(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6533047
(24)【登録日】2019年5月31日
(45)【発行日】2019年6月19日
(54)【発明の名称】医療用遠心ポンプ及び該医療用遠心ポンプを有する人工補助心臓
(51)【国際特許分類】
A61M 1/10 20060101AFI20190610BHJP
【FI】
A61M1/10 111
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-196766(P2014-196766)
(22)【出願日】2014年9月26日
(65)【公開番号】特開2016-67376(P2016-67376A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】390000996
【氏名又は名称】株式会社ハイレックスコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺浦 實
【審査官】
宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】
中国実用新案第202236531(CN,U)
【文献】
特開平04−017862(JP,A)
【文献】
国際公開第2000/062841(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/10
F04D 7/02 − F04D 7/08
F04D 29/08 − F04D 29/16
F16J 15/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
前記回転軸を回転させる駆動部を有するポンプ基体と、
吸入口と吐出口とを有し、前記ポンプ基体とで前記吸入口から吸入した体液が流入するポンプ室を形成するハウジングと、
前記ポンプ室内に収容され、前記回転軸を軸とするインペラとを備えた遠心ポンプであって、
前記ポンプ基体に磁気発生源を有し、
前記回転軸は前記ポンプ基体から前記ポンプ室に突出し、回転可能に前記ポンプ基体に軸支され、
前記ポンプ基体、前記回転軸、及び前記インペラとの間に形成された間隙のうち、少なくとも1箇所に磁性流体が配置され、
前記ポンプ基体と前記インペラとの間に形成された間隙のうち、前記インペラの外周側に前記磁性流体が配置された
医療用遠心ポンプ。
【請求項2】
前記駆動部がモータであり、前記磁気発生源が前記モータである請求項1に記載の医療用遠心ポンプ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の医療用遠心ポンプを有し、前記駆動部がモータであり、前記ポンプ基体及び前記ハウジングが体内に埋め込み可能に形成された人工補助心臓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用遠心ポンプ及び該医療用遠心ポンプを有する人工補助心臓に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓等、臓器の機能不全等に陥った患者の血液の循環を補助する装置として、人工補助心臓等、血液ポンプ装置が知られている。血液ポンプ装置には様々な種類が存在するが、例えば、インペラの回転による遠心力で流体を吸引・排出する遠心ポンプが用いられた血液ポンプ装置がある。この遠心ポンプ式の血液ポンプ装置の一例として、特許文献1には、血液流入ポートと血液流出ポートを有するハウジングと、該ハウジング内で回転し、回転時の遠心力によって血液を送液するインペラを有する遠心式血液ポンプ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−206372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、血液等の体液はタンパク質を含んでおり、インペラの回転のために生じる熱によって、インペラと、ポンプ室内の内壁や軸との間に入り込んだタンパク質が熱変性を生じて、インペラの回転不良を生じるおそれがある。すなわち、インペラとポンプ室の内壁との間の狭い隙間に血液が入り込み、インペラを回転させる電動モータの熱や、インペラ回転時の摩擦等により、狭い隙間内で血液中のタンパク質が熱変性してしまうと、インペラが回転し難くなるおそれがある。したがって、インペラが回転不良となる可能性を低減させる必要がある。
【0005】
そこで、本発明はかかる問題点に鑑みて、タンパク質の熱変性による回転不良を防止する医療用遠心ポンプ及び人工補助心臓の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の医療用遠心ポンプは、回転軸と、前記回転軸を回転させる駆動部を有するポンプ基体と、吸入口と吐出口とを有し、前記ポンプ基体とで前記吸入口から吸入した体液が流入するポンプ室を形成するハウジングと、前記ポンプ室内に収容され、前記回転軸を軸とするインペラとを備えた遠心ポンプであって、前記ポンプ基体に磁気発生源を有し、前記回転軸は前記ポンプ基体から前記ポンプ室に突出し、回転可能に前記ポンプ基体に軸支され、前記ポンプ基体、前記回転軸、及び前記インペラとの間に形成された間隙のうち、少なくとも1箇所に磁性流体が配置されることを特徴とする。
