(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(E1)0.01質量%のメタノール溶液又はアセトニトリル溶液の340nm〜400nmの波長範囲における吸光度の最大値が0.1以上である光重合開始剤と、(E2)0.001質量%のメタノール溶液又はアセトニトリル溶液の220nm〜280nmの波長範囲における吸光度の最大値が0.1以上である光重合開始剤を、さらに含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のコーティング組成物。
前記(B)成分は、0.0619mmol/lのジクロロメタン溶液における280nm〜370nmの波長範囲における吸光度の最大値が0.6以上である紫外線吸収剤であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
温度60℃、相対湿度90%R.H.の環境に550時間放置する耐湿性試験後の前記ハードコート層と前記透明支持体との基材密着性が、JIS K5400に基づき90/100以上であることを特徴とする請求項5から7のいずれか1項に記載のハードコートフィルム。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(1)コーティング組成物
本発明のコーティング組成物は、(A)重量平均分子量が250以上1000以下で、エネルギー線硬化性官能基数が2以上9以下であり、水酸基数が1以下であるエネルギー線硬化性(メタ)アクリレートモノマー、(B)エネルギー線硬化性官能基含有紫外線吸収剤及び(C)重量平均分子量が1500以上20000以下のエネルギー線硬化性オリゴマーを含有することを特徴とする。
以下に各成分について説明する。
【0021】
(A)エネルギー線硬化性(メタ)アクリレートモノマー
本発明のコーティング組成物には、重量平均分子量250以上、1000以下であり、エネルギー線硬化性官能基数が2以上9以下であり、水酸基数が1以下であるエネルギー線硬化性(メタ)アクリレートモノマーを用いることが必須である。このようなモノマーを用いることにより、硬度、耐擦傷性及び基材密着性を向上させることができる。特に高温多湿環境における基材密着性を効果的に向上させることができる。
【0022】
(メタ)アクリレートモノマーの重量平均分子量を250以上とすることにより、ハードコート層とした際に皮膜性を持たせることができる。このため、基材密着性が向上するとともに、耐擦傷性の低下を抑制することができる。また、ハードコート層の製造工程において、加熱による未反応モノマーの揮発を防止することができる。一方、重量平均分子量を1000以下とすることにより、分子量が大きすぎないことから、後述するように(B)成分及び(C)成分の分子の隙間に(A)成分が配置されやすくなる。そのため、架橋効率が向上して、基材密着性が向上するとともに、紫外線吸収剤の添加による耐擦傷性の低下を抑制することができる。また、ハードコート層用塗布液とした際に高粘度化することを防止することができる。なお、(メタ)アクリレートモノマーの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)で確認することができる。
【0023】
(メタ)アクリレートモノマーの水酸基数を1以下とすることにより高温多湿環境における基材密着性の低下を抑制することができる。本発明においては上述したように重量平均分子量250以上、1000以下のエネルギー線硬化性モノマーを用いるため、水酸基を有していなくても十分な基材密着性が得られる。(メタ)アクリレートモノマーが水酸基を1個有している場合には、上述した透明支持体、すなわちガラスや樹脂基材の表面に存在する酸性官能基と当該水酸基との反応により接着性が向上するため、基材密着性をさらに向上させることができる。
水酸基数が2以上のモノマーを用いれば、透明支持体表面の官能基との反応により接着性が向上する点では有利である。しかし、未反応の水酸基がハードコート層内に残存するため、高温多湿環境下では、残存水酸基の影響で基材の密着性が低下する。本発明では、(メタ)アクリレートモノマーの水酸基数を1以下としているため、硬化反応後は、未反応の水酸基が殆ど存在しないため、高温多湿環境下でも残存水酸基に起因する基材密着性の低下を抑制することができる。
【0024】
また、(メタ)アクリレートモノマーのエネルギー線硬化性官能基数を2以上9以下とすることにより、硬度が高く、耐擦傷性及び基板密着性の優れたハードコートフィルムを得ることができる。エネルギー線硬化性官能基数が2以上の(メタ)アクリレートモノマーとすることにより、(B)成分及び(C)成分との架橋反応がより効果的に進行するため、基材密着性が向上するとともに、紫外線吸収剤の添加に起因する耐擦傷性の低下を抑制することができる。(メタ)アクリレートモノマーのエネルギー線硬化性官能基数が1以下であると、硬度が高く、耐擦傷性の優れたハードコートフィルムを得ることは困難である。また、このような(メタ)アクリレートモノマーを用いると架橋反応が十分進行しないため、得られたハードコートフィルムは紫外線光により劣化しやすく、優れた耐候性を得ることは困難である。さらに、架橋反応が十分進行しないため、優れた基板密着性を得ることも難しい。
一方、エネルギー線硬化性官能基数が9以下の(メタ)アクリレートモノマーを用いると、(B)成分及び(C)成分の分子の隙間に(A)成分が配置されやすく、架橋効率も向上するため、基材密着性が向上し、紫外線吸収剤の添加による耐擦傷性の低下を抑制することができる。エネルギー線硬化性官能基数が9を超える(メタ)アクリレートモノマーを用いると、(A)成分どうしの過度な架橋反応が進行しやすいため、(A)成分が(B)成分及び(C)成分の分子の隙間に配置されにくく、架橋密度が上昇しにくいため、優れた耐擦傷性及び基材密着性を有するハードコートフィルムを得ることは困難である。
【0025】
以上のような(A)(メタ)アクリレートモノマーとしては、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エチレングルコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリオキシエチル(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールポリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート等をあげることができる。なかでも透明支持体との接着性が良好で、反応性が高いことから、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートが好ましい。
【0026】
(B)紫外線吸収剤
