特許第6533462号(P6533462)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6533462有機性排水処理設備の運転方法及び有機性排水処理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6533462
(24)【登録日】2019年5月31日
(45)【発行日】2019年6月19日
(54)【発明の名称】有機性排水処理設備の運転方法及び有機性排水処理システム
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20060101AFI20190610BHJP
   C02F 9/08 20060101ALI20190610BHJP
   C02F 9/14 20060101ALI20190610BHJP
【FI】
   C02F3/12 H
   C02F3/12 M
   C02F9/08
   C02F9/14
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-253960(P2015-253960)
(22)【出願日】2015年12月25日
(65)【公開番号】特開2017-113722(P2017-113722A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】永江 信也
(72)【発明者】
【氏名】都築 佑子
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−200767(JP,A)
【文献】 特開2012−000585(JP,A)
【文献】 特開2013−138976(JP,A)
【文献】 特開2003−136088(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/034827(WO,A1)
【文献】 特開2013−046905(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0255902(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00−3/34
C02F 1/44
C02F 9/00−9/14
B01D 61/00−71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入した原水を固液分離する固液分離装置の後段に、生物処理槽と沈殿槽を備え沈殿槽の上澄みを処理水として排出する少なくとも一つの第1処理系列と、前記第1処理系列と並行して処理可能で、生物処理槽と膜分離装置を備え膜分離装置からの膜透過液を処理水として排出する少なくとも一つの第2処理系列とを備えている有機性排水処理設備の運転方法であって、
原水の流量が所定の流量閾値未満で、且つ、前記固液分離装置の通過前または通過後の原水の有機成分指標または濁度成分指標が所定の第1成分閾値未満のときに通常運転モードが実行され、
原水の流量が前記流量閾値以上で、且つ、前記固液分離装置の通過前または通過後の原水の有機成分指標または濁度成分指標が前記第1成分閾値以上のときに大流量高負荷運転モードが実行されるように構成され、
前記少なくとも一つの第1処理系列への原水の流入量に対する前記少なくとも一つの第2処理系列への原水の流入量の比率が、前記通常運転モードより前記大流量高負荷運転モードで大きくなるように設定されることを特徴とする有機性排水処理設備の運転方法。
【請求項2】
前記大流量高負荷運転モードが実行された後に原水の有機成分指標または濁度成分指標が前記第1成分閾値より低下しても、前記第1成分閾値より低い第2成分閾値以下になるまでの間は前記大流量高負荷運転モードが継続して実行されることを特徴とする請求項1記載の有機性排水処理設備の運転方法。
【請求項3】
前記少なくとも一つの第1処理系列への原水の流入量に対する前記少なくとも一つの第2処理系列への原水の流入量の比率が、前記通常運転モードより小さい大流量低負荷運転モードがさらに実行可能に構成され、
原水の流量が前記流量閾値以上で、且つ、前記固液分離装置の通過前または通過後の原水の有機成分指標または濁度成分指標が前記第1成分閾値より低い第2成分閾値以下のときに、前記大流量低負荷運転モードが実行されることを特徴とする請求項1または2記載の有機性排水処理設備の運転方法。
【請求項4】
前記少なくとも一つの第1処理系列への原水の流入量に対する前記少なくとも一つの第2処理系列への原水の流入量の比率が、前記通常運転モードより小さい大流量低負荷運転モードがさらに実行されるように構成され、
