特許第6532664号(P6532664)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6532664高反応性オレフィン機能性ポリマーを作製する重合開始系および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6532664
(24)【登録日】2019年5月31日
(45)【発行日】2019年6月19日
(54)【発明の名称】高反応性オレフィン機能性ポリマーを作製する重合開始系および方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 4/40 20060101AFI20190610BHJP
   C08F 10/10 20060101ALI20190610BHJP
【FI】
   C08F4/40
   C08F10/10
【請求項の数】24
【外国語出願】
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-208290(P2014-208290)
(22)【出願日】2014年10月9日
(65)【公開番号】特開2015-74785(P2015-74785A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2017年8月2日
(31)【優先権主張番号】14/052,490
(32)【優先日】2013年10月11日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507088266
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ マサチューセッツ
(73)【特許権者】
【識別番号】514060134
【氏名又は名称】インフィニウム インターナショナル リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】ルドルフ ファウスト
(72)【発明者】
【氏名】ラジーフ クマール
(72)【発明者】
【氏名】ヤコブ エマート
【審査官】 小出 直也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/090764(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/021058(WO,A1)
【文献】 特開2005−008642(JP,A)
【文献】 特開2001−017864(JP,A)
【文献】 米国特許第5789335(US,A)
【文献】 米国特許第3846392(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/275453(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 4/00−4/58,4/72−4/82
C08F 6/00−246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも50モル%のエキソ-オレフィン含量を有するポリブテンの調製のための方法であって、該方法は、
実質的または完全に無極性の重合媒体中で、イソブテンまたはイソブテン含有モノマー混合物を、酸素-および/または硫黄含有ルイス塩基と複合体化されたルイス酸触媒と接触させる工程、ならびに
開始剤を用いて、該イソブテンまたはイソブテン含有モノマー混合物の重合を開始させる工程
を含み、該ルイス酸触媒は、式MR"mYn
(式中、Mは、Al、Fe、Ga、Hf、ZrまたはWから選択される金属であり;R"は、ヒドロカルビル基であり;Yはハロゲンであり;mは、0または1〜5の整数であり;nは、1〜6の整数であ、m+nは、金属Mの原子価と等しい、ただし、MがAlである場合、mは1である)のルイス酸であり、該開始剤は、式RX
(式中、Xはハロゲンアニオン(halide)であり;Rは、安定なカルボカチオンを形成るヒドロカルビル基であり、Rは、第3級、ベンジルまたはアリルである炭素によりXに連結される)
の化合物であり、該ルイス酸および該ルイス塩基は、液体無極性非ハロゲン化脂肪族溶媒または液体芳香族溶媒から選択される溶媒中で複合体化され、該溶媒が液体無極性非ハロゲン化脂肪族溶媒である場合、mは少なくとも1であり、該溶媒が液体芳香族溶媒である場合、該溶媒は、ベンゼン、クロロベンゼン、トルエンまたはキシレンであり、該溶媒がキシレンまたはトルエンである場合、該ルイス酸および該ルイス塩基は、該ルイス塩基を該溶媒中に溶解して溶液を形成し、次いで該ルイス酸を該溶液に添加することにより複合体化される、方法。
【請求項2】
Mが、Al、GaまたはFeであり、R"が、C1〜C8アルキル基である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
Mが、AlまたはFeである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
Yが、ClまたはBrである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
該ルイス塩基が、
非環式ジヒドロカルビルエーテル、ここで、各ヒドロカルビル基は、独立して、C1〜C12ヒドロカルビルから選択される、
5〜7員環基を有する塩基性環式エーテル、
ジヒドロカルビルケトン、ここで各ヒドロカルビル基は、独立して、C1〜C12ヒドロカルビルから選択される、
C1〜C12脂肪族アルコール、
C1〜C12脂肪族アルデヒド、
非環式脂肪族ヒドロカルビルエステル、ここで、ヒドロカルビル基は、C1〜C12ヒドロカルビルから選択される、
5〜7員環基を有する環式脂肪族エステル、
ジアルキルスルフィド、ここで、各アルキル基は、独立して、C1〜C12アルキルから選択される
基性ジヒドロカルビルチオカルボニル化合物、ここで、各ヒドロカルビル基は、独立して、C1〜C12ヒドロカルビルから選択される、または
それらの混合物
から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項6】
該ルイス塩基が、
非環式ジアルキルエーテル、ここで、各アルキル基は、独立して、C1〜C4アルキルから選択される、
5〜7員環基を有する環式エーテル、
塩基性ジアルキルケトン、ここで、各アルキル基は、独立して、C1〜C4アルキルから選択される、
C1〜C4脂肪族アルコール、
C1〜C4脂肪族アルデヒド、
非環式脂肪族ヒドロカルビルエステル、ここで、ヒドロカルビル基は、独立して、C1〜C4アルキルから選択される、
5〜7員環基を有する環式脂肪族エステル、
ジアルキルスルフィド、ここで、各アルキル基は、独立して、C1〜C4アルキルから選択される
アルキルチオカルボニル化合物、ここで、各アルキル基は、独立して、C1〜C4アルキルから選択される、または
それらの混合物
から選択される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
該ルイス塩基が、ジヒドロカルビルエーテルまたはジヒドロカルビルケトンであり、各ヒドロカルビル基は、独立して、C1〜C8ヒドロカルビルから選択され、該ジヒドロカルビルエーテルまたはジヒドロカルビルケトンの該ヒドロカルビル基の1つまたはそれぞれは、電子求引基で置換される、請求項5記載の方法。
【請求項8】
該電子求引基がハロゲン原子である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
該ハロゲン原子が塩素である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
該ルイス塩基の該ヒドロカルビル基が、分岐または直鎖のC1〜C4アルキル基である、請求項5記載の方法。
【請求項11】
該ルイス塩基の該ヒドロカルビル基が、分岐または直鎖のC1〜C4アルキル基である、請求項7記載の方法。
【請求項12】
該溶媒が、液体無極性非ハロゲン化脂肪族溶媒であり、m≧1である、請求項1記載の方法。
【請求項13】
該溶媒が、ベンゼン、クロロベンゼン、トルエンまたはキシレンから選択される液体芳香族溶媒である、請求項1記載の方法。
【請求項14】
該溶媒が、トルエンまたはキシレンである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
該無極性重合媒体が、飽和C4炭化水素、不飽和C4炭化水素またはそれらの混合物から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項16】
該イソブテンまたはイソブテン含有モノマー混合物が、
純粋なイソブテン
5%〜50%のブテン-1、2%〜40%のブテン-2、2%〜60%のイソ-ブ、2%〜20%のn-ブンおよび0.5%までのブタジエンを含むC4精製所(refinery)カット、ここで、全てのパーセンテージは、C4精製所カットの総質量に基づく質量による;または
純粋なイソブテンおよび該C4精製所カットの混合物
から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項17】
該複合体が、媒体1リットル当たり、0.2mM〜200mMのルイス酸-ルイス塩基複合体のミリモル濃度で、該イソブテンまたはイソブテン含有モノマーと接触される、請求項1記載の方法。
【請求項18】
該ルイス酸および該ルイス塩基が、該ルイス酸を該溶媒中に溶解して溶液を形成し、次いで、該ルイス塩基を該溶液に添加することにより、複合体化される、請求項1記載の方法。
【請求項19】
該溶媒が、キシレンまたはトルエンから選択され、該ルイス酸および該ルイス塩基が、該ルイス塩基を該溶媒中に溶解して溶液を形成し、次いで該ルイス酸を該溶液に添加することにより複合体化される、請求項14記載の方法。
【請求項20】
重合プロセスが連続して実施される、請求項1記載の方法。
【請求項21】
該ポリブテン生成物が、少なくとも70モル%のエキソ-オレフィン含量を有する、請求項1記載の方法。
【請求項22】