本発明のコーティング組成物は、エネルギー線硬化性官能基含有紫外線吸収剤を含む。通常、ハードコート層及びハードコートフィルムの耐候性を得るためには、コーティング組成物には、紫外線吸収剤を加える。本発明では、紫外線吸収剤として、エネルギー線硬化性官能基含有紫外線吸収剤を有しているため、上述した(A)成分及び後述する(C)成分との間の架橋反応が効果的に進行するため、架橋密度が向上し、紫外線吸収剤の添加による耐擦傷性の低下を抑制することができる。また、上記架橋反応により紫外線吸収剤が架橋構造中に組み込まれることにより、ハードコート層からのブリードアウトが抑制され、基材密着性の低下を抑制することができる。特に高温多湿環境において、エネルギー線硬化性官能基を有する紫外線吸収剤を用いた本発明のコーティング組成物を用いた場合には、基材密着性の低下抑制効果が顕著に認められる。
【0027】
このようなエネルギー線硬化性官能基含有紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系及びトリアジン系の紫外線吸収剤を用いることができる。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(化合物)としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−(2−(オクチルオキシカルボニル)エチル)フェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−ドデシル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−(ジメチルベンジル)フェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−4’−オクチルオキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’−メチレン−ビス(2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール)2−(2’−ヒドロキシ−3’−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミジルメチル)−5’−メチルベンジル)フェニル)ベンゾトリアゾール等と(メタ)アクリロイル基を有する化合物等をあげることができる。また、トリアジン系紫外線吸収剤(化合物)としては、2−(4−ヘキシロキシ−2−ヒドロキシフェニル)−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン、2−(4−オクチロキシ−2−ヒドロキシフェニル)−4,6−ジ(2,5−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−(4−ブトキシ−2−ヒドロキシフェニル)−4,6−ジ(4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−(4−ブトキシ−2−ヒドロキシフェニル)−4,6−ジ(2,4−ジブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−(4−(3−(2−エチルヘキシロキシ)−2−ヒドロキシプロポキシ)−2−ヒドロキシフェニル)−4,6−ジ(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−(4−(3−ドデシロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)−2−ヒドロキシフェニル)−4,6−ジ(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジ(4−ブトキシ−2−ヒドロキシフェニル)−6−(4−ブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ジ(4−ブトキシ−2−ヒドロキシフェニル)−6−(2,4−ジブトキシフェニル)−1,3,5−トリアジン等と(メタ)アクリロイル基を有する化合物等をあげることができる。なかでも、ジクロロメタンに溶解させた0.0619mmol/l溶液の280nm〜370nmの波長範囲における吸光度の最大値が0.6以上である紫外線吸収剤は、紫外線吸収性能に優れている点で好ましい。このような紫外線吸収剤としては、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールと(メタ)アクリロイル基を有する化合物、及び2−(4−ヘキシロキシ−2−ヒドロキシフェニル)−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジンと(メタ)アクリロイル基を有する化合物が好ましく用いられる。以上のようなエネルギー線硬化性官能基含有紫外線吸収剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
(B)成分の添加量は、所望する耐候性の性能やハードコート層の厚みによっても異なるが、上述した(A)成分及び後述する(C)成分の合計100質量部に対して下限として2質量部以上、さらには2.5質量部以上、さらには3質量部以上とすることが好ましい。また、上限とはして12質量部以下、さらには10質量部以下、さらには8質量部以下とすることが好ましい。下限を2質量部以上とすることによりより優れた耐候性を得ることができ、上限を12質量部以下とすることにより、優れた塗膜硬度、耐擦傷性及び基材密着性を維持することができる。
【0029】
(C)(メタ)アクリレートオリゴマー(エネルギー線硬化性オリゴマー)
本発明のコーティング組成物は、重量平均分子量が1500以上20000以下のエネルギー線硬化性オリゴマーを含有する。上記オリゴマーを含有するコーティング組成物からは、良好な塗膜硬度や耐擦傷性を有するハードコート層及びハードコートフィルムを得ることができる。
【0030】
エネルギー線硬化性オリゴマーの重量平均分子量を1500以上とすることにより、屈曲性及び基材密着性が良好なハードコート膜及びハードコートフィルムが得られる。また、エネルギー線硬化性オリゴマーの重量平均分子量を20000以下、好ましくは10000以下とすることにより塗膜硬度及び耐擦傷性の良好なハードコート膜又はハードコートフィルムが得られる。
なお、ここでエネルギー線硬化性オリゴマーの重量平均分子量は、エネルギー線硬化性モノマー((メタ)アクリレートモノマー)の重量平均分子量の1.5倍から20倍であることが好ましい。エネルギー線硬化性オリゴマーの重量平均分子量とエネルギー線硬化性モノマーの重量平均分子量の比を上記範囲とすることにより、エネルギー線硬化性モノマーがエネルギー線硬化性オリゴマー間の隙間に入り込みやすくなるため、より緻密な状態で架橋反応が進行して架橋密度が上昇することにより、紫外線吸収剤の添加に起因する硬度及び耐擦傷性の低下を効果的に抑制することができる。なお、ここで、エネルギー線硬化性モノマー及びエネルギー線硬化性オリゴマーの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)より求められる値である。
