特許第6533101号(P6533101)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6533101
(24)【登録日】2019年5月31日
(45)【発行日】2019年6月19日
(54)【発明の名称】電流センサ
(51)【国際特許分類】
   G01R 15/20 20060101AFI20190610BHJP
【FI】
   G01R15/20 C
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-114175(P2015-114175)
(22)【出願日】2015年6月4日
(65)【公開番号】特開2017-3283(P2017-3283A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2017年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】田村 学
(72)【発明者】
【氏名】石松 健夫
(72)【発明者】
【氏名】白坂 正臣
(72)【発明者】
【氏名】末永 健
【審査官】 青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2005/0248005(US,A1)
【文献】 特開2013−205387(JP,A)
【文献】 特開2012−105060(JP,A)
【文献】 米国特許第05041780(US,A)
【文献】 特表2008−545964(JP,A)
【文献】 特開平09−318673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 15/00−19/32
G01R 33/00−33/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
面状に延在して基板の表面に設けられた接地導体と、
測定対象の電流路と前記接地導体との間に設けられた磁気センサと
を有し、
前記磁気センサは、前記基板の表面と平行な主感度軸を有し、
前記接地導体は、当該接地導体を形成する導体領域に囲まれた閉じた領域内に、渦電流の流れを抑制する細長い孔からなる抑制部を有し、
前記抑制部は、接地導体の面の法線方向から見て前記磁気センサと重なるように配置され、
前記抑制部の長手方向の長さが前記磁気センサより大きく、
前記磁気センサは、前記法線方向から見て前記抑制部の長手方向の両端間に配置され、
前記磁気センサの主感度軸の方向は、前記抑制部の長手方向に沿っている
電流センサ。
【請求項2】
前記抑制部は、前記電流路の電流方向と直交する方向に延在している
請求項1に記載の電流センサ。
【請求項3】
前記磁気センサは、前記主感度軸と直交する副感度軸を有し、
前記抑制部は、所定方向に延在する第1の前記抑制部と、前記所定方向と直交する方向に延在する第2の前記抑制部とを有し、前記第1の抑制部と前記第2の抑制部とは交差している
請求項1又は請求項2に記載の電流センサ。
【請求項4】
前記抑制部は、前記電流路の幅方向の中央に設けられている
請求項1〜のいずれか1つに記載の電流センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定電流によって生じる磁気を検出することにより、電流路を流れる被測定電流を検出する電流センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、特に電気自動車やハイブリッドカーにおけるモータ駆動技術などの分野では比較的大きな電流が取り扱われるため、これらの用途向けに大電流を非接触で測定可能な磁気抵抗効果素子を用いた電流センサが用いられてきている。
【0003】
このような電流センサとして、被測定電流によって生じる磁界の変化を、磁気検出素子を用いて検出するものがある。こうした電流センサでは、バスバーを流れる電流により生じる磁束を検出するための磁気センサが実装された基板に、導電性のシールド層を形成して、このシールド層を接地している。これにより、バスバーと磁気センサ間の浮遊容量に起因する磁気センサの検出誤差を防止し、そして電流の検出精度を高めている。
【0004】
