(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであって、試料中の成分の測定に使用され、酸化発色試薬が溶解されている発色試薬溶液を保管するに際し、その発色試薬溶液のバックグラウンド上昇を抑制するための方法、バックグラウンド上昇が抑制された発色試薬溶液、その発色試薬溶液を含む試薬キット、およびその試薬キットを使用して試料中の成分を測定するための測定装置を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0011】
本発明の第1の側面により提供される発色試薬溶液のバックグラウンド上昇を抑制するための方法は、試料中の成分の測定に使用され、酸化発色試薬が溶解されている発色試薬溶液を保管する際に生じるバックグラウンド上昇を抑制するための方法であって、前記発色試薬溶液の水素イオン指数を強酸性に調整する調整工程、を有していることを特徴としている。
【0012】
好ましくは、前記調整工程において、前記発色試薬溶液の水素イオン指数は、2.9以下または2.1以下に調整される構成とされている。
【0013】
好ましくは、前記発色試薬溶液は、酸化ストレス度を測定するのに使用される構成とされている。
【0014】
好ましくは、前記酸化発色試薬は、フェニレンジアミン誘導体である構成とされている。
【0015】
好ましくは、前記フェニレンジアミン誘導体は、p−フェニレンジアミン誘導体である構成とされている。
【0016】
好ましくは、前記p−フェニレンジアミン誘導体は、下記の一般式(I)で表わされる化合物またはその塩から選択される構成とされている。
【化1】
[一般式(I)中、R
1、R
2、R
3、およびR
4は、各々独立に、水素原子、メチル基、エチル基、イソプロピル基、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基、フェニル基、またはハロゲン基を表す。]
【0017】
本発明の第2の側面により提供される発色試薬溶液は、試料中の成分の測定に使用され、酸化発色試薬が溶解されている発色試薬溶液であって、水素イオン指数が強酸性に調整されていることを特徴としている。
【0018】
好ましくは、前記発色試薬溶液は、水素イオン指数が、2.9以下または2.1以下に調整される構成とされている。
【0019】
好ましくは、前記発色試薬溶液は、酸化ストレス度を測定するのに使用される構成とされている。
【0020】
好ましくは、前記酸化発色試薬は、フェニレンジアミン誘導体である構成とされている。
【0021】
好ましくは、前記フェニレンジアミン誘導体は、p−フェニレンジアミン誘導体である構成とされている。
【0022】
好ましくは、前記p−フェニレンジアミン誘導体は、下記の一般式(I)で表わされる化合物またはその塩から選択される構成とされている。
【化1】
[一般式(I)中、R
1、R
2、R
3、およびR
4は、各々独立に、水素原子、メチル基、エチル基、イソプロピル基、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基、フェニル基、またはハロゲン基を表す。]
【0023】
本発明の第3の側面により提供される試薬キットは、試料中の成分の測定に使用される試薬キットであって、本発明の第2の側面により提供される発色試薬溶液を含むことを特徴としている。
【0024】
好ましくは、前記試薬キットは、前記発色試薬溶液を希釈するための希釈液を更に含んでおり、前記希釈液は、緩衝剤により呈色反応に適した所定の水素イオン指数に調整されており、前記発色試薬溶液の水素イオン指数は、前記希釈液によって希釈されることにより、前記希釈液の前記所定の水素イオン指数に変化する構成とされている。
【0025】
本発明の第4の側面により提供される測定装置は、試料中の成分の測定に使用される測定装置であって、第3の側面により提供される試薬キットを使用して測定を行うように構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一態様を採用することによれば、試料中の成分を測定するのに使用され、酸化発色試薬が溶解された発色試薬溶液のバックグラウンドの上昇を抑制することができる。その結果、酸化発色試薬を溶液状態で保管することが可能となる。これにより、試料中の成分の測定を行う際に、酸化発色試薬を溶解する手間が省けるので、測定作業者にとって便利である。
【0027】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、明らかとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。なお、本発明において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。また、以降の説明において、上下方向などの方向は、図面の記載にしたがったものとする。
【0030】
[測定システム]