【0031】
エネルギー線硬化型オリゴマーとしては、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有し、架橋硬化することにより3次元網目構造となる(メタ)アクリル系オリゴマーが特に好ましく使用される。このような(メタ)アクリル系オリゴマーとしては、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート、ポリフルオロアルキルアクリレート、シリコーンアクリレート等があげられる。
【0032】
エネルギー線硬化型オリゴマーは、エネルギー線硬化性官能基数が10以上20以下である多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーであることが好ましい。このような多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーを用いることにより、高架橋密度を達成することができるため、塗膜硬度及び耐擦傷性をより向上させることができる。多官能ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーのエネルギー線硬化性官能基数を10以上とすることにより架橋密度を十分上昇させ硬度を高くすることができる。そして、その結果、耐擦傷性を大幅に向上させることができる。また、エネルギー線硬化性官能基数を20以下、好ましくは16以下とすることにより、高架橋密度化による立体障害を抑制し、硬化阻害による硬度の低下を防止することができる。
【0033】
本発明のコーティング組成物における(A)成分(エネルギー線硬化性モノマー)と(C)成分(エネルギー線硬化性オリゴマー)の含有割合は質量比で、3:97〜50:50とすることが好ましく、さらには5:95〜30:70とすることが好ましい。コーティング組成物中の(A)成分と(C)成分の質量比を上記範囲にすることにより、ハードコート層と透明支持体の基材密着性、特に耐湿性試験後の基材密着性をより良好なものとすることができる。
【0034】
(D)光安定剤
本発明のコーティング組成物は、(D)光安定剤として、ヒンダードアミン系光安定剤を含有することが好ましい。ハードコート層にヒンダードアミン系光安定剤を添加することにより、紫外線により発生したラジカルを効率的に捕捉することができるので耐候性をさらに向上させることができる。(D)光安定剤としては、例えば、4−ペゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ヘキサノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−オクタノイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ステアロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、コハク酸−ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン)、サバシン酸−ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン)、サバシン酸−ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジン)、8−アセチル−3−ドデシル−7,7,9,9−テトラメチル−1,3,8−トリアザスピロ[4,5]デカン−2,4−ジオン、N−メチル−3−ドデシル−1−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)ピロリジン−2,5−ジオン、N−アセチル−3−ドデシル−1−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)ピロリジン−2,5−ジオン、フタル酸−ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジン)、トリメシン酸−トリス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)等をあげることができる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
(D)成分の添加量は、上述した(A)成分及び(C)成分の合計100質量部に対して下限として0.05質量部以上、さらには、0.5質量部以上が好ましく、上限として5質量部以下、さらには、3質量部以下が好ましい。(D)成分の添加量を0.05質量部以上とすることにより良好な耐候性が得られ、また、5質量部以下とすることにより、良好な耐擦傷性を維持することができる。
【0036】
(E)光重合開始剤
本発明のコーティング組成物で使用される(E)光重合開始剤は、(E1)メタノール又はアセトニトリルに溶解させた0.01質量%溶液の340nm〜400nmの波長範囲における吸光度の最大値が0.1以上である光重合開始剤と、(E2)メタノール又はアセトニトリルに溶解させた0.001質量%溶液の220nm〜280nmの波長範囲における吸光度の最大値が0.1以上である光重合開始剤をそれぞれ1種以上含有するのが好ましい。紫外線照射により硬化塗膜を形成する場合には、これら2種類の光重合開始剤を用いることにより、各々単独で用いた場合に比べて高温多湿環境における基材密着性の低下を大幅に抑制することができる。
【0037】
[(E1)成分]
本発明で使用される(E1)成分は、メタノール又はアセトニトリルに溶解させた0.01質量%溶液の340nm〜400nmの波長範囲における吸光度の最大値が0.1以上である光重合開始剤である。例えば、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム、2−ジメチルアミノ−2−(4−メチルベンジル)−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン、ジフェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド等をあげることができる。上記成分は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
(E1)成分は市販品を使用することができ、例えばイルガキュア651、907、819、369、379、1800、784、ダロキュア4265、ルシリンTPO(以上、BASF社製)等をあげることができる。
【0039】
[(E2)成分]
