(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.歯科用接着性組成物
本発明は、(A)ジルコニア粒子、及び(B)(メタ)アクリレート系重合性モノマーを含有する歯科用接着性組成物(「本発明の歯科用接着性組成物」ということもある。)であって、
前記(A)ジルコニア粒子は、平均粒子径が0.1〜5μmであり、
前記(A)ジルコニア粒子は、(B)(メタ)アクリレート系重合性モノマー100重量部に対して、20〜220重量部含有し、かつ
硬化深度が1mm以上である。
【0018】
本発明の歯科用接着性組成物における接着性組成物は、接着材、接着剤、又はセメントと言い換えることもできる。本発明の歯科用接着性組成物に配合する各成分について以下説明する。
【0019】
(A)ジルコニア粒子
(A)ジルコニア粒子(ジルコニアフィラーともいう。)としては、平均粒子径が0.1〜5μmであれば特に限定はなく、公知のジルコニア粒子を用いることができる。中でも、好ましいジルコニア粒子としては、例えば、特開2013‐245137号公報に記載のジルコニア粒子が挙げられる。
【0020】
前記(A)ジルコニア粒子の製造方法としては、特に限定はなく、例えば、超臨界流体中で、ジルコニウム化合物とカルボン酸化合物とを反応させる工程(以下、「前記工程」という場合もある。)を備える製造方法(以下、「(A)ジルコニア粒子の合成方法1」という場合もある。)等が挙げられる。なお、現時点でこのジルコニア粒子の構造を完全に特定することが不可能又はおよそ実際的ではない程度に困難であるため、プロダクトバイプロセスクレームによって(A)ジルコニア粒子を記載している。
【0021】
前記超臨界流体としては、特に限定はなく、例えば、超臨界メタノール、超臨界エタノール等の超臨界アルコールが挙げられる。
【0022】
超臨界流体とは、臨界点以上の温度及び圧力下においた物質の状態のことをいい、気体と液体の区別がつかない状態といわれ、気体の拡散性と液体の溶解性を有している。
【0023】
前記ジルコニウム化合物としては、特に限定はなく、例えば、ジルコニウム(IV)テトライソプロポキシド(Zr(O
iPr)
4)等のジルコニウムアルコキシド;硝酸ジルコニル(ZrO(NO
3)
2)等の無機酸ジルコニウム;硝酸ジルコニル一水和物(ZrO(NO
3)
2・H
2O)、硝酸ジルコニル二水和物(ZrO(NO
3)
2・2H
2O)等の無機酸ジルコニウム水和物;酢酸ジルコニウム等の有機酸ジルコニウム又はその水和物等が挙げられる。
【0024】
ジルコニウム化合物の含有量としては、特に限定はなく、例えば、前記超臨界流体に対して、通常、0.001〜10mol/L、好ましくは0.005〜5mol/L、より好ましくは0.01〜1mol/Lである。
【0025】
前記カルボン酸化合物としては、特に限定はなく、例えば、ギ酸、酢酸等の脂肪族カルボン酸化合物、オルトフタル酸等の芳香族カルボン酸化合物等が挙げられる。
【0026】
カルボン酸化合物の含有量としては、特に限定はなく、例えば、超臨界流体に対して、0.001〜30mol/L、好ましくは0.05〜5mol/L、より好ましくは0.1〜3mol/Lである。
【0027】
前記工程において、さらに超臨界流体中に、酢酸金属塩化合物を加えることができる(以下、「(A)ジルコニア粒子の合成方法2」という場合もある。)。
【0028】
酢酸金属塩化合物としては、特に限定はなく、例えば、酢酸エルビウム4水和物(Er(CH
3COO)
3・4H
2O)、酢酸ユーロピウムn水和物(Eu(CH
3COO)
3・nH
2O)、酢酸セリウム一水和物((CH
3COO)
3Ce・H
2O)、酢酸金((CH
3COO)
3Au)、酢酸銀(CH
3COOAg)、酢酸パラジウム((CH
3COO)
2Pd)等の酢酸金属塩又はこれらの水和物等が挙げられる。nは、任意の整数である。
【0029】
酢酸金属塩化合物の含有量としては、特に限定はなく、例えば、超臨界流体に対して、通常0.0001〜1mol/L、好ましくは0.001〜0.02mol/L、より好ましくは0.005〜0.01mol/Lである。
【0030】
前記(A)ジルコニア粒子の合成方法2により製造されるジルコニア粒子は、金属がドープされたジルコニア粒子となる。金属がドープされたジルコニア粒子としては、特に限定はなく、例えば、エルビウム(Er)、ユウロピウム(Eu)、セリウム(Ce)、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)等がドープされたジルコニア粒子が挙げられる。前記ジルコニア粒子は、中空又は中実であってもよく、中空の場合、その核内に金属がドープされていてもよい。
【0031】
前記(A)ジルコニア粒子の製造方法において、反応温度は、通常200℃以上、好ましくは250〜450℃、より好ましくは300〜400℃である。
【0032】
前記(A)ジルコニア粒子の製造方法において、反応時間は少なくとも1秒以上が好ましく、5秒以上20分以内がより好ましく、1分以上10分以内が特に好ましい。
【0033】
前記(A)ジルコニア粒子の合成方法1、つまり、超臨界流体中で、ジルコニウム化合物とカルボン酸化合物とを反応させる工程を備えることにより、一次粒子同士が分離することなく球状又は略球状で、多孔質で、かつ平均粒子径が0.1〜5μmのジルコニア粒子を合成することができる。
【0034】
また、前記(A)ジルコニア粒子の合成方法は、ワンポット合成とすることができ、反応時間が短く操作が容易である合成法とすることができる。
【0035】
このようにして製造された前記(A)ジルコニア粒子は、優れた安定性、単分散性、高い集光特性、再利用の容易さ等の優れた特性を示すジルコニア粒子とすることができる。
【0036】
また、前記合成方法1及び2において、超臨界メタノール又は超臨界エタノールを用いることにより、一次粒子同士が分離することなく球状多孔質のジルコニア粒子を合成することができる。
【0037】
前記(A)ジルコニア粒子の平均粒子径は、0.1〜5μmであり、好ましくは0.5〜4μm、より好ましくは1〜3μmである。また、(A)ジルコニア粒子は1種又は2種以上を用いることができる。例えば、1種の平均粒子径又は粒度分布の(A)ジルコニア粒子のみを使用することができ、又は2種以上の異なる平均粒子径又は粒度分布のジルコニア粒子を混合することができる。
【0038】
なお、前記平均粒子径は、平均一次粒子径又は平均二次粒子径であってもよい。中でも、前記平均粒子径としては、平均二次粒子径が好ましく、平均二次粒子径が0.1〜5μmであることがより好ましく、平均二次粒子径が0.5〜4μmであることがさらにより好ましく、平均二次粒子径が1〜3μmであることが特に好ましい。なお、上記平均二次粒子径の多孔質ジルコニア粒子は、平均一次粒子径が、通常1〜50nm、好ましくは1〜30nmであるジルコニア粒子から製造できる。平均二次粒子径が0.1μm未満の場合、作成した歯科用接着剤の粘性が高く、適度な流動性(稠度)が得られない。また、平均二次粒子径が5μmを超える場合、硬化後の歯科用接着剤に負荷が加わった際にジルコニア粒子とモノマーの重合箇所の界面で破壊が起きやすく接着性が低下する。
