特許第6532869号(P6532869)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6532869
(24)【登録日】2019年5月31日
(45)【発行日】2019年6月19日
(54)【発明の名称】新規な複合導電材料
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/182 20170101AFI20190610BHJP
   C01B 32/194 20170101ALI20190610BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20190610BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20190610BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20190610BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20190610BHJP
   D01F 9/127 20060101ALI20190610BHJP
【FI】
   C01B32/182
   C01B32/194
   H01M4/58
   H01M4/36 A
   B82Y30/00
   B82Y40/00
   D01F9/127
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-524932(P2016-524932)
(86)(22)【出願日】2014年7月9日
(65)【公表番号】特表2016-531823(P2016-531823A)
(43)【公表日】2016年10月13日
(86)【国際出願番号】IB2014062987
(87)【国際公開番号】WO2015004621
(87)【国際公開日】20150115
【審査請求日】2017年7月10日
(31)【優先権主張番号】2,820,227
(32)【優先日】2013年7月10日
(33)【優先権主張国】CA
(73)【特許権者】
【識別番号】516011730
【氏名又は名称】グラフォイド,インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】516011741
【氏名又は名称】アンスティテュ デ ルシェルシュ エン エレクトリシテ ハイドロケベック (アイアールイーキュー)
(73)【特許権者】
【識別番号】516011752
【氏名又は名称】シュウ,ゴードン
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】シュウ,ゴードン
(72)【発明者】
【氏名】ザジブ,カリム
(72)【発明者】
【氏名】グエルフィ,アブデルバスト
(72)【発明者】
【氏名】フォランド,アメリー
【審査官】 神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−209032(JP,A)
【文献】 特開2013−065551(JP,A)
【文献】 特表2013−518372(JP,A)
【文献】 特開2013−65551(JP,A)
【文献】 特表2015−521783(JP,A)
【文献】 OZAN TOPRAKCI,LiFePO4 nanoparticles encapsulated in graphene-containing carbon nanofibers for use as energy storage materials,Journal of Renewable and Sustainable Energy,2012年,vol.4,013121-1〜10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/182
B82Y 30/00
B82Y 40/00
C01B 32/194
D01F 9/127
H01M 4/36
H01M 4/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
均一な複合導電材料を調製する方法であって、
a)グラフェンを用意するステップと;
b)繊維状炭素を用意するステップと;
c)グラフェンおよび繊維状炭素を高速攪拌ミキサーで同時粉砕して部分的に配列した混合物を得るステップと;
d)前記部分的に配列した混合物をメカノフュージョンに供するステップと