本発明で使用される(E2)成分は、メタノール又はアセトニトリルに溶解させた0.001質量%溶液の220nm〜280nmの波長範囲における吸光度の最大値が0.1以上である光重合開始剤である。例えば、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、オキソフェニル酢酸メチル、オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−[1−(4−メチルビニル)フェニル]プロパノン等をあげることができる。上記成分は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
(E2)成分は市販品を使用することができ、例えばイルガキュア184、651、500、2959、127、754、907、1800、ダロキュア1173、MBF(以上、BASF社製)、イサキュアKIP150、KIP100F、ONE、(以上、ランベルティ社製)等をあげることができる。
【0041】
高温多湿環境における基材密着性の低下を抑制する観点から、上記(E1)成分である光重合開始剤の添加量を、上記(E2)成分である光重合開始剤の添加量より少量とすることが好ましい。具体的には(E1)成分と(E2)成分の添加割合は質量比で3:97〜45:55の範囲であることが好ましい。なお、複数の(E1)成分及び/又は(E2)成分を含有する場合には、(E1)成分及び(E2)成分それぞれの総質量の比が上記範囲となることが好ましい。
また、光重合開始剤には、1種類で、(E1)成分と(E2)成分の光重合開始波長領域を有するものもある。なお、以下、このような光重合開始剤、すなわち、0.01質量%のメタノール溶液又はアセトニトリル溶液の340nm〜400nmの波長範囲における吸光度の最大値が0.1以上で、且つ0.001質量%のメタノール溶液又はアセトニトリル溶液の220nm〜280nmの波長範囲における吸光度の最大値が0.1以上である光重合開始剤を(E1,2)成分、又は(E1,2)の光重合開始剤という。しかし、(E1,2)の光重合開始剤を1種類用いても、(E1)の光重合開始剤と(E2)の光重合開始剤の2種類併用した時のような効果は得られない。一方、(E1,2)の光重合開始剤を2種類以上用いた場合には、(E1)の光重合開始剤と(E2)の光重合開始剤を併用した時と同様の効果が認められる。また、(E1,2)の光重合開始剤に、(E1)の光重合開始剤又は(E2)の光重合開始剤をさらに添加した場合にも、同様の効果が得られる。この場合、特に、(E2)成分を添加することにより、より優れた効果が得られる。なお、製造上、添加剤である重合開始剤の種類及び量はできる限る少ないほうが好ましい。しかし、ハードコート層又はハードコートフィルムの他の物性に影響を与えない範囲であれば、(E1,2)の光重合開始剤に、(E1)の光重合開始剤及び(E2)の光重合開始剤を添加することもできる。
本願において、「(E1)成分と(E2)成分を含有する」には、(E1,2)の光重合開始剤を2種類以上含有する構成並びに(E1,2)の光重合開始剤と(E1)の光重合開始剤及び/又は(E2)の光重合開始剤を含有する構成も含まれるものとする。
このように2種類の光重合開始剤を含有することにより、従来の紫外線吸収性能を有するエネルギー線硬化型のコーティング組成物から得られたハードコート膜及びハードコートフィルムの課題であった耐擦傷性及び基材密着性を改善することができる。特に上記2種類の光重合開始剤を用いることにより、高温多湿環境における基材密着性が大幅に改善された塗膜を得ることができる。
【0042】
本発明のハードコート塗料で使用される(E)成分の含有量は、前記(A)成分と(C)成分の合計100質量部に対し、下限として1質量部、さらには3質量部とするのが好ましく、上限として15質量部以下、さらには12質量部以下とすることが好ましい。1質量部以上とすることにより塗膜硬度及び基材密着性を十分なものとすることができ、また、15質量部以下とすることにより、(E)成分どうしの再結合による硬化阻害を防止し基材密着性を十分なものとすることができる。
【0043】
さらに、本発明のコーティング組成物には、必要に応じて、他の樹脂や溶媒及び光重合開始助剤、レベリング剤、消泡剤、酸化防止剤、重合禁止剤、架橋剤、顔料、防汚剤、微粒子、滑剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、難燃剤、抗菌剤、防カビ剤、可塑剤、流動調整剤、分散剤、離型剤等の添加剤等を添加し、それぞれ目的とする機能を付与することも可能である。
【0044】
他の樹脂としては、例えば熱硬化型樹脂、熱可塑性樹脂や、ビスフェノール系エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂等のエポキシ系樹脂やビニルエーテル系樹脂など光カチオン重合性樹脂等をあげることができ、本発明の効果を阻害しない範囲で含有させることができる。
【0045】
溶媒としてはトルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒:その他の公知の有機溶媒をあげることができる。
【0046】
使用する有機溶媒の種類は同時に添加される前記(A)成分、(B)成分、及び(C)成分等との溶解性又は分散性を考慮して決められる。乾燥後、ハードコート層に溶媒が残存しにくいという点ではメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン等の沸点が120℃以下の有機溶媒が好ましい。上記有機溶媒は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。溶媒使用量は特に限定されないが、組成物粘度が採用する塗工方式に適した粘度になるように調整することが好ましい。好ましい使用量は組成物全体の5〜90質量%であり、より好ましくは10〜85質量%、更に好ましくは20〜80質量%である。
【0047】
光重合開始助剤としては、例えば、アミン化合物、カルボン酸化合物、多官能チオール化合物等をあげることができる。また、レベリング剤としてはアクリル系化合物、高沸点溶媒、フッ素系化合物、シリコーン系化合物等をあげることができる。、表面を鏡面に仕上げる点からは、上記レベリング剤の中でもフッ素系化合物、シリコーン系化合物が好ましい。酸化防止剤としては、フェノール系化合物等があげられる。重合禁止剤としては、メトキノン、メチルハイドロキノン、ハイドロキノン等があげられる。架橋剤としては、イソシアネート類、メラミン化合物等をあげることができる。微粒子は、シリカ、炭酸カルシウム等の無機微粒子及びポリメチルメタクリレートやポリスチレン等の有機微粒子等をあげることできる。防汚剤はフッ素系化合物、ケイ素系化合物、又はこれらの混合物をあげることができ、防汚性能からはフッ素系化合物が好ましい。
【0048】
本発明のコーティング組成物は、上述した(A)成分、(B)成分、及び(C)成分、さらには必要に応じて、他の樹脂、溶媒並びに光安定剤、光重合開始剤等の添加剤を任意の順序で添加し混合することにより得ることができる。