【0007】
また、前記駆動部がモータであり、前記磁気発生源が前記モータであることが好ましい。
【0008】
また、前記ポンプ基体と前記インペラとの間に形成された間隙のうち、前記インペラの外周側に前記磁性流体が配置されることが好ましい。
【0009】
また、本発明の人工補助心臓は、上記医療用遠心ポンプを有し、前記駆動部がモータであり、前記ポンプ基体及び前記ハウジングが体内に埋め込み可能に形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の医療用遠心ポンプ及び人工補助心臓によれば、磁性流体により、インペラにより形成された間隙をシールすることで、タンパク質の熱変性によるインペラの回転不良を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の医療用遠心ポンプの一実施形態を模式的に示した部分断面図である。
【
図2】本発明の医療用遠心ポンプの他の実施形態の一部を模式的に示し、二重構造の回転軸とインペラとの間に磁性流体が配置された部分断面図である。
【
図3】
図1の医療用遠心ポンプのハウジングを外した状態で、ポンプ基体及びインペラを
図1中、上側から見た上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照し、本発明の医療用遠心ポンプ及び人工補助心臓について詳細に説明する。
【0013】
図1に示されるように、本実施形態の医療用遠心ポンプ1は、回転軸2と、回転軸2を回転させる駆動部3を有するポンプ基体4と、吸入口Iと吐出口Oとを有し、ポンプ基体4とで吸入口Iから吸入した体液が流入するポンプ室Cを形成するハウジング5と、ポンプ室C内に収容され、回転軸2を軸とするインペラ6とを備えている。
【0014】
医療用遠心ポンプ1は、吸入口Iから吸入した体液を吐出口Oから吐出し、血液等の体液を送出する。医療用遠心ポンプ1は、例えば、人工補助心臓や人工心肺装置等、血液等の体液を循環させるために用いることができる。人工補助心臓が医療用遠心ポンプ1を有する場合、駆動部3をモータとし、ポンプ基体4及びハウジング5を体内に埋め込み可能に形成した、埋め込み型の人工補助心臓とすることができる。
【0015】
ポンプ基体4は、医療用遠心ポンプ1の駆動部3を収容する。駆動部3は、例えば電動モータであり、磁力により駆動されるロータ(図示せず)により回転力を生じさせ、回転軸2を回転させる。ポンプ基体4は、回転軸2が挿通される回転軸挿通部41を有し、回転軸挿通部41に挿通された回転軸2はポンプ基体4からポンプ室Cに突出し、例えば図示しない軸受等により、回転可能にポンプ基体4に軸支されている。
【0016】
ポンプ室Cに突出した回転軸2が駆動部3により駆動されると、インペラ6が回転する。回転軸2とインペラ6とは、一体的に形成されてもよいし、それぞれを別体として形成した後、互いに接続されてもよい。また、回転軸2は駆動部3の駆動により回転するものであればよく、内部が中実であってもよいし、内部を中空としてもよい。また、
図2に示されるように、回転軸2を、軸本体21と、軸本体21の周りに形成された筒状体22とを備えた二重構造としてもよく、筒状体22の内部を軸本体21が回転するように構成し、ポンプ基体4の回転軸挿通部41に挿通するようにしてもよい。
【0017】
ポンプ基体4は、磁気透過性の非磁性体から形成される。ポンプ基体4は、
図1及び
図3に示される実施形態では、略円筒状に形成されているが、ポンプ基体4の形状は特に限定されるものではない。また、ポンプ室Cの一部となるポンプ基体4の上面4a(インペラ6の基部61の底面61aと対向する面)は、
図1では平面状に示されているが、インペラ6の形状に応じて傾斜させても構わない。
【0018】
ハウジング5は、ポンプ基体4とともに、血液等の体液が流入するポンプ室Cを形成する。ポンプ室Cは、例えばハウジング5と、ポンプ基体4とを液密に接続することにより形成してもよいし、ハウジング5をポンプ基体4と一体に形成しても構わない。本実施形態では、ハウジング5は、ポンプ室Cに体液を吸入するための吸入口Iと、吸入口Iから吸入した体液が、インペラ6により送出される吐出口Oとを有し、吸入口Iと吐出口Oとの間にポンプ室Cが形成される。ハウジング5の形状は、吸入口I及び吐出口Oを有し、インペラ6を収容することができ、血液等の体液を満たして目的とする機能を発揮するポンプ室を形成できれば特に限定されない。
【0019】
ポンプ室C内に収容されるインペラ6は、吸入口Iから流入する体液を吐出口Oから送出する。インペラ6は、駆動部3により回転軸2が回転することにより、回転軸2の軸周りに回転する。本実施形態では、インペラ6は、
図3に示されるように、ポンプ基体4の上面4aと対向する略円板状の基部61と、基部61上に設けられた複数の翼62とを有し、インペラ6の回転時に、翼62により吐出口O側に体液を送出する。なお、インペラ6の基部61の形状や、インペラ6の翼62の形状、枚数等は、
