(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記断熱部が、前記保温箱の内面のうち、前記調質ローラの周囲の高温空間に隣接する前記予熱ローラが配設されている前記予熱ローラ配設空間に面する領域の少なくとも一部に設けられている請求項1ないし6のいずれか1項に記載の紡糸延伸装置。
前記断熱部が、前記保温箱の内面のうち、延伸直前の前記糸を加熱する前記予熱ローラが配設されている前記予熱ローラ配設空間に面する領域の少なくとも一部に設けられている請求項1ないし11のいずれか1項に記載の紡糸延伸装置。
前記保温箱は、前記予熱ローラの軸方向に沿う側面部を有しており、前記側面部の内面のうち前記予熱ローラの周面に対向する領域に、前記断熱部が設けられている請求項1ないし12のいずれか1項に記載の紡糸延伸装置。
前記保温箱は、前記予熱ローラの端面と向かい合う開閉部を有しており、前記開閉部の内面のうち前記予熱ローラの端面に対向する領域に、前記断熱部が設けられている請求項1ないし14のいずれか1項に記載の紡糸延伸装置。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、加熱ローラの周りを遮蔽カバーで覆ったとしても、保温ボックスの側壁等を介した熱伝導を抑えることはできない。このため、加熱ローラよりも高温に設定された調質ローラからの熱が、保温ボックスの側壁等を介して遮蔽カバーで覆われた空間内に伝達され、結局のところ、加熱ローラが設定温度以上に高温になるといった問題が生じていた。
【0005】
以上の課題に鑑みて、本発明は、紡糸装置から紡出される糸を延伸する紡糸延伸装置において、延伸前の糸を加熱する予熱ローラの温度制御の精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、紡糸装置から紡出される糸を延伸する紡糸延伸装置であって、延伸前の前記糸を加熱する予熱ローラと、前記予熱ローラの糸走行方向下流側に配置されるとともに、前記予熱ローラよりも高温かつ高速に設定され、前記予熱ローラとの間で前記糸を延伸させる調質ローラと、前記予熱ローラおよび前記調質ローラを収容する保温箱と、前記予熱ローラの周りに配置された遮熱部材と、を備え、前記保温箱の内面のうち、前記遮熱部材によって区画される予熱ローラ配設空間に面する領域の少なくとも一部に、断熱部が設けられていることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、予熱ローラの周りに配置された遮熱部材により、予熱ローラが、調質ローラの熱輻射の影響を受けることを抑えることができる。さらに、保温箱の内面のうち、遮熱部材によって区画される予熱ローラ配設空間に面する領域の少なくとも一部に、断熱部が設けられている。このため、予熱ローラよりも高温の調質ローラからの熱が、保温箱を介した熱伝導により予熱ローラの付近に至ったとしても、その熱が予熱ローラ配設空間内に伝達されることを抑制することができる。したがって、本発明によれば、予熱ローラに対する調質ローラからの熱輻射と熱伝導の両方の影響を抑えることができ、予熱ローラの温度制御の精度を向上させることが可能となる。
【0008】
ここで、前記断熱部が、前記保温箱の内面のうち、前記調質ローラの周囲の高温空間に隣接する
前記予熱ローラが配設されている前記予熱ローラ配設空間に面する領域の少なくとも一部に設けられていると好適である。
【0009】
調質ローラの周囲の高温空間に隣接する予熱ローラ配設空間に配設されている予熱ローラは、調質ローラの影響を受けやすく、設定温度よりも高温になりやすい。そこで、このような予熱ローラ配設空間に対して断熱部を設けることで、調質ローラの影響を受けやすい予熱ローラの温度を精度よく制御することができる。
【0010】
また、前記断熱部が、前記保温箱の内面のうち、延伸直前の前記糸を加熱する前記予熱ローラが配設されている前記予熱ローラ配設空間に面する領域の少なくとも一部に設けられていると好適である。
【0011】
延伸直前の糸を加熱する予熱ローラは、延伸時の糸の温度に及ぼす影響が大きい。そこで、このような予熱ローラが配設されている予熱ローラ配設空間に対して断熱部を設けることで、延伸時の糸の温度を良好にコントロールすることができる。
【0012】