図1は、本発明が適用された発色試薬溶液、その発色試薬溶液を含むカートリッジ、およびそのカートリッジを用いて生体中の酸化ストレス度を測定するための測定装置を具備する測定システムの一例を示している。測定システムAは、カートリッジ1および測定装置2を具備している。カートリッジ1は、例えば、診療所や、病院の病棟に設置されている小型の測定装置2にセットして、試料Sに含まれる成分の量を測定するのに使用される。試料S中の成分としては、具体的には、例えば、ヒドロペルオキシド(R−OOH)が挙げられる。このヒドロペルオキシドは、生体内の脂質、蛋白質、アミノ酸、核酸などが、活性酸素・フリーラジカルにより酸化を受けて生じたものである。測定によって得られたヒドロペルオキシド濃度は、生体内の酸化ストレス度を総合的に評価するのに用いられる。試料Sとしては、具体的には、例えば、全血、血漿、血清、尿、唾、間質液などの生体試料が挙げられる。これらの試料Sは、そのまま適用してもよいし、希釈液RS4で希釈して適用してもよい。
【0031】
[カートリッジ]
図1および
図2に示すように、カートリッジ1は、複数の槽、測光セル、チップ装填箇所などが一体化されたものである。カートリッジ1は、本発明でいう試薬キットの一例に相当するものである。カートリッジ1は、例えば、ポリスチレンを材料として、射出成型により製造される。カートリッジ1は、測光セル12において、可視光線または紫外線を透過させる。これより、カートリッジ1の材料として、ポリスチレンの他に、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネートなどが使用される。カートリッジ1は、ヒドロペルオキシド濃度を測定するのに必要な試薬を全て含んでいる。このカートリッジ1は、製造後、冷蔵して輸送・保管される。冷蔵条件として、例えば、4℃以下が挙げられる。
【0032】
カートリッジ1は、試料槽10、発色試薬溶液槽11、測光セル12、希釈槽13、希釈液槽14、洗浄液槽15、およびチップ装填箇所16を有している。カートリッジ1の上面18には、シール(図示略)が貼り付けられている。このシールは、アルミシール、アルミ箔を備えた多層フィルム、または合成樹脂フィルム製であり、少なくとも、発色試薬溶液槽11、希釈液槽14、および洗浄液槽15を覆っている。
【0033】
試料槽10は、試料Sを分注するための槽である。測定作業者は、測定時、ピペットなどを用いて、試料Sを試料槽10に分注する。試料Sは、例えば、50μL分注される。発色試薬溶液槽11は、酸化発色試薬が溶解された発色試薬溶液RS1を充填し、保管するための槽である。発色試薬溶液槽11には、例えば、200μLの発色試薬溶液RS1が充填されている。測光セル12は、発色試薬溶液RS1と試料Sとが混合された測定液RS2を収容し、酸化発色試薬が酸化される反応によって生じる呈色を測定するための部分である。希釈槽13は、試料Sを希釈液RS4により希釈し、希釈試料RS3を生成するための槽である。希釈液槽14は、試料Sを希釈するために使用する希釈液RS4を充填するための槽である。希釈液槽14は、希釈液RS4を保管するための容器として機能する。希釈液槽14には、希釈液RS4が、例えば、400μL充填されている。洗浄液槽15は、チップ17を洗浄するための洗浄液RS5を充填するための槽である。洗浄液槽15には、洗浄液RS5が、例えば、400μL充填されている。チップ17は、試料S、発色試薬溶液RS1、希釈液RS4を、充填された槽から他の槽に移し替えたり、これらの液を混合する際に撹拌したりするのに用いられる。チップ装填箇所16は、チップ17を装填し、保持するための箇所である。チップ装填箇所16は、廃液槽としても使用され、不要になった液が廃棄される。
【0034】
[発色試薬溶液]
発色試薬溶液槽11に充填された発色試薬溶液RS1は、酸化発色試薬が溶媒に溶解された液状試薬である。溶媒としては、例えば、水が使用される。発色試薬溶液RS1において、酸化発色試薬の濃度は、測定液RS2中で最終的に、0.2〜8mMまたは0.4〜6.4mMになるように調整される。酸化発色試薬は、酸化されると分子内に発色団を生じることにより呈色する。そのため、酸化発色試薬の濃度は、発色試薬溶液RS1において、例えば、0.24mM〜9.6mMまたは0.48mM〜7.68mMに調整される。酸化発色試薬は、酸化されることによりセミキノン色素やキノン色素となって発色する。酸化発色試薬として、フェニレンジアミン誘導体が使用される。特に、p−フェニレンジアミン誘導体が、好ましく使用される。p−フェニレンジアミン誘導体は、特に、下記一般式(I)で表される化合物またはその塩である。
【0036】
一般式(I)において、R
1、R
2、R
3、およびR
4は、各々独立に、水素原子、メチル基、エチル基、イソプロピル基、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基、フェニル基、またはハロゲン基である。炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基として、例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基が挙げられる。ヒドロキシエチル基の例として、2−ヒドロキシエチル基が挙げられる。
【0037】
特に、一般式(I)において、R
1、R
2、R
3、およびR
4のうち少なくとも1つは、メチル基、エチル基、イソプロピル基、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基、フェニル基、またはハロゲン基である。
【0038】
または、R
1、R
2、R
3、およびR