該ルイス酸が、MeAlCl2、EtAlCl2、イソ-BuAlCl2またはn-BuAlCl2から選択され;該ルイス塩基が、ジヒドロカルビルエーテルであり、ここで、各ヒドロカルビル基は、独立して、C1〜C8ヒドロカルビルから選択され、該ジヒドロカルビルエーテルの該ヒドロカルビル基の1つまたはそれぞれが、塩素で置換され;該溶媒が、ベンゼンまたはトルエンから選択され、該ルイス酸および該ルイス塩基が、ルイス塩基を該溶媒に溶解して溶液を形成し、次いで、複合体中のルイス酸 対 ルイス塩基のモル比が1:1〜1:1.7となる量で、該ルイス酸を該溶液に添加することにより複合体化される、請求項1記載の方法。
【請求項23】
該ルイス酸が、MeAlCl2、EtAlCl2、イソ-BuAlCl2またはn-BuAlCl2から選択され;該ルイス塩基がジヒドロカルビルケトンであり、ここで、各ヒドロカルビル基が、独立して、C1〜C8ヒドロカルビルから選択され、該ジヒドロカルビルケトンの該ヒドロカルビル基の1つまたはそれぞれが、塩素で置換され;該溶媒が、ベンゼンまたはトルエンから選択され、該ルイス酸およびルイス塩基が、ルイス塩基を該溶媒に溶解して溶液を形成し、次いで、複合体中のルイス酸 対 ルイス塩基のモル比が1:1〜1:1.7となる量で、該ルイス酸を該溶液に添加することにより複合体化される、請求項1記載の方法。
【請求項24】
MがAlであり、mは1である、請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高反応性オレフィン機能性ポリマー(functional polymer)を作製する重合開始系および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
イソブチレン(IB)のカルボカチオン重合は、大きな科学的および工業的関心の主題である。化学的に完全に十分に飽和したポリマーであるポリイソブチレン(PIB)の特有の性質は、ポリイソブチレンを医療用デバイスから発動機オイルおよび燃料添加剤としての使用に適した無灰(ashless)(金属非含有)分散剤/界面活性剤までの範囲の適用を有する望ましい材料にする。これらの無灰分散剤/界面活性剤は、オレフィン末端基を有する低分子量(約500〜約5000の数平均分子量(
【化1】
))PIBまたはポリブテン(IBとC4オレフィンとのコポリマー)由来のオリゴアミン末端基を有する油溶性界面活性剤であることを特徴とし得る。
【0003】
オレフィン末端基を有する低分子量IBホモポリマーまたはコポリマーを作製するための2つの主要な工業的な方法が開発されている。「従来の」方法では、C4混合物およびハロゲン化アルミニウムに基づいた触媒系を使用し、高い三置換オレフィン含量を有するポリブテンが作製される。三置換オレフィン末端基の反応性が低いために、ポリブテンは、無水マレイン酸と反応してポリブテニル無水コハク酸を生じ、その後オリゴアルキレンイミンと反応してポリブテニルスクシンイミド型無灰分散剤/界面活性剤を生じるように塩素化する必要がある。他の方法では、低温での重合反応工程(run)において、純粋なIB供給流およびアルコールまたはエーテルのいずれかを有するBF3複合体系触媒を使用して、高いエキソ-オレフィン末端基含量を有する高反応性PIB(HR PIB)が生じる。従来のポリブテンの三置換オレフィンとは対照的に、PIBエキソ-オレフィンは、熱「エン」反応において無水マレイン酸と容易に反応してPIB無水コハク酸を生成し、その後ポリイソブテニルスクシンイミド無灰分散剤を生じる。最終生成物が塩素を含まないので、HR PIBは、従来のポリブテンよりも望ましい。しかしながら、BF3は、取り扱いが困難であり、該ポリマーはフッ素を含み得る。さらに、上述のように、この方法では、純粋なIB供給流および低温(例えば-30℃)を必要とするので、より高価な製品が生じる。
【0004】
HR PIBを作製するための上述の商業的な方法は、Rathに対する米国特許第5,408,018号(およびDE-A 2702604)により報告されている。その後、Rathらに対する米国特許第6,407,186号、同6,753,389号および同7,217,773号ならびにWettlingらに対する米国特許第6,846,903号、同6,939,943号および同7,038,008号において、ある範囲の方法の向上が報告された。異なる温度領域(regime)および短い滞留時間を使用する改変された方法も以前に記載された(例えば、Baxterらに対する米国特許第6,562,913号および同6,683,138号)。これらの開示の全てには、BF3触媒およびアルコールまたはエーテル共触媒を用いて行われた重合が記載される。かかる触媒方法は、特に、一般的に入手可能な混合C4ラフィネートI流とともに使用した場合に、ポリマー中に残留フッ素が残り得る。非常に少量のフッ素が存在することでも、HFが放出されるために、下流の官能基化反応器内で問題が起こるので、費用がかかるフッ素除去の後処理が必要となる。
【0005】
そのため、HR PIBを作製するための他の方法を見出すために多くの試みがなされている。例えば、還流テトラヒドロフラン(THF)中で20〜24時間、tert-塩素終結PIB(PIB-Cl)と、カリウムtert-ブトキシドおよびアルカリエトキシドなどの強塩基を反応させること(Kennedy, J.P.; Chang, V.S.C.; Smith, R.A.; Ivaen, B. Polym. Bull. 1979, 1, 575)、リビングPIB(living PIB)をメタリルトリメチルシラン(methallyltrimethylsilane)でクエンチすること(Nielsen, L.V.; Nielson, R.R.; Gao, B.; Kops, J.; Ivaen, B. Polymer 1997, 38, 2528.)、リビングPIBを障害塩基(hindered base)(例えば、2,5-ジメチルピロールまたは1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン)でクエンチすること(Simison, K.L.; Stokes, C.D.; Harrison, J.J.; Storey, R.F. Macromolecules 2006, 39, 2481)、リビングPIBをアルコキシシランまたはエーテル化合物でクエンチすること(Storey, R.F.; Kemp, L.L. 米国特許出願公開公報2009/0318624 A1、2009年12月24日)、およびリビングPIBとモノスルフィドとを反応させ、その後得られたスルホニウム塩を塩基で分解すること(Morgan. D.L.; Stokes, C.D.; Meierhoefer, M.A.; Storey, R.F. Macromolecules 2009, 42, 2344)によりほぼ定量可能な(quantitative)エキソ-オレフィン末端を有するPIBが得られている。しかしながら、上述の方法の全ては、適度に極性の溶媒中の低温でのリビングカチオン重合を含み、高価な反応物を使用するので、費用がかかる。
【0006】
元素の周期表のV族およびVI族の酸化物に基づくハロゲン非含有金属触媒の広範な開示がSigwartらに対する米国特許第6,441,110号に記載されたが、これらの触媒は、異成分からなる(heterogeneous)ものであり、ほんの適度な量のエキソ-オレフィンを伴う劣ったモノマー変換を生じた。ニトリルリガンドおよび弱い配位結合アニオンを有する元素の周期系の3〜12周期由来の金属に基づいた別の触媒系が、Bohnepollらに対する米国特許第7,291,758号に記載された。これらの触媒は、極性ジクロロメタン溶液内でのみ使用され、無極性の全ての炭化水素媒体中では使用されなかった。
【0007】
より最近では、ある範囲の開始剤または外来性の水(adventitious water)と共にAlCl3-OBu2複合体によりIBの重合が開始され、塩素化極性溶媒(CH2Cl2/ヘキサン80/20 v/v)中で、ある温度範囲(-60〜-20℃)において95%までの高いエキソ-オレフィン末端基を有するPIBが生じることが報告されている(Vasilenko, I.V.; Frolov, A.N.; Kostjuk, S.V. Macromolecules 2010, 43(13), 5503-5507)。独立して、-20〜20℃の範囲の温度で、CH2Cl2中、AlCl3またはFeCl3ジアルキルエーテル複合体と共に、開始剤としての外来性の水を用いて同様の結果が報告された(Lui, Q.; Wu Y.; Zhang, Y.; Yan. P.F.; Xu, R.W. Polymers 2010, 51, 5960-5969)。溶媒の非存在下で、開始剤を添加することなく、または開始剤として水を添加して、末端ビニリデン結合を有するPIBを作製するためのAlCl3-OBu2が報告されている(KoenigらのUSPG 2011/0201772A1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,408,018号
【特許文献2】DE-A 2702604
【特許文献3】米国特許第6,407,186号
【特許文献4】米国特許第6,753,389号
【特許文献5】米国特許第7,217,773号
【特許文献6】米国特許第6,846,903号
【特許文献7】米国特許第6,939,943号
【特許文献8】米国特許第7,038,008号
【特許文献9】米国特許第6,562,913号
【特許文献10】米国特許第6,683,138号
【特許文献11】米国特許出願公開公報2009/0318624 A1
【特許文献12】米国特許第6,441,110号
【特許文献13】米国特許第7,291,758号
【特許文献14】USPG 2011/0201772A1
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Kennedy, J.P.; Chang, V.S.C.; Smith, R.A.; Ivaen, B. Polym. Bull. 1979, 1, 575
【非特許文献2】Nielsen, L.V.; Nielson, R.R.; Gao, B.; Kops, J.; Ivaen, B. Polymer 1997, 38, 2528.
