特許第6532129号(P6532129)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ブリヂストンの特許一覧 ▶ ノガワケミカル株式会社の特許一覧

特許6532129ウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物及びそれを用いたウレタン樹脂系溶剤型接着剤
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6532129
(24)【登録日】2019年5月31日
(45)【発行日】2019年6月19日
(54)【発明の名称】ウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物及びそれを用いたウレタン樹脂系溶剤型接着剤
(51)【国際特許分類】
   C09J 175/04 20060101AFI20190610BHJP
   C09J 11/02 20060101ALI20190610BHJP
【FI】
   C09J175/04
   C09J11/02
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-184162(P2015-184162)
(22)【出願日】2015年9月17日
(65)【公開番号】特開2017-57308(P2017-57308A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2018年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(73)【特許権者】
【識別番号】000111384
【氏名又は名称】ノガワケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100153866
【弁理士】
【氏名又は名称】滝沢 喜夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 多恵
(72)【発明者】
【氏名】飯▲濱▼ 靖
【審査官】 井上 能宏
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
C08G71/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含臭素炭化水素化合物、及び下記一般式(I)で表わされる有機カーボネートを配合してなる溶剤成分と、ポリウレタンエラストマーとを含むウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物。
【化1】

[式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基である。]
【請求項2】
前記溶剤成分は、前記含臭素炭化水素化合物60〜80質量%及び前記有機カーボネート20〜40質量%を含む請求項1に記載のウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物。
【請求項3】
前記含臭素炭化水素化合物が、分子内に臭素原子を少なくとも1個有する、炭素数3又は4の炭化水素化合物である請求項1又は2に記載のウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物。
【請求項4】
前記有機カーボネートが、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピルメチルカーボネート、ブチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートから選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載のウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物。
【請求項5】
前記溶剤成分が、さらに、ケトン化合物、エステル化合物、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環族炭化水素及び低級アルコールから選ばれる少なくとも1種の炭素数2〜7の溶剤を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載のウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物。
【請求項6】
前記溶剤成分は、さらに、炭素数1〜3の脂肪族ニトロ化合物を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載のウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物100質量部に対して、ポリイソシアネート化合物1〜10質量部を配合してなるウレタン樹脂系溶剤型接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物に関し、特にメチレンクロライドを溶剤として使用しないウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物及びそれを用いたウレタン樹脂系溶剤型接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従前のウレタン樹脂系溶剤型接着剤には、溶剤として引火点の低い第1石油類に分類されているメチルエチルケトン、酢酸エチル、及びトルエン等の可燃性の溶剤が使用されていた。これらの引火点が低い溶剤が使用されているウレタン樹脂系溶剤型接着剤は、可燃性であり、可燃物を扱う工程及び静電気の発生する工程等(ウレタン加工工程等)では火災の危険性を伴うので、その後、引火点の無い溶剤が使用されてきた。