を含む方法。
【請求項2】
繊維状炭素がVGCFである、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記グラフェンが数層グラフェンである、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記数層グラフェンがMesograf(商標)である、請求項に記載の方法。
【請求項5】
カソード材料を調製する方法であって、
a.少なくとも1つのリチウム金属リン酸塩の粒子を用意するステップと;
b.繊維状炭素を用意するステップと;
c.グラフェンを用意するステップと;
d.グラフェン、繊維状炭素およびLMP粒子を高速攪拌ミキサーで同時粉砕して部分的に配列した混合物を得るステップと;
e.前記部分的に配列した混合物をメカノフュージョンに供するステップと
を含む方法。
【請求項6】
前記繊維状炭素がVGCFである、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記LMPがリン酸鉄リチウムまたはリン酸マンガンリチウムである、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記繊維状炭素が、その各々が繊維フィラメントを含む炭素繊維を含み、前記繊維フィラメントが、直径が5〜500nmおよび長さ対直径の比が20〜1000である、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権
本出願は、その内容が参照により本明細書に組み込まれる2013年7月10日出願のカナダ特許出願番号CA2820227の優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、複合導電材料および同材料を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
グラフェンは、原子が規則的な六角形パターンに配置した、純粋な炭素で構成される材料である。グラフェンは、鉱物グラファイトの1原子の厚さの層として記載され得る。グラフェンの最も注目すべき特性の1つは、その高い伝導率であり、銅より数千倍高い。グラフェンの目立った特性の別のものは、その固有強度である。0.142Nm長の炭素結合という強度のために、グラフェンは、これまで発見されたものの中で最強の材料である。グラフェンは並外れて強いだけでなく、0.77mg/mと極めて軽くもある。多くの望ましい特性によって、グラフェンは多くの用途に有用な材料となっている。
【0004】
種々の導電材料およびそれらを調製する方法が当技術分野で知られている。
【0005】
米国特許出願公開第2010/0327223号は、リチウム金属リン酸塩コアおよび薄い熱分解炭素付着物を有する粒子を含むカソード材料を開示している。
【0006】
国際公開第2010/012076号は、炭素繊維および複合酸化物粒子がその表面の少なくとも一部に炭素被膜を有し、炭素被膜が非粉状被膜である、炭素繊維および複合酸化物粒子を含む電池用カソード材料として有用な複合材料を開示している。
【0007】
米国特許第6855273号は、複合酸化物またはその前駆体の存在下で、炭素質前駆体の制御雰囲気中での熱処理によって電極材料を調製する方法を開示している。炭素被膜を有する複合酸化物粒子を含む得られた材料は、非被覆酸化物粒子と比べて伝導率が実質的に増加している。
【0008】
国際公開第2004/044289号は、マトリックス材料が材料の熱および電気伝導率を増強するために樹脂、セラミックまたは金属である、気相成長炭素繊維をマトリックス材料と混合することによって得られる複合材料を開示している。
【0009】
米国特許出願公開第2003/0198588号は、無機遷移金属化合物を含む気相成長炭素繊維を開示している。
【0010】
米国特許出願公開第2010/0055465号は、気相成長炭素繊維、カーボンナノファイバー、および場合によりナノグラフェン小板を複合体に再形成する、炭素−炭素複合体を形成する方法を開示している。
【0011】
米国特許第7354988号は、カーボンナノチューブ組成物が気相成長炭素繊維を含み得る、ポリマー前駆体とカーボンナノチューブ組成物をブレンドするステップを含む導電性組成物を作成する方法を開示している。米国特許第8404070号は、グラフェンシート−カーボンナノチューブフィルム複合体を開示している。
【0012】
