
【0028】
ポリマーコラーゲンは、ポリマーを低pHで透明な溶液/懸濁液に膨潤させた後、コラーゲン線維を中和によって再凝縮/再凝集することで天然コラーゲン組織から精製することができる(Steven F.S. (1967) Biochim. Biphys. Acta 140, 522-528、Schofield, J.D. et al (1971) Biochem. J. 124, 467-473、Steven, F.S. et al (1969) Gut 10, 484-487)。例えば、ポリマーコラーゲン溶液は、
(i)例えばエチレンジアミン四酢酸(例えば0.5M EDTA)を用いた処理によってコラーゲン組織のサンプルからカルシウムを枯渇させることと、
(ii)カルシウムを枯渇させた組織サンプルを0.5M酢酸等の酸溶液中に分散させて組織懸濁液を得ることと、
(iii)組織懸濁液を例えばNaOHで中和して、懸濁液中のポリマーコラーゲンを凝集させることと、
(iv)凝集ポリマーコラーゲンを中和した組織懸濁液から取り出すことと、
(v)凝集ポリマーコラーゲンを酸性溶液中に分散させてポリマーコラーゲン懸濁液を得ることと、
(vi)ポリマーコラーゲン懸濁液を中和して、懸濁液中のポリマーコラーゲンを凝集させることと、
(vii)中和した懸濁液から凝集ポリマーコラーゲンを取り出すことと、
(viii)任意に工程(v)〜(vii)を1回又は複数回繰り返すことと、
(ix)凝集ポリマーコラーゲンを酸性溶液中に分散させて精製ポリマーコラーゲン懸濁液を得ることと、
を含む方法によって作製することができる。
【0029】
モノマーコラーゲン(MC)は殆どのコラーゲン組織において全コラーゲンの最大20%を占める。モノマーコラーゲンは酸可溶性であり、架橋していない短鎖を形成する。
【0030】
モノマーコラーゲンは商業供給業者から入手するか、又はポリマーを低pHで透明な溶液/懸濁液に膨潤させた後、架橋ポリマーコラーゲンを例えば塩分画(salt fractionation)によって凝縮し、取り出すことでラットの皮膚若しくは尾腱等の天然コラーゲン組織から精製することができる。
【0031】
コラーゲンヒドロゲルの調製に使用されるモノマーコラーゲン溶液は、例えば10%の細胞培養培地を含有する90%の酸可溶性コラーゲン溶液(例えば酢酸中2.05mg/ml)を、例えばNaOHを用いて中和することによって作製することができる。
【0032】
コラーゲンヒドロゲルは間隙にカーゴ粒子が播種される。
【0033】
カーゴ粒子はヒドロゲル内で移動性であるほど十分に小さな異種成分である。カーゴ粒子はコラーゲン溶液に人工的に導入され、コラーゲン組織から従来の技法を用いて精製されたポリマー又はモノマーコラーゲン調製物中には見られない(例えば、Steven, F.S. and Jackson, D.S. (1967), Biochem. J. 104, 534を参照されたい)。
【0034】
幾つかの実施形態ではカーゴ粒子は細胞であり、圧縮コラーゲン構築物は細胞性である。
【0035】
カーゴ粒子は生存哺乳動物細胞を含んでいてもよい。
【0036】
コラーゲンヒドロゲルにおいて間隙に播種された哺乳動物細胞は液体除去プロセスによって損傷せず、圧縮コラーゲン生体材料中で生存し続ける(すなわち、圧縮コラーゲン生体材料は細胞性である)。
【0037】
哺乳動物細胞としては、収縮構造をもたらす筋細胞、伝達要素をもたらす血管細胞及び/又は神経細胞、肝細胞、ホルモン合成細胞、脂腺細胞、膵島細胞又は副腎皮質細胞等の分泌構造をもたらす代謝的に活性な分泌細胞、皮膚線維芽細胞等の線維芽細胞、皮膚ケラチノサイト、メラニン細胞(及び2つの複合層)、神経インプラントのためのシュワン細胞、血管構造のための平滑筋細胞及び内皮細胞、膀胱/尿道構造のための尿路上皮細胞及び平滑筋細胞、骨及び腱構造のための骨細胞、軟骨細胞及び腱細胞、並びに角膜(輪部)幹細胞、皮膚表皮幹細胞、消化管(腸管)幹細胞、泌尿生殖系幹細胞、気管支幹細胞及び他の上皮幹細胞、骨髄幹細胞、成長板幹細胞等の幹細胞を挙げることができる。
【0038】
幾つかの好ましい実施形態では、細胞は皮膚線維芽細胞、ケラチノサイト、メラニン細胞、幹細胞又は軟骨細胞であり得る。
【0039】
細胞は、コラーゲンヒドロゲル又は圧縮コラーゲン生体材料において任意の配置で間隙に分布させることができる。例えば、細胞を生体材料全体にわたって均一に分布させるか、又は生体材料内の規定の区域、領域若しくは層に分布させることができる。