【0039】
本明細書において、「平均粒子径」は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、株式会社島津製作所社製、レーザー回折式SALD−2200)を用いて、体積基準の粒度分布に基づき得ることができる。測定条件と下記の条件を採用することができる。
【0040】
・粒度分布の測定範囲:0.8〜1000μm
・測定環境:25℃/50%RH
・試料濃度:測定器の光強度分布のピーク値が縦軸の60〜80%付近になるように試料を投入する。
・レーザー強度:出力3mW(波長680nm、半導体レーザー)
・屈折率:ジルコニア粒子の場合 2.10−0.1i
【0041】
粒度分布における最大径をaとし、最小径をbとした場合に、最小径bに対する最大径aの比率(a/b)は、5.0以上である。比率(a/b)は、10以下が好ましい。
【0042】
粒子の最大径aは、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。粒子の最小径bは、0.05μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましい。
【0043】
比率(a/b)を得るための粒度分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、株式会社島津製作所社製、レーザー回折式SALD−2200)を用いて測定することが可能であり、半導体レーザ(波長680nm)により測定した体積基準の粒度分布である。粒度分布における測定範囲は、例えば0.8〜1000μmである。測定条件としては、粒子の平均粒径に関する上記条件を採用することができる。
【0044】
前記(A)ジルコニア粒子は、歯科用接着性組成物全体に対して、20〜60重量%含有する。中でも、ジルコニア粒子は、歯科用接着性組成物全体に対して、30〜55重量%含有することが好ましく、35〜50重量%含有することがより好ましい。
【0045】
前記(A)ジルコニア粒子は、(B)(メタ)アクリレート系重合性モノマー100重量部に対して、通常、20〜220重量部含有し、30〜150重量部含有することが好ましく、50〜100重量部含有することがより好ましい。
【0046】
前記(A)ジルコニア粒子は、比表面積が80m
2/g以上である。中でも、(A)ジルコニア粒子の好ましい比表面積は、80〜400m
2/gであり、より好ましくは100〜400m
2/gであり、特に好ましくは150〜350m
2/gである。ジルコニア粒子は、歯科分野において、自然な歯の色に近づけるために乳濁材として、歯科切削加工用レジン材料に対して、ジルコニア粒子を含有させることは知られている(特許6255144号公報)。したがって、光重合型歯科用接着剤にジルコニア粒子を含有させる場合、その歯科用接着剤は白濁し、光を通さないことから、ジルコニア粒子の量を増やすことは困難であることが予想された。しかし、本発明においては、比表面積が80m
2/g以上のジルコニア粒子は一次粒子径が12nm以下であるため可視光の波長より小さく、良好な光透過性が得られる。
【0047】
本明細書において、比表面積とは、BET(Brunauer−Emmett−Teller)法によって、二次粒子について測定される比表面積を意味している。BET比表面積とは、比表面積の測定方法の一つであるBET法により得られた比表面積のことをいう。なお、比表面積とは、ある物体の単位質量あたりの表面積のことをいう。BET法は、窒素等の気体粒子を固体粒子に吸着させ、吸着した量から比表面積を測定する気体吸着法である。具体的には、圧力Pと吸着量Vとの関係からBET式によって、単分子吸着量VMを求めることにより、比表面積を定める。
【0048】
前記(A)ジルコニア粒子としては、その形態には特に限定はなく、例えば、球状、略球状、破砕状、板状、鱗片状、繊維状(短繊維、長繊維)、針状、ブラシ状等各種形状のものが用いられる。これらの形状の一次粒子が凝集したクラスター状でも構わなく、異なる形状のものが組み合わさったものでもよい。なお、本発明においては、前記形状を有するよう何らかの処理(例えば、粉砕)を行なったものであってもよい。中でも、好ましい形態としては、球状又は略球状であり、より好ましくは球状である。
【0049】
ここで、略球状とは、走査型電子顕微鏡(以下、SEMと略す)でジルコニア粒子の写真を撮り、その単位視野内に観察される粒子が丸みを帯びており、その最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で除した平均均斉度(円形度)が通常0.6以上、好ましくは0.7〜0.99、より好ましくは0.8〜0.99であることを意味する。
【0050】
球状又は略球状のジルコニア粒子の平均均斉度としては、通常0.6〜1.0、好ましくは0.7〜1.0、より好ましくは0.8〜1.0である。
【0051】
さらに、本発明で用いるジルコニア粒子は表面処理を施してもよい。表面処理剤及びその表面処理法としては、公知の方法が採用され特に限定されない。
【0052】
表面処理剤としては、例えば、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(3−MPTS)、ビニルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシランシリルイソシアネ−ト、ビニルトリクロロシラン等のシランカップリング剤等の通常無機酸化物における表面改質剤として使用される化合物が挙げられる。好ましい表面処理剤としては、3−MPTSである。
【0053】
ジルコニア粒子の表面処理剤による処理方法としては、特に限定はなく、例えば、ジルコニア粒子と表面処理剤とをアルコ−ル等の溶剤中で数十分間〜10時間程度、好ましくは1時間〜5時間の範囲で加熱環流する方法等が挙げられる。また、表面処理剤の加水分解を促進する必要があれば、該溶剤中に、水、又は酢酸等の酸性水を添加して上記範囲内で加熱環流した後、溶媒を除去し常圧又は減圧下乾燥する方法等が挙げられる。
【0054】
(B)(メタ)アクリレート系重合性モノマー
(B)(メタ)アクリレート系重合性モノマー(以下、「重合性モノマー」、「重合性モノマー組成物」、又は「モノマー」ということもある。)としては、特に限定はなく、歯科用として使用可能な(メタ)アクリレート系重合性モノマー(単量体)を用いることができる。中でも、(メタ)アクリレート系重合性モノマーとしては、例えば、