したがって、種々の導電性組成物および特性が改善された組成物を開示するいくつかの刊行物が存在する。しかしながら、伝導率、均一性が高く、製造コストが低い新規な複合材料が種々の産業で絶えず必要とされている。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、グラフェンおよび繊維状炭素の複合体を含む、活性で、均一な、導電性材料を提供する。好ましくは、繊維状炭素は気相成長炭素繊維(VGCF)である。本開示の組成物は舟様構造を形成するグラフェンを含み、VGCF繊維はこれらの舟様グラフェン構造の内側に位置する。この構造は、グラフェンと繊維状炭素を同時粉砕して部分的に配列した混合物を得て、混合物をメカノフュージョンに供することによって形成される。場合により、リチウム金属リン酸塩(LMP)を複合体に含めてもよい。LMP粒子もグラフェン舟の内側に位置する。本発明の他の実施形態は、ナノ多孔質(nanoporous)−グラフェン酸化物−LMP−材料を含む。
【0014】
本発明は、新規な活性複合材料およびこれを作成する方法を提供する。
【0015】
本発明は、高度に均一な導電性複合体を提供する。
【0016】
本発明は、グラフェン、繊維状炭素およびリチウム金属リン酸塩(LMP)粒子を含むカソード材料を提供する。
【0017】
グラフェンおよび繊維状炭素を含む複合導電材料を提供することが本発明の目的である。
【0018】
グラフェン、繊維状炭素およびリチウム金属リン酸塩を含むカソード材料を提供することが本発明の別の目的である。
【0019】
ナノ多孔質グラフェン酸化物−LMP材料を提供することが本発明のさらに別の目的である。より具体的には、ナノ多孔質グラフェン−LMP材料はナノ多孔質Amphioxide(商標)−LMP(Amphioxideは数層グラフェンMesgraf(商標)から酸化される)であり得る。
【0020】
複合導電材料を調製する方法であって、グラフェンを用意するステップと;繊維状炭素を用意するステップと;グラフェンと繊維状炭素を高速攪拌ミキサーで同時粉砕して部分的に配列した混合物を作成するステップと;部分的に配列した混合物をメカノフュージョンに供するステップとを含む方法を提供することが本発明のさらに別の目的である。
【0021】
カソード材料を調製する方法であって、少なくとも1つのリチウム金属リン酸塩の粒子を用意するステップと;繊維状炭素を用意するステップと;グラフェンを用意するステップと;グラフェン、繊維状炭素およびLMP粒子を高速攪拌ミキサーで同時粉砕して部分的に配列した混合物を作成するステップと;部分的に配列した混合物をメカノフュージョンに供するステップとを含む方法を提供することが本発明のさらに別の目的である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】グラフェン−LMP−VGCF混合物のSEM顕微鏡写真を示す図である。倍率は図1が150倍、図2および図3が7000倍である。
図2】グラフェン−LMP−VGCF混合物のSEM顕微鏡写真を示す図である。倍率は図1が150倍、図2および図3が7000倍である。
図3】グラフェン−LMP−VGCF混合物のSEM顕微鏡写真を示す図である。倍率は図1が150倍、図2および図3が7000倍である。
図4】1000℃で焼鈍後のグラフェン−LMP−VGCF混合物のSEM顕微鏡写真を示す図である。倍率は図4が400倍で、図5が1000倍である。
図5】1000℃で焼鈍後のグラフェン−LMP−VGCF混合物のSEM顕微鏡写真を示す図である。倍率は図4が400倍で、図5が1000倍である。
図6】材料を含むコイン型セル(1/2セル)の放電容量を示す図である。容量を積層材料と非積層材料の両方について示す。
図7】LMP、グラフェン、VGCFおよびPVDを含み、1000℃で焼鈍した積層材料ならびに非積層材料の両方についての複合体の形成前および後のインピーダンス結果を示す図である。データは、高容量、高率および高クーロン効率(100%)を示している。具体的には、図7は複合体の形成前および後のインピーダンス結果を示している。
図8】100℃で焼鈍後のグラフェン−VGCF混合物のSEM顕微鏡写真を示す図である。倍率は図8が1000倍、図9が1100倍、図10が400倍、図11が1300倍で、図12が11000倍である。
図9】100℃で焼鈍後のグラフェン−VGCF混合物のSEM顕微鏡写真を示す図である。倍率は図8が1000倍、図9が1100倍、図10が400倍、図11が1300倍で、図12が11000倍である。