【非特許文献3】Simison, K.L.; Stokes, C.D.; Harrison, J.J.; Storey, R.F. Macromolecules 2006, 39, 2481
【非特許文献4】Morgan. D.L.; Stokes, C.D.; Meierhoefer, M.A.; Storey, R.F. Macromolecules 2009, 42, 2344
【非特許文献5】Vasilenko, I.V.; Frolov, A.N.; Kostjuk, S.V. Macromolecules 2010, 43(13), 5503-5507
【非特許文献6】Lui, Q.; Wu Y.; Zhang, Y.; Yan. P.F.; Xu, R.W. Polymers 2010, 51, 5960-5969
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、ハロゲン化アルキル、エーテル、エステル、アルコールおよびブレンステッド酸などの従来のカチオン性開始剤の中には、AlCl3を有する無極性媒体中で、重合を直接開始することが見出されたものはない。そのため、無極性炭化水素媒体中で、高反応性PIBまたはポリブテンの調製のための、確固とした経済的な方法の必要性が残る。
【0011】
ルイス酸/ルイス塩基複合体の特定の組み合わせと一緒になって使用される従来のカチオン性開始剤は、-30℃〜+50℃の温度で炭化水素溶媒中、IBの重合を開始して、高い収率の高反応性PIBを生じることが以前に見出された。より具体的には、-30℃〜+50℃の温度で炭化水素溶媒中、IBの重合が開始され得、無極性媒体中で、ルイス塩基(B)と複合体化したルイス酸触媒(MR"Yn)を含む触媒-開始剤系を使用して、高い収率の高反応性PIBを生じることが分かった。
【0012】
ルイス塩基に対するルイス酸の親和性は、ルイス酸が少なくとも部分的に、従来のカチオン性開始剤(RX)と相互作用し得、イソブチレンのカチオン重合を開始するR+の形成を可能にするようなものであった。最初に複合体化されたルイス塩基は、成長中のカルボカチオン鎖の迅速な脱プロトン化に影響して、カチオン鎖の異性化または塩基の遊離溶液中への拡散前に、エキソ-オレフィンを形成し得た。ルイス塩基がルイス酸と複合体化しなかった場合は、少なくとも最初に、成長中のカルボカチオンの脱プロトン化が、異性化に対して、所望の高収率のエキソ-オレフィンを生じるほど十分に迅速でなかった。ルイス酸とルイス塩基の相互作用が非常に強力で、従来の開始剤との相互作用を妨げた場合は、重合は不十分であったかまたは全く起こらなかった。ルイス酸またはルイス酸-ルイス塩基複合体はさらに、外来性の水の存在下または非存在下のいずれかで、さらに従来の開始剤と相互作用し得る必要があった。プロトントラップ(例えば、2,6-ジtert-ブチルピリジンまたは「DTBP」)の存在下における変換の完全な消失により明らかにされるように、従来の開始剤の存在下であってもモノマー変換が外来性の水に実質的に依存する触媒は、適切ではなかった。上述の系において、適切なルイス塩基は、エーテル、アルコール、ケトン、アルデヒドおよびエステルなどの酸素-含有求核試薬、ならびにチオエーテルおよびチオケトンなどの硫黄含有求核試薬であった。
【0013】
上述の重合系は、無極性炭化水素溶媒中で、優れた収率の高反応性PIBを生じることが見出されたが、上述の重合系のルイス酸-ルイス塩基複合体は、それ自体がジクロロメタン(DCM)溶媒中で調製された。しかしながら、CH2Cl2などの塩素化極性脂肪族溶媒の使用の継続した必要性は、商業的(環境的)観点から望ましくない。そのため、ハロゲン化アルカン溶媒の使用を全く必要としない高反応性PIBまたはポリブテンの調製のための確固とした経済的な方法に対する必要性が残る。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明の概要
本発明は、高反応性オレフィンポリマーを製造するための方法、ここで、該ポリマー鎖の少なくとも50モル%は、末端二重結合を有する、およびこれを達成するための新規の重合開始系に関する。
【0015】
即ち、本発明の要旨は、
[1]少なくとも50モル%のエキソ-オレフィン含量を有するポリブテンの調製のための方法であって、該方法は、
実質的または完全に無極性の重合媒体中で、イソブテンまたはイソブテン含有モノマー混合物を、酸素-および/または硫黄含有ルイス塩基と複合体化されたルイス酸触媒と接触させる工程、ならびに
開始剤を用いて、該イソブテンまたはイソブテン含有モノマー混合物の重合を開始させる工程
を含み、該ルイス酸触媒は、式MR"mYn
(式中、Mは、Al、Fe、Ga、Hf、ZrおよびWから選択される金属であり;R"は、ヒドロカルビル基であり;Yはハロゲンであり;mは、0または1〜5の整数であり;nは、1〜6の整数である、ただし、m+nは、金属Mの原子価と等しい)のルイス酸であり、該開始剤は、式RX
(式中、Xはハロゲンアニオン(halide)であり;Rは、安定なカルボカチオンを形成し得るヒドロカルビル基であり、基Xに対して基Rを連結する炭素は、第3級、ベンジルまたはアリルである)
の化合物であり、該ルイス酸および該ルイス塩基は、液体無極性非ハロゲン化脂肪族溶媒および液体芳香族溶媒から選択される溶媒中で複合体化される、方法、
[2]Mが、Al、GaまたはFeであり、R"が、C1〜C8アルキル基である、前記[1]記載の方法、
[3]Mが、AlまたはFeである、前記[1]記載の方法、
[4]Yが、ClまたはBrである、前記[1]記載の方法、
[5]該ルイス塩基が、
非環式ジヒドロカルビルエーテル、ここで、各ヒドロカルビル基は、独立して、C1〜C12ヒドロカルビルから選択される、
5〜7員環基を有する塩基性環式エーテル、
ジヒドロカルビルケトン、ここで各ヒドロカルビル基は、独立して、C1〜C12ヒドロカルビルから選択される、
C1〜C12脂肪族アルコール、
C1〜C12脂肪族アルデヒド、
非環式脂肪族エステル、ここで、各ヒドロカルビル基は、独立して、C1〜C12ヒドロカルビルから選択される、
5〜7員環基を有する環式脂肪族エステル、
ジアルキルスルフィド、ここで、各ヒドロカルビル基は、独立して、C1〜C12ヒドロカルビルから選択される、および
塩基性ジヒドロカルビルチオカルボニル化合物、ここで、各ヒドロカルビル基は、独立して、C1〜C12ヒドロカルビルから選択される、ならびに
それらの混合物
から選択される、前記[1]記載の方法、
[6]該ルイス塩基が、
非環式ジアルキルエーテル、ここで、各アルキル基は、独立して、C1〜C4アルキルから選択される、
5〜7員環基を有する環式エーテル、
塩基性ジアルキルケトン、ここで、各アルキル基は、独立して、C1〜C4アルキルから選択される、
C1〜C4脂肪族アルコール、
C1〜C4脂肪族アルデヒド、
非環式脂肪族エステル、ここで、各ヒドロカルビル基は、独立して、C1〜C4アルキルから選択される、
5〜7員環基を有する環式脂肪族エステル、
ジアルキルスルフィド、ここで、各アルキル基は、独立して、C1〜C4アルキルから選択される、および
