(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、機械部品の素材であるシリコン基板の表面に、メッキや保護のための薄膜を形成する際に、シリコン基板の表面に複数の凹部を設け、この凹部の開口部の幅より内部の幅を広く形成し、この凹部に薄膜が入り込みアンカー効果を生じることで、薄膜を剥がれ難く形成するものである。
【0017】
以下、
図1から
図8を用いて本発明の機械部品を詳述する。
図1は本発明の第1実施形
態における機械部品の構造を示す平面図及び断面図、
図2は
図1に示す機械部品の一部分の平面図及び断面図、
図3は
図2に示す機械部品の一部を拡大して示す断面図、
図4は
図1に示す機械部品の製造工程を示すフローチャート、
図5は
図1に示す機械部品の製造方法を示す断面図、
図6は
図5に続く機械部品の製造方法を示す断面図、
図7は
図6に続く機械部品の製造方法を示す断面図、
図8は
図7に続く機械部品の製造方法及び完成した機械部品を示す断面図である。
【0018】
〔第1実施形態〕
図1〜
図3を用いて本発明の第1実施形態における機械部品の構造について説明する。以下、本発明の実施形態における機械部品として機械式腕時計用の部品である「ひげぜんまい」を例に説明するが、本発明はこれに限らず、他の機械部品に広く適用可能である。
【0019】
[ひげぜんまいの構成の説明:
図1〜
図3]
図1を用いて本実施形態を詳述する。
図1(a)は、本発明の第1実施形態におけるひげぜんまい1の平面図であって、ひげぜんまい1を図示しない機械式腕時計の回転軸体の軸方向から平面視したときの様子を示している。説明のため、ひげぜんまい1は4巻きのみを示している。
【0020】
図1(a)において、ひげぜんまい1は、中心部に図示しない機械式腕時計の回転軸体であるてん真と嵌合するための貫通孔3aを有するひげ玉3と、貫通孔3aを中心にしてひげ玉3に巻回されるように設計されたコイル形状のぜんまい部2と、ぜんまい部2の巻き終わりと接続しているひげ持4とから構成されている。ぜんまい部2の巻き始めとひげ玉3とは接続部3bで接続している。ひげ持4には、ひげぜんまい1を機械式腕時計の筐体に固定するための貫通孔4aが設けられている。
【0021】
ひげぜんまい1の材料としては、水晶、シリコン、シリコン酸化物、などを主成分とする単結晶材料から構成することができる。ここで、単結晶材料とは、エッチング工程を経て、外形形成をすることができる材料であり、複数の材料からなっていても構わない。材料をシリコンとすれば、軽いひげぜんまいを構成できて便利である。以後の説明にあっては、ひげぜんまい1の材料を、軽くて加工しやすいという特徴を有するシリコンとする場合を例にして説明する。
【0022】
ひげぜんまい1を構成する材料がシリコンであるとすると、ひげぜんまい1の製造や加工に際して、シリコン半導体基板の加工工程として知られている深堀りRIE技術を用いることができ、半導体装置を製造する際と同様な公知の製造技術を用いることができる。
【0023】
ぜんまい部2は一体で形成されており、ひげ玉3の周囲を巻回されているような形状を有している。
図1(b)は、
図1(a)に示すぜんまい部2のA−A‘における断面図である。
図1(b)ではぜんまい部2の4つの部分を拡大して示してあり、4つの部分にぜんまい腕20a、20b、20c、20dの名称を付与して説明する。
【0024】
図1(b)に示すように、ひげぜんまい1のバネ部の断面は矩形であり、この矩形形状を変えてひげぜんまい1のバネ定数を調整する。
図1(b)に示すように、ぜんまい部2は間隔k1の渦巻きを形成しており、ぜんまい腕20a〜20dの各々の形状は、ぜんまいによって異なるが、おおよそ幅eは30〜80μm、高さhは70〜300μmの範囲である。
【0025】
図2を用いてひげぜんまい1の細部の構造を説明する。
図2(a)、(b)は
図1に示すぜんまい1の図から、ぜんまい腕20aのみを示している。
図2(a)は、ぜんまい腕20aの平面図、
図2(b)は、
図2(a)の線Lmにおける断面図である。
【0026】