【0049】
このようにして得られる本発明のコーティング組成物は、ガラス又は樹脂材料の表面に塗布、硬化させるためのコーティング組成物(ハードコート塗料)である。本発明のハードコート塗料は、上述した(A)成分、(B)成分及び(C)成分を含有しているため、被塗布物として、ガラス及び樹脂材料とする場合に、被塗布物と硬化塗膜との接着性が良好である。特に高温多湿環境において被塗布物と硬化塗膜との接着性(基材密着性)が優れた硬化塗膜とすることができる。
【0050】
(2)ハードコート膜及びハードコートフィルム
本発明のハードコートフィルムは、上述した(A)成分、(B)成分及び(C)成分、さらには必要に応じて、他の樹脂や添加剤を溶媒中に溶解又は分散させたコーティング組成物(ハードコート層用組成物)を、透明支持体の少なくとも一方の面に塗布し、必要に応じて乾燥後エネルギー線の照射又は自然光により硬化させることにより得ることができる。塗布には公知の方法、例えば、グラビアコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、スピンコート法、フローコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、刷毛塗り等を用いることができる。ハードコート層用組成物の粘度が塗布に適した粘度より高ければ溶媒を用いて粘度調整をしてもよい。使用可能な溶媒は上述のとおりである。
【0051】
透明支持体としては、ガラスや樹脂基材等の透明性の高いものを用いることができる。樹脂基材を構成する樹脂の種類としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース、アセチルセルロースブチレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、フッソ樹脂、ナイロン、アクリル、シクロオレフィン、ノルボルネン化合物等をあげることができる。上記の中でも、延伸加工、特に二軸延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムが機械的強度、寸法安定性に優れているために好適に使用される。
【0052】
このような透明支持体はハードコート層との密着性を向上させる目的で、サンドブラスト法や溶剤処理法等による表面の凹凸化処理、あるいはコロナ放電処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、プラズマ処理、オゾン・紫外線照射処理等の表面処理、下引き易接着層の形成等を施してもよい。また、透明支持体にはハードコート層用組成物を塗布する前にあらかじめ片面又は両面に粘着剤層や意匠性付与のための印刷やコーティングが付与されていてもよい。また、透明支持体には、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、紫外性吸収剤や光安定剤等前述したコーティング組成物で用いることができる添加剤を含有することができる。
【0053】
透明支持体の厚みは、特に限定されるものではなく用途に応じて適宜選択すればよい。ガラスの場合は、0.3mmから5mmが好ましく、樹脂基材の場合は、25μm〜500μmが好ましく、50μm〜300μmがより好ましい。
【0054】
ハードコート層用組成物で溶媒を含む場合には、塗布後に乾燥を行う必要がある。乾燥温度は乾燥ラインの長さ、ライン速度、塗布量、残存溶媒量、透明支持体の種類等を考慮して決めればよい。透明支持体がポリエチレンテレフタレートフィルムであれば、一般的な乾燥温度は50℃〜150℃、好ましくは70℃〜130℃である。1ラインに複数の乾燥機がある場合は、それぞれの乾燥機を異なる温度、風速に設定してもよい。塗工外観の良好な塗膜を得るためには、入り口側の乾燥条件をマイルドにするのが好ましい。
【0055】
ハードコート層用組成物を硬化させる方法としては、上記したようにエネルギー線の照射又は自然光により硬化させることができる。ハードコート層の物性値の安定性や工業的な作業性を考慮すると、エネルギー線の照射により硬化させることが好ましい。エネルギー線としては、紫外線、電子線等をあげることができる。紫外線により硬化させる場合、光源としてはキセノンランプ、高圧水銀灯、メタルハライドランプ等を有する紫外線照射装置が使用され、必要に応じて光量、光源の配置等が調整される。高圧水銀灯を使用する場合、80W/cm
2〜160W/cm
2のエネルギーを有するランプ1灯に対して搬送速度5m/分〜60m/分で硬化させるのが好ましい。電子線により硬化させる場合、100eV〜500eVのエネルギーを有する電子線加速装置を使用するのが好ましい。
【0056】
ハードコート層の厚みは特に制限されるものではなく使用用途、求められる性能、取扱性、生産性及び経済性などによって適宜決定すればよい。モバイル製品に使用される場合は、厚みが下限として0.5μm以上、さらには1μm以上とすることが好ましく、上限として20μm以下、さらには15μm以下、さらには10μm以下とすることが好ましい。ハードコート層の厚みを0.5μm以上とすることにより必要な塗膜硬度、耐擦傷性、耐候性、基材密着性を得ることができる。ハードコート層の厚みを20μm以下とすることにより、生産性及び経済性が低下するのを抑制することができる。
【0057】
本発明のハードコートフィルムのハードコート層は、JIS K5400に規定の鉛筆硬度が、2H以上、さらには3H以上に調整されていることが好ましい。鉛筆硬度が上記値以上に調整されている塗膜では、ハードコート層の表面が傷つくことを効果的に防止することができる。
【0058】
また、本発明のハードコートフィルムのハードコート層は、#0000のスチールウールを3cm
2円柱治具へかぶせて巻いたものを荷重500gで、30回以上往復、好ましくは50回以上往復、より好ましくは70回以上往復させた場合に、傷を生じることがないように調整されていることが好ましい。このように調整することで、必要な耐擦傷性を確保することができ、ハードコート層の表面が傷つくことを効果的に防止することができる。
【0059】
また、本発明のハードコートフィルムは、ハードコート層と透明支持体とのJIS K5400に基づく基材密着性が90/100以上であることが好ましい。基材密着性を上記範囲とすることにより、モバイル製品に用いられた場合に、ハードコート層が透明支持体から剥がれることなく使用することができる。
【0060】
さらに、本発明のハードコートフィルムは、温度60℃、相対湿度90%R.H.の環境下で550時間放置する耐湿性試験後のハードコート層と透明支持体とのJIS K5400に基づく基材密着性が、90/100以上であることが好ましい。耐湿性試験後の基材密着性を上記範囲とすることにより、耐湿性試験後もハードコート層と透明支持体との基材密着性が保持されたハードコートフィルムとすることができる。さらに、本発明のハードコートフィルムの輸送時の環境やモバイル製品の長期保存性を考慮しても、高温多湿環境下においてハードコート層が劣化することなく使用することができる。また、上記耐湿性試験後も上記と同様の耐スチールウール試験において耐擦傷性を有していることが好ましい。