図10】100℃で焼鈍後のグラフェン−VGCF混合物のSEM顕微鏡写真を示す図である。倍率は図8が1000倍、図9が1100倍、図10が400倍、図11が1300倍で、図12が11000倍である。
図11】100℃で焼鈍後のグラフェン−VGCF混合物のSEM顕微鏡写真を示す図である。倍率は図8が1000倍、図9が1100倍、図10が400倍、図11が1300倍で、図12が11000倍である。
図12】100℃で焼鈍後のグラフェン−VGCF混合物のSEM顕微鏡写真を示す図である。倍率は図8が1000倍、図9が1100倍、図10が400倍、図11が1300倍で、図12が11000倍である。
図13】グラファイト、Hummer法によって得られたグラフェンおよびMesograf(商標)のラマンスペクトルを示す図である。特に、Mesograf(商標)はDピークを有さないまたは最小のDピークしか有さない。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書で使用する場合、グラフェンという用語は、それだけに限らないが、グラフェンナノストライプ、グラフェン酸化物、二層グラフェンまたは数層グラフェン(Mesograf(商標)など)を含む、その純粋な形態または何らかの修飾された形態のグラフェンを意味する。さらに、本発明の方法を、化学修飾グラフェン、すなわち、カルボジイミド処理または硫酸および硝酸等で修飾されたグラフェンにも適用できる。
【0024】
本明細書で使用する場合、Mesograf(商標)は、具体的には数層(例えば、1〜3層)を含み、Grafoid Inc.(Ottawa、カナダ)から得られるグラフェンを指す。Mesograf(商標)の特性が、本出願に記載される複合体を作成し、およびこれに関連する方法を行うのに好ましい出発材料である。Mesografでできたグラフェン酸化物をAmphioxide(商標)と呼ぶ。参照により本明細書に組み込まれる、シンガポール国立大学の国際特許出願公開第2013/089642号は、電気化学的充電を用いてグラファイト生鉱石から膨張六角形層状鉱物および誘導体を形成する方法を開示している。Mesograf(商標)は、国際公開第2013/089642号に開示されている方法により製造される大面積数層グラフェンシートである。この方法は、グラファイト鉱石の少なくとも一部を金属塩および有機溶媒を含むスラリーに浸漬するステップを含む。岩石を少なくとも1つの電極に組み込み電極を用いてスラリーを通した電気分解を行うことにより岩石を電気化学的に充電し、それによって有機溶媒および金属塩由来のイオンをスラリーからグラファイト岩石の層間隔に導入して、グラファイト岩石から剥離した第一期充電グラファイト鉱物を形成する。この方法は、膨張力を印加して原子層間の層間隔を増加させることによって、第一期充電グラファイトを膨張するステップをさらに含む。結果として、数層グラフェンシートがグラファイト鉱石から一段階反応で得られる。シートは平均300〜500μmの面積を有する。
【0025】
繊維状炭素によって、直径が5〜500nmおよび長さ対直径の比が20〜1000の繊維フィラメントからなる炭素繊維が意味される。
【0026】
気相成長炭素繊維(VGCF)によって、炭素源および遷移金属を含む溶液を反応帯に噴霧して炭素源を熱分解に供し、こうして得られた炭素繊維を非酸化雰囲気下1500℃〜8000℃の間の温度で加熱し、炭素繊維を非酸化雰囲気下2000℃〜3000℃でさらに加熱することによって得られる繊維状炭素が意味される。
【0027】
メカノフュージョンによって、高速で回転し圧縮ツールおよびブレードを内側に備えた円筒型チャンバを含むメカノフュージョン反応器で行われる乾式法が意味される。回転速度は一般的に100rpmより高い。粒子をチャンバに導入し、チャンバを回転させ、求心力を介してならびに圧縮ツールおよびブレードによって、粒子を一緒にチャンバ壁に押し付ける。粒子に作用する強い機械力の結果として、混合されている成分の機械化学的表面溶融が起こる。
【0028】
一実施形態によると、グラフェンと気相成長炭素繊維(VGCF)との活性で導電性の複合体がメカノフュージョンを用いることによって提供される。グラフェンとVGCFの好ましい比は50:50(重量)であるが、他の比、例えば、それだけに限らないが、40:60、または60:40を使用することもできる。この実施形態によると、VGCFとグラフェンとの混合物は、これらを高速攪拌ミキサーで他の条件に応じた期間混合することによって得られる。混合によって部分的に配列した混合物が得られ、次いで、これをメカノフュージョンに供する。好ましい実施形態によると、メカノフュージョンステップは約5分かかる。メカノフュージョン中に、グラフェンは舟様構造を形成し、VGCF繊維は舟構造の「内側」に位置する。図10図11および図12は、このような舟様構造を示している。VGCF繊維は舟構造の内側にあるために、これらの図中には見られない。この開示による複合体は、並外れて均一な構造を有する。ほぼ全ての炭素繊維がグラフェン舟の内側に見られる。