図2(a)から分かるように、ひげぜんまい1の表面にはひげぜんまい1の長寿命と高耐久性を確保するため高分子材を用いた薄膜6で表面が覆われている。また、
図2(a)の平面図や
図2(b)の断面図に示すように各ぜんまい腕20a〜20dの一方の面2P及び反対側の面2Tには複数の凹部7が間隔K2で形成されており、薄膜6との結合においてアンカー効果を生じ接着が強固になっている。ここでは、上面の面2Pと下面の面2Tの両方に凹部7を形成したが、効果は減少するが、どちらか一方の面だけに凹部7を形成しても構わない。なお、
図1(a)ではこの凹部7の図示は省略してあり、
図1(b)のぜんまい腕20a〜20dにおいても同様に凹部7が形成してある。
【0027】
薄膜6はシリコンよりも剛性が低い樹脂であるパラキシリレン系樹脂を用いる。しかし、これに限定されない。例えば無機材料のメッキ膜や蒸着膜であってもよい。ぜんまい腕20a〜20dの表面の凹部7に入り込むように薄膜6を形成することによって、ぜんまい部2のもろさを緩和し耐久性が向上する。
【0028】
凹部7の配置について
図2(a)を用いて詳述する。ひげぜんまい1における複数の凹部7は、図示していないひげぜんまい1の中心を通り互いに角度θの間隔をなす2本の線Lm、Ln上に2個ずつ、間隔K2で設けられている。ぜんまい腕20b〜20dにおいても同様に複数の凹部が設けられており、角度θは、ぜんまい腕20a、20bでは略45度、ぜんまい腕20c、20dでは略30度としている。凹部7の形状は入口より奥が広いので、
図2(a)では凹部7の、入口側の外形線を実線、奥側の外形線を破線で図示してある。
【0029】
凹部7と薄膜6の構造について、
図3(a)及び
図3(b)を用いて更に説明する。
図3(a)は、
図2(b)に示した断面図の凹部7の周辺を拡大した図である。ぜんまい腕20aの一方の面2Pに形成された凹部7の開口幅dは4.5μmで、内周幅Dは5μmである。すなわち凹部7の入口の直径は、内部の直径より500nm狭い。
【0030】
凹部7の入口の直径は内部の直径より狭いことにより、薄膜6が凹部7の内部に入り込み、入口部分で引っかかる構造となる。つまり、薄膜6とぜんまい腕20aの基材であるシリコン基板200との界面においてアンカー効果が生じ、薄膜6は基材のシリコン基板200から剥がれ難くなる。薄膜の厚さt1は3μmで、凹部7の深さt2は1μmである。なお、他方の面である面T2についても同様に凹部と薄膜が形成され、アンカー効果が生じている。
【0031】
なお
図3(a)に示す様に、凹部7に薄膜6が入り込むため、凹部7周辺の薄膜6には陥没部Xが生じるが、特に必要な場合を除き陥没部Xの図示は説明のため省略する。
【0032】
次に
図3(b)を用いてぜんまい腕20aの側面の構造を説明する。
図3(b)は
図2(b)に示したぜんまい腕20aの断面図の、側部2s周辺を拡大した図である。
図3(b)に示すように、ぜんまい腕20aの側部2sには薄膜6が厚さt1(3μm)で形成され、側部2sの表面は、深掘りRIE加工時に形成されるスキャロップ面esが形成されている。スキャロップ面esとは波状の凹凸面である。このぜんまい腕20aのスキャロップ面esにより、ぜんまい腕20aと薄膜6との接触面積が増大する。接着面積が増すことで、面2Pに形成した凹部7の効果ほどではないが、薄膜6のぜんまい腕20ahの接着力が増し、薄膜6は剥がれ難くなる。
【0033】
[第1実施形態における効果の説明:
図3(a)]
図3(a)を用いて第1実施形態における効果を説明する。
図3(a)に示すように、本発明のひげぜんまい1の製造方法によれば、ひげぜんまい1の素材のシリコン基板20
0に複数の凹部7を設け、複数の凹部7の開口幅dは凹部の内周幅Dより小さくし、ひげ
シリコン基板200及び複数の凹部の内部に薄膜6が入り込むように形成したので、薄膜6とシリコン基板200との間でアンカー効果を生じる。このアンカー効果によって、ひげぜんまい1の収縮や外部からの衝撃等に対して薄膜6はひげぜんまい1から剥がれ難くなり、従来生じていた薄膜の破片による悪影響や、薄膜6の特性の劣化を防ぎ、ひげぜんまい1としての耐久性が向上する。また薄膜6の下地としての中間膜やカップリング剤を不要とすることが可能となる。
【0034】
