(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内周側に設けられた圧縮ゴム層、少なくとも前記圧縮ゴム層に設けられ、ベルト長手方向に沿ってコグ山とコグ谷とが交互に並んだコグ部、及び該コグ部の表面を覆う補強布層、を備えた伝動ベルトを製造する、伝動ベルトの製造方法であって、
補強布を作製する補強布作製工程と、
少なくとも1枚の前記補強布を含む前記補強布層と前記圧縮ゴム層用の未加硫ゴムシートとが積層されているとともに前記未加硫ゴムシートに前記コグ部が設けられた無端状の積層体を形成する、積層体形成工程と、
前記積層体から未加硫のベルト成形体を形成するベルト成形体形成工程と、
前記ベルト成形体を加硫する加硫工程と、
を備え、
前記積層体形成工程においては、
前記補強布層は、前記積層体において、前記コグ山及び前記コグ谷の表面に接着され、
前記補強布は、前記ベルト長手方向に沿って前記コグ部の表面を覆うように配置され、
前記補強布は、両端部同士が前記ベルト長手方向における少なくとも1つの接合部のみで接合され、
前記接合部は、前記コグ山に対応する位置のみに配置され、
前記補強布作製工程は、切断工程と、接着液浸漬工程と、広角処理工程と、乾燥工程と、を含み、
前記切断工程においては、軸方向に沿って延びる経糸と周方向に沿って延びる緯糸とが織られて構成された袋織布が、前記軸方向に対して螺旋状に切断され、
前記接着液浸漬工程においては、前記袋織布が螺旋状に切断されて作製された継ぎ目のない連続した帯状布が、接着液に浸漬され、
前記広角処理工程においては、前記接着液が付着した前記帯状布が、幅方向に延伸され、
前記乾燥工程においては、前記広角処理工程にて得られた広角織布が乾燥され、前記接着液が硬化する、伝動ベルトの製造方法。
内周側に設けられた圧縮ゴム層、少なくとも前記圧縮ゴム層に設けられ、ベルト長手方向に沿ってコグ山とコグ谷とが交互に並んだコグ部、及び該コグ部の表面を覆う補強布層、を備えた伝動ベルト、における前記補強布層に含まれ、両端部同士が前記ベルト長手方向における少なくとも1つの接合部のみで接合されていて該接合部が前記コグ山に対応する位置のみに配置される補強布の製造方法であって、
切断工程、接着液浸漬工程、広角処理工程、及び乾燥工程を含み、
前記切断工程においては、軸方向に沿って延びる経糸と周方向に沿って延びる緯糸とが織られて構成された袋織布が、前記軸方向に対して螺旋状に切断され、
前記接着液浸漬工程においては、前記袋織布が螺旋状に切断されて作製された帯状布が、接着液に浸漬され、
前記広角処理工程においては、前記接着液が付着した前記帯状布が、幅方向に延伸され、
前記乾燥工程においては、前記広角処理工程にて得られた広角織布が乾燥され、前記接着液が硬化する、補強布の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述の通り、高度な耐久性が求められる用途においては、ベルト本体の剛性と屈曲性との両立の観点から、内周側の圧縮ゴム層にコグ部が設けられた伝動ベルトが用いられる。このような伝動ベルトにおいては、伝動ベルトの走行時の屈曲に対して、コグ部のコグ谷において伝動ベルトの屈曲に追随した伸縮性が要求される。また、このため、コグ部におけるコグ谷は、ベルト走行時の屈曲の際に応力が集中する部分となる。
【0011】
一方、特許文献1乃至4に開示されたような補強布が、コグ部の表面に配置されることで、伝動ベルトの耐久性の向上が図られる。しかし、コグ部の表面に補強布が配置された伝動ベルトであっても、高負荷環境下で使用される場合、コグ部のコグ谷において亀裂が入り易く、十分な寿命の確保が難しく、早期に伝動ベルトが破損してしまう虞がある。
【0012】
上記の実情を踏まえ、本願発明者は、高負荷な環境下で使用された場合であっても早期に伝動ベルトが破損してしまうことを抑制でき、高度な耐久性を実現することができる伝動ベルトについて鋭意研究を行った。その結果、本願発明者は、コグ部の表面に配置された補強布の接合部がコグ谷に存在すると、接合部において、作用する応力が不均一に集中し易くなり、過度な応力集中を招いてしまい易く、接合部において早期に亀裂が生じ易いことを知見した。更に、本願発明者は、補強布の接合部がコグ谷に存在すると、伝動ベルトの屈曲時に補強布の伸縮の追随が不十分となり易く、接合部において早期に亀裂が生じ易いことを知見した。
【0013】
尚、特許文献1及び4に開示された補強布は、ベルト長手方向(伝動ベルトの周方向)に対して斜めの角度(バイアス角度)で延びる接合部において、接合されている。このため、特許文献1及び4の補強布がコグ部の表面に配置されると、接合部の少なくとも一部が必ずコグ谷に存在する形態となり、その部分で早期にコグ谷の亀裂が生じてしまう虞がある。また、特許文献2乃至4に開示された補強布は、いずれも、伝動ベルトの外周側の表面に配置される補強布である。このため、特許文献2乃至4に開示された構成によっては、内周側の圧縮ゴム層にコグ部が設けられた伝動ベルトにおいて、高負荷な環境下で使用された場合における高度な耐久性を実現する構成を提供することは不可能である。
【0014】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高負荷な環境下で使用された場合であってもコグ谷において早期に亀裂が生じてしまうことを抑制でき、高度な耐久性を実現することができる、伝動ベルト、伝動ベルトの製造方法、補強布、及び補強布の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)上記目的を達成するための本発明のある側面に係る伝動ベルトは、内周側に設けられた圧縮ゴム層、少なくとも前記圧縮ゴム層に設けられ、ベルト長手方向に沿ってコグ山とコグ谷とが交互に並んだコグ部、及び該コグ部の表面を覆う補強布層、を備えた伝動ベルトであって、前記補強布層は、前記ベルト長手方向に沿って前記コグ山及び前記コグ谷の表面に接着されて前記コグ部の表面を覆う少なくとも1枚の補強布を含み、前記補強布は、両端部同士が前記ベルト長手方向における少なくとも1つの接合部のみで接合されていて、前記接合部は、前記コグ山に対応する位置のみに配置されている。
【0016】
この構成によると、ベルト長手方向に沿ってコグ部の表面を覆う補強布は、両端部同士が接合され、且つ、ベルト長手方向における少なくとも1箇所の接合部のみで接合されている。そして、補強布に少なくとも1箇所のみ設けられた接合部は、コグ山に対応する位置に配置されている。このため、補強布の接合部は、必ず、コグ山に配置され、コグ谷に配置されることが無い。
【0017】
よって、上記の構成によると、コグ部の表面に配置された補強布の接合部が、コグ谷に存在することがない。このため、コグ谷において応力が不均一に集中して過度な応力集中を招いてしまうことが抑制され、コグ谷における応力の均一化を図ることができる。そして、伝動ベルトの屈曲時に補強布の伸縮の追随が不十分となることも抑制され、耐屈曲疲労性の向上を図ることもできる。これにより、上記の構成の伝動ベルトが高負荷な環境下で使用された場合であっても、コグ谷において早期に亀裂が生じてしまうことを抑制でき、耐久寿命の向上を図ることができる。即ち、高負荷な環境下で使用された場合における高度な耐久性を実現することができる。
【0018】
従って、上記の構成によると、高負荷な環境下で使用された場合であってもコグ谷において早期に亀裂が生じてしまうことを抑制でき、高度な耐久性を実現することができる、伝動ベルトを提供することができる。
【0019】
(2)前記伝動ベルトは、前記接合部が1つのみ存在することが好ましい。
【0020】
この構成によると、伝動ベルトに接合部が1つのみ存在するため、伝動ベルトに接合部が複数存在する場合と比べて伝動ベルトの耐久性を確保できる。
【0021】
(3)前記接合部は、前記ベルト長手方向に対して略直交する方向に沿って略直線状に延びるように設けられていることが好ましい。
【0022】
この構成のように、接合部を、ベルト幅方向(ベルト長手方向に対して略直交する方向)に沿って略直線状に延びるように設けると、コグ山に配置された補強布の接合部の一部が、コグ山から外れてコグ谷に配置されてしまうことがない。即ち、補強布の接合部が、ベルト長手方向(伝動ベルトの周方向)に対して斜めの角度(バイアス角度)で延びることがなく、確実に、コグ山に配置される。従って、この構成によれば、接合部をより確実にコグ山のみに配置することができる。
【0023】
(4)前記補強布は、前記ベルト長手方向から視た経糸と緯糸との交差角が110度以上130度以下である広角織布であって、前記広角織布は、接着液の硬化物によって前記経糸と前記緯糸とが互いに固定されていることが好ましい。
【0024】
この構成のように、ベルト長手方向から視た経糸と緯糸との交差角を110度以上130度以下に設定することにより、これらの経糸及び緯糸を含む補強布が伝動ベルトの屈曲に十分に追従して伸縮することが可能となる。これにより、補強布の耐久性をより高めることができる。
【0025】
(5)上記目的を達成するための本発明のある側面に係る伝動ベルトの製造方法は、内周側に設けられた圧縮ゴム層、少なくとも前記圧縮ゴム層に設けられ、ベルト長手方向に沿ってコグ山とコグ谷とが交互に並んだコグ部、及び該コグ部の表面を覆う補強布層、を備えた伝動ベルトを製造する、伝動ベルトの製造方法であって、補強布を作製する補強布作製工程と、少なくとも1枚の前記補強布を含む前記補強布層と前記圧縮ゴム層用の未加硫ゴムシートとが積層されているとともに前記未加硫ゴムシートに前記コグ部が設けられた無端状の積層体を形成する、積層体形成工程と、前記積層体から未加硫のベルト成形体を形成するベルト成形体形成工程と、前記ベルト成形体を加硫する加硫工程と、を備え、前記積層体形成工程においては、前記補強布層は、前記積層体において、前記コグ山及び前記コグ谷の表面に接着され、前記補強布は、前記ベルト長手方向に沿って前記コグ部の表面を覆うように配置され、前記補強布は、両端部同士が前記ベルト長手方向における少なくとも1つの接合部のみで接合され、前記接合部は、前記コグ山に対応する位置のみに配置される。
【0026】
この構成によると、ベルト長手方向に沿ってコグ部の表面を覆う補強布は、両端部同士が接合され、且つ、ベルト長手方向における少なくとも1箇所の接合部のみで接合される。そして、補強布に少なくとも1箇所のみ設けられた接合部は、コグ山に対応する位置に配置される。このため、上記の構成によって製造された伝動ベルトにおいては、補強布の接合部が、必ず、コグ山に配置され、コグ谷に配置されることが無い。
【0027】
よって、上記の構成によると、コグ部の表面に配置された補強布の接合部が、コグ谷に存在することがない伝動ベルトを製造することができる。このため、上記の構成によって製造された伝動ベルトによると、コグ谷において応力が不均一に集中して過度な応力集中を招いてしまうことが抑制され、コグ谷における応力の均一化を図ることができる。そして、伝動ベルトの屈曲時に補強布の伸縮の追随が不十分となることも抑制され、耐屈曲疲労性の向上を図ることもできる。これにより、伝動ベルトが高負荷な環境下で使用された場合であっても、コグ谷において早期に亀裂が生じてしまうことを抑制でき、耐久寿命の向上を図ることができる伝動ベルトを製造することができる。即ち、高負荷な環境下で使用された場合における高度な耐久性を実現できる伝動ベルトを製造することができる。