【0003】
具体的には、引火点の無い溶剤としてメチレンクロライドを採用し、不燃性としたウレタン樹脂系溶剤型接着剤が使用されている(例えば、特許文献1参照。)。
メチレンクロライドは、ウレタン樹脂の溶解性が良く、ウレタン樹脂系溶剤型接着剤の主剤としての安定性が高い特徴を有する。また、メチレンクロライドは、沸点が40℃と低いため速乾性で作業性が良い。更に、メチレンクロライドは、可燃性である上述の溶剤と比べて安価である。
【0004】
しかし、メチレンクロライドは、揮発性が高く皮膚や粘膜への刺激が有ること、肝臓、腎臓障害を引き起こす毒性、及び発ガン性の可能性等の人体への影響が指摘されている。また、メチレンクロライドは、大気中で光化学反応を起こして、光化学オキシダント及び浮遊粒子状物質を発生させる原因物質と考えられている。これらのことから、メチレンクロライドは、多くの健康リスク及び環境リスクが上がる有害物質として法規制されることが多くなっており、近年強く削減、さらには全廃が望まれている。
【0005】
しかしながら、ウレタン樹脂系溶剤型接着剤において、メチレンクロライドは有用性が非常に高く、メチレンクロライドと同等の性能で有害化学物質リスクが少なく、低温下において安定した接着性能を示す代替溶剤が無いのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−125588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の諸問題を解決するためになされたもので、有害化学リスクが少なく、低温下において安定した接着性能を示す溶剤を用いたウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物及びそれを用いたウレタン樹脂系溶剤型接着剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物を構成する混合物として最適なものを探索した結果、溶剤成分として、含臭素炭化水素化合物と特定の有機カーボネートとを組み合わせることにより、低温接着性が著しく改良されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明は、
[1] 含臭素炭化水素化合物、及び下記一般式(I)で表わされる有機カーボネートを配合してなる溶剤成分と、ポリウレタンエラストマーとを含むウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物、及び
【0009】
【化1】


[式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基である。]
[2] 上記[1]に記載のウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物100質量部に対して、イソシアネート1〜10質量部を配合してなるウレタン樹脂系溶剤型接着剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低温下において安定した接着性能を示す溶剤を用いたウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物及びそれを用いたウレタン樹脂系溶剤型接着剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[ウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物]
本発明のウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物は、含臭素炭化水素化合物、及び下記一般式(I)で表わされる有機カーボネートを配合してなる溶剤成分と、ポリウレタンエラストマーとを含むことを特徴とする。
【0012】
【化2】


[式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基である。]
【0013】
本発明のウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物においては、上記溶剤成分中に、上記含臭素炭化水素化合物60〜80質量%及び上記一般式(I)で表わされる有機カーボネート20〜40質量%を含むことが好ましい。溶剤成分として、含臭素炭化水素化合物と上記一般式(I)で表わされる有機カーボネートとを組み合わせることにより、低温接着性が著しく改良される。