その一方で、このようなシールド層による接地導体を基板に設けた場合、バスバーの通電量が変化して磁気センサを通過する磁束が変化したときに、この磁束の変化を打ち消すようにシールド層に渦電流が流れる。この渦電流によって生じる磁束が磁気センサの感磁面を透過して磁気センサによる磁気の検出レベルが増減し、電流の検出精度が下がってしまう。そこで、渦電流の発生を抑制するような接地導体及び基板の構造が考えられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−112510号公報
【特許文献2】特開2008−545964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、特許文献2にはシールド層にスリットを設けることにより、渦電流を抑制する構成が開示されている。しかしながら、磁気センサの検出する磁界の方向が基板に対して垂直方向である為、磁気センサが、シールド層に囲まれないように、スリットをシールド層の端まで延ばす必要がある。上述のように、バスバーと磁気センサ間の浮遊容量に起因するノイズを抑制するためにシールド層を設けているのであるから、検出素子と電流路の間にあまりに大きな空洞を設けてしまうと、ノイズを効果的に抑制できないという問題があった。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、電流路からの浮遊容量に起因するノイズを抑制する一方で、渦電流の発生を効果的に抑制し、それにより電流の検出精度が向上した電流センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る電流センサは、面状に延在して基板の表面に設けられた接地導体と、測定対象の電流路と前記接地導体との間に設けられた磁気センサとを有し、前記磁気センサは、前記基板の表面と平行な主感度軸を有し、前記接地導体は、当該接地導体を形成する導体領域に囲まれた閉じた領域内に、渦電流の流れを抑制する細長い孔からなる抑制部を有し、前記抑制部は、接地導体の面の法線方向から見て前記磁気センサと重なるように配置され、前記抑制部の長手方向の長さが前記磁気センサより大きく、前記磁気センサは、前記法線方向から見て前記抑制部の長手方向の両端間に配置され、前記磁気センサの主感度軸の方向は、前記抑制部の長手方向に沿っている。
【0009】
この構成によれば、磁気センサの主感度軸を基板の表面と平行な方向としたことで、磁気センサの外側を回る渦電流全体によって発生する合成磁束の影響を磁気センサが受けなくなる。また、磁気センサの主感度軸が抑制部の方向に沿っているので、磁気センサ近傍では、磁気センサの主感度軸方向と直交する方向に渦電流が発生せず、渦電流によって磁気センサの主感度軸方向の磁束が発生しない。また、この抑制部は導体領域に囲まれた閉じた領域内に形成されるので、接地導体に空ける穴を小さくでき、浮遊容量によるノイズの発生余地を最小限に留め、効果的に渦電流の流れを抑制することができる。
【0010】
つまり、従来は、磁気センサの主感度軸が基板の表面と垂直な前提で、渦電流全体によって発生する合成磁束の影響を考えていた為、接地導体に磁気センサの直下から接地導体の端にいたる長い孔を空ける必要があった。
一方、本発明では、磁気センサの主感度軸を基板の表面と平行にした上で、渦電流全体によって発生する合成磁束だけではなく、渦電流の内、センサ近傍の渦電流が発生する磁束の影響も考慮した為、従来よりも短い孔で、渦電流による誤差の発生を抑えることができる。
またこの構成によれば、抑制部が延在する方向が主感度軸の方向に沿っていることから、接地導体上で発生する渦電流が、主感度軸に沿った位置で横切ることを抑制する。したがって、渦電流が主感度軸を横切ることにより生ずる電流の検出精度の低下を防ぐことができる。
またこの構成によれば、接地導体に細長い孔が形成されるので、孔により渦電流の流れが抑制され、それにより電流の検出精度の低下を抑制することができる。
【0011】
また、この構成によれば、抑制部の位置が磁気センサの位置に対応付けられるので、磁気センサの位置に対応した位置の渦電流の交差を抑制することができる。
【0012】
好適には、本発明に係る電流センサは、前記抑制部は、前記電流路の電流方向と直交する方向に延在している。
【0013】
好適には、本発明に係る前記磁気センサは、前記主感度軸と直交する副感度軸を有し、前記抑制部は、前記所定方向に延在する第1の前記抑制部と、前記所定方向と直交する方向に延在する第2の前記抑制部とを有し、前記第1の抑制部と前記第2の抑制部とは交差している。
【0014】