また、前記保温箱の内面と前記断熱部との間に、空気層が設けられていると好適である。
【0013】
このようにすれば、空気層により断熱効果を向上させることができ、保温箱から予熱ローラ配設空間内に熱が伝達されることを一層抑制することができる。
【0014】
また、前記断熱部は、金属板と断熱材とが積層された構成となっており、前記金属板が前記予熱ローラ側を向き、前記断熱材が前記保温箱の内面側を向くように配設されると好適である。
【0015】
このような構成によれば、例えば糸が切れた場合に、切れた糸が接触するのは断熱部の金属板側であり、切れた糸によって断熱材が損傷を受けるといったことがなく、断熱部の断熱機能が低下することを防止できる。
【0016】
また、前記保温箱は、前記予熱ローラの軸方向に沿う側面部を有しており、前記側面部の内面のうち前記予熱ローラの周面に対向する領域に、前記断熱部が設けられていると好適である。
【0017】
このように断熱部を配置することで、保温箱の側面部から予熱ローラの周面へ輻射される熱を大きく低減することができ、糸の温度に直接的な影響を及ぼすローラ表面の温度上昇を効果的に抑制することができる。
【0018】
さらに、前記保温箱の背面部の内面にも前記断熱部が設けられており、前記側面部および前記背面部に設けられたそれぞれの前記断熱部が一体的に構成されていると好適である。
【0019】
このように保温箱の背面部にも断熱部を設けることで、背面部から予熱ローラ配設空間に伝達される熱を低減することができ、予熱ローラの温度上昇をより確実に抑制することができる。しかも、背面部に設けられた断熱部を、側面部に設けられた断熱部と一体的に構成することで、断熱部の取り付けが容易となる。
【0020】
また、前記保温箱は、前記予熱ローラの端面と向かい合う開閉部を有しており、前記開閉部の内面のうち前記予熱ローラの端面に対向する領域に、前記断熱部が設けられていると好適である。
【0021】
このように断熱部を配置することで、保温箱の開閉部から予熱ローラに伝達される熱を低減することができ、予熱ローラの温度上昇を抑制することができる。
【0022】
また、前記高温空間と、前記高温空間に隣接する前記予熱ローラが配設されている前記予熱ローラ配設空間との間に、第2断熱部が設けられていると好適である。
【0023】
このような第2断熱部を設けることで、高温空間から予熱ローラ配設空間へ直接的に伝わる伝熱量を低減することができ、予熱ローラの温度上昇をより効果的に抑制することができる。
【0024】
また、前記保温箱に、前記糸を導入するための導入口が形成されており、前記導入口から流入する空気を前記予熱ローラに導く空気導入部が設けられていると好適である。
【0025】
このような空気導入部を設けることで、導入口から保温箱の内部に流入する比較的低温の空気が予熱ローラ配設空間に供給され、予熱ローラの温度上昇をより効果的に抑えることができる。
【0026】
ここで、前記空気導入部は、前記予熱ローラよりも前記導入口側に設けられた前記遮熱部材に形成された開口であると好適である。
【0027】
このように遮熱部材に開口を形成し、この開口を空気導入部とすることで、新たな部材の設置や部材の配置変更を伴うことなく、容易に空気導入部を設けることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明では、保温箱の内面のうち、遮熱部材によって区画される予熱ローラ配設空間に面する領域の少なくとも一部に、断熱部が設けられているので、予熱ローラの温度が調質ローラの影響を受けることを効果的に抑え、予熱ローラの温度制御の精度を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明にかかる紡糸延伸装置の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態の紡糸延伸装置を備える紡糸引取機を示す模式図である。
図1に示すように、紡糸引取機1は、紡糸装置2から紡出された複数の糸Yを、紡糸延伸装置3で延伸した後、糸巻取装置4で巻き取る構成となっている。なお、以下では、各図に付した方向を参照しつつ説明を行う。
【0031】