4のうち2つ以上は、各々独立に、メチル基、エチル基、イソプロピル基、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基、フェニル基、またはハロゲン基である。特に、R
1、R
2、R
3、およびR
4のうち2つ以上が、各々独立に、イソプロピル基、炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基、またはフェニル基を表す場合、同一の基が2つ以上であってもよいし、各々異なる2つ以上の基であってもよい。
【0039】
または、R
1、R
2、R
3、およびR
4のうち少なくとも1つは、フェニル基であり、かつR
1、R
2、R
3、およびR
4のうち少なくとも1つが炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基である。この場合、一般式(I)で表される化合物において、フェニル基が結合する窒素原子と、前記ヒドロキシアルキル基が結合する窒素原子とは、同一であっても、異なっていてもよい。
【0040】
または、一般式(I)で示すp−フェニレンジアミン誘導体は、上述した置換基R
1〜R
4のうちフェニル基以外の置換基をR
1〜R
4として有する化合物である場合には、一般式(I)で表される化合物の塩であってもよい。この塩の例としては、塩酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、または酢酸塩などが挙げられる。
【0041】
または、p−フェニレンジアミン誘導体は、一般式(I)において、R
1が水素原子であり、R
2が水素原子またはイソプロピル基であり、R
3が水素原子、エチル基、または炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基であり、R
4が炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基またはフェニル基である化合物である。この場合、一般式(I)において、R
1が水素原子であり、R
2が水素原子であり、R
3がエチル基または炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基であり、R
4が炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基である化合物の塩酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、または酢酸塩などが含まれる。
【0042】
上記したように、p−フェニレンジアミン誘導体には、一般式(I)において、R
1、R
2、R
3、およびR
4のうち少なくとも1つが炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基である化合物が含まれる。R
1、R
2、R
3、およびR
4のうち少なくとも1つが炭素数1〜4のヒドロキシアルキル基であるp−フェニレンジアミン誘導体は、酸化ストレス度測定用試薬として、高感度でシャープな吸収を示す。よって、このp−フェニレンジアミン誘導体により、より高精度な酸化ストレス度測定を行なうことが可能となる。
【0043】
また、上記したように、p−フェニレンジアミン誘導体には、一般式(I)において、R
1、R
2、R
3、およびR
4のうち少なくとも1つがフェニル基である化合物が含まれる。p−フェニレンジアミン誘導体のR
1、R
2、R
3、およびR
4のうち少なくとも1つがフェニル基である場合、その分子構造によって異同はあるが、酸化により呈色した色素は、420nm〜800nmの広範囲な波長領域に吸収波長を有する。
【0044】
このため、例えば、酸化ストレス度測定の生体試料として血液を用いる場合、ヘモグロビンなどの血液成分の存在に起因する干渉による影響を受けない長波長側の波長領域(例えば、600nm以上の領域)にも吸収波長を有する上記のp−フェニレンジアミン誘導体を選択することにより、高精度の酸化ストレス度測定が可能になる。
【0045】
また、測定感度は測定装置2の種類などにより変動が生じる場合があるが、このp−フェニレンジアミン誘導体は広範囲な波長領域に吸収波長を有することから、測定装置2に起因する感度変動を受けにくいという利点がある。特に、測定の光源としてLEDが用いられる場合、LEDのロット間差に起因して測定感度が変動する場合があるが、このような場合でも、このp−フェニレンジアミン誘導体を用いることにより、より精度の高い酸化ストレス度測定が可能になる。
【0046】
本発明における酸化発色試薬として、一般式(I)で表される化合物の塩を使用した場合は、発色試薬溶液を調製する際における溶媒への溶解性が向上するので、製造上便利である。
【0047】