ジアルキルチオカルボニル化合物、ここで、各アルキル基は、独立して、C1〜C4アルキルから選択される、ならびに
それらの混合物
から選択される、前記[5]記載の方法、
[7]該ルイス塩基が、ジヒドロカルビルエーテルまたはジヒドロカルビルケトンであり、各ヒドロカルビル基は、独立して、C1〜C8ヒドロカルビルから選択され、該ジヒドロカルビルエーテルルイス塩基の該ヒドロカルビル基の1つまたはそれぞれは、電子求引基で置換される、前記[5]記載の方法、
[8]該電子求引基がハロゲン原子である、前記[7]記載の方法、
[9]該ハロゲン原子が塩素である、前記[8]記載の方法、
[10]該ルイス塩基の該ヒドロカルビル基が、分岐または直鎖のC1〜C4アルキル基である、前記[5]記載の方法、
[11]該ルイス塩基の該ヒドロカルビル基が、分岐または直鎖のC1〜C4アルキル基である、前記[7]記載の方法、
[12]該溶媒が、液体無極性非ハロゲン化脂肪族溶媒であり、m≧1である、前記[1]記載の方法、
[13]該溶媒が、ベンゼン、クロロベンゼン、トルエンおよびキシレンから選択される液体芳香族溶媒である、前記[1]記載の方法、
[14]該溶媒が、トルエンまたはキシレンである、前記[13]記載の方法、
[15]該無極性重合媒体が、飽和C4炭化水素、不飽和C4炭化水素およびそれらの混合物から選択される、前記[1]記載の方法、
[16]該イソブテンまたはイソブテン含有モノマー混合物が、
純粋なイソブテン;
約5%〜約50%のブテン-1、約2%〜約40%のブテン-2、約2%〜約60%のイソ-ブン、約2%〜約20%のn-ブンおよび約0.5%までのブタジエンを含むC4精製所(refinery)カット、ここで、全てのパーセンテージは、C4精製所カットの総質量に基づく質量による;ならびに
純粋なイソブテンおよび該C4精製所カットの混合物
から選択される、前記[1]記載の方法、
[17]該複合体が、媒体1リットル当たり、約0.2mM〜約200mMのルイス酸-ルイス塩基複合体のミリモル濃度で、該イソブテンまたはイソブテン含有モノマーと接触される、前記[1]記載の方法、
[18]該ルイス酸および該ルイス塩基が、該ルイス酸を該溶媒中に溶解して溶液を形成し、次いで、該ルイス塩基を該溶液に添加することにより、複合体化される、前記[1]記載の方法、
[19]該溶媒が、キシレンおよびトルエンから選択され、該ルイス酸および該ルイス塩基が、該ルイス塩基を該溶媒中に溶解して溶液を形成し、次いで該ルイス酸を該溶液に添加することにより複合体化される、前記[14]記載の方法、
[20]重合プロセスが連続して実施される、前記[1]記載の方法、
[21]該ポリブテン生成物が、少なくとも70モル%のエキソ-オレフィン含量を有する、前記[1]記載の方法、
[22]実質的または完全に無極性の重合媒体中で、イソブテンまたはイソブテン含有モノマー混合物の重合を触媒して、少なくとも50モル%のエキソ-オレフィン含量を有するポリブテン生成物を提供するための触媒-開始剤系であって、該触媒が、酸素-および/または硫黄含有ルイス塩基と複合体化されたルイス酸触媒を含み、該ルイス酸触媒が、式MR"mYn
(式中、Mは、Al、Fe、Ga、Hf、ZrおよびWから選択される金属であり;R"はヒドロカルビル基であり;Yはハロゲンであり;mは、0または1〜5の整数であり;nは、1〜6の整数である、ただし、m+nは、金属Mの原子価と等しい)
のルイス酸であり、重合が、式RX
(式中、Xはハロゲンアニオンであり;Rは、安定なカルボカチオンを形成し得るヒドロカルビル基であり、基Xに対して基Rを連結する炭素が、第3級、ベンジルまたはアリルである)
の開始剤を介して開始され、該ルイス酸および該ルイス塩基が、液体無極性非ハロゲン化脂肪族溶媒および液体芳香族溶媒から選択される溶媒中で複合体化される、触媒-開始剤系、
[23]Mが、Al、GaまたはFeであり、R"が、C1〜C8アルキル基である、前記[22]記載の触媒-開始剤系、
[24]Mが、AlまたはFeである、前記[23]記載の触媒-開始剤系、
[25]Yが、ClまたはBrである、前記[22]記載の触媒-開始剤系、
[26]該ルイス塩基が、
非環式ジヒドロカルビルエーテル、ここで、各ヒドロカルビル基は、独立して、C1〜C12ヒドロカルビルから選択される、
5〜7員環基を有する塩基性環式エーテル、
ジヒドロカルビルケトン、ここで、各ヒドロカルビル基は、独立して、C1〜C12ヒドロカルビルから選択される、
C1〜C12脂肪族アルコール、
C1〜C12脂肪族アルデヒド、
非環式脂肪族エステル、ここで、各ヒドロカルビル基は、独立して、C1〜C12ヒドロカルビルから選択される、
5〜7員環基を有する環式脂肪族エステル、
ジアルキルスルフィド、ここで、各ヒドロカルビル基は、独立して、C1〜C12ヒドロカルビルから選択される、および
塩基性ジヒドロカルビルチオカルボニル化合物、ここで、各ヒドロカルビル基は、独立して、C1〜C12ヒドロカルビルから選択される、ならびに
それらの混合物
から選択される、前記[22]記載の触媒-開始剤系、
[27]該ルイス塩基が、
非環式ジアルキルエーテル、ここで各アルキル基は、独立して、C1〜C4アルキルから選択される、
5〜7員環基を有する環式エーテル、
塩基性ジアルキルケトン、ここで、各アルキル基は、独立して、C1〜C4アルキルから選択される、
C1〜C4脂肪族アルコール、
C1〜C4脂肪族アルデヒド、
非環式脂肪族エステル、ここで、各ヒドロカルビル基は、独立して、C1〜C4アルキルから選択される、
5〜7員環基を有する環式脂肪族エステル、
ジアルキルスルフィド、ここで、各アルキル基は、独立して、C1〜C4アルキルから選択される、および
ジアルキルチオカルボニル化合物、ここで、各アルキル基は、独立して、C1〜C4アルキルから選択される、ならびに
それらの混合物
から選択される、前記[26]記載の触媒-開始剤系、
[28]該ルイス塩基が、ジヒドロカルビルエーテルまたはジヒドロカルビルケトンであり、各ヒドロカルビル基は、独立して、C1〜C8ヒドロカルビルから選択され、該ジヒドロカルビルエーテルルイス塩基の該ヒドロカルビル基の1つまたはそれぞれは、電子求引基で置換される、前記[26]記載の触媒-開始剤系、
[29]該電子求引基がハロゲン原子である、前記[28]記載の触媒-開始剤系、
[30]該ハロゲン原子が塩素である、前記[29]記載の触媒-開始剤系、
[31]該ルイス塩基の該ヒドロカルビル基が、分岐または直鎖のC1〜C4アルキル基である、前記[28]記載の触媒-開始剤系、
[32]該ルイス塩基の該ヒドロカルビル基が、分岐または直鎖のC1〜C4アルキル基である、前記[30]記載の触媒-開始剤系、
[33]該溶媒が、液体無極性非ハロゲン化脂肪族溶媒であり、m≧1である、前記[22]記載の触媒-開始剤系、
[34]該溶媒が、ベンゼン、クロロベンゼン、トルエンおよびキシレンから選択される液体芳香族溶媒である、前記[22]記載の触媒-開始剤系、
[35]該溶媒がトルエンまたはキシレンである、前記[34]記載の触媒-開始剤系、
[36]該ルイス酸および該ルイス塩基が、ルイス酸を溶媒に溶解して溶液を形成し、次いで該ルイス塩基を該溶液に添加することにより複合体化される、前記[22]記載の触媒-開始剤系、