含臭素炭化水素化合物60質量%以上であれば、ウレタン樹脂の溶解性が向上するので好ましい。また、含臭素炭化水素化合物が80質量%以下であれば、ウレタン樹脂への溶解性が低下することなく、主剤としての安定性がより良好になるので好ましい。ウレタン樹脂の溶解性を更に良くする、接着剤として好適な接着強度を得る、及び経済性を悪化させないという観点から、含臭素炭化水素化合物が60〜77質量%であることがより好ましく、66〜75質量%であることが更に好ましく、66〜72質量%であることが特に好ましい。
上記一般式(I)で表わされる有機カーボネート(以下、「有機カーボネート」と略記することがある。)が20質量%以上であれば、ウレタン樹脂の溶解性が向上するので好ましい。また、有機カーボネートが40質量%以下であれば、硬化剤との反応が抑えられ、より強度が得られ、経済性の観点からも好ましい。これらの観点から、21〜39質量%であることがより好ましく、22〜33質量%であることが更に好ましく、24〜28質量%であることが特に好ましい。
【0014】
<含臭素炭化水素化合物>
本発明における含臭素炭化水素化合物は、分子内に臭素原子を少なくとも1個有する、炭素数が3又は4の炭化水素化合物であることが好ましく、炭素数が3又は4の炭化水素化合物としては、炭素数が3又は4のアルカン、シクロアルカン、アルケン、シクロアルケン、アルキン、及びアルカジエンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。含臭素炭化水素化合物は、臭素原子を1〜4個有することが好ましく、臭素原子を1〜3個有することがより好ましく、臭素原子を1個又は2個有することが更に好ましい。
含臭素炭化水素化合物の具体例としては、1−ブロモプロパン、1−ブロモ−2−フルオロプロパン、2−ブロモ−1,3−ブタジエン、2−ブロモ−2−メチルプロパン、1−ブロモ−1−ブテン、トランス−1−ブロモプロペン、シス−1−ブロモプロペン、1−ブロモプロペン、2−ブロモブタン、1−ブロモ−1,1−ジフルオロ−2−ブテン、2−ブロモ−1−ブテン、ブロモアレン、1−ブロモ−2,2−ジフルオロプロパン、及び1−ブロモブタン等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上を併用してもよい。これらの化合物のうち、含臭素炭化水素化合物としては、表1に示すように、カウリブタノール値(KB値)がメチレンクロライドに近いことから、1−ブロモプロパンであることが好ましい。ここで、KB値とは、洗浄時の油脂溶解力を示す値をいい、高い値ほど溶解力が高いことを示す。
【0015】
【表1】


表1中、HFCとは、ハイドロフルオロカーボンの略記であり、HFEとは、パーフルオロブチルメチルエーテルの略記である。
【0016】
<上記一般式(I)で表わされる有機カーボネート>
本発明においては、上記一般式(I)で表わされる有機カーボネートにおける、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基であり、R及びRの少なくとも一方がメチル基又はエチル基であることが好ましい。
有機カーボネートの具体例としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート及びジエチルカーボネートから選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。これらの内、ジメチルカーボネートが、沸点が90℃と低いので乾燥速度が速く、低温接着性に優れるので好ましい。
【0017】
<他の溶剤成分>
本発明における溶剤成分は、所望により他の溶剤成分(前記含臭素炭化水素化合物及び有機カーボネート以外の溶剤成分)を含むものであってもよい。他の溶剤成分としては、ウレタン樹脂の溶解性を向上するものであれば良く、メチレンクロライド等の含ハロゲン溶剤以外のものが用いられる。他の溶剤成分は、ケトン化合物、エステル化合物、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環族炭化水素及び低級アルコールから選ばれる少なくとも1種の炭素数2〜7の溶剤であることが好ましい。後述する硬化剤と反応しない溶剤であることが好ましい。硬化剤と反応しない溶剤であるという観点からは、ケトン化合物、エステル化合物、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素及び脂環族炭化水素から選ばれる炭素数2〜7の溶剤が好ましい。低級アルコールは硬化剤との反応性があるので、他の溶剤成分として低級アルコールを用いる場合は、使用量を少なくすることが好ましく、この場合、低級アルコール以外の溶剤との併用が好ましい。
上記の他の溶剤成分は、いずれも引火性が高いので、使用量を少なくすることが好ましく、溶剤成分中0〜15質量%とすることが好ましく、溶剤成分中0〜10質量%とすることがより好ましく、溶剤成分中0〜5質量%とすることが更に好ましい。