前記成分指標の値にかかわらず、前記大流量高負荷運転モードが実行された後の経過時間が所定の時間閾値を超え、または原水の累積流量が所定の累積流量閾値を超えると前記大流量低負荷運転モードが実行されることを特徴とする請求項1または2記載の有機性排水処理設備の運転方法。
【請求項5】
前記固液分離装置を通過した原水の少なくとも一部が前記第1処理系列と前記第2処理系列の何れの処理系列も経ることなく前記有機性排水処理設備から排出される放流運転モードがさらに実行されるように構成され、
前記大流量高負荷運転モードが実行された後に前記第1処理系列及び第2処理系列の処理可能容量を超えると前記放流運転モードが実行されることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の有機性排水処理設備の運転方法。
【請求項6】
流入した原水を固液分離する固液分離装置と、前記固液分離装置の後段に設けられ、生物処理槽と沈殿槽を備え沈殿槽の上澄みを処理水として排出する少なくとも一つの第1処理系列と、前記第1処理系列と並行して処理可能で、生物処理槽と膜分離装置を備え膜分離装置からの膜透過液を処理水として排出する少なくとも一つの第2処理系列とを備えている有機性排水処理システムであって、
原水の流量が所定の流量閾値未満で、且つ、前記固液分離装置の通過前または通過後の原水の有機成分指標または濁度成分指標が所定の第1成分閾値未満のときに通常運転モードと、
原水の流量が前記流量閾値以上で、且つ、前記固液分離装置の通過前または通過後の原水の有機成分指標または濁度成分指標が前記第1成分閾値以上のときに大流量高負荷運転モードと、
を切り替えて実行する制御部を備え、
前記制御部は、前記少なくとも一つの第1処理系列への原水の流入量に対する前記少なくとも一つの第2処理系列への原水の流入量の比率が、前記通常運転モードより前記大流量高負荷運転モードで大きくなるように設定して制御するように構成されていることを特徴とする有機性排水処理システム。
【請求項7】
前記制御部は、前記大流量高負荷運転モードを実行した後に原水の有機成分指標または濁度成分指標が前記第1成分閾値より低下しても、前記第1成分閾値より低い第2成分閾値以下になるまでの間は前記大流量高負荷運転モードを継続して実行するように制御するように構成されていることを特徴とする請求項6記載の有機性排水処理システム。
【請求項8】
前記少なくとも一つの第1処理系列への原水の流入量に対する前記少なくとも一つの第2処理系列への原水の流入量の比率が、前記通常運転モードより小さい大流量低負荷運転モードをさらに備え、
前記制御部は、原水の流量が前記流量閾値以上で、且つ、前記固液分離装置の通過前または通過後の原水の有機成分指標または濁度成分指標が前記第1成分閾値より低い第2成分閾値以下になると、前記大流量低負荷運転モードを実行するように構成されていることを特徴とする請求項6または7に記載の有機性排水処理システム。
【請求項9】
前記少なくとも一つの第1処理系列への原水の流入量に対する前記少なくとも一つの第2処理系列への原水の流入量の比率が、前記通常運転モードより小さい大流量低負荷運転モードをさらに備え、
前記制御部は、前記有機成分指標または前記濁度成分指標の値にかかわらず、前記大流量高負荷運転モードを実行した後の経過時間が所定の時間閾値を超え、または原水の累積流量が所定の累積流量閾値を超えると前記大流量低負荷運転モードを実行するように構成されていることを特徴とする請求項またはに記載の有機性排水処理システム。
【請求項10】
前記固液分離装置を通過した原水の少なくとも一部が前記第1処理系列と前記第2処理系列の何れの処理系列も経ることなく前記有機性排水処理設備から排出される放流運転モードをさらに備え、
前記制御部は、前記大流量高負荷運転モードを実行した後に前記第1処理系列及び第2処理系列の処理可能容量を超えると前記放流運転モードを実行するように構成されていることを特徴とする請求項6から9の何れかに記載の有機性排水処理システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性排水処理設備の運転方法及び有機性排水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
図4に示すように、都市部で多く採用されている合流式下水処理設備は、雨水と汚水の双方を共用の下水管渠で搬送する設備であり、原水である汚水が流入する最初沈殿池A、嫌気槽B1と無酸素槽B2と好気槽B3を備えて嫌気無酸素好気法が行なわれる生物処理槽B、生物処理後の処理水から活性汚泥を沈殿分離する最終沈殿池Cを備えて構成されている。
【0003】
雨天時に生物処理槽B及び最終沈殿池Cの処理能力を超えた大量の汚水が一時に流入すると、最初沈殿池Aで固形分を沈殿除去した汚水を、その後の生物処理槽Bでの処理を経ることなく簡易放流するように運転されていた。