図3に、酸化発色試薬であるp−フェニレンジアミン誘導体の具体例を示す。化学式(II)〜(X)は、それぞれ、N,N−ジエチル−1,4−フェニレンジアミン(II)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−1,4−フェニレンジアミン(III)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−1,4−フェニレンジアミン(IV)、N−イソプロピル−N’−フェニル−1,4−フェニレンジアミン(V)、N−フェニル−1,4−フェニレンジアミン(VI)、N−イソプロピル−N−フェニル−1,4−フェニレンジアミン(VII)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−1,4−フェニレンジアミン硫酸塩(VIII)、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−1,4−フェニレンジアミン硫酸塩(IX)、N,N−ジエチル−1,4−フェニレンジアミン硫酸塩(X)を示す。但し、本発明における酸化発色試薬は、これらに限定されるものではない。
【0048】
発色試薬溶液RS1は、水素イオン指数(pH)条件が強酸性になるように調整されている。発色試薬溶液RS1は、強酸を添加して水素イオン指数を調整することにより、強酸性とされる。強酸としては、無機強酸および有機強酸のいずれかが使用される。無機強酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸などが挙げられる。有機強酸としては、例えば、乳酸、酢酸、プロピオン酸、p−トルエンスルホン酸、グリシン、フタル酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、シュウ酸、酒石酸などが挙げられる。また、これらを混合して使用してもよい。
【0049】
発色試薬溶液RS1において、水素イオン指数は、強酸性に調整される。本発明において、強酸性とは、例えば、pH3.0未満である。具体的には、発色試薬溶液RS1において、水素イオン指数は、pH2.9以下(pH0〜pH2.9)、pH2.5以下(pH0〜pH2.5)、pH2.1以下(pH0〜pH2.1)、pH2.0以下(pH0〜pH2.0)、pH1.0〜pH2.9、pH1.0〜pH2.5、pH1.0〜pH2.1、pH1.0〜pH2.0、またはpH1.0未満になるように調整される。発色試薬溶液RS1は、水素イオン指数をチェックしながら、強酸を添加して調整される。本発明において、発色試薬溶液RS1の調整にあたり、水素イオン指数条件を強酸性としてから酸化発色試薬を溶解させてもよいし、水などの溶媒に酸化発色試薬を溶解させてから水素イオン指数条件を強酸性に調整してもよい。
【0050】
発色試薬溶液RS1は、強酸濃度を所定の濃度にすることにより、強酸性に調整してもよい。この場合、無機酸または有機酸の濃度は、例えば、0.1M以上、0.0001mM〜1.0M、0.01mM〜1.0M、および0.1M〜1.0Mのいずれかになるように添加される。
【0051】
調整が完了した発色試薬溶液RS1は、
図1および
図2に示すカートリッジ1の発色試薬溶液槽11に、例えば、200μLずつ充填される。
【0052】
[希釈液]
希釈液RS4は、試料Sを希釈するためのものである。また、希釈液RS4は、発色試薬溶液RS1を希釈するためのものである。試料Sが希釈液RS4によって希釈されると、希釈試料RS3が生成する。希釈試料RS3は発色試薬溶液RS1と混合され、測定液RS2が生成する。よって、結果的に、希釈液RS4は、発色試薬溶液RS1を希釈することになる。
【0053】
この希釈液RS4として、例えば、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、Tris−マレイン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)緩衝液、N−(2−アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)緩衝液、およびBis−Tris緩衝液などから選択して使用される。これらの緩衝液の内、酢酸緩衝液、MES緩衝液、またはTris−マレイン酸緩衝液が好ましく、酢酸緩衝液が更に好ましい。
【0054】
前記希釈液RS4の水素イオン指数は、pH3.6〜pH5.6またはpH4.6〜pH5.4の範囲に調整される。希釈液RS4に含まれる緩衝剤の濃度は、測定液RS2中で最終的に、100mM〜400mMまたは200mM〜400mMになるように調整される。そのため、緩衝剤の濃度は、希釈液RS4において、例えば、667mM〜2667mMまたは1333mM〜2667mMに調整される。発色試薬溶液RS1の水素イオン指数は、希釈液RS4により希釈される際に、前記緩衝剤の緩衝作用により、希釈液RS4の水素イオン指数に変化する。
【0055】
調整が完了した希釈液RS4は、
図1および
図2に示すカートリッジ1の希釈液槽14に、例えば、400μLずつ充填される。
【0056】
なお、発色試薬溶液RS1または希釈液RS4は、遷移金属塩を含んでいる。この遷移金属塩は、試料Sに含まれるヒドロペルオキシド群(R−OOH)から、アルコキシラジカル(R−O)およびペルオキシラジカル(R−OO)からなるフリーラジカルを生成させるために添加される。前記遷移金属塩として、例えば、硫酸鉄(II)(化学式FeSO
4)、硫酸銅(I)(化学式Cu
2SO