紡糸装置2は、ポリエステル等の溶融繊維材料を連続的に紡出することで、複数の糸Yを生成する。紡糸装置2から紡出された複数の糸Yは、油剤ガイド10によって油剤が付与された後、案内ローラ11を経て紡糸延伸装置3に送られる。紡糸延伸装置3は、複数の糸Yを延伸する装置であり、紡糸装置2の下方に配置されている。紡糸延伸装置3は、保温箱20の内部に複数のゴデットローラ31〜35が設けられた構成となっている。紡糸延伸装置3については、後で詳細に説明する。
【0032】
紡糸延伸装置3で延伸された複数の糸Yは、案内ローラ12を経て糸巻取装置4に送られる。糸巻取装置4は、複数の糸Yを巻き取る装置であり、紡糸延伸装置3の下方に配置されている。糸巻取装置4は、ボビンホルダ13やコンタクトローラ14等を備えている。ボビンホルダ13は、
図1の紙面奥行方向に延びる円筒形状を有し、図示しないモータによって回転駆動される。ボビンホルダ13には、その軸方向に複数のボビンBが並んだ状態で装着される。糸巻取装置4は、ボビンホルダ13を回転させることによって、複数のボビンBに複数の糸Yを同時に巻取り、複数のパッケージPを生産する。コンタクトローラ14は、複数のパッケージPの表面に接触して所定の接圧を付与し、パッケージPの形状を整える。
【0033】
紡糸延伸装置3の詳細について説明する。紡糸延伸装置3は、保温箱20の内部に収容された複数(ここでは5つ)のゴデットローラ31〜35を有している。各ゴデットローラ31〜35は、不図示のモータによって回転駆動されるとともに、不図示のヒータを有する加熱ローラである。保温箱20の右側面部の下部には、複数の糸Yを保温箱20の内部に導入するための導入口20aが形成され、保温箱20の右側面部の上部には、複数の糸Yを保温箱20の外部に導出するための導出口20bが形成されている。導入口20aから導入された複数の糸Yは、下側のゴデットローラ31から順に巻き掛けられ、最終的に導出口20bから導出される。
【0034】
ゴデットローラ31〜35は、片掛けで糸Yを巻き掛けられるように配置されている。下側3つのゴデットローラ31〜33は、複数の糸Yを延伸する前に予熱するための予熱ローラであり、それらのローラ表面温度は、糸Yのガラス転移点以上の温度(例えば80℃程度)に設定されている。一方、上側2つのゴデットローラ34、35は、延伸された複数の糸Yを熱セットするための調質ローラであり、それらのローラ表面温度は、下側3つのゴデットローラ31〜33のローラ表面温度よりも高い温度(例えば130〜140℃程度)に設定されている。また、上側2つのゴデットローラ34、35の糸送り速度は、下側3つのゴデットローラ31〜33よりも速くなっている。以下の説明においては、適宜、ゴデットローラ31〜33を「予熱ローラ」と称し、ゴデットローラ34、35を「調質ローラ」と称する。
【0035】
導入口20aを介して保温箱20内に導入された複数の糸Yは、まず、予熱ローラ31〜33によって送られる間に延伸可能な温度まで予熱される。予熱された複数の糸Yは、予熱ローラ33と調質ローラ34との間の糸送り速度の差によって延伸される。さらに、複数の糸Yは、調質ローラ34、35によって送られる間にさらに高温に加熱されて、延伸された状態が熱セットされる。このようにして延伸された複数の糸Yは、導出口20bを介して保温箱20外に導出される。
【0036】
ここで、予熱ローラ31〜33のうち最も糸走行方向下流側に配置され、延伸直前の糸Yを加熱する最終予熱ローラ33は、高温の調質ローラ34、35に近接している。このため、最終予熱ローラ33のローラ表面温度は、調質ローラ34、35の影響を受けやすく、設定温度以上に高温になってしまうことがある。最終予熱ローラ33の温度は、延伸時における糸Yの温度に及ぼす影響が大きいため、最終予熱ローラ33の温度を適切に制御できないと、糸Yを所定の品質に維持することができない。
【0037】
そこで、本実施形態の紡糸延伸装置3では、最終予熱ローラ33の周りに遮熱部材を配置している。
図2は、紡糸延伸装置3の内部構造を詳細に示す断面図である。
図1では図示を省略したが、保温箱20の内部には、保温箱20内での空気の流れを整流するため、概ね糸Yの走行方向に沿うように、複数の整流部材41〜45が設けられている。このうち、予熱ローラ31と最終予熱ローラ33との間に配置された整流部材42、予熱ローラ32と調質ローラ34との間に配置された整流部材43の先端部、および最終予熱ローラ33と調質ローラ35との間に配置された整流部材44によって、最終予熱ローラ33が配設される配設空間46が概ね区画されている。最終予熱ローラ33の周りに配置されたこれら整流部材42〜44が、最終予熱ローラ33に対する「遮熱部材」として機能する。