【0061】
また、本発明のハードコートフィルムは、ASTM G−154に規定の耐候性試験12サイクル後の黄変度(Δb)が1.0未満が好ましく、さらには0.5未満であることが好ましい。黄変度(Δb)を上記範囲とすることにより、屋外で使用されるモバイル製品に用いられた場合も、黄変しづらく、塗膜劣化の低いハードコートフィルムとすることができる。なお、本発明において黄変度(Δb)とは、耐候性試験後のb値(b1)から試験前のb値(b0)を減じた値を示す。よって、この値が小さいほど塗膜劣化が低いこと示している。
【0062】
以上、本発明のハードコートフィルムの一形態として、透明支持体の一方の面にハードコート層を有するものについて説明した。本発明は上記構成に限定されるものではなく、透明支持体の両方の面にハードコート層を有するものや、透明支持体のハードコート層を有していない方の面に粘着剤層、印刷層、蒸着層を有するものも含まれる。
【0063】
以上のような本発明のハードコートフィルムは、屋外で使用される携帯電話、スマートフォン等のモバイル製品の表示画面等に使用した場合も、十分な耐候性を有しているため黄変しない。また、基材密着性が優れているためハードコート層と透明支持体との間で剥れを生じることなく使用することができる。特に、本発明のハードコートフィルムは、高温多湿環境下においてハードコート層が劣化せず、このような環境においても基材密着性に優れている。このため、例えばモバイル製品の各構成部品の生産拠点とモバイル製品の組み立て拠点が異なる場合であっても、各種構成部品の製造、輸送時における高温多湿の環境下においても使用することができる。特に、近年はより高い耐候性のレベルに対応するためハードコート層に紫外線吸収剤や光安定剤を多量に添加する傾向があり各種問題が生じているが、上記問題が解消された耐候性を有するハードコートフィルムとして、本発明技術は有用である。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
<コーティング組成物の構成成分>
以下の実施例及び比較例に使用した各構成成分の詳細について以下に示す。
(A)(メタ)アクリレートモノマー(エネルギー線硬化性モノマー)
A1:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートモノマー(商品名:ライトアクリレートDPE−6A、共栄社化学社製、エネルギー線硬化性官能基数:6、水酸基数:0、重量平均分子量563、エネルギー線硬化性官能基数(E):6)
【0066】
A2:ジペンタエリスリトールトリアクリレートモノマー(商品名ライトアクリレートPE−3A、共栄社化学社製、エネルギー線硬化性官能基数(E):3、水酸基数:1、重量平均分子量298)
【0067】
A’1:エポキシアクリレートモノマー(商品名:エポキシエステル200PA、共栄社化学社製、エネルギー線硬化性官能基数(E):2、水酸基数:2、重量平均分子量332)
【0068】
A’2:2−ヒドロキシ−3−アクリロイロキシプロピルメタクリレートモノマー(商品名:NKエステル701A、新中村化学工業社製、エネルギー線硬化性官能基数(E):2、水酸基数:1、重量平均分子量214)
【0069】
A’3:ポリエチレングリコール#1000ジアクリレートモノマー(商品名:NKエステルA−1000、新中村化学工業社製、エネルギー線硬化性官能基数(E):2、水酸基数:0、重量平均分子量1108)
A’4:メトキシポリエチレングリコール#400アクリレートモノマー(商品名:NKエステルAM―90G、新中村化学工業社製、エネルギー線硬化性官能基数(E):1、水酸基数:0、重量平均分子量454)
【0070】
(B)紫外線吸収剤
B:エネルギー線硬化型ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(商品名:RUVA−93、大塚化学社製、ジクロロメタンに溶解させた0.0619mmol/l溶液における280nm〜370nmの波長範囲における吸光度の最大値が0.6以上)
【0071】
B’1:エネルギー線硬化性ではないベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(商品名:チヌビン928、BASF社製)
【0072】
B’2:エネルギー線硬化性ではないベンゾフェノン系紫外線吸収剤(商品名:LS−907、一方社油脂工業社製)
【0073】
(C)(メタ)アクリレートオリゴマー(エネルギー線硬化性オリゴマー)
C1:脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマー(商品名:アートレジンUN−904、根上工業社製、エネルギー線硬化性官能基数:10、重量平均分子量4900)
【0074】
C2:脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマー(商品名:アートレジンUN−3320HS、根上工業社製、エネルギー線硬化性官能基数:15、重量平均分子量4900)
【0075】
(D)光安定剤
(D)成分:ヒンダードアミン系光安定剤(商品名:チヌビン765、BASF社製)
【0076】
(E)光重合開始剤
E1-1:ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(商品名:イルガキュア819、BASF社製)
E1-1:2−ジメチルアミノ−2−(4−メチル−ベンジル)−1−(4−モリフォリン−4−イル−フェニル)−ブタン−1−オン(商品名:イルガキュア379、BASF社製)
【0077】
E2:2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン(商品名:イルガキュア907、BASF社製)
E1,2:2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(商品名:イルガキュア651、BASF社製)
【0078】
1.コーティング組成物及びハードコートフィルムの作製