[37]該溶媒が、ベンゼンおよびトルエンから選択され、該ルイス酸および該ルイス塩基が、ルイス塩基を該溶媒に溶解して溶液を形成し、次いで該ルイス酸を該溶液に添加することにより複合体化される、前記[22]記載の触媒-開始剤系、
[38]該ルイス酸が、MeAlCl2、EtAlCl2、イソ-BuAlCl2およびn-BuAlCl2から選択され;該ルイス塩基が、ジヒドロカルビルエーテルであり、ここで、各ヒドロカルビル基は、独立して、C1〜C8ヒドロカルビルから選択され、該ジヒドロカルビルエーテルルイス塩基の該ヒドロカルビル基の1つまたはそれぞれが、塩素で置換され;該溶媒が、ベンゼンおよびトルエンから選択され、該ルイス酸および該ルイス塩基が、ルイス塩基を該溶媒に溶解して溶液を形成し、次いで、複合体中のルイス酸 対 ルイス塩基のモル比が約1:1〜約1:1.7となる量で、該ルイス酸を該溶液に添加することにより複合体化される、前記[1]記載の方法、
[39]該ルイス酸が、MeAlCl2、EtAlCl2、イソ-BuAlCl2およびn-BuAlCl2から選択され;該ルイス塩基が、ジヒドロカルビルエーテルであり、ここで、各ヒドロカルビル基が、独立して、C1〜C8ヒドロカルビルから選択され、該ジヒドロカルビルエーテルルイス塩基の該ヒドロカルビル基の1つまたはそれぞれが、塩素で置換され;該溶媒が、ベンゼンおよびトルエンから選択され、該ルイス酸および該ルイス塩基が、該ルイス塩基を該溶媒に溶解して溶液を形成し、次いで、該複合体中のルイス酸 対 ルイス塩基のモル比が約1:1〜約1:1.7となる量で、該ルイス酸を該溶液に添加することにより複合体化される、前記[22]記載の触媒-開始剤系、
[40]該ルイス酸が、MeAlCl2、EtAlCl2、イソ-BuAlCl2およびn-BuAlCl2から選択され;該ルイス塩基がジヒドロカルビルケトンであり、ここで、各ヒドロカルビル基が、独立して、C1〜C8ヒドロカルビルから選択され、該ジヒドロカルビルケトンの該ヒドロカルビル基の1つまたはそれぞれが、塩素で置換され;該溶媒が、ベンゼンおよびトルエンから選択され、該ルイス酸およびルイス塩基が、ルイス塩基を該溶媒に溶解して溶液を形成し、次いで、複合体中のルイス酸 対 ルイス塩基のモル比が約1:1〜約1:1.7となる量で、該ルイス酸を該溶液に添加することにより複合体化される、前記[1]記載の方法、
[41]該ルイス酸が、MeAlCl2、EtAlCl2、イソ-BuAlCl2およびn-BuAlCl2から選択され;該ルイス塩基がジヒドロカルビルケトンであり、ここで、各ヒドロカルビル基が、独立して、C1〜C8ヒドロカルビルから選択され、該ジヒドロカルビルケトンの該ヒドロカルビル基の1つまたはそれぞれが、塩素で置換され;該溶媒が、ベンゼンおよびトルエンから選択され、該ルイス酸および該ルイス塩基が、該ルイス塩基を該溶媒に溶解して溶液を形成し、次いで、該複合体中のルイス酸 対 ルイス塩基のモル比が約1:1〜約1:1.7となる量で、該ルイス酸を該溶液に添加することにより複合体化される、前記[22]記載の触媒-開始剤系
に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、高反応性オレフィン機能性ポリマーを作製する重合開始系および方法が提供され得る。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
本発明の例示的態様の記載を以下にする。
【0018】
本発明の実施に有用なルイス酸触媒は、一般式(MR"mYn)で表され得、式中、Mは、Al、Fe、Ga、Hf、ZrおよびW、好ましくはAl、GaまたはFe、より好ましくはAlまたはFeから選択され;R"は、ヒドロカルビル(hydrocarbyl)基、好ましくはC1〜C8ヒドロカルビル基、より好ましくはC1〜C8アルキル基であり;mは、0または1〜5の整数、好ましくは0または1、より好ましくは0であり、ただし、MがAlの場合は、mは好ましくは1であり、R"は、好ましくはC1〜C3ヒドロカルビル基、より好ましくはメチル基またはエチル基であり;Yは、ハロゲン(F、Cl、Br)、好ましくはClまたはBrのいずれか、より好ましくはClであり;nは、1〜6の整数、好ましくは3〜5であり;ただし、m+nは、Mの原子価と等しい。本明細書において使用する場合、用語「ヒドロカルビル(hydrocarbyl)」は、水素原子および炭素原子を含み、かつ炭素原子を介して化合物の残りに直接結合する化合物の化学基を意味する。該基は、炭素および水素以外の1つ以上の原子(「ヘテロ原子」)を含み得、ただし、該原子は、該基の本質的なヒドロカルビルの性質に影響を及ぼさない。
【0019】
ルイス塩基(B)は、エーテル、アルコール、ケトン、アルデヒドおよびエステルなどの酸素-含有求核試薬、ならびにチオエーテルおよびチオケトンなどの硫黄含有求核試薬から選択される。適切なルイス塩基の具体例としては、非環式ジヒドロカルビルエーテル(各ヒドロカルビル基は独立して、C1〜C12ヒドロカルビルから選択される)、5〜7員環基を有する環式エーテル、ジヒドロカルビルケトン(各ヒドロカルビル基は独立して、C1〜C12ヒドロカルビルから選択される)、C1〜C12脂肪族アルコール、C1〜C12脂肪族アルデヒド、非環式脂肪族エステル(各ヒドロカルビル基は独立して、C1〜C12ヒドロカルビルから選択される)、5〜7員環基を有する環式脂肪族エステル、ジヒドロカルビルスルフィド(各ヒドロカルビル基は独立して、C1〜C12ヒドロカルビルから選択される)およびジヒドロカルビルチオカルボニル化合物(各ヒドロカルビル基は独立して、C1〜C12ヒドロカルビルから選択される)が挙げられる。上述のルイス塩基のヒドロカルビル基は、好ましくはアルキル基、より好ましくはC1〜C4アルキルである。上述のルイス塩基のヒドロカルビル基および環式脂肪族基はそれぞれ独立して、ヘテロ原子またはヘテロ原子含有部分で置換され得、かつかかる化合物がルイス塩基として機能する能力に有意に干渉しない他の置換基(例えば、C1〜C4「低級アルキル」基)でさらに置換され得る。
【0020】
好ましい一態様において、ルイス塩基(B)は、ジヒドロカルビルエーテルまたはジヒドロカルビルケトンであり、各ヒドロカルビル基は独立して、C1〜C8ヒドロカルビルから選択される。上述のルイス塩基のヒドロカルビル基は、好ましくはアルキル基である。エーテルのヒドロカルビル基は、分岐、直鎖または環式であり得る。エーテルのヒドロカルビル基が分岐または直鎖である場合、該ヒドロカルビル基は好ましくはアルキル基、より好ましくはC1〜C4アルキルである。ジヒドロカルビルエーテルまたはジヒドロカルビルケトンのヒドロカルビル基の1つまたはそれぞれは、電子求引基(electron-withdrawing group)、特にハロゲン原子、好ましくは塩素で置換される。
【0021】
「開始剤」は、外来性の水の存在下または非存在下およびプロトントラップの存在下で重合を開始し得る化合物として定義される。本発明の開始剤(RX)は、ヒドロカルビルR基およびX基を含み、式中、Xに対して基Rを連結する炭素(carbon linking group R to X)は、第三級(tertiary)、ベンジル(benzylic)またはアリル(allylic)であり、ヒドロカルビル基は、安定なカルボカチオン(例えば、t-ブチル+)を形成し得、X基はハロゲンである。