【0028】
従って、上記の構成によると、高負荷な環境下で使用された場合であってもコグ谷において早期に亀裂が生じてしまうことを抑制でき、高度な耐久性を実現することができる伝動ベルトの製造方法を提供することができる。
【0029】
(6)前記伝動ベルトの製造方法では、前記接合部が1つのみ存在することが好ましい。
【0030】
この構成によると、伝動ベルトに接合部が1つのみ存在するため、伝動ベルトに接合部が複数存在する場合と比べて伝動ベルトの耐久性を確保できる。
【0031】
(7)前記接合部は、前記ベルト長手方向に対して略直交する方向に沿って略直線状に延びるように配置されることが好ましい。
【0032】
この構成のように、接合部を、ベルト幅方向(ベルト長手方向に対して略直交する方向)に沿って略直線状に延びるように設けると、コグ山に配置された補強布の接合部の一部が、コグ山から外れてコグ谷に配置されてしまうことがない。即ち、補強布の接合部が、ベルト長手方向(伝動ベルトの周方向)に対して斜めの角度(バイアス角度)で延びることがなく、確実に、コグ山に配置される。従って、この構成によれば、接合部をより確実にコグ山のみに配置することができる。
【0033】
(8)前記ベルト成形体形成工程において、前記積層体における前記コグ部と反対側に他の層が積層されることが好ましい。
【0034】
この構成によれば、積層体における前記コグ部と反対側に他の層が積層されるため、適切な構成を有する伝動ベルトを製造することができる。
【0035】
(9)前記補強布作製工程は、切断工程と、接着液浸漬工程と、広角処理工程と、乾燥工程と、を含み、前記切断工程においては、軸方向に沿って延びる経糸と周方向に沿って延びる緯糸とが織られて構成された袋織布が、前記軸方向に対して螺旋状に切断され、前記接着液浸漬工程においては、前記袋織布が螺旋状に切断されて作製された継ぎ目のない連続した帯状布が、接着液に浸漬され、前記広角処理工程においては、前記接着液が付着した前記帯状布が、幅方向に延伸され、前記乾燥工程においては、前記広角処理工程にて得られた広角織布が乾燥され、前記接着液が硬化することが好ましい。
【0036】
この構成によると、伝動ベルトの補強布の作製時に、接着液が付着した帯状布が幅方向に延伸され経糸と緯糸との交差角を広げる広角処理工程において、長手方向の長さが縮むように帯状布が幅方向に延伸されるため、交差角が広げられた連続した広角織布を容易に作製することができる。また、上記の構成によると、接着液が付着したまま交差角が広げられた広角織布が乾燥されることで、接着液の硬化処理が行われる。このため、所望の交差角を保持した状態で速やかに接着液を硬化させ、交差角を固定することができる。よって、接着する処理と交差角を広げる処理とをほぼ同時タイミングで行うことにより、効率よく所望の交差角を保持することができる。
【0037】
(10)前記広角処理工程においては、前記接着液が付着した前記帯状布が、前記ベルト長手方向から視た前記経糸と前記緯糸との交差角が120度以上140度以下となるように広角処理がなされるのが好ましい。
【0038】
この構成のように、ベルト長手方向から視た経糸と緯糸との交差角が120度以上140度以下となるように、接着液が付着した帯状布を広角処理することにより、加硫工程後の補強布に含まれる経糸と緯糸との交差角が、120度以上140度以下よりもやや小さな交差角(例えば、110度以上130度以下)となる。加硫工程後の補強布に含まれる経糸と緯糸との交差角を110度以上130度以下に設定することにより、これらの経糸及び緯糸を含む補強布が伝動ベルトの屈曲に十分に追従して伸縮することが可能となる。これにより、補強布の耐久性をより高めることができる。
【0039】
(11)上記目的を達成するための本発明のある側面に係る補強布は、内周側に設けられた圧縮ゴム層、少なくとも前記圧縮ゴム層に設けられ、ベルト長手方向に沿ってコグ山とコグ谷とが交互に並んだコグ部、及び該コグ部の表面を覆う補強布層、を備えた伝動ベルト、における前記補強布層に含まれ、両端部同士が前記ベルト長手方向における少なくとも1つの接合部のみで接合されていて該接合部が前記コグ山に対応する位置のみに配置される補強布であって、前記ベルト長手方向から視た経糸と緯糸との交差角が110度以上130度以下である広角織布であり、接着液の硬化物によって前記経糸と前記緯糸とが互いに固定されている。
【0040】
この構成によると、ベルト長手方向に沿ってコグ部の表面を覆う補強布は、両端部同士が接合され、且つ、ベルト長手方向における少なくとも1箇所の接合部のみで接合される。そして、補強布に少なくとも1箇所のみ設けられた接合部は、コグ山に対応する位置に配置されている。このため、補強布の接合部は、必ず、コグ山に配置され、コグ谷に配置されることが無い。
【0041】
よって、上記の構成によると、コグ部の表面に配置された補強布の接合部が、コグ谷に存在することがない。このため、コグ谷において応力が不均一に集中して過度な応力集中を招いてしまうことが抑制され、コグ谷における応力の均一化を図ることができる。そして、伝動ベルトの屈曲時に補強布の伸縮の追随が不十分となることも抑制され、耐屈曲疲労性の向上を図ることもできる。これにより、上記の構成の伝動ベルトが高負荷な環境下で使用された場合であっても、コグ谷において早期に亀裂が生じてしまうことを抑制でき、耐久寿命の向上を図ることができる。即ち、高負荷な環境下で使用された場合における高度な耐久性を実現することができる。
【0042】
また、この構成のように、ベルト長手方向から視た経糸と緯糸との交差角を110度以上130度以下に設定することにより、これらの経糸及び緯糸を含む補強布が伝動ベルトの屈曲に十分に追従して伸縮することが可能となる。これにより、補強布の耐久性をより高めることができる。
【0043】
従って、上記の構成によると、高負荷な環境下で使用された場合であってもコグ谷において早期に亀裂が生じてしまうことを抑制でき高度な耐久性を実現することができる伝動ベルト、に適した補強布を提供することができる。
【0044】
(12)上記目的を達成するための本発明のある側面に係る補強布の製造方法は、内周側に設けられた圧縮ゴム層、少なくとも前記圧縮ゴム層に設けられ、ベルト長手方向に沿ってコグ山とコグ谷とが交互に並んだコグ部、及び該コグ部の表面を覆う補強布層、を備えた伝動ベルト、における前記補強布層に含まれ、両端部同士が前記ベルト長手方向における少なくとも1つの接合部のみで接合されていて該接合部が前記コグ山に対応する位置のみに配置される補強布の製造方法であって、切断工程、接着液浸漬工程、広角処理工程、及び乾燥工程を含み、前記切断工程においては、軸方向に沿って延びる経糸と周方向に沿って延びる緯糸とが織られて構成された袋織布が、前記軸方向に対して螺旋状に切断され、前記接着液浸漬工程においては、前記袋織布が螺旋状に切断されて作製された帯状布が、接着液に浸漬され、前記広角処理工程においては、前記接着液が付着した前記帯状布が、幅方向に延伸され、前記乾燥工程においては、前記広角処理工程にて得られた広角織布が乾燥され、前記接着液が硬化する。
【0045】
この構成によると、ベルト長手方向に沿ってコグ部の表面を覆う補強布は、両端部同士が接合され、且つ、ベルト長手方向における少なくとも1箇所の接合部のみで接合される。そして、補強布に少なくとも1箇所のみ設けられた接合部は、コグ山に対応する位置に配置される。このため、補強布の接合部は、必ず、コグ山に配置され、コグ谷に配置されることが無い。
【0046】
よって、上記の構成によると、コグ部の表面に配置された補強布の接合部が、コグ谷に存在することがない。このため、コグ谷において応力が不均一に集中して過度な応力集中を招いてしまうことが抑制され、コグ谷における応力の均一化を図ることができる。そして、伝動ベルトの屈曲時に補強布の伸縮の追随が不十分となることも抑制され、耐屈曲疲労性の向上を図ることもできる。これにより、上記の構成の伝動ベルトが高負荷な環境下で使用された場合であっても、コグ谷において早期に亀裂が生じてしまうことを抑制でき、耐久寿命の向上を図ることができる。即ち、高負荷な環境下で使用された場合における高度な耐久性を実現することができる。
【0047】
従って、上記の構成によると、高負荷な環境下で使用された場合であってもコグ谷において早期に亀裂が生じてしまうことを抑制でき高度な耐久性を実現することができる伝動ベルト、に含まれる補強布の製造方法を提供することができる。
【0048】
また、この構成によると、伝動ベルトの補強布の作製時に、接着液が付着した帯状布が幅方向に延伸され経糸と緯糸との交差角を広げる広角処理工程において、長手方向の長さが縮むように帯状布が幅方向に延伸されるため、交差角が広げられた連続した広角織布を容易に作製することができる。また、上記の構成によると、接着液が付着したまま交差角が広げられた広角織布が乾燥されることで、接着液の硬化処理が行われる。このため、所望の交差角を保持した状態で速やかに接着液を硬化させ、交差角を固定することができる。よって、接着する処理と交差角を広げる処理とをほぼ同時タイミングで行うことにより、効率よく所望の交差角を保持することができる。
【発明の効果】
【0049】
本発明によると、高負荷な環境下で使用された場合であってもコグ谷において早期に亀裂が生じてしまうことを抑制でき、高度な耐久性を実現することができる、伝動ベルト、伝動ベルトの製造方法、補強布、及び補強布の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。尚、以下の説明においては、まず、本発明の実施形態に係る伝動ベルトについて説明し、次いで、伝動ベルトの製造方法について説明する。
【0052】
[伝動ベルトの概略構成]
図1は、本発明の実施形態に係る伝動ベルト1の全体の形状を示す図である。
図2は、伝動ベルト1の一部を示す断面斜視図である。
図3は、伝動ベルト1の一部を示す断面図である。
図1乃至
図3に示す伝動ベルト1は、二輪車或いは一般産業用の機械分野の駆動機構において、動力伝達用の無端状のベルトとして用いられる。例えば、伝動ベルト1は、無段変速装置において使用されるローエッジVベルト(変速ベルト)として、用いられる。
【0053】
図1乃至
図3に示すように、伝動ベルト1は、補強布層11、圧縮ゴム層12、接着ゴム層13、芯体16、伸張ゴム層14、上面補強布15を備えて構成されている。
【0054】
伝動ベルト1は、積層構造を有しており、ベルト内周側から外周側に向かって、補強布層11、圧縮ゴム層12、接着ゴム層13、伸張ゴム層14、上面補強布15が順次積層されている。ベルト幅方向における断面形状は、ベルト外周側から内周側に向かってベルト幅が小さくなる台形状である。さらに、接着ゴム層13内には、芯体16が埋設されている。
【0055】
[圧縮ゴム層]