【0040】
哺乳動物細胞は生存能力を維持するのに好適な温度、中性pH、イオン強度及び剪断の条件下でコラーゲン溶液に組み込むことができる。細胞を添加する前にコラーゲン溶液を中和するのが好ましい。細胞は、例えばピペット播種に続く穏やかな混合によってコラーゲン溶液に添加することができる。幾つかの実施形態では、細胞をポリマーコラーゲン、モノマーコラーゲン及び非コラーゲン遮断ポリマーの後にコラーゲン溶液に添加する。
【0041】
コラーゲン溶液中の初期細胞密度は1ml当たり約1×10
4〜1×10
7細胞、より好ましくは1ml当たり約1×10
5〜1×10
6細胞であり得る。
【0042】
液体除去によりヒドロゲルが圧縮され、その体積が低減する。細胞密度は圧縮コラーゲン生体材料において体積の低減に応じて2倍以上、10倍以上、100倍以上又は200倍以上増大し得る。
【0043】
他の実施形態ではカーゴ粒子は細胞ではなく、圧縮コラーゲン構築物は無細胞性である。
【0044】
カーゴ粒子は固体要素を含んでいてもよい。
【0045】
固体要素としては、カーボンナノチューブ等のチューブ、金属又は硬組織粒子、ナノ粒子、磁性粒子、並びに造影粒子、例えばX線不透過性粒子、超音波反射粒子又は蛍光粒子等の粒子、毛細フィラメント(capillary filaments)等の線維、並びに脂質/リン脂質ベシクル、リポソーム及び徐放性薬物ベシクル等のベシクルを挙げることができる。
【0046】
硬組織粒子は直径がおよそ100ミクロン〜500ミクロンであり得るとともに、任意の固体材料又は無機物、例えば多孔質セラミック、リン酸三カルシウム、シリコーン、ガラス、バイオガラス、リン酸塩ガラス、ヒドロキシアパタイト又は骨塩調製物(有機相の天然骨の除去による)であり得る。
【0047】
硬組織粒子を骨芽細胞又は軟骨細胞とともに圧縮コラーゲン生体材料に組み込み、人工骨又は石灰化軟骨置換組織を作製することができる。粒子と生体材料及び細胞との比率は、必要とされる粒径及び組織特性(例えば密に又は緩く充填された硬組織)によって決まる。
【0048】
カーゴ粒子は治療物質を含んでいてもよい。治療物質を組み込んだ圧縮コラーゲン生体材料は、患者において治療物質をin situで放出するカプセル、デポー若しくはインプラントとして有用であり得るか、又はそれ自体に治療物質を含有するカプセル、リポソーム、ベシクル若しくはデポーを組み込むことができる。
【0049】
治療物質としては、小有機分子、タンパク質、例えば抗体分子、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、成長因子、ウイルス、核酸分子、例えばアプタマー、若しくはアンチセンス若しくはセンス抑制分子、ベクター、抗生物質、又は微生物を挙げることができる。治療物質はナノ粒子若しくは他の物体(bodies)に装填しても、又は間隙液中に遊離していてもよい。
【0050】
本明細書に記載されるコラーゲンヒドロゲルは、原繊維が本来コラーゲン溶液を保持していた水性間隙液の周辺に連続ネットワークを形成することで、コラーゲン原線維の合体及び伸長(原線維形成)によって形成される。例えば、三重らせんコラーゲンモノマーを初めに希酸に溶解し、次いで原繊維への重合を(例えば37℃及び中性pHで)誘導することができる。原線維形成が生じると相変化が起こり、原繊維の強固なネットワークが残りの間隙液をほぼ同じ体積及び形状で「支持する」、すなわちゲル化する。
【0051】
原線維形成による可溶性モノマーから固体ポリマーへの相転移はコラーゲンヒドロゲルに特徴的である。ゲルは予め重合した線維から形成され得る「スポンジ」とは異なる。
【0052】
コラーゲンヒドロゲルは90%(w/w)超、95%(w/w)超又は99%(w/w)超の間隙液を含み得る。間隙液は水性液体である。例えば、液体は塩及びタンパク質等の溶質が溶解した水とすることができる。幾つかの実施形態では、間隙液は細胞の成長及び増殖に好適な細胞培養培地である。
【0053】
コラーゲンヒドロゲルの液体除去及び圧縮は、その剛性を非処理コラーゲンヒドロゲルと比べて増大させる。
【0054】
ヒドロゲルを圧縮して圧縮コラーゲン生体材料を得るためにコラーゲンヒドロゲルの液体含量を低減させる。したがって、圧縮コラーゲン生体材料中の間隙液の量はコラーゲンヒドロゲル中よりも少ない。
【0055】