ケトン化合物としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられ、エステル化合物としては、酢酸エチル等が挙げられ、脂肪族炭化水素としては、n−ヘキサン、n−ヘプタン等が挙げられ、芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン等が挙げられ、脂環族炭化水素等としては、シクロヘキサン等が挙げられ、低級アルコールとしては、炭素数1〜4の直鎖状又は分枝状のアルコールが好ましく、具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブタノールが挙げられ、引火点、沸点が最も高く接着剤の不燃性を得られるという観点から、n−プロパノールが好ましい。
【0018】
<ポリウレタンエラストマー>
ポリウレタンエラストマーは、例えば、下記一般式(II)で表されるジイソシアネートと下記一般式(III)で表されるジオールを反応させた下記一般式(IV)で表される線状ポリウレタン樹脂である。このように生成した下記一般式(IV)で表されるポリウレタンエラストマーは、いろいろな溶剤に可溶であり、溶剤に溶かした形で接着剤として使用することができる。出発ジイソシアネート及びジオールの種類で分子量、ポリマーの結晶性、熱可塑性の異なったポリウレタンエラストマーが得られ、溶液の粘度も変化する。
下記一般式(II)、(III)及び(IV)中、Rは、アルキレン基(例えば、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等)、及びアリーレン基(例えば、−C−、−C−C−、−C−CH−C−、−C−CH(CH)−C−等)であり、R' 及びR''は、Rにて例示したアルキレン基を表す。また、式中、m及びnは、独立した整数であり、約10から約60である。
【0019】
【化3】

【0020】
ポリウレタンエラストマーの配合量は、塗布作業に適した溶液粘度にするという観点から、本発明における溶剤成分100質量部に対して、3〜30質量部であることが好ましく、4〜20質量部であることがより好ましく、5〜15質量部であることが更に好ましい。8〜15質量部であることがより更に好ましい。9〜12質量部であることが特に好ましい。
ポリウレタンエラストマーとしては、具体的には、住化バイエルウレタン株式会社製、商品名「デスモコール176」、「デスモコール400」、及びDIC株式会社社製「パンデックスT5275N」等を用いることができる。ポリウレタンエラストマーの数平均分子量は、所望の初期接着性、柔軟性、耐熱性を得るという観点から、10000〜45000であることが好ましく、より好ましくは15000〜25000である。本発明において、ポリウレタンエラストマーの数平均分子量は、GPCを用いて標準ポリスチレン換算により得られた数平均分子量値である。
【0021】
<安定剤>
本発明のウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物の溶剤成分として、所望により、安定剤として、炭素数1〜3の脂肪族ニトロ化合物を含有させてもよい。脂肪族ニトロ化合物を含有させることにより、1−ブロモプロパンと塗布機、容器等の金属との接蝕による1−ブロモプロパンの分解反応防止と配合溶剤の相溶性付与及び前記機器の金属腐食防止の効果を奏する。これら炭素数1〜3の脂肪族ニトロ化合物として、ニトロメタン、ニトロエタン及びニトロプロパンから選ばれる1種以上のニトロ化合物が好ましい。これらの内、ニトロエタンは発がん性区分外で安全性が高いので、特に好ましい。安定剤としての炭素数1〜3の脂肪族ニトロ化合物は、本発明のウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物の溶剤成分中、0〜10質量%含まれることが好ましく、0.5〜10質量%含まれることがより好ましく、0.5〜5質量%含まれることが更に好ましく、0.5〜3質量%含まれることが特に好ましい。
【0022】
[ウレタン樹脂系溶剤型接着剤]
本発明のウレタン樹脂系溶剤型接着剤は、上述のウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物を主剤とし、ポリイソシアネート化合物を硬化剤として含有してなる接着剤である。本発明のウレタン樹脂系溶剤型接着剤は、ウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物100質量部に対して、ポリイソシアネート化合物1〜10質量部を配合してなることが好ましく、ポリイソシアネート化合物2〜7質量部を配合してなることが更に好ましい。また、ウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物中のポリウレタンエラストマー100質量部に対して、ポリイソシアネート化合物10〜80質量部を配合することが好ましく、ポリイソシアネート化合物20質量部以上を配合することがより好ましく、ポリイソシアネート化合物24質量部以上を配合することが更に好ましい。また、ポリイソシアネート化合物78質量部以下を配合することがより好ましく、ポリイソシアネート化合物60質量部以下を配合することが更に好ましい。
【0023】
<ポリイソシアネート化合物>