圧縮ゴム層12は、伝動ベルト1における内周側に配置され、伝動ベルト1の周方向であるベルト長手方向に沿って延びるゴム層として設けられている。圧縮ゴム層12を構成するゴム成分としては、加硫又は架橋可能なゴム、例えば、ジエン系ゴム(天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム)、水素化ニトリルゴムなど)、エチレン−α−オレフィンエラストマー、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどが例示でき、これらのゴム成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましいゴム成分は、エチレン−α−オレフィンエラストマー(エチレン−プロピレン共重合体(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)などのエチレン−α−オレフィン系ゴム)、クロロプレンゴムである。特に好ましいゴム成分は、クロロプレンゴムである。クロロプレンゴムは、硫黄変性タイプであってもよく、非硫黄変性タイプであってもよい。
【0056】
尚、ベルト長手方向は、
図1乃至
図3において、両端矢印Aで示されている。また、
図2において一部示される断面は、ベルト長手方向に対して直交する方向であるベルト幅方向における断面である。ベルト幅方向については、
図2において、両端矢印Bで示されている。また、
図3において示される断面は、ベルト長手方向における断面である。
【0057】
[接着ゴム層]
接着ゴム層13は、ゴム成分を含むゴム組成物で形成されている。接着ゴム層13中には、芯体16がベルト長手方向に延びて埋設され、通常、芯体16となる心線が、ベルト長手方向に平行に(螺旋状に)所定のピッチで並列的に(即ち、ベルト幅方向に所定のピッチで並んで)埋設されている。
【0058】
心線としては、通常、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)を使用できる。心線を構成する繊維としては、ポリエステル繊維、アラミド繊維などの合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維などが使用できる。心線の表面には、慣用の接着処理(又は表面処理)が施されていてもよい。接着ゴム層13のゴム成分としては、圧縮ゴム層12の項で記載された種類から選択できる。ゴム成分は、圧縮ゴム層12のゴム成分と同系統又は同種のゴムを使用する場合が多い。なお、接着ゴム層13は任意要素であり、省略することができる。
【0059】
[伸張ゴム層]
伸張ゴム層14は、接着ゴム層13の外周側に配置され、ベルト長手方向に沿って延びるゴム層として設けられている。伸張ゴム層14を構成するゴム成分としては、圧縮ゴム層12の項で記載された種類から選択できる。ゴム成分は、圧縮ゴム層12のゴム成分と同系統又は同種のゴムを使用する場合が多い。
【0060】
[コグ部]
また、伝動ベルト1においては、少なくとも圧縮ゴム層12に設けられたコグ部18が備えられている。コグ部18は、圧縮ゴム層12の内周側の部分として設けられている。そして、コグ部18は、伝動ベルト1の周方向であるベルト長手方向に沿ってコグ山18aとコグ谷18bとが交互に並んで設けられた部分として構成されている。
【0061】
図4は、コグ部18の一部を示す断面図である。尚、
図4において示される断面は、ベルト長手方向における断面である。
図1乃至
図4に示すように、コグ山18a及びコグ谷18bは、伝動ベルト1のベルト長手方向に沿って圧縮ゴム層12の内周側の部分の全周に亘って、交互に並んで設けられている。そして、各コグ山18aは、圧縮ゴム層12において、内周側に山状に突出して出っ張った部分として設けられている。また、各コグ谷18bは、圧縮ゴム層12において、内周側から外周側に向かって谷状に凹んだ曲面の部分として設けられている。即ち、コグ山18aは、コグ部18において、谷状に凹んだ曲面の部分(曲部)として構成されるコグ谷18b以外の領域として構成される。本実施形態では、
図4を参照して、コグ山18aの領域を、該コグ山18aの頂部を基準とし、ベルト厚み方向のコグ深さd(高さ)の90%までの領域Z1と定義する。尚、
図4においては、隣り合って配置されたコグ山18a及びコグ谷18bに関して、コグ山18aの領域とコグ谷18bの領域との境界を破線で図示している。
【0062】
[上面補強布]
上面補強布15は、伸張ゴム層14の外周側の表面に接着されて伸張ゴム層14の表面を覆う補強布として設けられている。これにより、上面補強布15は、ベルト長手方向に沿って伝動ベルト1の外周を覆うように設けられている。上面補強布15は、例えば、織布で構成され、織布の材料としては、綿、PET(polyethylene terephthalate)、ナイロン、アラミドなどの繊維が用いられる。なお、上面補強布15は任意要素であり、省略することができる。
【0063】
[補強布層]
補強布層11は、内周側の圧縮ゴム層12の表面に接着されて圧縮ゴム層12の表面を覆う層として設けられている。これにより、補強布層11は、ベルト長手方向に沿って伝動ベルト1の内周を覆うように設けられている。補強布層11は、コグ山18a及びコグ谷18bの表面に接着されている。
【0064】
また、補強布層11は、伝動ベルト1のベルト長手方向に沿ってコグ部18の表面を覆う少なくとも1枚の補強布19を含んで構成されている。本実施形態では、補強布19を1枚のみ含む補強布層11を備えた伝動ベルト1が例示されている。尚、本実施形態で例示された形態に限らず、積層された状態の補強布19が複数枚備えられた補強布層の形態が実施されてもよい。
【0065】
補強布19は、伝動ベルト1のベルト長手方向に沿ってコグ部18の表面の全周に亘って配置され、コグ山18a及びコグ谷18bの表面に接着されている。補強布19は、継ぎ目のない連続した織布を用いて構成されている。そして、補強布19は、後述するように、切断工程と、接着液浸漬工程と、広角処理工程と、乾燥工程と、を含む補強布作製工程にて作製される。尚、後述するように、補強布作製工程は、伝動ベルトの製造方法における工程として構成される。
【0066】
補強布19を構成する材料としては、例えば、綿、PET(polyethylene terephthalate)、ナイロン、アラミドなどの繊維が用いられる。補強布19において、これらの繊維は、単独で用いられてもよいし、組み合わされて用いられてもよい。
【0067】
また、コグ部18の表面に接着された補強布19は、その両端部同士が、ベルト長手方向における1箇所の接合部20のみで接合されている。即ち、
図1によく示すように、補強布19の両端部同士を接合する接合部20は、ベルト長手方向における1箇所のみに設けられている。
【0068】
また、接合部20は、補強布19の両端部同士が重ね合わされた状態で接着されることで接合された部分として設けられている。尚、
図4は、接合部20に対応する位置におけるコグ部18の一部を示す断面図である。補強布19の両端部同士を接合する接合部20は、1つのコグ山18aに対応する位置(言い換えれば、
図4を参照して、Z1で示す領域)に配置されている。即ち、接合部20は、曲面で構成されるコグ谷18b以外の箇所に配置されている。そして、接合部20は、ベルト長手方向に対して直交する方向であるベルト幅方向に沿って略直線状に延びるように設けられている。即ち、補強布19の両端部同士が重ね合わされて接合された部分は、ベルト幅方向に沿って略直線状に延びるように設けられている。なお、接合部20は、コグ山18a(すなわち領域Z1)に設けられていればよいが、コグ深さd(高さ)の50%までの領域Z2に設けられているのが、より好ましい。
【0069】
[伝動ベルトの製造方法]
次に、上記実施形態に係る、ローエッジVベルトである伝動ベルト1の製造方法について説明する。
図5は、伝動ベルト1の製造方法を示すチャート図である。
図5に示すように、伝動ベルト1の製造方法は、補強布作製工程S101と、積層体形成工程S102と、ベルト成形体形成工程S103と、加硫工程S104と、Vカット工程S105と、を備えて構成されている。伝動ベルト1の製造の際には、まず、補強布作製工程S101が行われ、次に、積層体形成工程S102が行われ、次に、ベルト成形体形成工程S103が行われ、次に、加硫工程S104が行われ、最後に、Vカット工程S105が行われ、伝動ベルト1が製造される。
【0070】
[補強布作製工程]
図6は、補強布作製工程S101を示すチャート図である。補強布作製工程S101は、継ぎ目のない連続した布で構成された補強布19を作製する工程として構成される。補強布作製工程S101は、
図6に示すように、切断工程S201と、接着液浸漬工程S202と、広角処理工程S203と、乾燥工程S204と、を含んで構成されている。
【0071】
図7は、切断工程S201を説明するための図であって、袋織布21の一部を示す模式図である。切断工程S201においては、平織された袋織布21が切断される。袋織布21は、経糸22aと緯糸22bとが織られて構成された筒状の織布として構成されている。そして、袋織布21においては、経糸22aが筒状の軸方向に沿って延び、緯糸22bが筒状の周方向に沿って延びるように設けられている。尚、
図7においては、経糸22a及び緯糸22bについては、模式的に示されている。経糸22a及び緯糸22bを構成する繊維としては、例えば、綿、PET(polyethylene terephthalate)、ナイロン、アラミドなどの繊維が用いられる。尚、これらの繊維は、単独で用いられてもよく、又は二種以上組み合わされて用いられてもよい。
【0072】
切断工程S201においては、袋織布21が、筒状の軸方向に対して螺旋状に切断される。即ち、袋織布21は、筒状の軸方向に対して斜めである方向に沿って且つ筒状の周方向に対しても斜めである方向に沿って、切断される。尚、
図7では、袋織布21が螺旋状に切断される際の切断線23が、一点鎖線及び破線で示されている。一点鎖線で示された切断線23は、図面における正面側に表れる切断線を示しており、破線で示された切断線23は、図面における背面側に表れる切断線を模式的に示している。
【0073】
袋織布21は、切断線23に沿って螺旋状に切断される。切断線23は、例えば、経糸22aが延びる方向に対して45度傾いた角度に設定される。
図8は、袋織布21が切断工程S201にて螺旋状に切断されて作製された帯状布24の一部を示す模式図である。
帯状布24は、継ぎ目のない連続した織布として構成される。また、帯状布24は、帯状布24の長手方向に対して経糸22a及び緯糸22bが斜めに延びる織布として構成される。例えば、帯状布24は、経糸22a及び緯糸22bが、帯状布24の長手方向に対して45度の方向に延びる織布として、構成される。すなわち、帯状布24は、経糸22aと緯糸22bとが90度の角度で交差した織布として、構成される。
【0074】