この構成によれば、主感度軸に沿った抑制部と、副感度軸に沿った抑制部がそれぞれ設けられるので、各抑制部によって磁気センサ上の渦電流の交差を抑制することができる。
【0015】
好適には、本発明に係る前記抑制部は、前記電流路の幅方向の中央に設けられている。
【0016】
この構成によれば、接地導体のうちの電流路に近い位置に抑制部が設けられるので、測定対象となる磁界が大きく、したがって渦電流も大きくなる位置に抑制部が配置されることになり、渦電流が磁気センサに対応する位置を交差することを効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、渦電流の発生を効果的に抑制し、それにより電流の検出精度が向上した電流センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態の電流センサの電流路と磁気センサの位置関係を示す斜視図である。
図2】電流路と磁気センサの位置関係を示す平面図である。
図3】電流路と磁気センサの位置関係を示す側面断面図である。
図4】電流路と磁気センサの位置関係とともに主感度軸について説明する平面図である。
図5】本発明の実施形態の渦電流の流れについて説明する図である。
図6】抑制部を設けない場合の渦電流50について説明する図である。
図7】抑制部を設けた場合について説明する図である。
図8】他の実施の形態にかかる電流路と磁気センサの位置関係を示す側面断面図である。
図9】主感度軸と副感度軸について説明する平面図である。
図10】渦電流の流れについて説明する図である。
図11】第2の抑制部を設けた場合について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る電流センサについて説明する。図1は、電流路10と磁気センサ12の位置関係を示す斜視図である。電流路10を流れる電流の大きさを測定するために、電流路10の所定の箇所に電流センサ1が配置される。電流センサ1は、接地導体11、磁気センサ12、抑制部13、基板14、磁気シールド15を備える。
【0020】
電流路10は、バスバーとも呼ばれ、銅(Cu)等の導電性の良い材質が用いられ、 厚みに比べて幅が広い平板状に形成されている。電流路10の材質は銅(Cu)に限定されるものではなく、導電性の良い材質であれば良く、例えばアルミニウム(Al)等でも良い。電流路10の一方の端部が、車両用機器のスイッチング回路側に取付けられるとともに、他方の端部がモータ側の接続端子に取付けられる。
電源投入時には電流路10を電力供給用の大電流が流れ、これが被測定電流となる。本発明は特に車両用途に限定するものではないので、その他の電力供給用の機器に用いられる電流路にも適用できる。
【0021】
電流センサ1を構成する各要素の配置を説明する。電流路10を構成する平板に平行して、対向する位置に基板14が配置され、基板14と重ねられて接地導体11が配置される。接地導体11の位置は、電流路10に対して基板14の反対側である。基板14の接地導体11に対する反対側に磁気センサ12が設けられ、接地導体11には抑制部13が設けられる。そして、接地導体11、基板14を構成する面と垂直な面方向の、接地導体11、基板14の両側に磁気シールド15が設けられる。
【0022】
接地導体11はシールド層とも呼ばれ、面状に延在し、基板14の表面に設けられた金属からなり、接地されている。電流路10と基板14との間に生じうる浮遊容量の結果として基板14側に電荷が蓄積されるところ、接地導体11は、基板14に重ねられて配置されることにより蓄積される電荷を集め、接地されているので外部へ電荷を放出することにより、静電誘導ノイズの発生を抑制している。
【0023】
磁気センサ12は、測定対象の電流路10と接地導体11との間に設けられている。磁気センサ12は、電流路10に電流が流れたときに発生する磁界を検出する素子であって、例えば、巨大磁気抵抗効果を用いた磁気検出素子(GMR(Giant Magneto Resistive)素子という)を用いる。このGMR素子は、磁界の変化に応じてGMR素子における抵抗値が変化する性質を有しているので、磁気センサ12は、この抵抗値の変化から電流路10に流れる被測定電流を算出することにより、電流路10に流れる被測定電流を測定することができる。
なお、磁気センサ12内すべてがGMR素子によって形成されているわけではなく、磁気センサ12自体はICパッケージであり、その中にGMR素子部分が含まれる。磁気センサ12と接地導体11の配置は前記に限らず、電流路10と磁気センサ12との間に接地導体11が設けられていても良い。