4)などが挙げられる。この内、硫酸鉄(II)がより好ましい。発色試薬溶液RS1または希釈液RS4中の遷移金属塩の濃度は、測定液RS2中で最終的に、0.0005mM〜0.06mMまたは0.001mM〜0.03mMの範囲になるように調整される。そのため、前記遷移金属塩は、発色試薬溶液RS1に含まれる場合は、例えば、0.0006mM〜0.072mMまたは0.0012mM〜0.036mMの範囲になるように調整される。一方で、前記遷移金属塩は、希釈液RS4に含まれる場合は、例えば、0.003mM〜0.4mMまたは0.007mM〜0.2mMの範囲になるように調整される。
【0057】
[チップ]
チップ17は、
図1および
図2に示すように、酸化ストレス度を測定するための準備の際に、測定装置2のノズル21(後述)の先端に装着され、チップ装填箇所16から取り外される。チップ17は、測定装置2のサンプリングポンプユニット21aの動作により、試料Sや発色試薬溶液RS1などを吸引し、排出する機能を有している。これにより、チップ17は、カートリッジ1内における各液の移し替えや吸引・排出による撹拌に用いられる。チップ17は、ポリプロピレンやポリエチレンなどの合成樹脂を用いて製造される。
【0058】
[測定装置]
測定装置2は、カートリッジ1を用いて生体内の酸化ストレス度を測定するためのものである。
図1および
図2に示すように、測定装置2は、制御部20、ノズル21、測光ユニット22、および温調ブロック23を具備している。
【0059】
制御部20は、測定装置2の動作処理を制御するためのものである。
図1に示すように、制御部20は、制御線24を介して、サンプリングポンプユニット21a、ノズル駆動ユニット21b、測光ユニット22、温調ブロック23などと接続されている。制御部20は、CPUとメモリとを有している。上記のサンプリングポンプユニット21aなどの構成要素と前記CPUとの間には、必要に応じてインターフェース回路が配置される。前記CPUは、前記メモリに記憶されているプログラムを実行することにより、測定装置2の動作処理を制御する。前記メモリは、ROM領域とRAM領域とを備えている。前記ROM領域は、測定装置2の動作処理プログラム、パラメータ、検量線等を格納している。前記RAM領域は、動作処理プログラム等の他、測光ユニット22によって取得されたデータを一時的に記憶する。制御部20は、このデータに基づいて、吸光度を算出する。制御部20は、前記ROM領域に記憶された検量線を用いて、前記吸光度から試料S中のヒドロペルオキシド濃度を算出し、更には酸化ストレス度を算出する。また、制御部20は、前記吸光度を直接表示することもできるように構成されている。
【0060】
図1に示すように、ノズル21は、サンプリングポンプユニット21aおよびノズル駆動ユニット21bにより、動作を行うように構成されている。制御部20は、サンプリングポンプユニット21aおよびノズル駆動ユニット21bの動作を制御することにより、ノズル21の動作を制御する。
【0061】
ノズル21は、先端にチップ17を装着し、カートリッジ1内の槽から吸引した液を他の槽に分注したり、混合した液を吸引・排出により混和したりするためのものである。ノズル21は、測定装置2にセットされたカートリッジ1の上面18に貼り付けられたシール(図示略)を開封する機能をも有する。ノズル21は、例えばステンレスなどで形成されており、前記シールを突き破って孔を開けるように構成されている。
【0062】
酸化ストレス度測定に必要な槽や測光セルなどの開口部に孔を開けた後、ノズル21は、その先端部をチップ装填箇所16に装填されているチップ17に挿入し、チップ装填箇所16からチップ17を引き抜く。このことにより、ノズル21にチップ17が装着される。ノズル21は、ノズル駆動ユニット21bにより、カートリッジ1の上面18上を矢印N1で示す方向に目的の位置まで水平移動し、更に矢印N2で示す方向に上下動するように構成されている。チップ17が装着されたノズル21は、目的の槽の位置まで移動し、下降することにより、チップ17の先端部を前記槽内の液面に到達させる。ノズル17は、サンプリングポンプユニット21aの動作により、槽または測光セル内の液をチップ17内に吸引する。その後、ノズル21は、目的とする別の槽または測光セルまで移動し、チップ17中に吸引された前記液をそれらに分注して、移し替える。
【0063】
測光ユニット22は、測光セル12中の測定液RS2の呈色を測定するために使用される。
図1に示すように、測光ユニット22は、発光部22aおよび受光部22bを有している。発光部22aと受光部22bとは、カートリッジ1が測定装置2内にセットされたときに、測光セル12を挟むように、対向して配置されている。発光部22aは、LED(図示略)を有しており、例えば510nmの光を矢印N3で示す方向に照射する。一方、受光部22bは、フォトダイオード(図示略)を有しており、発光部22aから発せられ、測光セル12を通過した光を受光する。測光ユニット22におけるこのような発光、受光の制御は、制御部20によって行われる。
【0064】
温調ブロック23は、カートリッジ1を酸化ストレス度の測定に適した温度に調節するためのものである。温調ブロック23には、ヒータ(図示略)が組み込まれている。制御部20は、前記ヒータのオン・オフを制御することにより、カートリッジ1の温度が所定の範囲になるように制御する。制御部20は、カートリッジ1を、例えば37℃になるように制御する。
【0065】
[酸化ストレス度の測定]
ここで、