【0022】
重合媒体は、ヘキサンまたは飽和および不飽和のC4炭化水素の混合物などの、実質的または完全に無極性の重合媒体でなければならない。
【0023】
本発明の重合方法において、供給原料は、純粋なイソブチレンまたは例えばナフサの熱クラッキング操作または触媒クラッキング操作により生じるC4カット(cut)などのイソブチレンを含有する混合C4ヒドロカルビル供給原料であり得る。したがって、適切な供給原料は、典型的には、原料(feed)の総質量に対して少なくとも10質量%および100質量%までのイソブチレンを含む。イソブチレンに加えて、工業的に重要な供給原料としての使用に適した従来のC4カットは、典型的に、約5%〜約50%のブテン-1、約2%〜約40%のブテン-2、約2%〜約60%のイソ-ブン、約2%〜約20%のn-ブン、および約0.5%までのブタジエン(全てのパーセンテージは総原料質量に対する質量による)を含む。イソブチレンを含む供給原料はまた、少量、例えば典型的に25%未満、好ましくは約10%未満、最も好ましくは5%未満のプロパジエン、プロピレンおよびC5オレフィンなどの他の非C4重合性オレフィンモノマーを含み得る。C4カットは、水、極性不純物およびジエンを除去するための従来の手段により精製され得る。
【0024】
用語「ポリブテン」は、本明細書で使用する場合、イソブチレンのホモポリマーだけでなく、イソブチレンと従来のC4カットの1つ以上の他のC4重合性モノマーおよび5個の炭素原子を含む非C4エチレン性不飽和オレフィンモノマーとのコポリマーも含むことを意図し、ただしかかるコポリマーは、典型的に、ポリマーの数平均分子量(
【化2】
)に対して、少なくとも50質量%、好ましくは少なくとも65質量%、最も好ましくは少なくとも80質量%のイソブチレン単位を含む。
【0025】
ルイス酸およびルイス塩基は、例えばルイス酸を、液体無極性非ハロゲン化脂肪族、ならびにベンゼン、クロロベンゼン、トルエンおよびキシレンなどの液体芳香族から選択される溶媒に溶解して溶液を形成し、次いで、該溶液を撹拌しながらルイス塩基を該溶液に添加することにより複合体化され得る。該複合体は、溶媒と共に重合媒体に添加され得るか、代替的には、該溶媒は、複合体を重合媒体に添加する前に除去され得る。好ましくは、該溶媒は、非ハロゲン化芳香族であり、より好ましくはキシレンまたはトルエン、最も好ましくはトルエンである。キシレンまたはトルエン中でルイス酸およびルイス塩基を複合体化する場合、ルイス塩基をキシレンまたはトルエンの溶媒に溶解して溶液を形成し、次いで、該溶液を撹拌しながらルイス酸をルイス塩基溶液に添加することが好ましい。複合体が液体無極性非ハロゲン化脂肪族溶媒中で形成される場合、溶解性を確実にするために、ルイス酸は、少なくとも1つのヒドロカルビル置換基(「m」≧1)を有さなければならない。
【0026】
複合体中のルイス酸 対 ルイス塩基のモル比は、典型的には、約1:0.5〜約1:2、好ましくは約1:0.7〜約1:1.7、より好ましくは約1:1〜約1:1.7、例えば約1:1〜約1:1.5の範囲内で維持される。
【0027】
本発明の方法に使用されるルイス酸-ルイス塩基複合体の量は、ポリブテンポリマー生成物の標的
【化3】
、ブテンの反応率(conversion)およびポリブテンの収率を達成するために、開始剤およびモノマーの濃度、反応時間ならびに温度と共に調節され得る。上述のことを考慮すると、ルイス酸-ルイス塩基複合体は典型的に、液相反応混合物中のブテンモノマーと、反応混合物1リットル当たり、約0.2mM〜約200mM、例えば約1mM〜約200mM、好ましくは約5mM〜約100mM、より好ましくは約10mM〜約50mM、例えば約10mM〜約30mMのルイス酸-ルイス塩基複合体のミリモル濃度で接触するのに十分な量で使用される。
【0028】
開始剤は典型的に、ルイス酸-ルイス塩基複合体の量とは独立して、液相反応混合物中のブテンモノマーとを、媒体1リットル当たり、約1mM〜約200mM、好ましくは約5mM〜約100mM、より好ましくは約10mM〜約50mM、例えば約10mM〜約30mMの開始剤のミリモル濃度で接触するのに十分な量で使用される。
【0029】
重合反応は、バッチ様式(batch-wise)、半連続的または連続的に実施され得る。工業スケールでは、重合反応は、好ましくは連続的に実施される。管形反応器、管束反応器(tube-bundle reactor)もしくはループ反応器、または反応材料が連続して循環する管形反応器もしくは管束反応器などの従来の反応器が使用され得る。
【0030】
環または分枝の形成とは異なって、直線状または鎖状の重合を誘導するための重合反応が液相中で実施される。したがって、周囲温度下で気体である原料を使用する場合、液相中に原料を維持するために、反応圧を調節することおよび/または原料を不活性溶媒もしくは液体希釈剤中に溶解することが好ましい。原料を含む典型的なC4カットは、圧力下で液体であり、溶媒または希釈剤を必要としない。該方法を用いた使用に適した典型的な希釈剤としては、プロパン、ブタン、ペンタンおよびイソブタンなどのC3〜C6アルカンが挙げられる。
【0031】
典型的に、ルイス酸-ルイス塩基複合体は、部分的または完全に溶媒に溶解した液体として、または固体として反応器に導入される。好ましくは、重合は、反応温度でC4原料を液体状態に維持するのに十分な圧力でまたはより高い圧力で実施される。開始剤は、ルイス酸-ルイス塩基複合体と共に、液体形態で、モノマー原料もしくは反応混合物に導入され得るか、または好ましくは、ルイス酸-ルイス塩基複合体添加ラインとは別のラインにより、液体形態でモノマー原料もしくは反応混合物に導入される。
【0032】
液相反応混合物温度は、典型的に、約-30℃〜約+50℃、好ましくは約-10℃〜約+30℃、より好ましくは約0℃〜約+20℃、例えば約0℃〜約+10℃となるように、従来の手段により調節される。
【0033】
重合されるブテンの滞留時間は、約5秒〜数時間であり得るが、典型的には、約1分〜約300分、例えば2分〜約120分、好ましくは約5分〜約60分である。
【0034】
反応器中の触媒の均一な分散を確実にするために、混合により、またはバッフルプレートもしくは振動バッフルなどの適切なバッフルを用いて、または反応器管の断面を、適切な流速が確立されるような大きさにすることにより、反応器内容物の乱流を発生し得る。
【0035】
典型的に、本発明の方法は、約20%〜約100%まで、好ましくは約50%〜約100%、より好ましくは約70%〜約100%、例えば80%〜100%、90%〜100%または95%〜100%の範囲のイソブチレン反応率を達成する様式で実施される。温度調節および触媒供給速度の併用により、約400ダルトン〜約4000ダルトン、好ましくは約700ダルトン〜約3000ダルトン、より好ましくは約1000ダルトン〜約2500ダルトンの
【化4】