表1から表5に示す(A)(メタ)アクリレートモノマー、(B)紫外線吸収剤及び(C)(メタ)アクリレートオリゴマーを表1から表5に示す固形分比(質量部)で秤量した。それぞれの構成成分の詳細は上述のとおりである。さらに、(D)光安定剤1質量部、(E)光重合開始剤として(E−1)ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド(商品名:イルガキュア819、BASF社製)及び(E−2)2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン(商品名:イルガキュア907、BASF社製)をそれぞれ、3質量及び4質量部加えた。なお、表2に示す実施例4から実施例14については、表2に記載された光重合開始剤を、表2に示す質量比で添加した。上記構成成分をそれぞれ、メチルエチルケトン(MEK)75質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)75質量部と共に混合、撹拌し実施例及び比較例のコーティング組成物(固形分43%)を得た。次に透明支持体として、厚み188μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名:コスモシャインA4300、東洋紡社製)の一方の面に、実施例及び比較例のコーティング組成物をバーコート法により塗布し、80℃で2分乾燥後、高圧水銀灯を300mJ/cm
2で照射し硬化することにより膜厚6μmのハードコート層を形成し、各実施例及び比較例のハードコートフィルムを得た。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
【0083】
【表5】
【0084】
2.評価
得られた実施例及び比較例のハードコートフィルムについて、塗膜硬度(鉛筆硬度)、耐擦傷性、耐候性及び基材密着性の4項目について、以下の方法により測定又は評価した。実施例1〜実施例3及び比較例1〜比較例7の結果を表1に、実施例4〜実施例14の結果を表2に、
参考例15
、実施例16〜実施例
17、参考例18の結果を表3に、実施例19〜実施例22の結果を表4に、実施例23〜実施例25の結果を表5に示す。
【0085】
[塗膜硬度]
JIS K5400に従い、鉛筆引っかき試験機を用いて、実施例及び比較例のハードコートフィルムの鉛筆硬度を測定した。詳しくは、ハードコートフィルムのハードコート層を有する面を上側にし、鉛筆を45度の角度でセットし、上から1000gの荷重で5mm引っかき、5回中4回以上傷の付かなかった鉛筆の硬さを記録した。
【0086】
[耐擦傷性]
<初期の耐擦傷性>
耐スチールウール試験として、#0000のスチールウールを3cm
2円柱治具へ被せて巻いたものを実施例及び比較例のハードコートフィルムのハードコート層上に載せ、荷重500gで往復させた。キズが最初に発生した直前の回数を初期の耐擦傷性の評価値として記録した。
<耐湿性試験後の耐擦傷性>
後述する耐湿性試験後の実施例及び比較例のハードコートフィルムを用いて、初期の耐スチールウール試験と同様にして測定し、キズが最初に発生した直前の回数を耐湿性試験後の耐擦傷性の評価値として記録した。
【0087】
[耐候性(Δb)]
耐候性試験として、ASTM G−154に準拠し、QUV紫外線蛍光促進機(Q-LAB社製)を使用して、実施例及び比較例のハードコートフィルムを60℃の環境下で8時間UVA340ランプを用い紫外線を照射後、暗室状態で室温50℃の結露環境下に4時間放置し、各ハードコートフィルムを結露させた。これを1サイクルとして12サイクル行った。12サイクル後の黄変度(Δb)を分光測色計(商品名:CM−5、コニカミノルタセンシング社製)を用いて測定し、耐候性の評価値として記録した。
【0088】
[基材密着性]
<初期の基材密着性>
基材密着性試験として、実施例及び比較例のハードコートフィルムのハードコート層にJIS K5400の碁盤目テープ法に準じて、隙間間隔1mmのマス目が100個できるように切れ目を入れ、JIS Z1522に規定するセロハン粘着テープを貼着し剥離した後、透明支持体に残っている塗膜の数を目視にて数え、初期の基材密着性の評価値として記録した。
【0089】
<耐候性試験後の基材密着性>
上記耐候性試験後のハードコートフィルムを用いて、初期の基材密着性試験と同様にして測定し、耐候性試験後の基材密着性の評価値として記録した。
【0090】
<耐湿性試験後の基材密着性>
耐湿性試験として、温度60℃、相対湿度90%R.H.の環境に550時間放置した後、初期の基材密着性試験と同様にして測定し、耐湿性試験後の基材密着性の評価値として記録した。
【0091】
表1に、実施例1〜3及び比較例1〜7のハードコートフィルムの各種特性評価結果を示す。
オリゴマー成分を含有せず、エネルギー線硬化性官能基数3個の高硬度モノマー(A2)を用いた比較例1のコーティング組成物から得られたハードコートフィルムは、硬度及び耐擦傷性は良好であることがわかった。しかし、比較例1のコーティング組成物では、硬化収縮が大きく、ハードコート層に大きな反りが生じた。また、比較例1のハードコートフィルムは、初期基板密着性が低く、耐候性試験後及び耐湿性試験後は、さらに大幅な低下が認められ、実用に適さないことが確認された。比較例1では、オリゴマーを有しないため、硬化収縮が大きくなったと考えられる。なお、A2に変えて、A1を用いた場合にも同様の硬化収縮が認められた。また、比較例1のハードコートフィルムでは、耐候性も十分でないことが確認された。A2の水酸基数は1であるが、比較例1では、オリゴマーを含まないため、コーティング組成物全体に占める水酸基量が多いため、硬化後も未反応の水酸基が残存していることが原因と考えられる。
表中には記載していないが、モノマー成分を含まず、オリゴマー成分であるC1を100質量部含有するコーティング組成物から得られたハードコートフィルムでは、鉛筆硬度及び耐擦傷性は良好であるが、十分な基材との密着性が得られないことが確認された。
これに対して、モノマー成分A1とオリゴマー成分C1を含有する実施例1、モノマー成分A2とオリゴマー成分C1を含有する実施例2及びモノマー成分A1とオリゴマー成分C2を含有する実施例3では、いずれも、塗膜硬度、耐擦傷性、耐候性及び基材密着性とも優れたハードコートフィルムが得られることがわかった。
【0092】
一方、モノマー成分A’1(重量平均分子量:332、水酸基:2個、エネルギー線硬化性官能基数2個)とオリゴマー成分C1(質量平均分子量:4900)を含有する比較例2のコーティング組成物から得られたハードコートフィルムでは、実施例1〜3に比べて、硬度及び耐擦傷性が低下した。さらに、耐候性が低下して、紫外線照射後に黄変し、耐候試験及び耐湿性試験後には、基板との密着性が低下することも確認された。A’1は水酸基数を2個有することから、上記特性の低下は、残存水酸基及び/又は残存水酸基に吸着した水の影響と考えられる。
モノマー成分A’2(重量平均分子量:214、水酸基:1個、エネルギー線硬化性官能基数2個)とオリゴマー成分C1(重量平均分子量:4900)を含有する比較例3のコーティング組成物から得られたハードコートフィルムでも、実施例1〜3に比べて、硬度及び耐擦傷性が低下した。これは、A’2の重量平均分子量が214と小さいことに起因すると考えられる。さらに、比較例3のハードコートフィルムでは、耐候性が低下して、紫外線照射後に黄変し、耐候試験及び耐湿性試験後には、基板との密着性が低下することも確認された。A’2の水酸基数は1個であるが、分子量が小さいため、コーティング組成物全体に占める水酸基数が多く、硬化後も過剰の水酸基が残存することから、残存水酸基及び/又は残存水酸基に吸着した水の影響でこのような特性の低下が生じると考えられる。