【0038】
遮熱部材42〜44は遮熱性能を有しており、最終予熱ローラ33の周囲を囲むように遮熱部材42〜44を設けることで、最終予熱ローラ33と、他のローラ31、32、34、35との間での熱輻射を抑えることができる。特に、最終予熱ローラ33と高温の調質ローラ34、35との間に位置する遮熱部材43、44を設けることで、調質ローラ34、35からの熱輻射により最終予熱ローラ33が過度に温度上昇することを抑制できる。
【0039】
しかしながら、単に最終予熱ローラ33の周りを囲むように遮熱部材42〜44を設けるだけでは、最終予熱ローラ33の温度が依然として設定温度よりも高くなってしまうことがあった。これは、調質ローラ34、35から最終予熱ローラ33の配設空間46へ、保温箱20を介した熱伝導により熱が伝達されるためと考えられる。そこで、本実施形態の紡糸延伸装置3では、保温箱20の内面のうち、遮熱部材42〜44によって区画される最終予熱ローラ33の配設空間46に面する領域の少なくとも一部に、断熱部を設けてある。
【0040】
ここで、保温箱20の構成について説明しておく。
図4に示すように、保温箱20は、ローラ31〜35を内部に収容する収容部21と、収容部21に対して不図示のヒンジ等を支点として回動自在な開閉部22とを有して構成される。収容部21は、天井部23、右側面部24、右下側面部25、左下側面部26、左側面部27および背面部28からなっており、背面部28からローラ31〜35が前方に突出している。また、開閉部22は、閉めた状態で収容部21側を向く面が開口している筐体部29と、筐体部29の構成材料よりも熱伝導率の高い材料が筐体部29に充填されてなる熱伝導促進部51とを有する。本実施形態では、収容部21および開閉部22の筐体部29は、強度に優れたステンレスで構成されており、熱伝導促進部51は、ステンレスよりも熱伝導率が高いアルミニウム合金で構成されている。
【0041】
本実施形態では、本発明における「断熱部」として、保温箱20の左下側面部26および左側面部27の内面に側面断熱部48(
図2、3参照)、保温箱20の背面部28の内面に背面断熱部49(
図2、3参照)、ならびに保温箱20の開閉部22の内面に前面断熱部52(
図4、5参照)が、それぞれ設けられている。なお、側面断熱部48および背面断熱部49は、断熱部材47として一体的に構成されている。また、本発明における「第2断熱部」として、遮熱部材44の最終予熱ローラ33側に断熱部53が設けられている。
【0042】
図3は、断熱部材47を示す斜視図である。なお、
図3において、最終予熱ローラ33の図示は省略している。断熱部材47は、中央部に最終予熱ローラ33を配設するための開口が形成された多角形状の背面断熱部49と、背面断熱部49の周縁の一部から立設された側面断熱部48とを有する。側面断熱部48は、背面断熱部49の周縁の形状に合わせて、板材を折り曲げることで構成されている。
【0043】
断熱部材47の側面断熱部48は、保温箱20の左下側面部26および左側面部27に概ね沿った形状となっている。側面断熱部48は、側面部26、27からわずかに離間しており、側面断熱部48と側面部26、27との間に空気層50が形成される。このような空気層50を設けることで、側面断熱部48による断熱効果を高めることができる。しかしながら、空気層50の層厚が広いと、対流による伝熱が大きくなり、断熱層としての機能を果たさなくなる。したがって、空気層50の層厚は、例えば30mm以下程度とするのが好ましい。一方、断熱部材47の背面断熱部49は、保温箱20の背面部28に当接させた状態で不図示のボルト等により固定されており、背面断熱部49と背面部28との間には、空気層は形成されていない。
【0044】