【0024】
接地導体11には抑制部13が設けられている。すなわち接地導体11は、接地導体11を形成する導体領域に囲まれた閉じた領域内に、渦電流の流れを抑制する渦電流の流れを抑制する細長い孔からなる抑制部13を有する。抑制部13が形成する平面的な領域は接地導体11により囲まれており、抑制部13の端部は接地導体11の端まで延びていない。抑制部13は線上に延びており、その端は接地導体11により形成された閉じられた平面の内部にある。そして抑制部13は、接地導体11の面の法線方向から見て磁気センサ12と重なるように配置され、電流路10の幅方向の中央に設けられている。
【0025】
抑制部13は接地導体11に設けられたスリット、溝又は孔であり、貫通した孔として構成しても、貫通していない溝として構成していてもよい。抑制部13の幅は、磁気センサ12の幅よりも太く、抑制部13の溝の幅の中に磁気センサ12が配置される。それにより、後述する渦電流の影響を小さくできる。抑制部13の溝は、磁気センサ12を構成するICパッケージの1辺より少し長く、ICパッケージから溝が少しはみ出る程度とする。
【0026】
基板14は、一般に広く知られている両面のプリント配線板を用いており、ガラス入りのエポキシ樹脂のベース基板に、ベース基板上に設けられた銅(Cu)等の金属箔をパターニングして、回路を構成するための回路パターンを形成している。なお、基板14にガラス入りのエポキシ樹脂からなるプリント配線板を用いるが、これに限定されるものではなく、例えばセラミック配線板、フレキシブル配線板でも良い。
【0027】
磁気シールド15は、断面略U字形に磁性材で一体的に成形されており、筐体の内部で、上方に開口部を向けた状態で設置されている。磁気シールド15は、電流路10と非接触である。磁気シールド15は、断面略U字形で囲まれた領域に磁束を誘導すると共に、外乱をもたらす外部磁界に対して耐性を備えている。このため、隣接電流路などの存在による外部磁界影響が懸念される設置環境下でも、ある程度良好な検出精度での使用が可能となる。磁気シールド15は前記に限らず、2枚の平板で構成され、電流路10と基板14を挟み込むように配置しても良い。
【0028】
図2は、電流路10と磁気センサ12の位置関係を示す平面図である。磁気シールド15の開口側から見て、接地導体11が一番手前にあり、接地導体11の中央に抑制部13が設けられている。基板14が接地導体11の裏にあるが、接地導体11の陰になるので図示していない。磁気センサ12は、点線で示している通り、基板14の奥に配置されている。そのさらに奥に、被測定対象となる電流路10が配置されている。以上の各配置を、磁気シールド15が側面から挟んでいる。
【0029】
図3は、電流路10と磁気センサ12の位置関係を示す側面断面図である。図3もまた、図1および図2で説明した各構成を示すものであるが、図1および図2と異なり、接地導体11と基板14の位置関係が示されている。図2のように上面から見たときに接地導体11の陰に位置していた基板14が、接地導体11と重なって配置されている。
【0030】
また抑制部13についても側部から示しており、磁気センサ12の幅に沿って抑制部13のスリットが広がっている。一方、抑制部13は線状に広がっていることから、電流路10の進行方向側の幅は小さく、抑制部13の先には接地導体11が広がっていることが図3に示されている。また、基板14の電流路10側には、装着部21を介して磁気センサ12が基板14に装着される。
【0031】
ここで、磁気センサ12としてGMR素子を用いているので、磁気センサ12の感度軸の1つである主感度軸30は、図3の右方向、すなわち電流路10に電流が流れる方向に垂直かつ、接地導体11および基板14の面に沿った方向となる。ここで感度軸とは、磁気センサ12が検出する磁界の検出感度が最大になる磁界の方向である。また、感度影響軸(副感度軸)とは、感度軸と非平行の方向で検出感度に影響を与える磁界の方向である。なお、本発明において、略平行及び略反平行は、それぞれ完全に平行及び完全に反平行を含む概念である。なお、磁気センサ12としてホール素子を用いた場合、感度軸は主感度軸30によって示される方向ではなく、接地導体11および基板14の面に垂直な方向となる。
【0032】
図4は、電流路10と磁気センサ12の位置関係とともに主感度軸30について説明する平面図である。図3で側面断面図から説明した、主感度軸30の方向について、図4では平面図によって説明する。