また、ひげぜんまい1の表面に設けられた複数の凹部7の深さt2は、薄膜6の厚さより小さいので、アンカー部である凹部が十分に薄膜材料で埋め尽くされ、アンカー効果が十分に発揮され、剥がれ難さは確実になる。さらに表面の凹形状が目立ちにくく、美観を損ねることもない。
【0035】
さらに、アルカリ溶液に素材を浸漬して表面を粗面化したのちメッキや保護のための薄膜を形成するという従来の技術では、最終形状の寸法精度を制御することが難しかったが、この課題も解決することが可能である。
【0036】
[第1の製造方法の説明:
図4]
図4を用いて本発明の機械部品の製造方法を説明する。
図4は本発明の機械部品であるひげぜんまい1の製造工程を示すフローチャートである。
図4に示すように、ひげぜんまい1の製造方法はステップST10〜ステップST30で構成される。
【0037】
ステップST10は、ひげぜんまい1の素材であるシリコン基板に後述する外形形成用マスクより開口部の狭い凹部形成用マスク8を用い、複数の凹部7を形成する複数凹部形成工程であって、ステップST1の凹部マスク形成工程とステップST2の凹部エッチング工程とから構成される。ステップST20は、凹部形成用マスク8の開口部より広い開口部を備えた外形形成用マスク9を用い、シリコン基板からひげぜんまい1の全体の形状を形成する外形形成工程であって、ステップST3の外形マスク形成工程とステップST4の外形エッチング工程とから構成される。ステップST30は、全体の形状が形成されたひげぜんまい1の表面に薄膜6を形成する薄膜形成工程である。
【0038】
[各工程の説明:
図5〜
図8]
以下、
図5〜
図8を用いてステップST10〜ステップST30の詳細を説明する。
図5〜
図6(a)はステップST10に関し、
図6(b)〜
図8(b)はステップST20に関し、
図8(c)はステップST30に関する。
【0039】
[複数凹部形成工程(ステップST10)の説明:
図5〜
図6(a)]
図5〜
図6(a)はひげぜんまい1の複数凹部形成工程(ステップST10)を説明する断面図である。なお説明のため、
図5〜
図6(a)に示す断面図は、
図1(a)に示すひげぜんまい1の、A−A‘断面に対応する部分を図示しており、他の部分についても同様である。
【0040】
<凹部マスク形成工程(ステップST1)>
図5(a)に示すように、少なくともひげぜんまい1が取り出せる大きさの面積と厚みとを有するシリコン基板200の上面200u及び下面200bにレジストRを塗付する。シリコン基板200は、ひげぜんまい1が多数個取り出せる大きさが好ましい。またレジストRはフォトリソグラフィで多用される樹脂系の液体レジストを用い、1μmの厚みでシリコン基板200に塗付する。ここでは、上面200uと下面200bにレジストを形成したが、一方の面だけに凹部7を形成する場合には、一方の面だけにレジストを塗布すればよい。
【0041】
次に
図5(b)に示すように、塗付したレジストRを硬化処理後、フォトリソグラフィでパターニングし、露光ののちアルカリ水溶液で不要なパターンを除去して、シリコン基板200にひげぜんまい1のぜんまい部2に複数の凹部7を形成するための複数の開口部8wを備えた凹部形成用マスク8を形成する。以上でステップST1が完了する。
【0042】
<凹部エッチング工程(ステップST2)>
次に
図5(c)に示すように、複数の開口部8wを有する凹部形成用マスク8を形成したシリコン基板200に、エッチング用ガスG1を所定の時間印加し、凹部形成用マスク8の複数の開口部8wに沿って、シリコン基板200を平面視で下方向に等方性ドライエッチングを行う。すると
図5(c)に示すように、基板200の、凹部形成用マスク8の複数の開口部8wの個所がエッチングされ、複数の凹部7が形成される。
【0043】
図5(d)は、
図5(c)の部分
図M5を拡大して示す断面図である。
図5(d)に示すように、シリコンの等方性ドライエッチングを行うと、側面方向にもエッチングが進み、またレジスト膜直下のエッチング量は少ないため、シリコン基板200に内周幅Dが開口幅dより大きい凹部7が複数形成される。
【0044】