ポリイソシアネート化合物は、末端に水酸基を持つポリオール、又は末端にイソシアネート基を持つウレタンプレポリマーとポリオールとの組み合わせと反応して、硬化性、密着性、柔軟性等の接着剤としての諸物性を変化させる。ポリイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)とヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)との付加反応により形成される化合物等を用いることができ、具体的には、トリフェニルメタン−4,4’,4”−トリイソシアネート(バイエル社製、商品名「デスモジュールRFE」)及びトリレンジイソシアネート(TDI)とヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)との付加反応により形成される化合物である(バイエル社製、商品名「デスモジュールHL」)等を用いることができる。
【0024】
本発明のウレタン樹脂系溶剤型接着剤は、接着面を硬くすることがないので、接着箇所が硬化した場合に感じられる異物感を生じることがなく、ウレタン樹脂素材等の柔らかい弾性素材を接着の対象物として積層体を形成することができ、特に、低温接着性に優れる。ウレタン樹脂系溶剤型接着剤は、例えば、ウレタン樹脂製のクッション層ごとを接着して寝具等で用いる積層体を形成する用途を始め、車両の防振及び防音の積層体の接着、靴底の積層体の接着等の用途にも用いることができる。本発明のウレタン樹脂系溶剤型接着剤の塗布量は乾燥後において50〜500g/mであることが好ましく、乾燥後において70〜300g/mであることが更に好ましい。50g/m以上であれば、高強度を得ることができるため、強度を重視する用途には好ましく、500g/m以下であれば、接着面がソフト(柔軟)であり、且つ強度のバランスが良いので好ましい。
本発明のウレタン樹脂系溶剤型接着剤を塗布する場合、スプレー時は低粘度で塗布し、ロールコーター時は中粘度で塗布することが好ましい。
【0025】
[ウレタン樹脂系溶剤型接着剤の製造方法]
本発明のウレタン樹脂系溶剤型接着剤の製造方法は、上述のウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物を調製する工程と、ウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物100質量部に対して、硬化剤としてポリイソシアネート化合物を1〜10質量部配合する工程とを含むことが好ましく、ポリイソシアネート化合物2〜7質量部を配合する工程とを含むことが更に好ましい。また、ウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物中のポリウレタンエラストマー100質量部に対して、ポリイソシアネート化合物10〜80質量部を配合する工程を含むことが好ましく、ポリイソシアネート化合物20質量部以上を配合する工程を含むことがより好ましく、ポリイソシアネート化合物24質量部以上を配合する工程を含むことが更に好ましい。また、ポリイソシアネート化合物78質量部以下を配合する工程を含むことがより好ましく、ポリイソシアネート化合物60質量部以下を配合する工程を含むことが更に好ましい。
ウレタン樹脂系溶剤型接着剤の製造方法は、硬化性、密着性、柔軟性等の接着剤としての諸物性を得るために周知の配合剤を配合する工程を更に含むことが好ましい。
本発明のウレタン樹脂系溶剤型接着剤を用いて各種の積層体を製造することができる。上述のウレタン樹脂系溶剤型接着剤を硬化させて積層体の接着層とする。ウレタン樹脂系溶剤型接着剤を用いた積層体としては、例えば、複数のクッション層を上述のウレタン樹脂系溶剤型接着剤で接着した寝具、車両の防振及び防音部材、及び靴底の積層体等がある。
【実施例】
【0026】
次に、本発明を実施例により更に詳しく説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
各実施例、比較例における各種測定は下記の方法により行なった。
(1)粘度(mPa(25℃))
ウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物(主剤)100ccをビーカーに入れB形粘度計(東機産業製、TV25形粘度計(TVB−25L))にて測定した。
(2)ウレタン溶解性
各溶剤成分100質量部にポリウレタンエラストマー8.5質量部、又は13.0質量部を入れて1時間撹拌後に24時間放置し、その後1時間撹拌した後の溶解の有無を目視により評価した。
ウレタン溶解性の評価基準は、ポリウレタンエラストマーがいずれも完全に溶解したものは○、いずれか一方が溶解しないもの又は相溶するが相分離したものは△、いずれも溶解しないものは×とした。
(3)硬化剤混合性
試験方法:硬化剤20g中に溶剤成分2gを直接添加して反応の有無(白濁、硬化物の発生等の変化の有無)を目視で観察した。反応がなく、白濁、硬化物の発生等の変化が認められなかったものを〇、一部結晶化が発生したものを△、反応してゲル化したものを×とした。
(4)乾燥速度
ウレタン樹脂系溶剤型接着剤をガラス板上に滴下して、厚み約30μmで幅30mmの丸棒(SUS10φ)をコーティングし、指先を押し当て、接着剤が付かなくなるまでの時間を測定した。
乾燥時間の評価基準は30秒以内に乾燥したものは○、60秒以内に乾燥したものは△、60秒を超えるものを×とした。
(5)25℃接着時の接着性