ここで、側面断熱部48は、構造体としての金属板48aと、金属板48aのうち側面部26、27側の面に塗布された断熱塗料48bとが積層された構成となっている。同様に、背面断熱部49も、構造体としての金属板49aと、金属板49aのうち背面部28側の面に塗布された断熱塗料49bとが積層された構成となっている。このような側面断熱部48および背面断熱部49を設けることで、高温の調質ローラ34、35からの熱が、保温箱20の側面部26、27や背面部28を介した熱伝導により、最終予熱ローラ33の配設空間46付近に伝わっても、その熱が側面部26、27や背面部28から配設空間46に伝達されることを抑制できる。
【0045】
さらに、本実施形態では、調質ローラ34、35の周囲に形成される高温空間54と、高温空間54に隣接する配設空間46との間に、断熱部53が設けられている。具体的には、断熱部53は、遮熱部材44の最終予熱ローラ33側に設けられており、高温空間54から配設空間46へ直接的に伝わる伝熱量を低減することができる。なお、断熱部53は、必ずしも遮熱部材44とは別に設ける必要はなく、遮熱部材44を熱伝導率の低い材料で構成することにより、遮熱部材44が断熱部としての機能も兼ね備えるようにしてもよい。また、断熱部48、49と同様に、断熱部53を、構造体としての金属板と、金属板の最終予熱ローラ33側の面に塗布された断熱塗料とによって構成してもよい。
【0046】
また、本実施形態では、最終予熱ローラ33の周りに配設された遮熱部材42〜44のうち、最終予熱ローラ33よりも導入口20a(
図2参照)側に設けられた遮熱部材42に、複数の開口42aを形成してある。導入口20aから保温箱20内に流入した空気は、糸Yの走行に伴って生ずる随伴流とともに、遮熱部材42と導入口20aとの間に位置する予熱ローラ31の周面と、保温箱20の右下側面部25および左下側面部26の内面との間に形成される流路Fに沿って流れる。この流路Fの延長線上に、開口42aを設けることで、導入口20aから流入した比較的低温の空気が、開口42aを介して最終予熱ローラ33の配設空間46に供給され、最終予熱ローラ33の過度な昇温を防ぐことができる。
【0047】
次に、保温箱20の開閉部22に設けた熱伝導促進部51および前面断熱部52について説明する。
図4は、開閉部22を開いた状態における斜視図であり、
図5は、開閉部22を閉じた状態における断面図である。より詳細には、
図5は、最終予熱ローラ33および調質ローラ35の回転軸を含む鉛直面における断面図である。なお、
図4においては、整流部材41〜45および断熱部材47の図示を省略している。
【0048】
これまで説明してきたように、高温の調質ローラ34、35からの熱により最終予熱ローラ33が設定温度以上に高温になってしまうという問題がある。しかしながら、他方では、高温の調質ローラ34、35からの熱を予熱ローラ31、32に供給して、予熱ローラ31、32に対する電力投入量を削減したいという要求もある。
【0049】
本実施形態では、上述の要求に応えるため、開閉部22を構成するステンレス製の筐体部29に、ステンレスよりも熱伝導率が高いアルミニウム合金を充填して熱伝導促進部51を設けることで、調質ローラ34、35から発生した熱を、熱伝導促進部51を介して、積極的に予熱ローラ31、32側に移動させている(
図5の矢印T参照)。こうすることで、予熱ローラ31、32を加熱するための電力を削減することができる。特に、
図5に示すように、熱伝導促進部51を筐体部29よりもローラ31〜35側に突出させることで、熱伝導促進部51と調質ローラ34、35との離間距離が小さくなり、熱伝導促進部51による伝熱効率を向上させることができる。
【0050】
ここで、調質ローラ34、35近傍の高温の空気を、予熱ローラ31、32側に送ることで、予熱ローラ31、32における消費電力を削減することも考えられる。しかしそうすると、高温の調質ローラ34、35近傍で発生したオイルミスト等が、低温の予熱ローラ31、32で冷却されてローラ表面に固着するといった不具合が生ずるおそれがある。この点、熱伝導による伝熱を図っている本実施形態では、オイルミスト等の移動を伴わず、熱のみを予熱ローラ31、32側に伝達することができるので、予熱ローラ31、32におけるローラ表面の汚染を防止することができる。
【0051】
さらに、本実施形態では、開閉部22(熱伝導促進部51)の内面のうち、最終予熱ローラ33の端面に対向する領域に前面断熱部52が設けられている。前面断熱部52は、