なお図示しないが、必要に応じパッシベーション用ガスG2によって凹部底面7sを保護しながらエッチング用ガスG1によって再度凹部内側面7nのエッチングを行う。この過程で凹部内側面7nがエッチングされ、内周幅Dが開口幅dよりさらに大きい凹部7が複数形成される。
【0045】
こののち
図6(a)に示すように、アルカリ水溶液を用いてレジストRを除去する。シリコン基板200の上面200uと下面200bとには1対の凹部7が8か所形成され、ステップST2が完了する。ステップST1、ステップST2が終了し、ステップST10が終了する。
【0046】
[外形形成工程(ステップST20)の説明:
図6(b)〜
図8(b)]
図6(b)〜
図8(b)は外形形成工程(ステップST20)を説明する断面図である。なお説明のため、
図6(b)〜
図8(b)に示す断面図は、
図1(a)に示すひげぜんまい1の、A−A‘断面に沿った部分のみを図示している。
【0047】
<外形マスク形成工程(ステップST3)>
まず
図6(b)に示すように、1対の凹部7が8か所形成されたシリコン基板200の上面200u及び下面200bに、樹脂系の液体レジストRを1μmの厚みで塗付する。液体レジストRの凹部7周辺の液体レジストRには、凹部7に液体レジストRが入り込むため、陥没部Xが生じる。
【0048】
次に
図6(c)に示すように、シリコン基板200のぜんまい部2となるぜんまい腕20a〜20dの幅eに相当する部分を覆うように、液体レジストRをフォトリソグラフィでパターニングし、開口部9wを備えた外形形成用マスク9を形成する。上述の通りこの外形形成用マスク9は図示しないがひげぜんまい1の全体を形作る形状である。
【0049】
<外形エッチング工程(ステップST4)>
次に
図7(a)に示すように、ボッシュプロセスとして知られた方法を用いてシリコン基板200をエッチングする。詳細には外形形成用マスク9を形成したシリコン基板200にエッチング用ガスG1とパッシベーション用ガスG2とを交互に各々所定の時間印加し、シリコン基板200を
図7(a)に示す外形線cに沿ってエッチングする。
【0050】
図7(b)に上述のボッシュプロセスによる外形形状の詳細を示す。
図7(b)は、
図7(a)の部分
図M6を拡大して示す断面図である。
図7(b)に示すように、シリコン基板200の、外形形成用マスク9の開口部9wで露出された部分は、図面視で上から下にエッチングされる。ボッシュプロセスでは、側壁20bs及び側壁20csをパッシベーション用ガスG2によって保護しつつ、底面200gをエッチング用ガスG1によってエッチングするので、シリコン基板200は、エッチングによって
図7(b)に示すように細長い形状にエッチングされ、最終的には外形線cで切断される。
【0051】
さらに
図7(b)に示すように、エッチング用ガスG1が底面200gをエッチングする過程では等方性のエッチングが行われるため、側壁20bs及び側壁20csは、
図7(b)の図面視で水平方向にもエッチングされる。2種のガスを切り替える度に水平方向へのエッチングの痕が発生するので、側壁20bsと側壁20csには、ガスの切り替え数と同じ数の波型を有するスキャロップ面esが形成される。
【0052】
図8(a)に示すように、最終的に基板200からぜんまい腕20a〜20dがエッチングにより離断される。
【0053】
こののち
図8(b)に示すように、アルカリ水溶液を用いて外形形成用マスク9を除去する。ステップST10によってぜんまい腕20a〜20dには1対の凹部7が8か所形成されている。説明のため、この状態のぜんまい腕20a〜20dを含むぜんまい部2とひげ玉3とひげ持4とからなる要素を、未処理ひげぜんまい1pと称する。
図8(b)において図示していないが未処理ひげぜんまい1pは、シリコン基板200からエッチングによってぜんまい部2が切り出され、ひげ玉3の貫通穴3a及びひげ持4の貫通穴4aは貫通して形成されている。以上でステップST4が終了し、ST20が終了する。
【0054】
[薄膜形成工程(ステップST30)の説明:
図8(c)]
図8(c)は薄膜形成工程(ステップST30)を説明する断面図である。ステップST30では、未処理ひげぜんまい1pに、薄膜6を形成する。