【0029】
リチウム電池のための伝導性が改善されたカソード材料を調製するために、リチウム金属リン酸塩(LMP)を組成物中に添加する。LMPを初期粉砕工程中に添加し、VGCF、グラフェンおよびLMPを高速攪拌ミキサーで、その長さが他の条件に応じる期間の間混合することによって、これらの混合物を得る。混合によって部分的に配列した混合物が得られ、次いで、これをメカノフュージョンに供する。好ましい実施形態によると、メカノフュージョンステップは約5分かかる。メカノフュージョン中に、グラフェンは舟様構造を形成し、VGCF繊維ならびにLMP粒子は舟構造の「内側」に位置する。この開示による複合体は、並外れて均一な構造を有する。図1および図2は、LMP凝集のないグラフェンがほとんどないことを示している。複合材料中の繊維状炭素が、グラフェンとLMP粒子との間のネットワーク伝導性を形成するマルチチャネル構造を生じる。組成物は90〜95部(重量)のグラフェン、1〜5部のVGCFおよび1〜5部のLMPを含む。好ましい実施形態によると、グラフェン:VGCF:LMPの比は94:3:3(重量による)である。結合剤を組成物に使用する場合には、最終組成物は約95%のLMP−グラフェン−VGCFの混合物および約5%の結合剤を含む。
【0030】
リチウム金属リン酸塩は、好ましくはリン酸鉄リチウム(LiFePO)もしくはリン酸マンガンリチウム(LiMnPO)またはこれらの混合物である。LiFeSiOを含む異なるリチウム金属リン酸塩と他の添加物との混合物を複合体に使用することもできる。ポリフッ化ビニリデン(PVDF)が複合電極に使用される標準的な結合材料であり、本発明の複合体にも結合剤として使用され得る。他の可能な結合剤は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびゴム(スチレンブタジエンゴム(SBR)または天然ゴムなど)から選択され得る。PVDFは総重量の3〜10%の結合剤として使用され得る。
【0031】
本発明の複合材料を調製するために使用される繊維状炭素は炭素繊維からなり、炭素繊維は直径が5〜500nmおよび長さ対直径の比が20〜100である繊維フィラメントからなる。
【0032】
炭素繊維は、炭素源および遷移金属を含む溶液を反応帯に噴霧して炭素源を熱分解に供すること、こうして得られた炭素繊維を非酸化雰囲気下1500℃〜8000℃の間の温度で加熱することと、炭素繊維を非酸化雰囲気下2000℃〜3000℃でさらに加熱することとを含む方法によって得ることができる。2000〜3000℃での炭素の第2の熱処理によって繊維の表面が洗浄され、複合酸化物粒子の炭素被膜への炭素繊維の接着が増加する。こうして得られた炭素繊維を気相成長炭素繊維と呼ぶ。気相成長炭素繊維を調製する方法についてのさらに詳細な情報は国際公開第2004/044289号に見出すことができる。
【0033】
気相成長炭素繊維は、VGCF(商標)という商標でShowa Denko K.K.(日本)から入手可能でもある。これらの繊維の繊維直径は約150nmであり、繊維長は約10μmであり、比面積は13m/gであり、電気伝導率は0.1mΩcmであり、純度は99.95%超である。
【0034】
リチウム金属リン酸塩(LMP)は、その固有安全性、低材料コストおよび環境に優しい特徴のためにカソード材料の優れた候補とみなされてきた。リン酸ポリアニオン中の共有結合酸素原子が、満充電層状酸化物で見られるO放出に対するカソード不安定性を排除する。リチウム金属リン酸塩カソード材料の欠点は、その低い電気伝導率および遅い電極速度論である。リチウム金属リン酸塩の伝導率を改善するために、粒子を炭素被膜で被覆してもよい。国際公開第2010/0102076号は、どのように炭素繊維および複合酸化物粒子を有機炭素前駆体と混合して組成物をメカノフュージョンによって作成するかを教示している。このような被覆LMP粒子を本開示の複合体にも使用できる。炭素被覆LMPを作成する方法は、国際公開第2010/0102076号の実施例に具体的に記載されている。この特許出願公開の実施例は参照により本明細書に組み込まれる。