(メタ)アクリル酸エステル(例えば、アルキルエステルの場合アルキル基の炭素数1〜12、芳香族基を含むエステルでは炭素数6〜12、なお、これらの基にポリエチレングリコール鎖等の置換基を含むものはそれらの炭素数も含める)等の単官能性の(メタ)アクリレート;
ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート(アルキレン基の炭素数2〜20)、
エチレングリコールオリゴマージ(メタ)アクリレート(2〜10量体)、
ビスフェノールAを含むジ(メタ)アクリレート、
ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレート2モルとジイソシアネート1モルとの反応生成物であるウレタン(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート;
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート;
ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等のテトラ(メタ)アクリレート等の多官能性の(メタ)アクリレートが挙げられる。具体的には、特開昭50−042696号公報、特開昭56−152408号公報に開示されているモノマー等が好適である。
【0055】
該単官能の(メタ)アクリレートとしては、例えば、
メチル(メタ)アクリレート、
エチル(メタ)アクリレート、
プロピル(メタ)アクリレート、
n−ブチル(メタ)アクリレート、
イソブチル(メタ)アクリレート、
2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、
ラウリル(メタ)アクリレート、
トリデシル(メタ)アクリレート、
ステアリル(メタ)アクリレート、
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、
ベンジル(メタ)アクリレート、
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、
2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、
グリシジル(メタ)アクリレート、
テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、
アリル(メタ)アクリレート、
2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、
メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、
メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、
メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、
フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、
フェノキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、
グリセロール(メタ)アクリレート、
テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、
ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、
イソボルニル(メタ)アクリレート、
フェニル(メタ)アクリレート、
ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、
ジペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、
カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、
カプロラクトン変性ジペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、
カプロラクトン変性2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0056】
該多官能の(メタ)アクリレートとしては、例えば、
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(TEGDMA)、
テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、
1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、
ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、
トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、
ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、
グリセロールジ(メタ)アクリレート、
ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、
ビスフェノールAグリシジルジ(メタ)アクリレート(Bis−GMA)、
エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、
エチレンオキサイド変性ビスフェノールAグリシジルジ(メタ)アクリレート、
2,2−ビス(4−メタクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、
7,7,9−トリメチル−4,13−ジオキサ−3,14−ジオキソ−5,12−ジアザヘキサデカン−1,16−ジオールジ(メタ)アクリレート、
ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸エステルジ(メタ)アクリレート、
カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルジ(メタ)アクリレート、
トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、
トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、
ウレタンジ(メタ)アクリレート(1,6−ビス((メタ)アクリロイルオキシ−2−エトキシカルボニルアミノ)−2,4,4−トリメチルヘキサン)、
2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(UDMA)、
3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとメチルシクロヘキサンジイソシアネートとの反応生成物、