【0055】
<ステップST30>
図示していないが、未処理ひげぜんまい1pを純水等で洗浄し不純物を除去する。次に
図8(c)に示すように、気相蒸着重合法の薄膜形成プロセスによって、未処理ひげぜんまい1pに、パラキシリレン系樹脂膜からなる樹脂層である薄膜6を形成する。詳細には未処理ひげぜんまい1pの全表面を含め未処理ひげぜんまい1pに形成された複数の凹部7に入り込むように薄膜形成プロセスによって薄膜6を形成する。本実施形態では薄膜6の厚さは3μmである。以上でステップST30が終了する。なお
図8(c)に示すひげぜんまい1には、説明のため薄膜6の陥没部Xは図示していない。以上述べたステップST10〜ステップST30の工程の後、ひげぜんまい1の完成形を得る。
【0056】
以上の説明において、本発明の製造方法による機械部品として機械式腕時計用のひげぜんまいを例に説明したが、本発明はこれに限るものではなく、小型情報端末などで多用されている各種物理量のセンサーを製造する上で広く利用可能である。
【0057】
[第2実施形態]
図9A及び
図9Bを用いて本発明の第2実施形態におけるひげぜんまい1の構造について説明する。第2実施形態におけるひげぜんまい1は、ぜんまい部2aに形成した複数の凹部7の配置又は形状を、第1実施形態におけるぜんまい1の位置又は形状を変更したものである。
【0058】
[第2実施形態におけるひげぜんまい1の構造の説明:
図9A(a)〜
図9A(b)]
以下、
図9A(a)及び
図9A(b)を用いてひげぜんまい1の構造を詳述する。
図9A(a)は、ひげぜんまい1のぜんまい腕21aの平面図であり、
図9A(b)は、
図9A(a)の線Lm’に沿った断面図である。
【0059】
図9A(b)に示すように、ぜんまい腕21aの一方の面2Pa及び他方の面2Taには、各々1個の凹部7が形成されている。図示していないが、ぜんまい腕21b〜21dにおいても同様である。
【0060】
凹部7の配置について
図9A(a)を用いて詳述する。ひげぜんまい1における複数の凹部7は、図示していないひげぜんまい1の中心を通り互いにθ1の間隔をなす線Ln‘と線Lm’上に1個ずつ互い違いに、言い換えれば1個ずつ千鳥状に設けられている。
【0061】
図示していないが、ぜんまい腕21b〜21dにおいても同様である。θ1は、ぜんまい腕21a〜21bでは略30度で、ぜんまい腕21c、21dでは略20度としている。また凹部間の直線状の間隔k2は略10〜30μmである。ひげぜんまい1における他の要素や構造は、第1実施形態におけるひげぜんまい1と同様なので説明は省略する。
【0062】
[第2実施形態におけるひげぜんまい1の効果の説明:
図9A(a)、
図9A(c)]
図9A(a)及び
図9A(c)を用いて第2実施形態におけるひげぜんまい1の効果を説明する。
図9A(a)に示すように、ひげぜんまい1の複数の凹部7は、
図9A(b)に示すぜんまい腕21aの一方の面2Pa及び他方の面2Taに、互い違いに設けられているので、アンカー効果を与える凹部の位置が分散され、より薄膜6が剥がれ難くなる。
【0063】
また、
図9A(c)に示すように、ぜんまい部2aaの様に凹部7aの径を大きく設定することも可能になる。凹部7aの径が大きくできれば、内周幅Daと開口幅dの差を大きく設定でき、薄膜6のぜんまい腕21aに対するアンカー効果がより大きくなり、ひげぜんまい1の耐久性が更に改善される。
【0064】
[第2実施形態の他の変形例におけるひげぜんまい1の構造の説明:
図9B(a)〜
図9B(c)]
図9B(a)〜
図9B(c)を用いて第2実施形態の他の変形例におけるひげぜんまい1の構造を説明する。
図9B(a)〜
図9B(c)は第2実施形態の第1変形例〜第3変形例におけるひげぜんまい1の複数の凹部7の構造を示す平面図である。
【0065】
<第1変形例>
図9B(a)は、第2実施形態の第1変形例である。
図9B(a)に示す様に、ぜんまい部2a1において、ぜんまい腕21a1の外周部の複数の凹部7Lの径は、内周部の複数の凹部7の径より大きい。この理由は、ぜんまい駆動時に薄膜6に加わる応力など、薄膜6を剥離させる力は、ぜんまい腕21a1の外周部の方が内周部より大きいので、薄膜6とぜんまい腕21a1の外周部とに、より大きなアンカー効果を生じさせるためである。