ヒドロゲルの圧縮によりその体積が低減するが、液体含量が低減した後であってもヒドロゲルはその新たな体積を保持する又は実質的に保持する。この圧縮によりコラーゲン原線維間の距離が低減し、生体材料中の隣接原繊維間の接触点の数が増大し、圧縮コラーゲン生体材料の剛性が増大する。液体除去は、間隙液をヒドロゲルから抜き取る又は排出させる外力又は毛管現象等の物理的処理にヒドロゲルを供することによって生じる急速な細胞非依存性プロセスである。
【0056】
コラーゲンヒドロゲルから間隙液を除去するのに好適な方法は当該技術分野で既知であり、例えば非特許文献1、非特許文献2、特許文献1及び特許文献2に記載されている。例えば、間隙液はゲルから排出させる又は抜き取ることができる。
【0057】
幾つかの好ましい実施形態では、コラーゲンヒドロゲル中の液体の量は、液体がヒドロゲルから吸収体へと毛管現象によって移動するようにゲルと吸収体とを接触させることによって低減させることができる。
【0058】
吸収体は例えば紙、特に吸取紙であってもよい。吸収体は、所望の圧縮を達成するのに十分な液体がヒドロゲルから抜き取られた後にゲルから取り出すことができる。
【0059】
液体は1つ又は複数の規定のベクトル又は方向で除去することができ、間隙液は規定のヒドロゲルの表面を介してゲルから吸収体へと移動し得る。ヒドロゲルが圧縮される際に液体が通過するゲルの表面は、流体脱離面(FLS:Fluid Leaving Surface)と呼ばれる。
【0060】
コラーゲンヒドロゲルは液体除去時に制限又は部分的に制限することができる。透過性支持体を使用してコラーゲンヒドロゲルのFLSを制限することができ、他の表面は不透過性支持体によって制限される。液体は透過性支持体によって支持又は制限されるヒドロゲル表面を介して排出することができる。液体除去時に透過性支持体によって制限されるヒドロゲル表面は流体脱離面である。ヒドロゲルの非FLS面は、液体除去が流体脱離面のみを介して指向されるように間隙液の放出を妨げる不透過性支持体によって制限することができる。
【0061】
ヒドロゲル内の非コラーゲン遮断ポリマーはヒドロゲルからの液体の初期流動速度を低減する。例えば、液体はヒドロゲルから0.65ml/分未満の速度で移動させることができる。
【0062】
ヒドロゲル中の非コラーゲン遮断ポリマーはヒドロゲルからの液体の流動速度を低減する。例えば、液体はヒドロゲルから0.13ml/分未満の平均速度で5分間にわたって移動させることができる。
【0063】
コラーゲンヒドロゲルと吸収体とを、液体がヒドロゲルから吸収体へとそれ以上抜き取られなくなるまで(すなわち圧縮が完了するまで)接触させることができる。
【0064】
非コラーゲン遮断ポリマーは、ヒドロゲルの完全な圧縮に必要とされる時間を増大する。例えば、コラーゲンヒドロゲルと吸収体とを30分以上接触させる。
【0065】
液体低減の量又は程度は、生体材料の用途に応じて変更することができる。例えば、コラーゲンヒドロゲル中の液体の量はヒドロゲルの元の液体含量の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも99%又は少なくとも99.9%低減させることができる。
【0066】
例えば、ヒドロゲルの体積は間隙液の除去によって50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上又は99.9%以上低減させることができる。
【0067】
一部の間隙液、例えばヒドロゲルの元の液体含量の少なくとも10%、少なくとも1%又は少なくとも0.1%が圧密化後に残存するのが好ましい。これにより圧縮コラーゲン構築物における哺乳動物細胞の生存が可能となる。
【0068】
好ましい実施形態では、脱水により細胞が死滅し、生体材料の構造が損傷するため、ヒドロゲル又は圧縮コラーゲン構築物は液体除去前、液体除去中又は液体除去後に乾燥又は脱水、例えば加熱乾燥、凍結乾燥、風乾又は真空乾燥に供しない。
【0069】
ヒドロゲル中の非コラーゲン遮断ポリマーの存在は、液体除去及び圧縮時の哺乳動物細胞に対する損傷を防止する。コラーゲンヒドロゲル中の哺乳動物細胞の少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%又は少なくとも95%が圧縮コラーゲン生体材料中で生存し続けることができる。
【0070】
ヒドロゲル中の非コラーゲン遮断ポリマーの存在は、液体除去及び圧縮時のカーゴ粒子の封入を改善する。コラーゲンヒドロゲル中のカーゴ粒子の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%又は少なくとも95%が圧縮コラーゲン生体材料中に存在し得る。