【0004】
しかし、降雨直後は下水管渠内に蓄積した滞留物が大量の雨水により流され、下水処理設備に負荷の高い流入水が流れ込むファーストフラッシュが発生するため、そのような汚水を簡易放流すると消毒剤を添加したとしても自然環境の悪化を招く虞があるという問題があった。
【0005】
特許文献1には、ファーストフラッシング期間に流入する汚水を滞留させることで、降雨直後の下水処理負荷の高い汚れた汚水の未処理の状態での放流を回避することを目的として、下水道と、該下水道からの下水を処理して放流する下水処理手段からなる下水処理システムにおいて、降雨開始時のファーストフラッシング期間を経過した時点における溶存酸素濃度または溶存酸素量が所定値を超えたとき下水の一部を未処理のまま放流する雨水放流制御方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、雨天時における放流水の汚濁物量の流出を大幅に減少させることができ、塩素の注入量を減少させることができる合流式下水道における下水処理方法として、みかけ比重が0.1〜0.4の浮上ろ材を充填した上向流式の高速ろ過槽に、晴天時にも雨天時にも合流式下水を導入して夾雑物やSSを除去し、晴天時にはこの高速ろ過槽の処理水を後段の反応槽と最終沈殿池に導いて順次処理し、雨天時には高速ろ過槽の処理水のうち設計水量分は後段の反応槽と最終沈殿池に導いて順次処理し、設計水量超過分を反応槽及び最終沈殿池を通すことなく放流することを特徴とする合流式下水道における下水処理方法が開示されている。
【0007】
ところで、特許文献3に開示されているように、有機物、窒素濃度の高い有機性汚水を、浸漬型膜分離装置を設置した反応槽内で生物処理する膜分離活性汚泥法が注目されている。従来の最終沈殿池に替えて浸漬型膜分離装置を用いることにより、晴天または雨天の何れであっても処理水の水質の向上を図ることができ、さらに設備の小型化を図ることができるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭61−20352号公報
【特許文献2】特開2003−136088号公報
【特許文献3】特開2001−62481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献2に記載されたように、雨天時に高速ろ過槽の処理水のうち設計水量超過分を反応槽及び最終沈殿池を通すことなく一律に放流するような下水処理方法を採用すると、SSが除去されてもBODが高い汚水が放流されるので、自然環境の悪化を招くという問題は解消されることはなかった。
【0010】
特に処理負荷の高いファーストフラッシング期間に流入する汚水が生物処理槽及び最終沈殿池を通ることなく放流されると、自然環境に非常に大きな影響を与えることになる。
【0011】
また、特許文献3に記載されたような膜分離活性汚泥法を採用した有機性排水処理設備で流入汚水の全量を処理しようとすると、膜分離装置の分離膜表面の洗浄等に用いる散気装置に要する動力コストが嵩み、また最終沈殿池と比較して膜分離装置の処理能力つまり膜透過水量に制限があるため、処理するのは困難であった。
【0012】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、合流式下水管渠から流入する汚水量や処理負荷の変動にかかわらず、BOD負荷を低減させた後に放流可能な有機性排水処理設備の運転方法及び有機性排水処理システムを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的を達成するため、本発明による有機性排水処理設備の運転方法の第一特徴構成は、特許請求の範囲の書類の請求項1に記載した通り、流入した原水を固液分離する固液分離装置の後段に、生物処理槽と沈殿槽を備え沈殿槽の上澄みを処理水として排出する少なくとも一つの第1処理系列と、前記第1処理系列と並行して処理可能で、生物処理槽と膜分離装置を備え膜分離装置からの膜透過液を処理水として排出する少なくとも一つの第2処理系列とを備えている有機性排水処理設備の運転方法であって、原水の流量が所定の流量閾値未満で、且つ、前記固液分離装置の通過前または通過後の原水の有機成分指標または濁度成分指標が所定の第1成分閾値未満のときに通常運転モードが実行され、原水の流量が前記流量閾値以上で、且つ、前記固液分離装置の通過前または通過後の原水の有機成分指標または濁度成分指標が前記第1成分閾値以上のときに大流量高負荷運転モードが実行されるように構成され、前記少なくとも一つの第1処理系列への原水の流入量に対する前記少なくとも一つの第2処理系列への原水の流入量の比率が、前記通常運転モードより前記大流量高負荷運転モードで大きくなるように設定される点にある。
【0014】