【0066】
<第2変形例>
図9B(b)は、第2実施形態の第2変形例である。
図9B(b)に示す様に、ぜんまい部2a2において、ぜんまい腕21a2の外周部の複数の凹部7は、内周部の複数の凹部7より多数であって密集して設けられている。この理由は第2実施形態の第1変形例と同様に、薄膜6とぜんまい腕21a1の外周部とに、より大きなアンカー効果を生じさせるためである。
【0067】
<第3変形例>
図9B(c)は、第2実施形態の第3変形例である。
図9B(c)に示す様に、ぜんまい部2a3において、ぜんまい腕21a3の外周部の複数の凹部7Fは、例として星形の形状を有している、この理由は第2実施形態の第2変形例と同様に、薄膜6とぜんまい腕21a1の外周部との結合面積を拡大し、より大きなアンカー効果を生じさせるためである。なお複数の凹部7Fの形状は星形以外でも可能であって、一般的にはより複雑な形状であれば、さらにアンカー効果を高めることが可能になる。
【0068】
[第3実施形態]
図10A及び
図10Bを用いて本発明の第3実施形態におけるひげぜんまい1の構造について説明する。第3実施形態におけるひげぜんまい1は、ぜんまい部22aに形成した複数の凹部の形状を先の実施形態から変更したものである。
【0069】
[第3実施形態におけるひげぜんまい1の構造の説明:
図10A(a)〜
図10A(c)]
以下、
図10A(a)〜
図10A(c)を用いてひげぜんまい1の構造を詳述する。
図10A(a)は、ひげぜんまい1のぜんまい腕22aの平面図であり、
図10A(b)は
図10A(a)のB−B‘断面図である。また、
図10A(c)は、
図10A(a)のB−B‘断面を模式的に示した斜視図である。なお説明のため、
図10A(a)及び
図10A(c)には薄膜6を図示していない。以下、
図10A(a)〜
図10A(c)を用いて複数の凹部7bの形状について説明する。
【0070】
図10A(a)及び
図10A(b)に示すように、ひげぜんまい1における複数の凹部7bは、ぜんまい腕22aの一方の面2Pb及び他方の面2Tbに、回廊状に形成されている。
図10A(a)に示すように、斜線を施して図示した凹部7bは、ぜんまい部2bの形状に沿って回廊状に形成されている。
【0071】
また
図10A(c)に示すように、凹部7bは、長円状の断面を有する回廊状に形成されている。凹部7bの間隔K2は略10〜20μmである。図示していないが、ぜんまい腕22b〜22dにおいても同様である。ひげぜんまい1における他の要素や構造は第1実施形態と同様なので説明は省略する。
【0072】
[第3実施形態におけるひげぜんまい1の効果の説明:
図10A(a)]
図10A(a)を用いて第3実施形態におけるひげぜんまい1の効果を説明する。
図10A(a)に示すように、ひげぜんまい1における複数の凹部7bは、線状の回廊形状に形成されている。
【0073】
すなわち第1実施形態におけるひげぜんまい1の凹部7や、第2実施形態におけるひげぜんまい1の凹部7aは、点状に形成されていたが、本実施形態におけるひげぜんまい1の凹部7bは線状に形成されているので、薄膜6とひげぜんまい1とのアンカー効果は長い範囲で生じ、ひげぜんまい1の耐久性をさらに向上させる。
【0074】
[第3実施形態の他の変形例におけるひげぜんまい1の構造の説明:
図10B(a)〜
図10B(b)]
図10B(a)及び
図10B(b)を用いて第3実施形態の他の変形例におけるひげぜんまい1の構造を説明する。
図10B(a)及び
図10B(b)は、第3実施形態の第1変形例及び第2変形例におけるひげぜんまい1の複数の凹部7b1、7b2の構造を示す平面図である。
【0075】
<第1変形例>
図10B(a)は、第3実施形態の第1変形例である。
図10B(a)に示す様に、ぜんまい部2b1において、ぜんまい腕22a1の外周部の回廊状の凹部7b1の幅w2は、内周部の回廊状の凹部7bの幅w1より広い。この理由は、ぜんまい駆動時に薄膜6に加わる応力などの薄膜6を剥離させる力は、ぜんまい腕22a1の外周部の方が内周部より大きいので、薄膜6とぜんまい腕22a1の外周部とに、より大きなアンカー効果を生じさせるためである。