切断工程S201が完了して帯状布24が作製されると、次いで、接着液浸漬工程S202が行われる。接着液浸漬工程S202においては、切断工程S201にて作製された継ぎ目のない連続した帯状布24が、接着液に浸漬される。この接着液としては、例えば、RFL(Resorcinol Formaldehyde Latex)、ゴム糊、エポキシ樹脂等が用いられる。これらは、単独で用いられてもよく、また、組み合わされて用いられてもよい。
【0075】
広角処理工程S203においては、接着液浸漬工程S202を経て接着液が付着した帯状布24が、帯状布24の長手方向の長さが縮むように、帯状布24の幅方向に延伸され、帯状布24の経糸22aと緯糸22bとの交差角が広げられる広角処理が行われる。尚、帯状布24の幅方向は、帯状布24の長手方向に対して直交する方向である。また、経糸22aと緯糸22bとの交差角は、交差した経糸22aと緯糸22bとが成す角度であって、帯状布24の幅方向から視てではなく帯状布24の長手方向から視て開いた側の角度である。
図8においては、帯状布24の経糸22aと緯糸22bとの交差角を、角度θ1の符号を付して示している(
図9においても同様)。
【0076】
図9は、広角処理工程S203を説明するための図であって、帯状布24及び広角織布25の一部を示す模式図である。接着液が付着した状態の帯状布24について、長さを縮めるとともに幅方向に延伸して経糸22aと緯糸22bとの交差角を広げる広角処理が行われることで、広角織布25が製作される。広角織布25は、継ぎ目のない連続した織布であって、帯状布24よりも、経糸22a及び緯糸22bの交差角が大きい織布として構成される。
図9では、帯状布24に広角処理が行われ、帯状布24から広角織布25が作製されている状態が、模式的に示されている。尚、広角織布25の経糸22aと緯糸22bとの交差角は、広角織布25において交差した経糸22aと緯糸22bとが成す角度であって、広角織布25の幅方向から視てではなく広角織布25の長手方向から視て開いた側の角度である。
図9においては、広角織布25の経糸22aと緯糸22bとの交差角を、角度θ2の符号を付して示している。
【0077】
広角処理が行われる前の帯状布24の状態では、経糸22aと緯糸22bとの交差角は、90度に設定されている。これに対し、広角処理が行われて作製された広角織布25の経糸22aと緯糸22bとの交差角は、120度から140度に設定される。なお、この交差角は、130度から140度の範囲がより好ましい。広角織布25の状態で経糸22aと緯糸22bとの交差角が120度から140度に設定されることで、最終の加硫工程S104を経て伝動ベルト1として製造された状態で、補強布19における経糸22aと緯糸22bとの交差角が110度から130度となる。なお、この交差角は、120度から130度の範囲がより好ましい。尚、補強布19の経糸22aと緯糸22bとの交差角は、補強布19において交差した経糸22aと緯糸22bとが成す角度であって、補強布19の幅方向から視てではなく補強布19の長手方向から視て開いた側の角度である。
【0078】
広角処理では、広角処理前後での帯状布24の長さの比率である収縮率が所定範囲となるように、帯状布24が幅方向に延伸される。収縮率は、広角処理前の織布の長さ方向の所定範囲をマーキングしておき、広角処理前後での織布の所定範囲の寸法を測定し、次式で算出する。収縮率は、20%から40%までの範囲が好ましく、30%から40%までの範囲がより好ましい。
収縮率={(広角処理前の織布(帯状布24)の長さ方向の寸法−広角処理後の織布(広角織布25)の長さ方向の寸法)/広角処理前の織布(帯状布)の長さ方向の寸法}×100(%)
【0079】
補強布19における経糸22aと緯糸22bとの交差角が110度より小さくなると、補強布19自体が伸びにくくなり、補強布19が伝動ベルト1の屈曲に十分に追随して伸縮することが難しくなる。このため、交差角が110度より小さくなると、コグ谷18bにおいて亀裂が生じ易くなってしまう。一方、広角処理工程S203において広角処理が可能な経糸22aと緯糸22bとの交差角には限界があり、交差角が140度を超える広角織布25を作製することは難しい。このため、経糸22aと緯糸22bとの交差角が130度を超える補強布19を作製することは難しい。以上により、補強布19における経糸22aと緯糸22bとの交差角は、110度から130度の範囲に設定されることが好ましい。
【0080】
乾燥工程S204においては、広角処理工程S203にて帯状布24の経糸22aと緯糸22bとの交差角が広げられることで作製された継ぎ目のない連続した広角織布25が乾燥される。広角織布25は、接着液が付着した状態のまま広角処理が施されており、乾燥工程S204において、広角織布25に付着している接着液が硬化する。これにより、広角織布25の経糸22aと緯糸22bとは、広角処理によって経糸22aと緯糸22bとの交差角が広げられてその状態が保持された状態のまま、接着液が硬化して目止めされる。即ち、広角処理によって経糸22aと緯糸22bとの交差角が広げられてその状態が保持された状態のまま、その交差角が固定される。
【0081】
図10は、接着液浸漬工程S202、広角処理工程S203、乾燥工程S204における各処理を実行する製造ライン26の装置レイアウトの模式図である。切断工程S201にて作製された帯状布24は、複数の搬送ロールを有する製造ライン26において、複数の搬送ロールによって搬送されて送り出されながら、各処理が施され、広角織布25の状態を経て、伝動ベルト1の補強布19が作製される。
【0082】
製造ライン26は、接着液浸漬工程S202で用いられる接着液28を貯留する接着液槽27を備えている。接着液28としては、例えば、RFLが用いられる。帯状布24は、複数の搬送ロールに巻き掛けられて搬送されながら、接着液槽27に貯留された接着液28に浸漬される。即ち、帯状布24は、接着液槽27中に配置された複数の搬送ロールに巻き掛けられて搬送されている過程において、接着液槽27中において接着液28に浸漬される。これにより、接着液浸漬工程S202が実行される。
【0083】
接着液槽27中で接着液28に浸漬された帯状布24は、次いで、接着液槽27の外へと搬送される。そして、帯状布24は、接着液が付着した状態のまま、複数の搬送ロールに巻き掛けられて搬送されながら、広角処理装置29へと送られ、広角処理装置29上を搬送される。
【0084】
図11は、広角処理装置29を示す模式図である。広角処理装置29は、広角処理工程S203を実行する装置として設けられ、一対の搬送機構(29a、29b)を備えている。一対の搬送機構(29a、29b)は、帯状布24及び広角織布25の幅方向の両側に配置され、帯状布24及び広角織布25を広角処理を行いながら搬送する機構として設けられている。
【0085】
各搬送機構(29a、29b)は、
図11中の矢印Cで示す方向に沿って周回する無端状の搬送機構として設けられている。そして、一対の搬送機構(29a、29b)は、帯状布24及び広角織布25の幅方向の両端部を保持可能に構成されている。より具体的には、各搬送機構(29a、29b)には、上方に突出した複数のピン29cが設けられている。各ピン29cは、帯状布24及び広角織布25の幅方向の端部で帯状布24及び広角織布25に対して突き刺さることが可能な位置に配置されている。
【0086】
各搬送機構(29a、29b)が図中の矢印C方向に周回すると、各ピン29cも図中の矢印C方向に周回することになる。そして、各搬送機構(29a、29b)において、複数のピン29cのうち、帯状布24及び広角織布25の下方に配置されたピン29cが帯状布24及び広角織布25に突き刺さる。これにより、帯状布24及び広角織布25の幅方向の両端部が、一対の搬送機構(29a、29b)によって保持される。また、各搬送機構(29a、29b)は、帯状布24及び広角織布25を搬送する搬送方向の下流側にかけて、帯状布24及び広角織布25の幅方向に広がって延びるように設けられている。
【0087】
帯状布24は、接着液が付着した状態のまま、複数の搬送ロールによって広角処理装置29の上流側まで搬送されてくると、帯状布24の上方に配置された押し付けロール30によって、広角処理装置29に押し付けられる。これにより、各搬送機構(29a、29b)において帯状布24及び広角織布25の下方に配置されたピン29cが帯状布24及び広角織布25に突き刺さる。そして、帯状布24及び広角織布25の幅方向の両端部が、一対の搬送機構(29a、29b)によって保持される。
【0088】
一対の搬送機構(29a、29b)は、帯状布24及び広角織布25の両端部を保持した状態で、帯状布24及び広角織布25を、その長さを縮めながらその幅方向に延伸しつつ、その長手方向に搬送する。尚、
図11においては、帯状布24及び広角織布25がその長手方向に沿って搬送される方向(以下、単に「搬送方向」とも称する)が矢印Dで示されている。
【0089】
製造ライン26は、一対の搬送機構(29a、29b)において、搬送方向にかけてピン29cが帯状布24及び広角織布25の幅方向に広がりながら移動する際に、帯状布24の搬送方向の送り速度を、ピン29cの移動速度における搬送方向の速度成分よりも速めるように、構成されている。これにより、製造ライン26は、帯状布24が、幅方向に広がるとともに長手方向に縮まり、経糸22aと緯糸22bとの交差角が広げられるように、構成されている。
【0090】
上記のように、帯状布24が幅方向に広げられるとともに長手方向に縮められて、経糸22aと緯糸22bとの交差角が広げられ、広角織布25が作製される。そして、広角織布25が作製されると、その広角織布25は、搬送機構(29a、29b)によって、搬送方向の下流側の乾燥炉32へと搬送される。広角織布25は、搬送機構(29a、29b)によって搬送されながら乾燥炉32を通過する。搬送機構(29a、29b)は、乾燥炉32の出口まで延びるように設けられている。そして、乾燥炉32の出口の近傍には、広角処理装置29の上方に、押し上げロール31が配置されている。広角織布25は、乾燥炉32を通過すると、乾燥炉32に対して搬送方向の下流側で広角織布25の下方に配置された押し上げロール31によって、上方に押し上げられる。これにより、広角織布25がピン29cから引き離される。
【0091】
広角処理工程S203が行われて広角処理装置29から送り出された広角織布25は、乾燥炉32へと搬送される。乾燥炉32は、乾燥工程S204を実行する炉として設けられている。接着液が付着した状態で広角処理が施されて作製された広角織布25は、乾燥炉32を通過して搬送される際に、乾燥させられる。これにより、接着液が硬化する。そして、広角処理によって経糸22aと緯糸22bとの交差角が広げられてその状態が保持された状態のまま、接着液の硬化によりその交差角が固定され、目止めされる。
【0092】
乾燥炉32での乾燥工程S204が終了することで、補強布19が作製される。補強布19は、伝動ベルト1の補強布層11を構成するために必要な長さに切断され、補強布層11における補強布19として用いられる。また、補強布19は、必要な長さに切断される際、補強布19の長手方向に対して直交する方向である補強布19の幅方向に沿って略直線状に切断される。
【0093】