図4に示すフロー図により、カートリッジ1および測定装置2を使用して、酸化ストレス度の測定を行なう手順の一例を説明する。測定装置2の動作は、制御部20によって制御される。酸化ストレス度を測定するd−ROMsテスト(Reactive Oxygen Metabolites)においては、生体の活性酸素・フリーラジカルが直接計測されるのではない。それらにより生じたヒドロペルオキシド(R−OOH)濃度が呈色反応を用いて測定され、生体内の酸化ストレス度が総合的に評価される。なぜなら、ヒドロペルオキシド(R−OOH)は、活性酸素・フリーラジカルによって酸化反応を受けた脂質、蛋白質、アミノ酸、核酸などの総称であり、酸化ストレス度のマーカーとなるからである。
【0066】
図2に示すように、カートリッジ1の発色試薬溶液槽11、希釈液槽14、洗浄液槽15には、それぞれ規定量の発色試薬溶液RS1、希釈液RS4、洗浄液RS5が充填されている。測定作業者は、ピペットなどを用いて試料槽10に、例えば、試料50μLを分注する。この例では、試料Sとして例えば血漿が用いられる。次に、測定作業者は、測定装置2へカートリッジ1をセットする。次に、測定作業者は、測定装置2の蓋(図示略)を閉めて、スタートボタン(図示略)を押す。これ以降、測定装置2が、自動的に動作し、酸化ストレス度を測定する。
【0067】
ノズル21が、
図2において矢印で示すように下降して、チップ装填箇所16に装填されているチップ17を先端に装着する(S1)。チップ17を装着したノズル21は、矢印N1で示すように各槽間を移動し、各槽において矢印N2で示すように上下動する。チップ17を装着したノズル21は、カートリッジ1上を希釈液槽14まで移動し、希釈液RS4を吸引する。その後、ノズル21は、希釈槽13に移動し、126μLの希釈液RS4を希釈槽13に分注する(S2)。その後、ノズル21は、試料槽10に移動し、試料Sを吸引した後、希釈槽13へ移動し、14μLの試料を希釈槽13へ分注する(S3)。その後、ノズル21は、洗浄液槽15へ移動し、洗浄液RS5を吸引・排出してチップ17の先端および内部を洗浄する(S4)。
【0068】
希釈液RS4は、酢酸緩衝液であり、水素イオン指数がpH5.0に調整されている。これにより、試料の水素イオン濃度が安定化される。更に、希釈液RS4中には、遷移金属塩として、硫酸鉄(II)(FeSO
4)が、測定液RS2中で最終的に、0.03mMになるように含まれている。そのため、希釈液RS4中の遷移金属塩の濃度は、例えば、0.2mMに調整されている。遷移金属塩の働きにより、生体中での酸化の過程で形成されたヒドロペルオキシド群(R−OOH)から、アルコキシラジカル(R−O)およびペルオキシラジカル(R−OO)からなるフリーラジカルが生成する。
【0069】
次に、ノズル21は、発色試薬溶液槽11の位置まで移動し、発色試薬溶液RS1を吸引した後、150μLの発色試薬溶液RS1を測光セル12へ分注する(S5)。次に、ノズル21は、希釈槽13に移動し、希釈試料RS3を吸引した後、測光セル12の位置に移動し、30μLの希釈試料RS3を測光セル12へ分注する(S6)。これにより、測定液RS2の液量は、180μlとなる。ノズル21は、測光セル12中の発色試薬溶液RS1と希釈試料RS3とが混合した測定液RS2を吸引・排出することにより、撹拌する(S7)。温調ブロック23は、測光セル12を5分間37℃で保温する。その後、測光ユニット22が、510nmの吸光度を測定する(S8)。制御部20は、前もって設定された検量線を用いて、前記吸光度からヒドロペルオキシド濃度を算出する(S9)。制御部20は、最終的に、前記ヒドロペルオキシド濃度から酸化ストレス度を算出する。
【0070】
発色試薬溶液RS1には、酸化発色試薬としてN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−1,4−フェニレンジアミン硫酸塩が溶解されており、例えば、硫酸を添加することにより、強酸性とされている。酢酸緩衝液を含む希釈試料RS3が添加された時点で、測定液RS2の水素イオン指数は、呈色反応に適したpH5.0に変化する。この酸化発色試薬は、測光セル12中で、フリーラジカルに触れると酸化され、フリーラジカルの量に応じてラジカル陽イオンに変化し、赤紫色に呈色する。赤紫色の呈色の強さは血中にあるヒドロペルオキシドの濃度を反映し、活性酸素・フリーラジカルの影響を受けた細胞、分子の副産物である活性酸素代謝物(ROMs)の量と直接的に比例する。
【0071】
なお、試料Sとして、全血を測定する場合には、酸化発色試薬として、一般式(I)のR
1、R
2、R
3、およびR
4のうち少なくとも1つがフェニル基である化合物を使用することができる。上記したように、この構造を有する酸化発色試薬が酸化により呈色した場合、420nm〜800nmの広範囲な波長領域に吸収波長を有する色素が生じる。これにより、ヘモグロビンの吸収を避けた測定波長で、測定ができる。その測定波長として、例えば600nm以上の波長が採用される。
【0072】
以上のように、本実施形態によれば、発色試薬溶液RS1は、強酸性とされている。これにより、溶解されているp−フェニレンジアミン誘導体などの酸化発色試薬が安定化されるため、酸化発色試薬が溶解された発色試薬溶液RS1のバックグラウンドの上昇を抑制することができる。この際、酸化発色試薬の反応性は、劣化することなく、維持される。よって、酸化発色試薬を液状試薬として調整・輸送・保管することが可能となる。このことにより、酸化ストレス度を測定する直前に、酸化発色試薬を溶媒に溶解する手間が省けるので、測定作業者にとって便利である。また、迅速に、精度の良い測定データを得ることが可能となる。