2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとメチルシクロヘキサンジイソシアネートとの反応生成物、
2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとメチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)との反応生成物、
2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとトリメチルヘキサメチレンジイソシアネートとの反応生成物、
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとイソホロンジイソシアネートとの反応生成物、
3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとイソホロンジイソシアネートとの反応生成物等のジ(メタ)アクリレート;
トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、
ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、
ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート;
ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、
ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等のテトラ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0057】
該(メタ)アクリレート系重合性モノマーは、多官能性の(メタ)アクリレートが好ましく、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、TEGDMA、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、UDMA、Bis−GMA、及び2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロキシプロポキシ)フェニル)プロパンがより好ましく、TEGDMA、及びUDMAが特に好ましい。
【0058】
なお、本明細書において(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルの各々を表し、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートの各々を表し、(メタ)アクリロイルとは、アクリロイル及びメタクリロイルの各々を表す。
【0059】
前記(B)(メタ)アクリレート系重合性モノマーは、単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。中でも、2種類以上の重合性モノマーを混合して使用することが好ましく、2種以上の多官能性の(メタ)アクリレートを混合して使用することがより好ましく、2種以上のジ(メタ)アクリレートを混合して使用することが特に好ましい。2種以上の(メタ)アクリレート系重合性モノマーを混合することで粘度を調整することができる。
【0060】
前記(B)(メタ)アクリレート系重合性モノマーは、歯科用接着性組成物全体に対して、30〜77重量%含有する。中でも、歯科用接着性組成物全体に対して、35〜75重量%含有することが好ましく、40〜63重量%含有することがより好ましい。
【0061】
(C)含硫黄カルボン酸エステル化合物
本発明の歯科用接着性組成物は、さらに(C)含硫黄カルボン酸エステル化合物を含有することができる。
【0062】
(C)含硫黄カルボン酸エステル化合物としては、特に限定はなく、例えば、下記一般式(1):
【化1】
(式中、mは、1又は2を示す。nは、1〜4の整数を示す。Rは、水素原子、炭素原子、アルキル基、ベンゼン環、又はトリアジン環を示す。)
で表される化合物が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0063】
アルキル基としては、特に限定はなく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基等の炭素数1〜6のアルキル基が挙げられる。nは、ノルマルを、iは、イソを意味する。
【0064】
中でも、好ましい(C)含硫黄カルボン酸エステル化合物としては、ペンタエリスリトールテトラキス−3−チオプロピオネート(PETP)、ペンタエリスリトールテトラキス−3−チオグリコラート、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス (3-メルカプトブチレート)であり、より好ましくはPETPである。
【0065】
前記(C)含硫黄カルボン酸エステル化合物を使用する場合、その使用量は、(B)(メタ)アクリレート系重合性モノマー100重量部に対して、1〜30重量部であり、好ましくは3〜26重量部、より好ましくは6〜22重量部である。
【0066】
無機フィラー
本発明の歯科用接着性組成物は、さらに無機フィラーを含有することができる。その無機フィラーとしては、上記(A)ジルコニア粒子を除いたものであれば特に限定はなく、ケイ素、スズ、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、セリウム、アンモチン等の無機酸化物(二酸化ケイ素(シリカ)、酸化スズ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化アンチモン等)、及びこれらの複合無機酸化物が挙げられる。前記無機フィラーは、1種又は2種以上の無機フィラーを含有することができる。中でも、好ましい無機フィラーとしては、シリカ粒子である。
【0067】
(D)シリカ粒子
(D)シリカ粒子としては、特に限定はなく、例えば、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降シリカ等の球状又は不定形のシリカが挙げられる。具体的に、シリカ粒子としては、例えば、日産化学株式会社により発売されているMEK-ST、Degussa(Ridgefield Park,NJ)により販売されているOX-50、OX-130、及びOX-200シリカ等のAEROSIL(登録商標)シリーズ、並びにCabot Corp(Tuscola,IL)により販売されているCab-O-Sil(登録商標)M5、Cab-O-Sil(登録商標)TS-530シリカ等が挙げられる。また、(D)シリカ粒子は1種のみを使用することができ、又は2種以上の異なるシリカ粒子を混合することができる。