方向40は電流路10を通る電流の向きであり、図4に示す通り、電流が進行する方向40を上方向とすると、主感度軸30の方向は右となる。このように磁気センサ12は、所定方向に沿った主感度軸30を有している。具体的には、磁気センサ12の主感度軸30の方向は、抑制部13の長手方向に沿っている。そして、抑制部13は、この所定方向に延在している。つまり抑制部13は、電流路10の電流が流れる方向40と直交する方向に延在している。
【0033】
図5は、渦電流50、51、52の流れについて説明する図である。図4に示すように電流路10、接地導体11、磁気センサ12が配置され、電流が方向40に沿って流れると、方向40に対して巻くように磁界が発生する。一方で電流の大きさは一定ではないので、電流の大きさの変化に応じて電流によって生ずる磁束密度の大きさも変化する。
【0034】
接地導体11に抑制部13が設けられていない場合、この磁束密度の変化を打ち消す方向に渦電流50が発生する。渦電流50は抑制部13の位置を横切り、したがって、磁気センサ12の上側の位置を横切って流れることとなってしまい、この渦電流50の結果として発生する磁界が磁気センサ12によって検出されてしまう。
【0035】
そこで、本実施の形態では抑制部13を設けているので、抑制部13の位置で接地導体11が離間されている分、抑制部13を横切って渦電流50が流れるのを抑制することができる。その結果、接地導体11には、渦電流51、渦電流52が、抑制部13の位置を回避して流れるようになる。
つまり、渦電流51、渦電流52は、抑制部13を横切らず、それぞれ抑制部13に対して逆向きに流れる。したがって、抑制部13の位置に対応する磁気センサ12では、渦電流51、渦電流52によって生ずる磁界の効果が、少なくとも主感度軸30に対しては縮小され、または相殺される。
【0036】
また、抑制部13の間に仮想的な浮遊容量が発生し、電流が流れてしまう可能性に対しても、抑制部13は接地導体11の端部まで広がっていないので、渦電流51、渦電流52の流れを完全に遮断せず、接地導体11の端部の位置が逃げ道となる。その結果、仮想的な浮遊容量が発生しても、抑制部13を挟んで電位差が大きくなりすぎることが抑制され、抑制部13を通過して渦電流51、渦電流52が流れることをより効果的に防止することができる。一方で磁気センサ12にGMR素子を用いている場合は、感度軸は主感度軸30に沿った方向なので、抑制部13の端部で渦電流51、渦電流52が流れたとしても、磁気センサ12の感度に悪影響は生じない。
【0037】
図6は、抑制部13を設けない場合の渦電流50について説明する図である。図6では、接地導体11上を流れる渦電流の大きさを等高線状に表したものである。抑制部13を設けていない場合、位置60を流れる電流密度が最も小さくなる。位置60では例えば0.875MA/m以下の渦電流50が流れる。位置61ではそれよりも大きな渦電流50が流れ、例えば2.625〜3.5MA/m以下の渦電流50が流れる。そしてその外側の位置62では、さらにそれよりも大きな渦電流50が流れ、例えば3.5MA/m以上の渦電流50が流れる。
【0038】
図7は、抑制部13を設けた場合について説明する図である。図7でも図6と同様に、接地導体11上を流れる渦電流の大きさを等高線状に表す。図7では、抑制部13を設けることにより、図5に示したように渦電流51および渦電流52が流れるようになるので、その結果図7に示すような等高線状の電流密度の大きさとなる。
【0039】
位置70では例えば62.5kA/m以下の電流密度となる。位置71ではそれよりも大きな電流密度となり、例えば62.5〜100kA/m以下の電流密度となる。そしてその外側の位置72では、さらにそれよりも大きな電流密度となり、例えば100kA/m以上の電流密度となる。なお等高線では示しきれていないが、抑制部13の中心付近では位置71と同等の電流密度となり、一方で抑制部13の両端では大きな電流密度を示す。
【0040】
このように抑制部13を設けることにより、全体として渦電流51、52の大きさが渦電流50に比べて下がるとともに、抑制部13の位置を渦電流51、52が通らなくなるようになる。
【0041】
以上のような構成とすることにより、接地導体11の平面領域の内側に抑制部13が設けられるので、抑制部13によって設けられた孔または溝にまたがって渦電流50が流れることがなくなる。したがって、渦電流50の流れは抑制部13を避けた流れを形成することにより、渦電流51および渦電流52のような流れとなる。