ここで、上述した補強布作製工程S101における好ましい条件について更に説明する。帯状布24の作製に用いられる袋織布21は、広角処理の際に経糸22aと緯糸22bとの交差角を広げ易くする観点から、糸密度が35〜75本/5cmであることが好ましい。即ち、袋織布21としては、筒状の周方向に沿って5cmあたり経糸22aが35〜75本含まれ、筒状の軸方向に沿って5cmあたり緯糸22bが35〜75本含まれた糸密度のものが用いられることが好ましい。
【0094】
尚、糸密度が大きすぎると、糸の間隔が狭くなって糸が動きにくくなる。一方、糸密度が小さくなって糸の間隔が広がるほど糸が動き易くなるため、広角処理の際に経糸22aと緯糸22bとの交差角を広げ易くなる。しかし、糸密度が小さすぎると、織布の単位幅又は単位長さあたりの糸本数が少なくなるため、織布の強度が低下してしまう。よって、袋織布21の糸密度が35〜75本/5cmに設定されていることで、織布の強度を十分に確保しつつ、広角処理も容易に行うことができる。
【0095】
また、袋織布21の素材の材質としては、乾燥工程S204において織布が熱によって幅方向に収縮してしまうことを低減する観点から、熱による収縮が少ない繊維を含むものを用いることが好ましい。とくに、綿は、繊維の伸びが小さいため、袋織布21の素材として、綿を含んだものを用いることが好ましい。
【0096】
接着液浸漬工程S202において用いられる接着液としては、RFL又はエポキシ系接着処理剤を用いることが好ましく、とくに、レゾルシン及びホルマリンの初期化合物とゴムラテックスとを混合したRFLを用いることが好ましい。RFLを接着液として用いることで、広角処理工程S203にて広角処理が行われた広角織布25について、広角織布25に付着した接着液を乾燥工程S204にて効率よく硬化させ、強固に目止めすることができる。また、RFLは、接着液として汎用に使用されている点でも好ましい。
【0097】
また、接着液浸漬工程S202において用いられる接着液の固形分濃度は、2〜26質量%の範囲が好ましい。上記の範囲を外れて固形分濃度が低すぎると、広角処理工程S203での広角処理が行われた広角織布25の目止めが不十分となり易く、また、補強布19と圧縮ゴム層12のゴムとの接着が不十分となり易い。また、上記の範囲を外れて固形分濃度が高すぎると、接着液の硬化により織布が強直となり、伝動ベルト1の屈曲性が低下し易くなる。
【0098】
広角処理工程S203においては、前述の通り、帯状布24の幅方向の両端部を保持したピン29cが幅方向に広がることで帯状布24が幅方向に伸張し、且つ、帯状布24の送り速度をピン29cの移動速度における搬送方向の速度成分より速めることにより帯状布24が長さ方向に縮まり、経糸22aと緯糸22bとの交差角が広がる。このため、経糸22aと緯糸22bとの交差角を目標の角度(120〜140度)に設定するためには、帯状布24の幅方向の伸張率と、帯状布24の送り速度と、ピン29cの移動速度とを最適化する必要がある。
【0099】
帯状布24の幅方向の伸張率は、搬送機構29aのピン29cと搬送機構29bのピン29cとの間隔を調整することにより、変更することができ、広角処理前後の織布の幅寸法の比率で算出できる。即ち、次式で算出できる。
伸張率=広角織布25の幅寸法÷帯状布24の幅寸法×100(%)
【0100】
上式で算出される伸張率は、105〜140%になるように、設定されることが好ましく、130〜140%の範囲になるように設定されることがより好ましい。また、帯状布24の送り速度は、ピン29cの移動速度における搬送方向の速度成分に対して、1.5〜2.5倍の範囲に設定されることが好ましい。上記の伸張率条件及び速度条件により、広角処理が行われて作製された広角織布25の経糸22aと緯糸22bとの交差角を、目標とする120度から140度に設定することができる。尚、前述の通り、広角織布25の状態で経糸22aと緯糸22bとの交差角が120度から140度に設定されることで、最終の加硫工程S104を経て伝動ベルト1として製造された状態で、補強布19における経糸22aと緯糸22bとの交差角が110度から130度となる。
【0101】
乾燥工程S204においては、広角処理が施された広角織布25をある程度高温で乾燥することにより、広角織布25に付着した接着液が硬化し、広角処理によって広がった経糸22aと緯糸22bとの交差角を固定(目止め)できる。しかし、乾燥温度が高すぎると、織布が熱により劣化してしまうことになる。一方、乾燥温度がある程度低いと、熱による広角織布25の幅方向の収縮を低減することができる。しかし、乾燥温度が低すぎると、接着液が十分に硬化せず、経糸22aと緯糸22bとの交差角の固定(目止め)が不十分となる。上記の観点より、乾燥工程S204においては、乾燥温度が100〜160℃に設定されることが好ましい。これにより、経糸22aと緯糸22bとの交差角を固定(目止め)できるとともに、織布の熱による劣化も防止でき、更に、熱による広角織布25の幅方向の収縮も抑制することができる。
【0102】
乾燥工程S204が終了することで、補強布作製工程S101が終了するが、この後、積層体形成工程S102が行われる前に、必要に応じて、補強布作製工程S101にて作製された補強布19と圧縮ゴム層12との接着性を向上させるための処理が行われてもよい。具体的には、補強布19と圧縮ゴム層12との接着性を向上させるため、ゴムを補強布19に付着させる処理が行われてもよい。この処理としては、例えば、補強布19をゴム糊に浸漬する処理が行われる。又は、補強布19にゴムをすり込む処理が行われる。或いは、補強布19に薄いゴムシートを積層する処理が行われる。
【0103】
[積層体形成工程]
図12乃至
図16は、積層体形成工程S102を説明するための図である。そして、
図12は、金型33の外周に補強布19が巻き付けられて配置された状態を示す模式図である。
図13は、金型33の外周に補強布19を巻き付ける工程を説明するための図である。
図14は、金型33の外周の一部と金型33の外周に巻き付けられた補強布19の一部とを模式的に示す断面図である。
図15は、補強布19が巻き付けられた金型33の外周に圧縮ゴム層12の素材の未加硫ゴムシート35を配置した状態を模式的に示す図である。
図16は、金型33の外周において、補強布19と未加硫ゴムシート35とが積層されるとともに未加硫ゴムシート35にコグ部18が設けられた無端状の積層体37が形成された状態を模式的に示す図である。尚、
図15及び
図16では、補強布19及び未加硫ゴムシート35については断面を図示し、金型33については外形を図示している。
【0104】
積層体形成工程S102は、補強布19を含む補強布層11と圧縮ゴム層12用の未加硫ゴムシート35とが積層されるとともにその未加硫ゴムシート35にコグ山18aとコグ谷18bとが交互に並んだコグ部18が設けられた無端状の積層体37を形成する工程として構成される。積層体形成工程S102においては、補強布19が、
図12に示すように、金型33の外周に巻き付けられて配置される。金型33は、例えば、筒状の本体部の外周に、溝部33aと山部33bとが交互に並んで設けられた金型として構成される。
【0105】
溝部33aは、金型33の外周で内側に凹んだ溝状の部分として設けられ、金型33の軸方向に沿って延びるように設けられる。山部33bは、金型33の外周で外側に出っ張った山状の部分として設けられ、金型33の軸方向に沿って延びるように設けられる。補強布19と未加硫ゴムシート35とが積層されてコグ部18が設けられた積層体37が金型33の外周に形成された状態においては、溝部33aがコグ山18aに対応し、山部33bがコグ谷18bに対応する。即ち、溝部33aがコグ山18aを形成し、山部33bがコグ谷18bを形成する。
【0106】
金型33の外周に補強布19(補強布層11)を巻き付ける際には、例えば、
図13に示すピニオンロール34が用いられる。ピニオンロール34は、外周に複数の歯34aが設けられたロールとして構成されている。ピニオンロール34において、各歯34aは、例えば、ピニオンロール34の径方向外側に向かって突出したピン状に設けられている。
【0107】
金型33とピニオンロール34とは、軸方向が互いに平行に設定された状態に配置される。そして、金型33の外周に沿って補強布19が配置され、且つ、ピニオンロール34の歯34aが金型33の溝部33aに噛み合うことが可能に配置された状態で、金型33とピニオンロール34とが互いに逆方向に回転される。このように金型33とピニオンロール34とが互いに逆方向に回転することで、歯34aによって補強布19が溝部33aに順次押し込まれていく。これにより、
図12に示すように、補強布19は、金型33の溝部33aの表面と山部33bの表面とに密着した状態で、金型33の外周に巻き付けられて配置される。補強布19は、金型33の全周に亘って巻き付けられ、金型33の外周の周方向に対応する補強布19の長手方向が、伝動ベルト1のベルト長手方向に対応することになる。
【0108】
また、金型33の外周に補強布19が巻き付けられて配置される際には、
図12及び
図14に示すように、補強布19の長手方向における両端部同士は、重なった状態で、1つの溝部33aに配置される。即ち、補強布19の両端部同士を接合する接合部20は、1つの溝部33aに配置される。また、接合部20は、溝部33aに沿って、補強布19の幅方向に略直線状に延びて配置される。このように、接合部20が1つの溝部33aに配置されることで、積層体37が作製された際には、接合部20が、コグ部18における1つのコグ山18aに配置されることになる。
【0109】
金型33の外周に補強布19が巻き付けられて配置されると、次いで、
図15に示すように、補強布19が巻き付けられた金型33の外周に圧縮ゴム層12の素材の未加硫ゴムシート35が配置される。未加硫ゴムシート35は、金型33の外周に沿って金型33の全周を覆うように配置される。金型33の外周を覆った未加硫ゴムシート35の両端部同士は、突き合わされた状態で、加熱プレス36によって加熱されるとともに加圧され、接合される。
【0110】
金型33の外周に未加硫ゴムシート35が配置され、未加硫ゴムシート35の両端部同士が接合されると、補強布19及び未加硫ゴムシート35が外周に配置された金型33は、加硫工程S104でも用いられる加硫缶(図示省略)の内部に収容され、型付けが行われる。このとき、補強布19及び未加硫ゴムシート35が外周に配置された金型33の外側には、蒸気遮断材であるゴム製のジャケットが被せられる。そして、ジャケットが被せられた未加硫ゴムシート35、補強布19、及び金型33は、加硫缶の内部に収容される。そして、加硫缶の内部で、補強布19及び未加硫ゴムシート35が外周に配置されてジャケットが被せられた金型33が、加熱され、更に加圧される。これにより、未加硫ゴムシート35が、外周に補強布19が配置された金型33に対して型付けされる。この結果、
図16に示すように、補強布19を含む補強布層11と圧縮ゴム層12用の未加硫ゴムシート35とが積層されるとともにその未加硫ゴムシート35にコグ山18aとコグ谷18bとが交互に並んだコグ部18が設けられた無端状の積層体37が形成される。
【0111】