【0068】
(D)シリカ粒子の平均粒子径としては、特に限定はないものの、通常1〜100nm、好ましくは5〜50nm、より好ましくは10〜30nmである。
【0069】
(D)シリカ粒子の形態としては、特に限定はなく、例えば、球状、略球状、破砕状、板状、鱗片状、繊維状(短繊維、長繊維)、針状、ブラシ状等各種形状のものが用いられる。これらの形状の一次粒子が凝集したクラスター状でも構わなく、異なる形状のものが組み合わさったものでもよい。なお、本発明においては、前記形状を有するよう何らかの処理(例えば、粉砕)を行なったものであってもよい。
【0070】
さらに、本発明に用いるシリカ粒子は表面処理を施してもよい。表面処理剤及びその表面処理法としては、公知の方法が採用され特に限定されない。
【0071】
表面処理剤としては、特に限定はなく、例えば、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(3−MPTS)、ビニルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシランシリルイソシアネ−ト、ビニルトリクロロシラン等のシランカップリング剤等の通常無機酸化物の表面改質剤として使用される化合物が挙げられる。中でも、好ましい表面処理剤としては、3−MPTSである。
【0072】
シリカ粒子の表面処理剤による処理方法としては、特に限定はなく、例えば、シリカ粒子と表面処理剤とをアルコ−ル等の溶剤中で数十分間〜10時間程度、好ましくは1時間〜5時間の範囲で加熱環流する方法等が挙げられる。また、表面処理剤の加水分解を促進する必要があれば、該溶剤中に水、又は酢酸等の酸性水を添加して上記範囲内で加熱環流した後、溶媒を除去し、常圧又は減圧下乾燥する方法等が挙げられる。
【0073】
(D)シリカ粒子を配合する場合、その(D)シリカ粒子の含有量は、歯科用接着性組成物全体に対して、0.01〜20重量%含有する。中でも、(D)シリカ粒子は、歯科用接着性組成物全体100重量%に対して、1.0〜10重量%含有することが好ましく、5.0〜8.0重量%含有することがより好ましい。
【0074】
前記(D)シリカ粒子の含有量としては、(B)(メタ)アクリレート系重合性モノマー100重量部に対して、通常、0〜18重量部、好ましくは5〜17.5重量部、より好ましくは10〜17.3重量部である。
【0075】
(E)重合開始剤
本発明の歯科用接着性組成物は、さらに(E)重合開始剤を含有することができる。(E)重合開始剤としては、一般的に使用されている重合開始剤であれば特に限定はなく、中でも歯科用途に用いられている重合開始剤が好ましい。一般に、重合開始剤は、重合性モノマーの重合手段によって異なる種類のものが使用される。重合手段には光重合開始剤、化学重合開始剤等がある。これらは単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0076】
該光重合開始剤としては、紫外光又は可視光で反応し、ラジカルを発生する光重合開始剤を使用することができる。具体的に、光重合開始剤としては、例えば、ジアセチル、アセチルベンゾイル、ベンジル、カンファーキノン(CQ)、9,10−フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等のα−ジケトン;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル;2,4−ジエチルチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン化合物等;ベンゾフェノン、p, p'−ジメチルアミノベンゾフェノン、p, p'−ジメトキシアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物が挙げられる。ここで、pは、パラを意味する。
【0077】
該化学重合開始剤としては、過酸化物又はアゾ化合物等、公知の化学重合開始剤を使用することができる。具体的に、化学重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、4,4'−アゾビス−4−シアノバレリック酸、1,1'−アゾビス−1−シクロヘキサンカーボニトリル、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチラート、2,2'−アゾビス−(2−アミノプロパン)ジヒドロクロライド等が挙げられる。
【0078】
(E)重合開始剤を配合する場合、その含有量は、(メタ)アクリレート系重合性モノマー100重量部に対して、0.001〜10重量部であり、好ましくは0.01〜5重量部、より好ましくは0.1〜3重量部である。
【0079】
(F)重合促進剤
本発明の歯科用接着性組成物は、さらに(F)重合促進剤を含有することができる。(F)重合促進剤としては、特に限定はなく、一般的に光重合開始剤と組み合わせて使用される。該重合促進剤としては、特に限定はなく、例えば、メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル(DMAEMA)、メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)安息香酸エチル、メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)安息香酸n−ブトキシエチル、N,N−ジメチル−p−トルイジン等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。当該(F)重合促進剤は、前記(B)(メタ)アクリレート系重合性モノマーとは異なる化合物である。
【0080】
(F)重合促進剤を配合する場合、その含有量は、(メタ)アクリレート系重合性モノマー100重量部に対して、通常、0.001〜10重量部であり、好ましくは0.01〜5重量部、より好ましくは0.1〜3重量部である。
【0081】
(G)任意成分
本発明の歯科用接着性組成物は、さらに必要に応じて、本発明の歯科用接着性組成物の効果を損なわない範囲において、着色顔料、乳濁材、蛍光材、オパール化材、重合禁止剤、酸化防止剤、抗菌剤、X線造影剤、安定化剤、紫外線吸収剤、変色防止剤、シランカップリング剤等のその他公知の各種添加剤を配合できる。これらは単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0082】
(G)任意成分を配合する場合、その含有量は、(メタ)アクリレート系重合性モノマー100重量部に対して、通常、0.001〜10重量部であり、好ましくは0.01〜5重量部、より好ましくは0.1〜3重量部である。
【0083】