流入した原水が第1処理系列及び第2処理系列で並行して処理される。第2処理系列の方が原水の負荷変動に強く浄化能力は高いが処理量が制限され動力コストも嵩むため、原水のBOD負荷に応じて第1処理系列及び第2処理系列の処理量が調整される必要がある。そこで、通常運転モードと、第1処理系列への原水の流入量に対する第2処理系列への原水の流入量の比率が通常運転モードより大きくなる大流量高負荷運転モードを設定し、例えばファーストフラッシュ時のように、原水の流量が流量閾値以上で、且つ、原水の有機成分指標または濁度成分指標が第1成分閾値以上のときには、大流量高負荷運転モードに移行して第2処理系列での処理を第1処理系列での処理よりも優先することで、全体として処理水の質の向上を図ることができ、例えば晴天時のように原水の流量が流量閾値未満で、且つ、原水の有機成分指標または濁度成分指標が第1成分閾値未満のときには、通常運転モードに移行して第2処理系列での処理量を相対的に低下させることでランニングコストを低減することができる。
【0015】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述の第一の特徴構成に加えて、前記大流量高負荷運転モードが実行された後に原水の有機成分指標または濁度成分指標が前記第1成分閾値より低下しても、前記第1成分閾値より低い第2成分閾値以下になるまでの間は前記大流量高負荷運転モードが継続して実行される点にある。
【0016】
大流量高負荷運転モードが実行された後に原水の有機成分指標または濁度成分指標が第1成分閾値より僅かに低下した場合に、直ちに通常運転モードに移行すると全体として処理水の質の向上を図ることができなくなる。そこで、第1成分閾値より低い第2成分閾値を設定し、原水の有機成分指標または濁度成分指標が第2成分閾値より低下するまでは大流量高負荷運転モードを継続することにより、十分に処理水の質の向上を図ることができるようになる。
【0017】
同第三の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、前記少なくとも一つの第1処理系列への原水の流入量に対する前記少なくとも一つの第2処理系列への原水の流入量の比率が、前記通常運転モードより小さい大流量低負荷運転モードがさらに実行可能に構成され、原水の流量が前記流量閾値以上で、且つ、前記固液分離装置の通過前または通過後の原水の有機成分指標または濁度成分指標が前記第1成分閾値より低い第2成分閾値以下のときに、前記大流量低負荷運転モードが実行される点にある。
【0018】
ファーストフラッシュ時には原水の流量が流量閾値以上で有機成分指標または濁度成分指標が第1成分閾値より高い状態となり、大流量高負荷運転モードで処理される必要があるが、ファーストフラッシュ期間を経過すると原水の流量が流量閾値以上であっても有機成分指標または濁度成分指標が急激に低下する。そのような場合に膜分離装置を備えた第2処理系列へ流入する原水の比率を第1処理系列よりも大きくして処理を継続する事は処理に要するエネルギーを浪費する。そのような場合、つまり原水の流量が流量閾値以上で、且つ、固液分離装置の通過前または通過後の原水の有機成分指標または濁度成分指標が第1成分閾値より低い第2成分閾値以下のときに、前記少なくとも一つの第1処理系列への原水の流入量に対する前記少なくとも一つの第2処理系列への原水の流入量の比率が、前記通常運転モードより小さい大流量低負荷運転モードで運転することにより、有機性排水処理設備から排出される処理水の質を維持しつつ、省エネルギーな運転ができるようになる。
【0019】
同第四の特徴構成は、同請求項4に記載した通り、上述の第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記少なくとも一つの第1処理系列への原水の流入量に対する前記少なくとも一つの第2処理系列への原水の流入量の比率が、前記通常運転モードより小さい大流量低負荷運転モードがさらに実行されるように構成され、前記成分指標の値にかかわらず、前記大流量高負荷運転モードが実行された後の経過時間が所定の時間閾値を超え、または原水の累積流量が所定の累積流量閾値を超えると前記大流量低負荷運転モードが実行される点にある。
【0020】
大流量高負荷運転モードから大流量低負荷運転モードへの移行条件が原水の有機成分指標または濁度成分指標に限られると、仮に有機成分指標または濁度成分指標が誤った値であると膜分離装置を備えた第2処理系列へ流入する原水の比率を第1処理系列よりも大きくして処理を継続する事は処理に要するエネルギーを浪費する。一方、有機成分指標または濁度成分指標が第1成分閾値以上である期間は、有機性排水処理設備が設置された地域特性があるものの大流量高負荷運転モードが実行された後の経過時間または原水の累積流量により推定できる。そこで、大流量高負荷運転モードが実行された後の経過時間が所定の時間閾値を超え、または原水の累積流量が所定の累積流量閾値を超えると大流量低負荷運転モードに移行することで、不必要に大流量高負荷運転モードが継続される不都合を回避することができる。