図4に示すように、構造体としての金属板52aと、金属板52aのうち開閉部22側の面に塗布された断熱塗料52bとが積層された構成となっている。前面断熱部52は、熱伝導促進部51の表面に張り合わせる形態で設けられている。
【0052】
このような前面断熱部52を設けることで、調質ローラ34、35から発生した熱が、熱伝導促進部51内を予熱ローラ31、32側に移動する過程において、最終予熱ローラ33近傍で放熱されることを抑制することができる。このため、予熱ローラ31、32を加熱するための電力を削減しつつ、最終予熱ローラ33が設定温度以上に高温になってしまうことを抑えることができる。なお、
前面断熱部52は、開閉部22の内面のうち、好ましくは最終予熱ローラ33の端面に対向する領域の全領域にわたって、さらに好ましくは、最終予熱ローラ33の配設空間46に面する領域の全領域にわたって設けられているとよい。
【0053】
(効果)
以上のように、本実施形態の紡糸延伸装置3においては、保温箱20の内面のうち、遮熱部材42〜44によって区画される最終予熱ローラ33の配設空間46に面する領域の少なくとも一部に、断熱部48、49、52が設けられている。このため、最終予熱ローラ33よりも高温の調質ローラ34、35からの熱が、保温箱20を介した熱伝導により最終予熱ローラ33の付近に至ったとしても、その熱が最終予熱ローラ33の配設空間46内に伝達されることを抑制することができる。したがって、最終予熱ローラ33が高温の調質ローラ34、35の影響を受けることを、熱輻射だけでなく熱伝導の点からも抑えることができ、最終予熱ローラ33の温度制御の精度を向上させることが可能となる。
【0054】
さらに、本実施形態では、調質ローラ34、35の周囲の高温空間54と、高温空間54に隣接する最終予熱ローラ33の配設空間46との間に、断熱部53が設けられている。このため、高温空間54から配設空間46へ直接伝達される熱伝達量を低減することができ、最終予熱ローラ33の温度上昇をより効果的に抑制することができる。
【0055】
表1は、ローラ31〜35の設定温度と、断熱部48、49、52、53を設ける前後におけるローラ31〜35の温度を示す表である。断熱部48、49、52、53を設ける前は、最終予熱ローラ33の温度が設定温度よりも9℃高い89℃となっていたのに対し、断熱部48、49、52、53を設けることによって、最終予熱ローラ33の温度が設定温度である80℃に維持される結果となった。このように、具体的な実施例においても、最終予熱ローラ33の温度制御の精度が向上されることを確認できた。
【表1】
【0056】
また、本実施形態では、保温箱20の内面と断熱部48との間に、空気層50が設けられているので、断熱効果を向上させることができ、保温箱20から最終予熱ローラ33の配設空間46内に熱が伝達されることを一層抑制することができる。
【0057】
また、本実施形態では、断熱部48、49、52は、金属板48a、49a、52aと断熱材48b、49b、52bとが積層された構成となっており、金属板48a、49a、52aが最終予熱ローラ33側を向き、断熱材48b、49b、52bが保温箱20の内面側を向くように配設されている。このような構成によれば、例えば糸Yが切れた場合に、切れた糸Yが接触するのは断熱部48、49、52の金属板48a、49a、52a側であり、切れた糸Yによって断熱材48b、49b、52bが損傷を受けるといったことがなく、断熱部48、49、52の断熱機能が低下することを防止できる。
【0058】
また、本実施形態では、保温箱20は、最終予熱ローラ33の軸方向に沿う側面部26、27を有しており、側面部26、27の内面のうち最終予熱ローラ33の周面に対向する領域に、断熱部48が設けられている。このように断熱部48を配置することで、保温箱20の側面部26、27から最終予熱ローラ33の周面へ輻射される熱を大きく低減することができ、糸Yの温度に直接的な影響を及ぼすローラ表面の温度上昇を効果的に抑制することができる。
【0059】
さらに、本実施形態では、保温箱20の背面部28の内面にも断熱部49が設けられており、側面部26、27および背面部28に設けられたそれぞれの断熱部48、49が一体的に構成されている。このように保温箱20の背面部28にも断熱部49を設けることで、背面部28から最終予熱ローラ33の配設空間46に伝達される熱を低減することができ、最終予熱ローラ33の温度上昇をより確実に抑制することができる。しかも、背面部28に設けられた断熱部49を、側面部26、27に設けられた断熱部48と一体的に構成することで、断熱部48、49の取り付けが容易となる。