【0071】
凝固の後に圧縮コラーゲン生体材料を保管するか、組織工学用途に使用するか、又は更に加工することができる。
【0072】
細胞死又は損傷を低減及び/又は防止するために、哺乳動物細胞を含む圧縮コラーゲン生体材料は、使える状態になるまで生存能力を維持するが、細胞成長を支持しない条件下で保管することができる。例えば、生体材料は低温、例えば0℃〜10℃で保管するか、又は凍結保護物質の存在下で凍結することができる(0℃未満)。生体材料は37℃の細胞培養培地中で短時間保管することができる。幾つかの実施形態では、脱水により細胞が死滅し、生体材料の構造が損傷するため、生体材料は乾燥又は脱水、例えば加熱乾燥、風乾又は真空乾燥に供しない。
【0073】
本発明の別の態様はポリマーコラーゲン原線維と、モノマーコラーゲン原線維と、カーゴ粒子と、非コラーゲン遮断ポリマーとを含む圧縮コラーゲン生体材料を提供する。
【0074】
圧縮コラーゲン生体材料は本明細書に記載されるコラーゲンヒドロゲルを圧縮することによって作製することができ、非圧縮コラーゲンヒドロゲルと比べて液体含量が低減し、剛性が増大したものであり得る。
【0075】
好適なポリマー及びモノマーコラーゲン溶液、カーゴ粒子並びに非コラーゲン遮断ポリマーは上により詳細に記載されている。
【0076】
本発明の別の態様は、
ポリマーコラーゲン溶液と、
モノマーコラーゲン溶液と、
哺乳動物細胞、固体要素及び治療物質から選択されるカーゴ粒子と、
非コラーゲン遮断ポリマーと、
を含むキットを提供する。
【0077】
好適なポリマー及びモノマーコラーゲン溶液、カーゴ粒子並びに非コラーゲン遮断ポリマーは上により詳細に記載されている。
【0078】
キットは上記の圧縮コラーゲン生体材料の作製方法における使用説明書を含んでいてもよい。
【0079】
キットは緩衝液、細胞培養培地及び吸収体等の上記方法に必要とされる1つ又は複数の他の試薬を含んでいてもよい。
【0080】
キットは容器、マルチウェルプレート及び試薬取扱容器等の上記方法の実施のための1つ又は複数の物品を含んでいてもよい(かかる構成品は概して無菌である)。
【0081】
本明細書に記載される圧縮コラーゲン生体材料は毒物学的スクリーニング、薬理学的スクリーニング及び病原体スクリーニング、並びに他の研究目的のための三次元モデル組織として有用であり得る。圧縮コラーゲン生体材料はコーティング、充填材として、また従来の(例えば金属又はプラスチック)補綴インプラントに、又はin situでの薬物放出の制御、並びに療法、医薬品開発、細胞培養、整形外科、皮膚科学及び創傷治癒における用途のためのカプセル、デポー若しくはインプラントとしても有用であり得る。
【0082】
圧縮コラーゲン生体材料は組織等価インプラントの作製にも有用であり得る。
【0083】
組織等価インプラントは、例えば損傷又は罹患した可能性のある内生組織を修復又は置換するための個体への移植用の材料である。組織等価インプラントによって修復又は置換ことができる組織の例としては、神経、腱、靱帯、軟骨、皮膚、筋膜、骨、泌尿生殖要素、肝臓、心肺組織、腎臓、角膜等の眼組織、血管、腸管及び腺が挙げられる。
【0084】
罹患又は損傷組織は例えば関節炎、神経筋損傷/変性、筋腱不全及び加齢変性、外傷(例えば熱傷)、組織壊死又は外科的切除(例えば腫瘍外科手術)後の再生不良に起因し得る。
【0085】
組織等価インプラントを作製するために、圧縮コラーゲン生体材料に付加的な加工、例えば組織培養、成形及び/又は整形を行ってもよい。
【0086】
作製の後、圧縮コラーゲン生体材料を生体材料中の常在細胞が微量成分を蓄積し、コラーゲン物質を再構築するように組織培養に供することができる。
【0087】
圧縮コラーゲン生体材料を任意の簡便なインプラント形態、例えばパッチ、ブロック、チューブ、テープ、ストリップ、リング、球、トロイド、毛管、ロール、シート又は糸へと整形、切断又は成形し、組織等価インプラントを作製することができる。インプラントの最終形状は、それが使用される特定の状況によって決まる。幾つかの実施形態では、インプラントは更なる整形に好適な柔軟な形態を有していてもよい。
【0088】