電流路10を流れる電流の大きさの時間的変化により渦電流50、または渦電流51および渦電流52が発生することになるが、渦電流51および渦電流52は抑制部13を通ることがなくなる。
【0042】
また、抑制部13の間に仮想的な浮遊容量が発生し、電流が流れてしまう可能性に対しても、接地導体11の端部の位置が逃げ道となる。その結果、仮想的な浮遊容量が発生しても、抑制部13を挟んで電位差が大きくなりすぎることが抑制され、抑制部13を通過して渦電流51、渦電流52が流れることをより効果的に防止することができる。
【0043】
また渦電流51および渦電流52の大きさは、図7に示したように、渦電流50よりも小さくなる。したがって、渦電流50によって磁気センサ12に与えられていた磁界のノイズは、渦電流51および渦電流52による磁界に置き換わることにより、磁気センサ12の主感度軸30に対してノイズとして発生することを抑制することができる。
【0044】
したがって、電流路10と磁気センサ12の間に生じうる浮遊容量によるノイズを接地導体11により低減しつつ、接地導体11に抑制部13を有することで渦電流の発生を抑制することができる。この抑制部13は導体領域に囲まれた閉じた領域内に形成されるので、接地導体11を必要以上に分断することなく、浮遊容量によるノイズの発生余地を必要以上に広げることなく、効果的に渦電流の流れを抑制することができる。
【0045】
特に、抑制部13が延在する方向が主感度軸の方向に沿っていることから、接地導体11上で発生する渦電流が、主感度軸30に沿った位置で横切ることを抑制する。したがって、渦電流50が主感度軸30を横切ることにより生ずる電流の検出精度の低下を防ぐことができる。
【0046】
(他の実施形態)
上述の実施の形態では、主感度軸30に沿った方向に抑制部13を設けていたが、さらに電流の検出精度を上げるために、抑制部13の形状を異なるものとする実施の形態について説明する。
【0047】
図8は、他の実施の形態にかかる電流路10と磁気センサ12の位置関係を示す側面断面図である。図8は、図3に示した側面断面図と基本的にはほぼ同じであるが、上述の抑制部13は、第1の抑制部81のみから構成されていたところ、抑制部13が第1の抑制部81と第2の抑制部82からなり、主感度軸30の他に、副感度軸85が示されている点において異なる。
【0048】
第1の抑制部81と第2の抑制部82は共に接地導体11の面上にあり、互いに垂直である。副感度軸85は第2の抑制部82に沿った方向を向いている。上述のように磁気センサ12としてGMR素子を用いているので、磁気センサ12の感度軸の1つとして主感度軸30について説明したが、この他にも副感度軸85があり、本実施の形態では、この副感度軸85の向きに沿って第2の抑制部82を設ける。
【0049】
すなわち、磁気センサ12は、主感度軸30と直交する副感度軸85を有する。抑制部13は、所定方向に延在する第1の抑制部81に加え、所定方向と直交する方向に延在する第2の抑制部である第2の抑制部82とを有し、第1の抑制部81と第2の抑制部82とは直交している。
【0050】
図9は、主感度軸30と副感度軸85について説明する平面図である。図9は、図4の平面図と基本的にはほぼ同じであるが、図8の場合と同様に、第2の抑制部82と副感度軸85が設けられている点で異なる。すなわち、第2の抑制部82と副感度軸85は同じ方向に沿っており、電流路10の方向40と同一である。そして、いずれも主感度軸30および第1の抑制部81の方向と垂直であるとともに、接地導体11の面上にある。
【0051】
図10は、渦電流90の流れについて説明する図である。図10は、図5の平面図と基本的にはほぼ同じであるが、図10では、第2の抑制部82と副感度軸85が設けられている。その結果として渦電流90が発生している点で異なる。
図5に示したように抑制部13がない場合には渦電流50が発生し、抑制部13を設けることにより、渦電流51、渦電流52となった。本実施の形態では、さらに第2の抑制部82を設けることにより、渦電流90へと流れが変わることになる。
【0052】
この実施の形態では第2の抑制部82を設けているので、第2の抑制部82の位置でさらに接地導体11が離間されている分、第2の抑制部82を横切って渦電流51、渦電流52が流れるのを抑制することができる。その結果、接地導体11には、渦電流90が、第2の抑制部82の位置を回避して流れるようになる。