【0021】
同第五の特徴構成は、同請求項5に記載した通り、上述の第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、前記固液分離装置を通過した原水の少なくとも一部が前記第1処理系列と前記第2処理系列の何れの処理系列も経ることなく前記有機性排水処理設備から排出される放流運転モードがさらに実行されるように構成され、前記大流量高負荷運転モードが実行された後に前記第1処理系列及び第2処理系列の処理可能容量を超えると前記放流運転モードが実行される点にある。
【0022】
大流量高負荷運転モードが実行された後に第1処理系列及び第2処理系列の処理可能容量を超えると、最早処理できなくなった原水が放流運転モードで処理される。
【0023】
本発明による有機性排水処理システムの第一特徴構成は、同請求項6に記載した通り、流入した原水を固液分離する固液分離装置と、前記固液分離装置の後段に設けられ、生物処理槽と沈殿槽を備え沈殿槽の上澄みを処理水として排出する少なくとも一つの第1処理系列と、前記第1処理系列と並行して処理可能で、生物処理槽と膜分離装置を備え膜分離装置からの膜透過液を処理水として排出する少なくとも一つの第2処理系列とを備えている有機性排水処理システムであって、原水の流量が所定の流量閾値未満で、且つ、前記固液分離装置の通過前または通過後の原水の有機成分指標または濁度成分指標が所定の第1成分閾値未満のときに通常運転モードと、原水の流量が前記流量閾値以上で、且つ、前記固液分離装置の通過前または通過後の原水の有機成分指標または濁度成分指標が前記第1成分閾値以上のときに大流量高負荷運転モードとを切り替えて実行する制御部を備え、前記制御部は、前記少なくとも一つの第1処理系列への原水の流入量に対する前記少なくとも一つの第2処理系列への原水の流入量の比率が、前記通常運転モードより前記大流量高負荷運転モードで大きくなるように設定して制御するように構成されている点にある。
【0024】
同第二の特徴構成は、同請求項7に記載した通り、上述の第一の特徴構成に加えて、前記制御部は、前記大流量高負荷運転モードを実行した後に原水の有機成分指標または濁度成分指標が前記第1成分閾値より低下しても、前記第1成分閾値より低い第2成分閾値以下になるまでの間は前記大流量高負荷運転モードを継続して実行するように制御するように構成されている点にある。
【0025】
同第三の特徴構成は、同請求項8に記載した通り、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、前記少なくとも一つの第1処理系列への原水の流入量に対する前記少なくとも一つの第2処理系列への原水の流入量の比率が、前記通常運転モードより小さい大流量低負荷運転モードをさらに備え、前記制御部は、原水の流量が前記流量閾値以上で、且つ、前記固液分離装置の通過前または通過後の原水の有機成分指標または濁度成分指標が前記第1成分閾値より低い第2成分閾値以下になると、前記大流量低負荷運転モードを実行するように構成されている点にある。
【0026】
同第四の特徴構成は、同請求項9に記載した通り、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、前記少なくとも一つの第1処理系列への原水の流入量に対する前記少なくとも一つの第2処理系列への原水の流入量の比率が、前記通常運転モードより小さい大流量低負荷運転モードをさらに備え、前記制御部は、前記有機成分指標または濁度成分指標の値にかかわらず、前記大流量高負荷運転モードを実行した後の経過時間が所定の時間閾値を超え、または原水の累積流量が所定の累積流量閾値を超えると前記大流量低負荷運転モードを実行するように構成されている点にある。
【0027】
同第五の特徴構成は、同請求項10に記載した通り、上述の第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、前記固液分離装置を通過した原水の少なくとも一部が前記第1処理系列と前記第2処理系列の何れの処理系列も経ることなく前記有機性排水処理設備から排出される放流運転モードをさらに備え、前記制御部は、前記大流量高負荷運転モードを実行した後に前記第1処理系列及び第2処理系列の処理可能容量を超えると前記放流運転モードを実行するように構成されている点にある。
【発明の効果】
【0028】