幾つかの実施形態では、圧縮コラーゲン生体材料のシート又はストリップは多層構築物、例えばロールを形成するように巻き取る又は折り畳むことができる。この多層構築物は組織等価インプラントとして直接使用してもよく、又は必要に応じて更に切断、整形若しくは成形してもよい。幾つかの実施形態では、多層構築物は複数の層が付着するか、所望の寸法が達成されるか、細胞密度が増大するか又は他の特性が改善するように可塑的に圧密化することができる。
【0089】
本発明の他の態様は、組織等価インプラントとして使用される本明細書に記載の圧縮コラーゲン生体材料、及び例えば損傷又は機能障害組織の置換、修復又は補充のための組織等価インプラントとして使用される薬剤の製造における本明細書に記載の圧縮コラーゲン生体材料の使用に関する。
【0090】
組織等価インプラントは上記の治療用途に好適であり得る。
【0091】
本発明の別の態様は、本明細書に記載の方法によって作製される又は作製可能な圧縮コラーゲン生体材料を含む又はそれからなる組織等価インプラントを提供する。
【0092】
本発明の別の態様は、個体において損傷又は欠損組織を治療する方法であって、
本明細書に記載される組織等価インプラントを上記組織に固定して、該組織を修復、補充及び/又は置換すること、
を含む、方法を提供する。
【0093】
インプラントは任意の簡便な技法によって固定することができる。例えば、インプラントを適所に縫合又は接着することができる。
【0094】
本明細書に記載される圧縮コラーゲン生体材料から作製されるインプラントは縫合が行われるが、筋肉負荷下であっても身体部位に外科的に縫合することができる。
【0095】
本発明の他の態様は、ポリマーコラーゲンから作られるヒドロゲル及び圧縮生体材料に関する。生体材料を作製する方法は、
(i)ポリマーコラーゲンの溶液、(ii)カーゴ粒子及び(iii)異種遮断ポリマーを混和させてコラーゲン溶液を得ることと、
コラーゲン溶液を凝固させてヒドロゲルを得ることと、
を含み得る。
【0096】
幾つかの好ましい実施形態では、上記方法は、
ヒドロゲル中の液体の量を低減させて、カーゴ粒子及び移動性遮断ポリマーを含む圧縮ポリマーコラーゲン生体材料を得ること、
を更に含み得る。
【0097】
ポリマーコラーゲンの溶液は国際公開第2011/007152号に記載のように作製することができる。
【0098】
ポリマーコラーゲンとモノマーコラーゲンとのブレンド溶液及びヒドロゲルに関する上記の本発明の態様の説明は、変更すべき点を変更してポリマーコラーゲンゲル溶液及びヒドロゲルに関する態様に適用される。
【0099】
本発明の他の態様は、非コラーゲンスキャフォールドポリマー(すなわち非コラーゲン生体材料)から作られるヒドロゲル及び圧縮生体材料に関する。生体材料を作製する方法は、
(i)非コラーゲンスキャフォールドポリマーの溶液、(ii)カーゴ粒子及び(iii)異種遮断ポリマーを混和させてゲル溶液を得ることと、
ゲル溶液を凝固させてヒドロゲルを得ることと、
を含み得る。
【0100】
幾つかの好ましい実施形態では、上記方法は、
ヒドロゲル中の液体の量を低減させて、カーゴ粒子及び移動性遮断ポリマーを含む圧縮生体材料を得ること、
を更に含み得る。
【0101】
好適な非コラーゲンスキャフォールドポリマーは凝集して、スキャフォールドポリマーの線維及び間隙液を含むヒドロゲルを形成する。好適なポリマーとしては、天然ポリマー、例えば絹、フィブリン、フィブロネクチン若しくはエラスチン等のタンパク質、キチン若しくはセルロース等の糖タンパク質若しくは多糖、又は合成ポリマー、例えばポリラクトン、ポリグリシン及びポリカプロラクトン等の有機ポリマー、並びにリン酸塩ガラス等の無機ポリマーが挙げられる。
【0102】
遮断ポリマーは非コラーゲンスキャフォールドポリマーに対して異種であり、ヒドロゲル内で移動性である。好適な遮断ポリマーは上に記載されている。
【0103】
コラーゲン溶液及びヒドロゲルに関する上記の本発明の態様の説明は、変更すべき点を変更して非コラーゲンゲル溶液及びヒドロゲルに関する態様に適用される。
【0104】
本発明の様々な更なる態様及び実施形態が本開示に鑑みて当業者に明らかである。
【0105】
本発明の他の態様及び実施形態は、「含む(comprising)」という用語を「からなる(consisting of)」という用語に置き換えた上記の態様及び実施形態、並びに「含む(comprising)」という用語を「から本質的になる(consisting essentially of)」という用語に置き換えた上記の態様及び実施形態を提供する。
【0106】