上記着色顔料及び乳濁材は、一般の歯科治療の用途で用いられている公知の化合物が使用でき、例えば、酸化鉄系着色顔料、有機顔料、酸化チタン等が挙げられる。(G)任意成分で用いられるシランカップリング剤は、上記シリカ粒子で用いられる表面処理剤と同様のものを用いることができる。
【0084】
効果
本発明の歯科用接着性組成物は、歯科切削加工用ハイブリッドレジンに対する引張接着強さが10MPa以上であり、上限は特に限定はない。好ましい引張接着強さは、11〜100MPa、より好ましくは12MPa以上であり、特に好ましくは15MPa以上である。引張接着強さ(接着強度ともいう。)とは、重合硬化のために光照射を行った後の歯科用補綴物である歯科切削加工用ハイブリッドレジンと歯科用接着性組成物との引張接着強さを意味している。
【0085】
本発明の歯科用接着性組成物は、硬化深度が1mm以上であり、上限は特に限定はない。好ましい硬化深度は、1.1mm以上であり、より好ましくは1.2mm以上である。硬化深度とは、一定の光照射によって重合がどの程度深い部分にまで達したかを示す値であり(単位:mm)、この値が大きい程、歯科用接着性組成物の内部まで硬化可能で、重合性が良好であることを示し、この値が小さいということは、歯科用接着性組成物の表層部しか硬化せず、重合性が不良であることを示す。
【0086】
本発明の歯科用接着性組成物は、稠度(流動性)が14cm以下であり、好ましくは12cm以下であり、より好ましくは10cm以下である。下限は0cmである。なお、稠度とは、水平に設置したアクリル板上に本発明の歯科用接着性組成物0.5gを塗布し、10分間経過後にこのアクリル板を水平から60度傾け、5分間静置した後、歯科用接着性組成物の移動距離の値である。
【0087】
2.歯科用組成物の製造方法
本発明の歯科用組成物は、前記(A)ジルコニア粒子、及び(B)(メタ)アクリレート系重合性モノマーを、上述した特定の配合割合で製造することができる。
【0088】
また、前記(A)ジルコニア粒子の配合割合は、歯科用接着性組成物全体に対して、15〜65重量%含有する、歯科用接着性組成物の配合割合で混合することで製造できる。
【0089】
本発明の歯科用接着性組成物は、さらに必要に応じて、その他の無機フィラー(例えば、(D)シリカ粒子)、(C)含硫黄カルボン酸エステル化合物、(E)重合開始剤、(F)重合促進剤、(G)任意成分(例えば、着色顔料、乳濁材、オパール化材、蛍光材、重合禁止剤、酸化防止剤、抗菌剤、X線造影剤、安定化剤、紫外線吸収剤、変色防止剤等)を適宜配合することができる。なお、本発明の歯科用接着性組成物は、重合開始剤を含む場合、その取り扱いに注意が必要であり、保管環境は大気遮断、暗所及び低温が好ましい。
【0090】
本発明の歯科用接着性組成物の製造方法としては、前記の各成分を容器に所定量取り、十分に混練して分散させて、分散物(ペースト)を得る工程を備えている。さらに、本発明の歯科用接着性組成物の製造方法は、前記ペーストを減圧下で混練、又は真空撹拌する工程を備えることができる。このようにして得られた歯科用接着性組成物は、均一で、気泡が除去された状態である。
【0091】
上記各成分の添加順序としては、特に限定はなく、例えば、(A)ジルコニア粒子、及び(B)(メタ)アクリレート系重合性モノマーを同時に、又は順に添加することができる。
【0092】
さらに、必要に応じて、上記の(D)シリカ粒子、(C)含硫黄カルボン酸エステル化合物、(E)重合開始剤、(F)重合促進剤等の成分を添加することができる。その添加の順番は特に限定はなく、例えば、(A)ジルコニア粒子と(D)シリカ粒子と混合した混合物を調製する工程、次いで、該混合物に対して(B)(メタ)アクリレート系重合性モノマーを添加する工程を備える方法;(B)(メタ)アクリレート系重合性モノマーに対して、(A)ジルコニア粒子を添加する工程を備える方法;(B)(メタ)アクリレート系重合性モノマーに対して、(A)ジルコニア粒子及び(D)シリカ粒子の混合物を添加する工程を備える方法等が挙げられる。
【0093】
本発明の歯科用接着性組成物は、公知の重合方法に従って、重合させることで硬化物が得られる。
【0094】
3.歯科用接着性組成物を硬化する方法
本発明の歯科用接着性組成物は、光照射することにより重合硬化させることができる。光照射により重合硬化させる方法としては、光重合開始剤の種類によって異なり、紫外線の波長も使用できるが、通常人体に無害である可視光の波長で光照射して重合硬化させる。該光の波長としては、例えば、250〜700nmの範囲が好ましく、300〜500nmがより好ましい。
【0095】
前記の波長範囲の光源としては、特に限定はなく、例えば、LEDランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、レーザー、蛍光灯、太陽光等の光を使用することができる。
【0096】
また、前記の光を照射し重合性モノマーを重合させる場合の照射時間は、歯科用組成物から得られる歯科補綴物の厚さ、透明性、色調及び照射光の光量により異なるが、一般に所望の重合時間に合わせ適宜決定すればよい。好ましくは5秒から1分程度、より好ましくは10秒から30秒の光照射を行う。
【0097】
本発明の歯科用接着性組成物は、上述の通り1液で接着剤として使用できるため、従来の光重合と化学重合とを併用したデュアルキュアタイプの接着剤のように、2種(2液)のペーストを混ぜる必要もないことから、操作が煩雑でなく、また、ペーストを混ぜる際に、気泡を混入することなく、簡便な操作で、かつ歯科切削加工用ハイブリッドレジンに対して、優れた接着性(接着強度、引張接着強さ)の歯科用接着性組成物を得ることができる。また、本発明の歯科用接着性組成物は2液タイプとしても使用することができ、操作方法は従来と同様にペーストを混和する必要があるが、光透過性のない金属製の歯科用補綴物のような光重合ができない場合でも化学重合により硬化ができ、1液タイプと同様に歯科切削加工用ハイブリッドレジンに対して、優れた接着性を示す。なお、歯科用接着組成物とは、硬化前の状態だけでなく、歯科用接着性組成物に光照射して得られた硬化後の歯科用硬化体(硬化物)の意味も含まれる。現時点でこの歯科用硬化体の構造を完全に特定することが不可能又はおよそ実際的ではない程度に困難であるため、プロダクトバイプロセスクレームによって硬化体を記載している。
【0098】
上述したとおり、本発明の歯科用接着性組成物は、1液タイプだけでなく2液タイプの接着剤として使用することもできる。2液タイプの場合は、各液の成分の組み合わせに特に限定はなく、例えば、(A)ジルコニア粒子と(B)(メタ)アクリレート系重合性モノマー、(C)含硫黄カルボン酸エステル化合物、(D)シリカ粒子、(E)重合開始剤(光重合開始剤)及び(F)重合促進剤を混合してA剤を調製し、(A)ジルコニア粒子と(B)(メタ)アクリレート系重合性モノマー、(D)シリカ粒子、(E)重合開始剤(化学重合開始剤)を混合してB剤を調製し、対象物を接着させる際に、当該A剤とB剤とを混合し、2液タイプの歯科用接着性組成物として使用することもできる。