【0076】
<第2変形例>
図10B(b)は、第3実施形態の第2変形例である。
図10B(b)に示す様に、ぜんまい部2b2において、ぜんまい腕22a2の外周部の回廊状の凹部7b2は、内周部の回廊状の凹部7bより幅が狭く、かつ2本平行して設けられている。この理由は、ぜんまい腕22a2の外周部において、薄膜6とぜんまい腕21a1とのアンカー効果を拡大するためである。なお外周部の回廊状の凹部7b2は、3本あるいはそれ以上でも良い。
【0077】
[第2の製造方法]
図11〜
図12を用いて本発明にかかる第2の製造方法について説明する。以下、ひげぜんまいを例に第2の製造方法を説明するが、第2の製造方法の特徴は、複数凹部形成工程と外形形状形成工程とを同時に行うものである。
図11は、製造工程のフローチャート、
図12は、の製造工程を説明する断面図である。
【0078】
[第2の製造方法におけるフローチャートの説明:
図11]
以下、
図11を用いて製造工程を示すフローチャートを詳述する。
図11に示すように、ひげぜんまい1の製造方法はステップST10aとステップST30とで構成される。
【0079】
ステップST10aは、ひげぜんまい1の素材であるシリコン基板に、凹部・外形マスクを用いて複数の凹部を形成し同時にひげぜんまい1の外形形状を形成する工程であって、ステップST1aの、凹部・外形マスク形成工程と、ステップST2aの、複数の凹部と外形形状とを同時にエッチングする凹部・外形エッチング工程とから構成される。ステップST30は凹部・外形を形成した未処理ひげぜんまい1pに薄膜を形成する薄膜形成工程であり、第1実施形態と同じである。
【0080】
<凹部・外形マスク形成工程(ステップST1a)>
次に
図12を用いてステップST1aの製造工程を説明する。まず
図12(a)に示すように、シリコン基板200の上面200u及び下面200bに、レジストRを1μmの厚みで塗付する。シリコン基板200の大きさやレジストRについては第1実施形態と同じなので説明は省略する。
【0081】
次に
図12(b)に示すように、塗付したレジストRを硬化処理後、フォトリソグラフィでパターニングし、露光ののちアルカリ水溶液で不要なパターンを除去して、シリコン基板200に、複数の開口部8wと複数の開口部9wとを備えた凹部・外形形成用マスク89を形成する。
【0082】
なお、凹部・外形形成用マスク89の開口部8wは、ひげぜんまい1の素材であるシリコン基板200に複数の凹部を形成するための開口部であり、開口部9wはシリコン基板200からひげぜんまい1の外形形状を形成するための開口部であって、開口部8wは開口部9wより狭い開口部を有している。以上でステップST1aが完了する。
【0083】
<凹部・外形エッチング工程(ステップST2a)>
次に
図12(c)に示すように、凹部・外形形成用マスク89を形成したシリコン基板200に、等方性ドライエッチング用ガスG1を所定の時間印加し、凹部・外形形成用マ
スク89の複数の開口部8w及び複数の開口部9wに等方性ドライエッチングを行う。すると
図12(c)に示すように、シリコン基板200の凹部・外形形成用マスク89の複数の開口部8wと複数の開口部9wが等方性ドライエッチングされ、複数の開口部8wに複数の凹部7が形成されるとともに、複数の開口部9wに複数のへこみ部分9dが形成される。なお等方性ドライエッチング用ガスG1としては、SF
6などを用いることができる。
【0084】
次にシリコン基板200に形成されたへこみ部分9dに、知られているボッシュプロセスを適用し、シリコン基板200からひげぜんまい1を形作るためのドライエッチングを行う。すなわち、
図12(d)に示す様に、まず凹部・外形形成用マスク89を形成したシリコン基板200にパッシベーション用ガスG2を所定の時間印加し、シリコン基板200全体を覆う保護膜を形成する。パッシベーション用ガスG2としてはC
4F
8などを用いることができる。
【0085】
次に