以上説明した通り、本発明によれば、合流式下水管渠から流入する汚水量や処理負荷の変動にかかわらず、BOD負荷を低減させた後に放流可能な有機性排水処理設備の運転方法及び有機性排水処理システムを提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明による有機性排水処理システムの説明図
図2】有機性排水処理装置の要部の説明図
図3】本発明による有機性排水処理設備の運転方法の説明図
図4】従来の有機性排水処理設備の運転方法の説明図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明による有機性排水処理設備の運転方法及び有機性排水処理システムを、図面に基づいて説明する。
図1に示すように、有機性排水処理設備100は、下水等の有機性排水を原水として導入して生物処理により浄化して放流するための設備で、原水に含まれるSSを除去する固液分離装置1と、固液分離装置1で固液分離された被処理水を浄化処理する生物処理槽Bと沈殿槽Cを備え沈殿槽Cの上澄みを処理水として排出する第1処理系列G1と、第1処理系列G1と並行して処理可能で、被処理水を浄化処理する生物処理槽Bと膜分離装置Dを備え膜分離装置Dからの膜透過液を処理水として排出する第2処理系列G2と、生物処理せずに放流する簡易処理系列G3が併設されている。
【0031】
簡易処理系列G3とは、固液分離装置1を通過した原水の少なくとも一部が第1処理系列G1と第2処理系列G2の何れの処理系列も経ることなく有機性排水処理設備100から排出される系列である。
【0032】
第2処理系列G2で処理された膜透過水はそのまま河川等に放流され、第1処理系列G1及び簡易処理系列G3には次亜塩素酸ナトリウムのような消毒剤を添加する消毒剤添加機構が設けられ、各処理水に消毒剤が添加された後に放流される。
【0033】
第1処理系列G1は、嫌気槽B1と無酸素槽B2と好気槽B3を備えて嫌気無酸素好気法が行なわれる生物処理槽B、及び生物処理後の処理水から活性汚泥を沈殿分離する沈殿槽Cを備えて構成されている。生物処理槽Bの構成はこのような態様に限らず、好気槽B3のみの活性汚泥法が採用される態様、脱リン用の嫌気槽B1を備えず、脱窒用の無酸素槽B2と硝化処理する好気槽B3のみを備え活性汚泥を循環させて硝化脱窒処理が行なわれる態様等、最終沈殿池である沈殿槽Cで固液分離することを前提とする生物処理槽を備えた系列で構成されていればよい。
【0034】
第2処理系列G2は好気槽B3または好気槽B3の後段に設けられた専用の膜分離処理槽に膜分離装置Dが浸漬配置された膜分離活性汚泥法を採用する処理系列である。第1処理系列G1及び第2処理系列G2は夫々複数列設けられているが、最小限1系列ずつ設けられていればよい。固液分離装置1として沈殿池が設けられている。
【0035】
上述した有機性排水処理設備100の運転方法について詳述する。
図3に示すように、晴天から雨天に変化して大量の降雨があり、その後降雨が終了する場合の様子が示されている。晴天時には比較的流入量が少なくある程度BOD負荷が高い主に有機性排水である下水が流入し、降雨開始時にはファーストフラッシング期間となる初期に流量が急激に増加するとともにBOD負荷も急激に上昇する。その後、ファーストフラッシング期間が経過すると流量は大きな変化なく晴天時よりもBOD負荷が低下し、やがて流量も低下する。降雨が停止すると流量は晴天時の定常に戻りBOD負荷も定常時に戻る。
【0036】
そこで、このような特性に対応すべく、第1処理系列G1と第2処理系列G2による原水の処理比率を所定の第1処理比率となるように流量調整機構Gを調整して処理する通常運転モードと、第1処理系列G1と第2処理系列G2による原水の処理比率を所定の第1処理比率よりも第2処理系列G2で多く処理する第2処理比率となるように流量調整機構Gを調整して処理する大流量高負荷運転モードと、第1処理系列G1と第2処理系列G2とさらに第3処理系列G3でも処理する大流量低負荷運転モードとの何れかで運転するように構成されている。
【0037】
第1処理比率及び第2処理比率は特段の数値に限るものではなく、第1処理系列G1と第2処理系列G2それぞれの処理能力に基づいて設定される値であり、少なくとも第2処理比率では第1処理系列G1よりも第2処理系列G2での処理が優先されるように設定されていればよい。例えば、第1処理比率を7:3に設定し、第2処理比率を4:6に設定することができる。
【0038】
原水の流量に所定の流量閾値Qthが設定され、原水の有機成分指標にも所定の第1成分閾値B1th、第1成分閾値B1thより低い第2成分閾値B2thが設定されている。尚、BOD計3及び流量計4は、固液分離装置1の通過後の流路に設けられているが、固液分離装置1の通過前の流路に設けられていてもよい。有機成分指標はBOD計で計測された値に限らずTOC計やCOD計などそれと同等の指標となる性状を表すものであればよい。さらには、有機成分指標に代えて有機成分濃度と相関のある濁度を濁度計で計測した濁度成分指標を用いてもよい。