【0093】
モノマー成分A’3(重量平均分子量:1108、水酸基:0個、エネルギー線硬化性官能基数2個)とオリゴマー成分C1(重量平均分子量:4900)を含有する比較例4のコーティング組成物から得られたハードコートフィルムでも、実施例1〜3に比べて、硬度及び耐擦傷性が低下した。これは、A’3の重量平均分子量が1108と大きいことからモノマー成分A’3がオリゴマー成分の隙間に入り込めず、架橋密度が上昇しなかったことに起因すると考えられる。さらに、比較例4のハードコートフィルムでは、耐候試験及び耐湿性試験後には、基板との密着性が低下することも確認された。比較例4では、モノマー成分の分子量が大きいため、架橋密度が向上しないことから基材表面と結合が形成されにくいため、紫外線照射や湿度の影響で剥離が生じやすいと考えられる。
モノマー成分A’4(重量平均分子量:454、水酸基:0個、エネルギー線硬化性官能基数1個)とオリゴマー成分C1(重量平均分子量:4900)を含有する比較例5のコーティング組成物から得られたハードコートフィルムでも、実施例1〜3に比べて、硬度及び耐擦傷性が大幅に低下した。これは、A’4のエネルギー線硬化性官能基数が1個で十分な架橋反応が進行しないことに起因すると考えられる。さらに、比較例5のハードコートフィルムでは、耐候性及び初期の基材密着性も低く、耐候性試験後及び耐湿性試験後には、基板との密着性がさらに低下することも確認された。上述のとおり、比較例5では、エネルギー線硬化性官能基数が少ないことから十分な架橋反応が進行せず、基材との初期密着性が低いと考えられる。また低架橋密度であるため、紫外線照射や高湿度環境で劣化しやすいことが、耐候性及び各種試験後の基材密着性の低下の原因と考えられる。
【0094】
エネルギー線硬化性の紫外線吸収剤であるB1に変えて、エネルギー線硬化性ではない紫外線吸収剤を用いた比較例6及び7では、実施例と比較して、硬度及び耐擦傷性が低く、耐候性試験後及び耐湿性試験後に基材密着性が低くなることがわかった。
以上の結果より、所定の分子量、エネルギー線硬化性官能基数及び水酸基数を有する(メタ)アクリレートモノマーと所定の分子量を有するエネルギー線硬化性オリゴマー及びエネルギー線硬化性官能基含有紫外線吸収剤を含有する本発明のコーティング組成物から得られたハードコートフィルムでは、優れた耐擦傷性、耐候性及び基材密着性が得られることがわかった。
【0095】
表2に、実施例4〜14のハードコートフィルムの基材密着性評価結果を示す。
実施例4〜14では、(A)(メタ)アクリレートモノマー、(B)紫外線吸収剤、(C)アクリレートオリゴマー及び(D)光安定剤の種類及び配合量は、実施例1と同様として、(E)光重合剤の種類及び配合比を変えている。実施例4では、光重合剤として、E1のみを7質量部加え、実施例9では、E2のみを7質量部加え、実施例1及び5〜8では、E1とE2の配合比を変えて、全体で7質量部となるように加えている。ここで、E1とE2のいずれかを含有する実施例4及び9に比べて、E1とE2を含有する実施例1、5〜8では、耐候性試験後及び耐湿性試験後の基材密着性が向上することがわかった。特に、実施例1、5〜6では、耐湿性試験後の基材密着性が大幅に向上している。
また、実施例10では、0.01質量%のメタノール溶液又はアセトニトリル溶液の340nm〜400nmの波長範囲における吸光度の最大値が0.1以上である光重合開始剤E1を2種類添加したが、E1とE2を併用した上記実施例のように耐候性試験後及び耐湿性試験後の基材密着性の低下が大幅に抑制される効果は認められなかった。さらに、実施例11では、0.01質量%のメタノール溶液又はアセトニトリル溶液の340nm〜400nmの波長範囲の吸光度の最大値が0.1以上で、且つ0.001質量%のメタノール溶液における220nm〜280nmの波長範囲における吸光度の最大値が0.1以上である光重合開始剤を1種類添加した。しかし、E1とE2を併用した実施例のように耐候性試験後及び耐湿性試験後の基材密着性の低下が大幅に抑制される効果は得られなかった。
また、実施例12〜14では、光重合開始剤E1及びE2の種類及び両者の比(E1:E2=3:4)は実施例1と同様にして、光重合開始剤E1及びE2の総量の質量比を変えている。実施例12、実施例1、実施例13及び実施例14、それぞれのE1及びE2の総量の質量比は、3.5、7、10.5及び14である。いずれの実施例においても、耐候性試験後及び耐湿性試験後とも優れた基材密着性が維持されることが確認された。
以上の結果から、所定の波長範囲において所定の吸光度を有する2種類の光重合剤を併用することが基材密着性の向上に有効なことが確認された。
【0096】
表3に、
参考例15
、実施例16〜17、参考例18のハードコートフィルムの各種評価結果を示す。
実施例12〜
14、参考例15では、(A)(メタ)アクリレートモノマー、(B)紫外線吸収剤、(C)(メタ)アクリレートオリゴマー、(D)光安定剤、(E)光重合剤の種類及び(B)紫外線吸収剤、(D)光安定剤、(E)光重合剤の配合量は、実施例1と同様として、(A)(メタ)アクリレートモノマーと(C)(メタ)アクリレートオリゴマーの配合比を変えている。
ここでは、高硬度のモノマー(A1)を用いていることから、モノマー量の増加に伴い鉛筆硬度及び耐擦傷性が向上した。また、いずれの実施例においても優れた耐候性及び基材密着性が得られることがわかった。特に、(A)成分と(C)成分の含有割合が質量比で3:97〜50:50の範囲である実施例16、実施例1及び実施例17で、耐湿性試験後の基材密着性が大幅に改善されることが確認された。
【0097】
表4に、実施例19〜22のハードコートフィルムの各種評価結果を示す。
実施例19及び実施例22では、ハードコート層の厚みを表4に示すように変えた他は、実施例1と同様にハードコートフィルムを作製して評価を行った。ハードコート層の厚みを3μm、6μm及び15μmと厚くすることにより、耐擦傷性がさらに向上することが確認された。しかし、いずれの実施例においても十分な耐擦傷性、基材密着性及び耐候性が得られることがわかった。
実施例21及び実施例22では、表4に示すように紫外線吸収剤(B1)の添加量を変えた他は、実施例1と同様にハードコートフィルムを作製して評価を行った。いずれの実施例においても十分な耐擦傷性、基材密着性及び耐候性が得られることがわかった。
【0098】
表5に、実施例23〜25のハードコートフィルムの各種評価結果を示す。
実施例23及び実施例25では、コーティング組成物に添加する(D)光安定剤量を表5に示すように変えた他は、実施例1と同様にハードコートフィルムを作製して評価を行った。いずれの実施例においても十分な耐擦傷性、耐候性及び基材密着性が得られることがわかった。