サンプルサイズ(15×150×150mm)の2枚のサンプルの片側に供試のウレタン樹脂系溶剤型接着剤(接着剤液温25℃)を室温(25℃)でスプレー塗布(乾燥後の塗布量:70g/m)して貼り合せ、100℃のオーブン内に10分間放置後、オーブン内から取り出した直後に、それぞれ2回、剥離試験(インストロン社製自動引張試験機により、接着面を180度方向へ引張り速度500mm/minで引張った。)を行い、剥がれの状態を評価した。接着強度の評価基準は、材料破壊(接着面では無く材料面で破断すること)した場合を○、接着面からの剥がれを×とした。
(6)低温接着時の接着性
サンプルサイズ(15×150×150mm)の2枚のサンプルの片側に供試のウレタン樹脂系溶剤型接着剤(接着剤液温5℃)を室内温度(15℃)でスプレー塗布(乾燥後の塗布量:70g/m)して貼り合せ、100℃のオーブン内に10分間放置後、オーブン内から取り出した直後に、それぞれ2回、剥離試験(インストロン社製自動引張試験機により、接着面を180度方向へ引張り速度500mm/minで引張った。)を行い、剥がれの状態を評価した。接着強度の評価基準は、材料破壊(接着面では無く材料面で破断すること)した場合を○、接着面からの剥がれを×とした。
(7)スプレー塗布性及びロールコーター塗布性
ウレタン樹脂系溶剤型接着剤を塗布した際にサンプル表面へ均一に塗布できるか否かを目視にて判断した(判断1)。更に、サンプル表面での液だれ又は浸み込みの有無を目視にて判断した(判断2)。
塗布性の評価基準は、メチレンクロライド使用接着剤と比較して、判断1として同程度に均一であるとの判断であり、かつ判断2として無しの場合を○とした。判断1として均一性が無いとの判断であり、かつ判断2として有りの場合を×とした。判断1及び2のいずれかが〇であるが、他の判断が×の場合を△とした。
(8)接着剤耐引火性
ウレタン樹脂系溶剤型接着剤をタグ式密閉式引火点測定器使用し、消防法危険物第4類の危険物引火点測定法により、接着剤耐引火性を評価した。
接着剤耐引火性の評価基準として、引火点が測定されないの場合を○、
引火点50℃以上の場合を△、引火点50℃未満の場合を×とした。
【0027】
実施例1〜11及び比較例1〜7
表2(表2−1及び表2−2)に示す処方により18種類の溶剤成分を調製した。次いで、調製した18種類の溶剤成分のそれぞれに表2に示す処方により、ポリウレタンエラストマーを所定量混合して18種類のウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物を得た。得られたウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物に対して、上記(1)〜(2)の評価を行った。別途、調製した18種類の溶剤成分のそれぞれについて硬化剤混合性を評価した。
次に、調製した18種類のウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物を主剤に対して、硬化剤として表2に示すポリイソシアネート化合物を表2に示す所定質量部配合してウレタン樹脂系溶剤型接着剤を得た。得られたウレタン樹脂系溶剤型接着剤に対して、上記(4)〜(8)の評価を行った。
(1)〜(8)の評価結果を下記の表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
[注]
*1: 1−ブロモプロパン、和光純薬工業株式会社製
*2: 1−ブロモ-2-メチルプロパン、和光純薬工業株式会社製
*3: ジメチルカーボネート、三協化学株式会社製
*4: エチルメチルカーボネート、キシダ化学株式会社製
*5: HFE: パーフルオロブチルメチルエーテル、旭硝子株式会社製、商品名「AE−3000」
*6: HFC: ハイドロフルオロカーボン、ダイキン工業株式会社製
*7: アセトン、東京化成工業株式会社製
*8: n−プロパノール、東京化成工業株式会社製
*9: 安定剤: ニトロエタン、東京化成工業株式会社製
*10: ポリウレタンエラストマー、バイエル社製、商品名「デスモコール176」
*11: ポリイソシアネート化合物: トリフェニルメタン−4,4’,4”−トリイソシアネート、バイエル社製、商品名「デスモジュールRFE」
【0031】
表2から明らかなように、実施例1〜11の本発明のウレタン樹脂系溶剤型接着剤は、比較例1〜7のウレタン樹脂系溶剤型接着剤と比較して、ウレタン溶解性、乾燥速度、25℃接着時の接着性、スプレー塗布性及び接着剤耐引火性がより良好であり、特に低温接着時の接着性が優れていた。なお、比較例1、5及び6はウレタン溶解性が悪いので、粘度、乾燥速度、25℃接着時の接着性、低温接着時の接着性、スプレー塗布性及びロールコーター塗布性並びに接着剤耐引火性の評価ができなかった。
本発明のウレタン樹脂系溶剤型接着剤は、ウレタン樹脂原料の溶解性と不燃性(接着剤耐引火点)との両立を確保すると共に、低温接着性が著しく改良されるので、季節に関係無く使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のウレタン樹脂系溶剤型接着剤組成物は、メチレンクロライドを溶剤の代替として、火災のリスクが少なく、有害化学リスクの少ない混合物を用いて、従来使用しているウレタン樹脂や硬化剤を変えることなく、ウレタン樹脂の溶解性が高く、特に、低温下において安定した接着性能を示す接着剤を製造することができる。