【0039】
原水の流量が流量閾値Qth未満で、且つ、固液分離装置1の通過前または通過後の原水の有機成分指標または濁度成分指標が第1成分閾値B1th未満のときに通常運転モードが実行され、原水の流量が流量閾値Qth以上で、且つ、固液分離装置1の通過前または通過後の原水の有機成分指標または濁度成分指標が第1成分閾値B1th以上のときに大流量高負荷運転モードが実行されるように構成されている。
【0040】
少なくとも一つの第1処理系列G1への原水の流入量に対する少なくとも一つの第2処理系列G2への原水の流入量の比率が、通常運転モードより大流量高負荷運転モードで大きくなるように設定されていればよい。
【0041】
第2処理系列G2の方が原水の負荷変動に強く浄化能力は高いが処理量が制限され動力コストも嵩むため、原水のBOD負荷に応じて第1処理系列G1及び第2処理系列G2の処理量が調整される必要がある。ファーストフラッシュ時のように、原水の流量が流量閾値Qth以上で、且つ、原水の有機成分指標が第1成分閾値B1th以上のときには、大流量高負荷運転モードに移行して第2処理系列G2での処理を第1処理系列G1での処理よりも優先することで、全体として処理水の質の向上を図ることができ、晴天時のように原水の流量が流量閾値Qth未満で、且つ、原水の有機成分指標または濁度成分指標が第1成分閾値B1th未満のときには、通常運転モードに移行して第2処理系列G2での処理量を相対的に低下させることでランニングコストを低減することができる。なお、大流量高負荷運転モードでは、第2処理系列G2の処理能力を最大にした条件で運転することが処理水質を確保するために好ましい。この場合、大流量高負荷運転モードで運転中にさらに原水の流入量が増加した分については、処理能力に余裕のある第1処理系統G1にて増加分を処理することとなる。
【0042】
大流量高負荷運転モードが実行された後に原水の有機成分指標または濁度成分指標が第1成分閾値B1thより低下しても、第1成分閾値B1thより低い第2成分閾値B2th以下になるまでの間は大流量高負荷運転モードが継続して実行される。
【0043】
原水の流量が流量閾値Qth以上で、且つ、固液分離装置1の通過前または通過後の原水の有機成分指標または濁度成分指標が第1成分閾値B1thより低い第2成分閾値B2th以下のときに、大流量低負荷運転モードが実行される。
【0044】
ファーストフラッシュ時には原水の流量が流量閾値Qth以上で有機成分指標または濁度成分指標が第1成分閾値B1thより高い状態となり、大流量高負荷運転モードで処理される必要があるが、ファーストフラッシュ期間を経過すると原水の流量が流量閾値Qth以上であっても有機成分指標が急激に低下する。
【0045】
そのような場合に膜分離装置を備えた第2処理系列G2へ流入する原水の比率を第1処理系列G1よりも大きくして処理を継続する事は処理に要するエネルギーを浪費する。そのような場合、つまり原水の流量が流量閾値Qth以上で、且つ、固液分離装置1の通過前または通過後の原水の有機成分指標が第1成分閾値B1thより低い第2成分閾値B2th以下のときに、前記少なくとも一つの第1処理系列G1への原水の流入量に対する前記少なくとも一つの第2処理系列G2への原水の流入量の比率が、前記通常運転モードより小さい大流量低負荷運転モードで運転することにより、各処理系列の処理能力を超える虞もなくなり全体として有機性排水処理設備100から排出される処理水の質を維持しつつ省エネルギーな運転ができるようになる。
【0046】
図3の下段には、このような態様の変遷が処理量を縦軸としたバーグラフで示されている。なお、大流量低負荷運転モードでは、第1処理系列G1の処理能力を最大にした条件で運転することが、処理水質を確保しつつ省エネルギーで運転できるために好ましい。この場合、大流量低負荷運転モードで運転中にさらに原水が増加した分については処理能力に余裕のある第2処理系列G2にて増加分を処理してもよく、あるいは処理水質が確保できる範囲で、第1処理系列G1及び第2処理系列G2の何れかの処理系列も経ることなく第3処理系列G3から増加分を排出してもよい。
【0047】
なお、有機成分指標または濁度成分指標の値にかかわらず、大流量高負荷運転モードが実行された後の経過時間が所定の時間閾値を超え、または原水の累積流量が所定の累積流量閾値を超えると前記大流量低負荷運転モードが実行されるように運転してもよい。
【0048】