【0073】
測定に自動測定装置を使用する場合、酸化ストレス度を測定する直前に乾燥酸化発色試薬を水などの溶媒に溶解する動作を、前記自動測定装置が実行する仕様とされている場合がある。このような自動測定装置においては、前記乾燥酸化発色試薬の再溶解を十分に行うことが、測定精度を確保する上で重要な要因となる。しかしながら、前記乾燥酸化発色試薬の溶解が前記自動測定装置によって十分に行われないため、測定精度が悪化する場合がある。これに対し、本実施形態によれば、測定装置2による乾燥酸化発色試薬の溶解が必要ないので、測定装置2に対する負担が少なくなる。測定装置2の製造コストの削減に寄与することもできる。また、酸化発色試薬が完全溶解した発色試薬溶液RS1をそのまま使用できるので、測定精度を良い状態に保つことができる。よって、本実施形態の発色試薬溶液RS1は、自動的に酸化ストレス度の測定を行う測定装置2に使用するのに適している。
【0074】
凍結乾燥試薬などの乾燥試薬を製造するには、酸化発色試薬を溶解した溶解液を精度よく分注する分注設備が必要であったり、凍結乾燥設備が必要であったりする。本実施形態によれば、酸化発色試薬を液状試薬として調整・輸送・保管できるので、酸化ストレス度測定用カートリッジ1を製造するに際し、特別な分注設備や乾燥設備が必要ない。このことにより、酸化ストレス度測定用カートリッジ1の製造コストの低減を図ることができる。
【0075】
カートリッジ1は、発色試薬溶液RS1を希釈するための希釈液RS4を更に含んでおり、希釈液RS4は、緩衝剤により呈色反応に適した所定の水素イオン指数に調整されている。これにより、強酸性に調整された発色試薬溶液RS1の水素イオン指数は、希釈液RS4によって希釈されることにより、希釈液RS4の水素イオン指数に変化するようにされている。これにより、酸化ストレス度を精度良く測定することが可能である。
【0076】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係る発色試薬溶液のバックグラウンドの上昇抑制方法の工程の具体的な構成は、種々に変更自在である。同様に、本発明に係る発色試薬溶液、試薬キット、およびその試薬キットを使用する測定装置の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【0077】
本発明において、試薬キットは、複数の槽や測光セルを有するカートリッジ1に限らない。試薬キットには、酸化発色試薬が溶解された強酸性の発色試薬溶液を充填した容器と、遷移金属塩が溶解された、試料Sを希釈するための希釈液RS4を充填した容器とをセットにしたものも含まれる。
【0078】
また、本発明において、測定装置は、カートリッジ1を測定する測定装置2に限らない。ボトルから試薬を吸引し、その試薬をボトルとは別体として準備した測光セルに分注し、呈色の変化を測定する測定装置も含まれる。
【0079】
また、本発明において、酸化発色試薬は、フェニレンジアミン誘導体に限らない。酸化発色試薬は、テトラメチルベンチジンやオルトトリジンなどのベンチジン誘導体も含まれる。また、酸化発色試薬には、トリンダー試薬やフェノチアジン誘導体も含まれる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例に基づいて、本発明の効果を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0081】
[実施例1]
図5に示す処方に従い、比較発色試薬溶液(1)、(2)、発色試薬溶液(1)、(2)を調製した。発色試薬溶液(1)、(2)は、硫酸を添加することにより強酸性としたものである。酸化発色試薬として、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−1,4−フェニレンジアミン硫酸塩またはN−エチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−1,4−フェニレンジアミン硫酸塩を使用した。発色試薬溶液(1)、(2)における硫酸濃度は、0.1Mとした。なお、比較発色試薬溶液(1)、(2)は、硫酸を添加しないことを除き、発色試薬溶液(1)、(2)と同一の組成とした。
各試薬溶液の調整直後の着色を確認した後、40℃、14日間保管し、バックグラウンド着色の程度を目視にて比較した。着色が強いほど、バックグラウンド上昇が大きいことを示す。
【0082】
図6に示すように、調整直後においては、比較発色試薬溶液(1)、(2)、発色試薬溶液(1)、(2)とも透明であり、相違はなかった。40℃、14日間保管した後は、比較発色試薬溶液(1)、(2)はどちらも紫色に強く着色した。一方で、発色試薬溶液(1)、(2)は、それぞれ、わずかにピンクまたは透明であった。これにより、強酸性下で保管した方が、バックグラウンドの上昇が抑制されることが分かった。
【0083】
[実施例2]