【0060】
また、本実施形態では、保温箱20は、最終予熱ローラ33の端面と向かい合う開閉部22を有しており、開閉部22の内面のうち最終予熱ローラ33の端面に対向する領域に、断熱部52が設けられている。このように断熱部52を配置することで、保温箱20の開閉部22から最終予熱ローラ33に伝達される熱を低減することができ、最終予熱ローラ33の温度上昇を抑制することができる。
【0061】
また、本実施形態では、保温箱20に、糸Yを導入するための導入口20aが形成されており、導入口20aから流入する空気を最終予熱ローラ33に導く空気導入部42aが設けられている。このような空気導入部42aを設けることで、導入口20aから保温箱20の内部に流入する比較的低温の空気が最終予熱ローラ33の配設空間46に供給され、最終予熱ローラ33の温度上昇をより効果的に抑えることができる。
【0062】
特に本実施形態では、空気導入部42aを、最終予熱ローラ33よりも導入口20a側に設けられた遮熱部材42に形成された開口としているので、新たな部材の設置や部材の配置変更を伴うことなく、容易に空気導入部42aを設けることができる。
【0063】
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明を適用可能な形態は、上記実施形態に限られるものではなく、以下に例示するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることが可能である。
【0064】
例えば、上記実施形態においては、最終予熱ローラ33の配設空間46の周囲に設けられた断熱部48、49、52、53について説明を行った。しかしながら、最終予熱ローラ33以外の予熱ローラ31、32においても、高温の調質ローラ34、35からの熱により設定温度以上に高温になってしまうという問題が起こり得る場合には、予熱ローラ31、32が配設されている空間の周りに断熱部を設けるようにしてもよい。例えば、予熱ローラ32は高温領域54に隣接配置されているため、設定温度よりも高温となりやすい。したがって、予熱ローラ32の配設空間(遮熱部材41〜43によって概ね区画される空間)に面した部位(例えば、遮熱部材43や右側面部24等)に断熱部を設けることも有効である。なお、各ローラの個数や配置は適宜変更が可能である。
【0065】
また、上記実施形態では、保温箱20の側面部26、27、背面部28、開閉部22の内面に、それぞれ断熱部48、49、52を設けるものとし、遮熱部材44に断熱部53を設けるものとした。しかしながら、どの部位に断熱部を設けるかは、適宜変更が可能である。
【0066】
また、上記実施形態においては、背面断熱部49および前面断熱部52については、保温箱20の内面との間に、特に空気層を設けないものとしたが、スペーサを設けるなどして、断熱部49、52と保温箱20の内面との間に空気層を設けてもよい。
【0067】
また、上記実施形態においては、断熱部48、49、52を、金属板48a、49a、52aに、断熱材としての断熱塗料48b、49b、52aを塗布することで構成した。しかしながら、断熱部48、49、52の具体的な構成はこれに限定されず、金属板48a、49a、52aに、金属板48a、49a、52aよりも熱伝導率の低い部材を張り合わせたものなどでもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、最終予熱ローラ33に導入口20aからの空気を供給する空気導入部として、遮熱部材42に複数の開口42aを形成した。しかしながら、空気導入部の構成はこれに限定されず、例えば、
図2の流路Fの延長線上に遮熱部材42をそもそも配置しないようにしてもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、熱伝導促進部51を開閉部22にのみ設けた。しかしながら、熱伝導促進部51を保温箱20の他の部位に設けてもよい。また、保温箱20の各部位を構成する材料は、適宜変更が可能である。