本願が文脈上他の要求のない限り、任意の上記の態様及び上記の実施形態の互いの全組合せを開示することを理解されたい。同様に、本願は文脈上他の要求のない限り、単独の又は任意の他の態様と併せた好ましい及び/又は任意の特徴の全組合せを開示する。
【0107】
上記の実施形態の修正形態、更なる実施形態及びその修正形態は本開示を読むことで当業者に明らかであり、これら自体が本発明の範囲内である。
【0108】
本明細書中で言及される全ての文献及び配列データベースエントリは、その全体が全ての目的のために引用することにより本明細書の一部をなす。
【0109】
「及び/又は」は本明細書で使用される場合、他方を含む又は含まない指定の2つの特徴又は成分の各々の具体的な開示とみなされる。例えば、「A及び/又はB」は各々が本明細書で個別に説明される場合と同様に、(i)A、(ii)B及び(iii)A及びBの各々の具体的な開示とみなされる。
【0110】
ここで、本発明の或る特定の態様及び実施形態を、上で説明した図面及び以下の表を参照して例示として説明する。
【0111】
表1は、時間の増大又は大型ポリマーの濃度の増大に対するペプシンで処理したコラーゲンの最初の30秒間(初期速度)及び5分間の圧縮の時点での平均圧縮速度(±標準偏差(SD))を示す。完全な圧縮までの時間は、圧縮速度がゼロに達する時間(2d.p.に対して補正)として記す。
【0112】
実験
1. 材料及び方法
コラーゲンヒドロゲル
無細胞性ヒドロゲルを、10%の10倍最小必須培地(MEM)(Gibco life technologies,UK)を含有する90%のラット尾酸可溶性I型コラーゲン(酢酸中2.05mg/ml、First link,UK)を、5M及び1M水酸化ナトリウム(NaOH)を用いて中和することによって氷上で調製した。細胞性ヒドロゲルについては、酸可溶性溶液の10%を、細胞を含有する10%のダルベッコ変法イーグル培地(10%ウシ胎仔血清及び1%ペニシリンストレプトマイシンを添加したDMEM、Sigma-Aldrich;細胞を含有する)に置き換え、中和してから添加した。
【0113】
具体的に述べると、ブレンド剛性コラーゲンヒドロゲルを、酸可溶性コラーゲンの体積の半分をポリマーコラーゲンの溶液(0.5M酢酸中で約2mg/mlに調整)で置き換えることによって作製した。簡潔に述べると、ポリマー(既架橋)コラーゲンを均質化仔ウシ腱から24時間(溶液を少なくとも1回交換する)の0.5Mエチレンジアミン四酢酸(EDTA;Sigma-Aldrich)処理(Steven, F. Biochim. Biophys. Acta. 140, 522-528, 1967)によって抽出した。処理した腱を蒸留水で2回洗浄した後、0.5M酢酸に入れた(腱塊中のコラーゲン原線維を展開させる)。ポリマーコラーゲンを(NaOHを用いた)中和時の剪断凝集によって採取した。回収したコラーゲンを繰り返し(少なくとも2回)展開し、0.5M酢酸から回収して、コラーゲン原線維間に捕捉された不純物を除去した。同量のクロロホルム(BDH laboratory supplies)を滅菌のために使用した。
【0114】
ペプシン処理
ペプシン処理により、トロポコラーゲン(従来のゲル化コラーゲン)を移動性コラーゲン種の供給源としてのアテロコラーゲンへと変換した。アテロコラーゲンは原線維形成中に隣接コラーゲン分子とあまり容易には会合せず、(圧縮時に)ヒドロゲル内で移動性のままであり、潜在的にFLSを遮断する。ペプシン(Sigma-Aldrich)を0.5M酢酸に溶解し(2.5mg/ml)、(撹拌機において)4℃で酸可溶性I型コラーゲンに99倍で添加した。ペプシン添加後0時間、1.5時間、3時間、6時間、9時間、24時間、48時間、72時間、94時間の時点で、(上に詳述されるように)コラーゲン溶液を中和した。2.5mlの溶液を24ウェルプレートにおいて37℃、5%CO
2で30分間インキュベートした。得られたゲルの圧縮速度を測定した(下記を参照されたい)。
【0115】
大型ポリマー
原線維形成中に移動性のままである大型ポリマーをコラーゲンヒドロゲルに組み込み、FLSでの遮断を増大した。0.9%生理食塩水中のフィブリノゲン(340kDa、Sigma-Aldrich)、脱イオン水中のデキストラン(500kDa、Fisher Bioreagents)又はポリ(エチレンオキシド)(PEG;400kDa又は1000kDa、Sigma-Aldrich)等の大型ポリマーを0mg/ml、2mg/ml、5mg/ml、10mg/ml又は20mg/mlの濃度にした。Ficoll(商標) 400(Sigma-Aldrich)を脱イオン水中で10mg/ml又は50mg/mlとした。ポリマー溶液(10%)を90%の中和コラーゲン溶液に(氷上で)混合した後、インキュベーション(30分間、37℃、5%CO