そして、上記のように積層体37が形成されるため、積層体形成工程S102においては、補強布層11は、積層体37において、コグ山18a及びコグ谷18bの表面に接着される。また、積層体形成工程S102においては、補強布19は、伝動ベルト1のベルト長手方向に対応する積層体37の周方向に沿ってコグ部18の表面を覆うように配置される。積層体形成工程S102においては、補強布19は、両端部同士が接合されるとともに、ベルト長手方向(周方向)における1箇所のみで接合される。また、積層体形成工程S102においては、補強布19の両端部同士を接合する接合部20は、1つのコグ山18aに対応する位置に配置される。また、積層体形成工程S102においては、接合部20は、ベルト長手方向(周方向)に対して直交する方向であるベルト幅方向(金型33の軸方向)に沿って略直線状に延びるように配置される。
【0112】
[ベルト成形体形成工程]
積層体形成工程S102が終了して積層体37が形成されると、次いで、ベルト成形体形成工程S103が行われる。ベルト成形体形成工程S103は、積層体37の外周側に他の層を積層して未加硫のベルト成形体を形成する工程として構成される。
【0113】
より具体的には、ベルト成形体形成工程S103においては、金型33の外周に配置された状態の積層体37の外周に、接着ゴム層13の素材の未加硫ゴムシート(図示省略)、芯体16となる螺旋状にスピニングされた心線、伸張ゴム層14の素材の未加硫ゴムシート(図示省略)、上面補強布15が、この順番で積層される。これにより、未加硫のベルト成形体が形成される。
【0114】
[加硫工程]
ベルト成形体形成工程S103が終了すると、次いで、加硫工程S104が行われる。加硫工程S104は、ベルト成形体形成工程S103にて形成されたベルト成形体を加硫する工程として構成される。加硫工程S104においては、上記のベルト成形体が、金型33の外周に配置された状態で、更にその外側に、蒸気遮断材であるゴム製のジャケットが被せられる。そして、ジャケットが被せられたベルト成形体及び金型33は、加硫缶(図示省略)の内部に収容される。そして、加硫缶の内部でベルト成形体の加硫が行われる。
【0115】
[Vカット工程]
加硫工程S104が終了すると、Vカット工程S105が行われる。加硫工程S104が行われることで、ベルト成形体が加硫され、ベルトスリーブが得られる。Vカット工程S105においては、加硫工程S104にて作製されたベルトスリーブを、カッターなどを用いて、ベルト長手方向に沿って、ベルト長手方向に垂直な断面がV字状(台形状)の断面となるように、所定幅に切断する加工が行われる。このVカット工程S105が完了することで、伝動ベルト1の製造が完了する。
【0116】
以上のように、
図5に示す伝動ベルトの製造方法が実施されることで、伝動ベルト1が製造されることになる。即ち、補強布作製工程S101、積層体形成工程S102、ベルト成形体形成工程S103、及び加硫工程S104の全ての工程が行われることで、伝動ベルト1が製造されることになる。
【0117】
[実施例]
次に、上述した本実施形態の伝動ベルト1の実施例(本発明の実施例)について説明する。本実施形態の伝動ベルト1の実施例として、製造条件を変更して製造した実施例1〜27に係る伝動ベルトを製造した。実施例1〜27に係る伝動ベルトは、上述した本実施形態の製造方法によって製造した。また、実施例1〜27に係る伝動ベルトとの比較のため、比較例1、比較例2、比較例3の3つの比較例に係る伝動ベルトの製造も行った。そして、比較例1、比較例2、比較例3、及び実施例1〜27に係る伝動ベルトについて、後述する性能評価試験を実施した。
【0118】
図17は、実施例1〜7に係る伝動ベルト及び比較例(1、2、3)に係る伝動ベルトについて、それらの製造条件と性能評価試験結果とを一覧表にして示す図である。また、
図18は、実施例8〜17に係る伝動ベルトについて、それらの製造条件と性能評価試験結果とを一覧表にして示す図である。また、
図19は、実施例18〜27に係る伝動ベルトについて、それらの製造条件と性能評価試験結果とを一覧表にして示す図である。
【0119】
比較例(1、2、3)に係る伝動ベルトにおいては、内周側の補強布の素材として、平織りの織布を用いた。一方、実施例1〜27に係る伝動ベルトにおいては、補強布の素材として、袋織りの織布(袋織布)を用いた。各比較例(1、2、3)及び各実施例1〜27の伝動ベルトにおける補強布の織布の経糸及び緯糸の糸密度については、
図17〜
図19に示す通りとした。尚、比較例(1、2、3)及び実施例1〜11においては、経糸及び緯糸は、綿とPETとを混紡したものであって太さが綿番手で20番手の糸を2本撚りした糸で構成した。また、実施例12〜27で用いられた経糸及び緯糸については、
図18及び
図19に示す条件の通りである。
【0120】
各比較例(1、2、3)及び各実施例1〜27の伝動ベルトの補強布の作製の際に用いた接着液の種類及び接着液の固形分濃度については、
図17〜
図19に示す通りとした。尚、
図17〜
図19の表に記載の「RFL」は、レゾルシン及びホルマリンの初期縮合物とゴムラテックスとを混合した接着剤の接着液であり、
図17〜
図19の表に記載の「エポキシ」は、エポキシ樹脂と溶媒とを混合したエポキシ系接着剤の接着液である。尚、接着液を硬化させるための乾燥処理の際の乾燥温度は、比較例(1、2、3)及び実施例1〜27のいずれにおいても、120℃に設定した。
【0121】
また、各比較例(1、2、3)及び各実施例1〜27の伝動ベルトの補強布の作製の際の広角処理方法としては、
図17〜
図19の表に記載の通り、「A−1」又は「A−2」の広角処理方法を用いた。ここで、「A−1」は、平織布に対して行った広角処理方法であり、「A−2」は、広角処理工程S203で用いられる広角処理方法である。
【0122】
平織布の経糸と緯糸との交差角を広げる「A−1」の広角処理方法については、次の(1)〜(3)の各工程を行うことで実施した。(1)平織布をRFL等の接着液に浸漬させて接着液を平織布に付着させる。(2)接着液が付着した状態で、平織布の幅方向の両端を固定ピンで固定し、織布全体を斜め方向に曲げながら延伸することにより、両側の固定ピンの変位量の差(外周側と内周側との変位量の差)により、平織布を延伸する。(3)延伸した平織布を乾燥させ、接着液を硬化させる。上記(1)〜(3)の各工程を行うことで、織布の長手方向(経糸が延びる方向)に対して経糸が傾斜した広角の交差角の平織布を得た。
【0123】
また、比較例(1、2、3)に係る伝動ベルトの補強布については、上記の「A−1」の広角処理方法で作製した平織布を切断してそれらを接合することで作製した。より具体的には、「A−1」の広角処理方法で得た平織布から、その経糸と緯糸との交差角の中心方向(バイアス方向)と平行に切断した複数の布片を作製し、その複数の布片をバイアス方向に沿って連続して接合し、これにより、バイアス方向が長手方向となる補強布(比較例(1、2、3)に係る伝動ベルトの補強布)を作製した。このため、比較例(1、2、3)に係る伝動ベルトの補強布には、ベルト長手方向(伝動ベルトの周方向)に対して斜めに延びる接合部(以下、「バイアスジョイント」と称する)が少なくとも1箇所以上設けられている。また、比較例(1、2、3)に係る伝動ベルトの補強布は、両端部において、ベルト長手方向に対して直交するベルト幅方向に延びる接合部(以下、「直角ジョイント」と称する)にて接合した。
【0124】
また、
図17の表に記載の通り、各比較例(1、2、3)に係る伝動ベルトにおいては、補強布の接合部として、バイアスジョイントと直角ジョイントとが設けられている。一方、各実施例1〜27に係る伝動ベルトにおいては、バイアスジョイントは設けられておらず、ベルト幅方向に沿って略直線状に延びる接合部である直角ジョイントのみが設けられている。各比較例(1、2、3)に係る伝動ベルトのバイアスジョイントは、コグ部のコグ山とコグ谷とに亘って延びるように配置された。また、各比較例(1、2、3)に係る伝動ベルトの直角ジョイントは、コグ谷に対応する配置された。一方、各実施例(1、2、3)に係る伝動ベルトの補強布における直角ジョイントは、1つのコグ山に対応する位置に配置された。
【0125】
また、
図17〜
図19の表に記載の通り、比較例1,3、及び実施例1,3,6,9,10,12〜17,19,22,25,26に係る伝動ベルトのコグ部の表面における補強布の経糸及び緯糸の交差角は、120度に設定した。また、比較例2及び実施例2,7,11,20,23,27に係る伝動ベルトのコグ部の表面における補強布の経糸及び緯糸の交差角は、130度に設定した。また、実施例4,5,8,18,21,24に係る伝動ベルトのコグ部の表面における補強布の経糸及び緯糸の交差角は、110度に設定した。
【0126】
図20は、実施例1〜27、及び比較例(1、2、3)に係る伝動ベルトに用いられた圧縮ゴム層12及び伸張ゴム層14に含まれる成分を示す表である。また、
図21は、実施例1〜27、及び比較例(1、2、3)に係る伝動ベルトに用いられた接着ゴム層13に含まれる成分を示す表である。
【0127】
実施例1〜27、及び比較例(1、2、3)に係る伝動ベルトにおいては、「A−1」又は「A−2」の広角処理により得られた広角織布に対して、乾燥処理の後に、圧縮ゴム層12との接着性を向上させるための処理(ゴム糊に浸漬する処理)を行った広角織布1枚のみを補強布19として含む補強布層11とした。圧縮ゴム層12及び伸張ゴム層14の素材としては、
図20に示すゴム組成物からなる未加硫ゴムシートを用いた。接着ゴム層13の素材としては、
図21に示すゴム組成物からなる未加硫ゴムシートを用いた。芯体16となる心線としては、1000デニールのPET繊維を2×3の撚り構成で、上撚り係数3.0、下撚り係数3.0で諸撚りしたトータルデニール6000のコードに、慣用の接着処理を施したものを用いた。上面補強布としては、比較例1において(下面)補強布として使用した広角織布(平織布を「A−1」処理したものの)を用いた。以上の材料を用いて未加硫のベルト成形体を形成し、加硫缶にて160℃の温度で20分間ベルト成形体を加硫してからVカットして、ベルト周長800mm、ベルト上幅(ベルト外周側の幅)20mm、ベルト下幅(ベルト内周側の幅)15.5mm、厚み9.0mm、コグ高さ4.0mmのローエッジVベルトを製造した。
【0128】
なお、
図17〜
図19を参照して、比較例(1、2、3)に係る伝動ベルトでは、補強布の作成の際に用いた接着液の固形分濃度が2.8%である。一方、実施例1〜27に係る伝動ベルトでは、接着液の固形分濃度が7.0%である。このように接着液の固形分濃度を異なる値とした根拠について、以下で説明する。
【0129】
接着液については、固形分濃度が低すぎると、広角処理が行われた広角織布の目止めが不十分となり易く、また、補強布と圧縮ゴム層のゴムとの接着が不十分となり易い。一方、固形分濃度が高すぎると、接着液の硬化により織布が強直となり、伝動ベルト1の屈曲性が低下し易くなる。そのため、接着液浸漬工程において用いられる接着液の固形分濃度は、上述した補強布作製工程で説明した通り、2〜26質量%の範囲が好ましい。