【0035】
1つの好ましい実施形態によると、出発材料は、数層グラフェンであるMesograf(商標)(Grafoid Inc.、Ottawa、カナダ)である。Mesografは、自身を他の出発材料より優れたものにする並外れた特性を有する。図13は、グラファイト、Hummer法によって得られたグラフェンおよびMesograf(商標)のラマンスペクトルを示している。Hummer法によって作成されたグラフェンと異なり、Mesograf(商標)はDバンドをほとんど全く有さない。ラマン分光法は、グラフェンを特徴付けるために一般的に使用されている。Dバンドは異常バンドまたは欠陥バンドとして知られている。このバンドはグラファイトでは典型的には極めて弱い。Dバンドの強度は、試料中の欠陥のレベルに正比例する。図13に示されるように、Hummer法によって作成されたグラフェンのDバンドは、Mesograf(商標)よりもかなり明白であり、このことがMesograf(商標)を好ましい出発材料にしている。
【0036】
1つの好ましい実施形態によると、Mesograf(商標)を使用してナノ多孔質材料を作成し、次いで、これをメカノフュージョン工程で炭素被覆LMPに融合する。炭素被覆LMPを作成する方法は、国際公開第2010/0102076号の実施例に記載されている。この特許出願公開の実施例は参照により本明細書に組み込まれる。
【0037】
ナノ多孔質材料を以下のスキームによって作成する:
【0038】
Mesografを硫酸と混合し、次いで、Mnの予備成形混合物と合わせ、50℃に急速に加熱する(特に、この方法は、それぞれ修飾法またはHummer法で使用されるNaNOまたは硝酸を避ける)。得られる酸化材料をAmphioxide(商標)と呼ぶ。次いで、Amphioxideを5M NaOHで還流し、濾過してpHが8になるまで脱イオン水で洗浄する。その後、再度HSOで還流する。これによりナノ多孔質Amphioxideを生じ、次いで、これを濾過し、pHが5〜6になるまで脱イオン水で洗浄し、次いで、真空乾燥する。次いで、こうして入手されるナノ多孔質材料を炭素被覆LMPとメカノフュージョンしてナノ多孔質Amphioxide−LMPを得る。ナノ多孔質Amphioxide−LMPは、BET/表面積が高い、エネルギー貯蔵で興味深い特性を有する新規な複合体である。
【0039】
本発明による複合材料は、並外れて均一な構造を有する。VGCFおよびLMP粒子はグラフェンならびにナノ多孔質Amphioxideに対する高い接着性を有し、得られる複合材料は、グラフェンまたはナノ多孔質Amphioxideが「炭素の舟」を形成し、VGCFおよび/またはLMP粒子が舟の内側にある構造を有する。この材料を作成する方法は速く、費用対効果が高い。
【0040】
得られる複合材料は伝導率が高い。この材料を例えば、電池、導電性被覆およびコンデンサに使用できる。この複合材料は他の活性特性も有する:中でも、それは疎水性および疎氷性(icephobic)の特性を有し得る。
【0041】
以下の表1は、LMP グラフェン、VGCF(95重量%)およびPVDF(5%)を含む積層または非積層複合体の容量およびクーロン効率を示している。
【表1】
【0042】
図6Aは、1000℃ 1M LiPF6+EC+DEC+2%VCで焼鈍したLMP、グラフェン、VGCFおよびPVDFを含む材料の第1および第2のサイクルの充電−放電時間の関数としての電圧プロファイルを示している。組成物の密度は、積層前は0.87g/ccで積層後は1.78g/ccであった。
【0043】
図6Bは、1000℃で焼鈍したLMP、グラフェン、VGCFおよびPVDFを含む材料を含むセルの放電容量を示している。
【0044】
図7は、組成物の形成前および後のインピーダンス結果を示している。複合体は、LMP、グラフェン、VGCF(95重量%)およびPDVF(5重量%)を含む。複合体を1000℃で焼鈍した。積層複合体と非積層複合体の両方を試験し、結果を2つのチャートに示す。インピーダンスは電極の両方で極めて近く、高い電子伝導率を有する。
【0045】
本発明をある程度詳細に記載してきたが、本開示は実例としてのみ行われていること、ならびに構成および部分の配置の詳細における多数の変化を発明の精神および範囲から逸脱することなく行うことができることを理解すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13