図1及び
図3に示す実施形態に限定されるものではない。
【0020】
ポンプ室C内にインペラ6が配置された医療用遠心ポンプ1には、ポンプ基体4、回転軸2、及びインペラ6との間、すなわち、ポンプ基体4とインペラ6との間に間隙S1が、ポンプ基体4と回転軸2との間に間隙S2が、
図2に示されるような回転軸2を二重構造とした場合等には、回転軸2とインペラ6との間に間隙S3(
図2参照)が形成されることがある。また、機械的なシール部材を有する場合には、特に回転する2つの部材間において、ポンプ基体4、回転軸2、及びインペラ6との間に、わずかな隙間(例えば0.5〜2.5μm)が必要となる。これらの隙間には血液等、タンパク質を含む体液が浸入する可能性がある。そのため、本発明の医療用遠心ポンプ1は、ポンプ基体4に磁気発生源を有し、ポンプ基体4、回転軸2、及びインペラ6との間に形成された間隙のうち、少なくとも1箇所に磁性流体7が配置されている。
【0021】
磁性流体7は、ポンプ基体4の磁気発生源により吸着され、所定の位置でポンプ基体4、回転軸2、及びインペラ6との間に形成された間隙や、それらの間に設けられた互いに回転するシール部材の間に形成された間隙をシールする。磁性流体7は、体液のうち、タンパク質など熱により固着する成分が間隙内に入り込まないようにシールすることができればよい。例えば
図3に示されるように、磁性流体7が環状に配置されるように、磁気発生源を配置することが好ましい。磁気発生源としては、例えば、駆動部3がモータである場合に、モータを磁気発生源とすることができる。なお、磁性流体7と磁気発生源との磁力の関係に影響を及ぼさないように、ハウジング5及び/又はポンプ基体4を非磁性体として構成することもできる。
【0022】
磁気発生源、例えばモータに用いられる永久磁石(又は電磁石)等により、磁性流体7をシールが必要な所定の位置で吸着して、間隙S1〜S3の少なくとも1箇所又は全てをシールすることができる。このため、ポンプ室C内に流入した血液等の体液が間隙S1〜S3に浸入することを抑制することができる。したがって、タンパク質を含む体液由来の物質が熱変性してインペラ6の回転に対する抵抗が増大することを抑制することができ、インペラ6の回転不良や、吐出口Oから送出する体液の流量の低下を抑制することができる。通常、ポンプ室C内において、ポンプ基体4、回転軸2、及びインペラ6との間に形成された間隙は非常に狭く、間隙に入り込む血液等の体液は少量で、循環することもないため、熱を分散することができず、多量で循環している体液よりもタンパク質が熱変性しやすい。この非常に狭い間隙に体液が入り込むことを抑制することで、タンパク質の熱変性によるインペラ6の回転不良を防止して、より安全な医療用遠心ポンプ1とすることができる。
【0023】
また、
図1及び
図3に示されるように、ポンプ基体4とインペラ6との間に形成された間隙S1のうち、インペラ6の外周側に磁性流体7を配置することが好ましい。この場合、間隙S1内に入り込む体液の量をより減らすことができるため、よりタンパク質の熱変性の可能性を低減させることができる。インペラ6の外周側に磁性流体7を配置するためには、例えばインペラ6の底面61aの外周側に対向する位置に、永久磁石等の磁気発生源を設ければよい。なお、上記実施形態では、モータを磁気発生源としたが、モータとは別に、永久磁石等の磁気発生源をポンプ基体4の所定の位置に配置しても構わない。
【0024】
また、ポンプ基体4及び/又はインペラ6に、磁性流体7が間隙S1から漏出することを抑制する漏出抑制部を設けてもよい。漏出抑制部を設けることにより、磁性流体7が間隙S1から漏出することを抑制して、血液等の体液に磁性流体7が混入して循環することを抑制することができる。なお、漏出抑制部として、基部61の底面61aにおける外周の縁に、ポンプ基体4の上面4aに向かって突出する突部を環状に設けて、物理的手段により磁性流体7が漏出することを防止してもよく、磁力により制御する磁性体配置により磁性流体7が漏出することを防止してもよい。
【0025】
また、インペラやモータ等に起因する熱を冷却するための循環冷却液を、ポンプ基体4内に供給する供給路を設けても構わない。インペラ6と回転軸2との境界に循環冷却液を供給した場合においては、体液と循環冷却液との界面となる位置を磁性流体7によりシールしてもよい。この場合、体液と循環冷却液とをシールすることができるので、冷却液の成分が体液に混入することも抑制することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 医療用遠心ポンプ
2 回転軸
21 軸本体
22 筒状体
3 駆動部
4 ポンプ基体
41 回転軸挿通部
4a ポンプ基体の上面
5 ハウジング
6 インペラ
61 基部
61a 基部の底面
62 翼
7 磁性流体
C ポンプ室
I 吸入口
O 吐出口
S1 ポンプ基体とインペラとの間の間隙
S2 ポンプ基体と回転軸との間の間隙
S3 回転軸とインペラとの間の間隙