【0130】
平織布の経糸と緯糸との交差角を広げる「A−1」の広角処理方法を行う各比較例(1、2、3)では、比較的低い固形分濃度2.8%の接着液を用いても、120℃の乾燥処理により接着液を硬化させて、目標の交差角(比較例1と比較例3では130度、比較例2では140度)の広角織布が得られた。
【0131】
それに対して、広角処理工程S203で用いられる「A−2」の広角処理方法を行う実施例1〜27では、広角織布の目止めが不十分であると、120℃の乾燥処理により接着液を硬化させて目止めしても、さらに経時的に交差角が小さくなる(元に戻ろうとする)傾向にある。そこで、以下の実験により、接着液の固形分濃度と、接着液が硬化した後の交差角の縮小する傾向との関係を調べた。その結果を、
図22の表に示す。
【0132】
綿とPETとを混紡(綿/PET=50/50)したものであって太さが綿番手で20番手の糸を2本撚りした糸で、経糸及び緯糸を構成した袋織りの織布(袋織布)を用い、接着液として固形分濃度の異なるRFL液を用い、広角処理工程S203で用いられる「A−2」の広角処理を行い、120℃で5分間の乾燥処理にて接着液を硬化させて得られた広角織布について、乾燥処理の直後と、その後24時間常温で放置した後と、のそれぞれにおいて、交差角を測定した。
【0133】
目標の交差角130度に対して、固形分濃度が2.0質量%、4.0質量%、6.0質量%の接着液を用いた場合は、乾燥処理の直後は130度の交差角が得られたが、24時間経過後には交差角が縮小していた。固形分濃度が7.0質量%以上になると、乾燥処理の直後から24時間経過後まで交差角が130度のまま維持できた。この結果から、実施例1〜27では、固形分濃度が7.0質量%の接着液を用いた。
【0134】
比較例(1、2、3)及び実施例1〜27に係る伝動ベルトの性能評価試験として、伝動ベルトを駆動プーリ及び従動プーリに巻き掛けて走行させた状態でコグ谷に亀裂が発生するまでの走行時間を測定する試験を行った。
図23は、伝動ベルトの性能評価試験に用いた試験装置38のレイアウトを模式的に示す図である。試験装置38は、駆動プーリ39、従動プーリ40、アイドラープーリ41、軸荷重付加機構42、等を備えた装置として構成されている。また、
図23においては、性能評価試験の対象である比較例(1、2、3)及び実施例1〜27に係る伝動ベルトについては、伝動ベルト43として図示している。
【0135】
駆動プーリ39及び従動プーリ40の直径は、いずれも100mmに設定した。アイドラープーリ41の直径は、80mmに設定した。性能評価試験では、試験対象の伝動ベルト43が、駆動プーリ39及び従動プーリ40に巻き掛けられた状態で、駆動プーリ39が回転することで、伝動ベルト43が走行する。そして、伝動ベルト43を走行させる際における駆動プーリ39の回転数(回転速度)は、3600rpmに設定した。また、軸荷重付加機構42によって発生させる軸荷重(デッドウェイト)は、130kgfに設定した。また、アイドラープーリ41への伝動ベルト43の巻き付け角度は、160度に設定した。また、試験装置38によって伝動ベルト43の性能評価試験を行う際の雰囲気温度は、80℃に設定した。
【0136】
上記の試験条件にて、各比較例(1、2、3)及び各実施例1〜27に係る伝動ベルトの性能評価試験を行い、コグ谷に亀裂が発生するまでの走行時間(hr)を測定した。
図17〜
図19の表に、性能評価試験結果として、コグ谷亀裂発生までの走行時間(hr)を示している。コグ谷亀裂発生までの走行時間が20時間以上であれば、無段変速装置に用いられるローエッジVベルト(変速ベルト)として、問題が無いものと判断した。
【0137】
図17〜
図19の表における性能評価試験結果に示すように、平織布を広角処理した補強布を用いた比較例(1、2、3)に係る伝動ベルトは、いずれもコグ谷亀裂発生までの走行時間が20時間以下であった。これは、補強布の直角ジョイントとバイアスジョイントとがコグ谷に存在し、そのジョイントが存在するコグ谷に掛かる応力が不均一に集中して過度な応力集中を招き、更には、伝動ベルトの屈曲時に補強布の伸縮が追随しないためと考えられる。このため、コグ谷において早期に亀裂が生じたものと考えられる。これに対し、本発明の実施例1〜27に係る伝動ベルトは、いずれも、コグ谷亀裂発生までの走行時間が、変速ベルトとしての使用として問題の無いレベルである20時間を大きく上回った。
【0138】
(A)補強布における経糸と緯糸との交差角についての検討
実施例4,1,2に係る伝動ベルトは、補強布における経糸と緯糸との交差角が互いに異なる(
図17を参照して、実施例4に係る伝動ベルトの交差角は110度、実施例1に係る伝動ベルトの交差角は120度、実施例2に係る伝動ベルトの交差角は130度)点を除き、その他の構成は同じである。コグ谷亀裂発生までの走行時間は、交差角が大きくなるにつれて長くなる結果となった。
【0139】
上述した実施例4,1,2の広角処理後の糸密度は、
図17を参照して、交差角が大きくなるにつれて大きくなっていることがわかる。糸密度が大きくなる(すなわち、単位幅あたりの糸の本数が増える)ことで織布の強力が高くなるために、コグ谷亀裂発生までの走行時間が長くなると考えられる。
【0140】
(B)糸密度についての検討
実施例1,6,9に係る伝動ベルトは、広角処理前の経糸・緯糸の糸密度が互いに異なる(
図17及び
図18を参照して、実施例1に係る伝動ベルトの広角処理前の糸密度は45本/5cm、実施例6に係る伝動ベルトの広角処理前の糸密度は55本/5cm、実施例9に係る伝動ベルトの広角処理前の糸密度は65本/5cm)点を除き、その他の構成は同じである。コグ谷亀裂発生までの走行時間は、広角処理前の糸密度が大きくなるにつれて長くなる結果となった。広角処理前の糸密度が大きくなる(すなわち、単位幅あたりの糸の本数が増える)ことで織布の強力が高くなるために、コグ谷亀裂発生までの走行時間が長くなると考えられる。
【0141】
(C)糸の太さについての検討
実施例1,13に係る伝動ベルトは、経糸及び緯糸の太さが互いに異なる(
図17及び
図18を参照して、実施例1に係る伝動ベルトの経糸・緯糸は綿とPETを混紡した太さ20番手の糸を2本撚りしたもの、実施例13に係る伝動ベルトの経糸・緯糸は綿とPETを混紡した太さ20番手の糸を3本撚りしたもの)点を除き、その他の構成は概ね同じである。同様に、実施例6,14に係る伝動ベルトも、経糸及び緯糸の太さが互いに異なる点を除き、その他の構成は概ね同じである。実施例1と実施例13との比較結果、実施例6と実施例14との比較結果からも分かる通り、糸の太さを太くすることで、コグ谷亀裂発生までの走行時間が長くなることが確認できた。
【0142】
なお、実施例12に係る伝動ベルトと実施例1に係る伝動ベルトとを比較すると、広角処理前の糸密度は実施例12に係る伝動ベルトの方が小さいが、コグ谷亀裂発生までの走行時間は実施例1に係る伝動ベルトと同等である。これは、実施例12に係る伝動ベルトは、糸が太い分糸と糸との間隔が狭くなり糸密度が小さくなるものの、糸が太いので、結果としてコグ谷亀裂発生までの走行時間が実施例1に係る伝動ベルトと同等になると考えられる。
【0143】
(D)糸の材質についての検討
実施例9,15,16,17,25に係る伝動ベルトは、経糸及び緯糸の材質が互いに異なる点を除き、その他の構成は同じである。具体的には、実施例9に係る伝動ベルトに用いられる糸は綿とPETとの混紡糸であり、実施例15に係る伝動ベルトに用いられる糸は綿の紡糸であり、実施例16に係る伝動ベルトに用いられる糸はPETの紡糸であり、実施例17に係る伝動ベルトに用いられる糸はメタ系アラミドの紡糸であり、実施例25に係る伝動ベルトに用いられる糸はPET紡糸とメタ系アラミド紡糸との混撚り糸である。
【0144】
実施例9,15,16,17,25のコグ谷亀裂発生までの走行時間の比較結果は、実施例15(綿、35時間)<実施例9(綿/PET、46時間)<実施例16(PET、47時間)<実施例17(メタ系アラミド、49時間)=実施例25(メタ系アラミド/PET、49時間)となった。
【0145】
PETとメタ系アラミドとの強力及び弾性率は同レベルであるが、耐熱性と寸法安定性はメタ系アラミドが優れている。一方、綿はPET及びメタ系アラミドに比べると強力及び弾性率は低いものの汎用的に使われている。コストの面では、綿<PET<メタ系アラミド、の関係にある。補強布に使用する糸の材質は、要求される品質及びコストに応じて使い分けることができる。
【0146】
また、
図19を参照して、実施例18〜27の結果から、実施例1〜11(綿とPETとの混紡糸)と同様に、経糸及び緯糸としてPET紡糸とメタ系アラミド紡糸との混撚り糸を用いた場合であっても、糸密度及び交差角が大きくなるほどコグ谷亀裂発生までの走行時間が長くなることが確認できた。
【0147】
[本実施形態の効果]
以上説明したように、本実施形態によると、ベルト長手方向に沿ってコグ部18の表面を覆う補強布19は、両端部同士がベルト長手方向における1箇所の接合部20のみで接合されている。そして、補強布19に1箇所のみ設けられた接合部20は、1つのコグ山18aに対応する位置に配置されている。このため、補強布19の接合部20は、必ず、コグ山18aに配置され、コグ谷18bに配置されることが無い。
【0148】
よって、本実施形態によると、コグ部18の表面に配置された補強布19の接合部20が、コグ谷18bに存在することがない。このため、コグ谷18bにおいて応力が不均一に集中して過度な応力集中を招いてしまうことが抑制され、コグ谷18bにおける応力の均一化を図ることができる。そして、伝動ベルト1の屈曲時に補強布19の伸縮の追随が不十分となることも抑制され、耐屈曲疲労性の向上を図ることもできる。これにより、伝動ベルト1が高負荷な環境下で使用された場合であっても、コグ谷18bにおいて早期に亀裂が生じてしまうことを抑制でき、耐久寿命の向上を図ることができる。即ち、高負荷な環境下で使用された場合における高度な耐久性を実現することができる。
【0149】
従って、本実施形態によると、高負荷な環境下で使用された場合であってもコグ谷18bにおいて早期に亀裂が生じてしまうことを抑制でき、高度な耐久性を実現することができる、伝動ベルト1と、その伝動ベルト1の製造方法とを提供することができる。
【0150】
また、本実施形態によると、伝動ベルト1に接合部20が1つのみ存在するため、伝動ベルトに接合部が複数存在する場合と比べて伝動ベルトの耐久性を確保できる。
【0151】
また、本実施形態では、補強布19の接合部20は、ベルト幅方向に沿って略直線状に延びるように設けられる。このため、コグ山18aに配置された補強布19の接合部20の一部が、コグ山18aから外れてコグ谷18bに配置されてしまうことがない。即ち、補強布19の接合部が、ベルト長手方向(伝動ベルト1の周方向)に対して斜めの角度(バイアス角度)で延びることがなく、確実に、コグ山18aに配置される。従って、本実施形態によれば、接合部20をより確実にコグ山18aのみに配置することができる。
【0152】