2)及びその後の圧縮速度の測定のために2.5mlを24ウェルプレートに移した。
【0116】
ヒドロゲル圧縮速度の測定
ヒドロゲルをペーパーロールプランジャー(Whatmanのグレード1クロマトグラフィー用ペーパー、95×4cm)を用いて可塑的に圧縮し、ヒドロゲルを保護するように設計された2枚の適切なサイズのペーパーディスク(Whatman、グレード1ペーパー)によってヒドロゲルから分離した。質量増加に応じた圧縮速度を、質量増加がそれ以上検出されなくなるまでプランジャーによって経時的に測定した(圧縮の最初の5分間は30秒毎、続いて毎分測定した)。
【0117】
細胞性ブレンドコラーゲンゲル
10mg/mlのPEG 400kDaは圧縮速度の最適な制御をもたらし、ヒト皮膚線維芽細胞を含有するブレンド(ポリマー)コラーゲンゲルに使用した(1.5mlのゲル、15000細胞/ゲル)。ブレンドゲルを作製し、上記のように圧縮した。ゲルにおける細胞活性をアラマーブルーアッセイによって測定した。アッセイのために、10%のアラマーブルー(AbD, Serotec)を90%のフェノールレッド不含有DMEM(Sigma-Aldrich)に添加し、そのうち0.5mlを各サンプルに添加し、4時間インキュベートした(37℃、5%CO
2)。100μlのアラマーブルー溶液を、510nm及び590nmでの吸光度読取りのために96ウェルマイクロプレート分光光度計(二連;MR700マイクロプレートリーダー、Dynatech Laboratories)に移した。
【0118】
ナノ粒子封入
fitc(500nm)とコンジュゲートしたヒアルロナンナノ粒子(HA−NP)を使用して、FLS遮断ポリマーの存在下での圧縮ヒドロゲルにおけるナノ粒子封入の効率を研究した。1mg/mlのHA−NPを脱イオン水に溶解し、30秒間ボルテックスした後に使用した。10%の1mg/ml HA−NPを70%の酸可溶性I型コラーゲン、10%の10倍MEM及び10%のPEG(400kDa)を含有する中和コラーゲン溶液に添加した後、24ウェルプレートにおいてゲル化した(30分間、37℃(ドライインキュベーター))。得られたヒドロゲルを完全に圧縮し(非圧縮ゲルを対照とする)、1mlの0.2%コラゲナーゼI溶液(水中、Gibco,UK)に37℃で最大40分間(振盪機上で)溶解した。得られたHA−NP含有溶液を脱イオン水で2252倍に希釈した後、吸光度を読み取った(LS 50B、発光分光計、Perkin Elmer;励起波長490nm、発光波長525nm)。
【0119】
統計
圧縮速度に関するデータについての統計的有意性を一元配置ANOVA(LSD post−hoc)によって決定した。他の全ての実験については独立サンプルt検定を用いた。信頼区間はp<0.05に設定した。
【0120】
2. 結果
コラーゲンのペプシン処理又は大型ポリマーの組込みによる初期速度(最初の30秒間)及び5分間の圧縮時点での速度を表1にまとめる。酸可溶性コラーゲンのペプシン処理は圧縮速度の減少をもたらさなかった。完全な圧縮までの時間は一貫して対照ヒドロゲル(ペプシン処理なし)よりも低く、処理によって生成した任意の移動性種がFLSでの原繊維間の「細孔」の遮断をもたらさないことが示唆された。したがって、これらの移動性種はこれらの細孔よりも小さいか、又はトロポコラーゲン(ゲル形成コラーゲン)の減少がヒドロゲル内で「細孔」の拡大をもたらし、ヒドロゲルを移動性種の捕獲に効果的でなくするはずである。
【0121】
コラーゲン圧縮速度は24時間のペプシン処理まで増大し続けた。更なる処理時間では、圧縮速度は24時間のペプシン処理での最高の初期速度(1.089±0.152ml/分)から減少する兆候を示した(
図2)。
【0122】
大型ポリマーの組込みは圧縮速度の減少により効果的であり、ポリマーの最適濃度は10mg/mlのPEG(400kDa及び1000kDa)(それぞれp≦0.001及びp=0.001)であった(
図3)。10mg/mlのフィブリノゲン(p=0.837)又はデキストラン(p=0.085)は圧縮速度を遅らせなかったが、興味深いことに、より低濃度のフィブリノゲン(5mg/ml)は圧縮速度を対照ゲルと比べて減少させることが可能であった(p=0.006)。しかしながら、Ficoll(商標) 400(10mg/ml)をコラーゲンヒドロゲルに添加した場合、圧縮速度は予想に反して有意に増大した(p=0.002)。