【0099】
4.用途
本発明の歯科用接着性組成物の用途は、歯科用接着剤(歯科用接着材、レジンセメント)としてだけでなく、プライマー、ボンディング材、コンポジットレジン、義歯床用レジン、小窩裂溝填塞材、コーティング剤等の歯科用修復材として用いることができる。中でも、本発明の歯科用接着性組成物は、歯科切削加工用レジン材料から作製した歯科用補綴物と支台歯とを接着させるための歯科用接着剤、特に歯科用レジンセメントとして好適に用いられ、高い接着性を示す。
【0100】
本発明の歯科用接着性組成物の接着の対象となる被着体(補綴物又は支台歯)としては、特に限定はなく、例えば、レジン材料、金属、セラミックス、生体硬組織(歯牙等)等が挙げられる。
【0101】
接着の対象となるレジン材料としては、特に限定はなく、例えば、補強材として無機粒子を含有している(メタ)アクリレート系重合性モノマーを硬化させた歯科用レジンプラスチック(ポリアルキルメタクリレート製、ポリエステル製、ポリアミド製等の樹脂)等が挙げられる。
【0102】
接着の対象となる金属としては、特に限定はなく、例えば、金、白金、パラジウム、銀、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、イリジウム等の貴金属;鉄、ニッケル、コバルト、銅、亜鉛、スズ、アルミニウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、ジルコニウム、モリブデン、カドミウム、インジウム、アンチモン等の広汎な卑金属等及びその合金が挙げられる。
【0103】
接着の対象となるセラミックスとしては、特に限定はなく、例えば、シリカ、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化イットリウム等の金属酸化物及びその金属酸化物;歯科用陶材等が挙げられる。
【0104】
接着の対象となる生体硬組織としては、特に限定はなく、例えば、歯(エナメル質又は象牙質)、骨、爪等が挙げられる。これらの生体硬組織は、ハイドロキシアパタイト等の無機成分とコラーゲン等のタンパク質を主成分としている。
【0105】
本発明の歯科用接着性組成物は、接着剤だけでなく、コート材、シール材、層形成材、前処理剤等の物品の接着層形成材;物品の凹部の充填修復材;物品の穴埋め材(例えば、物品のクラック、傷、穴等の充填修復)、物品の凸部形成材;物品の盛り付け材等の硬化体(硬化物)としても使用できる。
【実施例】
【0106】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。本発明で使用する原料名及び各種測定方法は以下のとおりである。
【0107】
原料
[(A)ジルコニア粒子]
・ジルコニア粒子:
特開2013‐245137号公報の実施例1に記載の方法を参考に、下記参考例1のジルコニア粒子を製造した。
【0108】
参考例1
ZrO(NO
3)
2・2H
2O 278mgとメタノール10mLとを混合し、有機修飾剤としてギ酸235mgを0.5mol/Lとなるように添加した。この溶液を300℃まで上昇させ、超臨界メタノールとし、10分間反応させた。その後、遠心分離、メタノールでの超音波洗浄、及び乾燥して、球状ジルコニア粒子の粉体1(比表面積214m
2/g、平均粒子径2.0μm)を得た。得られた球状ジルコニア粒子のSEM写真を
図1に、TEM写真を
図2に示す。
【0109】
参考例1に記載のジルコニア粒子以外にも、原料であるジルコニア粒子としては、平均粒子径が0.1〜5μm、比表面積が80m
2/g以上400m
2/g以下の粒子をそれぞれ用いた。
【0110】
[その他の無機フィラー]
・チタニア粒子:
国際公開第2013/061621号の実施例5に記載の方法を参考に、下記参考例2のチタニア粒子を得た。
【0111】
参考例2
チタンイソプロポキシド110mgとメタノール3.5mLとを混合し、有機修飾剤としてギ酸290mgを0.5mol/Lとなるように添加した。この溶液を400℃まで上昇させ、超臨界メタノールとし、10分間反応させた。その後、遠心分離、メタノールでの超音波洗浄、乾燥して球状多孔質酸化チタンナノ粒子の粉体(比表面積380m
2/g、平均粒子径0.6μm)を得た。
【0112】
・ジルコニア粒子(SPZ):
SPZ(第一稀元素社製、比表面積4〜9m
2/g、平均粒子径1.5μm)
【0113】
[(B)(メタ)アクリレート系重合性モノマー]
・UDMA:2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート
・TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート
【0114】
[(C)含硫黄カルボン酸エステル化合物]
・PETP:ペンタエリスリトールテトラキス−3−チオプロピオネート
【0115】
[(D)シリカ粒子]
・シリカ粒子(平均粒子径10〜15nm)
【0116】
[(E)重合開始剤]
・CQ:カンファーキノン
【0117】
[(F)重合促進剤]
・DMAEMA:メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル
【0118】
(実施例1)
UDMAを94.5重量部、TEGDMAを2.6重量部、DMAEMAを1.9重量部、及びCQを1.0重量部の重量比で調整した混合重合性モノマー75.2重量部に対して、(A)ジルコニア粒子を15.0重量部、及び(D)シリカ粒子を9.8重量部添加した。次いで、遮光下において、混練及び脱泡し、歯科用接着性組成物1を得た(表1)。
【0119】
(実施例2〜11)
下記表1に記載の配合割合にする以外は、実施例1と同様の方法で歯科用接着性組成物2〜11をそれぞれ得た(表1)。
【0120】
(比較例1〜2)
表1に記載の配合割合にする以外は、実施例1と同様の方法で比較組成物1〜2をそれぞれ得た(表1)。
【0121】
(比較例3及び4)
(A)ジルコニア粒子に代えて、ジルコニア粒子(SPZ)又はチタニア粒子を配合した以外は実施例5に記載の方法で比較組成物3及び4をそれぞれ得た(表2)。
【0122】
(実施例12)
実施例12では、UDMAを50.8重量部、PETPを1.5重量部、DMAEMAを0.5重量部、及びCQを0.3重量部の比率で調整し、(A)ジルコニア粒子を40重量部、及び(D)シリカ粒子を6.9重量部添加した。次いで、遮光下において、混練及び脱泡し、歯科用接着性組成物12を得た(表3)。
【0123】
(実施例13〜19)
表3に記載の配合割合にする以外は、実施例12と同様の方法で歯科用接着性組成物13〜19を得た(表3)。
【0124】
(比較例5〜8)
表3に記載の配合割合にする以外は、実施例12と同様の方法で比較組成物5〜8を得た(表3)。