また、本実施形態のように、ベルト長手方向から視た経糸22aと緯糸22bとの交差角を110度以上130度以下に設定することにより、これらの経糸22a及び緯糸22bを含む補強布19が伝動ベルト1の屈曲に十分に追従して伸縮することが可能となる。これにより、補強布19の耐久性をより高めることができる。
【0153】
また、本実施形態によれば、積層体37におけるコグ部18と反対側(外周側)に他の層(具体的には、接着ゴム層13の素材の未加硫ゴムシート、複数の心線、伸張ゴム層14の素材の未加硫ゴムシート、及び上面補強布15)が積層されるため、適切な構成を有する伝動ベルト1を製造することができる。
【0154】
また、本実施形態によると、伝動ベルト1の補強布19の作製時に、接着液が付着した帯状布24が幅方向に延伸され経糸22aと緯糸22bとの交差角を広げる際、長手方向の長さが縮むように帯状布24が幅方向に延伸されるため、交差角が広げられた連続した広角織布25を容易に作製することができる。また、本実施形態によると、接着液が付着したまま交差角が広げられた広角織布25が乾燥されることで、接着液の硬化処理が行われる。このため、所望の交差角を接着液で保持した状態で速やかに接着液を硬化させ、交差角を固定することができる。補強布19の作製の際、接着する処理と交差角を広げる処理とをほぼ同時タイミングで行うことにより、効率よく所望の交差角を保持することができる。
【0155】
また、本実施形態のように、ベルト長手方向から視た経糸22aと緯糸22bとの交差角が120度以上140度以下となるように、接着液が付着した帯状布24を広角処理することにより、加硫工程後の補強布19に含まれる経糸22aと緯糸22bとの交差角が、120度以上140度以下よりもやや小さな交差角(本実施形態の場合、110度以上130度以下)となる。加硫工程後の補強布19に含まれる経糸22aと緯糸22bとの交差角を110度以上130度以下に設定することにより、これらの経糸22a及び緯糸22bを含む補強布19が伝動ベルト1の屈曲に十分に追従して伸縮することが可能となる。これにより、補強布19の耐久性をより高めることができる。
【0156】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができる。例えば、次のような変形例を実施してもよい。
【0157】
(1)前述の実施形態では、内周側の圧縮ゴム層の表面に補強布層が配置され、外周側の伸張ゴム層の表面に上面補強布が配置された形態を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。内周側の圧縮ゴム層の表面に補強布層が配置され、外周側の伸張ゴム層の表面に上面補強布が配置されていない形態が実施されてもよい。
【0158】
(2)前述の実施形態では、内周側の圧縮ゴム層の表面の補強布層において、補強布が1枚のみ含まれた形態を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。内周側の圧縮ゴム層の表面の補強布層において、補強布が2枚以上含まれた形態が実施されてもよい。この場合、複数枚の補強布は、積層されて配置され、それぞれベルト長手方向に沿って全周に亘って配置される。
【0159】
(3)前述の実施形態では、内周側の圧縮ゴム層にのみコグ部が設けられた形態を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。外周側の伸張ゴム層にもコグ部が設けられた形態が実施されてもよい。
【0160】
(4)前述の実施形態では、補強布の接合部が、補強布の両端部同士が重ね合わされた状態で接着されることで接合された部分として設けられている形態を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。
【0161】
図24は、補強布の接合部の変形例を説明するための図であって、コグ部及び補強布の一部を示す断面図である。
図24は、前述の実施形態の
図4に対応する断面図として図示されている。尚、
図24においては、前述の実施形態に対応する要素については、同一の符号を付している。
図24に示すように、補強布19の両端部同士を接合する接合部44は、補強布19の両端部が突き合わされた状態で接着されることで接合された部分として設けられている。このような接合部44の形態が実施されてもよい。
【0162】
(5)前述の実施形態では、積層体形成工程として、まず、金型33の外周に沿って溝部33a及び山部33bの表面に密着した状態で補強布19が巻き付けられ、次いで、その外周に未加硫ゴムシート35が型付けされ、無端状の積層体37が形成される形態を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。例えば、
図25乃至
図27に示す変形例に係る積層体形成工程が実施されてもよい。
【0163】
図25乃至
図27は、積層体形成工程の変形例を説明するための図である。そして、
図25は、補強布19、未加硫ゴムシート35、及びコグ成形型45を模式的に示す断面図である。
図26は、コグ成形型45の表面で型付けが行われて未加硫ゴムシート35にコグ部18が形成された状態を模式的に示す断面図である。
図27は、金型33の外周に無端状の積層体37が形成された状態の一部の断面を模式的に示す図である。尚、
図25乃至
図27においては、前述の実施形態に対応する要素については、同一の符号を付している。また、以下の変形例の説明においては、前述の実施形態に対応する要素については、同一の符号を引用して説明する。
【0164】
変形例に係る積層体形成工程においては、圧縮ゴム層12との接着性を向上させるためにゴム材料を付着させた補強布19が、コグ成形型45に対して型付けされる(
図25を参照)。コグ成形型45に補強布19が型付けされる際には、例えば、ピニオンロールなどが用いられる。コグ成形型45に補強布19が型付けされると、補強布19の上に、圧縮ゴム層12用の未加硫ゴムシート35が配置される。そして、
図26に示すように、積層された状態の補強布19と未加硫ゴムシート35とが、コグ成形型45によって型付けされる。これにより、補強布19と未加硫ゴムシート35とが積層された状態で未加硫ゴムシート35にコグ部18が形成されたコグパッド46が作製される。
【0165】
コグ成形型45は、例えば、溝部45aと山部45bとが表面に交互に並んで設けられた板状の型として構成される。溝部45aは、コグ成形型45の表面で凹んだ溝状の部分として設けられる。山部45bは、コグ成形型45の表面で出っ張った山状の部分として設けられる。補強布19と未加硫ゴムシート35とが積層されてコグ部18が設けられたコグパッド46が形成された状態においては、溝部45aがコグ山18aに対応し、山部45bがコグ谷18bに対応する。即ち、溝部45aがコグ山18aを形成し、山部45bがコグ谷18bを形成する。
【0166】
尚、上記の変形例では、コグ成形型45に対して、先に、補強布19のみが型付けされ、次いで、補強布19の上から未加硫ゴムシート35が配置され、コグ部18の型付けが行われる形態を例にとって説明したが、この通りでなくてもよい。補強布19と未加硫ゴムシート35が積層され、その状態で、コグ成形型45によって未加硫ゴムシート35にコグ部18の型付けが行われる形態が実施されてもよい。
【0167】
補強布19と未加硫ゴムシート35とが積層されてコグ部18が設けられたコグパッド46が作製されると、コグパッド46は、その両端部が切断される。このとき、コグパッド46の両端部のそれぞれは、コグ山18aの中央部分において切断される(
図26を参照)。
【0168】
両端部がコグ山18aの中央部分で切断されたコグパッド46は、コグ成形型45から取り外され、金型33の外周に巻き付けられて配置される。このとき、コグ山18aが溝部33aに嵌まり込み、山部33bがコグ谷18bに嵌まり込むように、コグパッド46が、金型33の外周に巻き付けられて配置される。そして、コグ山18aの中央部分で切断されたコグパッド46の両端部の切断面が、突き合わせ接合される。
【0169】
上記により、
図27に示すように、補強布19を含む補強布層11と圧縮ゴム層12用の未加硫ゴムシート35とが積層されるとともにその未加硫ゴムシート35にコグ山18aとコグ谷18bとが交互に並んだコグ部18が設けられた無端状の積層体37が形成される。尚、コグパッド46の両端部同士が突き合わせ接合されて積層体37が形成された際には、未加硫ゴムシート35の両端部が接合されるとともに、補強布19の両端部も接合される。これにより、補強布19の両端部同士を接合する接合部47も形成される。また、接合部47は、1つの溝部33aに配置される。そして、積層体37において、接合部47が、コグ部18における1つのコグ山18aに配置される。
【0170】
図28は、
図25乃至
図27に示す積層体形成工程が行われた後に行われるベルト成形体形成工程を説明するための図であって、金型33の外周において、無端状の積層体37の外周に更に複数の未加硫ゴムシート(48、49)が積層された状態を模式的に示す図である。
【0171】
図25乃至
図27に示す積層体形成工程が終了して金型33の外周に積層体37が形成されると、更に複数の未加硫ゴムシート(48、49)が、積層体37の外周に積層される。より具体的には、積層体37の外周に、接着ゴム層13の素材の未加硫ゴムシート48と複数の心線、伸張ゴム層14の素材の未加硫ゴムシート49、上面補強布15が、この順番で積層される。これにより、未加硫のベルト成形体が形成される。
【0172】
図28に示すベルト成形体形成工程が終了すると、次いで、加硫工程が行われる。加硫工程においては、上記のベルト成形体が、金型33の外周に配置されてジャケットが被せられた状態で、金型33とともに、加硫缶(図示省略)の内部に収容される。そして、加硫缶の内部でベルト成形体の加硫が行われる。加硫が完了すると、前述の実施形態と同様にVカット工程が行われ、伝動ベルトの製造が完了する。
【0173】
(6)前述の実施形態では、接合部20が1箇所設けられた伝動ベルト1を例に挙げて説明したが、これに限らない。具体的には、接合部が2箇所以上設けられた伝動ベルトを構成してもよい。この場合であっても、各接合部は、コグ山に設けられており、コグ谷には設けられていない。本変形例のような構成を有する伝動ベルトであっても、上記実施形態の場合と同様、高負荷な環境下で使用された場合であってもコグ谷18bにおいて早期に亀裂が生じてしまうことを抑制でき、高度な耐久性を実現することができる。
【0174】
(7)前述の実施形態では、接合部20がベルト長手方向に対して略直交する方向に沿って延びるように設けられている例を挙げて説明したが、これに限らない。具体的には、接合部は、ベルト長手方向に対して斜め方向に延びるように設けられていてもよい。この場合であっても、接合部は、コグ山に設けられており、コグ谷には設けられていない。本変形例のような構成を有する伝動ベルトであっても、上記実施形態の場合と同様、高負荷な環境下で使用された場合であってもコグ谷18bにおいて早期に亀裂が生じてしまうことを抑制でき、高度な耐久性を実現することができる。