;典型的には約1.1〜約4.0、好ましくは約1.5〜約3.0の分子量分布(MWD)、ポリマーの総モルに対して、50モル%より高い、好ましくは60モル%より高い、より好ましくは70モル%より高い、例えば約80モル%〜約95モル%のエキソ-オレフィン含量、約20モル%より低い、例えば約15モル%より低い、好ましくは約10モル%より低い、より好ましくは約5モル%より低い四置換オレフィン含量;および約10モル%より低い、例えば約5モル%より低い、好ましくは約2モル%より低い、より好ましくは約1モル%より低い塩素含量を有するポリブテンの形成が可能になる。
【0036】
ポリマーの標的分子量が達成されると、ポリマー生成物は反応器から排出され得、重合触媒を不活性化して重合を終結する媒体に移され得る。適切な不活性化媒体としては、水、アミン、アルコールおよび苛性化物(caustics)が挙げられる。次いで、ポリイソブチレン生成物は、残存C4炭化水素および低分子量オリゴマーの留去により分離され得る。好ましくは、残存量の触媒は、通常水または苛性化物を使用した洗浄により除去される。
【0037】
(性能、環境的な影響およびコストの観点から)商業的に好ましい一態様において、ルイス酸はR'AlCl2であり、式中、R'は、C1〜C4ヒドロカルビル、特にMeAlCl2、EtAlCl2、イソ-BuAlCl2またはn-BuAlCl2であり、ルイス塩基は、塩素化ジヒドロカルビルエーテルまたは塩素化ジヒドロカルビルケトンであり、溶媒はトルエンであり、複合体は、ルイス塩基を溶媒中に溶解して溶液を形成し、次いで、複合体中のルイス酸対ルイス塩基のモル比が約1:1〜約1:1.5になるような量で、ルイス酸をルイス塩基溶液に添加することにより形成される。
【0038】
本発明は、本発明の範囲内にある全ての可能な態様を列挙することを意図せず、かつそのように解釈されるべきでない以下の実施例についての参照により、さらに理解されよう。
【実施例】
【0039】
実施例
重合
重合は、MBraun 150-Mグローブボックス(Innovative Technology Inc., Newburyport, Massachusetts)中、乾燥窒素雰囲気下で行った。イソブテン(IB)を濃縮して、-30℃で、ねじぶた式培養チューブ(75ml)の重合反応器に分配した。重合は、ヘキサン中で実施し、適切なルイス酸を用いて、0℃、1Mのモノマー濃度で同時に開始した。所定の時間後、0.2mLのメタノールを添加して重合を終結した。ポリマーを回収して、NH4OH溶液からの再沈殿により精製した。重量分析により反応率を決定した。
【0040】
ルイス酸/ルイス塩基(LA/LB)複合体の調製
FeCl3・i-Pr2O複合体は、IBの重合の直前に室温で調製した。グローブボックス中、わずかに部分的に可溶性であるFeCl3粉末に、乾燥溶媒(dry solvent)を添加した。次いで、撹拌しながら、シリンジを介して、計算した量のi-Pr2Oを滴下して、1.0MのFeCl3・i-Pr2O複合体溶液を作製した。
【0041】
特徴付け
ポリマーの数平均分子量(
【化5】
)および多分散性(polydispersity)(PDI)は、Waters 717 Plusオートサンプラー、515 HPLCポンプ、2410示差屈折計(differential refractometer)、2487 UV-VIS検出器、Wyatt Technology Inc.のMiniDawn多角レーザー光散乱(MALLS)検出器(44.7°、90.0°および135.4°の測定角)、Wyatt Technology Inc.のViscoStar粘度検出器および以下の順序、500、103、104、105および100Åで連結した5つのUltrastyragel GPCカラムを使用して、ユニバーサル較正されたサイズ排除クロマトグラフィーから得た。屈折率(RI)は、濃度検出器であった。溶離剤としてテトラヒドロフランを、室温、1.0ml/分の流速で使用した。結果は、Wyatt Technology Inc.のAstra 5.4ソフトウェアで処理した。
【0042】
核磁気共鳴
溶媒としてCDCl3を使用して(Cambridge Isotope Laboratory, Inc.)、プロトン核磁気共鳴(1H NMR)スペクトルをBruker 500MHz分光計で記録した。ポリイソブテン(PIB)末端基含量は、以前報告されたように(Kumar, R.; Dimitrov, P.; Bartelson, K.J.; Faust, R., Macromolecules 2012, 45, 8598-8603参照)、1H NMRにより決定した。
【0043】
フーリエ変換赤外分光学(FTIR)
K6導管を備えたMCT検出器に連結した、DiCompプローブを備えたMettler Toledo ReactIR 4000装置を使用して、FTIR試験をインサイチュで行った。8cm-1波数の解像で、650〜4000cm-1のスペクトルを得た。
【0044】
結果
いずれの特定の理論に拘束されることを望まないが、FeCl3を用いたIBの重合のための1つの可能な重合スキームが以下のように示されることが提案される。
【化6】
【0045】
上述のカチオン重合は、ルイス酸またはカチオンと反応しない溶媒を必要とする。そのため、かかるカチオン重合は、溶媒として炭化水素または塩素化炭化水素を使用する(しかし、ニトロ化合物も使用された)。IBの重合は、種々の溶媒中で調製されたFeCl3・i-Pr2O複合体を用いて調べた。結果を表1に示す。
【表1】
【0046】
示されるように、複合体をDCM中で調製した場合、30分後に58%の反応率が得られた。複合体をベンゼンおよびクロロベンゼン中で調製した場合にも同様の反応率が得られた。しかしながら、反応率は、複合体をトルエン中で調製した場合は、42%に減少し、複合体をo-キシレン中で調製した場合は、23%に減少した。複合体をニトロベンゼン、アセトニトリルまたはヘキサン中で調製した場合には重合は起こらなかった。これらの違いを理解するために、異なる溶媒中で複合体の溶解度を測定した。
【0047】
重合条件を模倣する単純な遠心分離実験を使用して、異なる溶媒中で調製したFeCl3・i-Pr2O複合体を使用して、溶解度試験を行った。30mL遠心チューブ中、種々の溶媒において、FeCl3・i-Pr2O複合体を1.0M溶液として調製した。遠心チューブは、3750rpmで10分間遠心分離する前に、遠心分離において適切な温度に平衡化させた。澄んだ溶液のアリコートを得て、重量分析により、可溶性複合体の質量を測定した。試験した溶媒中の複合体の溶解度を表2に示す。
【表2】
【0048】
表2に示すように、複合体の約60〜70%は、DCM、ベンゼン、トルエンおよびクロロベンゼン中で可溶性であった。ニトロベンゼンおよびアセトニトリル中では、複合体は完全に可溶性であったが、ヘキサン中では、複合体は不溶性であった。上述のことにより、溶媒中の複合体の溶解度のみが、反応率を決定する要因ではないことが示される。複合体をヘキサン中で調製した場合、複合体は不溶性であり、重合は見られなかった。しかしながら、複合体をアセトニトリルおよびニトロベンゼン中で作製した場合にも、その中では、複合体は完全に可溶性であったが、重合は見られなかった。トルエン中のFeCl3・i-Pr2O複合体の溶解度は、ベンゼン、クロロベンゼンおよびDCM中の溶解度と同様であったが、反応率は低かった。