図7に示す処方に従い、比較発色試薬溶液(3)および発色試薬溶液(3)〜(8)を調整した。酸化発色試薬として、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−1,4−フェニレンジアミン硫酸塩を使用した。酸化発色試薬の濃度は、3.2mMとした。強酸としては、硫酸、塩酸、乳酸、酢酸、プロピオン酸、p−トルエンスルホン酸を使用した。それぞれの強酸を添加することにより、各発色試薬溶液の水素イオン指数を
図7に示すように調整した。各発色試薬溶液を40℃の条件で保管し、調整直後、3日目、7日目に、バックグラウンドの着色を測定した。測定は、発色試薬溶液(3)〜(8)を、個別に、カートリッジ1の測光セル12に分注し、測定装置2を510nmの吸光度を表示できるように設定して行った。なお、比較発色試薬溶液(3)の測定は、強酸を添加しないことを除き、発色試薬溶液(3)〜(8)と同一条件で行った。
【0084】
結果を
図8〜
図13に示す。
図8〜
図13は、それぞれ発色試薬溶液(3)〜(8)と比較発色試薬溶液(3)との比較結果である。各グラフにおいて、縦軸は510nmにおける吸光度を示し、横軸は40℃での保管日数を示す。吸光度の変化が大きいほど、バックグラウンド上昇が大きいことを示す。各発色試薬溶液のグラフは、強酸の種類にかかわらず同様の傾向を示した。すなわち、強酸の種類というよりも、水素イオン指数が低い保管条件ほど、バックグラウンド上昇の程度が小さくなる傾向がみられた。
【0085】
本発明のカートリッジは、冷蔵条件(4℃以下)での保存を前提としている。冷蔵による保存においては、40℃での保存よりも圧倒的に良好な保存安定性が見込まれる。冷蔵保存を想定した場合、比較発色試薬溶液(3)との比較から、比較的短期間であれば、pH2.9以下の条件で、バックグラウンドの着色が抑制され得ることが確認された。また、pH2.1以下の条件とすれば、長期間の保存でも、バックグラウンド上昇が、抑制され得ることが確認された。
【0086】
[実施例3]
図14に示す処方に従い、比較発色試薬溶液(4)および発色試薬溶液(9)を調整した。酸化発色試薬として、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−1,4−フェニレンジアミン硫酸塩を使用した。発色試薬溶液(9)において、酸化発色試薬の濃度は、3.2mMとした。強酸としては、p−トルエンスルホン酸を使用した。発色試薬溶液(9)におけるp−トルエンスルホン酸の濃度は、0.1Mになるように調整した。なお、比較発色試薬溶液(4)は、強酸を添加しないことを除き、発色試薬溶液(9)と同一条件とした。
【0087】
比較発色試薬溶液(4)および発色試薬溶液(9)を、40℃、14日間保管し、調整直後と保管後との反応性を比較した。
【0088】
測定に際し、試料Sとして、t−ブチルペルオキシド(t−BuOOH)の水溶液を使用した。t−ブチルペルオキシドは、ヒドロペルオキシド(R−OOH)の標準物質として用いられる。t−ブチルペルオキシド溶液は、最終的な測定液RS2における濃度(質量%)が、0%、0.025%、0.25%になるように調整した。
希釈液RS4は、最終的な測定液RS2において、酢酸緩衝液(pH5.0)の濃度が300mM、FeSO
4の濃度が0.03mMとなるように調整した。そのため、酢酸緩衝液(pH5.0)の濃度を、2000mMに調整した。また、FeSO
4の濃度を、前記酢酸緩衝液(pH5.0)において0.2mMになるように調整した。
【0089】
測定は、測定システムAを用いて、
図4に示す測定フローに従って行った。その際、測定装置2を510nmの吸光度を表示できるように設定した。
すなわち、カートリッジ1の発色試薬溶液槽11、希釈液槽14に、それぞれ規定量の発色試薬溶液(9)および前記酢酸緩衝液を充填した。また、試料槽10に前記t−ブチルペルオキシド溶液50μLを分注した。次に、カートリッジ1を測定装置2にセットし、測定をスタートさせた。測定装置2のノズル21は、チップ17を先端に装着し、希釈液槽14の前記酢酸緩衝液126μLを希釈槽13に分注した。次に、ノズル21は、試料槽10の前記t−ブチルペルオキシド溶液を吸引し、その14μLを希釈槽13へ分注した。
【0090】
その後、ノズル21は、発色試薬溶液槽11の発色試薬溶液(9)を吸引し、その150μLを測光セル12へ分注した。次に、ノズル21は、希釈槽13から前記t−ブチルペルオキシド溶液と前記酢酸緩衝液とからなる希釈試料RS3を吸引し、30μLの希釈試料RS3を測光セル12へ分注した。ノズル21は、吸引・排出により測光セル12中の液を撹拌し、混合液を測定液RS2とした。その後、温調ブロック23が測光セル12を5分間37℃で保温し、測光ユニット22が、510nmの吸光度を測定した。
比較発色試薬溶液(4)についても、同様に測定を行った。
【0091】
測定結果を
図15に示す。グラフにおいて、縦軸は510nmにおける吸光度を示し、横軸はt−ブチルペルオキシドの濃度を示す。発色試薬溶液RS1にp−トルエンスルホン酸を添加し、強酸性とした方が、吸光度が高く、保管後も良好な反応性を有していた。すなわち、強酸性条件とした発色試薬溶液(9)は、強酸性としていない比較発色試薬溶液(4)と比較して、バックグラウンド着色が抑制されると共に、酸化発色試薬の反応性も保持されていることが分かった。
【0092】
以上の通り、本発明によれば、酸化発色試薬が溶解された発色試薬溶液RS1をバックグラウンドの上昇を抑制して輸送・保管することができることが明らかとなった。