【0123】
圧縮速度の減少はポリマーのストークス半径と相関し、その分子量とは独立していた。概して、流体力学的半径が大きいほど、ポリマーはFLSでの遮断剤としてより効果的であった。フィブリノゲン、デキストラン、PEG 400kDa、PEG 1000kDa及びFicoll 400の流体力学的半径はそれぞれ10.95nm、15.9nm、26.56nm、41.63nm及び約10nmであった(出典Armstrong, J. et al. Biophys J. 87, 4259-4270, 2004)(
図4)。ストークス半径が11nm未満のフィブリノゲン及びficoll400は、圧縮速度を遅らせる効果を有しなかった。逆に、PEG 400kDaよりも大きいポリマー(26.56nm、すなわちPEG1000kDa)は初期圧縮速度を更に遅らせなかった(p=0.147)。より大きなポリマーを有するヒドロゲルはより長時間かけなければ完全に圧縮し得ないため、より大きなポリマーの効果は更に下流の圧縮時間で見ることができる。
【0124】
10mg/mlのPEG(400kDa)は最適な初期圧縮速度の減少をもたらすため、細胞を間隙に播種したブレンドゲルに使用した。PEGを有する又は有しない(従来の)対照ゲルのアラマーブルー読取り値は、25.35±3.33及び23.77±1.20と同様であった。ブレンドゲルでは、細胞はPEGの非存在下で損傷し(16.53±1.98の読取り値)、これは対照ゲルよりも有意に低下していた(p=0.017)。しかしながら、間隙細胞はPEGの存在下で損傷から解放され、検出される細胞活性は対照と同様であった(
図5)。
【0125】
FLSの遮断による圧縮速度の制御は、剪断応力が常在細胞に対して損傷を引き起こす可能性がある高速圧縮ヒドロゲルに適用可能である。代替的には、濾過効果を塑性圧縮時のヒドロゲルにおけるナノ粒子/小分子の保持の改善に用いることもできる。
【0126】
コラーゲン圧縮速度は、ヒドロゲルに組み込まれる移動性種の人工的な導入を用いて制御可能であった。ヒドロゲルに含有される移動性種は圧縮時のFLSの遮断に寄与し、流体運動に対する物理的障壁を形成する。FLS遮断の程度、ひいては圧縮速度の制御は、その分子サイズではなく分子(ポリマー)の流体力学的半径によって決まることが見出された。本研究では、ストークス半径が11nm未満のポリマーはコラーゲンヒドロゲルの初期圧縮速度に影響を及ぼさず、最適ポリマーサイズは約26.6nmであった。ポリマーの流体力学的サイズの更なる増大は、ヒドロゲルの初期圧縮速度を更に減少させなかった。しかしながら、より大きなポリマーサイズは連続圧縮速度に影響を及ぼした。初期圧縮速度(すなわち最初の30秒間の圧縮速度)に着目する理由は、それが圧縮プロセス全体で最高の速度であり、細胞/NP喪失に最も有害であると考えられるためである。
【0127】
遮断剤サイズの制限により、移動性コラーゲン種であるペプシン処理コラーゲンがヒドロゲル圧縮速度を制御不可能であることを説明することができる。テロペプチドにおける結合領域の喪失はコラーゲンが隣接コラーゲン分子と会合する能力を低下させるため、コラーゲンは圧縮時にヒドロゲル内で浮遊性のままであるが、これらのアテロコラーゲン分子は11nmの臨界サイズより小さい可能性があり、したがってFLSを効果的に遮断することができない。結果として、圧縮速度は仮定されるようには減少しないが、移動性アテロコラーゲン種がゲル形成トロポコラーゲン種を犠牲にして作製されるため、実際にはペプシン処理時間とともに増大した。これはより少ない原繊維がゲル形成に関与したこと、したがってより大きな「間隙」を意味する。
【0128】
ブレンドゲルの圧縮は顕著な細胞死を引き起こすが、これはPEG等の移動性ポリマー分子を組み込むことによって逆転した。これにより流体流動が遅くなるとともに、常在細胞が保たれた。ストークス半径が約11nm未満の分子は、圧縮速度の減速をもたらさなかった。しかしながら、(試験した中で)最高の流体力学的半径を有するPEG(400kDa及び1000kDa)は、初期圧縮速度の減少に効果的であった。これにより、細胞が間隙に播種された硬組織モデルの迅速な作製が可能となった(係数の3倍の増大)。付加的に、塑性圧縮の程度、ひいてはマトリックス剛性を微細に制御する能力は、細胞挙動の制御に対する潜在的影響を有する。