【0049】
重合に対する溶媒選択の効果をよりよく理解するために、FeCl3とi-Pr2Oの間の複合体形成を、ATR FTIR分光学を使用して、室温で、異なる溶媒中で試験した。FeCl3とi-Pr2Oは、DCM中で1:1の複合体を形成することが以前に報告された(Lui, Q.; Wu Y. X.; Yan, P.F.; Zhang, Y.; Xu, R.W. Macromolecules 2011, 44, 1866-1875)。等量のFeCl3とi-Pr2Oをトルエン中で混合した際に、1010cm-1でのピークの消失は、1:1モーラーの複合体の形成を示した。同様に、1010cm-1でのi-Pr2O由来のC-O-C伸縮についての特徴的なピークは、複合体をベンゼン中で調製した場合には見られなかった。しかしながら、キシレンを用いると、FeCl3とi-Pr2Oの間の複合体形成は、(ベンゼンおよびトルエン中で形成された複合体と比較して)異なり、キシレンとFeCl3の間にある程度の相互作用が存在することが示唆された。
【0050】
FeCl3とニトロベンゼンの間の相互作用を試験するために、ATR FTIRスペクトルも行った(run)。1300cm-1での鋭いピークは、FeCl3との相互作用の際に変化するN-O伸縮(stretching)のためであり得た。しかしながら、FeCl3・i-Pr2O複合体スペクトルを、溶媒としてニトロベンゼンを使用して得た場合には、1010cm-1でC-O伸縮ピークの存在が観察され、これはニトロベンゼン中で複合体化していないi-Pr2Oの存在を示す。FeCl3とニトロメタンは、1:1の複合体を形成することが以前に報告された(Olah, G.A., Kuhn, S.J., Flood, S.H., Hardie, B.A., Aromatic substitution XIV, Ferric chloride catalyzed bromination of benzene and alkylbenzenes with bromide in nitromethane solution, J. Am. Chem Soc., 86:1039-1044 (1964))。FeCl3と、ニトロベンゼンまたはアセトニトリルとの間の同様の複合体化は、重合の欠如を説明し得る。
【0051】
ベンゼンおよびクロロベンゼンを用いて得られた反応率に対して、トルエンおよびキシレンを用いて得られた反応率の違いは、FeCl3による芳香環の塩素化を含む副反応のためであり得る。無水FeCl3は、芳香族塩素化剤として使用され得たことが以前に報告された(Kovacic P, Wu, C., Stewart R.W. Reaction of Ferric Chloride with Alkylbenzenes, J. Am. Chem. Soc., 82, 1917-1923 (1960))。Kovacicらにより提唱された機構は以下のとおりである。
【化7】
【0052】
高度に求核性であるo-キシレンおよびp-キシレンは、25〜50℃で容易に反応して、微量の塩素化キシレンを含むタール(tars)を生じた。0℃で、同様のタール様生成物が得られた。50〜60℃でトルエンは、主に、オルト-パラ置換生成物を生じた。還流温度であっても、クロロベンゼンの反応性は低く、ベンゼンの塩素化はゆっくりであった。これらの結果に基づいて、o-キシレンを用いての低い反応率は、塩素化反応中のFeCl3の消費により過剰の遊離エーテルが生じたためであると結論付けることができる。過剰の遊離エーテルは、重合を阻害することが以前に見いだされた(Kumar, R. Dimitrov, P. Bartelson, K.J., Emert, J., Faust, R., Polymerization of Isobutylene by GaCl3 or FeCl3/Ether Complexes in Non Polar Solvents, Macromolecules, 45, 8598-8603 (2012))。トルエン、ベンゼンおよびクロロベンゼンの使用により、複合体をDCM中で調製した場合に得られたものと同様の反応率が生じたので、この副反応は、トルエンを用いるとより遅く、ベンゼンおよびクロロベンゼンを用いると取るに足らないものであった。
【0053】
上述の副反応を回避するために、トルエンに溶解したi-Pr2Oに等量のFeCl3を添加することにより、複合体を形成するための方法を改変した。この方法を使用すると、FeCl3は、i-Pr2Oと迅速に複合体を形成し、ルイス酸性度が低下し、トルエンによる副反応の程度が低減される。この改変された方法を使用すると、FeCl3・i-Pr2O複合体が形成され、次いで該複合体を、IBの重合に使用し、DCM、ベンゼンおよびクロロベンゼンを用いて観察された変換率と同様の変換率である63%反応率を生じた(表3参照)。
【表3】
【0054】
トルエン中で調製されたEtAlCl2・ビス-(2-クロロエチル)エーテル複合体を使用して重合反応を行い、ここで、該複合体は、トルエンにビス-(2-クロロエチル)エーテルを添加して溶液を形成し、次いでビス-(2-クロロエチル)エーテルの溶液に、複合体中のビス-(2-クロロエチル)エーテルのモル過剰EtAlCl2対 ビス-(2-クロロエチル)エーテルのモル比が1:1.5)となるような量のEtAlCl2を添加することにより調製された。反応率データを表4に示す。
【表4】
【0055】
ヘキサン中で調製されたEtAlCl2・ビス-(2-クロロエチル)エーテル(CEE)複合体を使用して重合反応を行った。データを、以下の表5に示す。
【表5】
【0056】
本発明を説明するために特定の代表的な態様および詳細を提供してきたが、本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書に開示されるものからの種々の生成物および方法の変更がなされ得ることは、当業者には明らかであろう。添付の特許請求の範囲は、本発明の範囲を規定する。
【0057】
全ての引用される特許、試験手順、優先権書類および他の引用される書類は、参照による援用が許容される全ての支配圏について、これらの資料が本明細書と一致する程度にまで参照により完全に援用される。
【0058】
本発明の特定の特徴は、一連の数値上限および一連の数値下限によって記載される。本明細書には、これらの限度の任意の組み合わせで形成される全ての範囲が開示される。本明細書に記載される上限および下限、ならびに範囲および比の限度は、独立して組み合され得ること、これらの限度の全ての組み合わせは、そうではないと示されなければ本発明の範囲内にあることが理解されよう。
【0059】
本明細書に引用される全ての特許、公開された出願および参考文献の教示は、それらの全体において参照により援用される。
【0060】
本発明は、その例示的な態様に関して特に示され記載されてきたが、添付の特許請求の範囲に包含される発明の範囲を逸脱することなく、形態および詳細における種々の変更が本発明中になされ得ることが当業者には理解されよう。