図12(d)に示す様に、シリコン基板200に異方性エッチング用ガスG1を印加して異方性ドライエッチングを行い、シリコン基板200のへこみ部分9dの底部9dbに形成されたパッシベーション層を破壊する。異方性エッチング用ガスG1としては、酸素プラズマやフッ素系ラジカルなどを用いることができる。
【0086】
次にシリコン基板200に等方性ドライエッチング用ガスG1を印加して等方性ドライエッチングを行う。これによって、既に保護膜を失ったシリコン基板200のへこみ部分9dの底面9dbが集中的にエッチングされ、シリコン基板200のへこみ部分9dは
図12(d)の図面視で下方に集中的にエッチングされる。一方、シリコン基板200の複数の凹部7は、開口部8wが開口部9wより狭いため、パッシベーション用ガスG2によって所定時間内はエッチングが行われない。
【0087】
以上のように、パッシベーション用ガスG2と異方性ドライエッチング用ガスG1と等方性ドライエッチング用ガスG1とを、順に所定時間印加することによって、
図12(d)に示した基板200の外形線cに沿って離断される。
【0088】
なお
図12(d)以降の外形形状の形成については第1の製造方法と同じなので説明は省略する。以上でシリコン基板200からぜんまい腕20a〜20dがドライエッチングにより離断される。
【0089】
こののち凹部・外形形成用マスク89を除去し、未処理ひげぜんまい1pを形成する。詳細は第1実施形態と同じなので説明は省略する。以上でステップST2a及びステップST10aが終了する。またこののちステップST30において薄膜形成工程により未処理ひげぜんまい1pの表面に薄膜6を形成する。詳細は第1の製造方法と同じなので説明は省略する。以上述べたステップST10a〜ステップST30の工程の後、ひげぜんまい1の完成形を得る。
【0090】
[第2の製造方法の効果の説明:
図11]
図11及び
図12を用いて本製造方法における効果を説明する。
図11に示すように、ひげぜんまい1における製造工程のステップ数は、第1の製造方法におけるひげぜんまい1における製造工程のステップ数より2ステップ少なく、工程が短縮され生産効率が向上する。また
図12に示すように凹部形成と外形形成のエッチングを同時に行うので、シリコン基板200に与える化学的かつ機械的ストレスが減り、ひげぜんまい1の特性の安定化につながる。
【0091】
[第4実施形態]
図13を用いて本発明の第4実施形態における機械部品の構造を説明する。
図13はシリコン基板を用い、本発明の機械部品の製造方法を腕時計の他の部品に適用した例を示す斜視図であって、機械部品の表面に薄膜6を形成する前の状態を示している。
【0092】
なお、
図13(a)はガンギ歯車体11p、
図13(b)はアンクル体31pと知られている腕時計の部品である。
図13(a)に示す様に、ガンギ歯車体11pの一方の面11uには複数の凹部7が設けられ、反対側の面11bにも図示していないが複数の凹部7が設けられている。また
図13(b)に示す様に、アンクル体31pの一方の面31uには複数の凹部7が設けられ、反対側の面31bにも図示していないが複数の凹部7が設けられている。なお説明のため、複数の凹部7の形状は実際より大きく、数は実際より少なく図示している。
【0093】
図13(c)は、ガンギ歯車体11p及びアンクル体31pに形成された凹部7の斜視図であって、例として、
図13(b)に示すアンクル体31pの凹部7を拡大して示す。
図13(c)において、凹部7の形状は入口より奥が広いので、凹部7の入口側の外形線を実線、奥側の外形線を破線で図示してある。凹部7の入口側の開口幅dは4.5μmで、奥側の内周幅Dは5μmである。
【0094】
[第5実施形態における効果の説明:
図13(c)]
図13(c)に示す様に、ガンギ歯車体11p及びアンクル体31pに形成された凹部7の開口幅dは内周幅Dより500nm狭いので凹部7に薄膜6が入り込み、薄膜6とガンギ歯車体11p及びアンクル体31pとの結合においてアンカー効果を生じ、ガンギ歯車体11p及びアンクル体31pの耐久性や信頼性が向上する。
【0095】
以上説明した実施形態は、これに限定されるものではなく、それぞれの実施形態を組み合わせて構成しても構わない。また、本発明の要旨を満たすものであれば任意に変更することができることはいうまでもない。