大流量高負荷運転モードから大流量低負荷運転モードへの移行条件が原水の有機成分指標に限られると、仮に有機成分指標または濁度成分指標が誤った値であると膜分離装置を備えた第2処理系列G2へ流入する原水の比率を第1処理系列G1よりも大きくして処理を継続する事は処理に要するエネルギーを浪費する。一方、有機成分指標または濁度成分指標が第1成分閾値B1th以上である期間は、有機性排水処理設備100が設置された地域特性があるものの大流量高負荷運転モードが実行された後の経過時間または原水の累積流量により推定できる。そこで、大流量高負荷運転モードが実行された後の経過時間tが所定の時間閾値Tthを超え、または原水の累積流量が所定の累積流量閾値QTthを超えると大流量低負荷運転モードに移行することで、不必要に大流量高負荷運転モードが継続される不都合を回避することができる。
【0049】
また、大流量高負荷運転モードが実行された後に第1処理系列G1及び第2処理系列G2の処理可能容量を超えるとその超過分を第1処理系列G1及び第2処理系列G2の何れかの処理系列も経ることなく、第3処理系列G3から排出する放流運転モードが実行されるように構成することも可能である。
【0050】
即ち、本発明による有機性排水処理システムは、流入した原水を固液分離する固液分離装置1と、固液分離装置1の後段に設けられ、生物処理槽Bと沈殿槽Cを備え沈殿槽Cの上澄みを処理水として排出する少なくとも一つの第1処理系列G1と、第1処理系列G1と並行して処理可能で、生物処理槽Bと膜分離装置Dを備え膜分離装置Dからの膜透過液を処理水として排出する少なくとも一つの第2処理系列G2とを備えている有機性排水処理システムであって、原水の流量が所定の流量閾値Qth未満で、且つ、固液分離装置1の通過前または通過後の原水の有機成分指標または濁度成分指標が所定の第1成分閾値B1th未満のときに通常運転モードと、原水の流量が流量閾値Qth以上で、且つ、固液分離装置1の通過前または通過後の原水の有機成分指標または濁度成分指標が第1成分閾値B1th以上のときに大流量高負荷運転モードとを切り替えて実行する制御部30を備えて構成されている。
【0051】
制御部30は、少なくとも一つの第1処理系列G1への原水の流入量に対する少なくとも一つの第2処理系列G2への原水の流入量の比率が、通常運転モードより大流量高負荷運転モードで大きくなるように設定して制御するように構成されている。
【0052】
そして、制御部30は、大流量高負荷運転モードを実行した後に原水の有機成分指標または濁度成分指標が第1成分閾値B1thより低下しても、第1成分閾値B1thより低い第2成分閾値B2th以下になるまでの間は大流量高負荷運転モードを継続して実行するように制御するように構成されている。
【0053】
また、制御部30は、原水の流量が流量閾値Qth以上で、且つ、固液分離装置1の通過前または通過後の原水の有機成分指標または濁度成分指標が第1成分閾値B1thより低い第2成分閾値B2th以下になると、大流量低負荷運転モードを実行するように構成されている。
【0054】
さらに、制御部30は、有機成分指標または濁度成分指標の値にかかわらず、大流量高負荷運転モードを実行した後の経過時間が所定の時間閾値Tthを超え、または原水の累積流量が所定の累積流量閾値QTthを超えると大流量低負荷運転モードを実行するように構成されている。
【0055】
またさらに、制御部30は、大流量高負荷運転モードを実行した後に第1処理系列G1及び第2処理系列G2の処理可能容量を超えると放流運転モードを実行するように構成されており、処理可能容量の超過分が第3処理系列G3を通って簡易放流される。
【0056】
第2成分閾値B2thは晴天時の平均的な有機成分指標または濁度成分指標より低い値に設定されることが好ましい。また、流量閾値Qthを大幅に超える流量の有機性排水が流入した場合には、晴天時の平均的な有機成分指標または濁度成分指標より低い値に設定された第2成分閾値B2thを晴天時の平均的な有機成分指標または濁度成分指標より高い値に切り替えるように構成してもよい。
【0057】
また、第2成分閾値B2thは、正の値である流量閾値Qthを変数とする所定の単調増加関数で設定するように構成してもよい。例えば線形関数や二次関数、指数関数が使用できる。
【0058】
上述した実施形態では、固液分離装置1に沈殿池を使用した例を説明したが、ろ材を用いた上向流または下向流のろ過装置であってもよい。さらには固液分離装置として無端軌道のろ布やメッシュをろ過部材として備えるろ過装置を使用してもよい。
【0059】
上述した実施形態は本発明の一態様であり、該記載により本発明が限定されるものではなく、各部の具体的構成は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0060】
1:固液分離装置
3:BOD計
4:流量計
9:固形物
30:制御部
100:有機性排水処理設備
B:生物処理槽
B1:嫌気槽
B2:無酸素槽
B3:硝化槽
D:膜分離装置
G1:第1処理系列
G2:第2処理系列
G3:第3処理系列

図1
図2
図3
図4