【0125】
(実施例20)
<2液タイプ>
ジルコニア粒子を40.0重量部、シリカ粒子を6.9重量部、UDMAを43.3重量部、PETPを9.0重量部、DMAEMAを0.5重量部、及びCQを0.3重量部の重量比で調整したAペーストを得た。
ジルコニア粒子を40.0重量部、シリカ粒子を6.9重量部、UDMAを43.3重量部、TEGDMAを9.3重量部、及びBPOを0.5重量部の重量比で調整したBペーストを得た。
これらAペースト50重量部とBペースト50重量部とを混合し、歯科用接着性組成物20とした(表4)。
【0126】
歯科用接着性組成物の評価
上記実施例及び比較例で得られた歯科用接着性組成物について、引張接着強さ、硬化深度、及び稠度を以下の方法で測定した。
【0127】
[引張接着強さ]
歯科切削加工用ハイブリッドレジンブロック「KZR−CAD HR ブロック2(色調:A3)」(YAMAKIN社製)からアキュトム50(丸本ストルアス社製)を用いて試験体(14.5mm×14.5mm×2mm)を切り出し、試験実施面をP1000番研磨後、アルコール中で10分間超音波洗浄を実施した。
洗浄後、十分にエアー乾燥を行い、マイクロピペットにて表面処理剤「マルチプライマー リキッド」(YAMAKIN社製)を50μL量りとり、試験面に塗布した。直径3mmの孔を開けたテープを貼り、接着面積を規定した。接着面に試験試料を塗布した後、歯科用光照射機「ペンギンα」(YAMAKIN社製)を用いて1200mW/cm
2の光量で10秒間光照射した。
歯科用補綴物の歯への接着において、光照射は歯科用補綴物を介して行われる。そのため、今回は補綴物の厚みを2mmと想定し、「KZR−CAD HR ブロック2(色調:A3)」の2mm厚のペレットを介して光照射をおこなった。
先端にデュアルキュア型歯科用接着剤「パナビア(登録商標)F2.0(色調:オペーク)」(クラレノリタケ デンタル社製)を適量塗布したステンレス成型棒(直径5mm)を中心と直径3mmの孔が重なるように圧接後、「ペンギンα」で左右から20秒間光照射を行った。
最後に、接着面の裏側より20秒間光を照射し、試験体とした。最後の光照射は「KZR−CAD HR ブロック2」の2mm厚のペレットを介さずに実施した。「パナビア(登録商標)F2.0(色調:オペーク)」によるこの試験試料とステンレスボルトの接着は、接着面積が大きいため、試験試料と「KZR−CAD HR ブロック2」とが剥離する前には、剥離するものではない。
接着が完了した試験体を、37℃の水中に入れ、24時間浸漬後に取り出した。その後、小型卓上試験機「EZ-Graph」(島津製作所社製)により、クロスヘッドスピード0.5mm/minの条件で引張接着強さ(接着力)を測定した。その結果を表1〜4に示した。
【0128】
[硬化深度]
ガラス板をフィルムで覆い、その上に長さ6mm、及び直径4mmの金型を置いた。試験試料を少し過剰に填入し、フィルムで覆った後、ガラス板を載せた。
ガラス板越しに「ペンギンα」を用いて1200mW/cm
2の光量で20秒間光照射を行った。照射完了後直ちに、試験片を型から取り出し、未硬化の試料を取り除いた。
硬化した試料の高さをマイクロメーターによって、0.01mmの単位まで求め、得られた値を硬化深度とした。その結果を表1〜4に示した。
なお、硬化深度とは、一定の光照射によって重合がどの程度深い部分にまで達したかを示す値であり(単位:mm)、この値が大きい程、試験試料の内部まで硬化可能で、重合性が良好であることを示し、この値が小さいということは、試験試料の表層部しか硬化せず、重合性が不良であることを示す。
【0129】
[稠度(流動性)]
アクリル板上に上記の各試験試料0.5gを塗布した。10分経過後にこのアクリル板を水平から60度傾け、5分間静置した。その後、試料の移動距離を計測し、その値を稠度とした。その結果を表1〜4に示した。
なお、稠度の値が高すぎる(14cmを超える)と歯科用接着性組成物を歯科用補綴物に塗布し、支台歯に装着する際に流れおちる恐れがある。そのため、稠度の値が14.0cm以下である必要がある。
【0130】
試験例1〜11及び比較試験例1〜2
実施例1〜11及び比較例1〜2に記載する歯科用接着性組成物の試験結果を下記表1に示す。
【表1】
【0131】
<結果>
表1の試験結果を見ると、実施例1〜11の接着性組成物は、引張接着強さが10.0MPa以上、硬化深度が1.00mm以上であり良好な評価結果であった。さらに、これら実施例1〜11の接着性組成物は、稠度も14.0cm以下の範囲内にあり、良好な操作性(流動性)を示した。
【0132】
一方、比較例1及び2の接着性組成物は、(A)ジルコニア粒子の配合量が少ないため、引張接着強さが低く、稠度についても数値範囲外であった。
【0133】
試験例5及び比較試験例3〜4
実施例5並びに比較例3及び4に記載の歯科用接着性組成物の試験結果を下記表2に示す。
【表2】
【0134】
<結果>
表2の試験結果を見ると、実施例5の接着性組成物は、引張接着強さが10.0MPa以上、硬化深度が1.00mm以上であり、良好な評価結果であった。さらに、稠度も14.0cm以下の範囲内にあり、良好な操作性(流動性)を示した。
【0135】
一方、前記(A)ジルコニア粒子に代えて、ジルコニア粒子(SPZ)を使用した比較例3の接着性組成物、及びチタニア粒子を用いた比較例4の接着性組成物では、硬化深度が低いため、歯科接着用組成物として十分な硬化性を有しているとは言えない結果となった。
【0136】
試験例12〜19及び比較試験例5〜8
実施例12〜19及び比較例5〜8に記載する歯科用接着性組成物の試験結果を下記表3に示す。
【表3】
【0137】
<結果>
表3の試験結果を見ると、実施例12〜19の接着性組成物は、引張接着強さが10.0MPa以上、硬化深度が1.00mm以上であり良好な評価結果であった。特に、引張接着強さについては、PETPを配合することによって、実施例5の接着性組成物よりもさらに高い接着性が得られた。また、実施例12〜19の接着性組成物は、いずれも稠度が14.0cm以下の範囲内にあり、良好な操作性を示した。
【0138】
一方、比較例5〜8の接着性組成物は、PETPの配合量が過剰となり、十分な硬化深度が得られなかった。
【0139】
試験例20(2液タイプ)
実施例20に記載する歯科用接着性組成物の試験結果を下記表4に示す。
【表4】
【0140】
<結果>
実施例20に記載する歯科用接着性組成物20は、引張接着強さが10.0MPa以上、硬化深度が1.00mm以上であり良好な評価結果であった。また、当該歯科用接着性組成物20は、稠度が14.0cm以下の範囲内にあり、良好な操作性を示した。
前記(A)ジルコニア粒子は、(B)(メタ)アクリレート系重合性モノマー100重量部に対して、20〜220重量部含有し、かつ硬化深度が1mm以上である、歯科用接着性組成物。