【0053】
つまり、渦電流90は、第2の抑制部82を横切らず、さらに第1の抑制部81も横切らず、第1の抑制部81及び第2の抑制部82によって区切られた4つの平面領域をそれぞれ回転するように渦電流90が流れる。それぞれ第1の抑制部81に対して逆向きに流れる。したがって、第2の抑制部82の位置に対応する磁気センサ12では、渦電流90によって生ずる磁界の効果が、さらに副感度軸90に対しても縮小され、または相殺される。
【0054】
図11は、第2の抑制部82を設けた場合について説明する図である。図11でも図7と同様に、接地導体11上を流れる渦電流の大きさを等高線状に表す。図7では、抑制部13を設けることによる渦電流51および渦電流52の流れを示したのに対し、図11では、図10に示した渦電流90の流れについて説明する。
【0055】
位置91では例えば62.5kA/m以下の電流密度となる。位置92ではそれよりも大きな電流密度となり、例えば62.5〜100kA/m以下の電流密度となる。そしてその外側の位置93では、さらにそれよりも大きな電流密度となり、例えば100kA/m以上の電流密度となる。なお図7の場合と同様、等高線では示しきれていないが、第1の抑制部81の中心付近では位置91と同等の電流密度となり、一方で第1の抑制部81の両端では大きな電流密度を示す。
【0056】
このように第1の抑制部81に加え、第2の抑制部82を設けることにより、全体として渦電流90の大きさが渦電流51、52に比べて下がるとともに、第1の抑制部81、第2の抑制部82の位置を渦電流90が通らなくなるようになる。そしてこのような渦電流51、52の抑制を、接地導体11に最小限の間隙を設けることにより実現することができる。
【0057】
以上のような構成とすることにより、接地導体11の平面領域の内側に第1の抑制部81に加え、第2の抑制部82が設けられるので、第2の抑制部82によって設けられた孔または溝にまたがって渦電流50が流れることがなくなる。したがって、渦電流50の流れは第1の抑制部81、第2の抑制部82を避けた流れを形成することにより、渦電流90のような流れとなる。電流路10を流れる電流の大きさの時間的変化により渦電流90が発生することになるが、渦電流90は第1の抑制部81、第2の抑制部82を通ることがなくなる。
【0058】
また渦電流90の大きさは、図7に示したように、渦電流50よりも小さくなる。したがって、渦電流51および渦電流52によって磁気センサ12に与えられていた磁界のノイズは、渦電流90による磁界に置き換わることにより、磁気センサ12の主感度軸30の他、副感度軸85に対してノイズとして発生することを抑制することができる。
【0059】
したがって、電流路10と磁気センサ12の間に生じうる浮遊容量によるノイズを接地導体11により低減しつつ、主感度軸30に沿った第1の抑制部81と、副感度軸80に沿った第2の抑制部82がそれぞれ設けられるので、磁気センサ12上の渦電流50の交差を抑制することができる。この抑制部13は導体領域に囲まれた閉じた領域内に形成されるので、接地導体11を必要以上に分断することなく、浮遊容量によるノイズの発生余地を必要以上に広げることなく、効果的に渦電流の流れを抑制することができる。
【0060】
本発明は上述した実施形態には限定されない。すなわち、当業者は、本発明の技術的範囲またはその均等の範囲内において、上述した実施形態の構成要素に関し、様々な変更、コンビネーション、サブコンビネーション、並びに代替を行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
前記実施の形態では、車両用機器を対象として説明されているが、本発明は、特に車両用途に限定することなく、いわゆる比較的大きな電流が発生する電流路を対象とした電流センサに使用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1…電流センサ
10…電流路
11…接地導体
12…磁気センサ
13…抑制部
14…基板
15…磁気シールド
21…装着部
30…主感度軸
50…渦電流
51…渦電流
52…渦電流
80…副抑制部
81…第1の抑制部
82…第2の抑制部
85…副感度軸
90…渦電流


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11